説明

ポリ乳酸系樹脂組成物

【課題】強度、靱性、耐衝撃性を併有したポリ乳酸系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂100質量部と、ガラス繊維15〜110質量部と、ポリ四フッ化エチレン0.2〜2.0質量部とを含有し、前記ガラス繊維は、繊維断面の長径/短径が1.5〜8であり、繊維断面の長径が20μm以下であり、繊維断面の短径が5μm以下であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度、靱性、耐衝撃性、耐久性、耐熱性を併有したポリ乳酸系樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
成形用の原料としては、ポリプロピレン樹脂(PP)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、ナイロン6やナイロン66などのポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの樹脂が使用されている。このような樹脂から製造された成形体は、成形性、機械的強度に優れている。しかしながら、廃棄する際、ゴミの量を増やすうえに自然環境下では殆ど分解されないために、埋設処理しても半永久的に地中に残留するという問題があった。
【0003】
一方、近年、環境保全の見地から、生分解性ポリエステル樹脂が注目されている。生分解性ポリエステル樹脂の中でも、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどの樹脂は、大量生産可能なためコストも安く、有用性が高い。そのうち、ポリ乳酸樹脂は、既にトウモロコシやサツマイモ等の植物を原料として製造可能となっており、使用後に焼却されても、これらの植物の生育時に吸収した二酸化炭素を考慮すると炭素の収支として中立であることから、特に、地球環境への負荷の低い樹脂とされている。
【0004】
ポリ乳酸樹脂は、元来、高い曲げ強度、曲げ弾性率を有しているが、ガラス繊維を加えることにより、強度や弾性率をさらに向上させて用いられている。ガラス繊維の添加により、ポリ乳酸樹脂の弱点である耐衝撃性も向上させることができる。しかしながら、ガラス繊維を多く加えることにより、当然ながら、ポリ乳酸樹脂の含有率は低下し、環境への貢献度は小さくなる。また、ガラス繊維の配合により、曲げ強度・弾性率は向上するものの、曲げ破断歪は大きく低下して靱性が低くなるという問題があった。
【0005】
特許文献1には、ガラス繊維として、繊維断面の長径/短径が1.5〜10であり、長径が28μm、短径が7μmであるものを添加すると、通常のガラス繊維に比べて高い耐衝撃性が得られることが記載されている。しかながら、得られる耐衝撃性はまだ不充分なレベルであり、また、曲げ破断歪(靱性)については検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−024081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記の問題点を解決しようとするものであり、強度、靱性、耐衝撃性を併有したポリ乳酸系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリ乳酸樹脂と、特定の形状を有するガラス繊維と、ポリ四フッ化エチレンとを含有する樹脂組成物によって、前記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)ポリ乳酸樹脂100質量部と、ガラス繊維15〜110質量部と、ポリ四フッ化エチレン0.2〜2.0質量部とを含有し、前記ガラス繊維は、繊維断面の長径/短径が1.5〜8であり、繊維断面の長径が20μm以下であり、繊維断面の短径が5μm以下であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
(2)ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、ガラス繊維の含有量が35〜100質量部であることを特徴とする(1)記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(3)ポリ乳酸樹脂が、D−乳酸成分の割合が0.6モル%以下の樹脂であることを特徴とする(1)または(2)に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(4)ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤を2〜13質量部含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(5)ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、カルボジイミド化合物を0.3〜13質量部含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(6)ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、結晶核剤を0.05〜13質量部含有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(7)ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、難燃剤を10〜110質量部含有することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、特定の形状を有するガラス繊維と、ポリ四フッ化エチレンを含有するので、強度、靱性、耐衝撃性を向上することができ、さらには耐久性(耐湿熱性)にも優れる。また、グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤やカルボジイミド化合物を含有することにより、さらに耐久性(耐湿熱性)を向上させることができる。本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は電気製品の部品などに好適に用いることが可能であり、低環境負荷材料であるポリ乳酸樹脂の使用範囲を大きく広げることができ、産業上の利用価値は極めて高いものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂、ガラス繊維、ポリ四フッ化エチレンを含有する組成物である。
【0011】
ポリ乳酸樹脂としては、耐熱性、成形性の面から、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、およびこれらの混合物または共重合体を用いることができるが、生分解性、および成形加工性の観点からは、ポリ(L−乳酸)を主体とすることが好ましい。
【0012】
また、ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸樹脂は、光学純度によってその融点が異なるが、本発明においては、成形体の機械的特性や耐熱性を考慮すると、融点が160℃以上であることが好ましい。ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸樹脂において、融点を160℃以上とするためには、D−乳酸成分の割合を約3モル%未満とすればよい。なお、通常、ポリ乳酸樹脂の融点の上限は190℃程度である。
さらに、樹脂組成物の成形性および耐熱性の観点から、ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸樹脂においては、D−乳酸成分の割合が0.6モル%以下であることが特に好ましい。
【0013】
ポリ乳酸樹脂の190℃、荷重21.2Nにおけるメルトフローレート(MFR)は通常0.1〜50g/10分、好ましくは0.2〜20g/10分、最適には0.5〜10g/10分である。上記メルトフローレートが50g/10分を超える場合は、溶融粘度が低すぎて成形体としたときの機械的特性や耐熱性が劣る場合がある。また、メルトフローレートが0.1g/10分未満の場合は、成形加工時の負荷が高くなるため、操業性が低下する場合がある。なお、上記のメルトフローレートは、JIS K 7210(試験条件D)による値である。
【0014】
ポリ乳酸樹脂は公知の溶融重合法で、あるいは、さらに固相重合法を併用して製造される。また、ポリ乳酸樹脂のメルトフローレートを所定の範囲に制御する方法としては、メルトフローレートが大きすぎる場合には、少量の鎖延長剤、例えばジイソシアネート化合物、ビスオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を用いて樹脂の分子量を増大させる方法が挙げられる。逆に、メルトフローレートが小さすぎる場合は、メルトフローレートのより大きなポリエステル樹脂や低分子量化合物と混合する方法が挙げられる。
【0015】
ポリ乳酸樹脂は市販品を好適に用いることができ、D−乳酸成分の割合が0.6モル%を超えるのものとしては、例えばNatureWorks社製「4032D」、「3001D」等、D−乳酸成分の割合が0.6モル%以下のものとしては、例えばトヨタ自動車社製「S−09」、「S−12」、「S−17」等が挙げられる。
【0016】
ポリ乳酸樹脂の含有量は、環境に対する有用性の点から、組成物全体のうちの30質量%以上であることが好ましく、特に好ましくは40質量%以上である。ポリ乳酸樹脂の含有量が30質量%未満の場合は、環境に対する好ましい効果を充分に得ることができない。
【0017】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ガラス繊維を含有する。ガラス繊維は、繊維断面の長径/短径が1.5〜8であり、かつ、繊維断面の長径が20μm以下であり、かつ、繊維断面の短径が5μm以下であることが必要である。繊維断面の長径/短径は、中でも1.5〜6が好ましく、さらには2〜5が好ましい。長径/短径が1.5未満のガラス繊維を用いた場合は、強度や耐衝撃性、耐湿熱性の点で充分な効果を得ることができない。また繊維断面の長径が20μmを超える場合や繊維断面の短径が5μmを超える場合も、同様に、強度や耐衝撃性の点で充分な効果を得ることができない。繊維断面の長径/短径が8を超えるガラス繊維は長径20μm以下で製造することは難しく、また高コストとなるため現実的でない。
また、繊維断面の長径は4μm以上であることが好ましく、繊維断面の短径は1μm以上であることが好ましい。繊維断面の長径が4μm未満であるガラス繊維や繊維断面の短径が1μm未満であるガラス繊維は製造が極めて高コストとなるため現実的でない。
また、ガラス繊維の繊維長は、0.1〜12mmであることが好ましく、0.5〜8mmであることがより好ましい。繊維長が0.1mm未満であると、強度や耐衝撃性への効果が小さくなり、繊維長が12mmを超えると混練時の供給操業性が悪化する。
【0018】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物に、このような形状(繊維断面の長径/短径の比、繊維断面の長径、短径の長さが特定の範囲を満足するもの)のガラス繊維が含有されると、弾性率、強度、耐衝撃性、耐熱性向上などの一般的な効果に加えて、次のような効果がある。
(1)樹脂とガラス繊維の連続的な界面が小さくなり、水分の侵入が抑制され、耐久性(耐湿熱性)が向上する。
(2)難燃剤などの粉体を多く配合した組成においては、粉体をしっかりと包囲し、組成物構造中に固定する。これにより、このような組成での課題である脆性を抑える。
【0019】
ガラス繊維の含有量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、15〜110質量部であることが必要であり、35〜100質量部であることが好ましい。ガラス繊維の含有量が15質量部未満では、充分な強度や耐衝撃性を得ることができない。また、110質量部を超えて含有させた場合、靱性に悪影響し、破断歪が低下するなどのために、本発明の目的を達成することができない。
【0020】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、ポリ四フッ化エチレン(以下、PTFEと略することがある。)が含有される。PTFEとしてはあらゆるものを用いることができるが、樹脂添加用のドリップ防止剤として用いられている各種のPTFE系ドリップ防止剤を用いることが好ましい。このようなPTFEとして市販されているものとしては、例えば、ダイキン社製の商品名「FA500H」、三菱レイヨン社製の商品名「A3700」、スリーエム社製の商品名「MM5935」等が挙げられる。
【0021】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物にPTFEが含有されると、一般的な破断抑制効果に加えて、次のような効果がある。
(3)溶融時のPTFEの網目構造の形成が、フラットでかつ細い多数のガラス繊維を巻き込みながら進行することで、極めて細かい網目構造が生成され、それによって網目構造の破断抑制効果が大きく向上し、強度、破断歪、耐衝撃性が向上する。
(4)この網目構造により、ガラス繊維と樹脂の界面が引き締まり、水の侵入が抑えられるため、耐久性(耐湿熱性)が向上する。
【0022】
PTFEの含有量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、0.2〜2.0質量部であることが必要であり、0.3〜1.5質量部であることが好ましい。PTFEの含有量が0.2質量部未満では充分な破断抑制効果や耐久性(耐湿熱性)への効果を得ることができない。また、難燃剤を含有する組成においては、十分な難燃性を発現させることが困難となる。一方2.0質量部を超えて含有した場合は、混練時のモーター負荷が過大となることがある。
【0023】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤が含有されることが好ましい。グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤としてはあらゆるものを用いることができるが、難燃性への悪影響が小さい点から、シリコーン系コアシェル型耐衝撃剤が好ましい。市販のものとしては、例えば、三菱レイヨン社製「メタブレンS2200」が挙げられる。
【0024】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物にグリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤が含有されると、耐衝撃性、強度向上、破断歪への効果、およびグリシジルによる耐久性(耐湿熱性)向上などの効果に加えて、次のような効果がある。
(5)グリシジルメタクリレートがフラット形状のガラス繊維の長辺面に沿って配位し、さらに、細径のガラス繊維を用いているので、グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤の分散が顕著に促進され、大きな耐衝撃効果が得られる。
(6)PTFEによる網目構造に、グリシジルを介してコアシェルが結合することで、網目構造による耐衝撃効果が大きく向上する。
【0025】
グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、2〜13質量部であることが好ましい。含有量が2質量部未満では上記効果を充分に得ることができず、13質量部を超えて添加した場合は、弾性率の低下、ひいては強度の低下など好ましくない影響がある。
【0026】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、カルボジイミド化合物が含有されることが好ましい。カルボジイミド化合物としては、種々のものを用いることができ、カルボジイミド基の存在形態の点からは、モノカルボジイミド、ポリカルボジイミドなどに分類され、化学構造の点からは脂肪族(および脂環族)、芳香族などに分類される。市販のものとしては、日清紡社製「LA−1」(イソシアネート基含有率1〜3%、カルボジイミド変性イソシアネート)、ラインケミー社製「スタバクゾールI」(ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド)など、多くのものが挙げられる。
【0027】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物に、グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤に加えてカルボジイミド化合物が含有されると、耐久性(耐湿熱性)への効果などの一般的な効果に加えて、次のような効果がある。
(7)カルボジイミドとグリシジルにより生じた複合化合物が、ガラス繊維/ポリ乳酸樹脂界面の劣化で生じたCOOHを集中的に封鎖することで、著しく高い耐久性(耐湿熱性)への効果が発現し、ガラス繊維配合ポリ乳酸樹脂の課題である耐久性(耐湿熱性)の課題を解決することができる。
【0028】
カルボジイミド化合物の含有量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、0.3〜13質量部であることが好ましい。カルボジイミド化合物の含有量が0.3質量部未満では、上記の充分な効果を得ることができない。また、13質量部を超えて含有させた場合、色調が黄化する他、コスト的に著しく不利になる。
【0029】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、結晶核剤が含有されることが好ましい。結晶核剤としては、あらゆる種類のものを用いることができる。このうち有機結晶核剤としては、例えば、有機スルホン酸金属塩系結晶核剤(市販のものでは竹本油脂社製「LAK−403」、「LAK−301」等)、トリメシン酸アミド系結晶核剤(市販のものでは新日本理化社製「エヌジェスターTF−1」等)、あるいは、エチレンヒドロキシビス脂肪酸アミド系結晶核剤などが挙げられる。
【0030】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物に結晶核剤が含有されると、ポリ乳酸樹脂の結晶化を促進し、耐熱性を付与することができ、またこれにより、ポリ乳酸樹脂を金型内で結晶化させる射出成形方法において、より短時間で金型内から成形体を取り出すことができる。本発明のポリ乳酸系樹脂組成物においては、特に、ガラス繊維と結晶化ポリ乳酸樹脂の組み合わせにより、高い耐熱性を安定して得ることができる。
【0031】
結晶核剤の配合量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、0.05〜13質量部が好ましく、有機スルホン酸金属塩系結晶核剤を配合する場合は0.5〜10質量部が特に好ましく、トリメシン酸アミド系結晶核剤を配合する場合は0.08〜3質量部が特に好ましい。結晶核剤の配合量が0.05質量部未満の場合は、ポリ乳酸樹脂が充分に結晶化しない恐れがあり、13質量部を超えて配合した場合、薄肉成形時の強度を低下させる場合がある。
【0032】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、難燃剤が含有されることが好ましい。難燃剤としては、種々のものを用いることができるが、性能と環境への影響を両立する点から、ハロゲン元素非含有のリン系難燃剤が好ましく用いられ、そのうち、難燃性能の点から、有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤が特に好ましい。有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤は、公知のあらゆるものを用いることができ、市販のものも好適に用いることができる。有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤の市販品としては、例えば、クラリアント社製 商品名「エクソリットOP」シリーズなどが挙げられる。
【0033】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物に難燃剤が含有されると、組成物に難燃性が付与され、電子機器をはじめ多くの用途に広く適用することができる。
【0034】
樹脂組成物に難燃剤を配合すると、多くの場合、脆くなったり、難燃剤により劣化が促進されるなどの問題が生じ、特に薄肉で強度が要求される用途では不利になることが多い。しかし、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物では、上述のように極めて細かい網目構造により難燃剤を固定することで脆性を抑えることが可能であり、かつ高い破断抑制効果、および、耐久(耐湿熱)効果を有するので、これらの問題を充分に解決することができる。さらに、PTFEによる燃焼時のドリップ抑制効果により、高い難燃性レベルを得ることができる。これらのことから、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、難燃剤を配合せざるを得ない電子機器筐体の薄肉の筐体などに特に有用である。
【0035】
難燃剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、10〜110質量部であることが好ましい。10質量部未満では、充分な難燃性が得られない場合があり好ましくない。一方、110質量部を超えて含有させると、強度や耐衝撃性、耐久性(耐湿熱性)などの特性を低下させる場合があり、さらに混練時の操業性を低下させるため好ましくない。
【0036】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、その特性を損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤等の添加剤を添加することができる。顔料としては、チタン、カーボンブラックなどを挙げることができる。熱安定剤や酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物などが例示される。耐候剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンズオキサジノンなどが挙げられる。可塑剤としては、脂肪族多価カルボン酸エステル誘導体、脂肪族多価アルコールエステル誘導体などが挙げられる。滑剤としては、各種カルボン酸系化合物を用いることができ、中でも、各種脂肪酸金属塩、特にステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなどが好ましい。離型剤としては、各種カルボン酸系化合物、中でも、各種脂肪酸エステル、各種脂肪酸アミドなどが好適に用いられる。帯電防止剤としては、アルキルスルホン酸塩、グリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
本発明の組成物に、上記の添加剤を混合する方法としては特に限定されない。
【0037】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を製造する方法は、特に制限されず、各成分が均一に分散されている状態になればよい。例えば、タンブラーやヘンシェルミキサーを用いて、均一にドライブレンドした後、溶融混練押出して、冷却・カッティング・乾燥工程に付してペレット化すればよい。溶融混練に際しては、単軸押出機、二軸押出機、ロール混連機、ブラベンダー等の一般的な混練機を使用することができるが、分散性向上の観点から二軸押出機を使用することが好ましい。また、ガラス繊維の切断等による性能低下防止の観点から、ガラス繊維は、押出機の途中から供給することが望ましく、かつ、供給部位よりも先端側においては、ガラス繊維の切断の防止を配慮したスクリュー形状にすることが望ましい。
【0038】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、および、シート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。とりわけ、射出成形方法を採用することが好ましく、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等も採用できる。
特に、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、0.5〜2.0mmの厚さの、薄肉の成形体に用いることにより、その性能を効果的に活かすことができる。
【0039】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物に適した射出成形条件の一例を挙げる。シリンダ温度は、樹脂組成物の融点または流動開始温度以上、例えば、190〜270℃とすることが好ましい。また、金型温度は、樹脂組成物の(融点−20)℃以下とすることが適当であり、金型内でポリ乳酸樹脂の結晶化を進行させ、効果的に耐熱性を付与する観点から、金型温度は、75〜125℃にすることが好ましい。
成形温度が上記のシリンダ温度や金型温度の範囲より低すぎると、成形体にショートが発生するなどして操業性が不安定になったり、過負荷に陥りやすくなったりする場合がある。逆に、成形温度が上記のシリンダ温度や金型温度の範囲を超えて高すぎると、樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、着色したりする等の問題が発生しやすくなる場合がある。
【0040】
本発明の樹脂組成物を用いた成形体の具体例としては、パソコン周辺の各種部品および筐体、携帯電話部品および筐体、その他OA機器部品等の電気製品用樹脂部品をはじめ、バンパー、インストルメントパネル、コンソールボックス、ガーニッシュ、ドアトリム、天井、フロア、エンジン周りのパネル等の自動車用樹脂部品等が挙げられる。また、フィルム、シート、中空成形品などとすることもできる。
そのうち、強度、難燃性、耐久性(耐湿熱性)が必要とされる部品において、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は特に有用である。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。実施例および比較例の樹脂組成物の評価に用いた測定法は次の通りである。
(1)成形性
下記(2)におけるISO試験片の成形時において、成形体が金型に固着、または、抵抗なく取り出すことができ、突き出しピンによる変形がなく、良好に離型できる、最短の所要成形サイクル(秒)を見極めた。所要成形サイクルは、55秒以下であることが好ましい。
【0042】
(2)曲げ強度、曲げ弾性率、曲げ破断歪
得られた樹脂組成物のペレットを、85℃にて12時間熱風乾燥した。その後、射出成形機(東芝機械社製 商品名「IS−80G型」)を用いて、金型表面温度を105℃に調整しながら、ISO型試験片を作製した。ISO178に準拠して、曲げ特性を測定した。曲げ強度は、230MPa以上であることが好ましく、260MPa以上であることがより好ましい。曲げ弾性率は、9MPa以上であることが好ましい。曲げ破断歪は、2.0%以上であることが好ましく、2.5%以上であることがより好ましい。
【0043】
(3)曲げ強度(薄肉)
上記(2)と同様にして、射出成形により幅7.0mm×長さ12.5mm×厚さ0.8mmの成形片を作製した。この成形片を用いて、ISO178に準拠して曲げ強度を測定した。この時、支点間距離は10.4mmとし、速度は5mm/分とした。曲げ強度(薄肉)は、230MPa以上であることが好ましく、260MPa以上であることがより好ましい。
【0044】
(4)耐衝撃性
上記(2)と同様にして得られたISO型試験片を用い、ISO179−1に準拠して、シャルピー衝撃強度を測定した。シャルピー衝撃強度は、12kJ/m以上であることが好ましく、17kJ/m以上であることがより好ましい。
【0045】
(5)耐熱性
上記(2)と同様にして得られたISO型試験片を用い、ISO75に準拠して、荷重1.8MPaでの荷重たわみ温度を測定した。荷重たわみ温度は、90℃以上であることが好ましい。
【0046】
(6)耐久性(耐湿熱性、曲げ強度保持率)
上記(3)と同様にして得られた成形片を2本用意し、1本は上記(3)と同様の方法で曲げ強度を測定した(未処理の曲げ強度とする)。もう1本の成形片を、温度60℃、湿度95%RHの環境下で250時間曝して湿熱処理を施した後、上記(3)と同様の方法で曲げ強度を測定した(湿熱処理後の曲げ強度とする)。そして、以下の式により、曲げ強度保持率を算出した。
(曲げ強度保持率)(単位:%)=(湿熱処理後の曲げ強度)/(未処理の曲げ強度)×100
曲げ強度保持率は、35%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。
【0047】
(7)難燃性
上記(3)に記載した試験片の作製方法と同様の条件で、厚さ1.6mmの試験片を得た。この試験片を用いて、UL94に準拠して垂直燃焼試験(V)を行い、難燃性レベルを確認した。UL94難燃性レベルは、V−0あるいはV−1であることが好ましい。
【0048】
また、実施例および比較例に用いた各種原料は次の通りである。
(1)ポリ乳酸樹脂
・NatureWorks社製、商品名「3001D」(D体含有率1.4モル%、MFR=10g/10分)
・NatureWorks社製、商品名「4032D」(D体含有率1.4モル%、MFR=3g/10分)
・トヨタ自動車社製、商品名「S−12」(D体含有量0.1モル%、MFR=8g/10分)
(2)ガラス繊維
・日東紡社製、商品名「CSG3J−830」(繊維断面の長径/短径=4、長径20μm、短径5μm、繊維長3mm)
・日東紡社製、商品名「CSG3PA830S」(繊維断面の長径/短径=4、長径28μm、短径7μm、繊維長3mm)
・ガラス繊維A(繊維断面の長径/短径=1.5、長径6μm、短径4μm、繊維長3mm)
・ガラス繊維B(繊維断面の長径/短径=1.2、長径11μm、短径9μm、繊維長3mm
・オーウェンスコーニング社製、商品名「FT592」〔円形断面(長径/短径=1)、平均繊維径10μm、繊維長3mm)
(3)ポリ四フッ化エチレン(PTFE)
・ダイキン社製、商品名「FA500H」
・スリーエム社製、商品名「MM5935」
【0049】
(4)グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤
・三菱レイヨン社製、商品名「メタブレンS2200」
(5)カルボジイミド化合物
・日清紡ケミカル社製、カルボジイミド変性イソシアネート、商品名「カルボジライトLA−1」(イソシアネート基含有量1〜3質量%)
・ラインケミー社製、カルボジイミドモノマー、商品名「Stabaxol I」(以下STX−I)
(6)結晶核剤
・竹本油脂社製、有機スルホン酸金属塩系結晶核剤、商品名「LAK−403」
・新日本理化社製、トリメシン酸アミド系結晶核剤、商品名「TF−1」
(7)難燃剤
・クラリアント社製、有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤、商品名「エクソリットOP1312」
【0050】
実施例1
二軸押出機(東芝機械社製 商品名「TEM37型」)を用い、ポリ乳酸樹脂「3001D」100質量部に対して、PTFEとして「FA500H」を0.7質量部、グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤「S2200」を5質量部、カルボジイミド化合物「LA−1」を2.2質量部、結晶核剤「LAK403」を2.2質量部ドライブレンドして、押出機の根元供給口から供給し、バレル温度180℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量20kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出しを実施した。また、ガラス繊維「CSG3J−830」45質量部を、シリンダ内にサイド供給した。押出機先端から吐出された樹脂をペレット状にカッティングして、樹脂組成物のペレットを得た。
【0051】
実施例2〜19、および比較例1〜11
各原料の種類、およびそれらの配合量を表1、2に示したように変更し、実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。なお実施例10の樹脂組成物は結晶核剤が含有されておらず、各種の試験片を得る際の金型内での結晶化が困難であるため、各種の試験片は、金型表面温度15℃で成形した後、105℃の熱風オーブンにて1時間処理し、結晶化させたものとした。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
実施例1〜19においては、ポリ乳酸樹脂、ガラス繊維、PTFEの配合量や種類が全て本発明の範囲内であったため、強度、弾性率、破断歪、耐衝撃性、耐熱性、耐久性(耐湿熱性)に優れた結果が得られた。
実施例1〜7および10〜19においては、グリシジルメタクリレート変性耐衝撃剤とカルボジイミド化合物がともに含有されていたので、耐久性(耐湿熱性)が顕著に優れた結果となった。
実施例4〜6においては、ポリ乳酸樹脂としてD体含有量が0.6%以下のものを用いたため、成形性に特に優れた結果となった。
実施例18および19においては、難燃剤が含有されていたため、V−0〜V−1のUL難燃性レベルを得ることができた。また、粉体である難燃剤を含有しているにも関わらず、曲げ強度、曲げ破断歪、曲げ強度(薄肉)、耐衝撃性は、要求される値を満足するものであった。
【0055】
比較例1〜5においては、使用したガラス繊維が本発明の範囲外のものであったため、曲げ強度、曲げ破断歪、曲げ強度(薄肉)、耐衝撃性に劣る結果となった。また、耐久性(耐湿熱性)も改善の余地を残した。
比較例6においては、ガラス繊維の含有量が過少であったため、曲げ強度、曲げ弾性率、曲げ強度(薄肉)、耐衝撃性、耐熱性に劣る結果となった。比較例7においては、ガラス繊維の含有量が過多であったため、曲げ破断歪、耐久性(耐湿熱性)に劣る結果となった。
比較例8においては、PTFEの含有量が過小であったため、曲げ強度、曲げ破断歪、曲げ強度(薄肉)、耐衝撃性に劣る結果となった。また耐久性(耐湿熱性)も改善の余地を残した。比較例9においては、PTFEの含有量が過大であったため、押出時にシリンダ内で網目構造が顕著に発達しスクリューの回転負荷が定格範囲を超えてしまった為、押出しができなかった。比較例10においては、PTFEの含有量が過小であったため、比較例8と同様に、曲げ強度、曲げ破断歪、曲げ強度(薄肉)、耐衝撃性、耐久性(耐湿熱性)に劣る結果となった他、難燃剤が60質量部含有されているにも関わらず、難燃性に劣る結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂100質量部と、ガラス繊維15〜110質量部と、ポリ四フッ化エチレン0.2〜2.0質量部とを含有し、前記ガラス繊維は、繊維断面の長径/短径が1.5〜8であり、繊維断面の長径が20μm以下であり、繊維断面の短径が5μm以下であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、ガラス繊維の含有量が35〜100質量部であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項3】
ポリ乳酸樹脂が、D−乳酸成分の割合が0.6モル%以下の樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項4】
ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤を2〜13質量部含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項5】
ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、カルボジイミド化合物を0.3〜13質量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項6】
ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、結晶核剤を0.05〜13質量部含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項7】
ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、難燃剤を10〜110質量部含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。



【公開番号】特開2013−79299(P2013−79299A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218822(P2011−218822)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】