説明

ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法、ポリ乳酸系樹脂発泡体およびポリ乳酸系樹脂発泡成形体

【課題】連続気泡率が低く、中嵩密度のポリ乳酸系樹脂発泡体の簡便な製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ポリ乳酸系樹脂100質量部とモノカルボジイミド系化合物0.01〜2質量部とを押出機に供給し、発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物を製造する溶融混錬工程;発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混練物を押出し、発泡させながら、切断することによってポリ乳酸系樹脂発泡体を製造する押出発泡工程;およびポリ乳酸系樹脂発泡体を冷却する冷却工程を含み、ポリ乳酸系樹脂発泡体が、0.08〜0.16g/cm3の嵩密度および15%以下の連続気泡率を有することを特徴とするポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法により課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法、ポリ乳酸系樹脂発泡体およびポリ乳酸系樹脂発泡成形体に関する。さらに詳しくは、本発明は、連続気泡率が低く、中嵩密度のポリ乳酸系樹脂発泡体の簡便な製造方法ならびに前記の製造方法により得られるポリ乳酸系樹脂発泡体およびポリ乳酸系樹脂発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸系樹脂は天然由来原料である乳酸系モノマーを重合されて得られる樹脂であり、また、自然界に存在する微生物によって分解される生分解性樹脂でもある。さらに、これらは機械的特性、成形性等にも優れる。このため、ポリ乳酸系樹脂は、現在、樹脂発泡体の原料樹脂として多くの技術分野で使用されている。前記のポリ乳酸系樹脂発泡体としては、低嵩密度から高嵩密度までのものが幅広く使われており、これらについて様々な出願がなされている(例えば、特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−302567号公報
【特許文献2】特開2007−186692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、発泡体の強度と軽量化の観点から、0.08〜0.16g/cm3の中嵩密度の発泡体が好まれるようになっている。
【0005】
特許文献1には、生分解性を有するポリエステル系樹脂を押出機に投入するとともに発泡剤も加え、発泡させたストランドとして押出し、これをカットして予備発泡粒子を製造すると開示されている。押出機より押出された発泡ストランドをカットする方法としては種々の方法があるが、多孔ダイから押出されて発泡しつつあるストランドを冷却しながらカットする、いわゆるホットカット方式が好ましく、得られる予備発泡粒子の形状が丸みを帯び、得られた予備発泡粒子を用いて発泡成形体を成形する場合に型内への充填をスムーズに行うことができると記載されている。
【0006】
しかしながら、前記方法で得られる発泡粒子では、押出機内で高温にさらされるために樹脂劣化が発生し、得られる発泡粒子の嵩密度としては、成形性を考慮すると0.20g/cm3程度しか嵩密度を上げることが出来ず、それ以上の嵩密度に上げると、連続気泡率が高くなり成形不可能となった。また、0.20g/cm3の発泡粒子を再発泡させれば、所望の中嵩密度の発泡粒子を得ることができるが、製造工程が1工程増えるため、生産性の劣るものであった。
【0007】
また、特許文献2には、ポリ乳酸系樹脂、架橋剤および発泡剤を押出機で溶融混練後に押出し、押出された混練物をカットするポリ乳酸系樹脂発泡性粒子の製造方法および得られる発泡粒子が記載されている。この発明によると架橋工程と含浸工程が一工程に簡素化されると同時に、従来工程と同等の発泡性、成形性を有するポリ乳酸系発泡成形体が得られると記載されている。
【0008】
しかしながら、得られる発泡粒子は発泡性粒子の輸送を考慮し、発泡倍数を1〜5倍(0.25〜1.25g/cm3)と記載されており、嵩密度が0.08〜0.16g/cm3の発泡粒子を得るために、さらに再発泡を必要とし生産性を考えると劣るものとなった。
【0009】
このため、連続気泡率が低く、中嵩密度(0.08〜0.16g/cm3)のポリ乳酸系樹脂発泡体の簡易的かつ生産性の良い製造方法の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かくして本発明によれば、ポリ乳酸系樹脂100質量部とモノカルボジイミド系化合物0.01〜2質量部とを押出機に供給し、発泡剤の存在下に溶融混練することによって発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物を製造する溶融混錬工程;
前記発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物を、前記押出機の前端に取り付けたノズル金型から押出し、発泡させながら、前記ノズル金型の前端面に接触しながら2000〜10000rpmの回転数で回転する回転刃で切断することによってポリ乳酸系樹脂発泡体を製造する押出発泡工程;および
前記ポリ乳酸系樹脂発泡体を、前記回転刃の切断応力によって飛散させ、前記ノズル金型の前方に配設した冷却部材に衝突させて冷却する冷却工程を含み、
前記ポリ乳酸系樹脂発泡体が、0.08〜0.16g/cm3の嵩密度および10%以下の連続気泡率を有することを特徴とするポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、前記製造方法によって得られるポリ乳酸系樹脂発泡体が提供される。
【0012】
さらに、本発明によれば、前記ポリ乳酸系樹脂発泡体から得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、連続気泡率が低く、中嵩密度のポリ乳酸系樹脂発泡体の簡便な製造方法を提供することができる。
【0014】
また本発明によれば、ポリ乳酸系樹脂が構成単量体成分としてD体およびL体の双方の光学異性体を含有しかつD体またはL体のうち少ない方の光学異性体の含有量が5モル%未満であるか、または、構成単量体成分としてD体またはL体のうちのいずれか一方の光学異性体のみを含有する場合、ポリ乳酸系樹脂の結晶化度を上げることができるため、連続気泡率が低く、中嵩密度で、さらにより耐熱性に優れたポリ乳酸系樹脂発泡体の簡便な製造方法を提供することができる。
【0015】
また本発明によれば、ポリ乳酸系樹脂がその融点(mp)と、動的粘弾性測定にて得られた貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tとの間で、下記式(I):
(ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)−40℃)
≦(交点における温度T)≦ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)・・・・・式(I)
を満たす場合、貯蔵弾性率と損失弾性率とのバランスをより高いレベルで調整することができるため、連続気泡率が低く、中嵩密度のポリ乳酸系樹脂発泡体の簡便で、さらにより安定な製造方法を提供することができる。
【0016】
また本発明によれば、モノカルボジイミド系化合物がビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミドである場合、ポリ乳酸系樹脂中にモノカルボジイミド系化合物をより均一に分散させることができるため、連続気泡率が低く、さらにより好適な中嵩密度のポリ乳酸系樹脂発泡体の簡便な製造方法を提供することができる。
【0017】
本発明によれば、連続気泡率が低く、中嵩密度のポリ乳酸系樹脂発泡体を得ることができる。
【0018】
本発明によれば、連続気泡率が低く、中嵩密度のポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の製造装置の一例を示した模式断面図である。
【図2】本発明の製造装置のノズル金型を正面から見た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の特徴は、ポリ乳酸系樹脂100質量部とモノカルボジイミド系化合物0.01〜2質量部とを押出機に供給し、発泡剤の存在下に溶融混練することによって発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物を製造する溶融混錬工程;
前記発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物を、前記押出機の前端に取り付けたノズル金型から押出し、発泡させながら、前記ノズル金型の前端面に接触しながら2000〜10000rpmの回転数で回転する回転刃で切断することによってポリ乳酸系樹脂発泡体を製造する押出発泡工程;および
前記ポリ乳酸系樹脂発泡体を、前記回転刃の切断応力によって飛散させ、前記ノズル金型の前方に配設した冷却部材に衝突させて冷却する冷却工程を含み、
前記ポリ乳酸系樹脂発泡体が、0.08〜0.16g/cm3の嵩密度および10%以下の連続気泡率を有するポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法である。
【0021】
具体的には、本発明の製造方法には、ポリ乳酸系樹脂100質量部とモノカルボジイミド系化合物0.01〜2質量部とを押出機に供給し、発泡剤の存在下に溶融混練することによって発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物を製造する溶融混錬工程が含まれる。このため、溶融していないポリ乳酸系樹脂中にモノカルボジイミド系化合物と発泡剤とを分散させた場合と比較して、モノカルボジイミド系化合物および発泡剤がポリ乳酸系樹脂中に偏在することなく、これらをポリ乳酸系樹脂中に均一かつ十分に分散させることができる。このため、樹脂成分の劣化を抑制しつつ、良好な発泡性能をポリ乳酸系樹脂に与えることができ、その結果、連続気泡率が低く、中嵩密度のポリ乳酸系樹脂発泡体を得ることができる。
【0022】
また、本発明の製造方法には、前記発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物を、前記押出機の前端に取り付けたノズル金型から押出し、発泡させながら、前記ノズル金型の前端面に接触しながら2000〜10000rpmの回転数で回転する回転刃で切断することによってポリ乳酸系樹脂発泡体を製造する押出発泡工程も含まれる。このため、本発明によれば、モノカルボジイミド系化合物と発泡剤とが均一に分散したポリ乳酸系樹脂を、溶融状態を維持しつつ、所望の嵩密度まで極めて短時間で、均一かつ連続的に発泡させることができる。その結果、10%以下の連続気泡率および0.08〜0.16g/cm3の嵩密度という、連続気泡率が低く、中嵩密度のポリ乳酸系樹脂発泡体を簡便に製造することができる。
【0023】
さらに、本発明の製造方法には、前記ポリ乳酸系樹脂発泡体を、前記回転刃の切断応力によって飛散させ、前記ノズル金型の前方に配設した冷却部材に衝突させて冷却する冷却工程も含まれる。このため、本発明によれば、得られたポリ乳酸系樹脂発泡体が熱履歴等に長時間さらされることなく、所望の連続気泡率および嵩密度を有するポリ乳酸系樹脂発泡体を、これらの物性を変化させることなく、極めて容易に冷却、回収することもできる。
【0024】
従って、本発明によれば、使用原料の溶融混合、分散から発泡後の製品化までの製造工程を、実質的に1工程で連続的に行うことができる。このため、本発明の製造方法は、従来の多段階に亘る製造工程を用いて行われるポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法の場合と比較して、連続気泡率が低く、中嵩密度のポリ乳酸系樹脂発泡体をより短い製造時間および低製造コストで、実質的に1つの製造設備を使用して簡便に製造することができる。
以下、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法ならびに前記製造方法により得られるポリ乳酸系樹脂発泡体およびポリ乳酸系樹脂発泡成形体について詳説する。
【0025】
(1)ポリ乳酸系樹脂発泡体
本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体は、原材料としてポリ乳酸系樹脂、モノカルボジイミド系化合物および発泡剤を少なくとも使用することによって得ることができる。なお、本発明において、原材料として使用するポリ乳酸系樹脂とモノカルボジイミド系化合物との質量比はポリ乳酸系樹脂発泡体およびポリ乳酸系樹脂発泡成形体におけるこれらの比率と略同一である。
【0026】
(ポリ乳酸系樹脂)
本発明においては、ポリ乳酸系樹脂として乳酸系単量体がエステル結合により重合した樹脂を用いることができ、商業的な入手容易性およびポリ乳酸系樹脂発泡体への発泡性付与の観点から、D−乳酸またはL−乳酸の単独重合体、D−乳酸(D体)とL−乳酸(L体)との共重合体、D−ラクチドまたはL−ラクチドの単独重合体およびD−ラクチド(D体)とL−ラクチド(L体)との共重合体のような重合体が好ましい。
【0027】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂は樹脂成分の粘弾性、耐熱性確保の観点から、好ましくは100,000〜350,000、より好ましくは100,000〜300,000の平均分子量を有する。なお、本発明において平均分子量とは、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)で測定した重量平均分子量を意味する。
【0028】
他方、ポリ乳酸系樹脂は、発泡成形工程や所望の物性等に影響を与えない限り、乳酸以外の単量体として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸およびヒドロキシヘプタン酸のような脂肪族ヒドロキシカルボン酸;
コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水コハク酸、無水アジピン酸、トリメシン酸、プロパントリカルボン酸、ピロメリット酸および無水ピロメリット酸のような脂肪族多価カルボン酸;
エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンおよびペンタエリトリットのような脂肪族多価アルコール等を任意に含んでいてもよい。
【0029】
また、本発明で使用するポリ乳酸系樹脂は、同様に発泡成形工程や所望の物性等に影響を与えない限り、アルキル基、ビニル基、カルボキシ基、芳香族基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基、アミノ基、ニトリル基およびニトロ基のようなその他の官能基を含んでいてもよい。また、同様に、多官能性ビニル系化合物、イソシアネート系化合物、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、過酸化物、酸無水物およびエポキシ化合物のような架橋剤によって架橋されていてもよく、エステル結合以外の結合手を介して結合していてもよい。さらに、ポリ乳酸系樹脂を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
ポリ乳酸系樹脂の製造方法としては、特に限定されることなく、公知の方法をいずれも使用することができる。具体的には、
オクタン酸スズ(II)のような触媒の存在下、ラクチドを重合させるラクチド法;
ジフェニルエーテルのような溶媒中で乳酸系単量体を減圧下に加熱し、水を取り除きながら重合を行う直接重合法;
乳酸系単量体を溶融させつつ重合を行う溶融法等の重合方法を挙げることができる。
【0031】
ここで、D体またはL体のうちの少ない方の光学異性体の割合が5モル%未満であるD体とL体との共重合体、およびD体またはL体のいずれか一方の単独重合体は、少ない方の光学異性体が減少するに従って、結晶性が高くなり融点が高くなる傾向がある。一方、D体またはL体のうちの少ない方の光学異性体の割合が5モル%以上であるD体とL体との共重合体は、少ない方の光学異性体が増加するに従って、結晶性が低くなり、やがて非結晶となる傾向がある。よって、例えば、高い耐熱性が望まれる用途では、前者のポリ乳酸系樹脂を使用することが好ましい。
【0032】
また、前者のポリ乳酸系樹脂は、ポリ乳酸系樹脂発泡体を金型内に充填して発泡させて得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体の耐熱性を向上させることができ、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体は高い温度であってもその形態を維持できる場合がある。従って、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体を金型から高い温度のまま取り出すことが可能となってポリ乳酸系樹脂発泡成形体の金型内における冷却時間が短縮され、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の生産効率を向上させ得ることがある。このため、前記の観点から、D体とL体との共重合体は、D体またはL体のうちのいずれか少ない方の光学異性体の割合が5モル%未満であることが好ましく、4モル%未満であることがより好ましい。
【0033】
本発明においては、ポリ乳酸系樹脂発泡体を押出発泡法で得る場合、ポリ乳酸系樹脂は、その融点(mp)と、動的粘弾性測定により得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tとの間で下記式(I)を満たすように調整されることが好ましい。
(ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)−40℃)
≦(交点における温度T)≦ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)・・・・・式(I)
【0034】
動的粘弾性測定にて得られた貯蔵弾性率は、粘弾性において弾性的な性質を示す指標であって、発泡過程における気泡膜の弾性の大小を示す指標であり、発泡過程において、気泡膜の収縮力に抗して気泡を膨張させるのに必要な発泡圧の大小を示す指標である。
【0035】
即ち、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定にて得られた貯蔵弾性率が低いと、気泡膜が伸長された場合、気泡膜が伸長力に抗して収縮しようとする力が小さい。このため、ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造に必要とする発泡圧によって発泡膜が容易に伸長してしまう結果、気泡膜が過度に伸長してしまい、破泡を生じることがある。一方、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定にて得られた貯蔵弾性率が高いと、気泡膜に伸長力が加わった場合、伸長に抗する気泡膜の収縮力が大きくなる。このため、ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造に必要とする発泡圧で一旦、気泡が膨張したとしても、温度低下等に起因する経時的な発泡圧の低下に伴って気泡が収縮してしまうことがある。
【0036】
また、動的粘弾性測定にて得られた損失弾性率は、粘弾性において粘性的な性質を示す指標である。具体的には、発泡過程における気泡膜の粘性を示す指標である。特に、発泡過程において、気泡膜をどの程度まで破れることなく伸長できるかの許容範囲を示す指標であると同時に、発泡圧によって所望の大きさに気泡を膨張させた後、この膨張した気泡をその大きさに維持する能力を示す指標でもある。
【0037】
即ち、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定にて得られた損失弾性率が低いと、ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造に必要とする発泡圧によって気泡膜が伸長された場合、気泡膜が容易に破れてしまうことがある。一方、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定により得られた損失弾性率が高いと、発泡力が気泡膜によって熱エネルギーに変換されてしまい、ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造時に気泡膜を円滑に伸長させることが難しくなり、気泡を膨張させることが困難になることがある。
【0038】
このように、ポリ乳酸系樹脂を発泡させてポリ乳酸系樹脂発泡体を製造する場合、発泡過程において、発泡圧によって気泡膜が破れることなく適度に伸長するための弾性力、即ち、貯蔵弾性率を有していることが好ましい。加えて、発泡圧によって気泡膜が破れることなく円滑に伸長し、所望大きさに膨張した気泡をその大きさに発泡圧の経時的な減少にかかわらず維持しておくための粘性力、即ち、損失弾性率を有していることが好ましい。
【0039】
つまり、押出発泡工程において、ポリ乳酸系樹脂の貯蔵弾性率および損失弾性率の双方が押出発泡に適した値を有していることが好ましく、このような押出発泡に適した貯蔵弾性率および損失弾性率を押出発泡工程においてポリ乳酸系樹脂に付与するために、ポリ乳酸系樹脂における動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度T(以下「温度T」という)と、ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)とが、好ましくは下記式(I)を満たすように、より好ましくは式(II)を満たすように調整される。この調整により、貯蔵弾性率および損失弾性率をそれらのバランスをとりながら押出発泡性を良好なものとし、ポリ乳酸系樹脂発泡体を安定的に製造できる。
〔ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)−40℃〕
≦交点における温度T≦ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)・・・式(I)
〔ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)−35℃〕
≦交点における温度T≦〔ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)−10℃〕・・・式(II)
【0040】
さらに、温度Tと、ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)とが前記式(I)および(II)を満たすように調整するのが好ましい理由を下記に詳述する。
【0041】
まず、温度Tが、ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)よりも40℃を越えて低い場合には、押出発泡時におけるポリ乳酸系樹脂の損失弾性率が貯蔵弾性率に比して大き過ぎるために、損失弾性率と貯蔵弾性率とのバランスが崩れてしまう。
【0042】
そこで、ポリ乳酸系樹脂の損失弾性率に適した発泡力、即ち、粘性に合わせた発泡力とすると、弾性力に対する発泡力が大き過ぎ、気泡膜が破れて破泡を生じて良好なポリ乳酸系樹脂発泡体を得ることができない場合がある。逆に、ポリ乳酸系樹脂の貯蔵弾性率に適した発泡力、即ち、弾性に合わせた発泡力とすると、粘性力に対する発泡力が小さく、ポリ乳酸系樹脂が発泡しにくくなり、良好なポリ乳酸系樹脂発泡体を得ることができない場合がある。
【0043】
また、温度Tが、ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)よりも高いと、押出発泡時におけるポリ乳酸系樹脂の貯蔵弾性率が損失弾性率に比して大き過ぎることになる。このため、上述と同様に損失弾性率と貯蔵弾性率とのバランスが崩れてしまうことがある。
【0044】
そこで、ポリ乳酸系樹脂の貯蔵弾性率に適した発泡力、即ち、弾性に合わせた発泡力とすると、粘性力に対する発泡力が大き過ぎ、気泡膜が破れて破泡を生じ良好なポリ乳酸系樹脂発泡体を得ることができない場合がある。逆に、ポリ乳酸系樹脂の損失弾性率に適した発泡力、即ち、粘性に合わせた発泡力とすると、弾性力に対する発泡力が小さく、ポリ乳酸系樹脂が一旦発泡したとしても、経時的な発泡力の低下に伴って気泡が収縮してしまって、やはり良好なポリ乳酸系樹脂発泡体を得ることができない場合がある。
【0045】
ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量が高くなるに従って、温度Tが高くなる。よって、温度Tと、ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)とが前記式(I)を満たすように調整するには、ポリ乳酸系樹脂の重合時に反応時間あるいは反応温度を調整することによって、得られるポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量を調整する方法、押出発泡前にあるいは押出発泡時にポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量を増粘剤や架橋剤を用いて調整する方法を挙げることができる。
【0046】
(モノカルボジイミド系化合物)
本発明においては、ポリ乳酸系樹脂のカルボキシ基末端の一部または実質的に全てがモノカルボジイミド系化合物により封鎖されている。一般に、ポリ乳酸系樹脂は水中または大気中の水分によって徐々にその主鎖に含まれるエステル結合が加水分解される性質、即ち、生分解性を有する。本発明によれば、分子鎖末端のカルボキシ基をモノカルボジイミド系化合物で封鎖すること、即ち、カルボキシ末端の酸触媒的な効果を抑制することによって、ポリ乳酸系樹脂の押出機内での加水分解を高度に制御することができる。その結果、ポリ乳酸系樹脂の劣化を、特にポリ乳酸系樹脂の押出機内での加水分解による劣化を抑制することにより、連続気泡率が低く、中嵩密度のポリ乳酸系樹脂発泡体を簡便に製造することができる。また、所望の加水分解抑制効果を得ることができる限り、カルボキシ基末端の一部がモノカルボジイミド系化合物によって封鎖されていてもよく、実質的に全てが封鎖されていてもよい。
【0047】
本発明において、モノカルボジイミド系化合物とは、カルボキシ基末端と脱水縮合反応により化学結合を容易に形成し得る−N=C=N−で表される官能基を分子内に有する化合物が意味され、具体的には、前記官能基を1個有する化合物を挙げることができる。
また、所望の物性を得ることができる限り、前記官能基を複数含むポリカルボジイミド系化合物を適宜含んでいてもよい。
【0048】
より具体的には、モノカルボジイミド系化合物として、ジメチルカルボジイミド、ジエチルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、2,2,6,6−テトラエチルジフェニルカルボジイミド、2,2,6,6−テトラメチルジフェニルカルボジイミド、2,2,6,6−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩およびビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミドのような化合物を挙げることができる。本発明においては、モノカルボジイミド系化合物として、より高い加水分解抑制効果を期待することができるビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミドが好ましい。
【0049】
また、連続気泡率が低く、所望の嵩密度のポリ乳酸系樹脂発泡体を得ることができるため、モノカルボジイミド系化合物は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、0.01〜2質量部、好ましくは0.05〜2質量部、より好ましくは0.05〜1.8質量部含まれる。さらに、モノカルボジイミド系化合物を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。モノカルボジイミド系化合物が、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、0.01質量部より少ない場合、樹脂の劣化を抑制することができず、所望のポリ乳酸系樹脂発泡体を得ることができないことがある。他方、2質量部より多い場合、遊離モノカルボジイミド系化合物がポリ乳酸系樹脂に多量に存在し、製造工程に悪影響を与えることがある。
【0050】
本発明のモノカルボジイミド系化合物は、ポリ乳酸系樹脂の溶融混練前にポリ乳酸系樹脂に予め加えられてもよく、ポリ乳酸系樹脂の溶融混練中に加えられてもよい。
【0051】
本発明においては、所望の物性等に影響を与えない限り、カルボキシ基末端と化学結合を形成し得る、ヒドロキシ基を有するアルコール系化合物、イソシアネート基を有するイソシアネート系化合物およびアミノ基を有するアミノ系化合物のようなその他の加水分解抑制剤を併用してもよい。また同様に、脱水縮合反応を促進し、副反応を抑制できることがあるため、1−ヒドロキシトリアゾールおよびN−ヒドロキシスクシンアミドのような縮合促進剤を併用することもできる。
【0052】
(発泡剤)
本発明においては、ポリ乳酸系樹脂とモノカルボジイミド系化合物とを含む樹脂組成物を、発泡剤の存在下、溶融混練し、次いで、得られた発泡性ポリ乳酸系溶融混錬物を発泡させることによってポリ乳酸系樹脂発泡体を得ることができる。
【0053】
発泡剤として、従来から汎用されているものを用いることができる。
例えば、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、ヒドラゾイルジカルボンアミドおよび重炭酸ナトリウムのような化学発泡剤;
プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタンおよびヘキサンのような飽和脂肪族炭化水素、ジメチルエーテルおよびジエチルエーテルのようなエーテル類、塩化メチル、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタンおよびモノクロロジフルオロメタンのようなフロン、二酸化炭素および窒素のような不活性ガス、のような物理発泡剤等を挙げることができる。この内、ポリ乳酸系樹脂発泡体への高い発泡性付与の観点から、物理発泡剤が好ましく、飽和脂肪族炭化水素がより好ましく、ノルマルブタンおよびイソブタンのいずれかが特に好ましい。発泡成形工程や所望の物性等に影響を与えない限り、発泡剤を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
また、均一な含浸性、発泡性を期待することができるため、発泡剤を含浸助剤と共に用いてもよい。
具体的には、含浸助剤として、
メタノール、エタノールおよびプロパノールのようなアルコール類;
アセトンおよびメチルエチルケトンのようなケトン類;
ベンゼン、トルエンおよびキシレンのような芳香族系化合物等を挙げることができる。
【0055】
発泡剤量が少ない場合、ポリ乳酸系樹脂発泡体を所望の嵩密度まで発泡できないことがある。一方、発泡剤量が多い場合、発泡剤が可塑剤として作用することから溶融状態の樹脂成分の粘弾性が低下し過ぎて発泡性が低下し、良好なポリ乳酸系樹脂発泡体を得ることができないことがある。加えてポリ乳酸系樹脂発泡体の嵩密度が高過ぎて結晶化度を制御できなくなることがある。よって、発泡剤量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、0.5〜4質量部が好ましく、0.8〜3質量部がより好ましい。なお、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体中には安全面および取扱い面から発泡剤が実質的に含まれていないことが好ましいが、ポリ乳酸系樹脂発泡体100質量部中に1質量部以下の発泡剤が含まれることがある。
【0056】
本発明においては、溶融混練時、気泡調整剤が添加されてもよい。また、ポリ乳酸系樹脂の結晶化を促進しない気泡調整剤を用いることがより好ましく、このような気泡調整剤として、ポリテトラフルオロエチレン粉末およびアクリル樹脂で変性されたポリテトラフルオロエチレン粉末のようなフッ素系気泡調整剤を挙げることができる。
【0057】
また、供給される気泡調整剤の量が少ない場合、ポリ乳酸系樹脂発泡体の気泡が粗大となり、得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体の外観が低下することがある。一方、供給された気泡調整剤の量が多い場合、ポリ乳酸系樹脂を押出発泡させる際に破泡を生じてポリ乳酸系樹脂発泡体の独立気泡率が低下し、連続気泡率が上がることがある。このため、気泡調整剤の量はポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、0.01〜3質量部が好ましく、0.05〜2質量部がより好ましく、0.1〜1質量部が特に好ましい。
【0058】
(その他の原材料)
本発明のポリ乳酸系樹脂は、所望の物性や製造工程等に影響を与えない限り、ポリスチレン系樹脂およびポリオレフィン系樹脂のようなその他の樹脂成分を含んでいてもよい。また、ポリ乳酸系樹脂発泡体は、同様に、顔料、着色剤、難燃剤、難燃助剤、油剤、粉体、フッ素化合物、樹脂、加水分解抑制剤、界面活性剤、粘剤、防腐剤、香料、紫外線防御剤(有機系、無機系を含む。UV−A、Bのいずれに対応していても構わない)、塩類、溶媒、酸化防止剤、キレート剤、中和剤、pH調整剤および昆虫忌避剤のようなその他の成分を含むこともできる。
【0059】
(2)ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法
本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法は、
ポリ乳酸系樹脂100質量部とモノカルボジイミド系化合物0.01〜2質量部とを押出機に供給し、発泡剤の存在下に溶融混練することによって発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物を製造する溶融混錬工程;
前記発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物を、前記押出機の前端に取り付けたノズル金型から押出し、発泡させながら、前記ノズル金型の前端面に接触しながら2000〜10000rpmの回転数で回転する回転刃で切断することによってポリ乳酸系樹脂発泡体を製造する押出発泡工程;および
前記ポリ乳酸系樹脂発泡体を、前記回転刃の切断応力によって飛散させ、前記ノズル金型の前方に配設した冷却部材に衝突させて冷却する冷却工程を含む。
このため、0.08〜0.16g/cm3の嵩密度および10%以下の連続気泡率を有するポリ乳酸系樹脂発泡体を簡便に製造することができる。また、ポリ乳酸系樹脂発泡体の物性や前記の工程に影響を与えない限り、その他の工程が組み込まれていてもよい。
以下、本発明の製造方法の一例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
まず、ポリ乳酸系樹脂およびモノカルボジイミド系化合物を図1および2に示す押出機に供給して発泡剤の存在下に溶融混練する。前記溶融混練時、カルボキシ末端の一部が脱水縮合反応等によりモノカルボジイミド系化合物で封鎖される。この後、押出機の前端に取り付けたノズル金型から発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物を押出し、この発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物を発泡させながら、180〜235℃のノズル金型の温度で、ノズル金型の前端面に接触しながら2000〜10000rpmの回転数で回転する回転刃によって切断してポリ乳酸系樹脂発泡体を製造し、ポリ乳酸系樹脂発泡体を切断応力によって飛散させる。なお、前記押出機としては、従来から汎用されている押出機であれば、特に限定されない。例えば、単軸押出機、二軸押出機、複数の押出機を連結させたタンデム型の押出機が挙げられる。
【0061】
そして、ノズル金型1から押出された発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物は引き続き切断工程に入る。発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物の切断は、回転軸2を駆動部材3により回転させ、ノズル金型1の前端面1aに配設された回転刃5を一定の回転数で回転させて行われる。なお、図番4は、冷却部材である。
【0062】
全ての回転刃5はノズル金型1の前端面1aに常時、接触しながら回転している。ノズル金型1から押出発泡された発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物は、回転刃5と、ノズル金型1におけるノズルの出口部11端縁との間に生じる剪断応力によって、一定の時間毎に大気中において切断されてポリ乳酸系樹脂発泡体とされる。この時、発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物の冷却が過度とならない範囲内において、発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物に水を霧状に吹き付けてもよい。
【0063】
ノズル金型1のノズル内においてポリ乳酸系樹脂は発泡しないことが好ましい。この場合、ポリ乳酸系樹脂は、ノズル金型1のノズルの出口部11から吐出された直後は、未だに発泡しておらず、吐出されてから僅かな時間が経過した後に発泡を始める。従って、発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物は、ノズル金型1のノズルの出口部11から吐出された直後の未発泡部と、この未発泡部に連続する、未発泡部に先んじて押出された発泡途上の発泡部とからなる。
【0064】
ノズル金型1のノズルの出口部11から突出されてから発泡を開始するまでの間、未発泡部はその状態を維持する。この未発泡部が維持される時間は、ノズル金型1のノズルの出口部11における樹脂圧力や、発泡剤量等によって調整できる。ノズル金型1のノズルの出口部11における樹脂圧力が高いと、発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物はノズル金型1から押出されてからすぐに発泡することはなく未発泡の状態を維持する。ノズル金型1のノズルの出口部11における樹脂圧力の調整は、ノズルの口径、押出量、ポリ乳酸系樹脂の溶融粘度および溶融張力によって調整できる。発泡剤量を適正な量に調整することによって金型内部においてポリ乳酸系樹脂が発泡することを防止し、未発泡部を確実に形成できる。
【0065】
本発明においては、好ましくは180〜235℃の、より好ましくは190〜230℃のノズル金型の温度下でポリ乳酸系樹脂発泡体の発泡を行う。ノズル金型の温度が180℃より低い場合、ノズルが樹脂で目詰まりし安定して生産できなくなることがある。また、235℃より高い場合、ポリ乳酸系樹脂が熱分解して発泡に必要な溶融張力が得られなくなり、良好な発泡体が得られなくなることがある。ここで、ノズル金型の温度とは、金型直近の流路から7mmの位置の温度を意味する。
【0066】
全ての回転刃5はノズル金型1の前端面1aに常時、接触した状態で発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物を切断していることから、発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物は、ノズル金型1のノズルの出口部11から吐出された直後の未発泡部において切断されてポリ乳酸系樹脂発泡体が製造される。
【0067】
得られたポリ乳酸系樹脂発泡体は、発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物をその未発泡部で切断していることから、切断部の表面には気泡断面は存在しない。そして、ポリ乳酸系樹脂発泡体の表面全面は、気泡断面の存在しない表皮層で被覆されている。
【0068】
また、回転刃5は一定の回転数で回転していることが好ましい。回転刃5の回転数は、2000〜10000rpmであり、3000〜9000rpmが好ましく、4000〜8000rpmがより好ましい。
【0069】
これは、2000rpmを下回ると、発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物を回転刃5によって確実に切断し難くなる。このため、ポリ乳酸系樹脂発泡体同士が合体することがあり、ポリ乳酸系樹脂発泡体の形状が不均一となることもある。
【0070】
一方、10000rpmを上回ると下記の問題点を生じることがある。第1の問題点は、回転刃による切断応力が大きくなって、ポリ乳酸系樹脂発泡体がノズルの出口部から冷却部材に向かって飛散される際に、ポリ乳酸系樹脂発泡体の初速が速くなる。その結果、発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物を切断してから、ポリ乳酸系樹脂発泡体が冷却部材に衝突するまでの時間が短くなり、ポリ乳酸系樹脂発泡体の発泡が不充分となることである。第2の問題点は、回転刃および回転軸の摩耗が大きくなって回転刃および回転軸の寿命が短くなることである。
【0071】
さらに、押出機の吐出量と回転数とは下記式(1):
【数1】

(式中、
Dn:金型のノズル径(cm)
Q:一穴あたりの吐出量(g/hr)
R:カッター刃回転数(rpm)
N:カッター刃枚数(枚)
X:得られる発泡粒の嵩密度(g/cm3))
を満たすことが好ましい。前記式(1)の関係を満たさない場合、同様に、所望の球状ないし略球状のポリ乳酸系樹脂発泡体を製造することができず、成形性等に影響を与えることがある。
【0072】
ポリ乳酸系樹脂発泡体は、回転刃5による切断応力によって切断と同時に外方あるいは前方に向かって飛散され、冷却ドラム41の周壁部41bの内周面に直ちに衝突する。ポリ乳酸系樹脂発泡体は、冷却ドラム41に衝突するまでの間も発泡し続けており、発泡によって好ましくは球状ないし略球状に成長している。なお、図番41c〜fは、それぞれ冷却ドラム41の供給口、供給管、排出口、排出管である。
【0073】
次いで、得られたポリ乳酸系樹脂発泡体をノズル金型の前方に配設した冷却部材に衝突させて冷却する。具体的には、冷却ドラム41の周壁部41bの内周面は全面的に冷却液42で被覆されており、冷却ドラム41の周壁部41bの内周面に衝突したポリ乳酸系樹脂発泡体は直ちに冷却されて、発泡が停止する。このように、発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物を回転刃5によって切断した後に、ポリ乳酸系樹脂発泡体を直ちに冷却液42によって冷却していることで、ポリ乳酸系樹脂発泡体を構成しているポリ乳酸系樹脂の結晶化度が上昇するのを防止できると共に、ポリ乳酸系樹脂発泡体が過度に発泡するのを防止できることがある。
【0074】
従って、ポリ乳酸系樹脂発泡体は、型内成形時に優れた発泡性および熱融着性を発揮する。型内成形時にポリ乳酸系樹脂発泡体の結晶化度を上昇させて、ポリ乳酸系樹脂の耐熱性を向上でき、得られる発泡成形体は優れた耐熱性を有している。
【0075】
なお、冷却液42の温度は、低いと、冷却ドラム41の近傍に位置するノズル金型が過度に冷却されて、ポリ乳酸系樹脂の押出発泡に悪影響が生じることがある。一方、高いと、ポリ乳酸系樹脂発泡体を構成しているポリ乳酸系樹脂の結晶化度が高くなり、ポリ乳酸系樹脂発泡体の熱融着性が低下することがある。よって、温度は、0〜45℃が好ましく、5〜40℃がより好ましく、10〜35℃が特に好ましい。
【0076】
前記製造方法を用いるため、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体は、球状ないし略球状、柱状、円筒状、針状および燐片状のような形態である。ここで、ポリ乳酸系樹脂発泡体の形態は球状ないし略球状が好ましい。球状ないし略球状の形態を有する場合、柱状、円筒状、針状および燐片状のような形態のポリ乳酸系樹脂発泡体と比べて、ポリ乳酸系樹脂発泡体は、流動性に優れ、発泡成型機への充填性等に優れ、その結果、成形性にも優れる。さらに、所望の複雑な形状の発泡成形体を容易に製造することもできる。球状ないし略球状とは、ポリ乳酸系樹脂発泡体の投射図が真球形の粒子から略球状(卵状)の粒子までを含むことを意味する。
【0077】
また、ノギスを用いた測定により、ポリ乳酸系樹脂発泡体の最も長い直径(長径)と最も短い直径(短径)との比(短径/長径)は、好ましくは1〜1.3の範囲、より好ましくは1〜1.2の範囲である。短径/長径が1〜1.3の範囲に含まれない場合、発泡成型機への充填性の点で問題となることがあり、その結果、発泡成形体間でのばらつきを生じ、所望の成形性を得ることができないことがある。なお、短径/長径=1は真球を意味する。
【0078】
ポリ乳酸系樹脂発泡体は連続気泡率を有する。ポリ乳酸系樹脂発泡体の連続気泡率は、高いと、型内発泡成形時にポリ乳酸系樹脂発泡体が殆ど発泡せず、ポリ乳酸系樹脂発泡体同士の融着性が低くなり、その結果、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体の機械的強度が低下することがある。このため、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体の連続気泡率は、15%以下であり、10%以下が好ましく、6%以下がより好ましい。
【0079】
ここで、ポリ乳酸系樹脂発泡体の連続気泡率は下記の要領で測定される。まず、体積測定空気比較式比重計の試料カップを用意し、この試料カップの80%程度を満たす量のポリ乳酸系樹脂発泡体の全重量A(g)を測定する。次に、前記ポリ乳酸系樹脂発泡体全体の体積B(cm3)を、比重計を用いて1−1/2−1気圧法により測定する。なお、体積測定空気比較式比重計は、例えば、東京サイエンス社から製品名「1000型」にて市販されている。
【0080】
続いて、金網製の容器を用意し、この金網製の容器を水中に浸漬し、この水中に浸漬した状態における金網製の容器の重量C(g)を測定する。次に、この金網製の容器内に前記ポリ乳酸系樹脂発泡体を全量入れた上で、この金網製の容器を水中に浸漬し、水中に浸漬した状態における金網製の容器とこの金網製容器に入れたポリ乳酸系樹脂発泡体の全量とを併せた重量D(g)を測定する。
【0081】
そして、下記式に基づいてポリ乳酸系樹脂発泡体の見掛け体積E(cm3)を算出し、この見掛け体積Eと前記ポリ乳酸系樹脂発泡体全体の体積B(cm3)に基づいて下記式によりポリ乳酸系樹脂発泡体の連続気泡率を算出することができる。なお、水1gの体積を1cm3とした。
E=A+(C−D)
連続気泡率(%)=100×(E−B)/E
【0082】
ポリ乳酸系樹脂発泡体は、0.08〜0.16g/cm3、好ましくは0.09〜0.16g/cm3、より好ましくは0.09〜0.15g/cm3の嵩密度を有する。嵩密度が0.16g/cm3より大きいと得られる発泡成形体の重量が高くなり、実用性に乏しいことがある。一方、嵩密度が0.08g/cm3より小さいと得られる発泡成形体の強度が低くなり、構造部材等への使用が困難となることがある。なお、本発明において、中嵩密度とは、0.08〜0.16g/cm3の嵩密度を意味する。
【0083】
ポリ乳酸系樹脂発泡体の平均粒子径は1.0〜5.0mmが好ましく、1.5〜4.0mmがより好ましい。平均粒子径が5.0mmより大きい場合、発泡成形機へのポリ乳酸系樹脂発泡体の充填性が低下することがあり、得られる発泡成形体の強度が低下することがある。また、1.0mmより小さい場合、発泡成形体の嵩密度に影響を与えることがある。
【0084】
ポリ乳酸系樹脂発泡体の結晶化度は、30%未満が好ましく、25%未満がより好ましい。結晶化度が30%以上の場合、発泡性に影響を与えることがある。ポリ乳酸系樹脂発泡体の結晶化度は、ノズル金型1から発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物が押出されてからポリ乳酸系樹脂発泡体が冷却液42に衝突するまでの時間や、冷却液42の温度によって調整することもできる。次いで、得られたポリ乳酸系樹脂発泡体を、金型のキャビティ内に充填して加熱し、ポリ乳酸系樹脂発泡体を発泡させることによって、ポリ乳酸系樹脂発泡体同士をそれらの発泡圧によって互いに融着一体化させ所望の形状を有するポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得ることができる。なお、金型内に充填したポリ乳酸系樹脂発泡体の加熱媒体としては、特に限定されず水蒸気の他に、熱風、温水等を挙げることができるが、60〜100℃の温水を用いることが好ましい。
【0085】
また、型内発泡成形前に、前記ポリ乳酸系樹脂発泡体にさらに不活性ガスを含浸させて、ポリ乳酸系樹脂発泡体の発泡力を向上させてもよい。即ち、本発明の製造方法は、冷却工程の後に、さらに、不活性ガスをポリ乳酸系樹脂発泡体に含浸させる含浸工程を含むこともできる。このようにポリ乳酸系樹脂発泡体の発泡力を向上させることにより、型内発泡成形時にポリ乳酸系樹脂発泡粒同士の融着性が向上し、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体はさらに優れた機械的強度を有する。なお、前記不活性ガスとしては、例えば、二酸化炭素、窒素、ヘリウム、アルゴン等を挙げることができ、二酸化炭素が好ましい。
【0086】
ポリ乳酸系樹脂発泡体に不活性ガスを含浸させる方法としては、例えば、常圧以上の圧力を有する不活性ガス雰囲気下にポリ乳酸系樹脂発泡体を置くことによってポリ乳酸系樹脂発泡体中に不活性ガスを含浸させる方法が挙げられる。このような場合、ポリ乳酸系樹脂発泡体を金型内に充填する前に不活性ガスを含浸させてもよいが、ポリ乳酸系樹脂発泡体を金型内に充填した後に金型ごと不活性ガス雰囲気下に置き、ポリ乳酸系樹脂発泡体に不活性ガスを含浸させてもよい。
【0087】
そして、ポリ乳酸系樹脂発泡体に不活性ガスを含浸させる時の温度は−40〜25℃が好ましく、−10〜20℃がより好ましい。これは、温度が低いと、ポリ乳酸系樹脂発泡体が冷却され過ぎて、型内発泡成形時においてポリ乳酸系樹脂発泡体を充分に加熱することができず、ポリ乳酸系樹脂発泡体同士の熱融着性が低下し、その結果、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体の機械的強度が低下することがあるからである。一方、温度が高いと、ポリ乳酸系樹脂発泡体への不活性ガスの含浸量が低くなり、ポリ乳酸系樹脂発泡体に充分な発泡性を付与することができないことがあると共に、ポリ乳酸系樹脂発泡体の結晶化が促進され、ポリ乳酸系樹脂発泡体の熱融着性が低下し、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体の機械的強度が低下することがある。
【0088】
また、ポリ乳酸系樹脂発泡体に不活性ガスを含浸させる時の圧力は0.2〜1.6MPaが好ましく、0.28〜1.2MPaがより好ましい。不活性ガスが二酸化炭素である場合には、0.2〜1.5MPaが好ましく、0.25〜1.2MPaがより好ましい。これは、圧力が低いと、ポリ乳酸系樹脂発泡体への不活性ガスの含浸量が低くなり、ポリ乳酸系樹脂発泡体に充分な発泡性を付与することができず、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体の機械的強度が低下することがあるからである。
【0089】
一方、圧力が高いと、ポリ乳酸系樹脂発泡体の結晶化度が上昇し、ポリ乳酸系樹脂発泡体の熱融着性が低下し、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体の機械的強度が低下することもある。
【0090】
さらに、ポリ乳酸系樹脂発泡体に不活性ガスを含浸させる時間は、20分〜24時間が好ましく、1〜18時間がより好ましく、3〜8時間がさらにより好ましい。不活性ガスが二酸化炭素である場合には、20分〜24時間が好ましい。これは、含浸時間が短いと、ポリ乳酸系樹脂発泡体に不活性ガスを充分に含浸させることができないことがある。一方、含浸時間が長いと、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の製造効率が低下することがある。
【0091】
このように、ポリ乳酸系樹脂発泡体に不活性ガスを−40〜25℃で、かつ、0.2〜1.6MPaの圧力下にて含浸させることによって、ポリ乳酸系樹脂発泡体の結晶化度の上昇を抑えつつ、発泡性を向上させることができる。その結果、型内発泡成形時に、ポリ乳酸系樹脂発泡体同士を充分な発泡力で強固に熱融着一体化させることができ、機械的強度、特に、衝撃強度に優れたポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得ることができる場合がある。
【0092】
(3)ポリ乳酸系樹脂発泡成形体
本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体を発泡成形することによって得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体は、ポリ乳酸系樹脂のカルボキシ基末端の一部がモノカルボジイミド系化合物で封鎖されているため、同様に、連続気泡率が低く、中嵩密度のポリ乳酸系樹脂発泡成形体である。なお、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡成形体は公知の型内発泡成形法等を使用することによって製造することができる。
【0093】
他方、成形性、断熱性等に優れたポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得ることができるため、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体は、0.08〜0.16g/cm3の密度を有することが好ましく、0.09〜0.14g/cm3の密度を有することがより好ましい。
【0094】
よって、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡成形体は、連続気泡率が低く、耐熱性が高く、好適な嵩密度を有し、車両用構成部材および建材として好適に使用することができる。特に、サンバイザーのような車両用内装材および車両用バンパー芯材のような車両用外装材として好適に使用することができる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例を挙げてさらに説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
<ポリ乳酸系樹脂のD体またはL体の乳酸含有量>
ポリ乳酸系樹脂中におけるD体またはL体の乳酸含有量は以下の方法によって測定することができる。
ポリ乳酸系樹脂を凍結粉砕し、ポリ乳酸系樹脂の粉末200mgを三角フラスコ内に供給した後、三角フラスコ内に1Nの水酸化ナトリウム水溶液30mLを加える。そして、三角フラスコを振りながら65℃に加熱してポリ乳酸系樹脂を完全に溶解させる。しかる後に、1N塩酸を三角フラスコ内に供給して中和し、pHが4〜7の分解溶液を作製し、メスフラスコを用いて所定の体積とする。次に、分解溶液を0.45μmのメンブレンフィルタで濾過した後、液体クロマトグラフィを用いて分析し、得られるチャートに基づいてD体およびL体由来のピーク面積から面積比を存在比としてD体量およびL体量を算出する。そして、前記と同様の要領を5回繰り返して行い、得られるD体量およびL体量をそれぞれ相加平均して、ポリ乳酸系樹脂のD体量およびL体量とする。
【0096】
液体クロマトグラフィの測定条件
HPLC装置(液体クロマトグラフィ):日本分光社製 製品名PU−2085 Plus型システム
カラム:住友分析センター社製 製品名SUMICHIRAL OA5000(4.6mmφ×250mm)
カラム温度:25℃
移動相:2mM CuSO4水溶液と2−プロパノールとの混合液(CuSO4水溶液:2−プロパノール(体積比)=95:5)
移動相流量:1.0mL/分
検出器:UV 254nm
注入量:20μl
【0097】
<ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量>
各実施例および比較例において発泡剤を用いないこと以外は同様の要領にてポリ乳酸系樹脂粒子を作製し、得られるポリ乳酸系樹脂粒子約30mgをクロロホルム10mLに溶解し、非水系0.45μmクロマトディスクでろ過後、HPLC装置(液体クロマトグラフ)(Water社製 製品名「Detector484、Pump510」)を用いてポリスチレン換算重量平均分子量を測定する。
なお、測定条件としては、
カラム:昭和電工社製 製品名「Shodex GPC K−806L」(φ8.0mm×300mm)2本
カラム温度:40℃
移動相:クロロホルム
移動相流量:1.2mL/分
注入・ポンプ温度:室温
検出:UV254nm
注入量:50mL
検量線用標準ポリスチレン:
昭和電工社製 製品名「Shodex」重量平均分子量1,030,000
東ソー社製 重量平均分子量5,480,000、3,840,000、355,000、102,000、37,900、9,100、2,630、495
【0098】
<ポリ乳酸系樹脂の融点>
ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)は次のようにして測定する。
即ち、JIS K7121:1987に準拠してポリ乳酸系樹脂の示差走査熱量分析を
行い、得られたDSC曲線における融解ピークの温度をポリ乳酸系樹脂の融点(mp)とする。なお、融解ピークの温度が複数個ある場合には、最も高い温度とする。
【0099】
<ポリ乳酸系樹脂の貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度T>
貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tは次のようにして測定する。
まず、発泡粒子を製造する要領において、発泡剤を添加しないこと以外は同様の要領にて、ポリ乳酸系樹脂粒子を得る。
このポリ乳酸系樹脂粒子を9.33×104Paの減圧下にて80℃で3時間に亘って
乾燥する。このポリ乳酸系樹脂粒子を構成しているポリ乳酸系樹脂の融点よりも40〜50℃だけ高い温度に加熱した測定プレート上に載置して窒素雰囲気下にて5分間に亘って放置し溶融させる。
次に、直径が25mmの平面円形状の押圧板を用意し、この押圧板を用いて測定プレート上のポリ乳酸系樹脂を押圧板と測定プレートとの対向面間の間隔が1mmとなるまで上下方向に押圧する。そして、押圧板の外周縁からはみ出したポリ乳酸系樹脂を除去した後、5分間に亘って放置する。
【0100】
しかる後、歪み5%、周波数1rad/秒、降温速度2℃/分、測定間隔30秒の条件下にて、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定を行って貯蔵弾性率及び損失弾性率を測定する。次に、横軸を温度とし、縦軸を貯蔵弾性率及び損失弾性率として、貯蔵弾性率曲線及び損失弾性率曲線を描く。なお、貯蔵弾性率曲線及び損失弾性率曲線を描くにあたっては、測定温度を基準として互いに隣接する測定値同士を直線で結ぶ。
そして、得られた貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点を読み取ることで温度Tが得られる。なお、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線とが複数箇所において互いに交差する場合は、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との複数の交点における温度のうち最も高い温度を、温度Tとする。
また、温度Tは、Reologica Instruments A.B社から商品名「DynAlyser DAR−100」にて市販されている動的粘弾性測定装置を用いて測定する。
【0101】
<ポリ乳酸系樹脂の結晶化度>
ポリ乳酸系樹脂発泡体の結晶化度測定は、ポリ乳酸系樹脂発泡体3粒を、示差走査熱量計(DSC)を用いてJIS K7121に記載の測定方法に準拠して10℃/分の昇温速度にて昇温しながら測定される1mg当たりの冷結晶化熱量および1mg当たりの融解熱量に基づいて下記式により算出する。
【数2】

【0102】
<ポリ乳酸系樹脂発泡体の平均粒子径>
ポリ乳酸系樹脂発泡体の平均粒子径は、各ポリ乳酸系樹脂発泡体の最も長い直径(長径)をおよび最も短い直径(短径)を、ノギスを用いて測定し、ポリ乳酸系樹脂発泡体の長径、短径および長さの相加平均値をポリ乳酸系樹脂発泡体の平均粒子径とする(試料数50の平均値)。
【0103】
<ポリ乳酸系樹脂発泡体の連続気泡率>
ポリ乳酸系樹脂発泡体の連続気泡率は下記の要領で測定される。まず、体積測定空気比較式比重計の試料カップを用意し、この試料カップの80%程度を満たす量のポリ乳酸系樹脂発泡体の全重量A(g)を測定する。次に、前記ポリ乳酸系樹脂発泡体全体の体積B(cm3)を、比重計を用いて1−1/2−1気圧法により測定する。なお、体積測定空気比較式比重計は、例えば、東京サイエンス社から製品名「1000型」にて市販されている。
続いて、金網製の容器を用意し、この金網製の容器を水中に浸漬し、この水中に浸漬した状態における金網製の容器の重量C(g)を測定する。次に、この金網製の容器内に前記ポリ乳酸系樹脂発泡体を全量入れた上で、この金網製の容器を水中に浸漬し、水中に浸漬した状態における金網製の容器とこの金網製容器に入れたポリ乳酸系樹脂発泡体の全量とを併せた重量D(g)を測定する。
そして、下記式に基づいてポリ乳酸系樹脂発泡体の見掛け体積E(cm3)を算出し、この見掛け体積Eと前記ポリ乳酸系樹脂発泡体全体の体積B(cm3)に基づいて下記式によりポリ乳酸系樹脂発泡体の連続気泡率を算出することができる。なお、水1gの体積を1cm3とする。
E=A+(C−D)
連続気泡率(%)=100×(E−B)/E
【0104】
<ポリ乳酸系樹脂発泡体の嵩密度>
ポリ乳酸系樹脂発泡体の嵩密度は、JIS K6911:1995年「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠して測定されるものをいう。即ち、JIS K6911に準拠した見掛け密度測定器を用いて測定し、下記式に基づいて試料の嵩密度を測定する。
試料の嵩密度(g/cm3
=〔試料を入れたメスシリンダーの質量(g)−メスシリンダーの質量(g)〕
/〔メスシリンダーの容量(cm3)〕
【0105】
<ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の外観>
ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の外観を以下の判定基準に従って判定する。
○(合格):発泡粒の伸びが良く、形状を保持している。
×(不合格):発泡粒の伸びが悪く、表面に発泡粒間の凹凸(オコシ状態)がある。
【0106】
<ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の密度>
ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の密度は、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体から直方体を切り出し、ノギスを用いて縦、横、高さを測定して体積を算出し、そのサンプルの重量を体積で除して算出する。
【0107】
(実施例1)
図1および図2に示した製造装置(萩原工業社製、製品名ウォータリングホットカット機)を用いて型内発泡成形用ポリ乳酸系樹脂発泡体を製造した。まず、結晶性のポリ乳酸系樹脂(ユニチカ社製 製品名「TERRAMAC HV−6250H」、融点(mp):169.1℃、D体比率:1.2モル%、L体比率:98.8モル%、動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度T:138.8℃、重量平均分子量230,000)100質量部および気泡調整剤としてポリテトラフルオロエチレン粉末(旭硝子社製、製品名「フルオンL169J」)0.1質量部および加水分解抑制剤としてモノカルボジイミド系化合物(ラインケミー社製、製品名「スタバクゾール1−LF」、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド)0.1質量部を口径が65mmの単軸押出機に供給して溶融混練した。なお、単軸押出機内において、ポリ乳酸系樹脂を始めは190℃にて溶融混練した後に220℃まで昇温させながら溶融混練した。
【0108】
続いて、単軸押出機の途中から、イソブタン35質量%およびノルマルブタン65質量%からなるブタンをポリ乳酸系樹脂100質量部に対して1.7質量部となるように溶融状態のポリ乳酸系樹脂に圧入して、ポリ乳酸系樹脂中に均一に分散させた。
しかる後、溶融状態のポリ乳酸系樹脂を冷却した後、単軸押出機の前端に取り付けた出口部の直径が0.5mmのノズルを20個有しているマルチノズル金型の各ノズルから剪断速度18118sec-1でポリ乳酸系樹脂を押出発泡させた。押し出されたポリ乳酸系樹脂発泡体は、いわゆるホットカット法により切断し、嵩密度が0.12g/cm3のポリ乳酸系樹脂発泡体を得た(回転数4500rpm)。
得られたポリ乳酸系樹脂発泡体は、その平均粒子径が2.4mm、連続気泡率は4.0%であった。
得られたポリ乳酸系樹脂発泡体を10リットルの圧力容器内に供給して密閉し、この圧力容器内に二酸化炭素を20℃にて昇圧速度を0.06MPa/minで、0.5MPaの圧力まで圧入し、3時間に亘って放置してポリ乳酸系樹脂発泡体に二酸化炭素を含浸した。
【0109】
前記ポリ乳酸系樹脂発泡体を圧力容器から取り出して、ポリ乳酸系樹脂発泡体を縦200mm×横200mm×高さ30mmの直方体型のキャビティ内に充填した。そして、加熱水槽内に90℃に維持された水を溜め、この加熱水槽内の水中にポリ乳酸系樹脂発泡体を充填した金型を完全に4分間に亘って浸漬して、金型の供給口を通じてキャビティ内のポリ乳酸系樹脂発泡体に水を供給し、ポリ乳酸系樹脂発泡体を加熱、発泡させてポリ乳酸系樹脂発泡体同士を熱融着一体化させた。
次に、加熱水槽内から金型を取り出した。そして、別の冷却水槽に20℃に維持された水を溜め、この冷却水槽内に金型を完全に5分間に亘って浸漬して、金型内のポリ乳酸系樹脂発泡成形体を冷却した。
金型を冷却水槽から取り出して金型を開放して直方体形状のポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体は、非常に優れた外観を有していた。
また、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の嵩密度は0.12g/cm3であった。
【0110】
(実施例2)
加水分解抑制剤としてモノカルボジイミド系化合物(ラインケミー社製、製品名「スタバクゾール1−LF」、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド)を0.5質量部添加した以外は、実施例1と同様にして嵩密度が0.13g/cm3のポリ乳酸系樹脂発泡体を得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡体の平均粒子径は2.4mm、連続気泡率は3.8%であった。
【0111】
得られたポリ乳酸系樹脂発泡体を密閉容器内に供給して、この密閉容器内に二酸化炭素を0.6MPaの圧力にて昇圧速度を0.01MPa/minで昇圧を行い、18℃にて3時間に亘って放置してポリ乳酸系樹脂発泡体に二酸化炭素を含浸させた。
【0112】
続いて、ポリ乳酸系樹脂発泡体を縦200mm×横200mm×高さ30mmの直方体型のキャビティ内に充填した。そして、加熱水槽内に90℃に維持された水を溜め、この加熱水槽内の水中にポリ乳酸系樹脂発泡体を充填した金型を完全に4分間に亘って浸漬して、金型の供給口を通じてキャビティ内のポリ乳酸系樹脂発泡体に水を供給し、ポリ乳酸系樹脂発泡体を加熱、発泡させてポリ乳酸系樹脂発泡体同士を熱融着一体化させた。
次に、加熱水槽内から金型を取り出した。そして、別の冷却水槽に20℃に維持された水を溜め、この冷却水槽内に金型を完全に5分間に亘って浸漬して、金型内のポリ乳酸系樹脂発泡成形体を冷却した。
金型を冷却水槽から取り出して金型を開放して直方体形状のポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体は、非常に優れた外観を有していた。
また、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の嵩密度は0.13g/cm3であった。
【0113】
(実施例3)
加水分解抑制剤としてモノカルボジイミド系化合物(ラインケミー社製、製品名「スタバクゾール1−LF」、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド)を1.5質量部添加した以外は、実施例1と同様にして嵩密度が0.13g/cm3のポリ乳酸系樹脂発泡体を得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡体の平均粒子径は2.4mm、連続気泡率は3.5%であった。
【0114】
得られたポリ乳酸系樹脂発泡体を密閉容器内に供給して、この密閉容器内に二酸化炭素を0.6MPaの圧力にて昇圧速度を0.01MPa/minで昇圧を行い、18℃にて3時間に亘って放置してポリ乳酸系樹脂発泡体に二酸化炭素を含浸させた。
【0115】
続いて、ポリ乳酸系樹脂発泡体を縦200mm×横200mm×高さ30mmの直方体型のキャビティ内に充填した。そして、加熱水槽内に90℃に維持された水を溜め、この加熱水槽内の水中にポリ乳酸系樹脂発泡体を充填した金型を完全に4分間に亘って浸漬して、金型の供給口を通じてキャビティ内のポリ乳酸系樹脂発泡体に水を供給し、ポリ乳酸系樹脂発泡体を加熱、発泡させてポリ乳酸系樹脂発泡体同士を熱融着一体化させた。
次に、加熱水槽内から金型を取り出した。そして、別の冷却水槽に20℃に維持された水を溜め、この冷却水槽内に金型を完全に5分間に亘って浸漬して、金型内のポリ乳酸系樹脂発泡成形体を冷却した。
金型を冷却水槽から取り出して金型を開放して直方体形状のポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体は、非常に優れた外観を有していた。
また、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の嵩密度は0.13g/cm3であった。
【0116】
(比較例1)
加水分解抑制剤を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂発泡体を得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡体は、嵩密度が0.12g/cm3、平均粒子径が2.4mm、連続気泡率が27.1%であり、実施例1と同様にして成形を行ったが、連続気泡率が高く、成形できなかった。
【0117】
表1に実施例および比較例の原材料種、評価結果等を示す。
【0118】
【表1】

【0119】
表1に記載のポリ乳酸系樹脂発泡体およびポリ乳酸系樹脂発泡成形体の評価結果から、実施例で得られたものは比較例のものと比べて、連続気泡率が低く、中嵩密度のものであることを示している。
【0120】
このため、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡成形体は車両用構成部材および建材として好適に使用することができる。特に、サンバイザーのような車両用内装材および車両用バンパー芯材のような車両用外装材として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0121】
1a ノズル金型1の前端面
2 回転軸
3 駆動部材
4 冷却部材
5 回転刃
11 ノズルの出口部
41 冷却ドラム
41a 冷却ドラムの前部
41b 冷却ドラムの周壁部
41c 冷却ドラムの供給口
41d 冷却ドラムの供給管
41e 冷却ドラムの排出口
41f 冷却ドラムの排出管
42 冷却ドラムの冷却液
A 回転刃フォルダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂100質量部とモノカルボジイミド系化合物0.01〜2質量部とを押出機に供給し、発泡剤の存在下に溶融混練することによって発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物を製造する溶融混錬工程;
前記発泡性ポリ乳酸系樹脂溶融混錬物を、前記押出機の前端に取り付けたノズル金型から押出し、発泡させながら、前記ノズル金型の前端面に接触しながら2000〜10000rpmの回転数で回転する回転刃で切断することによってポリ乳酸系樹脂発泡体を製造する押出発泡工程;および
前記ポリ乳酸系樹脂発泡体を、前記回転刃の切断応力によって飛散させ、前記ノズル金型の前方に配設した冷却部材に衝突させて冷却する冷却工程を含み、
前記ポリ乳酸系樹脂発泡体が、0.08〜0.16g/cm3の嵩密度および15%以下の連続気泡率を有することを特徴とするポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリ乳酸系樹脂が、構成単量体成分としてD体およびL体の双方の光学異性体を含有しかつD体またはL体のうち少ない方の光学異性体の含有量が5モル%未満であるか、または、構成単量体成分としてD体またはL体のうちのいずれか一方の光学異性体のみを含有する請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリ乳酸系樹脂が、その融点(mp)と、動的粘弾性測定にて得られた貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tとの間で、下記式(I):
(ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)−40℃)
≦(交点における温度T)≦ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)・・・・・式(I)
を満たす請求項1または2に記載のポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項4】
前記モノカルボジイミド系化合物が、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミドである請求項1〜3のいずれか1つに記載のポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の製造方法によって得られるポリ乳酸系樹脂発泡体。
【請求項6】
請求項5に記載のポリ乳酸系樹脂発泡体から得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−172109(P2012−172109A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37372(P2011−37372)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】