説明

ポリ乳酸系成形体の製造方法

【課題】結晶化速度を向上させることにより、成形時間が短縮されたポリ乳酸系成形体の製造方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】ポリ−L−乳酸(PLLA、ポリ−D−乳酸(PDLA)(それらのいずれか一方の割合が0.1〜20重量部)及び可塑剤5〜20重量%からなる原料の組成物(PLLA、PDLA及び可塑剤の合計で100重量部とする。)からポリ乳酸系成形体を製造する方法であって、その原料の組成物の温度をその組成物中に含まれるSC材料成分の融点より5℃〜15℃高い温度の範囲に昇温させ、その後の成形工程でそれ以上の温度とすることなく温度を下げて成形することを特徴とするポリ乳酸系成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系成形体の製造方法に関する。また、本発明はポリ乳酸の結晶化速
度を向上させて効率よくポリ乳酸系成形体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は生分解性プラスチックとして環境負荷低減材料として、その利用が期待され
ており、また透明性が優れることからインジェクション成形品をはじめ各種用途に使用さ
れている。しかしながら、ポリ乳酸は結晶化速度が遅いため、結晶が形成しにくく耐熱性
や機械的物性等が不十分な場合がある。
【0003】
そこで、通常のインジェクション成形機で効率的に製造するには結晶核剤を添加するこ
とが提案されているが、結晶化速度を十分に向上させるには改良が必要である(例えば、
特許文献1)。
【0004】
また、ポリ乳酸の結晶化を促進して耐熱性等を改善するためにポリ−L−乳酸(PLL
A)とポリ−D−乳酸(PDLA)を含むステレオコンプレックスの結晶構造を有するポ
リ乳酸系組成物とする方法が知られている(例えば、特許文献2)。
【0005】
さらに、ステレオコンプレックスの結晶構造のポリ乳酸がポリ−L−乳酸(PLLA)
またはポリ−D−乳酸(PDLA)の結晶化の核剤として効果のあることも報告されてい
る(非特許文献1)。
【0006】
しかし、ポリ−L−乳酸(PLLA)とポリ−D−乳酸(PDLA)を重量比で等量混
合・混練してステレオコンプレックスの結晶構造等の結晶を形成する速度に比べ、ポリ−
L−乳酸(PLLA)、あるいはポリ−D−乳酸(PDLA)のいずれか一方の割合が多
くなると、結晶化速度は遅くなり、不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3350606号
【特許文献2】WO2006/095923
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Polymer47(2006)3826-3837:Isothermal and non-isothermal crystallization behavior of poly(L-lactic acid):Effects of stereocomplex as nucleating agent Hideto Tsuji, Hiroki Takai,Swapan Kumar Saha
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ポリ乳酸の結晶化速度を向上させることにより、ポリ乳酸系成形体を効率よく製造することができるポリ乳酸系成形体の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はポリ−L−乳酸(PLLA)及びポリ−D−乳酸(PDLA)(それらのいずれか一方の割合が0.1〜20重量部)及び可塑剤5〜20重量部からなる組成物(PLLA、PDLA及び可塑剤の合計で100重量部とする。)からポリ乳酸系成形体を製造する方法であって、その組成物の温度をその組成物中に含まれるステレオコンプレックス材料成分(「SC材料成分」と略称することがある。)の融点(当該組成物のDSC曲線から得られるステレオコンプレックスに基づく吸熱ピークのピーク温度)より5℃〜15℃高い温度の範囲、例えば、SC材料成分の融点を220℃とすると、230±5℃に昇温させ、その後の成形工程でそれ以上の温度とすることなく温度を下げて成形することを特徴とするポリ乳酸系成形体の製造方法に関する。
【0011】
本発明の可塑剤としてはポリグリセリン脂肪酸エステルが特に好ましい。
またポリ乳酸は高温下でラセミ化が進行し、構成するPLLA、またはPDLAの光学純度が低下するために融点が低下することが知られている。SC材料成分も同じく構成するPLLA、またはPDLAの光学純度が低下するために融点が低下する。ここで昇温する温度は低下した融点にあわせる必要がある。
【0012】
即ち、SC材料成分の融点が210℃となれば、220±5℃に昇温させ、その後の成形工程でそれ以上の温度とすることなく温度を下げて成形する必要があり、SC材料成分の融点が200℃となれば、210±5℃に昇温させ、その後の成形工程でそれ以上の温度とすることなく温度を下げて成形する必要がある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定の組成の原料を特定の温度範囲に制御しながら成形することにより、ポリ乳酸系成形品の結晶化の速度を速め、効率よくポリ乳酸系成形品の製造をすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<ポリ−L−乳酸(PLLA)>
本発明に用いるポリ−L−乳酸(PLLA)は、L−乳酸の重合体であり、必要に応じて他のコノマー、例えばD−乳酸を5モル%以下程度含む重合体であってもよい。PLLAの分子量は、特に限定されないが、組成物の主要成分として用いる場合は、割合の少ない成分として用いる場合のいずれも、重量平均分子量(Mw)は0.6×104〜3×106、中でも2×104〜2×106が通常である。用いる成形体、製造の際の成形方法に応じて適宜変更することができる。
【0015】
<ポリ−D−乳酸(PDLA)>
本発明に用いるポリ−D−乳酸(PDLA)は、D−乳酸の重合体であり、必要に応じて他のコモノマー、例えばL−乳酸を5モル%以下程度含む重合体であってもよい。
その重量平均分子量は、上記のPLLAの場合と同様である。
【0016】
<可塑剤>
本発明の組成物には、可塑剤が添加される。これにより、ポリ乳酸の分子運動が向上し、結晶化速度を上げることができる。
【0017】
可塑剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジオクチル、トリオクチルトリメリテート、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、ポリプロピレングリコールアジピン酸、アジピン酸ブタンジオール等の可塑剤があげられるが、なかでも、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、特に相溶性、添加による可塑化効果から好ましい。
【0018】
<ポリグリセリン脂肪酸エステル>
本発明において用いられる可塑剤として好適なポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと脂肪酸とを反応させて得られるエステルをいう。ポリグリセリン脂肪酸エステルを使用することにより、ステレオコンプレックス晶を生成させるための熱処理工程で、結晶化速度が飛躍的に速くなり、結晶化度が高く、しかも透明性の高い微小なステレオコンプレックス晶を得ることができる。
【0019】
さらに、ポリグリセリン脂肪酸エステルはポリ乳酸樹脂と相溶性に優れ、さらに優れた可塑化効率を有することから可塑剤として好適である。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、天然物である椰子油及びパーム油から誘導化されたポリグリセリン脂肪酸エステルを用いれば、ポリ乳酸系フィルムのコンポスト時の環境負荷が少なくなるので、好ましい。
【0020】
さらに、ポリグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸エステル化率としては、50%以上が好ましく、その中でも、さらに60%以上が好ましい。
本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルの構成成分であるポリグリセリンとしては、具体的には、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン等が挙げられ、好ましくはジグリセリン、デカグリセリンであり、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0021】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルのもう一方の構成成分である脂肪酸は炭素数が12以上の脂肪酸が好適であり、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ガドレイ酸、エイコサジエン酸、アラキドン酸、べヘン酸、エルカ酸、ドコサジエン酸、リグノセリン酸、イソステアリン酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、9−ヒドロキシステアリン酸、10−ヒドロキシステアリン酸、水素添加ヒマシ油脂肪酸(12−ヒドロキシステアリン酸の他に少量のステアリン酸及びパルミチン酸を含有する脂肪酸)等が挙げられ、好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸であり、これらの1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0022】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、また、重量平均分子量が20,000以下、かつポリエステルの末端がアルコール等で封止されているものが、成形、加工時に安定性がよく特に好ましい。
【0023】
<組成物>
本発明においては、ポリ−L−乳酸(PLLA)及びポリ−D−乳酸(PDLA)(それらのいずれか一方の割合が0.1〜20重量部)及び可塑剤5〜20重量部からなる組成物(PLLA、PDLA及び可塑剤の合計で100重量部とする。)からポリ乳酸系成形体を製造するものである。その際、その原料の組成物の温度をそれに含まれるSC材料成分の融点より5℃〜15℃高い温度の範囲、例えば、SC材料成分の融点を220℃とすると、230±5℃に昇温させ、その後の成形工程でそれ以上の温度とすることなく温度を下げてポリ乳酸系成形体が製造される。
【0024】
ここで本発明の製造方法に利用される原料の組成物を調製する方法として、得られる組成物の重量平均分子量が、原料のポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の重量平均分子量を加重平均して得られる重量平均分子量の数値の0.3〜0.6倍、特に好ましくは0.4〜0.6倍の範囲となるように、比較的高分子量である原料のポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を準備して、これらを溶融混練して調製する方法が好ましい。
【0025】
またポリ乳酸は高温下でラセミ化が進行し、構成するポリL乳酸、またはポリD乳酸の光学純度が低下するために融点が低下することが知られている。SC材料成分も同じく構成するポリL乳酸、またはポリD乳酸の光学純度が低下するために融点が低下する。ここで昇温する温度は低下した融点にあわせる必要がある。
【0026】
即ち、上記に加えて、SC材料成分の融点が210℃となれば、220±5℃に昇温させ、その後の成形工程でそれ以上の温度とすることなく温度を下げて成形する必要があり、SC材料成分の融点が200℃となれば、210±5℃に昇温させ、その後の成形工程でそれ以上の温度とすることなく温度を下げて成形する必要がある。
【0027】
用いられる組成物としては、ポリ−L−乳酸(PLLA)及びポリ−D−乳酸(PDLA)(それらのいずれか一方の割合が0.1〜20重量部)及び可塑剤5〜20重量部からなる組成物(PLLA、PDLA及び可塑剤の合計で100重量部とする。)がある。
【0028】
これら組成物は、一般的には、PLLA、PDLA及び可塑剤を決められた比率で溶融混合して調製される。また、予め調製されたステレオコンプレックス結晶あるいはそれを含むPLLA、PDLAに、さらにPLLA、PDLAを増量して、本発明の原料の組成物を調製することも行われる。
【0029】
本発明においては、PLLA、PDLA及び可塑剤を本発明の範囲内で決められて比率となるように準備して、押出機に直接供給することも行われるが、通常は予めバンバリーミキサー、プラストミル、ヘンシェル等の予備混合器で混合したり、二軸押出機、二軸混練機、造粒機等によりペレタイズした後に、用いることも行われる。
【0030】
本発明に用いる原料の組成物を得るためにPLLA、PDLA及び可塑剤を溶融混練する際の樹脂温度は、一般にその組成物に含まれるSC材料成分の融点より5℃〜40℃高い温度の範囲であり、好ましくは、その原料の組成物中のSC材料成分の融点より15℃〜35℃高い温度の範囲である。従って、例えば、その原料の組成物中のSC材料成分の融点を220℃とすると、その範囲は230〜260℃であり、好ましくは235〜265℃である。溶融混練する温度がSC材料成分の融点+10℃より低い場合は、形成したステレオコンプレックス構造の結晶が未溶融で存在するため、混練時の融解が不十分なために十分な混練ができない虞があり、一方、原料の組成物中のSC材料成分の融点+40℃、例えば、SC材料成分の融点を220℃とすると、260℃より高いとPLLA、PDLAが分解し、結晶の形成自体に支障をきたす可能性があるからである。また、本発明に係わる成形体は耐熱性を付与するために100〜140℃の温度の加熱金型で成型されることが好ましい。
【0031】
これらの原料の組成物は、溶融混練された後は、そのDSC測定において、その組成物中のSC材料成分の融点より5℃〜15℃高い温度の範囲、例えば、SC材料成分の融点を220℃とすると、230±5℃の範囲に10分融解させた後に降温した際(第1回降温時)の発熱量が好ましくは30J/g以上である熱特性を有する組成物となっているものが好適である。
【0032】
さらにこのような組成物の中でも、PLLAとPDLAが互いに分散、好ましくは微分散している組成物が好適に用いられる。その後の成形工程において、組成物中のSC材料成分の融点+5℃〜+15℃の範囲、例えば、SC材料成分の融点を220℃とすると、230±5℃の範囲にまで昇温することで、PLLA、PDLAからなるα晶の構造体部分は融解するが、ステレオコンプレックス構造の部分は、その融点から10℃程度高い程度であることから、完全には融解していない部分が残るものと考えられる。
【0033】
このような例えば半融解の状態のステレオコンプレックス構造の部分が、その後の成形の過程で温度が下げられ、結晶化していく際に、PLLA、PDLAからなるα晶を引き込み、ステレオコンプレックス構造の結晶だけでなく、他の成分も結晶化するものと考えられる。これにより、ステレオコンプレックス構造のみならずα晶の結晶も作りやすく、結晶化速度を飛躍的に向上させているものと考えられる。
【0034】
またポリ乳酸がラセミ化して、SC材料成分の融点が210℃となれば、昇温させる温度は220±5℃となり、SC材料成分の融点が200℃となれば、昇温させる温度は210±5℃となる。
【0035】
<SC材料成分の融点>
ここで非晶、α晶とSC晶からなる組成物において、SC材料成分の融点とは組成物中のSC晶の融点をいう。
【0036】
具体的には、ティー・エイ・インスツルメント社製Q100を用い、試料約5mgを精秤し、JIS K7121及びJISK7122に準拠し、窒素ガス流入量:50ml/分の条件下で、0℃から加熱速度:10℃/分で250℃まで昇温して昇温時のDSC曲線を得、得られたDSC曲線から、205〜240℃の範囲にある吸熱ピークのピーク温度を言う。
【0037】
またPLLA+PDLAからなるSC晶の融点はPLLA、PDLAの配合比に片寄りがあると、DSCチャート上で確認できないこともある。そこでSC材料成分の融点を測定する方法としてはPLLA/PDLA=50/50で配合、混練した組成物を形成し、その組成物を用いて測定することが好ましい。
【0038】
ここで例えばPLLA/PDLA=99.9/0.1の配合比の組成物であっても、SC材料成分の比率は下がっても、SC材料成分の融点としてはPLLA/PDLA=50/50と同じとなるからである。
【0039】
なお、本発明においては、上記の組成物にさらに必要に応じて、配合剤、例えば有機または無機の充填剤、顔料、染料等の着色剤、酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤等を配合することも行われる。
【0040】
<他の結晶核剤>
またSC材料成分以外に他の結晶核剤を併用しても良い。
他の結晶核剤として、有機酸金属塩、石油樹脂、金属塩、無機核剤が挙げられ、有機金属塩としては、フェニルホスホン酸亜鉛(日産化学社製 商品名エコプロモート)が結晶核剤の効果が大きく、好ましい。石油樹脂としては、完全水添型石油樹脂が好適であり、ナフサ分解によって得られたイソプレン、シクロペンタジエンおよびピペリレン等のC5留分や、インデン、ビニルトルエン、スチレンおよびα−メチルスチレン等のC9留分のポリマーまたはコポリマーを水素添加した樹脂であって、かつ、軟化点(軟化点測定法:JIS K 2207環球法)が100℃以上を有するものが好ましい。具体的には例えば、荒川化学工業(株)製:商品名アルコンP−115(軟化点114℃)、荒川化学工業(株)製:商品名アルコンP−140(軟化点140℃)、丸善石油化学(株)製:商品名マルカレッツH505(軟化点103℃)等が挙げられる。
【0041】
金属塩としては、アルミニウム−p−tert−ブチルベンゾエート、リチウム−p−tert−ブチルベンゾエート等の安息香酸類の金属塩、ジベンジリデンソルビトール、ビス(4−メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(4−エチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(ジメチルベンジリデン)ソルビトール等のベンジリデンソルビトール類、グリセリン亜鉛等の金属アルコラート類、グルタミン酸亜鉛等のアミノ酸金属塩、ビシクロヘプタンジカルボン酸またはその塩などのビシクロ構造を有する脂肪族二塩基酸およびその金属塩などが挙げられる。
【0042】
また無機核剤としては、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維、チタン酸カリウム、ホウ酸カリウムなどの無機物があり、これらは球状物においては粒径を、繊維状物においては繊維径や繊維長さおよびアスペクト比を、それぞれ適宜選択して用いられる。また、無機核剤は、必要に応じて表面処理したものを用いることが好ましい。
【0043】
なお、これらの結晶核剤の配合割合は、PLLA、PDLA及び可塑剤の合計100重量部に対して、通常0.1から5重量部である。0.1重量部未満では、結晶化速度向上効果が十分ではなく、5重量部を超えると融解時にポリ乳酸の分解を促進する効果が大きくなるおそれがある。
【0044】
<ポリ乳酸系成形体の製造方法>
本発明は、上記の組成物の温度をその組成物に含まれるSC材料成分の融点より5℃〜15℃高い温度の範囲、例えば、SC材料成分の融点を220℃とすると、230±5℃の範囲に昇温させ、その後の成形工程でそれ以上の温度とすることなく温度を下げて成形することを特徴とするポリ乳酸系成形体の製造方法である(ここでSC材料成分の融点を210℃とすると、220±5℃の範囲、SC材料成分の融点を200℃とすると、210±5℃の範囲となる)。
【0045】
成形の際にこの組成物の温度をその組成物に含まれるSC材料成分の融点より5℃〜15℃高い温度の範囲、例えば、SC材料成分の融点を220℃とすると、230±5℃の範囲に、より好ましくはSC材料成分の融点より8℃〜12℃高い温度の範囲、例えば、SC材料成分の融点を220℃とすると、230±2℃に、最も好ましくはSC材料成分の融点より10℃高い温度、例えばSC材料成分の融点が220℃であれば、230℃に昇温させる。
【0046】
この昇温工程により、組成物の中のα晶の部分が融解し、かつSC材料成分の融点より10℃高い温度(例えば、SC材料成分の融点を220℃、210℃、200℃とすると、それぞれ220℃より10℃高い温度±5℃、210℃より10℃高い温度±5℃、200℃より10℃高い温度±5℃程度)に昇温させていることから、SC材料成分のステレオコンプレックス構造の結晶部分を半融解の状態としておくことができる。
【0047】
このようなステレオコンプレックス構造の結晶部分を半融解の状態で降温させることにより、前記半融解の結晶部分が核となり、結晶核剤類似の作用で結晶化速度を飛躍的に向上させることができるものと考えられる。その結果、ステレオコンプレックス構造の結晶のみならず、α晶の結晶化量も増大させることができる。尚、前記降温工程では結晶化を促進する観点から徐冷することが好ましい。
【0048】
組成物をその組成物中に含まれるSC材料成分の融点より5℃〜15℃高い温度の範囲、例えば、SC材料成分の融点を220℃、210℃、200℃とすると、230℃±5℃、220±5℃、210±5℃の範囲の温度に昇温させた後の工程で、その温度範囲の上限温度を超えて昇温させると、半溶融のステレオコンプレックス構造の結晶部分が完全に溶融してしまい、上述した結晶核剤と類似の効果を奏することができないため、前記昇温工程と降温工程の間の工程で組成物をその温度範囲の上限温度以上の温度にしないことが必要となる。
【0049】
本発明の成形体の製造方法は具体的にはインジェクション、インジェクション、ブロー、押出成形、真空成形、種々の方法において用いることができる。また、本発明によって得られた成形体は耐熱性を付与するために、恒温金型を用いて成形することが好ましい。
【0050】
また、本発明に用いる組成物をインジェクション成形に用いる場合、その組成物をDSCで230℃まで昇温して10℃/分で降温した際の結晶化熱量が30J/g以上であることが好ましい。
【0051】
ここで、DSCとは示差走査熱量計をいい、ティー・エイ・インスツルメント社製 Q100を用い、試料約5mgを精秤し、JIS K 7121及びJIS K 7122に準拠し、窒素ガス流入量:50ml/分の条件下で、0℃から加熱速度:10℃/分で180〜250℃まで昇温して昇温時のDSC曲線を得て、得られたDSC曲線から、融点(Tm)、205〜240℃の範囲にある吸熱ピークの吸熱量、150〜200℃の範囲にある吸熱ピーク吸熱量を求めるとともに、180〜250℃に10分間維持した後、冷却速度:10℃/分で0℃まで降温して結晶化させて、降温時のDSC曲線を得て、得られたDSC曲線から、結晶化の際の発熱量(ΔHc)を結晶化熱量として求めた。
【0052】
また、本発明の製造方法がシリンダーを有するインジェクション成形機を用いるインジェクション成形の場合は、シリンダー温度を組成物中に含まれるSC材料成分の融点より5℃〜15℃高い温度の範囲、例えば、SC材料成分の融点を220℃、210℃、200℃とすると、230±5℃、220±5℃、210±5℃の範囲の温度とすることにより、短い時間で結晶化するために成形サイクルを短くすることができる。
【0053】
インジェクション成形機がシリンダーを有しており、そのシリンダー温度を上記の温度範囲とすることにより組成物の温度も上記の温度範囲となり、ステレオコンプレックス構造の結晶が結晶核剤に類似した作用を奏するため、後工程である金型に組成物を射出して成型と同時に降温させることで結晶化速度を向上させ結果として結晶化度の高いポリ乳酸系成形体が得られる。
【0054】
さらに、成形体の製造にインジェクション成形機を用いる場合は、その金型の温度を100℃〜140℃とすることが結晶化速度の向上させる観点から好ましい。即ち、組成物の昇温工程後、100℃〜140℃の金型に射出することにより、徐冷と同時に成形されることとなり、短い時間で結晶化するために成形サイクルを短くすることができる。一方、真空成形のように急冷して得た非晶状態のシートを変形した後に再度加熱していく過程(昇温結晶化)であっても、金型温度は100〜140℃とすることが好ましい。
【実施例】
【0055】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限
りこれらの実施例に制約されるものではない。
実施例及び比較例における物性値等は、以下の評価方法により求めた。
実施例及び比較例等で使用したポリ乳酸は次の通りである。
【0056】
(イ)ポリ−L−乳酸(ネイチャーワークス社製 PLLA―1):
D体量:1.9% Mw:22万(g/モル)、Tm:163℃。
(ロ)ポリ−D−乳酸(PURAC社製:PDLA―3):
D体量:100.0% Mw:17万(g/モル)、Tm:174℃。
(ハ)可塑剤
太陽化学チラバゾールVR−10
ヤシ・パーム油から誘導化されるポリグリセリン脂肪酸・常温で液体
本発明における測定方法は以下のとおりである。
【0057】
(1)重量平均分子量(Mw)
ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸を以下の方法で測定した。
試料20mgに、GPC溶離液10mlを加え、一晩静置後、手で緩やかに攪拌した。
この溶液を、両親媒性0.45μm―PTFEフィルター(ADVANTEC DISMIC―25HP045AN)でろ過し、GPC試料溶液とした。
測定装置;Shodex GPC SYSTEM−21
解析装置;データ解析プログラム:SIC480データステーションII
検出器;示差屈折検出器(RI)
カラム;Shodex GPC K−G + K−806L + K−806L
カラム温度;40℃
溶離液;クロロホルム
流速;1.0ml/分
注入量;200μL
分子量校正;単分散ポリスチレン
【0058】
(2)DSC測定
ティー・エイ・インスツルメント社製 Q100を用い、試料約5mgを精秤し、JIS K7121及びJISK7122に準拠し、窒素ガス流入量:50ml/分の条件下で、0℃から加熱速度:10℃/分で180〜250℃まで昇温して昇温時のDSC曲線を得、得られたDSC曲線から、融点(Tm)、205〜240℃)の範囲にある吸熱ピークの吸熱量、150〜200℃の範囲にある吸熱ピーク吸熱量を求めるとともに、180〜250℃に10分間維持した後、冷却速度:10℃/分で0℃まで降温して結晶化させて、降温時のDSC曲線を得、得られたDSC曲線から、結晶化の際の発熱量(ΔHc)を結晶化熱量として求めた。また、第1回と同様の条件で第2回昇温を行った。
【0059】
なお、ピーク高さは、65℃〜75℃付近のベースラインと240℃〜250℃付近のベースラインを結ぶことにより得られるベースラインからの高さで求めた。
【0060】
実施例1
PLLA―1:PDLA―1:可塑剤−1をそれぞれ80:10:10(質量%)の比率で東洋精機製ラボプラストミルを用いて245℃、120rpmで20分間混練し、組成物−2を得た。
【0061】
比較例1
実施例1と同様にして、PLLA―1:PDLA―1をそれぞれ90:10(質量%)の比率で、東洋精機製ラボプラストミルを用いて245℃、120rpmで20分間混練し、組成物−1を得た。
【0062】
参考例1
PLLA―1:可塑剤−1をそれぞれ90:10(質量%)の比率で東洋精機製ラボプラストミルで245℃、120rpmで20分間混練し、組成物−2を得た。
【0063】
ここで実施例1、比較例1の1st heatingよりSC材料成分の融点を求めたところ、220℃であった。
その結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

上記の表から明らかなように、可塑剤としてポリグリセリン脂肪酸を添加した実施例1はそれを配合しない比較例1に比べてTp=210〜250℃のすべての温度において降温時の結晶化熱量が大きく、可塑剤がポリ乳酸の分子運動を向上することで結晶化速度を上げるように機能していることがわかる。
【0065】
また各Tpを比較するとSC晶融点である220℃+10℃のDSC昇温温度(Tp)を230℃として組成物の結晶化熱量が実施例1、比較例1ともに大きくなっている。
なお、比較例1では、PDLAを含まないためにSC晶成分がなく、可塑剤のみを添加しても、Tp=210〜250℃のすべての温度において降温時(cooling)の結晶化熱量が10J/g以下であり、ほとんど結晶化していない。
【0066】
そのため本発明においては、SC結晶の成分の存在が必須であり、それと共に可塑剤を添加することで更に結晶核剤効果が向上する。このように可塑剤自体には結晶核剤効果はないことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の製造方法で得られるポリ乳酸系成形体は、例えばPLLAを主原料とする場合、安価であるのもかかわらず、結晶化速度が大きく、成形サイクルが短い。そのためCO2削減効果のある植物由来という観点からポリ乳酸が使用されるあらゆる用途に使用できる。
【0068】
即ち、延伸フィルム、インジェクション、ブロー、シート、紡糸等が挙げられる。
この中でも特にインジェクションが金型内で降温結晶化するという観点から好ましく、文房具、自動車部品、コピー機、パソコン、携帯電話、ボタン等の被服の副装品等あらゆる用途に使用できる。
【0069】
また、容器、フォーク、スプーン、はし、園芸道具と言った生分解性に着目したものにも使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ−L−乳酸(PLLA)及びポリ−D−乳酸(PDLA)(それらのいずれか一方の割合が0.1〜20重量部)及び可塑剤5〜20重量部からなる原料の組成物(PLLA、PDLA及び可塑剤の合計で100重量部とする。)からポリ乳酸系成形体を製造する方法であって、その組成物の温度をその組成物中に含まれるステレオコンプレックス材料成分(SC材料成分)の融点(当該組成物のDSC曲線から得られるステレオコンプレックスに基づく吸熱ピークのピーク温度)より5℃〜15℃高い温度の範囲に昇温させ、その後の成形工程でそれ以上の温度とすることなく温度を下げて成形することを特徴とするポリ乳酸系成形体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の可塑剤がポリグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系成形体の製造方法。
【請求項3】
原料の組成物であって、その組成物を採取しDSCによりその組成物中に含まれるSC材料成分の融点より5℃〜15℃高い温度の範囲にまで昇温し、その後10℃/分で降温した際の結晶化熱量が30J/g以上で組成物を用いることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸系成形体の製造方法。
【請求項4】
製造方法が、シリンダーを有するインジェクション成形機によるインジェクション成形であって、シリンダー温度を原料の組成物中に含まれるSC材料成分の融点より5℃〜15℃高い温度の範囲とすることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系成形体の製造方法。
【請求項5】
インジェクション成形機が金型を有し、その金型温度が100〜140℃であることを特徴とする請求項4に記載のポリ乳酸系成形体の製造方法。

【公開番号】特開2012−61685(P2012−61685A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207096(P2010−207096)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000220099)三井化学東セロ株式会社 (177)
【Fターム(参考)】