説明

ポリ乳酸樹脂組成物

【課題】耐熱性、耐衝撃性および柔軟性に優れたポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)、結晶核剤(B)および合成繊維(C)を含有し、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、結晶核剤(B)を0.03〜10質量部、合成繊維(C)を1〜100質量部含有し、前記ポリ乳酸樹脂(A)は、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶性に優れたポリ乳酸樹脂を主成分とし、合成繊維を含有するポリ乳酸樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品のための原料として、一般的に、ポリプロピレン(PP)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリアミド6やポリアミド66などのポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂などが使用されている。このような樹脂から製造された成形物は成形性や機械的強度に優れているが、廃棄する際にゴミの量を増すうえに、自然環境下で殆ど分解されないために埋設処理しても半永久的に地中に残留するという問題がある。
【0003】
一方、近年、環境保全の見地からポリ乳酸をはじめとする生分解性ポリエステル樹脂が注目されている。生分解性樹脂の中でも、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどは、大量生産可能なためコストも安く有用性が高いものである。なかでも、ポリ乳酸はトウモロコシやサツマイモ等の植物を原料として製造可能であるため、特に好ましいものである。
【0004】
しかしながら、ポリ乳酸をそのまま一般工業製品として用いると、耐衝撃性などの機械的強度や耐熱性が必ずしも十分であるとはいえない場合があった。また、携帯電話カバーなどの日常的な着脱を前提とした製品については、上記の耐熱性や機械的強度に加えて、さらに、ある程度以上の柔軟性を備えていることが求められる。
【0005】
耐熱性、機械的強度、柔軟性を兼備したポリ乳酸樹脂を得るために、乳酸系樹脂を主体とする生分解性樹脂を、アラミド(芳香族ポリアミド)繊維で強化した成形体が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、その耐熱性や耐衝撃性改善効果は不十分であり、実用に耐えうるレベルの耐熱性を得るためには、成形後にベーキング処理を要していた。そのため、工程が煩雑になったりコストアップに繋がったりするという問題があった。しかも、得られた成形体のベーキング後の柔軟性は、不十分である場合があった。
【0006】
一方、耐熱性、機械的強度、柔軟性を兼備したポリ乳酸樹脂を得るために、ポリ乳酸を(メタ)アクリル酸エステル化合物および過酸化物とともに混練した樹脂組成物が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2の場合は、耐衝撃性が不十分な場合があった。
【0007】
また、耐熱性、機械的強度、柔軟性を兼備したポリ乳酸樹脂を得るために、有機高強度繊維等を用いることが提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、特許文献3の場合には、ポリ乳酸樹脂の結晶化速度に起因する成形性の低下を、十分に抑制できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−23250号公報
【特許文献2】特開2003−128901号公報
【特許文献3】WO2007/015371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記の問題点を解決しようとするものであり、耐熱性、耐衝撃性および柔軟性に優れたポリ乳酸樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決する為に鋭意研究の結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明の趣旨は下記の通りである。
(1)ポリ乳酸樹脂(A)、結晶核剤(B)および合成繊維(C)を含有する樹脂組成物であって、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、結晶核剤(B)を0.03〜10質量部、合成繊維(C)を1〜100質量部含有し、前記ポリ乳酸樹脂(A)は、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であることを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物。
(2)ポリ乳酸樹脂(A)、合成繊維(C)および(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)を含有する樹脂組成物であって、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、合成繊維(C)を1〜100質量部含有し、(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)を0.01〜40質量部含有し、前記ポリ乳酸樹脂(A)は、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であることを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物。
(3)結晶核剤(B)が、有機アミド化合物、有機ヒドラジド化合物、カルボン酸エステル系化合物、有機スルホン酸塩、フタロシアニン系化合物、メラミン系化合物、および有機ホスホン酸塩から選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)のポリ乳酸樹脂組成物。
(4)ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、およびオキサゾリン化合物から選ばれる1種以上の反応性化合物を0.1〜10質量部を含有することを特徴とする(1)〜(3)いずれかのポリ乳酸樹脂組成物。
(5)合成繊維(C)がポリエステル繊維であることを特徴とする(1)〜(4)いずれかのポリ乳酸樹脂組成物。
(6)合成繊維(C)が幅0.5〜10mm、長さ0.5〜10mmに集束されたものであることを特徴とする(1)〜(5)いずれかのポリ乳酸樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、D体含有量が特定範囲のポリ乳酸樹脂を用いるものであり、かつ結晶核剤や(メタ)アクリル酸エステル化合物を含有する。そのため、結晶性に優れており、耐熱性に優れた成形体を成形性よく得ることができる。さらに、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、合成繊維を含有することにより耐衝撃性と柔軟性にも優れた性能を有する。本発明のポリ乳酸樹脂組成物を電子機器の筐体や着脱部に用いることで、低環境負荷材料であるポリ乳酸樹脂の使用範囲を大きく広げることができ、産業上の利用価値はきわめて高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリ乳酸樹脂組成物を構成するポリ乳酸樹脂(A)は、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または、D体含有量が99.0モル%以上であることが必要である。中でも、D体含有量が0.1〜0.6モル%であるか、または、99.4〜99.9モル%であることが好ましい。さらに、D体含有量が0.1〜0.4モル%であるか、または、99.6〜99.9モル%であることがより好ましい。D体含有量がこの範囲内であることにより、結晶性に優れ、成形時の操業性(成形性)および耐熱性が向上する。加えて、D体含有量がこの範囲のポリ乳酸樹脂を用いると、後述するカルボジイミド化合物を含有することにより、向上する効果である耐熱性が向上する。つまり、D体含有量がこの範囲外であるポリ乳酸樹脂であると、結晶性が向上せず、耐熱性や耐湿熱性を向上させることが困難となる。
【0013】
本発明において、ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量とは、ポリ乳酸樹脂(A)を構成する総乳酸単位のうち、D乳酸単位が占める割合(モル%)である。したがって、例えば、D体含有量が1.0モル%のポリ乳酸樹脂(A)の場合、このポリ乳酸樹脂(A)は、D乳酸単位が占める割合が1.0モル%であり、L乳酸単位が占める割合が99.0モル%である。
【0014】
本発明においては、ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量は、実施例にて後述するように、ポリ乳酸樹脂(A)を分解して得られるL乳酸とD乳酸を全てメチルエステル化し、L乳酸のメチルエステルとD乳酸のメチルエステルとをガスクロマトグラフィー分析機で分析する方法により算出するものである。
【0015】
また、本発明において、ポリ乳酸樹脂(A)の溶融粘度を指標として用いる場合には、ポリ乳酸樹脂の190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が0.1〜50g/10分のものが好ましく、より好ましくは0.2〜40g/10分である。メルトフローレートが50g/10分を超える場合は、溶融粘度が低すぎて成形体の機械的特性や耐熱性が劣る。メルトフローレートが0.1g/10分未満の場合は、成形加工時の負荷が高くなりすぎ操業性が低下する場合がある。上記のメルトフローレートを所定の範囲に制御する方法として、メルトフローレートが大きすぎる場合には、少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、ビスオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を用いて樹脂の分子量を増大させる方法が使用できる。逆に、メルトフローレートが小さすぎる場合には、メルトフローレートの大きな生分解性ポリエステル樹脂などの低分子量化合物と混合する方法などが挙げられる。
【0016】
本発明に用いるポリ乳酸樹脂(A)としては、市販の各種ポリ乳酸樹脂のうち、D体含有量が本発明で規定する範囲のポリ乳酸樹脂を用いることができる。具体的には、トヨタ自動車社製の「S−06」、「S−12」、「S−17」、「A−1」などを用いることができる。また、乳酸の環状2量体であるラクチドのうち、D体含有量が十分に低いL-ラクチド、または、L体含有量が十分に低いD-ラクチドを原料に用い、公知の溶融重合法で、あるいは、さらに固相重合法を併用して製造したポリ乳酸樹脂(A)を用いることができる。
【0017】
本発明においては、ポリ乳酸樹脂(A)は結晶化が促進されていることが必要である。結晶化が促進されたポリ乳酸樹脂(A)として、以下の(I)、(II)、(III)のいずれかのポリ乳酸樹脂(A)が挙げられる。
(I)結晶核剤(B)が含有されている。
(II)(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)が含有されている。
(III)結晶核剤(B)が含有されており、かつ(メタ)アクリル酸エステル化合物が含有されている。
【0018】
上記の(I)について、以下に述べる。上記の(I)において用いられる結晶核剤(B)は、ポリ乳酸樹脂の結晶化を促進することを目的として使用されるものである。
【0019】
結晶核剤として用いる化合物については、特に限定されず、種々のものを用いることができる。なかでも、結晶化促進効果の点から、有機アミド化合物、有機ヒドラジド化合物、カルボン酸エステル系化合物、有機スルホン酸塩、フタロシアニン系化合物、メラミン系化合物、および有機ホスホン酸塩から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0020】
有機アミド化合物や有機ヒドラジド化合物の具体的な化合物としては、例えば、ヘキサメチレンビス−9、10−ジヒドロキシステアリン酸ビスアミド、p−キシリレンビス−9、10−ジヒドロキシステアリン酸アミド、デカンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド、ヘキサンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジアニリド、N,N′,N″−トリシクロヘキシルトリメシン酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアニリド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド、N,N′−ジベンゾイル−1,4−ジアミノシクロヘキサン、N,N′−ジシクロヘキサンカルボニル−1,5−ジアミノナフタレン、エチレンビスステアリン酸アミド、N,N′−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸)アミド、オクタンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジドなどが挙げられる。
【0021】
このうち、樹脂中への分散性および耐熱性の面から、N,N′,N″−トリシクロヘキシルトリメシン酸アミド、N,N′−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸)アミド、オクタンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジドが好ましく、さらに、N,N′,N″−トリシクロヘキシルトリメシン酸アミド、N,N′−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸)アミドが特に好ましい。
【0022】
カルボン酸エステル系化合物としては、種々のものを用いることができる。なかでも、脂肪族ビスヒドロキシカルボン酸エステルが好ましい。
【0023】
有機スルホン酸塩としては、スルホイソフタル酸塩など、種々のものを用いることができる。なかでも、結晶化促進効果の点から、5−スルホイソフタル酸ジメチル金属塩が好ましい。さらに、バリウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、ナトリウム塩などが好ましい。
【0024】
フタロシアニン系化合物としては、種々のものをも用いることができる。なかでも、結晶化促進効果の点から、遷移金属錯体を用いることが好ましく、銅フタロシアニンが特に好ましい。メラミン系化合物としては、種々のものを用いることができるが、結晶化促進効果の点から、メラミンシアヌレートを用いることが好ましい。
【0025】
有機ホスホン酸塩としては、結晶化促進効果の点から、フェニルホスホン酸塩が好ましい。そのうち、特にフェニルホスホン酸亜鉛が好ましい。
【0026】
結晶核剤(B)としては、これらのものを単独で用いてもよいし、あるいは、2種以上を併用してもよい。なお、これら有機系の結晶核剤に対して、無機系の各種結晶核剤を併用しても構わない。
【0027】
結晶核剤(B)としては、市販品を好適に使用することができ、例えば、川研ファインケミカル社製「WX−1」(脂肪酸アマイド系結晶核剤)、新日本理化社製「TF−1」(トリメシン酸アミド系核剤)、アデカ社製「T−1287N」(有機ヒドラジド系核剤)、トヨタ社製「KX238B」(ポリ乳酸ベースの結晶核剤を10質量%含有したマスターバッチ)、竹本油脂社製「LAK−403」(有機スルホン酸塩系核剤)、竹本油脂社製「TLA114」(有機スルホン酸塩)などが挙げられる。
【0028】
上記の(I)において、結晶核剤(B)の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、0.03〜10質量部であり、中でも0.1〜8質量部であることが好ましい。結晶核剤(B)の含有量が0.03質量部未満であると、ポリ乳酸樹脂(A)の結晶化促進効果が乏しい。一方、10質量部を超えると、結晶核剤としての効果が飽和し経済的に不利であるだけでなく、ポリ乳酸樹脂が生分解した後の残渣分が増大するため、環境面でも好ましくない。また、物性性能においても柔軟性や耐衝撃性への悪影響を及ぼす可能性が高く、好ましくない。
【0029】
上記の(II)について以下に述べる。上記の(II)にて用いられる(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)は、ポリ乳酸の分子どうしを連結して結晶化を促進することにより、その耐熱性を向上させるために使用されるものである。
【0030】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)としては、ポリ乳酸樹脂との反応性が高く、モノマーが残りにくく、かつ、毒性が比較的少なく、樹脂の着色も少ないことから、分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するか、または、1個以上の(メタ)アクリル基と1個以上のグリシジル基もしくはビニル基を有する化合物が好ましい。
【0031】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)としては、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリセロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、アリロキシ(ポリ)エチレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールジアクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジメタクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジアクリレート、(ポリ)テトラメチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。また、これらにおけるアルキレングリコール部が様々な長さのアルキレンの共重合体であるものでもよい。さらに、ブタンジオールメタクリレート、ブタンジオールアクリレート等が挙げられる。
【0032】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物中の(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して0.01〜40質量部であり、中でも0.03〜10質量部であることが好ましく、0.05〜8質量部あることがより好ましい。含有量が0.01質量部未満であると、ポリ乳酸の分子どうしを連結して結晶化を促進する効果に乏しく、ポリ乳酸樹脂(A)の耐熱性の向上効果が認められない。一方、40質量部を超えると、混練時の操業性が著しく悪化するため好ましくない。
【0033】
上記の(II)においては、(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)とともに過酸化物を用いることが好ましい。過酸化物は、(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)とポリ乳酸樹脂(A)との反応を促進し、結晶化をさらに促進させるものである。その具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ビス(ブチルパーオキシ)シクロドデカン、ブチルビス(ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキシン、ブチルパーオキシクメン等が挙げられる。
【0034】
(メタ)アクリル酸エステル化合物とともに過酸化物を用いる場合は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して0.01〜40質量部配合させることが好ましく、0.03〜10質量部配合させることがより好ましい。40質量部を超えても使用できるが、混練時のスクリュー回転への負荷が不安定となり、押出機モーターの定格負荷(トルク)を超え、停止してしまうなど、操業時トラブルの懸念がある。加えて、コスト面では不利となる場合がある。一方、0.01質量部未満の場合は、配合の効果が認められない場合がある。なお、こうした過酸化物は、樹脂との混合の際に分解する場合があるため、たとえ配合されても、得られた樹脂組成物中には含まれていない場合がある。
【0035】
上記の(III)は、上記の(I)と(II)を併用してもよいことを示すものである。つまり、本発明の樹脂組成物は、結晶核剤(B)と(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)の両者を含有していてもよいものである。上記の(I)と(II)を併用する場合の本発明の樹脂組成物中の結晶核剤(B)と(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)の含有量は、上記(I)と(II)の含有量の範囲を満足することが好ましい。
【0036】
なお、上記の(I)、(II)および(III)において、結晶核剤(B)、(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)、過酸化物は、任意の段階でポリ乳酸樹脂に配合することができる。
【0037】
また、本発明の樹脂組成物は、合成繊維(C)を含有するものである。合成繊維(C)は、ポリ乳酸樹脂に柔軟性、耐衝撃性を付与することを目的として含有されるものである。樹脂の強化に用いる繊維としては、一般的には、ガラス繊維が挙げられる。しかし、ガラス繊維のような無機系繊維のみを含有させる場合は、剛性が向上することによる強度増大効果は得られるものの、当然ながら柔軟性は低下し同時に弾性率が増大する。そのため、小さい歪においても破断してしまい、つまり破断歪が低くなるという欠点がある。加えて、無機系繊維は、耐衝撃性を向上させる効果においても、合成繊維(C)に比べて大きく劣るという欠点がある。
【0038】
したがって、本発明の樹脂組成物中には合成繊維(C)を含有させることが必要であり、さらに、柔軟性および耐熱性を同時に向上させるために、合成繊維(C)とともにガラス繊維を含有させることが好ましいものである。
【0039】
合成繊維(C)は、十分な耐衝撃性の向上効果を奏するために、強度が10〜40cN/dtexであることが好ましく、20〜40cN/dtexであることがより好ましい。なお、強度はJIS L1015.8.7の引張強さ及び伸び率に従って測定する値である。
【0040】
本発明における合成繊維(C)としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維など、各種のものを用いることができる。ポリアミド繊維としてはアラミド繊維が挙げられる。本発明の樹脂組成物の耐衝撃性を向上させるためには、合成繊維(C)としてポリエステル系繊維を用いることが好ましい。さらには、90℃以下の範囲でガラス転移温度が観測されないポリエステル繊維を用いることが好ましく、このようなポリエステル繊維を用いることにより、成形加工時の結晶化が促進され、冷却に要する時間を短くすることができる。
【0041】
90℃以下の範囲でガラス転移温度が観測されないポリエステル繊維としては、ポリアリレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート繊維、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートイソフタレート繊維等を挙げることができる。
【0042】
このような合成繊維(C)としては、市販品を好適に使用することができる。例えば、クラレ社製のポリアリレート繊維「べクトラン」、帝人社製のアラミド繊維「テクノーラ」などが挙げられる。
【0043】
さらに、合成繊維(C)は、幅0.5〜10mm、長さ0.5〜10mmに集束されたものであることが好ましい。あらかじめ集束されていることにより、混練時における合成繊維投入部の詰まりの頻度を小さくすることができる。集束される場合の合成繊維のサイズとしては、その幅が0.5〜10mmであることが好ましく、1〜5mmであることがより好ましく、2〜4mmであることがさらに好ましい。また、その長さが0.5〜10mmであることが好ましく、1〜5mmであることがより好ましく、2〜4mmであることがさらに好ましい。
【0044】
集束された合成繊維(C)の幅や長さが、前記サイズよりも小さいサイズであると、混練時に繊維投入部において詰まりの頻度が増加する場合がある。一方、前記サイズよりも大きいサイズに集束されている場合は、混練時の分散性が低下し、ひいては耐衝撃性を低下させる場合がある。
【0045】
合成繊維(C)の集束の方法としては、以下のような方法が挙げられる。すなわち、合成繊維を目的の集束幅になるよう束ねたものを融解状態の樹脂に浸漬させて、冷却固化する。次いで、これを切断機等で目的の集束長さに切断する。
【0046】
この繊維を浸漬させる樹脂としては、合成繊維(C)がポリエステル繊維である場合には、ポリエステル樹脂を好適に用いることができる。ポリエステル樹脂以外の樹脂を用いた場合は、合成繊維とポリ乳酸樹脂との密着性が低下する場合があり、ひいては、耐衝撃性を低下させる場合がある。用いるポリエステル樹脂の具体例としては、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。なかでも、密着性の観点から、ポリ乳酸樹脂を用いることが好ましい。
【0047】
合成繊維(C)の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、1〜100質量部であり、中でも1〜90質量部であることが好ましく、2〜80質量部であることがより好ましい。合成繊維(C)の含有量が1質量部未満であると、ポリ乳酸樹脂に柔軟性、耐衝撃性を付与することができず、一方、100質量部を超えると、混練時の負荷が大きくなり、成形時の操業性に劣るものとなる。同時に、樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂(A)の割合が少なくなり、地球環境を考慮した樹脂組成物することが困難となる。
【0048】
本発明の樹脂組成物中に合成繊維(C)を含有させるには、押出機においてホッパーから添加してもよいし、あるいはサイドフィーダーを用いて混練の途中から添加してもよい。
【0049】
そして、前記したように、本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、その成形性や耐熱性の向上を目的として、合成繊維(C)とともに、ガラス繊維を含有させることが好ましい。その含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、1〜20質量部が好ましく、1〜15質量部がより好ましく、2〜10質量部がさらに好ましい。含有量が1質量部未満であると、成形性や耐熱性などへの効果が不充分となる場合があり、一方、20質量部を超えると、柔軟性に悪影響を与えるとなる場合がある。
【0050】
ガラス繊維には、樹脂との密着性を高めるために、各種の表面処理が施されていてもよい。ガラス繊維を含有させる方法としては、押出機において、ホッパーから添加してもよいし、あるいはサイドフィーダーを用いて混練の途中から添加してもよい。
【0051】
さらに、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、およびオキサゾリン化合物から選ばれる1種以上の反応性化合物を含有することが好ましい。このような反応性化合物を含有することにより、ポリ乳酸樹脂(A)に耐久性(耐湿熱性)を付与し、本発明により達成された各種性能を長期間かつ安定的に維持することができる。
【0052】
カルボジイミド化合物としては、種々のものを用いることができ、分子中に1個以上のカルボジイミド基を持つものであれば特に限定されない。カルボジイミド化合物としては、イソシアネート基を分子内に有するカルボジイミド化合物、およびイソシアネート基を分子内に有していないカルボジイミド化合物のどちらも区別無く用いることができる。
【0053】
例えば、カルボジイミド化合物としては、脂肪族モノカルボジイミド、脂肪族ポリカルボジイミド、脂環族モノカルボジイミド、脂環族ポリカルボジイミド、芳香族モノカルボジイミド、あるいは、芳香族ポリカルボジイミドなど、この範囲の全てのものを用いることができる。さらに、分子内に各種複素環、あるいは、各種官能基を持つものであっても構わない。
【0054】
脂環族モノカルボジイミドとしては、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどが挙げられる。脂環族ポリカルボジイミドとしては、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドなどが挙げられる。芳香族モノカルボジイミドとしては、N,N′−ジフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミドなどが挙げられる。芳香族ポリカルボジイミドとしては、フェニレン−p−ジイソシアネートに由来するポリカルボジイミド、1,3,5−トリイソプロピル−フェニレン−2,4−ジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドなどが挙げられる。
【0055】
カルボジイミド化合物のカルボジイミド骨格としては、N,N′−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N′−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N′−シクロヘキシルカルボジイミド、N−トリイル−N′−フェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリイルカルボジイミド、4,4′−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、N,N−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどのカルボジイミド骨格が挙げられる。
【0056】
なお、ポリカルボジイミドにおいては、その分子の両端あるいは分子中の任意の部位が、イソシアネート基等の官能基を有するものであったり、あるいは分子鎖が分岐しているなど他の部位と異なる分子構造となっていたりしても構わない。
【0057】
エポキシ化合物としては、グリシジル化合物などが挙げられ、中でもアルキルグリシジルエーテル)が好ましい。
【0058】
オキサゾリン化合物としては、アルキルオキサゾリン化合物などが挙げられ、中でも2−メチル−2−オキサゾリンや2−エチル−2−オキサゾリンなどが好ましい。
【0059】
反応性化合物は、上述のようにポリ乳酸樹脂(A)の耐久性を向上させるものであるため、これらの含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、中でも0.2〜7質量部であることがより好ましい。配合量が0.5質量部未満では反応性化合物を添加することによる上記したような効果が得られない場合があり、また、配合量が10質量部を超えると、耐熱性が低下し、また経済的にも好ましくなく、さらには、色調が大きく損なわれる場合がある。
【0060】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、その効果を大きく損なわない限りにおいて、必要に応じて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材等の添加剤を添加することができる。
【0061】
熱安定剤や酸化防止剤としては、たとえばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。
【0062】
難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤等が使用できるが、環境を配慮すると、非ハロゲン系難燃剤の使用が望ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)、無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)が挙げられる。
【0063】
充填材のうち、無機充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、マグネシア、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。なお、本発明のポリ乳酸樹脂組成物にこれらの添加剤を混合する方法は、特に限定されない。
【0064】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物の製造において、ポリ乳酸樹脂(A)、結晶核剤(B)、(メタ)アクリル酸エステル(D)、過酸化物、合成繊維(C)を混合する手段は特に限定されない。例えば、一般的な押出機を用いて溶融混練する方法を挙げることができる。混練状態をよくする意味で二軸の押出機を使用することが好ましい。混練温度は、(ポリ乳酸樹脂の融点+5)℃〜(ポリ乳酸樹脂の融点+100)℃の範囲が好ましく、また混練時間は、20秒〜30分が好ましい。これらの範囲より低温や短時間であると、混練や反応が不十分となりやすい場合がある。逆に高温や長時間であると、樹脂の分解や着色が起きる場合がある。配合方法としては、ドライブレンドする方法や、高強度繊維を粉体フィーダーにより供給する方法が好ましい。
【0065】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、および、シート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。とりわけ、射出成形法を採ることが好ましく、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等も採用できる。
【0066】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物に適した射出成形条件の一例を挙げれば、シリンダ温度を樹脂組成物の融点または流動開始温度以上、好ましくは180〜280℃、最適には200〜270℃の範囲とすることが適当である。また、金型温度は樹脂組成物の(融点−20)℃以下とすることが適当である。成形温度が低すぎると、成形品にショートが発生するなど操業性が不安定になったり、過負荷に陥りやすくなったりする。逆に、成形温度が高すぎると、樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、着色する等の問題が発生しやすくなったりする。
【0067】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、成形時に結晶化を促進させることにより、得られる成形体の耐熱性を高めることができる。成形時に結晶化を促進するための方法として、例えば射出成形時における金型内での冷却にて結晶化を促進させる方法があり、その場合には、金型温度を樹脂組成物の(ガラス転移温度+20)℃以上かつ(融点−20)℃以下の温度で所定時間保った後、ガラス転移温度以下に冷却することが好ましい。また、成形後に結晶化を促進させる方法としては、直接ガラス転移温度以下に冷却した後、再度、ガラス転移温度以上かつ(融点−20)℃以下の温度で熱処理することが好ましい。
【0068】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物を用いた成形体の具体例としては、携帯電話用ストラップ部品、うちわの骨部、ボタン、ゴルフのティー、パソコン筐体部品および筐体、携帯電話筐体部品および筐体、その他OA機器筐体部品等の電化製品用樹脂部品、バンパー、インストルメントパネル、コンソールボックス、ガーニッシュ、ドアトリム、天井、フロア、エンジン周りのパネル等の自動車用樹脂部品等が挙げられる。また、フィルム、シート、中空成形品などとすることもできる。
【実施例】
【0069】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
以下の実施例および比較例の樹脂組成物の評価に用いた測定法は、次のとおりである。
(1)ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量
得られた樹脂組成物を0.3g秤量し、1N−水酸化カリウム/メタノール溶液6mLに加え、65℃にて充分撹拌した。次いで、硫酸450μLを加えて、65℃にて撹拌し、ポリ乳酸を分解させ、サンプルとして5mLを計り取った。このサンプルに純水3mL、および、塩化メチレン13mLを混合して振り混ぜた。静置分離後、下部の有機層を約1.5mL採取し、孔径0.45μmのHPLC用ディスクフィルターでろ過後、HewletPackard製HP−6890SeriesGCsystemを用いてガスクロマトグラフィー測定した。乳酸メチルエステルの全ピーク面積に占めるD−乳酸メチルエステルのピーク面積の割合(%)を算出し、これをポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量(モル%)とした。
【0070】
(2)ポリ乳酸樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)
JIS K−7210に従い、190℃、2.16kgの荷重において測定した。
【0071】
(3)耐熱性:熱変形温度
得られた試験片を用い、ISO 75に従って、荷重1.8MPaで熱変形温度を測定した。熱変形温度は75℃以上であることが好ましい。
【0072】
(4)耐衝撃性:シャルピー衝撃値
得られた試験片を用い、ISO 179に従って測定した。シャルピー衝撃値は6.5kJ/m以上であることが好ましい。
【0073】
(5)柔軟性:曲げ弾性率、曲げ破弾歪み
得られた試験片を用い、ISO 178に従って測定した。曲げ弾性率は7.0GPa以下であることが好ましく、曲げ破断歪みは3.5%以上であることが好ましい。
【0074】
(6)合成繊維(C)のガラス転移温度
合成繊維をパンに入れ、20℃/分の速度で300℃まで昇温した後、ドライアイスにて急冷した。次に示差走査熱量測定機(DSC)において10℃/分の速度で−20℃から300℃まで昇温し、ガラス転移温度を測定した。
【0075】
(7)耐湿熱性
恒温恒湿器(ヤマト科学社製、商品名「IG400型」)を用い、得られた試験片を温度60℃、相対湿度95%の環境下に晒すことにより湿熱処理を施した。処理時間を300時間とし、処理前の試験片の曲げ強度と、湿熱処理後の試験片の曲げ強度をISO 178に従って測定し、以下の式に基づいて、曲げ強度保持率を算出した。
曲げ破断強度保持率(%)=〔(湿熱処理後の曲げ強度)/(湿熱処理前の曲げ強度)〕×100
【0076】
(8)冷却所要時間
試験片を得る際の射出成形時において、樹脂組成物が金型内に射出(充填、保圧)され、冷却された後、成形体が金型に固着せずに取り出せるようになるまでの時間(射出時からカウントした時間:秒)、または成形体が金型から抵抗なく取り出せるようになるまでの時間(射出時からカウントした時間:秒)を冷却所要時間とした。
【0077】
(9)繊維投入部の詰まり発生の時間間隔(分)
樹脂組成物(ペレット)の製造を連続して行い、その際に繊維投入部の詰まりが発生した回数をカウントし、連続して操業した時間を詰まりが発生した回数で割り、時間間隔を算出した。なお、算出した値が60分以上であったものは、「>60」と表記した。
【0078】
また、以下の実施例、比較例に用いた各種原料は、次の通りである。
ポリ乳酸樹脂(A)
・S−06:トヨタ自動車社製(D体含有量:0.2モル%、MFR:4g/10分)
・S−12:トヨタ自動車社製(D体含有量:0.1モル%、MFR:8g/10分)
・S−17:トヨタ自動車社製(D体含有量:0.1モル%、MFR:11g/10分)
・A−1:トヨタ自動車社製(D体含有量:0.6モル%、MFR:2g/10分)
・TE−4000:ユニチカ社製(D体含有量:1.4モル%、MFR:10g/10分)
【0079】
結晶核剤(B)
・KX238B:トヨタ自動車社製(ポリ乳酸ベースの結晶核剤を10%含有するマスターバッチ)
・WX−1:川研ファインケミカル社製(N,N′−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸)アミド)
・TLA114:竹本油脂社製(5−スルホイソフタル酸ジメチルバリウム)
【0080】
合成繊維(C)
・ポリアリレート繊維:クラレ社製「ベクトランHT」(強度:23cN/dtex)(以下「ベクトラン」と略称する)
・ポリエチレンテレフタレート繊維
ユニチカ社製ポリエチレンテレフタレート繊維(強度:8.5cN/dtex)(以下「PET繊維」と略称する)
・アラミド繊維
帝人社製「テクノーラ」(強度:24.7cN/dtex)(以下「テクノーラ」と略称する)
【0081】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)
・「ブレンマーPDE−50」
日本油脂社製(エチレングリコールジメタクリレート)(以下「EGDM」と略称する)
【0082】
過酸化物
・「パーブチルD」
日本油脂社製(ジ−t−ブチルパーオキサイド)
【0083】
反応性化合物
〔カルボジイミド化合物〕
・日清紡社製「LA−1」(イソシアネート基含有率1〜3%、イソシアネート変性カルボジイミド)
・ラインケミー社製「スタバクゾール I」(ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド)
〔エポキシ化合物〕
・ナガセケミテックス社製「EX−121」(2−エチルヘキシルグリシジルエーテル)
【0084】
ガラス繊維
・旭ファイバーグラス社製「FT592」
【0085】
実施例1
ベクトランを幅2mmの板状に束ねた状態で、190℃の融解ポリ乳酸樹脂(トヨタ自動車社製、「S−12」)中を10cmの長さにわたり通過させた。次に、これを空気中で冷却し、固化したものを、長さ2mmに粉砕し、ポリ乳酸樹脂により集束された合成繊維を得た。ポリ乳酸樹脂(A)としてS−06を、結晶核剤(B)としてKX238Bを用い、これらをドライブレンドして、押出機(二軸押出機;東芝機械社製、「TEM37BS型」)の根元供給口から供給し、バレル温度200℃、スクリュー回転数130rpm、吐出量15kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出しを実施した。さらに、ガラス繊維、および、合成繊維として前記の集束したベクトランをシリンダ内に供給した。そして、吐出された樹脂をペレット状にカッティングして樹脂組成物(ペレット)を得た。得られた樹脂組成物のポリ乳酸樹脂(A)、結晶核剤(B)、合成繊維(C)、ガラス繊維の含有量を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
このペレットを70℃×24時間の条件で真空乾燥したのち、射出成形機(東芝機械社製「IS−100E型」)を用いて、一般物性測定用(ISO型)試験片を作成した。
【0088】
実施例2
合成繊維(C)を、ベクトランを幅3mm、長さ3mmに集束したものに変更した以外は、実施例1と同様にして集束した合成繊維(C)を得た。そして、この合成繊維(C)の含有量、結晶核剤(B)の種類と含有量、およびガラス繊維の含有量が表1に示すものとなるように変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得、試験片を作成した。
【0089】
実施例3
合成繊維(C)を、ベクトランを幅4mm、長さ4mmに集束したものに変更した以外は、実施例1と同様にして集束した合成繊維(C)を得た。そして、この合成繊維(C)の含有量、ポリ乳酸樹脂(A)の種類、および結晶核剤(B)の種類と含有量が表1に示すものとなるように変更し、さらに反応性化合物としてのLA−1を表1に示す含有量となるようにして配合した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得、試験片を作成した。
【0090】
実施例4
表1に示すように、合成繊維(C)として集束していないベクトランを用い、ポリ乳酸樹脂(A)の種類、結晶核剤(B)の種類と配合量、合成繊維(C)およびガラス繊維の配合量を変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得、試験片を作成した。なお、集束していないベクトランとして、長さ3mmに切断されたものを用いた。
【0091】
実施例5
アラミド繊維を幅3mmの板状に束ねた状態で、190℃の融解ポリ乳酸樹脂(トヨタ自動車社製、「S-12」)中を10cmの長さにわたり通過させた。次に、これを空気中で冷却し、固化したものを、長さ3mmに粉砕し、ポリ乳酸樹脂により集束された合成繊維(C)を得た。表1に示すように、ポリ乳酸樹脂(A)の種類、結晶核剤(B)およびガラス繊維の含有量を変更し、合成繊維(C)として上記の集束したアラミド繊維を用いた以外は、実施例4と同様にして樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0092】
実施例6
表1に示すように、ポリ乳酸樹脂(A)の種類をS−12に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得、試験片を作成した。
【0093】
実施例7
表1に示すように、合成繊維(C)およびガラス繊維の含有量を変更した以外は、実施例3と同様にして樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を作成した。
【0094】
実施例8
表1に示すように、反応性化合物として12質量部のLA−1を配合した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得、試験片を作成した。
【0095】
実施例9
合成繊維(C)を、ベクトランを幅0.5mm、長さ0.5mmに集束したものに変更した以外は、実施例1と同様にして集束した合成繊維を得た。ポリ乳酸樹脂(A)としてA−1を用い、(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)と過酸化物を表1に示す配合割合でドライブレンドして添加し、さらに、反応性化合物として1.13質量部のEN160を用いた。これらを押出機(二軸押出機;東芝機械社製、「TEM37BS型」)の根元供給口から供給し、バレル温度200℃、スクリュー回転数130rpm、吐出量15kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出しを実施した。さらに、ガラス繊維および合成繊維として前記の集束した5.66質量部のベクトランを、シリンダ内に供給した。そして、吐出された樹脂をペレット状にカッティングして樹脂組成物(ペレット)を得、実施例1と同様にして試験片を作成した。
【0096】
実施例10
合成繊維(C)を、ベクトランを幅10mm、長さ10mmに集束したものに変更した以外は、実施例1と同様にして集束した合成繊維を得た。そして、表1に示すように、この合成繊維(C)を5.6質量部用い、反応性化合物を用いず、さらにガラス繊維の含有量を変更した以外は実施例9と同様にして樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を作成した。
【0097】
実施例11
表1に示すように、反応性化合物の種類をEX121に変更した以外は、実施例9と同様にして樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を作成した。
【0098】
実施例12
表1に示すように、過酸化物の配合量を45質量部とした以外は、実施例9と同様にして樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を作成した。
【0099】
実施例13
ポリ乳酸樹脂(A)としてのS−12、結晶核剤(B)としてのTLA−114、メタアクリル酸エステル化合物(D)および過酸化物を、表1に示す割合でドライブレンドして、二軸押出機の根元供給口から供給し、バレル温度200℃、スクリュー回転数130rpm、吐出量15kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出しを実施した。さらに、集束に用いる樹脂をポリエチレン(出光化学社製、「520MB」)に変更し、集束長さを3mmに変更し、集束幅を3mmに変更した以外は、実施例1と同様にして集束を実施した合成繊維を得た。そして、ガラス繊維、および上記のようにして得られた集束した合成繊維(C)を、表1に示す割合でシリンダ内に供給した。吐出された樹脂を、実施例1と同様にペレット状にカッティングして樹脂組成物(ペレット)を得、試験片を作成した。
【0100】
実施例14
PET繊維を幅3mmの板状に束ねた状態で、190℃の融解ポリ乳酸樹脂(トヨタ自動車社製、「S−12」)中を10cmの長さにわたり通過させた。次に、これを空気中で冷却し、固化したものを、長さ3mmに粉砕し、ポリ乳酸樹脂により集束された合成繊維(C)を得た。ポリ乳酸樹脂(A)としてS−17を用い、合成繊維(C)として上記のようにして集束した合成繊維を用い、さらに、表1に示すように、結晶核剤(B)の含有量、過酸化物の配合量、ガラス繊維の含有量を変更した以外は、実施例13と同様にして樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0101】
実施例2〜14についての評価結果を、表1にあわせて示す。
【0102】
比較例1
表2に示すように、合成繊維(C)を用いず、結晶核剤(B)の種類と含有量およびガラス繊維の含有量を変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得、試験片を作成した。
【0103】
【表2】

【0104】
比較例2
表2に示すように、ポリ乳酸樹脂(A)の種類をTE−4000に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得、試験片を作成した。
【0105】
比較例3
表2に示すように、結晶核剤(B)であるTLA−114の含有量を12質量部に変更した以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物を得、試験片を作成した。
【0106】
比較例4
表2に示すように、合成繊維(C)を用いず、さらにガラス繊維の配合量を変更した以外は、実施例10と同様にして樹脂組成物を得、試験片を作成した。
【0107】
比較例5
表2に示すように、ポリ乳酸樹脂(A)の種類をTE−4000に変更した以外は、実施例10と同様にして樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を作成した。
【0108】
比較例6
表2に示すように、結晶核剤(B)を用いず、合成繊維(C)、(メタ)アクリル酸エステル化合物およびガラス繊維の含有量を変更した以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を作成した。
【0109】
比較例7
表2に示すように、ポリ乳酸樹脂(A)の種類をTE−4000に変更した以外は、実施例13と同様にして樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を作成した。
【0110】
比較例8
表2に示すように、ポリ乳酸樹脂(A)の種類をS−12に変更し、結晶核剤(B)を用いず、合成繊維(C)およびガラス繊維の含有量を変更した以外は、実施例4と同様にして樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を作成した。
【0111】
比較例9
表2に示すように、結晶核剤(B)およびガラス繊維を用いず、合成繊維(C)の配合量を200質量部とした以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を作成した。
【0112】
比較例1〜9についての評価結果を、表2にあわせて示す。
【0113】
表1から明らかなように、実施例1〜14の樹脂組成物は、耐衝撃性、耐熱性、柔軟性および耐湿熱性に優れていた。さらに、混練時の繊維投入部における詰まりの発現が抑制されており、加えて成形時の冷却所要時間が短く成形性に優れるものであった。中でも、実施例1〜8、13、14の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)におけるD体含有量が、本発明におけるより好ましい範囲内のものであったため、耐熱性が特に優れていた。
【0114】
実施例3、7、8、9、11および12の樹脂組成物は、反応性化合物が配合されていたため、耐湿熱性において特に優れていた。
【0115】
実施例4の樹脂組成物は、合成繊維が集束されていなかったため、繊維投入部における詰まりが発現する頻度が高くなり、操業性に改善の余地を残すものであった。
【0116】
実施例5の樹脂組成物は、合成繊維(C)としてポリエステル繊維ではなくアラミド繊維が用いられていた。そのため、耐衝撃性に改善の余地を残すものであった。
【0117】
実施例7の樹脂組成物は、ガラス繊維を用いていないため、耐熱性および成形性に改善の余地を残すものであった。
【0118】
実施例8の樹脂組成物は反応性化合物の含有量が、本発明の好ましい範囲を超えて過多であった。そのため、成形品とした場合に黄色に着色され、色調に改善の余地を残すものであった。
【0119】
実施例10の樹脂組成物は、合成繊維(C)の集束サイズが本発明におけるより好ましい範囲を超えていたため、耐衝撃性に改善の余地を残すものであった。
【0120】
実施例13の樹脂組成物は、合成繊維(C)の集束にポリエステル樹脂であるポリエチレン樹脂を用いたため、耐衝撃性に改善の余地を残すものであった。
【0121】
実施例14の樹脂組成物は、合成繊維(C)として、76℃でガラス転移温度が観測され、かつ強度が本発明に規定する好ましい範囲からはずれているPET繊維が用いられたため、耐衝撃性に改善の余地を残すものであり、さらに成形時の冷却所要時間に改善の余地を残すものであった。
【0122】
比較例1の樹脂組成物は、合成繊維(C)を用いていないため、実施例2と対比すると、耐衝撃性および柔軟性に劣っていた。
【0123】
比較例2の樹脂組成物は、D体含有量が本発明にて規定する範囲よりも高いポリ乳酸樹脂(A)を用いた。そのため、実施例1と対比すると、冷却所要時間が長くなって成形性に劣り、さらに耐熱性に劣る結果となった。
【0124】
比較例3の樹脂組成物は結晶核剤の配合量が過多であった。そのため、柔軟性および耐衝撃性に劣るものであった。さらに、ポリ乳酸樹脂が生分解した後の残渣が増大するため、環境面において好ましくないものであった。
【0125】
比較例4の樹脂組成物は、合成繊維(C)を用いていないため、実施例10と対比すると、耐衝撃性および柔軟性に劣っていた。
【0126】
比較例5の樹脂組成物は、D体含有量が本発明にて規定する範囲よりも高いポリ乳酸樹脂(A)を用いた。そのため、実施例10と比較すると、冷却所要時間が長くなって成形性に劣り、さらに耐熱性に劣る結果となった。
【0127】
比較例6の樹脂組成物は(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)の含有量が過多であったため、混練が不可能であった。
【0128】
比較例7の樹脂組成物は、D体含有量が本発明にて規定する範囲よりも高いポリ乳酸樹脂(A)を用いた。そのため、実施例13と比較すると、冷却所要時間が長くなって成形性に劣り、さらに耐熱性に劣る結果となった。
【0129】
比較例8の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂のD体含有量は十分に低いが、結晶核剤、あるいは、(メタ)アクリル酸エステル化合物および過酸化物のうちのいずれの結晶化促進処方も施されていなかった。その結果、結晶化が極めて遅くなったため、やむなく低温(15℃)の金型で成形(非結晶)し、いわゆるアニール処理を施した。当然ながら、耐熱性に大きく劣っていた。加えて、合成繊維(C)が収束されていないため、繊維投入部における詰まりが発生する頻度が高かった。
【0130】
比較例9の樹脂組成物は合成繊維(C)の配合量が過多であったため、混練が不可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂(A)、結晶核剤(B)および合成繊維(C)を含有する樹脂組成物であって、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、結晶核剤(B)を0.03〜10質量部、合成繊維(C)を1〜100質量部含有し、前記ポリ乳酸樹脂(A)は、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であることを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸樹脂(A)、合成繊維(C)および(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)を含有する樹脂組成物であって、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、合成繊維(C)を1〜100質量部含有し、(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)を0.01〜40質量部含有し、前記ポリ乳酸樹脂(A)は、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であることを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
結晶核剤(B)が、有機アミド化合物、有機ヒドラジド化合物、カルボン酸エステル系化合物、有機スルホン酸塩、フタロシアニン系化合物、メラミン系化合物、および有機ホスホン酸塩から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、およびオキサゾリン化合物から選ばれる1種以上の反応性化合物を0.1〜10質量部を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
合成繊維(C)がポリエステル繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項6】
合成繊維(C)が幅0.5〜10mm、長さ0.5〜10mmに集束されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−180434(P2012−180434A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43430(P2011−43430)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】