説明

ポリ乳酸系モノフィラメント及びその製造方法

【課題】ラケット用ストリングとして使用したときに実用上十分な機械的強度を有すると共に、耐久性、耐熱性、反発性、及びテンション保持性が改善されたポリ乳酸系モノフィラメントを提供する。
【解決手段】重量比で表して、ポリ乳酸系重合体(A)80〜97重量部と、ポリエステル系エラストマー(B)3〜15重量部と、架橋剤(C)0.01〜5重量部とを含む材料から形成されたモノフィラメント。好ましくは、ポリエステル系エラストマー(B)は、芳香族含有ポリエステル成分からなるハードセグメントと、ポリエーテルグリコール成分又は脂肪族ポリエステル成分からなるソフトセグメントとのポリエステルブロック共重合体である。モノフィラメントからなるラケット用ストリング。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性原料を主成分とし、加工性に優れ、かつ機械的強度が高く、テニスラケット用ストリングとして使用したときに耐久性、耐熱性、反発性、及びテンション保持性が改善されたポリ乳酸系モノフィラメントに関する。また、本発明は、ポリ乳酸系モノフィラメントの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然環境保護の見地から、原料を石油に依存しない植物性原料の生分解性ポリマー及びその加工品が注目されている。特に、その一例としてポリ乳酸は、とうもろこし、さとうきびなどの植物を原料としており、燃焼熱量はポリエチレンの半分以下であり、土中や水中で自然に加水分解が進行し、次いで微生物により無害な分解物となる。現在、ポリ乳酸を用いて成形物、具体的にはフィルム・シート・繊維などを得る検討がなされており、実用化されてきている。ポリ乳酸は、延伸加工することによってその強度を向上させることが可能であるが、硬くて脆い材料であり、しなやかさに劣り使い勝手が悪いだけでなく、縦割れしやすく、また、結節強力が低く実用的でないという問題がある。これは、単繊維が太いモノフィラメントの場合には、より大きな問題となる。
【0003】
このため、ポリ乳酸に柔軟性を付与する目的で、柔軟成分や可塑剤を添加することが数多く提案されている。本発明者らは、ポリ乳酸が高張力下でソフトであるためラケット用ストリングとして打ち味が良いことを見出し、ラケット用ストリングに好適なモノフィラメントとして、ポリ乳酸にポリ乳酸以外の他の脂肪族ポリエステルをブレンドし、さらに架橋構造を導入することにより、相溶性が向上し、耐熱性も向上したモノフィラメントを提案した(特開2001−40529号公報)。このモノフィラメントは、ラケット用ストリングとした場合、天然ガットなみのソフトな打ち味を有するという特徴があるが、添加する柔軟成分(ポリ乳酸以外の他の脂肪族ポリエステル)は強力にほとんど寄与していないため、十分な強力が得られず、耐久性が必ずしも十分ではなかった。
【0004】
強力及び耐久性を改善するため、本発明者らは、ポリ乳酸に、融点の高い柔軟成分としてポリ乳酸とポリ乳酸以外の他の脂肪族ポリエステルとのブロック共重合体をブレンドした材料からなるモノフィラメントを提案した(特開2005−15970号公報)。このモノフィラメントでは、強力は向上し、耐久性も向上したが、実用的には不十分であった。
【0005】
一方、特許2725870号公報には、ポリ乳酸に、ポリブチレンテレフタレートのハードセグメントとポリエーテルグリコールのソフトセグメントとのブロック共重合体(セグメント化ポリエステルエラストマー)をブレンドした組成物が開示されている(請求項30〜33、第16欄35〜45行)。しかしながら、同特許公報には、前記組成物からモノフィラメントを形成することについては何ら開示されていない。
【0006】
特開2004−189991号公報には、ポリ乳酸と、可塑剤としてのポリエチレングリコールと、親水性シリカ粒子とを含む樹脂組成物が開示されている(請求項1〜3、段落[0044]実施例1など)。
【0007】
【特許文献1】特開2001−40529号公報
【特許文献2】特開2005−15970号公報
【特許文献3】特許2725870号公報
【特許文献4】特開2004−189991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の背景技術に鑑み、ラケット用ストリングとして好適な、耐久性、耐熱性、実用的性能に優れるポリ乳酸系モノフィラメントの開発が望まれる。
【0009】
本発明の目的は、加工性に優れ、かつ十分な機械的強度を有するポリ乳酸系モノフィラメントを提供することにある。特に、本発明の目的は、ラケット用ストリングとして使用したときに実用上十分な機械的強度を有すると共に、耐久性、耐熱性、反発性、及びテンション保持性が改善されたポリ乳酸系モノフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、柔軟成分として生分解性素材に限定せずに種々検討した結果、ポリエステル系エラストマーをポリ乳酸に対して特定割合で配合し、さらに架橋構造を導入することにより、ラケット用ストリングとして用いた場合、耐久性は大幅に向上すると共に、耐熱性、反発性、及びテンション保持性が改善されたモノフィラメントが得られることを見出した。
【0011】
本発明には、以下の発明が含まれる。
(1) 重量比で表して、ポリ乳酸系重合体(A)80〜97重量部と、ポリエステル系エラストマー(B)3〜15重量部と、架橋剤(C)0.01〜5重量部とを含む材料から形成されたモノフィラメント。
(2) ポリエステル系エラストマー(B)は、芳香族含有ポリエステル成分からなるハードセグメントと、ポリエーテルグリコール成分又は脂肪族ポリエステル成分からなるソフトセグメントとのポリエステルブロック共重合体である、上記(1)に記載のモノフィラメント。
(3) ポリエステル系エラストマー(B)の融点は150〜190℃である、上記(1)又は(2)に記載のモノフィラメント。
(4) 架橋剤(C)は、過酸化物架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、エポキシ系架橋剤、及び、アリル又はビニル系架橋剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記(1)〜(3)のうちのいずれかに記載のモノフィラメント。
(5) 架橋剤の反応により架橋構造を有している、上記(1)〜(4)のうちのいずれかに記載のモノフィラメント。
(6) 上記(1)〜(5)のうちのいずれかに記載のモノフィラメントからなるラケット用ストリング。
(7) 上記(1)〜(5)のうちのいずれかに記載のモノフィラメントが構成部材の一部として用いられているラケット用ストリング。
(8) 重量比で表して、ポリ乳酸系重合体(A)80〜97重量部と、ポリエステル系エラストマー(B)3〜15重量部と、架橋剤(C)0.01〜5重量部とを含む材料を溶融紡糸し延伸する工程と、
溶融紡糸前もしくは溶融紡糸時に、又は延伸の後に、架橋反応させる工程と、
を含むモノフィラメントの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加工性に優れ、かつ十分な機械的強度を有するポリ乳酸系モノフィラメント、とりわけ、ラケット用ストリングに好適であり、実用上十分な機械的強度を有すると共に、改善された耐久性、耐熱性、反発性、及びテンション保持性を有するポリ乳酸系モノフィラメントが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のモノフィラメントは、重量比で表して、ポリ乳酸系重合体(A)80〜97重量部と、ポリエステル系エラストマー(B)3〜15重量部と、架橋剤(C)0.01〜5重量部とを含む材料から形成されるものである。各構成成分について説明する。
【0014】
本発明におけるポリ乳酸系重合体(A)は、実質的にL−乳酸及び/又はD−乳酸由来のモノマー単位のみからなるポリマーである。ここで「実質的に」とは、本発明の効果を損なわない範囲で、L−乳酸又はD−乳酸に由来しない、他のモノマー単位を含んでいても良いと言う意味である。また、ポリL−乳酸とポリD−乳酸を混合した、いわゆるステレオコンップレックスも本発明におけるポリ乳酸系重合体(A)に含まれる。
【0015】
ポリ乳酸系重合体(A)の重量平均分子量(Mw)としては、50,000〜500,000の範囲が好ましい。上記範囲を下回ると、得られるモノフィラメントの機械物性等が十分発現されない傾向がある。一方、上記範囲を上回ると、溶融状態における粘度が高くなるため、モノフィラメントへの紡糸が難しくなる等、加工性に劣る傾向がある。
【0016】
ポリ乳酸系重合体(A)の製造方法としては、公知の任意の重合方法を採用することができる。最も代表的なものとしては、乳酸の無水環状二量体であるラクチドを開環重合する方法(ラクチド法)であるが、乳酸を直接縮合重合しても構わない。
【0017】
ポリ乳酸系重合体(A)が、L−乳酸及び/又はD−乳酸に由来するモノマー単位のみからなる場合には、重合体は結晶性で高融点を有するが、L−乳酸/D−乳酸由来のモノマー単位の比率(L/D比と略称する)を変化させることにより、結晶性・融点を調節することができるので、モノフィラメントの用途に応じ、実用特性を制御することが可能である。また、ポリ乳酸の性質を損なわない程度に、他のヒドロキシカルボン酸などを少量共重合して、結晶性・融点を調節しても構わない。
【0018】
本発明におけるポリエステル系エラストマー(B)は、いわゆるハードセグメントとソフトセグメントとからなるブロックポリエステルであり、好ましくは、芳香族含有ポリエステル成分からなるハードセグメントと、ポリエーテルグリコール成分又は脂肪族ポリエステル成分からなるソフトセグメントとのポリエステルブロック共重合体である。ポリエステル系エラストマー(B)の配合によって、ポリ乳酸系重合体(A)に柔軟性を付与し改質することができる。
【0019】
ハードセグメントを構成するポリエステルセグメント成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4' −ジフェニルジカルボン酸、ビス(4−カルボキシフェニル)メタン、ビス(4−カルボキシフェニル)スルホン等の芳香族ジカルボン酸又はそのエステルと、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、2,2−ジメチルトリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、p−キシリレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のジオールとから製造される芳香族含有ポリエステル、あるいはこれら2種類以上のジカルボン酸及び/又は2種類以上のジオールを用いた芳香族含有コポリエステル類等が挙げられる。
【0020】
一方、ソフトセグメントとしては、分子量400〜6000程度の重合体が好ましく、その構成セグメント成分としては、例えば、ポリ(エチレンオキサイド)グリコール、ポリ(プロピレンオキサイド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキサイド)グリコール等のポリアルキレンエーテルグリコール及びこれらの混合物、更にはこれらのポリエーテルグリコール成分を共重合した共重合ポリエーテルグリコール等が例示される。
【0021】
また、ソフトセグメント成分としては、炭素数2〜12程度の脂肪族ジカルボン酸と炭素数2〜10程度の脂肪族グリコールとから製造される脂肪族ポリエステルを用いることができる。このような脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリエチレンセバケート、ポリテトラメチレンドデカネート、ポリテトラメチレンアゼレート、ポリカプロラクトン等を示すことができる。更に、上記脂肪族ポリエステルとポリエーテルを組合せたポリエステルポリエーテル共重合体なども使用することができる。
【0022】
上記ポリエステルブロック共重合体中に占めるソフトセグメント成分の割合は、好ましくは20重量%以上80重量%以下である。ソフトセグメント成分の割合が20重量%未満であると、モノフィラメントへの柔軟性付与効果が弱くなる傾向にあり、一方、ソフトセグメント成分の割合が80重量%を超えると、柔軟性付与効果は十分であるがモノフィラメントの強力が低下する傾向にある。
【0023】
これらの中でも、融点が150℃〜190℃の範囲であるポリエステル系エラストマー(B)が、ポリ乳酸系重合体(A)との融点の差が小さいため、本発明において好ましく用いられる。
【0024】
また、柔軟性を付与する目的のため、ショアー硬度(JIS Dスケール)で24〜40程度の比較的柔軟なポリエステル系エラストマー(B)がより好ましく用いられる。
【0025】
本発明においては、性能及び経済性などの観点から、ポリブチレンテレフタレートとポリエーテルグリコールとのコポリマーがとくに好ましく用いられる。
【0026】
本発明において、ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル系エラストマー(B)の配合比率は、重量比で表して、ポリ乳酸系重合体(A)80〜97重量部、ポリエステル系エラストマー(B)3〜15重量部である。エラストマー(B)が3重量部未満では、ポリ乳酸系重合体(A)への改質効果が小さく、エラストマー(B)が15重量部を超えると、ポリ乳酸系重合体(A)との相溶性が悪くなり、紡糸延伸でタテ割れを生じたり、モノフィラメント製品として使用中にタテ割れを生じやすくなるので好ましくない。
【0027】
ポリエステル系エラストマー(B)は、他のポリウレタン系エラストマーなどに比べて、ポリ乳酸系重合体(A)への改質効果が大きい。
【0028】
また、本発明においては、必要に応じ第3のポリマー成分として、ポリ乳酸系重合体(A)及びエラストマー(B)以外の他の樹脂を本発明の効果を阻害しない範囲で配合することができる。第3成分の樹脂としては、主成分のポリ乳酸系重合体(A)との相溶性の点からポリエステル系の樹脂が好ましい。第3成分を使用する場合の配合量は、ポリ乳酸系重合体(A)80〜97重量部、ポリエステル系エラストマー(B)3〜15重量部の場合に、15重量部未満が好ましい。
【0029】
本発明においては、ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル系エラストマー(B)との相溶性を向上すると共に、モノフィラメントの耐久性、耐熱性などを改善するために、架橋剤(C)を配合する。架橋剤(C)の配合によって、ポリ乳酸系重合体(A)及びポリエステル系エラストマー(B)に、それぞれ単独及び/又は相互に架橋構造を導入することができる。
【0030】
架橋剤(C)は、過酸化物架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、エポキシ系架橋剤、及び、アリル又はビニル系架橋剤から選ばれる。
【0031】
過酸化物架橋剤としては、公知の有機過酸化物の内から、分解温度、反応性などを考慮して選択することができる。代表的には、ジアシルパーオキシド類、ジアルキルパーオキシド類、パーオキシエステル類、パーオキシケタール類などから選択することができる。
【0032】
カルボジイミド系架橋剤としては、分子中に2個以上好ましくは3個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド化合物が用いられる。例えば、ジイソシアネートを触媒存在下脱炭酸縮合反応することによって得られるポリカルボジイミド化合物が挙げられる。これらは、例えば日清紡(株)の「カルボジライト」として市販されている。
【0033】
エポキシ系架橋剤としては、分子中に2個以上好ましくは3個以上のエポキシ基を有する化合物が用いられる。好ましくは、高分子タイプのスチレンアクリルやアクリル系樹脂をベースにした多エポキシ化合物を用いることができる。例えば、東亜合成(株)の「アルフォンUG4030、UG4070」(スチレン・アクリル系)、「アルフォンXG4000、XG4010」(アクリル系)、ダイセル化学工業(株)の「エポフレンド」(エポキシ化スチレン系エラストマー) 等が挙げられる。
【0034】
過酸化物架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、及びエポキシ系架橋剤では、熱により架橋反応が進行する。
【0035】
アリル又はビニル系架橋剤としては、重合性の二重結合を分子中に2個以上好ましくは3個以上有する化合物が挙げられる。熱安定性の高いトリアリルイソシアヌレートなどの多官能アリル化合物はモノフィラメントの紡糸条件でも安定であり、延伸後の任意の段階で紫外線又は電子線などの高エネルギー線照射により架橋反応することができるので好ましい。また、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多官能アクリレート化合物を用いてもよい。
【0036】
架橋剤(C)としては、上記架橋剤の内から、1種又は2種以上を用いることができる。
【0037】
本発明において架橋構造を導入する方法としては、
(1) 溶融紡糸操作前に、予め、架橋反応させた樹脂材料のペレットを作製しておく方法; すなわち、ポリ乳酸系重合体(A)、ポリエステル系エラストマー(B)及び架橋剤(C)を混合溶融し、架橋反応させ、架橋構造が導入された樹脂材料のペレットを作製しておき、そのペレットを用いてモノフィラメントの溶融紡糸を行う方法、
(2) 溶融紡糸時に架橋反応させながら紡出する方法; すなわち、溶融紡糸時に、ポリ乳酸系重合体(A)、ポリエステル系エラストマー(B)及び架橋剤(C)を混合溶融し、架橋反応させながら紡出する方法、
(3) 溶融紡糸延伸した後、架橋反応させる方法; すなわち、ポリ乳酸系重合体(A)、ポリエステル系エラストマー(B)及び架橋剤(C)を混合した材料を実質的に架橋を生じさせることなく溶融紡糸延伸し、その後、紫外線又は電子線などの高エネルギー線照射により架橋反応させる方法、
のいずれをも行うことができる。
【0038】
また、上記各方法の変形法も行うことができる。例えば、上記(1) により半架橋状態の樹脂材料ペレットを作製しておき、そのペレットを用いて、上記(2) や(3) の方法を行うこともできる。
【0039】
このような操作によって、ポリ乳酸系重合体(A)同士の間、ポリエステル系エラストマー(B)同士の間、及び/又はポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル系エラストマー(B)との相互間に架橋構造が形成される。
【0040】
架橋構造の導入の有無については、上記(1) 、(2) については樹脂材料の溶融粘度の上昇などで確認可能である。また、上記(3) の後架橋では、モノフィラメントの物性の変化、溶剤溶解性の変化で確認可能である。
【0041】
本発明においては、ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル系エラストマー(B)とが、それぞれ単独及び/又は相互に架橋構造を有することにより、(A)及び(B)両者の相溶性が改善されると共に、モノフィラメントの耐熱性、耐久性がさらに向上し、モノフィラメントをラケット用ストリングとして用いた場合、張設後のガットの面圧低下も小さくなることが分かった。相溶性の改善によって、モノフィラメントのタテ割れの問題が解消されることが分かった。このように、架橋構造の導入によって、十分な機械的強度を有するモノフィラメントが得られ、ラケット用ストリングとして使用したときにおいても実用上十分な機械的強度を有すると共に、耐久性、耐熱性、反発性、及びテンション保持性が大きく改善されたモノフィラメントが得られる。
【0042】
本発明において、溶融紡糸操作前、あるいは溶融紡糸時に架橋する場合、架橋度が大きすぎると、紡糸、延伸性を悪化させてしまう。
そのため、過酸化物架橋剤を用いる場合は、架橋剤添加は微量として溶融混練することが好ましい。例えば、ポリ乳酸系重合体(A)80〜97重量部、及びポリエステル系エラストマー(B)3〜15重量部に対して、過酸化物架橋剤を0.01〜0.5重量部程度用いることが好ましく、0.1〜0.3重量部程度用いることがより好ましい。
カルボジイミド系架橋剤や、エポキシ系架橋剤の場合は、架橋反応は、ポリエステルの末端の水酸基及び/又はカルボキシル基との反応であって、架橋剤の分子量も高いので、架橋剤量としては、0.05〜5重量部程度用いることが好ましい。
【0043】
本発明者らの検討によれば、溶融紡糸操作前、あるいは溶融紡糸時に架橋する場合においては、架橋剤を上記のような適正量使用した場合、過酸化物架橋剤の使用により、より好ましい結果が得られている。
【0044】
溶融紡糸延伸した後に架橋する場合、アリル又はビニル系架橋剤の量は、ポリ乳酸系重合体(A)80〜97重量部、及びポリエステル系エラストマー(B)3〜15重量部に対して、0.2〜5重量部程度が好ましい。後架橋の方が架橋度は上げることができるが、架橋剤量が過剰であったり、照射エネルギーが強すぎて架橋度合いが過剰となると、強伸度低下が大きくなり、もろくなるため、適正な配合量と照射条件を選定する必要がある。溶融紡糸時の熱に対して安定なアリル又はビニル系架橋剤は、高エネルギー線照射によって後架橋する場合に適している。
【0045】
本発明のモノフィラメントにおいては、他の成分として、必要に応じて、充填剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定剤、顔料、着色剤、静電気防止剤、離型剤、可塑剤、香料、抗菌剤等の各種添加剤等を加えることもできる。
【0046】
また、本発明において、ラケット用ストリングとして十分な強力と耐久性を有するために、モノフィラメントの分子量が重要であり、高い分子量であることが好ましい。クロロホルム溶媒を用いたGPC法で測定したモノフィラメントの好ましい重量平均分子量(Mw)は、50,000〜400,000程度である。これらは、上記で説明した材料を用いて、溶融混練時及び溶融紡糸時に分解の少ない条件、短い溶融時間で、モノフィラメントを製造することで達成される。モノフィラメントの重量平均分子量が、上記範囲を下回ると、機械的物性が不十分となる傾向があり、上記範囲を上回ると、溶融状態における粘度が高く紡糸性が低下する傾向がある。
【0047】
また、モノフィラメントの物性として好ましい範囲は、強度2.5CN/dtex 以上、結節強度1.3CN/dtex 以上、伸度25〜45%である。強度及び結節強度の上限については特に限定されることはない。伸度が前記範囲よりも小さいとタテ割れ、フィブリル化を生じやすく、伸度が前記範囲よりも大きいと伸びやすくなり、ストリングやその他用途で好ましくない。
【0048】
本発明のモノフィラメントは、通常丸型断面形状が一般的であるが、芯部が空洞になった中空形状や多角形など非円形異形断面をしていても構わない。また、2成分を芯鞘、海島状などに複合したモノフィラメントも含まれる。複合モノフィラメントの場合、少なくとも1成分が本発明のモノフィラメントを構成する材料組成であれば良い。
【0049】
本発明のモノフィラメントの(断面の)直径は、特に限定されることなく、目的とする用途に応じて適宜決定すればよい。例えば、ラケット用ストリング用途にモノフィラメントガットとして用いる場合には、0.6mm〜1.50mm程度とすればよい。
【0050】
また、本発明のモノフィラメントをガットの芯成分や皮成分として、あるいは集束して用いることもできる。この場合のモノフィラメント直径は0.05〜1.3mm程度のものが用いられる。
【0051】
また、ラケット用ストリングとしてモノフィラメントをそのまま使用する場合には、必要に応じ、30〜200回/mのヨリ(ねじり)を付与することができる。ヨリを付与することにより、ラケットへの張設性、打ち味とくにソフト感、スピン性が改善される。
【0052】
また、本発明のモノフィラメントをラケット用ストリングの構成成分として、芯糸、皮糸あるいは集束して用いることにより、よりソフトな打ち味を得ることができる。
【0053】
本発明のモノフィラメントの製造方法について説明する。
本発明のモノフィラメントは、重量比で表して、ポリ乳酸系重合体(A)80〜97重量部と、ポリエステル系エラストマー(B)3〜15重量部と、架橋剤(C)0.01〜5重量部とを含む材料を溶融紡糸し延伸する工程と、溶融紡糸前もしくは溶融紡糸時に、又は延伸の後に、架橋反応させる工程とを含む方法によって製造することができる。
【0054】
ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル系エラストマー(B)の混合方法や混合装置は、特に限定されないが、連続的に処理できる方法や装置が工業的には有利で好ましい。例えば、(A)及び(B)の2種類以上のペレット及び架橋剤(C)を所定比率で混合し、そのまま押出成形機のホッパー内に投入し、溶融させ、直ちにモノフィラメントに成形しても良い。また、それら各成分を溶融混合した後、一旦ペレット化し、その後で必要に応じてモノフィラメントに溶融成形してもよい。同じく、ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル系エラストマー(B)をそれぞれ別に押出機などで溶融し、これら及び架橋剤(C)を所定比率で静止混合機及び/又は機械的攪拌装置で混合し、直ちにモノフィラメントに成形しても良く、一旦ペレット化しても良い。押出機などの機械的攪拌による混合と、静止混合機とを組み合わせても良い。
【0055】
均一に混合させるには、一旦ペレット化する方法がより好ましいが、溶融混合法の場合は、ポリマーの分解劣化、変質を実質的に防ぐことが必要で、できるだけ低温で短時間内に混合することが好ましい。溶融押出温度としては、使用する樹脂の融点及び混合比率を考慮して適宜選択するが、通常180〜250℃の範囲である。
【0056】
溶融したポリマー材料はノズル孔から押し出された後、常法通り冷却される。冷却には水が一般的に用いられるが他の溶剤でも良い。水の温度は通常30〜70℃である。ポリマー材料は冷却された後、第1ロールに導かれ未延伸糸が得られる。通常引き続き延伸処理が行われるが、一旦未延伸糸として巻き取った後、延伸処理することもできる。
【0057】
延伸は、湿式又は乾式で行うことができる。ここで湿式とは熱水、スチームのほか、グリセリン、ポリエチレングリコールなどの液浴延伸を含む。乾式とは熱風、赤外線ヒーター、熱板、熱ロールなどによる延伸をいう。延伸は必要に応じ2回以上の多段延伸を行うことができる。標準的な工程としては、湿熱−乾熱、あるいは湿熱−湿熱の2〜3段の延伸を行うがこれに限定されるものではなく、適宜組み合わせ、選択することができる。また、延伸後又は中間段階で定長、又は弛緩熱処理を行うこともできる。延伸温度としては特に限定されないが70〜170℃が好ましい。トータルの延伸倍率は、好ましくは、3〜9倍程度である。延伸倍率を上げると強度は上がるがタテ割れ(フィブリル化)しやすくなる問題がある。特に好ましくは延伸倍率が4〜7倍であり、切断伸度が25%〜45%、特に好ましくは30〜40%となるように条件を設定することが良い。
【0058】
延伸後に架橋処理を行う場合は、紫外線や電子線などの高エネルギー源を用い、架橋することができる。この場合照射条件を変えることにより、架橋密度を変えたり、モノフィラメント表層部のみに架橋を起こさせること等の制御が可能である。本発明によらず架橋剤を使用せずモノフィラメントに電子線などを照射した場合、ポリ乳酸においては分解が先行し、強力低下、伸度低下を招いてしまう。本発明に従って上述したような適正な架橋剤を使用した場合、低エネルギーで架橋反応が分解よりも優先して生じるものと推定される。
【0059】
さらに、モノフィラメントの表面を高分子材料で被覆することにより、ガットとしての耐久性の向上が期待できる。被覆する高分子材料としては、特に限定されないが、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系等の樹脂で被覆することが好ましい。
【0060】
以上、本発明のモノフィラメントについてラケット用ストリング用途を中心に述べた。しかしながら、本発明のモノフィラメントは、ラケット用ストリング用途のほか、モノフィラメント単独又はヨリ糸、組紐として、縫い糸、電気用などの紐、防鳥、防獣用糸、草刈り用、ブラシ、釣り糸などの各種用途にも用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明について実施例及び比較例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。
【0062】
実施例及び比較例において、以下に示す原料を使用した。
<ポリ乳酸系重合体(A1)>
ポリL−乳酸 トヨタ自動車製「トヨタエコプラスチックU'z B1」
Mw=200,000、ガラス転移温度60℃、融点175℃
<ポリエステル系エラストマー(B1)>
東レ・デュポン製「ハイトレル3078」 融点172℃
<過酸化物架橋剤(C1)>
化薬アクゾ製「カヤヘキサAD40C」(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン)
<エポキシ系架橋剤(C2)>
東亞合成製「アルフォン UG4070」(エポキシ変性スチレンアクリル樹脂)
<カルボジイミド系架橋剤(C3)>
日清紡製「カルボジライト LA−1」
<アリル系架橋剤(C4)>
日本化成製 トリアリルイソシアヌレート(TAIC)
<脂肪族ポリエステル(B2)比較用柔軟成分>
ポリ乳酸−脂肪族ポリエステル共重合体(大日本インキ製「Plamate PD−150」)
【0063】
[実施例1〜3]
ポリ乳酸(A1)とポリエステル系エラストマー(B1)とを各々真空乾燥した後、表1に示すように(A1)、(B1)及び所定の架橋剤を、重量混合比(A1)/(B1)/(C1)=92/8/0.2(実施例1)、(A1)/(B1)/(C2)=92/8/1.0(実施例2)、(A1)/(B1)/(C3)=92/8/1.0(実施例3)にてV型ブレンダーで混合した。これを210℃に設定された30mm同方向2軸押出混練機に連続的に供給して溶融押出し、ストランド化、ペレタイズ化して紡糸原料を準備した。
【0064】
得られた原料を乾燥した後、温度210℃に設定した単軸溶融押出機に供給し、直径3mmの円形ノズルから押出して第1ローラーで引取りながら、ノズル直下で50℃に設定された冷却水槽に導いて冷却し、未延伸モノフィラメントを得た。
【0065】
これに連続して、93℃に温度設定された熱水の第1延伸槽に導いて、さらに第2ローラーにて引取速度比を4.2倍として延伸した。続いて、このモノフィラメントを98℃に温度設定された熱水第2延伸槽に導いて、さらに第3ローラーにて引取速度比1.5倍として延伸し(最終延伸倍率6.3倍)し、さらに98℃熱水中で熱固定(同速度)して巻取機により巻き取った。
【0066】
得られたモノフィラメントの物性評価結果を表1に示す。強力(N)、強度(CN/Dtex) 、結節強力(N)及び伸度(%)は、JIS L 1013に準じて測定した。すなわち、引張試験機を用い、糸長さ250mm、引張速度300mm/分の条件で測定した。
【0067】
また、次のようにして、得られたモノフィラメントをガットとして耐久性と耐熱性を評価した。評価結果を表1に併せて示す。
【0068】
(耐久性試験)
モノフィラメントにシリコーン系油剤を付与してガットを得た。得られたガットを40ポンドの張力でテニスラケットに張設し、これに硬式テニスボールを衝突させ(ボール速度100km/hr)、ストリングが切断するまでのボールの衝突回数を測定した。この衝突回数を耐久性の評価とした。
【0069】
(耐熱性試験)
上記のガットを40ポンドの張力でテニスラケットに張設し、24時間室温放置した。放置後のラケットを70℃雰囲気中で16時間熱処理した。熱処理後、ラケットを取り出して面圧を測定し、熱処理前の面圧に対する保持率を求めた。
(保持率)=[(熱処理後の面圧)/(熱処理前の面圧)]×100
保持率50%以上:○
保持率25%以上50%未満:△
保持率25%未満:×
で判定した。
【0070】
[比較例1]
ポリエステル系エラストマー(B1)の代わりに脂肪族ポリエステル(B2)を用いて、重量混合比(A1)/(B2)/(C1)=92/8/0.2とした以外は、実施例1と同条件の操作でモノフィラメントを製造した。得られたモノフィラメントの評価結果を表1に示す。比較例1のモノフィラメントは、実施例1〜3のモノフィラメントに比べ透明であった。
【0071】
[比較例2]
架橋剤を添加しなかった以外は、実施例1と同条件の操作でモノフィラメントを製造した。得られたモノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0072】
表1から、実施例1〜3のモノフィラメントは、ポリ乳酸−脂肪族ポリエステル共重合体を用いた比較例1のモノフィラメントや、架橋剤を添加しなかった比較例2のモノフィラメントに比べ、耐久性、耐熱性が著しく向上したことが明らかである。実施例1〜3の中では、過酸化物架橋剤を用いた実施例1が最も良い結果が得られた。
【0073】
[実施例4]
ポリ乳酸(A1)とポリエステル系エラストマー(B1)とを各々真空乾燥した後、表1に示すように(A1)、(B1)及び架橋剤トリアリルシアヌレート(C4)を、重量混合比(A1)/(B1)/(C4)=92/8/1.0にてV型ブレンダーで混合した。これを210℃に設定された30mm同方向2軸押出混練機に連続的に供給して溶融押出し、ストランド化、ペレタイズ化して紡糸原料を準備した。
【0074】
得られた原料を用いて、実施例1と同条件の操作でモノフィラメントを製造した。得られた未架橋モノフィラメントの評価結果を表1に示す。この未架橋状態では、耐熱性は劣っていた。
【0075】
次に、未架橋モノフィラメントに電子線を照射して架橋させた。電子線照射条件は、15kGy、30kGyの2通りで行った。評価結果を表1に示す。架橋によって、モノフィラメントの耐熱性が向上した。
【0076】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量比で表して、ポリ乳酸系重合体(A)80〜97重量部と、ポリエステル系エラストマー(B)3〜15重量部と、架橋剤(C)0.01〜5重量部とを含む材料から形成されたモノフィラメント。
【請求項2】
ポリエステル系エラストマー(B)は、芳香族含有ポリエステル成分からなるハードセグメントと、ポリエーテルグリコール成分又は脂肪族ポリエステル成分からなるソフトセグメントとのポリエステルブロック共重合体である、請求項1に記載のモノフィラメント。
【請求項3】
ポリエステル系エラストマー(B)の融点は150〜190℃である、請求項1又は2に記載のモノフィラメント。
【請求項4】
架橋剤(C)は、過酸化物架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、エポキシ系架橋剤、及び、アリル又はビニル系架橋剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載のモノフィラメント。
【請求項5】
架橋剤の反応により架橋構造を有している、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載のモノフィラメント。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載のモノフィラメントからなるラケット用ストリング。
【請求項7】
請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載のモノフィラメントが構成部材の一部として用いられているラケット用ストリング。
【請求項8】
重量比で表して、ポリ乳酸系重合体(A)80〜97重量部と、ポリエステル系エラストマー(B)3〜15重量部と、架橋剤(C)0.01〜5重量部とを含む材料を溶融紡糸し延伸する工程と、
溶融紡糸前もしくは溶融紡糸時に、又は延伸の後に、架橋反応させる工程と、
を含むモノフィラメントの製造方法。

【公開番号】特開2007−138358(P2007−138358A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336868(P2005−336868)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504094660)株式会社ゴーセン (11)
【Fターム(参考)】