説明

ポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物

【課題】 耐熱性、耐衝撃性、透明性に優れた、ポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 本発明のポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物は、結晶化度を有するポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物であって、このポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物は、ポリ乳酸のα結晶と、X線回折で該α結晶の2θのピークをaとしたときに2θが(a−0.2)°≦2θ≦(a−0.01)°の範囲にピークを有するポリ乳酸の結晶(この結晶をα´結晶とする)とを有し、α結晶とα´結晶の結晶強度比率が99/1〜1/99であり、かつ、結晶化度が3〜60%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐衝撃性、透明性、成形性を備えたポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりのもと、プラスチック製品の廃棄による土壌汚染問題、また、焼却による二酸化炭素増大に起因する地球温暖化問題が注目されている。前者への対策として、種々の生分解樹脂が、後者への対策として、焼却しても大気中に新たな二酸化炭素の負荷を与えない植物由来原料からなる樹脂が、さかんに研究、開発されている。各種商品の展示包装用などに用いられている保形具類や、食品トレー、飲料カップなどの容器類についても、種々の生分解樹脂、植物由来原料からなる樹脂を用いたものが開発されている。なかでも特に脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸は、生分解、植物由来プラスチックとしてはガラス転移点が約60℃と高く、透明であることなどから、将来性のある素材として最も注目されている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸は、従来の石油由来原料、例えば、ポリエチレンテレフタレートに比べるとガラス転移点が約20℃低い。このため、現行の各用途に用いると、耐熱性が不足するという問題がある。
【0004】
この問題を解決するための手段として、ポリ乳酸を結晶化させ、耐熱性を改良する技術が提案されている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【0005】
例えば、特許文献1では、透明核剤を含有したポリ乳酸組成物を成形時または成形後に熱処理し、結晶性を上げる技術が記載されている。この技術では、成形時の成形金型熱処理、もしくは成形後の熱処理によって結晶化させ耐熱性を付与させる。このため、フィルム自体の耐熱性が不足するという問題がある。
【0006】
特許文献2には、成形前のフィルムを熱処理、または延伸配向させることにより、成形時の加熱金型離型性を付与させる技術が記載されている。しかしながら、この技術では、フィルムおよび成形品の透明性が大きく不足するという問題がある。
【0007】
また、特許文献3には、結晶性のポリ乳酸と非晶性のポリ乳酸を混合することで、延伸フィルムに熱成形性を付与させる技術が記載されている。しかしながら、この技術では、非晶性のポリ乳酸を50%以上含有する。このため、十分な耐熱性を付与させることができないという問題がある。
【0008】
特許文献4では、内層にポリ乳酸と乳酸系ポリエステル、外層に透明核剤を含有するポリ乳酸という2種3層のフィルム構成とし、耐折強度の大きいポリ乳酸系フィルムが提案されている。しかしながら、ここに開示されている技術では、成形時の熱処理により透明性が悪くなる問題点がある。
【0009】
特許文献5では、ポリ乳酸樹脂のD体含有量すなわち結晶性に差をもたせた2層からなる積層フィルムを熱結晶化させて、成形性と耐熱性を両立させる技術が提案されている。しかし、この技術では、透明性が大きく不足するという問題がある。
【特許文献1】特開平9−278991号公報
【特許文献2】特開2003−245971号公報
【特許文献3】特開2004−204128号公報
【特許文献4】特開2005−119062号公報
【特許文献5】特開2005−125765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明では、上記課題を解決し、耐熱性、耐衝撃性、透明性に優れた、ポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは、ポリ乳酸のα結晶と、α結晶とは異なる結晶を、組成物あるいはフィルム中に存在させることで、いずれかの結晶の過大な成長を抑制し、微細な結晶を緻密に配置できることで、耐熱性、耐衝撃性、透明性に優れた、ポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0012】
本発明のポリ乳酸系フィルム、およびポリ乳酸系樹脂組成物は、結晶化度を有するポリ乳酸系フィルム、樹脂組成物であって、このポリ乳酸系フィルム、または樹脂組成物は、ポリ乳酸のα結晶と、X線回折で該α結晶の2θのピークをa°としたときに2θが(a−0.2)°≦2θ≦(a−0.01)°の範囲にピークを有するポリ乳酸の結晶(この結晶をα´結晶とする)とを有し、α結晶とα´結晶の強度比から求めた結晶比率が99/1〜1/99であり、かつ、結晶化度が3〜60%である。
【0013】
前記ポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物は、結晶核剤を含有するとよい。
【0014】
前記結晶核剤は、脂肪族カルボン酸アミド、およびN−置換尿素からなる群より選ばれる少なくとも1種であると好ましい。
【0015】
前記ポリ乳酸系フィルムおよび樹脂組成物は、結晶核剤とともに、結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物を含有すると好ましい。前記結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物が、脂肪族アルコール類、ソルビトール系化合物、アミノ酸、およびポリペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種であればよい。
【0016】
前記ポリ乳酸系フィルムは、ヘイズが20%以下であるとよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物は、耐熱性、耐衝撃性、透明性が良好である。なお、本発明における樹脂組成物はフィルムや成形体を含んでおり(→本発明では最終用途の状態での結晶比率、結晶化度が重要ですが、本出願は、ご指摘を受けているようにフィルム、樹脂組成物のみを規定し、成形体の規定ができておりませんでした。加えて、フィルム以外の樹脂組成物(射出成形体等)の、成形前の結晶化度を規定が難しかったため、本出願では樹脂組成物の中にフィルム、成形体等も含めた形に変更したいと考えております。変更に合わせた記述になっているかご確認お願いいたします。
)、各種ブリスターパックなどの保形具類や、耐熱性や透明性を必要とする食品トレー、飲料カップなどの容器類、耐熱性を必要とする飲料自動販売機のディスプレイ用ボトル、缶などの包装材料用途、表面材、ラミネート材などの工業材料用途、キャリアテープなどの電子部品搬送用途などに好ましく用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[ポリ乳酸]
本発明で用いられるポリ乳酸は、L−乳酸および/またはD−乳酸ユニットを主たる構成成分とするポリマーである。本発明でいうポリL−乳酸としては、ポリ乳酸重合体の全乳酸成分中のL−乳酸ユニットの含有割合が50mol%を超え100mol%以下のものが好ましく、結晶性の面から、ポリ乳酸重合体の全乳酸成分中のL−乳酸ユニットの含有割合が80mol%以上100mol%以下であることがさらに好ましく、95mol%以上100mol%以下であることがより好ましく、98mol%以上100mol%以下であることがさらにより好ましい。一方、本発明でいうポリD−乳酸としては、ポリ乳酸重合体の全乳酸成分中のD−乳酸ユニットの含有割合が50mol%を超え100mol%以下のものが好ましく、結晶性の面から、ポリ乳酸重合体の全乳酸成分中のD−乳酸ユニットの含有割合が80mol%以上100mol%以下であることがさらに好ましく、95mol%以上100mol%以下であることがより好ましく、98mol%以上100mol%以下であることがさらにより好ましい。ポリL−乳酸は、D−乳酸ユニットの含有割合によって、樹脂自体の結晶性が変化する。つまり、ポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が多くなれば、ポリL−乳酸の結晶性は低くなり非晶に近づき、逆にポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が少なくなれば、ポリL−乳酸の結晶性は高くなっていく。同様に、ポリD−乳酸は、L−乳酸ユニットの含有割合によって、樹脂自体の結晶性が変化する。つまり、ポリD−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合が多くなれば、ポリD−乳酸の結晶性は低くなり非晶に近づき、逆にポリD−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合が少なくなれば、ポリD−乳酸の結晶性は高くなっていく。
【0019】
また、本発明で用いられるポリ乳酸は、結晶融点が高いステレオコンプレックス結晶を利用し耐熱性を向上させる観点から、ポリL−乳酸と、ポリD−乳酸の混合物からなることが好ましい。
【0020】
本発明で用いられるポリ乳酸は、乳酸以外の他の単量体ユニットを含んでいてもよい。他の単量体としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。上記の他の単量体ユニットの共重合量は、ポリ乳酸系樹脂の単量体ユニット全体に対し、0〜30モル%であることが好ましく、0〜10モル%であることがより好ましい。
【0021】
本発明で用いられるポリ乳酸の重量平均分子量は、適度な成形加工性、実用的な機械特性を満足させるため、5万〜50万であることが好ましく、より好ましくは10万〜25万である。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でクロロホルム溶媒にて測定を行い、ポリメチルメタクリレート換算法により計算した分子量をいう。
【0022】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物およびフィルムには、ポリ乳酸以外の樹脂を含んでも良い。含有量は、総質量に対して0〜80質量%が好ましく、より好ましくは0〜60質量%、さらに好ましくは0〜40質量%である。
【0023】
ポリ乳酸以外の樹脂としては、例えば、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、エチレン/プロピレンターポリマー、エチレン/ブテン−1共重合体などの軟質熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0024】
これらのなかでも、ポリ乳酸との相溶性が良く、混合後の樹脂組成物のガラス転移温度が向上し、高温剛性が向上できる点から、ポリ(メタ)アクリレートが好ましい。ポリ(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートから選ばれる少なくとも1種の単量体を構成単位とするものであり、2種以上の単量体を共重合して用いても構わない。具体的には、ポリメチルメタクリレートなどが使用できる。また、特に耐衝撃性付与の点からはポリエステル系樹脂が好ましく、具体的には、ポリブチレンアジペート/テレフタレートおよびポリブチレンサクシネート/アジペートなどが使用できる。
【0025】
本発明のポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物は、分解による強度低下を抑制し、耐熱性を良好とする点から、ポリ乳酸系樹脂のカルボキシル基末端濃度が0.1〜30当量/10kgであることが好ましく、より好ましくは0.5〜20当量/10kg、特に好ましくは1〜10当量/10kgである。ポリ乳酸系樹脂のカルボキシル基末端濃度が30当量/10kg以下である場合、ポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物が、高温多湿条件下あるいは熱水との接触条件下で使用される際に、加水分解による強度低下を防ぐことができる点で好ましい。つまり、容器などの用途に使用した場合、該容器が脆くなり割れやすいなどといった問題の発生を防ぐことができる。
【0026】
カルボキシル基末端濃度を30当量/10kg以下とする方法としては、例えば、ポリ乳酸系樹脂の合成時の触媒や熱履歴により制御する方法、反応型化合物を用いカルボキシル基末端を封鎖する方法などが挙げられる。反応型化合物としては、例えば、脂肪族アルコールやアミド化合物などの縮合反応型化合物やカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物などの付加反応型化合物が挙げられるが、反応時に余分な副生成物が発生しにくい点で付加反応型化合物が好ましい。
【0027】
本発明のポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物は、フィルム、および樹脂組成物中に含まれる乳酸オリゴマー成分量が0質量%以上0.3質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0質量%以上0.25質量%以下、さらに好ましくは0質量%以上0.2質量%以下である。フィルム、および樹脂組成物中に含まれる乳酸オリゴマー成分量が0.3質量%以下である場合、フィルム、および樹脂組成物中に残留している乳酸オリゴマー成分が粉末状あるいは液状として析出し、ハンドリング性および透明性の悪化を防ぐことができる点、また、ポリ乳酸樹脂の加水分解を進行させ、フィルム、および樹脂組成物の耐経時性の悪化も防ぐことができる点で好ましい。ここでいう乳酸オリゴマー成分とは、組成物およびフィルム中に存在する乳酸や乳酸の線状オリゴマー、環状オリゴマーなどの中で量的に最も多く代表的である乳酸の環状二量体(ラクチド)をいい、LL−ラクチドおよびDD−ラクチド、DL(メソ)−ラクチドである。
【0028】
(結晶核剤)
本発明のポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物は、結晶核剤を含有することが好ましい。かかる結晶核剤の役割は、ポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物を形成するポリ乳酸の結晶の過大な成長を抑制し結晶を微細化することと、結晶化速度を高めることである。このような役割をもつ結晶核剤としては、脂肪族カルボン酸アミド、N−置換尿素、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール、脂肪族カルボン酸エステル、脂肪族/芳香族カルボン酸ヒドラジド、ソルビトール系化合物、メラミン系化合物、フェニルホスホン酸金属塩、アミノ酸、ポリペプチドなどを使用することができる。中でも、脂肪族カルボン酸アミド、ソルビトール系化合物、アミノ酸、ポリペプチドから選ばれた化合物を好ましく使用することができる。
【0029】
使用できる脂肪族カルボン酸アミドとしては、ラウリル酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミドのような脂肪族モノカルボン酸アミド類、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミドのようなN−置換脂肪族モノカルボン酸アミド類、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、へキサメチレンビスステアリン酸アミド、へキサメチレンビスベヘニン酸アミド、へキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドのような脂肪族カルボン酸ビスアミド類、N,N´−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N´−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N´−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N´−ジステアリルセバシン酸アミドのようなN−置換脂肪族カルボン酸ビスアミド類が挙げられる。この中でも、脂肪族モノカルボン酸アミド類、N−置換脂肪族モノカルボン酸アミド類および脂肪族カルボン酸ビスアミド類から選ばれた化合物が好適に用いられる。好ましくは炭素数4〜30、より好ましくは炭素数12〜30の脂肪族カルボン酸と、アンモニアもしくは炭素数1〜30の脂肪族/芳香族のモノアミン/ジアミンから選ばれたアミンとのアミドが好ましく用いられる。特に、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミドおよびm−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドから選ばれた化合物が好適に用いられる。
【0030】
使用できるN−置換尿素としては、例えばN−ブチル−N´−ステアリル尿素、N−プロピル−N´−ステアリル尿素、N−ステアリル−N´−ステアリル尿素、N−フェニル−N´−ステアリル尿素、キシリレンビスステアリル尿素、トルイレンビスステアリル尿素、ヘキサメチレンビスステアリル尿素、ジフェニルメタンビスステアリル尿素、ジフェニルメタンビスラウリル尿素などが挙げられる。
【0031】
使用できる脂肪族カルボン酸塩としては、例えば炭素数4〜30、より好ましくは炭素数14〜30の脂肪族カルボン酸の金属塩が挙げられる。炭素数14〜30の脂肪族カルボン酸の具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘニン酸、モンタン酸などが挙げられる。また、金属の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、亜鉛、銀、銅、鉛、タリウム、コバルト、ニッケル、ベリリウムなどが挙げられる。特に、ステアリン酸の塩類やモンタン酸の塩類が好適に用いられ、特に、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸亜鉛およびモンタン酸カルシウムから選ばれた化合物が好適に用いられる。
【0032】
使用できる脂肪族アルコールとしては、例えば炭素数4〜30、より好ましくは炭素数15〜30の脂肪族アルコールが挙げられる。具体的にはペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコールなどの脂肪族モノアルコール類、1,6−ヘキサンジオール、1,7−へプタンジール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの脂肪族多価アルコール類、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオールなどの環状アルコール類などが挙げられる。特に脂肪族モノアルコール類が好適に用いられ、特にステアリルアルコールが好適に用いられる。
【0033】
使用できる脂肪族カルボン酸エステルとしては、例えば炭素数4〜30、より好ましくは炭素数12〜30の脂肪族カルボン酸と、炭素数1〜30の脂肪族/芳香族のモノオール、ジオールおよびトリオールから選ばれたアルコールとのエステルが好ましく用いられる。具体例としては、ラウリン酸セチルエステル、ラウリン酸フェナシルエステル、ミリスチン酸セチルエステル、ミリスチン酸フェナシルエステル、パルミチン酸イソプロピルエステル、パルミチン酸ドデシルエステル、パルミチン酸テトラデシルエステル、パルミチン酸ペンタデシルエステル、パルミチン酸オクタデシルエステル、パルミチン酸セチルエステル、パルミチン酸フェニルエステル、パルミチン酸フェナシルエステル、ステアリン酸セチルエステル、ベヘニン酸エチルエステルなどの脂肪族モノカルボン酸エステル類、モノラウリン酸グリコール、モノパルミチン酸グリコール、モノステアリン酸グリコールなどのエチレングリコールのモノエステル類、ジラウリン酸グリコール、ジパルミチン酸グリコール、ジステアリン酸グリコールなどのエチレングリコールのジエステル類、モノラウリン酸グリセリンエステル、モノミリスチン酸グリセリンエステル、モノパルミチン酸グリセリンエステル、モノステアリン酸グリセリンエステルなどのグリセリンのモノエステル類、ジラウリン酸グリセリンエステル、ジミリスチン酸グリセリンエステル、ジパルミチン酸グリセリンエステル、ジステアリン酸グリセリンエステルなどのグリセリンのジエステル類、トリラウリン酸グリセリンエステル、トリミリスチン酸グリセリンエステル、トリパルミチン酸グリセリンエステル、トリステアリン酸グリセリンエステル、パルミトジオレイン、パルミトジステアリン、オレオジステアリンなどのグリセリンのトリエステル類などが挙げられる。この中でもエチレングリコールのジエステル類が好適であり、特にエチレングリコールジステアレートが好適に用いられる。
【0034】
使用できる脂肪族/芳香族カルボン酸ヒドラジドとしては、例えばセバシン酸ジ安息香酸ヒドラジド、ソルビトール系化合物の具体例としては、ジベンジリデンソルビトール、ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(3,4−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、メラミン系化合物の具体例としては、メラミンシアヌレートおよびポリビン酸メラミン、フェニルホスホン酸金属塩の具体例としては、フェニルホスホン酸亜鉛塩、フェニルホスホン酸カルシウム塩、フェニルホスホン酸マグネシウム塩などが使用できる。
【0035】
使用できるアミノ酸としては、例えば生体に含まれるタンパク質を構成する要素であるグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、フェニルグリシン、トリプトファン、プロリン、o−チロシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、ポリペプチドの具体例としてはロイプロリドなどが使用できる。
【0036】
これらの結晶核剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもかまわない。2種以上を併用して用いると、それぞれを単独で利用する場合と比較し、それぞれの相乗効果を発現し、結晶化速度増大、結晶の微細化促進がより顕著なものとなる場合がある。
【0037】
これらの結晶核剤の含有量は、本発明のポリ乳酸系フィルムまたはポリ乳酸系樹脂組成物中に0.1〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.3〜3質量%、さらに好ましくは0.5〜2質量%である。含有量が0.1質量%以上である場合、耐熱性および透明性を発現できる点で好ましい。また、含有量が5質量%以下である場合、結晶核剤としての効果が飽和して、外観や物性の変化を来すことを防ぐことができる点で好ましい。
【0038】
(結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物)
本発明のポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物では、前記結晶核剤および前記結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物を含有することが好ましい。前記例示した結晶核剤は自己会合していることが多く、その場合、樹脂中に結晶核剤が凝集したまま添加されることになり、結晶の微細化には不都合となることがある。そこで、結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物をさらに混合することで、該結晶核剤の自己会合が解け、結晶核剤がより微分散化されることがある。この場合、結晶の微細化がより効果的なものとなる。
【0039】
結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物の添加方法には特に制限は無い。結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物は、ポリ乳酸や結晶核剤と同時に溶融もしくは溶液混合してもよいし、先に結晶核剤と溶融もしくは溶液混合したものをポリ乳酸に添加してもよい。また、マスターペレットを作ってそれを希釈する方法でもよい。これらの中でも、結晶核剤の自己会合を解く観点から、結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物を、先に結晶核剤と溶融もしくは溶液混合したものを、ポリ乳酸に添加する方法が好ましい。
【0040】
前記結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物として使用できるものは、前記結晶核剤として使用できる化合物であってもよいし、前記結晶核剤として使用できる化合物でなくてもよい。具体的には、下記に示すように、使用する結晶核剤との間で水素結合性を有するかどうかを確認して、確認できたものを前記結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物として使用すればよい。
【0041】
上記した結晶核剤を含め、化合物が、結晶核剤に対して水素結合性を有するかどうかの判断は、NMRで解析可能である。例えば、上記結晶核剤として使用できる化合物と結晶核剤との溶液混合品のH−NMRスペクトルを、それぞれ単体の場合とを比較した化学シフト変化から水素結合の有無を確認できる。例えば、結晶核剤としてアミド化合物、結晶核剤との間に水素結合性を有する化合物としてソルビトール系化合物を用いた場合、溶液混合品では、それぞれの単体比較、アミド結合のプロトンピークは低磁場シフトし、ソルビトールのヒドロキシル基のプロトンピークは高磁場シフトしていることで、これら両者の間に水素結合が存在することが確認できる。
【0042】
結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物の具体例としては、結晶核剤として脂肪族カルボン酸アミドやN−置換尿素などを用いた場合、脂肪族アルコール類、ソルビトール系化合物、アミノ酸、ポリペプチドなどが使用できる。よって、結晶核剤としては脂肪族カルボン酸アミド、およびN−置換尿素からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用し、結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物としては脂肪族アルコール類、ソルビトール系化合物、アミノ酸、およびポリペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが、特に好ましい。
【0043】
結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物を含有する場合、結晶核剤との量関係には特に制限は無いが、効果的に結晶核剤の自己会合を解く観点から、結晶核剤と、結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物との重量比は1:9〜9:1が好ましい。より好ましくは1:5〜5:1で、さらに好ましくは1:2〜2:1である。
【0044】
上記した、結晶核剤の自己会合を解いて、結晶核剤を樹脂中に微分散化するという観点からは、結晶核剤のみを一度溶剤に溶かし自己会合を解いたものを、樹脂中に添加するという方法も使用できる。
【0045】
(他の添加物)
また、本発明のポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて、添加剤、例えば、難燃剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、粘着性付与剤、脂肪酸エステル、ワックスなどの有機滑剤またはポリシロキサンなどの消泡剤、顔料、染料などの着色剤を適量配合することができる。
【0046】
(結晶化度)
本発明のポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物は、結晶化度が3〜60%であることが重要である。結晶化度の好ましい範囲は4〜50%、より好ましい範囲は5〜40%である。結晶化度が3%未満である場合、耐熱性が不十分となることがある。また、結晶化度60%を超える場合、透明性が悪化することがある。なお、結晶化度は、ポリ乳酸系樹脂組成物およびフィルム、または成形体について、広角X線測定を行い、Ruland法により求めることができる。
【0047】
(ポリ乳酸の強度比から求めた結晶比率)
本発明のポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物では、ポリ乳酸のα結晶と、α結晶とは異なる結晶(α´結晶)を、フィルム、および樹脂組成物中に存在させることで、いずれかの結晶の過大な成長を抑制し、微細な結晶を緻密に配置させる。なお、本明細書中では、X線回折でα結晶の2θのピークをa°としたときに2θが(a−0.2)°≦2θ≦(a−0.01)°の範囲にピークを有するポリ乳酸の結晶を、「α´結晶」という。
【0048】
本発明のポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物は、ポリ乳酸のα結晶と、X線回折でα結晶の2θのピークをa°としたときに2θが(a−0.2)°≦2θ≦(a−0.01)°の範囲にピークを有するポリ乳酸の結晶(α´結晶)を両方有し、それらの強度比から求めた結晶比率が99/1〜1/99であることが重要である。
【0049】
ポリ乳酸のα結晶と、X線回折でα結晶の2θのピークをa°としたときに2θが(a−0.2)°≦2θ≦(a−0.01)°の範囲にピークを有する結晶(α´結晶)の強度比から求めた結晶比率の好ましい範囲は95/5〜5/95、より好ましい範囲は90/10〜10/90である。比率が99/1〜1/99の範囲を外れる場合、透明性が不十分となることがある。
【0050】
上記した、ポリ乳酸のα結晶と、X線回折でα結晶の2θのピークをa°としたときに(a−0.2)°≦2θ≦(a−0.01)°の範囲にピークを有する結晶を、フィルム、または樹脂組成物中に存在させる方法としては、特に制限はないが、低温度領域、具体的には120℃未満での熱処理と、高温度領域、具体的には120℃以上での熱処理を組み合わせて、ポリ乳酸系樹脂を結晶化させる方法が使用できる。
【0051】
結晶比率は、以下のようにして求める。まず、ポリ乳酸系フィルム、または樹脂組成物について、X線回折強度を測定する。次に得られた、X線回折パターンのメインピークを、α結晶と、α結晶の2θのピークをa°としたときに、2θが(a−0.2)°≦2θ≦(a−0.01)°の範囲にピークを有するポリ乳酸の結晶のピークに分離し、それらの強度比から結晶比率を求める。
【0052】
[製造方法]
次に、本発明のポリ乳酸系フィルム、または樹脂組成物を製造する方法を具体的に説明する。
【0053】
本発明におけるポリ乳酸は、次のような方法で得ることができる。原料としては、L−乳酸および/またはD−乳酸の乳酸成分を用いるが、乳酸成分以外のヒドロキシカルボン酸を併用することもできる。また環状エステル中間体、例えば、ラクチド、グリコリドなどを原料として使用することもできる。さらにジカルボン酸類やグリコール類なども併用することができる。
【0054】
ポリ乳酸は、上記原料を直接脱水縮合する方法、または上記環状エステル中間体を開環重合する方法によって得ることができる。例えば直接脱水縮合して製造する場合、乳酸類または乳酸類とヒドロキシカルボン酸類を好ましくは有機溶媒、好ましくはフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより高分子量のポリマーが得られる。また、ラクチドなどの環状エステル中間体をオクチル酸錫などの触媒を用い、減圧下、開環重合することによっても高分子量のポリマーが得られることも知られている。このとき、有機溶媒中での加熱還流時の水分および低分子化合物の除去の条件を調整する方法や、重合反応終了後に触媒を失活させ解重合反応を抑える方法、製造したポリマーを熱処理する方法などを用いることにより、ラクチド量の少ないポリマーを得ることができる。
【0055】
本発明のポリ乳酸系フィルム、または樹脂組成物を、所望の結晶化度にするための方法は特に限定されないが、例えば次の4種類の方法が利用できる。
【0056】
(1)フィルム製膜中、あるいは製膜後のフィルムの結晶化
フィルム製膜中、つまり、口金〜キャスト部分での降温結晶化、加熱ロール搬送中あるいはテンターによる昇温結晶化、一軸あるいは二軸延伸による配向結晶化、フィルム製膜後(オフライン)の再加熱による昇温結晶化などを用いる方法。
【0057】
(2)フィルム、および樹脂組成物成形時の予熱による結晶化
成形機でフィルム、および樹脂組成物を成形する際のヒーター加熱による結晶化を用いる方法。
【0058】
(3)フィルム、および樹脂組成物の成形後、加熱した金型内での結晶化
成形機でフィルム、および樹脂組成物を成形する際の金型を加熱しておき、成形後、その金型上で結晶化する方法。
【0059】
(4)成形体の加熱による結晶化
成形体自体を加熱オーブンなどに入れ、結晶化させる方法。
【0060】
これらの方法は、これらは単独で用いてもよいし、2種以上の方法を併用してもよい。
【0061】
次に、まずポリ乳酸フィルムの製膜中の結晶化、つまり口金〜キャスト部分での降温結晶化と、加熱ロール搬送中の昇温結晶化を行い、その後成形機にてフィルムを成形し、成形体を得る場合を例に、具体的に説明する。
【0062】
ポリL乳酸樹脂とポリD乳酸樹脂をそれぞれ5torr(5×133.3Pa)以下の減圧下、100〜120℃で3時間以上乾燥し、樹脂を押出機に供給、溶融粘度に応じて150〜250℃で溶融混練する。なお、多層構造のフィルムを得る場合には、組成の異なる乳酸樹脂をそれぞれ独立した別々の押出機に供給、溶融粘度に応じて150〜250℃で溶融混練すればよい。ここで、口金〜キャスト部分で降温結晶化させるため、口金を樹脂の降温結晶化温度に応じて120〜200℃に冷却しておく。ダイ外またはダイ内で複合化し、Tダイ法によりリップ間隔1〜3mmのスリット状の口金から吐出する。吐出された樹脂を、金属製冷却キャスティングドラム上に、直径0.5mmのワイヤー状電極を用いて静電印加して密着させ、無配向キャストフィルムを得る。
【0063】
金属製冷却ロールの表面温度は、前記降温結晶化を促進させるため、樹脂の降温結晶化温度付近の温度にしておいてもよいが、通常は0〜50℃の範囲とすることが好ましく、より好ましい範囲は5〜40℃であり、さらに好ましい範囲は10〜30℃である。金属製冷却ロールの表面温度をこの範囲に設定することで、金属ロールとフィルムの粘着を防止でき、また、良好な透明性を発現できる。
【0064】
こうして得られた無配向キャストフィルムを、加熱ロール上を搬送させることによって所望の結晶化度となるように結晶化させる。最も高温となる加熱ロールの好ましい温度範囲は60〜160℃で、より好ましくは70〜150℃、さらに好ましくは80〜140℃である。加熱ロール表面は、フィルムの粘着を防止するため、シリコーンやフッ素(例えば、「テフロン(登録商標)」)などの材質であることが好ましい。このときのフィルムの最終表面温度は70〜150℃であることが好ましく、80〜140℃であることがより好ましく、90〜130℃であることがさらに好ましい。次いで、0〜50℃の冷却ロール上を搬送させてフィルム温度を下げ、無延伸のフィルムを得る。
【0065】
テンター式逐次二軸延伸を行う場合は、前記で得られた無配向キャストフィルムを、加熱ロール上を搬送させることによって、縦延伸を行う温度まで昇温する。昇温には赤外線ヒーターなど補助的な加熱手段を併用しても良い。延伸温度の好ましい範囲は70〜95℃であり、より好ましくは75〜90℃である。このようにして昇温した無配向フィルムを加熱ロール間の周速差を用いてフィルム長手方向に1段もしくは2段以上の多段で延伸を行う。合計の延伸倍率は1.2〜3.5倍が好ましく、より好ましくは1.5〜3.0倍である。
【0066】
このように一軸延伸したフィルムをいったん冷却した後、フィルムの両端部をクリップで把持してテンターに導き、幅方向の延伸を行う。延伸温度は70〜95℃が好ましく、より好ましくは75〜90℃である。延伸倍率は1.2〜3.5倍が好ましく、より好ましくは1.5〜3.0倍である。フィルムの幅方向の性能差を低減するためには、長手方向の延伸温度よりも1〜15℃低い温度で幅方向の延伸を行うことが好ましい。さらに必要に応じて、再縦延伸および/または再横延伸を行ってもよい。
【0067】
次に、この延伸フィルムを緊張下または幅方向に弛緩しながら熱固定する。主にフィルムに熱寸法安定性を付与する観点、および、フィルムに含有されているラクチドを飛散させラクチド量を低減させる観点から、好ましい熱処理温度は100〜160℃であり、より好ましくは120〜150℃である。熱処理時間は0.2〜30秒の範囲が好ましい。弛緩率は、幅方向の熱収縮率を低下させる観点から1〜8%であることが好ましく、より好ましくは2〜5%である。熱固定処理を行う前にいったんフィルムを冷却することがさらに好ましい。
【0068】
さらに、必要ならば長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、フィルムを室温まで冷やして巻き取り、逐次二軸延伸ポリ乳酸系フィルムを得る。
【0069】
[ポリ乳酸系フィルム]
本発明のポリ乳酸系フィルムの厚みは、特に限定されないが、50〜2000μmであることが好ましい。より好ましくは100〜1500μmであり、さらに好ましくは200〜1000μmである。フィルムの厚みが50μm以上である場合、成形時のフィルム破れを防ぎ、成形体の強度維持の点からも好ましい。また、フィルム厚みが2000μm以下である場合、成形時の長時間加熱による成形性、透明性の悪化を防ぐことができる点から好ましい。
【0070】
本発明のポリ乳酸系フィルムは、単層構造であっても構わないし、2種類以上の層からなる多層構造であっても構わない。多層構造の場合は、少なくとも1層が本発明のポリ乳酸系フィルムの特性を有していればよく、好ましくは全ての層が本発明のポリ乳酸系フィルムの特性を有していればよい。
【0071】
本発明のポリ乳酸系フィルムが多層構造を有する場合、ポリ乳酸のα結晶と、X線回折で該α結晶の2θのピークをa°としたときに2θが(a−0.2)°≦2θ≦(a−0.01)°の範囲にピークを有するポリ乳酸の結晶(この結晶をα´結晶とする)を99/1〜1/99の結晶比率で有し、かつ、結晶化度が3〜60%である層はフィルム中に少なくとも1層あればよい。またより好ましくは、透明性、耐熱性を両立させる観点から、多層構造における他層もこれらの条件を満たしていることが好ましい。
【0072】
本発明のポリ乳酸系フィルムが多層構造を有する場合、ポリ乳酸系フィルム全体厚みに対する、α結晶とα´結晶比率が99/1〜1/99であり、かつ、結晶化度が3〜60%である層が占める割合は、5〜100%であることが好ましく、30〜100%であることがより好ましく、さらに好ましくは50〜100%である。
【0073】
また、本発明のポリ乳酸系フィルムのヘイズは20%以下であることが好ましい。15%以下、さらに好ましくは10%以下である。ヘイズを20%以下とすることで透明性と耐熱性、耐衝撃性を両立させることができる。
【0074】
なお、本発明でいうヘイズは、厚み0.4mmに換算した場合の換算ヘイズ値であり、H0.4(%)=H×0.4/d(H0.4:0.4mm厚み換算ヘイズ値(%)、H:フィルムサンプルのヘイズの実測値(%)、d:ヘイズ測定部のフィルムサンプル厚み(mm))で定義される式により得られる換算ヘイズ値とする。本発明では、この換算ヘイズ値が20%以下であることが好ましい。
【0075】
次に、本発明におけるポリ乳酸系フィルム以外の樹脂組成物の製造方法の一例として、射出成形体の成形方法について説明する。5torr(5×133.3Pa)以下の減圧下、100〜120℃で3時間以上乾燥し、乾燥したポリ乳酸樹脂原料をドライブレンドし、二軸押出機に供給、溶融粘度に応じて150〜250℃で溶融混練し、ストランド形状に押出してペレットを作成する。上記方法にて作成したペレットを十分に乾燥して水分を除去した後、射出成形装置でペレットを溶融させて金型に充填し、射出成形によるポリ乳酸系樹脂組成物を得る。本発明の射出成形方法としては、特に限定されないが、代表的には熱可塑性樹脂用の一般的な射出成形法、ガスアシスト成形法及び射出圧縮成形法等の射出成形法を採用することができる。その他目的に合わせて、上記の方法以外でインモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH−PULL、SCORIM等を採用することもできる。射出成形装置は、一般的な射出成形機、ガスアシスト成形機及び射出圧縮成形機等と、これらに用いられる成形用金型及び付帯機器、金型温度制御装置及び原料乾燥装置等から構成される。成形条件は射出シリンダー内での樹脂の熱分解を避けるため、溶融樹脂温度を170℃〜210℃の範囲で成形する事が好ましい。成形用金型の温度は、射出成形体を非晶状態で得る場合には、成形サイクル(型閉〜射出〜保圧〜冷却〜型開〜取出)の冷却時間を短くするため、できるだけ低温に設定することが好ましい。金型温度は、一般的には15℃〜55℃が望ましい。しかし、後結晶化時の成形体の収縮や反り、変形を抑えるためにはこの範囲で高温にすることが有利である。
【0076】
[成形体]
次に、上記で得られたポリ乳酸系フィルム、または樹脂組成物を成形し、本発明の成形体を得る方法について以下に説明する。
【0077】
本発明でいう成形体とは、袋、チューブ、カップ、ボトル、トレー、糸などを包含し、その形状、大きさ、厚み、意匠などに関して制限はない。なかでも、商品の展示包装用に用いられているブリスターパックなどの保形具類、食品トレー、飲料自動販売機のディスプレイ用ボトル、お弁当箱や飲料カップなどの容器類、その他各種包装用の成形体、および表面材などの各種工業材料を好ましく挙げることができる。
【0078】
成形方法としては、真空成形、真空圧空成形、プラグアシスト成形、ストレート成形、フリードローイング成形、プラグアンドリング成形、スケルトン成形などの各種成形法を適用できる。
【0079】
成形体の耐熱性を更に上げる観点から、成形時または成形後に熱処理することが好ましい。その方法としては、前述の方法(2)〜(4)を使用できる。(2)のフィルム、または樹脂組成物成形時の予熱による結晶化では、フィルム、または樹脂組成物の表面温度がポリ乳酸系フィルム、または樹脂組成物のガラス転移点(Tg)から融点(Tm)までの温度範囲にあることが好ましい。より好ましくは、(Tg+5)℃から(Tm−20)℃、さらに好ましくは(Tg+10)℃から(Tm−40)℃である。ここでポリ乳酸系フィルムが、樹脂の種類が異なる複数の層からなる場合など、ポリ乳酸系フィルムとしては複数のガラス転移点が観測される場合、それぞれの層のガラス転移点のうち、最も低い値をTgとして用い、それぞれの層の融点のうち、最も低い値をTmとして用いる。
【0080】
(3)のフィルム、または樹脂組成物成形後に加熱した金型内結晶化では、金型の設計温度条件は、好ましくは(Tg+5)℃から(Tm−20)℃、さらに好ましくは(Tg+10)℃から(Tm−40)℃である。ここでポリ乳酸系フィルムが、樹脂の種類が異なる複数の層からなる場合など、ポリ乳酸系フィルムとしては複数のガラス転移点が観測される場合、それぞれの層のガラス転移点のうち、最も低い値をTgとして用い、それぞれの層の融点のうち、最も低い値をTmとして用いる。
【0081】
(4)の成形体の加熱による結晶化では、成形体の表面温度がポリ乳酸系フィルム、または樹脂組成物のガラス転移点(Tg)から融点(Tm)までの温度範囲にあることが好ましい。設定温度がTmより高い場合は、短時間で結晶化させても、成形体の透明性を損ねたり、形状が歪んだりする場合があり、さらに長時間加熱すると融解する場合がある。Tgより低い場合は、成形体の結晶化が起こらず、目的とする結晶化が起こらない場合がある。
【0082】
本発明のポリ乳酸系フィルムおよび樹脂組成物は、耐熱性、耐衝撃性、透明性に優れる。なお、本発明における樹脂組成物はフィルムや成形体を含んでおり、各種ブリスターパックなどの保形具類や、耐熱性や透明性を必要とする食品トレー、飲料カップなどの容器類、耐熱性を必要とする飲料自動販売機のディスプレイ用ボトル、缶などの包装材料用途、表面材、ラミネート材などの工業材料用途、キャリアテープなどの電子部品搬送用途などに好ましく用いることができる。
【実施例】
【0083】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0084】
[測定方法および評価方法]
実施例中に示す測定や評価は次に示すような条件で行った。
【0085】
(1)成形性
直径95mm、高さ7mmのコップのフタ状アルミ製金型(型温50〜120℃)を備えた真空成形機(成光産業(株)製フォーミング300X型)に、幅210mm、長さ300mm、厚さ0.4mmの、ポリ乳酸系フィルムの枚葉サンプルをセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間フィルムを加熱、上記金型に10秒〜10分間真空圧着させて成形体を得た。
得られた成形体を目視し、以下の基準で評価した。
○:エッジが直角に成形できている
△:エッジ部分に少し丸みがある
×:金型の形状と著しく異なる。
上記の評価のうち、○、△を合格とした。
【0086】
(2)結晶化度
フィルム、もしくは(1)で成形した成形体を適当な大きさに切断し、アルミ製試料ホルダー(20mm×18mm×0.15mm)に固定し、次の測定条件で、広角X線測定を行った。
【0087】
X線発生装置として理学電機(株)社製RU−200R(回転対陰極型)(X線源:CuKα線(湾曲結晶モノクロメータ使用)、出力:50kV、200mA)、ゴニオメータとして理学電機(株)社製2155D型(スリット:1°−0.15mm−1°−0.45mm、検出器:シンチレーションカウンター)、計数記録装置として理学電機(株)社製RAD−B型を用いて、測定条件[2θ/θ:連続スキャン、測定範囲:2θ=5〜145°、ステップ:0.02°、走査速度:2°/分]で広角X線測定を行い、Ruland法により結晶化度を求めた。
【0088】
(3)層厚み比
フィルム、もしくは(1)で成形した成形体断面を、ライカマイクロシステムズ(株)製金属顕微鏡LeicaDMLMを用いて、倍率100倍、透過光で写真撮影し、各層厚みを測定した。
【0089】
なお、断面観察を行いやすいように、必要に応じてフィルム、もしくは成形体を加熱結晶化させてから測定を行った。
【0090】
(4)ヘイズ
フィルム、もしくは(1)で成形した成形体のヘイズ値を濁度計(日本電色工業(株)製NDH5000)を用いて測定した。測定は1水準につき5回行い、5回の測定の平均値から、厚み0.4mmとした場合の換算値としてヘイズ値(%)を求めた。換算式は下記のとおりである。
0.4(%)=H×0.4/d
ここで、
0.4:0.4mm厚み換算ヘイズ値(%)
H:フィルム、もしくは成形体サンプルのヘイズの実測値(%)
d:フィルム、もしくは成形体のヘイズ測定部のサンプル厚み(mm)
【0091】
(5)耐熱性
成形体を、60℃に設定したオーブンに2時間入れたときの変形を目視にて評価した。
○:変形無し
△:変形小
×:変形大。
上記の評価のうち、○、△を合格とした。
【0092】
(6)耐衝撃性
フィルム、もしくは(1)で成形した成形体から10mm×50mmの短冊サンプルを10本作成し、この短冊サンプルの長さ50mmが半分となるようにゆっくり180°折り曲げ、そのときのサンプル形状により、以下の基準で判断した。
○:10本とも割れない(折れる)
△:割れないサンプルが1本以上9本以下である
×:10本とも割れる。
上記の評価のうち、○、△を合格とした。
【0093】
(7)結晶比率
(2)と同様にして測定したX線回折パターンのメインピークを、α結晶と、α結晶の2θのピークをa°としたときに、2θが(a−0.2)°≦2θ≦(a−0.01)°の範囲にピークを有するポリ乳酸の結晶のピークに分離し、それらの強度比から結晶比率を求めた。なお、ピーク分離にはPseudo−Voigt関数を用い、α結晶の2θ位置を16.7°に固定し、ピーク高さ、形状因子を精密化した。α結晶の2θのピークをa°としたときに2θが(a−0.2)°≦2θ≦(a−0.01)°の範囲にピークを有するポリ乳酸の結晶については2θ、ピーク高さ、形状因子のパラメータの精密化を行った。
【0094】
[ポリ乳酸樹脂]
実施例で用いたポリ乳酸樹脂について示す。
P−1:
D−乳酸ユニット含有割合1mol%、PMMA換算の重量平均分子量19万のポリL−乳酸樹脂
P−2:
D−乳酸ユニット含有割合5mol%、PMMA換算の重量平均分子量19万のポリL−乳酸樹脂
P−3:
P−1と、PMMA換算の重量平均分子量1万のポリD−乳酸樹脂(L−乳酸ユニット含有割合1mol%)を質量比90:10で混合したもの。
P−4:
P−1と、PMMA換算の重量平均分子量1万のポリD−乳酸樹脂(L−乳酸ユニット含有割合1mol%)を質量比60:40で混合したもの。
【0095】
[結晶核剤もしくは結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物]
実施例で用いた結晶核剤もしくは結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物について示す。
Q−1:
エチレンビスラウリル酸アミド(EBLA)
Q−2:
エチレンビスステアリン酸アミド(EBSA)
【0096】
Q−3:
ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール
なお、結晶核剤としてアミド化合物、結晶核剤との間に水素結合性を有する化合物としてソルビトール系化合物を用いた場合、溶液混合品では、それぞれの単体比較、アミド結合のプロトンピークは低磁場シフトし、ソルビトールのヒドロキシル基のプロトンピークは高磁場シフトしていることで、これら両者の間に水素結合が存在することを確認している。
【0097】
[ポリ乳酸系フィルムおよび成形体の作製]
(実施例1)
ポリ乳酸樹脂(P−1)とエチレンビスラウリル酸アミド(Q−1)を質量比99:1でベント式二軸押出機に供給し、口金温度を200℃に設定したTダイ口金より押出し、静電印加方式により、30℃のキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、無配向キャストフィルムを得た。
【0098】
続いてこの無配向キャストフィルムを、90℃に加熱したシリコーンロール上を、接触時間が30秒間となるように搬送させ、次いで30℃の冷却ロール上を搬送させてフィルム温度を下げ、厚さ0.40mmの無配向フィルムを得た。
【0099】
次に、得られた無配向フィルムを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、50℃にセットしたアルミ製金型に10秒間真空圧着させ、直径95mm、高さ7mmの円柱状容器を得た。
【0100】
得られた成形体の耐熱性、透明性、耐衝撃性は良好であった。
【0101】
(実施例2、6〜9)
フィルムを構成するポリ乳酸樹脂、結晶核剤を表1、表2のように変えた以外は実施例1と同様に実施した。
【0102】
(実施例3)
実施例1と同様にして得られた無配向フィルムを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、90℃にセットしたアルミ製金型に60秒間真空圧着させて実施例1と同形状の成形体を得た。
【0103】
得られた成形体の耐熱性、透明性、耐衝撃性は良好であった。
【0104】
(実施例4)
ポリ乳酸樹脂(P−1)とエチレンビスラウリル酸アミド(Q−1)を質量比99:1でベント式二軸押出機に供給し、口金温度を200℃に設定したTダイ口金より押出し、静電印加方式により、30℃のキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、無配向キャストフィルムを得た。
【0105】
続いてこの無配向キャストフィルムを、90℃に加熱したシリコーンロール上を、接触時間が120秒間となるように搬送させ、次いで30℃の冷却ロール上を搬送させてフィルム温度を下げ、厚さ0.40mmの無配向フィルムを得た。
【0106】
次に、得られた無配向フィルムを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、50℃にセットしたアルミ製金型に10秒間真空圧着させ、実施例1と同形状の成形体を得た。
【0107】
得られた成形体の耐熱性、透明性、耐衝撃性は良好であった。
【0108】
(実施例5)
ポリ乳酸樹脂(P−1)とエチレンビスラウリル酸アミド(Q−1)を質量比99:1でベント式二軸押出機に供給し、口金温度を200℃に設定したTダイ口金より押出し、静電印加方式により、30℃のキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、無配向キャストフィルムを得た。
【0109】
続いてこの無配向キャストフィルムを、120℃に加熱したシリコーンロール上を、接触時間が20秒間となるように搬送させ、次いで30℃の冷却ロール上を搬送させてフィルム温度を下げ、厚さ0.40mmの無配向フィルムを得た。
【0110】
次に、得られた無配向フィルムを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、50℃にセットしたアルミ製金型に10秒間真空圧着させ、施例1と同形状の成形体を得た。
【0111】
得られた成形体の耐熱性、透明性、耐衝撃性は良好であった。
【0112】
(実施例10)
ポリ乳酸樹脂(P−3)とエチレンビスラウリル酸アミド(Q−1)を質量比99:1でベント式二軸押出機に供給し、200℃で溶融混練したのち、180℃に冷却したTダイ口金より押出し、静電印加方式により、30℃のキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、無配向キャストフィルムを得た。
【0113】
続いてこの無配向キャストフィルムを、120℃に加熱したシリコーンロール上を、接触時間が10秒間となるように搬送させ、次いで30℃の冷却ロール上を搬送させてフィルム温度を下げ、厚さ0.40mmの無配向フィルムを得た。
【0114】
次に、得られた無配向フィルムを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、50℃にセットしたアルミ製金型に10秒間真空圧着させて実施例1と同形状の成形体を得た。
【0115】
得られた成形体の耐熱性、透明性、耐衝撃性は良好であった。
【0116】
(実施例11)
フィルムを構成するポリ乳酸樹脂を表2のように変えた以外は実施例10と同様に実施した。
【0117】
(実施例12)
層A用の樹脂として、ポリ乳酸樹脂(P−1)と、エチレンビスラウリル酸アミド(Q−1)を質量比99:1で、また、層B用の樹脂として、ポリ乳酸樹脂(P−2)とエチレンビスラウリル酸アミド(Q−1)を質量比99:1で、それぞれ別々のベント式二軸押出機に供給し200℃で溶融混練したのち、層構成がA/B/Aとなるよう複合化、Tダイ口金より共押出し、静電印加方式により、30℃のキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、無配向キャストフィルムを得た。
【0118】
続いてこの無配向キャストフィルムを、90℃に加熱したシリコーンロール上を、接触時間が30秒間となるように搬送させ、次いで30℃の冷却ロール上を搬送させてフィルム温度を下げ、厚さ0.40mmの無配向フィルムを得た。
【0119】
次に、得られた無配向フィルムを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、50℃にセットしたアルミ製金型に10秒間真空圧着させて実施例1と同形状の成形体を得た。
【0120】
得られた成形体の耐熱性、透明性、耐衝撃性は良好であった。
【0121】
(実施例13、14)
フィルムを構成するポリ乳酸樹脂、結晶核剤を表2のように変えた以外は実施例12と同様に実施した。
【0122】
(実施例15)
層A用の樹脂として、ポリ乳酸樹脂(P−3)と、エチレンビスラウリル酸アミド(Q−1)を質量比99:1で、また、層B用の樹脂として、ポリ乳酸樹脂(P−2)とエチレンビスラウリル酸アミド(Q−1)を質量比99:1で、それぞれ別々のベント式二軸押出機に供給し200℃で溶融混練したのち、層構成がA/B/Aとなるよう複合化、180℃に冷却したTダイ口金より共押出し、静電印加方式により、30℃のキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、無配向キャストフィルムを得た。
【0123】
続いてこの無配向キャストフィルムを、90℃に加熱したシリコーンロール上を、接触時間が30秒間となるように搬送させ、次いで30℃の冷却ロール上を搬送させてフィルム温度を下げ、厚さ0.40mmの無配向フィルムを得た。
【0124】
次に、得られた無配向フィルムを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、50℃にセットしたアルミ製金型に10秒間真空圧着させて実施例1と同形状の成形体を得た。
【0125】
得られた成形体の耐熱性、透明性、耐衝撃性は良好であった。
【0126】
(実施例16)
ポリ乳酸樹脂(P−1)とエチレンビスラウリル酸アミド(Q−1)を質量比99:1でベント式二軸押出機に供給し、口金温度を200℃に設定したTダイ口金より押出し、静電印加方式により、30℃のキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、無配向キャストフィルムを得た。
【0127】
続いてこの無配向キャストフィルムを、90℃に加熱したシリコーンロール上を、接触時間が30秒間となるように搬送させ、次いで30℃の冷却ロール上を搬送させてフィルム温度を下げ、厚さ0.40mmの無配向フィルムを得た。
【0128】
次に、この無配向フィルムを、120℃に加熱したシリコーンロール上を、接触時間が10秒間となるように再び搬送させ、次いで30℃の冷却ロール上を搬送させてフィルム温度を下げ、厚さ0.40mmの無配向フィルムを得た。
【0129】
得られたフィルムの耐熱性、透明性、耐衝撃性は良好であった。
【0130】
(実施例17)
層A用の樹脂として、ポリ乳酸樹脂(P−1)と、エチレンビスラウリル酸アミド(Q−1)を質量比99:1で、また、層B用の樹脂として、ポリ乳酸樹脂(P−2)とエチレンビスラウリル酸アミド(Q−1)を質量比99:1で、それぞれ別々のベント式二軸押出機に供給し200℃で溶融混練したのち、層構成がA/B/Aとなるよう複合化、Tダイ口金より共押出し、静電印加方式により、30℃のキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、無配向キャストフィルムを得た。
【0131】
続いてこの無配向キャストフィルムを、90℃に加熱したシリコーンロール上を、接触時間が30秒間となるように搬送させ、次いで30℃の冷却ロール上を搬送させてフィルム温度を下げ、厚さ0.40mmの無配向フィルムを得た。
【0132】
次に、この無配向フィルムを、120℃に加熱したシリコーンロール上を、接触時間が10秒間となるように再び搬送させ、次いで30℃の冷却ロール上を搬送させてフィルム温度を下げ、厚さ0.40mmの無配向フィルムを得た。
【0133】
得られたフィルムの耐熱性、透明性、耐衝撃性は良好であった。
【0134】
以上の実施例の結果を表1、2に示す。
【0135】
(比較例1)
ポリ乳酸樹脂(P−1)をベント式二軸押出機に供給し、口金温度を200℃に設定したTダイ口金より押出し、静電印加方式により、30℃のキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、厚さ0.40mm無配向キャストフィルムを得た。
【0136】
次に、得られた無配向フィルムを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、50℃にセットしたアルミ製金型に10秒間真空圧着させて実施例1と同形状の成形体を得た。
【0137】
得られた成形体の結晶化度は本発明の範囲に入っておらず、成形体の耐熱性が不十分であった。
【0138】
(比較例2)
実施例1と同様にして得られた無配向フィルムを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、120℃にセットしたアルミ製金型に10分間真空圧着させて実施例1と同形状の成形体を得た。
【0139】
得られた成形体のヘイズは本発明の範囲に入っておらず、成形体の透明性、耐熱性が不十分であった。
【0140】
(比較例3)
実施例1と同様にして得られた無配向キャストフィルムを、120℃に加熱したシリコーンロール上を、接触時間が60秒間となるように搬送させ、次いで30℃の冷却ロール上を搬送させてフィルム温度を下げ、厚さ0.40mmの無配向フィルムを得た。
【0141】
次に、得られた無配向フィルムを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、50℃にセットしたアルミ製金型に10秒間真空圧着させて実施例1と同形状の成形体を得た。
【0142】
得られた成形体の結晶化度、ヘイズは本発明の範囲に入っておらず、成形体の材料となるフィルムの成形性、成形体の透明性が不十分であった。
【0143】
以上の比較例の結果を表2に示す。
【表1】



【表2】

【0144】
フィルムを構成するポリ乳酸樹脂、結晶核剤の種類が同じで組成比のみが異なる実施例1と2において、組成比がより好ましい範囲にある実施例1のほうが、成形性が劣っている。しかし、実施例1で得られた成形体のほうが、実施例2の成形体より、耐熱性、耐衝撃性に優れている。
【0145】
フィルムを構成する結晶核剤の種類のみが異なる実施例1と6は、いずれも、フィルムの成形性、成形体の耐熱性、耐衝撃性に優れていることがわかる。また、フィルムのヘイズ、成形体のヘイズはいずれも小さかった。
【0146】
フィルムを構成するポリ乳酸、結晶核剤に、さらに結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物を含む実施例7のフィルムは、実施例1のフィルム、成形体に比べ、ヘイズがさらに小さいことがわかる。
【0147】
フィルムを構成するポリ乳酸の種類のみが異なる実施例1と9は、いずれも、フィルムの成形性、成形体の耐熱性、耐衝撃性に優れていることがわかる。また、フィルムのヘイズ、成形体のヘイズはいずれも小さく、透明性に優れる。
【0148】
実施例1のフィルムを加熱処理して結晶度を向上させた実施例3の成形体は、実施例1のものより、成形体の結晶化度が高くなったため、ヘイズの値が大きくなった。
【0149】
実施例1と比べてフィルムの製造方法が異なる実施例4、5、16のフィルムは、実施例1と同様にフィルムの成形性、成形体の耐熱性、耐衝撃性に優れていることがわかる。また、フィルムのヘイズ、成形体のヘイズはいずれも小さかった。
【0150】
実施例1と比べてフィルムを構成するポリ乳酸、結晶核剤、フィルムの製造方法が異なる実施例9のフィルムにおいても、実施例1と同様にフィルムの成形性、成形体の耐熱性、耐衝撃性に優れていることがわかる。また、フィルムのヘイズ、成形体のヘイズはいずれも小さかった。
【0151】
実施例1と比べてフィルムを構成するポリ乳酸、フィルムの製造方法が異なる実施例10、11のフィルムにおいても、実施例1と同様にフィルムの成形性、成形体の耐熱性、耐衝撃性に優れていることがわかる。また、フィルムのヘイズ、成形体のヘイズはいずれも小さかった。
【0152】
2層構造を有する実施例12〜15、17においても、実施例1と同様にフィルムの成形性、成形体の耐熱性、耐衝撃性に優れていることがわかる。また、フィルムのヘイズ、成形体のヘイズはいずれも小さかった。
【0153】
結晶核剤を含まない比較例1のフィルムは、結晶性を有さず、成形性には優れていたが、成形体の耐熱性は劣っていた。
【0154】
結晶核剤を含まないこと以外は、実施例1と同様にして得られた比較例2のフィルム、成形体は、ヘイズが本発明の範囲を超えており、成形体の透明性が悪く、耐熱性も実施例1のものに比べて低下している。
【0155】
α´結晶が含まれていない比較例3のフィルムは、成形性が悪く、ヘイズも高かった。これから得られる成形体の結晶化度が70%である比較例3の成形体は、ヘイズが本発明の範囲より高く、透明性が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明のポリ乳酸系フィルム、および樹脂組成物は、商品の展示包装用に用いられているブリスターパックなどの保形具類、食品トレー、飲料自動販売機のディスプレイ用ボトル、お弁当箱や飲料カップなどの容器類、その他各種包装用の成形体、表面材などの各種工業材料を始めとして、広い用途に適用することができる。
【0157】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物からなるフィルムは、真空成形、真空圧空成形、プラグアシスト成型、ストレート成形、フリードローイング成形、プラグアンドリング成形、スケルトン成形などの各種成形法を適用でき、高い成形性を有する。また、耐熱性および透明性、耐衝撃性が要求される各種保形具類、容器などの包装材料に特に好ましく用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化度を有するポリ乳酸系フィルムであって、
このポリ乳酸系フィルムは、ポリ乳酸のα結晶と、X線回折で該α結晶の2θのピークをa°としたときに2θが、(a−0.2)°≦2θ≦(a−0.01)°の範囲にピークを有するポリ乳酸の結晶(この結晶をα´結晶とする)とを有し、α結晶とα´結晶の強度比から求めた結晶比率が99/1〜1/99であり、かつ、結晶化度が3〜60%である、ポリ乳酸系フィルム。
【請求項2】
前記ポリ乳酸系フィルムは、結晶核剤を含有する、請求項1に記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項3】
前記結晶核剤は、脂肪族カルボン酸アミド、およびN−置換尿素からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項4】
前記ポリ乳酸系フィルムは、前記結晶核剤と水素結合性を有する化合物を含有する、請求項2または3に記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項5】
前記結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物が、脂肪族アルコール類、ソルビトール系化合物、アミノ酸、およびポリペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項6】
前記ポリ乳酸系フィルムは、ヘイズが20%以下である、請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項7】
結晶化度を有するポリ乳酸系樹脂組成物であって、
このポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸のα結晶と、X線回折で該α結晶の2θのピークをa°としたときに2θが(a−0.2)°≦2θ≦(a−0.01)°の範囲にピ−クを有するポリ乳酸の結晶(この結晶をα´結晶とする)とを有し、α結晶とα´結晶の強度比から求めた結晶比率が99/1〜1/99であり、かつ、結晶化度が3〜60%である、ポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリ乳酸系樹脂組成物は、結晶核剤を含有する、請求項7に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項9】
前記結晶核剤は、脂肪族カルボン酸アミド、およびN−置換尿素からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項8に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリ乳酸系樹脂組成物は、前記結晶核剤との間で水素結合性を有する化合物を含有する、請求項8または9に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項11】
前記結晶核剤と水素結合性を有する化合物が、脂肪族アルコール類、ソルビトール系化合物、アミノ酸、およびポリペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項10に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−249443(P2009−249443A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96804(P2008−96804)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】