説明

ポリ乳酸系樹脂成形品

【課題】ポリ乳酸系樹脂と、高分子型帯電防止剤とを含有する組成物組成物が金型内に注型されてなる組成物成形品において、高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図ることを課題としている。
【解決手段】ポリ乳酸系のベース樹脂と高分子型帯電防止剤とを含有するポリ乳酸系樹脂組成物が金型内に注型されてなるポリ乳酸系樹脂成形品であって、ポリオレフィン系樹脂及びポリスチレン系樹脂の内の少なくとも1種が前記ポリ乳酸系樹脂組成物にさらに含有されることによって、該ポリオレフィン系樹脂及びポリスチレン系樹脂の内の少なくとも1種を含む分散相と前記ポリ乳酸系樹脂を含んだマトリックス相とが少なくとも成形品表面において形成されており、しかも、前記高分子型帯電防止剤として前記ポリ乳酸系樹脂よりも溶解度パラメータが小さい高分子型帯電防止剤が用いられることによって、該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となって前記分散相が形成されていることを特徴とするポリ乳酸系樹脂成形品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂成形品に関し、ポリ乳酸系樹脂と、高分子型帯電防止剤とを含有するポリ乳酸系樹脂組成物が金型内に注型されてなるポリ乳酸系樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂組成物を金型内に注型する射出成形やトランスファー成形といった樹脂成形品の製造が広く行われており、例えば、トレーなどの容器の成形加工に際して射出成形法を採用することが行われている。
このような、射出成形などに供される樹脂組成物としては、ポリスチレン系樹脂といった比較的安価な汎用樹脂をベースポリマーとしたポリスチレン系樹脂組成物などが用いられている。
近年、環境負荷の低減の観点から、植物由来の原料から製造可能な樹脂として注目されているポリ乳酸系樹脂の利用が広まっており、該ポリ乳酸系樹脂を原材料として採用することによって成形品の作製に必要となる石油資源の低減を図ることができ、二酸化炭素の排出量削減を図ることができることからその利用を拡大させている。
また、ポリ乳酸系樹脂は、機械的強度、剛性などの機械的特性や透明性が優れていることから、多くの分野において広く用いられるようになってきている。
【0003】
ところで、一般に樹脂成形品は、静電気によって帯電されやすく、保管中に埃等が付着して汚れを生じやすいという問題を発生させるおそれや、電気・電子部品に対して悪影響を及ぼすおそれを有し、ポリ乳酸系樹脂成形品においても例外ではなく、その改善が求められている。
【0004】
このようなポリ乳酸系樹脂成形品の帯電による諸問題は、成形品表面の表面抵抗率の値を低下させることで防止されることが知られており、例えば、ポリ乳酸系樹脂単体で形成された射出成形品の表面抵抗率の値が、通常、1015(Ω/□)オーダーを超えるレベルであるのに対してこれを1013(Ω/□)オーダー以下に低下させることで上述のような問題の発生が防止され得ることが知られている。
【0005】
この表面抵抗率を低下させる手法として、樹脂成形品の形成に用いる樹脂組成物中に帯電防止剤と呼ばれる成分を含有させる方法が採用されており、従来、界面活性剤などのような成分を原材料中に含有させることが行われている。
この界面活性剤などの、分子量が1000程度、あるいは、それ以下のものは“低分子型帯電防止剤”とも呼ばれており、これらの低分子型帯電防止剤は、帯電防止に有効ではあるもののポリマー中における拡散速度が大きいため経時的に樹脂成形品表面に滲出して、いわゆる“ブリードアウト”という問題を発生させるおそれを有する。
さらには、射出成形やトランスファー成形に用いる金型の内面を汚損する、いわゆる“モールドディポジット”などと呼ばれる問題を発生させるおそれも有する。
【0006】
近年、このようなことから、低分子型帯電防止剤に代えて分子量が1000を超え、数万に及ぶような高分子量の物質で帯電防止に有効な、いわゆる“高分子型帯電防止剤”の利用が検討されている(下記特許文献1参照)。
この高分子型帯電防止剤は、エーテル結合やエステル結合を含んだ極性ブロックと、アルキルなどからなる非極性ブロックとを有する共重合体であり、ポリマー中における移行性が低いことから、この高分子型帯電防止剤を用いることでブリードアウトの問題を抑制させることができる。
一方で、高分子型帯電防止剤は、比較的、大量に配合しないと効果が発揮されず、しかも、一般的なポリ乳酸系樹脂に比べてはるかに高価であるためポリ乳酸系樹脂成形品の材料コストを増大させてしまいポリ乳酸系樹脂成形品の汎用性を低下させてしまっている。
また、ポリ乳酸系樹脂特有の性質が高分子型帯電防止剤の大量配合により損なわれるおそれも有する。
【0007】
このようなことを防止すべく高分子型帯電防止剤を少ない量で有効に作用させるための検討が広く行われているが、その手法は確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−274031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂と高分子型帯電防止剤とを含有するポリ乳酸系樹脂組成物が金型内に注型されてなるポリ乳酸系樹脂成形品における、高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためのポリ乳酸系樹脂成形品に係る本発明は、ポリ乳酸系のベース樹脂と高分子型帯電防止剤とを含有するポリ乳酸系樹脂組成物が金型内に注型されてなるポリ乳酸系樹脂成形品であって、ポリオレフィン系樹脂及びポリスチレン系樹脂の内の少なくとも1種が前記ポリ乳酸系樹脂組成物にさらに含有されることによって、該ポリオレフィン系樹脂及びポリスチレン系樹脂の内の少なくとも1種を含む分散相と前記ポリ乳酸系樹脂を含んだマトリックス相とが少なくとも成形品表面において形成されており、しかも、前記高分子型帯電防止剤として前記ポリ乳酸系樹脂よりも溶解度パラメータが小さい高分子型帯電防止剤が用いられることによって、該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となって前記分散相が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリ乳酸系樹脂成形品は、その形成に用いられるポリ乳酸系樹脂組成物にポリオレフィン系樹脂及びポリスチレン系樹脂の内の少なくとも1種が含有されている。
ポリオレフィン系樹脂及びポリスチレン系樹脂は、ポリ乳酸系樹脂に対する相溶性が低いことから、ポリ乳酸系樹脂組成物でポリ乳酸系樹脂成形品を形成させるのに際してポリ乳酸系樹脂を含むマトリックス相中に粒子状の分散相が形成され、いわゆる“海島構造”を形成することとなる。
【0012】
そして、本発明においては、前記ポリ乳酸系樹脂よりも溶解度パラメータの低い高分子型帯電防止剤が用いられて該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となって前記分散相が形成される。
したがって、分散相の表面全体を導電路として利用することができ、単に高分子型帯電防止剤のみをポリ乳酸系樹脂に分散させている場合と違って、表面の電気抵抗値を大きく低下させうる。
すなわち、高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ポリオレフィン系樹脂(PE)樹脂と高分子型帯電防止剤(ペレスタット230)の分散状態を観察したTEM像。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリ乳酸系樹脂成形品に係る実施の形態について、以下に説明する。
まず、前記ポリ乳酸系樹脂成形品を形成するためのポリ乳酸系樹脂組成物について説明する。
【0015】
本実施形態のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂をベース樹脂として含有し、高分子型帯電防止剤をさらに含有している。
さらに、ポリ乳酸系樹脂組成物には、ポリオレフィン系樹脂及びポリスチレン系樹脂の内の少なくとも1種が前記ポリ乳酸系樹脂に非相溶性を示す非相溶性成分として含有されており、前記ポリ乳酸系樹脂をマトリックス相とし、当該非相溶性成分を分散相とする分散状態が形成されている。
【0016】
前記マトリックス相を構成するポリ乳酸(PLA)系樹脂としては、例えば、ポリ−D乳酸樹脂、ポリL−乳酸樹脂、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸樹脂、ポリD−乳酸樹脂とポリL−乳酸樹脂との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸又はポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体を挙げることができ、これらは、単独、または、複数混合した状態でポリ乳酸系樹脂組成物のベース樹脂を構成させることができる。
【0017】
前記ポリ乳酸系樹脂に対する非相溶性成分を構成する前記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)系樹脂やポリプロピレン(PP)系樹脂が挙げられる。
前記ポリエチレン(PE)系樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、直鎖低密度ポリエチレン樹脂、(高圧法によって得られる)低密度ポリエチレン樹脂などが挙げられる。
【0018】
前記ポリプロピレン(PP)系樹脂としては、プロピレン成分のみからなるホモポリプロピレン樹脂、プロピレン成分以外にエチレンなどのオレフィン成分を含有するランダム共重合体やブロック共重合体が挙げられる。
なお、PP系樹脂として共重合体を採用する場合には、プロピレン以外のオレフィンを共重合体中に0.5〜30質量%、特に好ましくは1〜10質量%の割合で含有させたものを用いることが望ましい。
この場合のオレフィン成分としては、エチレン、あるいは、炭素数4〜10のα−オレフィンを挙げることができる。
【0019】
また、本実施形態のポリ乳酸系樹脂組成物には、前記ポリエチレン(PE)系樹脂や前記ポリプロピレン(PP)系樹脂以外に、ポリブテン樹脂や、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂などを前記ポリオレフィン系樹脂として含有させうる。
【0020】
前記ポリオレフィン系樹脂の一部、又は、全部に代えて前記ポリ乳酸系樹脂に対して非相溶性を示す成分を構成させるための前記ポリスチレン系樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、i−プロピルスチレン、t−ブチルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン等のスチレン系単量体の単独重合体又はこれらの共重合体等が挙げられる。
また、上記ポリスチレン系樹脂としては、上記スチレン系単量体を主成分とする共重合体であってもよく、上記スチレン系単量体とこのスチレン系単量体と共重合可能なビニル単量体との共重合体であってもよい。
このようなビニル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレートの他、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレートなどの二官能性単量体などが挙げられる。
【0021】
これらのビニル単量体は、単独で、または複数を混合して使用することができる。
すなわち、本発明で用いられるポリスチレン系樹脂は、前記スチレン系単量体の1種以上と上記例示のビニル単量体の1種以上から構成されるコポリマー(共重合体)であってもよい。
さらに、本実施形態のポリスチレン系樹脂としては、上記例示の単量体以外に共重合可能な他の単量体成分を含有するコポリマーを用い得る。
【0022】
また、前記ポリスチレン系樹脂としては、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂を用いることが出来る。耐衝撃性ポリスチレン系樹脂は、通常、上記ポリスチレン系樹脂に該当するものの中で、合成ゴム等により改質されて耐衝撃性が向上されたものである。
このゴムによる改質とは、一般に、ゴム分を共重合成分として分子中に導入させる場合、及び、ゴムを混合成分としてポリスチレン系樹脂に分散させることを意味する。
すなわち、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂の中には、分子中にゴム成分の導入された耐衝撃性ポリスチレン(以下、「HIPS」ともいう。)、該HIPSと汎用ポリスチレン(以下、「GPPS」ともいう。)とのブレンド体、又はGPPSとスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)あるいはその水素添加物(SEBS)などとのブレンド体等が包含される。
【0023】
前記高分子型帯電防止剤としては、ポリ乳酸系樹脂組成物のベース樹脂を構成しているポリ乳酸系樹脂よりも溶解度パラメータが低いポリマーを主成分とし、前記非相溶性成分をベース樹脂に分散させた際に、この非相溶性成分の周囲に集合して該非相溶性成分とともにコアシェル状の粒子を形成させ得るものを選択することが当該高分子型帯電防止剤の使用量を抑制しつつポリ乳酸系樹脂成形品に優れた帯電防止効果を発揮させる上において重要である。
【0024】
このような高分子型帯電防止剤としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエステルアミド、ポリエーテルエステルアミド、エチレン−メタクリル酸共重合体などのアイオノマー(アイオノマー樹脂)やポリエチレングリコールメタクリレート系共重合体等の第四級アンモニウム塩、特開2001−278985号公報等に記載のオレフィン系ブロックと親水性ブロックとの共重合体等が挙げられる。
中でも、ポリ乳酸系樹脂との相互作用を考慮した場合、オレフィン系ブロックと親水性ブロックとの共重合体が好ましく、ポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体(ポリエーテル系ブロックとポリオレフィン系ブロックのブロック共重合体)からなる高分子型帯電防止剤が好適に使用されうる。
しかも、本実施形態において用いられる高分子型帯電防止剤としては、プロピレンを70モル%以上含むオレフィン系ブロックとポリエーテル系ブロックとのブロック共重合体がより好ましい。
【0025】
なお、本実施形態に係るポリ乳酸系樹脂組成物においては、複数種類の高分子型帯電防止剤を併用し得る。
帯電防止性能の更なる向上を目的として、ポリアミド系樹脂をポリ乳酸系樹脂組成物に添加したり、ポリアミド系ブロックをさらに共重合させた高分子型帯電防止剤を本実施形態のポリ乳酸系樹脂組成物に含有させたりすることができる。
【0026】
なお、前記ポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体が含有させる高分子型帯電防止剤中に70重量%以上占めていることが好ましく、80重量%以上であることが特に好ましい。
さらには、実質上、上記ポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体のみからなる高分子型帯電防止剤を利用することが最も好ましい。
【0027】
なお、帯電防止効果を高めるために、アルキルベンゼンスルホン酸塩、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアニオン性界面活性剤や、その他の界面活性剤又はアルカリ金属塩などの低分子型帯電防止剤を併用してもよい。
ただし、これらの添加によって、溶出イオン量が増加することがあるので使用量は、ポリ乳酸系樹脂組成物に含有される帯電防止剤(高分子型帯電防止剤+低分子型帯電防止剤)の合計量に占める割合が0.5重量%未満となるように含有させることが好ましい。
【0028】
本実施形態のポリ乳酸系樹脂組成物における前記マトリックス相形成用の樹脂(ポリ乳酸系樹脂)と前記分散相形成用樹脂(ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂)との配合割合や、高分子型帯電防止剤の含有量などは特に限定されるものではないが、ポリ乳酸系樹脂成形品の表面抵抗率は、1×108〜1×1013Ω/□のいずれかであることが好ましいことから、このような表面抵抗率をポリ乳酸系樹脂成形品に付与させ得るものの中で、より高分子型帯電防止剤の含有量の低減が可能な配合割合を選択することが好ましい。
なお、ポリ乳酸系樹脂成形品の表面抵抗率は、1×109〜1×1012Ω/□のいずれかとさせることがより好ましく、1×109〜1×1011Ω/□のいずれかとさせることが最も好ましい。
このような表面抵抗率の値をポリ乳酸系樹脂成形品に付与しうるポリオレフィン系樹脂及びポリスチレン系樹脂のポリ乳酸系樹脂組成物に占める含有量としては、通常、5〜20重量%のいずれかであり、5〜15重量%のいずれかであることが好ましい。
【0029】
また、前記高分子型帯電防止剤は、通常、ポリ乳酸系樹脂組成物全体に占める割合が2〜30重量%の内のいずれかとなる割合で含有される。
この、高分子型帯電防止剤の下限値が、2重量%とされているのは、これよりも少ない含有量の場合には、ポリ乳酸系樹脂成形品に十分な帯電防止効果が発揮されないおそれを有するためであり、上限値が30重量%とされているのは、これを超えて高分子型帯電防止剤を含有させても、その含有量に見合う帯電防止効果が得られにくいばかりでなくポリ乳酸系樹脂成形品の材料コストを増大させてしまうおそれがあるためである。
【0030】
このような観点からは、前記高分子型帯電防止剤は、ポリ乳酸系樹脂組成物全体に占める割合が3〜20重量%の内のいずれかとなる割合で含有されることが好ましく、ポリ乳酸系樹脂組成物全体に占める割合が5〜10重量%の内のいずれかとなる割合で含有されることが特に好ましい。
【0031】
なお、ここでは詳述しないが、本実施形態のポリ乳酸系樹脂成形品の形成に用いられるポリ乳酸系樹脂組成物には、一般的な樹脂成形品の形成に用いられる配合剤を含有させることができ、例えば、耐候剤や老化防止剤といった各種安定剤、滑剤などの加工助剤、スリップ剤、防曇剤、顔料、充填剤などを添加剤として適宜含有させることができる。
【0032】
次いで、このようなポリ乳酸系樹脂組成物を用いポリ乳酸系樹脂成形品を製造する製造方法について説明する。
本実施形態においては、一般的な樹脂成形品に用いられる方法を採用することができ、例えば、前記ベース樹脂、前記ポリオレフィン系樹脂及びポリスチレン系樹脂の内の少なくとも1種、及び、前記高分子型帯電防止剤などを含有するポリ乳酸系樹脂組成物を作製する樹脂混練工程を実施した後に、得られたポリ乳酸系樹脂組成物を、射出成形やトランスファー成形といった金型内に注型する方法によって製品形状とする成形工程を実施する方法が挙げられる。
以下に、それぞれの工程に関して、より具体的に説明する。
【0033】
(樹脂混練工程)
まず、ポリ乳酸系樹脂組成物を作製する方法の具体的な例としては、該ポリ乳酸系樹脂組成物を構成する各成分を所定量配合し、これを混練して前記成分が所定の割合で含有されているペレットやグラニューラを作製する方法を挙げることができ、例えば、ベース樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリスチレン系樹脂の内の少なくとも1種、高分子型帯電防止剤と、必要に応じてスリップ剤、防曇剤等の添加剤とを計量してタンブラーブレンダー、へンシェルミキサーなどでドライブレンドした後、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどで各配合材料が略均一に混合された状態となるように溶融混練し、さらに、この溶融混練物をストランド状に押出してペレタイズするか、ホットカットしてペレット化する方法などが挙げられる。
【0034】
(成形工程)
上記樹脂混練工程で得られたペレットを、例えば、射出成形によって製品形状に成形加工する方法としては、前記製品形状を形成させ得るようにキャビティー形状が設けられた金型と、該金型内に前記ペレットを溶融状態で注型させ得る押出し機等とが組み合わされた装置を用いて実施することができる。
【0035】
この樹脂混練工程、及び、押出し工程における加熱溶融状態での混合に際して、極性の高いポリ乳酸系樹脂に対して極性の低いポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂といった成分が非相溶性を示し、該非相溶性成分による分散相が前記ポリ乳酸系樹脂を含むマトリックス相に分散された状態となる。
すなわち、ポリオレフィン系樹脂またはポリスチレン系樹脂による分散相の形成された海島構造が溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物中に形成される。
このとき、分散相を形成しているポリオレフィン系樹脂またはポリスチレン系樹脂に対して親和性の高いオレフィン結合を含んだ非極性ブロックと、マトリックス相を形成しているポリ乳酸系樹脂に親和性の高いポリエーテルブロックとを有する高分子型帯電防止剤がこの分散相とマトリックス相との界面に集合して、この界面に沿っての電気抵抗の低い領域を形成させる。
しかも、成形工程においては、このポリオレフィン系樹脂またはポリスチレン系樹脂粒子をコアにし、外殻部が高分子型帯電防止剤によって形成されたコアシェル状の粒子が、溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物に作用するせん断力によってその流れ方向(押出し方向)に沿って長く延び、比較的アスペクト比の高い状態となって分散相を形成する。
そして、平面方向への長さが1μmを超える細長いコアシェル型の粒子(分散相)を成形品の表面において形成させることで表面抵抗率を顕著に低下させることができる。
【0036】
なお、分散相の大きさについては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)で直接確認することができ、例えば、成形品の表面部から採取した試料に対して数千倍から数万倍の倍率で無作為に10視野程度の観察を行い、その半数以上において1μm以上の長さの粒子が確認できれば、成形品の表面に1μm以上の分散相が形成されていると判断することができる。
【0037】
このようなコアシェル状の分散相による効果についてさらに説明すると、高分子型帯電防止剤は、通常、主たる成分がイオン伝導性等に優れたポリマーであり樹脂成形品の表面に導電性を付与することで表面抵抗率を低下させて帯電防止を行うものであるが、単独で高分子型帯電防止剤をポリ乳酸系樹脂に分散させた場合には、系内に微小な点状粒子となって分散されてしまい、その粒子間の距離をある程度接近させ得るような量で含有させなければ求めるような帯電防止効果が発揮されない。
一方で、本実施形態においては、ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂粒子、又は、これらの混合樹脂でコア部が形成され、外殻部(シェル部)が高分子型帯電防止剤で形成された粒子が形成される。
このことから、このコア部の分だけ高分子型帯電防止剤の使用量を抑制しつつ、この分散相の粒子間距離を縮めることができる。
【0038】
しかも、分散相を形成している粒子が樹脂の流れ方向(押出し方向)に沿って長く延び、1μm長さを超えるような細長い形状となることで高分子型帯電防止剤による導電路がこの粒子表面に形成されることとなる。
すなわち、本実施形態のポリ乳酸系樹脂成形品においては、樹脂の流れ方向に沿って上記のような長細い粒状に分散相が形成されることから、この粒子の長手方向に沿った電気抵抗値の低減が図られることとなる。
【0039】
また、通常、分散相を形成しているコアシェル状の粒子と、この粒子に隣接する別の粒子との間の電気抵抗値は、主として、粒子間の距離によって決定されることになる。
つまり、樹脂の流れ方向と直交する方向に電圧を印加した場合においては、コアシェル状粒子どうしが隣り合せとなる区間における最も電気抵抗値の低い箇所(通常、粒子どうしが最も接近している箇所)を通って流れる電荷の量によって電気抵抗値が左右されることになる。
【0040】
そして、本実施形態のポリ乳酸系樹脂成形品においては、樹脂の流れ方向に沿って長細い粒状に分散相が形成されることから、粒子どうしが隣り合わせとなる区間が長く形成され、その間に電気抵抗値の低い箇所(粒子どうしが接近する箇所)が形成される可能性が高くなる。
したがって、イオン伝導に有利な樹脂の流れ方向以外の方向においても電気抵抗値の低減が図られることとなり、高分子型帯電防止剤の配合量を30重量%以下、例えば、5〜10重量%にまで低減したとしてもポリ乳酸系樹脂成形品の表面抵抗率の値を、一般的に求められる1013(Ω/□)オーダー以下(1×1014未満)の値となるように低下させうる。
【0041】
なお、上記のような効果は、高分子型帯電防止剤を構成しているポリマーの溶解度パラメータの値がベース樹脂の溶解度パラメータの値よりも低く、ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂に近い値を示すことで発揮され得るものではあるが、このような効果をより顕著に発揮させるためには、ベース樹脂と、ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂との両方に非相溶性を示す高分子型帯電防止剤を採用することが好ましい。
前記溶解度パラメータはSP値などとも呼ばれ、Fedorsの式によって求められるが、通常、その値が0.5以上離れる物質どうしは非相溶性を示すといわれている。
そして、例えば、ポリ乳酸系樹脂であれば、通常、SP値が11.4程度であり、ポリオレフィン系樹脂では、例えば、一般的なPEでは8前後であり、ポリスチレン系樹脂であれば、9程度の値を示す。
したがって、この間の8.5〜9.7程度のポリマーで、体積固有抵抗値の低いポリマーからなる高分子型帯電防止剤を利用することで、マトリックス(ポリ乳酸系樹脂)相の側にも分散相(ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂)の側にも高分子型帯電防止剤が取り込まれてしまうことを防ぐことができ、ポリ乳酸系樹脂組成物に含有させた高分子型帯電防止剤の内のより多くの高分子型帯電防止剤をコアシェル状粒子の外殻部の形成に利用することができる。
【0042】
例えば、市販の高分子型帯電防止剤を利用する場合で、その分子構造を明確に把握することが難しく溶解度パラメータの値を計算することが困難な場合であれば、前記ベース樹脂と溶融混合して確かめることが可能である。
すなわち、ポリ乳酸系樹脂に対して少なくとも非相溶性を示すことが確認できれば溶解度パラメータの値がポリ乳酸系樹脂よりも低いと判断することができる。
また、同様にポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂の中で前記高分子型帯電防止剤に対して非相溶性を示すものを選択することでマトリックス相を構成するベース樹脂と分散相のコア部を構成する樹脂との中間の溶解パラメータを有すると判断することができる。
【0043】
なお、このコアシェル状粒子をより細長く形成させる具体的な手法としては、押出し時のせん断の加わり方を調整する方法が挙げられる。
このようにコアシェル状粒子の形状と、その外殻部を構成させる高分子型帯電防止剤の選択によって、ポリ乳酸系樹脂成形品における高分子型帯電防止剤の使用量をより一層抑制させつつ表面抵抗率の低減を図ることができる。
なお、この成形工程は、金型内に注型するポリ乳酸系樹脂組成物を、ソリッドな状態で注型する場合に限定されるものではなく、発泡を生じさせてポリ乳酸系樹脂成形品として、発泡成形品を形成させる場合も本発明の意図する範囲である。
【0044】
このような発泡成形品を形成させるには、例えば、発泡成分を含有させたポリ乳酸系樹脂組成物を射出成形するなどすればよく、この発泡成分については、例えば、加熱分解型の発泡剤や、気泡核剤(以下、単に「核剤」ともいう)とガス成分との組み合わせなどが挙げられる。
前記加熱分解型の発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウムとクエン酸の混合物などが挙げられる。
また、前記核剤としては、例えば、タルク、マイカ、シリカ、珪藻土、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸バリウム、ガラスビーズなどの無機化合物、ポリテトラフルオロエチレン、などの有機化合物などが挙げられる。
この核剤とともに用いられる前記ガス成分としては、例えば、水、炭化水素、ジメチルエーテル、塩化メチル、塩化エチル、窒素、二酸化炭素、アルゴン等が挙げられる。
これらの発泡成分については、それぞれ、単独、または、複数組み合わせて用いることができる。
【0045】
また、ここでは詳述しないが、ポリ乳酸系樹脂成形品や、その製造方法に係る従来公知の技術事項を、本発明の効果が著しく損なわれない範囲においては、本発明においても採用が可能である。
【実施例】
【0046】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
(配合剤)
以下に、ポリ乳酸系樹脂成形品などの作製に用いる配合剤の略称と、その詳細とを記載する。

【0048】
(参考事例1)
まず、ポリ乳酸系樹脂組成物を用いて、非発泡なフィルムを押出し機で連続的に押出して作製し、帯電防止性能についての評価を行った。
試料の作製方法と評価方法とは以下のような方法を採用した。
【0049】
(試料作製方法及び評価方法)
(配合1〜7)
下記表1に示す配合にて、表1に示す厚みのポリ乳酸系樹脂フィルムを作製した。
また、得られたポリ乳酸系樹脂フィルムに対して、JIS K 6911:1995「熱硬化性プラスチックー般試験方法」記載の方法により表面抵抗率の値を測定した。
具体的には、一辺が10cmの平面正方形状の試験片を温度22℃、湿度60%の雰囲気下に24時間放置した後、温度22℃、湿度60%の環境下、試験装置(アドバンテスト社製、デジタル超高抵抗/微少電流計R8340及びレジスティビティ・チェンバR12702A)を使用し、試験片に、約30Nの荷重にて電極を圧着させ500Vの電圧を印加して1分経過後の抵抗値を測定し、次式により算出した。
ρs=π(D+d)/(D−d)×Rs
ただし、
ρs:表面抵抗率(Ω/□)
D:表面の環状電極の内径(cm)(レジスティビティ・チェンバR12702Aでは、7cm)
d:表面電極の内円の外径(cm)(レジスティビティ・チェンバR12702Aでは、5cm)
Rs:表面抵抗(Ω)

また、測定は3回実施し、それぞれの算術平均値を求めた。
結果を、表1に併せて示す。
【0050】
なお、後段において詳述するが、このポリ乳酸系樹脂にポリオレフィン系樹脂と高分子型帯電防止剤とを溶融混合させて得られた押出しフィルムにおいては、前記高分子型帯電防止剤で外殻が形成され、前記ポリオレフィン系樹脂で内部のコアが形成されたコアシェル状の粒子が形成されていることが確認された。
【0051】
【表1】

【0052】
この表1にも示されているように、単に高分子型帯電防止剤を配合した基準配合(配合1)に比べて、ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂を併用している場合(配合2−7)には、高分子型帯電防止剤を同量用いても表面抵抗率の値を大きく低下させうることがわかる。
【0053】
(参考事例2)
(配合8〜11)
表2に示す配合で、表2に示す厚みのポリ乳酸系樹脂発泡シートを押出し機で連続的に発泡押出しして作製し、上記の参考事例1と同様に表面抵抗率の測定を行った。結果を、表2に併せて示す。
【0054】
【表2】

【0055】
この表2からも、ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリ乳酸系樹脂発泡成形体の表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
【0056】
(表面TEM観察)
PP系樹脂を10重量%、「ペレスタット230」を7重量%含有させたポリ乳酸系樹脂組成物を加熱溶融させた状態でシート状に押出発泡させたポリ乳酸系樹脂発泡シートから薄片試料を切り出し、該薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図1に示す。
なお、上記TEM観察における試験片は、ポリ乳酸系樹脂発泡シートを押出し方向に沿ってスライスしたものであり、図1のTEM像は、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの表面に相当する側においてこのスライスされた試験片を観察したものである。
すなわち、ポリ乳酸系樹脂発泡シートの厚み方向の断面における表面側近傍の様子を押出し方向に直交する方向から観察したものである。
この図1からも、PP系樹脂が1μm以上の長さを有するアスペクト比の高い分散相を形成し、その周囲に高分子型帯電防止剤である「ペレスタット230」が集合されていることがわかる。
【0057】
(実施例)
(配合12〜22)
次いで、ポリ乳酸系樹脂成形品についての評価事例を示す。
まず、下記表3に示す配合のポリ乳酸系樹脂組成物を作製した。このポリ乳酸系樹脂組成物は、各材料を二軸押出し機にて混練し、ペレット化することにより作製した。
このペレット(ポリ乳酸系樹脂組成物)を射出成形して20mm×30mm×4mmの非発泡なシート状のポリ乳酸系樹脂成形品を作製した。
得られたポリ乳酸系樹脂成形品に対して、以下のような評価を実施した。
【0058】
(評価方法)
また、得られたシート状のポリ乳酸系樹脂成形品を、温度22℃、相対湿度60%の環境下に24時間放置した後、温度22℃、相対湿度60%の環境下、三菱化学社製、高抵抗率計、「ハイレスターUP(MCP−HT450、プローブ:URS)を使用して、表面抵抗率の値を測定した。
測定に際しては、プローブをシート状のポリ乳酸系樹脂成形品の表面に圧着させDC500Vの電圧を1分間印加した後に表面抵抗率の値を計測する方法を採用した。
また、測定は、3個のポリ乳酸系樹脂成形品に対して実施し、これらの算術平均を各実施の表面抵抗率とした。
結果を、表3に併せて示す。
【0059】
【表3】

【0060】
この表3からも、ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂を併用することで高分子型帯電防止剤の使用を抑制しつつポリ乳酸系樹脂成形品の表面抵抗率の値を低下させうることがわかる。
【0061】
以上のように、本発明によれば、ポリ乳酸系樹脂成形品において高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図り得ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系のベース樹脂と高分子型帯電防止剤とを含有するポリ乳酸系樹脂組成物が金型内に注型されてなるポリ乳酸系樹脂成形品であって、
ポリオレフィン系樹脂及びポリスチレン系樹脂の内の少なくとも1種が前記ポリ乳酸系樹脂組成物にさらに含有されることによって、該ポリオレフィン系樹脂及びポリスチレン系樹脂の内の少なくとも1種を含む分散相と前記ポリ乳酸系樹脂を含んだマトリックス相とが少なくとも成形品表面において形成されており、しかも、前記高分子型帯電防止剤として前記ポリ乳酸系樹脂よりも溶解度パラメータが小さい高分子型帯電防止剤が用いられることによって、該高分子型帯電防止剤を外殻としたコアシェル状粒子となって前記分散相が形成されていることを特徴とするポリ乳酸系樹脂成形品。
【請求項2】
前記高分子型帯電防止剤が、分子内にポリエーテルブロックとポリオレフィンブロックとを有するブロック共重合体である請求項1記載のポリ乳酸系樹脂成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−231285(P2011−231285A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105248(P2010−105248)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】