説明

ポリ乳酸系ブロック共重合体

【課題】生分解性、安全性、結晶性など従来のポリ乳酸系ポリマーが有する特性を有しつつ、耐熱性、耐衝撃性、柔軟性がより改善された新規なポリ乳酸系ポリマーを提供する。
【解決手段】脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントの両端に、D−乳酸単位からなるセグメントを介してL−乳酸単位からなるセグメントをそれぞれ有する、ポリ乳酸系ブロック共重合体、ならびに、脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントの両端に、L−乳酸単位からなるセグメントを介してD−乳酸単位からなるセグメントをそれぞれ有する、ポリ乳酸系ブロック共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系ブロック共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在汎用されている高分子材料の多くは石油資源に依存しているが、資源枯渇、または自然環境保護の観点から、生分解性を有する再生可能な生体由来のプラスチックとして、ポリ乳酸系ポリマーが注目されつつある。ポリ乳酸系ポリマーは、融点が170℃前後と比較的高く、しかも透明性に優れるため、包装材料その他の透明性を生かしたプラスチック成形品などに実用化されてきている。またポリ乳酸系ポリマーは、その射出成形品は硬くて脆いが、延伸により分子配向させた繊維、フィルムは十分な強度を有するため、上述したようなそれほど機械的強度を必要としない製品のほか、長期の寿命と高性能が要求される自動車、家電製品などのエンジニアリング用途にも展開されている。
【0003】
このようなポリ乳酸系ポリマーの1つとして、たとえば特開平9−40761号公報(特許文献1)には、ポリL−乳酸またはポリD−乳酸の実質的ホモポリマーからなる結晶性セグメント(A)と、L−乳酸およびD−乳酸を主成分とする非晶性セグメント(B)とが結合されてなるポリ乳酸ブロック共重合体が開示されている。特許文献1には、このようなポリ乳酸ブロック共重合体は、結晶性、耐熱性、柔軟性および靭性に優れると記載されている。
【0004】
また、鏡像異性体であるポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを物理的に混合することで、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸とは全く異なる結晶構造を有し、耐熱性が改善されたステレオコンプレックス体が得られることが知られており、近年では、このポリ乳酸を用いたステレオコンプレックス体について改良が重ねられてきている。
【0005】
たとえば特開2005−187626号公報(特許文献2)には、L−乳酸セグメントD−乳酸セグメントとを含むポリ乳酸ステレオブロック共重合体、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とを混合し、当該混合物にステレオコンプレックス形成させる、ポリ乳酸ステレオコンプレックス体の製造方法が開示されている。特許文献2には、当該製造方法によって、原料化合物として、D−乳酸とL−乳酸のみを使用して、機械的強度、耐熱性、熱安定性に優れ、かつ、透明性に優れ、低刺激で安全性、生分解性に優れるポリ乳酸ステレオコンプレックス体を製造することができたことが開示されている。
【0006】
また、たとえば特開2007−100104号公報(特許文献3)には、L−乳酸単位からなるセグメントと、D−乳酸単位からなるセグメントにより構成され、融点が200℃以上であり、ポリ乳酸ブロック共重合体の重量平均分子量Xおよびセグメント1単位の最大重量平均分子量Yについて、Y<X/2を満たすようなセグメント長である乳酸ブロック共重合体が開示されている。特許文献3によれば、当該ポリブロック共重合体は、熱溶融履歴に関わらず、高融点を保持でき、さらに結晶化速度が速くなるポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成するものであると記載されている。
【特許文献1】特開平9−40761号公報
【特許文献2】特開2005−187626号公報
【特許文献3】特開2007−100104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、生分解性、安全性、結晶性など従来のポリ乳酸系ポリマーが有する特
性を有しつつも、耐熱性、耐衝撃性、柔軟性がより改善された新規なポリ乳酸系ポリマーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントの両端に、D−乳酸単位からなるセグメントを介してL−乳酸単位からなるセグメントをそれぞれ有することを特徴とする。
【0009】
また本発明は、脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントの両端に、L−乳酸単位からなるセグメントを介してD−乳酸単位からなるセグメントをそれぞれ有する、ポリ乳酸系ブロック共重合体についても提供する。
【0010】
本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、L−乳酸単位からなるセグメントとD−乳酸単位からなるセグメントとの比率が1:0.2〜5であることが、好ましい。
【0011】
また本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、L−乳酸単位からなるセグメントおよびD−乳酸単位からなるセグメントの合計量に対する脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントの比率が1:0.1〜3であることが好ましい。
【0012】
本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体はまた、脂肪族カーボネート単位が1,6−ヘキサンジオール残基からなるポリカーボネートジオールであることが、好ましい。
【0013】
本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体における脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントはまた、数平均分子量が2000以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生分解性、安全性、結晶性など従来のポリ乳酸系ポリマーが有する特性を有しつつも、耐熱性、耐衝撃性、柔軟性がより改善された新規なポリ乳酸系ポリマーとしてポリ乳酸系ブロック共重合体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメント(本明細書中において「Cセグメント」と称する。)の両端に、D−乳酸単位からなるセグメント(本明細書中において「Bセグメント」と称する。)を介してL−乳酸単位からなるセグメント(本明細書中において「Aセグメント」と称する。)をそれぞれ有することを特徴とする(本明細書中において、当該共重合体を「A−B−C−B−Aブロック共重合体」と称する)。また本発明は、脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメント(Cセグメント)の両端に、L−乳酸単位からなるセグメント(Aセグメント)を介してD−乳酸単位からなるセグメント(Bセグメント)をそれぞれ有することを特徴とするポリ乳酸系共重合体についても提供する(本明細書中において、当該共重合体を「B−A−C−A−Bブロック共重合体」と称する)。
【0016】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体は、後述する実験例で明らかにされるように、A−C−Aブロック共重合体、B−C−Bブロック共重合体単独の場合などと比較して、高い190〜230℃の融点(Tm)を有し、従来のポリ乳酸系ポリマーよりも耐熱性が改善されたものである。このような本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体は、新規なポリ乳酸系ポリマーとして、長期の寿命と高性能が要求される自動車、家電製品などのエンジニアリング用途に適用が期待される。
【0017】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体におけるL−乳酸単位からなるセグメントであるAセグメントは、L−乳酸の2以上の重合体である。Aセグメントを構成するL−乳酸は、光学純度が95%ee(enantio excess)以上であることが好ましく、99%ee以上であることがより好ましい。Aセグメントを構成するL−乳酸の光学純度が95%ee未満である場合には、ポリ乳酸の結晶性が低く、融点が低下する傾向にあるためである。なお、当該光学純度は、たとえば光学分割のカラムを用いたHPLC(High Performance Liquid Chromatography)法により測定された値を指す。
【0018】
また本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体におけるD−乳酸単位からなるセグメントであるBセグメントは、D−乳酸の2以上の重合体である。Bセグメントを構成するD−乳酸は、光学純度が95%ee以上であることが好ましく、99%ee以上であることがより好ましい。Bセグメントを構成するD−乳酸の光学純度が95%ee未満である場合にはポリ乳酸の結晶性が低く、融点が低下する傾向にあるためである。D−乳酸の光学純度は、上述したL−乳酸の光学純度と同様の方法で測定された値を指す。
【0019】
一般に、ポリ乳酸は、乳酸の直接重合(脱水縮合)、乳酸エステル(メチルエステル、エチルエステルなど)の縮合(脱アルコール)、および乳酸の環状2量体であるラクチドの開環重合によって重合される。中でも、乳酸の直接重合(脱水重合)、乳酸エステルの縮合法では、ランダム共重合が起こりやすく、ブロック共重合は極めて困難であることが多いため、本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体におけるAセグメント、Bセグメントは、それぞれ、L−乳酸の2量体であるLL−ラクチド(L−ラクチド)またはD−乳酸の2量体であるDD−ラクチド(D−ラクチド)の開環重合によって得ることが好ましい。
【0020】
また、本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体における脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントであるCセグメントは、脂肪族ジオールの2以上の重合体を含む。ここで、脂肪族カーボネートとしては、主として炭素数2〜12の脂肪族ジオール残基からなるものであることが好ましい。これらの脂肪族ジオールとしてはたとえばエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオールなどが挙げられるが、中でも融点が低く、かつ、ガラス転移温度が低いことから、1,6−ヘキサンジオールからなる脂肪族ポリカーボネートジオールが好ましい。なお、本発明におけるCセグメントには、2種以上の脂肪族カーボネート単位が含まれていても勿論よい。
【0021】
本発明におけるCセグメントは、上述した脂肪族カーボネート単位を主として含むのであれば、脂肪族カーボネート単位以外の成分が共重合されたものであってもよい。なお、「脂肪族カーボネート単位を主として含む」とは、Cセグメントの70重量%以上(好適には90重量%以上)が脂肪族カーボネート単位であることを指す。Cセグメントに他の成分を共重合させる目的としては、親水性、撥水性、染色性、酸化防止性、柔軟性、弾性回復性、耐衝撃性、耐熱性、ガスバリア性、ガラス転移温度、分解性、平滑性、離型性、成型性などの改良、コストダウンなどが挙げられる。
【0022】
脂肪族カーボネート単位に共重合可能な成分としては、たとえば(1)グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシ酸、(2)グリコリド、ブチロラクトン、カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン、(3)エチレングリコール
、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ダイマージオール、水添ダイマージオールなどの炭素数2〜20のポリカーボネートジオール以外のジオール、(4)コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、スルホイソフタル酸(アルカリ金属塩)、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸など脂肪酸および芳香族ジカルボン酸、さらに分子末端に水酸基を有するポリマーまたはオリゴマーとして、(5)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレンエーテルおよびそれらの共重合体、オリゴマー、(6)ジメチルシロキサン、ジエチルシロキサン、ジフェニルシロキサンなどのポリオルガノシロキサンなどが挙げられる。
【0023】
たとえば、親水性、分解性の改良には、スルホン基、エーテル結合を持つもの、撥水性改良にはシリコン化合物、柔軟性、靭性などの改良にはガラス転移点が常温以下の化合物(ポリアルキレンラクタム、ポリアルキレンアルキレート、ポリアルキレンエーテル、ポリアルキレンカーボネートなど)、耐熱性の改良にはガラス転移点が高いもの(芳香族化合物など)の共重合が効果的である。
【0024】
また本発明におけるCセグメントは、数平均分子量(Mn)が2000以上であることが好ましい。Cセグメントの数平均分子量が2000以上であることで、柔軟性に優れたA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体を実現することができるためである。なお、Cセグメントの数平均分子量は、大きければ大きいほどよいが、好ましくは50000以下である。また、相溶性の観点からは、Cセグメントの数平均分子量は10000〜20000の範囲内であることがより好ましい。Cセグメントの数平均分子量は、たとえば500MHz 1H NMR(ARX500(Brucker社製))によって測定された積分値から算出した値を指す。
【0025】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体におけるAセグメントおよびBセグメントは、いわば、ハードセグメントであり、それが多いほど融点、軟化点が高く耐熱性に優れる。また逆に、本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体におけるCセグメントは、いわば、ソフトセグメントであり、Cセグメントが多いほど、柔軟性、耐衝撃性、弾性回復力などに優れる。
【0026】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体におけるAセグメントおよびBセグメントの合計量に対するCセグメントの比率は、特に制限されるものではないが、A−B−C−B−Aブロック共重合体の場合には、0.1〜3:1(質量比)の範囲内であることが好ましく、0.3〜2:1(質量比)の範囲内であることがより好ましい。またB−A−C−A−Bブロック共重合体の場合には、0.1〜3:1(質量比)の範囲内であることが好ましく、0.3〜2:1(質量比)の範囲内であることがより好ましい。Cセグメントに対するAセグメントおよびBセグメントの合計量の比率(質量比)が、A−B−C−B−Aブロック共重合体の場合で0.1未満、または、B−A−C−A−Bブロック共重合体の場合で0.1未満である場合には、結晶性が十分でない傾向にあるためであり、また、Cセグメントに対するAセグメントおよびBセグメントの合計量の比率(質量比)が、A−B−C−B−Aブロック共重合体の場合で3を超える、または、B−A−C−A−Bブロック共重合体の場合で3を超える場合には、柔軟性が十分でなくなる傾向にあるためである。なお、本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体におけるAセグメントおよびBセグメントの合計とCセグメントとの比率は、たとえば、500MHz 1H NMR(ARX500(Brucker社製))を用いた測定データから算出することができる。
【0027】
また本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重
合体におけるAセグメントとBセグメントとの比率についても特に制限されるものではないが、A−B−C−B−Aブロック共重合体の場合には、1:0.2〜5(質量比)の範囲内であることが好ましく、1:0.25〜4(質量比)の範囲内であることがより好ましい。またB−A−C−A−Bブロック共重合体の場合には、1:0.2〜5(質量比)の範囲内であることが好ましく、1:0.25〜4(質量比)の範囲内であることがより好ましい。Aセグメントに対するBセグメントの比率(質量比)が、A−B−C−B−Aブロック共重合体の場合で0.2未満、または、B−A−C−A−Bブロック共重合体の場合で0.2未満である場合には、ステレオコンプレックス結晶を完全に形成しにくい傾向にあるためであり、また、Aセグメントに対するBセグメントの比率(質量比)が、A−B−C−B−Aブロック共重合体の場合で5を超える、または、B−A−C−A−Bブロック共重合体の場合で5を超える場合には、ステレオコンプレックス結晶を完全に形成しにくい傾向にあるためである。なお、本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体におけるAセグメントとBセグメントとの比率も、上述したAセグメントおよびBセグメントの合計とCセグメントとの比率と同様に、500MHz 1H NMRを用いた測定データから算出することができる。
【0028】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体は、その全体の数平均分子量(Mn)は特に制限されないが、A−B−C−B−Aブロック共重合体については6000〜500000の範囲内であることが好ましく、15000〜200000の範囲内であることがより好ましい。またB−A−C−A−Bブロック共重合体については6000〜500000の範囲内であることが好ましく、15000〜200000の範囲内であることがより好ましい。A−B−C−B−Aブロック共重合体の全体の数平均分子量が6000未満、または、B−A−C−A−Bブロック共重合体の全体の数平均分子量が6000未満である場合には、十分な力学物性を発現しない傾向にあるためである。なお、A−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体の数平均分子量は、カラムにTSKgel SuperHZM− N(TOSOH社製)を2本連結し、示唆屈折率検出器にRID− 10A(SHIMADZU社製)を用いたGPC法により測定することができる。
【0029】
また、本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体は、分散度(PDI)も特には制限されないが、A−B−C−B−Aブロック共重合体については1.0〜3.0の範囲内であることが好ましい。またB−A−C−A−Bブロック共重合体については1.0〜3.0の範囲内であることが好ましい。A−B−C−B−Aブロック共重合体の分散度が3.0を超える、または、B−A−C−A−Bブロック共重合体の分散度が3.0を超える場合には、分子量分布が大きく、ポリマーの物性が均一でない傾向にあるためである。なお、A−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重体の分散度は、上述した数平均分子量と同様にGPC法により測定することができる。
【0030】
また本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体は、融点(Tm)が190〜230℃の範囲内であることが好ましい。また、本発明のB−A−C−A−Bブロック共重合体については、融点(Tm)が190〜230℃の範囲内であることが好ましい。A−B−C−B−Aブロック共重合体の融点が190℃未満、または、B−A−C−A−Bブロック共重合体の融点が190℃未満である場合には、ステレオコンプレックス体が完全に形成されていない傾向にあるためである。A−C−Aブロック共重合体の融点は、たとえばDSC−50(Shimadzu社製)を用い、10℃/分で昇温するDSC分析により測定することができる。
【0031】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体には、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常の添加剤、すなわち紫外線吸収剤、酸化
防止剤、熱安定剤、滑剤、離型剤、染料、顔料、抗菌・抗かび剤などが配合されていてもよい。
【0032】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体は、その製造方法については特に制限されるものではないが、たとえば下記反応スキームには、好適な例として、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(PHMC)にまずD−ラクチドを共重合させ、B−C−B(PDLA−PHMC−PDLA)ブロック共重合体を合成した後、さらにL−ラクチドを共重合させ、A−B−C−B−A(PLLA−PDLA−PHMC−PDLA−PLLA)ブロック共重合体を合成する例が示されている。なお、下記反応スキーム中、鏡像異性体は表示していない。必要に応じて、本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体に対して、たとえば、エステル結合、ウレタン結合、アミド結合などの当分野において従来より広く用いられている所謂「継ぎ手」構造を特に制限されることなく好適に採用することができる。
【0033】
【化1】

【0034】
この共重合反応の反応条件については特に制限されるものではないが、第1段階目、第2段階目の共重合反応共に、110〜160℃の範囲内で1〜4時間反応させる条件が好ましい。上記反応スキームでは、まず、120℃の条件で3時間、PHMCとD−ラクチドとを反応(第1段階目の共重合反応)させてB−C−B(PDLA−PHMC−PDLA)ブロック共重合体を製造し、さらに、120℃の条件で3時間、B−C−B(PDLA−PHMC−PDLA)ブロック共重合体とL−ラクチドとを反応(第2段階目の共重合反応)させて、A−B−C−B−A(PLLA−PDLA−PHMC−PDLA−PLLA)ブロック共重合体を製造する例を示している。本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体は、このような方法にて好適に製造され得る。なお、第2段階目の前に再沈殿による精製を行ってもよい。
【0035】
また本発明のB−A−C−A−Bブロック共重合体についても、その製造方法は特に制限されるものではないが、たとえば下記反応スキームに好適な例として示すように、ポリ
ヘキサメチレンカーボネートジオール(PHMC)にまずL−ラクチドを共重合させ、A−C−A(PLLA−PHMC−PLLA)ブロック共重合体を合成した後、さらにD−ラクチドを共重合させ、B−A−C−A−B(PDLA−PLLA−PHMC−PLLA−PDLA)ブロック共重合体を合成する例が示されている。なお、下記反応スキーム中、鏡像異性体は表示していない。
【0036】
【化2】

【0037】
この共重合反応の反応条件についても特に制限されるものではないが、第1段階目、第2段階目の共重合反応共に、110〜160℃の範囲内で1〜4時間反応させる条件が好ましい。上記反応スキームでは、まず、120℃の条件で3時間、PHMCとL−ラクチドとを反応(第1段階目の共重合反応)させてA−C−A(PLLA−PHMC−PLLA)ブロック共重合体を製造し、さらに、120℃の条件で3時間、A−C−A(PLLA−PHMC−PLLA)ブロック共重合体とD−ラクチドとを反応(第2段階目の共重合反応)させて、B−A−C−A−B(PDLA−PLLA−PHMC−PLLA−PDLA)ブロック共重合体を製造する例を示している。本発明のB−A−C−A−Bブロック共重合体は、このような方法にて好適に製造され得る。なお、第2段階目の前に再沈殿による精製を行ってもよい。
【0038】
以下に実験例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実験例に限定されるものではない。
【0039】
<実験例1>
数平均分子量(Mn)が2000Da(500MHz 1H NMR(ARX500(Brucker社製)により測定)のポリヘキサメチレンカーボネートジオール(PHMC)とジフェニルカーボネートとを反応させ、数平均分子量(Mn)が10000Da(500MHz 1H NMR(ARX500(Brucker社製)により測定)のPHMCを合成した。
【0040】
【化3】

【0041】
次に、下記の反応スキームに従って、数平均分子量(Mn)が10000DaのPHMCに、まずD−ラクチドを共重合させ、B−C−B(PDLA−PHMC−PDLA)ブロック共重合体を合成した後、さらにL−ラクチドを共重合させ、A−B−C−B−A(PLLA−PDLA−PHMC−PDLA−PLLA)ブロック共重合体を合成した。なお、下記反応スキーム中、鏡像異性は表示していない。なお、第2段階目の前に再沈殿による精製を行ってもよい。
【0042】
【化4】

【0043】
触媒としては0.2モル%のオクチル酸スズ(Sn(Oct)2)を用い、数平均分子量(Mn)が10000DaのPHMC1モルに対し、それぞれ69モル量のD−ラクチド、L−ラクチドを仕込み、120℃で3時間反応させ、サンプルPLLA−PDLA−
PHMC−PDLA−PLLA(5000−5000−10000−5000−5000)を合成した。なお、上記括弧書き内の数値は、各成分の数平均分子量(Mn)を示し、PHMCの数平均分子量(Mn)が10000であり、その両端のPDLA、さらにはその両端のPLLAの数平均分子量(Mn)がいずれも5000Daであることを示している。
【0044】
得られたサンプルは、PHMC単位のモル%が29重量%、収率が65重量%、数平均分子量(Mn)が27900Da、重量平均分子量(Mw)が44000Da、分散度(PDI)が1.6であった。なお、数平均分子量、重量平均分子量および分散度はそれぞれ、カラムにTSKgel SuperHZM− N(TOSOH社製)を2本連結し、示唆屈折率検出器にRID− 10A(SHIMADZU社製)を用いたGPCによって、算出された値を指す。
【0045】
ここで、図1は、本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体であるサンプルPLLA−PDLA−PHMC−PDLA−PLLA(5000−5000−10000−5000−5000)について、DSC−50(Shimadzu社製)を用いてDSC分析した結果を示すチャートであり、縦軸は熱流(mW)、横軸は温度(℃)を示している。なお、図1には、比較のために、A−C−Aブロック共重合体であるPLLA−PHMC−PLLA(5000−10000−5000)についてのDSC分析結果も併せて示している。また図2は、本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体であるサンプルPLLA−PDLA−PHMC−PDLA−PLLA(5000−5000−10000−5000−5000)についての500MHz 1H NMR(ARX500(Brucker社製))を用いた測定結果を示すチャートである。
【0046】
図1から、本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体は、A−C−Aブロック共重合体単独の場合よりも高い融点を有し(A−C−Aブロック共重合体は168℃であったのに対し、A−B−C−B−Aブロック共重合体は206℃)、熱安定性が改善されたものであることが分かる。このことは、本発明のB−A−C−A−Bブロック共重合体についても同様であると考えられる。このような本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体は、新規なポリ乳酸系ポリマーとして、長期の寿命と高性能が要求される自動車、家電製品などのエンジニアリング用途に適用が期待される。
【0047】
今回開示された実施の形態および実験例は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体であるサンプルPLLA−PDLA−PHMC−PDLA−PLLA(5000−5000−10000−5000−5000)についてのDSC分析結果を示すチャートである。
【図2】本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体であるサンプルPLLA−PDLA−PHMC−PDLA−PLLA(5000−5000−10000−5000−5000)についての500MHz 1H NMR測定結果を示すチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントの両端に、D−乳酸単位からなるセグメントを介してL−乳酸単位からなるセグメントをそれぞれ有する、ポリ乳酸系ブロック共重合体。
【請求項2】
脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントの両端に、L−乳酸単位からなるセグメントを介してD−乳酸単位からなるセグメントをそれぞれ有する、ポリ乳酸系ブロック共重合体。
【請求項3】
L−乳酸単位からなるセグメントとD−乳酸単位からなるセグメントとの比率が1:0.2〜5である、請求項1または2に記載のポリ乳酸系ブロック共重合体。
【請求項4】
L−乳酸単位からなるセグメントおよびD−乳酸単位からなるセグメントの合計量に対する脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントの比率が1:0.1〜3である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸系ブロック共重合体。
【請求項5】
脂肪族カーボネート単位が1,6−ヘキサンジオール残基からなるポリカーボネートジオールである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸系ブロック共重合体。
【請求項6】
脂肪族脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントの数平均分子量が2000以上である、請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸系ブロック共重合体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−111814(P2010−111814A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286943(P2008−286943)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年5月8日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集57巻1号」、「高分子学会年次大会予稿集57巻1号(CD−ROM)」に発表および平成20年5月28日 社団法人高分子学会の「第57回高分子学会年次大会」において文書をもって発表
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】