説明

ポリ乳酸繊維と綿又はセルロース系繊維との複合繊維構造物に対するシルケット加工方法

【課題】ポリ乳酸繊維と綿又はセルロース系繊維とからなる複合繊維構造物に対し、特別な装置を用いることなく、有効に、苛性ソーダによるシルケット加工を行う方法及び、該複合構造物に、濃色染色、連続染色を可能とする染色性を与える方法を提供する。
【解決手段】少なくともポリ乳酸繊維と綿又はセルロース系繊維を含む複合繊維構造物に対し苛性ソーダ液を用いてシルケット加工する方法において、処理工程は、少なくとも、苛性液処理工程、洗浄工程、中和工程を含み、苛性液処理工程直後の洗浄工程を、40℃以下で行う。苛性液処理工程の液温は10〜30℃、中和工程の槽内温度は30〜50℃、苛性ソーダ濃度が3〜30質量%とする。処理工程は、中和工程の後、洗浄工程、漂白工程、さらには染色工程(反応染料によるもの、草木染)を含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸繊維と綿又はセルロース系繊維とからなる複合繊維構造物に対し行う苛性ソーダによるシルケット加工方法に関し、詳しくは、ポリ乳酸繊維を含む複合繊維構造物において、構造物中に含まれる綿又はセルロース系繊維に対し有効にシルケット加工を行うことによって、複合構造物の染色性を向上させてなる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は、ポリ乳酸の原料である乳酸あるいはラクチドを、二酸化炭素を吸収する植物から製造することが可能であるため、地球温暖化といった地球環境に配慮した汎用性ポリマーとして注目されている。このポリ乳酸からの繊維は、生分解性プラスチックからなる繊維として注目され、植物原料のカーボンニュートラルな熱可塑性繊維であることから、植物繊維である綿繊維と組み合わせて、両者の長所を生かした繊維構造物を衣料用途向けに作成されることが望まれている。
【0003】
しかし、このポリ乳酸のような生分解性プラスチックは、室温や高温の水中における加水分解性が非常に高く、さらには、空気中の水分によっても、分解され得るという性質を持っている。
この易加水分解性という性質を有することから、生分解性プラスチック(ポリ乳酸)を繊維として使用する場合には、染料の水分散溶液による高温での染色や高アルカリでの処理を行うと、布帛の引裂強度が急激に低下してしまう。そのことから、比較的低温での染色しか行えず、染色後に高温のアルカリ処理ができないため、堅牢な濃色に染めることができない、あるいは漁網などの水産資材用として水中で使用する場合には、その使用可能期間がごく短期間に限定されてしまう、さらには経時安定性に乏しく、製造後長期間経た後では劣化のため、当初の性能が発揮できない、といった問題があった。
【0004】
綿繊維の染色性の向上にはシルケット加工を行うことが慣用されているが、綿繊維とポリ乳酸繊維の複合素材の場合、上記のようにポリ乳酸繊維の耐アルカリ性が低いので、苛性ソーダを使用したシルケット加工が難しい。すなわち、このような複合品は、シルケット加工によっては綿繊維の染色性を向上させることができない。
【0005】
このため、綿繊維側の染色に使用する染料が有効に利用できず、染料を無駄使いするので、染料費用の面の問題を有している。
また、無シルケット綿は染色性が低いために、濃色を得ようとした場合、排水に染料を廃棄することとなり、排水処理費用が掛かるという問題も生じる。
【0006】
さらに、シルケットなし綿は、染色性が低いため、特に濃色染めやプリント染色が困難である。したがって、ポリ乳酸繊維と綿繊維との複合構造物において、連続染色またはプリント染色で綿繊維側を濃く染めることは難しい。
【0007】
これまでに提案された、ポリ乳酸繊維とセルロース系繊維との複合構造物に対する染色技術を示す公知文献としては、次のようなものを挙げることができる。
【0008】
本出願人が開発したポリ乳酸繊維の染色性に関する技術としては、カルボジイミド化合物を耐加水分解安定剤として配合した生分解性プラスチックからなる繊維を用いるもの(特許文献1参照)があるが、カルボジイミドを用いるのでコストアップになるばかりでなく、植物から得た原料であるポリ乳酸繊維に対して使用するのは、エコロジーの観点から好ましくない。更に、この技術では、綿及びセルロース系繊維側の染色性については課題が残るものであった。
【0009】
分散染料により染色可能な重合体微粒子を紡糸原液に添加して得られるセルロース系繊維を用いるもの(特許文献2参照)があるが、この技術では、綿繊維そのものには適用できない。
【0010】
また、特許文献3には、染色方法を改善するものとして、複合繊維構造物を、分散染料を含む染浴に浸漬してポリ乳酸系繊維をその質量に対して染料含有率が0.1質量%以上になるように染色し、次いで還元洗浄し、しかる後に上記繊維構造物を反応染料とアルカリを含む染浴に浸漬してセルロース系繊維を染色し、次いで界面活性剤を含む洗浄液によって50〜80℃の温度でソーピングする技術が開示されている。
しかし、この技術も、綿やセルロース系繊維の染色性には改善がみられず、染料の有効利用は難しいものである。
【0011】
他には、ポリ乳酸系繊維染色後に、ソーダ灰を用い、温度75〜98℃、pH2〜6の還元剤浴中で、染色物を還元洗浄する方法(特許文献4参照)、ポリ乳酸繊維を分散染料で染色する前に、90〜130℃の温度で10〜120秒間、熱処理を施すプレキュア工程、分散染料で染色した後、pH4.0〜pH6.5の酸性側で、繊維表面上に付着している分散染料を除去する表面処理工程を具備する方法(特許文献5参照)、などがあるが、これらの技術も、綿及びセルロース系繊維側の染色性については考慮されておらず、その染色性の向上が期待できるものではない。
【0012】
以上のように、綿・セルロース系繊維側の染色性向上に関する有効な技術を示す資料は見当たらないのが実態であり、濃色の染色物を、ポリ乳酸繊維を含む綿やセルロース系繊維複合構造物から得ようとすることはあきらめざるを得なかったというのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−226183号公報
【特許文献2】特開2000−303284号公報
【特許文献3】特開2003−253575号公報
【特許文献4】特開2003−328280号公報
【特許文献5】特開2005−42268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、ポリ乳酸繊維を植物繊維である綿繊維やセルロース系繊維と組み合わせて両者の長所を生かした繊維構造物を衣料用とする場合に、衣料品に求められる色相展開にも対応できる、濃色の染色を可能とする染色性を備えた複合構造物を提供することを課題とする。
【0015】
具体的には、ポリ乳酸繊維と綿又はセルロース系繊維とからなる複合繊維構造物に対し、特別な装置を用いることなく、有効に、苛性ソーダによるシルケット加工を行う方法を提供することを課題とし、該複合構造物に、濃色染色、連続染色を可能とする染色性を与えることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
ポリ乳酸繊維はアルカリに弱く、通常一般的な方法でシルケット加工すると、苛性ソーダによってエステル加水分解が進み、ポリ乳酸が減量されてしまうが、本発明者は、鋭意検討した結果、ポリ乳酸繊維のガラス転移点以下の温度である45〜50℃またはそれを下回る温度で処理した場合、苛性ソーダが存在しても、短時間の接触であれば、減量を防いでシルケット加工することができることを見出し、本発明に至った。
【0017】
すなわち、本発明はシルケット加工の温度管理を最適化、特に、苛性液処理直後の洗浄槽内温度を低温とすることによって、ポリ乳酸繊維と綿又はセルロース系繊維とからなる複合繊維構造物に対し、苛性ソーダによるシルケット加工を可能とし、複合構造物の染色性を向上させることを特徴とするものであり、以下の技術を基礎とする。
【0018】
(1)少なくともポリ乳酸繊維と綿又はセルロース系繊維を含む複合繊維構造物に対し苛性ソーダ液を用いてシルケット加工する方法において、
処理工程は、少なくとも、苛性液処理工程、洗浄工程、中和工程を含み、
苛性液処理工程直後の洗浄工程を、40℃以下で行うことを特徴とするシルケット加工方法。
【0019】
(2)上記苛性液処理工程の液温が10〜30℃、中和工程の槽内温度が30〜50℃であることを特徴とする(1)に記載の加工方法。
【0020】
(3)上記苛性液処理工程の苛性ソーダ濃度が3〜30質量%であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の加工方法。
【0021】
(4)上記処理工程が、中和工程の後、洗浄工程、亜塩素酸漂白による漂白工程を含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の加工方法。
【0022】
(5)上記処理工程が、さらに染色工程を含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の加工方法。
【0023】
(6)上記染色工程が、反応染料を用いるものであることを特徴とする(5)に記載の加工方法。
【0024】
(7)上記染色工程が、草木染であることを特徴とする(5)に記載の加工方法。
【0025】
(8)上記繊維構造物が、布帛であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の加工方法。
【0026】
(9)上記繊維構造物が、糸であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の加工方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明の加工方法によれば、ポリ乳酸が減量することなく、ポリ乳酸繊維と綿又はセルロース系繊維との複合繊維構造物に対し苛性ソーダ液を用いたシルケット加工が可能となり、加工後のポリ乳酸繊維と綿又はセルロース系繊維との複合繊維構造物は、綿又はセルロース系繊維の染色性が高く、浸漬反応染色および浸染草木染め、あるいはプリント反応染色において濃色のものを得ることができるという効果を奏する。
【0028】
また、コシのあるしっかりしたシルケット風合を得ることができ、光沢や生地強度や洗濯寸法安定性も向上させることができるという効果も得ることができる。
さらに、染料を効率よく使用でき、反応染料染色廃液中の染料が少なくなるため、排水処理費用の削減、環境負荷の低減が図られる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のシルケット加工の対象となる構造物は、少なくともポリ乳酸繊維と綿またはセルロース系繊維を含む複合構造物であり、構造物の形態は、織物や編物などの布帛、あるいは糸であり、いずれも上記2種類の繊維が併用されており、染色などの液処理を両者が併存した状態で処理せざるを得ない形態のものである。
また、この布帛あるいは糸は、本発明のシルケット加工の前に、予め、精錬漂白により、夾雑物や色素を除去していても、していなくでも良い。但し、これらの処理に際しては、ポリ乳酸繊維を損傷や減量しないように、苛性ソーダなどの強いアルカリの併用よる高温または長時間の処理は好ましくない。
【0030】
本発明の複合繊維構造物に用いられるポリ乳酸繊維は、一般的に天然植物由来のL乳酸から得られるポリL乳酸から製造される繊維である。また、近年開発されたL乳酸と、その光学異性体であるD乳酸とのコンプレックス結晶構造により高耐熱性とされた重合体からの繊維(たとえば、商標「バイオフロント」帝人ファイバー社製の)を用いることも可能であるし、L乳酸とD乳酸のブロック重合体などを用いることも可能である。
ポリ乳酸繊維と併用する繊維は、綿またはセルロース系繊維が好適であるが、その他の繊維を併用しても良い。
【0031】
シルケット加工は、マーセライズ加工とも呼ばれ、苛性ソーダの濃厚溶液を用い、緊張状態で処理し、光沢、染色性向上、寸法安定性を与える加工であり、生地加工の主な機械設備としては、クリップテンター型、ピンテンター型、ニットチューブ型などが一般的である。織物生地はクリップテンター型が、ニットはピンまたはチューブ型が用いられることが多い。
【0032】
いずれも、均一に苛性ソーダを含浸させた後に、経緯にテンションを掛け、30から60秒程度その状態を保持させたタイミング後に、シャワーやサクションで苛性ソーダを適度に洗い流し、その後、引き続いて、80℃前後の温水洗浄、60℃前後の酸中和により、苛性ソーダを除去することを拡布状で連続的に行なうことが出来る加工設備である。温水洗浄ならびに酸中和はそれぞれ独立した槽からなり、生地がこの槽内を通過する時間が処理時間となる。
一方、糸シルケット加工機は、生地加工に準じて連続処理するものや、糸をかせ状態にしてバッチ処理するものがある。
【0033】
本発明のシルケット加工は、次の工程によって行われる。温度条件以外は一般的なシルケット加工方法により行うことができる。本発明方法は各工程での温度管理が重要である。
【0034】
(1)苛性ソーダ液処理工程
まず、一般的な苛性ソーダシルケット機またはこれと同じ機能を有する機械を用いて、繊維構造物(生地または糸)に対し苛性ソーダの液処理を行う。
シルケット加工は綿繊維を膨潤させ、綿の染色性を大きく改善する効果があるものであるが、苛性ソーダ液浸漬時は低温の方が効果的であり、また、苛性ソーダと綿との反応は発熱反応であるので、たとえば冷却装置を用いるなどして液温度を調節する。液温度は10〜30℃が好ましい。苛性ソーダ濃度は1〜30質量%とし、好ましくは15〜25質量%とする。浸漬から洗浄までの時間、すなわち、苛性ソーダタイミングは15〜90秒とし、好ましくは、30〜60秒とする。
【0035】
(2)洗浄工程
続いて低温水で洗浄する。一般的なシルケット加工では温水で洗浄するが、本発明方法においては、苛性液処理直後の洗浄槽の槽内液温度は40℃以下とすることが重要である。洗浄時間は30〜600秒とし、好ましくは、60〜300秒とする。
【0036】
(3)中和工程
洗浄に続いて、残存する苛性ソーダを中和する。代表的には酢酸を用いる。
中和槽内の槽内温度は30〜50℃、浸漬時間は10〜200秒とし、好ましくは20〜100秒、とする。
【0037】
(4)洗浄工程
中和工程で用いた酸の残存溶液を洗浄する。
【0038】
(5)漂白工程
好ましくは、中和−洗浄工程に続いて、定法により漂白を行い、完全にアルカリを除去する。漂白は亜塩素酸ソーダ漂白(酸性漂白)が好適に用いられる。亜塩素酸ソーダ漂白は、例えば、バッチ式漂白であれば、25%亜塩素酸ソーダ(日本カーリット製シルブライト25)0.5%浴に酸を加えて液PH4.0にて90℃60分処理し、その後、湯洗洗浄し、塩素残留がある場合はさらにチオ硫酸ソーダで脱塩素処理することが行われる。
【0039】
シルケット加工に引き続き、必要に応じて定法により染色を行う。本発明のシルケット加工を行った、ポリ乳酸繊維と綿またはセルロース系繊維との複合構造物は、反応染料を用いて濃色に染めることができ、また、草木染めも良好に行うことができる。
【0040】
染色工程後、定法により、フィックス処理、乾燥・整理加工を行う。フィックス処理は特に濃色の場合に、色落ち防止のために行なう。なお、フィックス処理は整理加工と同時におこなうこともできる。また、乾燥を省略して、濡れた生地を乾燥しながら整理加工することもできる。
【0041】
フィックス処理とは、染色後に、弱い結合力で染着している染料や未固着染料を繊維内部、あるいは繊維表面に封じ込めたり固着させたりする処理のことをいい、強固に固着した染料においてもさらに脱落しにくくする。本発明のフィックス処理は、反応染料の色止め処理として行うものであり、ポリアミン系カチオン樹脂のような水溶性のカチオンポリマーを用いる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例に基づいて説明する。なお、配合量の単位%は、特に断らない限り、質量%である。
【0043】
[実施例1、比較例1、2]
次に示す繊維構造物に対して、以下の条件で、ビーカーシルケット処理を、ピン枠苛性浸漬→温水洗浄→酢酸中和→流水水洗の工程で行った。
ピン枠とは、長方形の枠の上面に、ピンシートを上向きに密に配置したもので、生地をピンに刺して固定することにより、処理に際して生地が収縮しないように把持することが出来る。苛性ソーダ液にピン枠に付けた生地を浸漬すると、経緯に収縮しようとする生地に対してテンションを掛ける機能を有している。
【0044】
<生地原反>
耐熱ポリ乳酸繊維(帝人ファイバー製「バイオフロント」登録商標)30%と綿70%の混紡糸、40番手、38インチ×22ゲージ、スムス編みのニット生地
【0045】
<苛性浸漬>
苛性ソーダ濃度:25%
浸透剤:ホクトールMS−30(アニオン系界面活性剤、北広ケミカル 製)を0.5%添加
苛性液 液温:室温(25℃)
苛性浸漬時間:30秒
浸漬後タイミング:30秒
【0046】
<温水洗浄>
洗浄液 液温:25℃、50℃、90℃
温水浸漬時間:300秒
苛性濃度:3%
【0047】
<酢酸中和>
酢酸濃度:3ml/l
中和液 液温:室温
浸漬時間:60秒
【0048】
上記の条件で行った結果(実施例1及び比較例1,2)と、湯洗のみの場合とを比較した結果を表1に示す。
耐加水分解性について、硫酸脱綿による残渣重量から求めた綿以外の成分の重量により評価した。
なお、硫酸脱綿は、70%硫酸法JIS L 1030により実施した。
【0049】
【表1】

【0050】
[実施例2]
実施例1と同じ生地に対して、次の条件で、他は定法に従い、チューブ型シルケット機を用いて、実機シルケット加工を行った。
【0051】
<処理>
苛性浸漬:苛性ソーダ濃度 20%
苛性液 液温 25℃ 洗浄までのタイミングは45秒
温水洗浄:洗浄液 液温 25℃ 洗浄時間は120秒
酢酸中和:中和液 液温 50℃ 中和槽はPH5に管理
水洗
【0052】
<後処理>
亜塩素酸ソーダバッチ式漂白を、25%亜塩素酸ソーダ(日本カーリット製シルブライト25)0.5%浴で液PH4.0にて90℃60分処理によって実施し、その後、湯洗洗浄して水洗浄。
定法に従って脱水乾燥、仕上げ剤なしでピンテンターセット。比較例3は後処理だけを行なった。
【0053】
実施例2とシルケット加工無し(比較例3)の場合について、次の特性を測定することにより評価した。
生地強力:ミューレン破裂強力(JIS L 1018 A法)
洗濯収縮性:5回の洗濯(JIS L 0217 103法)後、経及び緯の収縮率
染色性によるシルケット程度の推定:直接染料染色の色相によって処理生地のシルケット具合を比較した。
繊維断面:SEM(走査型電子顕微鏡観察)
表2に、結果を示す。
【0054】
染色性によるシルケット具合の評価は、International Textile Bulletin,World Edition.Dyeing,Printing,Finishing “The Causticization Number“- a new way to characterize a causiticizing treatment on cotton 1982 P.Vonehone 著104ページ、または、『新版繊維加工技術』地人書館発行 増田俊郎 塩沢和夫 著 160ページ に記載されており、具体的には、赤と緑の直接染料であるC.I.Direct Red 81とC.I.Direct Green 26 をそれぞれ、1.2%、2.8%含む染浴で吸尽染色を行ない、その後十分に洗浄した生地の色相から、効果的にシルケットが掛かっていることを確認した。シルケットされた綿繊維は、サイズが大きな細孔と小さな細孔の両方が存在するので、分子量の大きな緑染料にも、小さな赤染料にも染まりやすいが、シルケットなしは小さな細孔が多いため、緑染料には染まりにくく、一方、分子量の小さな赤染料に染まることを利用した評価方法である。
【0055】
【表2】

【0056】
表1及び表2の結果から、次のことが分かる。
(1)通常の洗浄温度ではポリ乳酸が減量されるが、洗浄温度を管理すれば、ポリ乳酸繊維複合生地のシルケット加工が可能である。
(2)洗浄温度を低温に管理することにより、生地強度向上,洗濯収縮低減のシルケット効果が得られる。
なお、シルケット加工は、直接染料配合染色の色相と繊維断面の形状から確認できる。
【0057】
<染色性の評価>
実施例2でシルケット加工した生地について、次により染色性を評価した。
[1]反応染料浸漬染色の色相ならびに染色残液と洗浄処理合計液の吸光度
(1)染色
染料処方:表3によった。
染色温度:60℃×90分
染色浴比:1:20 浴比は被処理生地と処理浴液の重量比を表す
染料濃度:1.5%OWF OWFは生地に対する染料重量を表す
生地重量:10g
染色助剤:無水芒硝 60g/リットル
ソーダ灰 25g/リットル
設備 :ラボマスター(辻井染機)
【0058】
【表3】

【0059】
(2)洗浄
洗浄は、ラボマスター(辻井染機)を用い、表4の条件で、ためすすぎ4回→中和→ソーピング→ためすすぎ2回→乾燥、の工程で行った。
なお、染料の有効利用具合を評価するために、染色残液並びに上述の洗浄液を加え一定量とした液の着色程度を比較した。
【0060】
【表4】

【0061】
[2]反応染料プリント染色の色相
以下の条件で、プリント→乾燥→スチーム(100℃×10分)→洗浄の工程によりプリント染色した。
(1)染色
染料 20 g/kg
尿素 50 〃
元糊 600 〃
炭酸水素ナトリウム 10 〃
(2)染料処方
レマゾール イエローGR133 20g/kg
ブリリアントレッドBB150 〃
ブリリアントブルーBB133 〃
(3)元糊処方
水 380 g/kg
ヘキサメタリン酸ナトリウム 5 〃
ルディゴール 15 〃 (BASF)
スノーアルギンM(6%) 600 〃 (富士化学)
(4)洗浄工程
水洗→酸中和→水洗→湯洗い→ソーピング→水洗。
(5)設備
試験用オートスクリーン捺染機 SP-300(辻井染機)
サンプルスタースチーマー SS-2(辻井染機)
【0062】
[3]草木染めの色相
以下の条件で草木染めを行った。
(1)前処理
カチオテック555(洛東化成)10%OWF 処理浴比1:20 80℃×30分
(2)染色
染料液 20%OWF 処理浴比1:20 90℃×30分
色素:ログウッド RKカラー 1LO-HPG(洛東化成)
ラックダイ RKカラー 7LA-200L(洛東化成)
(3)媒染
媒染液:5%OWF 処理浴比1:20 70℃×20分
媒染剤:鉄 RKカラー MO-F1(洛東化成)
アルミ RKカラー MO-A3(洛東化成)
(4)後処理
ソーピングはソーピング剤 1g/リットル 70℃×10分
【0063】
各試験片の色相と吸光度を測定した結果を表5〜7に示す。
なお、K/Sは次式により、最大吸収波長での反射率Rから求めた。
K/S=(100‐R)/2R/100
【0064】
【表5】

【0065】
【表6】

【0066】
【表7】

【0067】
表5の反応染料浸染結果に示すように、本発明のシルケット加工品の染色性が優れている。
また、表6の反応染料プリントや表7の草木染め結果に示されるように、本発明のシルケット加工品の方が濃色が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上、詳述したように、本発明のシルケット加工を行うことにより、ポリ乳酸繊維と綿またはセルロース系繊維との複合構造物に対する濃色染色が可能であるなどの良好な染色性を与えることができるものである。したがって、地球環境に配慮した地球にやさしい衣料品のより実用化を図ることができる等、実用的な効果を期待できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリ乳酸繊維と綿又はセルロース系繊維を含む複合繊維構造物に対し苛性ソーダ液を用いてシルケット加工する方法において、
処理工程は、少なくとも、苛性液処理工程、洗浄工程、中和工程を含み、
苛性液処理工程直後の洗浄工程を、40℃以下で行うことを特徴とするシルケット加工方法。
【請求項2】
上記苛性液処理工程の液温が10〜30℃、中和工程の槽内温度が30〜50℃であることを特徴とする請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
上記苛性液処理工程の苛性ソーダ濃度が3〜30質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の加工方法。
【請求項4】
上記処理工程が、中和工程の後、洗浄工程、亜塩素酸漂白による漂白工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の加工方法。
【請求項5】
上記処理工程が、さらに染色工程を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の加工方法。
【請求項6】
上記染色工程が、反応染料を用いるものであることを特徴とする請求項5に記載の加工方法。
【請求項7】
上記染色工程が、草木染であることを特徴とする請求項5に記載の加工方法。
【請求項8】
上記繊維構造物が、布帛であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の加工方法。
【請求項9】
上記繊維構造物が、糸であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の加工方法。

【公開番号】特開2010−163719(P2010−163719A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8305(P2009−8305)
【出願日】平成21年1月17日(2009.1.17)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】