説明

ポリ乳酸系フィルム又はシート

【課題】 100℃を超える高温においても、フィルム又はシートの融解や変形が無く、しかも、フィルム又はシートの製造時や加工時、フィルム又はシートをロール状に巻回する際等に破断や裂けが生じないポリ乳酸系樹脂フィルム又はシートを提供する。
【解決手段】 本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートは、ポリ乳酸(A)を含む樹脂フィルム又はシートであって、下記式(1)
ΔHc′=ΔHm−ΔHc (1)
[式中、ΔHcは、DSCにて測定される、成膜後のフィルム又はシートの昇温過程での結晶化に伴う発熱量(J/g)であり、ΔHmは、その後の融解に伴う吸熱量(J/g)である]
で求められる成膜時結晶化部の融解吸熱量ΔHc′が10J/g以上であり、且つ引裂き強度が、流れ方向(MD方向)、幅方向(TD方向)ともに、2.5N/mm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系フィルム又はシート、より詳しくは、耐熱性に優れるとともに、製造時や加工時に破断や裂けが生じないポリ乳酸系フィルム又はシートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は植物由来のバイオマスポリマーであり、石油由来のポリマーに替わる樹脂として注目されている。しかし、ポリ乳酸は、結晶化速度が遅く、通常の成膜手段ではほとんど結晶化しない。そのため、ポリ乳酸を含有する樹脂組成物からなるフィルムは、ポリ乳酸のガラス転移温度である60℃以上では熱変形を起こし、フィルム形状を保持できないという問題があった。そこで、従来、ポリ乳酸系樹脂フィルムの耐熱性を改善するため、いくつかの方法が提案されている。
【0003】
例えば、ポリ乳酸を含む樹脂組成物を溶融押出法でフィルム化した後、二軸延伸により延伸配向結晶化させることで、ポリ乳酸系樹脂フィルムの耐熱性を高める方法が知られている。しかし、この方法では、延伸時の内部残留応力があるため、使用温度が高くなると熱収縮が非常に大きくなるという欠点がある。そのため、実際に使用できる温度はせいぜい100℃程度までである。
【0004】
特開平11−116788号公報(特許文献1)には、ポリ乳酸に高融点材料をブレンドすることで耐熱性を向上させる方法が提案されている。しかし、この方法では植物由来成分比率(バイオマス度)が低下する。
【0005】
特開2010−106272号公報(特許文献2)には、ポリ乳酸を含む樹脂組成物を、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃から、該樹脂組成物の昇温過程での融解温度(Tm)−5℃までの温度範囲で溶融成膜するか、又はポリ乳酸を含む樹脂組成物を溶融成膜した後、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)±10℃の温度で結晶化を促進させる工程を経てから冷却固化することを特徴とするポリ乳酸系樹脂フィルム又はシートの製造方法が開示されている。しかし、こうして得られるポリ乳酸系樹脂フィルム又はシートは、耐熱性は改善されるものの、製造時や加工時、ロール状に巻回する際等に、フィルム又はシートに破断や裂けが生じる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−116788号公報
【特許文献2】特開2010−106272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、100℃を超える高温においても、フィルム又はシートの融解や変形が無く、しかも、フィルム又はシートの製造時や加工時、フィルム又はシートをロール状に巻回する際等に破断や裂けが生じないポリ乳酸系樹脂フィルム又はシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討した結果、ポリ乳酸系樹脂フィルム又はシートの成膜時結晶化部の融解吸熱量を特定値以上とし、且つ引裂き強度を一定値以上とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリ乳酸(A)を含む樹脂フィルム又はシートであって、下記式(1)
ΔHc′=ΔHm−ΔHc (1)
[式中、ΔHcは、DSCにて測定される、成膜後のフィルム又はシートの昇温過程での結晶化に伴う発熱量(J/g)であり、ΔHmは、その後の融解に伴う吸熱量(J/g)である]
で求められる成膜時結晶化部の融解吸熱量ΔHc′が10J/g以上であり、且つ引裂き強度(JIS P 8116 紙−引裂強さ試験方法−エルメンドルフ形引裂試験機法に準拠)が、流れ方向(MD方向)、幅方向(TD方向)ともに、2.5N/mm以上であることを特徴とするポリ乳酸系フィルム又はシートである。
【0010】
前記ポリ乳酸系フィルム又はシートは、さらに、ポリ乳酸(A)100重量部に対し、フッ素系ポリマー(B)を0.5〜15重量部含んでいてもよい。フッ素系ポリマー(B)はテトラフルオロエチレン系ポリマーであってもよい。
【0011】
前記ポリ乳酸系フィルム又シートは、さらに、ポリ乳酸(A)100重量部に対し、結晶化促進剤(C)を0.1〜15重量部含んでいてもよい。
【0012】
前記ポリ乳酸系フィルム又はシートは、さらに、ポリ乳酸(A)100重量部に対し、酸価が10〜70mgKOH/g、重量平均分子量が10000〜80000である、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)を0.1〜10重量部含んでいてもよい。
【0013】
前記ポリ乳酸系フィルム又はシートは溶融成膜法、例えば、カレンダー法により成膜されたフィルム又はシートであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートは、100℃を超える高温においても、フィルム又はシートの融解や変形が無く、また、本来有する剛性を保持しつつ、フィルム又はシートの製造時や加工時、フィルム又はシートをロール状に巻回する際等に、張力がかかっても、破断や裂けが生じないという特性を有する。そのため、広範な分野においてバイオマスポリマーの利用が可能となり、工業的意義は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のポリ乳酸系フィルム又シートを製造する際に用いられるカレンダー成膜機の一例を示す模式図である。
【図2】本発明のポリ乳酸系フィルム又シートを製造する際に用いられるポリッシング成膜機の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートは、ポリ乳酸(A)を含む樹脂フィルム又はシートである。ポリ乳酸の原料モノマーである乳酸は、不斉炭素原子を有するため、光学異性体のL体とD体が存在する。本発明で使用するポリ乳酸(A)は、L体の乳酸を主成分とした重合体である。製造時に不純物として混入するD体の乳酸の含有量が少ないものほど、高結晶性で高融点の重合体となるため、できるだけL体純度の高いものを用いるのが好ましく、L体純度が95%以上のものを用いるのがより好ましい。また、ポリ乳酸(A)は、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。
【0017】
前記他の共重合成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールAなどのポリオール化合物;シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などの多価カルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトンが挙げられる。これらの共重合成分は、ポリ乳酸(A)を構成する全モノマー成分に対し、0〜30モル%であることが好ましく、さらに好ましくは0〜10モル%である。
【0018】
ポリ乳酸(A)の重量平均分子量は、例えば、1万〜40万、好ましくは5万〜30万、さらに好ましくは8万〜15万である。また、ポリ乳酸(A)の190℃、荷重21.2Nにおけるメルトフローレート[JIS K−7210(試験条件4)]は、例えば、0.1〜50g/10分、好ましくは0.2〜20g/10分、さらに好ましくは0.5〜10g/10分、特に好ましくは1〜7g/10分である。前記メルトフローレートの値が高すぎると、成膜して得られるフィルム又はシートの機械的特性や耐熱性が劣る場合がある。また、前記メルトフローレートの値が低すぎると、成膜時の負荷が高くなりすぎる場合がある。
【0019】
なお、本発明において、「重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるもの(ポリスチレン換算)をいう。GPCの測定条件は下記の通りである。
カラム:TSKgel SuperHZM−H/HZ2000/HZ1000
カラムサイズ:4.6mmI.D.×150mm
溶離液:クロロホルム
流量:0.3ml/min
検出器:RI
カラム温度:40℃
注入量:10μl
【0020】
ポリ乳酸の製造方法としては特に制限はないが、代表的な製造方法として、ラクチド法、直接重合法などが挙げられる。ラクチド法は、乳酸を加熱脱水縮合して低分子量のポリ乳酸とし、これを減圧下加熱分解することにより乳酸の環状二量体であるラクチドを得、このラクチドをオクタン酸スズ(II)等の金属塩触媒存在下で開環重合することにより、高分子量のポリ乳酸を得る方法である。また、直接重合法は、乳酸をジフェニルエーテル等の溶媒中で減圧下に加熱し、加水分解を抑制するため水分を除去しながら重合させることにより直接的にポリ乳酸を得る方法である。
【0021】
ポリ乳酸(A)としては、市販品を使用できる。市販品として、例えば、商品名「レイシアH−400」、「レイシアH−100」(以上、三井化学社製)、商品名「テラマックTP−4000」、「テラマックTE−4000」(以上、ユニチカ社製)等が挙げられる。もちろん、ポリ乳酸(A)としては、公知乃至慣用の重合方法(例えば、乳化重合法、溶液重合法等)により製造したものを用いてもよい。
【0022】
本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートにおけるポリ乳酸(A)の含有量は、バイオマス度を高める観点から、通常、60重量%以上であり、好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、特に好ましくは85重量%以上である。また、前記ポリ乳酸(A)の含有量の上限は、例えば、97重量%、好ましくは95重量%、さらに好ましくは93重量%である。ここでバイオマス度とは、フィルムまたはシートの乾燥重量に対する使用したバイオマスの乾燥重量の割合のことである。また、バイオマスとは再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものである。
【0023】
本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートは、下記式(1)
ΔHc′=ΔHm−ΔHc (1)
[式中、ΔHcは、DSCにて測定される、成膜後のフィルム又はシートの昇温過程での結晶化に伴う発熱量(J/g)であり、ΔHmは、その後の融解に伴う吸熱量(J/g)である]
で求められる成膜時結晶化部の融解吸熱量ΔHc′が10J/g以上である。
【0024】
上記ΔHcは、フィルム又はシートの成膜時に結晶化できなかった領域の昇温過程での結晶化に伴う発熱量であり、ΔHmは、成膜時の結晶化部および前記昇温過程で生成した結晶化部が融解する際の吸熱量である。これらの値は、DSC(示差走査熱量測定)において、結晶発熱ピークの面積(熱量)、融解吸熱ピークの面積(熱量)として測定される。ΔHc′はΔHmからΔHcを差し引いた値であり、成膜時に生成した結晶化部の融解吸熱量に相当する。従って、ΔHc′はポリ乳酸系フィルム又はシートの結晶化度、ひいては耐熱性の指標となる。
【0025】
ΔHc′が10J/g以上であるポリ乳酸系フィルム又はシートは、耐熱性に優れ、100℃を超える高温(例えば、120℃又はそれ以上の温度)においても、フィルム又はシートが融解、変形しない。そのため、高温での加工が可能となる。ΔHc′は、好ましくは12J/g以上、さらに好ましくは14J/g以上、特に好ましくは15J/g以上である。ΔHc′の値は、耐熱性の点からは高いほど好ましいが、ΔHc′の値が高すぎると、フィルム又はシートが硬くなって、耐引裂き性が低下する場合がある。そのため、ΔHc′は、好ましくは40J/g以下、さらに好ましくは35J/g以下、特に好ましくは30J/g以下である。
【0026】
本発明では、フッ素系ポリマー(B)が用いられていてもよい。フッ素系ポリマー(B)は、例えば、溶融張力調整剤や、結晶化促進剤として利用される。フッ素系ポリマー(B)としては、例えば、テトラフルオロエチレン系ポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニルなどが挙げられる。フッ素系ポリマー(B)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。フッ素系ポリマー(B)としては、特に、テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)を好適に用いることができる。
【0027】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)はテトラフルオロエチレンの単独重合体であってもよく、テトラフルオロエチレンと他の単量体との共重合体であってもよい。テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン(テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体)、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソール共重合体等が挙げられる。これらの中でも、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
フッ素系ポリマー(B)は、ポリ乳酸(A)含有樹脂組成物の溶融張力を向上させ、例えば、溶融成膜過程の流動場での配向結晶化を可能にすることで、ポリ乳酸(A)の結晶化を促進させる。また、フッ素系ポリマー(B)をポリ乳酸(A)含有樹脂組成物に配合すると、溶融張力が向上するとともに、溶融粘度も上昇するので、例えばカレンダーロールを用いて成膜する場合において、成膜された樹脂組成物がロールから離れる際の伸びや剥離不良の発生を防止できる。また、特に、テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)などのフッ素系ポリマーは、ポリ乳酸(A)の結晶核剤としての働きも持ち合わせることから、成膜直後の樹脂組成物の温度を結晶化温度付近に設定することで、ポリ乳酸(A)の結晶化をさらに促進させることができる。このように、フッ素系ポリマー(B)[特にテトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)]の配合によってポリ乳酸(A)の結晶化を促進でき、それによりポリ乳酸系フィルム又はシートのΔHc′を高めることができる。
【0029】
テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)のポリ乳酸(A)に対する結晶核剤としての働きは、テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)の結晶構造に依存していると考えられる。広角X線回折を行ったところ、ポリ乳酸の結晶格子の面間隔が4.8オングストロームであるのに対して、テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)の面間隔は4.9オングストロームであった。このことより、テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)がエピタキシー的作用を有することにより、ポリ乳酸(A)の結晶核剤として働きうるものと考えられる。ここで、エピタキシー的作用とは、テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)の表面でポリ乳酸(A)が結晶成長し、テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)の結晶表面の結晶面にそろえてポリ乳酸(A)が配列する成長の様式をいう。
【0030】
テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)の面間隔は、テトラフルオロエチレンと他の単量体との共重合体であっても、テトラフルオロエチレン部の結晶形態に支配されるため、面間隔はいずれも同じである。従って、ポリテトラフルオロエチレンの結晶形態が維持でき、物性が大きく変わらない程度であれば、共重合体の他の単量体成分の量は特に限定されないが、通常、テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)中の他の単量体成分の割合は5重量%以下であることが望ましい。
【0031】
テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)としては、いかなる重合方法で得られたものであってもよいが、乳化重合で得られたものが特に好ましい。乳化重合で得られたテトラフルオロエチレン系ポリマーは、繊維化しやすいため、ポリ乳酸(A)中でネットワーク構造をとりやすくなり、ポリ乳酸(A)を含む樹脂組成物の溶融張力を向上させ、溶融成膜過程の流動場でのポリ乳酸(A)の結晶化促進に効果的に作用するものと考えられる。
【0032】
また、ポリ乳酸(A)中に均一に分散させるために、テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)の粒子を、例えば(メタ)アクリル酸エステル系重合体のようなポリ乳酸(A)との親和性が良好なポリマーで変性したものを用いてもよい。このようなテトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)として、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。
【0033】
フッ素系ポリマー(B)[テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)等]の重量平均分子量は、特に制限されないが、通常100万〜1000万、好ましくは200万〜800万である。
【0034】
フッ素系ポリマー(B)[テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)等]としては、市販品を用いてもよい。例えば、ポリテトラフルオロエチレンの市販品として、旭硝子社製の商品名「フルオンCD−014」、「フルオンCD−1」、「フルオンCD−145」等が挙げられる。アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンの市販品としては、例えば、三菱レイヨン社製の商品名「メタブレンA−3000」、「メタブレンA−3800」等のメタブレンAシリーズが挙げられる。
【0035】
ポリ乳酸系フィルム又はシートにおけるフッ素系ポリマー(B)の含有量[特に、テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)の含有量]は、ポリ乳酸(A)100重量部に対して、通常0.5〜15重量部、溶融張力向上効果とバイオマス度の維持、及び良好な面状態を得るという観点から、好ましくは、0.7〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部である。上記フッ素系ポリマー(B)の含有量[特に、テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)の含有量]が0.5重量部未満では、溶融張力向上の効果が得がたく、15重量部を超えると、添加量に応じた効果が得られず、またバイオマス度の低下が問題となる。
【0036】
本発明において、ポリ乳酸形フィルム又はシートのΔHc′を10J/g以上とする具体的方法としては、例えば、(1)ポリ乳酸(A)を含む樹脂組成物をカレンダー成膜法等の溶融成膜法を用いて成膜する、(2)ポリ乳酸(A)に結晶化促進剤を配合した樹脂組成物を成膜する、(3)これらの組合せなどが挙げられる。溶融成膜法については後述する。
【0037】
前記結晶化促進剤としては、上記フッ素系ポリマー(B)のうち結晶化促進剤として利用可能なフッ素系ポリマー[例えば、テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)など]以外のものを用いることもできる。このような結晶化促進剤[結晶化促進剤(C)と称する場合がある]としては、結晶化促進の効果が認められるものであれば、特に限定されないが、ポリ乳酸(A)の結晶格子の面間隔に近い面間隔を持つ結晶構造を有する物質を選択することが望ましい。結晶格子の面間隔がポリ乳酸(A)の結晶格子の面間隔に近い物質ほど、ポリ乳酸(A)の結晶核剤としての効果が高いからである。そのような結晶化促進剤(C)としては、例えば、有機系物質であるポリリン酸メラミン、メラミンシアヌレート、フェニルホスホン酸亜鉛、フェニルホスホン酸カルシウム、フェニルホスホン酸マグネシウム、無機系物質のタルク、クレー等が挙げられる。なかでも、最も面間隔がポリ乳酸(A)の面間隔に近似し、良好な結晶化促進効果が得られるフェニルホスホン酸亜鉛が好ましい。結晶化促進剤(C)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
結晶化促進剤(C)としては、市販品を用いることができる。例えば、フェニルホスホン酸亜鉛の市販品として、日産化学社製の商品名「エコプロモート」等が挙げられる。
【0039】
ポリ乳酸系フィルム又はシートにおける結晶化促進剤(C)の含有量は、ポリ乳酸(A)100重量部に対して、通常0.1〜15重量部、より良好な結晶化促進効果とバイオマス度維持の観点から、好ましくは0.3〜10重量部である。上記結晶化促進剤(C)の含有量が、0.1重量部未満では、結晶化促進の効果が得がたく、15重量部を超えると、添加量に応じた効果が得られず、またバイオマス度の低下が問題となる。なお、フッ素系ポリマー(B)としてテトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)をポリ乳酸(A)100重量部に対して0.5〜15重量部の割合で用いる場合、結晶化促進剤(C)の含有量は、ポリ乳酸(A)100重量部に対して、通常0.1〜5重量部、より良好な結晶化促進効果とバイオマス度維持の観点から、好ましくは0.3〜3重量部である。この場合、上記結晶化促進剤(C)の含有量が、0.1重量部未満では、結晶化促進の効果が得がたく、5重量部を超えると、添加量に応じた効果が得られず、またバイオマス度の低下が問題となる。
【0040】
本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートは、引裂き強度が、流れ方向(MD方向)、幅方向(TD方向)ともに、2.5N/mm以上である。このような引裂き強度を有するポリ乳酸系フィルム又はシートは、該フィルム又はシートを製造する際や、該フィルム又はシートを加工する際に、張力がかかる工程があっても、破断や裂けが生じない。また、ロール状に巻回したり、打ち抜き加工等の加工を施す際にも、破断や裂けが生じない。
【0041】
本発明において、前記引裂き強度は、引裂き強度試験機を用い、JIS P 8116の紙−引裂強さ試験法−エルメンドルフ形引裂試験機法に準拠して測定できる。引裂き強度が、流れ方向(MD方向)、幅方向(TD方向)ともに、2.5N/mm以上であるポリ乳酸系フィルム又はシートは、前記のように、該フィルム又はシートの製造時だけでなく、ロール状巻回時、加工時等においても破断や裂けが生じないので、種々の加工が可能となり、利用範囲が飛躍的に拡大する。
【0042】
引裂き強度は、流れ方向(MD方向)、幅方向(TD方向)ともに、好ましくは2.8N/mm以上、より好ましくは3.2N/mm以上である。引裂き強度は高いほど好ましい。引裂き強度の上限としては、特に限定されないが、例えば、30N/mm以下であってもよく、また、20N/mm以下であってもよく、通常、15N/mm以下である。
【0043】
本発明において、ポリ乳酸系フィルム又はシートの引裂き強度を上記範囲にする具体的方法としては、例えば、ポリ乳酸(A)に耐引裂性改質剤(E)を配合した樹脂組成物を成膜する方法が挙げられる。
【0044】
耐引裂性改質剤(E)としては、例えば、(a)ポリグリセリン脂肪酸エステル又はポリグリセリン縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル、(b)粒子状のゴムの外部にグラフト層を持つコアシェル構造重合体、(c)軟質脂肪族系ポリエステル等が挙げられる。これらは、それぞれ、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
前記(a)ポリグリセリン脂肪酸エステル又はポリグリセリン縮合ヒドロキシ脂肪酸エステルにおいて、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと脂肪酸とを反応して得られるエステルである。ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成成分であるポリグリセリンとしては、例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン、ドデカグリセリン等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上の混合物として使用される。ポリグリセリンの平均重合度は、2〜10が好ましい。
【0046】
ポリグリセリン脂肪酸エステルのもう一方の構成成分である脂肪酸としては、例えば、炭素数12以上の脂肪酸が用いられる。脂肪酸の具体例として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサジエン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、水添ヒマシ油脂肪酸等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上の混合物として使用される。
【0047】
ポリグリセリン縮合ヒドロキシ脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと縮合ヒドロキシ脂肪酸とを反応して得られるエステルである。ポリグリセリン縮合ヒドロキシ脂肪酸エステルの構成成分であるポリグリセリンとしては、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成成分として例示したものが挙げられる。
【0048】
ポリグリセリン縮合ヒドロキシ脂肪酸エステルのもう一方の構成成分である縮合ヒドロキシ脂肪酸はヒドロキシ脂肪酸の縮合体である。前記ヒドロキシ脂肪酸としては、分子内に1以上の水酸基を有する脂肪酸であればよく、例えば、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、水添ヒマシ油脂肪酸等が挙げられる。縮合ヒドロキシ酸の縮合度は、例えば、3以上、好ましくは3〜8である。縮合ヒドロキシ脂肪酸は1種単独で又は2種以上を混合して使用される。
【0049】
ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合ヒドロキシ脂肪酸エステルとしては市販品を使用できる。ポリグリセリン脂肪酸エステルの市販品として、例えば、太陽化学社製の商品名「チラバゾールVR−10」、「チラバゾールVR−2」等のチラバゾールシリーズなどが挙げられる。
【0050】
前記(b)粒子状のゴムの外部にグラフト層を持つコアシェル構造重合体において、コアを構成する粒子状のゴムとしては、例えば、アクリル系ゴム、ブタジエン系ゴム、シリコーン・アクリル系複合ゴムなどが挙げられる。また、シェルを構成するポリマーとしては、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂などが挙げられる。
【0051】
前記コアシェル構造重合体の平均粒子径(一次粒子の集合体)は、例えば、50〜500μm、好ましくは100〜250μmである。これをポリ乳酸(A)に配合して溶融混練すると、一次粒子となって分散する。一次粒子の平均粒子径は、例えば、0.1〜0.6μmである。
【0052】
前記コアシェル構造重合体としては市販品を使用できる。前記コアシェル構造重合体の市販品として、例えば、ローム・アンド・ハース・ジャパン社製の商品名「パラロイドEXL2315」等のパラロイドシリーズ(特に、パラロイドEXLシリーズ)、三菱レイヨン社製の商品名「メタブレンS−2001」等のメタブレンSタイプ、「メタブレンW−450A」等のメタブレンWタイプ、「メタブレンC−223A」等のメタブレンCタイプ、「メタブレンE−901」等のメタブレンEタイプなどが挙げられる。
【0053】
前記(c)軟質脂肪族系ポリエステルには、脂肪族ポリエステル、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルが含まれる。(c)軟質脂肪族系ポリエステル(脂肪族ポリエステル、脂肪族−芳香族共重合ポリエステル)としては、ジオール等の多価アルコールとジカルボン酸等の多価カルボン酸とから得られるポリエステルであって、ジオールとして少なくとも脂肪族ジオールが用いられ、ジカルボン酸として少なくとも脂肪族ジカルボン酸が用いられているポリエステル;炭素数4以上の脂肪族ヒドロキシカルボン酸の重合体などが挙げられる。前記脂肪族ジオールとして、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の炭素数2〜12の脂肪族ジール(脂環式ジオールを含む)などが挙げられる。脂肪族ジカルボン酸として、例えば、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の炭素数2〜12の飽和脂肪族ジカルボン酸(脂環式ジカルボン酸を含む)などが挙げられる。前記ジオール成分として少なくとも脂肪族ジオールが用いられ、ジカルボン酸成分として少なくとも脂肪族ジカルボン酸が用いられているポリエステルにおいて、ジオール成分全体に占める脂肪族ジオールの割合は、例えば80重量%以上、好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上であり、残余は芳香族ジオール等であってもよい。また、前記ジオール成分として少なくとも脂肪族ジオールが用いられ、ジカルボン酸成分として少なくとも脂肪族ジカルボン酸が用いられているポリエステルにおいて、ジカルボン酸成分全体に占める脂肪族ジカルボン酸の占める割合は、例えば20重量%以上、好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上であり、残余は芳香族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸など)等であってもよい。前記炭素数4以上の脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘキサン酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシドデカン酸等の炭素数4〜12のヒドロキシカルボン酸などが挙げられる。(c)軟質脂肪族系ポリエステル(脂肪族ポリエステル、脂肪族−芳香族共重合ポリエステル)の重量平均分子量は、例えば、5万〜40万、好ましくは8万〜25万である。
【0054】
(c)軟質脂肪族系ポリエステルの代表的な例として、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンセバケートテレフタレート、ポリヒドロキシルアルカノエート等が挙げられる。
【0055】
(c)軟質脂肪族系ポリエステルとしては市販品を使用できる。例えば、ポリブチレンサクシネートとしては、三菱化学社製の商品名「GS Pla AZ91T」、ポリブチレンサクシネートアジペートとしては、三菱化学社製の商品名「GS Pla AD92W」、ポリブチレンアジペートテレフタレートとしては、BASFジャパン社製の商品名「エコフレックス」が挙げられる。
【0056】
ポリ乳酸系フィルム又はシートにおける前記耐引裂性改質剤(E)の含有量(総量)は、ポリ乳酸(A)100重量部に対して、耐引裂性改質効果の観点から、通常、1重量部以上、好ましくは1.5重量部以上、さらに好ましくは2重量部以上である。なお、耐引裂性改質剤(E)の量が多すぎると、結晶化度、結晶化速度が低下しやすくなり、耐熱性も低下しやすくなるとともに、耐引裂性改質剤(E)がブリードアウトする場合がある。このような観点から、ポリ乳酸系フィルム又はシートにおける前記耐引裂性改質剤(E)の含有量(総量)は、ポリ乳酸(A)100重量部に対して、好ましくは30重量部以下、より好ましくは25重量部以下、さらに好ましくは20重量部以下であり、特に好ましくは15重量部以下である。
【0057】
なお、耐引裂性改質剤(E)として、(a)ポリグリセリン脂肪酸エステル又はポリグリセリン縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル、又は(b)粒子状のゴムの外部にグラフト層を持つコアシェル構造重合体を用いる場合には、その含有量は、それぞれ、ポリ乳酸(A)100重量部に対して、通常、1重量部以上、好ましくは1.5重量部以上、さらに好ましくは2重量部以上である。また、上記の観点から、好ましくは20重量部以下、より好ましくは15重量部以下、さらに好ましくは12重量部以下であり、特に好ましくは10重量部以下である。また、耐引裂性改質剤(E)として、(c)軟質脂肪族系ポリエステルを用いる場合には、その含有量は、それぞれ、ポリ乳酸(A)100重量部に対して、通常、5重量部以上、好ましくは10重量部以上である。また、上記の観点から、好ましくは30重量部以下、より好ましくは25重量部以下、さらに好ましくは20重量部以下である。
【0058】
本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートは、上記の成分のほか、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)を含んでいてもよい。ポリ乳酸(A)に酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)を配合することにより、ロール滑性を付与できる。このため、本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートをカレンダー成膜機等により溶融状態にし、金属ロール間の空隙を通過させて成膜させる際に、フィルム又はシートが金属ロールの表面から容易に剥離し、円滑に成膜することができる。酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)の酸性官能基としては、例えば、カルボキシル基又はその誘導体基等が挙げられる。カルボキシル基の誘導体基とは、カルボキシル基から化学的に誘導されるものであって、例えば、カルボン酸の酸無水物基、エステル基、アミド基、イミド基、シアノ基等が挙げられる。これらのなかでも、カルボン酸無水物基が好ましい。
【0060】
酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)は、例えば、未変性ポリオレフィン系重合体に、上記の「酸性官能基」を含有する不飽和化合物(以下、「酸性官能基含有不飽和化合物」と略記する場合がある)をグラフトして得られる。
【0061】
未変性ポリオレフィン系重合体としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン−1、エチレンとα−オレフィンの共重合体、プロピレンとα−オレフィンの共重合体等のポリオレフィン類又はそれらのオリゴマー類;エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム、低結晶性エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−ビニルエステル共重合体、エチレン−メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−エチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリプロピレンとエチレン−プロピレンゴムのブレンド等のポリオレフィン系エラストマー類;およびこれらの二種以上の混和物等が挙げられる。これらのなかでも、好ましくは、ポリプロピレン、プロピレンとα−オレフィンの共重合体、低密度ポリエチレン及びそれらのオリゴマー類であり、特に好ましくはポリプロピレン、プロピレンとα−オレフィンの共重合体及びそれらのオリゴマー類である。上記「オリゴマー類」としては、対応するポリマーから、熱分解による分子量減成法によって得られるもの等が挙げられる。オリゴマー類は、重合法によっても得ることができる。
【0062】
酸性官能基含有不飽和化合物としては、例えば、カルボキシル基含有不飽和化合物、カルボキシル基の誘導体基含有不飽和化合物等が挙げられる。カルボキシル基含有不飽和化合物としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、クロロイタコン酸、クロロマレイン酸、シトラコン酸、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。また、カルボキシル基の誘導体基含有不飽和化合物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、クロロ無水イタコン酸、クロロ無水マレイン酸、無水シトラコン酸等のカルボン酸無水物基含有不飽和化合物;メチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、マレイミド、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。これらのなかでも、カルボキシル基含有不飽和化合物、カルボン酸無水物基含有不飽和化合物が好ましく、さらに好ましくは酸無水物基含有不飽和化合物であり、特に好ましくは無水マレイン酸である。
【0063】
酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)の重量平均分子量は、10000〜80000であることが重要であり、好ましくは15000〜70000、より好ましくは20000〜60000である。この重量平均分子量が10000未満では、フィルム又はシート成形後のブリードアウトの原因になりやすく、80000を超えると、ロール混練中にポリ乳酸(A)と分離する場合が生じる。ここで、ブリードアウトとはフィルム又はシート成形後に、時間経過により低分子量成分がフィルム又はシート表面に出てくる現象をいう。
【0064】
酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)中の酸性官能基は、オレフィン系ポリマーのどの位置に結合していてもよく、その変性割合は特に制限されないが、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)の酸価は、通常10〜70mgKOH/gであり、好ましくは20〜60mgKOH/gである。該酸価が10mgKOH/g未満では、ロール滑性の向上効果が得られず、70mgKOH/gを超えると、ロールへのプレートアウトを引き起こしやすくなる。ここで、ロールへのプレートアウトとは、金属ロールを用いて樹脂組成物を溶融成膜する際に、樹脂組成物に配合される成分又はその酸化、分解、化合若しくは劣化した生成物等が金属ロールの表面に付着又は堆積することをいう。なお、本発明において、「酸価」とは、JIS K0070−1992の中和滴定法に準拠して測定されるものをいう。
【0065】
酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)は、未変性ポリオレフィン系重合体と酸性官能基含有不飽和化合物とを有機過酸化物の存在下で反応させることによって得られる。有機過酸化物としては、一般にラジカル重合において開始剤として用いられているものが使用できる。かかる反応は、溶液法、溶融法のいずれの方法によっても行うことができる。溶液法では、未変性ポリオレフィン系重合体及び酸性官能基含有不飽和化合物の混合物を有機過酸化物とともに有機溶媒に溶解し、加熱することにより、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)を得ることができる。反応温度は、好ましくは110〜170℃程度である。
【0066】
溶融法では、未変性ポリオレフィン系重合体及び酸性官能基含有不飽和化合物の混合物を有機過酸化物と混合し、溶融混合して反応させることによって、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)を得ることができる。溶融混合は、押し出し機、プラベンダー、ニーダー、バンバリーミキサー等の各種混合機で行うことができ、混練温度は通常、未変性ポリオレフィン系重合体の融点〜300℃の温度範囲である。
【0067】
酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)は、好ましくは無水マレイン酸変性ポリプロピレンである。酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)としては、市販品を用いることができ、例えば、三洋化成工業社製の商品名「ユーメックス1010」(無水マレイン酸基変性ポリプロピレン、酸価:52mgKOH/g、重量平均分子量:32000、変性割合:10重量%)、「ユーメックス1001」(無水マレイン酸基変性ポリプロピレン、酸価:26mgKOH/g、重量平均分子量:49000、変性割合:5重量%)、「ユーメックス2000」(無水マレイン酸基含有変性ポリエチレン、酸価:30mgKOH/g、重量平均分子量:20000、変性割合:5重量%)等が挙げられる。
【0068】
本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートにおける酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)の含有量は特に制限されず、ポリ乳酸(A)100重量部に対して、通常0.1〜10重量部、ロールへのプレートアウトがないロール滑性効果の持続性とバイオマス度維持の観点から、好ましくは0.1〜5重量部、特に好ましくは0.3〜3重量部である。酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)の含有量が0.1重量部未満では、ロール滑性向上効果が得がたく、10重量部を超えると、添加量に応じた効果が得られず、またバイオマス度の低下が問題となる。
【0069】
本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートは、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種の添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、安定剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤(白色顔料等)、ドリップ防止剤、難燃剤、加水分解防止剤、発泡剤、充填剤等が挙げられる。
【0070】
本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートは、結晶化の度合いが高いため、耐溶剤性にも優れる。例えば、本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートの膨潤度は、酢酸エチル、トルエンのいずれの溶剤に対して、例えば、2.5以下、好ましくは2.0以下である。なお、膨潤度は、フィルム又はシートサンプル(50mm×50mm×厚さ0.05mm)を溶剤に15分間浸漬し、取り出したフィルム又はシートサンプルの表面の溶剤をウエスで取り除き、浸漬後の重量を浸漬前の重量で割ることによって測定できる。
【0071】
また、本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートは、剛性等の機械的特性や弾性特性についても、高い水準を維持できる。例えば、本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートの初期弾性率は、流れ方向(MD方向)において、通常1000MPa以上、好ましくは1500MPa以上である。初期弾性率の上限は、流れ方向(MD方向)において、一般に3500MPa程度(例えば、3000MPa程度)である。また、本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートの破断強度は、流れ方向(MD方向)において、通常30MPa以上、好ましくは35MPa以上である。破断強度の上限は、一般に150MPa程度(例えば、120MPa程度)である。
【0072】
さらに、本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートの伸びは、流れ方向(MD方向)において、通常2.5%以上、好ましくは3.5%以上である。伸びの上限は、流れ方向(MD方向)において、一般に15%程度(例えば、12%程度)である。なお、耐引裂性改質剤(E)として(c)軟質脂肪族系ポリエステルを用いた場合には、ポリ乳酸系フィルム又はシートの伸びは、流れ方向(MD方向)において、通常5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上であり、伸びの上限は、流れ方向(MD方向)において、一般に150%、好ましくは120%、より好ましくは100%である。
【0073】
なお、上記の初期弾性率、破断強度、伸びは、引張試験機を用い、JIS K 7161のプラスチック−引張特性の試験方法に準じて測定した。
装置:引張試験機(オートグラフAG−20kNG、島津製作所製)
試料サイズ:厚さ0.05mm×幅10mm×長さ100mm(なお、長さ方向に平行な方向がフィルム成膜時の流れ方向(MD)となるように切り出した)
測定条件:
チャック間距離:50mm
引張速度:300mm/min
【0074】
本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートの厚みは特に限定されないが、通常10〜500μm、好ましくは20〜400μm、より好ましくは30〜300μmである。本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートは、一般に用いられるフィルム又はシートと同様の用途に広く使用できるが、粘着テープ又はシートの基材、粘着テープ又はシート等に用いられるセパレータの基材、保護フィルムの基材等として好適に使用できる。
【0075】
[ポリ乳酸系フィルム又はシートの製造]
本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートを製造する方法としては特に限定されるものではないが、ポリ乳酸(A)を含む樹脂組成物を溶融成膜法により成膜する方法が好ましい。溶融成膜法を採用すると、成膜時結晶化部の融解吸熱量ΔHc′を10J/g以上にすることが容易に可能となる。
【0076】
例えば、本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートは、二軸押出機などによる連続溶融混練機、又は加圧ニーダー、バンバリーミキサー、ロール混練機などのバッチ式溶融混練機により、各成分を均一分散させたポリ乳酸(A)含有樹脂組成物を調製し、これを、Tダイ法、インフレーション法などの押出法又はカレンダー法、ポリッシング法などにより成膜、冷却固化することにより製造することができる。前記溶融成膜法としては、好ましくは、溶融状態の樹脂組成物が2本の金属ロール間の空隙を通過することで所望の厚さに成膜される手法であり、特に好ましくは、カレンダー法、ポリッシング法である。
【0077】
ポリ乳酸(A)含有樹脂組成物を溶融成膜法により成膜する場合、溶融成膜時の該樹脂組成物の温度(以下、溶融成膜時の樹脂温度という)は特に制限されないが、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から、昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度であることが好ましい。かかる温度に設定することにより、ポリ乳酸(A)の結晶化が促進され、本発明のフィルム又はシートが耐熱性を獲得しやすくなる。
【0078】
例えば、該樹脂組成物をカレンダー法により溶融成膜する場合は、カレンダーロール圧延時の該樹脂組成物の温度(溶融成膜時の樹脂温度に相当する)を、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度に設定する。このように融点以下の温度で圧延することにより、配向結晶化が促進される。この配向結晶化促進効果は、該樹脂組成物がテトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)を含有することにより格段に向上する。テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)は、該樹脂組成物中でフィブリル化し、ネットワーク化すること、及びその結晶核剤としての効果の相乗効果により、配向結晶化を促進すると考えられる。従って、上記温度範囲で圧延することにより、本発明のフィルム又はシートは、平滑な表面状態とともに、配向結晶化促進効果により、良好な耐熱性を実現することができる。
【0079】
本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートを製造するに際し、前記テトラフルオロエチレン系ポリマー(B′)による結晶化促進効果をより有効にするために、溶融成膜後の温度条件を抑制する工程を備えていてもよい。具体的には、溶解成膜された該樹脂組成物を、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)−25℃の温度から結晶化温度(Tc)+10℃に一旦保持することで結晶化を促進させる工程(以下、単に「結晶化促進工程」と略する場合がある)を経てから冷却固化させてもよい。すなわち、結晶化促進工程とは、溶融成膜された該樹脂組成物を、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)−25℃の温度から結晶化温度(Tc)+10℃に温度制御された状態に晒す工程であり、溶融成膜後の平滑な表面状態を保持したままで、該樹脂組成物の結晶化を促進し得る工程である。このような温度制御の方法は特に限定されないが、例えば、所定の温度に加熱可能なロールやベルト等に、溶融成膜した該樹脂組成物を直接接触させる方法が挙げられる。
【0080】
特に、所定の温度に常に制御する観点から、溶融成膜された該樹脂組成物を、所定の表面温度の金属ロールと接触させることが望ましい。従って、当該工程においても、ポリ乳酸(A)含有樹脂組成物を金属ロールから簡単に剥離できる組成にすることが望ましく、この観点からも上述の酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)の添加が好ましい。
【0081】
なお、結晶化促進工程の時間はできるだけ長いほうが好ましく、最終的に該樹脂組成物の結晶化の度合いに依存するので、一概には指定できないが、通常2〜10秒、好ましくは3〜8秒である。
【0082】
上記結晶化促進工程においては、他の結晶核剤の添加等で樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)が変化しても、予め、示差走査熱分析装置(DSC)で測定を行い、降温過程での結晶化に伴う発熱ピークの最高点温度を把握しておくことにより、常に最適な結晶化促進工程の温度条件を得ることができる。その際、該温度での加熱により得られるフィルム又はシートの形状変化は、ほとんど考慮する必要はないが、得られるフィルム又はシートの加熱変形率が40%以下となるような温度であることが好ましい。
【0083】
本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートを製造する方法としては、好ましくは、ポリ乳酸(A)含有樹脂組成物を溶融成膜法により成膜することを含む方法であって、溶融成膜時の該樹脂組成物の温度(溶融成膜時の樹脂温度)が、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から、昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度である、及び/又は、溶融成膜された該樹脂組成物が、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)−25℃の温度から結晶化温度(Tc)+10℃における結晶化促進工程を経てから冷却固化されることを特徴とする方法である。
【0084】
上記結晶化促進工程を含むポリ乳酸系フィルム又はシートの製造方法においては、結晶化促進工程で該樹脂組成物の結晶化を進めた後に冷却固化するため、内部応力が残存しにくく、得られたフィルム又はシートの使用時に極端な熱収縮を引き起こすことは無い。そのため、上記製造方法で成膜された本発明の高結晶化フィルムまたはシートは、ポリ乳酸の融点付近まで形状保持が可能であり、これまで使用できなかった耐熱性が必要な用途でも十分に使用可能となる。さらに、一度冷却固化した後に再度加熱するといった非効率な工程が不要になるため、上記製造方法は、経済性、生産性の面でも非常に有用な手法といえる。なお、結晶化促進工程の前及び/又は後に、一軸又は二軸延伸処理(好ましくは二軸延伸処理)を施してもよい。延伸処理を施すことにより、さらに結晶化を高めることができる場合がある。延伸処理温度は、例えば、60〜100℃である。
【0085】
上記結晶化促進工程を含むポリ乳酸系フィルム又はシートの製造方法としては、溶融成膜工程から結晶化促進工程、冷却固化工程までを連続で行う方式が、処理時間の短縮となるため、生産性の点で望ましい。このような方法としては、カレンダー成膜機、ポリッシング成膜機等を用いる方法が挙げられる。
【0086】
[カレンダー成膜]
図1に、かかる製造方法に用いられるカレンダー成膜機の1例の模式図を示す。以下に、図1を詳細に説明する。
【0087】
第1ロール1、第2ロール2、第3ロール3、第4ロール4という、4本のカレンダーロール間で溶融状態の樹脂組成物を圧延して徐々に薄くしていき、最終的に第3ロール3と第4ロール4の間を通過した時に所望の厚さになるよう調整される。カレンダー成膜の場合、第1ロール1〜第4ロール4における樹脂組成物の成膜が「溶融成膜工程」に相当する。また、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)−25℃の温度から結晶化温度(Tc)+10℃に設定したテイクオフロール5は、溶融成膜された該樹脂組成物8が最初に接触するロール群を示し、1つまたは2つ以上(図1では3本)のロール群で構成され、第4ロール4から溶融状態の該樹脂組成物8を剥離する役割を果たす。このように、テイクオフロール5が複数のロールから構成され、各々のロールの温度調整が可能である場合、各々のロールの温度は同じであることが好ましいが、所望の温度範囲内であれば、異なっていてもよい。テイクオフロール5の本数は多いほうが、等温結晶化時間が長くなり、結晶化を促進するのに有利である。カレンダー成膜の場合、テイクオフロール5において、溶融成膜された該樹脂組成物8の結晶化が促進されるので、該樹脂組成物8がテイクオフロール5を通過する工程が「結晶化促進工程」に相当する。
【0088】
二本の冷却ロール6及び7は、それらの間に該樹脂組成物8を通過させることにより該樹脂組成物8を冷却し、固化させるとともにその表面を所望の形状に成形する役割を果たす。そのため、通常は一方のロール(例えば、冷却ロール6)が金属ロールで、該樹脂組成物8の表面形状を出すためにロール表面がデザインされたものであり、他方のロール(例えば、冷却ロール7)としてゴムロールが使用される。なお、図中の矢印はロールの回転方向を示す。9はバンク(樹脂だまり)である。
【0089】
[ポリッシング成膜]
図2に、かかる製造方法に用いられるポリッシング成膜機の1例の模式図を示す。以下に、図2を詳細に説明する。
【0090】
押出機(図示せず)の押出機先端部10を、加熱した第2ロール2及び第3ロール3の間に配置し、予め設定された押出し速度で、第2ロール2及び第3ロール3の間に溶融状態の樹脂組成物8を連続的に押し出す。押し出された樹脂組成物8は、第2ロール2及び第3ロール3の間で圧延されて薄くなり、最終的に第3ロール3と第4ロール4の間を通過した時に所望の厚さになるよう調整される。ポリッシング成膜の場合、第2ロール2〜第4ロール4における樹脂組成物8の成膜が「溶融成膜工程」に相当する。その後、該樹脂組成物8の降温過程での結晶化温度(Tc)−25℃の温度から結晶化温度(Tc)+10℃に設定された3本のテイクオフロール5を通過し、最後に冷却ロール6)及び7を通過することで、固化したフィルム又はシートが作製される。ポリッシング成膜の場合、テイクオフロール5を通過する工程が「結晶化促進工程」に相当する。
【0091】
本発明のフィルム又はシートは一般に用いられているフィルム又はシートと同様の用途に広く使用できるが、粘着シート又はテープの基材、剥離ライナーの基材、保護フィルム又はシートの基材として特に好適に使用できる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明について実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例等における評価は下記のようにして行った。
【0093】
実施例等で用いた材料を下記に示す。
【0094】
<ポリ乳酸(A)>
A1:商品名「テラマックTP−4000」(ユニチカ社製)
<フッ素系ポリマー(B)>
B1:アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン(商品名「メタブレンA−3000」、三菱レイヨン社製)
<結晶化促進剤(C)>
C1:フェニルホスホン酸亜鉛(商品名「エコプロモート」、日産化学工業社製)
<酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)>
D1:無水マレイン酸基含有変性ポリプロピレン(重量平均分子量32000、酸価52mgKOH/g、商品名「ユーメックス1010」、三洋化成工業社製)
<耐引裂性改質剤(E)>
E1:ポリグリセリン脂肪酸エステル(数平均分子量Mn1000、商品名「チラバゾールVR−10」、太陽化学社製)
E2:ポリグリセリン脂肪酸エステル(数平均分子量Mn1700、商品名「チラバゾールVR−2」、太陽化学社製)
E3:コアシェル構造重合体(アクリルゴム/ポリメチルメタクリレート−スチレン コアシェル構造重合体、商品名「パラロイドEXL2315」、ローム・アンド・ハース・ジャパン社製)
E4:軟質脂肪族系ポリエステル(ポリブチレンアジペートテレフタレート、商品名「エコフレックス」、BASF・ジャパン社製)
【0095】
実施例1
下記表1に示す配合割合で樹脂組成物を調製し、バンバリーミキサーにて溶融混練を行った後、逆L型4本カレンダーにて厚さ50μmになるようにカレンダー成膜を行った(溶融成膜工程)。次に、図1のように溶融成膜工程の直後に、任意の温度に加熱可能なロール(テイクオフロール)を3本配し、溶融成膜された樹脂組成物が上下交互に通過できるようにすることで結晶化を促進させた(結晶化促進工程)。その後に冷却ロールを通過することで樹脂組成物を固化し、フィルムを作製した。溶融成膜工程における樹脂組成物の温度(溶融成膜時の樹脂温度)は、図1における第4ロール4に相当するロールの表面温度とした。また、結晶化促進工程における樹脂組成物の温度については、図1の3本のテイクオフロール5の表面温度を略同一とし、その温度を結晶化促進温度とした。成膜速度は5m/minとし、実質的な結晶化促進工程の時間(テイクオフロール通過時間)は約5秒間であった。
【0096】
実施例2〜5
下記表1に示す配合割合で樹脂組成物を調製し、実施例1と同様の操作により実施例2〜5のフィルムをそれぞれ作製した。
【0097】
比較例1
下記表1に示す配合割合で樹脂組成物を調製し、実施例1と同様の操作により比較例1のフィルムを作製した。
【0098】
<融解温度(℃)>
DSC(示差走査熱分析装置)にて測定した、成膜後の樹脂組成物の再昇温過程での融解に伴う吸熱ピークのトップ時の温度を融解温度(Tm;結晶融解ピーク温度ともいう)とした。
【0099】
<結晶化温度(℃)>
DSCにて測定した、成膜後の樹脂組成物の200℃からの降温過程での結晶化に伴う発熱ピークのピークトップ時の温度を結晶化温度(Tc;結晶化ピーク温度ともいう)とした。
【0100】
<成膜性結果>
(1)ロールへのプレートアウト:ロール表面の汚れを目視により評価し、ロール表面の汚れがない状態を「○」(なし)、ロール表面の汚れがある状態を「×」(あり)と判定した。
(2)剥離性:図1の第4ロール4からの溶融成膜された樹脂組成物の剥離性により評価し、テイクオフロール5で引き取り可能である状態を「○」(良好)、テイクオフロール5で引き取り不可である状態を「×」(不良)と判定した。
(3)フィルム面状態:得られたフィルム面を目視で観察し、フィルム表面に粗さがなく平滑である状態を「○」(良好)、バンクマーク(樹脂の流れムラによる凹凸)やサメ肌、ピンホールがある状態を「×」(不良)と判定した。
【0101】
<成膜時結晶化部の融解吸熱量ΔHc′(J/g)>
DSCにて測定した、成膜後のフィルムサンプルの昇温過程での結晶化に伴う発熱ピークの熱量ΔHc(J/g)と、その後の融解に伴う熱量ΔHm(J/g)から、以下の式(1)を用いて算出した。
ΔHc′=ΔHm−ΔHc (1)
【0102】
融解温度(Tm)、結晶化温度(Tc)及び成膜時結晶化部の融解吸熱量ΔHc′の測定で使用したDSC及び測定条件は、以下の通りである。
装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 DSC6220
条件:
測定温度域:20℃→200℃→0℃→200℃(すなわち、まず20℃から200℃への昇温過程での測定に続けて、200℃から0℃への降温過程での測定を行い、最後に0℃から200℃への再昇温過程での測定を行った)
昇温/降温速度:2℃/min
測定雰囲気:窒素雰囲気下(200ml/min)
なお、再昇温過程で、結晶化に伴う発熱ピークが無かったことから、2℃/minの降温速度で結晶化可能領域が100%結晶化するものと判断し、成膜時結晶化部の融解吸熱量の算出式の妥当性を確認した。
【0103】
<引裂き強度(N/mm)>
JIS P 8116の紙−引裂強さ試験方法−エルメンドルフ形引裂試験機法に準じ測定した。使用した測定装置及び測定条件は、以下の通りである。
装置:テスター産業株式会社製 エルメンドルフ形引裂試験機
条件:試料サイズ:厚さ0.25mm程度(0.05mmのフィルムを5枚重ね)×幅76mm×長さ63mm
なお、長さ方向に平行な方向がフィルム成膜時の流れ方向(以下、MD方向という。)および流れ方向と反対方向(以下、TD方向という)となるように切り出した。
引裂強度算出方法:以下の式(2)を用い算出した。
T=(A×p)/(n×t×1000) (2)
T:引裂強度(N/mm)
A:目盛りの読み値(mN)
p:振子の目盛の基準となる試験片の重ね枚数(この装置では16)
n:同時に引き裂かれる試験片の枚数
t:試験片1枚あたりの平均厚さ(mm)
【0104】
<膨潤度>
フィルム又はシートサンプル(50mm×50mm×厚さ0.05mm)を溶剤に15分間浸漬し、取り出したサンプルの表面の溶剤をウエスで取り除き、浸漬後の重量を浸漬前の重量で割ることによって測定した。
なお、使用した溶剤は、トルエンと酢酸エチルの2種類である。
合否判定:2.0以下を合格とする。
【0105】
<初期弾性率(MPa)、破断強度(MPa)、伸び(%)>
JIS K 7161のプラスチック−引張特性の試験方法に準じて測定した。
使用した測定装置及び測定条件は、以下の通りである。
装置:引張試験機(オートグラフAG−20kNG、島津製作所製)
試料サイズ:厚さ0.05mm×幅10mm×長さ100mm(なお、長さ方向に平行な方向がフィルム成膜時の流れ方向(MD)となるように切り出した)
測定条件:
チャック間距離:50mm
引張速度:300mm/min
【0106】
<耐熱性試験>
厚さ0.05mm×幅200mm×長さ300mmに切り出したサンプルの両端をクリップで挟み、100℃のオーブン中に1分間投入する。その後、取り出したときに元の形状を保てたものを「○」(良好)、元の形状が保てなかったものを「×」(不良)と判定した。
【0107】
<加工性試験>
厚さ0.05mm×幅20mm×長さ100mmに切り出したサンプルを、上記の引張試験機を用い、応力が25N/mm2となるように固定する。その後、チャック間の中心部をMD方向に直角になるように、剃刀にて1mmの切れ込みを与える。その時に、破断しなかったものを「○」(良好)、破断したものを「×」(不良)と判定した。使用した測定装置及び測定条件は、以下の通りである。
装置:引張試験機(オートグラフAG−20kNG、島津製作所製)
試料サイズ:厚さ0.05mm×幅20mm×長さ100mm(なお、長さ方向に平行な方向がフィルム成膜時の流れ方向(MD)となるように切り出した)
測定条件:
チャック間距離:50mm
引張速度:50mm/min(25N/mm2となったときに停止)
【0108】
実施例1〜5及び比較例1の評価結果を表1に示す。
【0109】
表1に示す評価結果から、本発明に係る実施例1〜5のフィルムはいずれも耐熱性及び加工性に優れていることがわかる。これに対し、比較例1のフィルムは加工性に劣っていた。
【0110】
【表1】

【符号の説明】
【0111】
1 第1ロール
2 第2ロール
3 第3ロール
4 第4ロール
5 テイクオフロール
6 冷却ロール
7 冷却ロール
8 樹脂組成物
9 バンク(樹脂だまり)
10 押出機先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸(A)を含む樹脂フィルム又はシートであって、下記式(1)
ΔHc′=ΔHm−ΔHc (1)
[式中、ΔHcは、DSCにて測定される、成膜後のフィルム又はシートの昇温過程での結晶化に伴う発熱量(J/g)であり、ΔHmは、その後の融解に伴う吸熱量(J/g)である]
で求められる成膜時結晶化部の融解吸熱量ΔHc′が10J/g以上であり、且つ引裂き強度(JIS P 8116 紙−引裂強さ試験方法−エルメンドルフ形引裂試験機法に準拠)が、流れ方向(MD方向)、幅方向(TD方向)ともに、2.5N/mm以上であることを特徴とするポリ乳酸系フィルム又はシート。
【請求項2】
さらに、ポリ乳酸(A)100重量部に対し、フッ素系ポリマー(B)を0.5〜15重量部含む請求項1記載のポリ乳酸系フィルム又はシート。
【請求項3】
フッ素系ポリマー(B)がテトラフルオロエチレン系ポリマーである請求項2記載のポリ乳酸系フィルム又はシート。
【請求項4】
さらに、ポリ乳酸(A)100重量部に対し、結晶化促進剤(C)を0.1〜15重量部含む請求項1〜3の何れかの項に記載のポリ乳酸系フィルム又はシート。
【請求項5】
さらに、ポリ乳酸(A)100重量部に対し、酸価が10〜70mgKOH/g、重量平均分子量が10000〜80000である、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(D)を0.1〜10重量部含む請求項1〜4の何れかの項に記載のポリ乳酸系フィルム又はシート。
【請求項6】
溶融成膜法により成膜されたフィルム又はシートである請求項1〜5の何れかの項に記載のポリ乳酸系フィルム又はシート。
【請求項7】
溶融成膜法がカレンダー法である請求項6記載のポリ乳酸系フィルム又はシート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−111914(P2012−111914A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264415(P2010−264415)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】