説明

ポリ塩化ビニルの中空濾膜およびその製造方法

本発明はポリ塩化ビニルの中空濾膜及びその製造方法を提供する。その濾膜は主に30〜95重量%のポリ塩化ビニルと5〜70重量%の塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体とを含有する。これらのうち、上述したポリ塩化ビニルの重合度は700〜2500で、上述した三元共重合体において共重合体の総重量によって、酢酸ビニルは10〜19重量%の範囲に、無水マレイン酸は18〜40重量%の範囲にある。また、その三元共重合体の絶対粘度は1.2〜1.9mPa・sである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は優れた透過性と耐汚染性を有するポリ塩化ビニルの中空濾膜、特に変性ポリ塩化ビニルの中空濾膜に関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離技術はエネルギ−を節約すること、環境を保護すること、操作が簡単であることなどの特徴を有することから、速く発展し、その応用の範囲は生物、医薬、環境保護、エネルギ−源、市政の水処理、排水処理などの分野まで広がっている。中空濾膜は単位体積当りの濾過の面積が大きく、設備の製造コストが低く、かつ交叉流の濾過を実現できるものであるから、フィルタ−エレメントの使用可能な時間を大きく延長することができる。しかし、現在売り出されている中空濾膜の商品は一般にポリスルホン(PS)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリエ−テルスルホン(PES)、ポリアクリロニトリル(PAN)などの材料から製造され、性能/価格比のため、より普遍的な応用を得ることができない。
【0003】
ポリ塩化ビニルはわりに高い物理的性能を具有し、しかも微生物の侵食に抵抗し、酸や塩基に耐え、化学的安定性がよく、かつその原料源が広く、品種が豊富で、価格が安く、ますます研究機関の注目を集めている。しかしながら、ポリ塩化ビニル材料そのものは親水性がよくないので、ポリ塩化ビニルの濾膜透過力は良好ではなく、また汚染されやすく、そこで濾過の能力は速く下がる。
【0004】
優れた性能を持つポリ塩化ビニルの液体分離膜を製造するために、その成膜形成後の親水性を高めなければならない。採用できる方法は、下のように挙げられる。
(1)共重合変性、すなわち、共重合により塩化ビニルのセグメントに親水基を有する他
の化学物質を導入すること、
(2)プラズマ表面変性、すなわち、プラズマでポリ塩化ビニル粉末またはポリ塩化ビニ
ル膜を処理し、ポリ塩化ビニル粉末またはポリ塩化ビニル膜の表面に塩素を含む親水基を生じること、
(3)表面グラフト変性(濾膜の化学変性の一種である)、すなわち、γ線または電子線
(ビ−ム)など高エネルギ−放射線で、ポリ塩化ビニルの分子鎖にラジカルを生成し、それからグラフト重合反応により膜表面に必要な親水基を導入すること。上述の三つ種類の方法はポリ塩化ビニル濾膜の親水性を改善するものの、工業化生産が難しく、コストが高い。
【0005】
ポリ塩化ビニル濾膜の第四の変性方法はブレンディング変性、すなわち、製膜用のスラリ−にポリ塩化ビニルの材料と適当な相容性を有し、また親水基を含するブレンド材料を添加することである。二種の物質は溶解度係数(高分子物質の溶解される性能を示す)の差が小さければ、小さいほど、相容性がよくなり、製膜用液が安定になり、成膜の細孔直径が均一で、欠陥が少ない。また、選んだブレンド材料は親水性がよければ、よいほど、製膜用のスラリ−にその比率が高ければ、高いほど、膜の透水率が高くなり、汚染に抵抗する能力が強くなる。そこで、適当なブレンド材料を選び、また適当なフォ−ミングプロセスを採用することによって、機械的性質がよい、透水率が高い、汚染に抵抗する能力が強い、かつ質量がすぐれ、コストが低いポリ塩化ビニル中空濾膜を製造できる。
【発明の開示】
【0006】
本発明の一つの目的は、優れた透過能力と著しい耐汚染性の性能を有するポリ塩化ビニル中空濾膜を提供するものである。
【0007】
本発明の他の目的は、ポリ塩化ビニル中空濾膜の製造方法を提供するものである。
本発明のポリ塩化ビニル中空濾膜は、主に下記の成分を含む:
30重量%〜95重量%のポリ塩化ビニルと、
5重量%〜70重量%の塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体、
そのうち、上述したポリ塩化ビニルの重合度は700〜2500であり、
上述した三元共重合体において共重合体の総重量に基づいて、酢酸ビニルが10〜19重量%で、無水マレイン酸が18〜40重量%であり、
また、その三元共重合体の絶対粘度が1.2〜1.9mPa・sである。
【0008】
また、本発明はポリ塩化ビニル中空濾膜の製造方法を提供する。その方法は、下記のステップを含む:
膜の製造用のスラリ−の総重量に基づいて、
ポリ塩化ビニル 5.6〜14.1%、
塩化ビニル−酢酸ビニル− 0.4〜13.0%、
無水マレイン酸の三元共重合体
熱安定剤 0.1〜0.7%、
溶媒 61.5〜85.1%
制孔剤 1.1〜10.4%
を含有する製膜ためのスラリ−を調製し、
そのうち、ポリ塩化ビニルの重合度が700〜2500で、前記三元共重合体において共重合体の総重量に基づいて、酢酸ビニルが10〜19重量%で、無水マレイン酸が18〜40重量%であり、また、その三元共重合体の絶対粘度が1.2〜1.9mPa・sで
あり、
上述したポリ塩化ビニルと、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体と、安定剤と、溶媒とを上述した比率で混合し、40〜90℃で溶解し、それから制孔剤を添加し、10〜24時間撹拌、溶解続け、10〜15時間静置することによって、製膜ためのスラリ−を形成し、公知の方法によってスプレー製膜し、膜を凝固させ、本発明のポリ塩化ビニルの中空濾膜を製造する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のポリ塩化ビニルの中空濾膜において、ポリ塩化ビニルの含有量は30〜95重量%で、60〜80重量%が好ましい。塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体の含有量は5〜70重量%で、20〜40重量%が好ましい。また、この濾膜に避けられない微量の残留溶媒とほかの不純物を含有する。
【0010】
本発明において用いる塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体の酢酸ビニルの含有量は10〜19重量%で、13〜15重量%が好ましい。無水マレイン酸の含有量は18〜40重量%で、20〜28重量%が好ましい。三元共重合体は強い親水基(−COOH)を含有し、水との間の接触角は40度で、溶解度係数は9.5〜9.7(J/cm31/2である。塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体の溶解度係数はポリ塩化ビニルの溶解度係数(9.6(J/cm31/2)に非常に近く、それらは相容性がきわめてよく、ほとんどいかなる比例でも混合、溶解できる。
【0011】
本発明の製膜方法において、溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)またはジメチルアセタミド(DMAC)を選んでもよい。熱安定剤としてバリウムステアレ−ト、有機錫、鉛化合物を選んでもよく、錫メチルメルカプタン(mercaptan)が好ましい。安定剤の
主な作用はスラリ−のポリ塩化ビニルのサーマルデグラデ−ション(thermal degradation)を調製、加熱する過程において避けるものである。制孔剤は膜の気孔率を高め、膜の透
過能力を増強でき、またある程度に膜の強靭性を向上させる。制孔剤としてポリビニルピ
ロリドン(PVP)、ポリエチレングリコ−ル(PEG)を選んでもよい。ポリエチレングリコ−ル(PEG)が好ましい。膜を製造するためのスラリ−の溶解温度は40〜90℃である。50〜80℃が特に好ましい。
【0012】
本発明に使用する塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体はよりよい親水性、物理的性質と化学的性質を具有し、ポリ塩化ビニルとの相容性がよく、またコストは相対的に低い。塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体の添加は、皮膜形成後の親水性と汚染に抵抗する性能とをはるかに高めることができる。例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体とポリ塩化ビニルの重量比が3:7の場合に、濾膜の水との接触角は57度で、しかしポリ塩化ビニルのみからなる濾膜の水との接触角は66度である。
【0013】
本発明において膜を製造するためのスラリ−は、公知のドライ・スプレー(dry・spray)、湿式紡系プロセスで膜としてスプレーでき、それから、凝固浴で皮膜形成まで凝結する。凝固浴は水溶液またはある溶媒を含有する水溶液である。それで本発明の優れた性能を具有するポリ塩化ビニル中空濾膜を得る。
[実施例]
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明の範囲は下記実施例に限定されることはない。
【実施例1】
【0014】
次のように膜製造用の均一のスラリ−を製備する。11.5重量%のポリ塩化ビニルと、5.0重量%の塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体と0.30重量%の安定剤である錫メチルメルカプチドとを混合した後、76.3重量%のジメチルアセタミドと一緒に温度が78℃である撹拌釜に入れる。110rpm.の撹拌速度で大体に溶解させた後、6.9重量%のポリエチレングリコ−ルを添加し、78℃の恒温で10時間撹拌する。それから真空でデバブリング(debubbling)を行い、12時間静置し、膜を製造するためのスラリ−を得る。得た膜を製造するためのスラリ−をドライ・スプレー湿式紡系プロセスでスピニングスプレー(spinning spray)を通って押し出し、含水凝固液を経て中空濾膜を得る。これから得た膜はmolecular weight cut−offが80000daltonで、0.1MPaの圧力と25℃の水温の条件
下に純水の濾過率が800L/m2・hである。
【実施例2】
【0015】
次のように膜を製造するための均一のスラリ−を製備する。9.4重量%のポリ塩化ビニルと、3.3重量%の塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体と、0.2重量%の錫メチルメルカプチドとを混合した後、83.9重量%のジメチルアセタミドと一緒に温度が60℃である撹拌釜に入れる。90rpmの撹拌速度で大体に溶解させた後、3.2重量%のポリエチレングリコ−ルを添加し、60℃の恒温で10時間撹拌する。それから真空でデバブリング(debubbling)を行い、12時間静置し、膜を製造するためのスラリ−を得る。得た膜を製造するためのスラリ−をドライ・スプレー湿式紡系プロセスでスピニングスプレー(spinning spray)を通って押し出した後、凝固浴を経て中空濾膜を得る。これから得た膜はmolecular weight cut−offが150000daltonで、0.1MPaの圧力と25℃の水温の条件下に純水の濾過率が1160L/m2・hである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主に30〜95重量%のポリ塩化ビニルと5〜70重量%の塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体とを含有し、
前記ポリ塩化ビニルの重合度が700〜2500であり、
前記三元共重合体において、共重合体の総重量に基づいて、酢酸ビニルが10〜19重量%で、無水マレイン酸が18〜40重量%であり、かつその三元共重合体の絶対粘度が1.2〜1.9mPa・sであることを特徴とするポリ塩化ビニルの中空濾膜。
【請求項2】
ポリ塩化ビニルの含有量が60〜80重量%で、前記三元共重合体の含有量が20〜40重量%であることを特徴とする請求項1に記載のポリ塩化ビニルの中空濾膜。
【請求項3】
前記の塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体の中に、共重合体の総重量に基づいて、酢酸ビニルが13〜15重量%あり、無水マレイン酸が20〜28重量%あることを特徴とする請求項1に記載のポリ塩化ビニルの中空濾膜。
【請求項4】
膜の製造用のスラリ−の総重量に基づいて、
ポリ塩化ビニル 5.6%〜14.1%、
塩化ビニル−酢酸ビニル 0.4%〜13.0%、
−無水マレイン酸の三元共重合体
熱安定剤 0.1%〜0.7%、
有機溶媒 61.5%〜85.1%
制孔剤 1.1%〜10.4%
を含有する製膜用のスラリ−を調製し、
そのうち、ポリ塩化ビニルの重合度が700〜2500であり、
前記三元共重合体において、共重合体の総重量に基づいて、酢酸ビニルが10〜19重量%で、無水マレイン酸が18〜40重量%であり、また、その三元共重合体の絶対粘度が1.2〜1.9mPa・sであり、
上述したポリ塩化ビニルと、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体、安定剤及び有機溶媒とを上述した比率で混合し、40℃〜90℃の温度で溶解し、それから制孔剤を添加し、10〜24時間撹拌、溶解を続け、10〜15時間静置することによって製膜用のスラリ−を形成し、公知方法によってスプレー製膜し、膜を凝固させ、本発明のポリ塩化ビニルの中空濾膜を製造することを特徴とするポリ塩化ビニルの中空濾膜の製造方法。
【請求項5】
製膜用のスラリ−を溶解する温度が50〜80℃であることを特徴とする請求項4に記載の中空濾膜の製造方法。
【請求項6】
前記の熱安定剤がステアリン酸バリウム、有機スズと鉛化合物から選ばれる1個〜多個であることを特徴とする請求項4に記載の中空濾膜の製造方法。
【請求項7】
前記の熱安定剤が錫メチルメルカプタンであることを特徴とする請求項6に記載の中空濾膜の製造方法。

【公表番号】特表2007−500591(P2007−500591A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522198(P2006−522198)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【国際出願番号】PCT/CN2004/000887
【国際公開番号】WO2005/014150
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(506037744)上海立昇浄水設備有限公司 (1)
【Fターム(参考)】