説明

ポリ乳酸系二軸延伸フィルム

【課題】透明性、柔軟性、耐屈曲性に優れ、しかも、生産工程におけるラクチドなどのブリードアウトを抑制できるポリ乳酸系延伸フィルムを提供する。
【解決手段】ポリ乳酸(A)、乳酸成分を30〜70質量%含むポリ乳酸系共重合ポリマー(B)、及びゴム状成分(C)を含む樹脂組成物から構成されたポリ乳酸系二軸延伸フィルムであって、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸系共重合ポリマー(B)の質量比が60〜90/40〜10であり、ゴム状成分(C)の含有量が、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸系共重合ポリマー(B)の合計量100質量部に対して、5〜30質量部の範囲であり、ラクチド量が0.5質量%以下であるポリ乳酸系二軸延伸フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、柔軟性、耐屈曲性に優れるポリ乳酸系延伸フィルムに関するものであり、しかも、生産工程や長期保存時のブリードアウトを抑制できるポリ乳酸系延伸フィルムを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
新聞・雑誌・食品などの包装材料として使用されるフィルムは、近年の環境保全に関する社会的要求の高まりに伴い、生分解性ポリマーにて形成されることが望まれている。中でも自然界に広く存在し、動植物や人畜に対して無害なポリ乳酸は、融点が140〜175℃であり十分な耐熱性を有し、非常に高い透明性を有するとともに、比較的安価な熱可塑性樹脂であり、また植物由来原料であるため、大きな注目を集めている。
【0003】
しかし、ポリ乳酸からなるフィルムは、そのままでは非常に固く脆い性質をもつために、耐衝撃性や耐屈曲性が必要とされる分野に使用することは困難であった。
【0004】
ポリ乳酸の耐衝撃性を改良するために、種々の研究が行われている。例えば、特許文献1では耐衝撃性を改良する目的で、乳酸系樹脂とシリコーンアクリル複合ゴムとを含有する樹脂組成物からなるフィルムが開示されており、特許文献2では重量平均分子量5万以上のポリ乳酸樹脂とポリ(メタ)アクリレート及び/又はガラス転移温度が60℃以上のポリビニル化合物とを配合し、前記ポリ(メタ)アクリレート及び/又はガラス転移温度が60℃以上のポリビニル化合物にさらに耐衝撃改良剤を添加した樹脂組成物からなる成形品が開示されている。
【0005】
一方、特許文献3ではポリ乳酸をベースに、可塑剤として脂肪族二塩基酸ジエステルを含有し、さらに前記ポリ乳酸と屈折率が実質的に同等であるゴム系ポリマーが配合されてなる樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−232929号公報
【特許文献2】特開2006−328369号公報
【特許文献3】特開2008−94878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載の処方で得られたフィルムは、その耐衝撃性は改良されるものの、柔軟性に乏しく、風合いに劣り、さらに、ポリ乳酸の長所である透明性も損なわれるため、食品用フィルムや工業用フィルムなどの従来から知られた用途に用いるには困難があった。そのため、ポリ乳酸からなる延伸フィルムにおいて、耐衝撃性の向上のみならず、柔軟性や耐屈曲性の向上が求められている。
【0008】
また、特許文献3の処方による樹脂組成物は、搬送チューブ等の押出成形品において柔軟性は向上するものの、透明性の悪化を解消するには至っておらず、さらに、フィルム生産の際や長期保存時において、樹脂組成物に含有されるラクチドや低分子量の可塑剤が系外にブリードアウトする問題があった。
【0009】
本発明は従来技術の前記問題点を解決し、透明性、柔軟性、耐屈曲性に優れ、しかも、生産工程や長期保存時のブリードアウトを抑制できるポリ乳酸系延伸フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち、ポリ乳酸(A)に、乳酸成分を特定量含有したポリ乳酸系共重合ポリマー(B)と、ゴム状成分(C)とを特定量配合し、フィルム中に含まれるラクチド量を0.5質量%以下にすることにより、高い透明性、柔軟性、および耐屈曲性を付与することができ、製膜時の操業性に優れたポリ乳酸系延伸フィルムが提供されることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、ポリ乳酸(A)と、乳酸成分を30〜70質量%含むポリ乳酸系共重合ポリマー(B)、及びゴム状成分(C)を含む樹脂組成物から構成されたポリ乳酸系二軸延伸フィルムであって、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸系共重合ポリマー(B)の質量比が60〜90/40〜10であり、ゴム状成分(C)の含有量が、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸系共重合ポリマー(B)の合計量100質量部に対して、5〜30質量部の範囲であり、ラクチド量が0.5質量%以下であるポリ乳酸系二軸延伸フィルムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリ乳酸系二軸延伸フィルムは、ポリ乳酸(A)に、相溶性の高いポリ乳酸系とも重合ポリマー(B)と、ゴム状成分(C)を配合することで、ポリ乳酸フィルムの本来有する高い透明性が維持された二軸延伸フィルムが得られるうえに、柔軟性、耐屈曲性に優れ、また、ブリードアウトが抑制されている。さらに、フィルム製造時の操業安定性にも優れているので工業的に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明のポリ乳酸系二軸延伸フィルムは、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸系共重合ポリマー(B)とゴム状成分(C)を構成成分とする樹脂組成物にて形成される必要がある。
【0015】
ポリ乳酸(A)としては、乳酸の構造単位がL−乳酸であるポリL−乳酸、構造単位がD−乳酸であるポリD−乳酸、L−乳酸とD−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、またはこれらの混合体が挙げられる。その重量平均分子量が15万〜30万の範囲にあることが好ましく、より好ましくは16万〜20万である。主成分であるポリ乳酸の重量平均分子量が15万未満であると得られるフィルムは機械的特性に劣るものになり、重量平均分子量が30万を超えると溶融粘度が高くなりすぎて溶融押出が困難となる。
【0016】
ポリ乳酸(A)は、結晶性ポリ乳酸と非晶性ポリ乳酸とを併用することができるが、ポリ乳酸の結晶化による製膜安定性と耐熱性の確保を考慮すると、結晶性ポリ乳酸を用いるのが好ましい。ここでいう結晶性ポリ乳酸とは、140〜175℃の範囲の融点を有するポリ乳酸樹脂を指し、非晶性ポリ乳酸とは実質的に融点を保有しないポリ乳酸樹脂を指す。結晶性ポリ乳酸と非晶性ポリ乳酸との配合割合は、質量比で(結晶性ポリ乳酸)/(非晶性ポリ乳酸)=80/20〜100/0(質量%)の範囲にあることが好ましい。結晶性ポリ乳酸の配合割合が80質量%未満であると、ポリ乳酸の結晶化に劣るため安定した製膜が行えない。
【0017】
ポリ乳酸系共重合ポリマー(B)は乳酸成分を30〜70質量%含むことが必要である。乳酸成分が70質量%を超えると、得られるフィルムの柔軟性を付与するためにポリ乳酸系共重合ポリマー(B)を多量に使用する必要があり好ましくない。乳酸成分が30質量%未満であると、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸系共重合ポリマー(B)との相溶性が低くなり、得られるフィルムの透明性は悪くなり、好ましくない。
【0018】
ポリ乳酸系共重合ポリマー(B)を構成する乳酸成分は、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸のいずれかであればよいが、ポリ乳酸(A)の主成分をなす乳酸系樹脂の構造単位と同じ構造のものが特に好ましい。
【0019】
乳酸成分以外の共重合成分としては、ジカルボン酸とジオールからなるポリエステルか、もしくはポリエーテルであることが好ましい。
【0020】
前記ポリエステルを構成するジカルボン酸成分は特に限定されないが、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンなどを挙げることができる。ポリ乳酸との相溶性の面から炭素数が10以下のジカルボン酸が好ましい。
【0021】
前記ポリエステルを構成するジオール成分は特に限定されないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールAやビスフェノールSのエチレンオキシド付加体などを挙げることができる。ポリ乳酸との相溶性の面から炭素数が10以下のグリコールが好ましい。
【0022】
また、ポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールが挙げられる。ポリエーテルの重量平均分子量は200〜5000とすることが好ましい。この範囲であると、ポリ乳酸との相溶性を低下させずに、ポリ乳酸に柔軟性を付与することができる。
【0023】
ポリ乳酸系共重合ポリマー(B)には、さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3官能化合物等を少量用いてもよい。
【0024】
ポリ乳酸系共重合ポリマー(B)における上記共重合成分は、2種以上併用してもよい。
【0025】
ポリ乳酸系共重合ポリマー(B)の重量平均分子量は、1万〜10万の範囲であることが好ましく、2万〜8万であることがより好ましい。重量平均分子量が1万未満であると、得られるフィルムの強度が著しく低下するだけでなく、フィルムを製膜する際に溶融粘度の差が大きすぎて混練性に劣る場合がある。一方、重量平均分子量が10万を超えると、ポリ乳酸系共重合ポリマー(B)の柔軟化効果が低下し、得られる延伸フィルムに十分な柔軟性を付与することができない場合がある。
【0026】
ポリ乳酸系共重合ポリマー(B)のガラス転移温度は、柔軟性を考慮すると、40℃以下であることが好ましく、0〜30℃の範囲がより好ましい。
【0027】
ポリ乳酸(A)とポリ乳酸系共重合ポリマー(B)との配合割合は、60〜90/40〜10の範囲であることが必要であり、70〜85/30〜15が好ましく、75〜85/25〜15がより好ましい範囲である。
ポリ乳酸系共重合ポリマー(B)成分が10質量部未満であると、柔軟性の付与が不十分となり、得られた延伸フィルムの風合いに劣る。ポリ乳酸系共重合ポリマー(B)成分が40質量部を超えると、延伸性や滑り性を含めた操業性が悪化する。また、延伸フィルムロールを長期間保存した場合において、ポリ乳酸系共重合ポリマー(B)の低分子量物がフィルム表面にブリードアウトする問題がある。
【0028】
なお、本発明のフィルムには、ブリード性が悪化しない程度に可塑剤を添加してもよい。可塑剤は分子量200〜1000程度の低分子量のものが好ましく、また、可塑剤の配合量はフィルム中に5質量%未満が好ましく、3質量%未満とすることがより好ましい。可塑剤の具体例としては、大八化学工業社製DAIFATTY101、同社製MXAなどが挙げられる。
【0029】
本発明で用いられるゴム状成分(C)とは、室温でゴム弾性を示すゴム状物質のことであり、例えば、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、各種アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体およびそのアルカリ金属塩(いわゆるアイオノマー)、エチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体(たとえば、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレンアクリル酸ブチル共重合体)、酸変性エチレン−プロピレン共重合体、ジエンゴム(例えばポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン)、ジエンとビニル単量体との共重合体(たとえばスチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリブタジエンにスチレンをグラフト共重合せしめたもの、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体)、ポリイソブチレン、イソブチレンとブタジエンまたはイソプレンとの共重合体、天然ゴム、チオコールゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ポリウレタンゴム、ポリエーテルゴム、エピクロロヒドリンゴム、ポリエステル系エラストマーおよびポリアミド系エラストマーなどが挙げられる。
【0030】
本発明におけるゴム状成分(C)としては、ジビニルベンゼン単位、アクリル酸アリル単位またはアクリル酸ブチレングリコールなどの架橋性成分を架橋させたものや、ビニル基などを有するもの、その他の各種の構造、例えばシス構造、トランス構造等を有するものも使用することができる。
上記のゴム状成分の中でも、アクリル系モノマーを構成単位として含む重合体が好ましく、中でも(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位を含む重合体がより好ましい。この単位の好適例としては、アクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位、アクリル酸ブチル単位、メタクリル酸メチル単位、メタクリル酸エチル単位、メタクリル酸ブチル単位を挙げることができる。これらは、エラストマーとして耐屈曲性が改良するだけでなく、ポリ乳酸との相溶性に優れ、しかも樹脂の透明性を向上することができる。
【0031】
ゴム状成分(C)は、コア層とそれを覆う1層以上のシェル層から構成されるとともに、隣接し合った層が異種の重合体にて構成された、いわゆるコアシェル型の多層構造重合体であることが好ましい。この多層構造重合体は、コア層として、SBRゴム、ブタジエン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル単位を有する重合体(アクリルゴムなど)等のエラストマー成分を含み、シェル層として、ポリスチレン、(メタ)アクリル酸エステル単位を有する重合体を含むことが好ましい。
【0032】
ゴム状成分がコアシェル型の多層構造体である場合は、シェル層が、エラストマー成分であるコア層の形状を維持する役割を果たし、その影響により、エラストマー成分が樹脂中に均一に微分散され、優れた耐屈曲性を発現できる。さらに、コア層とシェル層との境界、及びシェル層とマトリックスとの境界において衝撃を吸収することが可能であり、このためさらなる耐屈曲性の向上が期待できる。
【0033】
コア層としては、ゴム弾性を有する重合体成分から構成されるものであれば特に限定されない。例えば、(メタ)アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレンプロピレン成分などを重合させたものから構成されるゴムが挙げられる。好ましいゴムとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エチル単位、(メタ)アクリル酸ブチル単位、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル単位および(メタ)アクリル酸ベンジル単位などの(メタ)アクリル成分、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分、スチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分、アクリロニトリル単位やメタクリロニトリル単位などのニトリル成分またはブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン成分を重合させたものから構成されるゴムである。また、これらの成分の他に、ジビニルベンゼン単位、(メタ)アクリル酸アリル単位またはブチレングリコールジアクリレート単位などの架橋性成分を共重合し架橋させた架橋ゴムも好ましい。これらの中でも、透明性、耐屈曲性の点から、ゴム層としては、架橋ゴムが好ましく、ガラス転移温度が0℃ 以下の架橋ゴムであることがより好ましい。
【0034】
シェル層としては、特に限定されるものではなく、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、グリシジル基含有ビニル系単位、脂肪族ビニル系単位、芳香族ビニル系単位、シアン化ビニル系単位、マレイミド系単位、不飽和ジカルボン酸系単位、不飽和ジカルボン酸無水物系単位および/またはその他のビニル系単位などを含む重合体が挙げられ、透明性および耐屈曲性に優れるという点から、メタクリル酸メチル単位および/またはアクリル酸メチル単位を含む重合体から構成されることが好ましい。
【0035】
本発明において、ゴム成分(C)として用いることのできる市販品としては、例えば、三菱レイヨン製「メタブレン」、カネカ製「カネエース」、ロームアンドハース製「パラロイド」、ガンツ化成製「スタフィロイド」、クラレ製「パラフェイス」などが挙げられ、これらは、単独で、ないし2種以上併用して用いることができる。特に、透明性、耐屈曲性の点で、ロームアンドハース社製「パラロイド」BPM−500や三菱レイヨン社製「メタブレン」S2001は優れている。
【0036】
本発明においては、ポリ乳酸系共重合ポリマー(B)と、ゴム状成分(C)とを併用することが必要である。ポリ乳酸系共重合ポリマー(B)のみでは、フィルムの耐屈曲性に劣る。また、所定の柔軟性を得るためにはポリ乳酸系共重合ポリマー(B)を大量に添加する必要があり、延伸性や滑り性を含めた操業性が悪化する。また、延伸フィルムロールを長期間保存した場合において、ポリ乳酸系共重合ポリマー(B)の低分子量物がフィルム表面にブリードアウトする問題がある。ゴム状成分(C)のみでは、耐屈曲性は十分だが、柔軟性改良効果が小さいため、延伸フィルムの風合いに劣る。また、ゴム状成分(C)の配合量を増やすと、フィルムの透明性が悪化する。
【0037】
ゴム状成分(C)の含有量はポリ乳酸(A)とポリ乳酸系共重合ポリマー(B)の合計量100質量部に対して、5〜30質量部であることが必要であり、5〜20質量部が好ましく、5〜15質量部がより好ましい範囲である。
【0038】
ゴム状成分(C)成分が5質量部未満であると、フィルムの耐屈曲性や柔軟性が不十分となりやすい。ゴム状成分(C)成分が30質量部を超えると、耐屈曲性や柔軟性改良効果は十分だが、フィルムの透明性が悪化する場合がある。
【0039】
本発明においては、ポリ乳酸系二軸延伸フィルムに含まれるラクチド量を0.5質量%以下とすることが必要であり、0.1〜0.4質量%であることが好ましい。ラクチド量が0.5質量%を超えると、フィルム製膜時の発煙が著しく、ダイス近辺の装置が汚染されたり、酷い場合にはキャストロールを介してフィルム表面に転写されたりして、操業性が悪化する。
【0040】
ラクチド量を低減する方法としては、ポリ乳酸(A)またはポリ乳酸系共重合ポリマー(B)を重合する際に融点以上の温度で減圧して除去する方法や、ポリ乳酸(A)またはポリ乳酸系共重合ポリマー(B)の重合後のペレットを、高温、減圧下で処理してガス化除去する方法や、温水中に浸漬して抽出除去する方法が挙げられる。本発明においては、前記のような手段により、フィルム原料として使用するポリ乳酸(A)またはポリ乳酸系共重合ポリマー(B)のラクチド含有量を1.0質量%以下としておくことが好ましい。
【0041】
本発明に用いるポリ乳酸系二軸延伸フィルムは、ガラス転移温度が40〜55℃であることが好ましい。柔軟性の面からすると、ガラス転移温度は低い方が好ましいが、本発明では40℃未満にまで低下させることは好ましくない。ガラス転移温度が低下すると、フィルム製膜時のキャストロール温度をそれに応じて低くする必要があるが、ポリ乳酸系樹脂の場合、ラクチドのフィルム表面への析出やキャストロールへの付着等の問題があるためキャストロールの温度は30℃以上が好ましく、それに伴ってガラス転移温度としては40℃以上が好ましい。一方、ガラス転移温度が55℃を超えるとポリ乳酸系フィルムの柔軟効果が小さい。
【0042】
本発明のポリ乳酸系二軸延伸フィルムの融点は140℃以上が好ましく、特に150℃以上であることが好ましい。融点が140℃未満であると、耐熱性が不足する。
【0043】
本発明のポリ乳酸系二軸延伸フィルムは、ヘイズが5%以下であることが好ましく、実用上3%以下であることがより好ましい。ヘイズが5%を超えると、外見的に透明感が低く、包装材料などの用途において商品価値が低下する傾向がある。ヘイズを5%以下とするためには、(A)〜(C)の各成分を前述の範囲とすればよい。
【0044】
本発明のポリ乳酸系二軸延伸フィルムは、引張弾性率が3.0GPa以下であることが好ましく、2.8GPa以下であることがより好ましい。なお、ここでいう引張弾性率は、フィルムのMD方向とTD方向の測定値の平均値である。引張弾性率が3.0GPaを超えるとフィルムが柔軟性に乏しくなり、風合いに劣るものとなる。引張弾性率の下限は特に限定されないが、フィルムの強度が乏しくなる理由から2.0GPa以上であることが好ましい。引張弾性率を3.0GPa以下とするためには、(A)〜(C)の各成分を前述の範囲とすればよい。
【0045】
なお、ポリ乳酸系二軸延伸フィルムを構成する樹脂組成物には、製膜時の溶融張力の低下を抑制する目的で、必要に応じて有機過酸化物などの架橋剤および架橋助剤を併用して樹脂組成物に軽度の架橋を施してもよい。
【0046】
また、本発明に用いるポリ乳酸系二軸延伸フィルムを構成する樹脂組成物には、用途に応じて紫外線防止剤、光安定剤、防曇剤、防霧剤、難燃剤、着色防止剤、酸化防止剤、充填材、顔料など上記以外の添加剤も添加できる。
【0047】
次に、本発明のポリ乳酸系二軸延伸フィルムの製法について説明する。
【0048】
樹脂組成物を製膜する方法は特に限定されず、Tダイ法、インフレーション法、カレンダー法等が例示できるが、中でもTダイ法が好ましい。Tダイ法では、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸系共重合ポリマー(B)とゴム状成分(C)を配合した樹脂組成物を、押出機ホッパーに供給し溶融混練して押し出し、キャストロールで冷却することにより未延伸シートが得られる。このとき、温度条件としては、シリンダー温度は180〜250℃、Tダイ温度は200〜250℃が適当である。また、キャストロールは20〜40℃に制御されていることが適当である。この方法によれば、厚み100〜600μmの未延伸シートが得られる。
【0049】
ゴム状成分(C)を配合する方法は特に限定されないが、ポリ乳酸(A)又はポリ乳酸系共重合ポリマー(B)中に10〜50質量%程度含有するマスターチップをあらかじめ作製しておき、これを用いて目標とする含有量になるよう添加する方法が好ましい。
【0050】
未延伸シートを二軸延伸することにより二軸延伸フィルムを得る。延伸方法としては、ロール法、テンター法等が挙げられ、逐次二軸延伸法あるいは同時二軸延伸法のどちらを採用してもよい。また、二軸延伸での面倍率は6〜16倍であることが好ましい。面倍率が6倍未満であると、得られるフィルムの機械物性、特に引張強度が低く、実用に耐えないことがある。また、面倍率が16倍を超えると、フィルムが延伸途中で延伸応力に耐えきれず破断してしまうことがあるため好ましくない。
【0051】
得られた延伸フィルムの厚みは10〜50μmとするのが好ましい。厚みが10μm未満であると、包装袋のコシがないものとなり、50μmより厚いと、コスト的に不利であり、好ましくない。
【0052】
延伸温度としては、50〜90℃が好ましく、60〜80℃がさらに好ましい。延伸温度が50℃未満であると、延伸のための熱量不足によりフィルムが延伸初期で破断する。また90℃を超えると、フィルムに熱が加わりすぎてドロー延伸となり延伸斑を多発する傾向がある。
【0053】
延伸工程前の未延伸シートに対して、必要に応じてコート剤をコーティングすることもできる。コーティング方法は特に限定されないが、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング等が挙げられる。
【0054】
また、二軸延伸フィルムに寸法安定性を付与する目的で、延伸後、熱弛緩処理を実施してもよい。熱弛緩処理の方法としては、熱風を吹き付ける方法、赤外線を照射する方法、マイクロ波を照射する方法、ヒートロール上に接触させる方法等が選択でき、均一に精度良く加熱できる点で熱風を吹き付ける方法が好ましい。その際、80〜160℃の範囲で1秒以上であることが好ましく、かつ、2〜8%のリラックス率の条件下で実施することが好ましい。
【0055】
本発明のフィルムは単層でも良好な包装体が得られるが、内容物や保存方法、製袋方法にあわせて、他の樹脂を積層してもよい。積層方法は、コート、ダイレクトラミ、押出ラミ等が挙げられ、要求される性能に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0057】
実施例及び比較例におけるフィルムの原料、および、特性値の測定法は次の通りである。
【0058】
(A)ポリ乳酸
ネイチャーワークス社製4032D、D体含有量1.2モル%、残留ラクチド量0.22質量%、重量平均分子量20万。
【0059】
(B)ポリ乳酸系共重合ポリマー
(B−1):大日本インキ社製プラメートPD350、乳酸成分含有量50質量%、融点
158℃、ガラス転移温度18℃、重量平均分子量5万、ラクチド含有量2.02質量%。
(B−2):上記B−1を110℃、0.5mmHg以下の減圧下で24時間熱処理し、ラクチド量を0.54質量%までに低減したもの。
【0060】
(C)ゴム状成分
(C−1):ロームアンドハース社製パラロイドBPM−500、コアシェル型、アクリル系ゴム
(C−2):三菱レイヨン社製メタブレンS2001、コアシェル型、シリコーン系ゴム
【0061】
(D)可塑剤
大八化学社製DAIFATTY101、アジピン酸エステル、分子量338
(測定法)
【0062】
(1)ラクチド量
Hewlett Packard社製HP−6890 Series GC Systemおよびカラム30m×0.25mm ID DB−17 キャピラリーカラム(0.25μm f.t.)を用い、ヘリウムをキャリアガスに使用して測定した。
【0063】
(2)融点、ガラス転移温度(℃)
Perkin Elmer社製の示差走査熱量計DSC−7型を用いて、昇温速度を20℃/分で測定した。
【0064】
(3)押出操業性
3時間の連続製膜を行った後のTダイ付近の汚染、発煙状況とキャストロールの汚れの程度を、目視により以下の基準に従い評価した。
○:汚染・発煙が少なく、キャストロールの汚れが認められない。
×:汚染・発煙があり、キャストロールの汚れ有り。
【0065】
(4)ヘイズ(透明性)
JIS−K7105に準じて、厚み25μmのフィルムを試料とし、日本電色工業(株)製ヘーズメーターNDH2000を用いて測定した。本発明においては、5%以下を合格とした。3%以下であることが実用上より好ましい。
【0066】
(5)引張弾性率(GPa)、引張強度(MPa)および引張伸度(%)
JIS K―7127に記載の方法に準じて、厚み25μmのフィルムを10mm×150mmの短冊状にしたものを試料とし、島津製作所(株)製オ−トグラフ(引張試験機)AG−ISを用いて測定した。
【0067】
(6)ブリード性
延伸フィルムを40℃、90%RH雰囲気下に30日間放置し、以下の基準により判定した。
○:フィルム表面のべたつきは見られなかった。
△:フィルム表面にややべたつきが見られたが、ブロッキング性、表面外観等の実用上の問題なし。
×:フィルム表面のべたつきが顕著に見られ、ブロッキングや表面外観の著しい悪化が見られた。
【0068】
(7)耐屈曲性
ASTM F 392に従い、テスター産業製ゲルボテスターにおいて20℃雰囲気下で、200回屈曲を繰り返した180mm×280mm大きさのフィルムを白紙の上に置き、インキを塗布し、白紙に移ったインキの数をカウントした。以下の基準により判定し、○以上を合格とした。
◎:白紙に移ったインキの数が10個未満
○:白紙に移ったインキの数が10〜30個
×:白紙に移ったインキの数が30〜100個
××:白紙に移ったインキの数が100個以上
【0069】
実施例1
Aを70質量部、B−2を30質量部、C−1を5質量部計量後、ドライブレンドし、90mmΦの単軸押出機にてTダイ温度230℃で溶融押出しし、35℃に温度制御されたキャストロールに密着冷却し、厚さ240μmの未延伸シートを得た。次いで、この未延伸フィルムの端部をテンター式同時二軸延伸機のクリップに把持し、70℃の予熱ゾーンを走行させた後、温度68℃でMDに3.0倍、TDに3.3で同時二軸延伸した。その後TDの弛緩率5%として、温度140℃で4秒間の熱処理を施した後、室温まで冷却して巻き取り、厚さ25μmの2軸延伸フィルムを得た。得られた2軸延伸フィルムを(1)〜(7)の測定法で評価した。
【0070】
実施例2〜6、比較例1〜10
原料樹脂および添加剤、延伸温度を表1に示したように変更し、それ以外は実施例1と同様にして各種フィルムを得た。
【0071】
【表1】

【0072】
実施例1〜6に示すように、本発明で特定した範囲にあるものは、ヘイズが5%以下で透明性が高く、引張弾性率が3.0GPa以下で柔軟性に優れ、かつ、フィルム製膜時の操業性や、ブリード性といった保存時の性能変化の少ないものであったが、比較例1〜7で得られたフィルムは、上記のすべての性能を満足するものではなかった。
【0073】
比較例1についてはゴム状成分(C)を添加することで耐屈曲性は向上しているものの、乳酸系共重合ポリマー(B)を配合しておらず、柔軟性やフィルムの風合いに劣り、透明性に乏しかった。
【0074】
比較例2については、乳酸系共重合ポリマー(B)に代えて、低分子量の可塑剤を用いたために、得られたフィルムの柔軟性や風合い、耐屈曲性は満足しているが、50℃、40%RH雰囲気下での保存において、ブリードアウトが顕著に見られた。
【0075】
比較例3については、比較例1と同様に、ゴム状成分(C)を添加することで耐屈曲性は向上しているものの、乳酸系共重合ポリマー(B)を配合しておらず、柔軟性やフィルムの風合いに劣り、透明性が乏しかった。
【0076】
比較例4については、比較例1、比較例3と同様に、ゴム状成分(C)を添加することで耐屈曲性は向上しているものの、乳酸系共重合ポリマー(B)を配合しておらず、柔軟性やフィルムの風合いに劣り、透明性に乏しかった。
【0077】
比較例5については、乳酸系共重合ポリマー(B)の含有量が多いために、得られたフィルムの柔軟性や風合い、耐屈曲性は満足しているが、40℃、90%RH雰囲気下での保存において、ブリードアウトが顕著に見られた。
【0078】
比較例6については、乳酸系共重合ポリマー(B)の含有量が少ないために、得られたフィルムの柔軟性や風合いに劣っていた。
【0079】
比較例7については、ゴム状成分(C)の含有量が少ないために、得られたフィルムの柔軟性、耐屈曲性に劣っていた。
【0080】
比較例8については、ゴム状成分(C)の含有量が多いために、得られたフィルムの透明性が乏しかった。
【0081】
比較例9については、乳酸系共重合ポリマー(B)、及びゴム状成分(C)を含有していないため、得られたフィルムの柔軟性や風合い、耐屈曲性に劣っていた。
【0082】
比較例10については、フィルム中のラクチド量が多いため、押出操業性に劣り、40℃、90%RH雰囲気下での保存において、ブリードアウトが顕著に見られた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸(A)、乳酸成分を30〜70質量%含むポリ乳酸系共重合ポリマー(B)、及びゴム状成分(C)を含む樹脂組成物から構成されたポリ乳酸系二軸延伸フィルムであって、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸系共重合ポリマー(B)の質量比が60〜90/40〜10であり、ゴム状成分(C)の含有量が、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸系共重合ポリマー(B)の合計量100質量部に対して、5〜30質量部の範囲であり、ラクチド量が0.5質量%以下であるポリ乳酸系二軸延伸フィルム。
【請求項2】
フィルムのヘイズが5%以下である請求項1記載のポリ乳酸系二軸延伸フィルム。
【請求項3】
フィルムの引張弾性率が3.0GPa以下である請求項1記載のポリ乳酸系二軸延伸フィルム。


【公開番号】特開2010−215703(P2010−215703A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61224(P2009−61224)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】