説明

ポリ乳酸樹脂、樹脂組成物および樹脂成形体

【課題】結晶化速度が速いポリ乳酸樹脂を提供する。
【解決手段】カーボネート結合を介してL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとを有するポリ乳酸樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂、樹脂組成物および樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂組成物としては種々のものが提供され各種用途に使用されている。特に家電製品や自動車の各種部品、筐体等に使用されたり、また事務機器、電子電気機器の筐体などの部品にも熱可塑性樹脂が使用されている。中でも、該樹脂組成物を構成する樹脂としてポリ乳酸樹脂を使用したものが種々試されている。
【0003】
ここで上記ポリ乳酸樹脂としては、例えばポリ−L乳酸とポリ−D乳酸とを混合したステレオコンプレックスポリ乳酸が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−70102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、カーボネート結合を介してL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとを有していない場合に比べ、結晶化速度が速いポリ乳酸樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の本発明によって達成される。
即ち、請求項1に係る発明は、
カーボネート結合を介してL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとを有するポリ乳酸樹脂である。
【0007】
請求項2に係る発明は、
前記L−乳酸ブロックと前記D−乳酸ブロックとの平均構成比率(質量比)(L−乳酸ブロック:D−乳酸ブロック)が19:81乃至80:20である請求項1に記載のポリ乳酸樹脂である。
【0008】
請求項3に係る発明は、
前記L−乳酸ブロックおよび前記D−乳酸ブロックのそれぞれが重合度98以上1195以下である請求項1または請求項2に記載のポリ乳酸樹脂である。
【0009】
請求項4に係る発明は、
結晶化速度が20sec以上52sec以下である請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のポリ乳酸樹脂である。
【0010】
請求項5に係る発明は、
カーボネート結合を介してL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとを有するポリ乳酸樹脂を含む樹脂組成物である。
【0011】
請求項6に係る発明は、
難燃効果を有する化合物を更に含有する請求項5に記載の樹脂組成物である。
【0012】
請求項7に係る発明は、
ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエステルおよびポリアミドから選択される少なくとも1種の樹脂を更に含有する請求項5または請求項6に記載の樹脂組成物である。
【0013】
請求項8に係る発明は、
カーボネート結合を介してL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとを有するポリ乳酸樹脂を含む樹脂成形体である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、カーボネート結合を介してL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとを有していない場合に比べ、結晶化速度が速いポリ乳酸樹脂が提供される。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、L−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとの平均構成比率が19:81乃至80:20の範囲でない場合に比べ、結晶化速度が速いポリ乳酸樹脂が確実に提供される。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、L−乳酸ブロックおよびD−乳酸ブロックの少なくとも何れかが重合度98以上1195以下の範囲でない場合に比べ、結晶化速度が速く且つ荷重たわみ温度が高いポリ乳酸樹脂が確実に提供される。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、結晶化速度が20sec以上52sec以下の範囲でない場合に比べ、優れた結晶化速度を備えたポリ乳酸樹脂が確実に提供される。
【0018】
請求項5に係る発明によれば、カーボネート結合を介してL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとを有するポリ乳酸樹脂を含まない場合に比べ、結晶化速度が速い樹脂組成物が提供される。
【0019】
請求項6に係る発明によれば、カーボネート結合を介してL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとを有するポリ乳酸樹脂を含まない場合に比べ、難燃効果を有する化合物を含有しても、結晶化速度の低下が抑制された樹脂組成物が提供される。
【0020】
請求項7に係る発明によれば、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエステルおよびポリアミドから選択される少なくとも1種の樹脂を更に含有しない場合に比べ、結晶化速度が速い樹脂組成物が確実に提供される。
【0021】
請求項8に係る発明によれば、カーボネート結合を介してL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとを有するポリ乳酸樹脂を含まない場合に比べ、荷重たわみ温度が高い樹脂成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係る樹脂成形体を備える電子・電気機器の部品の一例を示す模式図である。
【図2】実施例A1で得られた化合物の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図3】図2に示すグラフの一部を拡大したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のポリ乳酸樹脂、樹脂組成物および樹脂成形体の実施形態について説明する。
≪ポリ乳酸樹脂≫
本実施形態に係るポリ乳酸樹脂は、カーボネート結合を介してL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとを有していることを特徴とする。
【0024】
一般的にポリ乳酸は、結晶化速度が遅くまた荷重たわみ温度が低い。これに対し、まず結晶化速度については、核剤や促進剤の添加によって結晶化の速度を改良する方法が考えられるが、これらの異物を混入することによる不都合も生じる。またこれらの異物を含まない方法としてポリ−L乳酸とポリ−D乳酸とを混合したステレオコンプレックスを用いる方法もあるが、このステレオコンプレックスを用いて樹脂成形体を形成する場合には、金型の温度を80℃以上にしなければならず、また金型内で1分以上の結晶化時間を要するため、容易に樹脂成形体を製造し得るものではない。また、荷重たわみ温度を高くする方法については、異物を混入する方法以外については知られていなかった。
【0025】
本実施形態に係るポリ乳酸樹脂は、上記の通り、分子内にL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとの両者を含む構造を持つポリ乳酸樹脂である。両者を含む構造であるため、ポリ−L乳酸とポリ−D乳酸とのステレオコンプレックスと同じく、L−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとのパッキング効果が生み出され、且つ分子内に両構造が存在することで分子移動が促進されるため、結晶化速度が向上するものと推察される。更にL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとのパッキング確率が高くなることにより、荷重たわみ温度が高くなるものと推察される。
【0026】
・構造
本実施形態に係るポリ乳酸樹脂は、下記構造式(1)に示すL−乳酸ブロック(ポリL−乳酸単位)とD−乳酸ブロック(ポリD−乳酸単位)とをカーボネート結合(−O−CO−O−)を介して有する樹脂である。
【0027】
【化1】



【0028】
尚、該構造を形成する方法としては、L−乳酸とL−乳酸またはD−乳酸とD−乳酸をカーボネートにより結合しようとした際、立体障害が生じて一方が反転するために、分子鎖内にL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとの両方が存在する構造が形成される。
【0029】
・重合度
本実施形態に係るポリ乳酸樹脂は、L−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとの各々が重合度10以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、98以上1195以下であることが特に好ましい。10以上であることにより、L−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとのパッキング効果がより確実に得られ、結晶化速度がより速くなりまた荷重たわみ温度がより高くなる傾向がある。
尚、上記重合度は、L−乳酸ブロックおよびD−乳酸ブロックのそれぞれの分子量並びにその原料の分子量から算出される。
【0030】
・分子量
本実施形態に係るポリ乳酸樹脂は、特に限定されるものではないが、重量平均分子量が5,000以上200,000以下が好ましく、20,000以上120,000以下がより好ましい。5,000以上であることにより荷重たわみ温度がより高くなる傾向にあり、また200,000以下であることにより結晶化速度がより速くなる傾向がある。
【0031】
尚、重量平均分子量の測定は、ゲルパーミッションクロマトグラフ(GPC)により測定される。GPCによる分子量測定は、測定装置として東ソー社製、HLC−8320GPCを用い、東ソー製カラム・TSKgel GMHHR−M+TSKgel GMHHR−M(7.8mmI.D.30cm)を使用し、クロロホルム溶媒で行われる。重量平均分子量は、この測定結果から単分散ポリスチレン標準試料により作製した分子量校正曲線を使用して算出される。以下、重量平均分子量の測定はこの方法による。
【0032】
・比率
前記L−乳酸ブロック(L体)と前記D−乳酸ブロック(D体)との平均構成比率(質量比)(L体:D体)は、15:85乃至85:15であることが好ましく、19:81乃至80:20であることが特に好ましく、40:60乃至60:40であることがなかんずく好ましい。
ここで、L体:D体の平均構成比率(質量比)は、FTIR(日本分光、FTIR6300)を用いて測定される。1750cm−1付近のカルボニル基に由来するピークがL−ユニットとD−ユニットとで僅かにシフトする。この強度差からL体:D体の平均構成比率(質量比)を決定する。
【0033】
また、本実施形態に係るポリ乳酸樹脂の全質量に対するカーボネート結合(−O−CO−O−)の比率(質量比)は、特に限定されるものではないが、0.5質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以上2.5質量%以下であることがより好ましい。
ここで、カーボネート結合の存在は、13C−NMR(400MHz、CDCl)(日本電子、JNM−AL400)により、154ppm付近のカーボネート結合に由来するピークが観察されるか否かにより確認される。
【0034】
・結晶化速度
本実施形態に係るポリ乳酸樹脂の結晶化速度は15sec以上60sec以下が好ましく、20sec以上55sec以下がより好ましく、20sec以上52sec以下が特に好ましい。
尚、結晶化速度の測定は、まずポリ乳酸樹脂を粉砕し、示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製、DSC−8500)を用いて200℃で溶融し、急速冷却し110℃にて保持し、結晶化ピークの飽和時間を計測して、結晶化速度が求められる。
【0035】
・荷重たわみ温度
本実施形態に係るポリ乳酸樹脂の荷重たわみ温度は65℃以上130℃以下が好ましく、70℃以上100℃以下がより好ましい。
尚、荷重たわみ温度の測定に際しては、まずポリ乳酸樹脂を射出成形機(日精樹脂工業製、NEX150)にて、シリンダ温度180℃、金型温度80℃で射出成形し、ISO多目的試験片(幅10mm、厚さ4mm)を得る。この試験片に1.8MPaの荷重をかけその荷重たわみ温度(ISO75)を、HDT測定装置(東洋精機社製、HDT−3)を用いて測定する。
【0036】
・合成方法
本実施形態に係るポリ乳酸樹脂を合成する方法については、特に限定されるものではないが、例えばポリ−L乳酸とポリ−L乳酸またはポリ−D乳酸とポリ−D乳酸を、カーボネート基を介して結合させることにより、結合の際に立体障害が生じるために一方が反転して結合され、その結果分子鎖内にL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとの両方が存在するポリ乳酸樹脂が形成される。
ここで、上記合成方法について、その一例を挙げて具体的に説明する。例えば、3つ口フラスコにポリ−L乳酸(またはポリ−D乳酸)とカーボネート基を有する化合物とを、得たいL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとの構造の長さに合わせた比率で混入する。エステル交換触媒を適量加え、3つ口フラスコ内を真空引きし、エステル交換反応が生じる温度(例えば100℃以上180℃以下)で攪拌する。エステル交換留出物(例えば上記カーボネート基を有する化合物としてジフェニルカーボネートを用いる場合であればフェノール)を系外に除去しながら反応を進行させることにより、本実施形態に係るポリ乳酸樹脂が得られる。
【0037】
尚、上記カーボネート基を有する化合物としては、ジフェニルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネート、n−プロピルフェニルカーボネート、イソプロピルフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート等が挙げられ、中でもカーボネート基を介して対称な化合物がより好ましく、ジフェニルカーボネートが特に好ましい。
また、上記エステル交換触媒としては、テトラブトキシチタン酸、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸コバルト等が挙げられ、中でも反応性の点でテトラブトキシチタン酸が特に好ましい。
【0038】
≪樹脂組成物≫
本実施形態に係る樹脂組成物は、本実施形態に係る前記ポリ乳酸樹脂を含むことを特徴とする。尚、前記ポリ乳酸樹脂の含有率としては全組成中10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。ポリ乳酸樹脂の含有率が10質量%以上であることにより、結晶化速度がより速くなりまた荷重たわみ温度がより高くなる傾向がある。
また、本実施形態に係る樹脂組成物においては、上記ポリ乳酸樹脂に加えて、(a)該ポリ乳酸樹脂以外の樹脂、(b)難燃効果を有する化合物(難燃剤)、や(c)その他の成分等を含んでもよい。
【0039】
・樹脂組成物の結晶化速度
本実施形態に係る樹脂組成物の結晶化速度は15sec以上60sec以下が好ましく、20sec以上55sec以下がより好ましい。尚、上記樹脂組成物の結晶化速度は、前記ポリ乳酸樹脂の場合における方法を適用して測定される。
【0040】
・樹脂組成物の荷重たわみ温度
本実施形態に係る樹脂組成物の荷重たわみ温度は65℃以上130℃以下が好ましく、70℃以上100℃以下がより好ましい。尚、上記樹脂組成物の荷重たわみ温度は、前記ポリ乳酸樹脂の場合における方法を適用して測定される。
【0041】
<(a)樹脂>
本実施形態に係る樹脂組成物において用いられる樹脂としては、前述の本実施形態に係るポリ乳酸樹脂のみを用いてもよいし、更にその他の樹脂を併用してもよい。併用される樹脂としては、例えば熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0042】
・熱可塑性樹脂
上記熱可塑性樹脂としては、従来公知の樹脂が用いられる。具体的には、脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリールケトン樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、液晶樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂、ポリパラバン酸樹脂、芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよびシアン化ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上のビニル単量体を、重合若しくは共重合させて得られるビニル系重合体若しくは共重合体樹脂、ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂、シアン化ビニル−ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂、芳香族アルケニル化合物−ジエン−シアン化ビニル−N−フェニルマレイミド共重合体樹脂、シアン化ビニル−(エチレン−ジエン−プロピレン(EPDM))−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂、ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂等が挙げられる。
【0043】
また、上記のうちポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂の少なくとも1種とスチレン系樹脂の少なくとも1種とを組み合わせたアロイ樹脂として用いてもよい。
【0044】
更に、上記熱可塑性樹脂の中でも生分解性樹脂が好適に用いられる。生分解性樹脂としては、生分解性を有している樹脂であればよく、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)、ポリ(ブチレンサクシネート/カーボネート)、ポリエチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース、デンプン変性樹脂、セルロース変性樹脂等が用いられる。
【0045】
本実施形態に係る樹脂組成物中において、前述の本実施形態に係るポリ乳酸樹脂も含めた全ての樹脂の含有量は、上記樹脂組成物の全組成中20質量%以上95質量%以下であることが好ましい。
【0046】
<(b)難燃効果を有する化合物(難燃剤)>
本実施形態に係る樹脂組成物においては、更に難燃効果を有する化合物(難燃剤)を含有してもよい。
尚「難燃効果を有する化合物(難燃剤)」とは、単独では難燃性を示さず、且つUL−94で規定される難燃性がHB未満の樹脂に添加して得られる樹脂組成物の、UL−94で規定される難燃性がHB以上となる化合物を表す。
【0047】
本実施形態に係る樹脂組成物においては、前述の本実施形態に係るポリ乳酸樹脂と難燃剤とを組み合わせて用いることにより、その他のポリ乳酸と難燃剤とを組み合わせて用いた場合と比較して、顕著に高い難燃性が発現される。その理由は、本実施形態に係るポリ乳酸樹脂が密な分子間パッキングを有することから、加熱された際の垂れ(ドリップ)の発生が抑制されたためと推察される。
【0048】
上記難燃剤としては、例えば、リン系、シリコーン系、含窒素系、硫酸系、無機水酸化物系等の難燃剤が用いられる。
上記リン系難燃剤としては、縮合リン酸エステル、リン酸メラミン、リン酸アンモニウム、リン酸アルミニウムなどが、上記シリコーン系難燃剤としては、ジメチルシロキサン、ナノシリカ、シリコーン変性ポリカボーネートなどが、上記含窒素系難燃剤としては、メラミン化合物、トリアジン化合物などが、上記硫酸系難燃剤としては、硫酸メラミン、硫酸グアニジンなどが、上記無機水酸化物系難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。これらの中でもリン系難燃剤がより好ましい。
【0049】
尚、前記難燃剤としては合成したものを用いてもよいし市販品を用いてもよい。
リン系難燃剤の市販品としては、大八化学工業製のPX−200、PX−202、ブーテンハイム製のTERRAJU C80、クラリアント製のEXOLIT AP422、EXOLIT OP930等が挙げられる。シリコーン系難燃剤の市販品としては、東レダウシリコーン製のZ6018、DC4−7081等が挙げられる。含窒素系難燃剤の市販品としては、ADEKA製のFP2200等が挙げられる。硫酸系難燃剤の市販品としては、三和ケミカル製のアピノン901、下関三井化学製のピロリンサンメラミン、ADEKA製のFP2100等が挙げられる。無機水酸化物系難燃剤の市販品としては、タテホ化学工業製のエコーマグPZ−1、堺化学工業製のMGZ3、MGZ300、日本軽金属製B103ST等が挙げられる。
【0050】
本実施形態に係る樹脂組成物において前記難燃剤を添加する場合には、その含有量として、樹脂組成物の全量に対し5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、10質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0051】
<(c)その他の成分>
本実施形態に係る樹脂組成物は、更にその他の成分を含んでいてもよい。樹脂組成物中における上記その他成分の含有量は0質量%以上10質量%以下であることが望ましく、0質量%以上5質量%以下であることがより望ましい。ここで、「0質量%」とはその他の成分を含まない形態を意味する。
該その他の成分としては、例えば、酸化防止剤、耐光剤、耐候剤、着色剤、離型剤、相溶化剤、可塑剤、顔料、改質剤、ドリップ防止剤、帯電防止剤、耐加水分解防止剤、充填剤、補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミナ、ボロンナイトライド等)等が挙げられる。
【0052】
・樹脂組成物の製造方法
本実施形態に係る樹脂組成物は、少なくとも前述の本実施形態に係るポリ乳酸樹脂を用いて溶融混練することにより製造され、更にその他、該化合物以外の(a)樹脂、(b)難燃剤、(c)その他の成分等を添加してもよい。
ここで、溶融混練の手段としては公知の手段を用いることができ、例えば、二軸押出し機、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等が挙げられる。
【0053】
≪樹脂成形体≫
本実施形態に係る樹脂成形体は、前述の本実施形態に係る樹脂組成物を成形することにより得られる。例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形、カレンダ成形、コーテイング成形、キャスト成形、ディッピング成形、真空成形、トランスファ成形などの成形方法により本実施形態に係る樹脂組成物を成形し、本実施形態に係る樹脂成形体が得られる。
【0054】
前記射出成形は、例えば、日精樹脂工業製NEX150、日精樹脂工業製NEX70000、東芝機械製SE50D等の市販の装置を用いて行ってもよい。
この際、シリンダ温度としては、170℃以上280℃以下とすることが望ましく、180℃以上270℃以下とすることがより望ましい。また、金型温度としては、40℃以上110℃以下とすることが望ましく、50℃以上110℃以下とすることがより望ましい。
【0055】
本実施形態に係る樹脂成形体は、電子・電気機器、家電製品、容器、自動車内装材などの用途に好適に用いられる。より具体的には、家電製品や電子・電気機器などの筐体、各種部品など、ラッピングフィルム、CD−ROMやDVDなどの収納ケース、食器類、食品トレイ、飲料ボトル、薬品ラップ材などであり、中でも、電子・電気機器の部品に好適である。
【0056】
図1は、本実施形態に係る成形体を備える電子・電気機器の部品の一例である画像形成装置を、前側から見た外観斜視図である。
図1の画像形成装置100は、本体装置110の前面にフロントカバー120a,120bを備えている。これらのフロントカバー120a,120bは、操作者が装置内を操作するよう開閉自在となっている。これにより、操作者は、トナーが消耗したときにトナーを補充したり、消耗したプロセスカートリッジを交換したり、装置内で紙詰まりが発生したときに詰まった用紙を取り除いたりする。図1には、フロントカバー120a,120bが開かれた状態の装置が示されている。
【0057】
本体装置110の上面には、用紙サイズや部数等の画像形成に関わる諸条件が操作者からの操作によって入力される操作パネル130、および、読み取られる原稿が配置されるコピーガラス132が設けられている。また、本体装置110は、その上部に、コピーガラス132上に原稿を搬送する自動原稿搬送装置134を備えている。更に、本体装置110は、コピーガラス132上に配置された原稿画像を走査して、その原稿画像を表わす画像データを得る画像読取装置を備えている。この画像読取装置によって得られた画像データは、制御部を介して画像形成ユニットに送られる。なお、画像読取装置および制御部は、本体装置110の一部を構成する筐体150の内部に収容されている。また、画像形成ユニットは、着脱自在なプロセスカートリッジ142として筐体150に備えられている。プロセスカートリッジ142の着脱は、操作レバー144を回すことによって行われる。
【0058】
本体装置110の筐体150には、トナー収容部146が取り付けられており、トナー供給口148からトナーが補充される。トナー収容部146に収容されたトナーは現像装置に供給されるようになっている。
【0059】
一方、本体装置110の下部には、用紙収納カセット140a,140b,140cが備えられている。また、本体装置110には、一対のローラで構成される搬送ローラが装置内に複数個配列されることによって、用紙収納カセットの用紙が上部にある画像形成ユニットまで搬送される搬送経路が形成されている。なお、各用紙収納カセットの用紙は、搬送経路の端部近傍に配置された用紙取出し機構によって1枚ずつ取り出されて、搬送経路へと送り出される。また、本体装置110の側面には、手差しの用紙供給部136が備えられており、ここからも用紙が供給される。
【0060】
画像形成ユニットによって画像が形成された用紙は、本体装置110の一部を構成する筐体152によって支持された相互に接触する2個の定着ロールの間に順次移送された後、本体装置110の外部に排紙される。本体装置110には、用紙供給部136が設けられている側と反対側に用紙排出部138が複数備えられており、これらの用紙排出部に画像形成後の用紙が排出される。
【0061】
画像形成装置100において、例えば、フロントカバー120a,120b、プロセスカートリッジ142の外装、筐体150、および筐体152に、本実施形態に係る樹脂成形体が用いられている。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。尚、以下において「部」は特に断りのない限り質量基準である。
【0063】
〔実施例A1〜A12〕
<ポリ乳酸樹脂の合成>
下記表1に示す量のポリ−L乳酸またはポリ−D乳酸とジフェニルカーボネートとを、5L3つ口フラスコに入れ、エステル交換触媒としてのテトラブトキシチタン酸を下記表1に示す量加え、真空引きし、内容物を攪拌しながら温度を30℃/hrの速度で室温(20℃)から200℃まで昇温し、留去するフェノールをトラップした。4時間の間200℃一定に保ち、フェノールの留出量を計量した。その後、内容物をテトラヒドロフランに溶解し、メタノール中に再沈殿させ、ろ過して得られた沈殿物を化合物1〜12とした。
【0064】
<ポリ乳酸樹脂の同定>
得られた化合物を、FTIR(日本分光、FTIR6300)により同定した。吸収スペクトルの例として実施例A1で得られた化合物の吸収スペクトルを図2に示し、また該図2の一部の拡大図を図3に示す。
図3に示す通り、1750cm−1付近のカルボニル基に由来するピークがL−ユニットとD−ユニットとで僅かにシフトしていた。この強度差からL体:D体の平均構成比率(質量比)を決定した。
また、カーボネート結合の存在を13C−NMR(400MHz、CDCl)(日本電子、JNM−AL400)により同定した。154ppm付近のピークが観察されたことにより、カーボネート結合が存在することを確認した。
【0065】
・重量平均分子量の測定
得られた化合物の重量平均分子量を、ゲルパーミッションクロマトグラフ(東ソー社製、HLC−8320GPC)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0066】
<評価試験>
・結晶化速度の評価
得られた化合物を粉砕し、示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製、DSC−8500)を用いて200℃で溶融し、急速冷却し110℃にて保持し、結晶化ピークの飽和時間を計測して、結晶化速度として評価した。結果を表3に示す。
【0067】
・荷重たわみ温度の評価
得られた化合物を射出成形機(日精樹脂工業製、NEX150)にて、シリンダ温度180℃、金型温度80℃で射出成形し、ISO多目的試験片(幅10mm、厚さ4mm)を得た。この試験片に1.8MPaの荷重における荷重たわみ温度(ISO75)を、HDT測定装置(東洋精機社製、HDT−3)を用いて測定した。結果を表3に示す。
【0068】
〔比較例A1〜A2〕
下記表2に示す化合物を、2軸混練装置(東芝機械製、TEM58SS)に投入して、下記表2に示す温度で混練し、比較化合物1〜2のペレットを得た。
得られたペレットについて、実施例1に記載の方法により試験片を成形し、評価試験を実施した。結果を表3に示す。
【0069】
〔比較例A3〜A4〕
下記表2に示す化合物を、2軸混練装置(東芝機械製、TEM58SS)に投入して、下記表2に示す温度で混練し、比較化合物3〜4を得た。
得られた比較化合物3〜4について、実施例1に記載の方法により試験片を成形し、評価試験を実施した。結果を表3に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
上記表1および表2に記載の組成物は、それぞれ以下のものである。
・ポリ−L乳酸(分子量10000)=市販品ではなく合成したものを使用
・ポリ−L乳酸(分子量40000)=市販品ではなく合成したものを使用
・ポリ−L乳酸(分子量60000)=三井化学社製、商品名:レイシアH100
・ポリ−L乳酸(分子量120000)=ユニチカ社製、商品名:テラマックTE2000
・ポリ−D乳酸(分子量30000)=武蔵野化学社製、商品名:D−PLA#30000
・ポリ−D乳酸(分子量80000)=武蔵野化学社製、商品名:D−PLA#80000
・ジフェニルカーボネート =アルドリッチ社製、商品名:ジフェニルカーボネート
・テトラブトキシチタン酸 =和光純薬社製、商品名:テトラブトキシチタン酸
【0073】
【表3】



【0074】
〔実施例B1〜B20、比較例B1〜B7〕
下記表4〜表6に示す組成の化合物を2軸混練装置(東芝機械製、TEM58SS)に投入して、下記表4〜表6に示す温度で混練しペレットを得た。
得られたペレットについて、実施例1に記載の方法により試験片を成形して結晶化速度の評価および荷重たわみ温度の評価を実施した。
またこれに加えて、得られたペレットを用いてUL94試験片(厚さ1.6mm)を成形し、UL94−Vテストを行って難燃性を評価した。尚、評価基準は、難燃性が高い方から順にV0、V1、V2であり、V2より劣る場合、即ち試験片が延焼してしまった場合をV−notと示した。結果を表7に示す。
【0075】
【表4】



【0076】
【表5】



【0077】
【表6】



【0078】
上記表4〜表6に記載の組成物は、それぞれ以下のものである。
(その他の樹脂)
・ポリ乳酸 =ユニチカ社製、商品名:テラマックTE2000
・ポリカーボネート =帝人社製、商品名:パンライトL1225Y
・ポリプロピレン =日本ポリプロ社製、商品名:ノバテックBC3L
・ポリエステル =東洋紡社製、商品名:バイロン103
・ポリアミド =アルケマ社製、商品名:BMNO
(難燃剤)
・縮合リン酸エステル =大八化学工業社製、商品名:PX200
・ポリリン酸アンモニウム=クラリアント社製、商品名:エクソリットAP422
・硫酸メラミン =三和ケミカル社製、商品名:アピノン901
・シリコーンパウダー =東レダウシリコーン社製、商品名:Z6018
・水酸化マグネシウム =タテホ化学工業社製、商品名:エコーマグPZ−1
【0079】
【表7】



【符号の説明】
【0080】
100 画像形成装置
110 本体装置
120a、120b フロントカバー
136 用紙供給部
138 用紙排出部
142 プロセスカートリッジ
150、152 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボネート結合を介してL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとを有するポリ乳酸樹脂。
【請求項2】
前記L−乳酸ブロックと前記D−乳酸ブロックとの平均構成比率(質量比)(L−乳酸ブロック:D−乳酸ブロック)が19:81乃至80:20である請求項1に記載のポリ乳酸樹脂。
【請求項3】
前記L−乳酸ブロックおよび前記D−乳酸ブロックのそれぞれが重合度98以上1195以下である請求項1または請求項2に記載のポリ乳酸樹脂。
【請求項4】
結晶化速度が20sec以上52sec以下である請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のポリ乳酸樹脂。
【請求項5】
カーボネート結合を介してL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとを有するポリ乳酸樹脂を含む樹脂組成物。
【請求項6】
難燃効果を有する化合物を更に含有する請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエステルおよびポリアミドから選択される少なくとも1種の樹脂を更に含有する請求項5または請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
カーボネート結合を介してL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとを有するポリ乳酸樹脂を含む樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−31379(P2012−31379A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50818(P2011−50818)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】