説明

ポリ乳酸系不織布

【課題】本発明は、連続繊維からなる不織布を得るときに、製糸性および開繊性が良好であり、かつ、実用に供することのできる耐加水分解性、一定期間経過後の強度を十分に保持しうるポリ乳酸系不織布を提供することを技術的な課題とするものである。
【解決手段】 連続繊維によって構成される不織布であって、連続繊維は芯鞘複合形態であり、芯部にはポリ乳酸系重合体が配され、該ポリ乳酸系重合体にはカルボジイミド化合物およびハイドロタルサイトが含まれており、鞘部にはカルボジイミド化合物を含まない熱可塑性重合体が配されていることを特徴とするポリ乳酸系不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ乳酸系不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、生活資材や産業・土木資材、農業資材などの素材としてポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミドなどの熱可塑性重合体からなる種々の不織布が知られている。しかし、これらの不織布は石油由来の原料より製造されているものであり、焼却時の高い燃焼熱、発生する温室効果ガス等、自然環境保護の観点から見直しが必要とされている。
【0003】
その中でも、生分解性プラスチックであるポリ乳酸は、トウモロコシを原料とするバイオマスであり、その炭素源は大気中から取り込んだ二酸化炭素であることからカーボンニュートラルの材料として注目されている。また、生分解性プラスチックの中でも、力学特性、耐熱性に優れ、量産化も進んでいることからコストの問題も解消されつつあり、これを利用した繊維等の成形品の開発が種々行われている。
【0004】
ポリ乳酸繊維の開発は、生分解性を活かした農業資材や土木資材等が先行している。それに続く大型の用途としては衣料用途、カーテン、カーペット等のインテリア用途、車両内装用途等へも期待されている。
【0005】
一方、ポリ乳酸は高い加水分解性を有することから、通常の使用においても場合によっては加水分解が進行して強力の低下が生じることがある。このため汎用品として使用する場合に、製品寿命が短い場合があるという問題がある。また、ポリ乳酸繊維を染色しようとすると、染色時に高温状態(110℃以上)に晒されることから加水分解が急激に進み、染色した繊維を用いた布帛では引裂強力が実用レベルを満たさないという問題もある。なお、ポリ乳酸の加水分解によって生じるカルボキシル末端は、遊離プロトンを発生させる。この遊離プロトンはエステル結合の加水分解の触媒となり、ポリ乳酸の分子量低下をより加速してしまうため、強度劣化が加速することとなる。
【0006】
この問題を解決する方法として特許文献1にはカルボジイミド系化合物でポリ乳酸重合体のカルボキシル末端を封鎖することによる耐加水分解性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−261797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、連続繊維からなる不織布を得るときに、製糸性および開繊性が良好であり、かつ、実用に供することのできる耐加水分解性、一定期間経過後の強度を十分に保持しうるポリ乳酸系不織布を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を達成するために検討した結果、カルボキシル末端を封鎖する剤として知られるカルボジイミド化合物に、さらにハイドロタルサイトを併用してポリ乳酸系重合体に添加することにより、上記課題が達成しうることを見出し本発明に到達した。さらに、カルボジイミド化合物等が添加されたポリ乳酸系重合体を芯部に配してその周囲をカルボジイミド化合物が添加されていない熱可塑性重合体で被覆した形態で製糸すれば、製造時にカルボジイミド化合物に起因する刺激臭の発生を抑えることができることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、連続繊維によって構成される不織布であって、連続繊維は芯鞘複合形態であり、芯部にはポリ乳酸系重合体が配され、該ポリ乳酸系重合体にはカルボジイミド化合物およびハイドロタルサイトが含まれており、鞘部にはカルボジイミド化合物を含まない熱可塑性重合体が配されていることを特徴とするポリ乳酸系不織布を要旨とするものである。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明におけるポリ乳酸系重合体としてはポリ(D−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、D−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体との中から選ばれるいずれかの重合体またはこれらのブレンド体を用いることができる。また乳酸と共重合させるヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシカプリル酸などが挙げられるが、この中でも特にヒドロキシカプロン酸やグリコール酸が低コスト化の点から好ましい。
【0013】
本発明におけるポリ乳酸系重合体の融点は150℃以上であることが好ましい。融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体は高い結晶性を有していることから、耐熱性が良好で熱収縮率が小さく、安定して熱加工することができる不織布となる。ポリ乳酸のホモポリマーであるポリ−L−乳酸やポリ−D−乳酸の融点は約180℃であるが、ホモポリマーではなく共重合体を用いる場合は融点が150℃以上となるようにモノマーの共重合比率を決定する必要がある。具体的にはL−乳酸とD−乳酸との共重合体において、L−乳酸とD−乳酸のモル比で(L−乳酸)/(D−乳酸)=5/95〜0/100あるいは(L−乳酸)/(D−乳酸)=95/5〜100/0のものを用いるとよい。共重合比率がこの値を外れると融点が150℃未満となり非晶性が高くなり本発明の目的を達成し得ないことがある。
【0014】
本発明の不織布は、芯鞘複合形態の連続繊維によって構成され、連続繊維の芯部には上記したポリ乳酸系重合体が配され、該ポリ乳酸系重合体にはカルボジイミド化合物およびハイドロタルサイトが含まれている。
【0015】
本発明において用いられるカルボジイミド化合物としては、モノカルボジイミド、ポリカルボジイミドが挙げられ、一般的に良く知られた方法で合成されたものを使用すればよい。しかし、溶融紡糸時の高温状態に耐えることができ熱劣化等が生じにくいものでなければ、紡糸性や操業性を悪化させることとなり、また、本発明の効果を発揮することも望めない。本発明において、カルボジイミド化合物の含有量は、ポリ乳酸系重合体を100質量部としたときに、0.1〜1.5質量部であることが好ましく、この範囲内において要求される耐加水分解性に応じて適宜含有量を決めればよい。カルボジイミド化合物の含有量が0.1質量部より少ないと、目的とするポリ乳酸系不織布の耐加水分解性の向上を十分に奏することができない。一方、1.5質量部より多いと、製糸性の悪化や、カルボジイミド化合物から分解ガスが多く発生することとなり操業性が悪化する。このような理由から、さらに好ましい範囲は0.5質量部〜1質量部である。
【0016】
本発明において用いられるハイドロタルサイトは、ポリ乳酸系重合体100質量部に対して、0.1〜3質量部の範囲でポリ乳酸系重合体に含有される。ポリ乳酸系重合体にハイドロタルサイトを含有させることにより、溶融紡糸において、ポリ乳酸系重合体の結晶化を促進させる働きを担わせることができる。また、ポリ乳酸系重合体中にカルボジイミド化合物とともにハイドロタルサイトを含有させることにより、加水分解による分子量低下を抑制する効果があると推定する。したがって、ハイドロタルサイトを含有させたポリ乳酸系重合体を用いることにより、製糸性が良好となり、また、得られる不織布において、実用に供することのできる耐加水分解性を付与することができる。ハイドロタルサイトの含有量が0.1質量部未満となると、ハイドロタルサイトを含有する効果を十分に奏することができず、一方、3質量部を超えると糸条の強力が低下する傾向となる。
【0017】
カルボジイミド化合物やハイドロタルサイトをポリ乳酸系重合体に含有させる方法としては、ポリ乳酸系重合体チップとカルボジイミド化合物あるいはハイドロタルサイトとを混練機により混合させて一旦マスターチップを作成しておき、マスターチップとポリ乳酸系重合体チップとをチップブレンド(マスターバッチ法)して溶融紡糸する方法、乾燥した粉末状のカルボジイミド化合物およびハイドロタルサイトを直接、ポリ乳酸系重合体チップに添加して混合(ドライブレンド法)してから溶融紡糸する方法、また、予めポリ乳酸系重合体チップとカルボジイミド化合物あるいはハイドロタルサイトとを溶融混練により混合しチップ化し、このチップを用いて溶融紡糸してもする方法(コンパウンド法)が挙げられる。
【0018】
本発明に用いるポリ乳酸系重合体には、本発明の目的を妨げない範囲において、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、難燃剤、滑剤、安定剤などの添加剤を添加してもよい。ただし、本発明で用いるカルボジイミド化合物は縮合剤であることから、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基などの置換基を有する薬剤を添加する場合は、副反応が増加することになり、本目的以外に薬剤が消費されるため、本発明の効果を含め、添加剤の効果を十分に得られなくなる恐れがあるため、薬剤の選定、添加量には注意する。
【0019】
本発明における連続繊維は、上記したようにカルボジイミド化合物とハイドロタルサイトとを含むポリ乳酸系重合体が芯部を形成しており、その芯部を、カルボジイミド化合物を含まない熱可塑性重合体が被覆した芯鞘複合形態の横断面形状を呈している。なお、芯鞘複合形態であれば、横断面の形状は、円形、楕円形、多角形、多葉形、中空形等、いずれの断面形状であってもよい。
【0020】
本発明においては、連続繊維の形態を芯鞘複合とすることによって、カルボジイミド化合物を含むポリ乳酸系重合体を、カルボジイミド化合物を含まない熱可塑性重合体が完全に被覆する形で紡糸することになるため、すなわち、芯鞘複合形態であることと、連続繊維であることにより、繊維の端部以外は、ポリ乳酸系重合体は繊維表面に露出していないため、製造時においてはカルボジイミド化合物に起因する刺激臭の発生を抑えることができ、また、芯部のポリ乳酸系重合体が加水分解することを効果的に抑制することができる。
【0021】
本発明における連続繊維の鞘部に配する熱可塑性重合体としては、製糸性を有するものであれば特に限定するものではなく、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体等が挙げられる。鞘部の熱可塑性重合体の融点が、芯部に配するポリ乳酸系重合体の融点よりも高すぎると、溶融紡糸工程において、ポリ乳酸系重合体が熱分解を起こしやすく、ポリ乳酸系重合体の熱分解によって紡糸口金面の汚れが付着するなど操業性が損なわれる恐れがあることから、鞘部の熱可塑性重合体の融点は230℃以下であることが好ましく、さらには200℃以下であることが好ましい。
なかでも、高い耐久性を有すること、連続繊維に柔軟性を付加することができることから、鞘部の熱可塑性重合体はポリオレフィン系重合体であることが好ましく、特にポリエチレンまたはポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0022】
ポリエチレンとしては、ASTM D 1238(E)に記載の方法に準じて測定したメルトインデックス(以下、MIと略記する。)が5〜90g/10分の範囲であるポリエチレンが好適に用いられる。MIが5g/10分未満のポリエチレンでは、溶融紡糸の際に、溶融温度を極端に高くしなければ溶融紡糸しにくく、このような極端な高温下での溶融紡糸では、原料の熱分解を促進させ紡糸口金面に汚れが付着しやすく、操業性が著しく損なわれるため好ましくない。一方、MIが90g/10分を超えると、強度の高い繊維を得ることができにくい。以上のごとき理由によって、さらには20〜80g/10分のポリエチレンを用いることが好ましい。
【0023】
ポリプロピレンとしては、ASTM−D−1238(L)に記載の方法に準じて測定したメルトフローレート(以下、MFRと略記する。)が5〜90g/10分のポリプロピレンが好適に用いられる。MFRが5g/10分未満のポリプロピレンを用いると、上記したポリエチレンのMIが5g/10分未満の場合と同様の理由により好ましくない。一方、ポリプロピレンのMFRが80g/10分を超える場合もまた、ポリエチレンのMIが90g/10分を超える場合と同様の理由により好ましくない。以上のごとき理由によって、さらには20〜80g/10分のポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0024】
ポリオレフィン系重合体は、チーグラーナッタ触媒もしくはメタロセン触媒いずれの触媒を用いて重合されたものであってもよい。メタロセン触媒を用いて重合されたポリオレフィンは、重合体の分子量をコントロールすることが容易であり、分子量分布をシャープにすることができるため、不織布を熱処理する場合に、熱処理温度を決定しやすい。
【0025】
連続繊維の芯鞘複合形態における芯部と鞘部の複合比率は、不織布の用途等に応じて適宜選択すればよいが、質量比で芯/鞘=1/5〜5/1であることが好ましく、更には1/3〜3/1の範囲であることが好ましい。特に、芯/鞘の比率が5/1を超えるにつれて、鞘部による被覆箇所が厚みが薄くなることから、芯鞘構造にすることによる耐久性の向上等の効果が十分に奏しにくくなる。
【0026】
本発明のポリ乳酸系不織布を構成する繊維の単糸繊度は1〜10デシテックスであることが好ましい。さらには1.5〜8デシテックスであることが好ましい。単糸繊度が1デシテックス未満であると、紡糸工程において糸切れが発生するなど操業性が悪化する傾向となる。一方、10デシテックスを超えると紡出糸条の冷却性に劣るため、紡出糸条同士が密着しやすく、開繊性に劣る傾向となる。
【0027】
本発明のポリ乳酸系不織布の目付は、用途や目的に応じて適宜選択すればよく、特に限定するものではないが、一般的には10g/m2以上であることが好ましい。目付が10g/m2以下では柔軟性に優れるものの、機械強力に劣る傾向となり、破れが生じやすくなる。上限は特に限定されないが800g/m2程度である。
【0028】
本発明のポリ乳酸系不織布の不織布化形態としては、構成繊維同士が熱により接着した熱接着不織布、ニードルパンチ法やスパンレース法などによって構成繊維同士が機械的に交絡してなる交絡不織布等が挙げられる。また、種々のボンディング方法を併用してなるものであってもよい。生産性や機械的強力を考慮すると、構成繊維同士が熱により接着した熱接着不織布であることが好ましい。
【0029】
熱接着の方法は、具体的には、加熱されたエンボスロールと表面が平滑なフラットロール、あるいは加熱された一対のエンボスロールの間、あるいは加熱された一対のフラットロールの間に繊維ウェブを通して、繊維の一部を熱により軟化または溶融させて構成繊維間を接着する方法である。エンボスロールの柄はそのまま熱接着部の形状となるが、その形状もまた特に限定するものではなく、散点状でも直線状、格子状など直線的な形状であってもよい。散点状の場合、丸形、楕円形、菱形、三角形、T字形、井形、長方形、正方形などいかなる形態でもよい。接着点の大きさ、密度は目的によって適宜選択すればよいが、接着点の大きさは0.1〜1.0mm2、接着点密度は2〜80個/cm2がよい。個々の接着部の大きさが0.1mm2未満であったり、接着点密度が2個/cm2未満であったりすると、接着点面積が少ないために機械的強度に劣る傾向となる。また、接着部の大きさが1.0mm2を超える場合や、接着点密度が80個/cm2を超える場合、接着点の面積が大きいために得られる不織布の柔軟性や嵩高性が低下する傾向となる。
【0030】
次に、本発明のポリ乳酸系不織布の好ましい製造方法について説明する。本発明のポリ乳酸系不織布は、紡糸工程と不織布化工程が連続工程にて行われるスパンボンド法によって効率よく製造することができる。まず、芯部となるポリ乳酸系重合体にカルボジイミド化合物とハイドロタルサイトとを混合した芯成分を用意し、一方、鞘部の熱可塑性重合体を用意し、所定の質量比となるようにそれぞれの成分を個別に計量した後、溶融させて、芯鞘型複合紡糸口金より紡出する。紡出された糸条は冷却空気流などの公知の冷却装置によって冷却し、エアーサッカーなどの公知の引き取り手段によって目標繊度となるように牽引細化して引き取る。牽引細化した連続繊維群は公知の開繊装置にて開繊せしめた後、スクリーンコンベアなどの移動式捕集面上に開繊堆積させて連続繊維ウェブとする。この得られた連続繊維ウェブを熱接着装置に通して、繊維同士を熱接着することで目的とするポリ乳酸系不織布を得る。
【0031】
エアーサッカーによる牽引速度は3500〜7000m/分の範囲であることが好ましい。牽引速度が遅すぎると重合体の分子配向が十分に進まず、得られる不織布の機械的性能、寸法安定性に劣るものとなる。一方、速すぎると紡糸の安定性に劣り、糸切れが発生しやすくなり、操業性が悪化する傾向がある。
【0032】
熱接着時における加熱ロールの表面温度は、鞘部の熱可塑性重合体の融点(Tm)に対して、(Tm−60)〜Tm℃の範囲であることが好ましい。ロール表面温度が低すぎる場合、熱接着が十分に行われず、機械的性能および寸法安定性の低下を招く傾向がある。一方、ロール表面温度が高すぎる場合、繊維が溶融しロール表面に付着して操業性が損なわれる恐れがある。熱処理を施して得られた不織布には、必要に応じてバインダー樹脂などをディップ法、コーティング法、泡含浸法などの方法で付与してもよい。また、付与するバインダー樹脂はその目的に合わせて適宜選択すればよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、ポリ乳酸系重合体に、カルボジイミド化合物とハイドロタルサイトとを添加することにより、製糸性が良好となり、かつ、耐加水分解性が良好となる。また、カルボジイミド化合物等を含むポリ乳酸系重合体を芯部に配し、カルボジイミド化合物を含まない熱可塑性重合体を鞘部に配してカルボジイミド化合物を含むポリ乳酸系重合体を被覆した芯鞘複合形態である連続繊維を採用したことにより、製造時においてはカルボジイミド化合物に起因する刺激臭の発生を抑えることができ製造現場での作業環境を正常に保つことができ、また、得られた不織布においては芯部のポリ乳酸系重合体が加水分解することを効果的に抑制することができる。したがって、本発明によると、時間経過に伴う強度低下が生じ難く、実用性の高いポリ乳酸系不織布を提供することが可能となる。
【実施例】
【0034】
次に実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例によってなんら限定されるものではない。実施例に記載した各種物性は以下の測定方法で求めた。
(1)融点(℃)
パーキンエルマ社製示差走査型熱量計を用いて試料質量を5mg、昇温速度を10℃/分として測定し、得られた融解吸熱曲線の最大値を与える温度を融点(℃)とした。
【0035】
(2)目付(g/m
標準状態の試料長20cm、試料幅5cmの試料片5点を準備し、各試料の試料片の質量(g)を秤量し、得られた値を単位面積当たりに換算し、目付(g/m)とした。
【0036】
(3)耐加水分解性評価
試料(不織布)を、温度60±5℃、相対湿度95±5%中の恒温恒湿器内に投入して所定時間、高温高湿状態中に曝露した後、取り出し、引張強力(N/5cm幅)を測定して求めた。引張強力は、JIS L 1906に準じて、試料長20cm、試料幅5cmの試料片を5点作成し、各試料について定速伸張型引張試験器(オリエンテック社製テンシロンUTM−4−1−100)を用い、つかみ間隔10cm、引張速度20cm/分で伸張し、得られた切断時破断荷重(N/5cm幅)の平均値を引張強力(N/5cm幅)とした。なお、強力を測定する際に、試料の機械方向(MD)および機械方向と直交する方向(CD)のいずれも測定した。
耐加水分解性の評価方法としては、恒温恒湿槽投入前の初期引張強力をS0、所定時間投入後の引張強力をS1として、下記式により強力保持率を算出した。
強力保持率(%)=(S1/S0)×100
【0037】
実施例1
融点174℃、MFR21g/10分(ASTM−D−1238に記載の方法に準じて溶融温度を210℃、荷重2160gfとして測定。)、L−乳酸/D−乳酸=99.6/0.4(モル%)のポリ乳酸系重合体を用意した。このポリ乳酸系重合体100質量部に対して、ハイドロタルサイト(DHT−4A−2、協和化学工業社製)0.5質量部、カルボジイミド化合物(EN160、松本油脂社製製)0.5質量部を添加したものを芯成分とした。
【0038】
一方、鞘部に配する熱可塑性重合体として、融点129℃、MI25g/10分、密度0.95g/mの高密度ポリエチレンを用意した。
【0039】
芯部と鞘部の重量比が芯/鞘=1/1となるように上記重合体を計量し、個別のエクストルーダー型溶融押出機を用いて220℃で溶融し、芯鞘型紡糸口金を用いて、単孔吐出1.3g/分で溶融紡糸した。紡出された糸条を公知の冷却装置にて冷却し、エアーサッカーを用いて牽引速度4200m/分で牽引細化し、公知の開繊装置にて開繊した。開繊した糸条を移動しているスクリーンコンベア上に捕集し、芯鞘複合形態の連続繊維からなるウェブを得た。連続繊維の単糸繊度は2.8デシテックスであった。
【0040】
得られたウェブは、表面温度を120℃に設定した熱エンボス装置で熱圧接し、目付50g/mのポリ乳酸系不織布を得た。得られたポリ乳酸系不織布の耐加水分解性評価の結果を表1に示す。得られた不織布は、耐加水分解性評価において、高温高湿状態に600時間曝露した後であっても強力低下は非常に小さく、耐加水分解性に優れたものであった。
【0041】
比較例1
実施例1において、ポリ乳酸系重合体100質量部に対して、カルボジイミド化合物0.5質量部のみを添加し、ハイドロタルサイトを添加しなかったポリ乳酸系重合体を用い、高密度ポリエチレンは用いずに、エクストルーダー型溶融押出機を用いて210℃で溶融し、単相型の紡糸口金を用いて、単孔吐出量1.7g/分で溶融紡糸して、不織布を製造しようとしたが、紡糸口金より紡出された糸条は冷却されにくく、エアーサッカーに導入しようとしても繊維同士が密着し、良好に製糸できず、不織ウェブを得ることを断念した。
【0042】
比較例2
実施例1において、ポリ乳酸系重合体100質量部に対して、ハイドロタルサイト0.5質量部のみを添加し、カルボジイミド化合物を添加しなかったポリ乳酸系重合体を用い、高密度ポリエチレンは用いずに、エクストルーダー型溶融押出機を用いて210℃で溶融し、単相型の紡糸口金を用いて単孔吐出量1.7g/分で溶融紡糸したこと、牽引速度を5500m/分としたこと、熱エンボス装置の設定温度を130℃としたこと以外は、実施例1と同様にして不織布を製造し、目付50g/mのポリ乳酸系不織布を得た。得られたポリ乳酸系不織布の耐加水分解性評価の結果を表1に示す。得られた不織布は、耐加水分解性評価において、高温高湿状態に400時間曝露後に強力が大きく低下し、600時間後ではほぼ強力がなくなった。
【0043】
比較例3
実施例1において、ポリ乳酸系重合体100質量部対して、カルボジイミド化合物を添加せずにハイドロタルサイト0.5質量部のみを添加したこと以外は実施例1と同様にして不織布の製造し、目付50g/mのポリ乳酸系不織布を得た。得られたポリ乳酸系不織布の耐加水分解性評価の結果を表1に示す。得られた不織布は、耐加水分解性評価において、高温高湿状態に600時間曝露後では初期強力の3〜4割程度に低下していた。
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続繊維によって構成される不織布であって、連続繊維は芯鞘複合形態であり、芯部にはポリ乳酸系重合体が配され、該ポリ乳酸系重合体にはカルボジイミド化合物およびハイドロタルサイトが含まれており、鞘部にはカルボジイミド化合物を含まない熱可塑性重合体が配されていることを特徴とするポリ乳酸系不織布。
【請求項2】
ポリ乳酸系重合体中のカルボジイミド化合物およびハイドロタルサイトのそれぞれの含有量が、ポリ乳酸系重合体100質量部に対し、カルボジイミド化合物が0.1〜1.5質量部、ハイドロタルサイトが0.1〜3質量部であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系不織布。
【請求項3】
鞘部の熱可塑性重合体がポリオレフィン系重合体であることを特徴とする請求項1または2記載のポリ乳酸系不織布。


【公開番号】特開2012−167399(P2012−167399A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28593(P2011−28593)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】