説明

ポリ乳酸樹脂組成物およびその製造方法

【課題】簡便なプロセスで製造することが出来る、ステレオコンプレックス結晶を含有し、機械特性や耐熱性が大幅に向上したポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【解決手段】L−乳酸単位から構成されるポリL−乳酸、D−乳酸単位から構成されるポリD−乳酸に液晶ポリマーを配合することにより、ステレオコンプレックス結晶が容易に形成され、得られるポリ乳酸樹脂組成物の機械特性や耐熱性が著しく向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸と液晶ポリマーとを含有するポリ乳酸樹脂組成物に関する。具体的には本発明は、ポリ乳酸に液晶ポリマーを配合することにより形成される、ポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶を含む、機械特性や耐熱性に優れたポリ乳酸樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のポリマーの殆どは石油資源を原料としているが、石油資源が将来的に枯渇するおそれがあること、また石油資源を大量消費することにより、地質時代より地中に蓄えられていた二酸化炭素が大気中に放出され、さらに地球温暖化が深刻化することが懸念されている。このような地球環境保護の見地から、自然環境下で分解される生分解性ポリマーが注目され、各種環境対応型製品への適用が検討されている。
【0003】
中でも、最近では温暖化防止の観点から、バイオマスよりなるポリマーが注目されている。バイオマスよりなるポリマーは、もともと植物が光合成により二酸化炭素を同化して作り上げたバイオマスを原料としてなるため、その生産が自然の物質循環サイクルに適合しているだけでなく、使用後に焼却処理をしても大気中の二酸化炭素の濃度を上昇させることにはならない。
【0004】
このようなバイオマスよりなるポリマーとして、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンスクシネート、ポリ乳酸などが知られている。これらの中で、ポリ乳酸は、原料である乳酸あるいはラクチドが天然植物から比較的効率よく製造することが可能であるため、単なる生分解性ポリマーとしてだけではなく、その強靭性や高い透明性を生かして汎用性ポリマーとしての幅広い利用が計られている。
【0005】
しかしながら、ポリ乳酸は、結晶性樹脂であるが、その結晶化速度は小さく、耐熱性、成形性、離型性等の点で十分な特性を得ることが困難であった。また、耐衝撃性や曲げ引張強度などの力学的物性も不十分であり、汎用プラスチックの代替材料としての機能を満たすに至っていない。
【0006】
そこで、ポリ乳酸の成形加工性や力学的物性を向上させる手法として、ポリ乳酸のステレオコンプレックスポリマー形成(たとえば、特許文献1および2を参照)が提案されている。しかしながら、ステレオコンプレックスは弱い相互作用である分子間のファンデルワールス相互作用を利用するために、ステレオコンプレックスを形成させるには特殊な技術が必要で、単純に混合するだけでは、ポリL−乳酸とポリD−乳酸とがそれぞれホモコンプクレックス(ホモ結晶相)を形成してしまい、ステレオコンプレックスとホモコンプクレックスの混合結晶相となってしまう。
【0007】
このような単純な混合であっても、ポリL−乳酸もしくはポリD−乳酸の一方が分子量40,000未満の低分子量体であれば、比較的容易にステレオコンプレックスが形成し得るが、いずれもが分子量100,000を超えるような高分子量体であれば、ホモコンプレックスの形成が優先し、ステレオコンプレックスがほとんど形成し得ないという問題がある。
【0008】
これらの問題を解決するために、溶融混練を繰り返す、延伸操作をする、溶液状態から徐々に溶媒を留去するという手法などが用いられているが、通常のポリ乳酸では不必要な操作を行うことになり、実用性に欠ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−105629号公報
【特許文献2】特開2000−17163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、簡便なプロセスで製造することが出来る、ステレオコンプレックス結晶を含有し、機械特性や耐熱性が大幅に向上したポリ乳酸樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ポリ乳酸樹脂の性能について鋭意検討した結果、L−乳酸単位から構成されるポリL−乳酸、D−乳酸単位から構成されるポリD−乳酸に液晶ポリマーを配合することにより、ステレオコンプレックス結晶が容易に形成され、得られるポリ乳酸樹脂組成物の機械特性や耐熱性が著しく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、L−乳酸単位から構成されるポリL−乳酸、D−乳酸単位から構成されるポリD−乳酸、および液晶ポリマーを含有する、ポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【0013】
また、本発明は、L−乳酸単位から構成されるポリL−乳酸、D−乳酸単位から構成されるポリD−乳酸、およびポリL−乳酸およびポリD−乳酸の合計量100重量部に対して5〜100重量部の液晶ポリマーを配合し、170〜250℃の温度下で溶融混練することを含む、ポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶を含有するポリ乳酸樹脂組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によるポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶を含有し、機械特性や耐熱性に優れている。また本発明の方法によると、ポリ乳酸樹脂組成物中にポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶が容易に形成される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、「L−乳酸単位から構成されるポリL−乳酸」とは、L−乳酸単位を主として含む重合体であり、本明細書および特許請求の範囲において単に「ポリL−乳酸」と称することもある。また、「D−乳酸単位から構成されるポリD−乳酸」とは、D−乳酸単位を主として含む重合体であり、本明細書および特許請求の範囲において単に「ポリD−乳酸」と称することもある。
【0016】
ポリL−乳酸は、90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、より好ましくは98〜100モル%のL−乳酸単位から構成される。ポリL−乳酸が含んでいてもよい他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。
【0017】
ポリL−乳酸中、D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位の含有量は、ポリL−乳酸を構成する単量体、即ち、L−乳酸単位、D−乳酸単位および乳酸以外の共重合成分単位の合計量に対して、0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%、より好ましくは0〜2モル%である。
【0018】
ポリD−乳酸は、90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、より好ましくは98〜100モル%のD−乳酸単位から構成される。ポリD−乳酸が含んでいてもよい他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。
【0019】
ポリD−乳酸中、L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位の含有量は、ポリD−乳酸を構成する単量体、即ち、D−乳酸単位、L−乳酸単位および乳酸以外の共重合成分単位の合計量に対して、0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%、より好ましくは0〜2モル%である。
【0020】
ポリL−乳酸およびポリD−乳酸は、それぞれ、L−乳酸単位およびD−乳酸単位が90%を下回ると、ポリL−乳酸とポリD−乳酸とのらせん構造が崩れ、ステレオコンプレックス構造をとることが困難となり、結晶化度が低下するため、耐熱性、機械的強度に優れるポリ乳酸樹脂組成物が得られない場合がある。
【0021】
本発明において、ポリL−乳酸およびポリD−乳酸が含んでいてもよい乳酸以外の他の共重合成分としては、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、およびカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。
【0022】
本発明で使用するポリL−乳酸およびポリD−乳酸は、例えば、特開平9−143253号公報に記載されているように、植物原料から発酵法により得られたL−乳酸(HOCH(CH)COOH)あるいはD−乳酸を直接縮合して得ることができる。また、特開平7−206851号公報に記載されているように、乳酸の低分子縮合物(乳酸オリゴマー)を熱分解して得られる乳酸の環状2量体(D−ラクチド、L−ラクチド)を開環重合しても同様のポリ乳酸樹脂(PDLA、PLLA)を得ることができる。
【0023】
ポリL−乳酸/ポリD−乳酸の重量比は、30/70〜70/30であるのが好ましく、40/60〜60/40であるのがより好ましく、45/55〜55/45であるのが特に好ましい。
【0024】
ポリL−乳酸とポリD−乳酸の重量平均分子量は、いずれも好ましくは40,000〜300,000、より好ましくは60,000〜280,000、さらに好ましくは100,000〜260,000である。ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の分子量をいう。
【0025】
本発明において、ポリL−乳酸およびポリD−乳酸に配合される液晶ポリマーは、異方性溶融相を形成するポリエステルまたはポリエステルアミドであり、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステルまたはサーモトロピック液晶ポリエステルアミドと呼ばれるものであれば特に制限されない。
【0026】
異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわちホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0027】
本発明に用いる液晶ポリマーを構成する主たる繰返し単位は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位から選択される1種以上とする。これらの各繰返し単位から構成される液晶ポリマーは構成成分およびポリマー中の組成比、シークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用される液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0028】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、オルトヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では、パラヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が得られる液晶ポリマーの特性や結晶融解温度を調整しやすいという点から好ましい。
【0029】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0030】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエ−テル等の芳香族ジオール、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では、ハイドロキノンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニルが重合時の反応性や得られる液晶ポリマーの特性などの点から好ましい。
【0031】
芳香族アミノオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、p−アミノフェノール、m−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、5−アミノ−1−ナフトール、8−アミノ−2−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステルまたはアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0032】
芳香族ジアミノ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン等の芳香族ジアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0033】
芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、p−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸等の芳香族アミノカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステルまたはアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0034】
芳香族オキシジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジカルボン酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、および5−ヒドロキシイソフタル酸等のヒドロキシ芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0035】
脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレートなどの脂肪族ジオキシ繰返し単位を含有するポリエステルを、前記の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族オキシジカルボン酸およびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などと反応させることによっても、脂肪族ジオキシ繰返し単位を含む液晶ポリマーを得ることができる。
【0036】
また、本発明に用いる液晶ポリマーは、本発明の目的を損なわない範囲で、上記の主たる繰り返し単位以外の繰り返し単位を構成成分として含んでいてもよく、例えば、チオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの主たる繰り返し単位を与える単量体以外の単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰り返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える主たる単量体の合計量に対して10モル%以下とする。
【0037】
以上、本発明において用いる液晶ポリマーに含まれる繰返し単位とそれを与える単量体について説明したが、本発明において用いる液晶ポリマーとしては、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度が170〜250℃、好ましくは180〜230℃であるものが好適である。結晶融解温度が170〜250℃の範囲にある液晶ポリマーを用いれば、ポリL−乳酸およびポリD−乳酸の分解を抑制しつつ液晶ポリマーをブレンドでき、ステレオコンプレックス結晶が形成されたポリ乳酸樹脂組成物が得られる。
【0038】
液晶ポリマーの結晶融解温度が170℃を下回る場合、溶融混練時に攪拌モーターへの負荷が大きくなり混練機を破損してしまうおそれがあり、たとえ混練が可能であったとしても液晶ポリマー相の分散が不均一となる傾向がある。また、250℃を上回る場合、ポリL−乳酸およびポリD−乳酸の分解が顕著となり、十分な性能が得られなくなる傾向がある。
【0039】
170〜250℃の結晶融解温度の範囲を満たす液晶ポリマーとして、本質的に、以下の式[I]〜[IV]で示される繰返し単位により構成される液晶ポリエステルが特に好適に使用される。
本明細書および特許請求の範囲において、「本質的に、以下の式[I]〜[IV]で示される繰返し単位により構成され」とは、液晶ポリマーがその構成成分として式[I]〜[IV]で示される繰返し単位の他に、液晶ポリマーの結晶融解温度が170〜250℃の範囲となる限り他の繰り返し単位を含有していてもよいことを意味する。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、p+q+r+s=100モル%である。
さらに、本明細書および特許請求の範囲において、「2価の芳香族基」とは、エステル結合またはアミド結合を形成することができる置換基を2つ有する芳香族基を意味する。


【化1】

【化2】

【化3】


【化4】


[ArおよびArは、それぞれ一種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、各繰返し単位の液晶ポリエステル中での組成比(モル%)であり、以下の式を満たすものである:
0.4≦p/q≦2.0
2モル%≦r≦15モル%、および
2モル%≦s≦15モル%]。
【0040】
p、q、r、sの好ましい範囲としては以下の式を満たすものである。
35モル%≦p≦48モル%、
35モル%≦q≦48モル%、
2モル%≦r≦15モル%、および
2モル%≦s≦15モル%。
【0041】
また、式[III]および式[IV]において、ArおよびAr2の好ましいものは、
Arが、
【化5】

および/または
【化6】

であり、
Ar2が、
【化7】

および/または
【化8】


であるものである。
【0042】
本発明における液晶ポリマーは、成形時の流動性を改良するなどの目的で、2種以上の液晶ポリマーをブレンドしたものを用いてもよい。
【0043】
以下、本発明において用いる液晶ポリマーの製造方法について説明する。
【0044】
本発明において用いる液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組み合わせからなるエステル結合またはアミド結合を形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0045】
溶融アシドリシス法とは、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、反応を継続することにより溶融ポリマーを得る方法であり、本発明で用いる液晶ポリマーの製造方法として好ましい方法である。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水等)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0046】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0047】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、液晶ポリマーを製造する際に使用する重合性単量体成分は、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2〜5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0048】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0049】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0050】
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;三酸化アンチモン;二酸化チタン;アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);無機酸塩類(たとえば硫酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素);ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0051】
触媒の使用割合は、通常モノマー重量に対して10〜1000ppm、好ましくは20〜200ppmである。
【0052】
このような重縮合反応によって得られた液晶ポリマーは、それぞれ溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0053】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物における、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸および液晶ポリマーの配合比は、ポリL−乳酸およびポリD−乳酸の合計量100重量部に対し、液晶ポリマー5〜100重量部、好ましくは、10〜90重量部であり、より好ましくは15〜85重量部である。
【0054】
なお、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸および液晶ポリマーは、それらの性質を損なわない範囲で、それぞれポリL−乳酸、ポリD−乳酸および液晶ポリマー以外のポリマーや粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加物を添加したものを配合に供してもよい。これらの添加物の、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸および液晶ポリマーに対する配合量は、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸および液晶ポリマーのそれぞれ100重量部に対して0.1〜20重量部までとする。
【0055】
液晶ポリマーの配合量が5重量部を下回ると、得られるポリ乳酸樹脂組成物の機械特性や耐熱性の向上が十分に望めない。液晶ポリマーの配合量が100重量部を上回ると、バイオマスの利用量が低下し、大気中の二酸化炭素濃度上昇抑制に貢献するポリマーを提供するという本発明の趣旨から逸脱することとなる。
【0056】
本発明において、ポリL−乳酸およびポリD−乳酸と液晶ポリマーとの相溶性を向上させる目的で、さらに相溶化剤を添加してもよい。なお、相溶化剤とは、ブレンドポリマーを構成する各ポリマーの相の界面に局在し、それらの相間の界面張力を低下させる機能を有するものをいう。
【0057】
相溶化剤の好ましい例としては、カルボキシル基反応性化合物、カルボキシル基、エポキシ基もしくは酸無水物基などを有するポリマーなどを挙げることができる。
【0058】
本発明において、相溶化剤として使用されるカルボキシル基反応性化合物としては、ポリ乳酸樹脂のカルボキシル末端基と反応性のある化合物であれば特に限定されるものではないが、ポリ乳酸樹脂の熱分解や加水分解などで生成する酸性低分子化合物のカルボキシル基とも反応性を有するものであればより好ましく、熱分解により生成する酸性低分子化合物のヒドロキシル基末端基とも反応性を有する化合物であることがより好ましい。
【0059】
このようなカルボキシル基反応性化合物としては、ビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、ビスフェノールS、トリヒドロキシ−ジフェニルジメチルメタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,5−ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2,2,5,5−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン等のビスフェノール−グリシジルエーテル系エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系エポキシ化合物、N−グリシジルアニリン等のグリシジルアミン系エポキシ化合物、グリシジルイミド化合物、脂環式エポキシ化合物、2つ以上のエポキシ基を含有する多官能エポキシ化合物、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)などのオキサゾリン化合物、オキサジン化合物、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ポリカルボジイミドなどのカルボジイミド化合物、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシランなどの有機シラン化合物などから選ばれる少なくとも一種の化合物を使用することが好ましく、なかでも多官能エポキシ化合物、エポキシ基、イソシアネート基を有する有機シラン化合物、カルボジイミド化合物が好ましく、特に好ましくは多官能エポキシ化合物、カルボジイミド化合物である。上記カルボキシル基反応性化合物は、一種または二種以上の化合物を任意に選択して使用することができる。
【0060】
また、予めこれらの相溶化剤として使用されるカルボキシル基反応性化合物に、乳酸および/または液晶ポリマーを構成するカルボキシル基を有する化合物を反応させた形態で配合に供してもよい。
【0061】
本発明において相溶化剤として使用される、カルボキシル基、エポキシ基もしくは酸無水物基などを有するポリマーとしては、エチレン/(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エチル−g−無水マレイン酸共重合体、(「g」はグラフトを表わす、以下同じ)、エチレン/(メタ)アクリル酸グリシジル−g−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エチル/無水マレイン酸共重合体−g−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、二重結合を有する高分子の二重結合部をエポキシ化したエポキシ基含有高分子化合物、ノボラック型フェノール樹脂にエピクロルヒドリンを反応させたノボラック型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0062】
相溶化剤の添加量は、ポリL−乳酸およびポリD−乳酸の合計量100重量部に対して、0.5〜10重量部、好ましくは1〜5重量部の範囲であるのがよい。相溶化剤の配合量が0.5重量部より少ないと、十分な相溶性向上効果が得られず、10重量部を上回ると、得られるポリ乳酸樹脂組成物の溶融粘度が著しく増加し流動性が低下する傾向がある。
【0063】
本発明においては、ステレオコンプレックス結晶の形成を促進し、ステレオコンプレックス結晶含有率をより高めるために、さらに結晶核剤を配合してもよい。
【0064】
本発明で使用される結晶核剤としては、一般にポリマーの結晶核剤として用いられるものを特に制限なく用いることができ、無機系結晶核剤および有機系結晶核剤のいずれも使用することができる。無機系結晶核剤の具体例としては、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト、合成マイカ、クレー、ゼオライト、シリカ、グラファイト、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、硫化カルシウム、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウムおよびフェニルホスホネートの金属塩などを挙げることができる。これらの無機系結晶核剤は、組成物中での分散性を高めるために、有機物で修飾されていることが好ましい。無機系結晶核剤の平均粒径は10μm以下が好ましく、5μm以下がさらに好ましく、3μm以下が特に好ましい。有機系結晶核剤の具体例としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、シュウ酸カルシウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、オクタコサン酸ナトリウム、オクタコサン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、カリウムジベンゾエート、リチウムジベンゾエート、ナトリウムβ−ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレートなどの有機カルボン酸金属塩、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウムなどの有機スルホン酸塩、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)、テレフタル酸ジアニリドなどの有機カルボン酸アミド、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリビニルシクロアルカン、ポリビニルトリアルキルシラン、高融点ポリ乳酸などのポリマー、エチレン−アクリル酸またはメタクリル酸コポリマーのナトリウム塩、スチレン−無水マレイン酸コポリマーのナトリウム塩などのカルボキシル基を有する重合体のナトリウム塩またはカリウム塩(いわゆるアイオノマー)、ベンジリデンソルビトールおよびその誘導体、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェートなどのリン化合物金属塩、および2,2−メチルビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウムなどを挙げることができる。
【0065】
本発明で使用する結晶核剤としては、上記に例示したもののなかでも、特にタルク、有機カルボン酸金属塩および有機カルボン酸アミドから選択された少なくとも1種が好ましい。好ましいタルクとしては、平均粒径0.5〜7μmであり、かつ燃焼時の損失分を除いた成分中のSiOとMgOの割合が93重量%以上であるタルクを挙げることができる。結晶核剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0066】
結晶核剤の配合量は、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸および液晶ポリマーの合計量100重量部に対して、0.01〜30重量部が好ましく、0.05〜20重量部がより好ましく、0.1〜15重量部が特に好ましい。
【0067】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、上記で説明した、ポリL−乳酸およびポリD−乳酸と、ポリL−乳酸およびポリD−乳酸の合計量100重量部に対して液晶ポリマー5〜100重量部を配合し、必要によりさらに相溶化剤や結晶核剤を配合して、170〜250℃の温度下で溶融混練することにより製造される。溶融混練温度が170℃を下回ると、混練時に攪拌モーターへの負荷が大きくなり混練機を破損してしまうおそれがあり、また、たとえ混練が可能であったとしても液晶ポリマー相の分散が不均一となる傾向がある。一方、溶融混練温度が250℃を超えると、ポリ乳酸の分解が顕著となり、十分な性能が得られなくなる傾向がある。
【0068】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物の製造に際しては、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などの混練機が使用される。例えば、二軸押出し機を用いた場合などは、非エネルギー(吐出量あたりの押出機仕事量(kW・h/kg))0.1〜0.25で、ベントポートを真空にしながら行うのがよいが、これに限らず、不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0069】
なお、溶融混練に際しては、予めポリL−乳酸とポリD−乳酸とをブレンドして一部ステレオコンプレックスが形成された状態とした後、液晶ポリマーとの溶融混練に供してもよい。
【0070】
かかる溶融混練の後に得られたポリ乳酸樹脂組成物は、ステレオコンプレックス結晶の含有率を高めるために、固相状態での加熱処理を施してもよい。固相加熱処理は減圧下または不活性ガス雰囲気下で、80〜210℃の温度下で3〜60分行うのがよい。
【0071】
このようにして製造された本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ステレオコンプレックス結晶を含有する。ステレオコンプレックス結晶含有率(X)は、ポリ乳酸樹脂組成物の全重量に対して好ましくは30〜100重量%である。
ステレオコンプレックスの形成の確認は広角X線回折測定(WAXD)により行うことができ、2θ=12.4°、22.4°、24.1°の回折ピークの存在により確認できる(Macromolecules,Vol.29, No.1,1996)。
また、ステレオコンプレックス結晶含有率Xは、示差走査熱量計により測定される吸熱ピークのうち、150℃以上190℃未満に現れる吸熱ピークの融解エンタルピーΔHaと190℃以上250℃未満に現れる吸熱ピークの融解エンタルピーΔHbから下式(1)により算出される。
X={ΔHb/(ΔHa+ΔHb)}×100(%) (1)
【0072】
このようにステレオコンプレックス結晶を含有するポリ乳酸樹脂組成物は、ポリL−乳酸に比べて結晶融解温度が大幅に上昇するため、高耐熱素材として好適に利用される。
【0073】
また、従来の単純な溶融混合では、分子量が40,000を超える高分子量のポリL−乳酸とポリD−乳酸のステレオコンプレックスの形成が困難であったが、液晶ポリマーを配合することにより、分子量が100,000を超える高分子量のポリ乳酸であっても、特殊な技術を必要とすることなく、ステレオコンプレックスが容易に形成し得るものであり、強度や靱性などの機械物性が著しく向上するものである。
【0074】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、必要により、無機充填材および/または有機充填材を配合してもよい。
【0075】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物に配合してもよい、無機充填材および/または有機充填材としては、たとえばガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらの中では、ガラス繊維が物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。
【0076】
無機充填材および/または有機充填材の配合量は、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸および液晶ポリマーの合計量100重量部に対して、0.1〜200重量部、好ましくは1〜100重量であるのがよい。
【0077】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸および液晶ポリマー以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他の樹脂成分を配合してもよい。他の樹脂成分としては、たとえばポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、およびその変性物、ならびにポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0078】
他の樹脂成分は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて配合することができる。他の樹脂成分の配合量は、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸および液晶ポリマーの合計量100重量部に対して0.1〜100重量部、好ましくは0.1〜80重量部となる範囲で配合するのが良い。
【0079】
以上説明した、無機充填材および/または有機充填材および他の樹脂成分は、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、液晶ポリマーおよび必要により相溶化剤と共に、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて溶融混練することによって、ポリ乳酸樹脂組成物としてもよいし、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、液晶ポリマーおよび必要により相溶化剤を配合して得られたポリ乳酸樹脂組成物を、成形加工する際に配合してもよい。
【0080】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、射出成形機、押出機などを用いる公知の成形方法によって溶融加工され、成形品、フィルムおよび繊維などの製品とされる。本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、機械的特性、耐熱性が優れることから機械部品、電気・電子部品、建築・土木部材、家庭・事務用品、家具用部品および日用品など各種用途に利用することができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例において、ポリL−乳酸、液晶ポリマー、相溶化剤および結晶核剤は、以下のものを使用した。
ポリL−乳酸:三井化学株式会社製ポリL−乳酸、レイシアH−400(数平均分子量104,000、重量平均分子量211,000、結晶融解温度166℃)。
液晶ポリマーA:上野製薬株式会社製芳香族液晶ポリエステル(パラヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/ハイドロキノン/テレフタル酸共重合体、結晶融解温度220℃)。
液晶ポリマーB:上野製薬株式会社製芳香族液晶ポリエステル(パラヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸共重合体、結晶融解温度280℃)。
相溶化剤:日清紡績株式会社製ポリカルボジイミド、カルボジライトHMV−8CA。
結晶核剤:新日本理化株式会社製1,3,5−ベンゼントリカルボキサミド、エヌジェスター TF−1。
なお、ポリD−乳酸の以下のようにして合成したものを使用した。
D−ラクチド50gをフラスコに入れ、系内を窒素置換した後、ステアリルアルコール0.1g、オクチル酸スズ25mgを触媒として加え、190℃で2時間重合し、ポリマーを製造した。このポリマーを7%5N塩酸のアセトン溶液で洗浄し、触媒を除去した後80℃で10時間減圧乾燥し、精製ポリマーを得た。得られたポリマーの数平均分子量は115,000、重量平均分子量は250,000、結晶融解温度は163℃であった。
【0082】
(結晶融解温度の測定)
サンプル3mgを専用アルミニウムパンに入れ、島津製作所社製の示差走査熱量計SHIMADZU DSC−50を用いて、窒素ガス雰囲気下、昇温速度10℃/分で測定を行った。150℃以上に観察される吸熱ピークのピークトップ温度を結晶融解温度とした。
【0083】
(ステレオコンプレックス結晶含有率(X)の算出法)
上記結晶融解温度の測定で得られた示差走査熱量計(DSC)による吸熱ピークにおいて、150℃以上190℃未満に現れる吸熱ピークの融解エンタルピーΔHaと、190℃以上250℃未満に現れる吸熱ピークの融解エンタルピーΔHbから下記式(1)にて算出した。
X={ΔHb/(ΔHa+ΔHb)}×100(%) (1)
【0084】
(広角X線回折測定(WAXD))
溶融混練により得られたポリ乳酸樹脂組成物サンプルを100℃で6時間減圧乾燥し、230℃でプレスした後に急冷し、厚み0.2mmのポリ乳酸樹脂組成物フィルムを作成した。このフィルムの固相加熱処理を施したサンプルと施していないサンプルにつき、株式会社リガク社製X線回折装置RINT−2500を使用し5〜40°の範囲で4°/分のスキャン速度で測定を行った。なお、X線は波長0.1542nm(CuK線)を使用した。
【0085】
(ステレオコンプレックス結晶の形成確認)
上記の広角X線回折測定(WAXD)においてステレオコンプレックス結晶に対応する2θ=12.4°、22.4°、24.1°の回折ピークの存在により、ステレオコンプレックス結晶の形成を判断した。
【0086】
(固相加熱処理)
溶融混練により得られたポリ乳酸樹脂組成物サンプルを100℃で6時間減圧乾燥し、230℃でプレスした後に急冷し、厚み0.2mmのポリ乳酸樹脂組成物フィルムを作成した。このフィルムを加熱圧縮機で1MPa加圧下、100℃で1時間加熱処理を行った。
【0087】
(実施例1)
ポリL−乳酸8.0g、ポリD−乳酸8.0g、液晶ポリマーA4.0g、相溶化剤0.24gを混合し、80℃で10時間減圧乾燥した。この乾燥混合物を株式会社オオバ機械社製一軸混練押出し機を使用し、シリンダー温度230℃、直径0.5mmのノズルを使用し、スクリュー回転速度20rpmで混練しながら押し出し、ポリ乳酸樹脂組成物サンプルを作成した。このポリ乳酸樹脂組成物サンプルのX線回折測定(WAXD)を行ったところ、2θ=12.4°、22.4°、24.1°の回折ピークが確認された。
【0088】
示差走査熱量計により150℃以上190℃未満に現れる吸熱ピークの融解エンタルピーΔHaと、190℃以上250℃未満に現れる吸熱ピークの融解エンタルピーΔHbの測定を行ったところ、ΔHa=12.3J/g、ΔHb=12.3J/g、であったため、ステレオコンプレックス結晶含有率(X)=50.0%であった。
【0089】
(実施例2)
上記実施例1で得られたポリ乳酸樹脂組成物サンプルを固相加熱処理しX線回折測定(WAXD)を行ったところ、2θ=12.4°、22.4°、24.1°の回折ピークが明瞭に確認された。また、示差走査熱量計により150℃以上190℃未満に現れる吸熱ピークの融解エンタルピーΔHaと、190℃以上250℃未満に現れる吸熱ピークの融解エンタルピーΔHbの測定を行ったところ、ΔHa=8.7J/g、ΔHb=22.4J/gであり、ステレオコンプレックス結晶含有率(X)=72.0%であった。
【0090】
(実施例3、4)
相溶化剤を配合しなかった(実施例3)、結晶核剤を配合した(実施例4)以外は実施例1の方法と同様にしてポリ乳酸樹脂組成物サンプルを作成し、ステレオコンプレックス結晶含有率(X)を算出した。結果を表1に示す。
【0091】
(比較例1〜3)
液晶ポリマーを配合しなかった(比較例1)、260℃で混練した(比較例2)、液晶ポリマーとして結晶融解温度280℃の液晶ポリマーBを用いた(比較例3)以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂組成物サンプルを作成した。
【0092】
比較例1は、ステレオコンプレックス結晶含有率が28.0%であり、実施例と比べて少ないものであった。なお、比較例2では溶融混練中に分解ガスが発生し、安定したポリ乳酸樹脂組成物を得ることができず、また、比較例3では、混練開始時にスクリューの攪拌トルクが上限値を示し、最後まで混練することができなかった。
【0093】
以上、ポリL−乳酸およびポリD−乳酸に液晶ポリマーを配合することにより、分子量が高いポリL−乳酸とポリD−乳酸を用いた場合でも、簡単な溶融混練プロセスにてこれらのステレオコンプレックス結晶を含むポリ乳酸樹脂組成物が得られることが理解される。
【0094】
表1
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−乳酸単位から構成されるポリL−乳酸、D−乳酸単位から構成されるポリD−乳酸、および液晶ポリマーを含有する、ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
ポリL−乳酸およびポリD−乳酸の合計量100重量部に対して、液晶ポリマー5〜100重量部を含有する、請求項1記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
ポリL−乳酸/ポリD−乳酸の重量比が、30/70〜70/30である、請求項1または2に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
ポリL−乳酸およびポリD−乳酸の重量平均分子量が、いずれも40,000〜300,000である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
さらに相溶化剤を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項6】
相溶化剤の含有量が、ポリL−乳酸およびポリD−乳酸の合計量100重量部に対して0.5〜10重量部である、請求項5に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項7】
相溶化剤が、カルボジイミド化合物および多官能エポキシ化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項5または6に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項8】
液晶ポリマーが、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度が170〜250℃であるものである、請求項1〜7いずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項9】
液晶ポリマーが、本質的に、以下の式[I]〜[IV]で示される繰返し単位により構成される液晶ポリエステルである、請求項1記載のポリ乳酸樹脂組成物:

【化1】

【化2】

【化3】

【化4】


[ArおよびArは、それぞれ一種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、各繰返し単位の液晶ポリエステル中での組成比(モル%)であり、以下の式を満たすものである:
0.4≦p/q≦2.0
2モル%≦r≦15モル%、および、
2モル%≦s≦15モル%]。
【請求項10】
式[I]〜[IV]で表される繰返し単位の組成比が以下の式を満たすものである、請求項9記載のポリ乳酸樹脂組成物:
35モル%≦p≦48モル%、
35モル%≦q≦48モル%、
2モル%≦r≦15モル%、および
2モル%≦s≦15モル%。
【請求項11】
Arが、
【化5】

および/または
【化6】

であり、
Ar2が、
【化7】

および/または
【化8】

である、請求項9または10記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項12】
ポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶を含有する、請求項1〜11のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項13】
ステレオコンプレックス結晶の含有率が、ポリ乳酸樹脂組成物の全重量に対して30〜100重量%である、請求項12に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物を溶融加工して得られる成形品、フィルムおよび繊維からなる群から選択される製品。
【請求項15】
L−乳酸単位から構成されるポリL−乳酸、D−乳酸単位から構成されるポリD−乳酸、およびポリL−乳酸およびポリD−乳酸の合計量100重量部に対して5〜100重量部の液晶ポリマーを配合し、170〜250℃の温度下で溶融混練することを含む、ポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶を含有するポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
【請求項16】
さらに相溶化剤を配合することを含む、請求項15に記載のポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
【請求項17】
さらに結晶核剤を配合することを含む、請求項15または16に記載のポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
【請求項18】
溶融混練した後に得られたポリ乳酸樹脂組成物を、さらに固相状態で70〜220℃で加熱することを含む、請求項15〜17のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−180374(P2010−180374A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27213(P2009−27213)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】