説明

ポリ乳酸樹脂組成物

【課題】低温での成型体の成形加工性に優れ、生産性に優れるポリ乳酸樹脂組成物、該ポリ乳酸樹脂組成物を射出成型する射出成型体の製造方法、及び該製造方法により得られるポリ乳酸樹脂射出成型体を提供すること。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂、該ポリ乳酸樹脂100重量部に対して式(I):


(式中、R、R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示し、A、A、Aはそれぞれ独立して炭素数2又は3のアルキレン基を示し、m、n、pは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、それぞれ独立して0又は正の数であって、m+n+pが0を超え12以下を満足する数である)で表されるリン酸エステル化合物を0.1〜30重量部、及び有機結晶核剤を含有してなるポリ乳酸樹脂組成物であって、前記有機結晶核剤と前記式(I)で表されるリン酸エステル化合物の重量比が1/99〜50/50であるポリ乳酸樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂組成物に関する。更に詳しくは、日用雑貨品、家電部品、自動車部品等として好適に使用し得るポリ乳酸樹脂組成物、該ポリ乳酸樹脂組成物を射出成型する射出成型体の製造方法、及び該製造方法により得られるポリ乳酸樹脂射出成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸樹脂は、原料となるL−乳酸がトウモロコシ、芋等から抽出した糖分を用いて発酵法により生産されるため安価であること、原料が植物由来であるために二酸化炭素排出量が極めて少ないこと、また樹脂の特性として剛性が強く透明性が高いことが挙げられるため、現在その利用が期待されている。
【0003】
しかし、ポリ乳酸樹脂は成形加工性に劣るため、例えば、可塑剤を用いる技術が報告されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、脂肪族ポリエステル樹脂、充填剤及び可塑剤を含む樹脂組成物を溶融成形して原反シートとし、該原反シートを少なくとも1軸延伸した多孔性シートであって、前記充填剤の配合量が前記脂肪族ポリエステル樹脂100重量部に対して20〜300重量部であり、前記可塑剤が脂肪族リン酸エステルであり、該可塑剤の配合量が前記脂肪族ポリエステル樹脂100重量部に対して0.5〜100重量部であることを特徴とする多孔性シートが得られている。
【0005】
特許文献2では、ポリ乳酸樹脂を含む樹脂組成物であって、更に脂肪族リン酸エステル化合物及び/または有機エーテルリン酸エステル化合物を含有することを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−112868号公報
【特許文献2】特開2002−179899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の石油系樹脂の代替品として使用するために、ポリプロピレン樹脂等と同レベルの成形性も要求されるため、より低温での成形加工性が求められると共に、結晶化速度がより速く、生産性に優れたポリ乳酸樹脂組成物が望まれている。
【0008】
本発明の課題は、低温での成型体の成形加工性に優れ、生産性に優れるポリ乳酸樹脂組成物、該ポリ乳酸樹脂組成物を射出成型する射出成型体の製造方法、及び該製造方法により得られるポリ乳酸樹脂射出成型体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
〔1〕 ポリ乳酸樹脂、該ポリ乳酸樹脂100重量部に対して式(I):
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R、R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示し、A、A、Aはそれぞれ独立して炭素数2又は3のアルキレン基を示し、m、n、pは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、それぞれ独立して0又は正の数であって、m+n+pが0を超え12以下を満足する数である)
で表されるリン酸エステル化合物を0.1〜30重量部、及び有機結晶核剤を含有してなる、ポリ乳酸樹脂組成物であって、前記有機結晶核剤と前記式(I)で表されるリン酸エステル化合物の重量比(有機結晶核剤/リン酸エステル化合物)が1/99〜50/50である、ポリ乳酸樹脂組成物、
〔2〕 前記〔1〕記載のポリ乳酸樹脂組成物の溶融物を金型内にて射出成型する工程を有する、ポリ乳酸樹脂射出成型体の製造方法、ならびに
〔3〕 前記〔2〕記載の製造方法により得られた、ポリ乳酸樹脂射出成型体
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、低温での成型体の成形加工性に優れ、生産性に優れるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂に加えて、ポリ乳酸樹脂の可塑化向上の観点から、式(I):
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R、R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示し、A、A、Aはそれぞれ独立して炭素数2又は3のアルキレン基を示し、m、n、pは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、それぞれ独立して0又は正の数であって、m+n+pが0を超え12以下を満足する数である)
で表されるリン酸エステル化合物、及び有機結晶核剤を含有し、該有機結晶核剤が前記リン酸エステル化合物に対して特定量用いられていることに特徴を有する。
【0016】
<ポリ乳酸樹脂組成物>
[ポリ乳酸樹脂]
ポリ乳酸樹脂としては、市販されているポリ乳酸樹脂(例えば、三井化学社製、商品名:レイシアH−100、H−280、H−400、H−440等や、Nature Works社製、商品名:Nature Works PLA/NW3001D、NW4032D等)の他、乳酸やラクチドから公知の方法に従って合成したポリ乳酸樹脂が挙げられる。強度や耐熱性の向上の観点から、光学純度90%以上のポリ乳酸樹脂が好ましく、例えば、比較的分子量が高く、また光学純度の高いNature Works社製ポリ乳酸樹脂(NW4032D等)が好ましい。
【0017】
また、本発明において、ポリ乳酸樹脂として、ポリ乳酸樹脂組成物の強度と可撓性の両立、耐熱性及び透明性の向上の観点から、異なる異性体を主成分とする乳酸成分を用いて得られた2種類のポリ乳酸からなるステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を用いてもよい。
【0018】
ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を構成する一方のポリ乳酸〔以降、ポリ乳酸(A)と記載する〕は、L体90〜100モル%、D体を含むその他の成分0〜10モル%を含有する。他方のポリ乳酸〔以降、ポリ乳酸(B)と記載する〕は、D体90〜100モル%、L体を含むその他の成分0〜10モル%を含有する。なお、L体及びD体以外のその他の成分としては、2個以上のエステル結合を形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等が挙げられ、また、未反応の前記官能基を分子内に2つ以上有するポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等であってもよい。
【0019】
ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂における、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸(B)の重量比〔ポリ乳酸(A)/ポリ乳酸(B)〕は、10/90〜90/10が好ましく、20/80〜80/20がより好ましく、40/60〜60/40がさらに好ましい。
【0020】
また、本発明においては、前記ポリ乳酸樹脂以外に、他の生分解性樹脂が本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有されていてもよい。他の生分解性樹脂としては、ポリブチレンサクシネート等のポリエステル樹脂、ポリヒドロキシアルカン酸等が挙げられる。また、前記ポリ乳酸樹脂は、前記他の生分解性樹脂やポリプロピレン等の非生分解性樹脂とポリ乳酸とのブレンドによるポリマーアロイとして含有されていてもよい。
【0021】
ポリ乳酸樹脂の含有量は、組成物に含有される樹脂成分中、樹脂組成物の強度と可撓性を両立させ、耐熱性及び生産性を向上させる観点から、50重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、実質的に100重量%がさらに好ましい。
【0022】
[可塑剤]
式(I)で表されるリン酸エステル化合物は、ポリ乳酸樹脂との親和性に優れるだけでなく、可塑剤としての可塑化効率が極めて高いことから、有機結晶核剤による結晶化を促進し、射出成型における低い金型温度でも金型保持時間を短縮することができ、生産性を向上させることができる。これは、前記可塑剤が、オキシアルキレン構造を有するリン酸エステルという嵩高い構造を有しており、ポリ乳酸樹脂中の有機結晶核剤の分散性を高めることができ、結晶化が促進するためと考えられる。また、熱成形における成形温度幅が広がり、かつ、結晶化速度の向上により、透明性、耐熱性、成形性、嵌合性に優れるものになると推定される。
【0023】
式(I)で表される化合物は、好ましくはポリエーテル型リン酸トリエステルであり、対称構造でも非対称構造でも構わないが、製造上の簡便さからは、対称構造のリン酸トリエステルがより好ましい。
【0024】
、R、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示し、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基が挙げられるが、エチル基、プロピル基、ブチル基が好ましい。
【0025】
、A、Aは、それぞれ独立して炭素数2又は3のアルキレン基を示し、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。具体的には、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基が挙げられる。また、A、A、Aは、隣接する酸素原子とオキシアルキレン基(アルキレンオキサイド)を形成し、式(I)で表される化合物における繰り返し構造を形成する。
【0026】
m、n、pは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、それぞれ独立して0又は正の数であって、m+n+pが0を超え12以下を満足する数である。なかでも、ポリ乳酸樹脂の可塑化効果が高く、射出成型における金型保持時間を短縮する観点から、m、n、pは、好ましくは正の数であり、m+n+pは、好ましくは1〜12、より好ましくは3〜12、さらに好ましくは3を超え12以下、よりさらに好ましくは4〜9を満足する数である。
【0027】
式(I)で表される化合物の具体例としては、式(II):
【0028】
【化3】

【0029】
で表されるトリス(エトキシエトキシエチル)ホスフェート〔式(I)中、R、R、Rはいずれもエチル基、A、A、Aはいずれもエチレン基、m、n、pはいずれも2で、m+n+p=6〕の他に、トリス(メトキシエトキシエチル)ホスフェート(m+n+p=6)、トリス(プロポキシエトキシエチル)ホスフェート(m+n+p=6)、トリス(ブトキシエトキシエチル)ホスフェート(m+n+p=6)、トリス(メトキシエトキシエトキシエチル)ホスフェート(m+n+p=9)、トリス(エトキシエトキシエトキシエチル)ホスフェート(m+n+p=9)等の対称ポリエーテル型リン酸トリエステルやビス(エトキシエトキシエチル)メトキシエトキシエトキシエチルホスフェート(m+n+p=7)、ビス(メトキシエトキシエトキシエチル)エトキシエトキシエチルホスフェート(m+n+p=8)等の非対称ポリエーテル型リン酸トリエステル、あるいは炭素数1〜4のアルコールのポリオキシエチレン付加物又はポリオキシプロピレン付加物の混合物を式(I)を満たすようにリン酸トリエステル化した非対称ポリエーテル型リン酸エステルが挙げられるが、ポリ乳酸樹脂に十分な可塑化効果を付与する観点から、トリス(エトキシエトキシエチル)ホスフェートが好ましい。
【0030】
式(I)で表される化合物は、市販品であっても公知の製造方法に従って合成したものを用いてもよい。以下に、公知の製造方法により合成する場合を説明する。
【0031】
ポリエーテル型リン酸トリエステルは、例えば特開平10−17581号公報で開示されている方法により合成することが可能である。すなわち、式(III):
R−O(AO)H (III)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Aは炭素数2又は3のアルキレン基を示し、n個のAは同一もしくは異なっていてもよく、nはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を表す2〜4の数を示す)
で表される1種又は2種以上の有機ヒドロキシ化合物を、オキシハロゲン化リンと順次又は一括で反応させて、その際、副生するハロゲン化水素を反応系外に除去しながら反応を行うことで、極めて選択性良くリン酸トリエステルを製造することが可能である。副生するハロゲン化水素を反応系外に除去する方法としては、乾燥した窒素ガス等の不活性ガスを接触させる方法、あるいは減圧下で系外に除去する方法が有効である。
【0032】
式(I)で表される化合物の含有量は、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、0.1〜30重量部であり、1〜30重量部が好ましく、3〜25重量部がより好ましく、5〜20重量部がより好ましく、6〜18重量部がより更に好ましい。0.1重量部以上であると式(I)で表される化合物の可塑化向上効果が良好に発揮され、30重量部以下であると樹脂組成物が柔らか過ぎることもなく、射出成型におけるハンドリング性が良好である。
【0033】
また、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、式(I)で表される化合物以外の他の可塑剤を含有することができる。
【0034】
他の可塑剤としては、具体的には、従来からの可塑剤であるフタル酸エステルやコハク酸エステル、アジピン酸エステルといった多価カルボン酸エステル、グリセリン等脂肪族ポリオールの脂肪酸エステル等が挙げられる。なかでも、可塑剤の添加効果や耐ブリード性の向上という観点から、特開2006−176748号公報に開示されているコハク酸エステルを用いるのが好ましい。これらの含有量としては、本発明の効果を阻害しない観点から、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、20重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましく、3重量部以下がさらに好ましい。また、式(I)で表される化合物の全可塑剤中の含有量としては、延伸性の二次加工性の向上の観点から、60重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、実質的に100重量%であることがさらにより好ましい。なお、全可塑剤とは、組成物に含有される式(I)で表される化合物と他の可塑剤を合わせたものを意味する。
【0035】
[有機結晶核剤]
本発明において用いられる有機結晶核剤は、ポリ乳酸樹脂の結晶化速度を向上させ、射出成型時間を短縮する観点から、以下の(a)〜(d)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
(a)イソインドリノン骨格を有する化合物、ジケトピロロピロール骨格を有する化合物、ベンズイミダゾロン骨格を有する化合物、インジゴ骨格を有する化合物、フタロシアニン骨格を有する化合物、及びポルフィリン骨格を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物〔有機結晶核剤(a)という〕
(b)カルボヒドラジド類、メラミン化合物、ウラシル類、及びN−置換尿素類からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物〔有機結晶核剤(b)という〕
(c)芳香族スルホン酸ジアルキルの金属塩、リン酸エステルの金属塩、フェニルホスホン酸の金属塩、ロジン酸類の金属塩、芳香族カルボン酸アミド、及びロジン酸アミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物〔有機結晶核剤(c)という〕
(d)分子中に水酸基とアミド基を有する化合物及びヒドロキシ脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物〔有機結晶核剤(d)という〕
【0036】
有機結晶核剤(a)
有機結晶核剤(a)としては、イソインドリノン骨格を有する化合物、ジケトピロロピロール骨格を有する化合物、ベンズイミダゾロン骨格を有する化合物、インジゴ骨格を有する化合物、フタロシアニン骨格を有する化合物、及びポルフィリン骨格を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物が挙げられる。
【0037】
イソインドリノン骨格を有する化合物としては、イソインドリノン骨格を有する化合物及びその置換化合物が含まれ、具体的には、黄色顔料PY109、PY110、PY173、橙色顔料PO61が例示される。
【0038】
ジケトピロロピロール骨格を有する化合物としては、ジケトピロロピロール骨格を有する化合物及びその置換化合物が含まれ、具体的には、赤色顔料PR254、PR255、PR264、PR270、PR272、橙色顔料PO71、PO73が例示される。
【0039】
ベンズイミダゾロン骨格を有する化合物としては、ベンズイミダゾロン骨格を有する化合物及びその置換化合物が含まれ、具体的には、紫色顔料PV32、赤色顔料PR171、PR175、PR176、PR185、PR208、黄色顔料PY120、PY151、PY154、PY156、PY175、PY180、PY181、PY194、橙色顔料PO36、PO60、PO62、PO72が例示される。
【0040】
インジゴ骨格を有する化合物としては、インジゴ骨格を有する化合物及びその置換化合物が含まれ、具体的には、青色染料Vat Blue 1、青色顔料PB66、PB63、赤色顔料PR88、PR181、茶色顔料PBr27、インジゴカーミンが例示される。
【0041】
フタロシアニン骨格を有する化合物としては、フタロシアニン骨格を有する化合物及びその置換化合物が含まれ、具体的には、フタロシアニン、青色顔料PB15、PB15:2、PB15:3、PB15:4、PB15:5、PB15:6、PB16、緑色顔料PG7、PG36、銅フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、チタニルフタロシアニン、アルミニウムフタロシアニン、バナジウムフタロシアニン、カドミウムフタロシアニン、アンチモンフタロシアニン、クロムフタロシアニン、ゲルマニウムフタロシアニン、鉄フタロシアニン、クロロアルミニウムフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、マグネシウムフタロシアニン、ジアルキルフタロシアニン、テトラメチルフタロシアニン、テトラフェニルフタロシアニン、イソインドール環を5個持つウラニウム錯体(スーパーフタロシアニン)、イソインドール環3個からなるホウ素錯体が例示される。また、置換体としては、ハロゲン化物やアルキル化物等、次の置換基によって置換されたものも含まれる。置換基としては、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素等のハロゲン原子、メチル、エチル、プロピル等のアルキル基、メトキシ、エトキシ等のアルコキシ基、水酸基、アミノ基等が挙げられる。
【0042】
ポルフィリン骨格を有する化合物としては、ポルフィリン骨格を有する化合物及びその置換化合物が含まれ、具体的には、クロロフィル化合物、ヘミン化合物、及びそれらのエステルが挙げられる。また、置換体としては、次の置換基によって置換されたものが含まれ、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソアミル、tert−アミル、n−ヘキシル、イソヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、n−オクタデシル、n−エイコシル、n−ドコシル、n−テトラコシル等のアルキル基;ビニル、プロペニル(1−、2−)、ブテニル(1−、2−、3−)、ペンテニル、オクテニル、ブタジエニル(1,3−)等のアルケニル基;エチニル、プロピニル(1−、2−)、ブチニル(1−、2−、3−)、ペンチニル、オクチニル、デシニル等のアルキニル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等のシクロアルキル基;フェニル、ビフェニリル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、アセナフチレニル等の単環式基又は縮合多環式基等のアリール基;1−アダマンチル、2−アダマンチル、2−ノルボルナニル、5−ノルボルネン−2−イル等の架橋環式炭化水素基等で置換されたものが挙げられる。また、ハロゲン化物やスルホン化物などであってもよい。
【0043】
有機結晶核剤(b)
有機結晶核剤(b)としては、カルボヒドラジド類、メラミン化合物、ウラシル類、及びN−置換尿素類からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物が挙げられる。
【0044】
カルボヒドラジド類としては、エチレンジカルボニルジベンゾイルヒドラジド、テトラメチレンジカルボニルジベンゾイルヒドラジド、ヘキサメチレンジカルボニルジベンゾイルヒドラジド、オクタメチレンジカルボニルジベンゾイルヒドラジド、デカメチレンジカルボニルジベンゾイルヒドラジド、ドデカメチレンジカルボニルジベンゾイルヒドラジド、シクロへキシレンジカルボニルジベンゾイルヒドラジド、オクタメチレンジカルボニルジ(4−メチルベンゾイル)ヒドラジド、オクタメチレンジカルボニルジ(4−t−ブチルベンゾイル)ヒドラジド、オクタメチレンジカルボニルジ(2−メチルベンゾイル)ヒドラジド、オクタメチレンジカルボニルジ(3−メチルベンゾイル)ヒドラジドが挙げられる。
【0045】
メラミン化合物としては、メラミン、置換メラミン化合物、メラミンの脱アンモニア縮合物、メラミン類と酸との塩が挙げられる。
【0046】
置換メラミン化合物としては、メラミンのアミノ基の水素が置換された化合物が挙げられ、置換基としては、アルキル基、アルケニル基、フェニル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルキル(オキサアルキル)基、アミノアルキル基等が挙げられる。
【0047】
メラミンの脱アンモニア縮合物としては、メラム、メレム、メロン、メトン等が挙げられる。
【0048】
メラミン類と酸との塩としては、メラミン、置換メラミン化合物、メラミンの脱アンモニア縮合物から選ばれる少なくとも1つのメラミン類と酸との塩が挙げられる。酸としては、イソシアヌル酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、乳酸、クエン酸、安息香酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの有機酸;塩酸、硝酸、硫酸、ピロ硫酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、スルファミン酸塩、リン酸塩、ピロリン酸塩、ポリリン酸塩、ホスホン酸塩、フェニルホスホン酸塩、アルキルホスホン酸塩、亜リン酸塩、ホウ酸塩、タングステン酸塩などの無機酸が例示される。
【0049】
ウラシル類としては、ウラシル、6−メチルウラシル、5−メチルウラシル(チミン)、6−アザチミン、6−アザウラシル、5−クロウラシル、6−ベンジル−2−チオウラシル、5−シアノウラシル、エチル2−チオウラシル−5−カルボキシレート、5−エチルウラシル、5,6−ジヒドロ−6−メチルウラシル、5−(ヒドロキシメチル)ウラシル、5−ヨードウラシル、5−メチル−2−チオウラシル、5−ニトロウラシル、5−(トリフルオロメチル)ウラシル、2−チオウラシル、5−フルオロウラシル等が挙げられる。
【0050】
N−置換尿素類としては、キシレンビスラウリル尿素、キシレンビスミリスチル尿素、キシレンビスパルミチル尿素、キシレンビスステアリル尿素等が挙げられる。
【0051】
有機結晶核剤(c)
有機結晶核剤(c)としては、芳香族スルホン酸ジアルキルの金属塩、リン酸エステルの金属塩、フェニルホスホン酸の金属塩、ロジン酸類の金属塩、芳香族カルボン酸アミド、及びロジン酸アミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物が挙げられる。
【0052】
芳香族スルホン酸ジアルキルの金属塩としては、ビス(5-スルホイソフタル酸ジメチル)バリウム、ビス(5−スルホイソフタル酸ジメチル)カルシウム、5−スルホイソフタル酸ジメチルカリウム等が挙げられる。
【0053】
リン酸エステルの金属塩としては、ナトリウム−2,2‘−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート、アルミニウムビス(2,2’−メチレンビス−4,6−ジ−t−ブチルフェニルホスフェート)等が挙げられる。
【0054】
フェニルホスホン酸の金属塩としては、置換基を有しても良いフェニル基とホスホン基(−PO(OH))を有するフェニルホスホン酸の金属塩であり、フェニル基の置換基としては、炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基の炭素数が1〜10のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。フェニルホスホン酸の具体例としては、無置換のフェニルホスホン酸、メチルフェニルホスホン酸、エチルフェニルホスホン酸、プロピルフェニルホスホン酸、ブチルフェニルホスホン酸、ジメトキシカルボニルフェニルホスホン酸、ジエトキシカルボニルフェニルホスホン酸等が挙げられ、無置換のフェニルホスホン酸が好ましい。
【0055】
フェニルホスホン酸の金属塩としては、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、バリウム、銅、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル等の塩が挙げられ、亜鉛塩が好ましい。
【0056】
ロジン酸類の金属塩としては、ピマル酸、サンダラコピマル酸、パラストリン酸、イソピマル酸、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、メチルデヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、ジヒドロピマル酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸等が挙げられる。
【0057】
芳香族カルボン酸アミドとしては、1,3,5―ベンゼントリカルボン酸トリス(t−ブチルアミド)(トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド))、m−キシリレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、1,3,5―ベンゼントリカルボン酸トリシクロヘキシルアミド(トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド等が挙げられる。
【0058】
ロジン酸アミドとしては、p−キシリレンビスロジン酸アミド、p−フェニレンジアミンモノロジン酸アミド等が挙げられる。
【0059】
有機結晶核剤(d)
有機結晶核剤(d)としては、分子中に水酸基とアミド基を有する化合物及びヒドロキシ脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物が挙げられる。
【0060】
分子中に水酸基とアミド基を有する化合物としては、結晶化速度及びポリ乳酸樹脂との相溶性を向上させる観点から、水酸基を有する脂肪族アミドが好ましく、分子中に水酸基を2つ以上有し、アミド基を2つ以上有する脂肪族アミドがより好ましい。具体例としては、12−ヒドロキシステアリン酸モノエタノールアミド等のヒドロキシ脂肪酸モノアミド、メチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド等のヒドロキシ脂肪酸ビスアミド等が挙げられる。
【0061】
ヒドロキシ脂肪酸エステルとしては、脂肪酸の炭素数が12〜22のヒドロキシ脂肪酸エステルが好ましく、分子中に水酸基を2つ以上有し、エステル基を2つ以上有するヒドロキシ脂肪酸エステルがより好ましい。具体例としては、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド、12−ヒドロキシステアリン酸ジグリセライド、12−ヒドロキシステアリン酸モノグリセライド、ペンタエリスリトール−モノ−12−ヒドロキシステアレート、ペンタエリスリトール−ジ−12−ヒドロキシステアレート、ペンタエリスリトール−トリ−12−ヒドロキシステアレート等のヒドロキシ脂肪酸エステルが挙げられる。
【0062】
これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよく、これらのなかでも、結晶化速度を向上させ、射出成型の時間を短縮する観点から、上記結晶核剤の(a)〜(c)から選ばれる1種以上が好ましく、フェニルホスホン酸の金属塩、フタロシアニン骨格を有する化合物、及び芳香族スルホン酸ジアルキルの金属塩からなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、フェニルホスホン酸の金属塩がさらに好ましい。これは、前記式(I)で表されるリン酸エステル化合物は極性が高く、これらの極性が高い有機結晶核剤の分散性を高めることができるため、結晶性が向上されると推定される。
【0063】
ポリ乳酸樹脂組成物における、有機結晶核剤の含有量は、結晶化速度を向上させ、射出成型時間を短縮する観点から、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、0.1〜5重量部が好ましく、0.5〜3重量部がより好ましく、0.5〜2重量部がさらに好ましい。
【0064】
また、有機結晶核剤と前記式(I)で表されるリン酸エステル化合物の重量比(有機結晶核剤/リン酸エステル化合物)は、結晶化速度を向上させ、射出成型の時間を短縮する観点から、1/99〜50/50であり、2/98〜30/70が好ましく、3/97〜10/90がより好ましく、4/96〜8/92がさらに好ましい。
【0065】
また、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂、式(I)で表される化合物を含む可塑剤、及び有機結晶核剤以外に、さらに、加水分解抑制剤を含有することができる。
【0066】
[加水分解抑制剤]
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、耐久性、耐加水分解性を向上させる観点から、さらに加水分解抑制剤を含有することができる。加水分解抑制剤としては、ポリカルボジイミド化合物やモノカルボジイミド化合物等のカルボジイミド化合物が挙げられ、ポリ乳酸樹脂組成物の耐久性、耐衝撃性の観点からポリカルボジイミド化合物が好ましく、ポリ乳酸樹脂組成物の耐久性、成形性(流動性)の観点から、モノカルボジイミド化合物が好ましい。また、ポリ乳酸樹脂組成物からなる成型体の耐久性、耐衝撃性、成形性をより向上させる観点から、モノカルボジイミドとポリカルボジイミドを併用することが好ましい。
【0067】
加水分解抑制剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物からなる成型体の透明性、成形性の観点から、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、0.05〜3重量部が好ましく、0.10〜2重量部がより好ましい。
【0068】
また、本発明のポリ乳酸樹組成物には、前記以外に、更に剛性等の物性向上の観点から、無機充填剤、有機充填剤を含有することができる。
【0069】
[無機充填剤]
無機充填剤としては、通常熱可塑性樹脂の強化に用いられる繊維状、板状、粒状、粉末状のものを用いることができる。具体的には、ガラス繊維、アスベスト繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラステナイト、セピオライト、アスベスト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維及び硼素繊維などの繊維状無機充填剤、ガラスフレーク、非膨潤性雲母、膨潤性雲母、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、有機変性ベントナイト、有機変性モンモリロナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト及び白土などの板状や粒状の無機充填剤が挙げられる。これらの無機充填剤の中では、炭素繊維、ガラス繊維、ワラステナイト、マイカ、タルク及びカオリンが好ましい。また、繊維状充填剤のアスペクト比は5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、20以上であることがさらに好ましい。
【0070】
[有機充填剤]
有機充填剤としては、通常熱可塑性樹脂の強化に用いられるチップ状、繊維状、板状、粉末状のものを用いることができる。具体例としては、籾殻、木材チップ、おから、古紙粉砕材、衣料粉砕材などのチップ状のもの、綿繊維、麻繊維、竹繊維、木材繊維、ケナフ繊維、ジュート繊維、バナナ繊維、ココナッツ繊維などの植物繊維もしくはこれらの植物繊維から加工されたパルプやセルロース繊維および絹、羊毛、アンゴラ、カシミヤ、ラクダなどの動物繊維などの繊維状のもの、パルプ粉、紙粉、木粉、竹粉、セルロース粉末、籾殻粉末、果実殻粉末、キチン粉末、キトサン粉末、タンパク質、澱粉などの粉末状のものが挙げられ、成形性の観点から、紙粉、木粉、竹粉、セルロース粉末、ケナフ粉末、籾殻粉末、果実殻粉末、キチン粉末、キトサン粉末、タンパク質粉末、澱粉などの粉末状のものが好ましく、紙粉、木粉、竹粉、セルロース粉末、ケナフ粉末がより好ましい。また靱性向上の観点から、振動ロッドミル、ビーズミル等で、セルロースを非晶化した粉末の有機充填剤を用いることが好ましい。
【0071】
有機充填剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、1〜100重量部が好ましく、5〜50重量部がより好ましい。
【0072】
[その他の樹脂及び添加剤]
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂組成物からなる成型体の剛性、柔軟性、耐熱性、耐久性等の物性向上の観点から、その他の樹脂を含んでもよい。その他の樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミドなど、あるいはエチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、エチレン/プロピレンターポリマー、エチレン/ブテン−1共重合体などの軟質熱可塑性樹脂などの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などが挙げられるが、中でもポリ乳酸樹脂との相溶性の観点からアミド結合、エステル結合、カーボネート結合等のカルボニル基を含む結合を有する樹脂が、構造的にポリ乳酸樹脂と親和性が高い傾向があるため好ましい。
【0073】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、前記以外の他の成分として、本発明の目的を損なわない範囲で、通常の添加剤、例えば難燃化剤、コアシェル型ゴム等の耐衝撃性向上剤、ヒンダードフェノール又はホスファイト系の酸化防止剤、脂肪族アミド類、脂肪酸金属塩、炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、芳香族ベンゾエート系化合物、蓚酸アニリド系化合物、シアノアクリレート系化合物及びヒンダードアミン系化合物)、熱安定剤(ヒンダードフェノール系化合物、ホスファイト系化合物、チオエーテル系化合物)、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、発泡剤、離形剤、染料及び顔料を含む着色剤、防カビ剤、抗菌剤などの1種又は2種以上をさらに含有することができる。
【0074】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂、式(I)で表される化合物、及び有機結晶核剤を含有し、かつ、式(I)で表される化合物と有機結晶核剤を特定量比で含有するものであれば特に限定なく調製することができ、例えば、ポリ乳酸樹脂、式(I)で表される化合物、及び有機結晶核剤、さらに必要により各種添加剤を含有する原料を、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて溶融混練して調製することができる。なお、原料は、予めヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等を用いて均一に混合した後に、溶融混練に供することも可能である。前記溶融混練により、式(I)で表される化合物がポリ乳酸樹脂の良好な可塑剤として働くため、溶融混錬時の溶融粘度が顕著に低下するという効果も奏される。
【0075】
溶融混練温度は、有機結晶核剤の分散性の観点から、ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)以上が好ましく、好ましくはTm〜Tm+100℃の範囲であり、より好ましくはTm〜Tm+50℃の範囲である。具体的には、好ましくは170〜240℃であり、より好ましくは170〜220℃である。溶融混練時間は、溶融混練温度、混練機の種類によって一概には決定できないが、15〜900秒間が好ましい。
【0076】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、加工性が良好で、例えば200℃以下の低温で加工することができるため、可塑剤を含有していても可塑剤の分解が起こり難い利点があり、フィルムやシートに成形して、各種用途に用いることができる。
【0077】
<ポリ乳酸樹脂射出成型体及びその製造方法>
本発明のポリ乳酸樹脂射出成型体は、本発明のポリ乳酸樹脂組成物を射出成型することにより得られる。具体的には、例えば、溶融混練機を用いて、ポリ乳酸樹脂、式(I)で表される化合物、及び有機結晶核剤を溶融させながら、必要により、加水分解抑制剤等の添加剤を混合し、次に得られた溶融物を射出成形機等により金型に充填して成型する。溶融の際にポリ乳酸樹脂の可塑性を促進させるため、超臨界ガスを存在させて溶融混合させてもよい。
【0078】
本発明のポリ乳酸樹脂射出成型体の好ましい製造方法は、ポリ乳酸樹脂、式(I)で表される化合物、及び有機結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物を溶融混練する工程〔以下工程(1)という〕と、工程(1)で得られた溶融物を射出成形機により成型する工程〔以下工程(2)という〕を含む方法である。
【0079】
工程(1)の具体例としては、例えば、ポリ乳酸樹脂、式(I)で表される化合物、及び有機結晶核剤を溶融混練機を用いて溶融混練する工程等が挙げられる。溶融混練機としては、特に限定はなく、二軸押出機等が例示される。また、溶融混練温度は、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性を向上させ、かつ劣化を防止する観点から、好ましくは170〜240℃であり、より好ましくは170〜220℃である。
【0080】
工程(2)の具体例としては、例えば、射出成形機によりポリ乳酸樹脂組成物を110℃以下の金型内に充填し、成型する工程等が挙げられる。金型温度は、ポリ乳酸樹脂組成物の結晶化速度向上及び生産性の観点から、110℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。また30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。かかる観点から、金型温度は30〜110℃が好ましく、40〜90℃がより好ましく、50〜80℃がさらに好ましい。
【0081】
また、金型内での保持時間は、ポリ乳酸樹脂組成物からなる成型体の耐熱性及び生産性の観点から、20〜100秒が好ましく、30〜90秒がより好ましく、40〜85秒がさらに好ましい。
【0082】
従って、ポリ乳酸樹脂組成物からなる成型体の耐熱性及び生産性の観点から、金型温度が30〜110℃で、金型内での保持時間が20〜100秒が好ましく、金型温度が40〜90℃で、金型内での保持時間が30〜90秒がより好ましく、金型温度が50〜80℃で、金型内での保持時間が40〜85秒が更に好ましい。本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、結晶化速度に優れ低温度での成形加工も可能であるために、前記金型温度や短い時間の保持時間でも、十分な耐熱性を有するポリ乳酸樹脂組成物からなる射出成型体が得られる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。なお、例中の部は、特記しない限り重量部である。
【0084】
有機結晶核剤の製造例1(ビス(5-スルホイソフタル酸ジメチル)バリウム)
5−スルホイソフタル酸ジメチルエステルナトリウム塩296gとイオン交換水2000gを、攪拌機を装着した反応器に採り、攪拌しながら80℃まで加温して内容物を溶解した。ここに塩化バリウム104gをイオン交換水900gに溶解した溶液を攪拌下に徐々に滴下した。30℃まで冷却後、生成した白色粒子を濾過し、得られた白色粒子をイオン交換水3000gに分散し、80℃まで加温して1時間保持した後、30℃まで冷却して白色粉末を濾別して洗浄した。同様な洗浄操作をさらに1回行った後、120℃で5時間乾燥して、ビス(5-スルホイソフタル酸ジメチル)バリウム塩の白色粉体297gを得た。
【0085】
リン酸エステル化合物の製造例1(トリス(エトキシエトキシエチル)ホスフェート)
1リットル四つ口フラスコに、ジエチレングリコールモノエチルエーテル600g(4.47モル)を加え、乾燥窒素ガスを毎分50mLの流量で吹き込みながら、減圧下(20kPa)で攪拌した。次いで反応系内を室温(15℃)に保ちながらオキシ塩化リン114g(0.745モル)をゆっくりと滴下し、その後、40〜60℃で5時間熟成した。その後、16重量%の水酸化ナトリウム水溶液149gを添加して中和し、過剰の未反応ジエチレングリコールモノエチルエーテルを70〜120℃の温度条件で減圧留去し、さらに水蒸気と接触させて粗リン酸トリエステル367gを得た。さらに、この粗リン酸トリエステルに16重量%の塩化ナトリウム水溶液300gを加えて洗浄した。その後、分相した下相を廃水し、残りの上相を75℃の減圧下で脱水した後、さらにろ過で固形分を除去し、目的とするトリス(エトキシエトキシエチル)ホスフェート266gを得た(収率80%)。このトリス(エトキシエトキシエチル)ホスフェートは無色透明の均一液体であり、クロルイオン分析を行った結果、クロルイオン含量は10mg/kg以下であった。
【0086】
実施例1〜3及び比較例1〜6
表1に示すポリ乳酸樹脂組成物用原料を2軸押出機(池貝鉄工社製PCM−45)にて、回転数100r/min、混練温度190℃で溶融混練し、ストランドカットを行い、ポリ乳酸樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットは、70℃減圧下で1日乾燥し、水分量を500ppm以下とした。
【0087】
なお、表1における原料は以下の通りである。
<ポリ乳酸樹脂>
NW4032D;ポリ乳酸樹脂(ネイチャー ワークス社製、Nature Works 4032D、光学純度98.5%、重量平均分子量180000)
<有機結晶核剤>
PB15:3;フタロシアニン骨格を有する化合物(チバファインケミカル社製、IRGALITE BLUE GBP)
PPA−Zn;無置換のフェニルホスホン酸亜鉛塩(日産化学工業社製、エコプロモート)
SIP2MeBa;前記有機結晶核剤の製造例1で製造したビス(5-スルホイソフタル酸ジメチル)バリウム
<可塑剤>
トリス(エトキシエトキシエチル)ホスフェート;前記リン酸エステル化合物の製造例1で製造したリン酸エステル化合物
トリクレジルフォスフェート;大八化学社製
アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル);和光純薬工業社製
<加水分解抑制剤>
スタバクゾール1LF;Rhein Chemie社製
【0088】
得られたペレットを、シリンダー温度を200℃とした射出成形機(日本製鋼所社製、J75E−D)を用いて射出成型し、金型温度80℃、成型時間10分でテストピース〔平板(70mm×40mm×2mm)、角柱状試験片(125mm×12mm×6mm)及び角柱状試験片(63mm×12mm×5mm)〕を成型した。
【0089】
なお、成型体を成形する際に、前記テストピースの離型に必要な金型保持時間を下記の基準で評価した。これらの結果を表1に示す。
<結晶性の評価(結晶化速度):離型に必要な金型保持時間の評価基準>
表1に示す金型温度において、テストピース3種類すべてについて変形がなく、取り出しが容易と判断されるまでに有する時間を、離型に必要な金型保持時間とした。金型保持時間が短いほど、金型内部及びランナー部分でテストピースの結晶化速度が速く、成形性に優れることを示す。
【0090】
【表1】

【0091】
表1の結果から明らかなように、本発明のポリ乳酸樹脂組成物(実施例1〜3)は、80℃の金型温度において、短い金型保持時間で成型が可能であり、結晶化速度に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、日用雑貨品、家電部品、自動車部品等の様々な工業用途に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂、該ポリ乳酸樹脂100重量部に対して式(I):
【化1】

(式中、R、R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示し、A、A、Aはそれぞれ独立して炭素数2又は3のアルキレン基を示し、m、n、pは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、それぞれ独立して0又は正の数であって、m+n+pが0を超え12以下を満足する数である)
で表されるリン酸エステル化合物を0.1〜30重量部、及び有機結晶核剤を含有してなる、ポリ乳酸樹脂組成物であって、前記有機結晶核剤と前記式(I)で表されるリン酸エステル化合物の重量比(有機結晶核剤/リン酸エステル化合物)が1/99〜50/50である、ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
有機結晶核剤が、フェニルホスホン酸の金属塩、フタロシアニン骨格を有する化合物、及び芳香族スルホン酸ジアルキルの金属塩からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のポリ乳酸樹脂組成物の溶融物を金型内にて射出成型する工程を有する、ポリ乳酸樹脂射出成型体の製造方法。
【請求項4】
金型温度が30〜110℃で、金型内での保持時間が20〜100秒である、請求項3記載のポリ乳酸樹脂射出成型体の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4記載の製造方法により得られた、ポリ乳酸樹脂射出成型体。

【公開番号】特開2013−18912(P2013−18912A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155045(P2011−155045)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】