説明

ポリ乳酸系多層フィルム

【課題】生分解性、透明性を有し、且つ耐熱性にも優れる低温ヒートシール性を有する包装材料に好適な多層フィルムを開発することを目的とする。
【解決手段】ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を含むポリ乳酸系組成物からなり、DSC測定における150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク1)と205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク2)とのピーク比(ピーク1/ピーク2)が0.2以下であるポリ乳酸系延伸フィルムの少なくとも片面に融点(Tm)が60〜180℃または非晶性の脂肪族ポリエステルもしくはアクリル系樹脂からなるヒートシール層が積層されてなることを特徴とするポリ乳酸系多層フィルムに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性、透明性を有し、且つ耐熱性に優れるポリ乳酸組成物層からなる基材層を具備してなる低温ヒートシール性を有する包装材料に好適なポリ乳酸系多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムの廃棄処理を容易にする目的で生分解性のあるフィルムが注目され、種々のフィルムが開発されている。その生分解性フィルムは、土壌中や水中で加水分解や生分解を受け、徐々にフィルムの崩壊や分解が進み、最後には微生物の作用で無害な分解物へと変化するものである。そのようなフィルムとして、芳香族系ポリエステル樹脂やポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族系ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース、デンプン等から成形したフィルムが知られている。
【0003】
かかる生分解性樹脂の一つであるポリ乳酸からなる二軸延伸フィルムは、透明性が優れることから包装用フィルムとして使用され始めているが、そのままでは熱融着性(ヒートシール性)がない。二軸延伸ポリ乳酸フィルムに熱融着性を付与する方法として、ポリ乳酸からなる二軸延伸フィルムの片面にD−乳酸の含有量が多いポリ乳酸系重合体を積層するポリ乳酸系積層二軸延伸フィルム(特許文献1)、ポリ乳酸からなる二軸延伸フィルムの片面にコハク酸・1,4−ブタンジオール等の低融点の脂肪族ポリエステルを積層する多層生分解性プラスチックフィルム(特許文献2)等が提案されているが、熱融着性は付与されるものの、二軸延伸ポリ乳酸フィルムの耐熱性が不十分なためヒートシール温度を上げることができず、ヒートシール強度に劣るフィルムであったりして、いずれも包装用フィルムとしての性能が不十分である。
【0004】
また、二軸延伸ポリ乳酸フィルムは、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに比べ、耐熱性に劣ることから、用途が制限されている。
【特許文献1】特開2001−219522公報(請求項1)
【特許文献2】特開平8−323946号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、生分解性、透明性を有し、且つ耐熱性にも優れヒートシール性を有し包装材料に好適な多層フィルムを開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を含むポリ乳酸系組成物からなり、DSC測定における150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークの高さ(ピーク1)と205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークの高さ(ピーク2)とのピーク比(ピーク1/ピーク2)が0.2以下であるポリ乳酸系延伸フィルムの少なくとも片面に融点(Tm)が60〜180℃または非晶性の脂肪族ポリエステルもしくはアクリル系樹脂からなるヒートシール層が積層されてなることを特徴とするポリ乳酸系多層フィルムを提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリ乳酸系多層フィルムは、耐熱性に優れ、生分解性、透明性及び低温ヒートシール性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<ポリ−L−乳酸>
本発明に係わるポリ乳酸系延伸フィルムの1成分であるポリ−L−乳酸(PLLA)は、L−乳酸を主たる構成成分、好ましくは95モル%以上を含む重合体である。L−乳酸の含有量が95モル%未満の重合体は、後述のポリ−D−乳酸(PDLA)と溶融混練して得られるポリ乳酸系組成物からなる層あるいは当該層を延伸して得られる延伸フィルムの耐熱性が劣る虞がある。
【0009】
PLLAの分子量は後述のポリ−D−乳酸と混合したポリ乳酸系組成物がフィルムなどの層として形成性を有する限り、特に限定はされないが、通常、重量平均分子量(Mw)は6千〜300万、好ましくは6千〜200万の範囲にあるポリ−L乳酸が好適である。重量平均分子量が6千未満のものは得られる延伸フィルムの強度が劣る虞がある。一方、300万を越えるものは溶融粘度が大きくフィルム加工性が劣る虞がある。
<ポリ−D−乳酸>
本発明に係わるポリ乳酸系延伸フィルムの1成分であるポリ−D−乳酸(PDLA)は、D−乳酸を主たる構成成分、好ましくは95モル%以上を含む重合体である。D−乳酸の含有量が95モル%未満の重合体は、前述のポリ−L−乳酸と溶融混練して得られるポリ乳酸系組成物からなる層あるいは当該層を延伸して得られる延伸フィルムの耐熱性が劣る虞がある。
【0010】
PDLAの分子量は前述のPLLAと混合したポリ乳酸系組成物がフィルムなどの層として形成性を有する限り、特に限定はされないが、通常、重量平均分子量(Mw)は6千〜300万、好ましくは6千〜200万の範囲にあるポリ−D乳酸が好適である。重量平均分子量が6千未満のものは得られる延伸フィルムの強度が劣る虞がある。一方、300万を越えるものは溶融粘度が大きくフィルム加工性が劣る虞がある。
【0011】
本発明においてPLLA及びPDLAには、本発明の目的を損なわない範囲で、少量の他の共重合成分、例えば、多価カルボン酸若しくはそのエステル、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類等を共重合させておいてもよい。
【0012】
多価カルボン酸としては、具体的には、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、スベリン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、セバシン酸、ジグリコール酸、ケトピメリン酸、マロン酸及びメチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸並びにテレフタル酸、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0013】
多価カルボン酸エステルとしては、具体的には、例えば、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、ピメリン酸ジメチル、アゼライン酸ジメチル、スベリン酸ジメチル、スベリン酸ジエチル、セバシン酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、デカンジカルボン酸ジメチル、ドデカンジカルボン酸ジメチル、ジグリコール酸ジメチル、ケトピメリン酸ジメチル、マロン酸ジメチル及びメチルマロン酸ジメチル等の脂肪族ジカルボン酸ジエステル並びにテレフタル酸ジメチル及びイソフタル酸ジメチル等の芳香族ジカルボン酸ジエステルが挙げられる。
【0014】
多価アルコールとしては、具体的には、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタメチレングリコール、へキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール及び分子量1000以下のポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0015】
ヒドロキシカルボン酸としては、具体的には、例えば、グリコール酸、2−メチル乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシイソカプロン酸及びヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。
【0016】
ラクトン類としては、具体的には、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、β又はγ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、4−メチルカプロラクトン、3,5,5−トリメチルカプロラクトン、3,3,5−トリメチルカプロラクトン等の各種メチル化カプロラクトン;β−メチル−δ−バレロラクトン、エナントラクトン、ラウロラクトン等のヒドロキシカルボン酸の環状1量体エステル;グリコリド、L−ラクチド、D−ラクチド等の上記ヒドロキシカルボン酸の環状2量体エステル等が挙げられる。
【0017】
また、本発明に係わるPLLA及びPDLAには、それぞれD−乳酸若しくはL−乳酸を前記範囲以下であれば少量含まれていてもよい。
【0018】
<ポリ乳酸系延伸フィルム>
本発明のポリ乳酸系多層フィルムを構成するポリ乳酸系延伸フィルムは、前記ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を含むポリ乳酸系組成物からなり、DSC測定における150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークの高さ(ピーク1)と205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークの高さ(ピーク2)とのピーク比(ピーク1/ピーク2)が0.2以下、好ましくは0.1以下であることを特徴とするポリ乳酸系延伸フィルムである。
【0019】
本発明に係わるポリ乳酸系延伸フィルムは、前記特性に加え、205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの吸熱量(ΔHm)が40J/g以上、より好ましくは50J/g以上であり、DSC測定における吸熱ピーク測定後に、降温した際の発熱量(ΔHc)が40J/g以上、より好ましくは50J/g以上の特性を有する。
【0020】
本発明に係わるポリ乳酸系延伸フィルムは、前記特性に加え、広角X線測定における2θが12度、21度および24度近辺のピーク面積の総和(SSC)が全体の面積に対して20%以上、好ましくは25%以上であり、かつ2θが17度および19度近辺のピーク面積の総和(SPL)が全体の面積に対して5%以下、好ましくは3%以下の特性を有する。
【0021】
かかる広角X線測定における2θが17度および19度近辺のピークはPLLA及びPDLAの結晶に基づくピーク(PPL)であり、12度、21度および24度近辺のピークはPLLAとPDLAとが共結晶した所謂ステレオコンプレックスの結晶に基づくピーク(PSC)である。
【0022】
本発明における広角X線による回折ピーク(2θ)はX線回折装置(株式会社リガク製 自動X線回折装置RINT−2200またはRINT−2500)を用いて測定して検出される回折ピークの角度(度)である。記録紙の基線(強度;0cps)とX線回折強度曲線で囲まれた回折角(2θ)が10〜30度の総面積(全体の面積)を100%とし、結晶に基づく各々の回折ピーク面積は、(SPL)については17度および19度近辺の回折ピーク(2θ)、(SSC)については12度、21度および24度近辺の回折ピーク(2θ)各々の面積を記録紙から切り出し、その重量を測定することにより算出した。また非結晶部分に起因するブロードな部分は(非晶部分)とした。尚、(SPL)、(SSC)を測定する際には非晶部分に伴う回折曲線をベースラインとしてその上の部分を測定した。
【0023】
本発明におけるポリ乳酸系延伸フィルムの熱融解特性は、DSC(示差走査熱量計)として、ティー・エイ・インスツルメント社製 Q100を用い、試料約5mgを精秤し、JIS K 7121及びJIS K 7122に準拠し、窒素ガス流入量:50ml/分の条件下で、0℃から加熱速度:10℃/分で250℃まで昇温して昇温時のDSC曲線を得、得られたDSC曲線から、延伸フィルムの融点(Tm)、205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの吸熱量(ΔHm)、150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピーク高さ(ピーク1)と205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピーク高さ(ピーク2)とのピーク比(ピーク1/ピーク2)を求めるとともに、250℃に10分間維持した後、冷却速度:10℃/分で0℃まで降温して結晶化させて、降温時のDSC曲線を得、得られたDSC曲線から、延伸フィルムの結晶化の際の発熱量(Hc)を求めた。
【0024】
なお、ピーク高さは、65℃〜75℃付近のベースラインと240℃〜250℃付近のベースラインを結ぶことにより得られるベースラインからの高さで求めた。
【0025】
本発明に係わるポリ乳酸系延伸フィルムの厚さは、通常、5〜500μm、好ましくは10〜100μmの範囲にある。
【0026】
本発明に係わるポリ乳酸系延伸フィルムは、必要に応じて、後述のヒートシール層あるいは他の層もしくは印刷層との密着性を向上させるために、プライマーコート、コロナ処理、プラズマ処理や火炎処理などを施しても良い。
<ポリ乳酸系組成物層>
本発明に係わる上記特性を有するポリ乳酸系延伸フィルムを得るには、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を含むポリ乳酸系組成物として、以下の熱融解特性を有するポリ乳酸系組成物を用意して、延伸することが好ましい。
【0027】
本発明に係わるポリ乳酸系組成物は、DSC測定において、ポリ乳酸系組成物を250℃で10分融解させた後に降温した際(第1回降温時)の発熱量(ΔHc)が好ましくは20J/g以上である熱特性を有することが望ましい。
【0028】
さらに、本発明に係わるポリ乳酸系組成物は、そのDSCの第2回昇温時の測定(250℃で10分経た後に10℃/分で降温を行い、0℃から再度10℃/分で昇温)において得られたDSC曲線の150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク10)と205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの最大ピークのピーク高さ(ピーク20)のピーク比(ピーク10/ピーク20)が好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.2以下であるという熱特性を有することが望ましい。これは、この組成物がステレオコンプレックス晶を選択的に形成しているためと考えられる。
【0029】
ピーク比(ピーク10/ピーク20)が0.5より大きいと、結晶化後にPLLA、PDLA単体結晶の形成量が大きく、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とが十分に混練されていない虞がある。
【0030】
ピーク比(ピーク10/ピーク20)が0.5より大きい組成物は結晶化後のα晶(PLLAあるいはPDLAの単独結晶)の形成量が大きいため、延伸しても耐熱性に劣る虞がある。
【0031】
また、本発明に係わるポリ乳酸系組成物は、DSCの第2回昇温時における205〜240℃の吸熱ピークの吸熱量(ΔHm)が35J/g以上であることが好ましい。
【0032】
本発明に係わるポリ乳酸系組成物の熱融解特性は、前記ポリ乳酸系延伸フィルムの熱融解特性を求めた方法と同様な方法で、DSC(示差走査熱量計)として、ティー・エイ・インスツルメント社製 Q100を用い、試料約5mgを精秤し、JIS K 7121及びJIS K 7122に準拠して求めた。なお、ポリ乳酸系組成物の熱融解特性は、降温時と第2回昇温時における特性を求めた。
【0033】
本発明に係わるポリ乳酸系組成物は、好ましくは前記PLLAを25〜75重量部、より好ましくは35〜65重量部、特に好ましくは45〜55重量部、その中でも好ましくは47〜53重量部及びPDLAを好ましくは75〜25重量部、より好ましくは65〜35重量部、特に好ましくは55〜45重量部、その中でも好ましくは53〜47重量部(PLLA+PDLA=100重量部)から構成されている、即ち調製されている。
【0034】
本発明に係わるポリ乳酸系組成物は、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸の重量平均分子量が、いずれも6千〜300万の範囲内であり、かつ、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸のいずれか一方の重量平均分子量が3万〜200万であるポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸から混練により調製することが望ましい。
【0035】
また、本発明に係わるポリ乳酸系組成物は、例えば、これらPLLAとPDLAを、230〜260℃で二軸押出機、二軸混練機、バンバリーミキサー、プラストミルなどで溶融混練することにより得ることができる。
【0036】
PLLAの量が上記範囲外の組成物は上述の方法で混練しても、得られる組成物を延伸してなるフィルムはα晶の結晶体を含み、耐熱性が不十分となる虞がある。
【0037】
本発明に係わるポリ乳酸系組成物が耐熱性に優れるのは、当該組成物がステレオコンプレックス構造を形成しており、ステレオコンプレックス構造はPLLAとPDLAの等量から構成されるためであると考えられる。
【0038】
本発明に係わるポリ乳酸系組成物を得るために、PLLAとPDLAを溶融混練するときの温度は、好ましくは230〜260℃であり、より好ましくは235〜255℃である。溶融混練する温度が230℃より低いとステレオコンプレックス構造物が未溶融で存在する虞があり、260℃より高いとポリ乳酸が分解する虞がある。
【0039】
また、本発明に係わるポリ乳酸系組成物を調製する際に、PLLAとPDLAを十分に溶融混練することが望ましい。溶融混練時間は、用いる溶融混練機にもよるが、通常、5分間以上であればよい。PLLAとPDLAの溶融混練時間をより長くすればするほど、例えば、20分間以上、あるいは30分間以上とすることにより、得られるポリ乳酸系組成物は、DSCの第2回昇温時における205〜240℃の吸熱ピークの吸熱量(ΔHm)が45J/g以上、あるいは50J/g以上となり、150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの吸熱量は3.5J/g以下、あるいは0J/gとなり、よりステレオコンプレックスの結晶化が早く、PLLAあるいはPDLAの単独結晶(α晶)が生成し難いポリ乳酸系組成物とすることができ、得られるポリ乳酸系延伸フィルムの明澄性が増す。
【0040】
本発明に係るポリ乳酸系組成物は、ステレオコンプレックスの結晶化が早く、かつステレオコンプレックス結晶化可能領域も大きいので、PLLAあるいはPDLAの単独結晶(α晶)が生成し難いと考えられる。
【0041】
前述のように、本発明に係わるポリ乳酸系組成物は、DSCによる250℃で10分経過後の降温時(第1回降温時)での測定(10℃/分)において結晶化によるピーク(発熱量ΔHc)が、20J/g以上であり、ポリ乳酸系組成物の結晶化が速やかに起こる。
【0042】
また結晶化による発熱量が20J/gより小さいと結晶化速度が小さく、上記混練が十分でない虞がある。
【0043】
本発明に係わるポリ乳酸系組成物の重量平均分子量は特に限定されるものではない。しかしながら、本発明に係わるポリ乳酸系組成物は、重量平均分子量が1万〜150万の範囲にあることが好ましく、さらには重量平均分子量が5万〜50万の範囲にあることが望ましい。重量平均分子量が、上記範囲を高分子側に外れるとステレオコンプレックス化が十分でなく耐熱性が得られない虞があり、また低分子側に外れると得られるポリ乳酸系組成物層の強度が十分でない虞がある。
【0044】
<ポリ乳酸系延伸フィルムの製造方法>
本発明に係わるポリ乳酸系延伸フィルムは、前記ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を含むポリ乳酸系組成物を用いて、押出成形して得られるフィルムあるいはシートを、好ましくは一方向に2倍以上、より好ましくは2〜12倍、さらに好ましくは3〜6倍延伸することにより、耐熱性、透明性に優れる延伸フィルムが得られる。延伸倍率の上限は延伸し得る限り、とくに限定はされないが、通常、12倍を超えるとフィルムが破断したりして、安定して延伸できない虞がある。
【0045】
また、押出成形して得られるフィルムあるいはシートを、好ましくは縦方向に2倍以上及び横方向に2倍以上、より好ましくは縦方向に2〜7倍及び横方向に2〜7倍、さらに好ましくは縦方向に2.5〜5倍及び横方向に2.5〜5倍延伸することにより、耐熱性、透明性に優れる延伸フィルム(二軸延伸フィルム)が得られる。延伸倍率の上限は延伸し得る限り、とくに限定はされないが、通常、7倍を超えるとフィルムが破断したりして、安定して延伸できない虞がある。
【0046】
本発明に係わるポリ乳酸系延伸フィルムは、延伸した後、好ましくは140〜220℃、より好ましくは150〜200℃で、好ましくは1秒以上、より好ましくは3〜60秒熱処理しておくと、更に耐熱性が改良される。
【0047】
本発明に係わるポリ乳酸系延伸フィルムの厚さは用途により種々決め得るが、通常5〜500μm、好ましくは10〜100μmの範囲にある。
【0048】
本発明に係わるポリ乳酸系延伸フィルムは、ヒートシール層となる脂肪族ポリエステル層等との密着性を向上させるために、脂肪族ポリエステル等を積層する前にプライマーコート、コロナ処理、プラズマ処理や火炎処理などを施しても良い。
【0049】
<脂肪族ポリエステル>
本発明のポリ乳酸系多層フィルムのヒートシール層を構成する脂肪族ポリエステルは、融点(Tm)が60〜180℃、好ましくは80〜160℃の範囲にある脂肪族ポリエステルまたは非晶性の脂肪族ポリエステルである。
【0050】
本発明に係わる脂肪族ポリエステルは、脂肪族または脂環式多価カルボン酸若しくはそのエステル(a1)、脂肪族または脂環式多価アルコール(a2)、2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸(a3)、ラクトン類(a4)のいずれかの少なくとも1成分からなる脂肪族ポリエステル若しくはその共重合体である。
【0051】
本発明に係わる脂肪族ポリエステルとして具体的には、コハク酸・1,4−ブタンジオール・乳酸ポリエステル共重合体、ポリエチレンサクシネート(コハク酸・エチレンブリコールポリエステル)、ポリブチレンサクシネート(コハク酸・1,4−ブタンジオールポリエステル)、ポリブチレンサクシネートアジペート(コハク酸・アジピン酸・1,4−ブタンジオールポリエステル共重合体)、ポリε−カプロラクトン、D−乳酸を7〜30重量%、好ましくは8〜25重量%含むD−乳酸とL−乳酸の非晶性の共重合体(非晶性ポリ乳酸共重合体)、D−乳酸を0〜3重量%または70〜100重量%含む結晶性のポリ−L乳酸、ポリ−D−乳酸もしくはD−乳酸とL−乳酸との結晶性の共重合体(結晶性ポリ乳酸系重合体)、乳酸(L−乳酸、D−乳酸、D,L−乳酸)とグリコール酸との共重合体など種々公知の脂肪族ポリエステルを例示できる。
これらを得るために用いられるカルボン酸等を以下に説明する。
<脂肪族または脂環式多価カルボン酸若しくはそのエステル(a1)>
本発明に係わる前記脂肪族ポリエステルを構成する成分である脂肪族または脂環式多価カルボン酸は、特に限定はされないが、通常、脂肪族多価カルボン酸成分は2〜10個の炭素原子(カルボキシル基の炭素も含めて)、好ましくは4〜6個の炭素原子を有する化合物であり、線状であっても枝分れしていてもよい。脂環式多価カルボン酸成分は、通常、7〜10個の炭素原子、特に8個の炭素原子を有するものが好ましい。
【0052】
また、脂肪族または脂環式多価カルボン酸は、2〜10個の炭素原子を有する脂肪族多価カルボン酸を主成分とする限り、より大きい炭素原子数、例えば30個までの炭素原子を有する多価カルボン酸を含むことができる。
【0053】
かかる脂肪族または脂環式多価カルボン酸としては、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、スベリン酸、1,3−シクロペンタジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、ジグリコール酸、イタコン酸、マレイン酸および2,5−ノルボルナンジカルボン酸等のジカルボン酸、かかるジカルボン酸のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジ−n−プロピルエステル、ジ−イソプロピルエステル、ジ−n−ブチルエステル、ジ−イソブチルエステル、ジ−t−ブチルエステル、ジ−n−ペンチルエステル、ジ−イソペンチルエステルまたはジ−n−ヘキシルエステル等のエステル形成誘導体を例示できる。
【0054】
これら、脂肪族または脂環式多価カルボン酸あるいはそのエステル形成誘導体は、単独かまたは2種以上からなる混合物として使用することもできる。
【0055】
脂肪族または脂環式多価カルボン酸成分としては、特に、コハク酸またはそのアルキルエステルまたはそれらの混合物が好ましく、融点(Tm)が低い脂肪族ポリエステルを得るために、コハク酸を主成分とし、副成分としてアジピン酸を併用してもよい。
<脂肪族または脂環式多価アルコール(a2)>
本発明に係わる前記脂肪族ポリエステルを構成する成分である脂肪族または脂環式多価アルコールは、特に限定はされないが、通常、脂肪族多価アルコールであれば、2〜12個の炭素原子、好ましくは4〜6個の炭素原子を有する枝分かれまたは線状の多価アルコール、脂環式多価アルコールであれば、5〜10個の炭素原子を有する環状の多価アルコールが挙げられる。
【0056】
かかる脂肪族または脂環式多価アルコールとしては、具体的には、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,4−ジメチル−2−エチルヘキサン−1,3−ジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−イソブチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、とくには、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール及び2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール);シクロペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール及び2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール類及びジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びポリオキシエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール並びにポリテトラヒドロフラン等が例示でき、特には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びポリオキシエチレングリコール又はこれらの混合物又は異なる数のエーテル単位を有する化合物が挙げられる。脂肪族または脂環式多価アルコールは、異なる脂肪族または脂環式多価アルコールの混合物も使用することができる。
【0057】
脂肪族または脂環式多価アルコールとしては1,4−ブタンジオールが好ましい。
<2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸(a3)>
本発明に係わる前記脂肪族ポリエステルを構成する成分である2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸は、特に限定はされないが、通常、1〜10個の炭素原子を有する枝分かれまたは線状の二価脂肪族基を有する化合物が挙げられる。
【0058】
かかる2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、具体的には、例えば、グリコール酸、L−乳酸、D−乳酸、D,L−乳酸、2−メチル乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシイソカプロン酸、ヒドロキシカプロン酸等、かかる2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、シクロヘキシルエステル等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸エステル形成誘導体を挙げることができる。
<ラクトン類(a4)>
本発明に係わる前記脂肪族ポリエステルを構成する成分であるラクトン類としては、具体的には、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、β又はγ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、4−メチルカプロラクトン、3,5,5−トリメチルカプロラクトン、3,3,5−トリメチルカプロラクトン等の各種メチル化カプロラクトン;β−メチル−δ−バレロラクトン、エナントラクトン、ラウロラクトン等のヒドロキシカルボン酸の環状1量体エステル;グリコリド、L−ラクチド、D−ラクチド等の上記ヒドロキシカルボン酸の環状2量体エステル等が挙げられる。
<アクリル系樹脂>
本発明のポリ乳酸系多層フィルムのヒートシール層を構成するアクリル系樹脂は、アクリル酸あるいはメタクリル酸もしくはそれらの誘導体を主成分とする重合体であり、ヒートシール用途向けに市販されている種々公知のアクリル系樹脂が使用し得る。かかる重合体は、単独重合体、2種以上のモノマーの共重合体であってもよいし、他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0059】
アクリル酸およびメタクリル酸誘導体の具体例としては、例えば、アルキルエステルであって、アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート等が挙げられる。メタクリル酸アルキルエステルの具体例としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート等が挙げられる。また前記の誘導体は、ヒドロキシアルキルエステルであってもよく、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等を挙げることができる。必要に応じて共重合される不飽和カルボン酸、およびその誘導体としては、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、無水マレイン酸等を例示することができる。
【0060】
好ましい重合体の例として、アルキルアクリレートとアルキルメタクリレートとの共重合体、メタクリル酸またはアクリル酸と、アルキルアクリレートまたはアルキルメタクリレートとの共重合体、あるいはメタクリル酸またはアクリル酸と、アルキルアクリレートと、およびアルキルメタクリレートとの三成分共重合体が挙げられる。具体例としては、メタクリル酸・メチルアクリレート・メチルメタクリレート三元共重合体、メタクリル酸・イソブチルアクリレート・メチルメタクリレート三元共重合体等が利用できる。これらのアクリル系樹脂は、前記したモノマー類の存在下で、通常乳化重合、懸濁重合、または溶液重合法によって製造することができる。
【0061】
アクリル系樹脂を構成する前記の各成分比率は特に制限されるものではなく、必要な物性、例えば、十分な被膜機械強度、低いヒートシール温度、高いヒートシール強度、耐ブロッキング性、生分解性等を勘案してモノマー成分比率を決め、また分子量調整を行えばよい。
【0062】
かかるアクリル系樹脂として、ガラス転移点温度が、0〜70℃、好ましくは10〜60℃の範囲にある重合体は、低温でかつ広い温度幅でヒートシール性が十分に発揮され、また耐ブロッキング性も適度に良好であるため、包装作業を容易にし、かつ被包装物を保護でき、また堆肥等の土壌中での劣化分解性に優れている。
【0063】
なお、ヒートシール性を損なわない範囲内でアクリル系樹脂に他の材料、例えばカルナバワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス等の滑剤、シリカ、珪藻土、珪酸カルシウム、ベントナイト、粘土等の無機微粒子で代表されるアンチブロッキング剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤等を適宜添加することができる。
<ポリ乳酸系多層フィルム>
本発明のポリ乳酸系多層フィルムは、前記ポリ乳酸系延伸フィルムの少なくとも片面に前記脂肪族ポリエステルもしくはアクリル系樹脂からなるヒートシール層が積層されてなる多層フィルムである。
【0064】
本発明のポリ乳酸系多層フィルムの各層の厚さは、用途により種々決め得るが、ポリ乳酸系延伸フィルムの厚さは、通常5〜500μm、好ましくは10〜100μmの範囲にあり、ヒートシール層の厚さは、通常1〜50μm、好ましくは3〜20μmの範囲にある。
【0065】
本発明のポリ乳酸系多層フィルムは、用途に応じて、ヒートシール層を積層しない面に、他の基材を積層させてもよい。他の基材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン及びポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート及びポリカーボネート等のポリエステル、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリメチルメタクリレート、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ乳酸、脂肪族ポリエステル等の生分解性ポリエステル等の熱可塑性樹脂からなるフィルム、シート、カップ、トレー状物、あるいはその発泡体、若しくはガラス、金属、アルミニウム箔、紙等が挙げられる。熱可塑性樹脂からなるフィルムは無延伸であっても一軸あるいは二軸延伸フィルムであっても良い。勿論、基材は1層でも2層以上としても良い。
<ポリ乳酸系多層フィルムの製造方法>
本発明のポリ乳酸系多層フィルムは、予め得られた前記ポリ乳酸系延伸フィルムと予め得られた前記脂肪族ポリエステルフィルムとを積層する(貼り合わせる)方法、前記ポリ乳酸系延伸フィルムの少なくとも片面に前記脂肪族ポリエステルもしくはアクリル系樹脂を押出ラミネートする方法、前記ポリ乳酸系延伸フィルムの少なくとも片面にアクリル系樹脂をコーティングする方法、あるいはポリ乳酸系組成物と脂肪族ポリエステルを共押出成形して得られるフィルム若しくはシートを二軸延伸する方法などにより製造し得る。
【0066】
本発明のポリ乳酸系多層フィルムを共押出成形法により製造する場合は、共押出成形して得られるフィルムあるいはシートを、好ましくは一方向に2倍以上、より好ましくは2〜12倍、さらに好ましくは3〜6倍延伸することにより、耐熱性、透明性に優れるポリ乳酸系多層フィルムが得られる。延伸倍率の上限は延伸し得る限り、とくに限定はされないが、通常、12倍を超えるとフィルムが破断したりして、安定して延伸できない虞がある。好ましくは縦方向に2倍以上及び横方向に2倍以上、より好ましくは縦方向に2〜7倍及び横方向に2〜7倍、さらに好ましくは縦方向に2.5〜5倍及び横方向に2.5〜5倍延伸することにより、さらに剛性が向上する。延伸倍率の上限は延伸し得る限り、とくに限定はされないが、通常、7倍を超えるとフィルムが破断したりして、安定して延伸できない虞がある。得られるポリ乳酸系多層フィルムに耐熱性を付与する、即ち熱収縮率を抑える、には熱処理が必要である。通常140〜220℃、好ましくは150〜200℃で、1秒以上、好ましくは3〜60秒、より好ましくは3〜20秒熱処理して耐熱性ポリ乳酸延伸フィルムとする方法である。
【実施例】
【0067】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限
りこれらの実施例に制約されるものではない。
(1)ポリ乳酸
(イ)ポリ−L−乳酸(PLLA―1):
D体量:1.9%
Mw:22.2万(g/モル)、
Tm:163℃。
(ロ)ポリ−D−乳酸(PURAC社製:PDLA―1):
D体量:100.0%
Mw:135万(g/モル)
Tm:180℃
インヘレント粘度(溶媒;クロロホルム、測定温度;25℃、濃度;0.1g/dl):7.04dl/g。
(ハ)ポリ−DL−乳酸共重合体(PLAC―1):
D体量:12.6%
MFR(温度190℃、荷重2160g):2.6g/10分
Tm:なし(非晶)。
(2)脂肪族ポリエステル共重合体
(イ)コハク酸・1,4−ブタンジオール・乳酸ポリエステル共重合体(A−1);
三菱化学社製、商品名 GS−Pla AZ91T
MFR(190℃、荷重2160g):4.5g/10分、
融点(Tm):108.9℃、
結晶化温度(Tc):68.0℃、
密度:1.25g/cm
(ロ)コハク酸・アジピン酸・1,4−ブタンジオール・乳酸ポリエステル共重合体(A−2);
三菱化学社製、商品名 GS−Pla AD92W
MFR(190℃、荷重2160g):4.5g/10分
融点(Tm):86.9℃、
結晶化温度(Tc):40.4℃、
(Tm)−(Tc):46.5℃、
密度:1.25g/cm
(3)アクリル系樹脂
(イ)メチルメタクリレート・イソブチルアクリレート・メタクリル酸三元共重合体;
メチルメタクリレート(共栄社化学株式会社社製、商品名:ライトエステルM ):50重量%、イソブチルアクリレート(共栄社化学株式会社社製、商品名:ライトエステルIB):47重量%、メタクリル酸:3重量%の組成からなる共重合体
本発明における測定方法は以下のとおりである。
(1)重量平均分子量(Mw)
(イ)、(ロ)のポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸は以下の方法で測定した。
【0068】
試料20mgに、GPC溶離液10mlを加え、一晩静置後、手で緩やかに攪拌した。この溶液を、両親媒性0.45μm―PTFEフィルター(ADVANTEC DISMIC―25HP045AN)でろ過し、GPC試料溶液とした。
測定装置;Shodex GPC SYSTEM−21
解析装置;データ解析プログラム:SIC480データステーションII
検出器;示差屈折検出器(RI)
カラム;Shodex GPC K−G + K−806L + K−806L
カラム温度;40℃
溶離液;クロロホルム
流速;1.0ml/分
注入量;200μL
分子量校正;単分散ポリスチレン
(2)DSC測定
前記記載の方法で測定した。
(3)広角X線測定
測定装置:X線回折装置(株式会社リガク製 自動X線回折装置RINT−2200)
反射法
X線ターゲット;Cu K―α
出力;40kV×40mA
回転角;4.0度/分
ステップ;0.02度
走査範囲;10〜30度
(4)透明性
日本電色工業社製 ヘイズメーター300Aを用いてフィルムのヘイズ(HZ)及び平行光光線透過率(PT)を測定した。
(5)引張り試験
ポリ乳酸系多層フィルムからMD方向及びTD方向に、夫々短冊状の試験片(長さ:150mm、幅:15mm)を採取して、引張り試験機(オリエンテック社製テンシロン万能試験機RTC-1225)を使用し、チャック間距離:100mm、クロスヘッドスピード:300mm/分(但し、ヤング率の測定は5mm/分で測定)で、引張り試験を行い、引張強さ(MPa)、伸び(%)及びヤング率(MPa)を求めた。
(6)ヒートシール強度
ポリ乳酸系多層フィルムのヒートシール層面同士を重ね合わせ、テスター産業株式会社製TP−701−B HEATSEALTESTERを用いて、所定の温度で、シール面圧:1kg/cmの時間1.0秒条件下でヒートシール(熱融着)した。尚、加熱は上側のみとした。次いで、ヒートシールしたポリ乳酸系多層フィルムから幅:15mmの試験片を切出し、引張り試験機(オリエンテック社製テンシロン万能試験機RTC-1225)を用いて300mm/分の引張り速度で剥離し、その最大強度を熱融着強度とした。

参考例1
<ポリ乳酸系組成物およびポリ乳酸系二軸延伸フィルムの製造>
PLLA―1:PDLA―1を50:50(重量部)の比で計量し、二軸混練押出機を用い、溶融温度;250℃、回転速度:420rpm、混練時間;6分で、溶融混練してポリ乳酸系組成物を得た後、T−ダイシート成形機で、厚さ約300μmのポリ乳酸系組成物からなるシートを得た。かかるポリ乳酸系組成物の熱融解特性を前記記載の方法で測定した。
【0069】
次に、当該シートをブルックナー社製二軸延伸機で、縦方向に延伸温度;65℃で3倍に、横方向に延伸温度;70℃で3倍に延伸し、テンター内で180℃、約40秒間の条件でヒートセットを行い、ポリ乳酸系二軸延伸フィルムを得た。得られたポリ乳酸系二軸延伸フィルムの物性を前記記載の方法で測定した。
【0070】
測定結果を表1に示す。

比較例1
参考例1で用いたPLLA―1及びPDLA―1に代えて、PLLA―1を単独で用い、二軸延伸フィルムのヒートセットを150℃で約40秒間行う以外は参考例1と同様に行い、PLLA―1のシート及び二軸延伸フィルムを得た。測定結果を表1に示す。
【0071】
【表1】







表1から明らかなように、参考例1で得られたポリ乳酸系組成物からなるポリ乳酸系二軸延伸フィルムは、熱融解特性において、150〜200℃の範囲の吸熱ピークは僅かで、205〜240℃の範囲の吸熱ピークは大きく、吸熱量(ΔHc)も66.1J/gと多く、降温した際の発熱量(ΔHm)も49.7J/gある。
【0072】
また、ポリ乳酸系二軸延伸フィルムの素材となるポリ乳酸系組成物(シート)の熱融解特性は、第1回降温時の発熱量(ΔHc)が20.3J/gと20J/g以上である。第2回昇温時には、150〜200℃の範囲には吸熱ピークはみられず、205〜240℃の範囲の吸熱ピークの吸熱量(ΔHm)は51.0J/gと35J/gである。さらに、参考例1で得られたポリ乳酸系組成物からなるポリ乳酸系二軸延伸フィルムは、透明性、耐熱性に優れ、透湿度及び酸素透過度も低く、バリア性能を有し、広角X線測定における回折ピークは2θが12、21,24度近辺にのみ有し、2θが17、19度近辺には回折ピークは現れなかった。また17,19度近辺のピーク面積(SPL)が全体の面積に対して0%と5%未満であり、2θが12,21、24度近辺のピーム面積(SSC)が全体の面積に対して51%と20%以上であった。
【0073】
一方、比較例1で得られたPLLA―1からなる二軸延伸フィルムは、150〜200℃の範囲の吸熱ピークのみで、205〜240℃の範囲の吸熱ピークはなく、降温した際の発熱量(ΔHc)は0.4J/gと参考例1で得られたポリ乳酸系組成物からなるポリ乳酸系二軸延伸フィルムに比べ少ない。また、二軸延伸フィルムの素材となるPLLA―1(シート)の熱融解特性は、第1回降温時の発熱量は0であり、第2回昇温時には、205〜240℃の範囲には吸熱ピークはみられず、150〜200℃の範囲のピークのみで、その吸熱量(ΔHc)は32.1J/gである。さらに、比較例1で得られたPLLA―1からなる二軸延伸フィルムは、耐熱性、バリア性能に劣るとともに、広角X線測定における回折ピークは2θが17、19度近辺にのみ有し、2θが12、21、24度近辺には回折ピークは現れなかった。また17,19度近辺のピーク面積(SPL)が全体の面積に対し57%と5%を越えており、2θが12,21、24度近辺のピーム面積(SSC)が全体の面積に対して0%と20%未満であった。

実施例1
<ヒートシール層用フィルムの製造>
ヒートシール層用フィルムの重合体としてA−1を用い、一軸押出機を備えたT−ダイシート成形機(溶融温度;200℃、回転速度:30rpm)で、厚さ約30μmのヒートシール層用の無延伸フィルムを得た。

D1)んん酸系組成物からなるシート酸系延伸フィルムを得るには、<ポリ乳酸系多層フィルムの製造>
参考例1で得られたポリ乳酸系二軸延伸フィルムの片面にコロナ処理を施し、コロナ処理面にウレタン系接着剤(武田薬品工業製:タケラックA310(60%)+タケラックA3(5%)+酢酸エチル(35%))を約7g/m塗布した後に前記ヒートシール層用フィルムをドライラミネートして厚さ約61〜65μmのポリ乳酸系多層フィルムを得た。
得られたポリ乳酸系多層フィルムの評価結果を表2に示す。

【0074】
実施例2
ヒートシール層用フィルムの組成物としてA−1:PLAC−1を90:10(重量%の比率)で計量し、一軸押出機を用いて180℃で溶融混練して組成物(D−2)を得た。得られた組成物(D−2)をA−1に代えて用いた以外は実施例1と同様に行い、ポリ乳酸系多層フィルムを得た。
得られたポリ乳酸系多層フィルムの評価結果を表2に示す。

【0075】
実施例3
ヒートシール層用フィルムの組成物としてA−1:PLAC−1を80:20(重量%の比率)で計量し、一軸押出機を用いて180℃で溶融混練して組成物(D−3)を得た。得られた組成物(D−3)をA−1に代えて用いた以外は実施例1と同様に行い、ポリ乳酸系多層フィルムを得た。 得られたポリ乳酸系多層フィルムの評価結果を表2に示す。

【0076】
3LACール
実施例4
ヒートシール層用フィルムの重合体として、実施例1で用いたA−1に代えてA−2を用いる以外は実施例1と同様に行い、ポリ乳酸系多層フィルムを得た。 得られたポリ乳酸系多層フィルムの評価結果を表2に示す。

【0077】
実施例5
ヒートシール層用フィルムの重合体として、実施例1で用いたA−1に代えてPLAC−1を用いる以外は実施例1と同様に行い、ポリ乳酸系多層フィルムを得た。 得られたポリ乳酸系多層フィルムの評価結果を表2に示す。
【0078】
実施例6
ヒートシール層用フィルムの重合体として、実施例1で用いたA−1に代えてPLLA−1を用いる以外は実施例1と同様に行い、ポリ乳酸系多層フィルムを得た。
得られたポリ乳酸系多層フィルムの評価結果を表2に示す。

【0079】
実施例7
参考例1で得られたポリ乳酸系二軸延伸フィルムの片面にコロナ処理を施し、コロナ処理面に、メチルメタクリレート50重量%、イソブチルアクリレート47重量%およびメタクリル酸3重量%の組成からなるアクリル系共重合体樹脂100重量部とカルナバワックス5重量部を配合した水分散体(固形分濃度:20重量%)を、メイヤーバーを用いてコーティングを行った後、90℃で10秒間、熱風乾燥炉内で水分を蒸発させて、厚さ約1μm(塗布量:1g/m)のヒートシール層を形成させ、ポリ乳酸系多層フィルムを得た。
得られたポリ乳酸系多層フィルムの評価結果を表2に示す。
【0080】
【表2】




表2から明らかなように、実施例1〜7のポリ乳酸系多層フィルムは単層からなる比較例1および参考例1の二軸延伸積層フィルムに比べるとヒートシール性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のポリ乳酸系多層フィルムは、200℃でも溶融しないので、従来のポリ乳酸の溶融温度である160℃に比べ極めて高く、且つ、透明性に優れ、ヒートシール性を有するので、従来ポリ乳酸二軸延伸フィルムが用いられている用途は勿論のこと、ポリオレフィンフィルムあるいはポリエステルフィルムと同様に包装用フィルムとして好適に使用し得る。それに加え、本発明のポリ乳酸系多層フィルムは、ポリ乳酸本来の生分解性も有するので、使用済みの包装材料は、食品等の分解される非包装物が付着していてもコンポストとして、ごみの回収、処理が容易になる。
【0082】
また、本発明のポリ乳酸系多層フィルムは、包装用フィルムに限らず、カップ、ボトル、トレー等の容器の蓋材、半導体部品のカバーテープ等をはじめ包装用材料として幅広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】図1は、参考例1の延伸フィルムの第1回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図2】図2は、参考例1の延伸フィルムの第1回降温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図3】図3は、参考例1の延伸フィルムの第2回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図4】図4は、比較例1の延伸フィルムの第1回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図5】図5は、比較例1の延伸フィルムの第1回降温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図6】図6は、比較例1の延伸フィルムの第2回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図7】図7は、参考例1のポリ乳酸系組成物からなるシート(未延伸)の第1回降温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図8】図8は、参考例1のポリ乳酸系組成物からなるシート(未延伸)の第2回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図9】図9は、比較例1のポリ乳酸系組成物からなるシート(未延伸)の第1回降温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図10】図10は、比較例1のポリ乳酸系組成物からなるシート(未延伸)の第2回昇温のDSC測定のチャートを示す図である。
【図11】図11は、参考例1の延伸フィルムの広角X線回折測定結果を示す図である。
【図12】図12は、比較例1の延伸フィルムの広角X線回折測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を含むポリ乳酸系組成物からなり、DSC測定における150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク1)と205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク2)とのピーク比(ピーク1/ピーク2)が0.2以下であるポリ乳酸系延伸フィルムの少なくとも片面に融点(Tm)が60〜180℃または非晶性の脂肪族ポリエステルもしくはアクリル系樹脂からなるヒートシール層が積層されてなることを特徴とするポリ乳酸系多層フィルム。
【請求項2】
ポリ乳酸系延伸フィルムが、205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの吸熱量が40J/g以上である請求項1に記載のポリ乳酸系多層フィルム。
【請求項3】
ポリ乳酸系延伸フィルムが、DSC測定における吸熱ピーク測定後に、降温した際の発熱量が40J/g以上である請求項1に記載のポリ乳酸系多層フィルム。
【請求項4】
ポリ乳酸系延伸フィルムが、広角X線測定における2θが12度、21度および24度近辺のピーク面積の総和(SSC)が全体の面積に対して20%以上であり、かつ2θが17度および19度近辺のピーク面積の総和(SPL)が全体の面積に対して5%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸系多層フィルム。
【請求項5】
ポリ乳酸系延伸フィルムが、DSC測定において、250℃で10分間経過後に降温した際の発熱量が20J/g以上のポリ乳酸系組成物を延伸してなる請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸系多層フィルム。
【請求項6】
ポリ乳酸系延伸フィルムが、DSC測定において、第2回昇温時における150〜200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークの高さ(ピーク10)と205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークの高さ(ピーク20)とのピーク比(ピーク10/ピーク20)が0.5以下のポリ乳酸系組成物を延伸してなる請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸系多層フィルム。
【請求項7】
ポリ乳酸系延伸フィルムが、DSC測定において、第2回昇温時における205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの吸熱量が35J/g以上のポリ乳酸系組成物を延伸してなる請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸系多層フィルム。
【請求項8】
ポリ乳酸系組成物が、ポリ−L−乳酸75〜25重量部及びポリ−D−乳酸25〜75重量部(ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の合計で100重量部)から調製されてなる請求項1〜7のいずれかに記載のポリ乳酸系多層フィルム。
【請求項9】
ポリ乳酸系延伸フィルムが、少なくとも一方向に2倍以上延伸されてなる請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸系多層フィルム。
【請求項10】
ポリ乳酸系延伸フィルムが、縦方向に2倍以上及び横方向に2倍以上延伸されてなる請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸系多層フィルム。
【請求項11】
ポリ乳酸系延伸フィルムが、140〜220℃で1秒以上熱処理してなる請求項9または10に記載のポリ乳酸系多層フィルム。
【請求項12】
脂肪族ポリエステルが、D−乳酸を10〜90重量%含む非晶性のポリ乳酸共重合体である請求項1に記載のポリ乳酸系多層フィルム。
【請求項13】
脂肪族ポリエステルが、D−乳酸を0〜10重量%または90〜100重量%含む融点(Tm)が60〜180℃のポリ乳酸(共)重合体である請求項1に記載のポリ乳酸系多層フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−62591(P2008−62591A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244903(P2006−244903)
【出願日】平成18年9月9日(2006.9.9)
【出願人】(000220099)東セロ株式会社 (177)
【Fターム(参考)】