説明

ポリ乳酸系組成物、及びそれを用いた成形品

【課題】残存している残触媒を触媒失活剤添加または溶剤洗浄により除去したポリL乳酸及びポリD乳酸を混練することより、特定の熱特性、ガスバリア性を有するポリ乳酸系組成物を提供し、さらに、表面平滑性、透明性、耐熱性、靭性に優れたポリ乳酸系延伸フィルム及びその他成形品を成すPLLAとPDLAとのポリ乳酸系組成物を提供すること。
【解決手段】本発明によるポリ乳酸系組成物は、ポリL乳酸およびポリD乳酸を混練することにより得られるポリ乳酸系組成物であって、ポリL乳酸およびポリD乳酸の少なくとも1つに残触媒が残存する場合において、残存する残触媒が少なくとも混練後に失活状態となるように触媒失活処理が行われ、かつ、DSC測定において250℃で10分経過した後の降温(cooling)時(10℃/分)のピークの少なくとも1つが40mJ/mg以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の熱特性を有するポリ乳酸系組成物に関する。さらに、本発明はポリL乳酸とポリD乳酸との組成物からなる組成物に関し、その組成物からなる耐熱性、ガスバリア性、靭性、表面平滑性に優れた延伸フィルム等のフィルム、インジェクション、ブロー、真空/圧空成形または押出成形その他成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解可能なプラスチックとして、汎用性の高い脂肪族ポリエステルが注目されており、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリカプロラクトン(PCL)などが上市されている。これら生分解性脂肪族ポリエステルの用途の一つとして包装用、農業用、食品用などのフィルム分野があり、用途に応じた高強度、耐熱性、ガスバリア性および生分解性が基本性能として要求されている。
上記脂肪族ポリエステルのうちPLAは、ポリL乳酸(PLLA)やポリD乳酸(PDLA)からなり(例えば、特許文献1及び特許文献5を参照)、その単独結晶(α晶)の融点は約170℃であり、ポリエチレンテレフタレート等と比較すると耐熱性が不十分な場合もあり、その改良が求められている。
【0003】
一方、PLAの耐熱性を更に改良する方法として、ポリL乳酸(PLLA)とポリD乳酸(PDLA)とをブレンドしてステレオコンプレックスを形成させる方法が多数提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4及び非特許文献1を参照)。このステレオコンプレックス(SC)は、ポリL乳酸(PLLA)とポリD乳酸(PDLA)の共晶であり、その結晶の融点はα晶よりも約50℃高く、それを利用することが期待されている。
【0004】
しかしながら、PLLAとPDLAを単に溶融混練して得た組成物をフィルムに成形しても容易にステレオコンプレックスは形成されず、また、形成されたフィルムは、耐熱性は改良されるものの、脆く、包装用フィルム等として使い難い。そこでPLLAとPDLAを溶融混練して得た組成物を特定の条件下で少なくとも一軸方向に延伸することにより耐熱性、靭性に優れた延伸フィルムが得られることを発明者らは提案した。この延伸フィルムは広角X線回折による回折ピーク(2θ)が16°近辺〔以下、かかる領域に検出されるピークを(PPL)と呼ぶ場合がある。〕にあり、且つ12°近辺、21°近辺及び24°近辺の回折ピーク(2θ)〔以下、かかる領域に検出されるピークを併せて(PSC)と呼ぶ場合がある。〕の総面積(SSC)が、16°近辺の回折ピーク(PPL)の面積(SPL)と(SSC)との合計量に対して10%未満の延伸フィルムである。そのため延伸フィルム中のSC晶はPLLA及びPDLA単体の結晶に比べ稀少である。更に本発明者らはかかる延伸フィルムに特定の熱処理を行い、広角X線回折による主たる回折ピーク(2θ)が12°近辺、21°近辺及び24°近辺にあり、主にSC晶からなる延伸フィルムの製造方法を提案した(特許文献6を参照)。
【0005】
また、ポリ乳酸系二軸延伸フィルムのガスバリア性を改善する方法として無機酸化物、無機窒化物、無機酸化窒化物の層をもうける方法が提案されている(特許文献5)。しかし、かかる蒸着等方法は行程が複雑なため費用がかかり、また蒸着膜は非常に薄いものなのでバリア性能の管理等に課題があった。また、そうした特定の熱特性を有するポリ乳酸系組成物に関し、さらに表面平滑性、透明性、耐熱性、バリア性能、靭性に優れた延伸フィルム等のフィルム、インジェクション、ブロー、真空/圧空成形または押出成形その他の成形品を提供することを目的として混練による高度な分散処理が提案されている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−207041号公報
【特許文献2】特開平8−198955号公報
【特許文献3】特開平9−25400号公報
【特許文献4】特開2000−17164号公報
【特許文献5】特開平10−24518号公報
【特許文献6】WO2006/095923
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Macromoleculs,20,904(1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ポリ乳酸中に高活性の触媒が残留すると混練による高度な分散処理だけではステレオコンプレックス結晶を十分に形成できない。そこでポリ乳酸重合時に触媒失活剤を添加するが、ポリ乳酸の重合中に触媒失活剤を添加する場合は、触媒失活剤が酸性物質であるためポリ乳酸を重合する釜の腐食が問題となる場合があり、ポリ乳酸の連続バッチ重合を行う場合は前バッチに残されている微量の触媒失活剤が後のバッチの触媒に影響し、重合反応が進みにくくなり分子量が上がりにくい場合があるという問題点があった。
本発明は、ポリ乳酸中に残留する触媒残による影響を排除し、混練による高度な分散処理だけでステレオコンプレックス結晶を選択的に形成してなる特定の熱特性を有するポリ乳酸系組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、表面平滑性、透明性、耐熱性、バリア性能、靭性に優れた延伸フィルム等のフィルム、インジェクション、ブロー、真空/圧空成形または押出成形その他の成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために種々検討した結果、ポリ乳酸中に残留する触媒残による影響を排除することで、混練による高度な分散処理により得られるポリ乳酸系組成物が結晶化の過程でステレオコンプレックス構造を選択的に作りやすく、そのポリ乳酸系組成物からなる延伸フィルム等のフィルム、インジェクション、ブロー、真空/圧空成形または押出成形品が表面平滑性、透明性に優れ、かつ耐熱性、ガスバリア性能、靭性に優れていることを見出し本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリL乳酸およびポリD乳酸を混練することにより得られるポリ乳酸系組成物であり、前記ポリL乳酸またはポリD乳酸の少なくともいずれかに残触媒が残存する場合であって、前記残存する残触媒を少なくとも混練後に失活状態となるように失活処理が行われ、かつDSC測定において250℃で10分経過した後の降温(cooling)時(10℃/分)のピークの少なくとも1つが40mJ/mg以上であることを特徴とするポリ乳酸系組成物に関する。また、好ましくは残存している残触媒を触媒失活剤の添加または溶剤洗浄により失活処理したポリL乳酸及びポリD乳酸を混練することより得られるポリ乳酸系組成物に関する。
【0011】
さらに、本発明において、残触媒の好適な除去方法は、触媒失活剤としてメタリン酸、ピロリン酸、メタクリル酸又はメタスルホン酸の少なくとも一種を用い、ポリ乳酸(ポリL乳酸及びポリD乳酸)100質量%に対して0.01〜0.1質量%の割合で添加すること、または溶剤として酢酸エチル、メチルエチルケトン、又はアセトンの少なくとも一種を用いて洗浄除去する方法である。さらに、本発明の好適な態様によれば、ポリL乳酸、ポリD乳酸のいずれか一方または双方の残触媒の金属含有量が、20〜60ppmの範囲であり、かつ触媒失活剤の添加量がポリL乳酸及びポリD乳酸の合計質量に対して、0.2質量%以下の範囲であることが望ましい。これにより、ステレオコンプレックス構造を選択的に容易に生成させることが可能となる。
【0012】
また、本発明は、当該組成物からなる成形品に関し、インジェクション(射出)、ブロー(吹き込み)、押出成形、真空成形、圧空成形また紡糸された種々の成形品に関する。中でも、少なくとも一方向に延伸して得られる延伸フィルム、更に140〜220℃で1秒以上熱処理して得られ表面平滑性、透明性、耐熱性、ガスバリア性、靭性に優れることを特徴とするポリ乳酸系延伸フィルムを提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ポリL乳酸及びポリD乳酸を少なくとも混練後に重合用残触媒を失活するように処理して得られるポリ乳酸系組成物である。かかる、ポリ乳酸系組成物は重合用残触媒によるステレオコンプレックス晶の生成を阻害することないため、高度に分散されたポリL乳酸及びポリD乳酸により、選択的かつ効率的にステレオコンプレックス晶を生成させることができる。さらに、本発明のポリ乳酸系組成物によれば、耐熱性及びガスバリア性、靭性に優れ、更に表面平滑性、透明性に優れたポリ乳酸系の延伸フィルムなどの種々の成形品が得られる。本発明のポリ乳酸系組成物によれば、非晶状態から結晶化する際にステレオコンプレックス構造物を選択的に形成するものと考えられ、耐熱性に優れ、更に結晶化の処理が容易な種々の成形品を得ることができる。本発明によれば、比較的高分子量であり成形品として十分な強度があり、かつ、高い融点を持ち耐熱性のある成形品となる生分解性のポリマーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例3における第1回昇温過程(1st heating)の結果を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例3における冷却過程(Cooling)の結果を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例3における第2回昇温過程(2nd heating)の結果を示すグラフである。
【図4】図4は、比較例3における第1回昇温過程(1st heating)の結果を示すグラフである。
【図5】図5は、比較例3における冷却過程(Cooling)の結果を示すグラフである。
【図6】図6は、比較例3における第2回昇温過程(2nd heating)の結果を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例3におけるWAX(広角X線測定装置)測定の結果を示すグラフである。
【図8】図8は、比較例3におけるWAX(広角X線測定装置)測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ポリL乳酸
本発明においてポリL乳酸(PLLA)は、L乳酸を主たる構成成分、好ましくは95モル%以上を含む重合体である。L乳酸の含有量が95モル%未満の重合体は、後述のポリD乳酸(PDLA)と溶融混練して得られるポリ乳酸系組成物を延伸して得られる延伸フィルムの耐熱性、ガスバリア性、その他成形品の耐熱性が劣る虞がある。
PLLAの分子量は後述のポリD乳酸と混合したポリ乳酸系組成物がフィルムなどの形成性を有する限り、特に限定はされないが、通常、重量平均分子量(Mw)は6千〜100万の範囲にある。本発明では、重量平均分子量が6千〜50万のポリ−L乳酸が好適である。なお、フィルム分野では、重量平均分子量が6万未満のものは得られる延伸フィルムの強度が劣る虞がある。一方、100万を越えるものは溶融粘度が大きく成形加工性が劣る虞がある。尚、商業ベースで作られるポリL乳酸は触媒として添加するSn等の除去処理を行っていないので、本発明においてはポリ乳酸の残触媒を触媒失活剤添加または溶剤洗浄により失活処理後にポリD乳酸を混練する。
【0016】
ポリL乳酸では残触媒の金属含有量は、ポリL乳酸に対して20〜60ppmの範囲であることが好ましく、これに対して、触媒失活剤の添加量は、ポリL乳酸及びポリD乳酸の合計質量に対して、0.2質量%以下、中でも0.01〜0.15質量%の範囲であることが好適である。また、残触媒の金属含有量がポリL乳酸に対して60〜100ppmの場合には、これに対して、触媒失活剤の添加量は、ポリL乳酸及びポリD乳酸の合計質量に対して、0.2質量%以下、中でも0.1〜0.15質量%の範囲であることが好ましい。
【0017】
ポリL乳酸の残触媒量、即ち重合後残存する残触媒となる触媒中の金属含有量が、20ppm未満では分子量10万以上の重合が出来ないおそれがあり、100ppmよりも多くなると、高活性な触媒がポリL乳酸とポリD乳酸の間でエステル交換反応を起こし、ポリL乳酸とポリD乳酸が交互に精密に配列することを阻害し、得られる組成物のSC晶比率が十分でない可能性がある。また、触媒失活剤の添加量が0.2質量%を越えると熱分解反応を促進し分子量が下がることで成形体の強度を低下させる傾向にあり、0.01質量%未満では得られる組成物のSC晶比率が低くなる傾向にある。
【0018】
ポリD乳酸
本発明においてポリD乳酸(PDLA)は、D乳酸を主たる構成成分、好ましくは95モル%以上を含む重合体である。D乳酸の含有量が95モル%未満の重合体は、前述のポリL乳酸と溶融混練して得られるポリ乳酸系組成物を延伸して得られる延伸フィルム、その他成形品の耐熱性が劣る虞がある。
【0019】
PDLAの分子量は前述のPLLAと混合したポリ乳酸系組成物がフィルム形成性を有する限り、特に限定はされないが、通常、重量平均分子量(Mw)は6千〜100万の範囲にある。本発明では、重量平均分子量が6千〜50万のポリD乳酸が好適である。なお、フィルム分野では、重量平均分子量が6万未満のものは得られる延伸フィルムの強度が劣る虞がある。一方、100万を越えるものは溶融粘度が大きく成形加工性が劣る虞がある。なお、商業ベースで作られるポリD乳酸は触媒として添加するSn等の除去処理を行っていないので、本発明においては残存しているポリ乳酸の残触媒を触媒失活剤添加または溶剤洗浄により失活した後にポリL乳酸及びポリD乳酸を混練する。
【0020】
ポリD乳酸では、残触媒の金属含有量は、ポリD乳酸に対して20〜60ppmの範囲であることが好ましく、これに対して触媒失活剤の添加量は、ポリL乳酸及びポリD乳酸の合計質量に対して、0.2質量%以下、中でも0.01〜0.15質量%の範囲であることが好適である。また、残触媒の金属含有量がポリD乳酸に対して60〜100ppmの場合には、これに対して、触媒失活剤の添加量は、ポリL乳酸及びポリD乳酸の合計質量に対して、0.2質量%以下、中でも0.1〜0.15質量%の範囲であることが好ましい。残存残触媒量、即ちポリL乳酸またはポリD乳酸の重合後残存する残触媒となる触媒中の金属含有量が、20ppm未満では分子量10万以上の重合が出来ないおそれがあり、100ppmよりも多くなると、高活性な触媒がポリL乳酸とポリD乳酸の間でエステル交換反応を起こし、ポリL乳酸とポリD乳酸が交互に精密に配列することを阻害し、得られる組成物のSC晶比率が十分でない可能性がある。また、触媒失活剤の添加量が0.2質量%を越えると熱分解反応を促進し分子量が下がることで成形体の強度を低下させる傾向にあり、0.01質量%未満では得られる組成物のSC晶比率が低くなる傾向にある。
【0021】
共重合成分
本発明においてポリL乳酸及びポリD乳酸には、本発明の目的を損なわない範囲で、少量の他の共重合成分、例えば、多価カルボン酸若しくはそのエステル、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類等を共重合させておいてもよい。多価カルボン酸としては、具体的には、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、スベリン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、セバシン酸、ジグリコール酸、ケトピメリン酸、マロン酸及びメチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸並びにテレフタル酸、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。多価カルボン酸エステルとしては、具体的には、例えば、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、ピメリン酸ジメチル、アゼライン酸ジメチル、スベリン酸ジメチル、スベリン酸ジエチル、セバシン酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、デカンジカルボン酸ジメチル、ドデカンジカルボン酸ジメチル、ジグリコール酸ジメチル、ケトピメリン酸ジメチル、マロン酸ジメチル及びメチルマロン酸ジメチル等の脂肪族ジカルボン酸ジエステル並びにテレフタル酸ジメチル及びイソフタル酸ジメチル等の芳香族ジカルボン酸ジエステルが挙げられる。多価アルコールとしては、具体的には、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタメチレングリコール、へキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール及び分子量1000以下のポリエチレングリコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸としては、具体的には、例えば、グリコール酸、2−メチル乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシイソカプロン酸及びヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。ラクトン類としては、具体的には、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、β又はγ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、4−メチルカプロラクトン、3,5,5−トリメチルカプロラクトン、3,3,5−トリメチルカプロラクトン等の各種メチル化カプロラクトン;β−メチル−δ−バレロラクトン、エナントラクトン、ラウロラクトン等のヒドロキシカルボン酸の環状1量体エステル;グリコリド、Lラクチド、Dラクチド等の上記ヒドロキシカルボン酸の環状2量体エステル等が挙げられる。また、本発明に係わるポリL乳酸及びポリD乳酸には、それぞれD乳酸若しくはL乳酸を前記範囲以下であれば少量含まれていてもよい。
【0022】
ポリ乳酸系組成物
本発明のポリ乳酸系組成物は、ポリL乳酸およびポリD乳酸を混練することにより得られるポリ乳酸系組成物であり、前記ポリL乳酸またはポリD乳酸の少なくともいずれかに残触媒が残存する場合であって、前記残存する残触媒を少なくとも混練後に失活状態となるように失活処理が行われることによって得られる。また、本発明のポリ乳酸組成物は、たとえば、残存している残触媒を触媒失活剤の添加または溶剤洗浄により失活したポリL乳酸及びポリD乳酸を混練することにより得られる。尚、本発明において、失活状態とは重合用残触媒がステレオコンプレックス晶の生成を当該過程で阻害する十分な働きをしない状態をいい、重合用残触媒の完全除去または含有量の低減による重合用残触媒のステレオコンプレックス晶の生成を当該過程で阻害する働きの低下も含まれる。本発明においては、重合用残触媒を失活させることにより、ステレオコンプレックス晶の選択的な生成が向上する。失活処理の手段は重合用残触媒を失活状態にできれば特に限定はされないが、具体的には、後述するポリL乳酸及びポリD乳酸の混練前または混練時での触媒失活剤の添加や混練前のポリL乳酸及びポリD乳酸のアセトン等の有機溶剤による残存残触媒の洗浄除去が挙げられる。なお、本発明においてはポリL乳酸及びポリD乳酸を混練するに際して、予め触媒失活剤を添加しておいてもよく、中でも、混練に際して、すなわち、混練の直前、混練中、あるいは直前から混練中にかけて、触媒失活剤を添加することが望ましい。本発明により提供されるポリ乳酸系組成物は、DSC測定において250℃で10分経過した後の降温(cooling)時(10℃/分)のピークの少なくとも1つが40mJ/mg以上、好ましくは45mJ/mg以上、特に好ましくは50mJ/mg以上であること、第2回昇温(2ndheating)時の測定(250℃で10分経た後に10℃/分で降温を行い、0℃から再度10℃/分で昇温)においてTm=200〜240℃のピーク(ピーク2)の少なくとも1つが35mJ/mg以上、更に好ましくは40mJ/mg以上であることを特徴とする。このようなポリ乳酸系組成物は、前記PLLAを45〜55質量%、更に好ましくは47〜53質量%及びPDLAを55〜45質量%、更に好ましくは53〜47質量%(PLLA+PDLA=合計質量)から構成されている、即ち調製されていることが好ましい。
【0023】
これらの組成物は、ポリL乳酸およびポリD乳酸の重量平均分子量が、いずれも6,000〜500,000の範囲内であり、かつ、ポリL乳酸またはポリD乳酸のいずれか一方の重量平均分子量が30,000〜500,000であるポリL乳酸及びポリD乳酸から混練により調製することが望ましい。
【0024】
また、本発明のポリ乳酸系組成物は、例えば、これらPLLAとPDLAを、230〜260℃で二軸押出機、二軸混練機、バンバリーミキサー、プラストミルなどで溶融混練することにより得ることができる。PLLAの量が75〜25質量%、特に65〜35質量%、その中でも特に55質量%を超える組成物及び45質量%未満の組成物は上述の方法で混練しても、得られる組成物の耐熱性が十分でない場合がある。得られる組成物からなる成形品がα晶の結晶体を含み、耐熱性が不十分となるおそれがある。ステレオコンプレックス構造はPLLAとPDLAの等量から構成されるためあると考えられる。
【0025】
一方、PLLAとPDLAを溶融混練するときの温度は好ましくは230〜260℃であり、より好ましくは235〜255℃である。溶融混練する温度が230℃より低いとステレオコンプレックス構造物が未溶融で存在する虞があり、260℃より高いとポリ乳酸が分解する虞がある。また、本発明のポリ乳酸系組成物を調製する際に、PLLAとPDLAを十分に溶融混練することが望ましい。
【0026】
触媒失活剤
好適な触媒失活剤として、有機酸、またはその塩がある。ここで有機酸とは、有機化合物の酸の総称であり、主たる有機酸の例としてカルボン酸があり、その中でもメタクリル酸が好適である。他の好適な触媒失活剤として、メタスルホン酸等のスルホ基含有化合物、メタリン酸、ピロリン酸等の種々のリン酸、またはその塩がある。これらの中では、特にメタリン酸、メタスルホン酸、ホスホノ酢酸トリエチル等のホスホノ酸エステル、又はポリリン酸が適度な触媒失活能力を有し、かつポリ乳酸に対する分解効果が小さいので好ましい。また添加量としてはポリ乳酸(ポリL乳酸及びポリD乳酸)合計質量に対し、0.1〜1.5質量%である。残触媒の金属含有量が20〜60ppmの範囲である場合には触媒失活剤の添加量は、ポリL乳酸及びポリD乳酸の合計質量に対して、0.2質量%以下、中でも0.01〜0.15質量%の範囲であることが好適であり、残触媒の金属含有量がL乳酸及びポリD乳酸に対して60〜100ppmの場合には、0.2質量%以下、中でも0.1〜0.15質量%の範囲であることが好ましい。残触媒の金属含有量が20〜60ppmの範囲である場合において、0.01質量%未満では触媒失活効果が十分でなく、1.5質量%を越えるとポリ乳酸が分解するおそれがある。また、ポリ乳酸の好ましい重合反応の観点から添加する触媒量から、ポリL乳酸及びポリD乳酸のいずれか一方、又は双方の残存する残触媒の金属含有量が、20〜60ppmの範囲であることが多く、かかる残触媒の金属含有量での触媒失活剤の添加量はポリL乳酸及びポリD乳酸の合計質量に対して、0.2質量%以下、中でも0.01〜0.15質量%の範囲であることが好適である。また、残触媒の金属含有量がL乳酸及びポリD乳酸に対して60〜100ppmの場合には、0.2質量%以下、中でも0.1〜0.15質量%の範囲であることが好ましい。前記触媒失活剤の添加量が0.2質量%を超えるとポリ乳酸を分解してしまう可能性があるからである。更に触媒失活剤を添加するタイミングは、当然ポリ乳酸の重合後に適宜添加すればよい。また、ポリ乳酸の重合中に触媒失活剤を添加する場合は、触媒失活剤が酸性物質であるためポリ乳酸を重合する釜の腐食が問題となる場合がある。また、ポリ乳酸の連続バッチ重合を行う場合は前バッチに残されている微量の触媒失活剤が後のバッチの触媒に影響し、ポリ乳酸の重合反応を阻害し、分子量が上がりにくい場合がある。すなわち、本発明においては、ポリL乳酸及びポリD乳酸を混練するまでに予め添加しておいてもよいし、混練に際して添加してもよい。すなわち、具体的には混練の直前、混練中、混合の直後の少なくともいずれかの時期に、触媒失活剤を添加することが望ましい。
【0027】
溶剤洗浄
洗浄溶剤はアルコール、アセトン、ヘキサン、テトラクロロエチレン、トルエン、テルピン油、ヘキサン、石油エーテル、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル等およびそれらの2種以上の混合溶剤が挙げられるがポリ乳酸に対して親和性の高く、取り扱う上で引火性の低いことから、酢酸エチル、メチルエチルケトン、又はアセトンが好ましい。
また洗浄温度は20℃未満では洗浄能力が劣る可能性があり、50℃より高いと引火する可能性が高くなる。また洗浄時間はポリ乳酸の形状にもよるが、直径4mmの球形とした場合、溶剤に浸った状態で1時間未満では十分洗浄出来ないおそれがあり、20時間以上では生産性が著しく低い可能性がある。また、本発明のポリ乳酸系組成物からフィルム、シート、容器、部品等種々の成形品を得ることが可能であるが、成形品により、インジェクション、ブロー、真空/圧空成形または押出成形から選ばれる成形方法がポリ乳酸系組成物により円滑にステレオコンプレックス晶を選択的に生成させる観点から好ましい。さらに、本発明のポリ乳酸系組成物からなる成形品は、ステレオコンプレックス晶による高結晶化の観点から、140〜220℃で熱処理することが好ましい。かかるステレオコンプレックス晶により高結晶化されることで、成形品の透明度、耐熱性、ガスバリア性、靱性等の物性が向上するからである。
【0028】
ポリ乳酸系延伸フィルム
本発明のポリ乳酸系延伸フィルムは、ポリ乳酸重合に用いられ、残存している触媒を触媒失活剤の添加または溶剤洗浄により失活させたポリL乳酸及びポリD乳酸を均一に溶融混練されたポリ乳酸系組成物を利用して、これを延伸成形することにより得ることができる。本発明で提供される延伸フィルムは、ポリ乳酸の結晶(α晶)が形成されていないか、形成されたとしても少量であり、ほとんどはステレオコンプレックス構造を形成しているものと考えられる。本発明のポリ乳酸系組成物は、PLLAとPDLAを十分に溶融混練し均一な構成になっているので、得られる延伸フィルムは表面平滑性、透明性に優れ、また加熱時の伸縮挙動も一定し、融点が230℃近傍のステレオコンプレックス構造の特性を活かし、優れた耐熱性を有している。
【0029】
本発明のポリ乳酸系延伸フィルムは、好ましくは一方向に2倍以上、より好ましくは2〜12倍、さらに好ましくは3〜6倍延伸されてなる。延伸倍率は2倍未満の延伸フィルムは耐熱性が改良されない虞がある。一方、延伸倍率に上限は延伸し得る限り、とくに限定はされないが、通常、12倍を超えるとフィルムが破断したりして、安定して延伸できない虞がある。
【0030】
本発明のポリ乳酸系二軸延伸フィルムは、好ましくは縦方向に2倍以上及び横方向に2倍以上、より好ましくは縦方向に2〜7倍及び横方向に2〜7倍、さらに好ましくは縦方向に2.5〜5倍及び横方向に2.5〜5倍延伸されてなる。一方向の延伸倍率が2倍未満の二軸延伸フィルムは耐熱性が改良されない虞がある。一方、延伸倍率に上限は延伸し得る限り、とくに限定はされないが、通常、7倍を超えるとフィルムが破断したりして、安定して延伸できない虞がある。
【0031】
本発明のポリ乳酸系延伸フィルムの厚さは用途により種々決め得るが、通常5〜500μm、好ましくは10〜100μmの範囲にある。本発明のポリ乳酸系延伸フィルムは種々用途により、他の基材と積層してもよい。他の基材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン及びポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート及びポリカーボネート等のポリエステル、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリメチルメタクリレート、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ乳酸、脂肪族ポリエステル等の生分解性ポリエステル等の熱可塑性樹脂からなるフィルム、シート、カップ、トレー状物、あるいはその発泡体、若しくはガラス、金属、アルミニューム箔、紙等が挙げられる。熱可塑性樹脂からなるフィルムは無延伸であっても一軸あるいは二軸延伸フィルムであっても良い。勿論、基材は1層でも2層以上としても良い。例えば、 本発明のポリ乳酸系延伸フィルムの少なくとも片面にシリコーン樹脂層が積層されてなる多層フィルムは、離型フィルムなどの用途に好適である。このような多層フィルムは、厚さ1〜300μmのポリ乳酸系延伸フィルム、厚さ0.1〜5μmの硬化樹脂層および厚さ0.01〜5μmのシリコーン樹脂層からなる。
【0032】
ポリ乳酸系延伸フィルムの製造方法
本発明のポリ乳酸系延伸フィルムの製造方法は、前記ポリ乳酸系組成物からなるシートを、通常50〜110℃、好ましくは60〜90℃の温度で一方向に2倍以上、好ましくは3〜12倍に延伸して得られる延伸フィルムを通常140〜220℃、好ましくは150〜200℃で、1秒以上、好ましくは3秒〜60秒、より好ましくは3〜20秒熱処理してポリ乳酸系延伸フィルムとする方法である。
【0033】
延伸倍率が2倍未満では、耐熱性に優れた延伸フィルムが得られない虞があり、一方、延伸倍率の上限は特に限定はされないが、12倍を超えると安定して延伸できない虞がある。延伸温度が50℃未満では、安定して延伸できない虞があり、また、得られる延伸フィルムの透明性、平滑性が劣る虞がある。
【0034】
一方、110℃を超えるとフィルムが加熱ロールに付着し、フィルム表面が汚れ、また安定して延伸ができない虞があり、得られる延伸フィルムの靭性が劣る虞がある。熱処理時間が1秒未満では延伸フィルムに熱が伝わらず、熱処理の効果が発現されない虞がある。また、予熱時間は長くても問題はないが、工程上60秒以下が好ましい。本発明のポリ乳酸系延伸フィルム製造方法の他の態様は、前記ポリ乳酸系組成物からなるシートを、通常50〜110℃、好ましくは60〜90℃の温度で、好ましくは縦方向に2倍以上及び横方向に2倍以上、より好ましくは縦方向に2〜7倍及び横方向に2〜7倍、さらに好ましくは縦方向に2.5〜5倍及び横方向に2.5〜5倍延伸して得られる延伸フィルムを、通常140〜220℃、好ましくは150〜200℃で、1秒以上、好ましくは3秒〜60秒、より好ましくは3〜20秒熱処理してポリ乳酸系延伸フィルムとする方法である。熱処理時間が1秒未満では延伸フィルムに熱が伝わらず、熱処理の効果が発現されない虞がある。また、予熱時間は長くても問題はないが、工程上60秒以下が好ましい。二軸延伸は、同時二軸延伸でも逐次二軸延伸でもよい。更に好ましく効率的な製造プロセスは、ポリL乳酸とポリD乳酸を配合し、二軸押出機の先端にギヤポンプを経て/若しくは経ずにTダイより押し出し、チルロールで急冷することでシートを成形し、倍率3×3〜5×5に連続して延伸するものである。
【0035】
本発明のポリ乳酸系延伸フィルムの製造にあたっては、前記ポリ乳酸系組成物からなり、広角X線回折による回折ピークが12°近辺、21°近辺及び24°近辺には検出されない〔(PSC)が検出されない〕原料シート或いはフィルムを用いることが好ましい。広角X線回折による回折ピーク(2θ)が12°近辺、21°近辺及び24°近辺に検出されるシート、即ちステレオコンプレックスが形成されたシートを用いた場合は、その形成量にもよるが、得られる延伸フィルムの透明性が劣り、又、靭性にも劣る虞がある。ポリ乳酸系組成物からなるシートあるいはフィルムを広角X線回折による回折ピーク(2θ)が12°近辺、21°近辺及び24°近辺には検出されない〔(PSC)が検出されない〕状態にする方法としては、例えば、前記のポリ乳酸系組成物をステレオコンプレックスの融点である220℃以上、好ましくは230〜260℃の範囲で溶融した後、5〜30℃で急冷してシートあるいはフィルムとする方法を採ることにより、ステレオコンプレックスの形成を抑えることができる。
【0036】
本発明の二軸延伸フィルムの製造方法としては、重量平均分子量が150,000〜200,000のポリL乳酸及び重量平均分子量が200,000〜350,000のポリD乳酸を、ポリL乳酸/ポリD乳酸=45/55〜55/45の重量比で用い、押出温度245〜255℃の二軸押出機の先端にギヤポンプを経て/若しくは経ずにTダイより押出し、0〜30℃のチルロールで急冷することによりシートを成形し、次いで、延伸温度50〜80℃で少なくとも2倍以上に逐次二軸または同時二軸により延伸することが望ましい。また更に本発明の二軸延伸フィルムの製造方法としては、重量平均分子量が150,000〜200,000のポリL乳酸及び重量平均分子量が200,000〜350,000のポリD乳酸を、ポリL乳酸/ポリD乳酸=45/55〜55/45の重量比で用い、触媒失活剤を添加し、押出温度245〜255℃の二軸押出機の先端のギヤポンプを経て/若しくは経ずにTダイより押出し、0〜30℃のチルロールで急冷することによりシートを成形し、次いで、50〜80℃の条件で2倍以上に一軸または二軸方向に延伸し、140〜220℃で熱処理して得られる延伸フィルムの製造方法である。ステレオコンプレックス晶の生成効率の観点から、重量平均分子量が150,000〜200,000のポリL乳酸及び重量平均分子量が200,000〜350,000のポリD乳酸を、ポリL乳酸/ポリD乳酸=45/55〜55/45の重量比で用いることが好ましい。また、触媒失活剤は混練前でも混練中でもいずれの際に添加してもよい。混練前に添加する場合には、触媒失活剤の均一分散の観点から、予めポリL乳酸またはポリD乳酸とニーダー等の混合機により混合していることが好ましく、ポリL乳酸、ポリD乳酸、及び触媒失活剤を混合しておくことがさらに好ましい。また、押出成形をする際に用いる押出機は一軸押出機であっても二軸押出機であってもよいが、均一混練の観点から二軸押出機を用いることが好ましい。押出機での混練温度は245〜255℃が好ましく、245℃未満である場合には、ポリL乳酸またはポリD乳酸のα晶の生成によりステレオコンプレックス晶の生成効率が低下する場合があり、255℃を超える場合にはポリ乳酸が熱分解してステレオコンプレックス晶の生成効率が低下する場合がある。押出機で混練後、ギヤポンプを経ずにTダイより押し出してもよいが、フィルムに厳密な厚み精度が求められる場合には厚み制御等の観点からギヤポンプを経させることが好ましい。混練後押し出されるシートは0〜30℃で急冷することによりステレオコンプレックス晶が高率で生成されるため好ましい。また急冷手段としては、均一かつ確実に冷却する観点からチルロールを用いる。さらに、50〜80℃の条件で一軸延伸または二軸延伸する。二軸延伸する場合、二軸方向に延伸する方法としては、逐次二軸延伸法、及び同時二軸延伸法を適用することができる。延伸条件については、延伸温度が50℃未満であるとシートの切断や十分に延伸できない可能性があり、80℃を超えるとさらなる結晶化や分子配向が起こらず、ステレオコンプレックス晶に由来する耐熱性や透明性等が十分に得られないことがある。また、140〜220℃で熱処理することがステレオコンプレックス晶による高結晶化等の観点から好ましい。熱処理温度が140℃未満であるとステレオコンプレックス晶による高結晶化が不十分な場合があり、220℃を超えるとステレオコンプレックス晶を溶融させてしまいかえってステレオコンプレックス晶の結晶化度を低下させるおそれがある。
【0037】
その他の成形品
本発明のポリ乳酸系組成物はインジェクション(射出)、ブロー(吹き込み)、押出成形、真空成形、圧空成形、1.1〜1.5倍に弱延伸した後の真空成形、圧空成形および種々の成形方法により種々の成形品として用いられる。射出成形には、一般に採用される射出成形法、射出圧縮成形法、ガスアシスト成形法を採用でされる。さらに、二色成形、インモールド成形、ガスプレス成形を利用することもできる。また、シリンダー内の樹脂温度は結晶化および熱分解を避けるため200℃を越えることが望ましく、200℃〜250℃とすることが通常である。中でも、本発明では、シリンダー先端部分の温度が少なくとも1ゾーン以上が、200〜240℃中でも210〜220℃であることが望ましく、またホッパー側(供給側)のゾーンが230〜250℃である射出成形機を用いることが望ましい。なお、一旦融解された本発明の組成物をステレオコンプレックス構造ポリ乳酸の融点近傍で射出することが望ましい。
【0038】
さらに、金型温度を100〜160℃とし、型内での保持時間を10秒〜3分とすることにより、結晶化を促進させることができるので、望ましい。
【0039】
インジェクション成形品には、熱処理を施し結晶化させてもよい。このように成形品を結晶化させることにより、成形品の耐熱性をさらに向上させることができる。結晶化処理は、成形時の金型内、及び/又は、金型から取り出した後に行うことができる。生産性の面からは、射出成形品を形成する樹脂組成物の結晶化速度が遅い場合には、金型から取り出した後に結晶化処理を行うことが好ましく、一方、結晶化速度が速い場合には、金型内で結晶化処理を行ってもよい。
【0040】
金型から成形品を取り出した後に結晶化処理を行う場合、熱処理の温度は60〜180℃の範囲であることが好ましい。熱処理温度が60℃未満では、成形工程において結晶化が進行しないことがあり、180℃より高いと、成形品を冷却する際に変形や収縮が生じることがある。加熱時間は射出成形品を構成する樹脂の組成、及び熱処理温度によって適宜決められるが、例えば、熱処理温度が70℃の場合には15分〜5時間熱処理を行う。また、熱処理温度が130℃の場合には10秒〜30分間熱処理を行う。
【0041】
これらのインジェクション成形品の中でも、透明性が3mm厚さで全光線透過率(TT)が60%以上であることが容器等に利用される場合に、内容物が透視できるので望ましい。また、真空/圧空成形の際に、シートを成形型に接触させる方法としては、得られる容器の品位が高い、生産効率が高い等の理由から、真空成形法、圧空成形法およびプレス成形法などが好ましい。
【0042】
真空成形においては、プラスチック成形用の汎用成形機を良好に使用可能であり、熱板または熱風を用いてシートをシート作製時にシート表面温度を110〜150℃に予熱して、キャビティ温度100〜150℃でキャビティに密着させることが好ましい。キャビティには、多数の細孔を設けてキャビティ内を減圧することで成形を行い、型の再現性の良好な容器を得ることができる。
【0043】
また、真空成形法において、プラグと称する押し込み装置を備えて用いることにより、シートの局所的な引き延ばしによる薄肉化を防止することができる。
圧空成形においても、プラスチック成形用の汎用成形機を良好に使用可能であり、熱板によるシートの可塑化後、熱板全体に設けられた多数の細孔からシート表面に空気圧を作用することで、シートの押し込み成形を行い、型の再現性の良好な成形品を得ることができる。
【0044】
このようにして得られた真空/圧空成形品の中でも、熱湯(98℃)によっても変形しない耐熱性に優れた成形品が望ましい。
【0045】
これらの射出成形品、ブロー成形品、真空/圧空成形品、押出成形品は、電気電子用品の部品、外装品、自動車の内装品、産業用、食品用の種々の包装用途にシート、フィルム、糸、テープ、織布、不織布、発泡成形品等の種々の成形品とすることができる。さらに紡糸には複合紡糸、スパンバンド法紡糸など従来公知の種々の紡糸方法がある。
【実施例】
【0046】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限りこれらの実施例に制約されるものではない。実施例及び比較例で使用したポリ乳酸、メタリン酸は次の通りである。
(イ)ポリL乳酸(PLLA―1):
触媒としてSnを、原料にLラクチドを用いたカップリング重合体であり、かつ、アセトンで、23℃で4時間の洗浄処理を実施した。
D体量:1.9% Mw:225,000 Mn:129,000(g/モル)、Tm:164℃
残触媒量 Sn:25ppm
【0047】
(ロ)ポリD乳酸(PDLA―1):
触媒としてSnを、原料にDラクチドを用いたカップリング重合体
D体量:100.0% Mw:165,000 Mn:92,000 、Tm:175℃
残触媒量 Sn:75ppm
【0048】
(ハ)メタリン酸
和光製薬社製 純度99.9%以上 塊状
【0049】
(二)ポリL乳酸(PLLA―2):
触媒としてSnを、原料にLラクチドを用いたカップリング重合体。
D体量:1.9% Mw:225,000 Mn:129,000(g/モル)、Tm:164℃
残触媒量 Sn:25ppm
【0050】
(ホ)ポリD乳酸(PDLA―2):
触媒としてSnを、原料にDラクチドを用いたカップリング重合体
D体量:100.0% Mw:152000 Mn:65000、Tm:175℃
残触媒量 Sn:30ppm
触媒失活剤量(ホスホノ酢酸トリエチル) 0質量%
【0051】
(ヘ)ポリD乳酸(PDLA―3):
触媒としてSnを、原料にDラクチドを用いたカップリング重合体
D体量:100.0% Mw:161000 Mn:68000、Tm:175℃
残触媒量 Sn:80ppm
触媒失活剤量(ホスホノ酢酸トリエチル) 0.15質量%
【0052】
(ト)ホスホノ酸エステル
ホスホノ酢酸トリエチル(城北化学製)
【0053】
(1)重量平均分子量(Mw)
試料20mgに、GPC溶離液10mLを加え、一晩静置後、手で緩やかに攪拌した。この溶液を、両親媒性0.45μm―PTFEフィルター(ADVANTEC DISMIC―25HP045AN)でろ過し、GPC試料溶液とした。
測定装置 Shodex GPC SYSTEM−21
解析装置 データ解析プログラム:SIC480データステーションII
検出器 示差屈折検出器(RI)
カラム Shodex GPC K−G + K−806L + K−806L
カラム温度 40℃
溶離液 クロロホルム
流速 1.0mL/分
注入量 200μL
分子量校正 単分散ポリスチレン
【0054】
(2)DSC測定
示差走査熱量計(DSC)としてティー・エイ・インスツルメント社製 Q 100を用い、試料約5mgを精秤し、JIS K 7121に準拠し、窒素ガス流入量:50mL/分の条件下で、0℃から加熱速度:10℃/分で250℃まで昇温して試料を一旦融解させた後(第1回昇温過程(1st heating))、250℃に10分間維持し、冷却速度:10℃/分で0℃まで降温して結晶化させた後(冷却過程(Cooling))、再度、加熱速度:10℃/分で250℃まで昇温して(第2回昇温過程(2nd heating))、各々の昇温及び冷却過程から熱融解曲線を得た。得られた熱融解曲線から、第1回昇温過程(1st heating)及び第2回昇温過程(2nd heating)での試料の融点(Tm)(℃)、融解熱量(J/g)、冷却過程(Cooling)での結晶化温度(Tc)(℃)、結晶化熱量(Hc)(J/g)を求めた。
【0055】
(3)WAX測定
広角X線測定装置(WAX)としてリガク社製ULTIMA4を用い、延伸フィルム7mm角にX線ターゲットとしてCu K―α、出力:1/40kV×40mAで照射し、回転角:4.0°/分、ステップ:0.02°、走査範囲:5〜30°で測定した。
その測定結果において、広角X線回折による回折ピーク(2θ)が16°近辺にあり、且つ12°近辺、21°近辺及び24°近辺の回折ピーク(2θ)の総面積(SSC)、16°近辺の回折ピークの面積(SPL)、及びブロード部を非晶部分として面積(S非晶)とした。そして各々の面積をチャート紙から切り出し、その重量を測定することにより、SC晶(%)、α晶(%)、及び非結晶(%)の各々を算出した。
(4)触媒量
ガラス製三角フラスコに試料0.2gを精秤した後、濃硫酸(98%)3mlを添加し、ホットプレート上で加温した。徐々にホットプレートを加温しながら最終的に350℃まで加温し、過酸化水素水(30%)を適量添加して試料の完全分解を行った。次いで室温まで冷却した後、塩酸(6M)10mlを加え、さらに超純水を加えて20mlにメスアップし、測定用の試料溶液とした。今回用いた測定法による検出下限濃度は、10mg/kgである。上記方法により調製した溶液中のSn濃度をICP発光測定法により求め、触媒量とした。なお本特許においては金属換算の重量分率で示した。
装置:SPECTRO社製 CIROS−120
測定波長:189.991nm
【0056】
実施例1
PLLA―1:PDLA―1を50:50(質量%)の比で計量し、東洋精機製ラボプラストミルCモデル(2軸混練機)を用いて250℃、120rpmの条件下で1分間溶融混練した後に、PLLA―1:PDLA―1を50:50(質量%)の合計質量に対して、メタリン酸を0.5質量%の割合で、追加で配合し、250℃、120rpmの同条件で更に19分間混練した。即ち、総混練時間としては20分とした。そして混練して得た組成物をDSC測定で評価した。結果は表1に示すとおりである。
【0057】
実施例2
追加して配合するメタリン酸を1.0質量%とする以外は実施例1と同様にして行った。結果は表1に示すとおりである。
【0058】
比較例
追加して配合するメタリン酸をなしとする以外は実施例1と同様にして行った。結果は表1に示すとおりである。
【0059】
比較例2
追加して配合するメタリン酸を0.05質量%とする以外は実施例1と同様にして行った。結果は表1に示すとおりである。
【0060】
実施例3
<ポリ乳酸系組成物および延伸フィルムの作製>
PLLA―2:PDLA―2:ホスホノ酢酸トリエチルを50:50:0.03質量%の比で計量し、フィード速度330g/分で、東芝機械株式会社製 同方向回転二軸混練押出機(TEM−37BS スクリュ径:37mm、スクリュ条数:2、スクリュ長(L/D):42からなるスクリュパターンを用いてC1=200℃、C2〜C12:245℃、430rpmの条件下で混練押出し、次にその先端にクレインボルク社製ギヤポンプGPE36(36cc/cycLe)で2軸押出機先端圧力を50kgf/cm2となるように制御し、幅400mmのコートハンガー型Tダイで、鏡面処理したチルロール(水温:15℃)で1.0m/分の速度で成形を行い、厚さ約300μmの無延伸シートとし、続けてこの無延伸シートをブルックナー社製二軸延伸機を用いて延伸、ヒートセット処理した。その際のキャスト速度は2m/分、MDO(シートの流れ方向に延伸する縦延伸工程)は温度65℃で3倍にTDO(シートの流れ方向と略直角方向に延伸する横延伸工程)は温度70℃で3倍に延伸した後にオーブンで200℃で60秒間の熱処理を行った。結果は表2に示すとおりである。
【0061】
比較例3
延伸フィルム作製で、PLLA−2及びPDLA−3を、触媒失活剤を添加することなく表2の組成となるように配合した以外は実施例3と同様に行った。結果は表2に示すとおりである。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
「表1」及び「表2」において、触媒失活剤であるメタリン酸、ホスホノ酢酸トリエチルの各々の含有量(質量%)は、PLLA及びPDLAの合計量(100質量%)に対する含有量である。
【0065】
表1から明らかなように、触媒失活剤としてメタリン酸を0.5質量%、1.0質量%配合した実施例1、2は、DSCのCooling時における結晶熱量が55、64J/gとメタリン酸添加量0.00質量%の比較例1及び0.05質量%の比較例2に比べて大きく、また2nd heating時の温度200〜250℃の融解熱量(即ち、SC晶の融解熱量)が実施例1、2は融解熱量が60J/g、58J/gと比較例1、2の融解熱量の31J/g、33J/gに比べて十分大きい。さらに2nd heating時の温度150〜200℃の融解熱量(α晶の融解熱量)が実施例1、2では各々0.0J/g、0.0J/gとSC晶のみ選択的に作る組成物であることが分かる。
【0066】
表2から明らかなように、触媒量30ppm、触媒失活剤添加量0質量%であるPDLA−2を用い溶融混練の際に触媒失活剤を0.03質量%配合した実施例3は、触媒量80ppm、触媒失活剤添加量0.15質量%であるPDLA−3を用い溶融混練の際に触媒失活剤を配合しなかった比較例3に比べて、DSC、WAX測定結果ともにSC晶比率が大きく、耐熱性に優れたフィルムであることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリL乳酸およびポリD乳酸を混練することにより得られるポリ乳酸系組成物であって、該ポリL乳酸および該ポリD乳酸の少なくとも1つに残触媒が残存する場合において、残存する該残触媒が少なくとも混練後に失活状態となるように触媒失活処理が行われ、かつ、DSC測定において250℃で10分経過した後の降温(cooling)時(10℃/分)のピークの少なくとも1つが40mJ/mg以上であることを特徴とする、ポリ乳酸系組成物。
【請求項2】
前記触媒失活処理が、ポリL乳酸とポリD乳酸との混練以前の触媒失活剤の添加工程、前記ポリL乳酸および/または前記ポリD乳酸の洗浄処理工程、並びに混練時の触媒失活剤の添加工程の少なくとも1つの工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリ乳酸系組成物。
【請求項3】
前記洗浄処理工程が溶剤によって行われる溶剤洗浄であることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリ乳酸系組成物。
【請求項4】
前記触媒失活処理によりポリ乳酸重合で添加した前記残触媒を失活処理した後に、前記ポリL乳酸および前記ポリD乳酸を混練することによって得られるか、または前記ポリL乳酸および前記ポリD乳酸を混練するときに、前記触媒失活処理により該ポリ乳酸重合で添加した前記残触媒を失活処理することによって得られることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のポリ乳酸系組成物。
【請求項5】
DSCの第2回昇温(2nd−heating)時の測定(250℃で10分経た後に10℃/分で降温を行い、0℃から再度10℃/分で昇温)においてTm=200〜240℃のピーク(ピーク2)の少なくとも1つが35mJ/mg以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のポリ乳酸系組成物。
【請求項6】
前記触媒失活剤がメタリン酸、メタスルホン酸、ホスホノ酸エステルおよびポリリン酸の少なくとも1種であり、ポリL乳酸およびポリD乳酸の合計質量に対して0.1〜1.5質量%で添加されていることを特徴とする、請求項2から5のいずれか1項に記載のポリ乳酸系組成物。
【請求項7】
前記ポリL乳酸及び前記ポリD乳酸のいずれか一方、又は双方の残存する残触媒の金属含有量が、20〜60ppmの範囲であり、かつ、前記触媒失活剤の添加量が前記ポリL乳酸および前記ポリD乳酸の合計質量に対して、0.01質量%〜0.15質量%であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のポリ乳酸系組成物。
【請求項8】
前記洗浄処理が、酢酸エチル、メチルエチルケトンおよびアセトンの少なくとも1種を用いて行われることを特徴とする、請求項2から7のいずれか1項に記載のポリ乳酸系組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のポリ乳酸系組成物から成形されたことを特徴とする成形品。
【請求項10】
インジェクション、ブロー、真空/圧空成形または押出により成形されることを特徴とする、請求項9に記載の成形品。
【請求項11】
縦方向に2倍以上および横方向に1倍以上延伸されてなる延伸フィルムであることを特徴とする、請求項9に記載の成形品。
【請求項12】
140〜220℃で熱処理して成形される延伸フィルムであることを特徴とする、請求項11に記載の成形品。
【請求項13】
広角X線回折による回折ピーク(2θ)が16°近辺にあり、且つ12°近辺、21°近辺及び24°近辺の回折ピーク(2θ)の総面積(SSC)が、16°近辺の回折ピークの面積(SPL)と(SSC)との合計量に対して90%以上の延伸フィルムであることを特徴とする、請求項11又は12に記載の成形品。
【請求項14】
請求項1から8のいずれか1項に記載のポリ乳酸系組成物からなる延伸フィルムの製造方法であって、重量平均分子量が150,000〜200,000のポリL乳酸及び重量平均分子量が200,000〜350,000のポリD乳酸を、ポリL乳酸/ポリD乳酸=45/55〜55/45の重量比で用い、触媒失活剤を添加し、押出温度245〜255℃の二軸押出機の先端のギヤポンプを経て/若しくは経ずにTダイより押出し、0〜30℃のチルロールで急冷することによりシートを成形し、次いで、50〜80℃の条件で2倍以上に一軸または二軸方向に延伸し、140〜220℃で熱処理して得られる延伸フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−25942(P2012−25942A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137884(P2011−137884)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000220099)三井化学東セロ株式会社 (177)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】