説明

ポリ乳酸系繊維用分散染料

【課題】 ポリ乳酸系繊維に耐光堅牢度に優れた染色を施すことのできる分散染料群を提供する。特に色相を構成する原色色素の変退色性のバランスが整った橙色、緑色、ブラウン色、グレイ色素等の配合色の染料を提供する。
【解決手段】 下記構造式〔3〕で示される黄色色素化合物はじめ他の特定の黄色、赤色及び青色の色素化合物を着色成分とするポリ乳酸系繊維用分散染料群。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸繊維及びポリ乳酸繊維と芳香族ポリエステル繊維等の混合繊維からなるポリ乳酸系繊維を染色するための分散染料に関する。
特に、ポリ乳酸系含有繊維の染色において、高耐光堅牢度を有する分散染料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸樹脂は植物由来の炭水化物を原料とする非石油系樹脂であり、なおかつ自然環境中で水と炭酸ガスに分解されることにより生態系での循環が可能となるため、資源の再利用が容易で、脱石油化を実現する環境に優しい素材である。また、他の脂肪族ポリエステル等の生分解性樹脂に比べ、高い融点やガラス転移点を有し、強度も汎用の芳香族ポリエステル並みに高いことから、実用繊維として今後の普及が期待されている。用途としてはフィルム、シート、スパンボンド、樹脂および繊維として、産業用資材、インテリア・生活資材や衣料用繊維等への使用が考えられており、メーカー各社が本格展開に向け開発を加速している(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
新素材が車両内装剤やインテリア向け繊維として普及するためには、耐光堅牢度の優れた染色を施す染料が必要であるが、未だ満足されるものがないのが実状である。
【特許文献1】特開平8−311781号公報
【特許文献2】特開2003−49374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記実状に鑑み、特にこのポリ乳酸系繊維上で耐光堅牢度が良好でかつそれぞれの着色成分色素の変退色の程度が近似しており、緑色、橙色、更にブラウン及びグレー色等を構成する三原色色素の変退色バランスが良好な分散染料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、存在する多数の染料色素の中からポリ乳酸系繊維に対する吸尽性及び耐光堅牢度に比較的優れた染料色素を選定、特定し、また、これらを組み合わせることによって、良好な耐光堅牢度及び変退色バランスが整ったブラウンやグレイ色等の分散染料を完成した。
すなわち本発明の要旨は、下記構造式〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕及び〔5〕で示される色素化合物の少なくとも1種から成る黄色色素、下記構造式〔6〕及び〔7〕で示される色素化合物の少なくとも1種から成る赤色色素、下記構造式〔8〕、〔9〕及び〔10〕で示される色素化合物の少なくとも1種から成る青色色素を着色成分とするポリ乳酸系繊維用分散染料群に存する。
【0006】
【化9】

【0007】
[式中、R1はC1〜C3のアルキル基、R2はC4〜C7のアルキル基を表わす。]
【0008】
【化10】

【0009】
[式中、nは0〜1の実数を表わす。]
【0010】
【化11】

【0011】
[式中、R3はC1〜C3のアルキル基または2−ヒドロキシエチル基を表わす。]
【0012】
【化12】

【0013】
〔6〕
[式中、R4およびR5の一方は水素原子、もう一方はヒドロキシエトキシエチル基、ヒドロキシブトキシプロピル基、アセトキシエトキシエチル基もしくはアセトキシブトキシプロピル基0を表わす。]
【0014】
【化13】

【0015】
[式中、R6は水素原子またはメチル基を表わす。]
【0016】
【化14】

【0017】
[式中、R7およびR8は、その一方はニトロ基、他方はヒドロキシル基を表す。R9は、
水素原子、塩素原子または2−ヒドロキシエチル基を表す。]
【0018】
【化15】

【0019】
[式中、R10はメトキシプロピル基、エトキシプロピル基またはメトキシエトキシプロピル基を表わす。]
【0020】
【化16】

【発明の効果】
【0021】
本発明はポリ乳酸系繊維に耐光堅牢度の良好な染色を施すことができる一群の分散染料を提供するものである。
そして、緑色、橙色、ブラウン色、グレー色等の染料はその色相を構成する各原色色素の変退色のバランスが整っており、ポリ乳酸系繊維染色加工業界に貢献するところ大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に記述する。
本発明は、構造式〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕及び〔5〕で示される色素化合物の少なくとも1種から成る黄色色素、構造式〔6〕及び〔7〕で示される色素化合物の少なくとも1種から成る赤色色素、構造式〔8〕、〔9〕及び〔10〕で示される色素化合物の少なくとも1種から成る青色色素を着色成分とする一群の分散染料であり、また前記黄色、赤色及び青色の色素を適宜配合して成る分散染料である。
【0023】
なお、構造式〔8〕で示される色素化合物は、式中のR7がニトロ基、ヒドロキシル基
、R9が水素原子、2−ヒドロキシエチル基のものが好ましい。
本発明の染料を用いてポリ乳酸系繊維を染色するには、前記構造式〔1〕〜〔10〕で示される色素化合物が水に不溶ないし難溶であるので、常法により分散剤としてナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物、高級アルコ−ル硫酸エステル、高級アルキルベンゼンスルホン酸塩等を使用して水性媒質中に微粒子化して分散させた染色浴または捺染糊を調製し、浸染染色法、パッド染色法または捺染法により行なうことができる。特に浸染染色法が好ましい。浸染の場合、高温染色法、キャリヤー染色法、サーモゾル染色法などの通常の染色処理法を適用すれば、ポリ乳酸繊維ないしはその混合繊維に良好な染色を施すことができる。ポリ乳酸繊維はポリエステル繊維と比べ熱やアルカリ条件に弱いため、染色は110〜120℃程度にて15〜30分程度、染色液のpHは4.0〜5.0で高温染色し、トリアジン系、ベンゾトリアゾ−ル系あるいはベンゾフェノン系等の紫外線吸収剤を併用する事が特に望ましい。
【0024】
ポリ乳酸繊維と他の繊維との混合繊維としてはポリ乳酸繊維とポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートあるいはポリブチレンテレフタレートのような芳香族ポリエステル繊維とからなる混合繊維があげられる。特にプロピレンテレフタレート繊維とポリ乳酸繊維からなる混合繊維が挙げられる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
実施例1〜19
下記構造式[1−1] [1−2] [1−3] [2−1] [2−2] [3] [4−1][4−2] [5] [6] [7] [8−1] [8−2] [8−3] [8−4] [9−1][9−2] [9−3] [1
0]
【0026】
【化17】

【0027】
【化18】

【0028】
【化19】

【0029】
[式中、R4およびR5の一方は水素原子、もう一方はヒドロキシエトキシエチル、ヒドロキシブトキシプロピル、アセトキシエトキシエチルおよびアセトキシブトキシプロピルを表わす。](混合物)
【0030】
【化20】

【0031】
【化21】

【0032】
で示される色素化合物をそれぞれ2倍重量のナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物と混合し常法により微粒子化・乾燥を行ない分散染料を得た。この分散染料をポリ乳酸含有繊維5gに対してJIS L 0808に規定された標準染色濃度に対してシングル
色では1/2N程度、配合色ではトータル濃度1/3N程度の染色物が得られる量だけ計り取り、染色助剤および紫外線吸収剤としてチバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製のトリアジン系「Cibafast P」を染浴に2%(o.w.f.)さらに酢酸/
酢酸ナトリウムpH緩衝液(pH4.5)を加え、脱塩水にて合計100mLになるように分散させ調製した染色浴に、東レ株式会社製ポリ乳酸含有繊維Wジャージ生地5gを浸
漬し、110℃で30分保持し染色を行なった。得られた染色物を、ハイドロサルファイトナトリウム2g/L、炭酸ナトリウム2g/L、クラリアント社製Hostapal
LFBConc.1g/Lを含む水150mL中にて65℃で10分間保持することにより還元洗浄を行なった。これを乾燥後、各染色物を得た。
【0033】
この染色物の耐光堅牢度を、トヨタ自動車株式会社の耐光堅牢度試験規格により判定し、結果を表1に記した。
なおこの耐光堅牢度試験は、試験装置としてスガ試験機株式会社の強エネルギーキセノンフェードメーターを使用し、照射強度150W/m2(300〜400nm)、照射時
間3.8時間/暗時間1時間を1サイクルとして38サイクル(182時間)の明暗法によ
る照射をブラックパネル温度73±3℃の条件下で行なった。試験布はウレタンで裏打ちした上で試験を行なった。級数判定はJISL0804変退色用グレースケールを用いている。
【0034】
比較例1〜6
ポリエステル繊維に対して優れた耐光堅牢度を有する下記構造を有する黄色系色素化合物[A−1]、 [A−2]、 赤色系色素化合物[B−1]、 [B−2]、 青色系色素化合物[
C−1]、 [C−2]を用いて調製した分散染料を使用して実施例と同様にポリ乳酸系繊維に染色を施して耐光堅牢度を評価した。その結果を表−1に記した。
【0035】
【化22】

【0036】
【化23】

【0037】
【表1】

【0038】
実施例20〜31、 比較例7〜13
前記記載の構造式[1−1] 、[2−2] 、[3]、 [4−1]、[4−2] 、[5]、 [6] 、 [8−1] 、[8−3]、[9−1]、[9−2]、[10]、[A−1]、[A−2]、[B−
1]、[B−2]、[C−1]、[C−2]で表わされる色素化合物を用いて調製した分散染
料を表2に示した通りに組み合わせ使用して実施例に準じて染色を実施した。但し、紫外線吸収剤として日華化学(株)のベンゾトリアゾール系「サンライフLP250」を使用した。表中の配合数値は重量%を表わす。
【0039】
表2から明らかなように本発明実施例1〜19によって得られた染色物は比較例によって得られた染色物に比べ非常に耐光堅牢度が良好であることが分る。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
実施例32
実施例20において繊維をポリ乳酸繊維/ポリプロピレンテレフタレート繊維(50/50重量%)からなる混合繊維、染色条件を120℃×40分に、紫外線吸収剤を日華化学(株)製のベンゾフェノン系「サンライフ LPS855」に置き換え、実施例20に準じて染色を実施した。その結果、得られた染色物の耐光堅牢度は4級と優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕及び〔5〕で示される色素化合物の少なくとも1種から成る黄色色素、下記構造式〔6〕及び〔7〕で示される色素化合物の少なくとも1種から成る赤色色素、及び下記構造式〔8〕、〔9〕及び〔10〕で示される色素化合物の少なくとも1種から成る青色色素を着色成分とするポリ乳酸系繊維用分散染料群。
【化1】

[式中、R1はC1〜C3のアルキル基、R2はC4〜C7のアルキル基を表わす。]
【化2】

[式中、nは0〜1の実数を表わす。]
【化3】

[式中、R3はC1〜C3のアルキル基または2−ヒドロキシエチル基を表わす。]
【化4】

〔6〕
[式中、R4およびR5の一方は水素原子、もう一方はヒドロキシエトキシエチル基、ヒドロキシブトキシプロピル基、アセトキシエトキシエチル基もしくはアセトキシブトキシプロピル基を表わす。]
【化5】

[式中、R6は水素原子またはメチル基を表わす。]
【化6】

[式中、R7およびR8は、その一方はニトロ基、他方はヒドロキシル基を表す。R9は、
水素原子、塩素原子または2−ヒドロキシエチル基を表す。]
【化7】

[式中、R10はメトキシプロピル基、エトキシプロピル基またはメトキシエトキシプロピル基を表わす。]
【化8】

【請求項2】
請求項1に記載の黄色色素、赤色色素及び青色色素のいずれか2種又は3種を着色成分とするポリ乳酸系繊維用分散染料群。
【請求項3】
請求項1に記載の構造式〔1〕、〔3〕及び〔4〕で示される色素化合物の少なくとも1種から成る黄色色素、請求項1に記載の構造式〔6〕で示される色素化合物から成る赤色色素及び請求項1に記載の構造式〔8〕で示される色素化合物から成る青色色素を着色成分とするポリ乳酸系繊維用分散染料群。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の分散染料群を用いることを特徴とするポリ乳酸系繊維の染色法。
【請求項5】
紫外線吸収剤を併用することを特徴とする請求項4に記載のポリ乳酸系繊維染色法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の染色法で得られたポリ乳酸系繊維染色物。

【公開番号】特開2006−8871(P2006−8871A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188921(P2004−188921)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(395017106)ダイスタージャパン株式会社 (1)
【Fターム(参考)】