説明

ポリ尿素膜の形成方法及びポリ尿素膜形成装置

【課題】 化学量論組成比のモノマー組成でポリ尿素膜を作製することができるポリ尿素膜の形成方法及びポリ尿素膜形成装置を提供する。
【解決手段】 真空処理室中で原料モノマーを蒸発させて、これを基体上で重合させるようにした合成樹脂膜の形成方法であって、ジイソシアナート化合物を原料モノマーとして蒸発させ、同時に導入した水と反応させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食膜被覆等のポリ尿素膜の形成方法及びポリ尿素膜形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリ尿素膜の形成方法としては、例えば、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)のようなジイソシアナート化合物と、4,4′−ジアミノジフェニルメタン(MDA)のようなジアミン化合物を同時に蒸発させてポリ尿素膜を形成する、いわゆる蒸着合法が知られている(特許文献1、非特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−258370号公報
【非特許文献1】高橋 善和,「蒸着重合ポリ尿素膜の圧電性」,静電気学会誌 19,5(1995),p364-368
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来技術の場合、ジイソシアナート化合物と、ジアミン化合物の二種類のモノマーを同時に蒸発させてポリ尿素膜を形成するようにしているため、各モノマーの蒸発温度が異なることにより形成されるポリ尿素膜内のモノマーの組成比が、化学量論組成比とは異なったものになってしまうという問題があった。
そこで、本発明は、かかる問題点を解消し、化学量論組成比のモノマー組成でポリ尿素膜を作製することができるポリ尿素膜の形成方法及びポリ尿素膜形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者等が鋭意検討の結果、ジイソシアナート化合物と、ジアミン化合物の二種類の原料モノマーを用いずに、原料モノマーとしてジイソシアナート化合物のみを用い、このジイソシアナート化合物を蒸発させ、これを導入した水と反応させることで、化学量論組成比のモノマー組成でポリ尿素膜を作製することができることを知見し、上記課題を解決することを見出した。
本発明のポリ尿素膜の形成方法は、前記知見に基づきなされたもので、請求項1記載の通り、真空処理室中で原料モノマーを蒸発させて、これを基体上で重合させるようにした合成樹脂膜の形成方法であって、ジイソシアナート化合物を原料モノマーとして蒸発させ、同時に導入した水と反応させることを特徴とする。
また、請求項2記載のポリ尿素膜の形成方法は、請求項1記載のポリ尿素膜の形成方法において、前記水は水蒸気の状態で、前記ジイソシアナート化合物と反応させるようにしたことを特徴とする。
また、請求項3記載のポリ尿素膜の形成方法は、請求項2記載のポリ尿素膜の形成方法において、前記ジイソシアナート化合物と等モル以上の水蒸気を、前記基体の成膜面に衝突させるようにしたことを特徴とする。
また、本発明のポリ尿素膜形成装置は、請求項4記載の通り、ジイソシアナート化合物の蒸発源を少なくとも1個以上備えた真空装置において、水蒸気導入ができる構造を有することを特徴とする。
また、請求項5記載のポリ尿素膜形成装置は、請求項4記載ポリ尿素膜形成装置において、前記ジイソシアナート化合物の蒸発源は、バルブを介して前記真空装置に導入されるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、真空処理室中で原料モノマーを蒸発させて、これを基体上で重合させるようにした合成樹脂膜の形成方法において、原料モノマーとしてジイソシアナート化合物のみを用い、これを蒸発し、このジイソシアナート化合物を導入した水と反応させるようにしたことで、化学量論組成比のモノマー組成でポリ尿素膜を作製することができる。
特に、反応に用いる水として、水蒸気を用いた場合、真空層内壁面や治具に付着した毒性の強いジイソシアナート化合物も水と反応して無害化できるため、作業上の安全を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のポリ尿素膜の形成方法は、前記の通り、真空処理室中で原料モノマーを蒸発させて、これを基体上で重合させるようにした合成樹脂膜の形成方法であって、ジイソシアナート化合物を原料モノマーとして蒸発させ、同時に導入した水と反応させるようにしたものである。
ここで、ジイソシアナート化合物を蒸着すると同時に、例えば、ジイソシアナート化合物と等モル比以上の水蒸気を成膜面に衝突させると、基板表面で、化1の反応が起こり、ポリ尿素膜が生成される。
【0008】
【化1】

【0009】
前記、原料モノマーとしてのジイソシアナート化合物としては、4,4′−ジイソシアン酸メチレンジフェニル、3,3′−ジメチルジフェニル−4,4′−ジイソシアナート、o−ジアニシジンジイソシアナート、メチレンビス(4−イソシアナート−3−メチルベンゼン)、メチレンビス(4−イソシアナート−2−メチルベンゼン)、メチレンビス(o−クロロフェニルイソシアナート)、5−クロロ−2,4−トルエンジイソシアナート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)、2,4−トルエンジイソシアナート(2,4−TDI)、2,6−トルエンジイソシアナート(2,6−TDI)、3,5−ジイソシアナートベンゾトリフルオライド、ビス(4−イソシアナートフエニル)エーテル、ジシクロヘキシルメタン−4,4′−ジイソシアナート、ノルボルナンジイソシアナートメチル、p−フェニレンジイソシアナート、p−キシレンジイソシアナート、テトラメチルキシレンジイソシアナート、1,5−ナフタレンジイソシアナート、2,6−ナフタレンジイソシアナート、トランス−1,4−シクロヘキシルジイソシアナート、イソフォロンジイソシアナート1,3−ビス(イソシアナートメチル)ベンゼン等の一種または二種以上を混合して、使用することができる。
また、前記ジイソシアナート化合物と反応させる水としては、特に制限はない。
【0010】
前記成膜に当たっては、基板温度は室温程度とすることが好ましい。基板温度が高すぎると付着確率が減少するためである。
【0011】
以下、添付図面に従って、本発明の一実施の形態を説明する。
図1は、本発明の方法を実施する装置の一例を示すもので、1は真空処理室を示し、該処理室1内を外部の真空ポンプ、その他の真空排気系2に接続すると共に、該処理室1内に合成樹脂の蒸着被膜を形成せしめるべき基体3を、図略の支持ホルダを介して設置自在にした。
該処理室1内下部に該基体3に対向させて合成樹脂の原料モノマーを蒸発させるための蒸発用管4を、バルブ5を介して導き、該蒸発用管4全体をその周囲に巻回されたヒータ6によって所望温度に加熱できるようにした。
また、該処理室1の側方下部に、該処理室1内に水蒸気を導入するためのガス導入管7を、バルブ8を介して設けるようにした。
【実施例】
【0012】
ここで、上記装置によるポリ尿素被膜の形成につき、実施例を示す。
(実施例1)
蒸発用管4に原料モノマーとして、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)を充填し、蒸発用管4並びにバルブ5を夫々ヒータ6によって70℃±5℃に加熱した。次いで、真空処理室1内の雰囲気ガスの全圧を、まず、真空排気系2を介して1×10−3Paにしてから、ガス導入管7からの水蒸気を導入して該全圧を1Paに設定し、その後、バルブ5を開いて蒸発用管4から原料モノマーの蒸気を導入し、重合体を析出させ、該基体3上で重合反応を完結させながら所定の膜厚になったところで、原料モノマー蒸発用管4のバルブ5と、水蒸気ガス導入管7のバルブ8を閉じた。この時の成膜速度は、1Å/secであった。
【0013】
次に、シリコンウェーハ基体上に得られたポリ尿素膜の赤外吸収スペクトルを測定したところ、図2に示すように、1650cm−1付近に生成した尿素結合の吸収がみられ、生成した膜がポリ尿素であることを確認した。
シリコンウェーハ基体上に得られたポリ尿素膜の赤外吸収スペクトルを測定したところ、前記実施例1の場合と同様、1650cm−1付近に生成した尿素結合の吸収がみられ、生成した膜がポリ尿素であることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明方法を実施するために用いられる、本発明装置の一例の説明図
【図2】本発明方法で得られたポリ尿素膜の赤外吸収スペクトル吸収線図
【符号の説明】
【0015】
1 真空処理室
2 真空排気系
3 基体
4 蒸発用管
5 バルブ
6 ヒータ
7 ガス導入管
8 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空処理室中で原料モノマーを蒸発させて、これを基体上で重合させるようにした合成樹脂膜の形成方法であって、ジイソシアナート化合物を原料モノマーとして蒸発させ、同時に導入した水と反応させることを特徴とするポリ尿素膜の形成方法。
【請求項2】
前記水は水蒸気の状態で、前記ジイソシアナート化合物と反応させるようにしたことを特徴とする請求項1記載のポリ尿素膜の形成方法。
【請求項3】
前記ジイソシアナート化合物と等モル以上の水蒸気を、前記基体の成膜面に衝突させるようにしたことを特徴とする請求項2記載のポリ尿素膜の形成方法。
【請求項4】
ジイソシアナート化合物の蒸発源を少なくとも1個以上備えた真空装置において、水蒸気導入ができる構造を有することを特徴とするポリ尿素膜形成装置。
【請求項5】
前記ジイソシアナート化合物の蒸発源は、バルブを介して前記真空装置に導入されるようにしたことを特徴とする請求項4記載のポリ尿素膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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