説明

ポリ乳酸系長繊維不織布

【課題】ポリ乳酸系重合体により形成される長繊維不織布に耐熱性を付与するための新たな手法を得る。
【解決手段】融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体(A)と、ポリマーアロイとを成分とする複合長繊維を構成繊維としてスパンボンド法により形成された不織布である。ポリマーアロイは、繊維表面の少なくとも一部を形成している。ポリマーアロイは、ポリ乳酸系重合体(A)と、融点が160℃〜230℃であるポリエステル共重合体(B)と、相溶化剤(C)とを含有するものであって、ポリ乳酸系重合体(A)が海成分を形成するとともにポリエステル共重合体(B)が島成分を形成した海島構造を呈している。島成分は、そのドメインサイズが0.001〜0.1μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ乳酸系長繊維不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油を原料とする合成繊維は、廃棄焼却時の発熱量が多いため、自然環境保護の見地から見直しが必要とされている。これに対し、自然界において生分解する脂肪族ポリエステルからなる繊維が開発されており、環境保護への貢献が期待されている。脂肪族ポリエステルの中でも、ポリ乳酸系重合体は、比較的高い融点を有することから、広い分野に使用されることが期待されている。また、ポリ乳酸系重合体は、生分解性ポリマーの中では、力学特性、耐熱性、コストのバランスが最も優れている。そして、これを利用した繊維の開発が急ピッチで行われている。
【0003】
しかしながら、最も有望視されているポリ乳酸系重合体にも、高温力学特性が悪いという課題がある。ここで、高温力学特性が悪いとは、ポリ乳酸系重合体のガラス転移温度(Tg)である60℃を超えると、重合体が急激に軟化することを指す。実際に、温度を変更してポリ乳酸系重合体からなる長繊維不織布の引張り試験を行うと、70℃以上では急激に長繊維不織布の強力が低下することがわかっている。
【0004】
ポリ乳酸系重合体のもつ上記の欠点を補うべく、
(1)アルキレンジオールやビスフェノールA誘導体等を共重合したポリエチレンテレフタレートをポリ乳酸にブレンドする方法、
(2)長鎖カルボン酸を共重合したポリエチレンテレフタレートをポリ乳酸にブレンドする方法、
(3)高速紡糸による配向結晶化構造を利用する方法、
などが提案されている。
【0005】
このうち、高速紡糸による配向結晶化構造を利用する方法では、例えば、重量平均分子量10万〜30万のホモポリL乳酸を紡糸温度210〜250℃で口金より吐出し、冷却風により糸を冷却固化させる。その後、繊維用油剤を付与し高速で引き取り、そのまま巻き取る。この時、巻き取ったポリ乳酸繊維の(200)面方向の結晶サイズが6nm以上となるように、高速の引き取り速度を設定する。そして、この高速紡糸により配向結晶化したポリ乳酸繊維を、さらに延伸温度100℃以上で延伸し、熱セットする(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−41433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリ乳酸系重合体により形成される長繊維不織布に耐熱性を付与するための新たな手法を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭利検討した結果、ポリ乳酸系重合体により形成される複合長繊維を構成繊維とする不織布において、特定の重合体をアロイ化した樹脂が複合長繊維の繊維表面の少なくとも一部を形成したものとすることで、その不織布に耐熱性を付与することができるということを見出して、本発明に到達した。
【0008】
すなわち上記課題を解決するための手段は下記の通りである。
1.融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体(A)と、ポリマーアロイとを成分とする複合長繊維を構成繊維としてスパンボンド法により形成された不織布であり、
前記ポリマーアロイが繊維表面の少なくとも一部を形成しており、
前記ポリマーアロイは、前記ポリ乳酸系重合体(A)と、融点が160℃〜230℃であるポリエステル共重合体(B)と、相溶化剤(C)とを含有するものであって、前記ポリ乳酸系重合体(A)が海成分を形成するとともに前記ポリエステル共重合体(B)が島成分を形成した海島構造を呈しており、
前記島成分のドメインサイズが、0.001〜0.1μmの範囲にあることを特徴とするポリ乳酸系長繊維不織布。
【0009】
2.ポリエステル共重合体(B)が、結晶性の樹脂であって、テレフタル酸成分と、エチレングリコ−ル成分と、ブタンジオ−ル成分と含むものであることを特徴とする1.のポリ乳酸系長繊維不織布。
【0010】
3.ポリマーアロイにおけるポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル共重合体(B)との構成比率が、(A)/(B)=95/5〜80/20(質量%)であることを特徴とする1.または2.のポリ乳酸系長繊維不織布。
【0011】
4.複合長繊維は、ポリ乳酸系重合体(A)が芯部を形成し、ポリマーアロイが鞘部を形成した、芯鞘型複合長繊維であることを特徴とする1.から3.までのいずれかのポリ乳酸系長繊維不織布。
【0012】
5.相溶化剤(C)が、エポキシ系鎖延長剤と、イソシアネート系鎖延長剤と、カルボジイミド系鎖延長剤と、グリシジルエーテル系鎖延長剤ととから選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする1.から4.までのいずれかのポリ乳酸系長繊維不織布。
【0013】
6.ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル共重合体(B)と相溶化剤(C)との合計量に対する相溶化剤(C)の含有量が0.01〜1質量%であることを特徴とする1.から5.までのいずれかのポリ乳酸系長繊維不織布。
【0014】
7.部分的な熱圧着部を有することにより一体化していることを特徴とする1.から6.までのいずれかのポリ乳酸系長繊維不織布。
8.構成繊維同士が三次元的に交絡されて一体化され不織布化されていることを特徴とする1.から6.までのいずれかのポリ乳酸系長繊維不織布。
【0015】
9.構成繊維同士がその接触部においてバインダー樹脂により接着されていることを特徴とする8.のポリ乳酸系長繊維不織布。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリ乳酸系長繊維不織布は、植物由来の高分子からなり、融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体(A)と、ポリマーアロイとを成分とする複合長繊維を構成繊維としてスパンボンド法により形成され、前記ポリマーアロイが繊維表面の少なくとも一部を形成しており、前記ポリマーアロイは、前記ポリ乳酸系重合体(A)と、融点が160℃〜230℃であるポリエステル共重合体(B)と、相溶化剤(C)とを含有するものであって、前記ポリ乳酸系重合体(A)が海成分を形成するとともに前記ポリエステル共重合体(B)が島成分を形成した海島構造を呈しており、前記島成分のドメインサイズが、0.01〜1μmである不織布であるため、高温雰囲気下に置かれた場合の耐熱性が良好である。このため、自動車用内装材等の耐熱性が要求される用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のポリ乳酸系長繊維不織布は、融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体(A)と、ポリマーアロイとを成分とする複合長繊維を構成繊維として形成された不織布である。
【0018】
まず、複合長繊維の一方の成分であるポリ乳酸系重合体(A)について説明する。
【0019】
本発明の不織布に用いられるポリ乳酸系重合体(A)としては、ポリ−D−乳酸と、ポリ−L−乳酸と、D−乳酸とL−乳酸との共重合体と、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、D−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体との群から選ばれる重合体、あるいはこれらのブレンド体が挙げられる。共重合のためのヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられるが、これらの中でも特に、ヒドロキシカプロン酸やグリコール酸が、分解性能や低コスト化の点から好ましい。
【0020】
本発明においては、上記ポリ乳酸系重合体(A)は、融点が150℃以上の重合体あるいはこれらのブレンド体であることが必要である。ポリ乳酸系重合体(A)の融点が150℃以上であることで、高い結晶性を有しているため、所要の耐熱性を発揮することができる。
【0021】
ポリ乳酸のホモポリマーであるポリ−L−乳酸やポリ−D−乳酸の融点は、約180℃である。ポリ乳酸系重合体として、L−乳酸とD−乳酸との共重合体を用いる場合には、共重合体の融点が150℃以上となるようにモノマー成分の共重合比率を決定する。すなわち、L−乳酸とD−乳酸との共重合比が、モル比で、(L−乳酸)/(D−乳酸)=5/95〜0/100、あるいは(L−乳酸)/(D−乳酸)=95/5〜100/0であることにより、そのポリ乳酸系重合体(A)の融点が150℃以上になる。共重合比率が前記範囲を外れると、共重合体の融点が150℃未満となり、このため非晶性が高くなって、本発明の目的を達成し得ないこととなる。
【0022】
複合長繊維のもう一方の成分であるポリマーアロイについて説明する。
このポリマーアロイは、繊維表面の少なくとも一部を形成している。そして、このポリマーアロイは、上述の融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体(A)と、融点が160℃〜230℃であるポリエステル共重合体(B)と、相溶化剤(C)とを含有するものであって、前記ポリ乳酸系重合体(A)が海成分を形成するとともに前記ポリエステル共重合体(B)が島成分を形成した海島構造を呈している。島成分は、そのドメインサイズが、0.001〜0.1μmの範囲にあることが必要である。
【0023】
ポリエステル共重合体(B)としては、テレフタル酸成分と、エチレングリコ−ル成分と、ブタンジオ−ル成分とを含むものを用いることができる。これらを成分とするポリエステル共重合体(B)は、結晶性であるので、明確な結晶融点を有する(融解吸熱曲線を描いた際に、明確な融点ピークを示す)。このため、このポリエステル共重合体(B)を用いて得られる長繊維を構成繊維とする不織布は、熱が付与された場合に、結晶性が高いために熱収縮が生じにくい。したがって、この長繊維を構成繊維とするウエブや不織布は、熱接着処理を施した場合に繊維が収縮することがなく、寸法安定性が良い。また、高温雰囲気下でも繊維の強度、伸度の低下が少ないため、この繊維からなる不織布は、寸法安定性が良好で、機械的強力の低下が少なく、安定した品質を保つことができる。
【0024】
またポリエステル共重合体(B)は、上記3成分を含んだアルキレンテレフタレート単位にさらにε−カプロラクトンを共重合したものであってもよい。ε−カプロラクトンを共重合することにより、結晶性を損なうことなく、融点を調整することができる。なお、ポリエステル共重合体(B)中のε−カプロラクトン単位は、他の構成単位とランダム共重合したものであってもよいし、ブロック共重合したものであってもよい。
【0025】
ポリエステル共重合体(B)の融点は、本発明の不織不を高温雰囲気下で用いるときの耐熱性を考慮して、160℃以上であることが必要であり、180℃以上であることが好ましい。融点の上限は230℃である。その理由は、ポリ乳酸系重合体(A)との融点差が大きくならないようにするためである。230℃を超えると、ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル共重合体(B)との融点差が大きくなり、溶融紡糸工程においてポリ乳酸系重合体(A)の熱分解が生じる恐れがある。このため、ポリエステル共重合体(B)の融点の好ましい範囲は180℃〜200℃である。なお、ポリエステル共重合体(B)が明確な融点を示さないときは、その軟化点を融点とみなす。
【0026】
ポリエステル共重合体(B)は、上記の範囲の融点となるように選定されるものであるが、テレフタル酸成分、エチレングリコ−ル成分、ブタンジオ−ル成分を重合することにより得ることができる。
【0027】
ポリマーアロイにおいては、ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル共重合体(B)が均一にブレンドされていることが重要である。ここで、均一にブレンドされているとは、以下の状態をいう。すなわち、長繊維不織布を構成する長繊維の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)(例えば2万倍)により観察すると、いわゆる海島構造を採っており、しかも島成分を構成するポリエステル共重合体(B)のドメインサイズが直径換算(ドメインを円と仮定して、ドメインの面積から換算される直径)で0.001〜0.1μmまで小さくなっている状態をいう。島成分のドメインサイズを前記範囲とすることで、不織布の耐熱性を向上させることができる。海成分を構成するポリ乳酸系重合体(A)と島成分を構成するポリエステル共重合体(B)との接着性は、島成分のドメインサイズが小さいほど良好である。この接着性が良好であると、高速紡糸を必要とする長繊維不織布の製造時の延伸張力に耐えることができる。
【0028】
しかし、島成分のドメインサイズが0.001μmよりも小さいと、不織布としての耐熱性が劣る傾向となる。また、島成分のドメインサイズが0.1μmを超える場合は、本発明のポリ乳酸系長繊維不織布を構成する繊維の表面の面積に対し、ドメインサイズが大きくなり過ぎるため、高速紡糸の際に欠点となってしまい、製糸性が悪化する。よって、島ドメインのサイズは、0.005〜0.05μmであることが好ましい。
【0029】
このようなドメインサイズとするためには、溶融紡糸時に用いる、ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル共重合体(B)とを成分とするポリマーアロイチップにおいて、島成分を構成するポリエステル共重合体(B)のドメインサイズが平均径0.5μm未満かつ最大径1.0μm未満であって、海成分であるポリ乳酸系重合体(A)中に微分散したものを用いるとよい。これにより牽引速度5000m/分程度の高速紡糸を安定して行うことができる。
【0030】
ポリマーアロイにおけるポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル共重合体(B)とのブレンド比率は、(A)/(B)=95/5〜80/20であることが好ましい。ポリエステル共重合体(B)のブレンド比率が5質量%未満であると、このポリエステル共重合体(B)を配合する効果が奏されにくく、耐熱性の向上が顕れにくくなる。反対にポリエステル共重合体(B)のブレンド比率が20質量%を超えると、ポリエステル共重合体(B)がポリ乳酸系重合体(A)中に微分散されにくくなり、このため、製糸性に劣りやすくなるとともに得られる繊維の強度が劣りやすくなる傾向が生じる。
【0031】
本発明のポリ乳酸系長繊維不織布は、ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル共重合体(B)と含むポリマーアロイにおいて、海成分のポリ乳酸系重合体(A)と島成分のポリエステル共重合体(B)とが実質的に独立に存在していることが重要である。しかし、通常、ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル共重合体(B)とは相溶性が悪く、両者を混練しただけでは、本発明の如く長繊維不織布を製造することはおろか、ポリマーアロイをチップ化することすらままならない。そこで本発明では、ポリ乳酸系長繊維不織布に使用されるポリマーアロイが相溶化剤(C)を含有するものとした。これによれば、ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル共重合体(B)との界面接着性を飛躍的に向上させることで、高速製糸が可能となり、高速にて牽引するスパンボンド法によりポリ乳酸系不織布を製造することができ、得られた不織布の耐熱性を向上することができる。
【0032】
相溶化剤(C)は、ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル共重合体(B)との界面接着性を向上させるものであれば特に限定されるものではないが、一般的に知られている鎖延長剤を最も効果的に適用することができる。相溶化剤は、エポキシ基、カルボジイミド基、イソシアネート基、無水マレイン酸基などの、鎖延長を伴う反応性を持つものであることが不可欠である。
【0033】
このような相溶化剤としては、エポキシ系鎖延長剤、イソシアネート系鎖延長剤、カルボジイミド系鎖延長剤、グリシジルエーテル系鎖延長剤などがある。
エポキシ系鎖延長剤の具体例としては、Joncryl ADR4300,4368(BASF社製)を挙げることができる。
【0034】
イソシアネート系鎖延長剤としては、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様)6〜20の芳香族ジイソシアネート、炭素数2〜18の脂肪族ジイソシアネート、炭素数4〜15の脂環式ジイソシアネート、炭素数8〜15の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体及びこれらの2種以上の混合物が使用できる。イソシアネートの具体例としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、リジントリイソシアネート等が挙げられる。これらのうち、好ましいのは、リジントリイソシアネート、TDI、HDI、IPDIである。特に好ましいのは、リジントリイソシアネートである。
【0035】
カルボジイミド系鎖延長剤としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2,6,2´,6´−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロへキシルカルボジイミド、N,N´ベンジルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o―イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6―ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2―エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2―イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,4,6―トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2―イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。中でもN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2,6,2´,6´−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドが好ましい。具体例としては、スタバックゾールI(ラインへミー社製)、EN−160(松本油脂社製)、LA−1(日清紡社製)等を挙げることができる。
【0036】
グリシジルエーテル系鎖延長剤としては、メタクリル酸グリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。これらのうち、特に好ましいのはポリグリセロールポリグリシジルエーテルである。
【0037】
これらグリシジル基を持つ化合物をモノマー単位とした重合体や、主鎖となる重合体に対してグリシジル基がグラフト共重合されている化合物、具体的にはモデイパーA4200(日本油脂社製)も挙げられる。またこれらモノマー単位の他に、長鎖アルキルアクリレートなどを共重合して、グリシジル基の反応性を制御することもできる。
【0038】
相溶化剤(C)は、上記から選ばれた1種以上の化合物を任意に選択したものであることが好ましい。
相溶化剤(C)の添加量は、使用する化合物の反応性基の単位質量当たりの当量、溶融時の分散性や反応性、島成分のドメインの大きさ、ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル共重合体(B)とのブレンド比などにより、適宜決めることができる。界面剥離抑制の観点にもとづけば、ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル共重合体(B)と相溶化剤(C)との合計量(100質量%)に対し、0.01質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.1質量%以上である。相溶化剤(C)の添加量が少なすぎると、ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル共重合体(B)との界面への拡散、反応量が少なく、界面接着性の向上効果が限定的となる。
【0039】
一方、相溶化剤(C)が繊維の基材となるポリ乳酸系重合体(A)およびポリエステル共重合体(B)の特性や製糸性を阻害することなく所要の性能を発揮させるためには、その添加量は1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
本発明においては、ポリマーアロイが、複合繊維の表面の少なくとも一部を形成する。このような繊維を構成するための繊維断面形態として、例えば、ポリ乳酸系重合体(A)とポリマーアロイとが貼り合わされたサイドバイサイド型複合断面、ポリ乳酸系重合体(A)が芯部を形成しポリマーアロイが鞘部を形成してなる芯鞘型複合断面、ポリ乳酸系重合体(A)とポリマーアロイとが繊維表面に交互に存在する分割型複合断面や多葉型複合断面等が挙げられる。
【0041】
ポリ乳酸系重合体(A)が芯部を形成し、ポリマーアロイが鞘部を形成した芯鞘型複合断面である場合において、芯部と鞘部の複合比(質量比)は、芯部/鞘部=3/1〜1/3であることが好ましい。芯部の比率が3/1を超えると、ポリエステル共重合体(B)を含有した鞘部の比率が少なくなりすぎるため、高温雰囲気下における不織布物性が劣る傾向となる。一方、芯部の比率が1/3未満となると、得られる不織布の機械的強度が不十分なものとなる。
【0042】
本発明の不織布は、前述した複合繊維が堆積されたスパンボンド不織布である。不織布の形態としては、少なくとも繊維表面が溶融または軟化することにより繊維同士が熱接着して形態保持しているものがよいが、構成繊維同士が交絡により形態保持しているものでもよい。熱接着の形態としては、繊維同士の接点において、繊維表面の溶融または軟化した重合体を介して熱接着したものであってもよいし、また、ウエブを熱エンボス装置に通すことにより、部分的に形成される熱接着部と、非熱接着部とを有し、熱接着部において、繊維を構成する重合体の少なくとも一部が溶融または軟化して不織布として形態保持しているものであってもよい。
【0043】
また、本発明の不織布の形態として、熱エンボス装置を用いた仮熱圧着処理の後に、ニードルパンチなどの三次元交絡処理により交絡一体化させた形態を採用することもできる。この三次元交絡処理を施すと、部分的な仮圧着部を構成していた繊維が仮圧着部から一部あるいは全部剥離して自由な状態になり、それによって繊維同士が十分に三次元的に交絡することになる。
【0044】
さらに、ニードルパンチ処理により交絡一体化されたポリ乳酸繊維に必要に応じてバインダー樹脂を所望量付着させれば、構成繊維同士がその接触部において強固に付着した不織布を得ることができる。
【0045】
高速紡糸に適したポリマーの粘度を選択することも、本発明における好ましい条件である。すなわち、ポリ乳酸系重合体(A)およびポリマーアロイの粘度は、ASTM−D−1238に記載の方法に準じて、温度210℃、荷重20.2N(2160gf)で測定したメルトフローレイト(以下、「MFR」と略記する)が10〜80g/10分であることが好ましく、20〜70g/10分であることがさらに好ましい。MFR1が10g/10分未満であると、粘性が高すぎて、不織不の構成繊維の製造工程において溶融時のスクリューへの負担が大きくなる。反対にMFRが80g/10分を超える場合は、粘度が低すぎるため紡糸工程において糸切れが多発しやすく、操業性を損なう傾向となる。
【0046】
本発明の不織布を構成する複合繊維の単糸繊度は、2〜11デシテックスであることが好ましい。複合繊維の単糸繊度が2デシテックス未満になると、紡糸工程において紡出糸条が延伸張力に耐えきれずに糸切れが頻繁に発生し、操業性が悪化しやすくなる。一方、複合繊維の単糸繊度が11デシテックスを超えると、紡出糸条の冷却性に劣る傾向となり、このため糸条が熱により密着した状態で開繊装置から出てくるようになり、その結果、得られる不織布の品位が非常に劣ることとなる。これらの理由により、単糸繊度は、3〜8デシテックスであることがより好ましい。
【0047】
本発明の不織布の目付は、その不織布の用途によって適宜選択すればよく、特に限定しないが、一般的には10〜300g/mの範囲であることが好ましい。より好ましくは15〜200g/mの範囲である。目付が10g/m未満では、地合および機械的強力に劣り、実用的ではない。逆に、目付が300g/mを超えると、コスト面で不利となる。
【0048】
本発明の不織布を構成する複合繊維を形成するためのポリ乳酸系重合体(A)および、またはポリエステル共重合体(B)には、本発明の目的を大きく損なわない限りにおいて、結晶核剤、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材等を添加することが可能である。例えば、結晶核剤としてポリ乳酸系重合体(A)にタルクを配合し、また開繊性のさらなる向上のためにポリエステル共重合体(B)に滑剤を配合することが好適である。
【0049】
次に、本発明のポリ乳酸系長繊維不織布の好ましい製造方法について説明する。本発明のポリ乳酸系長繊維不織布は、スパンボンド法によって製造される。
すなわち、ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル共重合体(B)とエポキシ系鎖延長剤などの相溶化剤(C)とを別々に計量しながら、220〜230℃で2軸押出混練機を用いて混練し、ポリマーアロイを製造する。島ドメインサイズを小さくする方法としては、上記範囲で混練温度が低い方がよく、剪断速度が高い方がよく、滞留時間が短い方がよい。
【0050】
そして、ポリ乳酸系重合体(A)の重合体チップと、上記のようにして得られたポリマーアロイの重合体チップとを個別に溶融計量し、ポリマーアロイが複合繊維の表面の少なくとも一部を形成することが可能な複合紡糸口金を介して溶融紡糸し、この紡糸口金より紡出した紡出糸条を従来公知の横吹き付けや環状吹き付け等の冷却装置を用いて冷却せしめた後、吸引装置を用いて牽引細化して引き取る。
【0051】
牽引細化の際の牽引速度は、3000〜6000m/分に設定することが好ましく、4000〜5000m/分であることがさらに好ましい。牽引速度が3000m/分未満であると、糸条において、十分に分子配向が促進されず、得られる不織布の寸法安定性が劣りやすくなる。一方、牽引速度が6000m/分を超えると、牽引張力に耐えきれず、糸切れが発生しやすくなる。
【0052】
引き取った糸条を開繊した後、スクリーンコンベアなどの移動式捕集面上に堆積させて不織ウエブを形成する。その後、公知の不織布化手段により不織布とすればよく、例えばこの不織ウエブに熱処理を施し、少なくとも繊維表面のポリエステル共重合体(B)を軟化または溶融させることによって繊維同士を熱接着するとよい。熱接着の手法としては、熱エンボス装置などの熱圧着装置を用いて部分的に熱圧着を施すことが好適である。
【0053】
熱エンボス装置におけるロールの温度すなわちロールの表面温度は、低融点のポリエステル共重合体(B)が溶融または軟化する温度に設定すればよく、詳細には処理時間や線圧等に応じて適宜選択する。具体的には、ロールの表面温度は、低融点のポリエステル共重合体(B)の融点よりも20℃低い温度から20℃高い温度までの範囲に設定することが好ましい。ただし、繊維形成成分のポリ乳酸系重合体(A)が溶融または軟化して本来の機能を果たさなくなることが無いように、ロールの表面温度は、このポリ乳酸系重合体の融点よりも30℃以上低いことが好ましく、40℃以上低いことがさらに好ましい。
【0054】
熱エンボス装置におけるロールの温度を、低融点のポリエステル共重合体(B)の融点よりも20℃を超えて低い温度に設定すると、熱接着成分であるポリエステル重合体(B)が十分に溶融または軟化しないため、十分に接着できずに強度低下が生じやすく、また毛羽立ちやすいものとなる。一方、ポリエステル共重合体(B)の融点よりも20℃高い温度を超えて高い温度に設定すると、ポリ乳酸系重合体(A)が熱の影響を受けやすくなって、熱収縮が発生したり、機械的強力に乏しい不織布となってしまったりする。
【0055】
上記の温度条件で熱処理することにより、繊維形成成分としてのポリ乳酸系重合体(A)が熱収縮等の熱の影響を受けない温度で熱処理することができるため、熱加工安定性が良好で、得られる不織布の柔軟性を向上させることができる。
【実施例】
【0056】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例における各種物性値の測定は、以下の方法により実施した。
【0057】
(1)融点(℃)
示差走査型熱量計(パーキンエルマ社製、DSC−2型)を用いて、試料質量を5mgとし、昇温速度を10℃/分として測定した。得られた吸熱曲線の最大値を与える温度を融点(℃)とした。
【0058】
(2)ポリ乳酸系重合体(A)およびポリマーアロイのメルトフローレイト(g/10分)
ASTM−D−1238(E)に記載の方法に準じて、温度210℃、荷重20.2N(2160gf)の条件で測定した。
【0059】
(3)ポリエステル共重合体(B)の相対粘度
フェノールと四塩化エタンとの混合溶媒100ccに試料0.5gを溶解し、オストワルド粘度計を用いて測定した。
【0060】
(4)繊度(デシテックス)
ウエブ状態における繊維50本の径を光学顕微鏡にて測定し、密度補正して求めた平均値を繊度とした。
【0061】
(5)目付(g/m
標準状態の試料から長さ10cm、幅5cmの試料片10点を作成し、各試料片の質量(g)を秤量し、得られた値の平均値を単位面積あたりに換算して、目付(g/m)とした。
【0062】
(6)合成繊維中の島ドメインのサイズ
長繊維不織布を構成する繊維の繊維軸と垂直の方向に超薄切片を切り出し、可視硬化樹脂(エポキシ包埋材)中に数時間浸漬した後、硬化させて、切片を採取した。その切片を用いて、日本電子社製の、JEM−1230 TEM装置によって、加速電圧100kV、電流58μA、照射絞り3にて透過測定で写真撮影(2万倍)した。そのときの島ドメイン100個の長さを測定し、その平均値をドメインサイズとした。
【0063】
(7)引張強力(N/5cm幅)および伸度(%)
JIS−L−1906に準じて測定した。すなわち、不織布のタテ方向(MD)およびヨコ方向(CD)のそれぞれについて、長さ20cm、幅5cmの試料片10点を作製し、定速伸張型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロンUTM−4−1−100)を用い、つかみ間隔10cm、引張速度20cm/分で伸張し、得られた切断時破断荷重(N/5cm幅)の平均値を引張強力(N/5cm幅)とし、切断時の破断伸度の平均値を伸度(%)とした。
【0064】
(8)高温雰囲気下での引張強力(N/5cm幅)および伸度(%)
90℃と130℃の高温雰囲気下で、上記(6)と同じ方法によって、引張強力(N/5cm幅)と伸度(%)とを求めた。
【0065】
(実施例1)
融点が168℃、MFRが20g/10分の、L−乳酸/D−乳酸=98.4/1.6モル%のL−乳酸/D−乳酸共重合体(以下、「P1」と略記する)を、芯成分として用意した。
【0066】
鞘成分のポリマーアロイは、次のようにして得た。すなわち、テレフタル酸成分と、エチレングリコールと1,4-ブタンジオール成分とを含む、相対粘度が1.49、融点が180℃の、日本エステル社製ポリエステル共重合体(以下、「P2」と略記する)を用いた。そして、このP2と、上述のP1と、相溶化剤としてのBASF社製のエポキシ系鎖延長剤、ADR4300(以下、「C1」と略記する)とを、P1:P2:C1=89.9:10:0.1(質量%)でブンレンドし、230℃に温度設定された二軸混練機(池貝社製、PCM-30)に供給した。その後、0.4mm径×3孔のダイスよりストランドを押し出した。引き続きこのストランドを冷却バスで冷却した後、ペレタイザーでカットして、鞘成分のポリマーアロイ(以下、「P3」と略記する)を採取した。得られたポリマーアロイのMFRは、16g/10分であった。
【0067】
さらに、P1をベースにして結晶核剤としてのタルク(TA)を20質量%練り込み含有させたマスターバッチを用意した。
そして、P1とP3との複合比が、質量比で、P1:P3=1:1となるように、またP1とP3の溶融重合体中にそれぞれタルクが0.5質量%含まれるように、個別に計量した後、それぞれを個別のエクストルーダー型押出機を用いて温度230℃で溶融し、P1が芯部に配されP3が鞘部に配された鞘芯鞘型複合繊維断面となるように、単孔吐出量1.5g/分の条件で溶融紡糸した。
【0068】
紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアーサッカーにて牽引速度5000m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上にウエブとして捕集堆積させた。堆積させた複合長繊維の単糸繊度は、3.0デシテックスであった。
【0069】
次いで、このウエブをエンボスロールと表面平滑な金属ロールとからなる熱エンボス装置に通して熱処理を施し、目付100g/mのポリ乳酸系長繊維不織布を得た。熱エンボス条件としては、両ロールの表面温度を135℃とし、エンボスロールは、個々の面積が0.6mmの円形の彫刻模様で、圧接点密度が20個/cm、圧接面積率が15%のものを用いた。
【0070】
得られた不織布の性能を表1に示す。なお、得られた不織布を構成する繊維の横断面には、0.001〜0.1μmの範囲のドメインサイズの島成分が存在していた。
【0071】
【表1】

【0072】
(実施例2)
P1とP3との複合比が質量比でP1:P3=1:2となるようにした。それ以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
【0073】
得られた不織布の性能を表1に示す。
【0074】
(実施例3)
鞘成分を構成するポリマーアロイのポリエステル共重合体(B)を、テレフタル酸成分と、エチレングリコールと1,4-ブタンジオール成分とを含み、相対粘度が1.44、融点が200℃の、日本エステル社製のポリエステル共重合体(以下、「P4」と略記する)とした。また相溶化剤の添加量を変更し、P1:P4:C1=89.8:10:0.2(質量%)とした。それ以外は実施例1と同じ条件で、ポリマーアロイ(以下、「P5」と略記する)を得た。
【0075】
そして、それ以外は実施例1と同様にして、ポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
得られた不織布の性能を表1に示す。
(実施例4)
実施例1と比べて、長繊維ウエブとして捕集堆積する際の目付を126g/mとした。また、得られたウエブを熱エンボス処理するときの条件として、両ロールの表面温度を95℃とし、線圧を30kg/cmとした。それ以外は実施例1と同様にして、ポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
【0076】
この後、RPD40#のニードル針を植え込んだニードルパンチ機械にこの不織布を通し、針密度45回/cmでニードルパンチ処理を行って、不織布の構成繊維同士を機械的に交絡させた。次いで、バインダーの付着量(固形分)が長繊維不織布の質量に対して10質量%となるように、アクリル系バインダー樹脂液を付着させた。これによって、実施例4のポリ乳酸系長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の目付は140g/mであった。
【0077】
(比較例1)
融点が168℃、MFR1が70g/10分の、L−乳酸/D−乳酸=98.6/1.4モル%のL−乳酸/D−乳酸共重合体を計量した後、個別のエクストルーダー型押し出し機を用いて溶融し、紡糸温度210℃で単相型の繊維断面となるように、単孔吐出量1.7g/分の条件下で紡糸した。紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設置したエアーサッカーにて牽引速度5000m/分で牽引細化し、公知の開繊装置にて開繊し、移動するスクリューコンベア上に長繊維ウエブとして捕集堆積させた。その長繊維の単糸繊度は、3.3デシテックスであった。次いで、このウエブを、ロール温度135℃としたエンボスロールからなる部分熱圧接装置に通して部分的に熱圧接し、目付100g/mのポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
得られた不織布の性能を表1に示す。
【0078】
(比較例2)
比較例1と比べて、長繊維ウエブとして捕集堆積する際の目付を126g/mとした。また、得られたウエブを熱エンボス処理するときの条件として、両ロールの表面温度を100℃とし、線圧を30kg/cmとした。それ以外は比較例1と同じとして、ポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
【0079】
この後、RPD40#のニードル針を植え込んだニードルパンチ機械にこの不織布を通し、針密度45回/cmでニードルパンチ処理を行って、不織布の構成繊維同士を機械的に交絡させた。次いで、バインダーの付着量(固形分)が長繊維不織布の質量に対して10質量%となるように、アクリル系バインダー樹脂液を付着させた。これによって、比較例2のポリ乳酸系長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の目付は140g/mであった。
【0080】
実施例1〜4で得られた長繊維不織布は、実用的な機械的強力を備えたものであり、また比較例1、2と対比して高温下での強力保持率が良好であった。特に高温下での伸度が高いため、熱成型カーペットの一次基布などの、熱成型により特定の形に成型する用途に期待できるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体(A)と、ポリマーアロイとを成分とする複合長繊維を構成繊維としてスパンボンド法により形成された不織布であり、
前記ポリマーアロイが繊維表面の少なくとも一部を形成しており、
前記ポリマーアロイは、前記ポリ乳酸系重合体(A)と、融点が160℃〜230℃であるポリエステル共重合体(B)と、相溶化剤(C)とを含有するものであって、前記ポリ乳酸系重合体(A)が海成分を形成するとともに前記ポリエステル共重合体(B)が島成分を形成した海島構造を呈しており、
前記島成分のドメインサイズが、0.001〜0.1μmの範囲にあることを特徴とするポリ乳酸系長繊維不織布。
【請求項2】
ポリエステル共重合体(B)が、結晶性の樹脂であって、テレフタル酸成分と、エチレングリコ−ル成分と、ブタンジオ−ル成分と含むものであることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系長繊維不織布。
【請求項3】
ポリマーアロイにおけるポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル共重合体(B)との構成比率が、(A)/(B)=95/5〜80/20(質量%)であることを特徴とする請求項1または2記載のポリ乳酸系長繊維不織布。
【請求項4】
複合長繊維は、ポリ乳酸系重合体(A)が芯部を形成し、ポリマーアロイが鞘部を形成した、芯鞘型複合長繊維であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載のポリ乳酸系長繊維不織布。
【請求項5】
相溶化剤(C)が、エポキシ系鎖延長剤と、イソシアネート系鎖延長剤と、カルボジイミド系鎖延長剤と、グリシジルエーテル系鎖延長剤とから選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載のポリ乳酸系長繊維不織布。
【請求項6】
ポリ乳酸系重合体(A)とポリエステル共重合体(B)と相溶化剤(C)との合計量に対する相溶化剤(C)の含有量が0.01〜1質量%であることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項記載のポリ乳酸系長繊維不織布。
【請求項7】
部分的な熱圧着部を有することにより一体化していることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項記載のポリ乳酸系長繊維不織布。
【請求項8】
構成繊維同士が三次元的に交絡されて一体化され不織布化されていることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項記載のポリ乳酸系長繊維不織布。
【請求項9】
構成繊維同士がその接触部においてバインダー樹脂により接着されていることを特徴とする請求項8記載のポリ乳酸系長繊維不織布。

【公開番号】特開2009−144274(P2009−144274A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321453(P2007−321453)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】