説明

ポリ乳酸繊維並びにそれを用いた布帛および繊維製品

【課題】環境に優しい防かび性に良好に有するポリ乳酸繊維、更に該ポリ乳酸繊維を用いた布帛と繊維製品を提供する。
【解決手段】 無機成分と有機成分から構成される防かび性能を有する添加剤を、繊維全体の0.05〜3重量%含有することを特徴とするポリ乳酸繊維、およびさらに、添加剤の無機成分が、酸化亜鉛または酸化チタンであり、前記無機成分の表面を有機成分で被覆していることを特徴とするポリ乳酸繊維並びに、それらを全体の少なくとも30重量%使用していることを特徴とする布帛あるいは繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防かび性能に優れたポリ乳酸繊維、該ポリ乳酸繊維からなる布帛および繊維製品に関するものである。
【0002】
なお、本発明において、防かび性能とは、一般的に、抗菌性能あるいは防藻性能と呼ばれる性能と共通するものでもある。り、
【背景技術】
【0003】
近年、ライフスタイルの変化により清潔志向が高まり、防かび、抗菌、防藻、あるいは防ダニなどの機能を有する製品・商品を求める消費者が増えてきた。そのニーズは繊維製品・商品に関しても同様であり、該消費者の要請に応えてさまざまな防かび、抗菌機能などを有する繊維が提案されている。
【0004】
一般的に、合成樹脂用防かび剤や抗菌剤は多く存在(「防菌防黴剤辞典」、日本防菌防黴学会、1994年)し、目的の細菌、真菌、藻類に効果のある剤を選択し、必要に応じて改良して使用されている。
一方、近年、地球温暖化に対する環境対策商品への関心が高まり、バイオマス原料、生分解性原料などを用いたエコ商品を求める消費者が増えてきた。現在、バイオマス原料かつ生分解性原料として注目をされているのは、脂肪族ポリエステルの一種であるポリ乳酸である。ポリ乳酸プラスティックスを用いた製品においても、通常に使用する際は、一般的なプラスティックスと同様に、真菌、細菌、藻類などの微生物による汚染を受けるため、エコ商品であっても、機能性を求める要望が高まってきた。
【0005】
例えば、生分解性プラスティックス成形物の表面に、茶抽出物、茶粉末、カテキン、サポニンおよびタンニン(酸)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の有効成分を染着法担持させ、黒かびに対して効果の有効性のある機能性生分解性プラスティックス成形物が提案されている(特許文献1)。しかしながら、実際の生活環境に存在するかび菌は、これをはるかに上回り、防かび糸としての実用性を考えた場合には、より多くのかび菌に対して効果が求められる
また、ポリ乳酸(L乳酸、D乳酸、L乳酸・D乳酸混合物)ヒドロキシカルボン酸との共重合体である生分解性を有する抗菌性靴下が提案されている(特許文献2)。しかしながら、抗菌性に関しては述べられているが、防かび性に関しては述べられていない。
【特許文献1】特開2001−72785号公報
【特許文献2】特開2003−171807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述したような従来の問題を解決し、環境に優しい防かび性に良好に有するポリ乳酸繊維、更に該ポリ乳酸繊維を用いた布帛と繊維製品を提供せんとするものである。
【0007】
さらに詳しくは、環境に優しい防かび性、抗菌性、防藻性に優れたポリ乳酸繊維、さらに該ポリ乳酸繊維を用いた布帛と繊維製品を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的は、以下の(1)、(2)、(3)の構成を有する本発明にかかるポリ乳酸繊維とすることにより達成される。
(1) 無機成分と有機成分から構成される防かび性能を有する添加剤を、繊維全体の0.05〜3重量%含有することを特徴とするポリ乳酸繊維。
【0009】
また、かかる本発明のポリ乳酸繊維において、より好ましくは、以下の(2)、(3)のいずれかのより具体的な構成を有するものである。
(2)添加剤の無機成分が、酸化亜鉛または酸化チタンであり、無機成分の表面を有機成分で被覆している添加剤である上記(1)記載のポリ乳酸繊維。
(3)該添加剤の有機成分が、イミダゾール系化合物、ピリジン系化合物、チアゾリン系化合物、ハロゲン系化合物、およびハロアルキルチオ化合物からなる群から選ばれた少なくとも2種以上の組合せからなる混合有機成分であることを上記(1)、(2)のいずれかに記載のポリ乳酸繊維。
【0010】
また、上述した目的を達成する本発明の布帛は、以下記載の構成を有するものである。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリ乳酸繊維を布帛全体の少なくとも30重量%使用してなる布帛。
【0011】
また、上述した目的を達成する本発明の繊維製品は、以下の記載の構成を有するものである。
(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリ乳酸繊維を製品全体の少なくとも30重量%使用してなる熱可塑性繊維製品。
【0012】
本発明のポリ乳酸繊維、布帛、繊維製品は、防かび性能に加えて、抗菌性能、あるいは防藻性能をも有することができるものである。
【0013】
例えば、本発明にかかる繊維製品を漁網に使用すると、防かび効果とともに良好な防藻効果を発揮するものであり、漁網の場合には、その防藻効果の方に主たる注目が集まる。したがって、本発明のポリ乳酸繊維、布帛、繊維製品は、それぞれの実用途においては、その用途に適合させた防かび性、抗菌性および/または防藻性を有するものとして表現し説明することもできるものであり、本発明のポリ乳酸繊維、布帛、繊維製品は、それらの抗菌性および/または防藻性を要請される分野においても、同様の構成態様で利用できるものであり、本発明は、そのような抗菌性および/または防藻性を要請する技術分野にも使用可能なものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、良好な防かび性能を有するポリ乳酸繊維と、該ポリ乳酸繊維布帛、繊維製品を得ることができる。すなわち、良好な防かび性を有しつつ、かつ生分解性も損なわれることのない繊維、布帛、繊維製品を提供できたのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のポリ乳酸繊維についてさらに詳細に説明する。
【0016】
本発明のポリ乳酸繊維は、防かび性能を有する添加剤を繊維全体の0.05〜3重量%含有し、該添加剤が無機成分と有機成分から構成されてなることを特徴とするものである。
【0017】
本発明で用いる添加剤は、防かび性能を有することが重要である。
【0018】
ここで、防かび性能を有するとは、一般に、細菌、真菌、藻類などの生物のうち、少なくとも真菌に作用することであり、特に、本発明では、JIS Z 2911(2000)「かび抵抗性試験方法」に従って、「真菌のうち、少なくともアスペルギルス ニゲル(Aspergillus niger)、アスペルギルス テレウス(Aspergillus terreus)、ユーロチウム トノヒルム(Eurotium tonophilum)、ペニシリウム シトリナム(Penicillium citrinum)、ペニシリウム フニクロスム(Penicillium funiculosum)、リゾープス オリゼ(Rhizopus oryzae」、クラドスポリウム クラドスポリオイデス(Cladosporium cladosporioides)、オーレオバシジウム プルランス(Aureobasidum pullulans)、グリオクラジウム ビレン(Gliocladium virens)、ケトミウム グロボスム(Chaetomium globosum)、フザリウム モニホルメ(Fusarium moniliforme)、ミロテシウム ベルカリア(Myrothecium verrucaria)」、に作用))して、菌の死滅あるは減少をせしめることができるものをいうものである。
【0019】
すなわち、本発明でいう「防かび性能を有する添加剤」あるいは「防かび性能を有する有機成分」とは、上述の真菌に作用する機能を有する添加剤あるいは有機成分をいい、ここで「真菌に作用する」とは、無機塩寒天培地上に添加剤または有機成分を3cm×3cmの領域に隙間のないように薄く広げて置き、そこに上記真菌混合胞子液を0.5mlまきかけ、温度28±2℃、湿度85%RH以上の環境下において28日間培養した場合、菌糸の発育が認められないと判断できることをいう。なお、無機塩寒天培地の構成は、特に指定はしないが、KHPO、KHPO、MgSO・7HO、NHNO、NaCl、FeSO・7HO、ZnSO・7HO、MnSO・7H2O、寒天、純水から構成される。
【0020】
本発明で用いる添加剤を構成する有機成分は、該添加剤に防かび性能を保有させるものであり、上述のように、特定の真菌に対して作用する有機成分であることが重要である。そのような有機成分としては、例えば、イミダゾール系化合物、チアゾール系化合物、有機ヨード系化合物、ニトリル系化合物、ハロアルキルチオ系化合物、ハロゲン系化合物、ピリジン系化合物、トリアジン系化合物、アルデヒド系化合物、カルボン酸系化合物、およびピリチオン系化合物などが使用できるものである。中でも、イミダゾール系化合物、ピリジン系化合物、チアゾリン系化合物、ハロゲン系化合物、およびハロアルキルチオ化合物が好ましい。さらには、そのような有機成分として、特に、該イミダゾール系化合物、ピリジン系化合物、チアゾリン系化合物、ハロゲン系化合物、およびハロアルキルチオ化合物のうち、少なくとも2種以上の有機成分の組合せからなる混合有機成分であることが好ましい。さらに、より好ましくは、ピリジン系化合物、ハロアルキルチオ化合物、およびハロゲン系化合物のうち、少なくとも2種以上の有機成分の組合せからなる混合有機成分であることが好ましい。1種のみの場合は、細菌、真菌、藻類に対する抗菌スペクトルが狭く、耐性を生じやすいので、有機成分を混合して用いることにより、抗菌スペクトルが広く、より効果的な防かび性能を実現できるからである。
【0021】
イミダゾール系化合物としては、例えば、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール、2−ベンズイミダゾールカルバミン酸メチルが挙げられる。これらは真菌に広い抗菌スペクトルを有する。また、ピリジン系化合物としては、例えばNa−ピリジンチオール−1−オキシド、Zn−ピリジンチオール−1−オキシド、2,3,5、6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジンなどが挙げられる。これらは、細菌、真菌に広い抗菌スペクトルを有する。また、チアゾリン系化合物としては、例えば、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−n−オクチルイソチアゾリン−3−オン、2−(チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンなどが挙げられる。これらは細菌、真菌に広い抗菌スペクトルを有する。ハロゲン系化合物としては、ジヨードメチルパラトリルスルホン、3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバメートなどが挙げられる。これらは真菌に広い抗菌スペクトルを有する。ハロアルキルチオ化合物としては、N−フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N−ジメチル−N’−フェニル−N’(フルオロジクロロメチルチオ)−スルファミド、N−ジクロロフルオロジクロロメチルチオ)−N,N−ジメチル−N−p−トリスルファミドが挙げられる。これらは、真菌、藻類に広い抗菌スペクトルを有する。
【0022】
ポリ乳酸繊維において長さ方向で安定した良好な高レベルの防かび性能をもたらすためには、微細な粒子状で良好に分散していることであり、分散している無機成分粒子の表面に有機成分を担持させることであり、本発明では、無機成分(粒子)表面に有機成分を少なくとも部分的にコーティングさせることにより繊維への分散性を向上させ、均一な防かび性能を発現させるようにしているものである。このように、無機成分粒子の表面を防かび性能を有する有機成分で被覆処理している添加剤を用いることが最も好ましい本発明の態様である。
【0023】
本発明で用いる添加剤を構成する無機成分は、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、ケイ酸アルミ、酸化アルミ、酸化スズ、炭化ジルコニウム、炭化ケイ素、カーボンブラック、あるいは銀ゼオライト、燐酸ジルコニウム銀などを用いることができる。特に、繊維への分散性が良く、粒径も小さく加工できることから、酸化亜鉛または酸化チタンがより好ましい。ただし、酸化亜鉛や酸化チタンは、光触媒反応を有するため、光が当たった部分は強度が低下したり、衣料用途等で染色した繊維製品の場合は、変色する等の問題も考えられる。さらに、酸化亜鉛は、微量であるが、水に溶出するため、染色工程により酸化亜鉛が溶出して、性能が低下するという問題も考えられる。そのため、活性酸素を抑えポリマーの分解や、劣化による着色、強度の低下、溶出を防ぐために、該無機粒子の表面は、例えば、シリコーンや界面活性剤などで被覆されて使用することが好ましく、表面被覆することにより、無機粒子の二次凝集を防ぎ、より分散性を向上させる相乗効果も得られるものである。ここで、「界面活性剤」とは、無機成分活性酸素を抑え、ポリマーの分解や劣化・溶出防止の機能を有するものをいうものである。
【0024】
かかる防かび性能は、添加剤が、全体として防かび性能を発揮し得るように構成されているもの、あるいは、該添加剤が複数の構成成分から構成されている場合、一部の構成成分が防かび性能を有することによって該添加剤に防かび性能が付与されているものでもよい。
【0025】
本発明で用いる添加剤は、ポリ乳酸繊維を構成している繊維中に良好に分散した微細な固体状の粒子として存在しているものであり、微細な粒子状で良好に分散していることにより、該ポリ乳酸繊維において長さ方向で安定した良好な高レベルの防かび性能をもたらすことができるものであって、本発明においては、主として、無機成分を用いることが良好な分散を実現し、有機成分は防かび性能の付与を達成するという役目を有する。
【0026】
上述の添加剤は、上述のように有機成分と無機成分とを用いていることによって良好な防かび効果を繊維長さ方向に安定して発揮させることができるため、その添加量は比較的少なくとも良好な防かび効果を発揮できるものであり、添加剤の含有量を繊維全体重量中、0.05〜3重量%程度の含有量とすることで良好な防かび効果を得ることができる。すなわち、有機成分と無機成分の両者をうまく使用して、繊維本来の性能を維持しつつ、防かび効果も適切なレベルで該繊維全体として得ることが可能となるものであり、特に、防かび性を重視するあまりに、有機成分を過度に使用するということも避けるべきことである。
【0027】
本発明によれば、上述のように、添加剤の含有量を繊維全体重量中、0.05〜3重量%程度の含有量とすることができることも一つの重要な点であり、0.05重量%未満の場合、一般に防かび性能の効果が弱く、所期の効果を繊維全体で良好にかつ安定して得ることは難しい。一方、3重量%を越えると、防かび性能が飽和して、一方でコスト高になるばかりでなく、繊維の強度などの機械的物性が低くなるという問題や、また、該繊維自体の製造プロセスや高次加工プロセスで繊維を布帛に加工にするとき等において、ガイド類などを摩耗させる等の問題が発生するので好ましくない。本発明者等の知見によれば、より好ましくは0.1〜2重量%である。
【0028】
本発明で用いる添加剤は、上述のような観点から、有機成分と無機成分とをそれぞれの役目に基づいてバランス良く併用して構成されていることが重要であり、添加剤全重量に対して、無機成分が97〜99.9重量%、有機成分が0.1〜3重量%の比率で形成されているものであることが好ましい。無機成分が97重量%未満の場合(有機成分が3%を超える場合)、ポリマーの変質により、繊維の黄変や繊維強度の低下などの問題を発生する場合があるので好ましくない。また、無機成分が99.9重量%を超える場合(有機成分が0.1%未満の場合)、防かび性能が低くなる方向であり、本発明の所期の効果を得ることがむずかしくなり、用途面で制約を受ける方向となるので好ましくない。
【0029】
本発明においては、上述したように、無機成分粒子の表面を防かび性能を有する有機成分で被覆して用いるのが好ましいものであるが、該防かび性能を有する有機成分での被覆と、上述したシリコーンや界面活性剤での無機粒子の被覆との関係は、両被覆がそれぞれ、無機粒子の表面上において、部分部分として表出するように被覆状態を形成するのがよい。このような被覆状態は、例えば、一方の被覆処理をほぼ全表面にわたるように行った後、他方の被覆処理を一部表面に対して被覆が行われるようにして行うことにより、形成させることができる。その場合、特に、後に行う被覆処理液の付与液量や濃度、処理液の付与の仕方等を適宜に設定して行えば、比較的簡単に可能である。
【0030】
本発明において、ポリ乳酸とは、乳酸やラクチド等の乳酸のオリゴマーを重合したものであり、L体またはD体の光学純度は90%以上であると、融点が高く好ましい態様である。また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していても、ポリ乳酸以外のポリマーや粒子、難燃剤、帯電防止剤、艶消し剤などの添加物を含有していてもよい。ただし、バイオマス利用、生分解性の観点から、ポリマーとしての乳酸モノマーは50重量%以上とすることが重要である。乳酸モノマーは好ましくは75重量%以上、より好ましくは96重量%以上である。
【0031】
ただし、上記のように2種類の光学異性体が単純に混合している系とは別に、前記2種類の光学異性体をブレンドして繊維に成形した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、融点を飛躍的に高めることができるためより好ましい。
【0032】
このとき、乳酸モノマー以外の部分については、ポリ乳酸の性能を損なわない範囲で、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリブチレンサクシネートおよびポリヒドロキシブチレートなどのポリマーがブレンドされていても複合されていてもよい。更に、バイオマス、生分解性を維持する観点から、ポリブチレンサクシネートやポリヒドロキシブチレートなどの他の生分解性ポリマーを用いることがより好ましい。これらポリマーのブレンドはチップブレンドでも溶融ブレンドでもよく、また複合は芯鞘複合でも、サイドバイサイド型複合でもよい。ポリ乳酸の重量平均分子量は5万〜50万であると、力学特性と製糸性のバランスが良い。ポリ乳酸の分子量は、より好ましくは重量平均分子量で10万〜35万である。
【0033】
また、ポリ乳酸繊維に、エチレンビスステアリン酸アミドなどの脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを滑剤として含有させることで耐摩耗性を向上させることができ、好ましい。
【0034】
本発明にかかるポリ乳酸繊維に、上述の防かび性能を有する添加剤を含有せしめる方法としては、ポリ乳酸樹脂ペレットに防かび性能を有する添加剤をブレンドし溶融する方法、ポリ乳酸ペレットへ高濃度の防かび性能を有する添加剤を含有するマスタペレットをブレンドし溶融する方法、溶融状態のポリ乳酸樹脂へ防かび性能を有する添加剤を添加し混練する方法、あるいはポリ乳酸樹脂の重合前あるいは重合中の段階で原料あるいは反応系へ防かび性能を有する添加剤を添加する方法などが使用でき、両者が均一に混合できるものであれば、特に限定されることはなく、いかなる方法でもよい。
【0035】
本発明のポリ乳酸繊維を製造する方法は、特に、特に限定されるものではないが、上述したように添加剤を特に添加する他は、それ自体は一般的な溶融紡糸法によって製糸することにより製造することができる。
【0036】
例えば、フィラメント製造の場合、乳酸を重合後得たポリ乳酸は、乾燥工程を経ることなく直接紡糸機に供給してもよいし、一旦乾燥工程を経た後に紡糸機に供給してもよい。そして、ポリ乳酸樹脂ペレットを溶融し、紡糸口金吐出孔から吐出し、糸条を冷却した後、油剤を付与し、交絡処理後、3000m/分以上の速度で第一ローラーに引き取り、実質延伸しないで引き続き、第2ゴデッドローラ(非加熱ローラー)を介して、巻き取る高速紡糸法や、ポリ乳酸樹脂ペレットを溶融し、紡糸口金吐出孔から吐出し、糸条を冷却した後、油剤を付与し、1000m/分でいったん巻取り、その後延伸する2工程法などである。また、例えば、ステーブル製造の場合、延伸後カッティングし原綿を製造し、紡績し巻取る。
【0037】
本発明の布帛は、例えば、「繊維の百科辞典」(丸善株式会社、p146〜187)に記載されているような通常の方法で製造する。本発明者等の各種知見によれば、上記ポリ乳酸繊維を30重量%以上使用していることが、本発明の所期の効果を良好に有する布帛とする上で重要である。一般的に、布帛は単一素材のみで構成されることは少なく、天然繊維、半合成繊維、合成繊維など目的に応じて混用して使用される。そのため、30重量%未満の場合、防かび性能が十分に得られないため好ましくないのである。上限は100重量%である。
【0038】
本発明の繊維製品は、例えば、「繊維の百科事典」(丸善株式会社、p188〜211)に記載されているような通常の方法で染色加工し、繊維製品等とすることができる。その場合の使用混率も上記の布帛の場合と同様である。
【0039】
本発明にかかる繊維製品は、その良好な防かび性能を活かして、例えば、ストッキング、タイツ、靴下、インナーウエア、アウターウエア、スポーツウエア、ユニフォーム、作業服、合羽、布団カバー、カーテン、カーペット、フィルター、産業用シート、人工皮革、鞄、タオル、資材ロープ、漁網、水切りネット、洗濯ネット、蚊帳、ユニフォーム、作業服、手袋、合羽等、寝袋などに好適に用いられるものである。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は、以下の方法を用いた。
A.防かび性
かび菌(真菌)として、以下に示す71菌を使用した。湿式法による試験菌液を培養面と試験片(5cm×5cm)に均等にまきかけ、無機塩寒天培地で温度29±1℃、湿度90%±5%RHの条件で28日間培養し、以下の5段階評価により評価した。2点以下を合格とした。
1点:全く菌が発生しない、
2点:10%以下の発育、
3点:10〜30%以下の発育、
4点:30〜60%以下の発育、
5点:60%以上の完全発育
なお、無機塩寒天培地は、下記成分を、121℃×20分で加熱処理後、溶液のPHを0.01NのNaOHにて6.0〜6.5に調整し作成した。
【0041】
a)培地組成成分名および内容量
KHPO:0.7g
HPO:0.7g
MgSO・7HO:1.0g
NaCl:0.005g
FeSO・7HO:0.002g
ZnSO・7HO:0.002g
MnSO・7HO:0.001g
寒天:15g
純水:1000ml。
【0042】
b)試験菌液
混合胞子液:培地から寒天を除いた水溶液を胞子に加え、106±200,000個/mLに調整、等量混和させる。
湿潤液:ラウリル酸ソーダー0.05g/L。
【0043】
c)試験かび菌(真菌)
アルタルナリア アルタナータ(Alternaria alternata)、アスペルギルス ニゲル(Aspergillus niger)、アスペルギルス オリザエ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス フラバス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス バーシカラ(Aspergillus versicolor)、アスペルギルス フミガータス(Aspergillus humigatus)、アスペルギルス テレウス(Aspergillus terreus)、アスペルギルス レストリクタス(Aspergillus restrictus)、アスペルギルス オクロシアス(Aspergillus ochraceus)、アスペルギルス カンジダス(Aspergillus candidus)、アルタルナリア テヌイス(Alternaria tenuis)、アルカリゲネス フェカリス(Alcaligenes faecalis)、アルタルナリア ブラシコラ(Alternaria brassicicola)、オーレオバシディウム プルランス(Aureobasidium pullulans)、カンジダ アルビカンス(Candide albicans)、ケトミウム グロボスム(Chaetomium globosum)、クラドスポリウム クラドスポリオイダス(Cladosporium cladosporioides)、クラドスポリウム サファエロスペルマム(Cladosporium sphaerospermum)、クラドスポリウム ハーボラム(Cladosporium herbarum)、クラドスポリウム レジナエ(Cladosporium resinae)、カルバラリア ルナータ(Curvularia lunata)、ドレッシラ オストラライン(Drechslera australiensis)、エピコッカム パーパラセン(Epicoccum purpurascens)、ユーロチウム タネフィラム(Eurotium tonophilum)、ユーロチウム ルブラム(Eurotium rybrum)、ユーロチウム シバリエリ(Eurotium chevalieri)、ユーロチウム アムステロダミ(Eurotium amstelodami)、フザリウム セミテクタム(Fusarium semitectum)、フザリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)、フザリウム ソラニ(Fusarium solani)、フザリウム ロゼアム(Fusarium roseum)、フザリウム モニホルメ(Fusarium moniliforme)、フザリウム プラリフェラタム(Fusarium proliferatum)、ゲオトリカム カンディダム(Geotricham candidum)、ゲオトリカム ラクタス(Geotricham lactus)、グリオクラジウム ビレン(Gliocladium virens)、モニリア フルクティガネ(Monilia fructigena)、モニリア ニグラ(Monilia nigral)、ムコール ラセマウセス(Mucor racemosus)、ミロテシウム バルカリア(Myrothecium verrucaria)、ムコール スピネッセンス(Mucor spinescens)、ニグロスポラ オリザエ(Nigrospora oryzae)、ニグロスポラ スフェリカ(Nigrospora sphaerica)、ニューロスポラ ストフィラ(Neurospora sitophila)、ペニシリウム フリークェンタス(Penicillium frequentance)、ペニシリウム イスランディカム(Penicillium islandicum)、ペニシリウム シトリナム(Penicillium citrinum)、プルラリア プルランス(Pullularia pullulans)、ペニシリウム イクパンザム(Penicillium expansum)、ペニシリウム シクロピアム(Penicillium cyclopium)、ペニシリウム シトレオビリデ(Penicillium citreo−viride)、ペニシリウム ファニキュロザム(Penicillium funiculosum)、ペニシリウム ニグリカンス(Penicillium nigricans)、ペニシリウム リラシナム(Penicillium lilacinum)、ペスタロティア アダスタ(Pestalotia adusta)、ペスタロティア ネグレクタ(Pestalotia neglecta)、フォーマ シトリカルパ(Phoma citricarpa)、フォーマ テレスチアス(Phoma terrestrius)、フォーマ グロミタラ(Phoma glomerata)、リゾプス ニグリカンス(Rhizopus nigricans)、リゾプス オリザエ(Rhizopus oryzae)、リゾプス ストロニファー(Rhizopus storonifer)、リゾプス ソラニ(Rhizopus sorani)、セドスポリウム アピオスペルマム(Scedosporium apiospermum)、トリコフィートン ミンタグルフィテス(Trichophyton mentagrophytes)、トリコデルマ ビリデ(Trichoderma viride)、トリコデルマ コニンギー(Trichoderma koningii)、トリコデルマ T−1(Trichoderma T−1)、トリコデルマ ハルジアナム(Trichoderma harzianum)、ウロクラディウム アトラム(Ulocladium atrum)、ワレミア セビ(Wallemia sebi)。
【0044】
B.抗菌性
社団法人繊維評価技術協議会が定める繊維製品の定量的抗菌性試験方法に準拠して、JIS L 1902(2002)、菌液吸収法で測定した。試験菌として、黄色ぶどう球菌(Staphylococcus aureus ATCC 6538P)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae ATCC 4352)を用い、抗菌性は、静菌活性値、殺菌活性値、菌減少率を評価した。静菌活性値2.2以上、殺菌活性値0以上を抗菌性ありと判断した。また、菌減少率0より大きければ制菌性ありと判断した。静菌活性値、殺菌活性値、菌減少率は、以下の式により算出される。
静菌活性値(S)=Ma−Mc
殺菌活性値(L)=Mb−Mc
Ma:無加工布又は標準布の試験菌接種直後3検体の生菌数の常用対数値の平均値
Mb:無加工布又は標準布の18時間培養後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値
Mc:抗菌加工布の18時間培養後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値
菌減少率=(無加工布又は標準布の試験菌接種直後の生菌数−抗菌加工布の18時間培養後の生菌数)÷(無加工布又は標準布の試験菌接種直後の生菌数)。
【0045】
C.製糸性
紡糸工程において発生する糸切れの回数を数え、1tの繊維を製糸する間の糸切れ回数を以下の基準で評価した。
◎:糸切れ1回未満、
○:糸切れ1以上3回未満、
△:糸切れ3以上6回未満、
×:糸切れ6回以上。
【0046】
実施例1〜10
無機成分として酸化亜鉛(三井金属工業社製“ZNOUVE”,有機珪素化合物微量被着粉末)99重量%、有機成分として表1に示す混合物10種類よりそれぞれ選択した混合物の合計が1重量%を用いて、酸化亜鉛を被覆処理した防かび剤を、NATUREWORKS社製のポリ乳酸ペレット(6201D)に対して2.0重量%になるように練り込み、マスタペレットを製造した。
【0047】
なお、表1に示した有機成分A〜Jのそれぞれは、該表1に「○印」で示した有機成分同士の組合せで、それぞれ表2に示した実施例1〜10としてポリ乳酸繊維を構成するものである。
【0048】
得られたマスタペレットと、NATUREWORKS社製のポリ乳酸ペレット(6201D)とをブレンドし、防かび剤含有量0.15重量%の混合ペレットを調整した。得られた混合ペレットと日本油脂製のエチレンビスステアリン酸アミド(“アロフロ−H−50S”)粉末をこれらポリマー重量に対して0.75重量%ブレンドした上で、を220℃で溶融し、孔径0.2mm丸型の紡糸口金から吐出し、一方向からの冷却風によって冷却し、脂肪酸エステルを主体とする繊維用油剤を、繊維に対して1重量%塗布する給油をし、交絡を付与したのち、第1ゴデッドローラ(非加熱ローラー)4500m/分を介して、実質延伸しないで引き続き、第2ゴデッドローラ(非加熱ローラー)を介して、巻き取り、33デシテックス10フィラメントのポリ乳酸繊維糸条を得た。
【0049】
得られたポリ乳酸繊維糸条を、筒編機(釜径3.5インチ、針本数240本、英光産業(株)製NE450W)に仕掛けて1本給糸で筒編地を作成し、防かび性、抗菌性を測定した。その結果を表2に示した。
【0050】
また、この筒編地を6ヶ月間土中に埋めておいたところ、いずれも分解が大きく進んでいた。すなわち、少なくとも防かび性を有する防かび剤を添加しても、通常の使用条件では少なくとも防かび性を有するにもかかわらず、土中では生分解性が損なわれないことを示している。
【0051】
比較例1
添加剤として、酸化亜鉛(ハクスイテック社製)を使用した以外は実施例1と同様に製糸し、33デシテックス10フィラメントのポリ乳酸繊維糸条を得た。得られたポリ乳酸繊維糸条を用いて実施例1と同様に筒編地を作成し、防かび性、抗菌性を測定した。結果を表2に示す。
【0052】
実施例11〜16、比較例2〜4
表1に示す防かび剤A〜C水準の添加量を、それぞれ1重量%、2重量%、3.5重量%とした以外は、実施例1と同様に製糸し、33デシテックス10フィラメントのポリ乳酸繊維糸条を得た。得られたポリ乳酸繊維糸条を実施例1と同様に筒編地を作成し、防かび性、抗菌性を測定した。防かび剤A〜Cを3.5重量%添加した(比較例2〜4)は、糸切れが多かった。結果を表3に示す。
【0053】
比較例5
防かび剤を含まない(防かび剤の添加量0%)とした以外は実施例1と同様に製糸し、33デシテックス10フィラメントのポリ乳酸繊維糸条を得た。得られたポリ乳酸繊維糸条を実施例1と同様に筒編地を作成し、防かび性、抗菌性を測定した。結果を表3に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
比較例6
比較例5で得られた筒編地を、茶抽出物に一晩浸け置き、乾燥後、防かび性、抗菌性を測定した。その結果、防かび性は5点で、71種類の真菌に対する防かび性は無かった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の防かび性能を有する繊維、布帛、繊維製品は、例えば漁網に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機成分と有機成分から構成される防かび性能を有する添加剤を、繊維全体の0.05〜3重量%含有することを特徴とするポリ乳酸繊維。
【請求項2】
添加剤の無機成分が、酸化亜鉛または酸化チタンであり、前記無機成分の表面を有機成分で被覆していることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸繊維。
【請求項3】
添加剤の有機成分が、イミダゾール系化合物、ピリジン系化合物、チアゾリン系化合物、ハロゲン系化合物およびハロアルキルチオ化合物からなる群から選ばれた少なくとも2種以上の組合せからなる混合有機成分であることを特徴とする請求項1または2記載のポリ乳酸繊維。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸繊維を布帛全体の少なくとも30重量%使用していることを特徴とする布帛。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸繊維を製品全体の少なくとも30重量%使用していることを特徴とする繊維製品。

【公開番号】特開2008−7912(P2008−7912A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182438(P2006−182438)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】