説明

ポリ乳酸系フィルム

【課題】本発明は、農業用マルチフィルム用途または松食い虫薫蒸用シート用途に好ましく用いることのできる生分解性フィルムに関し、特には、生分解性および製造性を両立したポリ乳酸系フィルムを提供せんとするものである。
【解決手段】ポリ乳酸系樹脂を含む組成物からなるフィルムであって、
前記組成物は、組成物の全成分100質量%において、ポリ乳酸系樹脂を30質量%以上含有し、
前記ポリ乳酸系樹脂が、その分子量分布において、分子量10万以上の領域に少なくとも1つの分子量ピークの極大値を有し、かつ、分子量10万未満の領域に少なくとも1つの分子量ピークの極大値を有するものであることを特徴とする、ポリ乳酸系フィルム

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用マルチフィルム用途または松食い虫薫蒸用シート用途に好ましく用いることのできる生分解性フィルムに関し、特には、生分解性および製造性を両立したポリ乳酸系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、農業分野においては、作物の生育、収穫量を向上させることを目的として農業用マルチフィルムが広く用いられている。農業用マルチフィルムの一般的な使用方法としては、山型または台型の断面を持ち細長く直線状に土を盛り上げた畝を立て、畝を被覆してその土壌表面を覆い使用する。作物はマルチフィルムに定植用の穴を空けてそこから苗を植え込む。マルチフィルムは、例えば、苗が土壌に十分に根を張るまでの期間の土壌の保水や保温、苗が生育し作物が収穫されるまでの雑草の繁殖抑制や畝の形状維持などの目的で使用されている。
【0003】
一方で、林業分野においては、マツキボシゾウムシ、マツノキクイムシ、マツノマダラカミキリ等の甲虫である松喰い虫による松林等の森林の枯損被害が拡大し、松の生育に対して多大な被害を与えている。また、運輸分野においては、各種大型製品等の輸出入の運搬の際に使用される木材パレット中に有害な害虫が潜んでいる場合が多く、そのまま木材パレットを諸外国へ搬送すると、これらの害虫を諸外国へ移住させ、その国の自然環境の破壊につながるといった問題を抱えている。このような松食い虫の被害を防止するために、松食い虫により被害のあった松の枯木をプラスチック製の松食い虫薫蒸用シートで被覆密閉包囲し、燻蒸用活性成分であるメチルイソチオシアネート(MITC)による燻蒸剤で処理することが行われている。また、木材の消毒にあっても、多くの場合、切出した直後の木材を野外に積み上げ、プラスチック製の松食い虫薫蒸用シートを被せて密閉包囲し、MITCを燻蒸することにより行われている。
【0004】
これらの農業用マルチフィルムおよび松食い虫薫蒸用シートには、ポリエチレンに代表されるポリオレフィンからなるものが多いが、ポリオレフィンは自然環境下に放置されても生分解しないため使用後は回収する必要がある。また、使用後の物理的に劣化し汚れたマルチフィルムおよび薫蒸用シートは再利用が難しく、ほとんどの場合、廃棄もしくは焼却処分するしか方法はなく、廃棄物としての処理費用がかかったり、環境へ悪影響を及ぼすという問題があった。
【0005】
これらの問題の解決のために、農業用マルチフィルムおよび松食い虫薫蒸用シートとして使用する期間は従来のポリオレフィン製のものと同様に使用でき、しかも使用後には土壌中の微生物、水分、紫外線などによって完全分解する、生分解性を有する農業用マルチフィルムおよび松食い虫薫蒸用シートが検討されている。これらの生分解性を有する農業用マルチフィルムおよび松食い虫薫蒸用シートには、特定の構造を有する脂肪族ポリエステルや脂肪族芳香族ポリエステルなどの生分解性樹脂を用いたフィルムが検討されている。
【0006】
特許文献1には、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂と脂肪族ポリエステル系樹脂を特定の配合量で配合することを特徴とした、農業用マルチフィルムとして有用な生分解性フィルムが開示されている。
【0007】
特許文献2には、脂肪族芳香族ポリエステル、ポリエチレンサクシネート、長鎖分岐を有する脂肪族ポリエステルを特定の配合量で配合することを特徴とする松食い虫薫蒸用シートが開示されている。
【0008】
このように、生分解性を有する農業用マルチフィルムおよび松食い虫薫蒸用シートとしては、石油由来原料から製造された軟質系の生分解性樹脂を中心に開発されてきたが、近年においては、大気中の炭酸ガス濃度増加による地球温暖化問題が世界的な問題となりつつあり、プラスチック製品の分野においては、本来大気中の炭素源(炭酸ガス)に由来する植物由来原料のプラスチックが注目されている。中でも、透明性に優れ、コスト面でも比較的有利なポリ乳酸について、生分解性を有する農業用マルチフィルムおよび松食い虫薫蒸用シートとしての実用化検討が進められているが、ポリ乳酸をポリオレフィンに代表される軟質フィルム用途に適用しようとすると、柔軟性や耐衝撃性に十分でないため、これらの特性を改善し実用化するために各種の試みがなされている。
【0009】
例えば、特許文献3には、ポリ乳酸に多価アルコールエステルやヒドロキシ多価カルボン酸エステルの可塑剤、耐ブロッキング剤としてSiO、さらに滑剤を添加した組成物よりなるフィルムが開示されている。特許文献4には、ポリ乳酸、ガラス転移点が0℃以下の脂肪族ポリエステル、および可塑剤からなるフィルムが開示されている。特許文献5には、乳酸系樹脂と可塑剤からなる、主にストレッチ包装用途への展開を目指したフィルムについて開示されている。特許文献6には、D体濃度の異なる複数種類のポリ乳酸と可塑剤からなるフィルムをさらに結晶化処理したフィルムについて開示されている。特許文献7には、ポリ乳酸と脂肪族ポリエステルおよび特定の可塑剤からなるフィルムについて開示されている。特許文献8には、ポリ乳酸とガラス転移温度が0 ℃ 以下の生分解性脂肪族芳香族共重合ポリエステルとオキシ酸エステル系可塑剤と無機質充填材とからなるマルチフィルムについて開示されている。
【0010】
特許文献9には、ポリ乳酸と常温で固体状の可塑剤を用いた、柔軟性、耐衝撃性、耐ブリード性に優れたポリ乳酸系フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−001704号公報
【特許文献2】特開2006−246786号公報
【特許文献3】特開平8−34913号公報
【特許文献4】特開2000−273207号公報
【特許文献5】特開2003−12834号公報
【特許文献6】特開2006−45290号公報
【特許文献7】特許3753254号公報
【特許文献8】特開2004−57016号公報
【特許文献9】特開2009−138085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献3〜8の技術ではいずれも常温で液状の可塑剤を用いる技術のため、ポリ乳酸に柔軟性、耐衝撃性等を付与する点では一定の効果があったものの、添加した可塑剤が本質的にブリードしやすく、性能の経時安定性が不足し、またブロッキングもしやすいなど実用的な技術ではなかった。また、液状可塑剤を添加することで生分解性フィルムの生分解性は向上する傾向であるが、フィルムの製造性を維持するために液状可塑剤の添加量には制限があり、さらに液状可塑剤は経時でブリードアウトしてしまうため、生分解性を有する農業用マルチフィルムまたは松食い虫薫蒸用シートとした際には生分解性が十分でない場合があった。また左記の欠点を補う技術については、何ら有効な示唆はなかった。
【0013】
特許文献9に記載の技術は、特許文献3〜8に記載の技術と比較すると可塑剤のブリードアウトがいくらか抑制されてはいるが、依然として可塑剤の添加量には制限があり、生分解性を有する農業用マルチフィルムまたは松食い虫薫蒸用シートとした際には生分解性が十分でない場合があった。また左記の欠点を補う技術については、何ら有効な示唆はなかった。
【0014】
生分解性が十分でない場合、農業用マルチフィルムとしては、土壌中に鋤き込む際に耕耘機や農業用トラクターのロータリーにフィルム片が絡まったり、分解途中のフィルム片が長期間、広範囲にわたって散乱し、作物の生育を妨げるなどの問題がある。また、松食い虫薫蒸用シートとしては、分解途中のシート片が長期間、広範囲にわたって散乱し、景観が悪くなるなどの問題がある。
【0015】
また、特許文献3〜9においては、十分な分解性を得ようと液状可塑剤または可塑剤の添加量を増やした場合、例えばインフレーション法による製造時においては、バブルが不安定になり、フィルム幅や厚みが変動するなど、安定した製造が困難となる。
【0016】
以上のように、製造性と生分解性を両立させるために、ポリ乳酸系生分解性マルチフィルムに関して種々の検討がなされてきたが、未だに達成されていなかった。
【0017】
そこで本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、農業用マルチフィルム用途または松食い虫薫蒸用シート用途に好ましく用いることのできる生分解性フィルムに関し、特には、生分解性および製造性を両立したポリ乳酸系フィルムを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明のポリ乳酸系フィルムは、
ポリ乳酸系樹脂を含む組成物からなるフィルムであって、
前記組成物は、組成物の全成分100質量%において、ポリ乳酸系樹脂を30質量%以上含有し、
前記ポリ乳酸系樹脂が、その分子量分布において、分子量10万以上の領域に少なくとも1つの分子量ピークの極大値を有し、かつ、分子量10万未満の領域に少なくとも1つの分子量ピークの極大値を有するものであることを特徴とする、ポリ乳酸系フィルムである。
【0019】
また、上記ポリ乳酸系フィルムの好ましい態様は、(1)前記ポリ乳酸系樹脂100質量%において、その分子量分布における分子量10万以上のポリ乳酸系樹脂を30質量%以上95質量%以下含み、かつ該分子量分布における分子量10万未満のポリ乳酸系樹脂を5質量%以上30質量%以下含むこと、(2)前記組成物の全成分100質量%において、副成分を5質量%以上45質量%以下含み、前記副成分が、脂肪族芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、及びポリオレフィンからなる群より選ばれる少なくとも一種類の樹脂であること、(3)前記副成分が、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、及びポリブチレンテレフタレート・アジペートからなる群より選ばれる少なくとも一種類の樹脂であること、(4)前記組成物の全成分100質量%において、可塑剤を5質量%以上30質量%以下含むこと、(5)前記ポリ乳酸系樹脂の分子量分布における分子量10万未満の領域にある少なくとも1つのピークの極大値が、リサイクルされたポリ乳酸系樹脂に由来することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、農業用マルチフィルム用途または松食い虫薫蒸用シート用途に好ましく用いることのできる生分解性フィルムに関し、特には、生分解性および製造性を両立したポリ乳酸系フィルムを提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、前記課題、つまり農業用マルチフィルム用途または松食い虫薫蒸用シート用途に好ましく用いることのできる生分解性フィルムに関し、製造性と生分解性を両立するポリ乳酸系フィルムについて鋭意検討した結果、特定の分子量分布を有するポリ乳酸系樹脂を30質量%以上含有する組成物からなるポリ乳酸系フィルムとすることで、製造性と生分解性を両立でき、農業用マルチフィルム用途または松食い虫薫蒸用シート用途に好ましく用いることができることを見出し、かかる課題の解決に初めて成功したものである。
【0022】
以下、本発明のポリ乳酸系フィルムについて説明する。
【0023】
本発明のポリ乳酸系フィルムを構成する組成物に含まれるポリ乳酸系樹脂は、L−乳酸および/またはD−乳酸を主成分とし、乳酸由来の成分が70質量%以上100質量%以下のものをいい、実質的にL−乳酸および/またはD−乳酸からなるホモポリ乳酸が好ましく用いられる。
【0024】
本発明のポリ乳酸系フィルムを構成する組成物に含まれるポリ乳酸系樹脂は、その分子量分布において、分子量10万以上の領域に少なくとも1つの分子量ピークの極大値を有し、かつ、分子量10万未満の領域に少なくとも1つの分子量ピークの極大値を有するものであることが必要である。なお、ここでいう分子量分布とは、ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)を使用し、展開溶媒としてクロロホルムを用いて、標準ポリスチレンとの比較で得ることができ、本発明における分子量とは、かかる分子量分布における(X軸の)任意の数値を指す。
【0025】
また、分子量10万以上の領域については、上限が限定されるものではないが、実質的には分子量50万を超える領域に分子量ピークの極大値を示すことは考えにくいので、実質的な上限は分子量50万である。分子量10万以上の領域における分子量ピークの極大値は、少なくとも1つのピークの極大値が、12万以上16万以下の範囲にあることが好ましい。
【0026】
一方で、分子量10万未満の領域については、モノマー、オリゴマー等の低分子量成分に由来するピークの極大値、すなわち分子量3,000以下の領域にピークの極大値を示すことがあるが、本発明におけるポリ乳酸系樹脂の分子量分布および分子量について考えるときは、分子量3,000以下の領域は除外して考える。つまり、本発明におけるポリ乳酸系樹脂は、分子量が3,000より大きい樹脂を意味する。分子量10万未満の領域における分子量ピークの極大値は、少なくとも1つのピークの極大値が、5万以上9,9000以下の範囲にあることが好ましい。
【0027】
かかる分子量分布のポリ乳酸系樹脂は、数平均分子量が異なる2種以上のポリ乳酸系樹脂を配合することで得ることができる。例えば、数平均分子量が20万のポリ乳酸樹脂70質量%と、数平均分子量が8万のポリ乳酸樹脂30質量%を混合し、二軸押出機を用いて溶融混練することで、分子量15万と分子量5万の位置にピークの極大値を有するポリ乳酸樹脂を得ることができる。
【0028】
本発明のポリ乳酸系フィルムを構成するポリ乳酸系樹脂は、その分子量分布において、分子量10万以上の領域に少なくとも1つの分子量ピークの極大値を有し、かつ、分子量10万未満の領域に少なくとも1つの分子量ピークの極大値を有するものであることが必要であるが、それぞれの領域における分子量ピークの極大値は複数有していても良い。好ましくは、生分解性および製造性の観点で、それぞれの領域における分子量ピークの極大値の数は3つ以下である。分子量10万以上の領域に4つ以上のピークの極大値を有している場合、生分解性が悪化する場合があり、また、分子量10万未満の領域に4つ以上のピークの極大値を有している場合は、製造性が悪化する場合がある。
【0029】
また、本発明のポリ乳酸系フィルムを構成するポリ乳酸系樹脂中の、分子量10万未満の領域にある少なくとも1つのピークの極大値は、リサイクルされたポリ乳酸系樹脂に由来する極大値であることが好ましい。つまり、分子量分布における分子量10万未満の領域にある少なくとも1つのピークの極大値を得るために配合するポリ乳酸系樹脂としては、リサイクルされたポリ乳酸系樹脂を用いることが、製造コストの観点で特に好ましい。
【0030】
ここで、リサイクルされたポリ乳酸系樹脂としては、射出成形の際のスプールやランナーと呼ばれる樹脂導入部分や、紡糸、シート、フィルム、不織布等の成形加工の際に定尺に切断した後の耳と呼ばれる両端の部分、使用済みの成型品の回収品等を例示することができる。これらのリサイクルされたポリ乳酸系樹脂を含んだ組成物からなるポリ乳酸系フィルムとする場合は、これらリサイクルされたポリ乳酸系樹脂を粉砕して得たフレークを用いても良いし、溶融押出または造粒機によって造粒して得たペレットまたはチップを用いても良い。
【0031】
また、本発明のポリ乳酸系フィルムを構成する組成物に含まれるポリ乳酸系樹脂は、ポリ乳酸系樹脂の全成分を100質量%とした際に、分子量分布における分子量10万以上のポリ乳酸系樹脂を30質量%以上95質量%以下含み、かつ該分子量分布における分子量10万未満のポリ乳酸系樹脂を5質量%以上70質量%以下含むことが好ましく、分子量10万以上のポリ乳酸系樹脂を40質量%以上70質量%以下含み、かつ該分子量分布における分子量10万未満のポリ乳酸系樹脂を30質量%以上60質量%以下含むことが特に好ましい。
【0032】
なお、ポリ乳酸系樹脂100質量%中の、分子量10万以上のポリ乳酸系樹脂及び分子量10万未満のポリ乳酸系樹脂の含有量は、ポリ乳酸系樹脂の分子量分布から算出して得ることができる。
【0033】
また、ポリ乳酸系樹脂の含有量を算出するときは、モノマー、オリゴマー等の低分子量成分、すなわち分子量3,000以下の領域は除外して算出する。つまり、本発明におけるポリ乳酸系樹脂は、分子量が3,000より大きい樹脂を意味する。ポリ乳酸系樹脂100質量%において、分子量10万以上のポリ乳酸系樹脂が95質量%を超える、および/または分子量10万未満のポリ乳酸系樹脂が5質量%未満となると、十分な生分解性を得られない場合があり、例えば農業用マルチフィルムとしては使用した場合、土壌中に鋤き込む際に耕耘機や農業用トラクターのロータリーにフィルム片が絡まったり、分解途中のフィルム片が長期間、広範囲にわたって散乱し、作物の生育を妨げるなどの問題が起こる場合があり、また、例えば松食い虫薫蒸用シートとしては、分解途中のシート片が長期間、広範囲にわたって散乱し、景観が悪くなるなどの問題が起こる場合がある。
【0034】
またポリ乳酸系樹脂100質量%において、分子量10万以上のポリ乳酸系樹脂が30質量%未満、および/または分子量10万未満のポリ乳酸系樹脂が70質量%を超えると、十分な製造性を得られない場合があり、例えばインフレーション法による製造時においては、バブルが不安定になり、フィルム幅や厚みが変動するなど、安定した製造が困難となる場合がある。
【0035】
本発明のポリ乳酸系フィルムを構成する組成物中のポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、5万以上であることが好ましく、8万〜40万であることがより好ましく、10万〜30万であることが特に好ましい。かかるポリ乳酸系樹脂成分の重量平均分子量を5万以上とすることで、本発明のポリ乳酸系の機械的物性が優れたものとすることができる。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)を使用し、展開溶媒としてクロロホルムを用いて、標準ポリスチレンとの比較で得ることができる。
【0036】
本発明のポリ乳酸系フィルムを構成する組成物中のポリ乳酸系樹脂は、結晶性を有することが好ましい。ポリ乳酸系樹脂が結晶性を有するとは、該ポリ乳酸系樹脂を加熱下で十分に結晶化させた後に、適当な温度範囲で示差走査熱量分析(DSC)測定を行った場合、ポリ乳酸成分に由来する結晶融解熱が観測されることを言う。本発明に用いるポリ乳酸系樹脂が結晶性を有する場合には、該ポリ乳酸系樹脂を含んだ組成物をフィルムとした際の耐ブロッキング性の付与に好適である。
【0037】
通常、ホモポリ乳酸は、光学純度が高いほど融点や結晶性が高い。ポリ乳酸の融点や結晶性は、分子量分布や重合時に使用する触媒の影響を受けるが、通常、光学純度が98%以上のホモポリ乳酸では融点が約170℃程度であり結晶性も比較的高い。また、光学純度が低くなるに従って融点や結晶性が低下し、例えば光学純度が88%のホモポリ乳酸では融点は約145℃程度であり、光学純度が75%のホモポリ乳酸では融点は約120℃程度である。光学純度が70%よりもさらに低いホモポリ乳酸では明確な融点は示さず非結晶性となる。
【0038】
本発明のポリ乳酸系フィルムを構成する組成物中のポリ乳酸系樹脂は、必要な機能の付与あるいは向上を目的として、結晶性を有するホモポリ乳酸と非晶性のホモポリ乳酸を混合することも可能である。この場合、非晶性のホモポリ乳酸の割合は本発明の効果を損なわない範囲で決定すれば良い。また、ポリ乳酸系フィルムとした際に比較的高い耐熱性を付与したい場合は、使用するポリ乳酸系樹脂のうち少なくとも1種に光学純度が95%以上のポリ乳酸を含むことが好ましい。
【0039】
また、本発明のポリ乳酸系フィルムを構成する組成物中のポリ乳酸系樹脂は、L−乳酸、D−乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の単量体成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。共重合可能な単量体成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体が挙げられる。なお、上記した共重合成分の中でも、用途に応じて生分解性を有する成分を選択することが好ましい。
【0040】
本発明のポリ乳酸系フィルムを構成する組成物中のポリ乳酸系樹脂の製造方法の詳細は後述するが、既知の重合方法を用いることができ、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法などを挙げることができる。
【0041】
本発明のポリ乳酸系フィルムは、ポリ乳酸系樹脂を含む組成物からなるフィルムであるが、該組成物の全成分100質量%において、前述のポリ乳酸系樹脂を30質量%以上含有する組成物からなる。ポリ乳酸系フィルムを構成する組成物が、ポリ乳酸系樹脂を30質量%未満しか含まない場合には、本発明が目的とする、植物由来原料の実用化技術としては不十分である。また、本発明のポリ乳酸系フィルムは、後述するように、ポリ乳酸系樹脂および可塑剤以外に、後述する副成分や有機滑剤を含むことが好ましい。このような観点から、本発明のポリ乳酸系フィルムを構成する組成物は、前述のポリ乳酸系樹脂を30質量%以上89質量%以下含むことが好ましい。
【0042】
本発明のポリ乳酸系フィルムは、ポリ乳酸系樹脂以外の各種の樹脂を含有することが可能であるが、耐衝撃性および溶融粘度を向上させ、特にインフレーション法による製造工程において安定したバブルを形成し、かつ、巻き姿も向上させる等の目的で、ポリ乳酸系フィルムを構成する組成物の全成分100質量%において、副成分を5質量%以上45質量%以下含むことが好ましい。ポリ乳酸系フィルムを構成する組成物の全成分100質量%において、かかる副成分を5質量%以上含むと、主には耐衝撃性の面からその改良効果が得られやすく、45質量%以下であれば適度な生分解性を付与することができる。
【0043】
ここで副成分とは、脂肪族芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、及びポリオレフィンからなる群より選ばれる少なくとも一種類の樹脂を意味する。
【0044】
副成分を構成する樹脂としては、例えば、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート・3−ヒドロキシバリレート)、ポリカプロラクトン、あるいはエチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの脂肪族ジオールとコハク酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸よりなる脂肪族ポリエステル、さらにはポリブチレンサクシネート・テレフタレート、ポリブチレンアジペート・テレフタレートなどの脂肪族ポリエステルと芳香族ポリエステルの共重合体(脂肪族芳香族ポリエステル)、さらには低密度ポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、および、これらを、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマール酸その他の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン系樹脂などの極性基含有ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、などが挙げられる。なかでも副成分としては、耐衝撃性と生分解性の両方に改良効果が大きいものとして、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、及びポリブチレンテレフタレート・アジペートが特に好ましく用いられる。
【0045】
本発明のポリ乳酸系フィルムを構成する組成物は、該組成物の全成分100質量%において、可塑剤を5質量%以上30質量%以下含むことが好ましく、可塑剤を9質量%以上25質量%以下含むことがさらに好ましい。ポリ乳酸系フィルムを構成する組成物が、可塑剤を5質量%未満しか含まない場合は、フィルムとした際に十分な柔軟性が得られない場合がある。また、上記のポリ乳酸系フィルムを構成する組成物が、可塑剤を30質量%超含む場合は、フィルムとした際のコシが足りず取り扱い性に劣る、強度、耐久性に劣り、実用性が損なわれる、可塑剤のブリードアウトが大きくなってしまい実用性を欠いてしまう、さらには後述する良好なロール巻姿や巻出し性を得るために重要な収縮特性を付与することが困難となる場合がある。
【0046】
本発明のポリ乳酸系フィルムに用いることのできる可塑剤としては、常温で液体状のものや、あるいは常温で固体状のものが使用可能であるが、例えば、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジシクロヘキシルなどのフタル酸エステル系、アジピン酸ジ−1−ブチル、アジピン酸ジ−n−オクチル、セバシン酸ジ−n−ブチル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどの脂肪族二塩基酸エステル系、リン酸ジフェニル−2−エチルヘキシル、リン酸ジフェニルオクチルなどのリン酸エステル系、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリ−2−エチルヘキシル、アセチルクエン酸トリブチルなどのヒドロキシ多価カルボン酸エステル系、アセチルリシノール酸メチル、ステアリン酸アミルなどの脂肪酸エステル系、グリセリントリアセテート、トリエチレングリコールジカプリレートなどの多価アルコールエステル系、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油脂肪酸ブチルエステル、エポキシステアリン酸オクチルなどのエポキシ系可塑剤、ポリプロピレングリコールセバシン酸エステルなどのポリエステル系可塑剤、ポリアルキレンエーテル系、エーテルエステル系、アクリレート系などが挙げられ、これらのうち複数種以上の可塑剤の混合物も含まれる。
【0047】
また、農業用途においては、一時的にせよコンポストや農地への未分解物の残留の可能性を考慮すると、米食品衛生局(FDA)やポリオレフィン等衛生協議会(JHOSPA)などから認可された可塑剤であることが好ましい。かかる可塑剤としては、たとえばトリアセチン、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化アマニ油脂肪酸ブチルエステル、アジピン酸系脂肪族ポリエステル、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルリシノール酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アジピン酸ジアルキルエステル、ビスアルキルジグリコールアジペートまたはポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0048】
本発明のポリ乳酸系フィルムはポリ乳酸系樹脂を含むので、可塑剤のブリードアウト抑制やフィルムのブロッキング抑制、寸法安定性を含む使用前の保管時における耐久性の観点から、可塑剤としては、例えば数平均分子量1,000以上のポリエチレングリコールなど、常温で固体状であることが好ましい。同様の観点から、ポリエーテル系セグメントおよび/またはポリエステル系セグメントを有し、かつ一分子中に数平均分子量が1,200以上10,000以下のポリ乳酸セグメントを有するブロック共重合体であることがさらに好ましい。
【0049】
以下、本発明に用いる可塑剤の好ましい様態である上記のブロック共重合体(以下、ポリエーテル系セグメントおよび/またはポリエステル系セグメントを有し、かつ一分子中に数平均分子量が1,200以上10,000以下のポリ乳酸セグメントを有するブロック共重合体を、「ブロック共重合体可塑剤」と記す)について説明する。
【0050】
ブロック共重合体可塑剤の有するポリ乳酸セグメントの質量割合は、ブロック共重合体可塑剤全体の50質量%未満であることが、より少量の添加で所望の柔軟性を付与できるため好ましく、5質量%超であることが、ブリードアウト抑制の点から好ましい。また、ブロック共重合体可塑剤一分子中のポリ乳酸セグメントの数平均分子量は、1,200以上10,000以下であることが好ましい。ブロック共重合体可塑剤の有するポリ乳酸セグメントが、1,200以上であると、ブロック共重合体可塑剤とポリ乳酸系樹脂との間に十分な親和性が生じ、また、該セグメントの一部は基材であるポリ乳酸系樹脂から形成される結晶中に取り込まれることで、可塑剤分子を基材につなぎ止める作用を生じ、ブロック共重合体可塑剤のブリードアウト抑制に大きな効果を発揮する。ブロック共重合体可塑剤のポリ乳酸セグメントの数平均分子量は、好ましくは、2,000以上6,000未満である。なお、ブロック共重合体可塑剤の有するポリ乳酸セグメントは、L−乳酸由来の成分がその95質量%以上100質量%以下であるか、あるいはD−乳酸由来の成分がその95質量%以上100質量%以下であることでブリードアウトが特に抑制されるため好ましい。
【0051】
また、ブロック共重合体可塑剤は、ポリエーテル系セグメントおよび/またはポリエステル系セグメントを有するが、ポリエーテル系セグメントを有する場合は、より少量の添加で所望の柔軟性を付与できる観点から、ポリエステル系セグメントよりもポリエーテル系セグメントが好ましい。またブロック共重合体可塑剤のポリエーテル系セグメントとしては、ポリアルキレンエーテルからなるセグメントを有することがより好ましく、ポリエチレングリコールからなるセグメントを有することが特に好ましい。ブロック共重合体可塑剤が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、あるいはポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体などのポリアルキレンエーテル、中でもポリエチレングリコールなどのポリエーテル系セグメントを有する場合、ポリ乳酸系樹脂との親和性が高いために改質効率に優れ、特に少量の可塑剤の添加で所望の柔軟性を付与できるため好ましい。
【0052】
なお、ブロック共重合体可塑剤が、ポリアルキレンエーテルからなるセグメントを有する場合、成形時などで加熱する際にポリアルキレンエーテルセグメントが酸化や熱分解され易い傾向があるため、後述するヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系などの酸化防止剤やリン系などの熱安定剤を併用することが好ましい。
【0053】
ブロック共重合体可塑剤が、ポリエステル系セグメントを有する場合は、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート・3−ヒドロキシバリレート)、ポリカプロラクトン、あるいはエチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの脂肪族ジオールとコハク酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸よりなるポリエステルなどが、ポリエステル系セグメントとして好適に用いられる。なお、可塑剤の生産性やコスト等の理由から、ポリエーテル系セグメントとポリエステル系セグメントのいずれか一方の成分とする場合は、より少量の可塑剤の添加で所望の柔軟性を付与できる観点から、ポリエーテル系セグメントを用いる方が好ましい。
【0054】
さらにまた、ブロック共重合体可塑剤一分子中のポリエーテル系セグメントおよび/またはポリエステル系セグメントの数平均分子量は、7,000以上20,000未満であることが好ましい。上記範囲とすることで、ポリ乳酸系フィルムを構成する組成物に十分な柔軟性を持たせ、尚かつ、この組成物の溶融粘度を適度なレベルとし、インフレーション法による製造工程などの製膜加工性を安定させることができる。
【0055】
本発明のポリ乳酸系フィルムを構成する組成物は、有機滑剤を0.1質量%以上5質量%以下含むことが好ましい。この場合、巻き取り後のブロッキングを良好に抑制できる。また、有機滑剤の添加過多による溶融粘度の低下や加工性の悪化、あるいはフィルムとした際のブリードアウトやヘイズアップなどの外観不良の問題も発生しにくい。
【0056】
有機滑剤としては、例えば、流動パラフィン、天然パラフィン、合成パラフィン、ポリエチレンなどの脂肪族炭化水素系、ステアリン酸、ラウリル酸、ヒドロキシステアリン酸、硬性ひまし油などの脂肪酸系、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミドなどの脂肪酸アミド系、ステアリン酸アルミ、ステアリン酸鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどの脂肪酸金属塩、グリセリン脂肪酸エステル、ルビタン脂肪酸エステルなどの多価アルコールの脂肪酸(部分)エステル系、ステアリン酸ブチルエステル、モンタンワックスなどの長鎖エステルワックスなどの長鎖脂肪酸エステル系などが挙げられる。中でも、ポリ乳酸との適度な相溶性から少量で効果の得られやすい、ステアリン酸アミドやエチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
【0057】
本発明のポリ乳酸系フィルムを構成する組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で前述した以外の成分を含有してもよい。例えば、公知の酸化防止剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、抗酸化剤、イオン交換剤、結晶核剤、着色顔料等あるいは滑剤として、無機微粒子や有機粒子、有機滑剤を必要に応じて添加してもよい。
【0058】
酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系などが例示される。着色顔料としてはカーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄などの無機顔料の他、シアニン系、スチレン系、フタロシアイン系、アンスラキノン系、ペリノン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、キノクリドン系、チオインディゴ系などの有機顔料等を使
用することができる。
【0059】
また、易滑性や耐ブロッキング性の向上などを目的として、粒子を添加する際には、例えば無機粒子としては、シリカ等の酸化ケイ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の各種炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の各種硫酸塩、カオリン、タルク等の各種複合酸化物、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等の各種リン酸塩、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の各種酸化物、フッ化リチウム等の各種塩等からなる微粒子を使用することができる。
【0060】
また有機粒子としては、シュウ酸カルシウムや、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩などからなる微粒子が使用される。架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸のビニル系モノマーの単独または共重合体からなる微粒子が挙げられる。その他、ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機微粒子も好ましく使用される。
【0061】
無機粒子、有機粒子ともその平均粒径は、特に限定されないが、0.01〜10μmが好ましく、より好ましくは0.1〜5μm、特に好ましくは1〜4μmである。また無機粒子、有機粒子ともその添加量は、特に限定されないが、本発明のポリ乳酸系フィルムの0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、2.5質量%以上5質量%以下とすることが特に好ましい。平均粒径が0.01μm未満、および/または添加量が0.1質量%未満の場合は、フィルムがブロッキングするなどの問題が発生する場合があり、また、平均粒径が10μmを超える、および/または添加量が5質量%を超える場合は、製造性が悪化する場合がある。
【0062】
本発明のポリ乳酸系フィルムは、厚さが10μm以上120μm以下のフィルムであることが好ましい。厚さが10μm未満では、フィルムとした際のコシが足りず取り扱い性に劣る、また良好なロール巻姿や巻出し性を付与することが困難となる場合がある。また、厚さが120μm超とした際には十分な柔軟性が得られず、農業用マルチフィルムや松食い虫燻蒸用シートなどの農林業用途やゴミ袋、堆肥袋、あるいは各種包装用用途とした際に取り扱い性の劣るものとなってしまう場合がある。また、特にインフレーション法による製造工程においては、バブルの自重によりバブルが不安定になり易く、平面性を損ねて良好なロール巻き姿を付与することが困難となる場合がある。
【0063】
次に、本発明のポリ乳酸系フィルムを製造する方法について、好ましい例としてポリ乳酸系樹脂を用いる場合について具体的に説明する。
【0064】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂は、例えば、次のような方法で得ることができる。原料としては、L−乳酸またはD−乳酸の乳酸成分を主体とし、前述した乳酸成分以外のヒドロキシカルボン酸を併用することができる。またヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体、例えば、ラクチド、グリコリド等を原料として使用することもできる。更にジカルボン酸類やグリコール類等も使用することができる。
【0065】
ポリ乳酸系樹脂は、上記原料を直接脱水縮合する方法、または上記環状エステル中間体を開環重合する方法によって得ることができる。例えば直接脱水縮合して製造する場合、乳酸類または乳酸類とヒドロキシカルボン酸類を好ましくは有機溶媒、特にフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより高分子量のポリマーが得られる。
【0066】
また、ラクチド等の環状エステル中間体をオクチル酸錫等の触媒を用い減圧下開環重合することによっても高分子量のポリマーが得られることも知られている。このとき、有機溶媒中での加熱還流時の水分および低分子化合物の除去の条件を調整する方法や、重合反応終了後に触媒を失活させ解重合反応を抑える方法、製造したポリマーを熱処理する方法などを用いることにより、ラクチド量の少ないポリマーを得ることができる。
【0067】
次に、本発明の好ましい様態の一つにおいて使用する、一分子中に数平均数分子量が1,200以上10,000以下のポリ乳酸セグメントを有し、ポリエーテル系セグメントおよび/またはポリエステル系セグメントを有するブロック共重合体可塑剤のより具体的な例を説明する。
【0068】
両末端に水酸基末端を有するポリエチレングリコール(以下ポリエチレングリコールをPEGとする)を用意する。両末端に水酸基末端を有するPEGの数平均分子量(以下PEGの数平均分子量をMPEGとする)は、通常、市販品などの場合、中和法などにより求めた水酸基価から計算される。両末端に水酸基末端を有するPEGのw質量部に対し、ラクチドw質量部を添加した系において、PEGの両水酸基末端にラクチドを開環付加重合させ十分に反応させると、実質的にPLA(A)−PEG(B)−PLA(A)型のブロック共重合体を得ることができる(ここでPLAはポリ乳酸を示す)。この反応は、必要に応じてオクチル酸錫などの触媒併存下でおこなわれる。このブロック共重合体からなる可塑剤の一つのポリ乳酸セグメントの数平均分子量は、実質的に(1/2)×(w/w)×MPEGと求めることができる。また、ポリ乳酸セグメント成分のブロック共重合体可塑剤全体に対する質量割合は、実質的に100×w/(w+w)%と求めることができる。さらに、ポリ乳酸セグメント成分を除いた可塑剤成分のブロック共重合体可塑剤全体に対する質量割合は、実質的に100×w/(w+w)%と求めることができる。
【0069】
ブロック共重合体可塑剤が、未反応PEGや、末端のポリ乳酸セグメント数平均分子量が1,200に満たないPEGとの反応物や、ラクチドオリゴマーなどの副生成物、あるいは、不純物などを多量に含む場合には、例えば次の精製方法によりこれらを除去することが好ましい。クロロホルムなどの適当な良溶媒に、合成したブロック共重合体可塑剤を均一溶解した後、水/メタノール混合溶液やジエチルエーテルなど適当な貧溶媒を滴下する。あるいは、大過剰の貧溶媒中に良溶媒溶液を加えるなどして沈殿させ、遠心分離あるいはろ過などにより沈殿物を分離した後に溶媒を揮散させる。ブロック共重合体可塑剤を水に浸漬後50〜90℃に加熱し必要に応じて攪拌の後、ブロック共重合体可塑剤を含有する有機相を抽出し乾燥して水を除去する。精製方法は上記に限られず、また、必要に応じて上記の操作を複数回繰り返しても良い。ラクチドオリゴマーなどの副生成物等を除去することは、ポリ乳酸系樹脂組成物とした時に低粘度化することを防ぐことができ、該組成物の溶融粘度を適度なレベルとし、加工を安定させることができるためにも好ましい。
【0070】
上記した方法で、PLA(A)−PEG(B)−PLA(A)型のブロック共重合体の可塑剤を作成した場合、作成した可塑剤が有する一つのポリ乳酸セグメントの分子量は、次の方法で求めることができる。すなわち、ブロック共重合体可塑剤の重クロロホルム溶液を用いて、H−NMR測定により得られたチャートを基に、{IPLA×(ポリ乳酸モノマー単位の分子量)/(ポリ乳酸セグメントの数)}/{IPEG×(PEGモノマー単位の分子量)/(化学的に等価なプロトンの数)}×MPEGに従って算出することができる。つまり、PLA(A)−PEG(B)−PLA(A)型のブロック共重合体の可塑剤を作成した場合は、{IPLA×72/2}/{IPEG×44/4}×MPEGである。ただし、IPEGは、PEG主鎖部のメチレン基の水素に由来するシグナル積分強度、IPLAは、PLA主鎖部のメチン基の水素に由来するシグナル積分強度である。ブロック共重合体可塑剤合成時のラクチドの反応率が十分に高く、ほぼ全てのラクチドがPEG末端部に開環付加する条件にて合成した場合は、多くの場合、H−NMR測定により得られたチャートを基にした上記方法により、可塑剤が有する一つのポリ乳酸セグメントの分子量を求めることが好ましい。
【0071】
本発明においてポリ乳酸系樹脂と可塑剤や、脂肪族芳香族ポリエステル、あるいはその他の成分を含有する組成物(本発明のポリ乳酸系フィルムを構成する組成物)を得るにあたっては、各成分を溶媒に溶かした溶液を均一混合した後、溶媒を除去して組成物を製造することも可能であるが、溶媒へ原料の溶解、溶媒除去等の工程が不要で、実用的な製造方法である、各成分を溶融混練することにより組成物を製造する溶融混練法を採用することが好ましい。その溶融混練方法については、特に制限はなく、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、単軸または二軸押出機等の通常使用されている公知の混合機を用いることができる。中でも生産性の観点から、単軸または二軸押出機の使用が好ましい。
【0072】
またその混合順序についても特に制限はなく、例えばポリ乳酸系樹脂と可塑剤をドライブレンド後、溶融混練機に供する方法や、予めポリ乳酸系樹脂と可塑剤を溶融混練したマスターバッチを作製後、該マスターバッチとポリ乳酸系樹脂や前述のその他の成分を溶融混練する方法等が挙げられる。また必要に応じて、その他の成分を同時に溶融混練する方法や、予めポリ乳酸系樹脂とその他の添加剤を溶融混練したマスターバッチを作製後、該マスターバッチとポリ乳酸系樹脂と可塑剤成分とを溶融混練する方法を用いてもよい。また、常温で液状の可塑剤などの成分を添加する際は、常温で固体状の成分とは別に、定量ポンプを用いて押出機の原料供給孔ベント孔から添加することもできる。
【0073】
溶融混練時の温度は150℃〜240℃の範囲が好ましく、ポリ乳酸系樹脂の劣化を防ぐ意味から、200℃〜220℃の範囲とすることがより好ましい。
【0074】
本発明のポリ乳酸系フィルムは、例えば上記した方法により得られた組成物を用いて、公知のインフレーション法、Tダイキャスト法、Tダイキャスト後2軸延伸する方法などの既存のフィルムの製造法により得ることが出来る。
【0075】
本発明のポリ乳酸系フィルムを製造するにあたっては、例えば前述した方法により得られた組成物を一旦チップ化し、再度溶融混練して押出・製膜する際には、チップを60〜110℃にて6時間以上乾燥するなどして、組成物の水分量を1200ppm以下とすることが好ましい。さらに、真空度10Torr以下の高真空下で真空乾燥をすることで、組成物中のラクチド含有量を低減させることが好ましい。組成物の水分量を1200ppm以下、ラクチド含有量を低減することで、溶融混練中の加水分解を防ぎ、それにより分子量低下を防ぐことができ、溶融粘度を適度なレベルとし、製膜工程を安定させることができるためにも好ましい。また、同様の観点から、一旦チップ化、あるいは溶融押出・製膜する際には、ベント孔付きの2軸押出機を使用し、水分や低分子量物などの揮発物を除去しながら溶融押出することが好ましい。
【0076】
本発明のポリ乳酸系フィルムを製造する方法としてはインフレーション法が好ましい。インフレーション法により製造する場合、分子配向を抑制し易くマルチフィルムの実用性に必要な伸度、いわゆる伸び易さを付与し易い。併せて、配向結晶化も抑制し易いため、本発明のポリ乳酸系フィルムの特徴である、常温でも適度の潜在的な収縮応力を有するフィルムとし易い。インフレーション法により製造する場合は、例えば、前述のような方法により調整した組成物をベント孔付き2軸押出機にて溶融押出して環状ダイスに導き、環状ダイスから押出して内部には乾燥エアーを供給して風船状(バブル)に形成し、さらにエアーリングにより均一に空冷固化させ、ニップロールでフラットに折りたたみながら所定の引き取り速度で引き取った後、必要に応じて両端、または片方の端を切り開いて巻き取れば良い。
【0077】
この場合、環状ダイスからの吐出量とニップロールの引き取り速度、バブルのブロー比により、通常厚さが10μm以上120μm以下となるように調整すれば良いが、厚み精度、均一性を高めるためには、環状ダイスはスパイラル型を用いるのが良い。
【0078】
また、ポリ乳酸系樹脂等を含有する組成物の押出温度は通常150〜240℃の範囲であるが、厚み精度、均一性を高め、さらには、良好なロール巻姿や巻出し性を付与するためには環状ダイスの温度が重要であり、環状ダイスの温度は150〜190℃、好ましくは、150〜170℃の範囲である。環状ダイスの温度が150℃未満では組成物がダイス押し出された温度が低すぎて吐出直後のブローアップ時の成形挙動が不均一になって厚み精度が悪化し巻き姿が不良となったり、ブローアップ時の応力が高くなり過ぎてフィルムとした際には熱収縮率が高く経時でのいわゆる巻き締まりによりさらに巻き姿が悪化し易い。また、環状ダイスの温度が190℃を越えると組成物の粘度が低過ぎて厚み精度が悪化し巻き姿が不良となったり、さらにはバブルの形成そのものが不安定になり易い。同様の観点から、環状ダイスの温度は、160〜170℃がより好ましい。
【0079】
バブルのブロー比は、吐出量とニップロールの引き取り速度との関係にもよるが、低過ぎても高過ぎてもフィルムに異方性を生じ過ぎる場合があり、また、特に高過ぎる場合にはバブルが不安定となり易く、通常2.0〜4.0の範囲とすることが好ましい。
【実施例】
【0080】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
[測定及び評価方法]
(1)ポリ乳酸系樹脂の分子量分布における分子量ピークの極大値
検出器にWATERS社示差屈折計WATERS410を用い、ポンプにMODEL510高速液体クロマトグラフィーを用い、カラムにShodexGPC HFIP−806MとShodex GPC HFIP−LGを直列に接続したものを用いてGPC測定を行い、標準ポリスチレン換算によって得られた分子量分布から、分子量ピークの極大値を得た。測定条件は、流速0.5mL/minとし、溶媒であるクロロホルムにフィルムを溶解させ不溶物を除去したものを溶液として用い、試料濃度1mg/mLの溶液を0.1mL注入した。
(2)ポリ乳酸系樹脂の分子量10万以上の成分量(質量%)
上記分子量ピークの極大値を得た方法と同様の方法によって得られた分子量分布から、分子量3,000以下の領域を除外し、分子量3,000を超える領域のチャート面積のうち、分子量10万以上のチャート面積の割合を算出して、ポリ乳酸系樹脂の分子量10万以上の成分量(質量%)とした。
(3)ポリ乳酸系樹脂の分子量10万未満の成分量(質量%)
上記分子量ピークの極大値を得た方法と同様の方法によって得られた分子量分布から、分子量3,000以下の領域を除外し、分子量3,000を超える領域のチャート面積のうち、分子量10万未満のチャート面積の割合を算出して、ポリ乳酸系樹脂の分子量10万未満の成分量(質量%)とした。
(4)フィルム厚み(μm)
JIS B7503に従い、ダイヤルゲージを用いて10点の厚みを測定し、平均厚みをフィルム厚みとした。
(5)展張性
農業用マルチフィルム用途として展張性を確認する場合は、長野県の圃場(土壌タイプ:表層腐食質黒ボク土、気温:10℃)にてマルチャー付きのトタクターを用いて、畝立てと同時に展張を実施し、畝の形状は畝幅60cm、畝高35cm程の断面が半円状の畝とした。50mの展張を行い、下記基準にて展張性を判定した。なお、展張テストを行った圃場はやや粘土質で、直径3cm以上の比較的固い土塊を多数含んでいた。
【0081】
また、松食い虫薫蒸用シート用途として展張性を確認する場合は、福島県の松の伐採地にて、1mの長さに切り揃えた木材30本を、高さ1m、幅3mに積み上げ、これを気温5℃の雰囲気下で被覆して、下記基準にて展張性を判定した。
○:展張の際は破れることはなく、問題なく展張できる。
△:展張の際に2回以下の頻度で一部破れるが、実用面では問題ない。
×:○又は△に該当しない。
(6)生分解性
上記の展張性の確認と同様の展張を行い、下記基準にて生分解性を判定した。
○:展張後、農業用マルチフィルム用途としては3ヶ月、松食い虫薫蒸用シート用途としては2週間の期間はフィルムの形態を維持しており、さらに、展張から1年経過した時点で、フィルムが十分に分解されて、畑土(農業用マルチフィルム用途)または木材(松食い虫薫蒸用シート用途)が露出する。
△:展張後、農業用マルチフィルム用途としては3ヶ月、松食い虫薫蒸用シート用途としては2週間の期間に3カ所以下の箇所で穴あきが発生するが、実用面では問題ない。または、展張から1年経過した時点で、完全に分解していないフィルム片(いずれも20cm未満)が周囲に散乱しているが、畑土(農業用マルチフィルム用途)または木材(松食い虫薫蒸用シート用途)は十分に露出しており、実用面では問題ない。
×:展張後、農業用マルチフィルム用途としては3ヶ月、松食い虫薫蒸用シート用途としては2週間の期間に、フィルムが破断するなどしてフィルムの形態を維持できない、または4カ所以上の箇所で穴あきが発生し該用途として実用的でない。または、展張から1年経過した時点で、分解していないフィルム片(いずれも20cm以上)が周囲に散乱して景観が悪い、または畑土(農業用マルチフィルム用途)/木材(松食い虫薫蒸用シート用途)が十分に露出せず、該用途として実用的でない。
(7)製造性
フィルムを製造する際の製造性について、下記基準にて判定した。
○:バブルが不安定となることはなく、安定した製造が可能である。
△:1cm以下のフィルム幅変動が確認されるが、安定した製造が可能である。
×:バブルが不安定になるなどして、フィルム幅が変動し、安定した製造ができない。
(8)総合評価
展張性、生分解性、製造性の判定結果から、下記基準にて判定した。
○:すべての項目において判定が「○」であり、農業用マルチフィルム用途、または松食い虫薫蒸用シート用途として、好ましく用いることができる。
△:1項目、または2項目において判定が「△」であるが、その他の項目の判定は「○」であり、農業用マルチフィルム用途、または松食い虫薫蒸用シート用途として、実用面では問題ない。
×:すべての項目において「△」の判定である、または1項目以上の項目で判定が「×」であり、農業用マルチフィルム用途、または松食い虫薫蒸用シート用途としての使用が困難である。
[使用したポリ乳酸系樹脂]
(1)PL1
ポリ乳酸(NatureWorks社製、商品名「NatureWorks4060D」(重量平均分子量:18万、L体/D体:88/12))
(2)PL2
ポリ乳酸(NatureWorks社製、商品名「NatureWorks4042D」(重量平均分子量:18万、L体/D体:96/4))
(3)PL3
ポリ乳酸系シート(東レ社製、商品名「エコディア#1000 1F01CA」(ポリ乳酸含有量:≧98%)を、シート粉砕機(大達精工場社製、商品名「SW Series 粉砕機 SW−450」)にて粉砕して、ポリ乳酸系樹脂PL3得た。(重量平均分子量:13万)
(4)PL4
上記PL3をベント孔付き単軸押出機(東芝機械社製、商品名「SE−50CV」、加工条件:200℃)にて溶融押出し、ダイヘッドから押し出されたストランドを水槽(20℃)に投入して冷却固化し、長さ2mmにカットして、ポリ乳酸系樹脂PL4を得た。(重量平均分子量:9万)
(5)PL5
上記PL3を造粒機(富士鋼業社製、商品名「フジ・カールペレタイザー 33−390」、加工条件:ダイス温度90℃、ペレット温度70℃)にて造粒して、ポリ乳酸系樹脂PL5を得た。(重量平均分子量:11万)
(6)PL6
ポリ乳酸(NatureWorks社製、商品名「NatureWorks4032D」(重量平均分子量:18万、L体/D体:99/1))
[使用した副成分]
(1)PBAT
ポリブチレンテレフタレート・アジペート(BASF社製、商品名「ECOFLEX」)
(2)PBSA
ポリブチレンサクシネート・アジペート(昭和高分子社製、商品名「ビオノーレ #3001」)
(3)PBS
ポリブチレンサクシネート(三菱化学社製、商品名「GS−Pla AZ91TN」)
(4)DO
変性ポリオレフィン(三井化学社製、商品名「アドマー SF731」)
[使用した可塑剤]
(1)PS1
数平均分子量8,000のポリエチレングリコール62質量部とL−ラクチド38質量部とオクチル酸スズ0.1質量部を混合し、窒素雰囲気下160℃で3時間重合することで、ポリエチレングリコールの両末端に数平均分子量2,500のポリ乳酸セグメントを有する可塑剤PS1を得た。
(2)PS2
数平均分子量4,000のポリエチレングリコール31質量部とL−ラクチド69質量部とオクチル酸スズ0.1質量部を混合し、窒素雰囲気下160℃で3時間重合することで、ポリエチレングリコールの両末端に数平均分子量5,000のポリ乳酸セグメントを有する可塑剤PS2を得た。
(3)PS3
クエン酸アセチルトリブチル(森村商事社製、商品名「シトロフレックスA−4」)
(4)PS4
ポリエチレングリコール(三洋化成工業製、商品名「PEG−10000」)
[使用した添加剤]
(1)SL
ステアリン酸アミド(日本油脂社製、商品名「アルフローS−10」)
(2)PT1
炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製、商品名「カルテックスR」)
(3)PT2
タルク(日本タルク社製、商品名「SG−95」)
(4)CB
カーボンブラック(三菱化学社製、商品名「三菱カーボンブラック#30」
(5)IO
酸化第二鉄(尾関社製、商品名「バイフェロックス686G」)
[ポリ乳酸系フィルムの作成]
(実施例1)
ポリ乳酸PL1を28.6質量%、ポリ乳酸PL2を7.1質量%、ポリ乳酸系樹脂PL3を35.7質量%、可塑剤PS1を24.3質量%、添加剤SLを1.4質量%、添加剤PT1を2.9質量%の混合物をシリンダー温度190℃のスクリュー径44mmの真空ベント付き二軸押出機に供し、真空ベント部を脱気しながら溶融混練し均質化した後にチップ化した組成物1を得た。
【0082】
この組成物1を温度100℃、露点−25℃の除湿熱風にて10時間乾燥した後、組成物1を70質量%、副成分PBATを30質量%の混合物として最終的に表1に示す組成物とし、押出機シリンダー温度190℃のスクリュー径65mmの一軸押出機に供給し、直径250mm、リップクリアランス1.3mm、温度165℃のスパイラル型環状ダイスより、ブロー比:3.4にてバブル状に上向きに押出し、冷却リングにより空冷し、ダイス上方のニップロールで折りたたみながら30m/分にて引き取り、両端部をエッジカッターにて切断して2枚に切り開き、それぞれ幅1350mmのフィルムをワインダーにて巻き取った。吐出量の調整により最終厚みが20μmのフィルムとし、得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【0083】
得られた本発明のポリ乳酸系フィルムは、安定した製造が可能で、また、農業用マルチフィルム用途として用いたとき、展張性、生分解性の面で優れた特性を示すものであり、農業用マルチフィルムとして好ましく用いることのできるフィルムであった。
(実施例2)
ポリ乳酸PL1を41.7質量%、ポリ乳酸系樹脂PL3を50質量%、添加剤SLを1.7質量%、添加剤PT2を3.3質量%、添加剤CBを3.3質量%の混合物を実施例1と同様の方法によりチップ化し、組成物2を得た。この組成物2を実施例1と同様の方法により乾燥し、組成物2を60質量%、副成分PBSAを40質量%の混合物として最終的に表1に示す組成物とし、実施例1と同様の方法により、最終厚み25μmのフィルムとし、得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【0084】
得られた本発明のポリ乳酸系フィルムは、安定した製造が可能で、また、農業用マルチフィルム用途として用いたとき、展張性の面で優れた特性を示すものであった。生分解性の面では分解が遅れることがあったが、実用面では問題ないレベルであり、農業用マルチフィルムとして十分に用いることのできるフィルムであった。
(実施例3)
ポリ乳酸PL1を61.4質量%、ポリ乳酸系樹脂PL4を9.8質量%、可塑剤PS1を24.3質量%、添加剤PT1を4.3質量%、添加剤IOを0.2質量%の混合物を実施例1と同様の方法によりチップ化し、組成物3を得た。この組成物3を実施例1と同様の方法により乾燥し、組成物3を70質量%、副成分PBSを30質量%の混合物として最終的に表1に示す組成物とし、直径300mm、リップクリアランス1.5mm、温度165℃のスパイラル型環状ダイスより、ブロー比:4.25にてバブル状に上向きに押出し、冷却リングにより空冷し、ダイス上方のニップロールで折りたたみながら7m/分にて引き取り、片方の端部をエッジカッターにて切断して幅4000mmのフィルムを幅2000mmに折り畳まれた状態でワインダーにて巻き取ったこと以外は実施例1と同様の方法により、最終厚み120μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【0085】
得られた本発明のポリ乳酸系フィルムは、安定した製造が可能で、また、松食い虫薫蒸シート用途として用いたとき、展張性の面で優れた特性を示すものであった。生分解性の面では分解が遅れることがあったが、実用面では問題ないレベルであり、松食い虫薫蒸シートとして十分に用いることのできるフィルムであった。
(実施例4)
ポリ乳酸PL1を20質量%、ポリ乳酸系樹脂PL5を69.8質量%、可塑剤PS1を5質量%、添加剤PT2を5質量%、添加剤IOを0.2質量%の混合物を実施例1と同様の方法によりチップ化し、組成物4を得た。この組成物4を実施例1と同様の方法により乾燥し、組成物3を60質量%、副成分PBATを40質量%の混合物として最終的に表1に示す組成物とし、実施例3と同様の方法により、最終厚み100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【0086】
得られた本発明のポリ乳酸系フィルムは、安定した製造が可能で、また、松食い虫薫蒸シート用途として用いたとき、展張性、生分解性の面で優れた特性を示すものであり、松食い虫薫蒸シートとして好ましく用いることのできるフィルムであった。
(実施例5)
表1に示す組成の混合物を、押出機シリンダー温度190℃のスクリュー径65mmのベント孔付き二軸押出機に直接供給したこと以外は実施例1と同様の方法により、最終厚み20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【0087】
得られた本発明のポリ乳酸系フィルムは、製造時において1cm以下のフィルム幅変動が生じるが、実質的には安定した製造が可能で、また、農業用マルチフィルム用途として用いたとき、生分解性の面で優れた特性を示すものであった。展張性の面では、50mの展張の際に2回以下の頻度で一部破れることがあるが、実用面では問題ないレベルであり、農業用マルチフィルムとして十分に用いることのできるフィルムであった。
(実施例6)
表1に示す組成の混合物を用いたこと以外は実施例5と同様の方法により、最終厚み15μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【0088】
得られた本発明のポリ乳酸系フィルムは、安定した製造が可能で、また、農業用マルチフィルム用途として用いたとき、生分解性の面で優れた特性を示すものであった。展張性の面では、50mの展張の際に2回以下の頻度で一部破れることがあるが、実用面では問題ないレベルであり、農業用マルチフィルムとして十分に用いることのできるフィルムであった。
(実施例7)
表1に示す組成の混合物を、押出機シリンダー温度190℃のスクリュー径65mmのベント孔付き二軸押出機に直接供給したこと以外は実施例3と同様の方法により、最終厚み100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【0089】
得られた本発明のポリ乳酸系フィルムは、安定した製造が可能で、また、松食い虫薫蒸シート用途として用いたとき、展張性の面では、1mの長さに切り揃えた木材30本を、高さ1m、幅3mに積み上げた木材を被覆するときに2回以下の頻度で一部破れることがあるが、実用面では問題ないレベルであり、生分解性の面では、展張から1年経過した時点で、完全に分解していないフィルム片(いずれも20cm未満)が周囲に散乱しているが、木材は十分に露出しており、実用面では問題ないレベルであり、松食い虫薫蒸シートとして十分に用いることのできるフィルムであった。
(実施例8)
表1に示す組成の混合物を用いたこと以外は実施例7と同様の方法により、最終厚み100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【0090】
得られた本発明のポリ乳酸系フィルムは、安定した製造が可能で、また、松食い虫薫蒸シート用途として用いたとき、展張性、生分解性の面で優れた特性を示すものであり、松食い虫薫蒸シートとして好ましく用いることのできるフィルムであった。
(比較例1)
ポリ乳酸PL1(100質量%)を用いて、実施例1と同様の方法により、最終厚み20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に示した。
【0091】
得られたポリ乳酸系フィルムを農業用マルチフィルム用途として用いたとき、展張から1年経過した時点でも分解せず、畑土が露出しないものであったため、農業用マルチフィルムとして用いることはできなかった。
(比較例2)
表2に示す組成の混合物を用いたこと以外は実施例5と同様の方法により、最終厚み20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に示した。
【0092】
得られたポリ乳酸系フィルムを農業用マルチフィルム用途として用いたとき、展張から1年経過した時点で、分解していないフィルム片(いずれも20cm以上)が周囲に散乱して景観が悪く、また、畑土が十分に露出しないものであったため、農業用マルチフィルムとして用いることはできなかった。
(比較例3)
表2に示す組成の混合物を用いたこと以外は実施例7と同様の方法により、最終厚み100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に示した。
【0093】
得られたポリ乳酸系フィルムを松食い虫薫蒸シート用途として用いたとき、展張から1年経過した時点でも分解せず、木材が露出しないものであったため、松食い虫薫蒸シートとして用いることはできなかった。
(比較例4)
表2に示す組成の混合物を用いたこと以外は実施例5と同様の方法により、最終厚み20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に示した。
得られたポリ乳酸系フィルムは、製造時において1cm以下のフィルム幅変動が生じ、また、得られたポリ乳酸系フィルムを農業用マルチフィルム用途として用いたとき、展張性の面では、50mの展張の際に2回以下の頻度で一部破れることがあり、さらに、生分解性の面では、展張後3ヶ月で3カ所の位置に穴あきが発生した。これらの実用性評価から、得られたポリ乳酸系フィルムは、農業用マルチフィルム用途として実用的に用いることはできないものであった。
(比較例5)
表2に示す組成の混合物を用いたこと以外は実施例5と同様の方法により、最終厚み20μmのフィルムを得ようとしたが、バブルが不安定になるなどして、フィルム幅が変動し、安定した製造ができなかった。
(比較例6)
表2に示す組成の混合物を用いたこと以外は実施例7と同様の方法により、最終厚み20μmのフィルムを得ようとしたが、バブルが不安定になるなどして、フィルム幅が変動し、安定した製造ができなかった。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂を含む組成物からなるフィルムであって、
前記組成物は、組成物の全成分100質量%において、ポリ乳酸系樹脂を30質量%以上含有し、
前記ポリ乳酸系樹脂が、その分子量分布において、分子量10万以上の領域に少なくとも1つの分子量ピークの極大値を有し、かつ、分子量10万未満の領域に少なくとも1つの分子量ピークの極大値を有するものであることを特徴とする、ポリ乳酸系フィルム。
【請求項2】
前記ポリ乳酸系樹脂100質量%において、その分子量分布における分子量10万以上のポリ乳酸系樹脂を30質量%以上95質量%以下含み、かつ該分子量分布における分子量10万未満のポリ乳酸系樹脂を5質量%以上70質量%以下含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項3】
前記組成物の全成分100質量%において、副成分を5質量%以上45質量%以下含み、
前記副成分が、脂肪族芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、及びポリオレフィンからなる群より選ばれる少なくとも一種類の樹脂であることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項4】
前記副成分が、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、及びポリブチレンテレフタレート・アジペートからなる群より選ばれる少なくとも一種類の樹脂であることを特徴とする、請求項3に記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項5】
前記組成物の全成分100質量%において、可塑剤を5質量%以上30質量%以下含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項6】
前記ポリ乳酸系樹脂の分子量分布における分子量10万未満の領域にある少なくとも1つのピークの極大値が、リサイクルされたポリ乳酸系樹脂に由来することを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のフィルムからなる農業用マルチフィルム。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載のフィルムからなる松食い虫薫蒸用シート。

【公開番号】特開2012−177045(P2012−177045A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41402(P2011−41402)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】