説明

ポリ乳酸繊維、その製造方法および繊維製品

【課題】
本発明は、高次工程通過性に優れる、特に結節部分、引掛部分で構成される編物に好適なポリ乳酸繊維を提供しようするものである。
【解決手段】
本発明のポリ乳酸繊維は、結節伸度が直線伸度の75〜110%であり、かつ、結節強度が直線強度の75〜100%であるポリ乳酸繊維であり、その製造方法は水分率が0〜200ppmのポリ乳酸樹脂を融点+60℃〜融点+90℃の温度で溶融し、口金より押し出した後、引き取り速度10〜30m/分で口金面と冷却浴液面までの距離が1〜10cmである冷却槽で冷却した後延伸し、その後、0〜3%の弛緩処理を施した後、さらに、温度の異なる2つ以上の熱セット領域で、2段目の弛緩処理を弛緩率0〜10%の範囲で行うことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸繊維に関するものであり、詳しくは、特に編物用に好適に使用することができるポリ乳酸繊維、その製造方法および繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
非石油系原料から得られるポリ乳酸樹脂は、燃焼や廃棄を行っても環境負荷の小さい樹脂として近年注目されている。また、このポリ乳酸樹脂を用いたポリ乳酸繊維は独特の光沢を有し、染色した時の発色性や触感が良く、独特の風合いを有することから、マルチフィラメント、モノフィラメント、ステープルフィラメント等として、シャツ、ハンカチ等の衣料用や車用オプションマット、カーテン、家庭用ロールカーペットやラグ等のインテリア用途、さらには水切りゴミ袋、育苗マット、土木用織編物、植生用防草シート、安全ネット、建築用ネット等の産業用途等、各種の繊維製品として実用化に向けた検討が進められている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸樹脂は各種繊維製品として従来使用されている汎用樹脂と比較して硬いという特徴を有しているため、特に結節部分や引掛部分で構成されることの多い編物として使用する際の高次工程通過性や編物物性が低下するという問題を有していた。
【0004】
従来技術の中で、ポリ乳酸繊維の高次工程での操業性、得られる製品物性を向上させるための技術が提案されている。
【0005】
たとえば、特許文献1の請求項6には、結節強度が引張強度の少なくとも0.9倍で、且つ引っ掛け強度が引張強度の少なくとも1.2倍であるポリ乳酸繊維が開示されている。また、同文献の明細書、および、実施例中には、結節強度、引掛強度、該ポリ乳酸繊維を得る方法、高次工程通過性等に関する記述が無いため詳細は不明であるが、ポリ乳酸に脂肪族ポリエステルを共重合して構造を柔軟にすることで、結節強度が引張強度の少なくとも0.9倍以上、引掛強度が引張強度の少なくとも1.2倍になるものと推測される。しかしながら、ここに記載の技術ではポリ乳酸への脂肪族ポリエステルの共重合が必須であるばかりか、特許文献1の明細書に記載のように共重合によって融点が低下してしまう問題を有している。特に、引掛強度が引張強度の少なくとも1.2倍となるような繊維を得ようとした場合には、多量の共重合成分が必要になることが予想されるため、特に産業用で求められる耐熱性を有する繊維を得ることが困難であると考えられる。
【0006】
また、特許文献2には、芯成分がポリ乳酸系樹脂、鞘成分がナイロン6からなる複合繊維が記載されており、その実施例には、ポリ乳酸単独糸と比較してポリ乳酸複合繊維の結節物性が向上することが示されている。しかしながら、この技術ではポリ乳酸とナイロン6の複合化が必要であるため高コストとなり、製糸性への影響が懸念されるばかりか、生分解を有するポリ乳酸の効果を半減させてしまう問題を有している。
【0007】
さらに、特許文献3には、その請求項1に結節強度が2.8cN/dtex以上、引掛強度が2.8cN/dtex以上および直線強度が5.5cN/dtexであるポリ乳酸繊維が開示されている。この特許文献3の実施例には、前記物性を有する繊維の製織性についての記載はあるものの、結節部分や引掛部分で構成される編物での工程通過性についての記述は無い。同文献の明細書に記載の技術はポリ乳酸繊維の初期物性を向上させることで、結節強度、引掛強度を向上させているものである。しかしながら、直線強度と結節強度および引掛強度に着目してみると、結節強度(又は引掛強度)は直線強度の高々58%程度であり、結節(又は引掛)部では、繊維が大きく劣化している。すなわち、得られる繊維製品の物性は大幅に低下したものを提供するものでしかない。
【0008】
以上のように、従来のポリ乳酸繊維の開発は、結節時の強度を向上させることで、高次工程での操業性や得られる製品物性を向上させることをコンセプトとして提案されているものではあるが、特に編物のような結節部や引掛部で構成される繊維製品に供するに十分な特性を有するポリ乳酸繊維は、いまだ得られていないのが実状である。
【0009】
最後に、特許文献4には、手術用縫合糸として、結節強度、結節伸度を向上させたポリ乳酸繊維が開示されている。しかしながら、ここに記載の技術では、ポリ乳酸へのε−カプロラクトンの共重合が必須であるため、高コストになるばかりか、共重合成分によりポリ乳酸繊維の融点が低下してしまい、結節強度が直線強度に比べて低くなってしまい、結局、特許文献3に記載のポリ乳酸繊維と同様に結節部で繊維が劣化しているものしか提供することができないという課題を有している。
【特許文献1】特開平7−300520号公報
【特許文献2】特開2004−197276号公報
【特許文献3】特開2006−22445号公報
【特許文献4】特開平8−317968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来のポリ乳酸繊維に鑑み、高次工程通過性に優れる、特に結節部分、引掛部分で構成される編物に好適なポリ乳酸繊維、その製造方法および繊維製品を提供しようするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、かかる課題を解決するために、つぎのような手段を採用するものである。すなわち、本発明のポリ乳酸繊維は、結節伸度が直線伸度の75〜110%であり、かつ、結節強度が直線強度の75〜100%であることを特徴とするものである。
【0012】
かかる本発明のポリ乳酸繊維の好ましい態様は、
(イ)結節伸度が25〜90%であること、
(ロ)結節強度が1〜5cN/dtexであること、
(ハ)95重量%以上が共重合成分を実質的に含まないL−乳酸および/またはD−乳酸よりなるポリ乳酸樹脂からなること、
(ニ)単糸繊度が100〜1000dtexであること、
(ホ)モノフィラメントであること、
である。
【0013】
また、本発明の繊維製品は、前記ポリ乳酸繊維を少なくとも一部に用いて構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、従来のポリ乳酸繊維において大きな課題であった、高次工程通過性や繊維製品とした際の物性低下の非常に小さいポリ乳酸繊維、および、生産性、機械的特性に優れた繊維製品、特に編物として使用した際に大きな効果を示すものを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のポリ乳酸繊維に用いるポリ乳酸樹脂は、L−乳酸および/またはD−乳酸を主成分とする乳酸を重合してなるポリ乳酸樹脂である。すなわち、本発明のポリ乳酸繊維は、好ましくは95重量%以上が共重合成分を実質的に含まないL−乳酸および/またはD−乳酸よりなるポリ乳酸樹脂で構成されたものである。
【0016】
しかし、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば、ポリ乳酸樹脂と共重合可能な成分との共重合体、またはブレンド可能な他の熱可塑性ポリマとのブレンド物などからなるものを使用することができる。このような共重合体としては、例えばε―カプロラクトン等の環状ラクトン類、α―ヒドロキシイソ酪酸、α―ヒドロキシ吉草酸等のα−オキシ酸類、エチレングリコール、1,4−ブタンジンオール等のグリコール類、コハク酸、セバシン酸等のジカルボン酸類から選ばれるモノマの一種または二種以上とを共重合したもの等を例示することができる。中でもポリマの重合特性から、環状ラクトン類およびグリコール類が好ましい。かかるモノマの共重合の割合としては、共重合量が増大するにつれ、ポリ乳酸樹脂の融点が低下してしまうこと、および、ポリ乳酸繊維価格が上昇してしまうことから、5重量%以下の割合であるのが好ましく、さらに好ましくはかかる共重合成分を実質的に含まない(0重量%)のがよい。
【0017】
すなわち、従来のポリ乳酸共重合体繊維による高次工程通過性を向上させる技術(特許文献1、特許文献4等)は、ポリ乳酸共重合体そのものが低融点ポリマであり、このような繊維では、結節強度が直線強度に比べて低くなってしまい、結局、結節部で繊維が劣化しているものしか得られず、本発明の前記物性を有するポリ乳酸繊維が得られない。また、共重合成分を含んだポリ乳酸樹脂は融点が低下し、実使用時の耐熱性が悪くなる問題を有している。
【0018】
また、本発明のポリ乳酸繊維には、本発明の効果を損ねない範囲でブレンド物を含有しても良い。ブレンド可能な熱可塑性ポリマとしては、溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、およびポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルポリマを例示することができる。このようなブレンドポリマの割合としては特に限定されないが、ブレンドポリマ量の増大に伴いポリ乳酸繊維の機械的特性が損なわれることから、ブレンドポレマ量としては5重量%未満であることが好ましく、さらに好ましくはかかるブレンドポリマ成分を実質的に含まない(0重量%)のがよい。
【0019】
本発明のポリ乳酸繊維に用いるポリ乳酸樹脂には、ポリ乳酸繊維の耐加水分解性を向上させる目的で、ポリ乳酸樹脂が水酸基を持つ化合物によってカルボキシル基末端を封鎖してなるものであっても使用することができる。このような水酸基を持つ化合物としては、例えばオクチルアルコール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール等の炭素数が6以上の高級アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール等のグリコール類が挙げられる。該水酸基を持つ化合物でポリ乳酸分子末端のカルボキシル基をエステル化することにより、溶融紡糸時の熱安定性および溶融紡糸後の繊維の経時安定性を改善することができる。中でも延伸性の観点から、炭素数6〜18の高級アルコールが好ましく使用される。また、同様の効果を得る目的でカルボキシル基にカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物から選ばれる1種または2種以上の化合物を反応させても良い。
【0020】
十分な耐加水分解性を与えるためにはカルボキシル基末端濃度は25当量/ton以下にすることが好ましく、より好ましくは15当量/ton以下、さらに好ましくは10当量/ton以下、特に好ましくは0〜5当量/tonである。前記カルボキシル末端基量は、精秤した試料(1g)をo−クレゾール(水分5%)20mlに浸漬して145℃で10分間溶解し、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することにより求めることができる。この時、乳酸の環状2量体であるラクチド等のオリゴマーが加水分解し、カルボキシル基末端を生じるため、ポリマのカルボキシル基末端およびモノマ由来のカルボキシル基末端、オリゴマー由来のカルボキシル基末端の全てを合計したカルボキシル基末端濃度が求まる。末端封鎖能を有する化合物の添加量としてはポリ乳酸繊維の機械的特性、及び、製糸性を低下させないためにも0〜5重量%の範囲であることが好ましい。
【0021】
また、本発明のポリ乳酸樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、クレーなどの艶消し剤、滑剤、酸化防止剤、耐熱剤、耐蒸熱剤、耐光剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤および難燃剤などを含むことができる。しかし、この場合、添加剤の量の増大に伴いポリ乳酸繊維の機械的特性が損なわれることから、かかる添加剤量としては5重量%未満であることが好ましい。
【0022】
本発明のポリ乳酸繊維は、染色工程における強度低化や環境汚染を避けるために、予め、少なくとも1種類以上の着色剤を含有させても良い。添加される着色剤は、酸化チタン、カーボンブラック等の無機顔料の他、シアニン系、スチレン系、フタロシアニン系、アンスラキノン系、ペリノン系、イソインドリノン系、アンスラキノン系、ベリノン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、キノクリドン系、チオインディゴ系等を例示することができるが、これらに限られるものではない。
【0023】
このような着色剤の含有量としては、ポリ乳酸繊維の重量に対して0.01〜4重量%含有していることが好ましい。着色剤の添加量が0.01重量%未満の場合は色調が不足し、4重量%を超える場合は必要な強度を得ることが困難になる。着色剤の添加量は、ポリマに対し0.1〜0.6重量%であることがより好ましく、0.3〜0.5重量%の範囲内であることがさらに好ましい。このような着色剤の添加方法としては、高濃度で顔料を含有するマスターチップや、ベースチップを紡糸前に混合する方法などを採用することができるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0024】
本発明のポリ乳酸繊維は、生分解性および非石油系原料であるという特徴を活かし、廃棄しても環境負荷の小さい製品として用いるため、石油系ポリマのブレンドや、石油系ポリマ成分の共重合等は極力避け、また添加剤も、重金属化合物や環境ホルモン物質は勿論、現時点でその懸念が予想される化合物の一切を用いないように配慮するのが好ましい。
【0025】
また、本発明の範囲を損なわない範囲であれば、ポリ乳酸繊維の断面形状もなんら制限されるものではなく、扁平断面、三葉断面、中空断面、Y型断面、田型断面、C型断面、W型断面、三角断面、またはそれらの組み合わせ等を自由に採用することができる。
【0026】
本発明は、ポリ乳酸繊維の結節強度の絶対値ではなく、結節時の繊維の劣化機構を鋭意検討した結果、結節伸度が直線伸度の75〜110%、好ましくは80〜110%、より好ましくは90〜100%、最も好ましくは95〜100%であり、かつ、結節強度が直線強度の75〜100%、好ましくは80〜100%、より好ましくは90〜100%、最も好ましくは95〜100%であるポリ乳酸繊維とすることが重要であることを究明したものである。
【0027】
すなわち、このような特定な結節伸度と結節強度を有するポリ乳酸繊維が、高次工程通過性や繊維製品とした際の物性低下が非常に小さいという効果を奏することを究明したものであり、特に編物として有用なものを提供することを究明したものである。
【0028】
本発明において、ポリ乳酸繊維が結節時に直線強度の75〜100%の強度、直線伸度の75〜110%の伸度を保持するということは、結節による劣化が少ない状態で結節部分を形成することができることを示すものであり、したがって、本発明のポリ乳酸繊維は、特に編物のような結節部分により構成される繊維製品の形成の際での工程通過性が良く、且つ機械的特性に優れた繊維製品を得ることができるものである。
【0029】
しかし、結節伸度が直線伸度の75%未満で、結節強度が直線強度の75%未満であるようなポリ乳酸繊維では、比較例で明らかにしたように、結節部を形成する際には繊維が劣化した状態にあり、繊維製品とした際のポリ乳酸繊維の強伸度低下が大きいため、工程通過性が悪い、若しくは、機械的特性に劣る製品しか得ることができない。本発明においては、これら結節伸度と結節強度の両方を満足しなければならいのであって、いずれか一方のみを満足しても本発明の上記効果は奏されないのである。
【0030】
本発明の「繊維」とは複数本の単繊維を集合させた繊維束(マルチフィラメント)および漁業用等に用いる線径の大きい、いわゆるモノフィラメントの両方を含む概念である。マルチフィラメントを構成する各単繊維の繊度は特に限定されないが、通常0.5〜35dtexのものが用いられる。マルチフィラメントの総繊度は、好ましくは100〜1000dtex、より好ましくは300〜1000dtexである。この範囲であると糸条が、高次工程通過性に優れ、且つ繊維製品とした際にも実用に供することが可能な繊維製品を得ることができ。総繊度が100dtex未満の糸条の場合には、生産性に劣り、1000dtexを超える糸条の場合には繊度が大きすぎるために得られる繊維製品が硬くなり、施工性が悪化する恐れがある。このような効果は、本発明のポリ乳酸繊維がモノフィラメントである場合にも同様であり、つまり該モノフィラメントの単糸繊度としては好ましくは100〜1000dtex、より好ましくは300〜1000dtexであるものが、上記効果の上から使用される。
【0031】
また、本発明のポリ乳酸繊維は、結節伸度が25〜90%であることが好ましく、より好ましい範囲として45%〜90%、最も好ましい範囲として58〜90%であるのがよい。すなわち、かかる結節伸度が25%未満の場合には、伸びが小さすぎるために高次工程通過性が悪化する恐れがあり、伸びが90%を超える場合には、製品とした際の寸法安定性に劣る恐れがある。
【0032】
また、本発明のポリ乳酸繊維は、結節強度が1〜5cN/dtexであるものが好ましく、より好ましい範囲として1〜4cN/dtex、さらに好ましい範囲として1.5〜3cN/dtexであるのがよい。かかる結節強度が1cN/dtex未満の場合には、強度不足に起因する製編等の高次工程通過性が悪化する恐れがある。一方、本来結節強度に上限は無いものの、現在の技術では結節時の強度および伸度保持率を本発明の範囲とした状態で結節強度が5cN/dtexを超えるポリ乳酸繊維を得ることは困難である。
【0033】
本発明のポリ乳酸繊維は、引掛伸度が直線伸度の、好ましくは65〜100%、より好ましくは80〜100%、特に好ましくは90〜100%であり、引掛強度が直線強度の、好ましくは65〜100%、より好ましくは80〜100%、特に好ましくは90〜100%であるのがよい。ポリ乳酸繊維が引掛時に直線強伸度の65〜100%の強度および伸度を保持するということは、引掛による劣化が少ない状態で引掛部分を形成できることを示している。このため繊維製品とした際にも工程通過性が良く、且つ機械的特性に優れた繊維製品を得ることが可能となる。引掛伸度が直線伸度の65%未満、引掛強度が直線強度の65%未満のポリ乳酸繊維は工程通過性が悪い、若しくは、機械的特性に劣る繊維製品しか得ることができない可能性がある。
【0034】
本発明のポリ乳酸繊維は、引掛伸度が25〜90%であることが好ましく、より好ましい範囲として45%〜90%、最も好ましい範囲として50〜90%であるのがよい。引掛伸度が25%未満の場合には伸びが小さすぎるために高次工程通過性が悪化する恐れがあり、伸びが90%を超える場合には製品とした際の寸法安定性に劣る恐れがある。
【0035】
本発明のポリ乳酸繊維は引掛強度が1〜5cN/dtexであることが好ましく、より好ましい範囲として1〜4cN/dtex、さらに好ましい範囲として1.5〜3cN/dtexであるのがよい。引掛強度が1cN/dtex未満の場合には強度不足に起因する製編等の高次工程通過性が悪化する恐れがある。一方、本来引掛強度に上限は無いものの、現在の技術では引掛強度が5cN/dtexを超えるポリ乳酸繊維を得ることは困難である。
【0036】
本発明のポリ乳酸繊維は、沸水収縮率が1.5〜15%であることが好ましい。沸水収縮率が15%を越える場合には、繊維製品とした際の熱寸法安定性に劣る恐れがあり、沸水収縮率が1.5%未満の場合には、製品とした後の熱セット工程において縮みが小さすぎるために所望の製品寸法を得られない可能性がある。かかる沸水収縮率のさらに好ましい範囲としては2〜10%の範囲であるのがよい。
【0037】
本発明のポリ乳酸繊維の製造方法は、水分率が0〜200ppmのポリ乳酸樹脂を融点+60℃〜融点+90℃の温度で溶融し、口金より押し出した後、引き取り速度10〜30m/分で口金面と冷却浴液面までの距離が1〜10cmである冷却槽で冷却した後延伸し、その後、0〜3%の弛緩処理を施した後、さらに、温度の異なる2つ以上の熱セット領域で、2段目の弛緩処理を弛緩率0〜10%の範囲で行うことを特徴とする。
【0038】
以下にモノフィラメントの例を挙げ、図1を用いて説明するが、製造方法はこれに限られるものでは無い。
【0039】
まず、紡糸ホッパー(1)に貯留しているポリ乳酸樹脂を、1軸エクストルーダ(2)型溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸する。この溶融ポリマは、ギヤポンプ(3)にてモノフィラメントの最終繊度に合わせて計量したのち、紡糸パック(4)中で金属不織布フィルターで濾過し、口金(5)から紡出する。この紡出したポリマを冷却浴(6)で冷却固化した後、第1ローラ(7)で引き取る。引き取ったポリ乳酸未延伸モノフィラメント糸条は一旦巻き取ることなく、第一ローラ(7)と第二ローラ(9)との間で延伸を行う。延伸には、延伸温度に設定した温水浴(8)を用い、延伸後の糸条は第二ローラ(9)と第三ローラ(11)間で所定の弛緩処理を行うが、この時、この第二ローラ(9)と第三ローラ(11)間に配置した油剤ローラ(10)を用いてポリ乳酸モノフィラメントへ油剤を同時に付与した後、第三ローラ(11)と第四ローラ(14)間に配置した2つの熱板(12)(13)を通してリラックスをし、巻き取り機(15)を用いて巻き取ってポリ乳酸モノフィラメント(MF)を得る。
【0040】
さらに詳細に説明すると、本発明のポリ乳酸繊維はエクストルーダ(2)等で溶融したポリ乳酸樹脂をギヤポンプ(3)で計量、紡糸パック(4)中で金属不織布により濾過し、紡糸口金(5)の口金孔から押し出し、押し出されたポリ乳酸ポリマを液浴中(6)で冷却した後に延伸を施し、弛緩熱セットをする製造方法を基本として得ることができる。ただし、溶融紡糸に供するポリ乳酸樹脂の水分率はポリ乳酸樹脂の加水分解を抑制するために0〜200ppmとし、窒素ガスの充填された貯留タンク(1)に保管をすることが必要である。また、 紡糸温度は用いるポリ乳酸樹脂の融点に左右されるが、本発明の特性を有するポリ乳酸繊維を得るためには、通常のポリ乳酸繊維の紡糸温度よりも高い温度、具体的には融点+60℃〜融点+90℃の範囲で溶融することが必要である。
【0041】
紡糸口金の直下は、紡糸口金面より0〜15cm下側を上端とし、その上端から1〜100cmの範囲を加熱筒および/または断熱筒で囲み、紡出糸条を紡糸温度+0〜50℃の高温雰囲気中を通過させることが本発明の特性を有するポリ乳酸繊維を得るためには好ましい。
【0042】
高温雰囲気中を通過した押し出し糸条は、次いで30〜85℃、好ましくは50〜75℃の冷却水中で冷却固化し、口金面と冷却浴(6)液面の距離を1〜10cm、好ましくは2〜8cmの範囲とし、押し出し糸条を大気中に存在する時間をできる限り少なくした状態で急冷することが本発明の特性を有するポリ乳酸繊維を得るためには必要である。詳細な機構は明らかでは無いものの、前述のポリ乳酸樹脂の重量平均分子量、水分率、紡糸温度、口金面から液面の距離等をあわせて考えると、単糸内の分子配向および分子構造の内外層差を低減し、かつ分子密度を高く設定した状態で未延伸糸の繊維構造を固定することが本発明のポリ乳酸繊維を得るためには重要であると考えられる。
【0043】
未延伸糸条は、第一ローラ(7)にて引き取る。第一ローラ(7)の表面速度、即ち引取り速度は30m/分以下であることが本発明のポリ乳酸を得るためには必要である。低速で糸条を引き取ることで口金孔吐出直後の糸条変形が小さくなるため単糸内の分子配向および繊維構造の単糸内外層差が低減するためであると考えられる。
【0044】
上記引取り速度で引き取られた未延伸糸条は一旦巻き取った後、若しくは一旦巻き取ることなくローラ間で連続して延伸する。
【0045】
1段目の延伸は第一ローラ(7)と第2ローラ(9)間で行い、必要に応じて2段目の延伸に供する。この時、各延伸段における延伸比率に特に決まりは無く、延伸は3段以上でおこなってもよい。
【0046】
延伸を終えた糸条は同一速度で回転する第二ローラ(9)と第三ローラ(11)との間で0〜3%弛緩処理をすることが本発明のポリ乳酸繊維を得るために必要である。ポリ乳酸繊維は、次いで第三ローラ(11)と第4ローラ(14)との間で0〜10%、好ましくは0〜7%、さらに好ましくは0.5〜5%の弛緩処理を行い、熱延伸によって生じた歪みを取るだけで無く、延伸によって達成された構造を固定し、配向を緩和させる。この時、延伸糸条を温度の異なる2つの以上の熱ローラやドライオーブン(12)(13)といった熱セット領域で連続して弛緩熱処理を施すことが必要である。
【0047】
熱セット前に0〜3%弛緩処理を施した後、温度の異なる2つ以上の連続する熱セット領域で弛緩熱処理を施した場合、熱セット前の弛緩処理によって延伸工程で発生する分子の歪を緩和し、1段目の熱セット領域で予備的に結晶化を施して、ある程度構造を固定した後に2段目の熱セット領域で結晶を成長させるため、非晶領域が十分に緩和した状態で存在し、結節時の物性低下の少ないポリ乳酸繊維が得られると考えられる。
【0048】
2つ以上の熱セット領域で連続して弛緩処理を施す方法としては、設定温度の異なるドライオーブンを2個以上用いる方法、段階的に温度領域を変化させたドライオーブンを用いる方法、温度の異なる熱ローラに順次捲回する方法を例示することができる。ドライオーブンの種類は特に決まったものでは無く、通常の熱板や熱板の上部に蓋が設置してあるオーブンを使用することができる。
【0049】
前述の観点より、1つ目の熱セット領域の温度は110〜130℃であることが好ましい。1つ目の熱セット領域の温度が融点110℃未満ではポリ乳酸繊維の構造を予備的に固定できず、130℃を超える場合には1つめの熱セット領域によってポリ乳酸繊維内部の結晶成長が完了する可能性がある。2つ目の熱セット領域の温度は、120℃〜150℃であることが好ましい。
【0050】
弛緩熱処理を施されたポリ乳酸繊維を巻取り機(15)で巻き取ることで、本発明のポリ乳酸繊維を得ることができる。この時、得られたポリ乳酸繊維の直線伸度が高いほど、好ましくは40%を超える場合に、結節時の強伸度低下が少ないポリ乳酸繊維を得やすい。
【0051】
なお、本発明のポリ乳酸繊維を構成するポリ乳酸樹脂の製造方法は、特開平6−65360号記載の方法(直接脱水縮合法)、特開平7−173266号に記載の方法(少なくとも2種類のホモポリマーを重合触媒の存在下、共重合並びにエステル交換反応させる方法)、米国特許第2,703,316号明細書に記載されている方法(乳酸を一旦脱水し、環状二量体とした後に開環重合する間接重合法)等を採用して製造することができる。
【0052】
かくして得られる本発明のポリ乳酸繊維を構成するポリ乳酸樹脂の重量平均分子量(Mw)が10万〜35万であることが好ましい。ポリ乳酸ポリマのMwが10万未満の場合には得られるポリ乳酸繊維が本発明の範囲を満足する可能性が低くなる。かかるMwが10万以上のポリマを使用すると、繊維中の分子鎖が密となり、結節による構造破壊が発生し難くなるので、本発明の結節時の強度および伸度保持率を有するポリ乳酸繊維を得る上で好ましいものである。しかし、一方、Mwが35万を超える場合には、分子鎖の絡み合いが大きくなり過ぎて、延伸性が悪化し、製糸性に問題が発生するので、より好ましいMwの範囲としては15万〜30万、特に好ましい範囲としては20万〜30万の範囲のものがよい。
【0053】
本発明のポリ乳酸繊維は、その表面滑り性を向上させることで、本発明の特性を有するポリ乳酸繊維を得やすくなる。ポリ乳酸繊維の表面滑り性を向上させるためには、ポリ乳酸繊維に平滑剤を添加する方法が例示でき、例えば、脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを0.1〜5重量%、更に好ましくは0.5〜3重量%をエクストルーダ内で混合する方法を採用することができる。添加量が0.1重量%未満では効果が十分に得られず、5重量%を超える場合には必要な繊維物性を得ることが困難となる。脂肪酸ビスアミドとは、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、芳香族系ビスアミド等の1分子中にアミド結合を2つ有する化合物を指し、例えばメチレンビスカプリル酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスミリスチン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスイソステアリン酸アミド、メチレンビスベヘニン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ブチレンビスベヘニン酸アミド、ブチレンビスオレイン酸アミド、ブチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等であり、アルキル置換型の脂肪酸モノアミドとは、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置き換えた構造の化合物を指し、例えば、N−ラウリルラウリン酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ベヘニルベヘニン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド等が挙げられる。該アルキル基は、その構造中にヒドロキシル基等の置換基が導入されていても良く、例えば、メチローラステアリン酸アミド、メチローラベヘニン酸アミド、N−ステアリル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド等もアルキル置換型の脂肪酸モノアミドに含むものとする。なかでも、脂肪酸ビスアミドは、アミドの反応性がさらに低いためポリ乳酸と反応しにくく、また、高分子量であるため耐熱性が良く昇華しにくいことから、より好ましく用いることができる。上記脂肪酸ビスアミドやアルキル置換型の脂肪酸モノアミドは単一で添加しても良いし、また複数の成分を混合して用いても良い。
【0054】
また、表面平滑特性を向上させるために油剤を付与しても良い。油剤は、水系であっても非水系であっても良いが、平滑剤を主成分とし、界面活性剤、制電剤、極圧剤成分等を含み、ポリ乳酸樹脂に活性な成分を除いた油剤組成とすることが好ましい。例えば、水エマルジョンに含まれる乳化成分は、ポリ乳酸繊維の繊維構造を変化させる作用があり、延伸時に表面凹凸を生成し易く働く。従って、非水系油剤を用いることが好ましい。更に、好ましい油剤組成は、例えば、平滑剤成分としてアルキルエーテルエステル、界面活性剤成分として高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、極圧剤成分として有機ホスフェート塩等を鉱物油で希釈した非水系油剤である。
【0055】
表面平滑特性の向上により、結節による強伸度低下が抑制される機構については明らかでは無いものの、表面が平滑となることで結節時の摩擦による繊維の劣化が低減することができる。
【0056】
本発明の繊維製品は、前記のようにして得られた本発明のポリ乳酸繊維を少なくとも一部に用いて構成されてなるものである。本発明のポリ乳酸繊維を少なくとも一部に用いることで、十分な機械的特性を有し、且つ、生産性に優れた繊維製品を得ることが可能となる。
【0057】
かかる繊維製品としては、平織物、綾織物、朱子織物、紋織物、メッシュシート等の経糸と緯糸から構成される織物や、経編物、緯編物等の編物、無結節網、もじ網、蛙又網、ラッセル網等のネットを例示することができるが、特に引掛け部や結節部で構成される編物、ネット、なかでもシングルラッセルネット、ダブルラッセルネットとして適用した際に、本発明の繊維製品は従来のポリ乳酸繊維製繊維製品と比べて生産性、機械的特性について大きな効果を発現し、蔓ものネット等の農業用繊維製品、養生ネット等の建築用繊維製品、植生ネット、護岸ネット等の土木用繊維製品、漁網、海苔網等の水産用繊維製品、防獣ネット、防霜ネット等の林業用繊維製品、落石防止ネット、防球ネット等の安全ネット等、繊維製品としての機械的特性が求められる産業用繊維製品に好適に使用することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0059】
[ポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)]:試料のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(ウォーターズ社製GPC−150C)で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mn、さらに分散度Mw/Mnを求めた。尚、3回の測定の平均値を用いた。
【0060】
[ラクチド量]: 試料1gに2,6−ジメチル−γ−ピロンを10000ppm含むジクロロメタン1ml、および、18mlのジクロロメタンを添加して攪拌・溶解した。溶解溶液を1ml計量し、3mlのアセトンと混合した後、16mlのシクロヘキサン溶液を加えた。得られた溶液を直径13mm、孔径0.45μmのシリンジフィルターで濾過した後、ヒューレットパッカード社製5890 SeriesII Plusを用いてガスクロマトグラフィー法で測定した。カラムは内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μmの島津社製BPX50を用いた。サンプル注入量は1μL、キャリアーガスとしては水素を用い、初期温度50℃から25℃/分の速度で325℃まで昇温して測定し、絶対検量線法により求めた。尚、3回の測定の平均値を用いた。
【0061】
[融点(Mp)]:パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7型を用い、試料10mgを昇温速度 5℃/分にて測定して得た融解曲線の吸熱極値を与える温度を融点(℃)とした。尚、3回の測定の平均値を用いた。
【0062】
[水分率]:平沼産業社製カールフィッシャー水分計(AQ−2100)を用いた電量滴定法で測定した。試行回数3回の平均値を用いた。
【0063】
[油剤成分付着量]:秤量した試料10gを120mlのメタノールを用いて25℃で10分間攪拌した。試料を取り出し、再度120mlのメタノールを用いて25℃で10分間攪拌する洗浄作業を2度繰り返した後、試料を真空乾燥して重量を測定した。得られたデータから下記式で油剤成分付着量を測定した。なお、2回の試行の平均値を用いた。
油剤成分付着量(%)=((洗浄前重量(g)/洗浄後重量(g))−1)×100
【0064】
[繊度]:JIS L1013 8.3.1 B法に従って測定した。
【0065】
[直線強度および伸度]:試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100でJIS L1013 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。この時の掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分、試験回数10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0066】
[結節強度および伸度]:試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100でJIS L1013 8.6.1標準時試験に示される条件で測定した。この時の掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分、試験回数10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0067】
[結節強度と直線強度、及び、結節伸度と直線伸度の関係]:結節強度(Tk)と直線強度(T)、結節伸度(Ek)と直線伸度(E)から次式に従い求めた。
Tk/T×100=結節強度と直線強度の関係(%)
Ek/E×100=結節伸度と直線伸度の関係(%)
【0068】
[引掛強度および伸度]:試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100でJIS L1013 8.7.1標準時試験に示される条件で測定した。この時の掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分、試験回数10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0069】
[引掛強度と直線強度、及び、引掛伸度と直線伸度の関係]:引掛強度(Tl)と直線強度(T)、引掛伸度(El)と直線伸度(E)から次式に従い求めた。
Tl/T×100=引掛強度と引掛強度の関係(%)
El/E×100=引掛伸度と引掛伸度の関係(%)
【0070】
[分解糸の強伸度]:筒編物を分解して得られたモノフィラメントをオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100でJIS L1013 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。この時の掴み間隔は10cm、引張り速度は30cm/分、試験回数10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0071】
[製編性]: トータル長さ2mの筒編物を得る際にモノフィラメントが断糸した回数を求めた。
【0072】
(実施例1)
光学純度99.5%のL−乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)を用いて窒素雰囲気下180℃で重量平均分子量が20万となる様に時間を調整して重合を行い、融点170℃のポリ乳酸樹脂を得た。得られたポリ乳酸樹脂を100℃で真空乾燥して水分率80〜100ppmの範囲となる様に調整した後、紡糸ホッパー(1)に貯留し、φ40mm(L/D=25)の1軸エクストルーダ(2)型溶融紡糸装置に供給して、紡糸温度240℃で溶融紡糸した。溶融ポリマは、ギヤポンプ(3)にてモノフィラメントの最終繊度が400dtexとなるように計量したのち、紡糸パック(4)中で20μmの金属不織布フィルターで濾過し、孔径1.0mmφ、孔長2.5mmで30ホールの口金(5)から紡出した。
【0073】
紡出したポリマを口金面下方4cmの位置に70℃の温水液面を有する冷却浴(6)で冷却固化した後、表面速度20m/分の第1ローラ(7)で引き取った。引き取ったポリ乳酸未延伸モノフィラメント糸条は一旦巻き取ることなく、総倍率が4倍となるよう第一ローラ(7)と第二ローラ(9)との間で延伸を行った。延伸には温水浴(8)を用い、延伸温度は85℃に設定した。延伸後の糸条は第二ローラ(9)と第三ローラ(11)間で0%弛緩処理を行った後、第三ローラ(11)と第四ローラ(14)間で弛緩率3%となるようにリラックスをし、巻き取り機(15)を用いて77.7m/分の速度で巻き取った。この時、ポリ乳酸モノフィラメントへの最終付着量が0.4重量%となるように第二ローラ(9)と第三ローラ(11)間で油剤{イオン交換水80重量%、平滑剤成分(イソステアリルオレート)12重量%、及び、ノニオン系界面活性剤(硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド10モル付加物)8重量%の混合懸濁物}を油剤ローラ(10)を用いて付与した。また、第三ローラ(11)と第四ローラ(14)間には温度の異なる2つの熱板(12)(13)を連続して配置し、それぞれ135℃、155℃となる様に設定した。得られたポリ乳酸モノフィラメント(MF)の物性を表1に示した。
【0074】
得られたポリ乳酸繊維はシリンダー口径3.5インチ、ニードル数160本の筒編み機(秀光産業株式会社製 NCR−EW)を用いて筒編物とした。筒編物の評価結果を表1に示した。
【0075】
(実施例2)
エチレンビスステアリン酸アミド(EBA)[日本油脂社製「アルフローH−50S」]を乾燥した後、実施例1のポリ乳酸樹脂:EBA=99:1(重量比)となるようにEBAを計量して連続的に実施例1のポリ乳酸樹脂に添加しながらシリンダー温度220℃の2軸混練押し出し機に供することで、EBAを1重量%含有したポリ乳酸樹脂を得た。得られたポリ乳酸樹脂を用いたこと、総延伸倍率を4.5倍、巻取り速度を87.4m/分にしたこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0076】
(実施例3)
紡糸温度を210℃、液面位置を口金下方7cm、冷却浴温度を85℃、引き取り速度
を30m/分、延伸倍率を5倍、巻き取り速度を145.6m/分にしたこと以外は実施例1と同様におこなった。
【0077】
(実施例4)
液面位置を口金下方2cmにしたこと、延伸倍率を3倍としたこと以外は実施例1と同様におこなった。
【0078】
(実施例5)
溶融ポリマをギヤポンプ(3)にてモノフィラメントの最終繊度が1200dtexとなるように計量したこと、および、孔径1.5mmφ、孔長3.5mmで10ホールの口金(5)から紡出したこと以外は実施例4と同様におこなった。
【0079】
(比較例1)
紡糸温度を220℃としたこと以外は実施例1記載の方法で紡出したポリマを口金面下方11cmの位置に液面を有する95℃の温水で冷却固化した後、表面速度50m/分の第1ローラ(7)で引き取った。引き取ったポリ乳酸未延伸モノフィラメント糸条は一旦巻き取ることなく、総倍率が6倍となるよう第一ローラ(7)と第二ローラ(9)との間で1段目の延伸を、第二ローラ(9)と第三ローラ(11)で2段目の延伸を行った。1段目の延伸には温水浴(8)を用い、2段目の延伸には熱板(16)を用いた。延伸温度は各々85℃、105℃に設定し、1段目と2段目の延伸比率は3:1に設定した。延伸後の糸条は第三ローラ(11)と第四ローラ(14)間で弛緩率3%となるようにリラックスをし、291.3m/分の速度で巻き取った。第三ローラ(11)と第四ローラ(14)間には1つの熱板(12)を配置し155℃となる様に設定した。第四ローラ(14)と巻取り機(15)の間でポリ乳酸モノフィラメントへの最終付着量が0.4重量%となるように実施例1記載の油剤を油剤ローラ(10)を用いて付与した。得られたポリ乳酸モノフィラメントの物性を表1に示した。
【0080】
【表1】

【0081】
実施例、及び、比較例記載のポリ乳酸繊維は各々2tの生産において糸切れは2回/t以下であり、製糸性良く得ることが可能であった。しかしながら、実施例より明らかなように本発明のポリ乳酸繊維は製編性に優れ、製品とした際も繊維の劣化が小さい特徴を有している一方で、比較例に記載の本発明の範囲を外れるポリ乳酸繊維は製編性が悪く、又、得られた編物中のポリ乳酸繊維も劣化が激しいものであった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施例記載の紡糸工程図である。
【図2】本発明の比較例記載の紡糸工程図である。
【符号の説明】
【0083】
1:紡糸ホッパー
2:エクストルーダ
3:ギヤポンプ
4:紡糸パック
5:紡糸口金
6:冷却浴
7:第一ローラ
8:延伸浴
9:第二ローラ
10:油剤ローラ
11:第三ローラ
12:オーブンヒーター
13:オーブンヒーター
14:第四ローラ
15:巻取り機
16:オーブンヒーター
MF:ポリ乳酸モノフィラメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結節伸度が直線伸度の75〜110%であり、かつ、結節強度が直線強度の75〜100%であることを特徴とするポリ乳酸繊維。
【請求項2】
前記結節伸度が25〜90%であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸繊維。
【請求項3】
前記結節強度が1〜5cN/dtexであることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリ乳酸繊維。
【請求項4】
前記ポリ乳酸繊維が、95重量%以上が共重合成分を実質的に含まないL−乳酸および/またはD−乳酸よりなるポリ乳酸樹脂からなるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸繊維。
【請求項5】
前記ポリ乳酸繊維の単糸繊度が100〜1000dtexであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸繊維。
【請求項6】
前記ポリ乳酸繊維が、モノフィラメントであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸繊維。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリ乳酸繊維を少なくとも一部に用いて構成されていることを特徴とする繊維製品。
【請求項8】
前記繊維製品が、編物および/またはネットであることを特徴とする請求項7に記載の繊維製品。
【請求項9】
水分率が0〜200ppmのポリ乳酸樹脂を融点+60℃〜融点+90℃の温度で溶融し、口金より押し出した後、引き取り速度10〜30m/分で口金面と冷却浴液面までの距離が1〜10cmである冷却槽で冷却した後延伸し、その後、0〜3%の弛緩処理を施した後、さらに、温度の異なる2つ以上の熱セット領域で、2段目の弛緩処理を弛緩率0〜10%の範囲で行うことを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−185397(P2009−185397A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23552(P2008−23552)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】