説明

ポリ乳酸系積層シート

【課題】本発明はかかる従来技術の背景に鑑み、耐衝撃性、隠蔽性、耐ブロッキング性、熱圧着性に優れ、さらには環境低負荷性を有し、特にクレジットカードやキャッシュカードなどの磁気ストライプカードやICカード、ギフトカードなどの使い捨てカード用として好適なポリ乳酸系積層シートを提供することにある。
【解決手段】層Aを少なくとも一方の最外層に有し、層Bを内層に有する、少なくとも3層からなる積層シートであり、
層Aは、ポリ乳酸とポリブチレンサクシネート系樹脂とを含有し、さらに層Aの全成分100質量%においてポリ乳酸が60質量%以上97.5質量%以下であり、かつ、層Aの厚みの割合Xaが、積層シートの全体厚さ100%に対して10〜40%であり、
層Bは、ポリ乳酸とポリブチレンサクシネート系樹脂とを含有し、さらに層Bの全成分100質量%においてポリ乳酸が90質量%以上100質量%未満であり、
層Bの全成分におけるポリ乳酸の質量割合Pbが、層Aの全成分におけるポリ乳酸の質量割合Paよりも大きく、
白色度が80%以上であり、さらに結晶融解熱量ΔHmが15J/g以下であることを特徴とするポリ乳酸系積層シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、隠蔽性、耐ブロッキング性、熱圧着性に優れ、さらには環境低負荷性を有し、特にクレジットカードやキャッシュカードなどの磁気ストライプカードやICカード、ギフトカードなどの使い捨てカード用として好適なポリ乳酸系積層シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の炭酸ガス濃度増加による地球温暖化問題が世界的な問題となりつつあり、各産業分野においても、大気中への炭酸ガス排出量を削減する技術の開発が盛んに行われている。プラスチック製品の分野においては、従来、汎用の石油由来原料から製造されたプラスチックが使用後に焼却されるなどして大気中へ炭酸ガスとして放出されてきたが、近年、本来大気中の炭素源(炭酸ガス)に由来する植物由来原料のプラスチックが注目されている。中でも、透明性に優れ、コスト面でも比較的有利なポリ乳酸の実用化に向けた研究開発が盛んである。
【0003】
特許文献1および2には、カードにしたときの断裁性、エンボス文字刻印、引張強さ、衝撃強さ、耐熱性等に優れた生分解性カードが提供され、その技術手段としてはポリ乳酸と特定の生分解性脂肪族ポリエステルを主成分とするコア層の両表面に、ポリ乳酸および特定の生分解性脂肪族ポリエステルを主成分とするオーバー層を有する積層体が開示されている。また特許文献3では、さらにイソシアネート末端を有する脂肪族ポリカルボジイミド化合物を配合し、耐久性と透明性を向上させる方法が示され、さらに特許文献4では、ポリ乳酸と、特殊な高分子量脂肪族ポリエステルを必須成分とするオーバーレイ層を積層した証明用生分解性カードに使用可能な基材を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−141955号公報
【特許文献2】特開2003−334913号公報
【特許文献3】WO2006/104013号公報
【特許文献4】特開平10−157041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の通り特許文献1、2は、ポリ乳酸と特定の生分解性脂肪族ポリエステルを主成分とするコア層の両表面に、ポリ乳酸と特定の生分解性脂肪族ポリエステルを主成分とするオーバー層を有する積層体であり、使用するシートの延伸・熱固定条件またはコア層とオーバー層を熱プレスにて張り合わせる際の条件において基材の結晶化度を高めることにより耐熱性を付与しているが、工程が煩雑であったり、熱プレスにおいてはサイクルタイムが長い・加工条件幅が狭いなど収率が低い問題があり、さらにコア層とオーバー層用にそれぞれ別々のシートを準備する必要があるなど工業的な生産には不向きの技術であった。
【0006】
また特許文献3においてはイソシアネート末端基を有する脂肪族ポリカルボジイミド化合物を使用して反応させることにより耐久性と透明性を向上できるが、部分的な架橋反応も起こるために生分解性が低下しやすい欠点があった。
【0007】
さらに特許文献4においては、ポリ乳酸と特定の生分解性脂肪族ポリエステルを主成分とするコア層の両表面に、ポリ乳酸と特定の生分解性脂肪族ポリエステルを主成分とするオーバー層を有する積層体であるが、コア層とオーバー層中の該生分解性脂肪族ポリエステルの含有量が比較的多く、そのために生分解樹脂中の植物度が低下する懸念があった。
【0008】
これらの理由から、磁気ストライプカード、ICカード、ギフトカードなどの使い捨てカード用に適した植物度の高い生分解性カードの開発が望まれていた。本発明はかかる従来技術の背景に鑑み、耐衝撃性、隠蔽性、耐ブロッキング性、熱圧着性に優れ、さらには環境低負荷性を有し、特にクレジットカードやキャッシュカードなどの磁気ストライプカードやICカード、ギフトカードなどの使い捨てカード用として好適なポリ乳酸系積層シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために次のような手段を採用するものである。
1) 層Aを少なくとも一方の最外層に有し、層Bを内層に有する、少なくとも3層からなる積層シートであり、
層Aは、ポリ乳酸とポリブチレンサクシネート系樹脂とを含有し、さらに層Aの全成分を100質量%としたときのポリ乳酸の質量割合Paが60質量%以上97.5質量%以下であり、かつ、層Aの厚みの割合Xaが、積層シートの全体厚さ100%に対して10〜40%であり、
層Bは、ポリ乳酸とポリブチレンサクシネート系樹脂とを含有し、さらに層Bの全成分を100質量%としたときのポリ乳酸の質量割合Pbが90質量%以上100質量%未満であり、
ポリ乳酸の質量割合Pbが、ポリ乳酸の質量割合Paよりも大きく、
白色度が80%以上であり、さらに結晶融解熱量ΔHmが15J/g以下であることを特徴とするポリ乳酸系積層シート。
2) 前記層A表面の中心線平均粗さRaが、0.1μm以上0.6μm以下であることを特徴とする前記1)に記載のポリ乳酸系積層シート。
3) 枚葉体としたときのカール値が5mm以下であることを特徴とする、前記1)又は2)に記載のポリ乳酸系積層シート。
4) 前記1)〜3)のいずれかに記載のポリ乳酸系積層シートのA層同士を直接積層した積層体。
5) 前記4)に記載の積層体からなるカード。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐衝撃性、隠蔽性、耐ブロッキング性、熱圧着性に優れ、さらには環境低負荷性を有し、特にクレジットカードやキャッシュカードなどの磁気ストライプカードやICカード、ギフトカードなどの使い捨てカード用として好適なポリ乳酸系積層シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のポリ乳酸系積層シートについて説明する。なお、以下において「シート」とは、2次元的な構造物、例えば、フィルム、プレートなどを含む意味に用いる。
【0012】
本発明に用いられるポリ乳酸は、L−乳酸および/またはD―乳酸を主成分とし、乳酸由来の成分が、ポリ乳酸を構成する全ての単量体成分100モル%において70モル%以上100モル%以下のものをいい、実質的にL−乳酸および/またはD―乳酸のみからなるホモポリ乳酸が好ましく用いられる。
【0013】
また本発明に用いるポリ乳酸は、結晶性を有することが好ましい。ポリ乳酸が結晶性を有するとは、該ポリ乳酸を加熱下で十分に結晶化させた後に、適当な温度範囲で示差走査熱量分析(DSC)測定を行った場合、ポリ乳酸成分に由来する結晶融解熱が観測されることを言う。通常、ホモポリ乳酸は、光学純度が高いほど融点や結晶性が高い。ポリ乳酸の融点や結晶性は、分子量や重合時に使用する触媒の影響を受けるが、通常、光学純度が98%以上のホモポリ乳酸では融点が170℃程度であり結晶性も比較的高い。また、光学純度が低くなるに従って融点や結晶性が低下し、例えば光学純度が88%のホモポリ乳酸では融点は145℃程度であり、光学純度が75%のホモポリ乳酸では融点は120℃程度である。光学純度が70%よりもさらに低いホモポリ乳酸では明確な融点は示さず非結晶性となる。
【0014】
本発明に用いるポリ乳酸は、積層シートとして使用する用途によっては、必要な機能の付与あるいは向上を目的として、結晶性を有するホモポリ乳酸と非晶性のホモポリ乳酸を混合することも可能である。この場合、非晶性のホモポリ乳酸の割合は本発明の効果を損ねない範囲で決定すれば良い。また、積層シートとした際に、比較的高い耐熱性を付与したい場合は、使用するポリ乳酸のうち少なくとも1種に光学純度が95%以上のポリ乳酸を含むことが好ましい。
【0015】
本発明に用いるポリ乳酸の質量平均分子量は、通常少なくとも5万以上、好ましくは8万〜40万、さらに好ましくは10万〜30万である。なお、ここでいう質量平均分子量とは、ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)でクロロホルム溶媒にて測定を行い、ポリメチルメタクリレート換算法により計算した分子量をいう。
【0016】
ポリ乳酸の質量平均分子量を少なくとも5万とすることで、該ポリ乳酸を含んだ本発明の積層シートの機械特性を優れたものとすることができ、さらに本発明の積層シートからなるカードなどの加工品の機械特性をも優れたものとすることができる。
【0017】
また、本発明に用いるポリ乳酸は、L−乳酸、D−乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の単量体成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。共重合可能な単量体成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体が挙げられる。なお、上記した共重合成分の中でも、用途に応じて生分解性を有する成分を選択することが好ましい。これら共重合成分は、ポリ乳酸を構成する全ての単量体成分100モル%において0モル%以上30モル%以下含有することが好ましい。
【0018】
ポリ乳酸の製造方法としては、詳細は後述するが、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法などを挙げることができる。
【0019】
本発明の積層シートに用いるポリブチレンサクシネート系樹脂は、耐衝撃性の改良効果が大きくポリ乳酸と相溶性のよいポリブチレンサクシネートやポリブチレンサクシネート・アジペートが挙げられる。
【0020】
本発明に用いるポリブチレンサクシネート系樹脂の質量平均分子量は10万〜30万であることが好ましい。これらポリブチレンサクシネート系樹脂としては、GsPla FZ91PD(商品名 品番;三菱化学)やビオノーレ #3003(商品名 品番;昭和高分子)が挙げられる。製法としては、例えば、ポリブチレンサクシネートは、1−4ブタンジオールとコハク酸を重縮合して得られるが通常は石油由来の原料が用いられる。
本発明の積層シートは、層Aを少なくとも一方の最外層に有し、層Bを内層に有する、少なくとも3層からなる積層シートである。層Aは、積層シートの最外層の両側に設けても、一方の側に設けても構わないが、最も好ましい形態としては、最外層の両層が層Aとなる形態である。層Bは、内層であれば特に限定されず、例えば3層構成であれば中心に位置し、5層構成であれば最外層以外のいずれかの位置に配置される。また積層シートの積層数は、層Aを少なくとも一方の最外層に有し、層Bを内層に有しさえすれば特に限定されないが、好ましくは3層以上8層以下、より好ましくは3層以上5層以下であり、特に好ましくは、層A/層B/層Aの順に、順次3層に積層された積層シートである。
【0021】
本発明の積層シートの層Aは、ポリ乳酸とポリブチレンサクシネート系樹脂とを含有し、層Aの全成分を100質量%としたときのポリ乳酸の質量割合Paが、60質量%以上97.5質量%以下であることが重要である。層Aの全成分100質量%においてポリ乳酸が60質量%未満では(Paが60質量%未満では)、植物度が低下してしまい、ポリ乳酸を使用する利点が薄れてしまう。また層Aの全成分100質量%においてポリ乳酸が97.5質量%より多い場合(Paが97.5質量%より多い場合)、積層シートの耐衝撃性が低下することがある。ポリ乳酸の含有量は(Paは)、好ましくは層Aの全成分100質量%において80質量%以上95質量%以下である。
【0022】
また本発明の積層シートの層Aは、前述のようにポリブチレンサクシネート系樹脂を含有することが重要である。ポリブチレンサクシネート系樹脂は軟質系生分解性樹脂であるがポリ乳酸との相溶性が比較的優れるため、ポリ乳酸中で十分に微分散することで、他の軟質系樹脂に比較してより少量で効果的に耐衝撃性を付与することができる。層Aがポリブチレンサクシネート系樹脂を含有しない場合は、ポリ乳酸の耐衝撃性を改良し、かつ、積層シートの生分解性を維持することは難しい。ポリブチレンサクシネート系樹脂の含有量は、好ましくは層Aの全成分100質量%において2.5質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上20質量%以下である。
【0023】
また本発明の積層シートの層Aは、後述する酸化防止剤等の添加剤や、有機粒子などのその他の成分を含有することができる。これらのその他の成分の含有量は、層Aの全成分100質量%において0.1質量%以上2.0質量%以下である。
【0024】
さらには、本発明の積層シートは、層Aの厚みの割合Xaが、積層シート全体厚さ100%に対して10〜40%であることが重要である。Xaが40%より大きい場合は、シート全体の植物度が低くなる問題がある。また、層Aの厚みの割合Xaが10%より小さい場合は、耐衝撃性の改良効果が得られない。さらに好ましいXaは20〜30%である。Xaは積層シート全体厚さに占める層Aの存在割合を意味する。つまり、層A/層B/層A、と順次3層に積層された積層シートの場合であれば、Xa(%)=[2つの層Aの合計厚み]/[シート全体の厚み]×100、であり、層A/層B/他の層、と順次3層に積層された積層シートの場合であれば、Xa(%)=[1つの層Aの厚み]/[シート全体の厚み]×100、である。
【0025】
本発明の積層シートの層Bは、ポリ乳酸とポリブチレンサクシネート系樹脂とを含有し、層Bの全成分を100質量%としたときのポリ乳酸の質量割合Pbが、90質量%以上100質量%未満であることが重要である。層Bの全成分100質量%においてポリ乳酸が90質量%未満では(Pbが90質量%未満では)、植物度が低下してしまい、ポリ乳酸を使用する利点が薄れてしまう。層Bの全成分100質量%においてポリブチレンサクシネート系樹脂を含まず、ポリ乳酸が100質量%の場合(Pbが100質量%の場合)、積層シートの耐衝撃性が低下する問題がある。より好ましくは層Bの全成分100質量%においてポリ乳酸が(Pbが)、95質量%以上99質量%以下である。
【0026】
また本発明の積層シートの層Bは、前述のようにポリブチレンサクシネート系樹脂を含有することが重要である。前述のようにポリブチレンサクシネート系樹脂は軟質系生分解性樹脂であるがポリ乳酸との相溶性が比較的優れるため、ポリ乳酸中で十分に微分散することで、他の軟質系樹脂に比較してより少量で効果的に耐衝撃性を付与することができる。層Bにポリブチレンサクシネート系樹脂を含まない場合、ポリ乳酸の耐衝撃性を改良し、かつ、積層シートの生分解性を維持することは難しい。そのため層Bはポリブチレンサクシネート系樹脂を含むことが重要であり、好ましくは1質量%以上5質量%以下である。
【0027】
また本発明の積層シートの層Bは、後述する酸化防止剤等の添加剤や、有機粒子などのその他の成分を含有することができる。これらその他の成分の含有量は、層Bの全成分100質量%において0.1質量%以上2.0質量%未満である。
【0028】
さらに、本発明の積層シートは、層Bの全成分におけるポリ乳酸の質量割合Pbが、層Aの全成分におけるポリ乳酸の質量割合Paよりも大きいことが重要である。PbがPaと等しい、またはPbがPaよりも小さい場合、積層シート全体として同じレベルの耐衝撃性を付与するために添加を要するポリブチレンサクシネート系樹脂の総量が大きくなってしまう結果、植物度が低下しポリ乳酸を使用する利点が薄れてしまう問題がある。
【0029】
本発明の積層シートは、白色度が80%以上であることが重要である。白色度が80%以未満の場合、磁気ストライプカード、ICカード等として必要な白色性、隠蔽性、意匠性を付与できない場合がある。また同様の観点から、本発明の積層シートの白色度は好ましくは90%以上である。白色度の上限は特に限定されず、大きい程好ましい。しかし上限としては120%程度であれば、磁気ストライプカード、ICカード等としての使用を考えた場合に特性として十分である。
【0030】
本発明の積層シートの白色度を80%以上とするためには、層Aおよび/または層Bに無機粒子を含有することが好ましい。使用できる無機粒子としては、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、珪酸カルシウム、タルク、クレーなどが挙げられる。このような無機粒子を含有すると、隠蔽性が改良されるが、特に白色無機粒子が好ましく用いられる。中でも、安価で、隠蔽性に優れることから、酸化チタンが好ましい。
【0031】
これらの無機粒子の平均粒径は10μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.01〜7μmである。
【0032】
層A中の無機粒子の含有量は、層A全成分100質量%において、無機粒子が2質量%以上35質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上20質量%以下である。添加量が2質量未満では、積層シートの白色度と隠蔽性が劣り、他方35質量%を超えると積層シートとしての物性を損なう場合がある。
【0033】
層B中の無機粒子の含有量は、層B全成分100質量%において、無機粒子が0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上5質量%以下である。添加量が0.5質量未満では、積層シートの白色度と隠蔽性に対する寄与が小さく、他方10質量%を超えるとシート全体の植物度が低下しポリ乳酸を使用する利点が薄れてしまう場合がある。
【0034】
なお、層Aと層Bの両方に無機粒子を含有させることで、白色度を80%以上とすることも可能であり、層Aのみまたは層Bのみに無機粒子を含有させることで、白色度を80%以上とすることも可能であり、本発明においてはいずれの態様であっても構わない。
【0035】
本発明の積層シートは、実施例記載の方法で測定した結晶融解熱量ΔHmが15J/g以下であることが重要である。ΔHmが15J/gを超える場合、積層シートの熱圧着性が不十分となり、過度に高いと耐衝撃性が低下してしまう。ΔHmは好ましくは10J/g以下である。また、前述した無機粒子の種類や含有量、さらには積層シートの製造方法にもよるが、ΔHmは通常0.5J/g以上であり、またΔHmは5J/g以上10J/g以下であれば特性として十分である。
【0036】
本発明の積層シートの結晶融解熱量ΔHmを15J/g以下とする方法は、特に限定されないが、例えば、Tダイから押出した後、5〜50℃のキャスティングロールで冷却固化する方法等を挙げることができる。二軸延伸による製膜法のような冷間延伸(融点未満の温度での延伸)では、結晶融解熱量ΔHmが15J/gより大きくなる場合がある。
【0037】
本発明の積層シートには、本発明の効果を損なわない範囲で、前述した無機粒子以外にも公知の酸化防止剤、紫外線安定化剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、抗酸化剤、イオン交換剤、結晶核剤、滑剤などの各種添加剤を必要に応じて添加してもよい。目的とする用途にもよるが、機能を効果的に発現させるためには層Aに添加することが好ましい場合が多く、好ましい添加量は層Aの全成分100質量%において0.1質量%以上1.0質量%以下である。
【0038】
本発明の積層シートは、層A表面の2次元中心線平均粗さRaが、0.1μm以上0.6μm以下であることが好ましい。この場合、例えば枚葉体とした後に成形加工する際、積み重ねてセットした枚葉体同士の耐ブロッキング性は良好であり、加工時のシート送りも良好となり、加工効率を低下させることもない。また表面が適度に平滑なため、印刷性や意匠性も良好となる。さらに、A層同士を熱圧着して2枚以上からなる積層体としてカードとする場合には、A層同士の熱圧着面中に気泡が閉じこめられることなくエア抜け性が良好で均一な密着面とすることができる。同様の観点から、層Aのさらに好ましい2次元中心線平均粗さRaは0.1μm以上0.4μm以下である。
【0039】
層A表面のRaを0.1μm以上0.6μm以下とするには、例えば、無機粒子や有機粒子の添加量を調整することで制御可能である。
【0040】
例えば無機粒子としては、シリカ等の酸化ケイ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の各種炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の各種硫酸塩、カオリン、タルク等の各種複合酸化物、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等の各種リン酸塩、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の各種酸化物、フッ化リチウム等の各種塩等からなる微粒子を使用することができる。
【0041】
また有機粒子としては、シュウ酸カルシウムや、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩などからなる微粒子が使用される。架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸のビニル系モノマーの単独または共重合体からなる微粒子が挙げられる。その他、ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機微粒子も好ましく使用される。
【0042】
無機粒子、有機粒子ともその平均粒径は、特に限定されないが、0.1〜10μmが好ましく、より好ましくは3〜6μmである。特に、少量で適度なすべり性を付与するには、平均粒径が3〜6μmの粒子を添加すると効果的である。これらの粒子の1種または2種以上を、層A表面に0.5質量%〜1質量%程度含有する方法が好ましい。
【0043】
また、粒子を添加せずにシート成形時の冷却固化プロセスにおいて、例えば、キャストロールとポリッシングロール間にTダイを用いて溶融したシート状ポリマーをキャストする際に、いずれか一方または両方のロール表面の粗さを適切に選択し、ロール表面の転写により得られるシート表面をコントロールする方法によっても、層A表面の2次元中心線平均粗さRaを0.1μm以上0.6μm以下に制御可能である。
【0044】
本発明にかかるポリ乳酸とポリブチレンサクシネート系樹脂を含有する層を得るにあたっては、各成分を溶媒に溶かした溶液を均一混合した後、溶媒を除去して組成物を製造することも可能であるが、溶媒への原料の溶解や溶媒除去等の工程が不要な、より実用的な製造方法である、各成分を溶融混練することにより組成物を製造する溶融混練法を採用することが好ましい。
【0045】
その溶融混練方法については、特に制限はなく、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、単軸または二軸押出機等の通常使用されている混合機を用いることができる。中でも生産性の観点から、単軸または二軸押出機の使用が好ましい。
【0046】
またその混合順序についても特に制限はなく、例えばポリ乳酸とポリブチレンサクシネート系樹脂をドライブレンド後、溶融混練機に供する方法や、予めポリ乳酸とポリブチレンサクシネート系樹脂を溶融混練したマスターバッチを作製後、該マスターバッチとポリ乳酸とを溶融混練する方法等が挙げられる。また必要に応じて、その他の成分を同時に溶融混練する方法や、予めポリ乳酸とその他の添加剤を溶融混練したマスターバッチを作製後、該マスターバッチとポリ乳酸とを溶融混練する方法を用いてもよい。
【0047】
次に本発明の積層シートを製造する方法について具体的に説明する。
【0048】
本発明におけるポリ乳酸は、例えば、次のような方法で得ることができる。原料としては、L−乳酸またはD−乳酸の乳酸成分を主体とし、前述した乳酸成分以外のヒドロキシカルボン酸を併用することができる。またヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体、例えば、ラクチド、グリコリド等を原料として使用することもできる。更にジカルボン酸類やグリコール類等も使用することができる。
【0049】
ポリ乳酸は、上記原料を直接脱水縮合する方法、または上記環状エステル中間体を開環重合する方法によって得ることができる。例えば直接脱水縮合して製造する場合、乳酸類または乳酸類とヒドロキシカルボン酸類を好ましくは有機溶媒、特にフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより高分子量のポリマーが得られる。
【0050】
また、ラクチド等の環状エステル中間体をオクチル酸錫等の触媒を用い減圧下開環重合することによっても高分子量のポリマーが得られることも知られている。このとき、有機溶媒中での加熱還流時の水分および低分子化合物の除去の条件を調整する方法や、重合反応終了後に触媒を失活させ解重合反応を抑える方法、製造したポリマーを熱処理する方法などを用いることにより、ラクチド量の少ないポリマーを得ることができる。
【0051】
本発明の積層シートは、例えばTダイキャスト法、インフレーション法、カレンダー法などの既存のフィルムの製造法により得ることが出来るが、Tダイを用い原料を溶融混練して押出すTダイキャスト法が好ましい。以下に本発明の積層シートを得る場合の好ましい製膜方法を示すが、本発明は、かかる製膜方法に限定されるものではない。
【0052】
ポリ乳酸とポリブチレンサクシネート系樹脂、および必要に応じて無機粒子などのマスターバッチを性状に応じた計量装置を用いて、層A用、層B用、必要に応じてその他の層用として、それぞれ所定の比率で、独立した別々の二軸押出機に供給する。二軸押出機としては、原料樹脂を未乾燥で供給可能であるため、ベント式二軸押出機を好ましく用いることができる。ベント式二軸押出機以外の押出機を使用する場合は、使用する原料の特性に応じて、60〜110℃にて3時間以上乾燥するなどして、あらかじめ水分量を400ppm以下にすることが好ましい。層A用、層B用、必要に応じてその他の層用とする二軸押出機は、原料の溶融粘度に応じて150〜240℃で溶融させることが好ましいが、ポリ乳酸の劣化を防ぐ意味から、200℃〜220℃の範囲とすることがより好ましい。各押出機で溶融・混練された樹脂はフィードブロックを使用してダイに導入する前にあらかじめ複合する、あるいはマルチマニホールド型ダイを使用してダイ内で複合化するなどし、例えばリップ間隔2〜3mmのスリット状のTダイ口金から金属製冷却キャスティングドラム上に押出し、互いに接する方向に回転し5〜50℃に冷却した、一対のキャスティングドラムとポリッシングロール間に吐出してキャスティングドラムに密着させ冷却固化することで厚み0.1mmから1.0mm程度の積層シートを得る。上記の方法で製膜された積層シートは巻取機により一旦ロール状に巻取っても良いが、用途によっては巻取ることなくそのまま断裁機により枚葉体としても良い。
【0053】
容器やブリスターパックなど真空成形などによってさらに加熱成形する用途ではロール状に巻取る方が製膜速度を速くできるため工業的生産に有利である。また、特にカード用やその他表面材などの各種工業材料や文具、ラベル等の雑貨類用途においては、シートの平面性が重要になるが、一旦ロール状に巻取って一定時間保管した後では、シートが巻取られていた方向にカールしてしまい、カールを除去する(=デカール)処理が必要な場合が多いため、巻取ることなくそのまま断裁機により枚葉体とする方が好ましい場合がある。
【0054】
積層シートの枚葉体化が必要な場合において、製膜時に一旦ロール状に巻取り、さらにデカール処理する場合は、巻取ったロール状のシートを40℃以上に加熱した一対の加熱ロール間で、適当な張力をかけながら加熱処理後、断裁機で枚葉体化し、必要に応じてエージングする方法などが挙げられるが、デカール処理後の枚葉体のカール量は、枚葉体から任意のシート1枚を50cm×50cm角に切り出し、シートの凸部を下にして水平なガラス板上に静置して、ガラス板と立ち上がった積層シート4隅の下端との垂直距離を測定し、この4箇所の測定値の平均値をカール値としたとき、5mm以下であることが好ましい。本発明の積層シートからなる枚葉体において、上記カール値を5mm以下とすることで、該枚葉体(積層シート)をカードにする工程において、加工時のシート送りも良好となり、また熱圧着時のシート間のエア抜け性が良好となり、加工効率を低下させることがないために好ましい。より好ましくは0mm以上3mm以下である。
【0055】
デカール処理は、積層シートの厚みが大きいほど困難と成る場合が多いため、本発明の積層シートを製膜時に一旦ロール状に巻取りさらにデカール処理する場合は、本発明の積層シートの厚みは0.1mm〜0.5mmが好ましく、0.1〜0.3mmがより好ましい。
【0056】
また、得られた積層シートは、印刷適性やコーティング適性を向上させる目的で各種の表面処理を施すことが好ましい。表面処理の方法としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、酸処理などが挙げられ、いずれの方法をも用いることができるが、連続処理が可能であり、既存の製膜設備への装置設置が容易な点や処理の簡便さからコロナ放電処理が最も好ましいものとして例示できる。コロナ処理を施すことで、通常、表面エネルギーを40mN/m以上とすることができるが、44mN/m以上とすることが好ましい。
【0057】
本発明の積層シートの厚みとしては、特に制限はないが、通常0.1mmから1.0mm程度である。本発明の積層シートの好適な用途はカード用途であるが、カード用途以外にも、商品の展示包装用に用いられているブリスターパックやその台紙、飲料自動販売機のディスプレイ用ボトル、お弁当箱、飲料カップなどの容器類、その他各種包装材料の成形体、また、表面材などの各種工業材料や文具、ラベル等の雑貨類などに使用することもでき、またその応用範囲はこれらに限られるものではない。例えば、本発明の積層シートが容器用途やブリスターパック用途として用いられる場合には、積層シートは通常0.15mmから0.7mm程度の厚さが好適である。
【0058】
本発明の積層シートは、インパクト値が2.0kN・m/mm以上であることが好ましい。インパクト値を2.0kN・m/mm以上と制御することにより、耐衝撃性に優れた積層シートとすることができる。より好ましくは2.2kN・m/mm以上である。積層シートのインパクト値は、大きい程好ましいものの、3.5kN・m/mm程度あればカード用途として使用する際には十分な値である。
【0059】
本発明の積層シートの好適な用途であるカード用途においては、積層シート1枚をカード基材の基本構成として用いることもできるが、2枚以上を貼り合わせてカード基材の基本構成とする事もできる。後者の場合、貼り合わせには接着用の低融点樹脂シートを挟んで熱圧着したり、接着面に接着剤を塗布してから貼り合わせる方法などが挙げられるが、工業的に大量に生産するには、低融点樹脂シートや接着剤などを使用せずに、本発明の積層シートの層A面同士を熱圧着などにより直接積層した積層体とする方法が好ましい。つまり、積層シートの層Aと積層シートの層Aを、他の層を介さずに、直接積層した積層体とすることが好ましい。また、本発明の積層体は、本発明の積層シートを3枚以上直接積層することも好ましい態様であるが、3枚以上積層する場合においても、積層シートの層Aと層Aを他の層を介さずに直接積層することが好ましい。そのためには、3枚以上の積層シートからなる積層体の最表層以外に配置される積層シート(内層に配置される積層シートの意味であり、積層シート3枚からなる積層体であれば、中央に配置される1層の積層シートを意味する。)が、両層に層Aを有する積層シートであることが重要である。積層シートのA層同士を直接積層した積層体とする場合の熱圧着温度は、過度に高いとカードの平面性を損ない変形を招いてしまうため、通常150℃以下が好ましく、130℃以下がさらに好ましく、120℃以下がより好ましい。
【0060】
本発明の積層シートからなるカード又は本発明の積層体からなるカードの厚さは、用途によっても相違するが、キャッシュカードやクレジットカードの場合には、500μm〜900μm程度の厚手のものが、また、テレホンカードやプリペイドカードの場合には、50〜350μm程度の薄手のものが用いられる。
【0061】
本発明のカードには、必要に応じ、本発明の積層シート1枚または2枚以上を接着した基本構成に加えて印刷層、感熱記録層等を設けることもできる。また、磁気記録層等を設ける場合は、オーバー層の表面に、適当な方法で、磁気ストライプを形成したり、ICを埋め込むことが好ましい。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。実施例中に示す測定、評価は、本文中に記載の条件以外は、次に示すような条件で行った。
[測定及び評価方法]
実施例中に示す測定や評価は次に示すような条件で行った。
(1)シート厚み:t(mm)
厚みをシート全幅に対して、マイクロゲージで10点測定し、その平均値を求めて、シート厚み:t(mm)とした。
(2)結晶融解熱量:ΔHm(J/g)
シートサンプルを30℃で12時間減圧乾燥した後、4.0mg秤量して試料とした。パーキンエルマー社製DSC7示差走査型熱量計を用い、窒素ガス流通下、20℃/分の昇温速度で−50℃から200℃まで昇温しDSC曲線を得た。DSC曲線のチャートにおいて、昇温時の温度が120℃以上の領域で現れた融解ピークの面積から試料1g当たりの結晶融解熱量ΔHm(J/g)を計測した。
(3)白色度(%)
測定面は層A側とし、分光式色差計SE−2000(日本電色工業(株)製)を用いてL,a,b値を求め、JIS L1015 C法に従い、下式を用いて白色度を求めた。
白色度(%)=100−[(100−L)+a+b1/2
(4)中心線平均粗さ:Ra(μm)
万能表面形状測定器SE−3FA((株)小坂研究所製)により2次元中心線平均粗さ(Ra)を測定した。なお、測定条件は、触針先端半径:2μm、測定力:0.7mN、測定長25mm、カットオフ:0.08mmである。層A(両面ともA層の場合は任意の片面のみ)について5回の測定の平均値から求めた。
(5)インパクト値(kN・m/mm)
フィルムインパクトテスター(東洋精機製作所製)により、直径1/2インチの半球状衝撃頭を用い、温度23℃、湿度65%RHの雰囲気下においてインパクト値(kN・m/mm)の測定を行った。100mm×100mmのシートサンプルを作製し、測定は1水準につき5回行った。さらに、1回毎のインパクト値を測定サンプル厚みで割り返し、単位厚みあたりのインパクト値とし、5回の測定の平均値から求めた。サンプル厚みは、デジタル式マイクロメーターで測定した。
(6)植物度
シートの全成分100質量%において、植物由来成分であるポリ乳酸の含有量を算出し、下記基準で評価した。
○:90質量%以上
△:80以上90質量%未満
×:80%質量未満
(7)耐ブロッキング性
シートを10枚積層し、上から4kgの荷重をかけ40℃×24hrの環境にて処理後のシートの剥離性を観察した。
○:全てのシートを容易に剥離可能であり、実用上問題なし。
△:剥離可能であり、実用上問題なし。
×:剥離時にブロッキングして剥離しにくい箇所があった。実用不可。
(8)熱圧着性
シートを20mm×100mmの長さの短冊状に切り出し、この短冊状サンプル2枚をA層同士が内側になるように重ね合わせて(A層同士が接するようにして重ね合わせて)、ヒートシーラーに直行するようにセットした後、圧着レバーを降ろし、170℃の温度で片側から約1秒間加熱し、熱圧着した後のシートの接着性を観察し、下記の基準で評価した。
○:手で力を加えても剥離しない。
△:手で力を加えると剥離可能だが、一部接着した箇所が残る。
×:手で容易に剥離する。
(9)耐衝撃性
JIS X6311に準じて、シートを堅固な水平板上に置き、500gの剛球を30cmの高さからシートの中央に落下させ、シートの割れ、ひびの有無を目視観察し、下記の基準で評価した。
○:割れ、ひびがない。
△:微細なひびがある。
×:割れ、ひびがある。
(10)隠蔽性
2種類の無彩色色票を台座に交互に張り付けた隠蔽性用グレースケールを試験片の裏面に密着させて、左右または前後に移動し、北窓昼光下で透過して見える程度を下記の基準で評価した。
○:顕出しない。
△:やや顕出する。
×:明瞭に顕出する。
(11)カール値(mm)
任意のシート1枚を50cm×50cm角の枚葉体に切り出し、枚葉体の凸部を下にして水平なガラス板上に静置して、ガラス板と立ち上がった枚葉体4隅の下端との垂直距離を最小目盛り0.5mm単位の定規を用いて測定し、この4箇所の測定値の平均値をカール値とした。ただし、垂直距離が0.5mm以下で、所定の定規で測定が困難な場合は測定値を0とした。
(12)無機粒子の平均粒径(μm)
シート表面にPt−Pdをスパッタしてサンプルを調整し、日立製作所製の走査電子顕微鏡S−800を用い、観察した表面写真から10個の粒子部分の最大直径を求め、その平均値を平均粒径(μm)とした。
[使用したポリ乳酸樹脂チップ]
(PLA−1):
ポリD−乳酸含有割合5.0mol%、融点150℃、PMMA換算の質量平均分子量22万のポリL−乳酸樹脂。
質量平均分子量は、ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)でクロロホルム溶媒にて測定を行い、ポリメチルメタクリレート換算法により計算した。
[使用したポリブチレンサクシネート系樹脂チップ]
(PB−1):
ポリブチレンサクシネート樹脂(三菱化学社製、商品名“GsPla”FZ91PD)
(PB−2):
ポリブチレンサクシネート樹脂(三菱化学社製、商品名“GsPla”FZ71PD)
(PB−3):
ポリブチレンサクシネート・アジペート系樹脂(昭和高分子社製、商品名“ビオノーレ”#3003)
[使用した無機粒子マスターチップ]
(D−1):
シリカ(マスターチップ100質量%において10質量%)・PLA−1(マスターチップ100質量%において90質量%)ベースのマスターチップ(シリカ平均粒径:3.6μm)
(D−2)
酸化チタン(マスターチップ100質量%において25質量%)・エチレンビスステアリル酸(マスターチップ100質量%において2質量%)・PLA−1(マスターチップ100質量%において73%)ベースのマスターチップ(酸化チタン平均粒径:0.2μm)
[ポリ乳酸系樹脂フィルムの作成]
(実施例1)
層A用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−1、D−2を45:10:5:40の比率で、また層B用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−2を95:1:4の比率でブレンドしたものを、それぞれ独立した別々のベント式二軸押出機に供給し、真空ベント部を脱気しながら溶融混練し、口金温度を220℃に設定したTダイ口金より共押出し、表面温度が40℃に温度調節された金属製キャスティングドラム同士で挟み冷却固化し、層A/層B/層Aが10:80:10、厚み0.5mmの未延伸シートを作製した。得られたシートは、表1に示した通り、一部の特性にやや劣る点があるが、その他は優れた特性を示した。
【0063】
(実施例2)
層A用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−1、D−2を45:10:5:40の比率で、また層B用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−2を94:2:4の比率でブレンドしたものを用い、層A/層Bを30:70、厚みを0.25mmとした以外は実施例1と同様にしてシートを作製した。得られたシートは、表1に示した通り、一部の特性にやや劣る点があるが、その他は優れた特性を示した。
【0064】
(実施例3)
層A用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−1、D−2を45:10:5:40の比率で、また層B用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−2を90:2:8の比率でブレンドしたものを用い、層A/層B/層Aを10:80:10、厚みを0.25mmとした以外は実施例1と同様にしてシートを作製した。得られたシートは、表1に示した通り、優れた特性を示した。
【0065】
(実施例4)
層A用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−1、D−2を45:10:5:40の比率で、また層B用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−2を84:8:8の比率でブレンドしたものを用い、層A/層B/層Aを20:60:20、厚みを0.25mmとした以外は実施例1と同様にしてシートを作製した。得られたシートは、表1に示した通り、優れた特性を示した。
【0066】
(実施例5)
層A用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−1、D−2を52:3:5:40の比率で、また層B用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−2を87:5:8の比率でブレンドしたものを用い、層A/層B/層Aを10:80:10、厚みを0.25mmとした以外は実施例1と同様にしてシートを作製した。得られたシートは、表1に示した通り、優れた特性を示した。
【0067】
(実施例6)
層A用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−1、D−2を15:20:5:60の比率で、また層B用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−2を95:1:4の比率でブレンドしたものを用い、層A/層B/層Aを5:90:5、厚みを0.25mmとした以外は実施例1と同様にしてシートを作製した。得られたシートは、表1に示した通り、一部の特性にやや劣る点があるが、その他は優れた特性を示した。
【0068】
(実施例7)
実施例3で作製したシートにおいて、製膜時に一旦ロール状に巻取ったシートを40℃以上に加熱した一対の加熱ロール間で、適当な張力をかけながら加熱しカールを除去した後、断裁機で480mm×380mmの大きさで枚葉体化し、枚葉体を得た。
【0069】
得られた枚葉体のカール値は1mmであり、良好な結果であった。続いて、枚葉体3枚を用いて、加熱プレス機にて直接熱圧着させ、カード用途用の積層体を作製した。得られた積層体は、耐衝撃性、耐ブロッキング性、熱圧着性、隠蔽性において優れた特性を示した。
【0070】
(比較例1)
層A用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1を100質量%としたものを用い、層Aの単層とし、厚みを0.35mmとした以外は実施例1と同様にしてシートを作製した。得られたシートは、表2に示した通り、一部の特性に劣る点があった。
【0071】
(比較例2)
層A用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−1を88:2:10の比率でブレンドしたものを用い、層Aの単層とし、厚みを0.35mmとした以外は実施例1と同様にしてシートを作製した。得られたシートは、表2に示した通り、一部の特性に劣る点があった。
【0072】
(比較例3)
層A用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−1、D−2を81:10:5:4の比率で、また層B用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1を98:2の比率でブレンドしたものを用い、層A/層B/層Aを2.5:90:2.5、厚みを0.25mmとした以外は実施例1と同様にしてシートを作製した。得られたシートは、表2に示した通り、一部の特性に劣る点があった。
【0073】
(比較例4)
層A用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−1、D−2を45:10:5:40の比率で、また層B用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−2を90:2:8の比率でブレンドしたものを用い、層A/層B/層Aを30:40:30、厚みを0.25mmとした以外は実施例1と同様にしてシートを作製した。得られたシートは、表2に示した通り、一部の特性に劣る点があった。
【0074】
(比較例5)
層A用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、無機粒子マスターチップD−1を95:5の比率で、また層B用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−2を58:2:40の比率でブレンドしたものを用い、層A/層B/層Aを10:80:10、厚みを0.25mmとした以外は実施例1と同様にしてシートを作製した。得られたシートは、表2に示した通り、一部の特性に劣る点があった。
【0075】
(比較例6)
層A用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−1、D−2を15:40:5:40の比率で、また層B用として、ポリ乳酸樹脂チップPLA−1、ポリブチレンサクシネート系樹脂チップPB−1、無機粒子マスターチップD−2を72:20:8の比率でブレンドしたものを用い、層A/層B/層Aを10:80:10、厚みを0.25mmとした以外は実施例1と同様にしてシートを作製した。得られたシートは、表2に示した通り、一部の特性に劣る点があった。
【0076】
(比較例7)
実施例3で作製したシートを、プレス温度180℃、圧力10kg/cmで、10分間熱プレスをして、結晶化を進行させたシートを得た。得られたシートは、表2に示した通り、一部の特性に劣る点があった。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
層Aを少なくとも一方の最外層に有し、層Bを内層に有する、少なくとも3層からなる積層シートであり、
層Aは、ポリ乳酸とポリブチレンサクシネート系樹脂とを含有し、さらに層Aの全成分を100質量%としたときのポリ乳酸の質量割合Paが60質量%以上97.5質量%以下であり、かつ、層Aの厚みの割合Xaが、積層シートの全体厚さ100%に対して10〜40%であり、
層Bは、ポリ乳酸とポリブチレンサクシネート系樹脂とを含有し、さらに層Bの全成分を100質量%としたときのポリ乳酸の質量割合Pbが90質量%以上100質量%未満であり、
ポリ乳酸の質量割合Pbが、ポリ乳酸の質量割合Paよりも大きく、
白色度が80%以上であり、さらに結晶融解熱量ΔHmが15J/g以下であることを特徴とするポリ乳酸系積層シート。
【請求項2】
前記層A表面の中心線平均粗さRaが、0.1μm以上0.6μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸系積層シート。
【請求項3】
枚葉体としたときのカール値が5mm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリ乳酸系積層シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸系積層シートのA層同士を直接積層した積層体。
【請求項5】
請求項4に記載の積層体からなるカード。

【公開番号】特開2010−234674(P2010−234674A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85778(P2009−85778)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】