説明

ポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム

【課題】臭気を克服し、かつ、熱分解を抑制することを両立し、フィルムの過剰密着現象や引出性の低下等、物性の経時変化も少なく、トルク変動等の押出特性も安定した物性のポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムを提供する。
【解決手段】安定剤として、過酸化水素法により製造され過酸化物価が13以下であるエポキシ化大豆油を0.2〜3.0重量%配合してなるポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムであって、原料ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物中の塩化ビニリデンモノマー残存量が0.01〜1ppmであり、かつ、フィルム製造後のフィルム中のエポキシ化大豆油のエポキシ開環率が50%以内であることを特徴とするポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等の簡易包装に使用されるラップフィルムであり、詳しくは、過酸化水素法により製造され、過酸化物価が13以下であるエポキシ化大豆油を0.2〜3.0重量%配合して製造されるポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムであって、原料ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物中の塩化ビニリデンモノマー残存量が0.01〜1ppmとすることで、従来問題であったエポキシ化大豆油の臭気を克服し、かつ、フィルム製造後のフィルム中のエポキシ化大豆油のエポキシ開環率を50%以内とすることで熱分解を抑制することを両立し、更には添加剤の総添加量を4.0〜10.0重量%に規定することで、フィルムの過剰密着現象や引出性の低下等、物性の経時変化も少なく、トルク変動等の押出特性も安定した物性のポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムは、密着性、ガスバリア性等の特性に優れているため、食品等の簡易包装材料として多くの一般家庭で使用されてきた。
ポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムを製造するにあたり、広く用いられる製造方法であるインフレーション製膜方法(図1参照)においては、ダイから管状に押し出された樹脂組成物を外側は冷水、ダイ口とピンチロールとに挟まれた内側はミネラルオイル等公知の冷媒中に通して冷却し固化させて成形される。この時の内側のダイ口とピンチロールとに挟まれた筒状の部分をソック、この内部に封入する冷媒をソック液と称する。また、ピンチロールで折り畳まれた環状ダブルプライシートをパリソンと称する。さらにこのパリソンは、再加熱し内部にエアを吹き込むこと(インフレーション)にて延伸される。得られたダブルプライフィルムはスリットされて、1枚のフィルムになるように剥がされる。最終的には、紙管に巻き取られ、紙管巻きラップフィルムが得られる。
【0003】
ここで、ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物とは、ポリ塩化ビニリデン系樹脂に押出成形に適した安定剤や可塑剤を含む添加剤全般を含有させたものを示す。また、ポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムとは、ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を用いて製造されたラップフィルムのことを示す。
このとき用いられる樹脂組成物中の添加剤として、良好な加工性と良好な物性を得るために、ポリ塩化ビニリデン系樹脂に、安定剤として、例えばエポキシ化大豆油(以下、ESO、と称す)等に代表されるエポキシ化植物油、可塑剤として、例えばアセチルトリブチルサイトレート(以下、ATBC、と称す)やアセチル化モノグリセライド(以下、ACGL、と称す)等を添加することは公知である。
【0004】
安定剤として従来から存在しているESOは、天然に産する大豆油を過酸化水素、過酢酸等の酸化剤によりエポキシ化して製造されるが、酸化剤として過酢酸を用いた場合には、過酸化水素を酸化剤として用いた場合のような特有な臭気は少ない反面、酸化剤に由来する酢酸臭が大きいという問題があった。一方、過酸化水素法により製造されたESOは、製造時に生成するアルデヒド、ケトン等の低沸点物による製法特有の臭気を有しており、これを食品包装用材料に使用した場合にも同様の臭気を発生するという問題があった。いずれにしてもESOはその物質由来の臭気発生が多く、特に食品接触用途に用いる場合にはフィルムそのものの臭気や、食材への臭い移り等が問題で、凡そ使用に耐えられるものではなかった。
【0005】
その問題を解消すべく特許文献1には、ESOの代わりにエポキシ化亜麻仁油(以下、ELO、と称す)が提案されており、広く食品包装用ラップフィルムに用いられてきた。しかしながら、ELOは確かに臭気の問題は無いものの、時間とともにフィルム表面へブ
リードアウトして密着発現に影響するために、温度履歴が過剰な場合には、フィルムの過剰密着現象やそれに伴う引出性の著しい低下等、物性の経時変化が深刻で、ラップフィルムの使い勝手性の改善のためにこの問題の解決が強く求められていた。
ところが近年、特許文献2に記載されているように、過酸化水素を酸化剤として用いる方法(過酸化水素法)により製造されたESOにおいて、特にESOの過酸化物価を13以下に制限することによって成形後にも臭気を抑えることができるようになった。そのため、食品包装用ラップフィルムにこのESOを用いることが可能になった。このESOを用いて製造されたラップフィルムは従来ESO(過酢酸法)と比較して、画期的にその臭気を抑えることが可能になったが、残念なことに僅かに従来の過酸化水素法特有の臭気が残存し、特に臭気に敏感な消費者に対し、その要求物性を満たすには至らなかった。
【0006】
【特許文献1】特願昭37−43570号公報
【特許文献2】特許第278618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来問題であったESOの臭気を克服し、かつ、熱分解を抑制することを両立し、更にはフィルムの過剰密着現象や引出性の低下等、物性の経時変化も少なく、トルク変動等の押出特性も安定した物性を有するポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、臭気発生と熱分解抑制という背反する課題を両立させるという観点から鋭意検討を加えた結果、ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物に添加する安定剤を特定のものを選択し、使用量を限定すること、さらには乾燥条件を限定することで、消費者の要求を満たすレベルにまで臭気を低減し、かつ、熱分解を抑制することを両立し、更にはフィルムの過剰密着現象や引出性の低下等、物性の経時変化も少なく、トルク変動等の押出特性も安定した物性を有するポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムを得ることに成功した。
【0009】
すなわち本発明は、下記の通りである。
[1]安定剤として、過酸化水素法により製造され、過酸化物価が13以下であるエポキシ化大豆油を0.2〜3.0重量%配合してなるポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムであって、原料ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物中の塩化ビニリデンモノマー残存量が0.01〜1ppmであり、かつ、フィルム製造後のフィルム中のエポキシ化大豆油のエポキシ開環率が50%以内であることを特徴とするポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム。
[2]ポリ塩化ビニリデン系樹脂に対する添加剤の総添加量が、4.0〜10.0重量%であることを特徴とする[1]記載のポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、臭気を克服し、かつ、熱分解を抑制することを両立し、更にはフィルムの過剰密着現象や引出性の低下等、物性の経時変化も少なく、トルク変動等の押出特性も安定した物性を有するポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明が従来技術と最も相違するところは、ポリ塩化ビニリデン系樹脂に安定剤として、過酸化水素法により製造され、過酸化物価が13以下であるESOを0.2〜3.0重量%配合してなるポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムであって、原料ポリ塩化ビニ
リデン系樹脂組成物中の塩化ビニリデンモノマー残存量を0.01〜1ppmまで乾燥除去され、かつ、フィルム製造後のフィルム中のエポキシ化大豆油のエポキシ開環率が50%以内であることにある。
ESOの添加量が0.2重量%を下回ると、ESOによる樹脂の安定化効果が少なすぎて、押出時の樹脂の熱劣化が進み、フィルムの黄変や脆化が生じ、3.0重量%を上回ると、ESOの樹脂安定化効果は十分なもののESO本体から発生する臭気が問題となる。そのため、ESO添加量は、好ましくは0.2〜3.0重量%、更に好ましくは0.8〜1.5重量%付与される。
【0012】
原料樹脂組成物中の塩化ビニリデンモノマー残存量を0.01〜1ppmにまで乾燥除去させることで同時に、例えばn−ブチルエーテル、トルエン、ヘキサナール等のアルデヒド類、ブタン酸ブチル等のエステル類、各種低級炭化水素類といったESO由来の低沸成分も除去することができる。このように予め原因物質を原料樹脂組成物中から極力除去しておくことで、成形後のラップフィルムにおいても従来問題であったESOの臭気を画期的に低減することができる。しかし、乾燥条件を厳しくすると、ESO由来の低沸成分は更に少なくできるが、一方、厳しい乾燥条件のため樹脂の劣化が進み、フィルム製造後のフィルム着色等、別の問題が発生する。そのため、原料樹脂組成物中の塩化ビニリデンモノマー残存量は0.01〜1ppmであることが好ましく、0.02〜0.3ppmであることがさらに好ましい。この時の乾燥の一例として、流動乾燥機による設定温度70〜90℃、風量35〜40m/hrで約3時間という条件が挙げられる。
【0013】
更にフィルム製造後のフィルム中のESOのエポキシ開環率が50%以内とするためには、具体的には樹脂滞留を極力抑えるように設計された押出機において設定温度165〜175℃で安定して押出すことが必要で、このことで、ESOによる押出時の樹脂の熱劣化を抑制し、結果として製膜後経時でのフィルム着色や脆化を抑制することができる。エポキシ開環率が50%を上回ると、経時でのフィルム着色や脆化が顕著となり、当然得られるラップフィルムの物性は要求を満たすには至らない。
これらの条件を満たすことにより、得られるラップフィルムは、臭気を克服し、かつ、熱分解を抑制することを両立し、更にはフィルムの過剰密着現象や引出性の低下等、物性の経時変化も少なく、トルク変動等の押出特性も安定した物性を有する。
【0014】
加えて、上記ESOを含む添加剤の総添加量を4.0〜10.0重量%とすることで、添加剤のブリードアウトによるフィルムの過剰密着現象等、物性の経時変化も少なくさせ、トルク変動等の押出特性も安定させることができる。総添加量が4.0重量%を下回ると、樹脂の可塑化効果が小さく、押出安定性や延伸性が著しく劣り安定して製膜することができない。10.0重量%を上回ると、パリソンの開口性も悪化すると同時に、樹脂からの添加剤のブリードアウトによるフィルムの過剰密着現象や引出性の低下等、物性の経時変化が大きくなる。そのため、総添加量は、好ましくは4.0〜10.0重量%、更に好ましくは5.0〜8.0重量%付与される。
【0015】
以下、本発明のフィルムを製造する方法の例について述べる。
図1は、ラップフィルムの製造工程の一例の概略図である。
まず、溶融した塩化ビニリデン系共重合体組成物が押出機(1)により、ダイ(2)から管状に押出され、ソック(4)が形成される。ソック(4)の外側を冷水槽(6)にて冷水に接触させ、ソック(4)の内部にはソック液(5)を注入することにより、内外から冷却して固化させる。固化されたソック(4)は、第1ピンチロール(7)にて折り畳まれ、パリソン(8)が成形される。
【0016】
続いて、パリソン(8)の内側にエアを注入することにより、再度パリソン(8)は開口されて管状となる。このとき、ソック(4)内面に表面塗布したソック液(5)はパリ
ソン(8)の開口剤としての効果を発現する。パリソン(8)は、温水により延伸に適した温度まで再加熱される。パリソン(8)の外側に付着した温水は、第2ピンチロール(9)にて搾り取られる。適温まで加熱された管状のパリソン(8)にエアを注入してバブル(10)を成形し、延伸フィルムが得られる。その後延伸フィルムは、第3ピンチロール(11)で折り畳まれ、ダブルプライフィルム(12)となる。ダブルプライフィルム(12)は、巻き取りロール(13)にて巻き取られる。さらに、このフィルムはスリットされて、1枚のフィルムになるように剥がされる。最終的にこのフィルムは紙管に巻き取られ、紙管巻きのラップフィルムが得られる。
【0017】
本発明に用いるポリ塩化ビニリデン系樹脂は、塩化ビニリデン単位を85〜97wt%含む。塩化ビニリデン以外に、例えば塩化ビニル、メチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル、メチルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート等のメタアクリル酸エステル、アクリロニトリル、酢酸ビニル等、塩化ビニリデンと共重合可能な1種または2種以上の単量体が共重合されていてもよい。
本発明の効果を損なわない範囲であれば、該樹脂に、公知の食品包装材料に用いられる可塑剤、安定剤、耐候性向上剤、染料又は顔料等の着色剤、防曇剤、抗菌剤、滑剤、核剤、ポリエステル等のオリゴマー、MBS等のポリマー等を添加してもよい。
【0018】
本発明のラップフィルムの厚さは、特に制限はないが、一般には5〜20μmである。
本発明のフィルムは、例えば、ポリ塩化ビニリデン系樹脂と種々の添加剤とを、必要に応じてリボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等で均一に混合させ、24時間熟成した後、該樹脂組成物を溶融押出し、インフレーション延伸して得られる。本発明の効果を損なわない範囲であれば、該樹脂に、公知の食品包装材料に用いられる可塑剤、安定剤、耐候性向上剤、染料又は顔料等の着色剤、防曇剤、抗菌剤、滑剤、核剤、ポリエステル等のオリゴマー、MBS等のポリマー等を添加することもできる。これらは製膜までのいずれの段階で添加してもよい。上述の方法により得られるラップフィルムは、製造直後より良好な密着性を有し、夏と冬との季節間差の少ない安定的な密着性を有し、かつ高い密着性と優れた引出性という背反する特性が両立、かつ向上したラップフィルムが得られる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
実施例および比較例で用いた評価方法は、以下の通りである。
(評価方法)
(1.熱分解性)
製膜直後の20m巻ラップフィルムを切り出し、JIS Z8722に準じて、測色色差計(透過)にて劣化着色の程度(b値)を測定評価する。
評価記号 b値 判定
○ 2.5未満 熱劣化を抑制し着色の程度は小さい
× 2.5以上 熱劣化を抑制できておらず着色の程度は大きい
【0020】
(2.押出トルク変動)
押出時のトルクの経時(2時間後)における変動を評価する。
評価記号 判定
○ トルク変動の値が一定幅内で安定している
× トルク変動の値が上昇や下降、乱高下している
【0021】
(3.パリソン開口性)
得られたパリソンの開口性を延伸伝播の観点から評価する。
評価記号 判定
○ 第2ピンチロール出すぐの位置でパリソンが十分開いている
△ 第2ピンチロール出すぐの位置でパリソンの端部が完全に開かずに
融着した部分がある
× 第2ピンチロール出すぐの位置から常時融着してパリソンは全く開か
ない
【0022】
(4.フィルム臭気)
製膜後のフィルムのESO臭気に関し、官能評価にて評価する。
評価記号 判定
○ 臭気に敏感な人でも全く気にならないレベル
△ 臭気に敏感な人には臭気が感じとられるレベル
× 臭気に敏感な人でなくとも臭気が感じとられるレベル
【0023】
(5.塩化ビニリデンモノマー残存量測定)
ラップフィルム中に残存するESO由来の臭気原因となる低沸成分除去の指標として、塩化ビニリデンモノマー残存量を測定する。
ポリマーサンプル5gをバイアル管に入れ、セプタム及びアルミキャップを被せる。加熱装置にバイアル管をセットし、100℃で60分加温保持した。保持条件終了後、バイアル管の気相部を0.8ml採取し、ガスクロマトグラフに打ち込み、FIDにて検出、分析した。
評価記号 モノマー残存量 判定
○ 0.01以上1.0未満 乾燥条件が良好で、樹脂劣化せず低沸成分も
十分除去されている
× 0.01未満 乾燥条件が過酷で、樹脂劣化が進んでいる
1.0 以上 乾燥条件が不十分で、低沸成分が除去できて
いない
【0024】
(6.ESO/ELO:エポキシ開環率測定)
ラップフィルム中に添加しているエポキシ化植物油の、樹脂の熱分解時に発生する塩酸を捕捉した指標として、エポキシ化植物油中のエポキシ基の開環率を測定する。
フィルムサンプル3gをTHF/メタノール再沈し、再沈濾液を濃縮・乾固した後、クロロホルムで5mlにメスアップして、大量分取型GPCで、エポキシ化植物油成分を分取した。
分取物をH−NMR分析(256回積算)し、分取物と標準サンプル(エポキシ化植物油)それぞれの、2.2〜2.4ppm(エステルの横CH基)と2.8〜3.3ppm(エポキシの付いたCH基)の比からエポキシ基の開環率を求めた。
【0025】
(7.過剰密着評価)
製膜後のフィルムの28℃1ヶ月保管後の密着仕事量を評価する。まず、底面積25cm、高さ55mm、重さ400gのアルミ製の円柱形の治具を2個用意し、双方の治具の底面に、底面と同形の濾紙を貼り付けた。双方の濾紙を貼り付けた治具の底面に皺が入らないようにラップフィルムを被せ、輪ゴムで抑えて固定した。このラップフィルムを被せた2個の治具を、ラップフィルムを被せた側の面がピッタリ重なり合うように合わせて、加重500gで1分間圧着した。次いで、引張圧縮試験機にて5mm/分の速度で、そのラップフィルム面同士を相互に面に垂直方向に引き剥がすときに必要な仕事量を測定した(単位 mJ/25cm)。なおこの測定は、23℃、50%RHの雰囲気中で行なった。
【0026】
ラップフィルムの密着性は、測定した密着仕事量をもとに以下の3段階で評価することにより判定した。
<28℃1ヶ月保管後の密着仕事量>
評価記号 仕事量(mJ) 判定
○ 2.0以上2.5未満 バランスの取れた十分な密着性を有し、
優れたレベルにある
△ 2.5以上3.2未満 密着性が高すぎ、取扱性に劣る
× 3.2以上 密着性が非常に高すぎ、取扱性が著しく
劣る
密着仕事量が2.5mJ以上となると、密着性が高すぎ取扱性に劣る、過剰密着領域にあると判断される。
【0027】
(8.総合評価)
これら前述の評価結果をもとに、総合的な評価を行なう。
[実施例1]
重量平均分子量9万のポリ塩化ビニリデン系樹脂(塩化ビニリデン成分が90重量%、塩化ビニル成分が10重量%)、ATBC、及び過酸化水素法で製造されたESO(ニューサイザー510R、日本油脂(株))を、それぞれ93.0重量%、5.5重量%及び1.5重量%(総添加量7.0重量%)の割合で混合したポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を乾燥温度約80℃、風量35〜40m3/hr、滞留時間3時間の条件にて流動乾燥機により乾燥(塩化ビニリデンモノマー残存量:0.09ppm)した後、300kg/hrの押出速度で管状に押出し、10℃の水で急冷固化した。この時、形成されたソック内部に、(スモイルP−70S、(株)松村石油研究所)と水との混合物を流し込み、ソック液とした。更に45℃の温水で加熱した後、インフレーション法により延伸して筒状フィルムとし、この筒状フィルムをピンチして扁平に折り畳み、折り幅1,900mm、厚さ10μmの2枚重ねのフィルムを巻取速度100m/分にて巻き取り、延伸フィルムを得た。上記評価方法に基づいて評価した結果を表1に示す。
【0028】
[比較例1]
実施例1で使用したポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を、乾燥温度約80℃、滞留時間24時間の条件にて箱型乾燥機により乾燥(塩化ビニリデンモノマー残存量:1.5ppm)した以外は、実施例1同様の方法により延伸フィルムを得た。上記評価方法に基づいて評価した結果を表1に示す。
【0029】
[比較例2]
ポリ塩化ビニリデン系樹脂の添加剤組成として、実施例1で使用したポリ塩化ビニリデン系樹脂、ATBC、及び過酢酸法で製造されたESO(ニューサイザー510RS、日本油脂(株))を、93.0重量%、5.5重量%及び1.5重量%(総添加量7.0重量%)の割合の割合で混合した以外は、実施例1同様の方法により延伸フィルムを得た。上記評価方法に基づいて評価した結果を表1に示す。
【0030】
[比較例3]
ポリ塩化ビニリデン系樹脂の添加剤組成として、実施例1で使用したポリ塩化ビニリデン系樹脂、ATBC、及びELOを、93.0重量%、5.5重量%及び1.5重量%(総添加量7.0重量%)の割合の割合で混合した以外は、実施例1同様の方法により延伸フィルムを得た。上記評価方法に基づいて評価した結果を表1に示す。
【0031】
[比較例4]
ポリ塩化ビニリデン系樹脂の添加剤組成として、実施例1で使用したポリ塩化ビニリデン系樹脂、ATBC、及び過酸化水素法で製造されたESO(ニューサイザー510R、日本油脂(株))を、それぞれ89.5重量%、7.0重量%及び3.5重量%(総添加量10.5重量%)の割合で混合した以外は、実施例1同様の方法により延伸フィルムを
得た。上記評価方法に基づいて評価した結果を表1に示す。
【0032】
[比較例5]
ポリ塩化ビニリデン系樹脂の添加剤組成として、実施例1で使用したポリ塩化ビニリデン系樹脂、ATBC、及び過酸化水素法で製造されたESO(ニューサイザー510R、日本油脂(株))を、それぞれ96.32重量%、3.5重量%及び0.18重量%(総添加量3.68重量%)の割合で混合した以外は、実施例1同様の方法により延伸フィルムを得た。上記評価方法に基づいて評価した結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のラップフィルムは、臭気を克服し、かつ、熱分解を抑制することを両立し、フィルムの過剰密着現象や引出性の低下等、物性の経時変化も少なく、トルク変動等の押出特性も安定した、ラップ用途のフィルムとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の製膜プロセスで実施された装置の概略図。
【符号の説明】
【0036】
1 押出機
2 ダイ
3 ダイ口
4 管状の塩化ビニリデン系共重合体組成物(ソック)
5 ソック液
6 冷水槽
7 第1ピンチロール
8 パリソン
9 第2ピンチロール
10 バブル
11 第3ピンチロール
12 ダブルプライフィルム
13 巻き取り原反

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定剤として、過酸化水素法により製造され、過酸化物価が13以下であるエポキシ化大豆油を0.2〜3.0重量%配合してなるポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムであって、原料ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物中の塩化ビニリデンモノマー残存量が0.01〜1ppmであり、かつ、フィルム製造後のフィルム中のエポキシ化大豆油のエポキシ開環率が50%以内であることを特徴とするポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム。
【請求項2】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂に対する添加剤の総添加量が、4.0〜10.0重量%であることを特徴とする請求項1記載のポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2008−74955(P2008−74955A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255564(P2006−255564)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】