説明

ポリ乳酸系フィルム及びその製造方法

【課題】
耐熱性、透明性及び柔軟性を有することに加え、可塑剤がブリードアウトしないポリ乳酸系フィルムを提供する。
【解決手段】
ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸を含むポリ乳酸混合物(A)を80〜95重量%及びポリグリセリン脂肪酸エステル(B)を5〜20重量%を含むポリ乳酸組成物(C)から得られるフィルムであって、DSC測定におけるポリ−L−乳酸及び/又はポリ−D−乳酸の結晶の融解に基づく150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク1)とステレオコンプレックス晶の融解に基づく205〜250℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク2)とピーク比(ピーク1/ピーク2)が0.35以下であることを特徴とするポリ乳酸系フィルム及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性及び透明性に優れ、柔軟性を有するポリ乳酸系フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムの廃棄処理を容易にする目的で生分解性を有する種々のフィルムが開発されている。生分解性フィルムは、土壌中や水中で加水分解や生分解を受け、徐々にフィルムの崩壊や分解が進み、最後には微生物の作用で無害な分解物へと変化するものである。生分解性フィルムとしては、芳香族系ポリエステル樹脂やポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族系ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース、デンプン等から成形したフィルムが知られている。
【0003】
かかる生分解性樹脂の一つであるポリ乳酸からなる二軸延伸フィルムは、透明性が優れることから包装用フィルムとして使用され始めているが、柔軟性に欠けるため用途が限定されている状況にある。
【0004】
ポリ乳酸フィルムの柔軟性を改良する方法として、ポリ乳酸にポリヒドロキシカルボン酸系共重合体を添加する方法(特開2003−040990号公報;特許文献1)、ポリ乳酸に替え、ポリ乳酸ブロックとポリエステルブロックとから構成される線状乳酸系共重合ポリエステルを用いる方法(特開2002−326662号公報:特許文献2)、あるいは非晶質のポリ乳酸共重合体にベンジルメトキシエトキシエチルアジペートを添加した組成物を用いる方法(特開2008−094871号公報;特許文献3)など、種々の方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、ポリ乳酸にポリヒドロキシカルボン酸系共重合体した組成物及び線状乳酸系共重合ポリエステルは、いずれも包装用フィルムとして用いるには、十分は柔軟性が得られず、非晶質のポリ乳酸共重合体にベンジルメトキシエトキシエチルアジペートを添加した組成物は耐熱性に劣るという問題点がある。
【0006】
特に、耐熱性が改良されたステレオコンプレックス晶を形成したフィルム(例えば、特開2007−204727号公報;特許文献4)は、多価アルコール等を共重合させたポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸からステレオコンプレックス晶を形成することによってのみ柔軟性を付与することができる。しかし、過度の多価アルコール等を共重合させたポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸は結晶性の低下、更に共重合物によっては低融点するためにフィルムを形成すると当該フィルムの耐熱性等の物性に影響することがあるため、耐熱性を損なわずに、十分な柔軟性を付与するには限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−040990号公報
【特許文献2】特開2002−326662号公報
【特許文献3】特開2008−094871号公報
【特許文献4】特開2007−204727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点を解決することを目的とするものであり、具体的には、耐熱性及び柔軟性を有することに加え、可塑剤がブリードアウトしないポリ乳酸系フィルムを開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸を含むポリ乳酸混合物(A)を80〜95重量%及びポリグリセリン脂肪酸エステル(B)を5〜20重量%を含むポリ乳酸組成物(C)から得られるフィルムであって、DSC測定におけるポリ−L−乳酸及び/又はポリ−D−乳酸の結晶の融解に基づく150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク1)とステレオコンプレックス晶の融解に基づく205〜250℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク2)とピーク比(ピーク1/ピーク2)が0.35以下であることポリ乳酸系フィルム及びその製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリ乳酸系フィルムは、可塑剤としてポリグリセリン脂肪酸エステル(B)を用い、しかも微小なステレオコンプレックス晶を形成していることから、耐熱性を維持したまま軟質化することができる。また、ポリ乳酸は経時的に可塑剤のブリードアウトが起きやすく、ポリ−L−乳酸又はポリ−D−乳酸からなるポリ乳酸フィルムへの可塑剤の配合量に制限があり、使用期間にも限界があった。しかし、ステレオコンプレックス晶からなるポリ乳酸フィルムは通常のポリ−L−乳酸又はポリ−D−乳酸からなるフィルムに比べて可塑剤がブリードアウトしにくく、可塑剤の配合量の自由度が高く、長期間使用してもブリードアウトが生じない。
【0011】
また、本発明のポリ乳酸系フィルムをポリグリセリン脂肪酸エステル(B)とともにポリ−L−乳酸45〜55重量%及びポリ−D−乳酸45〜55重量%を含むポリ乳酸混合物(A)から形成することにより、ステレオコンプレックス晶の含有量をより高くすることができるため、ブリードアウトの防止性能を抑制しながら、同時に耐熱性も向上させることができる。
【0012】
本発明のポリ乳酸系フィルムのDSC測定における205〜240℃の範囲にある吸熱ピークを30J/g以上であれば本発明のポリ乳酸系フィルムのブリードアウトの防止性能、柔軟性及び耐熱性を確保することができる。
【0013】
本発明のポリ乳酸系フィルムに使用するポリグリセリン脂肪酸エステル(B)の構成成分である脂肪酸をパルミチン酸、ステアリン酸、及びオレイン酸からなる群から選択される1種または2種以上とすることにより、フィルムに対する高い可塑化効率で柔軟性を付与することが可能である。また、ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)の構成成分であるポリグリセリンがジグリセリン及び/又はデカグリセリンとすることにより、前記と同様にフィルムに対する可塑化効率を向上させることができる。さらに、ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)が、エステル化率50%以上のポリグリセリン脂肪酸エステルであれば、フィルムの対する可塑化効率が良好なため少量でも柔軟性を付与することができる。
【0014】
本発明のポリ乳酸系フィルムは少なくとも一方向に2倍以上延伸することにより、ステレオコンプレックス晶の結晶化度が高くなり、結晶配向を付与できるため、結果として耐熱性をより向上させることができる。また、本発明のポリ乳酸系フィルムは縦方向及び横方向に2倍以上延伸することにより、前記同様ステレオコンプレックス晶の結晶化度が高くなり、縦横双方に延伸処理をしていることから結晶化度の制御やフィルムの結晶配向に基づく物性の制御が容易に可能となる。
【0015】
本発明のポリ乳酸系フィルムはポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸からステレオコンプレックス晶を形成することで延伸処理をしても可塑剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルのブリードアウトを発生させることなく、耐熱性、柔軟性とともに機械的物性を付与することが可能となるため、フィルムの用途の自由度を拡げることができる。
【0016】
本発明のポリ乳酸系フィルムの製造方法によれば、既存の設備で容易かつ確実に微小なステレオコンプレックス晶を高率で形成することができるため、可塑剤のブリードアウトがなく、柔軟性、耐熱性及び透明性を有するポリ乳酸系フィルムを得ることができる。また、本発明のポリ乳酸系フィルムの製造方法において、フィルムを熱処理前に少なくとも一方向に2倍以上延伸することにより、フィルムを構成するステレオコンプレックス晶の含有量が高くすることができる。また、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸をステレオコンプレックス晶とすることで、効果的にブリードアウトを抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1のポリ乳酸系フィルムの第1回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図2】実施例2のポリ乳酸系フィルムの第1回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図3】実施例3のポリ乳酸系フィルムの第1回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図4】実施例4のポリ乳酸系フィルムの第1回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図5】比較例1のポリ乳酸系フィルムの第1回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図6】比較例2のポリ乳酸系フィルムの第1回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図7】参考例1のポリ乳酸系フィルムの第1回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図8】参考例2のポリ乳酸系フィルムの第1回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のポリ乳酸系フィルムを順次詳述する。
<ポリ−L−乳酸>
本発明に係わるポリ乳酸混合物(A)を構成するポリ−L−乳酸(以下、「PLLA」と記す。)は、L−乳酸を主たる構成成分として95%以上を含む重合体である。L−乳酸の含有量が95%未満の重合体である場合には、後述のポリ−D−乳酸と溶融混練して得られるポリ乳酸系組成物(C)のステレオコンプレックス晶の含有量が低くなり、融点の低下を招来するため耐熱性が劣るおそれがある。
【0019】
PLLAの分子量は後述のポリ−D−乳酸と混合・製作したポリ乳酸系組成物(C)が例えば、エクストルーダー等によりフィルムに形成可能である限り、特に限定はされないが、通常、重量平均分子量(Mw)は6千〜300万、好ましくは6千〜200万の範囲にあるPLLAが好適である。重量平均分子量が6千未満のものは得られるポリ乳酸系フィルムの強度が劣る虞がある。一方、300万を越えるものは溶融粘度が大きくフィルムへの加工性が劣る虞がある。
【0020】
<ポリ−D−乳酸>
本発明に係わるポリ乳酸混合物(A)を構成するポリ−D−乳酸(以下、「PDLA」と記す。)は、D−乳酸を主たる構成成分として、95モル%以上を含む重合体である。D−乳酸の含有量が95モル%未満の重合体である場合には、前述のPLLAと溶融混練して得られるポリ乳酸系組成物(C)のステレオコンプレックス晶の含有量が低くなり、融点の低下を招来するため耐熱性が劣るおそれがある。
【0021】
PDLAの分子量は前述のPLLAと混合・製作したポリ乳酸系組成物(C)が、例えばエクストルーダー等によりフィルムに成形可能である限り、特に限定はされないが、通常、重量平均分子量(Mw)は6千〜300万、好ましくは6千〜200万の範囲にあるポリ−D乳酸が好適である。重量平均分子量が6千未満のものは得られるポリ乳酸系フィルムの強度が劣る虞がある。一方、300万を越えるものは溶融粘度が大きくフィルムへの加工性が劣る虞がある。
【0022】
本発明においてPLLA及びPDLAには、本発明の目的を損なわない範囲で、少量の他の共重合成分、例えば、多価カルボン酸若しくはそのエステル、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類等を共重合させておいてもよい。
【0023】
多価カルボン酸としては、具体的には、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、スベリン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、セバシン酸、ジグリコール酸、ケトピメリン酸、マロン酸及びメチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸並びにテレフタル酸、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0024】
多価カルボン酸エステルとしては、具体的には、例えば、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、ピメリン酸ジメチル、アゼライン酸ジメチル、スベリン酸ジメチル、スベリン酸ジエチル、セバシン酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、デカンジカルボン酸ジメチル、ドデカンジカルボン酸ジメチル、ジグリコール酸ジメチル、ケトピメリン酸ジメチル、マロン酸ジメチル及びメチルマロン酸ジメチル等の脂肪族ジカルボン酸ジエステル並びにテレフタル酸ジメチル及びイソフタル酸ジメチル等の芳香族ジカルボン酸ジエステルが挙げられる。
【0025】
多価アルコールとしては、具体的には、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタメチレングリコール、へキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール及び分子量1000以下のポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0026】
ヒドロキシカルボン酸としては、具体的には、例えば、グリコール酸、2−メチル乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシイソカプロン酸及びヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。
【0027】
ラクトン類としては、具体的には、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、β又はγ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、4−メチルカプロラクトン、3,5,5−トリメチルカプロラクトン、3,3,5−トリメチルカプロラクトン等の各種メチル化カプロラクトン;β−メチル−δ−バレロラクトン、エナントラクトン、ラウロラクトン等のヒドロキシカルボン酸の環状1量体エステル;グリコリド、L−ラクチド、D−ラクチド等の上記ヒドロキシカルボン酸の環状2量体エステル等が挙げられる。
また、本発明に係わるPLLA及びPDLAには、それぞれD−乳酸若しくはL−乳酸を前記範囲以下であれば少量含まれていてもよい。
【0028】
<ポリ乳酸混合物(A)>
本発明のポリ乳酸フィルムに係るポリ乳酸混合物(A)はPLLA及びPDLAの混合物から構成されている。ステレオコンプレックス晶はPLLAとPDLAとの間に結合力がはたらき、PLLAとPDLAとが一対の構造を形成してステレオコンプレックス構造をとって結晶を形成したものである。従って、ポリ乳酸混合物(A)にはPLLA及びPDLAの双方から構成されていることが必要である。ステレオコンプレックス晶はポリ乳酸混合物(A)に含有されるPLLA及びPDLAによりステレオコンプレックス構造を形成し、結晶化させることによって得ることができる。
【0029】
また、ポリ乳酸混合物(A)を構成するPLLA及びPDLAの含有量は上述したステレオコンプレックス晶の形成原理により、本発明の効果を奏するための十分なステレオコンプレックス晶の含有率を得る観点からPLLA45〜55重量%及びPDLA45〜55重量%(PLLA+PDLA=100重量%)から構成されていることが好ましく50重量%であることが最も好ましい。
【0030】
<ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)>
本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステル(B)とは、ポリグリセリンと脂肪酸とを反応させて得られるエステルをいう。ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)を使用することにより、ステレオコンプレックス晶を生成させるための熱処理工程で、結晶化速度が飛躍的に速くなり、結晶化度が高く、しかも透明性の高い微小なステレオコンプレックス晶を得ることができる。本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルはポリ乳酸樹脂との相溶性と優れた可塑化効率を有することから可塑剤として用いられるものである。また、ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)は本発明のポリ乳酸系フィルムのコンポスト時の環境負荷が少ないという観点から、天然物である椰子油及びパーム油から誘導化されたポリグリセリン脂肪酸エステル好ましい。さらに、ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)は脂肪酸エステル化率としては好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上である。
【0031】
本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルの構成成分であるポリグリセリンとしては、具体的には、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン等が挙げられ、好ましくはジグリセリン、デカグリセリンであり、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0032】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルのもう一方の構成成分である脂肪酸は炭素数が12以上の脂肪酸を用いることができ、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ガドレイ酸、エイコサジエン酸、アラキドン酸、べヘン酸、エルカ酸、ドコサジエン酸、リグノセリン酸、イソステアリン酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、9−ヒドロキシステアリン酸、10−ヒドロキシステアリン酸、水素添加ヒマシ油脂肪酸(12−ヒドロキシステアリン酸の他に少量のステアリン酸及びパルミチン酸を含有する脂肪酸)等が挙げられ、好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸であり、これらの1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0033】
<ポリ乳酸系組成物(C)>
ポリ乳酸系組成物(C)はブリードを抑制しながら柔軟性を付与できる観点からPLLA及びPDLAを含むポリ乳酸混合物(A)が80〜95重量%、ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)は5〜20重量%であることが好ましい。さらに好ましくはポリ乳酸混合物(A)が90〜95重量%、グリグリセリン脂肪酸エステル(B)は5〜10重量%である。また、可塑剤として、ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)を使用することにより、ブリードを抑止して柔軟性を付与できる観点からより好ましい。
【0034】
また、ポリ乳酸をステレオコンプレックス晶ポリ乳酸としているので可塑剤のブリードアウトも効果的に防止することができる。さらに、ポリ乳酸系組成物(C)には可塑剤であるポリグリセリン脂肪酸エステル(B)を含有することから、耐熱性、柔軟性、透明性、及び環境負荷の僅少な生分解性を有するポリ乳酸系フィルムを得ることができる。また、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて添加物を加えてもよい。実用上フィルムに透明性を要しない場合には添加可能な添加物の選択の自由度が高くなる。添加物としては例えば、酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、抗菌剤、核剤、無機化合物あるいは有機化合物の微粒子などの充填材等が挙げられる。
【0035】
ポリ乳酸系組成物(C)は、ポリ乳酸混合物(A)を230℃〜260℃の条件の下、1分〜70分間混練後、100℃以下に冷却し、次いで120℃〜220℃で1秒以上熱処理することによって得られる。前記熱処理により、ステレオコンプレックス晶の結晶化度をより高くする観点から、前記冷却後、120℃〜220℃の条件で1秒以上熱処理することが好ましい。また、ポリ乳酸混合物(A)の混練の際には可塑剤であるポリグリセリン脂肪酸エステル(B)とともに混練してもよいし、ポリ乳酸混合物(A)の混練・冷却後、ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)を加えてさらに230℃〜260℃の条件の下、均一混合させてもよい。
【0036】
また、ポリ乳酸系組成物(C)には静電防止剤その他の添加剤を含有させても良い。ポリ乳酸系組成物(C)はステレオコンプレックス晶を有しており、ポリ乳酸による単独結晶、即ちα晶も有していてもよいが、ステレオコンプレックス晶の含有率は高いほど本発明のポリ乳酸フィルムの耐熱性、ブリードアウト防止等の観点から好ましい。
【0037】
ポリ乳酸系組成物(C)に有するステレオコンプレックス晶は前記混練を強化するほど成形品の結晶化度が上がりステレオコンプレックス晶含有率が向上させることができる。
ポリ乳酸系組成物(C)に有するステレオコンプレックス晶が可塑剤のブリードアウトを防止することができると推定している。
【0038】
<ポリ乳酸系フィルム>
本発明のポリ乳酸系フィルムはPLLA及びPDLAを含むポリ乳酸混合物(A)を80〜95重量%及びポリグリセリン脂肪酸エステル(B)を5〜20重量%を含むポリ乳酸組成物(C)からなるフィルムであって、DSC測定におけるPLLA及び/又はPDLAの結晶の融解に基づく150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク1)とステレオコンプレックス晶の融解に基づく205〜250℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク2)とピーク比(ピーク1/ピーク2)が0.35以下であることを特徴とする。ここで、DSC測定におけるピーク高さは、DSC(示差走査熱量計)として、ティー・エイ・インスツルメント社製Q100を用い、試料約5mgを精秤し、JISK7121及びJISK7122に準拠し、窒素ガス流入量:50ml/分の条件下で、0℃から加熱速度:10℃/分で250℃まで昇温して昇温時のDSC曲線を得、得られたDSC曲線から、延伸フィルムの融点(Tm)、205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの吸熱量(ΔHm)、150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク1)と205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク2)とのピーク比(ピーク1/ピーク2)を求めるとともに、250℃に10分間維持した後、冷却速度:10℃/分で0℃まで降温して結晶化させて、降温時のDSC曲線を得、得られたDSC曲線から、延伸フィルムの結晶化の際の発熱量(Hc)を求めた。なお、ピーク高さは、65℃〜75℃付近のベースラインと240℃〜250℃付近のベースラインを結ぶことにより得られるベースラインからの高さで求めた。
【0039】
150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク1)はフィルムに含まれるポリ乳酸のα晶に由来するピークの高さであり、ピーク1の高さが高いほど、フィルムにα晶部分の含有量が高いことを示す。一方205〜250℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク2)はフィルムに含まれるポリ乳酸のステレオコンプレックス晶に由来するピークの高さであり、ピーク2が高いほど、フィルムにステレオコンプレックス晶部分の含有量が高いことを示す。従って、ピーク比(ピーク1/ピーク2)の値はα晶とステレオコンプレックス晶の相対的比率を示すものであり、ピーク比の値が小さいほどα晶に対してステレオコンプレックス晶の有する割合が高いことを意味する。
【0040】
前記ピーク比は耐熱性、特に150℃以上の高温域での耐熱性及びポリグリセリン脂肪酸エステル(B)のブリードアウト防止の観点から、0.35以下、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.05以下である。さらに、フィルムの結晶部分がステレオコンプレックス晶のみからなることを意味するピーク比が0であることが最も好ましい。本発明のポリ乳酸系フィルムに含有されるステレオコンプレックス晶により、耐熱性及びブリードアウト防止性能が得られる。
【0041】
さらに、DSC測定における205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの吸熱量が30J/g以上であることが好ましい。前記吸熱ピークの吸熱量はステレオコンプレックス晶の含有量の指標となるものであり、前記吸熱ピークの吸熱量が高いほどステレオコンプレックス晶の含有量も高いことを示す。本発明のポリ乳酸系フィルムの吸熱ピークの吸熱量が30J/g以上であることにより、良好な耐熱性及びブリードアウト防止性能を奏することができる。
【0042】
また、本発明のポリ乳酸系フィルムは可塑剤として、ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)を含有している。ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)は、フィルムに適度な柔軟性を付与できることに加え、他の可塑剤に比べてステレオコンプレックス晶によるブリードアウト防止性能に優れている。
【0043】
また、ポリ乳酸混合物(A)はステレオコンプレックス晶を高率で生成させる観点から、PLLAを45〜55重量%及びPDLAを45〜55重量%(PLLA+PDLA=100重量%)であることがより好ましく、PLLA、PDLAともに50重量%であることが最も好ましい。ステレオコンプレックス晶はPLLAとPDLAが一対の構造を形成してステレオコンプレックス構造をとって結晶化することにより構成されているため、PLLAの含有量とPDLAの含有量が等量に近いほどステレオコンプレックス晶が生成しやすいためである。
【0044】
さらに、ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)の構成成分である脂肪酸が、パルミチン酸、ステアリン酸、及びオレイン酸からなる群から選択される1種または2種以上であることが、また、記ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)の構成成分であるポリグリセリンが、グリセリンジグリセリン及び/又はデカグリセリンであることがフィルムへの柔軟性の付与及びブリードアウト防止の観点から好ましい。
【0045】
さらに、ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)のエステル化率が、50%以上であることが、本発明のポリ乳酸系フィルムへの柔軟性付与の観点から好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)のエステル化率が高いほど可塑化効率が良好であるが、50%以上、好ましくは60%以上である。
【0046】
また、前記ポリ乳酸系フィルムが、剛性等の機械的物性の向上等の観点から少なくとも一方向、または2倍以上延伸されていてもよい。延伸方向はフィルム製作の際の流れ方向、即ち縦方向であってもよいし、縦方向と直角方向、即ち横方向であってもよく、2倍以上の延伸倍率で延伸することが本発明のポリ乳酸系フィルムの剛性等の機械的物性の付与等の観点から好ましい。さらに、本発明のポリ乳酸系フィルムは、剛性等の機械的物性の向上等の観点から縦方向及び横方向の双方に2倍以上の延伸倍率で延伸されたものであってもよい。縦方向及び横方向の双方に延伸された本発明のポリ乳酸系フィルムは一方向のみに延伸されたフィルムより優れた機械的物性を得ることができるからである。
【0047】
また、本発明のポリ乳酸系フィルムは、ポリ乳酸成分として、45〜55重量%のPLLA及び45〜55重量%のPDLAからなる樹脂成分と可塑剤成分としてポリグリセリン脂肪酸エステル(B)5〜20重量%を230℃〜260℃の条件の下、高剪断下で1分〜70分溶融混練後、フィルムに成形し、100℃以下に冷却した後、120℃〜220℃で1秒以上熱処理することにより製造することができる。
【0048】
ポリ乳酸混合物(A)として、45〜55重量%のポリ−L−乳酸及び45〜55重量%のポリ−D−乳酸を用いるが、予めポリ乳酸混合物(A)80〜95重量%に可塑剤であるポリグリセリン脂肪酸エステル(B)5〜20重量%を添加し混合してもよいし、後工程の混練工程で混合しながら混練する方法を採っても良い。混合機としては、ヘンシルミキサー、タンブラー、ニーダー等種々の混合機を使用することができる。尚、ポリ乳酸混合物(A)及びポリグリセリン脂肪酸エステル(B)は上記の混合量を満たす限り、それらの合計が100重量%であることは必ずしも必要ではなく所望に応じて既述した添加物を加えることができる。
【0049】
混練工程ではポリ乳酸混合物(A)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)及び所望によって加えられる添加物の混合後混練するか又は本混練工程でポリ乳酸混合物(A)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)及び所望によって加えられる添加物の混合・混練してもよい。混練工程では230℃〜260℃の条件で高剪断下で1分〜70分間混練する。混練温度は適切なステレオコンプレックス晶の生成の観点から230℃〜260℃の範囲が好ましく、230℃未満であると未融解のステレオコンプレックス晶が残り延伸工程でムラを起こす可能性がある。
【0050】
一方、260℃を超えるとPLLA及びPDLAの熱分解が促進され、成形されるフィルムの機械的物性面で問題が生じる可能性がある。また、混練時間は加熱条件下でポリ乳酸混合物(A)及びポリグリセリン脂肪酸エステル(B)を均一に混合、混練し、成形後にステレオコンプレックスを高率で得る観点から1分〜70分間が好ましく、更に1〜10分が好ましい。当該混練時間が1分未満であるとポリ乳酸混合物(A)及びポリグリセリン脂肪酸エステル(B)の十分に均一に混合できず、後工程の熱処理工程でステレオコンプレックス晶が形成されずフィルムの耐熱性の低下の原因となることがあり、一方、混練時間が70分を超えるとPLLA及びPDLAの熱分解が促進され、成形されるフィルムの機械的物性面や耐熱性面で問題が生じる可能性がある。
【0051】
前記混練時間の条件でポリ乳酸混合物(A)及びポリグリセリン脂肪酸エステル(B)を混練することにより、後工程である熱処理工程でステレオコンプレックス晶を高率で得ることができる。当該混練処理をすることにより、成形品のステレオコンプレックス晶の結晶化度を高めることができる。
【0052】
混練工程で使用する混練機としては、公知の種々の混練機を使用することができ、例えば、一軸又は二軸のエクストルーダー、プラストミル、バンバリーミキサー、キャスト成形機等が挙げられる。
【0053】
混練後、一軸又は二軸のエクストルーダー、キャスト成形機、カレンダーロール等のフィルム成形機により、フィルムに加工する。フィルムに加工後は100℃以下に冷却する。当該冷却はフィルムが非晶質から形成されるようにすることが必要であることから急冷することが必要である。前記冷却で結晶部分が形成されてしまうと、延伸工程でムラを起こすおそれがある。
【0054】
さらに、冷却後120℃〜220℃で1秒以上熱処理を行う。当該熱処理により、上記混練及びフィルム成形の条件を満たす限り、ステレオコンプレックス晶が高率で形成される。フィルムに含まれるポリグリセリン脂肪酸エステル(B)により、柔軟性を付与できる。熱処理温度としては、ステレオコンプレックス晶の形成の観点から、120℃〜220℃が好ましく、120〜180℃がさらに好ましい。
【0055】
また、熱処理時間も1秒以上、ステレオコンプレックス晶の形成と着色等のフィルムの外観劣化防止の観点から、10秒〜10分が好ましく、10秒〜1分がさらに好ましい。
【0056】
さらに、前記フィルムの冷却後、剛性等の機械的物性付与を目的して少なくとも一方向に2倍以上延伸してもよい。延伸は少なくとも一方向にされていればよく、横方向のみの延伸、縦方向のみの延伸、横方向、縦方向の双方の延伸を適宜選択的に採ることができる。延伸倍率は2倍以上であり、延伸倍率が2倍未満では十分な機械的物性が得られないことがある。延伸倍率は適切な機械的物性の観点から、2〜5倍が好ましく、2〜4倍がさらに好ましい。尚、熱処理工程は当該延伸工程の後に行う。延伸されたフィルムを熱処理することにより、均一にステレオコンプレックス晶を形成することができる。
【0057】
また、本発明のポリ乳酸系フィルムは、必要に応じて、他の層あるいは印刷層との密着性を向上させるために、プライマーコート、コロナ処理、プラズマ処理や火炎処理などを施しても良い。
【0058】
本発明のポリ乳酸系フィルムは、用途に応じて、他の樹脂種からなる層を積層させてもよい。具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン及びポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート及びポリカーボネート等のポリエステル、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリメチルメタクリレート、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ乳酸、脂肪族ポリエステル等の生分解性ポリエステル等の熱可塑性樹脂からなるフィルム、シート、カップ、トレー状物、あるいはその発泡体、若しくはガラス、金属、アルミニウム箔、紙等が挙げられる。
【0059】
以下、実施例により本発明をより具体的に詳述する。
実施例及び比較例で使用した原料は次の通りである。
(イ)ポリ−L−乳酸(PLLA):
D体量:1.9%Mw:22万(g/モル)、Tm:163℃。
(ロ)ポリ−D−乳酸(PURAC社製:PDLA):
D体量:100.0%Mw:135万(g/モル)、Tm:180℃。
インヘレント粘度(溶媒;クロロホルム、測定温度;25℃、濃度;0.1g/dl):7.04(dl/g)
本発明における測定方法は以下のとおりである。
(ハ)可塑剤
太陽化学チラバゾールVR−10
ヤシ・パーム油から誘導化されるポリグリセリン脂肪酸・常温で液体
(1)DSC測定
(イ)測定装置:DSC(示差走査熱量計)Q100(ティー・エイ・インスツルメント社製)
(ロ)測定方法
DSC測定におけるピーク高さは、前記DSC(示差走査熱量計)を用い、試料約5mgを精秤し、JISK7121及びJISK7122に準拠し、窒素ガス流入量:50ml/分の条件下で、0℃から加熱速度:10℃/分で250℃まで昇温して昇温時のDSC曲線を得、得られたDSC曲線から、延伸フィルムの融点(Tm)、205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの吸熱量(ΔHm)、150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク1)と205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク2)とのピーク比(ピーク1/ピーク2)を求めるとともに、250℃に10分間維持した後、冷却速度:10℃/分で0℃まで降温して結晶化させて、降温時のDSC曲線を得、得られたDSC曲線から、延伸フィルムの結晶化の際の発熱量(Hc)を求めた。なお、ピーク高さは、65℃〜75℃付近のベースラインと240℃〜250℃付近のベースラインを結ぶことにより得られるベースラインからの高さで求めた。
(2)透明性
日本電色工業社製ヘイズメーター300Aを用いてフィルムのヘイズ(HZ)及び平行光光線透過率(PT)を測定した。
(3)破断強度・ヤング率
試験片として、フィルムから縦方向(MD)及び横方向(TD)に短冊状フィルム片(長さ:50mm、幅:15mm)を切出し、引張り試験機(オリエンテック社製テンシロン万能試験機RTC-1225)を用い、チャック間距離:20mm、クロスヘッドスピード:300mm/分(但し、ヤング率の測定は5mm/分)の条件で引張試験を行い、降伏点及び破断点における強度(MPa)、破断伸度(%)、ヤング率(MPa)を求めた。なお、破断伸度(%)はチャック間距離の変化とした。測定値は5回の平均値である。
(4)耐熱性
ポリ乳酸系延伸フィルムの耐熱性は前記した如く、熱機械分析による熱変形試験により測定した。熱分析装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製熱・応用・歪測定装置TMA/SS120)を用いてフィルムから幅4mmの試験片を切り出し、チャック間5mmで試験片に荷重0.25MPaを掛け、100℃(開始温度)から5℃/分で昇温し、各温度における試験片の変形(伸びまたは収縮)を測定した。
(5)ブリードアウト試験
食器用中性洗剤で手を十分に洗浄し手の表面の油分を除去した。
温度40±2℃、湿度50%±10%の条件の下に3日間ブリードを促進し、室温23±2℃、湿度65±10%の条件の下で養生したフィルムを素手で親指、人差し指、中指で挟むように持った。前記フィルムの指紋の表面にブリードした可塑剤に起因する指紋の転写の有無を目視にて観察した。
指紋の転写が視認されたものを×、
指紋の転写が視認されなかったものを○

[実施例1]
【0060】
<試料シートの作成>
ポリ乳酸混合物(A)におけるPLLAとPDLAの組成比が、50/50になるようにし、ポリ乳酸混合物(A):ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)を90:10(重量%)の比で計100g計量し、東洋精機製ラボプラストミルCモデル(2軸混練機)を用いて245℃、120rpmの条件下でPLLAとPDLAを10分間混練した。
その後、ポリグリセリン酸エステル(B)を配合して更に5分間混練した。
さらに、前記混練物を厚さ50μmのポリイミドフィルム(宇部興産製商品名:ユーピレックスー50S)で挟んだ後、厚さ1mm及び240mm×240mmのステンレス製矩形の金枠に入れ、プレス温度250℃、プレス時間10分(圧力100kgf)、冷却:10分(温度20℃、圧力100kgf/cm)の条件でプレス成形し、1mm厚のプレスシートを得た。
【0061】
さらに、前記プレスシートをパンタグラフ式バッチ二軸延伸装置(ブルックナー社製)を用いて75℃ホットエアーで60秒予熱した後、2.1m/分の速度で、縦横方向に3.0倍延伸(同時二軸延伸)し、厚さ約50μmの二軸延伸フィルムを得た。
【0062】
次いで、得られたニ軸延伸フィルム金枠にクリップで固定し、200℃×5分の条件で
熱処理した後、室温で十分冷やしてポリ乳酸系フィルムを得た。
[実施例2]
【0063】
ラボプラストミルCモデルでのPLLAとPDLAの混練時間を20分とした以外は実施例1と同様にして試料シートを得た。
[実施例3]
【0064】
ラボプラストミルCモデルでのPLLAとPDLAの混練時間を30分とした以外は実施例1と同様にして試料シートを得た。
[実施例4]
【0065】
ラボプラストミルCモデルでのPLLAとPDLAの混練時間を40分とした以外は実施例1と同様にして試料シートを得た。
[比較例1]
【0066】
PLLAとPDLAの組成比が、50/50になるようにして、PLLAとPDLAを合計で100g計量し、ポリグリセリン酸エステル(B)を配合することもなく、またその後の5分間の混練も行うことない以外は、実施例1と同様にして試料シートを得た。
[比較例2]
【0067】
PLLA:ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)を90:10になるように合計で100g計量し、ラボプラストミルCモデルでの混練時間を5分とした以外は実施例1と同様にして試料シートを得た。
[参考例1]
【0068】
ラボプラストミルCモデルでの混練時間を40分とした以外は比較例1と同様にして試料シートを得た。
[参考例2]
【0069】
PLLAを100g計量し、比較例2と同様にして試料シートを得た。
上記実施例1〜4、比較例1、2、及び参考例1、2の各試験結果は表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
実施例1及び比較例1のMD方向及びTD方向の破断伸度が比較例1では各々18.7、12.8であるのに対し、実施例1では75.1、72.8と大幅に大きくなっている。このことは、可塑剤の添加によって柔軟性が付与されていることを示す。
また、可塑剤ブリードアウトについては実施例1〜4にはブリードアウトの発生はなく、比較例2にはブリードアウトが起きている。このことは、実施例1〜4はステレオコンプレックス晶により、可塑剤のブリードアウトが防止されたのに対し、比較例2ではステレオコンプレックス晶が形成されていないため可塑剤のブリードアウトが発生している。
また、TMA挙動からは比較例2では170℃で「融解」しているのに対し、実施例1〜4では「融解」することはなく耐熱性に優れている事がわかる。このことも、実施例1〜4はステレオコンプレックス晶が形成いるため、ステレオコンプレックス晶が形成されていない比較例2より耐熱性が格段に優れていることを示す。また、参考例2からもステレオコンプレックス晶を形成しないことからTMA挙動では170℃で「融解」が生じており、耐熱性に劣ることがわかる。
【0072】
また、実施例1〜4について、TMA挙動のデータから、混練時間が長くなるほど高温域の耐熱性が向上していることがわかる。このことは、混練時間を長くする等の混練強化を行うほど、ステレオコンプレックス晶の結晶化度が高くなるため、耐熱性も向上する。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のポリ乳酸系フィルムは、柔軟性に優れ、耐熱性及び透明性にも優れるので、包装材料、例えば、袋類、結束テープや食品用、工業用品用、電気製品用、繊維製品用、雑貨用等の一般包装用フィルムをはじめ、農業用マルチフィルム、ラベル、あるいは、紙、アルミホイル、他のポリマー等と押出ラミネーション、ドライラミネーションにより貼り合わせて、カップ、紙パック、ケース等に利用できる。
【0074】
本発明のポリ乳酸系フィルムの製造方法は、特殊な原材料や新規設備を導入する必要はなく、既存の原材料及び設備で極めて容易に実施することができるため、技術及びコストの双方の側面からも非常に有利であり産業にとってかつ極めて有用である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸を含むポリ乳酸混合物(A)を80〜95重量%及びポリグリセリン脂肪酸エステル(B)を5〜20重量%を含むポリ乳酸組成物(C)から得られるフィルムであって、DSC測定におけるポリ−L−乳酸及び/又はポリ−D−乳酸の結晶の融解に基づく150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク1)とステレオコンプレックス晶の融解に基づく205〜250℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク2)とピーク比(ピーク1/ピーク2)が0.35以下であることを特徴とするポリ乳酸系フィルム。
【請求項2】
ポリ乳酸混合物(A)が、ポリ−L−乳酸を45〜55重量%及びポリ−D−乳酸を45〜55重量%含む請求項1に記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項3】
DSC測定における205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの吸熱量が30J/g以上である請求項1または2に記載のポリ乳酸系延伸フィルム。
【請求項4】
ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)の構成成分である脂肪酸が、パルミチン酸、ステアリン酸、及びオレイン酸からなる群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項5】
ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)の構成成分であるポリグリセリンが、ジグリセリン及び/又はデカグリセリンであることを特徴である請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項6】
ポリグリセリン脂肪酸エステル(B)が、エステル化率が50%以上のポリグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項7】
ポリ乳酸系フィルムが、少なくとも一方向に2倍以上延伸されてなる請求項1〜6のいずれかに記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項8】
ポリ乳酸系フィルムが、縦方向に2倍以上及び横方向に2倍以上延伸されてなる請求項1〜7のいずれかに記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項9】
45〜55重量%のポリ−L−乳酸及び45〜55重量%のポリ−D−乳酸を含むポリ乳酸混合物(ポリ−L−乳酸+ポリ−D−乳酸=100重量%)80〜95重量%及びポリグリセリン脂肪酸エステル(B)5〜20重量%を、230℃〜260℃で1分〜70分混練して得た溶融状態のポリ乳酸組成物をフィルムに成形した後、100℃以下に冷却し、次いで、120℃〜220℃で1秒以上熱処理することを特徴とするポリ乳酸系フィルムの製造方法。
【請求項10】
熱処理前に少なくとも一方向に2倍以上延伸することを特徴とする請求項9記載のポリ乳酸系フィルムの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−260900(P2010−260900A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110709(P2009−110709)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000220099)東セロ株式会社 (177)
【Fターム(参考)】