説明

ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の製造に適した着色用樹脂組成物

【課題】 PVDC系樹脂組成物の製造に適した着色用樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 (1)ビニル重合可能な不飽和有機酸のグリシジルエステル10〜50重量%、グリシジル基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル10〜90重量%、及びこれらと共重合可能な、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アルキルビニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種のビニル単量体0〜40重量%の共重合体であるグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂(B2)、及び(2)顔料(C)を含有するポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の製造に適した着色用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の製造に適した着色用樹脂組成物に関し、更に詳しくは、加工性、熱安定性、色調、顔料の分散性、ガスバリヤー性などに優れたポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を製造する際に用いる、ポリ塩化ビニリデン系樹脂の着色に好適な着色用樹脂組成物に関する。本発明の着色用樹脂組成物を用いたポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物は、粗大な異物、顔料凝集塊、色斑などの発生が抑制され、高級感のある色調を有し、更には、シール性、強度、食品との密着性に優れた包装用フィルムを与えることができる。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂(以下、「PVDC系樹脂」と略記)は、一般に、塩化ビニリデン単量体(以下、「VDC」と略記)と他の単量体(共単量体)との共重合体である。VDCの単独重合体は、軟化温度と分解温度とが接近しており、押出成形などによる溶融加工が困難である。また、VDCの単独重合体は、可塑剤との相溶性が小さく、可塑化による加工性の改善が困難である。
【0003】
そのため、PVDC系樹脂は、VDCと他の単量体との共重合により内部可塑化して、加工性を付与した共重合体である。多くの場合、更に、PVDC系樹脂に可塑剤を添加して、溶融加工性を改善している。共単量体としては、塩化ビニル、アクリル酸エステルなどが代表的なものである。
【0004】
フィルム、シート、繊維などに成形される押出グレードのPVDC系樹脂は、一般に懸濁重合法により製造されている。押出グレードのPVDC系樹脂は、一般に、40〜600μm程度の平均粒径を有する粉体レジンとして調製されている。PVDC系樹脂の粉体レジンは、熱安定性が悪く、溶融加工すると、容易に分解して塩酸ガスを発生する。また、PVDC系樹脂の粉体レジンは、PVDC系樹脂が共重合体であっても、加工温度と分解温度とがかなり接近している。そのため、PVDC系樹脂の粉体レジンは、それ単独では、押出成形などの溶融加工が困難である。
【0005】
そこで、加工性や成形物の要求特性を満足させるために、一般に、PVDC系樹脂の粉体レジンに、熱安定剤、可塑剤、滑剤などの各種添加剤を添加しブレンドして、いわゆるコンパウンド(樹脂組成物)を調製し、このコンパウンドを押出成形する方法が採用されている。PVDC系樹脂のコンパウンドを押出成形して得られたフィルム(シートをも含む)は、バリヤー性、耐熱性、熱収縮性などに優れているため、単層フィルムまたは多層フィルムとして、魚肉ソーセージ、畜肉加工品などの加工食品の包装材料などとして使用されている。
【0006】
PVDC系樹脂の熱安定剤としては、エポキシ化合物が汎用されている。ところが、PVDC系樹脂の粉体レジンにエポキシ化合物を添加したコンパウンドを用いて押出成形すると、成形物の表面に経時的にエポキシ化合物がブリードするという問題があった。エポキシ化合物の添加量が多くなるほど、このような問題が顕在化しやすくなる。また、熱安定性を向上させるために、エポキシ化合物の添加量を多くすると、PVDC系樹脂フィルムのガスバリヤー性が低下する。
【0007】
包装用フィルムは、貯蔵中にエポキシ化合物が表面にブリードすると、フィルム滑り性(包装機械適性)、シール性(熱シール性、高周波シール性など)、印刷適性などが低下することがある。また、包装用フィルムのガスバリヤー性が低下すると、被包装物である食品の保存性が低下する。さらに、エポキシ化合物を含有する包装用フィルムを魚肉ソーセージなどの包装用に適用した場合、赤色顔料等で着色しても、フィルムの色調が暗くなりやすく、被包装品の商品価値に悪影響を及ぼすことがある。
【0008】
エポキシ化植物油などのエポキシ化合物に代えて、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂をPVDC系樹脂の熱安定剤として使用することが提案されている。例えば、特許文献1(特開平5−148398号公報)は、エポキシ価が少なくとも0.3のメタクリル酸グリシジル共重合体を熱安定剤として含む塩化ビニリデン共重合体組成物、及びこれを用いた包装用シートまたはフィルムを開示している。
【0009】
特許文献2(特公昭46−42941号公報)には、不飽和有機酸グリシジルエステル(共)重合体を塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体に含有させた樹脂組成物からなる食肉練製品包装用ケーシングが提案されている。特許文献3(特開昭59−89342号公報)には、グリシジル基含有(メタ)アクリレート(共)重合体を含ハロゲン樹脂に添加してなる耐候性が改良された樹脂組成物が提案されている。
【0010】
グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂は、塩酸捕捉機能を有しており、PVDC系樹脂に対する熱安定化作用を示し、しかも、汎用のエポキシ化合物に比べて、ブリードする傾向が小さいという利点がある。
【0011】
しかし、PVDC系樹脂にグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂を熱安定化のために必要な量ブレンドした樹脂組成物を用いてフィルムを成形すると、得られたフィルムは、透明性がやや低下傾向を示す。また、食肉などへの密着性付与のためにカルボキシル基含有樹脂をブレンドしたPVDC系樹脂にグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂を添加すると、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂がPVDC系樹脂の架橋反応を引き起こし、フィルムの光沢や透明性を低下させやすい。さらに、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂の配合割合が大きくなると、フィルムなどの成形物が硬くなり、耐寒強度の低下の原因となる。しかも、ブレンド条件を制御しないと、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂自体の凝集物も発生しやすくなる。
【0012】
さらに、PVDC系樹脂の粉体レジンに、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂をブレンドすると、ブレンド条件を制御しないと、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂自体の凝集物が発生しやすい。これに加えて、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂は、PVDC系樹脂の粉体レジンとのブレンド条件下で軟化しやすく、それによって、粉体レジンや顔料粒子などを凝集させやすい。凝集した粒子は、例えば、インフレーション法による成膜時にバブル破裂の要因となって生産性を低下させる。しかも、凝集した粒子を含有するフィルムは、フィッシュアイの生成などによる外観不良を起こしやすく、シール性も不良になりやすい。
【0013】
一方、PVDC系樹脂からなる成形物を着色する場合、顔料を使用するが、PVDC系樹脂の粉体レジンに顔料を直接添加してブレンドすると、顔料粒子が凝集して、フィルムなどの最終成形物に色斑、スジ、ピンホールなどを発生させやすい。エポキシ化植物油や可塑剤などの液状成分に顔料を分散させた着色剤マスターバッチを作成し、これをPVDC系樹脂の粉体レジンとブレンドする方法が知られているが、該マスターバッチは、取り扱いが困難であり、顔料濃度を高めることも難しく、更には、混合機の内部を汚染するという問題がある。
【0014】
ブレンドの最終工程において、篩別して多量の凝集粒子を取り除くと、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂と顔料の多くが除去されることになるため、コンパウンドの熱安定性が低下したり、所望の着色度を得ることができないなどの不都合を生じる。
【0015】
上記の如き問題点があるため、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂は、PVDC系樹脂の熱安定剤として提案されているものの、実際には、工業的に採用することが困難であるか、工業化のためには、更なる検討が必要とされているのが現状である。
【特許文献1】特開平5−148398号公報
【特許文献2】特公昭46−42941号公報
【特許文献3】特開昭59−89342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、加工性、熱安定性、色調、顔料の分散性、ガスバリヤー性などに優れたポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の製造に適した着色用樹脂組成物を提供することにある。
【0017】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究した結果、PVDC系樹脂の熱安定剤として、エポキシ化植物油、エポキシ化動物油、エポキシ化脂肪酸エステル、及びエポキシ樹脂プレポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物とグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂とを併用することにより、熱安定性を高度に維持しつつ、加工性、色調、顔料の分散性、ガスバリヤー性などが改善されたPVDC系樹脂組成物が得られることを見出した。
【0018】
このようなPVDC系樹脂組成物を成形して成るフィルムは、エポキシ化合物を単独で用いた場合に比べて、色調がやや白くなり、包装用フィルムとして用いた場合に、製品に高級感を付与することができる。このようなPVDC系樹脂組成物を成形して成るフィルムは、粗大な異物、顔料凝集塊、色斑などの発生が抑制され、シール性、強度、食品との密着性などに優れている。
【0019】
エポキシ化植物油などのエポキシ化合物は、一般に常温で液体である。これに対して、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂は、粉体であるため、ブリードし難く、かつ、取り扱い性に優れている。しかし、エポキシ化合物とグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂とを併用すると、ブレンド時にグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂の粉体が凝集して凝集物を発生することがある。その際、着色のために配合した顔料粒子の凝集物が発生しやすい。そのため、ブレンド時の温度条件や各成分のブレンド順などのブレンド条件を制御することが望ましい。
【0020】
そこで、熱安定剤であるエポキシ化合物とグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂、及び顔料をPVDC系樹脂に含有させる方法について検討を行った。その結果、重合時にエポキシ化合物を含有するPVDC系樹脂組成物の粉体レジンを製造し、該粉体レジンに、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂と顔料とを含有する着色用樹脂組成物の粉体をブレンドする製造方法に想到した。
【0021】
また、所望によりエポキシ化合物を含有させた粉体レジンに、各種成分を昇温条件下にブレンドした後、冷却過程でグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂の粉体をブレンドする製造方法に想到した。これらの製造方法によれば、凝集物の発生を効果的に抑制しながら、均一なコンパウンドを調製することができる。
本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
かくして、本発明によれば、(1)ビニル重合可能な不飽和有機酸のグリシジルエステル10〜50重量%、グリシジル基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル10〜90重量%、及びこれらと共重合可能な、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アルキルビニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種のビニル単量体0〜40重量%の共重合体であるグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂(B2)、及び
(2)顔料(C)
を含有するポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の製造に適した着色用樹脂組成物が提供される。
【0023】
本発明の着色用樹脂組成物を用いるポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の製造方法は、重合時にエポキシ化植物油、エポキシ化動物油、エポキシ化脂肪酸エステル、及びエポキシ樹脂プレポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物(B1)を含有させたポリ塩化ビニリデン系樹脂(A)の粉体レジンに、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂(B2)と顔料(C)とを含有する着色用樹脂組成物の粉体、及び必要に応じて追加のエポキシ化合物(B1)をブレンドする方法が好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、着色したPVDC系樹脂組成物の製造に適した着色用樹脂組成物が提供される。この着色用樹脂組成物を用いて、加工性、熱安定性、色調、顔料の分散性、ガスバリヤー性などに優れたPVDC系樹脂組成物が提供される。更に、このPVDC系樹脂組成物を用いて得られたフィルムは、色調や風合いに優れ高級感があるため、魚肉ソーセージ、畜肉加工品などの加工食品の包装材料などとして好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
1.ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の製造において用いられるポリ塩化ビニリデン系樹脂(A)
ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の製造において用いられるポリ塩化ビニリデン系樹脂(PVDC系樹脂)は、塩化ビニリデン(VDC)60〜98重量%(質量%)と共重合可能な他の単量体(共単量体)2〜40質量%との共重合体である。
【0026】
共単量体としては、例えば、塩化ビニル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数1〜18);メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数1〜18);アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル;スチレンなどの芳香族ビニル;酢酸ビニルなどの炭素数1〜18の脂肪族カルボン酸のビニルエステル;炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのビニル重合性不飽和カルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのビニル重合性不飽和カルボン酸のアルキルエステル(部分エステルを含み、アルキル基の炭素数1〜18);その他、ジエン系単量体、官能基含有単量体、多官能性単量体などを挙げることができる。
【0027】
これらの共単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの共単量体の中でも、塩化ビニル、アクリル酸メチル、及びアクリル酸ラウリルが好ましい。共単量体の共重合割合が小さすぎると、内部可塑化が不充分となって、溶融加工性が低下する。共単量体の共重合割合が大きすぎると、ガスバリヤー性が低下する。共単量体の共重合割合は、好ましくは3〜35重量%、より好ましくは10〜25重量%である。
【0028】
PVDC系樹脂の還元粘度〔ηsp/C〕は、フィルムに成形する場合の加工性、包装機械適性、耐寒性等の観点から、好ましくは0.035〜0.070、より好ましくは0.040〜0.065、特に好ましくは0.045〜0.063である。PVDC系樹脂の還元粘度が低すぎると、加工性が低下し、高すぎると、着色傾向を示すようになるので、いずれも好ましくない。還元粘度が異なる2種以上のPVDC系樹脂を併用することができ、それによって、加工性を向上させることができる。2種以上のPVDC系樹脂を併用した場合、混合樹脂の還元粘度は、上記範囲内にあることが好ましい。
【0029】
PVDC系樹脂は、所望により他の樹脂とブレンドすることができる。他の樹脂としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル、好ましくはアルキル基の炭素数1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの(共)重合体〔例えば、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体〕、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体などを挙げることができる。これらの他の樹脂は、PVDC系樹脂組成物を調製する際にブレンドするか、PVDC系樹脂にブレンドする着色用樹脂組成物中に含有させることができる。その他の樹脂は、PVDC系樹脂100重量部に対して、通常、20重量部以下の割合で用いられる。
【0030】
これらの他の樹脂の中でも、酢酸ビニル含量が好ましくは20〜40重量%、より好ましくは28〜35重量%で、メルトフローレイト(MFR)が好ましくは1〜50g/10分、より好ましくは10〜40g/10分のエチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、「EVA」と略記)が好ましい。EVAをブレンドすることにより、押出加工性、シール強度、ガスバリヤー性などを向上させることができる。特にEVAは、フィルムのシール強度改良剤として好適である。EVAの酢酸ビニル含量が少なすぎると、透明性や色調が悪化し、例えば、食品包装体として不適当なパール色を呈したり、更には、シール性が低下することがある。EVAの酢酸ビニル含量が多すぎると、フィルムなどの成形物の色調や風合いが低下する傾向を示す。
【0031】
EVAの配合割合は、PVDC系樹脂100重量部に対して、好ましくは0.5〜5重量部、より好ましくは1〜3重量部程度である。EVAの配合割合が小さすぎると、押出加工性の改善効果が小さく、また、PVDC系樹脂組成物を包装用材料とした場合、耐寒性を充分に向上させながら、ボイルやレトルトの殺菌時のシール性の低下を抑えることが困難になる。一方、EVAの配合割合が大きすぎると、シール強度が低下したり、延伸配向フィルムに層剥離状態が起こりやすくなる。
【0032】
EVAは、通常、PVDC系樹脂にブレンドされるが、その配合割合の全部または一部を顔料を含有する着色用樹脂組成物の成分として用いることができる。EVAは、着色用樹脂組成物(着色剤マスターバッチ)の粉体を作製する際、粉砕工程において、微粉化を防止し、粒度調整を行う上でも有効である。
【0033】
他の樹脂をブレンドする場合には、ガスバリヤー性や耐熱性などの観点から、混合樹脂成分中の塩化ビニリデン成分の含有割合が50重量%以上となるように調整することが好ましい。また、PVDC系樹脂には、PVDC系樹脂組成物の成形加工時に発生する成形屑などのリサイクル可能な樹脂組成物を混合することができる。
【0034】
PVDC系樹脂は、懸濁重合、乳化重合、溶液重合などの任意の重合法により合成されたものでよいが、粉体レジンとしてコンパウンドを形成するには、40〜600μm程度の粒度を有し、粉砕工程を必要としない懸濁重合法により得られたものが好ましい。また、PVDC系樹脂には、その重合時に、抗酸化剤、可塑剤、エポキシ化合物などを含有させることができる。
【0035】
PVDC系樹脂の粉体レジンは、一般に、40〜600μm程度の平均粒径を有するものである。本発明では、重合時にエポキシ化合物や可塑剤などの添加剤を含有させた粉体レジンを用いることができる。もちろん、エポキシ化合物や可塑剤などの添加剤を含有しない粉体レジンであっても、使用することができる。
【0036】
重合時にエポキシ化合物や可塑剤などの添加剤を含有させたPVDC系樹脂の粉体レジンは、これらの添加剤を重合前または重合中または重合後の少なくともいずれかの時点において重合反応系に加えて、生成PVDC系樹脂中に含有させてから、粉体レジンとして回収したものである。
【0037】
2.ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の製造において用いられる熱安定剤(B)
ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の製造において、熱安定剤として、エポキシ化植物油、エポキシ化動物油、エポキシ化脂肪酸エステル、及びエポキシ樹脂プレポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物(B1)と、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂(B2)とを併用する。
【0038】
エポキシ化植物油及びエポキシ化動物油は、従来よりPVDC系樹脂の熱安定剤として使用されているものであれば特に限定されず、不飽和結合を有する天然の動植物油を、過酸化水素や過酢酸などでエポキシ化することにより、二重結合をオキシラン環に変性したものを用いることができる。好ましいエポキシ化植物油としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油などがある。
【0039】
エポキシ化脂肪酸エステルとしては、エポキシ化ステアリン酸オクチルなどの不飽和脂肪酸エステルのエポキシ化物がある。エポキシ樹脂プレポリマーとしては、ビスフェノールAグリシジルエーテルなどがある。これらのエポキシ化合物の中でも、食品包装分野には、エポキシ化植物油が好ましい。
【0040】
エポキシ化合物は、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂との併用において、PVDC系樹脂100重量部に対して、通常、0.1〜5重量部、好ましくは0.5〜4重量部、より好ましくは1〜3重量部の割合で用いられる。エポキシ化合物の配合割合が大きすぎると、PVDC系樹脂組成物から形成された成形物の貯蔵中に表面にブリードしやすくなる。また、エポキシ化合物の配合割合が大きすぎると、成形物のブロッキングが発生しやすくなったり、色調の改善効果が低下したり、フィルムのガスバリヤー性が低下したりする。エポキシ化合物の配合割合が小さすぎると、PVDC系樹脂の可塑化の程度が低下して、加工性が低下しやすくなり、熱安定性も低下傾向を示すようになる。
【0041】
エポキシ化合物は、PVDC系樹脂の粉体レジンとブレンドするか、その重合工程において単量体混合物に添加して重合するか、重合後のスラリーに添加するか、これらを組み合わせた方法により樹脂組成物中に含有させることができる。これらの中でも、重合時に粉体レジン中にエポキシ化合物を含有させ、ブレンド時には必要に応じて追加することが好ましい。
【0042】
グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂(B2)としては、ビニル重合可能な不飽和有機酸のグリシジルエステルを共重合成分として含有する共重合体が好ましい。該共重合体は、典型的には(メタ)アクリル酸グリシジルやグリシジル基を含有しない(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル酸エステルを共重合成分として含んでいるため、本発明では、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂と呼ぶ。本発明のグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂は、ビニル重合可能な不飽和有機酸のグリシジルエステル10〜50重量%、グリシジル基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル10〜90重量%、及びこれらと共重合可能な、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アルキルビニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種のビニル単量体0〜40重量%の共重合体である。
【0043】
ビニル重合可能な不飽和有機酸のグリシジルエステルとしては、例えば、メタクリル酸グリシジル(グリシジルメタクリレート)、アクリル酸グリシジル(グリシジルアクリレート)、β−メチルグリシジルメタクリレート、β−メチルグリシジルアクリレートなどの(メタ)アクリル酸のグリシジルエステル;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのビニル重合性不飽和カルボン酸のジグリシジルエステル;などが挙げられる。これらのビニル重合可能な不飽和有機酸のグリシジルエステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、グリシジルメタクリレートなどのグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0044】
グリシジル基を含有しない(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数1〜18);メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数1〜18);などが挙げられる。これらの中でも、メタクリル酸メチルやアクリル酸ブチルなどが好ましい。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
共重合可能なその他のビニル単量体としては、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アルキルビニルエーテルなどが挙げられる。これらのビニル単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、スチレンが好ましい。
【0046】
グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂としては、ビニル重合可能な不飽和有機酸のグリシジルエステル10〜50重量%と、これと共重合可能な少なくとも1種のビニル単量体50〜90重量%との共重合体が好ましい。このような共重合体の中でも、ビニル重合可能な不飽和有機酸のグリシジルエステル10〜50重量%、グリシジル基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル10〜90重量%、及びその他のビニル単量体0〜40重量%との共重合体がより好ましい。このような共重合体に顔料を予め分散させた着色用樹脂組成物(着色剤マスターバッチ)を作製しておくと、顔料分散性を改善することができるので好ましい。
【0047】
グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂中のグリシジル基含有単量体、代表的にはビニル重合可能な不飽和有機酸のグリシジルエステルの含有量は、10〜50重量%が好ましく、この含有量が少なすぎると、PVDC系樹脂との相溶性が低下したり、樹脂組成物の熱安定性が低下したり、包装用フィルムの色調の経時変化が生じやすくなったりする。グリシジル基含有単量体成分の含有量が多すぎると、樹脂組成物中で分散不良を生じたり、フィルムなどの成形物にフィッシュアイなどの外観不良を生じたりしやすくなる。
【0048】
グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂の具体例としては、メタクリル酸グリシジル−メタクリル酸メチル−スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、メタクリル酸グリシジル−メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸グリシジル−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、メタクリル酸グリシジル−アクリル酸エチル共重合体、メタクリル酸グリシジル−アクリル酸ブチル共重合体などが挙げられる。
【0049】
グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂の分子量は、特に限定されないが、重量平均分子量(Mw)が通常3,000〜100,000、好ましくは5,000〜50,000程度である。この重量平均分子量(Mw)が大きすぎると、フィルムに凝集物(フィッシュアイ)が発生しやすく、小さすぎると、フィルム同士のブロッキングが発生しやすく、包装機械適性が悪くなる。
【0050】
グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂のエポキシ価は、特に限定されず、0.3以上であってもよいが、特に、0.3未満である場合に、顔料分散性、色調、熱安定性、加工性、ガスバリヤー性などが高度にバランスされやすいので好ましい。このエポキシ価は、好ましくは0.25以下、より好ましくは0.2以下である。多くの場合、エポキシ価が0.05〜0.2程度で良好な結果を得ることができる。グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂のエポキシ価が大きくなりすぎると、フィッシュアイなどが発生しやすくなり、成形物の外観不良になりやすい。逆に、エポキシ価が小さすぎると、熱安定性の効果が低下する。
【0051】
グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂は、エポキシ化合物との併用において、PVDC系樹脂100重量部に対して、通常、0.3〜5重量部、好ましくは0.4〜3重量部、より好ましくは0.5〜2重量部である。この配合割合が小さすぎると、熱安定性が低下したり、色調改善効果が低下したりする。この配合割合が大きすぎると、成形物のガスバリヤー性、耐寒性が低下し、また、鮮明な着色度を得ることが困難になる。多くの場合、この配合割合が0.7〜1.5重量部程度で良好な結果を得ることができる。
【0052】
エポキシ化合物(B1)とグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂(B2)との使用比率は、重量基準で、通常、90:10〜40:60、好ましくは80:20〜50:50である。このような使用比率でエポキシ化合物(B1)とグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂(B2)とを併用することにより、PVDC系樹脂の熱安定性を高度に保持しつつ、エポキシ化合物に起因するブリードを抑制し、顔料の分散性、色調、加工性、ガスバリヤー性などの特性を向上させることができる。
【0053】
また、エポキシ化合物(B1)とグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂(B2)の合計での配合割合は、PVDC系樹脂100重量部に対して、通常、0.5〜8重量部、好ましくは1〜5重量部、より好ましくは1.5〜4重量部である。これらの熱安定剤の合計での配合割合が大きすぎると、ブリードや透明性の低下などの不都合を生じやすくなり、小さすぎると、熱安定性が低下したり、両者の併用効果が充分に得られないことがある。
【0054】
3.ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の製造において用いられるその他の添加剤
PVDC系樹脂組成物には、抗酸化剤、可塑剤、滑剤、分散助剤、充填剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、その他の安定剤、pH調整剤、顔料などの各種添加剤を含有させることができる。
【0055】
抗酸化剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチル−フェノール(BHT)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバガイギー社製、Irganox 245)、2,4−ジメチル−6−S−アルキルフェノール、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、及びこれらの混合物(チバガイギー社製Irganox1141)などのフェノール系抗酸化剤;チオジプロピオン酸、ジステアリルチオジプロピオネートなどのチオエーテル系抗酸化剤;トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトなどのホスファイト系抗酸化剤;などが挙げられる。抗酸化剤は、PVDC系樹脂100重量部に対して、通常、0.0001〜0.05重量部の割合で用いられる。
【0056】
可塑剤としては、ジオクチルフタレート、アセチルクエン酸トリブチル、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート、アセチル化モノグリセライド、アセチル化ジグリセライド、アセチル化トリグリセライド、及びそれらの2〜3つを含むアセチル化グリセライド類、アジピン酸と1,3−ブタンジオール、アジピン酸と1,4−ブタンジオール、及びこれらの2種以上の混合物などのポリエステル系可塑剤が代表的なものとして挙げられる。
【0057】
可塑剤は、PVDC系樹脂100重量部に対して、通常、0.05〜10重量部の割合で用いられる。可塑剤は、PVDC系樹脂の粉体レジンとブレンドするか、重合工程において単量体混合物に添加して重合するか、重合後のスラリーに添加するか、あるいはこれらの組み合わせにより、樹脂組成物中に含有させることができる。これらの中でも、重合時に可塑剤を粉体レジン中に含有させ、ブレンド時に必要に応じて追加の可塑剤をブレンドすることが好ましい。
【0058】
滑剤としては、PVDC系樹脂組成物の溶融加工に好適なものとして、酸化ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、モンタン酸エステルワックス、モンタン酸カルシウムなどのワックス類;グリセリンモノエステルなどの脂肪酸エステルが挙げられる。また、PVDC系樹脂組成物の溶融加工並びにフィルムの二次加工に好適なものとして、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸のモノまたはビスアミドなどが挙げられる。これらの滑剤は、PVDC系樹脂100重量部に対して、通常、2重量部以下の適量が用いられる。
【0059】
顔料を分散するときの分散助剤としては、前記のエポキシ化合物や可塑剤、そして、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、モンタン酸エステルワックス、モンタン酸カルシウムなどの滑剤、グリセリン脂肪酸エステル系、ソルビタン脂肪酸エステル系、ポリオキシ・エチレン・ソルビタン脂肪酸エステル系などの界面活性剤、グリセリンやプロピレングリコール類、更には、脂肪族炭化水素系または芳香族炭化水素系のオリゴマーやポリマーが挙げられる。これらの中でも、炭素数が2〜8の脂肪族炭化水素オリゴマーが好ましい。特に、重量平均分子量が300〜5000の液状の脂肪族炭化水素オリゴマーが好ましく用いられる。
【0060】
分散助剤は、PVDC系樹脂組成物の調製時に用いてもよいが、着色用樹脂組成物の製造時に用いることもできる。分散助剤は、顔料の分散性の向上、顔料の飛散防止をするとともに、加工温度を下げて、着色用樹脂組成物の製造を容易にする。分散助剤は、PVDC系樹脂100重量部に対して、通常、2重量部以下の割合で使用する。分散助剤を過剰に使用した場合には、着色剤の粉砕性を悪化させ、また、PVDC系樹脂のバリヤー性を阻害しやすくなる。
【0061】
充填剤としては、二酸化珪素、炭酸カルシウムなどが挙げられる。なお、二酸化珪素や炭酸カルシウムは、梨地化剤、フィルム滑り性付与(包装機械適性)剤などとしても作用する。また、二酸化珪素は、無機滑剤としても作用する。二酸化珪素は、EVAをブレンドする際に、EVA同士の凝集を防ぐために有効である。充填剤は、PVDC系樹脂100重量部に対して、通常、1重量部以下、好ましくは0.5重量部以下の適量が用いられる。
【0062】
紫外線吸収剤としては、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールなどが挙げられ、必要に応じて適量が用いられる。
【0063】
界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのノニオン系界面活性剤などが挙げられ、必要に応じて適量が用いられる。グリセリン脂肪酸モノエステル、ソルビタンモノベヘニレート、ソルビタン脂肪酸エステルなどは、包装用フィルムの肉剥離剤としても作用する。
【0064】
その他の安定剤としては、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、カルシウムヒドロキシホスフェートなどの無機塩基類;クエン酸、クエン酸アルカリ金属塩などの有機弱酸塩類;エチレンジアミン四酢酸塩類;なども、適宜、適量で用いることができる。
【0065】
pH調整剤としては、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウムなどが挙げられ、PVDC系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以下の適量が用いられる。
【0066】
顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系等の有機顔料;酸化チタン、アルミニウム系、マイカ、カーボンブラック等の無機顔料;炭酸カルシウム、酸化マグネシウム等の体質顔料;などが用いられる。これらの中でも、魚肉ソーセージ、畜肉加工品などの加工食品の包装用フィルムの分野では、ピグメントレッド(pigment red)などの赤色顔料が汎用されている。顔料は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。顔料は、PVDC系樹脂100重量部に対して、通常、1重量部以下の適量が用いられる。ただし、酸化チタン顔料の場合、10重量部まで混ぜるときがある。
【0067】
これらの添加剤の中には、例えば、可塑剤、分散助剤、滑剤などの各種機能を兼ね備えているものがある。また、これらの添加剤は、通常は、PVDC系樹脂の粉体レジンに添加してブレンドするが、所望により、PVDC系樹脂の重合終了後のスラリーに混合したり、さらには、重合前の単量体混合物に添加してもよい。
【0068】
4.本発明の着色用樹脂組成物(着色剤マスターバッチ)
本発明では、PVDC系樹脂組成物に顔料を含有させるため、予め顔料を高濃度で含有する樹脂組成物、即ち着色剤マスターバッチの形態で用いる。着色剤マスターバッチは、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂(B2)と顔料(C)とを含有する。
【0069】
この着色用樹脂組成物には、必要に応じて、グリシジル基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(F)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(D)などをさらに含有させることができる。
また、着色用樹脂組成物には、顔料の分散性を高めるなどのために、可塑剤や分散助剤などを添加することができる。
【0070】
着色用樹脂組成物は、ポリ塩化ビニリデン系樹脂の粉体レジンとエポキシ化合物(B1)などの各種添加剤との混合物に添加するために、粉砕し、粉体として使用する。粉砕には、ジェットミル粉砕機等の衝撃微粉機が用いられる。
【0071】
本発明のグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂(B2)としては、ビニル重合可能な不飽和有機酸のグリシジルエステル10〜50重量%、グリシジル基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル10〜90重量%、及びこれらと共重合可能な、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アルキルビニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種のビニル単量体0〜40重量%の共重合体である。
【0072】
本発明の着色用樹脂組成物は、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂を、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜60重量%の割合で含有する。グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂の配合割合が大きすぎると、着色用樹脂組成物の粉砕時に微粉が発生しやすくなり、少なすぎると、粉砕性が低下傾向を示す。
【0073】
顔料(C)は、通常10〜80重量%、好ましくは15〜60重量%、より好ましくは20〜40重量%の割合で含有させる。顔料の配合割合が大きすぎると、その均一分散性が低下し、少なすぎると着色剤マスターバッチとした効果が小さくなる。顔料の均一分散性を維持し得る範囲内で可能な限り顔料の含有割合を高めることが、少量の着色用樹脂組成物で所望の着色度を有するPVDC系樹脂組成物を得ることができるので、特にコストの観点から望ましい。
【0074】
本発明の着色用樹脂組成物には、分散助剤を含有させることができる。分散助剤を含有させる場合には、その含有割合は、通常0.05〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%、より好ましくは1〜3重量%程度である。分散助剤の配合割合が大きすぎると、着色用樹脂組成物の軟化温度が低下して、ブロッキングしやすくなり、小さすぎると、顔料の分散性向上効果が低下する。
【0075】
本発明の着色用樹脂組成物には、可塑剤を含有させることができる。この場合には、エポキシ化大豆油などのエポキシ化植物油も可塑剤として用いることができる。ただし、PVDC系樹脂組成物中での着色用樹脂組成物の配合割合が通常では小さいため、可塑剤としてエポキシ化植物油を用いても、該エポキシ化植物油のエポキシ化合物(B1)全体に占める割合はかなり小さくなる。
【0076】
エポキシ化植物油及びその他の可塑剤は、着色用樹脂組成物の全量基準で、通常、0.5〜10重量%、好ましくは1〜7重量%、より好ましくは2〜5重量%の割合で含有させる。可塑剤の配合割合が大きすぎると、着色用樹脂組成物の軟化温度が低下して、ブロッキングしやすくなり、小さすぎると、可塑化の程度が不充分となり、PVDC系樹脂の粉体レジンとのブレンド時に均一なブレンドが困難になる。
【0077】
本発明の着色用樹脂組成物には、その押出加工性の安定化のために、グリシジル基を含有しない(メタ)アクリル酸エステルの(共)重合体(F)を含有させることができる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルなどが挙げられる。これらの中でも、メタクリル酸メチル−メタクリル酸ブチル共重合体が好ましい。グリシジル基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(F)の配合割合は、着色用樹脂組成物の全量基準で、好ましくは10〜40重量%、より好ましくは15〜30重量%である。この配合割合が大きすぎると、高周波シール性が低下し、小さすぎると、押出加工性が不安定になることがある。
【0078】
本発明の着色用樹脂組成物には、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)(D)を含有させることができる。前記したように、EVA中の酢酸ビニル含量は、好ましくは20〜40重量%、より好ましくは28〜35重量%である。EVAのメルトフローレイト(MFR)は、好ましくは1〜50g/10分、より好ましくは20〜40g/10分である。着色用樹脂組成物に、EVAを好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、特に好ましくは20重量%以下の割合で含有させることが望ましい。EVAを含有させる場合、通常、1重量%以上、好ましくは5重量%以上の割合で含有させる。
【0079】
EVAの含有量が多すぎると、着色樹脂組成物の溶融粘度が小さくなり、顔料の分散性が低下したり、常温でゴム状になって粉砕し難くなったり、更には、耐熱性が低下して、ベタツキ、ブロッキングを起こしやすくなる。EVAの含有量が少なすぎると、着色樹脂組成物を粉砕した時、得られる粉体の粒度が細かくなりすぎる。
本発明の着色用樹脂組成物には、必要に応じて、有機または無機の滑剤、抗酸化剤などの各種添加剤を適量の範囲で含有させることができる。
【0080】
本発明の着色用樹脂組成物は、各成分を混合し、混合物を加熱混練することにより調製する。着色用樹脂組成物は、通常、粉砕して粉体として使用する。好ましくは、混練物をシート状に溶融押出し、急冷してシートを得た後、該シートを粉砕して粉体とする。この粉体の粒度は、PVDC系樹脂の粉体レジン等との分散性の観点から、#20メッシュの篩をパスするものであることが好ましく、#40メッシュの篩をパスするものであることがより好ましい。
本発明の着色用樹脂組成物は、それ自体の熱安定性に優れているので、通常の熱可塑性樹脂にも添加することができる。
【0081】
5.本発明の着色用樹脂組成物を用いるPVDC系樹脂組成物の製造方法
一般に、PVDC系樹脂と各種添加剤を含有する樹脂組成物を調製する場合、PVDC系樹脂の粉体レジンと共に各種添加剤をブレンドし、粉体状の樹脂組成物(コンパウンド)を製造する。ブレンドによって、エポキシ化植物油や可塑剤などの液体の添加剤は、PVDC系樹脂の粉体レジンに吸収され、また、粉体の添加剤は、PVDC系樹脂の粉体レジンの回りに付着する。
【0082】
このブレンドに際し、添加剤成分の凝集が起こりやすく、特に顔料粒子及びグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂粉体などの凝集が起こりやすい。PVDC系樹脂組成物中に凝集物が多量に存在すると、加工性、押出性、成膜性、延伸性などが損われ、更には、フィルムなどの成形物にフィッシュアイの生成などによる外観不良をもたらす。顔料の分散性を高め、顔料や添加剤成分の凝集物の生成を抑制するには、各成分の添加方法を工夫することが好ましい。
【0083】
本発明の着色用樹脂組成物を用いるポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の製造方法は、重合時にエポキシ化植物油、エポキシ化動物油、エポキシ化脂肪酸エステル、及びエポキシ樹脂プレポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物(B1)を含有させたポリ塩化ビニリデン系樹脂(A)の粉体レジンに、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂(B2)と顔料(C)とを含有する着色用樹脂組成物の粉体、及び必要に応じて追加のエポキシ化合物(B1)をブレンドする方法である。
【0084】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂(A)の粉体レジンは、重合時にエポキシ化合物(B1)に加えて、可塑剤を更に含有させたものであることが好ましい。なお、重合時にエポキシ化合物(B1)及び/または可塑剤をPVDC系樹脂の粉体レジンに含有させるには、これらを重合前の単量体混合物に加えるか、重合中に重合反応系に加えるか、重合後のスラリーに加えて、生成PVDC系樹脂に含有させてから、粉体レジンとして回収する。
【0085】
粉体レジン中のエポキシ化合物(B1)及び/または可塑剤(E)の含有量が少ない場合には、ブレンド工程において、必要に応じて追加のエポキシ化合物(B1)及び/または可塑剤(E)をブレンドすることができる。ブレンド時には、所望により、エチレン−酢酸ビニル共重合体(D)、その他の添加剤をブレンドすることができる。着色用樹脂組成物の粉体としては、前述のものが用いられる。
【0086】
本発明の着色用樹脂組成物を用いるポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の製造方法によれば、各成分を常温でブレンドすることができる。PVDC系樹脂の粉体レジン中に、予め重合時にエポキシ化合物(B1)や可塑剤などの主要な液体成分を含有させているため、着色用樹脂組成物の粉体と常温でブレンドすることができ、それによって、均一な組成のコンパウンドを調製することができる。
【0087】
このようにして得られたPVDC系樹脂組成物(コンパウンド)は、粗大粒子を僅かではあるが含んでいることがあるので、篩別機を用いて、粗大粒子を除去することが好ましい。
【0088】
EVAを別途ブレンドする場合には、前記の各方法で得られた樹脂組成物とEVAの粉体とをブレンドすることが好ましい。EVAは、常温でブレンドすることが好ましい。この場合にも、ブレンド後、篩を用いて篩別し、粗大粒子を除去することが好ましい。
【0089】
各成分は、羽根ブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサーなどのブレンダーを用いて混合することができる。また、着色用樹脂組成物を製造するときには、2本ロール機、3本ロール機を用いて混練することもできる。
【0090】
本発明の着色用樹脂組成物を用いるポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の製造方法によれば、顔料粒子の凝集物や、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂の凝集物などの発生を抑制し、加工性や諸物性に優れたPVDC系樹脂組成物を得ることができる。
本発明において、「常温」とは、通常5〜45℃、好ましくは10〜40℃、より好ましくは15〜35℃の温度を意味する。
【0091】
6.本発明の着色用樹脂組成物を用いるPVDC系樹脂組成物の成形
本発明の着色用樹脂組成物を用いるPVDC系樹脂組成物(コンパウンド)は、溶融押出して延伸または未延伸フィルム、シートなどに成形することができる。フィルムの成形方法としては、例えば、サーキュラーダイによるインフレーション押出成形法などが適用される。延伸、好ましくは二軸延伸により得られる配向フィルムは、熱収縮性を有し、また、レトルト可能な耐熱性フィルムとして好適に用いられる。延伸倍率は、縦方向に2〜5倍、横方向に2〜5倍が好ましい。
【0092】
フィルム厚さは、シングルフィルムとして通常5〜50μm、好ましくは10〜30μmである。用途によりダブルフィルムとしても使用される。延伸フィルムの熱収縮率は、縦、横ともに約30〜60%(120℃グリセリン浴、3分)であることが好ましい。食品包装用フィルムとしての主な使用方法は、インフレーション後、2枚に重ねてダブルフィルムとして、フィルム両端の耳の部分をスリットし、包装機械で円筒状にしながらシールし、そして、内容物を充填し、両端をグリップして包装体を得る。包装用フィルムは、魚肉ソーセージ、畜肉加工品などの加工食品の包装材料などとして好適である。
【0093】
本発明の着色用樹脂組成物を用いるPVDC系樹脂組成物から成形されたフィルムは、任意の100gの範囲(約1.5m2)を無作為に10箇所選んで、拡大鏡を用いて顔料分散状態を観察した時、0.4mm以上の凝集塊の個数が10個以下である場合、顔料分散性が顕著に優れている。このことは、本発明の着色用樹脂組成物を用いるPVDC系樹脂組成物が凝集物の発生が抑制されており、熱安定性にも優れていることを意味している。
【0094】
本発明の着色用樹脂組成物を用いるPVDC系樹脂組成物から成形されたフィルムは、エポキシ化大豆油やエポキシ化亜麻仁油などの汎用のエポキシ化合物を単独で熱安定剤として用いて得られる従来品に比べて、色調が明らかに改善されており、従来品の暗い感じからやや白い高級感を示している。したがって、該フィルムで包装した魚肉ソーセージ、畜肉加工品などの加工食品は、高級感があり、商品価値の向上に寄与することができる。
【0095】
本発明の着色用樹脂組成物を用いるPVDC系樹脂組成物から成形されたフィルムは、食肉などへの密着性に優れているが、例えば、コロナ放電処理などの表面処理を施すと、食肉を充慎した場合、フイルムへの密着性を向上させる効果がさらに大きくなり、食肉から肉汁等のドリップが発生するのを減少させることができる。
【0096】
PVDC系樹脂にエポキシ化大豆油やエポキシ化亜麻仁油などのエポキシ化合物を含有させると、一般にフィルムのガスバリヤー性が低下傾向を示す。ところが、本発明の着色用樹脂組成物を用いるPVDC系樹脂組成物は、成形時には、分散したエポキシ化合物とグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂の作用によって、熱安定性に優れているが、成形後には、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂とエポキシ化合物との相溶性が良好であることから、微細に分散したグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂が液体のエポキシ化合物を吸収し、その結果、熱安定性を維持したままで、ガスバリヤー性、食肉などへの密着性が向上する。したがって、本発明の着色用樹脂組成物を用いるPVDC系樹脂組成物から成形されたフィルムは、ガスバリヤー性に優れている。
【0097】
EVAをブレンドすると、押出加工性やシール強度向上に寄与することに加えて、成形後には、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂とともに、エポキシ化合物を吸収して、ガスバリヤー性の向上に寄与する。エポキシ化合物は、押出成形などの溶融加工時に熱安定性に寄与しているため、成形後にグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂やEVAなどに吸収されても、フィルムなどの成形物の熱安定性に悪影響が及ぶことはない。
【実施例】
【0098】
以下に実施例、参考例及び比較例を示して、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。本発明で用いる評価方法は、次のとおりである。
【0099】
(1)還元粘度:
PVDC系樹脂をメタノールを溶媒とするソックスレー抽出器により抽出処理した後、乾燥したものを試料とし、ウベローデ粘度計を用いて、溶媒をシクロヘキサン、樹脂濃度を4g/リットル、測定温度を30℃とする条件で還元粘度を求めた。
【0100】
(2)押出安定性の評価(熱安定性、加工性):
PVDC系樹脂組成物(コンパウンド)を、スクリュー直径90mmの押出機(モーター15KW)を使用して溶融押出をした。その押出機のモーター負荷の変動範囲を記録した。また、押出状況を観察した。下記の基準で評価した。
○:±3A以下(加工性が安定)、
△:±5A以下(加工性の安定は悪いが、製造できる)、あるいは押出機から溶融樹脂が押し出されるダイ出口のところで樹脂の付着(分解)が多く発生する、
×:±5Aを越える(製造が難しい)。
【0101】
(3)コンパウンド収率:
PVDC系樹脂組成物と着色用樹脂組成物とをブレンドして使用する場合は、#10メッシュの篩、それ以外は、#50メッシュの篩を用いて篩別を行った。篩別後に、篩を通過しなかったものの重量を計り、以下の基準で評価した。
○:メッシュ上に残った量が、投入量の0.2重量%未満である、
×:メッシュ上に残った量が、投入量の0.2重量%以上である。
【0102】
(4)色調:
レトルト殺菌した包装体を健康な成人10人に観察してもらい、従来品と比べて色調や風合いが改善されているか否かを判定してもらった。評価基準は、次のとおりである。7人以上の評価が一致した場合で判定した。
○:従来品よりも色調、風合いが良好で高級感がある、
△:白っぽく、やや不透明である、
×:あめ色、やや黒ずんでいる。
【0103】
(5)フィルム中の粗大粒子数:
フィルム中の分散状態を拡大鏡で観察し、任意の100g範囲(約1.5m2)を無作為に10ケ所観察し、0.4mm以上の凝集塊の個数を調査して評価尺度とし、以下の基準で評価した。
○:10個以下、
×:10個超過。
【0104】
(6)高周波シール性の評価〔包装機械適性、フィルム滑り性〕:
原反1m幅を幅70mmに細断し、再度巻き取った原反を作成した。フィルム供給部、高周波シール部、自動充填部、結紮部が一体化された自動充填結紮装置(呉羽型KAP500型、呉羽化学工業社製)を用いて、電流値70mA、電極面圧400g、充填速度100本/分、包装体の製品長さ(全属クリップ間)設定200mmで、ポークソーセージ用の原料肉を充填した。高周波シール性は、以下の基準で評価した。
○:製袋時のフィルム滑り性が良く、蛇行がなく、フォーミングプレートのフィルム外れがなく、折巾のムラがなく、安定した高周波シールができ、そして、包装体の製品長さが、設定値の±2.5mm以内で仕上がっている、
×:製袋時のフィルム滑り性が悪く、蛇行があり、フォーミングプレートのフィルム外れがあり、折巾のムラがあり、安定した高周波シールができず、そして、包装体の製品長さが、設定値の±2.5mm以上で仕上がっている。
【0105】
(7)包装体の破体率(レトルト殺菌時シール部から):
上記で得られた包装体100本を、加熱缶内ゲージ圧2.0kg/cm2、温度120℃で20分問加熱加圧殺菌し、圧力を維持したままで温度を25℃に加圧冷却し、その後開放して加熱缶から取り出した。包装体のシール部から破体した数を調査し、破体率(%)を求めた。
【0106】
[実施例1]
1.着色用樹脂組成物の調製
表1に示すように、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂〔メタクリル酸グリシジル−メタクリル酸メチル−スチレン−アクリル酸ブチル(30/31/31/8重量%)〕41重量%、メタクリル酸メチル−メタクリル酸ブチル共重合体23重量%、ピグメントレッド混合物(顔料)25重量%、二酸化珪素(無機滑剤;平均粒径5.2μm)5重量%、エポキシ化大豆油3重量%、脂肪族炭化水素オリゴマー(Mw=2,100)2重量%、及びモンタン酸カルシウム1重量%を、常温(23℃)で、へンシェルミキサーにより5分間撹拌して着色用樹脂組成物を得た。組成を表1に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
(脚注)実施例1では、この着色用樹脂組成物をPVDC系樹脂100重量部に対して、2.0重量部の割合でブレンドしているので、該2.0重量部中の各成分の内訳を参考のために示す。
【0109】
得られた着色用樹脂組成物を、表面150℃に設定した2軸加熱ローラー(φ=200mm)で10分間加熱混練した。混練後、混練物を急冷してシートを得た。ジェットミル粉砕機(衝撃微粉機)を使用して該シートを粉砕し、粉砕物を#40メッシュのスクリーンを通過させて着色用樹脂組成物の粉体を得た。
【0110】
2.PVDC系樹脂組成物の調製
PVDC系樹脂として、PVDC(1)〔塩化ビニリデン(VD)/塩化ビニル(VC)=88/12(重量%)、還元粘度=0.063〕と、PVDC(2)〔VD/VC=83/17(重量%)、還元粘度=0.052〕の各粉体レジンを用いた。各粉体レジンの重合時に、PVDC系樹脂100重量部に対して、エポキシ化亜麻仁油(O−180)2.4重量部とジブチルセバケート3.5重量部とを、これらの割合になるように含有させた。
【0111】
上記2種類のPVDC系樹脂の粉体レジンに、前記で調製した着色用樹脂組成物の粉体、及び各種添加剤を添加して、表2に示す組成を有するPVDC系樹脂組成物を調製した。各成分について、粉体レジン製造時(重合時)に含有させたものとブレンド時に含有させたものとを区別して示した。また、エポキシ化合物と可塑剤については、着色用樹脂組成物中に含まれているものを含めて、合計量を表示した。
【0112】
先ず、PVDC系樹脂の粉体レジンと着色用樹脂組成物とEVAと各種添加剤とを羽根ブレンダーを用いて混合し、PVDC系樹脂組成物(コンパウンド)を調製した。混合時間は、15分間であった。混合温度は、常温(23℃)であった(常温ブレンド)。PVDC系樹脂組成物を#10メッシュの篩で篩別し、粗大粒子を除去した。
【0113】
3.フィルムの作成
真空ホッパー付きの直径90mmの押出機(真空圧=約−680mmHg水銀柱に調整)を用いてPVDC系樹脂組成物を環状に溶融押出した後、7℃の冷却槽で急冷し、次いで、20℃の温水浴槽を通過させ、そして、2組の回転表面速度の異なるピンチローラー間で空気を圧入して膨張させて、長さ方向に約2.5倍、横方向に約4.2倍延伸配向させ、延伸フィルムを作成した。評価結果を表2に示す。
【0114】
[比較例1]
各粉体レジンの重合時に、PVDC系樹脂100重量部に対して、エポキシ化亜麻仁油(O−180)3.4重量部とジブチルセバケート3.5重量部とを、これらの割合になるように含有させた。これらの粉体レジンを用い、そして、着色用樹脂組成物及びグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様に操作した。結果を表2に示す。
【0115】
[参考例1]
PVDC(1)の粉体レジンの重合時に、PVDC系樹脂100重量部に対して、エポキシ化亜麻仁油(O−180)0.3重量部とジブチルセバケート4.0重量部とを、これらの割合になるように含有させた。表2に示す各成分の内、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂以外の成分を、PVDC(1)の粉体レジン、粉体添加剤、液体添加剤(アセチルクエン酸トリブチル、エポキシ化亜麻仁油)、及び顔料の順に羽根ブレンダー内に投入し、混合しながら約80℃まで昇温した(昇温ブレンド)。昇温後、直ちに冷却し、温度が約65℃にまで低下した時点でグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂の粉体を投入して混合した(昇温後ブレンド)。冷却後、#50メッシュの篩で篩別して樹脂組成物(コンパウンド)を得た。この樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして延伸フィルムを作成し、評価した。結果を表2に示す。
【0116】
[比較例2]
PVDC(1)の粉体レジンの重合時に、PVDC系樹脂100重量部に対して、ジブチルセバケート4.0重量部を、この割合になるように含有させた。この粉体レジンを用い、そして、ブレンド時にグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂を他の粉体添加剤とともに一括して添加したこと以外は、参考例1と同様に操作した。結果を表2に示す。
【0117】
[参考例2]
各粉体レジンの重合時に、PVDC系樹脂100重量部に対して、エポキシ化亜麻仁油(O−180)2.46重量部とジブチルセバケート3.5重量部とをこれらの割合になるように含有させた。これらの粉体レジンを用い、そして、表2に示す各成分の内、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂及びEVA以外の成分を、粉体レジン、粉体添加剤、及び顔料の順に羽根ブレンダー内に投入して、混合しながら約80℃まで昇温した(昇温ブレンド)。昇温後、直ちに冷却し、温度が約65℃にまで低下した時点でグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂の粉体を投入して混合した(昇温後ブレンド)。その後、EVAを常温でブレンドした(常温ブレンド)。得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして延伸フィルムを作成した。結果を表2に示す。
【0118】
【表2】

【0119】
(脚注)
*1:( )内の数値は、着色用樹脂組成物2.0重量部中に含まれている各成分の重量部数を表わす。
【0120】
実施例1において、エポキシ化合物と可塑剤を重合時に投入し、ブレンド時に投入しなかった。ブレンド時に液体添加剤がないと、液体添加剤をPVDC系樹脂の粉体レジンに吸収させるために昇温ブレンドする必要がなく、常温ブレンドすることができ、しかもブレンド時間が短縮される。また、着色用樹脂組成物の粉体を常温ブレンドすることができ、しかも凝集物の発生が抑制されている。これに対して、比較例1では、着色用樹脂組成物を用いないで常温ブレンドしているため、フィルム中の粗大粒子数、高周波シール性、包装体の破袋率が悪い。
【0121】
参考例1では、エポキシ化合物とグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂の粉体とを併用し、かつ、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂の粉体を冷却過程でブレンドすることにより、凝集物の発生がなく、色調も良好となる。これに対して、比較例2では、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂の投入時期により、コンパウンド収率、フィルム中の粗大粒子数、高周波シール性、包装体の破袋率が悪く、また、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂単独使用のため、フィルム色調が不満足であり、押出安定性もよくない。
【0122】
参考例2では、常温ブレンドではなく、参考例1と同様の昇温ブレンドを採用しているが、所望の特性を有する樹脂組成物及びフィルムが得られていることが分かる。
【0123】
[参考例3]
PVDC(1)とPVDC(2)の各粉体レジンの重合時に、PVDC系樹脂100重量部に対して、エポキシ化亜麻仁油(O−180)0.4重量部とジブチルセバケート(DBS)3.5重量部とを、これらの割合になるように含有させた。表3に示す各成分の内、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂(GMA)及びエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)以外の成分を、PVDC(1)及びPVDC(2)の粉体レジン、粉体添加剤、液体添加剤(エポキシ化亜麻仁油)、及び顔料の順に羽根ブレンダー内に投入し、混合しながら約80℃まで昇温した(昇温ブレンド)。昇温後、直ちに冷却し、温度が約65℃にまで低下した時点でグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂の粉体を投入して混合した(昇温後ブレンド)。その後、EVAを常温でブレンドした。冷却後、#50メッシュの篩で篩別して樹脂組成物(コンパウンド)を得た。この樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして延伸フィルムを作成し、評価した。結果を表3に示す。
【0124】
[比較例3]
参考例3において、昇温ブレンド時のエポキシ化亜麻仁油の配合量を2.2重量部から3.0重量部に変え、かつ、昇温後、グリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂(GMA)をブレンドしなかったこと以外は、参考例3と同様にして延伸フィルムを作成した。結果を表3に示す。
【0125】
[比較例4]
参考例3において、重合時及び昇温ブレンド時にエポキシ化亜麻仁油を使用しなかったこと以外は、参考例3と同様にして延伸フィルムを作成した。結果を表3に示す。
【0126】
[参考例4]
参考例3において、EVAをブレンドしなかったこと以外は、参考例3と同様にして延伸フィルムを作成した。結果を表3に示す。
【0127】
[実施例2]
PVDC(1)とPVDC(2)の各粉体レジンの重合時に、PVDC系樹脂100重量部に対して、エポキシ化亜麻仁油(O−180)0.4重量部とジブチルセバケート(DBS)3.5重量部とを、これらの割合になるように含有させた。PVDC(1)及びPVDC(2)の粉体レジン、及びエポキシ化亜麻仁油2.2重量部を羽根ブレンダー内に投入し、混合しながら約80℃まで昇温した(昇温ブレンド)。昇温後、直ちに冷却し、常温(23℃)なって時点で、フィルム滑り剤(二酸化珪素)0.1重量部、着色用樹脂組成物2.0重量部、及びEVA2.5重量部を混合した(常温ブレンド)。その後、#50メッシュの篩で篩別して樹脂組成物(コンパウンド)を得た。この樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして延伸フィルムを作成し、評価した。結果を表3に示す。
【0128】
[実施例3]
実施例2において、粉体レジン、エポキシ化亜麻仁油2.2重量部、フィルム滑り剤(二酸化珪素)0.1重量部、着色用樹脂組成物2.0重量部、及びEVA2.5重量部を常温で混合した(常温ブレンド)こと以外は、実施例2と同様にして延伸フィルムを作成し、評価した。結果を表3に示す。
【0129】
[比較例5]
実施例3において、エポキシ化亜麻仁油2.2重量部を3.0重量部に、フィルム滑り剤(二酸化珪素)0.1重量部を0.2重量部に、着色用樹脂組成物2.0重量部を顔料0.5重量部に、それぞれ変えたこと以外は、実施例3と同様にして延伸フィルムを作成し、評価した。結果を表3に示す。
【0130】
【表3】

【0131】
(脚注)
*1:( )内の数値は、着色用樹脂組成物2.0重量部中に含まれている各成分の重量部数を表わす。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の着色用樹脂組成物を用いたポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物は、粗大な異物、顔料凝集塊、色斑などの発生が抑制され、高級感のある色調を有し、更には、シール性、強度、食品との密着性に優れた包装用フィルムを与えることができる。このように、このポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を用いて得られたフィルムは、色調や風合いに優れ高級感があるため、魚肉ソーセージ、畜肉加工品などの加工食品の包装材料などとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ビニル重合可能な不飽和有機酸のグリシジルエステル10〜50重量%、グリシジル基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル10〜90重量%、及びこれらと共重合可能な、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アルキルビニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種のビニル単量体0〜40重量%の共重合体であるグリシジル基含有(メタ)アクリル系樹脂(B2)、及び
(2)顔料(C)
を含有するポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の製造に適した着色用樹脂組成物。
【請求項2】
グリシジル基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(F)を更に含有する請求項1記載のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の製造に適した着色用樹脂組成物。
【請求項3】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(D)を更に含有する請求項1または2に記載のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の製造に適した着色用樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−169665(P2007−169665A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80310(P2007−80310)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【分割の表示】特願2002−102086(P2002−102086)の分割
【原出願日】平成14年4月4日(2002.4.4)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】