説明

ポリ乳酸系樹脂シート、および、情報記録カ−ド

【課題】本発明では、耐衝撃性、耐熱性および成形加工性を損なうことなく、製造時のCO2排出量を大幅に低減可能な環境低負荷ポリ乳酸系樹脂シートを得る。
【解決手段】
(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂を含有する樹脂組成物であり、(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂の合計量に対して、(A)スチレン系樹脂が10重量%以上である樹脂組成物から形成されることを特徴とするポリ乳酸系樹脂シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、耐熱性および成形加工性を低下させることなく、製造時のCO2排出量を大幅に低減可能な環境低負荷のポリ乳酸系樹脂シート、および、情報記録カ−ドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は優れた機械的性質、成形加工性、外観によって、電気・電子部品、自動車、雑貨、各種用途など広範な分野で使用されている。しかしながらスチレン系樹脂は石油資源を原料としており、製造時の大気へのCO2排出や廃棄時の環境負荷が近年問題視されており、非石油資源を含有する材料が環境低負荷材料として求められている。
【0003】
そこで最近、地球環境保全の見地から、土中、水中に存在する微生物の作用により自然環境下で分解される生分解性ポリマーが注目され、様々な生分解性ポリマーが開発されている。中でも、ポリ乳酸は比較的コストが安く、融点もおよそ170℃と高く、溶融成形可能な生分解性ポリマ−として期待されている。また、最近ではモノマーである乳酸が微生物を利用した発酵法により安価に製造されるようになり、より一層低コストでポリ乳酸を生産できるようになってきたため、生分解性ポリマーとしてだけでなく、汎用ポリマーとしての利用も検討されるようになってきた。しかし、その一方で、耐衝撃性や柔軟性が低いなどの物性的な欠点を有しており、その改良が望まれている。
【0004】
そこで環境低負荷材料として、ポリ乳酸とポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂とを混合する方法(特許文献1)が開示されている。本法で混合した場合、環境低負荷材料とはなるものの、いずれも汎用樹脂として用いるには、機械特性の改良が必要であった。本文献には、衝撃改良剤としてゴム成分があげられているものの、好ましい態様や実施例については例示されておらず、また本発明のスチレン系樹脂添加で耐熱性を向上させ、さらにグラフト重合体添加で耐衝撃性を向上させることについては、開示されていない。
【0005】
またポリ乳酸系樹脂と多層構造重合体とを含有するポリ乳酸系樹脂組成物(特許文献2)、およびポリ乳酸系重合体とゴム質重合体にビニル系単量体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体からなる樹脂組成物(特許文献3)が開示されているが、これらの樹脂組成物には、スチレン系樹脂が含まれておらず、得られる樹脂組成物は、耐熱性の点で課題があり、汎用ポリマーとして用いる場合さらなる改良が必要であった。
【特許文献1】特表平6−504799号公報(第53頁)
【特許文献2】特開2003−286396号公報(第2頁)
【特許文献3】特開2004−285258号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものであり、その目的とするところは、耐衝撃性、耐熱性および成形加工性を損なうことなく、製造時のCO2排出量を大幅に低減可能な環境低負荷ポリ乳酸系樹脂シート、および、情報記録カ−ドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、スチレン系樹脂、グラフト重合体、ポリ乳酸系樹脂を特定の割合で含むシートとすることで上記課題を解決できることがわかった。
【0008】
すなわち本発明は、以下の(1)〜(9)である。
【0009】
(1)(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂を含有する樹脂組成物であり、(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂の合計量に対して、(A)スチレン系樹脂が10重量%以上である樹脂組成物から形成されることを特徴とするポリ乳酸系樹脂シート。
【0010】
(2)インパクト値が3.0kN・m/mm以上であることを特徴とする、前記(1)に記載のポリ乳酸系樹脂シート。
【0011】
(3)(B)グラフト重合体が、(r)ゴム質重合体10〜80重量%に、(a)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位20〜90重量%、(b)芳香族ビニル系単位0〜70重量%、(c)シアン化ビニル系単位0〜50重量%、および(d)これらと共重合可能な他のビニル系単位0〜70重量%がグラフト重合されたグラフト重合体であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のポリ乳酸系樹脂シート。
【0012】
(4)(A)スチレン系樹脂が、(a)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位0〜99重量%、(b)芳香族ビニル系単位1〜100重量%、(c)シアン化ビニル系単位0〜50重量%、および(d)これらと共重合可能な他のビニル系単位0〜99重量%が共重合されたスチレン系樹脂であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂シート。
【0013】
(5)(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂からなる樹脂組成物100重量部に対して、さらに(D)ジカルボン酸無水物を0.01〜5重量部含有することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂シート。
【0014】
(6)(D)ジカルボン酸無水物が、マレイン酸無水物、フタル酸無水物、コハク酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする前記(5)に記載のポリ乳酸系樹脂シート。
【0015】
(7)(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂の合計量に対して、(C)ポリ乳酸系樹脂の含有量が、30重量%以上であることを特徴とする、前記(1)〜(6)のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂シート。
【0016】
(8)厚みが、0.01mm以上1.0mm以下であることを特徴とする、前記(1)〜(7)のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂シート。
【0017】
(9)前記(1)〜(8)のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂シートの上に、情報記録部を設けてなる、情報記録カ−ド。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂の合計量に対して、(A)スチレン系樹脂が10重量%以上とすることにより優れた耐衝撃性、耐熱性、および成形加工性を有する環境低負荷のポリ乳酸系樹脂シートが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明のポリ乳酸系樹脂シートに形成するための、(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂を含有する樹脂組成物について具体的に説明する。
【0020】
本発明で用いる(A)スチレン系樹脂とは、スチレンをはじめ、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンおよびp−t−ブチルスチレンなどの(b)芳香族ビニル系単量体およびこれと共重合可能な単量体を公知の塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、沈殿重合または乳化重合に供することにより得られる。
【0021】
本発明における(A)スチレン系樹脂としては、(r)ゴム質重合体に(b)芳香族ビニル系単位などをグラフト重合したものは含まない。(r)ゴム質重合体に(b)芳香族ビニル系単位などをグラフト重合したものは、後述する(B)グラフト重合体に含める。
具体的には(A)スチレン系樹脂は、(b)芳香族ビニル系単位1〜100重量%に対して、(a)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位0〜99重量%、(c)シアン化ビニル系単位0〜50重量%、および(d)これらと共重合可能な他のビニル系単位0〜99重量%を共重合して得られるビニル系共重合体であることが好ましい。
【0022】
本発明における(A)スチレン系樹脂に用いる(a)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体には特に制限はないが、炭素数1〜6のアルキル基または置換アルキル基を持つアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが好適である。
【0023】
(a)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられるが、なかでもメタクリル酸メチルが最も好ましく用いられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0024】
本発明における(A)スチレン系樹脂に用いる(c)シアン化ビニル系単量体には特に制限はなく、具体例としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられるが、なかでもアクリロニトリルが好ましく用いられる。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0025】
本発明における(A)スチレン系樹脂に用いる(d)これらと共重合可能な他のビニル系単量体としては、(a)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、(b)芳香族ビニル系単量体、(c)シアン化ビニル系単量体と共重合可能であれば特に制限はなく、具体例としてN−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、無水マレイン酸、フタル酸およびイタコン酸などのカルボキシル基または無水カルボキシル基を有するビニル系単量体、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、メタクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、シス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、トランス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、4,4−ジヒドロキシ−2−ブテンなどのヒドロキシル基を有するビニル系単量体、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテルおよびp−グリシジルスチレンなどのエポキシ基を有するビニル系単量体、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレンなどのアミノ基およびその誘導体を有するビニル系単量体、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどのオキサゾリン基を有するビニル系単量体などが挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0026】
(A)スチレン系樹脂の特性には制限はないが、メチルエチルケトン溶媒を用いて、30℃で測定した極限粘度[η]が、0.20〜2.00dl/g、特に0.25〜1.50dl/gの範囲のものが、すぐれた耐衝撃性および成形加工性を有する樹脂組成物が得られることから好ましい。
【0027】
本発明で用いる(B)グラフト重合体とは、(r)ゴム質重合体の存在下に、ビニル系単量体およびこれと共重合可能な単量体を加えた単量体混合物を、公知の塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、沈殿重合または乳化重合に供することにより得られる。
【0028】
そして(B)グラフト重合体とは、ビニル系単量体を含有する共重合体が(r)ゴム質重合体にグラフトした構造をとったものと、ビニル系単量体を含有する共重合体が(r)ゴム質重合体に非グラフトした構造をとったものとを含むものである。
【0029】
具体的には、(r)ゴム質重合体10〜80重量%の存在下に、(a)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体20〜90重量%、(b)芳香族ビニル系単位0〜70重量%、(c)シアン化ビニル系単位0〜50重量%、および(d)これらと共重合可能な他のビニル系単位0〜70重量%を共重合して得られるビニル系グラフト共重合体が好適である。
【0030】
上記(r)ゴム質重合体には特に制限はないが、ガラス転移温度が0℃以下のものが好適であり、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン系ゴムなどが使用できる。これらゴム質重合体の具体例としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、ブタジエン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン系共重合体、エチレン−イソプレン共重合体およびエチレン−アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらのゴム質重合体のうちでは、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体およびアクリロニトリル−ブタジエン共重合体が、特に耐衝撃性の観点から好ましく用いられ、1種または2種以上の混合物で使用することが可能である。
【0031】
本発明における(B)グラフト重合体を構成する(r)ゴム質重合体の重量平均粒子径には特に制限はないが、0.05〜1.0μm、特に0.1〜0.5μmの範囲であることが好ましい。(r)ゴム質重合体の重量平均粒子径を0.05μm〜1.0μmの範囲とすることによって、優れた耐衝撃性を発現することができる。
【0032】
なお、(r)ゴム質重合体の重量平均粒子径は、「Rubber Age、Vol.88、p.484〜490、(1960)、by E.Schmidt, P.H.Biddison」に記載のアルギン酸ナトリウム法、つまりアルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した重量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率より累積重量分率50%の粒子径を求める方法により測定することができる。
【0033】
本発明における(B)グラフト重合体に用いる(a)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体には特に制限はないが、炭素数1〜6のアルキル基または置換アルキル基を持つアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが好適である。
【0034】
(a)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられるが、なかでもメタクリル酸メチルが最も好ましく用いられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0035】
本発明における(B)グラフト重合体に用いる(b)芳香族ビニル系単量体には特に制限はなく、具体例としてはスチレンをはじめ、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンおよびp−t−ブチルスチレンなどが挙げられるが、なかでもスチレンおよびα−メチルスチレンが好ましく用いられる。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0036】
本発明における(B)グラフト重合体に用いる(c)シアン化ビニル系単量体には特に制限はなく、具体例としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられるが、なかでもアクリロニトリルが好ましく用いられる。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0037】
本発明における(B)グラフト重合体に用いる(d)これらと共重合可能な他のビニル系単量体としては、(a)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、(b)芳香族ビニル系単量体、(c)シアン化ビニル系単量体と共重合可能であれば特に制限はないが、具体例としてはN−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、無水マレイン酸、フタル酸およびイタコン酸などのカルボキシル基または無水カルボキシル基を有するビニル系単量体、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、メタクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、シス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、トランス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、4,4−ジヒドロキシ−2−ブテンなどのヒドロキシル基を有するビニル系単量体、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテルおよびp−グリシジルスチレンなどのエポキシ基を有するビニル系単量体、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレンなどのアミノ基およびその誘導体を有するビニル系単量体、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどのオキサゾリン基を有するビニル系単量体などが挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0038】
本発明における(B)グラフト重合体は、(r)ゴム質重合体10〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%の存在下に、(a)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体が20〜90重量%、より好ましくは30〜70重量%、(b)芳香族ビニル系単量体が0〜70重量%、より好ましくは1〜50重量%、(c)シアン化ビニル系単量体が0〜50重量%、より好ましくは1〜30重量%、(d)これらと共重合可能な他のビニル系単量体が0〜70重量%、より好ましくは0.01〜50重量%を共重合することによって得たものであることが好ましい。ゴム質重合体の割合が10重量%未満でも、また80重量%を超えても、衝撃強度や表面外観が低下する場合があるため好ましくない。
【0039】
なお(B)グラフト重合体は、(r)ゴム質重合体に単量体または単量体混合物がグラフトした構造をとったグラフト共重合体の他に、グラフトしていない共重合体を含有したものである。グラフト重合体のグラフト率は特に制限がないが、耐衝撃性および光沢が均衡してすぐれる樹脂組成物及び該樹脂組成物から形成される樹脂シートを得るためには、10〜100重量%、特に20〜80重量%の範囲であることが好ましい。ここで、グラフト率は次式により算出される値である。
【0040】
グラフト率(%)=[<ゴム質重合体にグラフト重合したビニル系共重合体量>/<グラフト共重合体のゴム含有量>]×100
グラフトしていない共重合体の特性は特に制限されないが、メチルエチルケトン可溶分の極限粘度[η](30℃で測定)が、0.10〜1.00dl/g、特に0.20〜0.80dl/gの範囲であることが、すぐれた耐衝撃性の樹脂組成物及び該樹脂組成物から形成される樹脂シートを得るために好ましい条件である。
【0041】
(B)グラフト重合体は、公知の重合法で得ることができる。例えば、ゴム質重合体ラテックスの存在下に単量体および連鎖移動剤の混合物と乳化剤に溶解したラジカル発生剤の溶液を連続的に重合容器に供給して乳化重合する方法などによって得ることができる。
本発明の(C)ポリ乳酸系樹脂としては、L−乳酸および/またはD−乳酸を主たる構成成分とする重合体であるが、本発明の目的を損なわない範囲で、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。
【0042】
かかる他の共重合成分単位としては、例えば、多価カルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトンなどが挙げられ、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸などの多価カルボン酸類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ビスフェノールにエチレンオキシドを付加反応させた芳香族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの多価アルコール類、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸類、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトンなどのラクトン類などを使用することができる。これらの共重合成分は、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0043】
ポリ乳酸で高い耐熱性を得るためには、乳酸成分の光学純度が高い方が好ましく、総乳酸成分の内、L体あるいはD体が80モル%以上含まれることが好ましく、さらには90モル%以上含まれることが好ましく、95モル%以上含まれることが特に好ましい。
【0044】
(C)ポリ乳酸系樹脂の製造方法としては、既知の重合方法を用いることができ、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法などを採用することができる。
【0045】
(C)ポリ乳酸系樹脂の分子量や分子量分布は、実質的に成形加工が可能であれば、特に限定されるものではなく、重量平均分子量としては、好ましくは1万以上、より好ましくは4万以上、特に好ましくは8万以上であるのがよい。ここでいう重量平均分子量とは、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメタクリル酸メチル(PMMA)換算の重量平均分子量である。
【0046】
(C)ポリ乳酸系樹脂の融点は、特に限定されるものではなく、150℃以上であることが好ましい。
【0047】
本発明の(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、(C)ポリ乳酸系樹脂を含有する樹脂組成物から形成されるポリ乳酸系樹脂シートの、(A)スチレン系樹脂の混合比は、(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂の合計量に対して、(A)スチレン系樹脂10重量%以上であり、さらに好ましくは(A)スチレン系樹脂が25〜70重量%である。
【0048】
また本発明の(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、(C)ポリ乳酸系樹脂を含有する樹脂組成物から形成されるポリ乳酸系樹脂シートの、(B)グラフト重合体の混合比は、(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂の合計量に対して、(B)グラフト重合体の添加量は5〜50重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。
【0049】
さらに本発明の(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、(C)ポリ乳酸系樹脂を含有する樹脂組成物から形成されるポリ乳酸系樹脂シートの、(C)ポリ乳酸系樹脂の混合比は、(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂の合計量に対して、(C)ポリ乳酸系樹脂の添加量は30〜85重量%、さらに好ましくは65〜10重量%の範囲となるようにすることで、バイオマス度を保ちつつ、十分な耐衝撃性と耐熱性を得ることができる。
【0050】
本発明の樹脂組成物及び該樹脂組成物から形成されるポリ乳酸系樹脂シートは、上記のような組成で(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、(C)脂肪族ポリエステルを混合することにより得られるが、(A)スチレン系樹脂は、(a)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位が樹脂成分に対して0〜99重量%、好ましくは10〜80重量%、(b)芳香族ビニル系単位1〜100重量%、好ましくは1〜70重量%、(c)シアン化ビニル系単位0〜50重量%、好ましくは1〜40重量%、(d)これらと共重合可能な他のビニル系単位0〜99重量%、好ましくは0.01〜80重量%の範囲となるようにすることで、十分な耐衝撃性と耐熱性を得ることができる。
【0051】
本発明の(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、(C)ポリ乳酸系樹脂を含有する樹脂組成物及びそれから形成されるポリ乳酸系樹脂シートの特色は、(A)スチレン系樹脂、(C)ポリ乳酸系樹脂からなるマトリックスと、このマトリックス中に分散する(B)グラフト重合体のドメインとからなっており、このときドメインである(B)グラフト重合体が、(C)ポリ乳酸系樹脂中に存在する面積割合が10〜90%の範囲で存在することが好ましい。
【0052】
例えば、射出成形により得られた成形品について、オスミウムブロック染色法により、(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体を染色した後、超薄切片を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡にて6000倍に拡大して断面の観察を行うことにより、(B)グラフト重合体の分散形態を確認することができる。
【0053】
また本発明に使用される(B)グラフト重合体の、(r)ゴム質重合体にグラフト共重合する単量体混合物の組成を変更することにより、(B)グラフト重合体の分散形態を変更することができる。例えば、単量体混合物中の(a)不飽和カルボン酸アルキルエステルを多くすると、(B)グラフト重合体は(C)ポリ乳酸系樹脂相での分散が多くなり、(a)不飽和カルボン酸アルキルエステルが少なくなると、(B)グラフト重合体は(C)ポリ乳酸系樹脂相での分散が少なくなり、(A)スチレン系樹脂相での分散となることが確認できる。
【0054】
ここで(B)グラフト重合体が、(C)ポリ乳酸系樹脂中に存在する断面写真での面積割合は10〜90%の範囲であり、好ましくは20〜85%、さらに好ましくは30〜80%の範囲である。面積割合が10〜90%の範囲にない場合は、耐衝撃性が著しく低下するため好ましくない。
【0055】
(B)グラフト重合体が、(C)ポリ乳酸系樹脂中に存在する面積割合を測定する方法としては、上記と同様の方法で透過型電子顕微鏡にて成形品断面を撮影した。さらに4倍に拡大し、(C)ポリ乳酸系樹脂中の分散グラフト重合体の面積(X)と(A)スチレン系樹脂中の分散グラフト重合体の面積(Y)を該写真から切り出し重量法を用いて求め、(X)/((X)+(Y))の式に従って求めたものである。
【0056】
本発明の(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、(C)ポリ乳酸系樹脂を含有する樹脂組成物及びそれから形成されるポリ乳酸系樹脂シートにおいて、耐衝撃性、引張破断伸度などの靱性や耐熱性が向上するという観点から、さらに(D)ジカルボン酸無水物を含有することが好ましい。
【0057】
(D)ジカルボン酸無水物とは、ジカルボン酸から、分子内で水分子が脱離した構造を有する化合物のことであり、例えば、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物、シトラコン酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、コハク酸無水物、アジピン酸無水物、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、フタル酸無水物などが挙げられ、耐衝撃性、耐熱性、成形加工性の点で、マレイン酸無水物、コハク酸無水物、フタル酸無水物のいずれか1種以上であることが好ましく、耐衝撃性、耐熱性の点で、マレイン酸無水物、コハク酸無水物がより好ましく、マレイン酸無水物がさらに好ましい。なお、本発明のポリ乳酸系樹脂シートにおいて、(D)ジカルボン酸無水物は、化合物として単体で存在していてもよく、また、(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂のいずれか1種以上と反応し、ジカルボン酸無水物の構造を保持せずに存在していてもよい。
【0058】
本発明では、(D)ジカルボン酸無水物を配合することにより、(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂の相構造に影響を及ぼし、強度、耐衝撃性、引張破断伸度、耐熱性および成形加工性などの特性が、大きく向上すると考えられる。
【0059】
本発明において、(D)ジカルボン酸無水物の含有量は、(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂の合計量100重量部に対して、0.01〜5重量部であり、耐衝撃性、耐熱性の点で、好ましくは0.05〜2重量部、より好ましくは0.1〜1重量部である。
【0060】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートにおいては、耐熱性が向上するという観点から、さらに結晶核剤を含有することが好ましい。
【0061】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートで使用する結晶核剤としては、一般にポリマーの結晶核剤として用いられるものを特に制限なく用いることができ、無機系結晶核剤および有機系結晶核剤のいずれをも使用することができる。
【0062】
無機系結晶核剤の具体例としては、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト、マイカ、合成マイカ、クレー、ゼオライト、シリカ、グラファイト、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、硫化カルシウム、窒化ホウ素、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウムおよびフェニルホスホネートの金属塩などが挙げられ、耐熱性を向上させる効果が大きいという観点から、タルク、カオリナイト、モンモリロナイトおよび合成マイカが好ましい。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。これらの無機系結晶核剤は、組成物中での分散性を高めるために、有機物で修飾されていることが好ましい。
【0063】
無機系結晶核剤の含有量は、(C)ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、0.01〜100重量部が好ましく、0.05〜50重量部がより好ましく、0.1〜30重量部がさらに好ましい。
【0064】
また、有機系結晶核剤の具体例としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、シュウ酸カルシウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、オクタコサン酸ナトリウム、オクタコサン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、カリウムジベンゾエート、リチウムジベンゾエート、ナトリウムβ−ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレートなどの有機カルボン酸金属塩、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウムなどの有機スルホン酸塩、ステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)などのカルボン酸アミド、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリビニルシクロアルカン、ポリビニルトリアルキルシラン、高融点ポリ乳酸などのポリマー、エチレン−アクリル酸またはメタクリル酸コポリマーのナトリウム塩、スチレン−無水マレイン酸コポリマーのナトリウム塩などのカルボキシル基を有する重合体のナトリウム塩またはカリウム塩(いわゆるアイオノマー)、ベンジリデンソルビトールおよびその誘導体、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェートなどのリン化合物金属塩および2,2−メチルビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウムなどが挙げられ、耐熱性を向上させる効果が大きいという観点からは、有機カルボン酸金属塩およびカルボン酸アミドが好ましい。これらは単独ないし2種以上用いることができる。
【0065】
有機系結晶核剤の含有量は、(C)ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、0.01〜30重量部が好ましく、0.05〜10重量部がより好ましく、0.1〜5重量部がさらに好ましい。
【0066】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートにおいては、耐熱性が向上するという観点から、さらに無機系結晶核剤以外の充填剤を含有することが好ましい。
【0067】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートで使用する無機系結晶核剤以外の充填剤としては、通常熱可塑性樹脂の強化に用いられる繊維状、板状、粒状、粉末状のものを用いることができる。具体的には、ガラス繊維、アスベスト繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラストナイト、セピオライト、アスベスト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化硅素繊維及びホウ素繊維などの無機繊維状充填剤、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、再生セルロース繊維、アセテート繊維、ケナフ、ラミー、木綿、ジュート、麻、サイザル、亜麻、リネン、絹、マニラ麻、さとうきび、木材パルプ、紙屑、古紙及びウールなどの有機繊維状充填剤、ガラスフレーク、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、セリサイト、ベントナイト、ドロマイト、微粉珪酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、珪酸アルミニウム、酸化珪素、石膏、ノバキュライト、ドーソナイトおよび白土などなどの板状や粒状の充填剤が挙げられる。これらの充填剤の中では、無機繊維状充填剤が好ましく、特にガラス繊維、ワラストナイトが好ましい。また、有機繊維状充填剤の使用も好ましく、ポリ乳酸系樹脂の生分解性を生かすという観点から、天然繊維や再生繊維がさらに好ましい。また、配合に供する繊維状充填剤のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は5以上であることが好ましく、10以上であることがさらに好ましく、20以上であることがさらに好ましい。
【0068】
上記の充填剤は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆または集束処理されていてもよく、アミノシランやエポキシシランなどのカップリング剤などで処理されていてもよい。
【0069】
充填剤の含有量は、(C)ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、0.1〜200重量部が好ましく、0.5〜100重量部がさらに好ましい。
【0070】
本発明においては、耐熱性が向上するという観点から、さらに可塑剤を含有することが好ましい。
【0071】
本発明で使用する可塑剤としては、一般にポリマーの可塑剤として用いられるものを特に制限なく用いることができ、例えばポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤及びエポキシ系可塑剤などを挙げることができる。
【0072】
ポリエステル系可塑剤の具体例としては、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸などの酸成分と、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのジオール成分からなるポリエステルやポリカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸からなるポリエステルなどを挙げることができる。これらのポリエステルは単官能カルボン酸もしくは単官能アルコールで末端封鎖されていてもよく、またエポキシ化合物などで末端封鎖されていてもよい。
【0073】
グリセリン系可塑剤の具体例としては、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノオレートおよびグリセリンモノアセトモノモンタネートなどを挙げることができる。
【0074】
多価カルボン酸系可塑剤の具体例としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸エステル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリヘキシルなどのトリメリット酸エステル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸n−オクチル−n−デシルアジピン酸エステルなどのセバシン酸エステル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、およびセバシン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのセバシン酸エステルなどを挙げることができる。
【0075】
ポリアルキレングリコール系可塑剤の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロック及び/またはランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体などのポリアルキレングリコールあるいはその末端エポキシ変性化合物、末端エステル変性化合物および末端エーテル変性化合物などの末端封鎖化合物などを挙げることができる。
【0076】
エポキシ系可塑剤とは、一般にはエポキシステアリン酸アルキルと大豆油とからなるエポキシトリグリセリドなどを指すが、その他にも、主にビスフェノールAとエピクロロヒドリンを原料とするような、いわゆるエポキシ樹脂も使用することができる。
【0077】
その他の可塑剤の具体例としては、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレートなどの脂肪族ポリオールの安息香酸エステル、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、オレイン酸ブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチルなどのオキシ酸エステル、ペンタエリスリトール、各種ソルビトール、ポリアクリル酸エステル、シリコーンオイルおよびパラフィン類などを挙げることができる。
【0078】
本発明で使用する可塑剤としては、上記に例示したものの中でも、特にポリエステル系可塑剤及びポリアルキレングリコール系可塑剤から選択した少なくとも1種が好ましい。本発明に使用する可塑剤は、単独ないし2種以上用いることができる。
【0079】
また、可塑剤の含有量は、(C)ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、0.01〜30重量部の範囲が好ましく、0.1〜20重量部の範囲がより好ましく、0.5〜10重量部の範囲がさらに好ましい。
【0080】
本発明においては、結晶核剤と可塑剤を各々単独で用いてもよいが、両者を併用して用いることが好ましい。
【0081】
本発明においては、加水分解抑制により耐熱性、耐久性が向上するという観点から、さらにカルボキシル基反応性末端封鎖剤を含有することが好ましい。
【0082】
本発明で使用するカルボキシル基反応性末端封鎖剤としては、ポリマーのカルボキシル末端基を封鎖することのできる化合物であれば特に制限はなく、ポリマーのカルボキシル末端の封鎖剤として用いられているものを用いることができる。本発明においてかかるカルボキシル基反応性末端封鎖剤は、(C)ポリ乳酸系樹脂の末端を封鎖するのみではなく、天然由来の有機充填剤の熱分解や加水分解などで生成する乳酸やギ酸などの酸性低分子化合物のカルボキシル基も封鎖することができる。また、上記末端封鎖剤は、熱分解により酸性低分子化合物が生成する水酸基末端も封鎖できる化合物であることがさらに好ましい。
【0083】
このようなカルボキシル基反応性末端封鎖剤としては、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、カルボジイミド化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を使用することが好ましく、なかでもエポキシ化合物および/またはカルボジイミド化合物が好ましい。
【0084】
カルボキシル基反応性末端封鎖剤の含有量は、(C)ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、0.01〜10重量部の範囲が好ましく、0.05〜5重量部の範囲がより好ましい。
カルボキシル基反応性末端封鎖剤の添加時期は、特に限定されないが、耐熱性を向上するだけでなく、機械特性や耐久性を向上できるという点で、(C)ポリ乳酸系樹脂と予め溶融混練した後、天然由来の有機充填剤と混練することが好ましい。
【0085】
本発明の樹脂組成物及びそれから形成されるポリ乳酸系樹脂シートにおいて、本発明の目的を損なわない範囲で安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候剤など)、滑剤、離型剤、難燃剤、染料または顔料を含む着色剤、帯電防止剤、発泡剤などを添加することができる。
【0086】
本発明において、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂(例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、芳香族および脂肪族ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、芳香族および脂肪族ポリケトン樹脂、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタン樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリビニルアルコール樹脂など)または熱硬化性樹脂(例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など)または軟質熱可塑性樹脂(例えばエチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、エチレン/プロピレンターポリマー、エチレン/ブテン−1共重合体など)などの少なくとも1種以上をさらに含有することができる。これらの樹脂を配合することで、優れた特性を有するシートを得ることができる。
【0087】
これらの添加剤は、本発明のポリ乳酸系樹脂シートを製造する任意の段階で配合することが可能であり、例えば、少なくとも2成分の樹脂を配合する際に同時に添加する方法や、予め2成分の樹脂を溶融混練した後に添加する方法や、始めに片方の樹脂に添加し溶融混練後、残りの樹脂を配合する方法が挙げられる。
【0088】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートのインパクト値は3.0kN・m/mm以上であることが好ましく、4.0kN・m/mm以上であることがより好ましい。3.0kN・m/mm未満であると、成形加工時に割れが発生し、実用上の使用が困難になることがある。またインパクト値は大きければ大きいほど好ましく、特に上限値はない。しかし、ポリ乳酸系樹脂シートにより達成可能な現実的な上限値は5.0kN・m/mmと考えられる。
【0089】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、(C)ポリ乳酸系樹脂、および必要に応じて(D)ジカルボン酸無水物、結晶核剤、充填剤、可塑剤、その他の添加剤を予めブレンドした後、融点以上において、一軸または二軸押出機で、均一に溶融混練する方法が好ましく用いられ、インフレーション法、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法などの既存の延伸シート製造法により行うことができるが、成形性と耐熱性を両立するシートの配向状態を制御しやすいこと、また、製膜速度を高速にできることから逐次二軸延伸法が好ましい。
【0090】
以下に本発明の無延伸のポリ乳酸系樹脂シートを得る場合、さらにはテンター式逐次二軸延伸を行う場合の好ましい製膜方法を示すが、本発明は、かかる製膜方法に限定されるものではない。
【0091】
(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、(C)ポリ乳酸系樹脂、および必要に応じて(D)ジカルボン酸無水物、結晶核剤、充填剤、可塑剤、その他の添加剤を原料として性状に応じた計量装置を用いて、それぞれ所定の比率で、二軸押出機に供給する。二軸押出機としては、原料を未乾燥で供給するため、ベント式二軸押出機を好ましく用いることができる。供給された各原料は、溶融粘度に応じて150〜300℃で溶融し、例えばTダイ法によりリップ間隙2〜3mmのスリット状の口金から金属製冷却キャスティングドラム上に密着させ、無配向キャストシートを得る。
【0092】
金属製冷却ロールの表面温度の好ましい範囲は0℃〜70℃であり、より好ましい範囲は20℃〜50℃である。
【0093】
延伸シートを得る場合は、こうして得られた無延伸キャストシートを加熱ロール上に搬送することによって縦延伸を行う温度まで昇温する。昇温には赤外線ヒーターなど補助的な加熱手段を併用してお良い。延伸温度の好ましい範囲は80〜95℃であり、より好ましくは85〜90℃である。このようにして昇温した未配向シートを加熱ロール間の周速差を用いてシート長手方向に1段もしくは2段以上の多段で延伸を行う。合計延伸倍率は1.2〜3.5倍が好ましく、より好ましくは1.5〜3.0倍である。
【0094】
このように一軸延伸したシートをいったん冷却した後、シートの両端部をクリップで把持してテンターに導き、幅方向の延伸を行う。延伸温度は75〜90℃が好ましく、より好ましくは80〜85℃である。延伸倍率は1.2〜3.5倍が好ましく、より好ましくは1.5〜3.0倍である。
【0095】
シートの幅方向の性能差を低減するためには、長手方向の延伸温度よりも1〜15℃低い温度で幅方向の延伸を行うことが好ましい。
【0096】
さらに必要に応じて、再縦延伸および/または再横延伸を行ってもよい。
【0097】
次に、この延伸シートを緊張下または幅方向に弛緩しながら熱固定する。主にシートに熱寸法安定性を付与する観点、また同時にシートに含有しているラクチドを飛散させラクチド量を低減させる観点から、好ましい熱処理温度は100〜160℃であり、より好ましくは120〜150℃である。時間は0.2〜30秒の範囲で行うのが好ましいが、特に限定されない。弛緩率は、幅方向の熱収縮率を低下させる観点から1〜8%であることが好ましく、より好ましくは2〜5%である。熱固定処理を行う前にいったんシートを冷却することがさらに好ましい。
【0098】
さらに、シートを室温まで、必要ならば、長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、シートを冷やして巻き取り、目的とするポリ乳酸系樹脂シートを得る。
【0099】
上記のような製造方法を採用することにより、本発明のポリ乳酸系樹脂シートを得ることができる。
【0100】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートは、情報記録部を設けることにより情報記録カ−ドとして好適に使用することができる。情報記録部は例えば、公知の磁性フェライトを樹脂バインダに分散させた磁気インクを塗布したり、磁気転写箔から転写により磁性層を形成するなど、それ自体公知の方法により形成することができる。
【0101】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートは、強度、コシの強さ、経済性などの面から0.01mm以上、1.0mm以下の厚さとするのが好ましく、このようにすることで広範囲の用途分野で用ることができる。例えば、現在実用化されている他材料基材の一般的なカ−ド用途では、0.1〜0.3mm程度の厚さ範囲で良好に使用することができる。
【実施例】
【0102】
本発明をさらに具体的に説明するために、以下、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例中の部数および%はそれぞれ重量部および重量%を示す。
【0103】
[参考例1] (A)スチレン系樹脂
以下にスチレン系樹脂の調製方法を示す。なお得られたポリマーを、70℃で5時間減圧乾燥後、0.4g/100ml濃度のメチルエチルケトン溶液を調製し、30℃の温度条件下でウベローデ粘度計を用いて極限粘度を測定した。
【0104】
<A−1>
容量が20Lで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体(特公昭45−24151号公報記載)0.05重量部をイオン交換水165重量部に溶解した溶液を添加して400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記混合物質を反応系で撹拌しながら添加し、60℃に昇温し重合を開始した。
スチレン 70重量部
アクリロニトリル 30重量部
t−ドデシルメルカプタン 0.2重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.4重量部
30分かけて反応温度を65℃まで昇温したのち、120分かけて100℃まで昇温した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行なうことにより、ビーズ状のポリマーを得た。得られたスチレン系樹脂のメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.53dl/gであった。
【0105】
[参考例2] (B)グラフト重合体
以下にグラフト共重合体の調製方法を示す。なおグラフト率は次の方法で求めたものである。グラフト共重合体の所定量(m)にアセトンを加え4時間還流した。この溶液を8000rpm(遠心力10,000G(約100×103 m/s2 ))30分遠心分離後、不溶分を濾過した。この不溶分を70℃で5時間減圧乾燥し、重量(n)を測定した。
【0106】
グラフト率=[(n)−(m)×L]/[(m)×L]×100
ここでLはグラフト共重合体のゴム含有率を意味する。
【0107】
上記アセトン溶液の濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、析出物(アセトン可溶分)を得た。この可溶分を、70℃で5時間減圧乾燥後、0.4g/100ml濃度のメチルエチルケトン溶液を調製し、30℃の温度条件下でウベローデ粘度計を用いて極限粘度を測定した。
【0108】
<B−1>
ポリブタジエン(重量平均粒子径0.35μm) 50重量部
(日本ゼオン社製 Nipol LX111K) (固形分換算)
オレイン酸カリウム 0.5重量部
ブドウ糖 0.5重量部
ピロリン酸ナトリウム 0.5重量部
硫酸第一鉄 0.005重量部
脱イオン水 120重量部
以上の物質を重合容器に仕込み、撹拌しながら65℃に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始として、メタクリル酸メチル35重量部、スチレン12.5重量部、アクリロニトリル2.5重量部、およびt−ドデシルメルカプタン0.3重量部を5時間かけて連続滴下した。並行してクメンハイドロパーオキサイド0.25重量部、オレイン酸カリウム2.5重量部および純水25重量部からなる水溶液を、7時間で連続滴下し反応を完結させた。得られたグラフト共重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソ−ダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥してパウダー状として得た。得られたグラフト共重合体のグラフト率は40%、メチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.30dl/gであった。
【0109】
<B−2>
上記<B−1>のメタクリル酸メチル35重量部、スチレン12.5重量部、アクリロニトリル2.5重量部をメタクリル酸メチル42.5重量部、スチレン7.5重量部に変更した以外はすべて同様に乳化重合を行った。得られたグラフト共重合体のグラフト率は42%、メチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.28dl/gであった。
【0110】
<B−3>
上記<B−1>のメタクリル酸メチル35重量部、スチレン12.5重量部、アクリロニトリル2.5重量部をメタクリル酸メチル50部に変更した以外はすべて同様に乳化重合を行った。得られたグラフト共重合体のグラフト率は43%、メチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.27dl/gであった。
【0111】
[参考例3] (C)ポリ乳酸系樹脂
<C−1>
重量平均分子量20万、D−乳酸単位1%、融点175℃のポリ−L−乳酸を使用した。
【0112】
[参考例4] (D)ジカルボン酸無水物
<D−1>
東京化成工業製マレイン酸無水物を使用した。
【0113】
<D−2>
東京化成工業製コハク酸無水物を使用した。
【0114】
[参考例5] 結晶核剤
<E−1>
富士タルク工業製”LMS300”(タルク;無機系結晶核剤)を使用した。
<E−2>
日本化成製”スリパックスL”(エチレンビスラウリン酸アミド;有機系結晶核剤)を使用した。
【0115】
[実施例1〜9、比較例1〜3]
表1記載の組成からなる原料をドライブレンドした後、押出温度220℃に設定した2軸スクリュー押出機(池貝工業社製PCM−30)を使用して溶融混合ペレタイズを行った。
【0116】
上記実施例1〜9、および比較例1〜3で得られたペレットをベント式二軸押出機に供給し、口金温度を230℃に設定したTダイ口金より押出し、タッチロール方式により、40℃に温調したキャスティングドラムに密着させ固化し、厚み0.30mmの無延伸シートを作製した。
【0117】
得られたシートについて、各特性を以下の測定方法にて評価した。
【0118】
[耐衝撃性]:採取したポリ乳酸系樹脂シートのインパクト値(単位:kN・m/mm)を、東洋精機製フィルムインパクトテスター(円錐型のインパクト点使用)を用いて測定した。測定は1水準につき7回行い、最大値と最小値を除いた5回の測定の平均値を算出した。
【0119】
[耐熱性]:採取したシートを外部から張力、荷重等の力を加えず、自重のみが加わった状態で、設定温度65℃の熱風オーブンに24時間投入し、投入前後のシートの自重による熱変形を観察し、以下の基準にて判断した。
【0120】
○:変形が見られない。
【0121】
△:若干の反りや垂れ下がりが見られるものの実用上問題なし。
×:形状を保持できない。
【0122】
[引張特性]:JIS K 7127に準拠し引張特性を測定し、引張速度は300mm/minとした。
【0123】
[バイオマス度]:ポリ乳酸系樹脂シートの(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂の合計量に対する(C)ポリ乳酸系樹脂の含有量を求め、以下の基準にて判断した。
【0124】
◎:バイオマス度が60重量%以上100重量%以下
○:バイオマス度が30重量%以上60重量%未満
×:バイオマス度が30重量%未満
各サンプルの耐衝撃性、耐熱性、引張特性、バイオマス度の測定結果を表1に示す。
【0125】
【表1−1】

【0126】
【表1−2】

【0127】
実施例1〜9より、本発明のポリ乳酸系樹脂シートは、ポリ乳酸単体(比較例1)に対して、(A)スチレン系樹脂と(B)グラフト重合体を添加することにより、大幅に耐衝撃性を改良することができ、さらに実用的な耐熱温度を有することができる。
【0128】
さらに実施例5〜7より、本発明のポリ乳酸系樹脂シート中に、(D)ジカルボン酸無水物を添加することにより、耐衝撃性、引張特性や耐熱性を大幅に向上できることがわかった。
【0129】
また実施例8および9より、本発明のポリ乳酸系樹脂シートに、さらに核剤を添加した場合でも、良好な耐衝撃性を有しながら、耐熱性を改善することができた。
【0130】
一方比較例2および3よりスチレン系樹脂が、本発明の範囲から外れた場合は、耐衝撃性は大幅に向上できるが、耐熱性が低いため、実用的でないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0131】
情報記録カ−ド、自動車用資材、電機・電子機器用資材、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、雑貨、またはその他の用途として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂を含有する樹脂組成物であり、(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂の合計量に対して、(A)スチレン系樹脂が10重量%以上である樹脂組成物から形成されることを特徴とするポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項2】
インパクト値が3.0kN・m/mm以上であることを特徴とする、請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項3】
(B)グラフト重合体が、(r)ゴム質重合体10〜80重量%に、(a)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位20〜90重量%、(b)芳香族ビニル系単位0〜70重量%、(c)シアン化ビニル系単位0〜50重量%、および(d)これらと共重合可能な他のビニル系単位0〜70重量%がグラフト重合されたグラフト重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項4】
(A)スチレン系樹脂が、(a)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位0〜99重量%、(b)芳香族ビニル系単位1〜100重量%、(c)シアン化ビニル系単位0〜50重量%、および(d)これらと共重合可能な他のビニル系単位0〜99重量%が共重合されたスチレン系樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項5】
(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂からなる樹脂組成物100重量部に対して、さらに(D)ジカルボン酸無水物を0.01〜5重量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項6】
(D)ジカルボン酸無水物が、マレイン酸無水物、フタル酸無水物、コハク酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項5に記載のポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項7】
(A)スチレン系樹脂、(B)グラフト重合体、および(C)ポリ乳酸系樹脂の合計量に対して、(C)ポリ乳酸系樹脂の含有量が、30重量%以上であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項8】
厚みが、0.01mm以上1.0mm以下であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリ乳酸系樹脂シートの上に、情報記録部を設けてなる、情報記録カ−ド。

【公開番号】特開2009−120725(P2009−120725A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296355(P2007−296355)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】