説明

ポリ乳酸系重合体延伸フイルムの製造方法

【目的】 生分解性を有するポリ乳酸系重合体から、実用的な強度を備えたフイルムを製造する。
【構成】 ポリ乳酸系重合体の未延伸シートを延伸温度50〜90℃、延伸倍率1.5〜5倍の範囲内で、面内配向度(Δn)が3.0×10-3〜30×10-3の範囲内になるように縦延伸し、次いで延伸温度50〜80℃、延伸倍率1.5〜5倍の範囲内で横延伸して、逐次2軸延伸フイルムを製造する。2軸延伸後、70℃〜(重合体の融点)の範囲内の温度で熱処理すれば、熱寸法安定性の高いフイルムが得られる。
【効果】 フイルムの脆さを改良し、かつ延伸加工を安定して行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸またはこれらの共重合体等のポリ乳酸系重合体からなる2軸延伸フイルムの製造方法、詳しくは逐次2軸延伸フイルムの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】現在、透明性に優れ、機械的強度の高い材料としてポリエチレンテレフタレート延伸フイルム等が知られている。このフイルムは、その半結晶性のため熱処理することで寸法安定性が付与できる一方で、共重合により結晶化度を低下させて収縮フイルムとしても用いられている。これらの用途として包装分野に用いられる割合も高い。しかしながら、これらの材料は自然環境下に棄却されると、その安定性のため分解することなく残留し、景観を損ない、魚、野鳥等の生活環境を汚染するなどの問題を引き起こしている。
【0003】そこで、これらの問題を生じない分解性重合体からなるフイルムが要求されており、実際、多くの研究・開発が行われている。その一例としてポリ乳酸がある。ポリ乳酸は、土壌中において自然に加水分解が進行し、土中に原形が残らず、ついで微生物により無害な分解物となることが知られている。
【0004】しかし、ポリ乳酸のフイルムはもろくて実用に耐えられず、物性の改質が必要である。フイルム物性の改質方法の一つとして延伸加工が挙げられるが、これまでにポリ乳酸の延伸方法、特に工業的な加工法として有用な逐次2軸延伸方法についてはほとんど知られていない。
【0005】逐次2軸延伸方法では、多くの場合一段目に縦方向に延伸した後、横方向に延伸する方式が用いられるため、縦方向に延伸した直後の物性が次の横方向への延伸性に影響するばかりでなく、最終的に製造される2軸延伸フイルムの強度や物性にも影響する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、例えば包装用途に用い得る実用的な強度を備えたポリ乳酸系重合体フイルムを得るために、その延伸方法、特に工業的な加工法として有用な逐次2軸延伸における延伸加工条件を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、ポリ乳酸系重合体の未延伸シートを延伸温度50〜90℃、延伸倍率1.5〜5倍の範囲内で、面内配向度Δnが3.0×10-3〜30×10-3の範囲内になるように縦延伸し、次いで延伸温度50〜80℃、延伸倍率1.5〜5倍の範囲内で横延伸することを特徴とするポリ乳酸系重合体の逐次2軸延伸フイルムの製造方法である。さらに、熱寸法安定性を付与する場合には、2軸延伸した後、温度70℃〜(重合体の融点)の範囲内で熱処理することを特徴とする。
【0008】以下、本発明を詳しく説明する。本発明におけるポリ乳酸系重合体とは、ポリ乳酸または乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、もしくはこれらの混合物であり、本発明の効果を阻害しない範囲内で他の高分子材料が混入されていてもよい。また、成形加工性、フイルム物性を調整する目的で、可塑剤、滑剤、無機フイラー、紫外線吸収剤等の添加剤を添加することも可能である。
【0009】乳酸としては、L−乳酸、D−乳酸が挙げられ、他のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。
【0010】これらの重合法としては、縮合重合法、開環重合法等公知のいずれの方法を採用することも可能であり、さらには分子量増大のために少量の鎖延長剤、例えばジイソシアネート化合物、ジエポキシ化合物、酸無水物等を使用してもよい。重合体の重量平均分子量としては、10,000〜1000,000が好ましく、かかる範囲を下回ると実用物性がほとんど発現されず、上回る場合には溶融粘度が高くなり過ぎ、成形加工性に劣る。
【0011】未延伸シートの製膜条件について説明する。ポリ乳酸系重合体を十分に乾燥し、水分を除去したのち押出機で溶融する。溶融温度は組成によって変化するので、それに対応して適宜選択することが好ましい。実際には140〜230℃の温度範囲が通常選ばれる。
【0012】シート状に溶融成形された重合体は、回転するキヤステイングドラム(冷却ドラム)に接触させて急冷するのが好ましい。キヤステイングドラムの温度は50℃以下が適当である。これより高いとポリマーがキヤステイングドラムに粘着し、引取れない。また、結晶化が促進されて、球晶が発達し延伸できなくなるため、上記温度範囲に設定して急冷し実質上非晶性にすることが好ましい。
【0013】次に延伸方法について説明する。本発明において縦延伸後のフイルムは、面内配向度(Δn)が3.0×10-3〜30×10-3、好ましくは5.0×10-3〜30×10-3であることが重要である。これより低いと最終的に製造される2軸延伸フイルムの縦方向への引張強伸度は低く、実用に耐えず、これより高いと配向結晶化が促進され、次の横延伸時にフイルムが破断する等の問題が生じる。延伸温度は一般に50〜90℃の範囲であり、これより低温のときは延伸性が低く、延伸時にフイルムが破断しやすい。また、これより高いと延伸効果が小さくなる傾向を示し、延伸ムラを生じやすい。より好適には、55〜80℃の温度範囲が選ばれる。
【0014】延伸倍率は1.5倍〜5倍、好ましくは2〜4倍の範囲内で選択する。延伸倍率がこの範囲未満ではΔnが前記の値より小さくなり、また延伸倍率がこの範囲を越えるとフイルム製造中の破断が多発して好ましくないばかりか、縦延伸フイルムが得られたとしても次に横延伸しにくくなる。上記の範囲内で、延伸温度と延伸倍率の組み合わせ条件を選択することにより、Δnが3.0×10-3〜30×10-3の縦延伸フイルムを得る。
【0015】以上の条件で縦延伸したのち、横方向に延伸する。横延伸の延伸温度は、50〜80℃、好ましくは55〜70℃の範囲内で選択する。50℃未満の温度ではほとんど延伸できない。また、縦延伸後のフイルムは結晶化温度が低下しているので、この範囲を越える温度では延伸中に結晶化が促進され、製造中にフイルムが破断しやすくなる。延伸倍率は1.5〜5倍の範囲内で選択する。この範囲未満では配向効果は得られず、最終的に製造される2軸延伸フイルムの横方向への引張強伸度は低く実用に耐えず、また延伸倍率がこの範囲を越えるとフイルム製造中の破断が多発して好ましくない。
【0016】延伸方法は公知の方法でよく、例えば縦延伸は周速差のある2個のロール間で加熱しながら延伸することができ、横延伸はテンターを用い、クリツプでフイルム両端を把持しながらクリツプ列の列間隔を拡大させて延伸することができる。
【0017】フイルムに常温よりもやや高い温度下での寸法安定性(熱寸法安定性)を付与したい場合には、70℃〜(重合体の融点)の温度範囲で熱処理を行なう。この範囲未満では、結晶化が十分に促進されず、十分に熱固定されない。すなわち、熱寸法安定性が低い。一方、この範囲を越える熱処理温度では、フイルムにシワ、ムラの発生、白濁化などを引き起す。熱処理時間は3〜60秒程度でよい。熱処理は、横延伸に引き続きテンター内でクリツプでフイルム両端を把持して行なうのが実用上有利である。
【0018】以下、実施例より本発明を具体的に説明するが、本発明における物性値の測定方法は次の通りである。
(1)面内配向度(Δn):偏光顕微鏡によってフイルム内の複屈折を測定して求めた。
Δn=R/dR:リターデーシヨン、 d:フイルム厚さ(2)引張強伸度:東洋精機社製テンシロン2型機を用い、JIS−K−7127に基づいて測定した。縦方向をMD、横方向をTDで表記する。
(3)収縮率:熱寸法安定性を評価するため、フイルムサンプルを100mm×100mmに切り出し、80℃の温水バスに10秒間浸漬した後縦横の寸法を計り、元の寸法に対する収縮分を百分率で示した。縦方向をMD、横方向をTDで表記する。
【0019】
【実施例】
(実施例)重量平均分子量約100,000のポリL−乳酸(融点175℃)を180℃で溶融押し出し、32℃に保持したキヤステイングドラム上で冷却して200μmの未延伸シートを得た。この未延伸シートを金属ロールで予熱したのち、赤外線ヒーターで加熱しつつ周速差のあるロール間で縦方向に延伸した。つづいて縦延伸フイルムをテンターで横延伸し、引き続きテンター内で熱処理した。延伸条件および熱処理条件を変化させて、表1に示すフイルムサンプルを得た。フイルムの流れ速度は約3m/分、テンター内の延伸・熱処理各ゾーンの通過時間はそれぞれ20秒である。得られたフイルムの特性を表2に示す。
【0020】
【表1】


【表2】


【0021】表1、表2に示す結果から明らかな通り、縦延伸条件および横延伸条件が本発明の範囲内であるNo.2および11〜13は、安定した縦延伸および横延伸が可能であり、また得られたフイルムは優れた強伸度を有している。縦延伸条件が本発明の範囲外であるNo.3〜8は、延伸の安定性またはフイルム物性の点で劣っている。縦延伸条件は本発明の範囲内であるが横延伸条件が範囲外であるNo.9〜10も、延伸安定性またはフイルム物性に劣る。
【0022】また、本発明のNo.13のフイルムは、延伸安定性およびフイルム強度の点では優れているが収縮率は高く、さらに熱寸法安定性の高いフイルムを得る場合には、No.11〜12のように70℃以上の温度で熱処理するのがよいことが分かる。なお、No.14においては、熱処理温度が高すぎるため、フイルムにシワ、ムラが発生するとともにフイルムが部分的に白化し、良好な2軸延伸フイルムが得られなかった。
【0023】
【発明の効果】本発明によれば、逐次2軸延伸法によるポリ乳酸の2軸延伸フイルムの製造において、特定範囲の延伸条件を採用することにより、フイルムの脆さを改良し、かつ延伸加工を安定して行うことができる。また、適切な熱処理条件を選定することにより、フイルムの仕上り、特に外観を損うことなく寸法安定性を付与することができるようになった。得られるフイルムは、いわゆる生分解性を有しているので、その優れた強度特性と相まって、包装分野などに好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリ乳酸系重合体の未延伸シートを延伸温度50〜90℃、延伸倍率1.5〜5倍の範囲内で、面内配向度Δnが3.0×10-3〜30×10-3の範囲内になるように縦延伸し、次いで延伸温度50〜80℃、延伸倍率1.5〜5倍の範囲内で横延伸することを特徴とするポリ乳酸系重合体の逐次2軸延伸フイルムの製造方法。
【請求項2】 2軸延伸後、70℃〜(重合体の融点)の範囲内の温度で熱処理することを特徴とする請求項1記載の製造方法。