説明

ポリ乳酸系樹脂組成物、及びポリ乳酸系樹脂成形品

【課題】電子機器を初めとする放熱対策が必要な成形品および材料において、樹脂本来の物性を損なうことなく、優れた熱伝導性、低導電性、電波透過性、及び機械的特性を備えた成形品を得るためのポリ乳酸系樹脂組成物や、これを用いたポリ乳酸系樹脂成形品を提供する。
【解決手段】アミノ基を有するポリシロキサンセグメントを有するポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂と、炭素繊維と、繊維状の酸化亜鉛とを含み、炭素繊維の含有量が5質量%以上10質量%以下の範囲、繊維状の酸化亜鉛の含有量が25質量%以上45質量%以下の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた熱伝導性を有すると共に、優れた低導電性、電波透過性、及び機械的特性を有するポリ乳酸系樹脂組成物やポリ乳酸系樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器に対し、高機能化や多機能化の要求に加え、デザイン性を重視した薄型化や持ち運びやすさを考慮した軽量化が強く求められるようになってきている。一方、電子機器の内部素子の発熱量は、高速化、大容量化によりますます増加する傾向にあり、その放熱対策が重要な課題の一つに挙げられている。放熱対策に用いられてきた金属製のヒートシンクやファンは、薄型化や軽量化に対して不利なため、これらの放熱部品を極力減らす傾向にある。しかし、放熱部品の削減は、同時に放熱能力の低下を引き起こすため、放熱が十分に行われない状況では、内部素子の熱損傷や筐体表面で局所的な高温化を引き起こす問題が懸念される。
【0003】
これに対し、放熱部品として主として使用されている金属に替えて、これらを軽量な樹脂製パーツや樹脂筐体自体を高熱伝導化することにより、電子機器の薄型化や軽量化を測り放熱性を高める技術開発が行われている。樹脂成形品を高熱伝導化するための方法としては、炭素繊維やセラミックスなどの熱伝導性フィラーを樹脂に配合し、これを成形することにより高熱伝導の成形品を得る方法が用いられている。しかし、この方法を適用すると、樹脂を高熱伝導化するために多量のフィラーを添加しなければならず、このため、樹脂本来の流動性や機械的特性などが著しく低下してしまう。一方において、熱伝導性に優れた黒鉛性の炭素繊維を用いると、他のフィラーに比べて添加量を少なくできるが、同時に導電性が発現し、電源周辺や素子近傍の絶縁性が必要な部品などには適用することができない。さらに、最近の携帯電話などでは、多様な通信機能を持たせるために複数の周波数帯域用アンテナが組み込まれたマルチバンドシステムが採用されており、そのような電子機器の部品や筐体に対しては電波透過性が必要条件になっている。この種の樹脂材料として、例えば、特許文献1には、炭素繊維とセラミックスを含有し、成形過程において磁場を印加することにより、炭素繊維を特定方向に配向させ、炭素繊維同士の相互接触(導電ネットワーク化)を抑制して低導電性と、放熱性を有する成形体に用いる樹脂材料が記載されている。
【0004】
しかしながら、磁場の印加により炭素繊維を配向させるのは一般に制御が難しく、特に複雑な形状の部品やサイズが大きい筐体に対しては適用が難しく、特許文献1に記載される高分子材料をこれらに適用するのは困難な場合がある。更に、炭素繊維が特定方向に配向することにより、同方向に垂直な外力に対しての成形品の強度が低下する。また、炭素繊維自体の電波吸収作用により、成形品において電波透過性が低下する傾向にある。
【0005】
尚、特許文献2には、芳香族ポリカーボネート樹脂と、炭素繊維と、特定の結晶形状の酸化亜鉛ウィスカとを含み、成形時の流動性を向上させた樹脂を射出成形して得られる、寸法安定性、表面平滑性、強度等を有する円筒状カメラ部品が開示されている。しかしながら、特許文献2には、芳香族ポリカーボネート樹脂と、炭素繊維や特定の結晶形状の酸化亜鉛との極性の相違による低い濡れ性について改善を図ることや、低導電化を図り電波透過性を改善することについての示唆はなく、成形品の機械的特性が大きく低下する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−266586
【特許文献2】特許第2895151号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、電子機器をはじめとする放熱対策が必要な成形品および材料において、樹脂本来の物性を損なうことなく、優れた熱伝導性、低導電性、電波透過性、及び機械的特性を備えた成形品を得るためのポリ乳酸系樹脂組成物や、これを用いたポリ乳酸系樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アミノ基を有するポリシロキサンセグメントを有するポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂と、特定量の炭素繊維と、繊維状の酸化亜鉛とをそれぞれ特定の濃度で含有させることにより、該樹脂の成形品に、優れた熱伝導性、低導電性、電波透過性、及び機械的特性を付与することができることを見出した。かかる知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、アミノ基を有するポリシロキサンセグメントを有するポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂と、炭素繊維と、繊維状の酸化亜鉛とを含み、炭素繊維の含有量が5質量%以上10質量%以下の範囲、繊維状の酸化亜鉛の含有量が25質量%以上45質量%以下の範囲であるポリ乳酸系樹脂組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、上記ポリ乳酸系樹脂組成物を射出成形又は圧縮成形して得られることを特徴とするポリ乳酸系樹脂成形品に関する。
【0011】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物が、高熱伝導性と低導電性を併有するのは以下の理由による。ポリ乳酸系樹脂にアミノ基を有するポリシロキサンセグメントを導入することにより、アミノ基含有ポリシロキサンセグメントが、極性の低い炭素繊維に比べて極性が高いポリ乳酸系樹脂に極性の低い部分を形成する。このため、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂と炭素繊維との濡れ性、即ち、親和性を向上させることができ、マトリックス樹脂であるポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂中に炭素繊維を良好に分散させることができる。更に、炭素繊維の含有量を特定することにより、炭素繊維同士の物理的接触(導電ネットワークの形成)が抑制され、炭素繊維がマトリックス樹脂中に分離して含有されるため、マトリックス樹脂の低導電性が維持される。更に、繊維状の酸化亜鉛をその含有量を特定してポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂へ分散させることにより、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂中に炭素繊維と繊維状酸化亜鉛とを均一に分散させることができる。特に、繊維状の酸化亜鉛の表面にアルコキシ基を導入することにより、繊維状酸化亜鉛の極性をポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂の極性に近似させることができ、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂との濡れ性を高め、酸化亜鉛のマトリックス樹脂への分散性を高めることができる。このように相互に親和性を有する組成で構成されるポリ乳酸系樹脂組成物は、その成形品に優れた機械的強度を付与する。
【0012】
更に詳述すると、図1に示すように、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂3中に相互の接触が抑制され離散した状態で炭素繊維1が分散され、炭素繊維間に繊維状の酸化亜鉛2が分散され、酸化亜鉛の一部又は複数が相互に接触した状態で隣接する炭素繊維間を連結することにより、マトリックス樹脂全体に炭素繊維と酸化亜鉛の網目構造のネットワークが形成される。この網目構造は、熱伝導経路として有効に作用するが、炭素繊維同士間には絶縁性の酸化亜鉛が介在するため低導電性が維持され、優れた熱伝導性と低導電性を同時に実現することができる。このように低導電性を維持するポリ乳酸系樹脂組成物は、電波の遮蔽、吸収作用が低く、良好な電波透過性を有する成形品を与えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂がアミノ基を含有するポリシロキサンセグメントを有することにより、炭素繊維と、繊維状酸化亜鉛との極性の調整を図って、炭素繊維と繊維状酸化亜鉛とをポリ乳酸系樹脂に良好に分散させることができ、特定量の炭素繊維と繊維状の酸化亜鉛によって高い熱伝導性と、低い導電性を有する網目構造を形成することができ、えられる成形品に、優れた熱伝導性、低導電性、電波透過性、および機械的特性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のポリ乳酸系樹脂組成物の成形品の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、アミノ基を有するポリシロキサンセグメントを有するポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂と、炭素繊維と、繊維状の酸化亜鉛とを含み、炭素繊維の含有量が5質量%以上10質量%以下の範囲、繊維状の酸化亜鉛の含有量が25質量%以上45質量%以下の範囲であることを特徴とする。
【0016】
上記ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂は、アミノ基を有するポリシロキサンセグメントと、ポリ乳酸系化合物から得られるセグメント(ポリ乳酸系セグメントともいう。)とを有する。ポリ乳酸系セグメントは、アミノ基を有するポリシロキサン化合物を結合させたポリ乳酸系化合物の部分である。かかるポリ乳酸系化合物としては、ポリ乳酸、その誘導体若しくは変性体等のポリ乳酸系樹脂、又は、乳酸やその誘導体のモノマ−やオリゴマー等の乳酸系化合物を用いて合成される縮重合体や共重合体、これらの誘導体若しくは変性体等を挙げることができる。かかる共重合体としては、具体的には、L−乳酸、D−乳酸、これらの誘導体と、例えば、グリコール酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート、ポリヒドロキシアルカノエート等の1種又は2種以上とから得られる共重合体を挙げることができる。これらのうち、耐熱性、成形性の面から、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)又はこれらの共重合体が好ましい。また、ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸の融点は、D−乳酸成分の比率によってその融点が異なるが、成形品の機械的特性や耐熱性を考慮すると、160℃以上の融点を有するものが好ましい。このようなポリ乳酸系化合物としてバイオマス原料、特に植物由来のものを用いることができる。
【0017】
かかるポリ乳酸系化合物としては、式(3)
【0018】
【化1】

【0019】
で表されるもの挙げることができる。式(3)中、R17は炭素数18以下のアルキル基を表し、a、cは0を超える整数、b´は0以上の整数を表す。aは500以上13000以下の整数であることが好ましく、より好ましくは1500以上4000以下の整数である。b´は0を含む5000以下の整数であることが好ましく、cは1以上50以下の整数であることが好ましい。繰返し単位数a、bでそれぞれ繰返される繰返し単位は、式(3)で示されるポリ乳酸系化合物中において、同種の繰返し単位が連続して接続されていても、異種の繰返し単位が交互に接続されていても、あるいはランダムに接続されていてもよい。
【0020】
上記ポリ乳酸系化合物の分子量は3万〜100万であることが好ましく、より好ましくは10万〜30万である。
【0021】
上記アミノ基含有ポリシロキサンセグメントは、上述のポリ乳酸系化合物に結合したアミノ基を有するポリシロキサン化合物の部分であり、アミノ基を側鎖に有するものが好ましい。アミノ基を側鎖に有するポリシロキサン化合物は、主鎖にアミノ基を有するものと比較してポリ乳酸系化合物と反応しやすく、混練や成形工程でのポリシロキサン成分のブリードアウトを抑制することができる。
【0022】
アミノ基含有ポリシロキサンセグメント中のアミノ基の平均含有量としては、アミノ基含有ポリシロキサンセグメントに対し0.01質量%以上2.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%以上1.0質量%以下である。アミノ基の平均含有量が、0.01質量%以上であれば、ポリ乳酸系化合物との反応を充分に行わせることができ、2.5質量%以下であれば、これらの反応時におけるポリ乳酸系化合物の加水分解を抑制することができる。
【0023】
アミノ基含有ポリシロキサンセグメント中のアミノ基の平均含有量は数式(11)から求めることができる。
【0024】
ホ゜リシロキサンセク゛メント中のアミノ基平均含有量(%)=(16/アミノ当量)×100 (11)
式中、アミノ当量は、アミノ基1モル当りのアミノ基含有ポリシロキサンセグメントの平均質量である。
【0025】
更に、上記アミノ基は、ポリ乳酸系セグメントに対する平均の含有量は、3質量ppm以上300質量ppmの範囲であることが好ましい。ポリ乳酸系セグメントに対するアミノ基の含有量が3質量ppm以上であれば、成形品において耐衝撃性等の機械的特性を向上させることができ、300質量ppm以下であれば、ポリ乳酸系樹脂組成物の製造時の溶融混練や、ポリ乳酸系樹脂組成物を用いた成形品の製造時において、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂の加水分解による分子量の低下を抑制することができる。
【0026】
ポリ乳酸系セグメントに対するアミノ基の含有量は、数式(12)から求めることができる。
【0027】
ポリ乳酸系セグメントに対するアミノ基含有量(ppm)=
アミノ基含有ポリシロキサンセグメント中のアミノ基平均含有量(%)×
ポリ乳酸系セグメントに対するアミノ基含有ポリシロキサンセグメントの平均質量
×100 (12)
このようなアミノ基含有ポリシロキサンセグメントを構成するアミノ基含有ポリシロキサン化合物としては、例えば、式(1)又は式(2)で表されるものを挙げることができる。
【0028】
【化2】

【0029】
【化3】

【0030】
式(1)、式(2)中、R4〜R8、R10〜R14は、独立して、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、又は−(CH2)α−NH−C65(但し、αは1〜8のいずれかの整数を示す。)を表す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基等が好ましい。アルケニル基としては、ビニル基が好ましく、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が好ましい。アルキルアリール基としては、ベンジル基等を挙げることができる。また、−(CH2)α−NH−C65で表されるアニリノ基を含むものが好ましく、ここでαは1から8の整数を示す。R4〜R8、R10〜R14は同一であっても、それぞれ異なっていてもよいが、これらは、特にメチル基、フェニル基であることが好ましい。
【0031】
また、R9、R15、R16は、独立して、2価の有機基を表す。2価の有機基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基、フェニレン基、トリレン基等のアルキルアリーレン基、−(CH2−CH2−O)b −(bは1から50の整数を表す。)、−〔CH2−CH(CH3 )−O〕c −(cは1から50の整数を表す。)等のオキシアルキレン基やポリオキシアルキレン基、−(CH2d−NHCO−(dは1から8の整数を表す。)等を挙げることができる。これらのうち、特に、R16がエチレン基、R9、R15がプロピレン基であることが好ましい。
【0032】
d´、h´は0以上の整数、e、iは0を超える整数を表す。これらは、ポリシロキサン化合物の数平均分子量及びアミノ基の含有量が所望の範囲になるような値を選択することが好ましい。繰返し単位数d´、h´、e、iによってそれぞれ繰り返される繰返し単位は、式(1)、式(2)に示すアミノ基含有ポリシロキサン化合物中において、同種の繰返し単位が連続して接続されていても、異種の繰返し単位が交互に接続されていても、あるいはランダムに接続されていてもよい。
【0033】
これらのアミノ基含有ポリシロキサンセグメントはアミノ基を側鎖に有する場合、数平均分子量は、900以上30000以下であることが好ましい。側鎖にアミノ基を有するポリシロキサンセグメントの数平均分子量が900以上であれば、ポリ乳酸系樹脂組成物の製造時の溶融混練工程において、アミノ基含有ポリシロキサン化合物の揮発による濃度減少を抑制することができ、30000以下であれば、分散性がよく均一な成形品を得ることができる。また、アミノ基を主鎖に有するアミノ基含有ポリシロキサンセグメントは、数平均分子量は、900以上120000以下であることが好ましい。
【0034】
数平均分子量は、試料のクロロホルム0.1%溶液のGPC(ポリスチレン標準試料で較正)分析により測定した測定値を採用することができる。
【0035】
上記ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂は、エポキシ基を有するエポキシ基含有ポリシロキサンセグメントを有していてもよい。エポキシ基含有ポリシロキサンセグメントはエポキシ基含有ポリシロキサン化合物が上述のポリ乳酸系化合物に結合したエポキシ基含有ポリシロキサン化合物の部分である。エポキシ基含有ポリシロキサン化合物としては、式(4)、式(5)に示すものを用いることができる。
【0036】
【化4】

【0037】
【化5】

【0038】
式中、R1、R2、R18〜R21は、独立して、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、又は−(CH2)α−NH−C65(但し、αは1〜8のいずれかの整数を示す。)を表し、これらがハロゲン原子で全部若しくは一部が置換されていてもよく、R3は2価の有機基を表し、l´、n´は0以上の整数、mは0を超える整数を表す。R1、R2、R18〜R21が表す、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、又は−(CH2)α−NH−C65は、式(1)中のR4等が表すものと同義のものを挙げることができ、R3は式(1)中のR9等が表すものと同義のものを挙げることができる。
【0039】
上記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物はエポキシ基平均含有量が2質量%以下であることが好ましい。エポキシ基含有量を2質量%以下とすることにより、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂の製造時におけるアミノ基を有するポリシロキサン化合物との反応性の制御が容易になり、適度に架橋したエラストマーを形成することができるため、機械的特性が改善された成形品を得ることができる。
【0040】
エポキシ基含有ポリシロキサン化合物の数平均分子量は、上記アミノ基含有ポリシロキサン化合物の場合と同様に製造上の理由から、900以上30000以下であることが好ましい。
【0041】
エポキシ基含有ポリシロキサン化合物中のエポキシ基の含有量の平均値は、数式(13)により求めることができる。
【0042】
【数1】

【0043】
数式(13)中、エポキシ当量はエポキシ基1モル当りのエポキシ基含有ポリシロキサン化合物の平均質量である。
【0044】
上記エポキシ基含有ポリシロキサンセグメントの含有量は、ポリ乳酸系セグメントに対し、0質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましい。エポキシ基含有ポリシロキサンセグメントの含有量が10質量%以下であれば、アミノ基と反応せずに残留するエポキシ基含有ポリシロキサン化合物が成形品からブリードアウトするのを抑制することができる。
【0045】
上記ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂は、アミノ基含有ポリシロキサンセグメントや、ポリ乳酸系セグメントの機能を阻害しない範囲において、上記エポキシ基含有ポリシロキサンセグメントの他、アミノ基を含有しないポリシロキサンセグメントを含有していてもよい。上記エポキシ基含有ポリシロキサンセグメント以外のアミノ基を含有しないポリシロキサンセグメントは、その含有量が上記アミノ基含有ポリシロキサンセグメントに対し、0質量%以上5質量%以下であることが好ましく、数平均分子量が900以上120000以下であることが好ましい。
【0046】
上記ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂の製造方法は、予め製造したアミノ基含有ポリシロキサン化合物と、ポリ乳酸系化合物とを、アミノ基が所定の割合となるような割合で添加し、溶融状態で剪断力を加えつつ混合攪拌する方法によることができる。また、エポキシ基含有ポリシロキサンセグメントを有するポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂を製造する場合は、アミノ基含有ポリシロキサン化合物と、エポキシ基含有ポリシロキサン化合物と、ポリ乳酸系化合物とを同時に添加して混合攪拌してもよいが、アミノ基を含有するポリシロキサン化合物とポリ乳酸系化合物との反応を先行して行い、その後、エポキシ基含有ポリシロキサン化合物の反応を行うことが好ましい。溶融したポリ乳酸系化合物とアミノ基含有ポリシロキサン化合物に剪断力を与えるには、例えば、ロール、押出機、ニーダ、還流装置のある回分式混練機等の装置を用いることができる。押出機としては、単軸、多軸でベント付きのものを採用することが、原料の供給、製品の取り出しが容易である点から好ましい。剪断時の温度は、原料のポリ乳酸系化合物の溶融流動温度以上、好ましくは溶融流動温度より10℃以上高く、分解温度以下の温度とすることが好ましい。溶融剪断時間は、例えば、0.1分以上30分以下が好ましく、より好ましくは0.5分以上10分以下である。溶融剪断時間が0.1分以上であれば、ポリ乳酸系化合物とアミノ基含有ポリシロキサン化合物との反応が充分に行われ、30分以下であれば、得られるポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂の分解を抑制することができる。
【0047】
本発明に用いる炭素繊維は、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維や、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法(化学気相成長法)、CCVD法(触媒化学気相成長法)などで合成したものを用いることができ、これらは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうちピッチ系炭素繊維、気相法で得られた炭素繊維に黒鉛化処理を行った炭素繊維は、結晶性に優れ、繊維軸方向の熱伝導性に優れており、好ましい。特にメソフェーズピッチ系炭素繊維は、繊維軸方向に対して異方的なグラファイト構造を持つため、金属以上の熱伝導率を有しており、得られる成形品により高い熱伝導性を付与することができる。
【0048】
上記炭素繊維は、熱伝導率が50W/m・K以上であることが好ましい。熱伝導率が50W/mK以上であれば、得られる成形品に優れた熱伝導性を付与することができ、含有量を低く抑えることにより、低導電性を保持し、優れた電波透過性、機械的強度を有する成形品が得られる。ここで、熱伝導率はレーザーフラッシュ法、平板熱流計法、温度波熱分析法(TWA法)、温度傾斜法(平板比較法)などの測定方法による測定値を採用することができる。
【0049】
上記炭素繊維は、平均繊維長が0.1mm以上6mm以下のものが好ましい。このような平均繊維長を有する炭素繊維は、後述する炭素繊維添加量の範囲において、組成物中で離散した分散状態を形成することができ、成形品に低導電性と、高熱伝導性を付与することができる。炭素繊維の平均繊維長が0.1mm以上であれば、組成物中で炭素繊維間の距離が長くなるのを抑制し、且つ界面数の増加を抑制し、炭素繊維間での熱散乱を抑制することができ、6mm以下であれば、炭素繊維同士の物理的接触を抑制し、成形品において低導電性及び電波透過性が得られる。
【0050】
上記炭素繊維は、平均直径が5μm以上20μm以下であることが好ましい。平均直径が5μm以上であれば、凝集する傾向が少なく、樹脂との混合において容易に分散させることができる。一方、平均直径が20μm以下であれば、樹脂中に均一に分散させることができ、成形品の表面に炭素繊維の凝集体が露出することによる外観不良の発生を抑制することができる。炭素繊維の平均直径は顕微鏡観察により求めることができる。
【0051】
上記炭素繊維の含有量は、ポリ乳酸系樹脂組成物の総質量に対して5質量%以上10質量%以下である。含有量が5質量%以上であれば、良好な熱伝導付与効果が得られ、10質量%以下であれば、炭素繊維同士の接触を抑制し、低導電性や電波透過性に対する効果が得られる。
【0052】
上記炭素繊維の平均繊維長L(mm)と添加量C(質量%)の関係は、以下の関係式を満たすことが好ましい。この関係式は、経験的に得られたものである。
10.133exp(−0.2088L)≦C≦20.654exp(−0.2374L)
上記炭素繊維は表面処理をして用いることもできるが、炭素繊維表面の酸化処理(酸素含有基の導入)は、炭素繊維の黒鉛構造を部分的に損傷させるものであり、炭素繊維の特性の劣化の影響が大きく、上記炭素繊維には適用しないことが好ましい。
【0053】
本発明に用いる繊維状の酸化亜鉛は、水熱合成法、化学気相成長法等で合成されたものを用いることができる。このうち、単結晶繊維(ウィスカ)であることが好ましい。単結晶繊維の酸化亜鉛は、多結晶のものに比べて熱伝導性に優れており、機械的強度が高い。また、異方成長技術により合成されたテトラポット状のウィスカや放射線状に繊維を成長させた結晶性の酸化亜鉛を適用してもよい。上記酸化亜鉛は、平均繊維長が、10μm以上500μm以下であることが好ましい。平均繊維長が10μm以上であれば、後述する範囲の含有量の酸化亜鉛が、分散した炭素繊維間に介在して炭素繊維と共に成形品中に網目構造を形成し、成形品に良好な熱伝導を付与することができる。また、平均繊維長が500μm以下であれば、樹脂に良好に分散させ、成形品の表面に酸化亜鉛の凝集体が露出することによる外観不良の発生を抑制することができる。
【0054】
上記酸化亜鉛の含有量は、ポリ乳酸系樹脂組成物の総質量に対して25質量%以上45質量%以下である。含有量が20質量%以上であれば、炭素繊維と共に成形品中に網目構造を形成することができ、分散した炭素繊維間に介在し成形品に良好な熱伝導を付与することができる。含有量が50質量%以下であれば、組成物の過度の流動性の低下や成形品の靭性の低下を抑制することができる。
【0055】
上記酸化亜鉛は、表面の水酸基の一部または全部をアルコキシ基で置換したものが好ましい。アルコキシ基は炭素数が6以上18以下であることが好ましい。アルコキシ基の炭素数が6以上であれば、酸化亜鉛の極性を有効に低下させ表面を疎水化することができるため、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂との親和性を効果的に高めることができる。また、アルコキシ基の炭素数が18以下であれば、酸化亜鉛表面のべたつきによる作業性の低下などを抑制することができる。アルコキシ基は、酸化亜鉛に対して表面官能基量が1×10-4mol/g以上1×10-5mol/g以下、炭素基準で1質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましい。酸化亜鉛表面のアルコキシ基量が上記範囲であれば、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂との親和性を効果的に高めることができると同時に、機械的強度や作業性への影響を極力少なくすることができる。アルコキシ基量は、ESCA等による炭素の元素分析による測定値から求めることができる。
【0056】
上記酸化亜鉛を表面にアルコキシ基を有するものとするには、酸化亜鉛表面の水酸基とアルコールのエステル化反応によることができる。具体的には、炭素数が6〜18の高級アルコールと繊維状の酸化亜鉛を溶液反応させることで、酸化亜鉛表面の水酸基が容易にエステル化し、繊維状酸化亜鉛の表面にアルコキシ基を導入することができる。
【0057】
上記酸化亜鉛としては、一般な表面処理剤で処理したものも用いることができる。表面処理剤としては、具体的には、アミノ基やエポキシ基を有するシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等を挙げることができる。これらの表面処理剤を用いた表面処理は、繊維状酸化亜鉛の表面にこれらの表面処理剤を接触させ、必要に応じて、加熱する方法を用いることができる。
【0058】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、上記物質の機能を阻害しない範囲において、必要に応じて種々の添加剤を配合することができる。例えば、結晶核剤、補強用フィラー、対衝撃性改良剤、難燃剤、発泡剤、劣化防止剤、着色剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、耐光剤、加工安定剤、抗菌剤、防かび剤、可塑剤を配合させてもよい。
【0059】
結晶核剤は、成形品の成形時にそれ自身が結晶核となり、樹脂の構成分子を規則的な三次元構造に配列させるように作用し、成形品の成形性、成形時間の短縮、機械的強度、耐熱性の向上を図ることができる。
【0060】
結晶核剤として、例えば、タルクやマイカ、モンモリロナイト、フェニルホスホン酸亜鉛等の層状化合物、炭酸カルシウム、窒化硼素、合成珪酸、珪酸塩、シリカ、カオリン、カーボンブラック、亜鉛華、塩基性炭酸マグネシウム、石英粉、ガラスファイバー、ガラス粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素等の無機化合物を使用することができる。また、有機結晶核剤としては、オクチル酸、トルイル酸、ヘプタン酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、テレフタル酸、テレフタル酸モノメチルエステル、イソフタル酸、イソフタル酸モノメチルエステル、ロジン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、コール酸等のカルボン酸類や、D−乳酸等を用いることができる。
【0061】
これらのうち、特にフェニルホスホン酸亜鉛が好ましい。フェニルホスホン酸亜鉛は、他の結晶核剤に比べて、少量でポリ乳酸樹脂の結晶化を促進することができると共に、融点を持たない(550℃以上で分解)粒子状の核剤であるため、樹脂物性への影響が少ないことから好ましい。フェニルホスホン酸亜鉛は、平均粒子径が0.1μm以上10μm以下のものを、ポリ乳酸系樹脂組成物の総量に対して1質量%以上5質量%以下の添加量で用いることができる。さらにフェニルホスホン酸亜鉛と共に、エチレンビス12−ヒドロキシステアリルアミドを結晶核剤として用組み合わせて用いることができる。フェニルホスホン酸亜鉛とエチレンビス12−ヒドロキシステアリルアミドがポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂に対して機能する結晶化促進温度域は異なるため、これらを組合わせて用いることで、より広範囲な温度域で効果を得ることができる。
【0062】
可塑剤としては、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステルや、アジピン酸エステルを、単独あるいは他の可塑剤と組み合わせて用いることができる。これらの可塑剤の添加により、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂の結晶化過程において、分子運動を円滑にさせ結晶成長を促進させる効果が得られる。
【0063】
補強用フィラーとしては、ガラス繊維の他、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、及びポリビニルアルコール繊維から選ばれるいずれか1種以上の有機繊維を含有する等の有機繊維、やケナフ等の天然繊維を用いることができる。これらのうち、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、及びポリビニルアルコール繊維は、衝撃強度や引張強度、曲げ強度等の機械的特性の改善効果が顕著であることから、特に好ましい。
【0064】
耐衝撃性改良材としては、例えば、ポリエステルセグメント、ポリエーテルセグメント及びポリヒドロキシカルボン酸セグメントからなる群から選ばれるポリマーブロック(共重合体)、ポリ乳酸セグメント、芳香族ポリエステルセグメント及びポリアルキレンエーテルセグメントが互いに結合されてなるブロック共重合物、ポリ乳酸セグメントとポリカプロラクトンセグメントからなるブロック共重合物、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位を主成分とする重合体、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリカブロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキセンアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペート等の脂肪族ポリエステル、ポリエチレングリコール及びそのエステル、ポリグリセリン酢酸エステル、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化亜麻仁油脂肪酸ブチル、アジピン酸系脂肪族ポリエステル、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルリシノール酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アジピン酸ジアルキルエステル、アルキルフタリルアルキルグリコレート等の可塑剤等を挙げることができる。
【0065】
難燃剤としては、メラミンやイソシアヌル酸化合物などの窒素系難燃剤、リン酸化合物などのリン系難燃剤、黒鉛粉などの膨張性層状化合物等を挙げることができる。
【0066】
また、必要に応じて他の熱可塑性樹脂、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート又はポリカーボネート、これらのアロイを使用することができる。
【0067】
上記ポリ乳酸系樹脂組成物の製造は、上記のポリ乳酸系樹脂、炭素繊維及び酸化亜鉛、その他必要に応じて添加剤を添加、混合する方法によることができる。混合方法としては、ハンドミキシングによる方法や、タンブラーミキサー、リボンブレンダー、単軸や多軸混合押出機、ロール等による混合機を用いる方法が挙げられる。これらの中で,タンブラーミキサー、リボンブレンダー、単軸押出機などの比較的混合力が弱いものを用いることにより、混合中における炭素繊維、繊維状酸化亜鉛の破断や粉砕が抑制され、繊維軸方向の高熱伝導性が成形品に反映されやすく、好ましい。混合時は、適宜、加熱して樹脂を溶融することができる。
【0068】
本発明のポリ乳酸系樹脂成形品は、上記ポリ乳酸系樹脂組成物を用いて得られるものである。その成形方法としては、射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、押出成形、金型成形等の方法を使用することができるが、射出成形又は圧縮成形が好ましい。溶融混合や成形時における温度は、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂の融点以上で、それぞれの成分が劣化しない範囲を選択することが好ましい。
【0069】
本発明のポリ乳酸系樹脂成形品は、機械的強度に優れると共に、高熱伝導性、低導電性、電波透過性に優れ、各種、電気、電子、自動車等の部品に好適である。
【実施例】
【0070】
以下に実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されない。
[実施例1〜6、比較例1〜4]
[ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂の調製]
ポリ乳酸樹脂(ユニチカ製、TE−4000)に、アミノ基を側鎖に有するアミノ基含有シロキサン化合物(東レダウコーニングシリコーン製、FZ−3705)とエポキシ基含有ポリシロキサン化合物(信越化学工業製、KF105)を、それぞれ1.5質量%となるように190〜200℃で約5分かけて混合した。この際、アミノ基含有シロキサン化合物とエポキシ基含有ポリシロキサン化合物が直接反応しないように、まず、アミノ基含有シロキサン化合物とポリ乳酸樹脂を十分に混合し反応させた後、エポキシ基含有ポリシロキサン化合物をさらに混合する方法で、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂を得た。
[酸化亜鉛の表面処理]
単結晶の酸化亜鉛ウィスカ(アムテック製、WZ−501L)について、表1に示す表面処理剤を用いて表面処理を行った。表1に示す高級アルコールを用いてエステル化反応により酸化亜鉛表面にアルコキシ基を導入した。エステル化反応は、溶媒として四塩化炭素を用い、所定量の各アルコールと酸化亜鉛を添加し、さらに脱水剤として五酸化二リンを加え、常温で反応させた。反応後、酸化亜鉛をろ過し、アセトンで十分に洗浄した後、減圧乾燥して粉末状の酸化亜鉛V〜Yを得た。アルコキシ基の導入は、フーリエ変換型赤外分光分析により確認し、また表面の疎水化について、慣用的に用いられるメタノール湿潤度(M値)を調べることにより評価した。
【0071】
シラン系カップリング剤(ダウコーニング製、Z−6137)を用い、湿式法により、アセトン中で酸化亜鉛を反応させた後、上記同様、洗浄し減圧乾燥することにより粉末状の酸化亜鉛Zを得た。
[ポリ乳酸系樹脂成形品の調製]
上記で得られたポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂を、表2に示す、平均繊維長が、0.2mm、3mm、6mmの炭素繊維(CF)と、表面処理した酸化亜鉛ウィスカ(ZnO)と共に、表3に示す配合比で190〜200℃の条件で約5分かけて混合しポリ乳酸系樹脂組成物を得た。ポリ乳酸系樹脂組成物を、約180℃で5分間プレス成形し、70mm×70mm×1mmの板状の成形品を得た。
【0072】
[熱伝導性評価]
得られた成形品の一部に、初期温度68.5±0.2℃のセラミックスヒーターを接触させ、A:ヒーター直上裏面、B:ヒーターから17.5mm、C:ヒーターから50mmの3箇所の温度を熱電対で測定した。結果を表4に示す。
【0073】
[導電性評価]
得られた成形品の体積固有抵抗値を測定した。体積固有抵抗値は、JIS K6911に準拠して、二重リング電極(SME−8311:東亜ディーケーケー社製)及びデジタル超高抵抗計(R8340A:アドバンテスト社製)を用いて測定した。結果を表4に示す。
【0074】
[機械的強度評価]
得られた成形品を、JISK7203に準拠して、3点曲げ試験装置(インストロン製、5567)を用いて、弾性率、最大強度、破断伸びを測定した。結果を表5に示す。
【0075】
[電波透過性評価]
得られた成形品を、電波を発信させたダイポールアンテナ(アンリツ製、MA5612B3)と磁界プローブの間に挿入し、挿入前後の電波の減衰量を測定した。電波周波数帯域は2GHz帯とし、ネットワークアナライザー(HP製、8720B)によりモニターした。結果を表4に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

【0081】
結果から、熱伝導特性は、比較例1ではヒーター直上のA点では2℃しか差が見られなかったのに対し、実施例1〜3では温度が大きく低下しており、特に長さが3mmと6mmの炭素繊維を用いた実施例2および3では、10℃以上の低下が認められた。また、B点、C点については、温度の上昇が認められたことから、熱がヒーターの接触点からより遠くに伝導したことが示され、熱伝導性の向上が確認できた。体積抵抗値及び電波透過性についても、炭素繊維を含まない比較例1に近い良好な特性が確認できた。また、酸化亜鉛表面にアルコキシ基を導入すると、破断伸びは3倍以上となり、良好な機械的特性が得られ、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂と、炭素繊維と、酸化亜鉛の界面状態が適切に制御されることが分かる。
【符号の説明】
【0082】
1 炭素繊維
2 繊維状酸化亜鉛
3 ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、放熱が必要な電気・電子機器、特に、通信機器等、日用品、医療品、衣料、包装、建材、自動車部品、玩具などの材料全般に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基を有するポリシロキサンセグメントを有するポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂と、炭素繊維と、繊維状の酸化亜鉛とを含み、炭素繊維の含有量が5質量%以上10質量%以下の範囲、繊維状の酸化亜鉛の含有量が25質量%以上45質量%以下の範囲であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項2】
前記炭素繊維は、平均繊維長が0.1mm以上6mm以下であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項3】
前記炭素繊維が、ピッチ系炭素繊維及び気相成長法で合成された黒鉛性の炭素繊維から選ばれるいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項4】
前記酸化亜鉛は、表面に炭素数6〜18のアルコキシ基を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項5】
前記酸化亜鉛は、平均繊維長が10μm以上500μm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項6】
前記酸化亜鉛は、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、及びアルミネート系カップリング剤から選ばれるいずれか1種以上で表面処理されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリシロキサン変形ポリ乳酸系樹脂は、アミノ基を側鎖に有するアミノ基含有ポリシロキサンセグメントと、ポリ乳酸系化合物から得られるポリ乳酸系セグメントとを含み、該アミノ基の平均含有量が、アミノ基含有ポリシロキサンセグメントに対して、0.01質量%以上2.5質量%以下の範囲であり、ポリ乳酸系セグメントに対して3質量ppm以上30質量ppm以下の範囲であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項8】
前記アミノ基含有ポリシロキサンセグメントが、式(1)で示されるアミノ基含有ポリシロキサン化合物から得られるセグメント及び式(2)で示されるアミノ基含有ポリシロキサン化合物から得られるセグメントから選ばれるいずれか1種以上のアミノ基含有ポリシロキサンセグメントを有することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【化1】

【化2】

(式中、R4〜R8、R10〜R14は、独立して、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、又は−(CH2)α−NH−C65(但し、αは1〜8のいずれかの整数を示す。)を表し、R9、R15、R16は、独立して、2価の有機基を表し、d´、h´は0以上の整数、e、iは0を超える整数を表す。)
【請求項9】
前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂が、エポキシ基含有ポリシロキサン化合物から得られるセグメントを有することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項10】
フェニルスルホン酸亜鉛を1質量%以上5質量%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項11】
ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、及びポリビニルアルコール繊維から選ばれるいずれか1種以上の有機繊維を含有することを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物を射出成形又は圧縮成形して得られることを特徴とするポリ乳酸系樹脂成形品。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−122027(P2011−122027A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279595(P2009−279595)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】