説明

ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物およびその成形品

【課題】実用上十分な耐衝撃強度等の機械的強度をポリ乳酸樹脂に付与することによって、耐衝撃性等の機械的特性、耐熱性等に優れるポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂(A)20〜95重量部と、ゴム強化樹脂(B)5〜80重量部とを含むポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(ただし、ポリ乳酸樹脂(A)とゴム強化樹脂(B)との合計で100重量部)であって、該ゴム強化樹脂(B)は、ゴム含有グラフト共重合体(b−1)30〜95重量%と硬質(共)重合体(b−2)5〜70重量%とを含み、かつ、硬質(共)重合体(b−2)に(メタ)アクリル系樹脂成分を含有している。この(メタ)アクリル系樹脂成分を構成する単量体としては、メタクリル酸エステルおよび/又はアクリル酸エステルが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性等の機械的特性や、耐熱性等に優れる成形品を提供し得るポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物と、このポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、地球温暖化の要因として、大気中における炭酸ガス濃度の上昇が指摘され、地球規模での炭酸ガス排出規制の必要性が唱えられている。炭酸ガス排出源としては、生物の呼吸、バクテリアによる腐敗・醗酵等も有るが、燃焼による部分が大きく、現状の大気中の炭酸ガス濃度上昇現象は、人間による産業革命以後の石油資源を浪費した経済活動によってもたらされたものと言って過言ではない。
【0003】
ところで、近年、カーボンニュートラルとして、炭酸ガスを吸収、固定する植物資源の有効活用が注目されている。即ち、植生によって、炭酸ガスの吸収を図る一方で、将来枯渇が予想される石油資源の代替を図るというものである。
【0004】
プラスチックにおいても、従来の石油を基礎原料とするものから、バイオマスを利用したプラスチックが開発され、当初、これらは生分解性樹脂として注目を集めたが、最近では植物系プラスチックとしてその意義が見直されている。
【0005】
こうした生分解性樹脂の中にあって、物性と量産化の可能性からポリ乳酸樹脂(PLA)の実用化が期待されてきたが、ポリ乳酸樹脂では、既存の石油系プラスチックに比べて機械的強度、特に耐衝撃強度に劣るという欠点が有り、早くからその改良が望まれてきた。
【0006】
一般に、プラスチックの耐衝撃強度を改良する為には、ゴム質重合体をブレンドする方法が行われており、ポリ乳酸樹脂に対しても同様の取り組みが行われてきた。
【0007】
例えば、特許文献1「特開平9−316310号公報」、特許文献2「特開2001−123055号公報」には、変成オレフィン化合物を添加する方法が、特許文献3「特開平11−140292号公報」には、架橋ポリカーボネートを配合する方法が示されているが、いずれも既存の汎用プラスチックと比較すると、物性改良効果は十分とは言えない。
【0008】
特許文献4「特開2002−37987号公報」には、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)へのグラフト重合体(AES樹脂)の配合が示されているが、アイゾット衝撃強度で示される耐衝撃強度の改良効果は十分とは言えない。
【0009】
特許文献5「特開2003−286396号公報」には、多層構造重合体として、グラフト重合体の配合効果が示されている。ここでは多層構造重合体の最外層が不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位を含有する重合体と規定しており、具体的にはゴム質重合体にメタクリル酸メチルなどのグラフトした重合体を示唆している。この技術では、確かに改質効果は高く評価されるものの、これら改質剤はいずれも高価であるため、工業的な生産には不適当である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−316310号公報
【特許文献2】特開2001−123055号公報
【特許文献3】特開平11−140292号公報
【特許文献4】特開2002−37987号公報
【特許文献5】特開2003−286396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した従来技術における課題を解決し、実用上十分な耐衝撃強度等の機械的強度をポリ乳酸樹脂に付与することによって、耐衝撃性等の機械的特性、耐熱性等に優れる成形品を得ることができるポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物と、このポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、従来の技術の検証・改良に鋭意努力した結果、ポリ乳酸樹脂に(メタ)アクリル系樹脂成分を含有するゴム強化樹脂を配合する事によって、非常に高い耐衝撃強度が得られる事を発見し、本発明に至った。
【0013】
即ち、本発明の要旨は、ポリ乳酸樹脂(A)20〜95重量部と、ゴム強化樹脂(B)5〜80重量部とを含むポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(ただし、ポリ乳酸樹脂(A)とゴム強化樹脂(B)との合計で100重量部)であって、該ゴム強化樹脂(B)は、ゴム含有グラフト共重合体(b−1)30〜95重量%と硬質(共)重合体(b−2)5〜70重量%とを含み(ただし、ゴム含有グラフト共重合体(b−1)と硬質(共)重合体(b−2)との合計で100重量%)、かつ、硬質(共)重合体(b−2)中に(メタ)アクリル系樹脂成分を含有していることを特徴とするポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物、に存する。
【0014】
本発明において、硬質(共)重合体(b−2)中に(メタ)アクリル系樹脂成分を20〜100重量%含有していることが好ましく、また、該硬質(共)重合体(b−2)中の(メタ)アクリル系樹脂成分を構成する単量体としては、メタクリル酸エステルおよび/又はアクリル酸エステルが好ましい。
【0015】
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸」と「メタクリル酸」の総称であり、「硬質(共)重合体」は「硬質重合体(ホモポリマー)」と「硬質共重合体(コポリマー)」との総称である。
【0016】
本発明の別の要旨は、このような本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品、に存する。
【0017】
なお、本発明において、後述のポリ乳酸樹脂(A)や硬質(共)重合体(b−2)、ゴム含有グラフト共重合体(b−1)のアセトン可溶分、硬質(共)重合体(b−2)のアセトン可溶分、の重量平均分子量(Mw)は、いずれも、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にてテトラヒドロフラン(THF)に溶解して測定したものをポリスチレン(PS)換算で示したものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物は、これを成形して得られる成形品の耐衝撃強度等の機械的強度、剛性、耐熱性のバランスが良く、各種筐体や構造部材としての用途に適した素材である。
【0019】
本発明によれば、このように実用的なポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を提供することにより、植物系樹脂であるポリ乳酸樹脂の用途を広げ、カーボンニュートラルの理念の実践を促進して、環境負荷の低減に貢献することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
[ポリ乳酸樹脂(A)]
本発明の樹脂組成物に適用されるポリ乳酸樹脂(A)は、乳酸を直接脱水縮重合する方法、或いはラクチドを開環重合する方法等といった、公知の手段で得る事ができる。
【0022】
ポリ乳酸樹脂にはL体、D体、DL体の3種の光学異性体が存在し、市販されているポリ乳酸樹脂としては、L体の純度が100%に近いものがあるが、本発明で用いるポリ乳酸樹脂(A)は、特にその純度を規定するものではなく、また、本発明の効果を損なわない範囲で、他の共重合成分を含んだ共重合体でも構わない。
【0023】
ポリ乳酸樹脂(A)に含まれる他の共重合成分としては、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物;シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類などを挙げることができる。このような共重合成分の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)中の全単量体成分中通常30モル%以下の含有量とするのが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0024】
ポリ乳酸樹脂(A)の分子量や分子量分布については、実質的に成形加工が可能であれば特に制限されるものではないが、重量平均分子量としては、通常1万以上、好ましくは5万以上、さらに10万以上であることが望ましい。ポリ乳酸樹脂(A)の重量平均分子量の上限については特に制限はないが、通常40万以下である。
【0025】
なお、分子量の測定はGPC(溶媒THF:テトラヒドロフラン)にて測定することができるが、ポリ乳酸がペレット状の場合、THFに溶解し難い場合があり、その場合は、クロロホルムに溶解させた後、メタノールを用いてポリマー成分を析出させ、そのポリマー成分を乾燥させたものをTHFに溶解させて可溶分の分子量を測定することができる。また、必要に応じて加温するなどして溶解させることもできる。
【0026】
本発明において、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂(A)の配合量は、ポリ乳酸樹脂(A)とゴム強化樹脂(B)との合計100重量部に対して20〜95重量部の範囲であるが、好ましくは30〜95重量部、より好ましくは40〜90重量部であることが、カーボンニュートラルの観点や、耐衝撃性改善の点において好ましい。この範囲よりも、ポリ乳酸樹脂(A)の配合量が少ないとポリ乳酸樹脂を有効利用する本発明の目的を達成し得ず、多いと耐衝撃性に優れたポリ乳酸系熱可塑性樹脂成形品が得られなくなる。
【0027】
なお、ポリ乳酸樹脂(A)は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
このようなポリ乳酸樹脂の具体例としては、例えば、市販品の三井化学(株)社製「レイシア」、Cargill−Dow社製「Nature Works」、三菱樹脂(株)社製「エコロージュ」などが挙げられ使用することができる。
【0028】
[ゴム強化樹脂(B)]
本発明で使用するゴム強化樹脂(B)は、ゴム質重合体に硬質(共)重合体がグラフト重合したゴム含有グラフト共重合体(b−1)30〜95重量%と硬質(共)重合体(b−2)5〜70重量%((b−1)と(b−2)の合計100重量%)とを含み、少なくとも硬質(共)重合体(b−2)中に(メタ)アクリル系樹脂成分を含有するものである。
【0029】
〈ゴム含有グラフト共重合体(b−1)〉
本発明で使用するゴム含有グラフト共重合体(b−1)とは、一般にABS、ASA、AES、MBS等で表現される、ゴム質重合体に硬質(共)重合体がグラフト重合した構造を有するものである。
【0030】
ゴム含有グラフト共重合体(b−1)を形成するゴム質重合体としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン/ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル/ブタジエン共重合体等のブタジエン系ゴムや、スチレン/イソプレン共重合体等の共役ジエン系ゴム;ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、エチレン/プロピレン共重合体等のオレフィン系ゴム;ポリオルガノシロキサン等のシリコン系ゴム等が挙げられ、これらは1種を単独で、或いは2種以上を混合して使用することができる。なお、これらゴム質重合体は、モノマーから使用することができ、ゴム質重合体の構造がコア/シェル構造をとっても良い。例えば、ポリブタジエンをコアにして、アクリル酸エステルをシェルにしたゴム質重合体とすることもできる。
【0031】
上記のゴム質重合体のゲル含有量は、好ましくは50〜99重量%、より好ましくは60〜95重量%で、特に好ましくは70〜85重量%である。ゲル含有量がこの範囲内であれば、得られるポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の特性、特に、耐衝撃強度を向上させることができる。
【0032】
なお、ゴム質重合体のゲル含有量を測定するには、具体的には、秤量したゴム質重合体を、適当な溶剤に室温(23℃)で20時間かけて溶解させ、次いで、100メッシュ金網で分取して、金網上に残った不溶分を60℃で24時間乾燥した後秤量する。分取前のゴム質重合体に対する不溶分の割合(重量%)を求め、ゴム質重合体のゲル含有量とする。ゴム質重合体の溶解に用いる溶剤としては、例えば、ポリブタジエンではトルエンを、ポリブチルアクリレートではアセトンを用いると測定が行いやすい。
【0033】
また、ゴム質重合体の粒子径は、特に限定されるものではないが、0.1〜1μmが好ましく、0.2〜0.5μmである事がより好ましい。なお、ゴム質重合体の平均粒子径は、グラフト重合前であれば、光学的な方法で測定することができる。また、グラフト重合した後は、染色剤によりゴム質重合体を染色した後に透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて平均粒子径を算出することができる。
【0034】
ゴム含有グラフト共重合体(b−1)は、好ましくは上記のゴム質重合体40〜80重量%の存在下、グラフト重合可能な単量体成分60〜20重量%をグラフト重合させて得ることができる(ただし、ゴム質重合体と単量体混合物との合計で100重量%)。ここで、ゴム質重合体が40重量%未満では、得られるポリ乳酸系熱可塑性樹脂成形品の耐衝撃性が得られず、また、80重量%を超えると耐衝撃性や流動性などの低下を招くおそれがある。
【0035】
グラフト重合可能な単量体成分としては、シアン化ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体、メタクリル酸エステル系単量体、アクリル酸エステル系単量体、マレイミド化合物が挙げられ、上記単量体はそれぞれ、1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0036】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリルニトリル等が挙げられ、特にアクリロニトリルが好ましい。
また、芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
メタクリル酸エステル系単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチルおよびこれらの誘導体等が挙げられ、この中でも特にメタクリル酸メチルが好ましい。
アクリル酸エステル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチルおよびこれらの誘導体等が挙げられ、この中でも特にアクリル酸メチルが好ましい。
マレイミド化合物としては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
【0037】
また、場合により官能基により変性された単量体を含んでもよく、例えば、不飽和カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられる。これらは、それぞれ1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。その使用割合は単量体混合物中100重量%に対して30重量%以下、特に10重量%以下であることが好ましい。
【0038】
ゴム含有グラフト共重合体(b−1)のグラフトする単量体成分としては、上記例示単量体のうち、特にシアン化ビニル系単量体および芳香族ビニル系単量体が好ましく、シアン化ビニル系単量体としてはアクリロニトリルが、芳香族ビニル系単量体としては、スチレンが、特に得られるポリ乳酸系熱可塑性樹脂成形品の耐衝撃性をさらに向上させる点から好ましい。この場合、シアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体の重量組成比は、20/80〜35/65の範囲が好ましく、より好ましくは25/75〜30/70である。この範囲外では分散性や熱安定性が低下する。
【0039】
なお、ゴム含有グラフト共重合体(b−1)のアセトン可溶分の重量平均分子量は、50,000〜600,000の範囲が好ましく、より好ましくは50,000〜550,000、さらに好ましくは100,000〜450,000の範囲である。アセトン可溶分の重量平均分子量がこの範囲より低い場合には、得られるポリ乳酸系熱可塑性樹脂成形品の耐衝撃性が不足し、また、この範囲を超えた場合にはポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の成形加工性が低下する。なお、アセトン可溶分とは、ゴム質重合体に単量体をグラフト重合した際に生じるゴム質重合体にグラフト重合していない単量体の重合体生成物に相当するものである。
【0040】
また、ゴム含有グラフト共重合体(b−1)のグラフト率((アセトン不溶分重量/ゴム質重合体重量−1)×100)は、15〜120重量%が好ましく、さらに20〜85重量%がより好ましい。グラフト率が15重量%より低い場合には、ゴム質重合体の分散性の低下や、耐衝撃強度の低下を生じ、また、グラフト率が120重量%より高い場合には、耐衝撃強度や成形性が低下する傾向にある。なお、グラフトしている共重合体は、ゴム質重合体の外部のみならず内部にオクルードした構造であっても良い。
【0041】
グラフト重合は、公知の乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合により行うことができ、これらの重合方法を組み合わせた方法でもよい。ゴム含有グラフト共重合体(b−1)としては、重合方法や成分組成の異なるゴム含有グラフト共重合体の2種以上を混合して用いても良い。
【0042】
〈硬質(共)重合体(b−2)〉
本発明の硬質(共)重合体(b−2)に用いられる単量体成分としては、先のゴム含有グラフト共重合体(b−1)で紹介した単量体の1種又は2種以上を用いることができる。
硬質(共)重合体(b−2)の重量平均分子量は、30,000〜300,000の範囲が好ましく、さらに好ましくは50,000〜250,000の範囲である。硬質共重合体(b−2)の重量平均分子量がこの範囲よりも低い場合には、得られるポリ乳酸系熱可塑性樹脂成形品の耐衝撃性が不足し、また、この範囲を超えた場合には、成形加工性が低下する。
【0043】
硬質(共)重合体(b−2)を配合することにより、耐熱性や流動性等の特性を改善することができるが、硬質(共)重合体(b−2)の配合量がゴム含有グラフト共重合体(b−1)と硬質(共)重合体(b−2)との合計100重量%に対して70重量%を超えるとゴム強化樹脂(B)中のゴム含有量が低減することにより、耐衝撃強度が低下する。このため、硬質(共)重合体(b−2)の配合量は、ゴム含有グラフト共重合体(b−1)と硬質(共)重合体(b−2)との合計100重量%中に5〜70重量%、好ましくは5〜60重量%、より好ましくは5〜50重量%とする。
【0044】
また、硬質(共)重合体(b−2)を配合する場合、ゴム含有グラフト共重合体(b−1)と硬質(共)重合体(b−2)を合わせたアセトン可溶分の重量平均分子量が、先のゴム含有グラフト共重合体(b−1)の説明で示したように50,000〜600,000の範囲、特に50,000〜550,000の範囲、とりわけ100,000〜450,000の範囲であることが好ましい。アセトン可溶分の重量平均分子量がこの範囲より低い場合には、得られるポリ乳酸系熱可塑性樹脂成形品の耐衝撃性が不足し、また、この範囲を超えた場合にはポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の成形加工性が低下する。
【0045】
なお、硬質(共)重合体(b−2)は、1種を単独で用いても良く、異なる組成、分子量のものを2種以上混合して用いても良い。
【0046】
〈ゴム含有量〉
本発明においては、ゴム強化樹脂(B)中のゴム含有量、即ち、ゴム含有グラフト共重合体(b−1)と硬質(共)重合体(b−2)との混合物中のゴム質重合体の含有量は5〜80重量%、特に10〜70重量%の範囲となるように調整することが好ましい。この範囲よりもゴム強化樹脂(B)中のゴム質重合体の含有量が低い場合には、十分な耐衝撃性が得られず、また、この範囲より多くても返って衝撃強度は低下する。なお、ゴム強化樹脂(B)中のゴム質重合体の含有量は、赤外分光測定装置を使用することにより測定することができる。
【0047】
〈(メタ)アクリル系樹脂成分〉
(メタ)アクリル系樹脂成分は、本発明で使用するゴム強化樹脂(B)の、硬質(共)重合体(b−2)に好ましくは20〜100重量%の割合で含有されるが、このように、(メタ)アクリル系樹脂成分が、ゴム含有グラフト共重合体(b−1)のグラフト成分よりも、硬質(共)重合体(b−2)中に含まれることにより耐衝撃性の向上効果がより一層有効に発揮される。
【0048】
このように、(メタ)アクリル系樹脂成分を含む硬質(共)重合体(b−2)を用いることにより、本発明で使用するゴム強化樹脂(B)中には、(メタ)アクリル系樹脂成分が5〜70重量%、特に5〜60重量%、とりわけ5〜50重量%含有されることが好ましい。ゴム強化樹脂(B)中の(メタ)アクリル系樹脂成分含有量が5重量%未満であれば、ゴム強化樹脂(B)を配合することによる耐衝撃性の改善効果を十分に発揮させることができない。また、ゴム強化樹脂(B)中の(メタ)アクリル系樹脂成分が70重量%を超えると耐衝撃性や成形性が低下するため好ましくない。
【0049】
(メタ)アクリル系樹脂成分としては、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル系単量体の重合成分、或いはメタクリル酸エステル系単量体とアクリル酸メチル等のアクリル酸エステル系単量体および/又は共重合可能なその他の単量体との共重合成分が好ましいが、メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルの各単量体の重量比率は100/0〜50/50が好ましく、さらには99/1〜80/20の範囲であることが好ましい。アクリル酸エステルがこの範囲よりも多くなると得られるポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の熱安定性および耐熱性が損なわれる傾向にある。
【0050】
メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合体の具体例としては、例えば、市販品の(株)クラレ社製「パラペットG」や、三菱レイヨン(株)社製「アクリペットVH」、「アクリペットMD」などが挙げられ、従って、これらを硬質(共)重合体(b−2)として本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物に配合することにより、ゴム強化樹脂(B)中に(メタ)アクリル系樹脂成分を含有させることができる。
【0051】
[その他の成分]
本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物には、上記ポリ乳酸樹脂(A)、ゴム強化樹脂(B)、即ち、ゴム含有グラフト共重合体(b−1)および必要に応じて配合される硬質(共)重合体(b−2)の他、更に各種の添加剤やその他の樹脂を配合することができる。この場合、各種添加剤としては、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、安定剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤(顔料、染料など)、炭素繊維やガラス繊維、タルクやウォラストナイト、炭酸カルシウム、シリカなどの充填剤、難燃剤(ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、アンチモン化合物など)、ドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤、シリコ−ンオイル、カップリング剤などの1種又は2種以上が挙げられる。
【0052】
また、その他の樹脂としては、HIPS樹脂、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂などのゴム強化スチレン系樹脂、その他に、AS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂などが挙げられる。また、これらを2種類以上ブレンドしたものでも良く、さらに、相溶化剤や官能基などにより変性された上記樹脂を配合してもよい。
【0053】
[ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の製造および成形]
本発明のポリ乳酸系熱可塑性性樹脂組成物をペレット化する方法としては、特に制限はなく、例えば、二軸押出機、バンバリーミキサー、加熱ロール等を用いることができるが、中でも二軸押出機による溶融混練が好ましく、必要に応じて、サイドフィードなどにより樹脂やその他の添加剤を配合することもできる。
【0054】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、シート成形、真空成形などの通常の成形方法によって、各種成形品に成形することができるが、その成形法としては特に射出成形が好適である。
【0055】
得られる成形品の用途としては特に制限はないが、自動車関連では、トランク内の敷板、タイヤカバー、フロアボックスなど、特に内装部品に好適に用いることができる。
【0056】
なお、本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の各成分を調製する際、或いはこれらの成分を混合、混練、成形する際などに発生する樹脂屑等は、そのままの状態もしくは、場合によって破砕して溶融再生処理に供することができる。この場合、成形中に回収することも可能であるが、別途回収しておいて、上述のペレットの製造工程において、原料として混合使用することも可能である。
【実施例】
【0057】
以下に、合成例、実施例、および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら制限されるものではない。
なお、以下において、「部」は「重量部」を意味するものとする。
【0058】
重量平均分子量は、東ソー(株)製:GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー、溶媒;THF)を用いた標準PS(ポリスチレン)換算法にて測定した。
ゴム質重合体の平均粒子径は、日機装(株)製:Microtrac Model:9230UPAを用いて動的光散乱法により求めた。
単量体の重量組成比率は、(株)堀場製作所製:FT−IRを使用して求めた。
【0059】
[ポリ乳酸樹脂]
ポリ乳酸樹脂(a−1):生分解性ポリマー(L体/D体=98/2(重量比)、
重量平均分子量=140,000、融点=171℃)
【0060】
[ゴム強化樹脂]
[ゴム含有グラフト共重合体(b−1)]
合成例1:ゴム含有グラフト共重合体(b−1−1)の製造
以下の配合にて、乳化重合法によりゴム含有グラフト共重合体を合成した。
〔配合〕
スチレン(ST) 25部
アクリロニトリル(AN) 10部
ポリブタジエンラテックス 65部(固形分として)
不均化ロジン酸カリウム 1部
水酸化カリウム 0.03部
ターシャリードデシルメルカプタン(t−DM) 0.04部
クメンハイドロパーオキサイド 0.3部
硫酸第一鉄 0.007部
ピロリン酸ナトリウム 0.1部
結晶ブドウ糖 0.3部
蒸留水 190部
【0061】
オートクレーブに蒸留水、不均化ロジン酸カリウム、水酸化カリウムおよびポリブタジエンラテックス(ゲル含有量80重量%、平均粒子径0.3μm)を仕込み、60℃に加熱後、硫酸第一鉄、ピロリン酸ナトリウム、結晶ブドウ糖を添加し、60℃に保持したままST、AN、t−DMおよびクメンハイドロパーオキサイドを2時間かけて連続添加し、その後70℃に昇温して1時間保って反応を完結した。かかる反応によって得たABSラテックスに酸化防止剤を添加し、その後硫酸により凝固させ、十分水洗後、乾燥してABSグラフト共重合体(b−1−1)を得た。
【0062】
合成例2:ゴム含有グラフト共重合体(b−1−2)の製造
合成例1の原料配合において、ゴム質重合体としてゲル含有量97重量%であるポリブタジエン(平均粒子径0.3μm)50部(固形分として)を用い、単量体としてスチレン37部とアクリロニトリル13部を反応させたこと以外は、合成例1と同様にしてグラフト重合を行い、ABSグラフト共重合体(b−1−2)を得た。
【0063】
合成例3:ゴム含有グラフト共重合体(b−1−3)の製造
合成例1の原料配合において、ゴム質重合体としてポリブチルアクリレート(ゲル含有量65%、平均粒子径0.34μm)60部(固形分として)を用い、単量体としてメタクリル酸メチル(MMA)36部、アクリル酸メチル(MA)4部を反応させたこと以外は、合成例1と同様にグラフト重合を行いグラフト共重合体(b−1−3)を得た。
【0064】
合成例1,2,3で製造したゴム含有グラフト共重合体のゴム含有量、単量体の重量組成比率、グラフト率、およびアセトン可溶分の重量平均分子量を測定したところ、以下の通りであった。
ゴム含有グラフト共重合体(b−1−1):ゴム含有量=66.2重量%
AN/ST=28/72
グラフト率=40重量%
重量平均分子量(Mw)=154,000
ゴム含有グラフト共重合体(b−1−2):ゴム含有量=52.4重量%
AN/ST=26/74
グラフト率=57重量%
重量平均分子量(Mw)=145,000
ゴム含有グラフト共重合体(b−1−3):ゴム含有量=62.3重量%
MMA/MA=90/10
グラフト率=35重量%
重量平均分子量(Mw)=70,000
【0065】
なお、ゴム含有グラフト共重合体(b−1−4)として以下の市販品を用いた。
ゴム含有グラフト共重合体(b−1−4):三菱レイヨン社製「メタブレン S−20
01」(ゴム質重合体(シリコーン/アクリル酸ブチルからな
る複合ゴム)にメタクリル酸メチルなどがグラフト重合してい
る共重合体。ゴム含有量=約65重量%)
【0066】
[硬質(共)重合体]
合成例4:硬質(共)重合体(b−2−1)の製造
以下のように、懸濁重合法により硬質(共)重合体を合成した。
窒素置換した反応器に水120部、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.002部、ポリビニルアルコール0.5部、アゾイソブチルニトリル0.3部、t−DM0.5部と、アクリロニトリル25部、スチレン25部、メタクリル酸メチル50部からなる単量体混合物を使用し、スチレンの一部を逐次添加しながら開始温度60℃から5時間昇温加熱後、120℃に到達させた。更に、120℃で4時間反応した後、重合物を取り出し、硬質(共)重合体(b−2−1)を得た。
【0067】
合成例5:硬質(共)重合体(b−2−2)の製造
アクリロニトリル25部、スチレン20部、α−メチルスチレン(AMST)35部、N−フェニルマレイミド(NPMI)20部からなる単量体混合物を使用し、スチレン、α−メチルスチレン、N−フェニルマレイミドの一部を逐次添加したこと以外は合成例4と同様にして重合を行って、硬質(共)重合体(b−2−2)を得た。
【0068】
合成例6:硬質(共)重合体(b−2−3)の製造
メタクリル酸メチル98部およびアクリル酸メチル2部からなる単量体混合物を加えたこと以外は合成例4と同様にして重合を行って、硬質(共)重合体(b−2−3)を得た。
【0069】
合成例4,5,6で製造した硬質(共)重合体の単量体の重量組成比率、および重量平均分子量(Mw)を測定したところ、以下の通りであった。
硬質(共)重合体(b−2−1):AN/ST/MMA=23/28/49
重量平均分子量(Mw)=113,000
硬質(共)重合体(b−2−2):AN/(ST+AMST)/NPNI
=24/57/19
重量平均分子量(Mw)=150,000
硬質(共)重合体(b−2−3):MMA/MA=98/2
重量平均分子量(Mw)=136,000
【0070】
[ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造および評価]
上記の各成分を表1に示す配合割合で混合し、更に、安定剤として、日清紡(株)社製「カルボジライトHMV−8CA」0.3部と共に混合した後、200〜240℃で2軸押出機(日本製鋼所製「TEX−30α」)にて溶融混合し、ペレット化することにより、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物のペレットを作成した。
【0071】
これらの樹脂ペレットを2オンス射出成形機(東芝(株)製)で220〜250℃にて成形し、耐衝撃性(シャルピー衝撃強さ)、曲げ強度、曲げ弾性率、耐熱性(荷重たわみ温度)を下記方法で測定した。
シャルピー衝撃強さ(KJ/m):ISO 179(常温)
曲げ強度(MPa):ISO 178(常温)
曲げ弾性率(MPa):ISO 178(常温)
荷重たわみ温度(℃):ISO 75(測定荷重0.45MPa)
【0072】
[実施例および比較例]
表1に、実施例1〜6、比較例1〜5を示した。
【表1】

【0073】
[考察]
表1から明らかなように、本発明の請求項の要件を満たす実施例1〜6のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、曲げ特性、耐熱性の物性バランスに優れ、特に、耐衝撃性が優れている。
これに対して、比較例1のポリ乳酸樹脂単独のものは耐衝撃強度が低い。ゴム含有グラフト共重合体を配合したものでも、(メタ)アクリル系樹脂成分を含まない比較例2や、(メタ)アクリル系樹脂成分を含むものであっても、硬質(共)重合体のみでゴム含有グラフト共重合体を含まない比較例3では、耐衝撃強度の若干の向上はあるものの、その改善効果は著しく低い。
また、(メタ)アクリル系樹脂成分を含むものであっても硬質(共)重合体を含まない比較例4、5でも、耐衝撃強度の向上効果は得られるが、実施例1〜6に比べて劣るものである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品は、優れた耐衝撃性等の機械強度を有し、機械的特性や耐熱性のバランスにも優れ、例えば、自動車関連の用途では、トランク内の敷板、タイヤカバー、フロアボックスなど、車両・船舶などの特に内装部品など、市場のニーズに合わせて多彩な用途に使用することができ、その工業的有用性は非常に高い上に、環境負荷の低減にも有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂(A)20〜95重量部と、ゴム強化樹脂(B)5〜80重量部とを含むポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(ただし、ポリ乳酸樹脂(A)とゴム強化樹脂(B)との合計で100重量部)であって、
該ゴム強化樹脂(B)は、ゴム含有グラフト共重合体(b−1)30〜95重量%と硬質(共)重合体(b−2)5〜70重量%とを含み、かつ、硬質(共)重合体(b−2)中に(メタ)アクリル系樹脂成分を含有していることを特徴とするポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
該硬質(共)重合体(b−2)中の(メタ)アクリル系樹脂成分の含有量が20〜100重量%であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
該(メタ)アクリル系樹脂成分を構成する単量体が、メタクリル酸エステルおよび/又はアクリル酸エステルであることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。

【公開番号】特開2011−117001(P2011−117001A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58843(P2011−58843)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【分割の表示】特願2004−330725(P2004−330725)の分割
【原出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【出願人】(502163421)ユーエムジー・エービーエス株式会社 (116)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【Fターム(参考)】