説明

ポリ乳酸短繊維とその製造方法及び不織布

【課題】 優れた機械的強度を有し、かつ、熱による変形が少ないポリ乳酸短繊維とその製造方法、及びこのポリ乳酸短繊維を主体繊維として用いた寸法安定性のよい不織布を提供する。
【解決手段】 ポリ乳酸短繊維であって、該繊維は、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99/1以上のポリ乳酸によって構成され、140℃における乾熱収縮率が3.0%以下、単糸強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とするポリ乳酸短繊維。また、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99/1以上、モノマー量が0.08質量%以下のポリ乳酸を溶融紡糸し、次いで、得られた未延伸糸を延伸した後、緊張熱処理を施すことにより前記ポリ乳酸短繊維を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた機械的強度を有し、かつ、熱による変形が少ないポリ乳酸短繊維とその製造方法、及びこのポリ乳酸短繊維を主体繊維として用いた寸法安定性のよい不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエチレンテレフタレート等の従来の合成樹脂は、石油を原料としていることから、従来の合成樹脂の使用は石油の枯渇を促進させる問題が生じるため、植物由来であるポリ乳酸樹脂が注目されるようになり、ポリ乳酸繊維やこの繊維を使用した不織布についても提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
しかし、これらのポリ乳酸繊維を主体繊維やバインダー繊維として用いた不織布は、熱エアー等で加熱融着処理を施すと、不織布が収縮して風合いが堅くなるという問題があった。
【0004】
そこで、この問題を解決するために、特許文献2では、ポリ乳酸繊維として、ポリL−乳酸と、ポリD−乳酸をブレンドした、耐熱性の高いポリ乳酸ステレオコンプレックス繊維を使用した不織布が提案されている。しかし、現在、ポリ−D乳酸は、工業的に生産することは難しいことから、コストが非常に高いため、ポリ乳酸ステレオコンプレックス繊維を使用した不織布を工業生産することは、できないというのが現状である。
【特許文献1】特許3329350号公報
【特許文献2】特開2003−286640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような従来のポリ乳酸繊維を主体繊維やバインダー繊維として用いた不織布が、熱融着加工時に収縮変形しやすいという問題を解決し、優れた機械的強度を有し、かつ、熱による変形が少ないポリ乳酸短繊維とその製造方法、及びこのポリ乳酸短繊維を主体繊維として用いた寸法安定性のよい不織布を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、次の構成を要旨とするものである。
(1)ポリ乳酸短繊維であって、該繊維は、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99/1以上のポリ乳酸によって構成され、140℃における乾熱収縮率が3.0%以下、単糸強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸であることを特徴とするポリ乳酸短繊維。
(2)L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99/1以上、モノマー量が0.08質量%以下のポリ乳酸を溶融紡糸し、次いで、得られた未延伸糸を延伸した後、緊張熱処理を施すことを特徴とする上(1)記載のポリ乳酸短繊維の製造方法。
(3)上(1)記載のポリ乳酸短繊維50〜90質量%と、融点が100〜140℃である脂肪族ポリエステルを鞘成分とし、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99/1以上のポリ乳酸を芯成分とするポリ乳酸系バインダー繊維50〜10質量%とからなることを特徴とする短繊維不織布。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリ乳酸短繊維は、熱による変形が少ない繊維であり、また、優れた機械的強度を有している。したがって、このポリ乳酸短繊維を主体繊維として用いた不織布は、熱融着加工時の収縮変形が小さく、寸法安定性に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
まず、本発明のポリ乳酸短繊維は、L−乳酸が主体とするポリ乳酸であって、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99/1以上のポリ乳酸によって構成される。すなわち、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99/1〜100/0のポリ乳酸によって構成される。上記共重合モル比を外れるポリ乳酸は、融点が低くなり、本発明の目的が達成されない。
【0010】
本発明のポリ乳酸短繊維は、140℃における乾熱収縮率が3.0%以下という特性を有している。140℃における乾熱収縮率が3.0%より高いと、不織布等の繊維構造体の製造時に熱融着処理をする際に熱変形するため、目的とする寸法や風合いの繊維構造体が得られ難くなる。140℃の乾熱収縮率を3.0%以下にすることによって、繊維構造体を作成する際の熱処理による変形が少なく、また、得られる繊維構造体も、熱変形し難いものとなる。さらには、ポリ乳酸短繊維の150℃の乾熱収縮率が5.0%以下であることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明のポリ乳酸短繊維は、単糸強度が3.0cN/dtex以上である。単糸強度が3.0cN/dtexより小さいと、ポリ乳酸短繊維が形成する繊維構造体の機械的強度が低下するので傾向となる。さらには、単糸強度は3.3cN/dtex以上であることが好ましく、単糸強度は高ければ高い程よいことは、当業者の常識であるが、その上限は、5.0cN/dtexであると十分に本発明の目的は達成される。
【0012】
本発明のポリ乳酸短繊維には、機械的捲縮が付与されていてもよい。機械的捲縮とは、押し込み式の捲縮機(クリンパー)等で、機械的に付与された捲縮であって、捲縮数は5〜20ヶ/25mmの範囲が好ましく、特に好ましくは8〜15ヶ/25mm、さらに好ましくは10〜13ヶ/25mmであり、捲縮率は5〜30%の範囲、特に好ましくは7〜20%、さらに好ましくは9〜15%である。捲縮数が5/25mmよりも少ない、または、捲縮率が5%より低いと、ウェブ作成時においてカード通過性が劣る傾向となる。また、捲縮数が20/25mmよりも多い場合や、捲縮率が30%より高いと、繊維のからみが強くてネップ等が発生しやすくなる。
【0013】
次に、上記特性を有する本発明のポリ乳酸短繊維の製造方法について説明する。
【0014】
本発明においては、原料として用いるポリ乳酸のL−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)とモノマー量、および繊維の熱セット(熱処理)を緊張下で行うことが重要である。
【0015】
まず、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99/1以上、モノマー量が0.08質量%以下のポリ乳酸を用意する。L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99/1未満、すなわち、L−乳酸/D−乳酸が99/1〜100/1を外れるものや、モノマー量が0.08質量%を超えるポリ乳酸を原料として用いると、繊維の乾熱収縮率が顕著に高くなり、繊維の乾熱収縮率を3.0%以下とすることが困難となる。
【0016】
また、原料として用いるポリ乳酸の水分率は100ppm以下であることが好ましい。水分率が100ppmを超えると、溶融紡糸時にポリ乳酸の加水分解が起こりやすくなるため好ましくない。
【0017】
また、ポリ乳酸の数平均分子量は、60000〜90000を用いることが好ましい。
【0018】
本発明では、まず上記したポリ乳酸を溶融紡糸するが、紡糸温度は235℃以下に設定するとよい。次いで、溶融紡糸により得られた未延伸糸を延伸する。延伸条件としては、延伸性や物性(強度等)を考慮し、延伸温度50〜70℃、延伸倍率(DR)3.0〜5.0が好ましい。
【0019】
次いで、延伸後の糸条に熱処理を施す。熱処理を施すことにより、熱収縮が低い繊維を得ることができる。本発明においては、この熱処理を緊張下で行うこと(緊張熱処理)が重要である。ポリ乳酸繊維は、熱処理により単糸強度が低下する傾向が強く、緊張下でなく、非緊張下すなわち弛緩した状態で熱処理(弛緩熱処理)を施すと、単糸強度が著しく低下する。単糸強度を保持するためにも緊張熱処理とする必要がある。なお、一般に得られる繊維の熱収縮を抑制する効果は、弛緩熱処理の方が高いが、本発明のポリ乳酸繊維は、特定の共重合比を有する結晶性の非常に高いポリ乳酸を使用しているため、弛緩熱処理を行わなくとも、所望とする低収縮とすることができ、高強度を維持することができる。緊張熱処理としては、ヒートドラムやヒータープレートなどにより、糸条に張力を掛けた状態で熱処理を施せばよく、温度は140〜155℃が好ましい。
【0020】
次いで、緊張熱処理後の糸条に必要に応じて捲縮を付与する。捲縮を付与する方法としては公知の方法であればよく、押し込み式のクリンパー等で、好ましくは捲縮数5〜20ケ/25mm、捲縮率5〜30%の機械捲縮を付与すればよい。
【0021】
次いで、糸条には仕上げ油剤を付与する。仕上げ油剤を付与した後に、熱風などにより乾燥させる場合があるが、非緊張下であるために、乾燥温度は50〜80℃の低温に設定するとよい。
【0022】
最後に、所定の繊維長に切断し、140℃における乾熱収縮率が3.0%以下、単糸強度3.0dN/dtex以上のポリ乳酸短繊維を得る。
【0023】
次に、本発明のポリ乳酸系短繊維からなる不織布について説明する。
【0024】
本発明の不織布は、前記したポリ乳酸短繊維からなる主体繊維と、特定の融点を有する脂肪族ポリエステルを鞘成分とし、特定のポリ乳酸を芯成分とするポリ乳酸系バインダー繊維とから構成される。前記バインダー繊維のバインダー成分(鞘成分)が、溶融または軟化して、構成繊維同士を熱融着、熱固定、熱圧着等しており、不織布として一体化している。
【0025】
本発明において、主体繊維であるポリ乳酸短繊維の混率は、50〜90質量%であり、好ましくは65〜90質量%である。ポリ乳酸短繊維の混率が50質量%未満になると、乾熱収縮率が低いポリ乳酸短繊維の混率が低くなるため、不織布の熱による収縮や変形が起こりやすくなるため好ましくない。また、ポリ乳酸短繊維の混率が90質量%を超えると、バインダー繊維の混率が少なくなり、不織布の強力が低くなる傾向となる。
【0026】
本発明の不織布を構成するポリ乳酸系バインダー繊維は、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99/1以上であるポリ乳酸を芯成分とする。すなわち、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99/1〜100/0のL−乳酸主体のポリ乳酸である。一般にバインダー繊維は、鞘成分の融点が低く、延伸工程等で十分な熱セットを行うことができないため、熱による収縮が高い傾向にあるが、本発明においては、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99/1以上である結晶性の高いポリ乳酸を芯成分としているため、熱による収縮を抑制することができる。L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99/1未満になると、ポリ乳酸の結晶性が十分に高くないため、熱による収縮が高くなり、本発明の効果が得られ難くなる。
【0027】
また、ポリ乳酸系バインダー繊維は、融点が100〜140℃である脂肪族ポリエステルを鞘成分とする。鞘成分となる脂肪族ポリエステルの融点が100℃未満になると、不織布の耐熱性が悪くなり、使用時の熱による軟化や変形が起こりやすくなるため好ましくない。一方、脂肪族ポリエステルの融点が140℃を超えると、主体繊維であるポリ乳酸短繊維との融点差が小さくなり、熱処理温度が制限され、所望の物性や風合いが得られ難い傾向となる。
【0028】
鞘成分である脂肪族ポリエステルは、示差走査型熱量計によるDSC測定で得られる溶融ピークのピーク温度が110〜140℃であれば特段の制約はなく、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクタム、ポリ−3−ヒドロキシプロピオネート、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ−3−ヒドロキシブチレートバリレート等を用いることができる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、L−乳酸、D−乳酸、ε−カプロラクトン等の環状ラクトン類、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸等のα−オキシ酸類、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等のグリコール類、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸等のジカルボン酸類を含有してもよい。
【0029】
ここで、本発明においては、鞘成分を構成する脂肪族ポリエステルが、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が94/6〜90/10のL−乳酸を主体とするポリ乳酸であることが好ましい。ポリ乳酸は、植物由来の樹脂であり、バインダー繊維の鞘成分にも使用することで、本発明の不織布の、植物由来樹脂の比率を高めることができるため好ましい。L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が94/6〜90/10とすることによって、融点を約100〜140℃とすることができる。
【0030】
また、本発明においては、鞘成分を構成する脂肪族ポリエステルが、ポリブチレンサクシネートであることが好ましい。ポリブチレンサクシネートを鞘成分に使用することにより、得られるバインダー繊維を用いると、非常にソフトな風合いを有する不織布を得ることができるため好ましい。
【0031】
また、本発明においては、鞘成分を構成する脂肪族ポリエステルが、ポリブチレンサクシネートに乳酸が1〜10モル%共重合した共重合体であることが好ましい。ポリブチレンサクシネートに乳酸が1〜10モル%共重合した共重合体を鞘成分に使用することにより、得られるバインダー繊維は、ソフトな風合いを有しながらも、ポリ乳酸との相溶性が高くなるため、主体繊維であるポリ乳酸短繊維との接着性が向上するため好ましい。ポリブチレンサクシネートに共重合する乳酸は、L−乳酸、D−乳酸のいずれでもよい。共重合する乳酸が1モル%未満になると、ポリ乳酸との相溶性が十分上がらず、接着性向上の効果が期待できない。一方、10モル%より多いと、ポリブチレンサクシネートが本来有する柔軟性が損なわれる傾向となる。
【0032】
バインダー繊維の芯成分と鞘成分との複合比率は、特に限定されるものではないが、接着性、製糸性などから、芯/鞘の質量比率で30/70〜70/30が好ましい。
【0033】
本発明の不織布を構成するポリ乳酸短繊維とポリ乳酸系バインダー繊維の繊度は、風合い、接着性能等を考慮して1.0〜80dtex程度が好ましく、1.7〜50dtexがより好ましい。また、カット長としては、5〜100mmが好ましく、25〜70mmがより好ましい。また、これら両繊維の断面形状は、円形断面に限定されるものではなく、扁平断面、多角形、多葉形、ひょうたん形、アルファベット形、その他各種の非円形(異形)などであってもよい。
【0034】
さらに、本発明の不織布を構成する前記両繊維には、ポリ乳酸の耐久性を高める目的として、ポリ乳酸に脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、エポキシ化合物等の末端封鎖剤を添加したものでもよい。
【0035】
さらに、本発明の不織布を構成する前記両繊維には、各種顔料、染料、撥水剤、吸水剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、金属粒子、結晶核剤、滑剤、可塑剤、抗菌剤、香料その他の添加剤を混合してもよい。
【0036】
本発明の不織布は、主体繊維であるポリ乳酸短繊維とポリ乳酸系バインダー繊維とで構成されるものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、他の繊維が混綿されたものでもよい。他の繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維等の合成繊維や、レーヨン繊維等の再生繊維、ウール、木綿、麻、パルプ等の天然繊維等が挙げられる。
【0037】
本発明の不織布は下記の方法によって得ることができる。
【0038】
まず、主体繊維となるポリ乳酸短繊維と、ポリ乳酸系バインダー繊維とを、所望の割合で混綿し、カード機等を用いてウェブを形成した後、熱処理によってバインダー成分を溶融または軟化させて構成繊維同士を融着させ、不織布として一体化させる。
【0039】
熱処理としては、連続熱処理機(サーマルスルー)のような加熱エアーを用いた熱融着処理装置で溶融接着する方法、あるいは、熱エンボス装置や熱カレンダー装置等の1対の熱ロールからなる装置に通してバインダー繊維を溶融圧着し、構成繊維間をバインダー成分の融着により一体化する方法等が挙げられる。なお、熱処理を施す前に、ニードリング加工や、スパンレース加工を行ってもよい。
【実施例1】
【0040】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
なお、実施例における特性値等の測定法は、次の通りである。
(1)樹脂の数平均分子量とモノマー量
樹脂を10mg/mLの濃度になるようにクロロホルムに溶解して、クロロホルムを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した。検出器は屈折率計を使用し、分子量の標準物質としてポリスチレンを使用した。また、分子量1000以下の成分の割合から、樹脂中のモノマー量(質量%)を算出した。
【0042】
(2)L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)
超純水と1Nの水酸化ナトリウムのメタノール溶液の等質量混合溶液を溶媒とし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法によりL−乳酸とD−乳酸の共重合モル比を測定した。カラムにはsumichiral OA6100を使用し、UV吸収測定装置により検出した
【0043】
(3)ポリ乳酸の水分率
三菱化学社製水分気化装置 VA-06型と、同社水分測定装置 CA-06型を用いて測定した。
【0044】
(4)融点(℃)
パーキンエルマ社製の示差走査型熱量計DSC−2型を用い、昇温速度20℃/分の条件で測定し、得られた融解吸熱曲線において極値を与える温度を融点とした。
【0045】
(5)単糸繊度(dtex)
JIS L−1015 7−5−1−1Aの方法により測定した。
【0046】
(6)単糸強度(cN/dtex)
JIS L−1015 8−7−1の方法により測定した。
【0047】
(7)乾熱収縮率(%)
JIS L−1015 7−15−2の方法により測定した。なお、処理温度は140℃、150℃の2点とした。
【0048】
ポリ乳酸短繊維(主体繊維)の製造
実施例1
数平均分子量が85100であり、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99.2/0.8、モノマー量が0.05質量%、水分率が38ppmのL−乳酸を主体とするポリ乳酸を、孔数が720である通常の単成分繊維用のノズルを用いて、吐出量320g/分、紡糸温度220℃で溶融紡糸し、引取速度900m/分で引き取り、未延伸糸を得た。この時、紡糸断糸はなく、工程の調子は極めて良好であった。
【0049】
得られた未延伸糸を、延伸温度60℃、延伸倍率3.50倍で延伸してから、150℃のヒートドラムで緊張熱処理を行い、押し込み式のクリンパーにて捲縮数10ヶ/25mm、捲縮率10%の機械捲縮を付与した後、仕上げ油剤を付与し、70℃で乾燥(弛緩熱処理)させ、繊維長51mmに切断し、繊度が1.7dtexであるポリ乳酸短繊維を得た。このポリ乳酸短繊維の物性を表1に示す。
【0050】
実施例2、比較例1
ポリ乳酸短繊維を製造する時の熱セット温度を140℃(実施例2)、130℃(比較例1)と変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸短繊維を得た。得られたポリ乳酸短繊維の物性を表1に示す。
【0051】
比較例2
ポリ乳酸短繊維を製造する時の熱セットを150℃の緊張熱処理に替えて、150℃の弛緩熱処理(非緊張下での熱処理)としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸短繊維を得た。得られたポリ乳酸短繊維の物性を表1に示す。
【0052】
比較例3
ポリ乳酸として、数平均分子量が85800であり、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が98.8/1.2、モノマー量が0.05質量%、水分率が33ppmのL−乳酸を主体とするポリ乳酸を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸短繊維を得た。得られたポリ乳酸短繊維の物性を表1に示す。
【0053】
比較例4
ポリ乳酸として、数平均分子量が86100であり、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99.2/0.8、モノマー量が0.10質量%、水分率が31ppmのL−乳酸を主体とするポリ乳酸を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸短繊維を得た。得られたポリ乳酸短繊維の物性を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
ポリ乳酸系バインダー繊維の製造
バインダー繊維A
数平均分子量が85100であり、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99.2/0.8、モノマー量が0.05質量%、水分率が38ppmのL−乳酸を主体とするポリ乳酸を芯成分、数平均分子量が82800であり、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が91.2/8.8(融点が132℃)、モノマー量が0.13質量%、水分率が31ppmのL−乳酸を主体とするポリ乳酸を鞘成分として用い、孔数が560である通常の同心芯鞘複合繊維用のノズルを用いて、吐出量290g/分、紡糸温度220℃にて複合紡糸し(複合比50/50)、引取速度800m/分で引き取り、未延伸糸を得た。この時、紡糸断糸はなく、工程の調子は極めて良好であった。
【0056】
得られた未延伸糸を、延伸温度60℃、延伸倍率4.00倍で延伸してから、押し込み式のクリンパーにて捲縮数10ヶ/25mm、捲縮率10%の機械捲縮を付与した後、仕上げ油剤を付与して70℃で乾燥させ、繊維長51mmに切断して繊度が2.2dtexのポリ乳酸系バインダー繊維(バインダー繊維A)を得た。
【0057】
バインダー繊維B
バインダー繊維の鞘成分として、融点が114℃、数平均分子量が45300のポリブチレンサクシネート(PBS)を用いたこと以外は、上記バインダー繊維Aの製造方法と同様の方法でポリ乳酸系バインダー繊維(バインダー繊維B)を得た。
【0058】
バインダー繊維C
バインダー繊維の鞘成分として、ポリブチレンサクシネートにL−乳酸が4モル%共重合した共重合体(融点が114℃、数平均分子量が49800)を用いたこと以外は、上記バインダー繊維Aの製造方法と同様の方法でポリ乳酸系バインダー繊維(バインダー繊維C)を得た。
【0059】
バインダー繊維D
バインダー繊維の芯成分として、数平均分子量が86300であり、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が98.4/1.6、モノマー量が0.14質量%、水分率が36ppmのL−乳酸を主体とするポリ乳酸を用いたこと以外は、上記バインダー繊維Aの製造方法と同様の方法でポリ乳酸系バインダー繊維(バインダー繊維D)を得た。
【0060】
バインダー繊維E
バインダー繊維の芯成分として、数平均分子量が86300であり、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が98.4/1.6、モノマー量が0.14質量%、水分率が36ppmのL−乳酸を主体とするポリ乳酸を用いたこと、鞘成分として、融点が114℃、数平均分子量が45300のポリブチレンサクシネート(PBS)を用いたこと以外以外は、上記バインダー繊維Aの製造方法と同様の方法でポリ乳酸系バインダー繊維(バインダー繊維E)を得た。
【0061】
バインダー繊維F
バインダー繊維の芯成分として、数平均分子量が86300であり、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が98.4/1.6、モノマー量が0.14質量%、水分率が36ppmのL−乳酸を主体とするポリ乳酸を用いたこと、鞘成分として、ポリブチレンサクシネートにL−乳酸が4モル%共重合した共重合体(融点が114℃、数平均分子量が49800)を用いたこと以外は、上記バインダー繊維Aの製造方法と同様の方法でポリ乳酸系バインダー繊維(バインダー繊維F)を得た。
【0062】
不織布の製造
実施例11
実施例1のポリ乳酸短繊維と、ポリ乳酸系バインダー繊維(バインダー繊維A)とを、混綿質量比が主体繊維/バインダー繊維=80/20となるように混綿し、カード機によって50g/m2のウェブを作成した後、針密度192本/cm2でニードルパンチ加工処理を行い、ニードルパンチ不織布を得た。
【0063】
この不織布を30cm×30cmに切断し、連熱処理機にて150℃で2分間の熱処理を行って本発明の不織布を得た。
【0064】
なお、上の製造工程中ニードルパンチ加工処理を行った後のニードルパンチ不織布(30cm×30cm)に対して、連熱処理機(150℃×2分間)により熱処理後に得られた不織布の縦、横の長さを測定して、熱収縮率を次式にて算出した値を表2に示す。
熱収縮率(%)=(1−(縦の長さ)×(横の長さ)/900)×100
【0065】
また、得られた不織布の物性について、以下の評価を行った。その結果も併せて表2に示す。
(不織布の引張強力)
得られた不織布より、CD方向(機械方向と直交する方向)に25mm、MD方向(機械方向)に150mmの短冊状に切断して試料を作成した。この試料をオリエンテック社製UTM−4型のテンシロンを用いて、引張速度100mm/分の条件でMD方向に伸長切断し、最大強力を読みとった。試料数は、20点とし、これらの平均値を引張強力とした。なお、本発明では、1500cN/25mm幅以上のものを合格とした。
(不織布の風合い)
不織布を10人のパネラーによる手触りにより、風合いのソフト性を官能評価した。風合いがソフトであると評価した人数が、10人中9人以上の場合は◎、5〜8人の場合は○、2〜4人の場合は△、0〜1人の場合は×とした。
【0066】
実施例12
実施例2のポリ乳酸短繊維を用いたこと以外は、実施例11と同様の方法で不織布を得た。
【0067】
比較例11
比較例1のポリ乳酸短繊維を用いたこと以外は、実施例11と同様の方法で不織布を得た。
【0068】
比較例12
比較例2のポリ乳酸短繊維を用いたこと以外は、実施例11と同様の方法で不織布を得た。
【0069】
実施例13〜16、比較例13、14
ポリ乳酸短繊維とバインダー繊維の混率を、主体繊維/バインダー繊維=90/10(実施例13)、主体繊維/バインダー繊維=70/30(実施例14)、主体繊維/バインダー繊維=60/40(実施例15)、主体繊維/バインダー繊維=50/50(実施例16)、主体繊維/バインダー繊維=40/60(比較例13)、主体繊維/バインダー繊維=95/5(比較例14)としたこと以外は、実施例11と同様の方法で不織布を得た。
【0070】
実施例17
バインダー繊維としてバインダー繊維Bを用いたこと以外は、実施例11と同様の方法で不織布を得た。
【0071】
実施例18
バインダー繊維としてバインダー繊維Cを用いたこと以外は、実施例11と同様の方法で不織布を得た。
【0072】
比較例15
バインダー繊維としてバインダー繊維Dを用いたこと以外は、実施例11と同様の方法で不織布を得た。
【0073】
比較例16
バインダー繊維としてバインダー繊維Dを用いたこと、ポリ乳酸短繊維とバインダー繊維の混率を、主体繊維/バインダー繊維=90/10としたこと以外は、実施例11と同様の方法で不織布を得た。
【0074】
比較例17
バインダー繊維としてバインダー繊維Eを用いたこと以外は、実施例11と同様の方法で不織布を得た。
【0075】
比較例18
バインダー繊維としてバインダー繊維Fを用いたこと以外は、実施例11と同様の方法で不織布を得た。
【0076】
得られた実施例13〜17、比較例13〜18の不織布について、熱収縮率および物性の評価結果を表2、表3に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

表1から明らかなように、実施例1、2は、乾熱収縮率が小さく、単糸強度の優れたポリ乳酸短繊維を得ることができた。これらのポリ乳酸短繊維を主体繊維として50〜90質量%の混率で用いた不織布(実施例11〜18)は、不織布形成時の収縮率が低く、風合いがソフトであり、さらに十分な機械的強度を有するものであった。
【0079】
一方、比較例1のポリ乳酸短繊維は、熱セット温度を130としたため、熱処理の効果が少なく乾熱収縮率が大きくなり、これを主体繊維として用いた比較例11の不織布は、不織布製造時の熱収縮も大きくなった。
【0080】
比較例2のポリ乳酸短繊維は、緊張熱処理を施さなかったため、単糸強度が目的とする範囲に達成せず、これを主体繊維として用いた比較例12の不織布についても、不織布強度が低かった。
【0081】
比較例3のポリ乳酸短繊維は、共重合モル比が本発明の範囲外であったため、目的とする乾熱収縮率のものを得ることができなかった。
【0082】
比較例4のポリ乳酸短繊維は、原料として用いたポリ乳酸のモノマー量が、本発明の範囲外であったため、目的とする乾熱収縮率のものを得ることができなかった。
【0083】
比較例13、14の不織布は、ポリ乳酸短繊維とバインダー繊維との混率が本発明の要件を満たさなかったので、不織布の収縮率や強度が劣るものであった。
【0084】
比較例15〜18の不織布は、バインダー繊維の芯成分を構成するポリ乳酸のL−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99/1〜100/0の範囲を外れるものであり、不織布製造時の熱収縮が大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸短繊維であって、該繊維は、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99/1以上のポリ乳酸によって構成され、140℃における乾熱収縮率が3.0%以下、単糸強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸であることを特徴とするポリ乳酸短繊維。
【請求項2】
L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99/1以上、モノマー量が0.08質量%以下のポリ乳酸を溶融紡糸し、次いで、得られた未延伸糸を延伸した後、緊張熱処理を施すことを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸短繊維の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のポリ乳酸短繊維50〜90質量%と、融点が100〜140℃である脂肪族ポリエステルを鞘成分とし、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が99/1以上のポリ乳酸を芯成分とするポリ乳酸系バインダー繊維50〜10質量%とからなることを特徴とする短繊維不織布。
【請求項4】
ポリ乳酸系バインダー繊維の鞘成分を構成する脂肪族ポリエステルが、L−乳酸/D−乳酸(共重合モル比)が94/6〜90/10のポリ乳酸であることを特徴とする請求項3記載の短繊維不織布。
【請求項5】
ポリ乳酸系バインダー繊維の鞘成分を構成する脂肪族ポリエステルが、ポリブチレンサクシネートであることを特徴とする請求項3記載の短繊維不織布。
【請求項6】
ポリ乳酸系バインダー繊維の鞘成分を構成する脂肪族ポリエステルが、ポリブチレンサクシネートに乳酸が1〜10モル%共重合した共重合体であることを特徴とする請求項3記載の短繊維不織布。

【公開番号】特開2006−200085(P2006−200085A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14478(P2005−14478)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】