説明

ポリ乳酸樹脂組成物

【課題】柔軟性や強度において実用レベルを充足できる袋状フィルムを形成できるとともに、嫌気性雰囲気下において十分に可溶化できるポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸に対して、ポリ乳酸の可塑剤(例えば、脂肪族ジカルボン酸エステルなどのエステル系可塑剤)及び/又は軟質樹脂[例えば、ポリアルキレンアルカノエート(例えば、ポリアルキレンサクシネート)、ポリ(アルキレンアルカノエート/アリレート)など]と、増粘作用を有するポリマーとを組み合わせた樹脂組成物を用いる。増粘作用を有するポリマーは、代表的には、ヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基に対する反応性基(特に、エポキシ基など)を有するポリマーであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム成形(特に、インフレーション成形により袋状にフィルム成形)可能なポリ乳酸樹脂組成物、この樹脂組成物で形成されたフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生分解性フィルムの製造に使用される生分解性樹脂としては、微生物産系のポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、芳香族変性脂肪族ポリエステル樹脂であるポリプチレンアジペートテレフタレート(PBAT)などの脂肪族ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)などが知られている。これらのうち、PHB、PLA、PVAなどは硬質系の樹脂であり、これらの中でもPLAは、耐熱性などの特性に優れ、コスト的にも利用価値が高い。しかし、このような硬質系樹脂は、単独では実用的な柔軟性と強度とを兼ね備えることができず、特に、ごみ袋や包装袋などの袋状にフィルム成形することが困難である。
【0003】
これに対して、PBS、PBSA、PBATなどは軟質系の樹脂であるため、インフレーション成形やTダイ式フィルム成形しやすい。しかし、PBS,PBSA,PBATなどは生分解性プラスチックではあるものの、石油化学原料から製造されているため、燃焼などによりCOの排出増加につながる。一方、PLAなどは植物由来樹脂であり、仮に燃焼させてもCOの排出増加にはならないので、カーボンニュートラルの観点から実用化が強く求められている。なお、現在、PLAなどの植物由来樹脂25%以上含有しているプラスチックを「バイオマスプラ」の認証が日本バイオプラスチック協会(JBPA)より受けられる。そこで、軟質系樹脂に一部硬質系樹脂をブレンドするなど、軟質系樹脂と硬質系樹脂とを組み合わせる技術が開発されている。
【0004】
例えば、特開平8−245866号公報(特許文献1)には、乳酸を主成分とする共重合体(ポリ乳酸に対して、ポリエチレンアジペートなどの脂肪族ポリエステルをブロック共重合した共重合体など)と、脂肪族ジカルボン酸及び鎖状分子ジオールを主成分とする脂肪族ポリエステル(ポリエチレンアジペートなど)の可塑剤とからなる混合組成物であって、該可塑剤の重量比率が50%未満であることを特徴とするポリ乳酸組成物が開示されている。また、特開平9−111107号公報(特許文献2)には、少なくとも、ポリ乳酸系重合体とガラス転移点Tgが0℃以下である生分解性脂肪族ポリエステル(例えば、1,4−ブタンジオールとコハク酸およびアジピン酸の縮合体など)とからなる生分解性プラスチックフィルムあるいはシートが開示されている。しかし、これらの技術をごみ袋などに適用する場合には、使用に耐えうる柔軟性を付与するため、現実的にはPLAに対して多い割合(例えば、樹脂成分の60%以上)で軟質系樹脂を混合する必要があり、樹脂組成物においてPLAの特性を損なう。また、PBSAやPBAT等の添加量が多いとフィルムの透明性が失われてごみ袋の内容物が外部から見えなくなってしまう。
【0005】
一方、生分解性樹脂フィルムは、生ごみ用袋として生ごみとともにコンポストに入れるなどして、土中や好気性雰囲気で分解し、肥料にすることが期待されているが、生ごみの発生量の多い大都市などでは、中心部に分解させるための用地や畑が少ない。そのため、肥料にするのではなく、生ごみをバイオガスに変換することが望まれており、このようなバイオガスに変換する技術として、生分解性樹脂フィルムを嫌気性雰囲気下で可溶化してメタン発酵させる技術が開発されつつある。
【0006】
しかし、前記特許文献1や前記特許文献2に開示されているような樹脂組成物やフィルム、市販品のごみ袋などは、いずれも、容易には可溶化しない。そのため、このような樹脂組成物やフィルムは現実的には可溶化に供することが困難であり、生ごみ用袋の場合には、生ごみとごみ袋とを分離して可溶化槽に入れる必要があった。
【0007】
そして、このような可溶化についての課題は、PLAにおいても同様であり、メタン発酵においてPLAは容易に可溶化しないことが知られているが、近年になって、ポリ乳酸を可溶化しやすくする技術が開発されつつある。例えば、特開2005−232336号公報(特許文献3)には、ポリ乳酸とメタン発酵後の排水とを混合する工程を含む可溶化方法が、特開2009−154125号公報(特許文献4)には、ポリ乳酸を含む有機物をメタン発酵汚泥の共存下で、嫌気性雰囲気で65.5℃以上の温度条件で加熱する工程を含むポリ乳酸の可溶化方法が、それぞれ開示されている。なお、特許文献4は、本発明者らが開発した技術であり、ポリ乳酸は、可溶化槽の温度が65.5℃以上で、アンモニアなどのアルカリ環境下の嫌気性雰囲気においてPLAが非常に加水分解しやすくなることを開示している。
【0008】
このような状況の下、PLAで形成された袋状フィルムの開発が望まれるが、前記のように、PLAは袋状に成形する上で多くの課題がある。例えば、PLA単独では、メルトフローレートが高く、しかも、溶融粘度が低いため、袋状フィルムを製造する成形法として代表的なインフレーション成形を適用することが困難である。なお、Tダイ式フィルム成形法により薄いシートに成形することは可能であるが、袋状にするためには、2枚のフィルムの三方を融着接合する必要があり、手間と費用がかかる上、シール強度を高くすることも非常に困難である。さらに、PLAは、剛性が高く伸びが少ない材料であるので、袋状に成形しても、魚の骨などの突起物があると、引き裂けたり、水分が漏れたり、シール部から剥離することが予想される。このように、インフレーション成形によるPLAフィルムの実用化には、このような強度の問題を含め、多くの課題があった。
【0009】
なお、PLAのインフレーション成形性を改良する技術として、特開2008−260895号公報(特許文献5)には、ポリ乳酸樹脂を100重量部、ベンジルアルキルジグリコールアジペートを10〜30重量部、及び加水分解防止剤(カルボジイミドなど)を1〜5重量部含み、温度180℃、せん断速度10s−1における溶融粘度が1×10〜10×10Pa・sであるポリ乳酸樹脂組成物を含むフィルムが開示されている。この文献には、加水分解防止剤の添加量を上記範囲とすることにより、分子量の低下による粘度低下が防止され、円滑にインフレーション成形を行うことができ、また、過剰な架橋反応による粘度増大が防止され、円滑にインフレーション成形を行うことができることが記載されている。しかし、カルボジイミドなどの加水分解防止剤はポリ乳酸樹脂を鎖延長する効果が低いためか、粘度上昇効果が十分でなく、また、着色もしやすいため、透明なフィルムを製造することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−245866号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平9−111107号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献3】特開2005−232336号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2009−154125号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2008−260895号公報(特許請求の範囲、段落番号[0019])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、柔軟性および強度を実用的なレベルで両立でき、フィルム成形(特に、インフレーション成形によりフィルム成形)できるポリ乳酸樹脂組成物、この樹脂組成物で形成されたフィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、柔軟性や強度において実用レベルを充足できる袋状フィルムを形成できるとともに、嫌気性雰囲気下において十分に可溶化できるポリ乳酸樹脂組成物、この樹脂組成物で形成されたフィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、可溶化できるとともに、抗菌性を有するフィルムを形成可能な樹脂組成物、この樹脂組成物で形成されたフィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリ乳酸に対して、ポリ乳酸の可塑剤(例えば、脂肪族ジカルボン酸エステルなどのエステル系可塑剤)および/または軟質樹脂と、増粘作用を有するポリマー(又は粘性を付与するポリマー)とを組み合わせた樹脂組成物を用いることにより、ごみ袋などにおいて、実用に耐えうる十分な柔軟性および強度を併せ持つポリ乳酸フィルムを形成できること、このような特性を併せ持つにもかかわらず、メタン発酵技術において嫌気性雰囲下での可溶化を容易に行うことができるフィルムを形成できること、さらには、このようなフィルムは意外にも抗菌性を有していることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明の第1の態様のポリ乳酸樹脂組成物(第1の樹脂組成物)は、ポリ乳酸と、ポリ乳酸を可塑化するための可塑剤と、増粘作用を有するポリマーとで構成されている。また、本発明の第2の態様のポリ乳酸樹脂組成物(第2の樹脂組成物)は、ポリ乳酸と、軟質樹脂と、増粘作用を有するポリマーとで構成されている。
【0016】
前記第1の態様の樹脂組成物において、可塑剤は、エステル系可塑剤(特に、脂肪族ジカルボン酸エステル)であってもよい。また、前記樹脂組成物において、可塑剤の割合は、ポリ乳酸100重量部に対して5〜25質量部程度であってもよい。
【0017】
前記第2の樹脂組成物において、軟質樹脂は、脂肪族ポリエステル樹脂[例えば、ポリアルキレンアルカノエート(例えば、ポリアルキレンサクシネート)ポリ(アルキレンアルカノエート/アリレート)など]であってもよい。また、前記第2の樹脂組成物において、ポリ乳酸と軟質樹脂との割合は、前者/後者=99/1〜50/50程度であってもよい。
【0018】
前記第1および第2の樹脂組成物において、増粘作用を有するポリマーは、代表的には、ヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基に対する反応性基(特に、エポキシ基など)を有するポリマーであってもよい。このような反応性基を有するポリマーにおいて、反応性基の割合は、例えば、ポリマー1kgあたり0.1〜5モル程度であってもよい。また、増粘作用を有するポリマーの割合は、ポリ乳酸100質量部に対して、1〜15質量部程度であってもよい。
【0019】
本発明の第1および第2の樹脂組成物は、さらに、アンチブロッキング剤を含んでいてもよく、このようなアンチブロッキング剤の割合は、例えば、ポリ乳酸100質量部に対して、0.1〜10質量部程度であってもよい。
【0020】
本発明の第1および第2の樹脂組成物の溶融粘度は、温度190℃。およびせん断速度600s−1において、例えば、70〜500Pa・s程度であり、フィルム成形性、特にインフレーション成形性に優れている。そのため、本発明の樹脂組成物は、フィルム成形用(特に、インフレーション成形用)樹脂組成物であってもよい。
【0021】
本発明には、前記樹脂組成物で形成されたフィルム(特に、インフレーションフィルム)も含まれる。このようなフィルムは、適度な柔軟性および強度を有しており、例えば、引張強度は10〜50MPa程度、破断伸びは100〜600%程度であってもよい。
【0022】
前記のように、本発明の樹脂組成物は、インフレーション成形用樹脂組成物として好適であるため、本発明には、さらに、前記樹脂組成物をインフレーション成形し、袋状のフィルムを製造する方法も含まれる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸で構成されているにもかかわらず、柔軟性および強度を実用的なレベルで両立でき、フィルム成形、特に、インフレーション成形によりフィルム成形可能である。また、本発明の樹脂組成物は、上記のような柔軟性や強度において実用レベルを充足できる袋状フィルムを形成できるとともに、嫌気性雰囲気下において十分に可溶化できる。このように、本発明の樹脂組成物は、インフレーション成形などによりごみ袋などの袋状フィルムに効率よく形成でき、しかも、メタン発酵技術により容易に分解可能であり、極めて有用である。しかも、本発明の樹脂組成物は、上記のように可溶化できるとともに、意外にも、抗菌性を有するフィルムを形成可能である。そのため、ごみ袋などとして使用する際には菌の発生を防止又は抑制しつつ、廃棄する際には分別することなく生ごみなどとともに可溶化に供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<ポリ乳酸樹脂組成物>
ポリ乳酸樹脂組成物は、以下の(I)又は(II)いずれかの態様の樹脂組成物である。
【0025】
(I)ポリ乳酸と、可塑剤(ポリ乳酸を可塑化するための可塑剤)と、増粘作用を有するポリマーとで構成されたポリ乳酸樹脂組成物
(II)ポリ乳酸と、軟質樹脂と、増粘作用を有するポリマーとで構成されたポリ乳酸樹脂組成物。
【0026】
[ポリ乳酸]
ポリ乳酸(ポリ乳酸系樹脂)は、乳酸成分を重合成分とするポリマーである。乳酸成分としては、例えば、乳酸(D−乳酸、L−乳酸、DL−乳酸)、乳酸の反応性誘導体[例えば、ラクチド(乳酸二量体)、メチルエステルなどのC1−3アルキルエステルなど]などが含まれる。乳酸成分は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0027】
ポリ乳酸は、乳酸成分を主成分とするポリマーであればよく、乳酸成分の単独重合体(例えば、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD,L−乳酸など)であってもよく、乳酸成分と共重合成分との共重合体であってもよい。乳酸成分と共重合可能な共重合成分としては、ジオール成分(例えば、エチレングリコールなどの後述の脂肪族ジオール成分など)、ジカルボン酸成分(例えば、後述の脂肪族ジカルボン酸成分など)、ヒドロキシカルボン酸又はラクトン(例えば、グリコール酸、グリコリドなどの後述の成分など)などが挙げられる。これらの共重合成分は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。このような共重合体において、乳酸成分の割合は、例えば、全構成モノマーの70モル%以上(例えば、75〜99.5モル%程度)、好ましくは80モル%以上(例えば、85〜99モル%程度)、さらに好ましくは90モル%以上(例えば、92〜98モル%程度)であってもよい。
【0028】
なお、ポリ乳酸は、異なる種類(又は重合組成)のポリ乳酸を2種以上組み合わせて構成してもよい。
【0029】
ポリ乳酸の重量平均分子量は、例えば、100〜1000000の範囲から選択でき、代表的には1000〜800000(例えば、5000〜700000)、好ましくは10000〜600000、さらに好ましくは20000〜500000(例えば、30000〜400000)程度であってもよく、通常10000〜5000000(例えば、30000〜400000、好ましくは50000〜200000)程度であってもよい。
【0030】
また、ポリ乳酸の酸価は、例えば、0〜100mgKOH/g(例えば、0.1〜80mgKOH/g)、好ましくは0.2〜80mgKOH/g、さらに好ましくは0.3〜60mgKOH/g、特に0.5〜30mg/KOH/g程度であってもよい。なお、酸価が大きすぎると加水分解しやすくなる。また、ポリ乳酸の水酸基価もまた、上記と同様の範囲から選択できる。
【0031】
なお、ポリ乳酸のメルトフローレートは、190℃および荷重2.16kgの条件下で、例えば、1〜30g/10分、好ましくは2〜20g/10分、さらに好ましくは3〜15g/10分、特に4〜10g/10分程度であってもよい。
【0032】
[可塑剤]
可塑剤は、ポリ乳酸を可塑化できる成分であればよく、例えば、エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤(アルキルエポキシステアレートなど)、アミド系可塑剤(例えば、N−ブチルベンゼンスルホンアミドなどのスルホンアミド)、オリゴマー型可塑剤(例えば、カプロラクトンオリゴマーなどのエステルオリゴマーなど)などが挙げられる。代表的な可塑剤は、エステル系可塑剤(カルボン酸エステル系可塑剤)、リン酸エステル系可塑剤であり、特にエステル系可塑剤を好適に使用できる。可塑剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0033】
(エステル系可塑剤)
エステル系可塑剤には、例えば、ポリカルボン酸エステル{例えば、ジカルボン酸エステル(脂肪族ジカルボン酸エステル、芳香族ジカルボン酸エステルなど)、3以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸エステル[例えば、クエン酸エステル(例えば、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリ−2−エチルヘキシルなど)、トリメリット酸エステル(例えば、トリメリット酸トリメチル、トリメリット酸トリエチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリ2−エチルヘキシルなど)、ピロメリット酸エステル(例えば、ピロメリット酸テトラオクチルなど)などの3〜8(好ましくは3〜6)程度のカルボキシ基を有する脂肪族又は芳香族カルボン酸のエステル]など}、多価アルコール(グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトールなどの3〜6程度のヒドロキシル基を有するアルコール)エステル(例えば、グリセリンジアセテートモノC8−10アルキルエステル、トリアセチン、ジグリセリンテトラアセテートなどの(ポリ)C3−10アルカンポリオールのモノ乃至ヘキサC2−10アルカノエート)などが挙げられる。なお、グリセリンジアセテートモノC8−10アルキルエステルは、理研ビタミン株式会社から、商品名「リケマール」などとして入手することもできる。
【0034】
ジカルボン酸エステル(ジカルボン酸とアルコールとのエステル)において、対応するジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸(例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC2−10脂肪族ジカルボン酸、好ましくはC2−8アルカンジカルボン酸、さらに好ましくはC3−6アルカンジカルボン酸)、非脂肪族ジカルボン酸[例えば、芳香族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などのC8−16芳香族ジカルボン酸、好ましくはC8−14アレーンジカルボン酸)など]などが挙げられる。生分解性の点では、脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
【0035】
また、ジカルボン酸エステルにおいて、対応するアルコールとしては、例えば、脂肪族アルコール[例えば、アルカノール(例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールなどのC1−12アルカノール、好ましくはC1−10アルカノール)など]、芳香族アルコール[例えば、アラルキルアルコール(例えば、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールなどのC6−10アリール−C1−4アルキルアルコール)など]、グリコール[例えば、アルキレングリコール(例えば、エチレングリコールなどのC2−4アルキレングリコール)、ポリアルキレングリコール(例えば、ジエチレングリコールなどのジ乃至テトラC2−4アルキレングリコール;ポリプロピレングリコールなどのポリC2−4アルキレングリコールなど)など]、グリコールエーテル{又はグリコールモノエーテル、例えば、アルキレングリコールモノアルキルエーテル(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのC2−4アルキレングリコールモノC1−6アルキルエーテル、好ましくはC2−3アルキレングリコールモノC1−4アルキルエーテル)、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのジ乃至ヘキサC2−4アルキレングリコールモノC1−8アルキルエーテル、好ましくはジ乃至テトラC2−3アルキレングリコールモノC1−4アルキルエーテル)、これらのグリコールエーテルに対応するアリール又はアラルキルエーテル[例えば、アルキレングリコールモノアリールエーテル(例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテルなどのC2−4アルキレングリコールモノC6−10アリールエーテル)、ポリアルキレングリコールモノアリールエーテル(例えば、ジ又はトリエチレングリコールモノフェニルエーテルなどのジ乃至テトラC2−3アルキレングリコールモノC6−10アリールエーテル)、アルキレングリコールモノアラルキルエーテル(例えば、エチレングリコールモノベンジルエーテルなどのC2−4アルキレングリコールモノC6−10アリールC1−4アルキルエーテル)、ポリアルキレングリコールモノアラルキルエーテル(例えば、ジ又はトリエチレングリコールモノベンジルエーテルなどのジ乃至テトラC2−3アルキレングリコールモノC6−10アリールC1−4アルキルエーテル)などが挙げられる。
【0036】
これらのアルコールのうち、アルカノール(例えば、メタノール、エタノール、ブタノールなどのC1−6アルカノール、好ましくはC1−4アルカノール)、アラルキルアルコール(例えば、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールなどのC6−10アリールC1−4アルキルアルコール、好ましくはC6−8アリールC1−2アルキルアルコール)、アルキレングリコールモノアルキルエーテル(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのC2−3アルキレングリコールモノC1−4アルキルエーテル)、ジ乃至テトラアルキレングリコールモノアルキルエーテル(例えば、ジ又はトリエチレングリコールモノメチルエーテルなどのジ乃至テトラC2−3アルキレングリコールモノC1−4アルキルエーテル)などが好ましい。
【0037】
アルコールは、単独で又は2種以上組み合わせてよい。すなわち、ジカルボン酸エステルは、ジカルボン酸と同一のアルコールとのジエステルであってもよく、ジカルボン酸と異なる2種のアルコールとのジエステルであってもよい。2種の異なるアルコールとのエステルにおいて、アルコールの好ましい組合せには、例えば、脂肪族アルコール(例えば、アルカノールなど)又は芳香族アルコール(例えば、アラルキルアルコール)と、グリコールエーテルとの組み合わせなどが含まれる。このようなジカルボン酸と異なるアルコールとのエステル(ジエステル)は、生分解性の点で有利な場合が多い。
【0038】
ジカルボン酸エステルとしては、例えば、脂肪族ジカルボン酸エステル(脂肪族ジカルボン酸とアルコールとのエステル)、芳香族ジカルボン酸エステル(芳香族ジカルボン酸とアルコールとのエステル)が挙げられる。
【0039】
代表的な脂肪族ジカルボン酸エステルとしては、例えば、脂肪族ジカルボン酸ジアルキル(例えば、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジイソデシル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジエチル、アゼライン酸ジブチル、アゼライン酸−ジ−2−エチルヘキシルなどのC2−10アルカンジカルボン酸ジC1−12アルキル、好ましくはC4−10アルカンジカルボン酸ジC4−8アルキルエステル)、脂肪族ジカルボン酸とグリコールエーテルとのジエステル{例えば、脂肪族ジカルボン酸と(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルとのジエステル[例えば、ビス(メチルジエチレングリコール)アジペート(又はアジピン酸ジ(メトキシエトキシエチル)エステル、すなわち、アジピン酸とジエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル)、ビス(ブチルジエチレングリコール)アジペート、ビス(メチルジエチレングリコール)サクシネート、メチルジエチレングリコールエチルジエチレングリコールアジペート(又はアジピン酸メトキシエトキシエチル・エトキシエトキシエチルエステル、すなわち、アジピン酸とジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノエチルエーテルとのジエステル)、メチルジエチレングリコールブチルジエチレングリコールアジペートなどのC2−10アルカンジカルボン酸とジ乃至テトラC2−4アルキレングリコールモノC1−4アルキルエーテルとのジエステル]、脂肪族ジカルボン酸とアラルキルアルコールおよび(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルとのジエステル[例えば、ベンジルメチルジエチレングリコールアジペート(又はアジピン酸メトキシエトキシエチル・ベンジルエステル、すなわち、アジピン酸とベンジルアルコールおよびジエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル)、ベンジルエチルジエチレングリコールアジペート、ベンジルブチルジエチレングリコールアジペート、ベンジルメチルジグリコールサクシネート、ベンジルブチルジグリコールサクシネートなどのC2−10アルカンジカルボン酸とC6−10アリールC1−4アルキルアルコールおよびC2−4アルキレングリコールモノC1−4アルキルエーテルとのジエステル]などが含まれる。
【0040】
また、代表的な芳香族ジカルボン酸エステルとしては、芳香族ジカルボン酸ジアルキル(例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソデシルなどのC8−14アレーンジカルボン酸ジC1−12アルキルエステル、好ましくはC8−10アレーンジカルボン酸ジC1−10アルキルエステル、さらに好ましくはベンゼンジカルボン酸C4−8アルキルエステルなど)、芳香族ジカルボン酸アルキル・アラルキルエステル(例えば、フタル酸ブチルベンジルなどのC8−14アレーンジカルボン酸C1−12アルキル・C6−10アリールC1−4アルキルエステルなど)、芳香族ジカルボン酸とグリコールエーテルとのジエステル{例えば、芳香族ジカルボン酸と(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルとのジエステル[例えば、ビス(メチルジエチレングリコール)フタレート(又はフタル酸ジ(メトキシエチル)エステル、すなわち、フタル酸とジエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル)などのC8−14アレーンジカルボン酸(好ましくはC8−10アレーンジカルボン酸)とジ乃至テトラC2−4アルキレングリコールモノC1−4アルキルエーテルとのジエステル]などが挙げられる。
【0041】
(リン酸エステル系可塑剤)
リン酸エステル系可塑剤としては、例えば、脂肪族リン酸エステル[例えば、リン酸トリアルキルエステル(リン酸トリエチル、リン酸トリブチルなどのリン酸トリC1−12アルキルエステル)、リン酸トリアルコキシアルキルエステル(例えば、リン酸トリブトキシエチルなどのリン酸トリC1−6アルコキシC1−12アルキルエステル)など]、芳香族リン酸エステル[リン酸アルキルジアリールエステル(例えば、リン酸オクチルジフェニルなどのリン酸C1−12アルキル−ジC6−10アリールエステル)、リン酸トリアリールエステル(例えば、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸トリ(イソプロピルフェニル)、リン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニルなどのリン酸トリC6−10アリールエステルなど)など]、縮合リン酸エステル{例えば、ジヒドロキシアレーン−ビス(ジアリールホスフェート)[例えば、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジクレジルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジキシリルホスフェート)などのジヒドロキシC6−10アレーン−ビス(ジC6−10アリールホスフェート)など]など}などが挙げられる。
【0042】
好ましい可塑剤は、エステル系可塑剤であり、特に、脂肪族ジカルボン酸エステル{例えば、アルカンジカルボン酸ジアルキルエステル(例えば、C4−8アルカンジカルボン酸ジC1−10アルキルエステル、好ましくはC4−8アルカンジカルボン酸ジC4−8アルキルエステル)、アルカンジカルボン酸と(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルとのジエステル[例えば、ビス(メチルジエチレングリコール)アジペートなどのC4−8アルカンジカルボン酸とジ乃至テトラC2−4アルキレングリコールモノC1−4アルキルエーテルとのジエステル]、アルカンジカルボン酸とアラルキルアルコールおよび(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルとのジエステル[例えば、ベンジルメチルジエチレングリコールアジペートなどのC4−8アルカンジカルボン酸とC6−8アリールC1−2アルキルアルコールおよびC2−4アルキレングリコールモノC1−4アルキルエーテルとのジエステル]などのアルカンジカルボン酸エステル(特に、アジピン酸エステルなどのC4−8アルカンカルボン酸エステル)}などが含まれる。
【0043】
このような脂肪族ジカルボン酸エステルは、生分解性である場合が多いため、好適に使用できる。
【0044】
なお、可塑剤は、生分解性であるのが好ましい。また、メタン発酵過程で、万一残渣として残った場合であっても、たい肥等に利用するためには食品添加物規格に適合する安全性の高い可塑剤が好ましい。
【0045】
なお、可塑剤は、前記(II)の態様の樹脂組成物において含まれていてもよい。
【0046】
[軟質樹脂]
軟質樹脂としては、脂肪族ポリエステル樹脂、エステル化デンプンなどが挙げられる。代表的な軟質樹脂は脂肪族ポリエステル樹脂である。
【0047】
脂肪族ポリエステル樹脂(前記ポリ乳酸でない脂肪族ポリエステル樹脂)としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分との重縮合により得られるポリエステル、脂肪族オキシカルボン酸成分の重縮合により得られるポリオキシカルボン酸、ラクトンの開環重合により得られるポリラクトン、これらの成分を組み合わせて重合したポリエステル(例えば、脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分と脂肪族オキシカルボン酸成分との重縮合により得られるポリエステル、脂肪族オキシカルボン酸成分とラクトンとの重縮合により得られたポリエステルなど)などが含まれる。これらの脂肪族ポリエステル樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0048】
脂肪族ジカルボン酸成分(通常、飽和脂肪族ジカルボン酸成分)としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸(例えば、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC2−10脂肪族ジカルボン酸、好ましくはC2−8脂肪族ジカルボン酸)、脂肪族ジカルボン酸の反応性誘導体(例えば、酸無水物、メチルエステルなどのC1−3アルキルエステル、酸クロライドなどの酸ハライドなど)などが挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのジカルボン酸成分のうち、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸などのC2−6アルカンジカルボン酸成分が好ましい。
【0049】
脂肪族ジオール成分(通常、飽和脂肪族ジオール成分)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタメチレングリコールなどのC2−10脂肪族ジオール、好ましくはC2−8脂肪族ジオールなどが挙げられる。これらのジオール成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのジオール成分のうち、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのC2−6アルカンジオールが好ましい。
【0050】
前記ポリオキシカルボン酸において、脂肪族オキシカルボン酸成分(通常、飽和脂肪族オキシカルボン酸成分)としては、例えば、脂肪族オキシカルボン酸(例えば、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、オキシプロピオン酸、オキシ酪酸などのC2−10脂肪族オキシカルボン酸、好ましくはC2−8脂肪族オキシカルボン酸)、脂肪族オキシカルボン酸の反応性誘導体(例えば、酸無水物、メチルエステルなどのC1−3アルキルエステル、酸クロライドなどの酸ハライドなど)であってもよい。これらの脂肪族オキシカルボン酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのオキシカルボン酸のうち、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、オキシ酪酸などのヒドロキシC2−6アルカン酸成分が好ましい。なお、脂肪族ポリエステル樹脂において、乳酸(成分)は、乳酸成分以外の成分と併用する形で脂肪族ポリエステル樹脂を構成する。このような脂肪族ポリエステル樹脂において、乳酸成分の割合は、全構成モノマーの30モル%未満(例えば、0.1〜25モル%程度)、好ましくは20モル%以下(例えば、0.5〜18モル%程度)、さらに好ましくは15モル%以上(例えば、1〜10モル%程度)であってもよい。
【0051】
前記ラクトンにおいて、ラクトンとしては、例えば、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトンなどのC3−12ラクトンが挙げられる。これらのラクトンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのラクトンのうち、プロピオラクトン、カプロラクトン(例えば、ε−カプロラクトンなど)などのC3−10ラクトン、好ましくはC4−8ラクトンが好ましい。
【0052】
また、脂肪族ポリエステル樹脂は、前記成分(脂肪族ジカルボン酸成分、脂肪族オキシカルボン酸成分、ラクトン)以外の成分を重合成分として含む樹脂であってもよい。このような成分としては、例えば、非脂肪族ジカルボン酸成分{例えば、芳香族ジカルボン酸成分[例えば、芳香族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などのC8−16芳香族ジカルボン酸、好ましくはC8−14芳香族ジカルボン酸)、芳香族ジカルボン酸の反応性誘導体(例えば、酸無水物、メチルエステルなどのC1−3アルキルエステル、酸クロライドなどの酸ハライドなど)など]など}、非脂肪族ジオール成分(例えば、芳香族ジオール成分など)などが挙げられる。これらの成分(芳香族ジカルボン酸成分など)は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの成分のうち、テレフタル酸などのC8−12アレーンジカルボン酸成分が好ましい。なお、脂肪族ポリエステル樹脂において、このような成分(非脂肪族成分)の割合は、脂肪族ポリエステル樹脂を構成するモノマー全体に対して、例えば、60モル%以下(例えば、1〜55モル%)、好ましくは50モル%以下(例えば、2〜40モル%)であってもよい。特に、芳香族ジカルボン酸成分を重合成分とする脂肪族ポリエステル樹脂(芳香族変性脂肪族ポリエステル樹脂)において、芳香族ジカルボン酸成分の割合は、脂肪族ジカルボン酸成分および芳香族ジカルボン酸成分の総量に対して、例えば、50モル%以下(例えば、1〜45モル%)、好ましくは40モル%以下(例えば、2〜35モル%)、さらに好ましくは30モル%以下(例えば、3〜25モル%)であってもよい。
【0053】
また、脂肪族ポリエステル樹脂は、樹脂骨格の一部にカーボネート結合(カーボネート基)を有していてもよい。
【0054】
軟質樹脂(脂肪族ポリエステル樹脂など)は、通常、生分解性であってもよい。また、軟質樹脂は、合成系、微生物産系、天然物系のいずれであってもよい。また、軟質樹脂は、リサイクル利用によって再生された樹脂(再生樹脂)であってもよい。
【0055】
代表的な脂肪族ポリエステル樹脂としては、例えば、アルカンジオールとアルカンジカルボン酸とのエステル{例えば、ポリアルキレンアルカノエート[例えば、ポリアルキレンサクシネート(例えば、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリネオペンチレンサクシネートなどのポリC2−8アルキレンサクシネート)、ポリアルキレンアジペート(例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどのポリC2−8アルキレンアジペート)、アルカンジオールと複数のC2−10アルカンジカルボン酸とのエステル(例えば、ポリブチレンサクシネートアジペート)などのポリアルキレンC2−10アルカノエート、好ましくはポリC2−6アルキレンC2−8アルカノエート、さらに好ましくはポリC2−4アルキレンC2−6アルカノエート]、ポリ(アルキレンアルカノエート/アリレート)[例えば、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレートなどのポリアルキレンC2−10アルカノエート/C8−12アリレート、好ましくはポリC2−6アルキレンC2−8アルカノエート/C8−10アリレート、さらに好ましくはポリC2−4アルキレンC2−6アルカノエート/テレフタレート]、ポリ(アルキレンアルカノエート/カーボネート)[例えば、ポリブチレンサクシネート/カーボネートなどのポリC2−6アルキレンC2−8アルカノエート/カーボネート]、ポリアルキレンアルカノエート/ポリ脂肪族オキシカルボン酸(例えば、ポリブチレンサクシネート/ポリ乳酸などのポリC2−6アルキレンC2−8アルカノエート/ポリヒドロキシC2−6アルカン酸)、ポリアルキレンアルカノエート/ポリラクトン(例えば、ポリブチレンサクシネート/ポリカプロラクトンなどのポリC2−6アルキレンC2−8アルカノエート/ポリC3−10ラクトン)など}、ポリ脂肪族オキシカルボン酸(例えば、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレート/ポリヒドロキシヘキサノエートなどの前記ポリ乳酸以外のポリヒドロキシC2−6アルカン酸)、ポリラクトン(例えば、ポリカプロラクトンなどのポリC3−10ラクトン、好ましくはポリC4−8ラクトン)などが挙げられる。
【0056】
なお、軟質樹脂のガラス転移温度は、通常、室温(例えば、25℃)以下の温度であってもよい。
【0057】
[増粘作用を有するポリマー]
本発明では、ポリ乳酸樹脂組成物を増粘させる成分として、一般的な増粘剤[又はチクソトリピー性付与剤、例えば、無機系増粘剤(例えば、ベントナイト、炭酸カルシウムなど)、有機系増粘剤(例えば、ワックス、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸アルミニウムなどのカルボン酸金属塩)など]ではなく、ポリマー成分を使用し、前記可塑剤又は後述の軟質樹脂と組み合わせる点に特徴がある。
【0058】
このようなポリマー成分と前記可塑剤又は後述の軟質樹脂とを組み合わせることにより、ポリ乳酸樹脂組成物を適度に増粘させ、優れたフィルム成形性(特に、インフレーション成形性)と十分な強度や柔軟性とを兼ね備えたフィルムを得ることができる。そして、このような樹脂組成物(又は樹脂組成物から得られるフィルム)は、このようなポリマー成分や前記可塑剤又は後述の軟質樹脂を含んでいるにもかかわらず、意外にも、メタン発酵技術における可溶化特性を維持できるため、フィルム成形性、フィルム強度、および可溶化特性という3つの特性を有している。
【0059】
増粘作用を有するポリマーは、ポリ乳酸(又はポリ乳酸を含む樹脂系)を増粘させる機能を有するポリマーであればよいが、通常、ヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基に対する反応性基を有するポリマーであってもよい。このような反応性基を有するポリマーは、ポリ乳酸の末端基であるヒドロキシル基やカルボキシル基として反応して結合を形成するためか、効率よく樹脂系を増粘させることができる。
【0060】
反応性基を有するポリマーにおいて、反応性基としては、例えば、酸基(カルボキシル基カルボン酸無水物基など)、イソシアネート基、ヒドロキシル基、メルカプト基、エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン環基など挙げられる。反応性基を有するポリマーは、これらの反応性基を単独で又は2種以上組み合わせて有していてもよい。
【0061】
反応性基を有するポリマーは、これらの反応性基のうち、反応性の点で、カルボキシル基、イソシアネート基、エポキシ基、オキサゾリン環基から選択された少なくとも1種の基を有しているのが好ましく、特に、少なくともエポキシ基を有しているのが好ましい。
【0062】
このような反応性基を有するポリマーは、例えば、反応性基を有するモノマーを少なくとも含む重合成分を重合したポリマー、反応性基を有するモノマーをグラフト重合したポリマー、ポリマーの官能基(例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基など、特に、ポリマーの末端基)に、この官能基に対する結合性基および前記反応性基を有するモノマー(又は化合物)を反応させて得られたポリマーなどのいずれであってもよい。また、反応性基を有するポリマーは、反応性基を有するポリマー同士のブレンド物、反応性基を有しないポリマーとのブレンド物などの形態であってもよい。
【0063】
代表的な反応性基を有するモノマー(又は化合物)としては、例えば、酸基含有モノマー{例えば、不飽和モノカルボン酸(例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、3−ブテン酸などのC3−6アルケンカルボン酸;ビニル安息香酸などの不飽和芳香族モノカルボン酸)、不飽和ポリカルボン酸又はその無水物(例えば、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸などのC4−8アルケンジカルボン酸又はその無水物など)など]、イソシアネート基含有モノマー(ビニルイソシアネートなど)、ヒドロキシル基含有モノマー{例えば、ヒドロキシ基又はメルカプト基を有する(メタ)アクリル系モノマー[例えば、(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート(例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレートなどのC2−6アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのポリオキシC2−4アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート)など]、アルケノール(例えば、アリルアルコール、2−ブテン−1−オール、3−ブテン−2−オールなどのC3−6アルケノール)、これらに対応し、ヒドロキシル基をメルカプト基に置換したモノマーなど]、エポキシ基含有モノマー[例えば、エポキシ基を有する(メタ)アクリル系モノマー(例えば、グリシジル(メタ)アクリレートなど)、アルケニルグリシジルエーテル(例えば、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのC2−6アルケニル−グリシジルエーテル)、エポキシアルケン(例えば、3,4−エポキシ−1−ブテンなどのエポキシC4−10アルケン)など]、アミノ基含有モノマー[例えば、アルケニルアミン(例えば、アリルアミンなどのC3−6アルケニルアミン)、アミノスチレン(4−アミノスチレンなど)など]、オキサゾリン環含有化合物[例えば、ビスオキサゾリン(例えば、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)など)、ビスオキサゾリニルアルカン(例えば、1,4−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)エタン、1,8−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ブタンなどのビスオキサゾリニルC1−8アルカン)、ビスオキサゾリニルシクロアルカン(例えば、1,4−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)シクロヘキサンなどのビスオキサゾリニルC5−10シクロアルカン)、ビスオキサゾリニルアレーン(例えば、1,2−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼンなどのビスオキサゾリニルC6−10アレーン)などのビスオキサゾリン化合物など]などが例示できる。これらのモノマー(又は化合物)は、単独で又は2種以上組み合わせて反応性基を有するポリマーの重合成分として使用してもよい。
【0064】
代表的な反応性基を有するポリマーとしては、例えば、酸基を有するポリマー、エポキシ基を有するポリマー、オキサゾリン環を有するポリマーなどが含まれる。
【0065】
酸基を有するポリマーとしては、例えば、酸変性(メタ)アクリル系樹脂[例えば、オレフィン/無水マレイン酸/(メタ)アクリレート共重合体(例えば、エチレン無水マレイン酸エチルアクリレート共重合体などのC2−4オレフィン−無水マレイン酸−C1−10アルキル(メタ)アクリレート共重合体など)、酸変性オレフィン系樹脂[例えば、酸変性ポリエチレン(カルボキシル化ポリエチレングラフトコポリマー、酸変性ポリエチレンワックス、エチレン無水マレイン酸共重合体など)、酸変性ポリプロピレン(カルボキシル化ポリプロピレングラフトコポリマーなど)などのC2−4アルケンの単独又は共重合体の酸変性物)など]、酸変性スチレン系樹脂(例えば、スチレン/無水マレイン酸共重合体など)などが挙げられる。なお、エチレン/無水マレイン酸/エチルアクリレート共重合体は、例えば、住友化学(株)から商品名「ボンダイン」などとして、酸変性ポリエチレンワックスは、例えば、三井化学(株)から商品名「APEW」などとして入手できる。
【0066】
また、酸基を有するポリマーには、オキサゾリン環含有モノマー(又は化合物)を含むポリマー、例えば、ビスオキサゾリン/スチレン/無水マレイン酸共重合体、ビスオキサゾリン/無水マレイン酸変性ポリエチレン、ビスオキサゾリン/無水マレイン酸変性ポリプロピレンなども含まれる。
【0067】
エポキシ基を有するポリマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートを重合成分とするポリマー[例えば、エチレン/グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン/グリシジル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリレート共重合体(例えば、エチレン/グリシジルメタクリレート/メチルメタクリレート共重合体などのエチレン/グリシジジル(メタ)アクリレート/C1−10アルキル(メタ)アクリレート共重合体)、エチレンとグリシジル(メタ)アクリレートと他の共重合性単量体との共重合体(例えば、エチレン/グリシジルメタクリレート/ビニルアルコール共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート/アクリロニトリル/スチレン共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート/スチレン共重合体など)などのオレフィン系単量体(エチレンなどのC2−10アルケン)とグリシジル(メタ)アクリレートとを少なくとも重合成分とするポリマー;スチレン/グリシジル(メタ)アクリレート共重合体などのスチレン系単量体(スチレンなど)とグリシジル(メタ)アクリレートとを少なくとも重合成分とする重合体など]などが挙げられる。なお、このようなエポキシ基を有するポリマーは、住友化学から「ボンドファーストE」、「ボンドファースト2C」、日本ポリオレフィン(株)から「レクスパールRA」、「レクスパールET」、「レクスパールRC」、日本油脂(株)から「モディパー」、東亜合成(株)から「アクリルポリマーARUFON」などとして入手できる。
【0068】
反応性基を有するポリマーにおいて、反応性基(例えば、エポキシ基、酸基)の割合(又はモノマー全体に対する反応性基を有するモノマーの割合)は、反応性基の種類にもよるが、例えば、ポリマー1kgあたり0.1〜5モル、好ましくは0.2〜4モル、さらに好ましくは0.3〜3モル程度であってもよく、通常0.5〜4モル(例えば、0.7〜3.5モル、好ましくは1〜3モル、さらに好ましくは1.2〜2.5モル)程度であってもよい。
【0069】
また、反応性基を有するポリマーが、反応性基を有するモノマーを重合成分として用いたポリマーである場合、モノマー全体に対する反応性基(例えば、エポキシ基)を有するモノマーの割合は、例えば、1〜50モル%(例えば、2〜45モル%)、好ましくは3〜40モル%(例えば、4〜35モル%)、さらに好ましくは5〜30モル%(例えば、8〜25モル%)程度であってもよく、通常5〜40モル%(例えば、7〜35モル%、好ましくは10〜30モル%、さらに好ましくは12〜25モル%)程度であってもよい。
【0070】
増粘作用を有するポリマーの重量平均分子量は、例えば、800〜200000(例えば、1000〜100000)、好ましくは1200〜80000(例えば、1500〜50000)、さらに好ましくは1800〜30000(例えば、2000〜20000)程度であってもよく、通常1000〜25000(例えば、1500〜20000、好ましくは2000〜15000)程度であってもよい。
【0071】
[各成分の割合]
樹脂組成物(I)の態様において、可塑剤の割合は、ポリ乳酸100質量部に対して、1〜40質量部(例えば、3〜30質量部)の範囲から選択でき、例えば、3〜25質量部、好ましくは4〜22質量部(例えば、5〜20質量部)、さらに好ましくは7〜18質量部(例えば、8〜16質量部)、特に10〜15質量部程度であってもよく、通常5〜25質量部(例えば、8〜22質量部)程度であってもよい。また、樹脂組成物(II)が可塑剤を含む場合、ポリ乳酸100質量部に対する可塑剤の割合は、上記と同様の範囲から選択できる。さらに、可塑剤の割合は、ポリ乳酸および軟質樹脂の総量100質量部に対して、0.8〜35質量部(例えば、1〜30質量部)の範囲から選択でき、例えば、2.5〜25質量部、好ましくは3〜22質量部(例えば、4〜20質量部)、さらに好ましくは5〜18質量部(例えば、6〜16質量部)、特に8〜15質量部程度であってもよく、通常5〜25質量部(例えば、8〜20質量部)程度であってもよい。なお、可塑剤の割合が大きすぎても小さすぎても、破断強度や衝撃強度などのフィルム特性が低下する可能性がある。また、可塑剤の割合が大きすぎると、フィルム成形性が低下する場合がある。
【0072】
樹脂組成物(II)の態様において、ポリ乳酸と軟質樹脂との割合は、前者/後者(質量部)=99.5/0.5〜40/60(例えば、99/1〜50/50)程度の範囲から選択でき、例えば、98/2〜50/50(例えば、97/3〜55/45)、好ましくは95/5〜60/40(例えば、93/7〜62/38)、さらに好ましくは90/10〜65/35(例えば、85/15〜68/32)、特に83/17〜70/30程度であってもよく、通常90/10〜60/40(例えば、85/15〜65/35)程度であってもよい。特に、樹脂組成物(II)が可塑剤を含む場合、ポリ乳酸と軟質樹脂との割合は、前者/後者(質量部)=99.5/0.5〜50/50(例えば、99.5/0.5〜55/45)、好ましくは99/1〜60/40(例えば、98.5/1.5〜62/38)、さらに好ましくは98/2〜65/35(例えば、97.5/2.5〜70/30)、特に97/3〜75/25程度であってもよく、通常99/1〜60/40(例えば、98/2〜65/35)程度であってもよい。なお、軟質樹脂の割合が大きくなりすぎると、樹脂組成物を十分に可溶化できなくなる場合がある。
【0073】
増粘作用を有するポリマーの割合は、ポリ乳酸100質量部に対して、0.1〜30質量部(例えば、0.3〜20質量部)の範囲から選択でき、例えば、0.5〜15質量部、好ましくは0.7〜12質量部(例えば、1〜10質量部)、さらに好ましくは1.5〜8質量部(例えば、2〜8質量部)程度であってもよく、通常1〜10質量部(例えば、2〜9質量部、好ましくは3〜8質量部)程度であってもよい。なお、増粘作用を有するポリマーの割合が小さすぎると、十分な増粘効果が得られず、また、増粘作用を有するポリマーの割合が大きすぎると、溶融粘度が大きく成りすぎてインフレーション成形性を損なうばかりか、樹脂組成物を十分に可溶化できなくなる場合がある。
【0074】
さらに、可塑剤と、増粘作用を有するポリマーとの割合は、前者/後者(質量比)=95/5〜20/80(例えば、90/10〜30/70)、好ましくは85/15〜40/60、さらに好ましくは83/17〜50/50、特に80/20〜60/40(例えば、75/25〜65/35)程度であってもよい。特に、樹脂組成物(II)が可塑剤を含む場合、可塑剤と、増粘作用を有するポリマーとの割合は、前者/後者(質量比)=95/5〜20/80(例えば、90/10〜25/75)、好ましくは85/15〜30/70、さらに好ましくは83/17〜35/65(例えば、特に80/20〜40/60)程度であってもよい。上記のような範囲で使用すると、可塑剤のブリードアウトを抑制しつつ、優れたインフレーション成形性と可溶化特性とを効率よく両立できる。
【0075】
さらに、軟質樹脂と、増粘作用を有するポリマーとの割合は、前者/後者(質量比)=95/5〜20/80、好ましくは90/10〜30/70、さらに好ましくは88/12〜40/60、特に85/15〜50/50(例えば、83/17〜60/40)程度であってもよい。特に、樹脂組成物(II)が可塑剤を含む場合、軟質樹脂と、増粘作用を有するポリマーとの割合は、前者/後者(質量比)=95/5〜20/80(例えば、90/10〜22/78)、好ましくは88/12〜25/75、さらに好ましくは85/15〜30/70(例えば、80/20〜35/65)程度であってもよい。上記のような範囲で使用すると、優れたインフレーション成形性と可溶化特性とを効率よく両立できる。
【0076】
また、樹脂組成物(II)の態様において、増粘作用を有するポリマーの割合は、ポリ乳酸および軟質樹脂の総量100重量部に対して、0.1〜20質量部の範囲から選択でき、例えば、0.3〜18質量部、好ましくは0.5〜15質量部(例えば、0.7〜12質量部)、さらに好ましくは1〜10質量部(例えば、2〜7質量部)程度であってもよく、通常1〜15質量部(例えば、1〜12質量部)程度であってもよい。
【0077】
なお、本発明の樹脂組成物は、樹脂成分として、(I)ポリ乳酸又は(II)ポリ乳酸および軟質樹脂を少なくとも含んでいればよく、本発明の効果を害しない範囲で他の樹脂(熱可塑性樹脂)を含んでいてもよいが、実質的にこのような他の樹脂を含んでいないのが好ましく、通常、樹脂成分に含まれる場合であっても、このような他の樹脂の割合は、樹脂成分全体の20質量%以下(例えば、0.1〜15質量%)、好ましくは10質量%以下(例えば、0.3〜8質量%)、さらに好ましくは5質量%以下(例えば、0.5〜3質量%)である場合が多い。
【0078】
[添加剤]
本発明の樹脂組成物は、さらに、他の添加剤、例えば、アンチブロッキング剤、スリップ剤(又は擦り傷防止剤)、安定剤(老化防止剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤など)、難燃剤、相溶化剤(前記樹脂組成物(II)の場合など)、軟化剤、滑剤、帯電防止剤、結晶核剤、着色剤、防腐剤、防カビ剤などが含まれていてもよい。添加剤は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0079】
これらの添加剤のうち、特に、アンチブロッキング剤などを好適に使用できる。また、用途(例えば、ごみ袋など)に応じて、スリップ剤や着色剤を好適に使用してもよい。なお、着色剤は、生分解性の着色剤(生分解性インキ)が好適であり、着色剤が溶液状である場合、ポリ乳酸の加水分解を抑制する点で、溶液は中性溶液であるのが好ましい。
【0080】
アンチブロッキング剤としては、無機系粒子(例えば、シリカ、炭酸カルシウム、チタニア、マイカ、タルク、ゼオライトなどの粒子)、有機系粒子(ポリメタクリル酸メチル粒子など)などが挙げられる。シリカは、SiOを95%以上含むことが好ましく、SiO2が無水シリカであることがより好ましい。なお、アンチブロッキング剤は、マスターバッチとして生分解樹脂などに高濃度に含有させた形態(例えば、インフレーション成形時にアンチブロッキング剤とポリ乳酸樹脂組成物を混合する形態)で使用してもよい。
【0081】
アンチブロッキング剤の平均粒子径は、粒子の種類に応じて適宜選択でき、例えば、1nm〜20μm、好ましくは2nm〜10μm程度であってもよい。特に、得られるフィルムの透明性の観点から、平均粒径3〜100nm(例えば、好ましくは5〜80nm、さらに好ましくは7〜50nm)程度の無機粒子(例えば、シリカ粒子)などを好適に使用してもよい。また、アンチブロッキング剤の割合は、ポリ乳酸100質量部に対して、例えば、0.01〜10質量部、好ましくは0.03〜8質量部、さらに好ましくは0.05〜2質量部程度であってもよい。
【0082】
特に、スリップ剤とアンチブロッキング剤を併用する場合、その使用量はポリ乳酸、可塑剤又は軟質樹脂、及び増粘剤の総量100質量部に対し、スリップ剤とアンチブロッキング剤との総量が0.2〜7質量部程度であってもよい。スリップ剤とアンチブロッキング剤との総量が少なすぎると、防曇性の持続性効果が発現されず、多過ぎると成形が不安定になったり、フィルムの外観が劣る場合がある。
【0083】
スリップ剤としては、例えば、脂肪酸エステル、炭化水素樹脂、パラフィン、高級脂肪酸、オキシ脂肪酸、脂肪酸アミド(例えば、エルカ酸アミドなどのC2−34飽和又は不飽酸アミド、好ましくはC4−30飽和又は不飽酸アミド、好ましくはC8−24飽和又は不飽酸アミド)、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、脂肪アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、金属石鹸、変性シリコーンなどが挙げられる。これらのうち、脂肪酸エステル、ポリエチレンワックス(炭化水素樹脂)、変性シリコーン(特に、メチルスチリル変性シリコーン、アルキル変性シリコーンなど)などが好ましい。スリップ剤は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、スリップ剤の25℃における粘度は、例えば、100〜10,000cps程度であってもよい。また、スリップ剤の使用量は、例えば、ポリ乳酸100重量部に対して、例えば、0.001〜5質量部、好ましくは0.002〜1質量部、さらに好ましくは0.003〜0.5質量部(例えば、0.004〜0.3質量部)質量部程度であってもよい。なお、スリップ剤は、マスターバッチとして生分解樹脂などに高濃度に含有させた形態(例えば、インフレーション成形時にスリップ剤とポリ乳酸樹脂組成物を混合する形態)で使用してもよい。
【0084】
相溶化剤としては、例えば、エラストマー系相溶化剤(例えば、スチレンエチレンブタジエン共重合体、スチレンエチレンブタジエンスチレン共重合体、水添スチレンイソプロピレンスチレン共重合体などのスチレン系エラストマーなど)、共重合体系相溶化剤(例えば、ポリエチレン−ポリアミドグラフト共重合体、ポリプロピレン−ポリアミドグラフト共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、EVA・PVC・グラフト共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体樹脂、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、水添スチレン−イソプロピレン−ブロック共重合体など)、アイオノマー樹脂(例えば、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体アイオノマー、スチレン−メタクリル酸共重合体、テレケリックポリブタジエンアクリル酸アイオノマー、スチレン−ブタジエンアクリル酸共重合体アイオノマーなどの(メタ)アクリル酸系共重合体のアイオノマー;エチレン−ビニルスルホン酸共重合体アイオノマー、スルホン化ポリスチレンアイオノマー、スルホン化スチレン−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンサルフェイトアイオノマー、スルホン化エチレン−プロピレン−ジエン共重合体アイオノマーなどのスルホン酸系アイオノマー;フッ素系アイオノマー;水素化ポリペンタマーアイオノマー、ポリペンタマーアイオノマーなどのアルケナマー系アイオノマー;ポリ(ビニルピリジウム塩)アイオノマーなどのピリジニウム塩系アイオノマー;ポリ(ビニルトリメチルアンモニウム塩)アイオノマーなどのアンモニウム塩系アイオノマー;ポリ(ビニルベンジルホスホニウム塩)アイオノマーなどのホスホニウム塩系アイオノマー;ポリウレタンアイオノマー;脂肪族系アイオネン、芳香族系アイオネンなどのアイオネンなどが挙げられる。相溶化剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0085】
相溶化剤の割合は、例えば、ポリ乳酸100質量部に対して、例えば、0.1〜20質量部、好ましくは0.5〜15質量部、さらに好ましくは1〜10質量部程度であってもよい。
【0086】
本発明の樹脂組成物は、通常、ポリ乳酸と、各成分とを溶融混合することにより得ることができる。このような本発明の樹脂組成物の溶融粘度は、例えば、温度190℃およびせん断速度600s−1において、70〜500Pa・s、好ましくは80〜400Pa・s、さらに好ましくは100〜350Pa・s程度であってもよく、特に90Pa・s以上(例えば、100〜300Pa・s程度)であってもよい。
【0087】
なお、上記溶融粘度範囲は、温度190℃およびせん断速度600s−1における範囲であるが、前記樹脂組成物の成形(又は加工)温度範囲[例えば、後述の成形温度範囲(例えば、170〜210℃程度)]および所定のせん断速度範囲(例えば、100〜1000s−1、好ましくは300〜800s−1程度)において、上記溶融粘度範囲を充足することが好ましい。
【0088】
さらには、成形温度において、溶融粘度の変化が少ないことが好ましく、例えば、前記樹脂組成物の170℃およびせん断速度600s−1における溶融粘度をA(Pa・s)とし、190℃およびせん断速度600s−1における溶融粘度をB(Pa・s)とするとき、A−Bの絶対値は、例えば、0〜700Pa・s、好ましくは0〜500Pa・s、さらに好ましくは0〜300Pa・s程度であってもよい。
【0089】
さらに、本発明の樹脂組成物のメルトフローレートは、190℃および荷重2.16kgの条件下で、例えば、1〜35g/10分、好ましくは3〜30g/10分、さらに好ましくは4〜25g/10分、特に5〜20g/10分(例えば、6〜18g/10分)程度であってもよい。
【0090】
本発明では、前記のようにポリ乳酸と特定の成分とを組み合わせるので、上記のようなフィルム成形において適度な溶融粘度や溶融流動性を有する樹脂組成物を効率よく得ることができる。そのため、本発明の樹脂組成物は、コンパウンド化(樹脂組成物化)しやすく、かつインフレーション成形などにより容易にフィルム成形可能である。
【0091】
<フィルム>
本発明の樹脂組成物は、種々の成形品を成形するための樹脂組成物として使用できるが、特に、上記のように、ポリ乳酸で構成されているにもかかわらず、フィルム成形性に優れている。例えば、インフレーション成形に供しても容易にフィルム形成可能である。しかも、成形により得られるフィルムは、ポリ乳酸を主成分とするにもかかわらず、適度な強度および柔軟性を併せ持つフィルムであり、フィルムとしての特性にも優れている。そのため、本発明の樹脂組成物は、フィルム成形用樹脂組成物(特に、インフレーション成形用樹脂組成物)として好適である。
【0092】
このような本発明のフィルムは、前記樹脂組成物で形成されている。そして、このようなフィルムは、前記樹脂組成物を公知のフィルム成形法により成形することにより得られる。フィルム成形法としては、Tダイ成形、インフレーション成形などを好適に適用できるが、特に、前記樹脂組成物は、生産性の高いインフレーション成形を適用してもフィルム成形可能であるため、インフレーション成形により効率よく成形してもよい。すなわち、前記フィルムは、インフレーションフィルムであってもよい。なお、インフレーション成形では、直接的に袋状のフィルムが得られるので、インフレーションフィルムは、袋状フィルム(例えば、ごみ袋、包装用袋など)などとして好適に利用できる。
【0093】
インフレーション成形において、成形条件は適宜選択でき、例えば、前記樹脂組成物の溶融温度(成形温度)は、120〜230℃、好ましくは140〜220℃、さらに好ましくは150〜210℃、特に170〜200℃程度であってもよい。また、インフレーション成形において、ブロー比は、例えば、1〜10、好ましくは1.5〜7、さらに好ましくは2〜5程度であってもよい。
【0094】
なお、フィルムの厚みは、用途に応じて適宜選択できるが、例えば、10〜5000μmm、好ましくは20〜1000μm、さらに好ましくは30〜800μm程度であってもよい。
【0095】
本発明のフィルムは、柔軟性および強度に優れ、例えば、引張強度は、10〜50MPa、好ましくは15〜45MPa、さらに好ましくは20〜40MPa程度であってもよい。また、フィルムの破断伸びは、例えば、100〜600%、好ましくは120〜500%、さらに好ましくは150〜400%程度であってもよい。なお、引張強度および破断伸びは、後述の条件で測定できる。
【0096】
このような本発明のフィルムは、容易に可溶化する。フィルムは、フィルムの態様に応じて、可溶化(さらにはメタン発酵)可能な成分とともに可溶化(又は可溶化処理又は可溶化工程)に供してもよい。例えば、ごみ袋状の前記フィルムは、生ごみなどを含んだ(又は包んだ)状態や生ごみなどとともに、可溶化に供してもよい。また、可溶化に供するフィルム(さらには生ごみなどのその内包成分)は、適当な大きさに破砕して可溶化に供してもよい。
【0097】
このようなフィルムの可溶化は、例えば、適当な溶媒成分(又は分散成分)にフィルム(さらにはごみなどの内包成分)を混合することにより行うことができる。溶媒成分は、通常、少なくとも水を含む成分を使用する場合が多く、このような水を含む成分は、塩基性水溶液、酸性水溶液(例えば、ギ酸、酢酸などのカルボン酸水溶液など)であってもよい。特に、溶媒成分は、塩基性水溶液[例えば、水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどの水酸化アルカリ又はアルカリ土類金属塩)を含む水溶液、アンモニア成分(例えば、アンモニア、炭酸アンモニウムなどのアンモニウム塩など)を含む水溶液]であってもよい。このような塩基性水溶液を使用すると、フィルムの可溶化をより効率よく行うことができる。また、溶媒成分として、排水や汚泥(例えば、塩基性の排水又は汚泥)を利用してもよい。排水や汚泥には、可溶化に有利な微生物を含んでいる場合が多く、好適に使用できる。なお、塩基性水溶液のpHは、例えば、7.1〜13、好ましくは8〜12、さらに好ましくは9〜11程度であってもよい。
【0098】
可溶化は、撹拌下で行ってもよい。代表的には、前記フィルム(およびその内包成分)および溶媒成分を含む混合物を、所定温度で所定時間混合することにより可溶化処理する場合が多い。
【0099】
可溶化温度は、特に限定されず、例えば、0〜120℃、好ましくは20〜100℃、さらに好ましくは30〜90℃程度であってもよい。特に、可溶化温度は、比較的高温[例えば、60℃以上(例えば、65〜100℃)、好ましくは70℃以上(例えば、75〜90℃)程度]であってもよい。このような高温での工程は、短時間で可溶化するのに有利である。なお、塩基性水溶液中での可溶化は、一般的な可溶化温度であっても、効率よく進行する場合が多い。
【0100】
可溶化(工程又は処理)は、好気性雰囲気下又は嫌気性雰囲気下のいずれであってもよいが、本発明のフィルムは、嫌気性雰囲気下であっても、効率よく可溶化できる。嫌気性雰囲気としては、バイオガス発生雰囲気、窒素などの不活性ガス雰囲気などが挙げられ、嫌気性雰囲気は、酸素(空気)が十分に供給されない密閉雰囲気であってもよい。
【0101】
なお、可溶化時間は、溶媒成分の種類や可溶化温度などに応じて適宜選択でき、例えば、30分〜10日、好ましくは3時間〜3日、さらに好ましくは5〜24時間程度であってもよい。特に、高温で可溶化処理すると、比較的短時間[例えば、12時間以下(例えば、30分〜10時間)、好ましくは10時間以下(例えば、1〜9時間)、さらに好ましくは8時間以下(例えば、1.5〜6時間)程度]で可溶化できる。
【0102】
そして、可溶化した前記フィルム(さらにはその内包成分など)は、メタン発酵工程に供され、メタン発酵される。なお、可溶化後の混合物は、液状成分のみをメタン発酵工程に供してもよく、そのままメタン発酵に供してもよい。メタン発酵に供する可溶化の目安としては、例えば、形状が保持できない程度に分解されていることを目安としてもよい。なお、メタン発酵は、公知のメタン発酵菌やメタン発光槽を用いて行うことができる。
【実施例】
【0103】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0104】
なお、実施例および比較例において、以下の材料を使用した。
【0105】
[(A)ポリ乳酸樹脂]
ポリ乳酸(大神薬化株式会社 海正生物材料(中国)「REVODE(レヴォダ)」)
[(B)軟質系生分解性樹脂(軟質樹脂)]
(B1)ポリブチレンサクシネート(三菱化学株式会社製 「GSプラ AD92W」)
(B2)ポリブチレンサクシネートアジペート(昭和高分子株式会社製 「ビオノーレ#300」)
[(C)可塑剤]
アジピン酸エステル(大八化学工業株式会社製 「DAIFATTY−101」)
[(D)増粘剤]
(D1)エポキシ基を有するアクリル系ポリマー(東亞合成株式会社製 「ARUFON UG4040」、重量平均分子量11000、エポキシ当量2.1meq/g)
(D2)エポキシを有するポリマー(住友化学株式会社製 「ボンドファーストCG5004」、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体(グリシジルメタクリレートの割合19%、エポキシ当量1.34meq/g、重量平均分子量約5000)
[(E)アンチブロッキング(AB)剤]
(E1)ゼオライト系アンチブロッキング剤(東京インキ株式会社製 バイオプラ用アンチブロッキング剤 「TEPBP−AB1」、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT、商品名「エコフレックス」)40質量部およびタルク60質量部に、分散剤(ワックス成分)5質量部添加したもの)
(E2)シリカ系アンチブロッキング剤[直鎖状低密度ポリエチレン(プライムポリマー(株)製 「ウルトゼックス2022L」)にシリカ(東海化学工業所(株)製 「ML367」)を10重量%の割合で混練したもの]
なお、実施例3〜5では、アンチブロッキング剤をインフレーション成形時に混合した。
【0106】
[(F)スリップ(S)剤]
(F)エルカ酸アミド(昭和高分子株式会社製 スリップ剤「3010MB」(エルカ酸アミド5質量%、昭和高分子株式会社製 ビオノーレ90質量%、シリカ5質量%の混合物)(メルトフローレート6.9)
[(G)着色剤]
緑色着色剤(東京インキ株式会社製 FB632グリーン、LLDPEベースに緑色顔料および分散剤(ワックス成分)を添加したもの)。
【0107】
上記材料を用いて、樹脂組成物の調製及びフィルムの作製を行い、以下のようにして、各種測定及び評価を行った。
(折り曲げ試験)
表1に示す比率で、ポリ乳酸に各成分を混合した後、小型二軸押出機(株式会社テクノベル製、KZW15−30MG)を用いて混練温度190℃(比較例4〜6)又は180℃(比較例4〜6以外)にて、溶融混練し、その後、約3mm直径で水中に押し出し、冷却固化して得たストランドの折り曲げ試験を行い、以下の基準で評価した。なお、容易に割れたり、白化が激しいものは樹脂に粘りが乏しく、インフレーション成形や、Tダイ式フィルム成形に適していない。
◎:折り曲げても変化なし。
○:折り曲げた時にわずかに、ひび割れや白化が見られる。
△:折り曲げた時に一部に、ひび割れや白化が見られる。
×:折り曲げた時に割れや広範囲の白化が見られる。
【0108】
(コンパウンド性)
表1に示す比率で、ポリ乳酸に各成分を混合後、二軸押出機を用いて混練温度180℃にて、溶融混練し、その後、約3mm直径で水中に押し出し、固化し、次いで3mm長に切断し、コンパウンド樹脂を得た。なお、コンパウンド樹脂は脱湿乾燥空気(露点:−35℃)に乾燥し、水分率を100重量ppm以下とした。コンパウンド性(コンパウンドしやすさ)を以下の基準で評価した。
◎:溶融粘度が高く、コンパウンド化しやすい。
○:溶融粘度がある程度高く、コンパウンド化できる。
△:溶融粘度がやや低く、コンパウンド化しにくい。
×:溶融粘度が低く、コンパウンド化できない。
【0109】
(メルトフローレート)
メルトインデクサー(東洋精機社製)のシリンダーに、代表的な実施例および比較例について、前記コンパウンド性の評価において用いた乾燥したコンパウンド樹脂を充填して、表1に示す所定の温度(190℃、150℃および190℃)にて5分間保持後、重さ2.16kgのプランジャーをシリンダーの上部に乗せて、n=3で10〜30秒間にシリンダーの下部から流出する樹脂の質量を測定し、10分間にシリンダーの下部から流出する樹脂の質量に換算した。
【0110】
(溶融粘度)
代表的な実施例および比較例について、前記乾燥したコンパウンド樹脂の溶融粘度ηを、キャピラリーフローテスター[東洋精機社製、IMC−1544(毛管サイズ:L=10mm、D=1mm)]を用いて、温度190℃、せん断速度600s−1の条件で測定した。なお、製膜には、190℃において特に90Pa・s以上の溶融粘度を有しているのが有利であることが経験的にわかっている。
【0111】
(インフレーション成形性)
前記乾燥したコンパウンド樹脂を用いて通法通りインフレーションフィルムを作製した。まず、コンパウンド樹脂を、各コンパウンド樹脂の溶融に適した温度勾配を有する単軸押出機にて溶融混練し、直径85mmの円形のダイスより押し出した。内圧の調整によりブロー比(BUR)を変化させた(ブロー比=1〜5の範囲)。また、フィルム厚みは押し出し量を調整し、25〜80μmとした。そして、以下の基準でインフレーション成形性を評価した。
◎:適度な溶融粘度を有し、インフレーション成形性に優れる。また、ブロッキングも全く起こっていない。
○:支障なくインフレーション成形できる。また、ブロッキングはないか、あっても支障がない程度である。
△:インフレーション成形性に乏しい。あるいは、ブロッキングが少し起こっている。
×:インフレーション成形できない。あるいは、ブロッキングがかなり起こっている。
【0112】
(フィルム強度)
インフレーション成形により得られた前記フィルムから平行部10mm、標点間隔40mm、長さ100mmのダンベル状試験片を切り出し、この試験片を引張速度500mm/minの条件で引っ張り、引張強さ(MPa)と破断伸び(%)を測定し、以下の基準で評価した。
◎:引張強さ25以上、破断伸び200以上
○:引張強さ20以上25未満、破断伸び150以上200未満
△:引張強さ15以上〜20未満、破断伸び100以上150未満
×:引張強さ15未満、破断伸び100未満。
【0113】
(ヒートシール強度)
インフレーション成形により得られた前記フィルムから15mm×100mmの短冊状試験片2枚を切り出し、この2枚の短冊状試験片を重ね合わせ、一方端から10mmまでの部分(15mm×10mmの大きさ)を卓上バキュームシーラーで融着した。その後、融着されていない他方端同士を引張試験機を用いて引張速度100mm/minの条件で引っ張り、融着部の破断荷重(N)を測定し、以下の基準で評価した。
◎:破断荷重10以上
○:破断荷重8以上10未満
△:破断荷重5以上8未満
×:破断荷重5未満。
【0114】
(可溶化実験)
インフレーション成形により得られた前記フィルムのフィルム片(インフレーション成形できなかったものについては、得られたコンパウンド樹脂をアイロンで薄くフィルム状にして得たフィルム片)を、1質量%炭酸アンモニウム水溶液20mlにコンパウンド樹脂0.2gの割合(固液比=10kgコンパウンド樹脂/m)になるように投入し、上部気体を窒素で置換して嫌気状態としたのち密閉バイアル内で80℃に加温した。24時間経過後に、バイアル内液体を混合状態で1mlとり、生ごみを基質として55℃で継続的に運転している高温メタン発酵汚泥19mlと混合し、上部気体を窒素で置換して嫌気状態としたのち密閉バイアル内で55℃に加温した。6日間放置した後のメタン化率を以下の計算式で算出した。
メタン化率=発生したバイオガスのCOD当量/コンパウンド樹脂0.01gのCOD当量
なお、バイオガスのCOD当量はバイオガス中のメタン濃度から、メタンの燃焼式をもとに算出した。コンパウンド樹脂のCOD当量はHACH社製CODcr測定試薬を用いて実測した。
【0115】
そして、メタン化率の値を以下の基準で評価した。
◎:経過時間144時間(6日間)で90%以上
○:経過時間144時間(6日間)70%以上90%未満
△:経過時間144時間(6日間)50%以上70%未満
×:経過時間144時間(6日間)50%未満。
【0116】
表1に樹脂組成物の組成、表2に各種測定及び評価の結果を示す。なお、表1において、組成(組成の単位)は、断りのない限り、「質量部」である。また、評価において、特筆すべき事項については、○などの評価以外にも記載している。
【0117】
【表1】

【0118】
【表2】

【0119】
【表3】

【0120】
【表4】

【0121】
さらに、代表的な実施例のフィルムとして実施例3のインフレーションフィルム、比較例1(ポリ乳酸)のフィルム、および比較例8(ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート(重量比)=60/40)のフィルム、および比較例15[ポリエチレン(LLDPE)]に対応するフィルム(エコビズ(株)製)の抗菌活性値を、「JIS Z 2801 :2000 抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果」の試験方法に従い、以下のようにして測定した。
【0122】
すなわち、フィルムを5cm×5cmに切断した試験片を、滅菌済みシャーレ内に置き、濃度10個/mLの試験菌液[ST培地(標準寒天培地「ダイゴ」23.5gおよび蒸留水1000mL(pH7.2)の培地)で培養した菌液を1/500NB(肉エキス3.0g、ペプトン10.0g、塩化ナトリウム5.0gおよび蒸留水1000mL(pH7.2)のNB培地)で1000倍希釈して調製したもの]0.4mLを滴下した。その上に、別のフィルム(ストマッカー袋を4cm×4cmにカットしたもの)をかぶせ、試験菌液がフィルム全体に行き渡るように軽く押さえて、シャーレのふたをした。そして、蒸発を防ぐため、袋に入れて、恒温槽内で35℃、24時間放置した。なお、試験数は各フィルムに対して3検体行い、これらの平均値をとった。
【0123】
そして、試験菌液を接種直後の試験片、フィルムおよび菌液を50mLのチューブに入れ、SCDLP培地(ペプトン20g、塩化カリウム5.0g、リン酸二水素カリウム2.5g、グルコース2.5g、レシチン1g、非イオン界面活性剤(和光純薬(株)製、商品名「TRITONX100」)7g、蒸留水1000mL(pH7.2)の培地)10mLを加えて、ボルテックス(1分間、ボリューム7)で振とうさせて洗い出しを行った。この試験液を生理食塩水(0.85%)で原液、10−1、10−2、10−3希釈し、シャーレに各希釈液1mLと前記ST培地(50℃)10mLを加えて、混釈培養を行った。35℃、48時間培養後、コロニーを計測し、この結果から以下の式を用いて、抗菌活性値を算出した。
抗菌活性値={log(B/A)−log(C/A)}=log(B/C)
A:無加工の試験片の接種直後の生菌数の平均値(個)
B:無加工の試験片の24時間後の生菌数の平均値(個)
C:各試験片の24時間後の生菌数の平均値(個)。
【0124】
なお、無加工の試験片としては、ポリエチレン(LLDPE)製フィルム(エコビズ(株)製)を用いた。
【0125】
結果を表3に示す。
【0126】
【表5】

【0127】
表3の結果から明らかなように、実施例で得られたインフレーションフィルムは、意外にも、抗菌作用を有していることがわかった。そのため、生ごみの腐敗防止、ごみ袋からの雑菌の感染を防止する効果が期待できる。一方、比較例1のポリ乳酸フィルムは、抗菌性に乏しいことがわかった。また、比較例8で得られたフィルムは、生分解性フィルムとして知られている吉忠化学工業(株)製「エコポリングリーン」と同様の組成のフィルムであり、このフィルムでも抗菌作用を有していることがわかった。しかし、このフィルムは、前記のように、可溶化しにくい。
【0128】
なお、抗菌作用を発現する理由は定かではないが、フィルム(ごみ袋)の表面に水分が付着すると、表面の一部のポリ乳酸が加水分解して、乳酸を生成することによりpHが下がったことが一因であるものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸で形成されているにもかかわらず、適度な溶融粘度を有しており、フィルム成形性(特にインフレーション成形性)に優れている。また、本発明の樹脂組成物(又はフィルム)は、十分な強度および柔軟性を有している。しかも、ポリ乳酸単独の場合に比べ、ヒートシール性に優れており、インフレーション成形などにより袋状に成形又は融着しても、融着部において十分なシール強度を保持できる。さらに、本発明のフィルムは、抗菌作用も有している。特に、本発明のフィルムは、メタン発酵において嫌気性雰囲気下で可溶化できる。そのため、本発明の樹脂組成物は、フィルム成形用(特に、インフレーション成形用)樹脂組成物などとして好適である。そして、本発明のフィルムは、優れた生分解性やフィルム特性のみならず、容易に(又は短時間に)可溶化できるため、袋状フィルム、特に、ごみ袋などとして好適に利用できる。このような本発明のフィルムで形成されたごみ袋は、分別することなく生ごみなどとともにメタン発酵技術によりバイオガス化できる。通常、生ゴミを含むごみ袋において、ごみ袋の重量は10質量%程度であるので、ごみ袋を一緒にメタン発酵することにより、エネルギー回収量を10%程度増加させることができる。なお、本発明の樹脂組成物およびフィルムは、可溶化できるが、可溶化により形状が保持できない程度に分解されていれば、可溶化後において、各成分(可塑剤、増粘作用を有するポリマー、軟質樹脂など)が残渣として残っていてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸と、ポリ乳酸を可塑化するための可塑剤と、増粘作用を有するポリマーとで構成されたポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸と、軟質樹脂と、増粘作用を有するポリマーとで構成されたポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、ポリ乳酸を可塑化するための可塑剤を含む請求項2記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
可塑剤が、エステル系可塑剤である請求項1又は3記載の樹脂組成物。
【請求項5】
可塑剤が、脂肪族ジカルボン酸エステルである請求項1、3又は4記載の樹脂組成物。
【請求項6】
可塑剤の割合が、ポリ乳酸100重量部に対して5〜25質量部である請求項1、3、4、又は5記載の樹脂組成物。
【請求項7】
軟質樹脂が、脂肪族ポリエステル樹脂である請求項2記載の樹脂組成物。
【請求項8】
ポリ乳酸と軟質樹脂との割合が、前者/後者=98/2〜50/50である請求項2、3又は7記載の樹脂組成物。
【請求項9】
増粘作用を有するポリマーが、ヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基に対する反応性基を有するポリマーである請求項1〜8のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項10】
反応性基が、エポキシ基である請求項9記載の樹脂組成物。
【請求項11】
反応性基を有するポリマーにおいて、反応性基の割合が、ポリマー1kgあたり0.1〜5モルである請求項9又は10記載の樹脂組成物。
【請求項12】
増粘作用を有するポリマーの割合が、ポリ乳酸100質量部に対して、1〜15質量部である請求項1〜11のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項13】
さらに、ポリ乳酸100質量部に対して、アンチブロッキング剤0.1〜10質量部を含む請求項1〜12のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項14】
溶融粘度が、温度190℃およびせん断速度600s−1において、70〜500Pa・sである請求項1〜13のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項15】
インフレーション成形用樹脂組成物である請求項1〜14のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の樹脂組成物で形成されたフィルム。
【請求項17】
インフレーションフィルムである請求項16記載のフィルム。
【請求項18】
引張強度が10〜50MPaであり、破断伸びが100〜600%である請求項16又は17記載のフィルム。
【請求項19】
請求項1〜15のいずれかに記載の樹脂組成物をインフレーション成形し、袋状のフィルムを製造する方法。

【公開番号】特開2011−52149(P2011−52149A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203623(P2009−203623)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】