説明

ポリ乳酸系樹脂組成物及び成形品

【課題】成形時の結晶化速度が速く、成形時間の短いポリ乳酸系樹脂組成物を提供し、これを用いて成形した耐久性に優れた成形品を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂及びアクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂を必須成分とするポリ乳酸系樹脂組成物であって、アクリル系樹脂をポリ乳酸に対して50〜100質量%、ノボラック型エポキシ樹脂をポリ乳酸に対して4〜50質量%の範囲で配合することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来樹脂であるポリ乳酸樹脂を用いたポリ乳酸系樹脂組成物及び、これを用いて成形した成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸樹脂は、一般に植物を出発原料とし、優れた透明性及び生分解性等を有することから環境調和型の成形用樹脂として注目されている。
【0003】
一方、ポリ乳酸樹脂は、結晶化速度が遅く成形に時間がかかるといった欠点を有しており、成形品はガラス転移温度が低く、耐熱性、耐衝撃性、耐久性の点で問題があった。
【0004】
これに対し、ポリ乳酸樹脂の耐衝撃性等を改善するため、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(以下、ABS樹脂と略称する)、ポリプロピレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂等の、他の樹脂とブレンドした成形材料が数多く提案されている。
【0005】
また、結晶化速度が遅いという問題に対し、結晶化速度の促進を目的として、結晶化の核となる無機系造核剤や、有機系造核剤の添加等が提案されている。一般に無機系造核を添加した場合には、樹脂の流動性が悪くなり成形性が悪化するという問題があった。また、有機系造核剤を添加した場合には成形物の耐熱性、耐衝撃性が低下するという問題があった。これに対し、有機系造核剤、可塑剤、安定剤を配合し、結晶化速度、耐熱性、耐衝撃性を改善させる提案がなされている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
これらのものは成形品の成形性、物性の改善はなされるが、成形品の寸法安定性、耐久性の点では問題があった。
【0007】
また、ポリ乳酸樹脂は分子構造的に加水分解されやすいという特性を有するため、成形時に容易に分子量が低下する等の熱劣化を起こすため、耐候性や耐湿性の点で問題となっていた。このような加水分解による分子量の低下を補填する方法として、カルボジイミド変性イソシアネートやエポキシ樹脂を添加する方法等が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0008】
これら提案によれば、耐候性、耐湿性の改善はなされているが、ポリ乳酸樹脂のその他の問題となる特性、例えば、結晶化速度の促進等の点ではバランスのとれたものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−328163号公報
【特許文献2】特開2006−342309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来の問題点を解消した、成形時の結晶化速度が速く、成形時間の短いポリ乳酸系樹脂組成物を提供し、これを用いて成形した耐久性に優れた成形品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0012】
第1に、ポリ乳酸樹脂及びABS樹脂を必須成分とするポリ乳酸系樹脂組成物であって、アクリル系樹脂をポリ乳酸に対して50〜100質量%、ノボラック型エポキシ樹脂をポリ乳酸に対して4〜50質量%の範囲で配合する。
【0013】
第2に、上記第1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物を成形してなる成形品である。
【発明の効果】
【0014】
上記第1の発明によれば、ポリ乳酸系樹脂組成物として、ポリ乳酸樹脂及びABS樹脂を必須成分とし、アクリル系樹脂をポリ乳酸に対して特定量配合しているので、ポリ乳酸の結晶性をコントロールすることができ、成形品の寸法安定化を図ることができる。
【0015】
また、ノボラック型エポキシ樹脂をポリ乳酸に対して特定量配合しているので、ポリ乳酸の加水分解による劣化を補完し、成形品の耐久性を向上させることができる。
【0016】
第2の発明によれば、上記第1の発明のポリ乳酸系樹脂組成物を用いて成形されているので、寸法安定性、耐久性に優れた成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
本発明で用いられる必須成分としてのポリ乳酸樹脂としては、樹脂の乳酸成分がL体、D体、またはこれらが混在するものを用いることができる。また、前記L体、D体それぞれを重合させ、混合したものを用いることもできる。
【0019】
本発明で用いられる必須成分としてのABS樹脂としては、通常一般に用いられるABS樹脂を用いることができる。ABS樹脂の配合量はポリ乳酸系樹脂組成物全体に対して5〜95質量%、好ましくは23〜53質量%の範囲である。
【0020】
配合量が5質量%未満であるとABS樹脂による耐衝撃性向上効果が期待できず、配合量が95質量%を超えるとポリ乳酸樹脂比率が著しく低くなり、本発明による加水分解補填効果が明確に現れなくなる。
【0021】
本発明で用いられるアクリル系樹脂としては、アクリル酸及びそのエステルを原料とする重合体や共重合体であるアクリル樹脂と、メタクリル酸及びそのエステルを原料とする重合体あるいは共重合体であるメタクリル樹脂の少なくとも一方を用いることができる。
【0022】
アクリル樹脂及びメタクリル樹脂は特に制限なく用いることができ、アクリル樹脂としては、ポリアクリル酸メチル樹脂、ポリアクリル酸エチル樹脂、ポリアクリル酸ブチル樹脂、ポリアクリル酸2エチルヘキシル樹脂等、またメタクリル樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリメタクリル酸エチル樹脂、ポリメタクリル酸ブチル樹脂、ポリメタクリル酸2エチルヘキシル樹脂等を用いることができる。
【0023】
これらの中でもポリメタクリル酸メチル樹脂が工業的にも容易に入手可能であり、透明性や耐候性も安定している点で、最も好ましく用いることができる。
【0024】
アクリル系樹脂の配合量は、ポリ乳酸に対して50〜100質量%、好ましくは70〜90質量%の範囲で配合することができる。アクリル系樹脂の配合量がポリ乳酸に対して50質量%未満であるとポリ乳酸樹脂の結晶化が進まず結晶化できない。アクリル系樹脂の配合量がポリ乳酸に対して100質量%を超えるとABS樹脂による耐衝撃性向上効果を阻害する要因となる。
【0025】
本発明で用いられるノボラック型エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂のいずれでも用いることができる。
【0026】
ノボラック型エポキシ樹脂は、ポリ乳酸に対して4〜50質量%、好ましくは20〜40質量%の範囲で配合することができる。ノボラック型エポキシ樹脂の配合量がポリ乳酸に対して4質量%未満であると、ポリ乳酸樹脂の加水分解の補填効果が著しく低くなる。一方、ノボラック型エポキシ樹脂の配合量がポリ乳酸に対して50質量%を超えるとコンパウンドや成形など加熱時に著しく増粘するおそれがある。
【0027】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて、他の成分、例えば、無機充填材、滑剤、着色剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防かび剤、抗菌剤、カップリング剤、離型剤、繊維等を配合することができる。
【0028】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法としては、例えば上記の各成分及び、必要に応じて他の成分を配合してミキサー、ブレンダー等を用いて十分均一に混合し、次いで熱ロールやニーダー等を用いて加熱状態にて溶融混合し、室温に冷却した後、粉砕することにより粉末タイプのポリ乳酸系樹脂組成物(ポリ乳酸系樹脂成形材料)を製造することができる。なお、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、取り扱いを容易にするために、成形条件に合うような寸法と質量を有するペレットタイプ、タブレットタイプ等としてもよい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、本発明と比較するため、比較例も併せて記載した。
【0030】
表1に示す配合成分として以下のものを使用した。なお、表1に示す配合量は質量%を表す。
<使用樹脂>
ポリ乳酸樹脂:ユニチカ(株)製 テラマックTP−4000CN(ポリ乳酸比率95%)
ABS樹脂:東レ(株)製 トヨラック100
アクリル系樹脂(ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA樹脂)):三菱レイヨン(株)製 アクリペットVH001
ノボラック型エポキシ樹脂(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂):DIC(株)製 エピクロンN−695
【0031】
【表1】

【0032】
<試料作製>
2軸ニーダーを用い、上記<使用樹脂>を加熱混練し、押し出したものをアルミ製ローラーコンベア上で冷却し、切断して成形用ペレットとした。
【0033】
試験片は上記成形用ペレットを射出成形して作製した。射出成形時の金型温度を40℃、冷却時間を30秒とした。
【0034】
成形後、24時間常態で保管したものを初期品、60℃、90%RH環境下に675時間放置したものを処理品とした。
<評価項目>
(1)結晶性評価(結晶化率)
示差走査熱量計(DSC)分析[昇温速度10℃/分]により、ポリ乳酸の結晶化発熱(60〜140℃)及び融解吸熱(170℃付近)から、試験片の結晶化率を算出した。
【0035】
また、ポリ乳酸結晶の融解吸熱(170℃付近)が観察されない試験片は、ポリ乳酸が結晶化できないものと判断した。
(2)曲げ強度
上記の射出成形により作製した試験片を用いて、JIS K7171に準拠して曲げ強さを測定した。
(3)引張り強度
JIS K7113に準じて行った。
(4)シャルピー衝撃強度
成形品のシャルピー衝撃強度は、JIS K7111−1に記載の方法に従って測定した。
【0036】
評価の結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
上記各測定結果から、メタクリル樹脂(PMMMA樹脂)の添加による結晶化率については、PMMA樹脂を添加した実施例1〜3の結晶化率の結果に対して、PMMA樹脂を添加していない比較例2、4の結晶化率の結果が著しく低いことから、PMMA樹脂の添加による結晶化率の向上が確認された。また、ノボラック型エポキシ樹脂の添加による耐久性の向上については、曲げ強度、引っ張り強度、シャルピー衝撃強度の、各初期品と処理品の差を比較すると、ノボラック型エポキシ樹脂を添加した実施例1〜3は差が少ないく耐久性が向上しているのに対し、ノボラック型エポキシ樹脂を添加しない比較例1〜3は初期品に対する処理品の数値が減少しており耐久性の低下が確認された。
【0039】
以上のことから、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物に対するメタクリル樹脂の添加による結晶化率の向上及び、ノボラック型エポキシ樹脂の添加による耐久性の向上が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂及びアクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂を必須成分とするポリ乳酸系樹脂組成物であって、アクリル系樹脂をポリ乳酸に対して50〜100質量%、ノボラック型エポキシ樹脂をポリ乳酸に対して4〜50質量%の範囲で配合することを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2011−111493(P2011−111493A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267420(P2009−267420)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】