説明

ポリ乳酸樹脂組成物およびその製造方法

【課題】ポリ乳酸樹脂の欠点であった耐熱性が大幅に向上され、かつ簡易なプロセスで製造し得るポリ乳酸樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】ポリ乳酸ブロック共重合体、およびポリ乳酸ブロック共重合体100重量部に対して1〜60重量部の液晶ポリマーを含む、ポリ乳酸樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂と液晶ポリマーとを含むポリ乳酸樹脂組成物に関する。具体的には本発明は、ポリ乳酸ブロック共重合体に液晶ポリマーが均一に分散した、貯蔵弾性率が高く、耐熱性及び機械特性に優れたポリ乳酸樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のポリマーの殆どは石油資源を原料としているが、石油資源が将来的に枯渇するおそれがあること、また石油資源を大量消費することにより、地質時代より地中に蓄えられていた二酸化炭素が大気中に放出され、さらに地球温暖化が深刻化することが懸念されている。このような地球環境保護の見地から、自然環境下で分解される生分解性ポリマーが注目され、各種環境対応型製品への適用が検討されている。
【0003】
中でも、最近では温暖化防止の観点から、バイオマスよりなるポリマーが注目されている。バイオマスよりなるポリマーは、もともと植物が光合成により二酸化炭素を同化して作り上げたバイオマスを原料としてなるため、その生産が自然の物質循環サイクルに適合しているだけでなく、使用後に焼却処理をしても大気中の二酸化炭素の濃度を上昇させることにはならない。
【0004】
このようなバイオマスよりなるポリマーとして、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンスクシネート、ポリ乳酸などが知られている。これらの中で、ポリ乳酸は、原料である乳酸あるいはラクチドが天然植物から比較的効率よく製造することが可能であるため、単なる生分解性ポリマーとしてだけではなく、その強靭性や高い透明性を生かして汎用性ポリマーとしての幅広い利用が計られている。
【0005】
しかし、ポリ乳酸樹脂の融点はおよそ170℃であり、汎用ポリマーとして用いるには、十分であるとは言い難く、機械特性や耐熱性の向上が求められている。
【0006】
このため、ポリ乳酸樹脂と汎用の樹脂材料をブレンドし、上記欠点を補う検討が行われている。特許文献1では石油資源由来のポリエステルとポリ乳酸樹脂とのポリマーアロイについて開示されているが、ポリ乳酸樹脂含有量は少量であり環境低負荷性の観点において十分とは言えない。また特許文献2〜4において、ポリ乳酸樹脂にポリブチレンテレフタレートやポリアミドなどを分散し、機械特性、耐熱性を改良した樹脂組成物について開示されているが、機械特性、耐熱性は十分とは言えない。
【0007】
さらに特許文献5において、ポリ乳酸樹脂と結晶性の芳香族ポリエステルをブレンドして、芳香族ポリエステルが連続相、ポリ乳酸樹脂が分散相となる相構造の熱可塑性樹脂組成物が開示されている。しかし、この様な特殊な相構造を形成させるためには、ポリ乳酸樹脂と芳香族ポリエステルとのブレンドにおいて、両者の粘度比を特定の範囲に調整する必要があったり、溶融混練を行う際に特殊な構成のスクリューが必要になるなど、製造工程が煩雑となり、またポリ乳酸樹脂の含有量や耐熱性においても十分満足できるものではない。
【0008】
このようなポリ乳酸樹脂の性能を改良するために、本発明者の一人は、ポリ乳酸樹脂中に液晶ポリマーを均一に分散させることにより、機械特性および耐熱性に優れたポリ乳酸樹脂組成物を開発し提案した(特願2009−27211)。ポリ乳酸樹脂中に液晶ポリマーを分散させることによって、ポリ乳酸樹脂の欠点である耐熱性を大幅に向上させることに成功した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−200593号公報
【特許文献2】特開2005−42045号公報
【特許文献3】特開2003−238775号公報
【特許文献4】特開2004−51835号公報
【特許文献5】特開2007−224290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ポリ乳酸樹脂の欠点であった耐熱性が大幅に向上され、かつ簡易なプロセスで製造し得るポリ乳酸樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、ポリ乳酸樹脂の性能向上について鋭意検討した結果、ポリ乳酸樹脂としてポリ乳酸ブロック共重合体を用い、これに所定量の液晶ポリマーを配合して得られるポリ乳酸樹脂組成物は、特殊な相構造を形成することなく、高い貯蔵弾性率を維持し耐熱性が著しく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、ポリ乳酸ブロック共重合体、およびポリ乳酸ブロック共重合体100重量部に対して1〜60重量部の液晶ポリマーを含む、ポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【0013】
また、本発明は、ポリ乳酸ブロック共重合体100重量部に対し、液晶ポリマー1〜60重量部を配合し、170〜250℃の温度下で溶融混練することにより、ポリ乳酸ブロック共重合体を連続相とし、液晶ポリマーが分散相となる相構造を形成するポリ乳酸樹脂組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂の欠点であった耐熱性が大幅に向上しており、かつ簡単なプロセスで製造することができる。また、本発明によるポリ乳酸樹脂組成物は、均一な相構造を示すため、強度などの物性においても均一性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施例1のサンプルの電子顕微鏡による観察写真を示す。
【図2】図2は、実施例1のサンプルの動的粘弾性の測定結果を示す。
【図3】図3は、実施例2のサンプルの動的粘弾性の測定結果を示す。
【図4】図4は、実施例3のサンプルの動的粘弾性の測定結果を示す。
【図5】図5は、実施例4のサンプルの動的粘弾性の測定結果を示す。
【図6】図6は、実施例5のサンプルの動的粘弾性の測定結果を示す。
【図7】図7は、実施例6のサンプルの動的粘弾性の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、ポリ乳酸ブロック共重合体とは、L−乳酸単位からなるセグメント(ポリL−乳酸セグメント)とD−乳酸単位からなるセグメント(ポリD−乳酸セグメント)により構成されるポリ乳酸のブロック共重合体である。
【0017】
ここで、「L−乳酸単位からなるセグメント(ポリL−乳酸セグメント)」とは、L−乳酸単位を主として含む重合体である。また、「D−乳酸単位からなるセグメント(ポリD−乳酸セグメント)」とは、D−乳酸単位を主として含む重合体である。
【0018】
ポリL−乳酸セグメントは、90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、より好ましくは98〜100モル%のL−乳酸単位から構成される。ポリL−乳酸セグメントが含んでいてもよい他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。
【0019】
ポリL−乳酸セグメント中、D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位の含有量は、ポリL−乳酸セグメントを構成する単位、即ち、L−乳酸単位、D−乳酸単位および乳酸以外の共重合成分単位の合計量に対して、0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%、より好ましくは0〜2モル%である。
【0020】
ポリD−乳酸セグメントは、90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、より好ましくは98〜100モル%のD−乳酸単位から構成される。ポリD−乳酸セグメントが含んでいてもよい他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。
【0021】
ポリD−乳酸セグメント中、L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位の含有量は、ポリD−乳酸セグメントを構成する単位、即ち、D−乳酸単位、L−乳酸単位および乳酸以外の共重合成分単位の合計量に対して、0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%、より好ましくは0〜2モル%である。
【0022】
ポリL−乳酸セグメントおよびポリD−乳酸セグメントは、それぞれ、L−乳酸単位およびD−乳酸単位が90%を下回ると、ポリL−乳酸セグメントとポリD−乳酸セグメントとのらせん構造が崩れ、結晶化度が低下するため耐熱性、機械的強度に優れるポリ乳酸樹脂組成物が得られない場合がある。
【0023】
本発明で使用するポリ乳酸ブロック共重合体は、上述したポリL−乳酸セグメントとポリD−乳酸セグメントのブロック共重合体であり、例えば、特開2002−356543号公報に記載されるように、ポリL−乳酸とポリD−乳酸とを等量混合し、ポリL−乳酸とポリD−乳酸とを反応させ共有結合させることにより得ることができる。
【0024】
あるいは、例えば、国際公開WO2008/081617号に記載されているように、ポリL−乳酸(L成分)の存在下でD−ラクチド(D成分)の開環重合を行うか、または、ポリD−乳酸(D成分)の存在下でL−ラクチド(L成分)の開環重合を行うことによって得ることができる。
【0025】
本発明において、ポリL−乳酸セグメントおよびポリD−乳酸セグメントが含んでいてもよい乳酸以外の他の共重合成分としては、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、およびカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。
【0026】
本発明において用いるポリ乳酸ブロック共重合体における、ポリL−乳酸単位とポリD−乳酸単位の重量比は特に限定されず、ポリL−乳酸単位とポリD−乳酸単位の等量共重合体(重量比50/50)であってもよく、また、ポリL−乳酸単位とポリD−乳酸単位のいずれかの成分に偏った偏組成ブロック共重合体であってもよい。
【0027】
本発明においては、偏組成ブロック共重合体であるポリ乳酸ブロック共重合体を用いるのが好ましく、この場合、L−乳酸単位とD−乳酸単位との重量比がL−乳酸単位/D−乳酸単位=60/40〜91/9であるか、または、D−乳酸単位とL−乳酸単位との重量比がD−乳酸単位/L−乳酸単位=60/40〜91/9であるのがよい。
【0028】
ポリ乳酸ブロック共重合体の重量平均分子量としては、通常10,000万以上、好ましくは40,000〜500,000、より好ましくは80,000〜500,000であるのがよい。ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の分子量をいう。
【0029】
ポリ乳酸ブロック共重合体の融点については、特に制限されるものではないが、示差走査熱量測定において、20〜240℃の昇温過程と240〜20℃の急冷過程とからなるプログラムを2回繰り返して、昇温過程で観測される結晶融点が190〜240℃であるものが好ましい。
【0030】
本発明において、ポリ乳酸ブロック共重合体に配合される液晶ポリマーは、異方性溶融相を形成するポリエステルまたはポリエステルアミドであり、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステルまたはサーモトロピック液晶ポリエステルアミドと呼ばれるものであれば特に制限されない。
【0031】
異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわちホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0032】
本発明に用いる液晶ポリマーを構成する主たる繰返し単位は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位から選択される1種以上とする。
【0033】
これらの各繰返し単位から構成される液晶ポリマーは構成成分およびポリマー中の組成比、シークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用される液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0034】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、オルトヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では、パラヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が得られる液晶ポリマーの特性や結晶融解温度を調整しやすいという点から好ましい。
【0035】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、融点温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0036】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエーテル等の芳香族ジオール、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では、ハイドロキノンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニルが重合時の反応性や得られる液晶ポリマーの特性などの点から好ましい。
【0037】
芳香族アミノオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、p−アミノフェノール、m−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、5−アミノ−1−ナフトール、8−アミノ−2−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステルまたはアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0038】
芳香族ジアミノ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン等の芳香族ジアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0039】
芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、p−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸等の芳香族アミノカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステルまたはアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0040】
芳香族オキシジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジカルボン酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、および5−ヒドロキシイソフタル酸等のヒドロキシ芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0041】
脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレートなどの脂肪族ジオキシ繰返し単位を含有するポリエステルを、前記の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族オキシジカルボン酸およびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などと反応させることによっても、脂肪族ジオキシ繰返し単位を含む液晶ポリマーを得ることができる。
【0042】
また、本発明に用いる液晶ポリマーは、本発明の目的を損なわない範囲で、上記の主たる繰返し単位以外の繰返し単位を構成成分として含んでいてもよく、例えば、チオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの主たる繰返し単位を与える単量体以外の単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰り返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の合計量に対して10モル%以下とする。
【0043】
以上、本発明において用いる液晶ポリマーに含まれる繰返し単位とそれを与える単量体について説明したが、本発明において用いる液晶ポリマーとしては、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度が170〜250℃、好ましくは180〜230℃であるものが好適である。結晶融解温度が170〜250℃の範囲にある液晶ポリマーを用いれば、ポリ乳酸ブロック共重合体の分解を抑制しつつ液晶ポリマーをブレンドでき、ポリ乳酸ブロック共重合体の連続相中に液晶ポリマーが均一に分散したポリ乳酸樹脂組成物が得られる。
【0044】
液晶ポリマーの結晶融解温度が250℃を上回る場合、ポリ乳酸ブロック共重合体の分解が顕著となり、十分な性能が得られなくなる傾向がある。
【0045】
170〜250℃の結晶融解温度の範囲を満たす液晶ポリマーとして、本質的に、以下の式[I]〜[IV]で示される繰返し単位により構成される液晶ポリエステルが特に好適に使用される。
【0046】
本明細書および特許請求の範囲において、「本質的に以下の式[I]〜[IV]で示される繰返し単位により構成され」とは、液晶ポリマーがその構成成分として式[I]〜[IV]で示される繰返し単位の他に、液晶ポリマーの結晶融解温度が170〜250℃の範囲となる限り他の繰返し単位を含有していてもよいことを意味する。
【0047】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「2価の芳香族基」とは、エステル結合またはアミド結合を形成することができる置換基を2つ有する芳香族基を意味する。
【0048】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

[式中、ArおよびArは、それぞれ一種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、各繰返し単位の液晶ポリエステル中での組成比(モル%)であり、以下の式を満たすものである:
0.4≦p/q≦2.0
2モル%≦r≦15モル%、
2モル%≦s≦15モル%、および、
p+q+r+s=100モル%]。
【0049】
p、q、r、sの好ましい範囲としては以下の式を満たすものである。
35モル%≦p≦48モル%、
35モル%≦q≦48モル%、
2モル%≦r≦15モル%、および、
2モル%≦s≦15モル%。
【0050】
また、式[III]および式[IV]において、ArおよびAr2の好ましいものは、
Arが、
【化5】

および/または
【化6】

であり、Ar2が、
【化7】

および/または
【化8】

であるものである。
【0051】
本発明における液晶ポリマーは、成形時の流動性を改良するなどの目的で、2種以上の液晶ポリマーをブレンドしたものを用いてもよい。
【0052】
以下、本発明において用いる液晶ポリマーの製造方法について説明する。
本発明において用いる液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組み合わせからなるエステル結合またはアミド結合を形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0053】
溶融アシドリシス法とは、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、反応を継続することにより溶融ポリマーを得る方法であり、本発明で用いる液晶ポリマーの製造方法として好ましい方法である。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水等)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0054】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0055】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、液晶ポリマーを製造する際に使用する重合性単量体成分は、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2〜5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0056】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0057】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;三酸化アンチモン;二酸化チタン;アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);無機酸塩類(たとえば硫酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素);ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0058】
触媒の使用割合は、通常モノマー重量に対して10〜1000ppm、好ましくは20〜200ppmである。
【0059】
このような重縮合反応によって得られた液晶ポリマーは、それぞれ溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0060】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物における、ポリ乳酸ブロック共重合体と液晶ポリマーの配合比は、ポリ乳酸ブロック共重合体100重量部に対し、液晶ポリマー1〜60重量部、好ましくは、5〜50重量部であり、より好ましくは10〜45重量部である。
【0061】
なお、ポリ乳酸ブロック共重合体および液晶ポリマーは、それらの性質を損なわない範囲で、それぞれポリ乳酸ブロック共重合体および液晶ポリマー以外のポリマーや粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加物を添加したものを配合に供してもよい。これらの添加物のポリ乳酸ブロック共重合体および液晶ポリマーに対する配合量は、ポリ乳酸ブロック共重合体および液晶ポリマー100重量部に対して、それぞれ0.1〜20重量部までとする。
【0062】
ポリ乳酸ブロック共重合体100重量部に対する液晶ポリマーの配合量が1重量部を下回ると、得られるポリ乳酸樹脂組成物の耐熱性向上効果が十分に望めない。液晶ポリマーの配合量が60重量部を上回ると、バイオマスの利用量が低下し、大気中の二酸化炭素濃度上昇抑制に貢献するポリマーを提供するという本発明の趣旨から逸脱することとなる。
【0063】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂として上述したポリ乳酸ブロック共重合体を用いることにより、少量の液晶ポリマーの配合によってポリ乳酸ブロック共重合体に液晶ポリマーを配向し得、10〜1011Paと高い貯蔵弾性率を維持し、耐熱性が著しく向上した組成物となる。
【0064】
また、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、貯蔵弾性率E’と損失弾性率E”との比で表されるtanδ(E”/E’)が0.4以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下と、低い値を示すものである。
【0065】
本発明において、貯蔵弾性率および損失弾性率は、引張動的粘弾性の測定により得られる値であり、厚み0.1mm、幅2mmの試験片を測定サンプルとし、セイコーインスツルメンツ社製動的粘弾性測定装置DMS6100により測定される値を意味する。
【0066】
本発明において、ポリ乳酸ブロック共重合体と液晶ポリマーの相溶性を向上させる目的で、ポリ乳酸ブロック共重合体100重量部に対して、10重量部まで、好ましくは5重量部までの相溶化剤を配合してもよい。
【0067】
相溶化剤の配合量が10重量部を上回ると、得られるポリ乳酸樹脂組成物の溶融粘度が著しく増加し流動性が低下する傾向がある。
【0068】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、相溶化剤とは、ブレンドポリマーを構成する各ポリマーの相の界面に局在し、それらの相間の界面張力を低下させる機能を有するものをいう。
【0069】
相溶化剤の好ましい例としては、カルボキシル基反応性化合物、カルボキシル基、エポキシ基もしくは酸無水物基などを有するポリマーなどを挙げることができる。
【0070】
本発明において、相溶化剤として使用されるカルボキシル基反応性化合物としては、ポリ乳酸酸ブロック共重合体のカルボキシル末端基と反応性のある化合物であれば特に限定されるものではないが、ポリ乳酸ブロック共重合体の熱分解や加水分解などで生成する酸性低分子化合物のカルボキシル基とも反応性を有するものであればより好ましく、熱分解により生成する酸性低分子化合物のヒドロキシル基末端基とも反応性を有する化合物であることがより好ましい。
【0071】
このようなカルボキシル基反応性化合物としては、ビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、ビスフェノールS、トリヒドロキシ−ジフェニルジメチルメタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,5−ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2,2,5,5−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン等のビスフェノール−グリシジルエーテル系エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系エポキシ化合物、N−グリシジルアニリン等のグリシジルアミン系エポキシ化合物、グリシジルイミド化合物、脂環式エポキシ化合物、グリセリン、ソルビトール等のポリグリシジルエーテルなどの2つ以上のエポキシ基を含有する多官能エポキシ化合物、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)などのオキサゾリン化合物、オキサジン化合物、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ポリカルボジイミド等のカルボジイミド化合物、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシランなどの有機シラン化合物などから選ばれる少なくとも一種の化合物を使用することが好ましく、なかでも多官能エポキシ化合物、エポキシ基、イソシアネート基を有する有機シラン化合物、カルボジイミド化合物が好ましく、特に好ましくは多官能エポキシ化合物、カルボジイミド化合物である。上記カルボキシル基反応性化合物は、一種または二種以上の化合物を任意に選択して使用することができる。
【0072】
また、予めこれらの相溶化剤として使用されるカルボキシル基反応性化合物を、ポリ乳酸ブロック共重合体および/または液晶ポリマーに存在するカルボキシル基またはヒドロキシ基と反応させた形態で配合に供してもよい。
【0073】
本発明において相溶化剤として使用される、カルボキシル基、エポキシ基もしくは酸無水物基などを有するポリマーとしては、エチレン/(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エチル−g−無水マレイン酸共重合体、(「g」はグラフトを表わす、以下同じ)、エチレン/(メタ)アクリル酸グリシジル−g−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エチル/無水マレイン酸共重合体−g−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、二重結合を有する高分子の二重結合部をエポキシ化したエポキシ基含有高分子化合物、ノボラック型フェノール樹脂にエピクロルヒドリンを反応させたノボラック型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0074】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、上記で説明した、ポリ乳酸ブロック共重合体100重量部に対し、液晶ポリマー1〜60重量部、および所望により、相溶化剤10重量部までを配合し、170〜250℃の温度下で溶融混練することにより製造される。
【0075】
溶融混練温度が170℃を下回ると、混練時に攪拌モーターへの負荷が大きくなり混練機を破損してしまうおそれがあり、また、たとえ混練が可能であったとしても液晶ポリマー相の分散が不均一となる傾向がある。一方、溶融混練温度が250℃を超えると、ポリ乳酸ブロック共重合体の分解が顕著となり、十分な性能が得られなくなる傾向がある。
【0076】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物の製造に際しては、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などの混練機が使用される。例えば、二軸押出し機を用いた場合などは、非エネルギー(吐出量あたりの押出機仕事量(kW・h/kg))0.1〜0.25で、ベントポートを真空にしながら行うのがよいが、これに限らず、不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0077】
このようにして製造された本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造において、ポリ乳酸ブロック共重合体が連続相、液晶ポリマーが分散相となる相構造を形成する。しかも、ポリ乳酸ブロック共重合体に液晶ポリマーが均一に分散しているため、耐熱性に優れるものである。
【0078】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、必要により、無機充填材および/または有機充填材を配合してもよい。
【0079】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物に配合してもよい、無機充填材および/または有機充填材としては、たとえばガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらの中では、ガラス繊維が物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。
【0080】
無機充填材および/または有機充填材の配合量は、ポリ乳酸ブロック共重合体および液晶ポリマーの合計量100重量部に対して、0.1〜200重量部、好ましくは1〜100重量であるのがよい。
【0081】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、ポリ乳酸ブロック共重合体および液晶ポリマー以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他の樹脂成分を配合してもよい。他の樹脂成分としては、たとえばポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、およびその変性物、ならびにポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0082】
他の樹脂成分は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて配合することができる。他の樹脂成分の配合量は、ポリ乳酸ブロック共重合体および液晶ポリマーの合計量100重量部に対して0.1〜100重量部、好ましくは0.1〜80重量部となる範囲で配合するのが良い。
【0083】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂として結晶化の進行したポリ乳酸ブロック共重合体を用いているため、結晶核剤の添加は特に必要ないが、ポリ乳酸ブロック共重合体の結晶化をより促進するために結晶核剤を添加してもよい。
【0084】
本発明で使用することのできる結晶核剤としては、一般にポリマーの結晶核剤として用いられるものを特に制限なく用いることができ、無機系結晶核剤および有機系結晶核剤のいずれも使用することができる。無機系結晶核剤の具体例としては、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト、合成マイカ、クレー、ゼオライト、シリカ、グラファイト、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、硫化カルシウム、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウムおよびフェニルホスホネートの金属塩などを挙げることができる。これらの無機系結晶核剤は、組成物中での分散性を高めるために、有機物で修飾されていることが好ましい。無機系結晶核剤の平均粒径は10μm以下が好ましく、5μm以下がさらに好ましく、3μm以下が特に好ましい。有機系結晶核剤の具体例としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、シュウ酸カルシウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、オクタコサン酸ナトリウム、オクタコサン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、カリウムジベンゾエート、リチウムジベンゾエート、ナトリウムβ−ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレートなどの有機カルボン酸金属塩、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウムなどの有機スルホン酸塩、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)、テレフタル酸ジアニリドなどの有機カルボン酸アミド、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリビニルシクロアルカン、ポリビニルトリアルキルシラン、高融点ポリ乳酸などのポリマー、エチレン−アクリル酸またはメタクリル酸コポリマーのナトリウム塩、スチレン−無水マレイン酸コポリマーのナトリウム塩などのカルボキシル基を有する重合体のナトリウム塩またはカリウム塩(いわゆるアイオノマー)、ベンジリデンソルビトールおよびその誘導体、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェートなどのリン化合物金属塩、および2,2−メチルビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウムなどを挙げることができる。
【0085】
本発明で使用する結晶核剤としては、上記に例示したもののなかでも、特にタルク、有機カルボン酸金属塩および有機カルボン酸アミドから選択された少なくとも1種が好ましい。好ましいタルクとしては、平均粒径0.5〜7μmであり、かつ燃焼時の損失分を除いた成分中のSiOとMgOの割合が93重量%以上であるタルクを挙げることができる。結晶核剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0086】
結晶核剤の配合量は、ポリ乳酸ブロック共重合体100重量部に対して、0.01〜30重量部が好ましく、0.05〜20重量部がより好ましく、0.1〜15重量部が特に好ましい。
【0087】
以上説明した、無機充填材および/または有機充填材、他の樹脂成分および結晶核剤は、必要により、ポリ乳酸ブロック共重合体、液晶ポリマー、および所望により相溶化剤と共に、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて溶融混練することによって、ポリ乳酸樹脂組成物に配合してもよいし、ポリ乳酸ブロック共重合体、液晶ポリマー、および所望により相溶化剤を配合して得られたポリ乳酸樹脂組成物を成形加工する際に配合してもよい。
【0088】
また、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂として結晶化が十分に進行したポリ乳酸ブロック共重合体を用いているため、液晶ポリマーとの混練後に結晶化促進のための加熱処理を行う必要がない。したがって、成形に際しては、必ずしも予め混練機で混練したものを用いる必要はなく、混練機能を有する混練押出成形機に、ポリ乳酸ブロック共重合体と液晶ポリマー等を供給し、混練すると共に成形に供することが可能である。
【0089】
なお、用途によっては、結晶化促進の目的で混練後さらに加熱処理を施してもよく、加熱処理を施す場合は、固相状態で減圧下または不活性ガス雰囲気下で、80〜210℃の温度下で3〜60分行うのがよい。
【0090】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、射出成形機、押出機などを用いる公知の成形方法によって溶融加工され、成形品、フィルムおよび繊維などの製品とされる。本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、機械的特性、耐熱性が優れることから機械部品、電気・電子部品、建築・土木部材、家庭・事務用品、家具用部品および日用品など各種用途に利用することができる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例において、ポリ乳酸ブロック共重合体、液晶ポリマー、および相溶化剤は、以下のものを使用した。
・ポリ乳酸ブロック共重合体:WO2008/081617号公報の実施例2に記載の方法に準じて作成した、ポリL−乳酸単位(L成分)/ポリD−乳酸単位(D成分)の組成比が80/20である偏組成ポリ乳酸ブロック共重合体(数平均分子量140,000、重量平均分子量200,000、結晶融解温度199.4℃)。
・液晶ポリマー:上野製薬株式会社製芳香族液晶ポリエステル(パラヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/ハイドロキノン/テレフタル酸共重合体、結晶融解温度220℃)。
・相溶化剤:日清紡績株式会社製ポリカルボジイミド、カルボジライトHMV−8CA。
【0092】
(樹脂相分離構造の観察)
溶融混練により得られたポリ乳酸樹脂組成物サンプルを液体窒素で冷却し、切断した後で白金蒸着したサンプルを日立製作所社製電子顕微鏡Hitachi S−3400Nを用いて倍率200倍で切断面観察した。
【0093】
(結晶融解温度の測定)
サンプル4mgを専用アルミニウムパンに入れ、PerkinElmer社製のイントラクーラー付き示差走査熱量計DiamondDSCを用いて、窒素ガス雰囲気下、昇温速度20℃/分、温度範囲20℃〜240℃(1stスキャン)の条件で測定した後、サンプルをイントラクーラーで急冷し、再び同条件で20℃〜240℃(2ndスキャン)で測定した。2ndスキャンにて150℃以上に観察される吸熱ピークのピークトップ温度を結晶融解温度とした。
【0094】
(耐熱性の測定)
溶融混練射出成形により得られたポリ乳酸樹脂組成物サンプルを、100℃で6時間減圧乾燥し、230℃でプレスした後に急冷し、厚み0.1mmのフィルムを作成した。このようにして作成したポリ乳酸樹脂組成物フィルムを2mmの幅に切り出し測定サンプルとした。セイコーインスツルメンツ社製動的粘弾性測定装置DMS6100を用いて、このサンプルの引張動的貯蔵弾性率を昇温速度3℃/分の下で測定し評価した。測定に際し、周波数1Hz、チャック間距離20mmとした。
【0095】
(実施例1)
ポリ乳酸ブロック共重合体1.20g、液晶ポリマー0.30gを混合し、100℃で6時間減圧乾燥した。この乾燥混合物を井本製作所製微量混錬射出成形機(IMC−18E9型)を使用し、シリンダー温度230℃で、直径15mmのノズルを使用しスクリュー回転速度100rpmで混練しながら押し出し、ポリ乳酸樹脂組成物サンプルを作成した。
【0096】
このポリ乳酸樹脂組成物サンプルの相分離構造の観察を行ったところ、ポリ乳酸ブロック共重合体が連続相、フィブリル状態の液晶ポリマーが分散相である相分離構造が確認された。実施例1のサンプルの電子顕微鏡による観察写真を図1に示す。また、動的粘弾性測定により耐熱性を評価した。結果を図2および表1に示す。
【0097】
ポリ乳酸ブロック共重合体単独の場合、50℃〜90℃付近でその貯蔵弾性率が著しく低下し、その後200℃付近までに貯蔵弾性率E’はlogE’=7.3まで低下する(初期に比べ100分の1程度)のに対して、ポリ乳酸ブロック共重合体および液晶ポリマーを配合した本実施例は、同温度域において貯蔵弾性率の低下は著しく抑制され、200℃でもlogE’=8.3であり、耐熱性が改善されたものであった。
【0098】
また、貯蔵弾性率E’と損失弾性率E”との比で表されるtanδ(E”/E’)の値は、ポリ乳酸ブロック共重合体単独の場合、60℃〜70℃付近を極大として上昇するのに対し、本実施例は0.2以下の値を維持した。
【0099】
(実施例2)
ポリ乳酸ブロック共重合体および液晶ポリマーに加えて、さらに相溶化剤0.015gを使用すること以外は、実施例1と同様にして、ポリ乳酸樹脂組成物を得た。このポリ乳酸樹脂組成物サンプルを観察した結果、実施例1と比較して、より結晶化度が高いものであった。このポリ乳酸樹脂組成物サンプルの動的粘弾性測定により耐熱性を評価した。結果を図3および表1に示す。
【0100】
(実施例3〜6)
ポリ乳酸ブロック共重合体、液晶ポリマーおよび相溶化剤の添加量を表1のとおりとした以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂組成物サンプルを作成し、相分離構造の観察、耐熱性の評価を行った。結果を図4〜図7および表1に示す。
【0101】
(比較例1)
液晶ポリマーおよび相溶化剤を配合せず、ポリ乳酸ブロック共重合体のみを用いて実施例1と同様にして、ポリ乳酸樹脂組成物サンプルを作成した。比較例1のサンプルの動的粘弾性の測定結果は、図2〜図7において比較例として破線で示したとおりである。
【0102】
ポリ乳酸ブロック共重合体のみからなる比較例1のサンプルは、動的貯蔵弾性率の測定においては50℃付近から90℃付近にかけて貯蔵弾性率が急激に低下し、耐熱性が非常に低いものであった。
【0103】
(引張強度および引張弾性率の測定)
実施例1および比較例1で得られたサンプルについて、厚さ1mm、幅2mmの試験片を作成し、オリエンテック株式会社製STA−1150装置を用いて、室温で標線間距離20mm、クロスヘッド速度50mm/分の条件で測定した。4回の測定の平均値により、引張強度および引張弾性率の測定値とした。結果を表1に示す。
【0104】
なお、表1において、ポリ乳酸ブロック共重合体を単に「ポリ乳酸」として示す。
【表1−1】

【表1−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸ブロック共重合体、およびポリ乳酸ブロック共重合体100重量部に対して1〜60重量部の液晶ポリマーを含む、ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸ブロック共重合体が、L−乳酸単位とD−乳酸単位との重量比がL−乳酸単位/D−乳酸単位=60/40〜91/9であるか、または、D−乳酸単位とL−乳酸単位との重量比がD−乳酸単位/L−乳酸単位=60/40〜91/9である、請求項1記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
ポリ乳酸ブロック共重合体の重量平均分子量が40,000〜500,000である、請求項1または2記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
液晶ポリマーが、示差走査熱量計により測定された結晶融解温度が170〜250℃であるものである、請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
液晶ポリマーが、本質的に、以下の式[I]〜[IV]で示される繰返し単位により構成される液晶ポリエステルである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

[式中、ArおよびArは、それぞれ一種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは各繰返し単位の液晶ポリエステル中での組成比(モル%)であり、以下の式を満たすものである:
0.4≦p/q≦2.0
2モル%≦r≦15モル%、
2モル%≦s≦15モル%、および、
p+q+r+s=100モル%]。
【請求項6】
式[I]〜[IV]で表される繰返し単位の組成比が以下の式を満たすものである、請求項5記載のポリ乳酸樹脂組成物:
35モル%≦p≦48モル%、
35モル%≦q≦48モル%、
2モル%≦r≦15モル%、および、
2モル%≦s≦15モル%。
【請求項7】
Arが、
【化5】

および/または
【化6】

であり、
Ar2が、
【化7】

および/または
【化8】

である、請求項5または6記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、ポリ乳酸ブロック共重合体100重量部に対して10重量部までの相溶化剤を含む、請求項1〜7のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項9】
相溶化剤が、カルボジイミド化合物、および多官能エポキシ化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項8記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項10】
電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造において、ポリ乳酸ブロック共重合体が連続相、液晶ポリマーが分散相となる相構造を形成する、請求項1〜9のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項11】
貯蔵弾性率が、10〜1011Paである、請求項1〜10いずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物を溶融加工して得られる成形品、フィルムおよび繊維からなる群から選択される製品。
【請求項13】
ポリ乳酸ブロック共重合体100重量部に対し、液晶ポリマー1〜60重量部を配合し、170〜250℃の温度下で溶融混練することにより、ポリ乳酸ブロック共重合体を連続相とし、液晶ポリマーが分散相となる相構造を形成するポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
さらに、ポリ乳酸ブロック共重合体100重量部に対して10重量部までの相溶化剤を配合する、請求項13記載のポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−162674(P2011−162674A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27478(P2010−27478)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】