説明

ポリ乳酸組成物

【課題】本発明の目的は、耐加水分解性に優れ、良好な色相を有するポリ乳酸を含有する組成物を提供することにある。
【解決手段】本発明は、ポリ乳酸100重量部に対して金属触媒を0.001重量部以上1重量部未満、メタリン酸系失活剤を0.002重量部以上10重量部未満、並びにカルボジイミド系化合物を0.01重量部以上10重量部未満含有する組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を含有する組成物に関する。さらに詳しくは、ポリ乳酸、金属触媒、メタリン酸系失活剤およびカルボジイミド系化合物を含有する耐加水分解性に優れ良好な色相を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来のプラスチックの多くは軽くて強靭であり耐久性に優れ、容易かつ任意に成形することが可能であり、量産されて我々の生活を多岐にわたって支えてきた。しかし、これらプラスチックは、環境中に廃棄された場合、容易に分解されずに蓄積する。また、焼却の際には大量の二酸化炭素を放出し、地球温暖化に拍車を掛けている。
かかる現状に鑑み、脱石油原料から成る樹脂、或いは微生物によって分解される生分解性プラスチックが盛んに研究されるようになってきた。現在検討されているほとんどの生分解プラスチックは、脂肪族カルボン酸エステル単位を有し微生物により分解され易い。その反面、熱安定性に乏しく、溶融紡糸、射出成形、溶融製膜などの高温に晒される工程における分子量低下、或いは色相悪化が深刻である。
その中でもポリ乳酸は耐熱性に優れ、色相、機械強度のバランスが取れたプラスチックであるが、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに代表される石油化学系ポリエステルと比較すると耐加水分解性が大幅に劣る。このような現状を打開すべく、ポリ乳酸の耐加水分解性向上について検討がなされてきた。
【0003】
特許文献1および2には、ポリ乳酸にカルボジイミド系化合物を添加し耐加水分解性を向上させることが提案されている。また特許文献3は、カルボジイミド化合物に加え、ホスファイト系化合物を添加し、耐加水分解性と耐熱性とを向上させることが提案されている。然しながらカルボジイミド系化合物は金属触媒の作用により赤褐色のタール状化合物を生じ、ポリ乳酸の色相を著しく悪化させる。このような現象は、より高温での加工が要求されるステレオコンプレックスポリ乳酸に至っては更に顕著化する。
【0004】
カルボジイミド系化合物に由来する着色成分の発生を抑制させる一案として、有機溶媒で残留スズ触媒を抽出除去する方法もあげられるが、このような場合、設備の防爆対応が迫られるばかりか、有機溶媒の回収プロセスが必要となる。また有機溶媒による環境負荷は少なからず、近年の環境保護の考え方から逸脱する製造方法であると言える。上記の如く、耐加水分解性と色相を両立したポリ乳酸については未だ報告されていない。
【特許文献1】特開平09−296097号公報
【特許文献2】特開平11−80522号公報
【特許文献3】特開2006−249152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐加水分解性に優れ、良好な色相を有するポリ乳酸組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ポリ乳酸中の残留触媒をメタリン酸系失活剤により失活させ、且つカルボジイミド化合物を添加すると、耐加水分解性に優れ、良好な色相を有するポリ乳酸組成物が得られることを見出した。
即ち、本発明は、ポリ乳酸100重量部に対して金属触媒を0.001重量部以上1重量部未満、メタリン酸系失活剤を0.002重量部以上10重量部未満、並びにカルボジイミド系化合物を0.01重量部以上10重量部未満含有する組成物である。また本発明は、該組成物からなる成形体である。
【0007】
さらに本発明は、金属触媒を含有するポリ乳酸とメタリン酸系失活剤とを混合した後、カルボジイミド系化合物を添加し混合することを含む組成物の製造方法である。
【0008】
また本発明は、ポリ−L−乳酸を含む組成物(L)とポリ−D−乳酸を含む組成物(D)とを、混合してステレオコンプレックス結晶を含有する組成物を製造する方法であって、
(i) 混合時にカルボジイミド系化合物を存在させるか、または混合後にカルボジイミド系化合物を添加し再度混合し、
(ii) 組成物(L)は、ポリ−L−乳酸、金属触媒およびメタリン酸系失活剤を含有する組成物であり、
(iii) 組成物(D)は、ポリ−D−乳酸、金属触媒およびメタリン酸系失活剤を含有する組成物である、
ことを特徴とする組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物は、耐加水分解性に優れ、良好な色相を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<組成物>
(ポリ乳酸)
ポリ乳酸は、下記式で表されるL−乳酸単位、D−乳酸単位またはこれらの組み合わせを主として含む重合体である。ポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸を包含する。
【0011】
【化1】

【0012】
ポリ−L−乳酸は、L−乳酸単位を主として含む重合体である。ポリ−L−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のL−乳酸単位を含有する。他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。D−乳酸単位、乳酸以外の単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
またポリ−D−乳酸は、D−乳酸単位を主として含む重合体である。ポリ−D−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のD−乳酸単位を含有する。他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。L−乳酸単位、乳酸以外の単位は、0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸中の乳酸以外の単位は、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
【0013】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドを付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
ポリ乳酸は、重量平均分子量が、好ましくは10万〜50万、より好ましくは15万〜35万である。
【0014】
ポリ乳酸は、公知の方法で製造することができる。例えば、L−またはD−ラクチドを金属触媒の存在下、加熱し開環重合させ製造することができる。また、金属触媒を含有する低分子量のポリ乳酸を結晶化させた後、減圧下または不活性ガス気流下で加熱し固相重合させ製造することができる。さらに、有機溶媒の存在/非存在下で、乳酸を脱水縮合させる直接重合法で製造することができる。
重合反応は、従来公知の反応容器で実施可能であり、例えばヘリカルリボン翼等、高粘度用攪拌翼を備えた縦型反応容器を単独、または並列して使用することができる。重合開始剤としてアルコールを用いてもよい。かかるアルコールとしては、ポリ乳酸の重合を阻害せず不揮発性であることが好ましく、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ベンジルアルコールなどを好適に用いることができる。
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られた、比較的低分子量の乳酸ポリエステルをプレポリマーとして使用する。プレポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲にて予め結晶化させることが、融着防止の面から好ましい形態と言える。結晶化させたプレポリマーは固定された縦型反応容器、或いはタンブラーやキルンの様に容器自身が回転する反応容器中に充填され、プレポリマーのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇温させても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で前記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
【0015】
ポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸の混合物であり、ステレオコンプレックス結晶を含有している、所謂ステレオコンプレックスポリ乳酸であることが好ましい。
ステレオコンプレックスポリ乳酸におけるポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸との重量比は前者/後者が、好ましくは90/10〜10/90、より好ましくは75/25〜25/75、さらに好ましくは60/40〜40/60である。
ステレオコンプレックスポリ乳酸の重量平均分子量は、10万〜50万である。より好ましくは10万〜30万である。重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0016】
ステレオコンプレックス結晶の含有率は、好ましくは80〜100%、よりこの好ましくは95〜100%である。本発明で言うステレオコンプレックスポリ乳酸は、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。融点は、195〜250℃の範囲、より好ましくは200〜220℃の範囲である。融解エンタルピーは、20J/g以上、好ましくは30J/g以上である。具体的には、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が90%以上であり、融点が195〜250℃の範囲にあり、融解エンタルピーが20J/g以上であることが好ましい。ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを所定の重量比で共存させ混合することにより製造することができる。
【0017】
(金属触媒)
金属触媒は、アルカリ土類金属、希土類金属、第三周期の遷移金属、アルミニウム、ゲルマニウム、スズおよびアンチモンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む化合物である。アルカリ土類金属として、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどが挙げられる。希土類金属として、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウムなどが挙げられる。第三周期の遷移金属として、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛が挙げられる。
金属触媒は、これらの金属のカルボン酸塩、アルコキシド、アリールオキシド、或いはβ−ジケトンのエノラート等として組成物に添加することができる。重合活性や色相を考慮した場合、オクチル酸スズ、チタンテトライソプロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシドが特に好ましい。
金属触媒は、ポリ乳酸100重量部に対して、0.001重量部以上1重量部未満含有し、好ましくは、0.005重量部以上0.1重量部未満である。金属触媒の添加量が少なすぎると重合速度が著しく低化するため好ましくない。逆に多すぎると反応熱によるポリ乳酸の着色、或いはカルボジイミド系化合物の着色を促し、得られる組成物の色相と熱安定性が悪化する。
【0018】
(メタリン酸系失活剤)
本発明で使用されるメタリン酸系失活剤は、3乃至203のリン酸単位が環状に縮合した化合物であり、金属触媒と錯体を形成する能力を有する。メタリン酸系失活剤は環状多座配位子であり、単座、または鎖状の多座配位子であるリン酸、亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、およびそれらのエステル類と比較して錯安定度定数が大きく、効率的に金属触媒を捕捉することが可能である。また他のリン酸系化合物が粘度の高い液体か吸湿性が強い固体であるのに対し、メタリン酸系失活剤はガラス状で比較的吸湿性の小さい固体であるため、取り扱いやポリ乳酸への添加が容易である。メタリン酸系失活剤はメタリン酸およびそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、オニウム塩からなる群から選らばれる少なくとも一種が好ましい。金属触媒の失活能力、ポリ乳酸との相溶性、および扱いやすさを考慮した場合、下記式(1)におけるnが1乃至200であって、その1gを100mlの水に溶解した水溶液のpHが6.0以下、好ましくは4.0以下、更に好ましくは2.0以下であるメタリン酸またはそのナトリウム塩が好ましい。
【0019】
【化2】

【0020】
式中nは1〜200の整数である。
【0021】
メタリン酸系失活剤は、ポリ乳酸中の金属触媒を捕捉するためのP(=O)OH部位を持たなくてはならない。これを端的に示す指標がメタリン酸系失活剤1gを100mlの水に溶解した水溶液のpHであり、P(=O)OH部位が十分に存在するためには上記pHが6.0以下であることが好ましい。上記pHが6.0を超える場合、メタリン酸系失活剤が金属触媒を十分に失活出来ないか、若しくは長時間を要し、ポリ乳酸の熱分解を抑制することが難しい。メタリン酸系失活剤の含有量は、ポリ乳酸100重量部に対して0.002重量部以上10重量部未満、好ましくは0.01重量部以上〜0.5重量部未満である。メタリン酸系失活剤の含有量が、少なすぎると残留する金属触媒の失活効率が極めて悪く、失活むらが生じる。また多すぎるとメタリン酸系失活剤による組成物の可塑化や、成形加工後の吸水率が増加し、長期耐加水分解性の低下が著しくなる。
【0022】
(カルボジイミド系化合物)
カルボジイミド系化合物は、強力な縮合反応促進剤であるためにポリ乳酸のカルボン酸末端基を封鎖することができる。また、加水分解の結果生じたポリ乳酸のカルボン酸末端基とヒドロキシル末端基を縮合させエステル結合を再生させることも可能である。カルボジイミド系化合物は、下記式(2)表される化合物であることが好ましい。
【0023】
【化3】

【0024】
式(2)中R、Rは、各々独立に、炭素数1〜12の直鎖状炭化水素基、炭素数6〜20の脂環式炭化水素基または炭素数6〜14の芳香族炭化水素基であり、式(2)で表される化合物はRおよびRを介して連結されたポリマーとなっていてもよい。
【0025】
直鎖状炭化水素基として、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基が挙げられる。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、プロペニル基、ブチニル基、ヘキシニル基等が挙げられる。脂環式炭化水素基として、炭素数6〜20のシクロアルキル基が挙げられる。例えば、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等が挙げられる。炭素数6〜14の芳香族炭化水素基としてフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。芳香族炭化水素基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基で置換されていても良い。
【0026】
かかるカルボジイミド系化合物としてはN,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、N,N’−ジ−n−ブチルカルボジイミド、N,N’−ジ−n−ヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジフェニルカルボジイミド、N,N’−ビス(2−メチルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ビス(2−エチルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ビス(2−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ビス(2,6−ジメチルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ビス(2,6−ジエチルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)カルボジイミド、N,N’−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)カルボジイミド、カルボジライトLA−1(登録商標)、カルボジライトHMV−8CA(登録商標)、スタバクゾールI(登録商標)、スタバクゾールP(登録商標)、スタバクゾールP100(登録商標)等が挙げられるが、その中でもN,N’−ビス(2,6−ジメチルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ビス(2,6−ジエチルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、カルボジライトLA−1(登録商標)、カルボジライトHMV−8CA(登録商標)、スタバクゾールI(登録商標)、スタバクゾールP(登録商標)、スタバクゾールP100(登録商標)が特に好ましい。
カルボジイミド系化合物の含有量は、ポリ乳酸100重量部に対して0.01重量部以上10重量部未満、好ましくは0.1重量部以上5重量部未満である。カルボジイミド系化合物の含有量が上記範囲未満である場合、組成物の耐加水分解性が十分に発揮されず、上記範囲以上である場合、カルボジイミド系化合物によるゲル化や失透、加工時の悪臭が問題となる。
【0027】
<組成物の製造方法>
本発明の組成物は、金属触媒を含有するポリ乳酸とメタリン酸系失活剤とを混合した後、カルボジイミド系化合物を添加し混合し製造することができる。
ポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸であることが好ましい。即ち、本発明の製造方法は、金属触媒を含有するポリ−L−乳酸とメタリン酸系失活剤と混合した後、カルボジイミド系化合物を混合する方法である。また本発明の製造方法は、金属触媒を含有するポリ−D−乳酸とメタリン酸系失活剤とを混合した後、カルボジイミド系化合物を混合する方法である。
ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸、金属触媒、メタリン酸系失活剤、カルボジイミド系化合物は、組成物の項に記載の通りである。混合は溶融混練により行うことが好ましい。
【0028】
メタリン酸系失活剤は、130〜150℃にガラス転移温度を有するため、ポリ乳酸の開環重合法においては重合後期に反応容器内に直接添加し混練することができる。また、チップ状に成形したマスターバッチとして、エクストルーダーやニーダーで混練することもできる。ポリ乳酸内での均一分布を考慮するとエクストルーダーやニーダーの使用が好ましい。また、反応容器の吐出部をエクストルーダーに直結し、サイドフィーダーからメタリン酸系失活剤の水溶液、或いは極性有機溶媒の溶液として添加してもよい。かかる極性有機溶媒としてはジメトキシエタンやテトラヒドロフラン等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類が好適である。一方、固相重合法においては、重合終了時に得られるポリ乳酸の固体とメタリン酸系失活剤をエクストルーダーやニーダーで混練する方法、ポリ乳酸の固体と、メタリン酸系失活剤を含むマスターバッチとをエクストルーダーやニーダーで混練する方法等が可能である。添加に際しては、酸素や水分の悪影響を避けるために、乾燥された窒素やアルゴンの気流下で行われることが望ましい。金属触媒を含有するポリ乳酸とメタリン酸系失活剤の混合時間は、溶融状態において好ましくは1分以上60分未満、より好ましくは10分以上30分未満である。接触時間が上記範囲未満である場合は金属触媒が十分に失活されず、また上記範囲以上の長期に渡る加熱処理はポリ乳酸の分子量低下が問題となり、いずれの場合も好ましくない。
【0029】
カルボジイミド系化合物は前述したメタリン酸系失活剤と同様の手法で添加することが可能である。即ち重合後期に反応容器内に直接添加混練するか、チップ状に成形したマスターバッチとして、エクストルーダーやニーダーで混練することも可能である。ポリ乳酸内での均一分布を考慮するとエクストルーダーやニーダーの使用が好ましい。また、反応容器の吐出部をエクストルーダーに直結し、サイドフィーダーからカルボジイミド系化合物を添加する方法も可能である。固相重合法においては、重合終了時に得られるポリ乳酸の固体とカルボジイミド系化合物をエクストルーダーやニーダーで混練する方法、ポリ乳酸の固体と、カルボジイミド系化合物を含むマスターバッチとをエクストルーダーやニーダーで混練する方法等が可能である。
【0030】
カルボジイミド系化合物は熱時に酸化反応を受け易い為、その添加は極力窒素やアルゴンの如き不活性気体の気流下で行うことが望ましい。また、金属触媒の触媒作用によって焦成する為、メタリン酸系失活剤と、金属触媒を含むポリ乳酸とを接触した後に添加されることが好ましい。カルボジイミド系化合物の接触は、溶融状態において1分以上60分未満、好ましくは10分以上30分未満である。接触時間が上記範囲未満である場合はカルボジイミド系化合物の均一混合が困難であり、また上記範囲以上の長期に渡る加熱処理はポリ乳酸の分子量低下が問題となり、いずれの場合も好ましくない。
【0031】
本発明は、金属触媒およびメタリン酸系失活剤を含有するポリ乳酸と、カルボジイミド系化合物とを混合する組成物の製造方法を包含する。即ち、以下の態様を包含する。但し、略号は以下のとおりである。
(Lcp)金属触媒およびメタリン酸系失活剤を含有するポリ−L−乳酸。
(Dcp)金属触媒およびメタリン酸系失活剤を含有するポリ−D−乳酸。
(I)カルボジイミド系化合物
態様1:(Lcp)および(I)を混合する。
態様2:(Dcp)および(I)を混合する。
【0032】
<ステレオコンプレックスポリ乳酸組成物の製造方法>
ステレオコンプレックス結晶を含有する組成物は、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸を混合して製造することができる。本発明では、ポリ乳酸中の金属触媒をメタリン酸系失活剤により、失活させた後、カルボジイミド系化合物を添加すればよく、ステレオコンプレックス結晶の形成と、カルボジイミド系化合物の添加の順序は問わない。
よって、以下のポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合する態様を挙げることができる。但し、略号は以下のとおりである。
(L)金属触媒を実質的に含有しないポリ−L−乳酸。
(Lc)金属触媒を含有するポリ−L−乳酸。
(Lcp)金属触媒およびメタリン酸系失活剤を含有するポリ−L−乳酸。
(D)金属触媒を実質的に含有しないポリ−D−乳酸。
(Dc)金属触媒を含有するポリ−D−乳酸。
(Dcp)金属触媒およびメタリン酸系失活剤を含有するポリ−D−乳酸。
(P)メタリン酸系失活剤。
(I)カルボジイミド系化合物
(Lcpi)金属触媒、メタリン酸系失活剤およびカルボジイミド系化合物を含有するポリ−L−乳酸。
(Dcpi)金属触媒、メタリン酸系失活剤およびカルボジイミド系化合物を含有するポリ−D−乳酸。
【0033】
下記態様3〜11を実施して得た組成物に(I)を混合する。
態様3:(L)および(Dcp)を混合する。
態様4:(L)、(Dc)および(P)を混合する。
態様5:(Lc)、(D)および(P)を混合する。
態様6:(Lc)、(Dc)および(P)を混合する。
態様7:(Lc)および(Dcp)を混合する。
態様8:(Lcp)および(D)を混合する。
態様9:(Lcp)および(Dc)を混合する。
態様10:(Lcp)および(Dcp)を混合する。
態様11:(Lcpi)および(Dcpi)を混合する。
【0034】
就中、ステレオコンプレックス結晶を含有する組成物は、以下の組成物(L)および組成物(D)を混合して製造することが好ましい。組成物(L)は、ポリ−L−乳酸、金属触媒およびメタリン酸系失活剤を含有する組成物である。また組成物(D)は、ポリ−D−乳酸、金属触媒およびメタリン酸系失活剤を含有する組成物である。
この方法では、組成物(L)と組成物(D)との混合時にカルボジイミド系化合物を存在させてもよい。また混合時にはカルボジイミド系化合物を存在させず、混合後にカルボジイミド系化合物を添加し再度混合時することができる。
混合は溶融混練により行うことが好ましい。具体的には、両者を所定量混合した後に混合する方法、いずれか一方を溶融させた後に残る一方を加えて混練する方法を採用することができる。また混合は、溶媒の存在下でも行うことができる。溶媒は、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸が溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール等の単独あるいは2種以上混合したものが好ましい。
このようにして得られるステレオコンプレックス結晶を含有する組成物は、重量平均分子量(Mw)が10万〜50万で、色相と耐加水分解性に優れる。特に乾燥をしなくても加水分解による分子量低下が非常に少ないという利点を有する。この組成物は溶融紡糸、溶融製膜、射出成形に好適に用いることができ、繊維、フィルムなどの成形体の原料として好適である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。実施例において組成物の物性は以下の方法で測定した。
(1)重量平均分子量(Mw)の測定
重量平均分子量(Mw)はショーデックス製GPC−11を使用し、組成物50mgを5mlのクロロホルムに溶解させ、40℃のクロロホルムにて展開した。重量平均分子量(Mw)、はポリスチレン換算値として算出した。
(2)耐加水分解性試験
耐加水分解性はタバイ製作所製ハストチャンバーEHS−221Mを使用し、120℃、相対湿度100%、2時間の耐久試験前後の重量平均分子量(Mw)を比較して評価した。
(3)組成物の黄色指数(YI値)
組成物の色相評価はYI値で行った。即ち、組成物の1%ジクロロメタン溶液を1cm厚みのクオーツセルに入れ、そのYI値を島津製作所製紫外−可視分光計UV−2400PCを用いて測定した。
(4)ステレオコンプレックス結晶含有率Xの算出法
ステレオコンプレックス結晶含有率Xは、示差走査熱量計(DSC)において150℃以上190℃未満に現れる結晶融点の融解エンタルピーΔHAと、190℃以上250℃未満に現れる結晶融点の融解エンタルピーΔHBから下記式にて算出した。
X={ΔHB/(ΔHA+ΔHB)}×100 (%)
【0036】
<実施例1>
冷却留出管を備えた重合反応容器の原料仕込み口から、窒素気流下でL−ラクチド100重量部およびステアリルアルコール0.15重量部を仕込んだ。続いて反応容器内を5回窒素置換し、L−ラクチドを190℃にて融解させた。L−ラクチドが完全に融解した時点で、原料仕込み口から2−エチルヘキサン酸スズ0.05重量部をトルエン500μLと共に添加し、190℃で1時間重合した。
重合終了後、メタリン酸ナトリウム(pH=1.74)0.1重量部を窒素気流下で添加し、15分間混錬した。その後、日清紡製カルボジライトLA−1(登録商標)1重量部を窒素気流下で添加し15分間混練した。最後に余剰L−ラクチドを脱揮し、反応容器の吐出口からストランド状の組成物を吐出し、冷却しながらペレット状に裁断した。組成物のMwと加水分解試験(120℃、相対湿度100%、2時間)の後のMwを表1に示す。また組成物のYI値を表2に示す。
【0037】
<実施例2>
次に、同様の操作にてポリ−D−乳酸組成物の調製を行った。即ち、D−ラクチド100重量部およびステアリルアルコール0.15重量部を仕込み、続いて反応容器内を5回窒素置換し、D−ラクチドを190℃にて融解させた。D−ラクチドが完全に融解した時点で、原料仕込み口から2−エチルヘキサン酸スズ0.05重量部をトルエン500μLと共に添加し、190℃で1時間重合した。
重合終了後、メタリン酸ナトリウム(pH=1.74)0.1重量部を窒素気流下で添加し15分間混錬した。次に、日清紡製カルボジライトLA−1(登録商標)1重量部を窒素気流下で添加し15分間混練した。最後に余剰D−ラクチドを脱揮し、反応容器の吐出口からストランド状の組成物を吐出し、冷却しながらペレット状に裁断した。組成物のMwと加水分解試験(120℃、相対湿度100%、2時間)の後のMwを表1に示す。また組成物のYI値を表2に示す。
【0038】
<実施例3〜6>
カルボジライトLA−1(登録商標)1重量部を下記表3に記載のカルボジイミド系化合物1重量部に替えた以外は実施例1と同様の方法で組成物を製造した。組成物のMwと加水分解試験(120℃、相対湿度100%、2時間)の後のMwを表1に示す。また組成物のYI値を表2に示す。
【0039】
<実施例7>
(ステレオコンプレックスの形成)
実施例1、および2で得られたポリ−L−乳酸組成物のペレット50重量部とポリ−D−乳酸樹脂組成物のペレット50重量部を良く混合させた後、東洋製機社製ニーダーラボプラストミル50C150を使用し、窒素ガス気流下230℃で10分間混練した。組成物のMwと加水分解試験(120℃、相対湿度100%、2時間)の後のMwを表1に示す。また、組成物のYI値を表2に示す。加水分解試験後の組成物のステレオコンプレックス結晶含有率Xはいずれも100%であった。
【0040】
<比較例1>
メタリン酸ナトリウムを添加しない以外は、実施例1と同様の方法で組成物を合成した。得られた組成物のMwと耐加水分解試験後のMwを表1に示す。また組成物のYI値を表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の組成物は、耐加水分解性に優れるので、溶融成形して、糸、フィルム、各種成形体にすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸100重量部に対して金属触媒を0.001重量部以上1重量部未満、メタリン酸系失活剤を0.002重量部以上10重量部未満、並びにカルボジイミド系化合物を0.01重量部以上10重量部未満含有する組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸が、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸の混合物であり、ステレオコンプレックス結晶を含有している請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
金属触媒が、アルカリ土類金属、希土類金属、第三周期の遷移金属、アルミニウム、ゲルマニウム、スズおよびアンチモンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む化合物である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
メタリン酸系失活剤が、下記式(1)で表される化合物である請求項1〜3の何れか一項に記載の組成物。
【化1】

[式中、nは1〜200の整数である。]
【請求項5】
カルボジイミド系化合物が下記式(2)で表される化合物である請求項1〜4の何れか一項に記載の組成物。
【化2】

[式中R、Rは、各々独立に、炭素数1〜12の直鎖状炭化水素基、炭素数6〜20の脂環式炭化水素基または炭素数6〜14の芳香族炭化水素基であり、式(2)で表される化合物はRおよびRを介して連結されたポリマーとなっていてもよい。]
【請求項6】
請求項1〜5に記載の組成物からなる成形体。
【請求項7】
金属触媒を含有するポリ乳酸とメタリン酸系失活剤とを混合した後、カルボジイミド系化合物を添加し混合することを含む組成物の製造方法。
【請求項8】
ポリ乳酸が、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸である請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
ポリ−L−乳酸を含む組成物(L)とポリ−D−乳酸を含む組成物(D)とを、混合してステレオコンプレックス結晶を含有する組成物を製造する方法であって、
(i) 混合時にカルボジイミド系化合物を存在させるか、または混合後にカルボジイミド系化合物を添加し再度混合し、
(ii) 組成物(L)は、ポリ−L−乳酸、金属触媒およびメタリン酸系失活剤を含有する組成物であり、
(iii) 組成物(D)は、ポリ−D−乳酸、金属触媒およびメタリン酸系失活剤を含有する組成物である、
ことを特徴とする組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−248028(P2008−248028A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89514(P2007−89514)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】