説明

ポリ乳酸系ブロック共重合体

【課題】 生分解性、安全性、結晶性など従来のポリ乳酸系ポリマーが有する特性を有しつつも、耐熱性、耐衝撃性、柔軟性がより改善されており、残留ラクチドが少なく、かつ成形加工工程においてもラクチドの副生量が少ないポリ乳酸系ブロック共重合体を提供する。
【解決手段】 脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントの両端に、主としてD−乳酸単位からなるセグメント(Aセグメント)を介して、主としてL−乳酸単位からなるセグメント(Bセグメント)を有するポリ乳酸系ブロック共重合体であって、Aセグメント、Bセグメントの少なくとも一方に、特定構造で表される有機リン化合物が共重合されているポリ乳酸系ブロック共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の有機リン化合物が樹脂中に共重合されたポリ乳酸系ブロック共重合体に関する。本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は生分解性、安全性、結晶性など従来のポリ乳酸系ポリマーが有する特性を有しつつも、耐熱性、耐衝撃性、柔軟性がより改善されており、残留ラクチドが少なく、かつ成形加工工程においてもラクチドの副生量が少ない。そのため、該ポリ乳酸系ブロック共重合体を使用した成形体は、有機酸生成に伴う樹脂の劣化が少なく、貯蔵安定性、長期耐熱性、長期耐久性に優れる。
【背景技術】
【0002】
現在汎用されている高分子材料の多くは石油資源に依存しているが、資源枯渇、または自然環境保護の観点から、生分解性を有する再生可能な生体由来のプラスチックとして、ポリ乳酸系ポリマーが注目されつつある。ポリ乳酸系ポリマーは、融点が170℃前後と比較的高く、しかも透明性に優れるため、包装材料その他の透明性を生かしたプラスチック成形品などに実用化されてきている。またポリ乳酸系ポリマーは、その射出成形品は硬くて脆いが、延伸により分子配向させた繊維、フィルムは十分な強度を有するため、上述したようなそれほど機械的強度を必要としない製品のほか、長期の寿命と高性能が要求される自動車、家電製品などのエンジニアリング用途にも展開されている。
【0003】
このようなポリ乳酸系ポリマーの1つとして、たとえば特開平9−40761号公報(特許文献1)には、ポリL−乳酸またはポリD−乳酸の実質的ホモポリマーからなる結晶性セグメント(A)と、L−乳酸およびD−乳酸を主成分とする非晶性セグメント(B)とが結合されてなるポリ乳酸ブロック共重合体が開示されている。特許文献1には、このようなポリ乳酸ブロック共重合体は、結晶性、耐熱性、柔軟性および靭性に優れると記載されている。
【0004】
また、鏡像異性体であるポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを物理的に混合することで、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸とは全く異なる結晶構造を有し、耐熱性が改善されたステレオコンプレックス体が得られることが知られており、近年では、このポリ乳酸を用いたステレオコンプレックス体について改良が重ねられてきている。
【0005】
たとえば特開2005−187626号公報(特許文献2)には、L−乳酸セグメントとD−乳酸セグメントとを含むポリ乳酸ステレオブロック共重合体、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とを混合し、当該混合物にステレオコンプレックス形成させる、ポリ乳酸ステレオコンプレックス体の製造方法が開示されている。特許文献2には、当該製造方法によって、原料化合物として、D−乳酸とL−乳酸のみを使用して、機械的強度、耐熱性、熱安定性に優れ、かつ、透明性に優れ、低刺激で安全性、生分解性に優れるポリ乳酸ステレオコンプレックス体を製造することができたことが開示されている。
【0006】
また、たとえば特開2007−100104号公報(特許文献3)には、L−乳酸単位からなるセグメントと、D−乳酸単位からなるセグメントにより構成され、融点が200℃以上であり、ポリ乳酸ブロック共重合体の重量平均分子量Xおよびセグメント1単位の最大重量平均分子量Yについて、Y<X/2を満たすようなセグメント長である乳酸ブロック共重合体が開示されている。特許文献3によれば、当該ポリブロック共重合体は、熱溶融履歴に関わらず、高融点を保持でき、さらに結晶化速度が速くなるポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成するものであると記載されている。
【0007】
しかし、特に従来の乳酸もしくはラクチドの重合体であるポリ乳酸、または乳酸もしくはラクチドと他のモノマーとの共重合体は、加工性、耐熱性において十分な性能を有しているとは言い難く、またポリ乳酸は、特殊な用途を除いては、分解性が早すぎて、汎用樹脂として用いにくい等の問題点があり、分解の抑制、特に貯蔵安定性の向上が重要な開発課題となっている。
【0008】
同様に成形加工時の樹脂の劣化が激しく、製造した成形体が使用する前に激しい強度劣化を受けてしまう。これらの主な原因は、重合時に残留したラクチド成分、および/または成形加工時に生成したラクチド成分が大気中の水分によって分解し、有機酸となりポリマー鎖の切断に作用するためである。これに対し、残留ラクチドが少ない乳酸系ポリエステルは、分解は著しく抑制され、貯蔵安定性、成形加工性に優れたものになる。
【0009】
またポリ乳酸樹脂は、加熱工程でポリ乳酸末端のバックバイティング反応を起こし、ラクチドが生成してしまうと考えられる。そのため、ポリ乳酸樹脂を用いた成形体は、それらの製造工程において生成したラクチドが製品中に残留してしまい耐久性、貯蔵安定性、耐熱性、接着性を悪化させることになる。
【0010】
乳酸系ポリエステルからラクチドを除去する方法については、溶剤によって抽出する方法、良溶剤にポリマーを溶解し貧溶剤中で析出させる方法が実験室レベルの実験においては既知である。工業規模での製造では、特許文献4に二軸押し出し機による方法が、特許文献5にはストランドを減圧にしたポット内でラクチドを揮発させて除く方法が知られている。
【0011】
特許文献6には、溶剤共存下で乳酸より製造したポリ乳酸からの触媒の除去方法が示されている。この方法は溶剤に溶解しているポリ乳酸に親水性有機溶媒と弱酸を加え触媒成分を除くものである。
【0012】
特許文献7、特許文献8にはリン酸化合物又は亜リン酸化合物を重合反応終了後に添加し、触媒を失活させる方法が示されている。リン酸化合物を重合反応終了時に添加することで触媒を失活でき残留ラクチドの少ないポリ乳酸を得ることができる。
【0013】
特許文献9にはアルキルホスフェート及び/又はアルキルホスホネートを重合反応終了後に添加し、触媒を失活させる方法が示されている。
【0014】
これらの方法で得られるポリ乳酸樹脂は残留しているラクチド量が少ないものの、その効果には差があり、例えば特許文献9の方法で得られるポリ乳酸樹脂について、本発明者らが検証したところ、ラクチドは従来のものより低減しているもののその低減量は僅かであった。またこれらの方法で作成されたラクチドが十分に低減された樹脂であってもそれを用いて作成した成形体は長期保管した場合に耐熱性、貯蔵安定性、耐熱性が悪化することがある。例えば特許文献4,5の方法で得られるポリ乳酸樹脂は残留ラクチドの量は少ないものの、成形体を製造する工程にてラクチドが生成するために、それが分解し有機酸が生成することにより最終的に製造した樹脂組成物を長期保存した場合に、ポリ乳酸分子鎖が切断して耐久性、耐熱性等が悪化することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平9−40761号公報
【特許文献2】特開2005−187626号公報
【特許文献3】特開2007−100104号公報
【特許文献4】欧州特許532154号公報
【特許文献5】特開平5−93050号公報
【特許文献6】特開平6−116381号公報
【特許文献7】特開平7−228674号公報
【特許文献8】特許第2862071号公報
【特許文献9】特許第3513972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、生分解性、安全性、結晶性など従来のポリ乳酸系ポリマーが有する特性を有しつつも、耐熱性、耐衝撃性、柔軟性がより改善され、該ポリ乳酸系ポリマーのラクチドを少なくして、それを用いて加工した場合においてもラクチドを生成し難いポリ乳酸系ポリマーを得ると共に、更にはそれらを用いて製造された成形体の長期耐熱性、長期耐久性を満足することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントの両端に、主としてD−乳酸単位からなるセグメント(Aセグメント)を介して、主としてL−乳酸単位からなるセグメント(Bセグメント)を有するポリ乳酸系ブロック共重合体であって、Aセグメント、Bセグメントの少なくとも一方に、一般式1で表される有機リン化合物が共重合されていることを特徴とするポリ乳酸系ブロック共重合体、もしくは脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントの両端に、主としてL−乳酸単位からなるセグメント(Bセグメント)を介して、主としてD−乳酸単位からなるセグメント(Aセグメント)を有するポリ乳酸系ブロック共重合体であって、Aセグメント、Bセグメントの少なくとも一方に、一般式1で表される有機リン化合物が共重合されていることを特徴とするポリ乳酸系ブロック共重合体である。
【0018】
(一般式1)
【化1】

【0019】
(式中、R、R、R、Rは水素またはアルキル基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。nは1以上の整数を表す。)
【0020】
前記Aセグメント中、もしくは前記Bセグメント中、前記有機リン化合物が、R、RおよびRのうち少なくとも一箇所で結合していることが好ましい。
【0021】
本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体において、前記Aセグメントと前記Bセグメントのうち、外側のセグメント中、前記有機リン化合物が、R3で結合していることが好ましい。ここで、外側のセグメントとは、脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントと結合していないセグメントのことである。
【0022】
本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体において、前記Aセグメントと前記Bセグメントとの比率が1:0.2〜5であることが好ましい
【0023】
本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体において、前記Aセグメントと前記Bセグメントを合わせたセグメント中の、リン元素(P)と重合触媒由来の金属元素(M)のモル比が以下の関係を満足することが好ましい。
30≧(P)/(M)≧1
【0024】
また本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、脂肪族カーボネート単位が1,6−ヘキサンジオール残基からなるポリカーボネートジオールであることが好ましい。
【0025】
本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体における脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントはまた、数平均分子量が2000以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は生分解性、安全性、結晶性など従来のポリ乳酸系ポリマーが有する特性を有しつつも、耐熱性、耐衝撃性、柔軟性がより改善されており、残留ラクチドが少なく、かつ成形加工工程においてもラクチドの副生量が少ない。そのため、該ポリ乳酸系ブロック共重合体を使用した成形体は、有機酸生成に伴う樹脂の劣化が少なく、貯蔵安定性、長期耐熱性、長期耐久性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメント(本明細書中において「Cセグメント」と称する。)の両端に、主としてD−乳酸単位からなるセグメント(本明細書中において「Aセグメント」と称する。)を介して、主としてL−乳酸単位からなるセグメント(本明細書中において「Bセグメント」と称する。)を有するポリ乳酸系ブロック共重合体であって、Aセグメント、Bセグメントの少なくとも一方に、一般式1で表される有機リン化合物が共重合されていることを特徴とする(本明細書中において、当該共重合体を「B−A−C−A−Bブロック共重合体」と称する)。また本発明は、脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメント(Cセグメント)の両端に、主としてL−乳酸単位からなるセグメント(Bセグメント)を介して、主としてD−乳酸単位からなるセグメント(Aセグメント)を有するポリ乳酸系ブロック共重合体であって、Aセグメント、Bセグメントの少なくとも一方に、一般式1で表される有機リン化合物が共重合されていることを特徴とするポリ乳酸系共重合体についても提供する(本明細書中において、当該共重合体を「A−B−C−B−Aブロック共重合体」と称する)。
【0028】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体は、後述する実験例で明らかにされるように、A−C−Aブロック共重合体、B−C−Bブロック共重合体単独の場合などと比較して、高い190〜230℃の融点(Tm)を有し、従来のポリ乳酸系ポリマーよりも耐熱性が改善されたものである。このような本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体は、新規なポリ乳酸系ポリマーとして、長期の寿命と高性能が要求される自動車、家電製品などのエンジニアリング用途に適用が期待される。
【0029】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体における主としてL−乳酸単位からなるセグメントであるBセグメントは、L−乳酸の2以上の重合体である。Bセグメントを主として構成するL−乳酸は、光学純度が95%ee(enantio excess)以上であることが好ましく、99%ee以上であることがより好ましい。Bセグメントを主として構成するL−乳酸の光学純度が95%ee未満である場合には、ポリ乳酸の結晶性が低く、融点が低下する傾向にあるためである。なお、当該光学純度は、たとえば光学分割のカラムを用いたHPLC(High Performance Liquid Chromatography)法により測定された値を指す。
【0030】
また本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体における主としてD−乳酸単位からなるセグメントであるAセグメントは、D−乳酸の2以上の重合体である。Aセグメントを主として構成するD−乳酸は、光学純度が95%ee以上であることが好ましく、99%ee以上であることがより好ましい。Aセグメントを主として構成するD−乳酸の光学純度が95%ee未満である場合にはポリ乳酸の結晶性が低く、融点が低下する傾向にあるためである。D−乳酸の光学純度は、上述したL−乳酸の光学純度と同様の方法で測定された値を指す。
【0031】
一般に、ポリ乳酸は、乳酸の直接重合(脱水縮合)、乳酸エステル(メチルエステル、エチルエステルなど)の縮合(脱アルコール)、および乳酸の環状2量体であるラクチドの開環重合によって重合される。中でも、乳酸の直接重合(脱水重合)、乳酸エステルの縮合法では、ランダム共重合が起こりやすく、ブロック共重合は極めて困難であることが多いため、本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体におけるAセグメント、Bセグメントは、それぞれ、D−乳酸の2量体であるDD−ラクチド(D−ラクチド)またはL−乳酸の2量体であるLL−ラクチド(L−ラクチド)の開環重合によって得ることが好ましい。
【0032】
また、本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体における脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントであるCセグメントは、脂肪族ジオールの2以上の重合体を含む。ここで、脂肪族カーボネートとしては、主として炭素数2〜12の脂肪族ジオール残基からなるものであることが好ましい。これらの脂肪族ジオールとしてはたとえばエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオールなどが挙げられるが、中でも融点が低く、かつ、ガラス転移温度が低いことから、1,6−ヘキサンジオールからなる脂肪族ポリカーボネートジオールが好ましい。なお、本発明におけるCセグメントには、2種以上の脂肪族カーボネート単位が含まれていても勿論よい。
【0033】
本発明におけるCセグメントは、上述した脂肪族カーボネート単位を主として含むのであれば、脂肪族カーボネート単位以外の成分が共重合されたものであってもよい。なお、「脂肪族カーボネート単位を主として含む」とは、Cセグメントの70重量%以上(好適には90重量%以上)が脂肪族カーボネート単位であることを指す。Cセグメントに他の成分を共重合させる目的としては、親水性、撥水性、染色性、酸化防止性、柔軟性、弾性回復性、耐衝撃性、耐熱性、ガスバリア性、ガラス転移温度、分解性、平滑性、離型性、成型性などの改良、コストダウンなどが挙げられる。
【0034】
脂肪族カーボネート単位に共重合可能な成分としては、たとえば(1)グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシ酸、(2)グリコリド、ブチロラクトン、カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン、(3)エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ダイマージオール、水添ダイマージオールなどの炭素数2〜20のポリカーボネートジオール以外のジオール、(4)コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、スルホイソフタル酸(アルカリ金属塩)、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸など脂肪酸および芳香族ジカルボン酸、さらに分子末端に水酸基を有するポリマーまたはオリゴマーとして、(5)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレンエーテルおよびそれらの共重合体、オリゴマー、(6)ジメチルシロキサン、ジエチルシロキサン、ジフェニルシロキサンなどのポリオルガノシロキサンなどが挙げられる。
【0035】
たとえば、親水性、分解性の改良には、スルホン基、エーテル結合を持つもの、撥水性改良にはシリコン化合物、柔軟性、靭性などの改良にはガラス転移点が常温以下の化合物(ポリアルキレンラクタム、ポリアルキレンアルキレート、ポリアルキレンエーテル、ポリアルキレンカーボネートなど)、耐熱性の改良にはガラス転移点が高いもの(芳香族化合物など)の共重合が効果的である。
【0036】
また本発明におけるCセグメントは、数平均分子量(Mn)が2000以上であることが好ましい。Cセグメントの数平均分子量が2000以上であることで、柔軟性に優れたA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体を実現することができるためである。なお、Cセグメントの数平均分子量は、大きければ大きいほどよいが、好ましくは50000以下である。また、相溶性の観点からは、Cセグメントの数平均分子量は10000〜20000の範囲内であることがより好ましい。Cセグメントの数平均分子量は、たとえば500MHz 1H NMR(ARX500(Brucker社製))によって測定された積分値から算出した値を指す。
【0037】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体におけるAセグメントおよびBセグメントは、いわば、ハードセグメントであり、それが多いほど融点、軟化点が高く耐熱性に優れる。また逆に、本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体におけるCセグメントは、いわば、ソフトセグメントであり、Cセグメントが多いほど、柔軟性、耐衝撃性、弾性回復力などに優れる。
【0038】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体におけるAセグメントおよびBセグメントの合計量に対するCセグメントの比率は、特に制限されるものではないが、A−B−C−B−Aブロック共重合体の場合には、0.1〜3:1(質量比)の範囲内であることが好ましく、0.3〜2:1(質量比)の範囲内であることがより好ましい。またB−A−C−A−Bブロック共重合体の場合には、0.1〜3:1(質量比)の範囲内であることが好ましく、0.3〜2:1(質量比)の範囲内であることがより好ましい。Cセグメントに対するAセグメントおよびBセグメントの合計量の比率(質量比)が、A−B−C−B−Aブロック共重合体の場合で0.1未満、または、B−A−C−A−Bブロック共重合体の場合で0.1未満である場合には、結晶性が十分でない傾向にあるためであり、また、Cセグメントに対するAセグメントおよびBセグメントの合計量の比率(質量比)が、A−B−C−B−Aブロック共重合体の場合で3を超える、または、B−A−C−A−Bブロック共重合体の場合で3を超える場合には、柔軟性が十分でなくなる傾向にあるためである。なお、本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体におけるAセグメントおよびBセグメントの合計とCセグメントとの比率は、たとえば、500MHz 1H NMR(ARX500(Brucker社製))を用いた測定データから算出することができる。
【0039】
また本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体におけるAセグメントとBセグメントとの比率についても特に制限されるものではないが、A−B−C−B−Aブロック共重合体の場合には、1:0.2〜5(質量比)の範囲内であることが好ましく、1:0.25〜4(質量比)の範囲内であることがより好ましい。またB−A−C−A−Bブロック共重合体の場合には、1:0.2〜5(質量比)の範囲内であることが好ましく、1:0.25〜4(質量比)の範囲内であることがより好ましい。Aセグメントに対するBセグメントの比率(質量比)が、A−B−C−B−Aブロック共重合体の場合で0.2未満、または、B−A−C−A−Bブロック共重合体の場合で0.2未満である場合には、ステレオコンプレックス結晶を完全に形成しにくい傾向にあるためであり、また、Aセグメントに対するBセグメントの比率(質量比)が、A−B−C−B−Aブロック共重合体の場合で5を超える、または、B−A−C−A−Bブロック共重合体の場合で5を超える場合には、ステレオコンプレックス結晶を完全に形成しにくい傾向にあるためである。なお、本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体におけるAセグメントとBセグメントとの比率も、上述したAセグメントおよびBセグメントの合計とCセグメントとの比率と同様に、500MHz 1H NMRを用いた測定データから算出することができる。
【0040】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体は、その全体の数平均分子量(Mn)は特に制限されないが、A−B−C−B−Aブロック共重合体については6000〜500000の範囲内であることが好ましく、15000〜200000の範囲内であることがより好ましい。またB−A−C−A−Bブロック共重合体については6000〜500000の範囲内であることが好ましく、15000〜200000の範囲内であることがより好ましい。A−B−C−B−Aブロック共重合体の全体の数平均分子量が6000未満、または、B−A−C−A−Bブロック共重合体の全体の数平均分子量が6000未満である場合には、十分な力学物性を発現しない傾向にあるためである。なお、A−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体の数平均分子量は、カラムにTSKgel SuperHZM−N(TOSOH社製)を2本連結し、示唆屈折率検出器にRID−10A(SHIMADZU社製)を用いたGPC法により測定することができる。
【0041】
また、本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体は、分散度(PDI)も特には制限されないが、A−B−C−B−Aブロック共重合体については1.0〜3.0の範囲内であることが好ましい。またB−A−C−A−Bブロック共重合体については1.0〜3.0の範囲内であることが好ましい。A−B−C−B−Aブロック共重合体の分散度が3.0を超える、または、B−A−C−A−Bブロック共重合体の分散度が3.0を超える場合には、分子量分布が大きく、ポリマーの物性が均一でない傾向にあるためである。なお、A−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重体の分散度は、上述した数平均分子量と同様にGPC法により測定することができる。
【0042】
また本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体は、融点(Tm)が190〜230℃の範囲内であることが好ましい。また、本発明のB−A−C−A−Bブロック共重合体については、融点(Tm)が190〜230℃の範囲内であることが好ましい。A−B−C−B−Aブロック共重合体の融点が190℃未満、または、B−A−C−A−Bブロック共重合体の融点が190℃未満である場合には、ステレオコンプレックス体が完全に形成されていない傾向にあるためである。A−C−Aブロック共重合体の融点は、たとえばDSC−50(Shimadzu社製)を用い、10℃/分で昇温するDSC分析により測定することができる。
【0043】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体には、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常の添加剤、すなわち紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、離型剤、染料、顔料、抗菌・抗かび剤などが配合されていてもよい。
【0044】
本発明のB−A−C−A−Bブロック共重合体は、その製造方法については特に制限されるものではないが、たとえば下記反応スキームには、好適な例として、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(PHMC)にまずD−ラクチドを共重合させ、A−C−A(PDLA−PHMC−PDLA)ブロック共重合体を合成した後、さらにL−ラクチドを共重合させ、B−A−C−A−B(PLLA−PDLA−PHMC−PDLA−PLLA)ブロック共重合体を合成する例が示されている。なお、下記反応スキーム中、鏡像異性体は表示していない。必要に応じて、本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体に対して、たとえば、エステル結合、ウレタン結合、アミド結合などの当分野において従来より広く用いられている所謂「継ぎ手」構造を特に制限されることなく好適に採用することができる。
【0045】
【化2】

【0046】
この共重合反応の反応条件については特に制限されるものではないが、第1段階目、第2段階目の共重合反応共に、120〜200℃の範囲内で1〜4時間反応させる条件が好ましい。上記反応スキームでは、まず、180℃の条件で1.5時間、PHMCとD−ラクチドとを反応(第1段階目の共重合反応)させてA−C−A(PDLA−PHMC−PDLA)ブロック共重合体を製造し、さらに、180℃の条件で1.5時間、A−C−A(PDLA−PHMC−PDLA)ブロック共重合体とL−ラクチドとを反応(第2段階目の共重合反応)させて、B−A−C−A−B(PLLA−PDLA−PHMC−PDLA−PLLA)ブロック共重合体を製造する例を示している。本発明のB−A−C−A−Bブロック共重合体は、このような方法にて好適に製造され得る。なお、第2段階目の前に再沈殿による精製を行ってもよい。
【0047】
また本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体についても、その製造方法は特に制限されるものではないが、たとえば下記反応スキームに好適な例として示すように、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(PHMC)にまずL−ラクチドを共重合させ、B−C−B(PLLA−PHMC−PLLA)ブロック共重合体を合成した後、さらにD−ラクチドを共重合させ、A−B−C−B−A(PDLA−PLLA−PHMC−PLLA−PDLA)ブロック共重合体を合成する例が示されている。なお、下記反応スキーム中、鏡像異性体は表示していない。
【0048】
【化3】

【0049】
この共重合反応の反応条件についても特に制限されるものではないが、第1段階目、第2段階目の共重合反応共に、120〜200℃の範囲内で1〜4時間反応させる条件が好ましい。上記反応スキームでは、まず、180℃の条件で1.5時間、PHMCとL−ラクチドとを反応(第1段階目の共重合反応)させてB−C−B(PLLA−PHMC−PLLA)ブロック共重合体を製造し、さらに、180℃の条件で1.5時間、B−C−B(PLLA−PHMC−PLLA)ブロック共重合体とD−ラクチドとを反応(第2段階目の共重合反応)させて、A−B−C−B−A(PDLA−PLLA−PHMC−PLLA−PDLA)ブロック共重合体を製造する例を示している。本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体は、このような方法にて好適に製造され得る。なお、第2段階目の前に再沈殿による精製を行ってもよい。
【0050】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−B−Aブロック共重合体は、製造中および製造後に副生するラクチド量を低減させることを目的に、製造時に一般式1で示される有機リン化合物を添加する。該有機リン化合物を添加する時期は特に限定されないが、より効果的に残留するラクチド量を低減するためには開環重合終了前に該有機リン化合物を添加することが好ましく、開環重合が開始する前に添加することがより好ましい。
【0051】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体の製造において用いる重合触媒としては、特に限定されず、オクチル酸スズ、ジブチル酸スズなどのスズ系化合物、アルミニウムアセチルアセトナート、酢酸アルミなどのアルミ系化合物、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネートなどのチタン系化合物、ジルコニウムイソプロオイキシドなどのジルコニウム系化合物、三酸化アンチモンなどのアンチモン系化合物等、いずれもポリ乳酸重合に従来公知の触媒が挙げられる。
【0052】
重合触媒の最適量は、触媒種によって適宜調整すれば良いが、例えばオクチル酸スズを用いる場合、原料ラクチド100モル%に対して0.005〜0.5モル%、好ましくは0.01〜0.2モル%の触媒を用い、通常0.5〜10時間加熱重合することでA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体を製造することが可能である。
【0053】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体の製造において用いる有機リン化合物は一般式1で表される。
【0054】
(一般式1)
【化4】

【0055】
、R、R3、4は水素またはアルキル基を表し、それぞれ同一であっても異なっていても良い。特にR、R、Rのうち、これらの水素の割合が高くなると重合触媒が失活されるため開環重合前若しくは開環重合初期にこれらのリン化合物を添加すると重合不良を起こし分子量が上がりにくくなる傾向にある。よって本発明の脂肪族ポリエステル樹脂を製造するにあたっては、該有機リン化合物を添加するタイミングによって該有機リン化合物を選択することが好ましい。
【0056】
開環重合速度と残留ラクチド低減の観点から添加する有機リン化合物の種類は添加時期が重量平均分子量1万以下の段階であれば、該有機リン化合物はR、R、Rのうち、水素が1つ以下であることが好ましい。また開環重合が終了した後に有機リン化合物を添加するのであれば残留ラクチド低減の観点から該有機リン化合物のR、R、Rは水素の割合が多いことが好ましく、全部水素であっても良い。
有機リン化合物の添加量は、重合に用いる触媒量に対し0.5〜30倍モルが好ましく、特に0.5〜10倍モルが好ましい。0.5倍モルより少ないとラクチド低減効果を得にくいことがあり、10倍モルより多く添加しても効果に差異が生じない傾向にある。
【0057】
有機リン化合物の添加方法としては特に限定されない。原料であるラクチドと共に添加しても良い。また反応液の温度を上げてラクチド溶解した後に添加しても良い。もちろん重合反応の途中や反応終了後に添加しても良い。これらのうち、ラクチドを溶解した直後、すなわち開環重合が開始する前に添加するのが好ましい。ラクチド、有機リン化合物、触媒を速やかに混合することができ、重合効率を高めることができると共に、到達分子量のコントロールが容易になるからである。
【0058】
本発明で使用できる一般式1で表される有機リン化合物としては、一般式2に示すようにRが水素であることが反応効率を高める上で好ましい。
【0059】
(一般式2)
【化5】

【0060】
(式中、R、R、Rは水素またはアルキル基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。nは1以上の整数を表す。)
【0061】
この場合、特に次のようなものが例示できるがこれらに限定されるものではない。R、R、Rが共にアルキル基である化合物としてはジメトキシホスフィニル酢酸メチル、ジエトキシホスフィニル酢酸エチル、2−(ジエトキシホスフィニル)プロパン酸エチル、3−(ジエトキシホスフィニル)プロピオン酸エチルが挙げられる。R、Rのうちどちらか一方のみが水素である化合物としてはメトキシホスフィニル酢酸メチル、エトキシホスフィニル酢酸エチル、2−(エトキシホスフィニル)プロパン酸エチル、3−(エトキシホスフィニル)プロピオン酸エチルが挙げられる。R、R、RのうちR、R両方が水素である化合物としてはホスホノ酢酸メチル、ホスホノ酢酸エチル、2−ホスホノプロパン酸エチル、3−ホスホノプロピオン酸エチルが挙げられる。R、R、RのうちR、R、Rの全てが水素である化合物としてはホスホノ酢酸、2−ホスホノプロパン酸、3−ホスホノプロピオンが挙げられる。上記に列挙した有機リン化合物は有機溶媒に溶解して重合反応系に添加しても良い。使用する溶媒は、開環重合開始剤と同じものであってもよいし、種類が異なっても構わない。具体的な溶媒としてはメタノール、エタノール、プロパノール、キシレン、トルエン、エチレングリコール、ラウリルアルコール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体は一般式1で表される有機リン化合物が樹脂中に共重合されていることを特徴とするが、その結合様式は特に限定されるものではない。その際、ポリヒドロキシ酸がポリ乳酸であることが好ましいのは上述の通りである。しかしながら、重合工程の効率性等を考慮すると、ポリ乳酸セグメントが有機リン化合物のR、RおよびRのうち少なくとも一箇所で結合していることが好ましい。この結合様式は特に限定されないが、ポリ乳酸セグメントの末端水酸基とR、R、Rのカルボキシル基やリン酸基部位と反応してエステル結合により結合していることが好ましい。
【0063】
本発明者らが核磁気共鳴スペクトル分析、ICP発光分析により検討したところ、本発明のポリエステル樹脂は特定のリン化合物と重合触媒が錯体を形成することで重合触媒を失活させ、残留ラクチドを低減するこが示唆されている。本発明のポリエステル樹脂は有機リン化合物が共重合されているため、従来技術のような単なるブレンドに比べて、開環重合時の熱によるリン化合物の揮発や開環重合終了後に行う未反応モノマーの減圧留去工程におけるリン化合物の揮発が少ない。このため添加する有機リン化合物が効率よく重合触媒を失活してラクチドの副生を抑制することが可能である。すなわち一般式1で表される共重合されている有機リン化合物において、R、R、Rの水素となっている部位が重合触媒と相互作用して触媒能を失活しその結果重合中のラクチドの副生を抑制し、更には得られた脂肪族ポリエステル樹脂を成形等の加熱加工をする際のラクチドの生成も抑制する。また共重合されている有機リン化合物の多くが一般式4に表されるようにR部分が脂肪族ポリエステルの末端を封鎖した構造をとっていると、脂肪族ポリエステル樹脂のバックバイティング反応によるラクチドの生成を抑制し、得られた脂肪族ポリエステル樹脂を成形等加熱加工をする際にラクチドの副生も抑制する。すなわち一般式1で表される有機リン化合物は開環重合前、開環重合中もしくは開環重合後に添加した場合にR、R、Rの何れかの部位がポリ乳酸セグメントの水酸基と結合し共重合されると考えられる。またR、R、Rの何れかがアルキル基のものを用いる場合は、ポリ乳酸セグメントと結合していないR、R、Rのうち少なくとも一つは、開環重合中にそのアルキル基が脱離して水素となっていることがラクチド生成抑制の観点から好ましい。
【0064】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂のうち、好ましい構造としては、ポリ乳酸セグメントが一般式1のRで結合しているものが挙げられ、例えば以下のような構造で表すことができる。
【0065】
【化6】

(式中、R、Rは水素またはアルキル基を表す。nは1以上、mは3以上の整数である。)
もちろん、R、R、Rの全てがポリ乳酸セグメントであるものが含まれても良いが、そのような構造であると、重合触媒を失活するための相互作用部位を有さないため残留ラクチドを低減する効果が小さくなる傾向にある。そのため、R、R、Rのうち少なくとも一つがポリ乳酸セグメントであり、それ以外は水素またはアルキル基であることが好ましく、特にRがポリ乳酸セグメントであり、それ以外は水素またはアルキル基であることがさらに好ましい。ポリ乳酸セグメントでないR、R、Rは水素であることが更に好ましい。
【0066】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体は樹脂中のポリ乳酸セグメント中のリン元素量(P)と重合触媒由来の金属元素量(M)のモル比は、30≧(P)/(M)≧1であることが好ましく、より好ましくは9≧(P)/(M)≧3である。
【0067】
(P)/(M)が30より大きい場合には熱分解した有機リン化合物により樹脂の色相が悪化したり、有機リン化合物を開環重合前に添加して作成するにあたり目標の分子量のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体が得られなかったりする恐れがある。一方、(P)/(M)が1より小さい場合にはA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体中に共重合されているリン化合物により失活される重合触媒の量が少なくなり重合中のラクチドの副生を十分に抑制できず結果的にA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体中に残留するラクチドの量を十分に低減できないことがある。またそのような樹脂を用いて成形等加熱加工をする際のラクチドの生成も抑制することができない可能性がある。
【0068】
本発明において、A−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体の重合温度は、ラクチドが溶解し、かつ添加する有機リン化合物の沸点より低い温度であることが好ましい。有機リン化合物の沸点以上で重合すると、例え冷却管を備えていたとしても反応中に有機リン化合物が溜去し、触媒を失活できず残留ラクチド低減することができないおそれがあるからである。重合温度が高ければ、有機リン化合物の構造変化も早く、重合触媒を短時間で失活できるが、ラクチドのラセミ化も進行するため重合温度は、230℃以下が好ましい。即ち、重合温度は、特に120〜200℃の範囲が好ましい。
【0069】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂は、成形材、フィルム、繊維等従来知られた分野で使用できる。
【実施例】
【0070】
本発明を更に具体的に説明するために以下に実施例を述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例における特性値は以下の方法によって測定した。
【0071】
(1)重量平均分子量
クロロホルムを移動相とし、カラムにTSKgel SuperHZM−N(TOSOH社製)を2本連結し、示唆屈折率検出器にRID−10A(SHIMADZU社製)を用いたGPCによって測定した結果から計算して、ポリスチレン換算した値を用いた。また、表1中、PLLAはポリL−乳酸、PDLAはポリD−乳酸、PHMCはポリヘキサメチレンカーボネートジオールをそれぞれ表している。
【0072】
(2)残留ラクチド量 (wt%)
試料をクロロホルム−dに溶解し、500MHzの核磁気共鳴スペクトル(NMR)装置(Brucker社製ARX500)を用い、ポリ乳酸に由来するプロトンの積分値とラクチドに由来するプロトンの積分値の比から算出した。
【0073】
(3)共重合されているリン化合物の定量 (mol%)
試料40mgをクロロホルム−d/DMSO−d=1/1(体積比)混合溶媒0.6mlに溶解し、リン酸5μlを添加後、室温で1時間放置し、500MHzの核磁気共鳴スペクトル(NMR)装置を用い、1H−NMRを測定した。
1H−NMRの結果に基づいて、有機リン化合物に由来するピークの積分比とポリ乳酸に由来するピークの積分比との対比から一般式1のR、Rが添加前の構造から変化しておらずRにポリ乳酸セグメントが結合した有機リン化合物と、一般式1のR、R、R共に添加前の構造から変化していない有機リン化合物とに分けて有機リン化合物の量を算出した。
更に、合成したポリ乳酸樹脂500mgをクロロホルム−d/DMSO−d=1/1混合溶媒(体積比)2.5mlに溶解し、リン酸約80mgを添加後、室温で1時間放置し、500MHzの核磁気共鳴スペクトル(NMR)装置を用い、31P−NMRを測定した。31P−NMRの結果より、1H−NMRではピークが見えなかった有機リン化合物の存在が明らかになった。
先に1H−NMR測定から算出した有機リン化合物の量と31P−NMR測定の結果から、ポリ乳酸中に含まれる有機リン化合物のうちポリ乳酸に共重合されている有機リン化合物の量を算出した。
算出した共重合されている有機リン化合物の量(mol%)は、ポリ乳酸を構成するラクチドに対する量を表す。
【0074】
(4)リン、重合触媒金属量の定量
重合後のポリマー0.2gに硝酸3mLを添加し、密閉性高圧湿式分解法により測定液を調整した。測定液をICP発光法により定量した。
【0075】
(5)結晶融点の測定
試料3.5mgをパンに封入し、DSC−50(Shimadzu社製)を用いて10℃/分の速度で昇温し、測定した。
【0076】
(6)貯蔵安定性
温度40℃、湿度85%の条件下に試料を放置し、その前後の重量平均分子量(Mw)および分散度(PDI)を測定し、比較した。
【0077】
<実験例>
数平均分子量(Mn)が2000Da(500MHz 1H NMR(ARX500(Brucker社製))により測定)のポリヘキサメチレンカーボネートジオール(PHMC)とジフェニルカーボネートとを反応させ、数平均分子量(Mn)が10000Daまたは15000Da(500MHz 1H NMR(ARX500(Brucker社製))により測定)のPHMCを合成した。
【0078】
【化7】

【0079】
次に、下記の反応スキームに従って、数平均分子量(Mn)が10000Daまたは15000DaのPHMCに、まずD−ラクチドを共重合させ、A−C−A(PDLA−PHMC−PDLA)ブロック共重合体を合成した後、さらにL−ラクチドを共重合させ、B−A−C−A−B(PLLA−PDLA−PHMC−PDLA−PLLA)ブロック共重合体を合成した。なお、下記反応スキーム中、鏡像異性は表示していない。
【0080】
【化8】

【0081】
<実施例1>
数平均分子量(Mn)が15000DaのPHMC1.5g、D−ラクチド1.0gを入れ、減圧乾燥後、窒素雰囲気下で0.2g/mlの濃度に調製したオクチル酸スズ(Sn(Oct)2)のトルエン溶液2.8μlを添加した。その後180℃で1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧した。続いて、減圧乾燥したL−ラクチド1.0gを入れ、0.1g/mlの濃度に調製したジエトキシホスフィニル酢酸エチルのトルエン溶液9.3μlを添加して、さらに1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧し、B−A−C−A−B(PLLA−PDLA−PHMC−PDLA−PLLA)ブロック共重合体を合成した。樹脂中に含まれるスズ、リン元素量、共重合されているリン化合物の量、残留ラクチド量、融点、ならびに貯蔵安定性試験前後の重量平均分子量(Mw)(Da)および分散度(PDI)を表1に示す。表1より本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、融点が高く耐熱性が改善され、貯蔵安定性が向上していることが分かる。
【0082】
<実施例2>
数平均分子量(Mn)が15000DaのPHMC1.5g、L−ラクチド1.0gを入れ、減圧乾燥後、窒素雰囲気下で0.2g/mlの濃度に調製したオクチル酸スズ(Sn(Oct)2)のトルエン溶液2.8μlを添加した。その後180℃で1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧した。続いて、減圧乾燥したD−ラクチド1.0gを入れ、0.1g/mlの濃度に調製したジエトキシホスフィニル酢酸エチルのトルエン溶液9.3μlを添加して、さらに1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧し、A−B−C−B−A(PDLA−PLLA−PHMC−PLLA−PDLA)ブロック共重合体を合成した。樹脂中に含まれるスズ、リン元素量、共重合されているリン化合物の量、残留ラクチド量、融点、ならびに貯蔵安定性試験前後の重量平均分子量(Mw)(Da)および分散度(PDI)を表1に示す。表1より本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、融点が高く耐熱性が改善され、貯蔵安定性が向上していることが分かる。
【0083】
<実施例3>
数平均分子量(Mn)が10000DaのPHMC1.0g、D−ラクチド1.5gを入れ、減圧乾燥後、窒素雰囲気下で0.2g/mlの濃度に調製したオクチル酸スズ(Sn(Oct)2)のトルエン溶液4.2μlを添加した。その後180℃で1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧した。続いて、減圧乾燥したL−ラクチド1.5gを入れ、0.1g/mlの濃度に調製したジエトキシホスフィニル酢酸エチルのトルエン溶液14.0μlを添加して、さらに1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧し、B−A−C−A−B(PLLA−PDLA−PHMC−PDLA−PLLA)ブロック共重合体を合成した。樹脂中に含まれるスズ、リン元素量、共重合されているリン化合物の量、残留ラクチド量、融点、ならびに貯蔵安定性試験前後の重量平均分子量(Mw)(Da)および分散度(PDI)を表1に示す。表1より本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、融点が高く耐熱性が改善され、貯蔵安定性が向上していることが分かる。
【0084】
<実施例4>
数平均分子量(Mn)が10000DaのPHMC1.0g、L−ラクチド1.5gを入れ、減圧乾燥後、窒素雰囲気下で0.2g/mlの濃度に調製したオクチル酸スズ(Sn(Oct)2)のトルエン溶液4.2μlを添加した。その後180℃で1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧した。続いて、減圧乾燥したD−ラクチド1.5gを入れ、0.1g/mlの濃度に調製したジエトキシホスフィニル酢酸エチルのトルエン溶液14.0μlを添加して、さらに1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧し、A−B−C−B−A(PDLA−PLLA−PHMC−PLLA−PDLA)ブロック共重合体を合成した。樹脂中に含まれるスズ、リン元素量、共重合されているリン化合物の量、残留ラクチド量、融点、ならびに貯蔵安定性試験前後の重量平均分子量(Mw)(Da)および分散度(PDI)を表1に示す。表1より本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、融点が高く耐熱性が改善され、貯蔵安定性が向上していることが分かる。
【0085】
<実施例5>
ジエトキシホスフィニル酢酸エチルのトルエン溶液の量を46.7μlにした以外は実施例1と同様の方法でサンプルを合成した。
【0086】
<実施例6>
ジエトキシホスフィニル酢酸エチルのトルエン溶液の量を46.7μlにした以外は実施例2と同様の方法でサンプルを合成した。
【0087】
<比較例1>
数平均分子量(Mn)が15000DaのPHMC1.5g、D−ラクチド1.0gを入れ、減圧乾燥後、窒素雰囲気下で0.2g/mlの濃度に調製したオクチル酸スズ(Sn(Oct)2)のトルエン溶液2.8μlを添加した。その後180℃で1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧した。続いて、減圧乾燥したL−ラクチド1.0gを入れ、さらに1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧し、B−A−C−A−B(PLLA−PDLA−PHMC−PDLA−PLLA)ブロック共重合体を合成した。樹脂中に含まれるスズ、リン元素量、共重合されているリン化合物の量、残留ラクチド量、融点、ならびに貯蔵安定性試験前後の重量平均分子量(Mw)(Da)および分散度(PDI)を表1に示す。表1より本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、融点が高く耐熱性が改善されているものの残留ラクチド量が多く、貯蔵安定性が悪いことが分かる。
【0088】
<比較例2>
数平均分子量(Mn)が15000DaのPHMC1.5g、L−ラクチド1.0gを入れ、減圧乾燥後、窒素雰囲気下で0.2g/mlの濃度に調製したオクチル酸スズ(Sn(Oct)2)のトルエン溶液2.8μlを添加した。その後180℃で1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧した。続いて、減圧乾燥したD−ラクチド1.0gを入れ、さらに1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧し、A−B−C−B−A(PDLA−PLLA−PHMC−PLLA−PDLA)ブロック共重合体を合成した。樹脂中に含まれるスズ、リン元素量、共重合されているリン化合物の量、残留ラクチド量、融点、ならびに貯蔵安定性試験前後の重量平均分子量(Mw)(Da)および分散度(PDI)を表1に示す。表1より本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、融点が高く耐熱性が改善されているものの残留ラクチド量が多く、貯蔵安定性が悪いことが分かる。
【0089】
<比較例3>
数平均分子量(Mn)が10000DaのPHMC1.0g、D−ラクチド1.5gを入れ、減圧乾燥後、窒素雰囲気下で0.2g/mlの濃度に調製したオクチル酸スズ(Sn(Oct)2)のトルエン溶液4.2μlを添加した。その後180℃で1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧した。続いて、減圧乾燥したL−ラクチド1.5gを入れ、さらに1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧し、B−A−C−A−B(PLLA−PDLA−PHMC−PDLA−PLLA)ブロック共重合体を合成した。樹脂中に含まれるスズ、リン元素量、共重合されているリン化合物の量、残留ラクチド量、融点、ならびに貯蔵安定性試験前後の重量平均分子量(Mw)(Da)および分散度(PDI)を表1に示す。表1より本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、融点が高く耐熱性が改善されているものの残留ラクチド量が多く、貯蔵安定性が悪いことが分かる。
【0090】
<比較例4>
数平均分子量(Mn)が10000DaのPHMC1.0g、L−ラクチド1.5gを入れ、減圧乾燥後、窒素雰囲気下で0.2g/mlの濃度に調製したオクチル酸スズ(Sn(Oct)2)のトルエン溶液4.2μlを添加した。その後180℃で1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧した。続いて、減圧乾燥したD−ラクチド1.5gを入れ、さらに1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧し、A−B−C−B−A(PDLA−PLLA−PHMC−PLLA−PDLA)ブロック共重合体を合成した。樹脂中に含まれるスズ、リン元素量、共重合されているリン化合物の量、残留ラクチド量、融点、ならびに貯蔵安定性試験前後の重量平均分子量(Mw)(Da)および分散度(PDI)を表1に示す。表1より本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、融点が高く耐熱性が改善されているものの残留ラクチド量が多く、貯蔵安定性が悪いことが分かる。
【0091】
<比較例5>
数平均分子量(Mn)が15000DaのPHMC1.5g、D−ラクチド1.0gを入れ、減圧乾燥後、窒素雰囲気下で0.2g/mlの濃度に調製したオクチル酸スズ(Sn(Oct)2)のトルエン溶液2.8μlを添加した。を添加した。その後180℃で1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧した。続いて、減圧乾燥したL−ラクチド1.0gを入れ、0.1g/mlの濃度に調製したリン酸トリメチルのトルエン溶液29.2μlを添加して、さらに1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧し、B−A−C−A−B(PLLA−PDLA−PHMC−PDLA−PLLA)ブロック共重合体を合成した。樹脂中に含まれるスズ、リン元素量、共重合されているリン化合物の量、残留ラクチド量、融点、ならびに貯蔵安定性試験前後の重量平均分子量(Mw)(Da)および分散度(PDI)を表1に示す。表1より本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、融点が高く耐熱性が改善されているものの残留ラクチド量が多く、貯蔵安定性が悪いことが分かる。
【0092】
<比較例6>
数平均分子量(Mn)が15000DaのPHMC1.5g、L−ラクチド1.0gを入れ、減圧乾燥後、窒素雰囲気下で0.2g/mlの濃度に調製したオクチル酸スズ(Sn(Oct)2)のトルエン溶液2.8μlを添加した。その後180℃で1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧した。続いて、減圧乾燥したD−ラクチド1.0gを入れ、0.1g/mlの濃度に調製したリン酸トリメチルのトルエン溶液29.2μlを添加して、さらに1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧し、A−B−C−B−A(PDLA−PLLA−PHMC−PLLA−PDLA)ブロック共重合体を合成した。樹脂中に含まれるスズ、リン元素量、共重合されているリン化合物の量、残留ラクチド量、融点、ならびに貯蔵安定性試験前後の重量平均分子量(Mw)(Da)および分散度(PDI)を表1に示す。表1より本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、融点が高く耐熱性が改善されているものの残留ラクチド量が多く、貯蔵安定性が悪いことが分かる。
【0093】
<比較例7>
数平均分子量(Mn)が10000DaのPHMC1.0g、D−ラクチド1.5gを入れ、減圧乾燥後、窒素雰囲気下で0.2g/mlの濃度に調製したオクチル酸スズ(Sn(Oct)2)のトルエン溶液4.2μlを添加した。その後180℃で1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧した。続いて、減圧乾燥したL−ラクチド1.5gを入れ、0.1g/mlの濃度に調製したリン酸トリメチルのトルエン溶液43.8μlを添加して、さらに1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧し、B−A−C−A−B(PLLA−PDLA−PHMC−PDLA−PLLA)ブロック共重合体を合成した。樹脂中に含まれるスズ、リン元素量、共重合されているリン化合物の量、残留ラクチド量、融点、ならびに貯蔵安定性試験前後の重量平均分子量(Mw)(Da)および分散度(PDI)を表1に示す。表1より本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、融点が高く耐熱性が改善されているものの残留ラクチド量が多く、貯蔵安定性が悪いことが分かる。
【0094】
<比較例8>
数平均分子量(Mn)が10000DaのPHMC1.0g、L−ラクチド1.5gを入れ、減圧乾燥後、窒素雰囲気下で0.2g/mlの濃度に調製したオクチル酸スズ(Sn(Oct)2)のトルエン溶液4.2μlを添加した。その後180℃で1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧した。続いて、減圧乾燥したD−ラクチド1.5gを入れ、0.1g/mlの濃度に調製したリン酸トリメチルのトルエン溶液43.8μlを添加して、さらに1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧し、A−B−C−B−A(PDLA−PLLA−PHMC−PLLA−PDLA)ブロック共重合体を合成した。樹脂中に含まれるスズ、リン元素量、共重合されているリン化合物の量、残留ラクチド量、融点、ならびに貯蔵安定性試験前後の重量平均分子量(Mw)(Da)および分散度(PDI)を表1に示す。表1より本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、融点が高く耐熱性が改善されているものの残留ラクチド量が多く、貯蔵安定性が悪いことが分かる。
【0095】
<比較例9>
数平均分子量(Mn)が15000DaのPHMC1.5g、D−ラクチド2.0gを入れ、減圧乾燥後、窒素雰囲気下で0.2g/mlの濃度に調製したオクチル酸スズ(Sn(Oct)2)のトルエン溶液2.8μl、0.1g/mlの濃度に調製したジエトキシホスフィニル酢酸エチルのトルエン溶液9.3μlを添加した。その後180℃で1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧し、A−C−A(PDLA−PHMC−PDLA)ブロック共重合体を合成した。樹脂中に含まれるスズ、リン元素量、共重合されているリン化合物の量、残留ラクチド量、融点、ならびに貯蔵安定性試験前後の重量平均分子量(Mw)(Da)および分散度(PDI)を表1に示す。表1より本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、融点が低く耐熱性が十分でないが、貯蔵安定性が向上していることが分かる。
【0096】
<比較例10>
数平均分子量(Mn)が15000DaのPHMC1.5g、L−ラクチド2.0gを入れ、減圧乾燥後、窒素雰囲気下で0.2g/mlの濃度に調製したオクチル酸スズ(Sn(Oct)2)のトルエン溶液2.8μl、0.1g/mlの濃度に調製したジエトキシホスフィニル酢酸エチルのトルエン溶液9.3μlを添加した。その後180℃で1.5時間反応させ、0.1Torrで0.5時間減圧し、B−C−B(PLLA−PHMC−PLLA)ブロック共重合体を合成した。樹脂中に含まれるスズ、リン元素量、共重合されているリン化合物の量、残留ラクチド量、融点、ならびに貯蔵安定性試験前後の重量平均分子量(Mw)(Da)および分散度(PDI)を表1に示す。表1より本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、融点が低く耐熱性が十分でないが、貯蔵安定性が向上していることが分かる。
【0097】
【表1】

【0098】
本発明のA−B−C−B−Aブロック共重合体、B−A−C−A−Bブロック共重合体は、A−C−Aブロック共重合体単独、B−C−Bブロック共重合体単独の場合よりも高い融点を有し、耐熱性が改善されたものであることが分かる。また、貯蔵安定性試験においてもポリマーの加水分解が抑制され、貯蔵安定性が向上していることが分かる。
【0099】
今回開示された実施の形態および実験例は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のポリ乳酸系ブロック共重合体は、新規なポリ乳酸系ポリマーとして、長期の寿命と高性能が要求される自動車、家電製品などのエンジニアリング用途に適用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントの両端に、主としてD−乳酸単位からなるセグメント(Aセグメント)を介して、主としてL−乳酸単位からなるセグメント(Bセグメント)を有するポリ乳酸系ブロック共重合体であって、Aセグメント、Bセグメントの少なくとも一方に、一般式1で表される有機リン化合物が共重合されていることを特徴とするポリ乳酸系ブロック共重合体。
(一般式1)
【化1】

(式中、R、R、R、Rは水素またはアルキル基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。nは1以上の整数を表す。)
【請求項2】
脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントの両端に、主としてL−乳酸単位からなるセグメント(Bセグメント)を介して、主としてD−乳酸単位からなるセグメント(Aセグメント)を有するポリ乳酸系ブロック共重合体であって、Aセグメント、Bセグメントの少なくとも一方に、一般式1で表される有機リン化合物が共重合されていることを特徴とするポリ乳酸系ブロック共重合体。
(一般式1)
【化2】

(式中、R、R、R、Rは水素またはアルキル基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。nは1以上の整数を表す。)
【請求項3】
前記Aセグメント中、もしくは前記Bセグメント中、前記有機リン化合物が、R、RおよびRのうち少なくとも一箇所で結合していることを特徴とする請求項1または2に記載のポリ乳酸系ブロック共重合体。
【請求項4】
前記Aセグメントと前記Bセグメントのうち、外側のセグメント中、前記有機リン化合物が、Rで結合していることを特徴とする請求項3に記載のポリ乳酸系ブロック共重合体。
【請求項5】
前記Aセグメントと前記Bセグメントとの比率が1:0.2〜5である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸系ブロック共重合体。
【請求項6】
前記Aセグメントと前記Bセグメントを合わせたセグメント中の、リン元素(P)と重合触媒由来の金属元素(M)のモル比が以下の関係を満足する請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸系ブロック共重合体。
30≧(P)/(M)≧1
【請求項7】
脂肪族カーボネート単位が1,6−ヘキサンジオール残基からなるポリカーボネートジオールである、請求項1〜6のいずれかに記載のポリ乳酸系ブロック共重合体。
【請求項8】
脂肪族脂肪族カーボネート単位を主として含むセグメントの数平均分子量が2000以上である、請求項1〜7のいずれかに記載のポリ乳酸系ブロック共重合体。

【公開番号】特開2011−57783(P2011−57783A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206867(P2009−206867)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】