説明

ポリ乳酸系長繊維不織布

【課題】肌触り性が良好であり、かつ柔軟な風合いを有するとともに機械的物性に優れた不織布を提供する。特に、使い捨ておむつや生理用品等の衛生用品、手術着などの各種医療材料、カイロなどの包装材料に適した柔軟な不織布を安定に提供できるようにする。
【解決手段】ポリ乳酸系長繊維にて構成された不織布である。この不織布は、モノグリセリドとカルボン酸アミドとの少なくともいずれか一方が付着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ乳酸系長繊維不織布に関し、たとえば使い捨ておむつや生理用品等の衛生用品、手術着などの各種医療材料、カイロ等の包装材料などに好適に用いることができるポリ乳酸系長繊維不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、使い捨ておむつや生理用品などに代表される衛生用品のための各部材、医療材料、包装材料として、種々の不織布が使われている。なかでもスパンボンド法によって得られる長繊維不織布は、比較的低目付であっても実用に耐え得るだけの強力を有し、かつ、柔軟性をも持ち合わせているため、重要な材料として認識されている。衛生材料、医療材料、包装材料のための不織布には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミドなどの樹脂が使用されている。ところが、近年の環境問題の深刻化に伴い、使い捨てにされる衛生用品の大量廃棄が問題視されるようになってきている。
【0003】
本出願人は、上記用途にて発生する大量廃棄や環境問題を考慮して、廃棄の際に環境への影響が少ないバイオマス素材であるポリ乳酸を使用した不織布を提案している(特許文献1)。特許文献1には、ポリ乳酸を主成分とする衛生材用の生分解性不織布が記載されている。特許文献1のものは、繊度を低くして低目付化を図ることで、ポリ乳酸系長繊維不織布としては柔軟なものとすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−242068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のものは、たとえばオムツのトップシートとして使用する場合には、ポリ乳酸のもつシャリ感について、まだ改善の余地がある。
そこで本発明は、肌触り性が良好であり、かつ柔軟な風合いを有するとともに機械的物性に優れた不織布を提供できるようにすることを目的とし、特に、使い捨ておむつや生理用品等の衛生用品、手術着などの各種医療材料、カイロなどの包装材料に適した柔軟な不織布を安定に提供できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するため本発明のポリ乳酸系長繊維にて構成された不織布は、モノグリセリドとカルボン酸アミドとの少なくともいずれか一方が付着されていることを特徴とする。
【0007】
モノグリセリドは一般に食品や化粧品において乳化剤として使用されており、カルボン酸アミドは例えば離型剤として知られている。本発明によれば、これらをポリ乳酸系長繊維にて構成された不織布に適用することで、その理由は明らかではないが、同不織布にすぐれた柔軟性を付与することが可能である。
【0008】
本発明によれば、上記不織布において、モノグリセリドが親油型モノステアリン酸グリセリルであることが好適である。
また本発明によれば、上記不織布において、カルボン酸アミドがステアリン酸アミドであることが好適である。
【0009】
また本発明によれば、上記不織布において、モノグリセリドとカルボン酸アミドとのいずれか一方または両方の付着量が0.025〜0.2質量%であることが好適である。
【0010】
また本発明によれば、上記不織布において、ポリ乳酸系長繊維が単相構造の繊維であることが好適である。あるいは、ポリ乳酸系長繊維が、ポリ乳酸とポリ乳酸以外の熱可塑性樹脂とで構成された複合繊維であることが好適である。後者の場合は、ポリ乳酸系長繊維は、ポリ乳酸が芯部に配されるとともにポリ乳酸以外の熱可塑性樹脂が鞘部に配された芯鞘型複合繊維であり、芯部のポリ乳酸よりも鞘部のポリ乳酸以外の熱可塑性樹脂の方が低融点であることが好適である。
【0011】
本発明の衛生材は、そのバックシートおよび/またはサイドギャザーが、上記のポリ乳酸系長繊維不織布を含む素材にて構成されていることを特徴とする。このようなものであると、同様に柔軟性に富んだ衛生材を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の不織布によると、ポリ乳酸系長繊維にて構成されているために機械的物性に優れるうえに、モノグリセリドとカルボン酸アミドとの少なくともいずれか一方が付着されているため柔軟な風合いを有して肌触り性が良好な不織布を得ることができる。
【0013】
しかも、上述のようにモノグリセリドおよびカルボン酸アミドは一般的に用いられているものであるために容易に入手することができる。このため、本発明によれば、使い捨ておむつや生理用品等の衛生用品、手術着などの各種医療材料、カイロなどの包装材料、べた掛けシートや農作物用包装材などの農業資材に適した柔軟な不織布を安定に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の不織布は、ポリ乳酸系長繊維にて構成されている。ポリ乳酸系長繊維としては、単相構造のものや複合構造のものを挙げることができる。
【0015】
単相構造のポリ乳酸系長繊維を形成するためのポリ乳酸系重合体としては、ポリ−D−乳酸と、ポリ−L−乳酸と、D−乳酸とL−乳酸との共重合体と、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、D−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体との群から選ばれる重合体、あるいはこれらのブレンド体等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの中でも、特にヒドロキシカプロン酸やグリコール酸が、分解性能や低コストの点から好ましい。
【0016】
本発明においては、上記ポリ乳酸系重合体であって、融点が150℃以上の重合体あるいはこれらのブレンド体を用いることが好ましい。融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体は、高い結晶性を有しているため、構成繊維同士を熱接着する際や不織布をヒートシール加工する際等の熱処理加工時に収縮が発生しにくく、また、熱処理加工を安定して行うことができるからである。さらに、不織布の耐熱性が優れるため、輸送時や保管時において不織布性能や形態の変化が生じ難いためである。
【0017】
ポリ乳酸のホモポリマーであるポリ−L−乳酸やポリ−D−乳酸の融点は、約180℃である。ポリ乳酸系重合体として、ホモポリマーでなく、共重合体を用いる場合には、共重合体の融点が150℃以上となるように、モノマー成分の共重合比率を決定するとよい。たとえば、L−乳酸とD−乳酸との共重合体の場合、L−乳酸とD−乳酸との共重合比が、モル比で、(L−乳酸)/(D−乳酸)=5/95〜0/100、あるいは(L−乳酸)/(D−乳酸)=95/5〜100/0のものは、融点が150℃以上である。共重合比率が前記範囲を外れると、共重合体の融点が150℃未満となり、非晶性が高くなる。
【0018】
上記のポリ乳酸系重合体は、数平均分子量が20000以上、好ましくは40000以上のものが、製糸性及び得られる糸条特性の点から好適に使用できる。
【0019】
ポリ乳酸系重合体には、結晶核剤が添加されていてもよい。結晶核剤としては、タルク、酸化チタン、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カーボンなどがあげられる。このような結晶核剤を添加すると、ポリ乳酸系重合体の結晶化が促進されて、衛生材用不織布とした際の耐熱性や機械的強力が向上することとなる。また、ポリ乳酸系重合体を紡糸する際に、紡出・冷却工程における糸条間の融着(ブロッキング)を防止できる。
【0020】
上記の理由により、本発明の不織布は、その構成繊維の結晶化度が10〜40%の範囲にあることが好ましい。この範囲の結晶化度を達成するためには、ポリ乳酸系重合体に対する結晶核剤の添加量は、0.1〜3.0質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0質量%の範囲である。
【0021】
ポリ乳酸系重合体には、結晶核剤だけでなく、顔料、艶消し剤、着色剤、難燃剤などの各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて添加しても良い。ただし、添加剤の添加量をあまり多くすると、繊維を紡出する際に製糸性が低下する。このため、添加剤は、ポリ乳酸系重合体に対し0.1〜3.0質量%の範囲で用いることが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0質量%の範囲である。
【0022】
複合構造のポリ乳酸系長繊維は、ポリ乳酸と、ポリ乳酸以外の熱可塑性樹脂とで構成される。
【0023】
この複合構造を構成するポリ乳酸としては、上記の単相構造の長繊維を構成するものと同じものを用いることができる。
【0024】
複合構造を構成するポリ乳酸以外の熱可塑性樹脂としては、任意のものを用いることができる。その複合形態も任意である。なかでも、ポリ乳酸以外の熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸よりも低融点であって、複合長繊維の表面の少なくとも一部を形成している形態が好ましい。この熱可塑性樹脂が熱接着成分として機能することができるためである。そのためには、両者の融点差が5℃以上あるとより好ましい。これにより、熱接着のための熱処理加工時にポリ乳酸系重合体が熱の影響を受け難くなるためである。なお、融点を有さない重合体については、軟化点を融点とみなすことができる。
【0025】
そのような複合形態(繊維横断面形態)としては、たとえば、ポリ乳酸系重合体と熱可塑性樹脂とが貼り合わされたサイドバイサイド型、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成し熱可塑性樹脂が鞘部を形成する芯鞘型、熱可塑性樹脂が芯部を形成しポリ乳酸系樹脂が鞘部を形成する芯鞘型、ポリ乳酸系重合体と熱可塑性樹脂とが繊維表面に交互に存在する分割型や多葉型等が挙げられる。熱可塑性樹脂に熱接着成分としての役割を担わせることを考慮すると、熱可塑性樹脂が繊維の全表面を形成している芯鞘型であることが好ましい。
【0026】
このように熱接着成分として機能する熱可塑性樹脂として、オレフィン系重合体や、ポリブチレンサクシネート[例えば、商品名:GSPla、三菱化学社製]などを、好適に用いることができる。
【0027】
熱可塑性樹脂として、オレフィン系重合体を特に好適に用いることができる。本発明の不織布に用いることができるオレフィン系重合体としては、ポリエチレンもしくはポリプロピレンが好適である。また、チグラーナッタ触媒もしくはメタロセン触媒のいずれの触媒を用いて重合されたポリオレフィンを用いることができる。メタロセン触媒を用いて重合されたポリオレフィンは、ポリマーの分子量をコントロールすることが容易であり、分子量分布をシャープにすることができるため、構成繊維同士を熱接着する際や不織布をヒートシール加工する際等の熱処理加工において、熱処理温度を決定しやすいので好ましい。
【0028】
本発明の不織布の構成長繊維のためのオレフィン系重合体として、ショ糖、澱粉、セルロース等のバイオマスを原料とし、発酵技術によってエタノールを経て得られたバイオマス由来のポリエチレン、ポリプロピレンを好適に用いることができる。これらを製造する方法として、バイオマスから得られたエタノールを原料とし、触媒を用いる化学反応によりエチレン、プロピレンを生産する方法を挙げることができる。得られたバイオマス由来のエチレン、プロピレンは、公知の重合技術によって、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンとされる。また、ポリプロピレンを生産する方法として、上記したエタノールから生産する方法の他に、バイオマスを原料として、発酵技術によりプロパノールを得て、触媒を用いる化学反応によりプロピレンを生産し、次いで、公知の重合技術によりポリプロピレンを得る方法を挙げることができる。バイオマスを原料とした重合体かどうかは、放射性炭素を含んでいるか否かを測定することによって識別することができる。バイオマス素材には、極微量ではあるが炭素14が含まれ、石油を原料とした重合体にはこれが含まれない。測定方法は、ASTM−D−6866に記載の加速器質量分析(B法)による炭素14濃度測定法を用いるとよい。
【0029】
本発明の不織布のためのポリオレフィン系重合体としてバイオマスを原料とするものを用いると、ポリ乳酸系重合体もまたバイオマスを原料とするものであるため、複合長繊維自体がバイオマスを原料とするものとなって、環境に配慮した素材ということができる。
【0030】
複合形態の繊維におけるポリ乳酸系重合体と熱可塑性樹脂との複合比(質量比)は、ポリ乳酸系重合体/熱可塑性樹脂=4/1〜1/4であることが好ましい。この範囲とすることにより、たとえば芯鞘複合形態の場合は、鞘部の熱可塑性樹脂を熱接着剤として十分に機能させることができ、不織布は良好な形態保持性や柔軟性を発揮することができる。また、芯部の作用によって不織布の機械的強度を十分に保持させることができる。
【0031】
本発明の不織布は、スパンボンド法により得られるスパンボンド不織布であることが、生産性等の点から好ましい。このため、用いる重合体については、高速紡糸に適する粘度を選択する。ポリ乳酸系重合体の粘度は、ASTM−D−1238に記載の方法に準じて、温度210℃、荷重20.2N(2160gf)で測定したメルトフローレート(以下、「MFR1」と略記する。)が10〜80g/10分であることが好ましく、20〜70g/10分であることがさらに好ましい。MFR1が10g/10分以上であると粘性が高過ぎることがないため、製造工程において溶融時のスクリューへ大きな負担をかけることなく製造することが可能である。また、MFR1が80g/10分以下であると粘性が小さくなり過ぎることがないため、紡糸工程において糸切れが発生しにくく、操業性が良好となる。
【0032】
熱可塑性樹脂がポリオレフィンとしてのポリエチレンである場合には、ASTM−D−1238に記載の方法に準じて、温度190℃、荷重20.2N(2160gf)で測定したメルトインデックス(以下、「MI」と略記する。)が5〜90g/10分の範囲であるポリエチレンが好適に用いられる。MIが5g/10分以上のポリエチレンを用いることにより、紡糸の際に、溶融温度を極端に高くしなくとも高速にて溶融紡糸を行うことができる。なお、溶融温度を極端に高くして溶融紡糸を行うと、原料重合体の熱分解が促進し、紡糸口金面に汚れが付着しやすく、操業性が著しく損なわれることとなる。一方、MIが90g/10分以下のポリエチレンを用いることにより、強度の高い繊維を得ることができる。このような理由によって、20〜80g/10分のポリエチレンを用いることがさらに好ましい。
【0033】
熱可塑性樹脂がポリオレフィンとしてのポリプロピレンである場合には、ASTM−D−1238に記載の方法に準じて、温度230℃、荷重20.2N(2160gf)で測定したメルトフローレート(以下、「MFR2」と略記する。)が5〜90g/10分の範囲であるポリプロピレンが好適に用いられる。MFR2が5g/10分以上のポリプロピレンを用いることにより、上述したポリエチレンのMIが5g/10分以上の場合と同様に、紡糸の際に溶融温度を極端に高くしなくても高速で溶融紡糸を行うことができる。一方、MFR2が80g/10分以下であることにより、上述したポリエチレンのMIが90g/10分以下の場合と同様に、強度の高い繊維を得ることができる。このような理由によって、MFR2が20〜80g/10分のポリプロピレンを用いることがさらに好ましい。
【0034】
本発明の不織布を構成する複合長繊維の単糸繊度は、5.0デシテックス以下であることが好ましい。単糸繊度を5.0デシテックス以下とすることにより、肌に接した際に硬さを感じにくく、例えば衛生用品の部材として用いても不快感をおぼえにくい。このような理由から、3.0デシテックス以下であることがより好ましい。単糸繊度は小さい程、肌触り性が良好となるため、下限は特に限定しないが、直接紡糸を行う製法(スパンボンド法)上の観点から、1.0デシテックス程度がよい。
【0035】
本発明の不織布は、構成長繊維同士が熱接着により一体化したものであることが好ましく、特に熱エンボス加工により熱接着していることが好ましい。熱エンボス加工による不織布は、エンボス点(不織布に形成された凹部)では、熱と圧力が付与されているが、非熱エンボス点は、熱や圧力の影響をほとんど受けていないため、肌触りの良好な不織布となるからである。また、機械的特性も良好であり、形態安定性に優れるためである。
【0036】
本発明の不織布の目付は、その用途に応じて適宜選択すればよいため、特に限定しない。しかし、一般的には15〜80g/mの範囲が好ましい。
本発明のポリ乳酸系長繊維不織布は、モノグリセリドとカルボン酸アミドとの少なくともいずれか一方が付着されたものである。
【0037】
このうち、モノグリセリドは、グリセリンの3つのヒドロキシ基のうち1つないし2つに、C12〜C18の脂肪酸すなわちC12のラウリン酸〜C18のステアリン酸が、エステル結合したものが好ましい。モノグリセリドは、食品添加物として広く安全性が高いことが知られており、本発明の不織布では、同不織布に柔軟性を付与するという本来の目的のほかに、不織布に防かび性を付与するために加えることができる。
【0038】
上述のカルボン酸アミドの具体例としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、N-オレイルパルミチン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスカプリン酸アミド、ヘキサメチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド、m-キシリレンビスカプリン酸アミド、m-キシリレンビスラウリン酸アミド、m-キシリレンビスステアリン酸アミド、m-キシリレンビスオレイン酸アミド、m-キシリレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミドなどを挙げることができる。なかでも、ステアリン酸アミドが好ましい。
【0039】
不織布へのモノグリセリドとカルボン酸アミドとのいずれか一方または両方の付着量は、0.025〜0.2質量%であることが必要である。0.025質量%未満であると、付着量が不足して、本発明の目的とする柔軟な不織布を得ることができない。反対に付着量が0.2質量%を超えると、柔軟な不織布を得ることはできるが、不織布を構成する繊維同士の間の滑りが起こりすぎることになって、不織布の機械的物性の極端な低下をまねく恐れがある。
【0040】
以下、本発明のポリ乳酸系長繊維不織布の製造方法について説明する。
不織布自体は、スパンボンド法や、高圧水流処理による交絡法などの、公知の方法によって製造することができる。
【0041】
次に、得られた不織布に、所定量のモノグリセリドまたは/およびカルボン酸アミドを付着させる。その方法としては、たとえばモノグリセリドまたは/およびカルボン酸アミドを溶媒中に分散してなるエマルション溶液を不織布に噴霧、含浸、キスコートする方法を挙げることができる。このうちキスコート法は、水平方向の回転式のドライブロールの底部をエマルション中に浸漬させ、ドライブロールの回転によってエマルションを汲み上げ、ロールの頂部に不織布を接触させることで、汲み上げたエマルションを不織布に付着させる方法である。不織布にエマルション溶液を付着させた後は、乾燥処理を施す。
【0042】
本発明のポリ乳酸系長繊維不織布は、衛生材に好適に用いることができる。その場合は、衛生材のバックシートおよび/またはサイドギャザーに特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0043】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
以下の実施例、比較例における各種物性値の測定は、以下の方法により実施した。
【0044】
(1)融点(℃):示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製、DSC-2型)を用いて、試料質量を5mgとし、昇温速度を10℃/分として測定した。そして、得られた融解吸熱曲線の最大値を与える温度を融点(℃)とした。
【0045】
(2)繊度(デシテックス):ウエブ状態における50本の繊維径を光学顕微鏡にて測定し、密度補正して求めた平均値を繊度とした。
【0046】
(3)目付(g/m):標準状態の試料から縦10cm×横10cmの試料各10点を作製し、平衡水分に至らせた後、各資料の質量(g)を測定し、得られた値の平均値を単位面積あたりに換算して目付とした。
【0047】
(4)引張強力(N/5cm幅)および破断伸度(%):試料長20cm、試料幅5cmの試料片10点を作成した。各試料について、定速伸張型引張試験機(オリエンテック社製のテンシロンUTM−4−1−100)を用い、つかみ間隔10cm、引張速度20cm/分で伸張した。そのときに得られた切断時の破断荷重(N/5cm幅)の平均値を引張強力(N/5cm幅)とし、切断時の伸度(%)の平均値を破断伸度とした。引張強力と破断伸度とは、不織布のタテ方向(MD)とヨコ方向(CD)とについて評価した。
【0048】
(5)柔軟性(cN):JIS L 1906に記載のハンドルオメーター法に準じて測定した圧縮剛軟度によって評価した。
【0049】
(6)肌触り性:不織布を手で触れた際の肌触り性について、官能評価によって下記の3段階に評価した。
【0050】
○:軟らかく肌触りが良い
△:普通
×:硬く肌触りが悪い
【0051】
(実施例1)
融点が168℃、MFR1が70g/10分、L−乳酸/D−乳酸の共重合比がモル比で98.4/1.6のポリ乳酸系重合体(以下、「PLA1」と略記する)を用いた。この重合体に結晶核剤として二酸化チタンを0.6質量%配合した。この混合物を丸形の紡糸口金より、紡糸温度すなわち溶融押出温度210℃、単孔吐出量1.67g/分で溶融紡糸した。この紡出糸条を公知の冷却装置を用いて冷却した後、口金の下方に設置されたエアーサッカーを用いて、牽引速度5000m/分で牽引細化し、公知の開繊装置にて開繊した。次に開繊した糸条を移動するスクリーンコンベア上に単糸繊度3.0デシテックスの単相長繊維として開繊堆積させて、長繊維ウエブを得た。
【0052】
次いで、このウエブを、エンボスロールと表面平滑な金属ロールとを備えた熱エンボス装置に通して熱処理を施し、ポリ乳酸系長繊維不織布を得た。熱エンボス条件としては、両ロールの表面温度を130℃とし、エンボスロールは、個々の面積が0.6mmの円形の彫刻模様で圧接点密度が20個/cm、圧接面積率が15%のものを用いた。
【0053】
次いで、得られた不織布に、主成分がステアリン酸アミドである油剤(洛東化成工業社製、ステアリン酸アミドを固形分として10質量%含むもの、商品名:URD−ST−100)を、キスコーターを用いて塗布し、ステアリン酸アミドを不織布に対して0.1質量%付着させた。その後、乾燥温度120℃の乾燥機で乾燥した。これによって、目付が20g/mであるポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
【0054】
(実施例2)
実施例1と比べて、主成分が親油型モノステアリン酸グリセリルである油剤(洛東化成工業社製、ステアリン酸アミドを固形分として5質量%含むもの、商品名:URD−MG−5)を用い、不織布に親油型モノステアリン酸グリセリルを0.05質量%付着させた点を異ならせた。それ以外は実施例1と同様にして、ポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
【0055】
(実施例3)
実施例1と比べて、ステアリン酸アミドの付着量を0.05質量%に変更した。それ以外は実施例1と同様にして、ポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
【0056】
(比較例1)
実施例1と比べて、油剤の塗布を行わなかった。それ以外は実施例1と同様にして、ポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
【0057】
実施例1〜3、比較例1の不織布の詳細およびその物性の測定結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示されるように、実施例1〜3は、ポリ乳酸系長繊維にて構成された不織布に、モノグリセリドまたはカルボン酸アミドが付着していたため、これらが付着していなかった比較例1の不織布に比べて圧縮剛軟度が低く、良好な柔軟性を示し、顕著な柔軟性の改善効果がみられた。
【0060】
(実施例4)
芯成分として、PLA1、すなわち、融点が168℃、MFR1が20g/10分、L−乳酸/D−乳酸の共重合比がモル比で98.4/1.6のポリ乳酸を用意した。また、鞘成分として、融点が130℃、MIが25g/10分、密度が0.95g/mで、チグラーナッタ触媒を用いて重合された高密度ポリエチレン(以下、「HDPE」と略記する)を用意した。
【0061】
前記重合体を、(PLA1)/(HDPE)の複合比率(質量比)が55/45となるように個別に計量した後、個別のエクストルーダー型溶融押し出し機を用いて、220℃で溶融し、芯鞘型複合断面となる紡糸口金を用いて、単孔吐出量1.3g/分で溶融紡糸した。この紡出糸条を公知の冷却装置を用いて冷却した後、口金の下方に設置されたエアーサッカーを用いて牽引速度4300m/分で牽引細化し、公知の開繊装置にて開繊した。次に、このように開繊した糸条を、移動するスクリーンコンベア上に、単糸繊度3.0デシテックスの芯鞘型複合長繊維として開繊堆積させて、長繊維ウエブを得た。
【0062】
次いで、このウエブをエンボスロールと表面平滑な金属ロールとを備えた熱エンボス装置に通して熱処理を施し、ポリ乳酸系長繊維不織布を得た。熱エンボス条件としては、両ロールの表面温度を120℃とし、エンボスロールは、個々の面積が0.6mmの円形の彫刻模様で圧接点密度が20個/cm、圧接面積率が15%のものを用いた。
【0063】
次いで、主成分がステアリン酸アミドである油剤(絡東化成工業株式会社製、ステアリン酸アミドを固形分として10質量%含むもの、商品名:URD−ST−100)を、キスコーターを用いて塗布し、得られた不織布にステアリン酸アミドを0.1質量%付着させた。その後、乾燥温度120℃の乾燥機で乾燥した。これによって、目付が20g/mであるポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
【0064】
(実施例5)
実施例4と比べて、主成分が親油型モノステアリン酸グリセリルである油剤(絡東化成工業社製、ステアリン酸アミドを固形分として5質量%含むもの、商品名:URD−MG−5)を用い、不織布に親油型モノステアリン酸グリセリルを0.05質量%付着させた点を異ならせた。それ以外は実施例4と同様にして、ポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
【0065】
(実施例6)
実施例4と比べて、不織布へのステアリン酸アミドの付着量を0.05質量%に変更した。それ以外は実施例4と同様にして、ポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
【0066】
(実施例7)
実施例4と比べて、芯鞘比率を、(PLA1)/(HDPE)の複合比率(質量比)が70/30となるように変更した。それ以外は実施例4と同様にして、ポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
【0067】
(実施例8)
実施例4と比べて、鞘成分として、MFR2が35g/10分、融点が160℃、密度が0.91g/cmのポリプロピレンを用いた点を異ならせるとともに、熱エンボス条件として、両ロールの表面温度を135℃とした点を異ならせた。それ以外は実施例4と同様にして、ポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
【0068】
(比較例2)
実施例4と比べて、油剤の塗布を行わなかった点を異ならせた。それ以外は実施例4と同様にして、ポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
【0069】
実施例4〜8、比較例2の不織布の詳細およびその物性の測定結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
表2に示されるように、実施例4〜8は、芯鞘複合構造のポリ乳酸系長繊維にて構成された不織布に、モノグリセリドまたはカルボン酸アミドが付着していたため、これらが付着していなかった比較例2の不織布に比べて圧縮剛軟度が低く、柔軟性がより改善されたものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系長繊維にて構成された不織布であり、前記不織布は、モノグリセリドとカルボン酸アミドとの少なくともいずれか一方が付着されていることを特徴とするポリ乳酸系長繊維不織布。
【請求項2】
モノグリセリドが親油型モノステアリン酸グリセリルであることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系長繊維不織布。
【請求項3】
カルボン酸アミドがステアリン酸アミドであることを特徴とする請求項1または2記載のポリ乳酸系長繊維不織布。
【請求項4】
モノグリセリドとカルボン酸アミドとのいずれか一方または両方の付着量が0.025〜0.2質量%であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載のポリ乳酸系長繊維不織布。
【請求項5】
ポリ乳酸系長繊維が単相構造の繊維であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載のポリ乳酸系長繊維不織布。
【請求項6】
ポリ乳酸系長繊維がポリ乳酸とポリ乳酸以外の熱可塑性樹脂とで構成された複合繊維であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載のポリ乳酸系長繊維不織布。
【請求項7】
ポリ乳酸系長繊維は、ポリ乳酸が芯部に配されるとともにポリ乳酸以外の熱可塑性樹脂が鞘部に配された芯鞘型複合繊維であり、芯部のポリ乳酸よりも鞘部のポリ乳酸以外の熱可塑性樹脂の方が低融点であることを特徴とする請求項6記載のポリ乳酸系長繊維不織布。
【請求項8】
バックシートおよび/またはサイドギャザーが、請求項1から7までのいずれか1項に記載のポリ乳酸系長繊維不織布を含む素材にて構成されていることを特徴とする衛生材。

【公開番号】特開2011−174193(P2011−174193A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38034(P2010−38034)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】