説明

ポリ(アリーレンエーテル)/ポリアミド組成物

組成物は、耐衝撃性改良剤及びポリ(アリーレンエーテル)と脂肪族−芳香族ポリアミドとの相溶化ブレンドを含有する。ポリアミドは、60〜100モル%のテレフタル酸単位を含有するジカルボン酸単位及び60〜100モル%の1,9−ノナンジアミン単位及び/又は2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を含有するジアミン単位からなる。ポリアミドは、ポリアミド1g当たり45マイクロモル超のアミン末端基含量を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポリ(アリーレンエーテル)/ポリアミド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(アリーレンエーテル)/脂肪族ポリアミド組成物は多くの用途に用いられており、組成物の特性は少なくとも部分的にはポリ(アリーレンエーテル)の特性とポリアミドの特性の合わさったものである。汎用されているものの、脂肪族ポリアミドを用いる組成物には、寸法安定性が不当に低く、吸湿性が高いなどの欠点がある。ポリアミド構造を芳香族要素を含むように変更することにより物性プロファイルを改良する試みがなされている。これらの脂肪族−芳香族ポリアミドを用いた組成物は、耐熱性、寸法安定性、吸水性などの多くの物性が改良されているが、他の望ましい特性が低下している。たとえば、多くの脂肪族−芳香族ポリアミドは溶融温度が多くのポリマーの分解温度より高い。そのため、これらの脂肪族−芳香族ポリアミドを多くのポリマーとブレンドすると、ポリマーの少なくとも部分的な分解を生じざるを得ない。脂肪族−芳香族ポリアミドには溶融温度が多くのポリマーの分解温度より低いものもあるが、これらのポリアミドは通常寸法安定性がほとんどの用途に不適切であり、これらを用いたブレンドも大抵は低い寸法安定性を示す。
【0003】
さらに、ポリ(アリーレンエーテル)/ポリアミド組成物は代表的には少なくとも2つの不混和性相を有し、これらの相の性状(モルフォロジー)が組成物の物性に影響する。たとえば、ポリ(アリーレンエーテル)/ポリアミド組成物は、流れ方向の寸法安定性が非流れ方向の寸法安定性と異なることがある。しかし、複数の相のモルフォロジーは制御が困難であり、ポリアミドに応じて様々な制御方法になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、高い耐熱性、加工性、充填剤を含有しない状態で流れ方向及び非流れ方向で差のほとんどない寸法安定性、低い吸水性を併せ持つポリ(アリーレンエーテル)/脂肪族−芳香族ポリアミド組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような必要を満たす本発明の組成物は、耐衝撃性改良剤及びポリ(アリーレンエーテル)と脂肪族−芳香族ポリアミドとの相溶化ブレンドを含有する。ポリアミドは、60〜100モル%のテレフタル酸単位を含有するジカルボン酸単位及び60〜100モル%の1,9−ノナンジアミン単位及び/又は2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を含有するジアミン単位からなる。ポリアミドは、ポリアミド1g当たり45マイクロモル超のアミン末端基含量を有する。さらに組成物を物品に成形したとき、ポリ(アリーレンエーテル)がポリアミド中に粒子として分散され、そのポリ(アリーレンエーテル)粒子の平均粒子面積が0.6μm以下である。
【0006】
別の実施態様では、本発明の組成物は、耐衝撃性改良剤及びポリ(アリーレンエーテル)と脂肪族−芳香族ポリアミドとの相溶化ブレンドを含有する。脂肪族−芳香族ポリアミドは、60〜100モル%のテレフタル酸単位を含有するジカルボン酸単位及び60〜100モル%の1,9−ノナンジアミン単位及び/又は2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を含有するジアミン単位からなる。脂肪族−芳香族ポリアミドは、ポリアミド1g当たり45マイクロモル超のアミン末端基含量を有する。さらに組成物は、充填剤及び/又は強化剤を含有しない状態で、多軸衝撃損失がASTM D3763に準じて測定した多軸衝撃値を用いて計算して、0.30以下である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の組成物は、ポリ(アリーレンエーテル)と脂肪族−芳香族ポリアミドとの相溶化ブレンド及び耐衝撃性改良剤を含有する。ポリアミドはジカルボン酸単位とジアミン単位を含有する。ジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が1,9−ノナンジアミン単位及び/又は2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位である。芳香族単位と炭素数9の脂肪族単位とを組み合わせることで、溶融温度、低い吸水性及び寸法安定性の特異な組合せを有するポリアミドとなり、これをポリ(アリーレンエーテル)/ポリアミドブレンドに使用すると、優れた寸法安定性、衝撃強さ及び吸水性を有する組成物となる。しかし、驚くべきことには、相溶化ポリ(アリーレンエーテル)/脂肪族−芳香族ポリアミドブレンドのモルフォロジー制御は、相溶化ポリ(アリーレンエーテル)/脂肪族ポリアミドブレンドのモルフォロジー制御とは異なる。
【0008】
注目すべきことには、ポリ(アリーレンエーテル)相の寸法と分布が、相溶化剤の種類、ポリアミド中に存在するアミン末端基の量、そして場合によっては、相溶化方法に関係することを見出した。本発明として説明する相溶化ポリ(アリーレンエーテル)/ポリアミドブレンドは、低い熱膨張係数(CTE)で実証される良好な寸法安定性と、低い吸水性と、低温でも高い耐衝撃性を含む物性を望ましい組合せで併せ持つ。
【0009】
1実施態様では、本組成物は、充填剤及び/又は強化剤を含有しない状態で、熱膨張係数(CTE)が、ISO11359−2により測定し、23〜60℃の範囲で記録して、6x10−5mm/mm℃〜9x10−5mm/mm℃である。この範囲内で、CTEは6.2x10−5mm/mm℃以上、特に6.4x10−5mm/mm℃以上とすることができる。またこの範囲内で、CTEは8.7x10−5mm/mm℃以下、特に8.5x10−5mm/mm℃以下とすることができる。なお、耐衝撃性改良剤及びポリ(アリーレンエーテル)/脂肪族−芳香族ポリアミドを含有する組成物のCTEは、ポリ(アリーレンエーテル)/脂肪族ポリアミドを含有する対照組成物の温度範囲(23〜60℃)より広い温度範囲(15〜100℃)に渡ってほぼ一定である。実施態様によっては、流れ方向のCTE対流れ方向に垂直な方向のCTEの比が0.90〜1.10であり、特に0.95〜1.05である。
【0010】
1実施態様では、組成物は吸水値が、ASTM D570により測定して、24時間後に0.3%以下であり、さらに特定すると24時間後に0.25%以下であり、特に24時間後に0.2%以下である。
【0011】
耐衝撃性は、ASTM D256に準じるノッチ付アイゾッド(NI)衝撃試験とASTM D3763に準じる多軸衝撃試験を用いて測定することができる。1実施態様では、組成物の23℃でのNI値が、180ジュール/メートル(J/m)以上であり、さらに特定すると200J/m以上であり、特に210J/m以上である。さらに、組成物の−30℃でのNI値が、100J/m以上、さらに特定すると110J/m以上、特に120J/m以上とすることができる。
【0012】
1実施態様では、組成物の23℃での多軸衝撃値が、30ジュール(J)以上であり、さらに特定すると35J以上であり、特に40J以上である。さらに、組成物の−30℃での多軸衝撃値が、5J以上、さらに特定すると7J以上、特に10J以上とすることができる。多軸衝撃値は最大力でのエネルギーでのエネルギーである。
【0013】
1実施態様では、本組成物は、充填剤及び/又は強化剤を含有しない状態で、多軸損失が、0.30以下であり、さらに特定すると0.27以下であり、特に0.25以下である。多軸損失は、[(23℃での多軸衝撃値)−(−30℃での多軸衝撃値)]/(23℃での多軸衝撃値)により求められる。
【0014】
別の実施態様では、さらに充填剤及び/又は強化剤、特に導電性充填剤を含有する本組成物は、多軸損失が0.60以下、さらに特定すると0.67以下、特に0.55以下である。
【0015】
本発明で使用する「ポリ(アリーレンエーテル)」は、次式(I)で表される複数個の構造単位を含む。
【0016】
【化1】

各構造単位について、各Qは独立にハロゲン、第1もしくは第2低級アルキル(たとえば炭素原子数1〜7のアルキル)、フェニル、ハロアルキル、アミノアルキル、アルケニルアルキル、アルキニルアルキル、炭化水素オキシ及びハロゲン原子と酸素原子との間に2個以上の炭素原子が介在するハロ炭化水素オキシ基であり、各Qは独立に水素、ハロゲン、第1もしくは第2低級アルキル、フェニル、ハロアルキル、アミノアルキル、アルケニルアルキル、アルキニルアルキル、炭化水素オキシ及びハロゲン原子と酸素原子との間に2個以上の炭素原子が介在するハロ炭化水素オキシ基である。ある実施態様では、各Qが独立にアルキル又はフェニル、たとえばC1−4アルキル基であり、各Qが独立に水素又はメチルである。ポリ(アリーレンエーテル)は、1個もしくは複数のアミノアルキル含有末端基を、代表的にはヒドロキシ基に対してオルト位に有する分子を含んでもよい。また、しばしば、4−ヒドロキシビフェニル末端基も存在し、これらの基は代表的にはジフェノキノン副生物が存在する反応混合物から得られる。
【0017】
ポリ(アリーレンエーテル)は、ホモポリマー、共重合体、グラフト共重合体、アイオノマー、ブロック共重合体(たとえばアリーレンエーテル単位とアルケニル芳香族化合物から誘導されたブロックを含むブロック共重合体)、並びにこれらのうち少なくとも1つを含む組合せの形態をとることができる。ポリ(アリーレンエーテル)には、2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル単位を、所望に応じて2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル単位と組み合わせて、含有するポリフェニレンエーテルがある。
【0018】
ポリ(アリーレンエーテル)は、2,6−キシレノール及び/又は2,3,6−トリメチルフェノールのようなモノヒドロキシ芳香族化合物の酸化カップリングにより製造することができる。通常このようなカップリングには触媒系を使用する。触媒系は、重金属化合物、たとえば銅、マンガンもしくはコバルト化合物を、通常種々の他の材料、たとえば二級アミン、三級アミン、ハロゲン化物もしくはこれらのうち2つ以上の組合せと組み合わせて含有することができる。
【0019】
ポリ(アリーレンエーテル)は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)で測定して、数平均分子量が3,000〜40,000原子質量単位(amu)、重量平均分子量が5,000〜80,000amuとすることができる。ポリ(アリーレンエーテル)は、固有粘度が、クロロホルム中25℃で測定して、0.10〜0.60デシリットル/グラム(dl/g)、さらに特定すると0.29〜0.48dl/gとすることができる。高固有粘度のポリ(アリーレンエーテル)と低固有粘度のポリ(アリーレンエーテル)との組合せを用いることもできる。2つの固有粘度のポリ(アリーレンエーテル)を使用する場合、両者の比の決定は、使用するポリ(アリーレンエーテル)の正確な固有粘度と望ましい最終的な物性とにある程度依存する。
【0020】
本組成物はポリ(アリーレンエーテル)を、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリアミド及び耐衝撃性改良剤の合計重量に基づいて10重量%〜70重量%の量含有することができる。この範囲内で、ポリ(アリーレンエーテル)の量は15重量%以上、さらに特定すると20重量%以上とすることができる。またこの範囲内で、ポリ(アリーレンエーテル)の量は65重量%以下、さらに特定すると60重量%以下とすることができる。
【0021】
脂肪族−芳香族ポリアミドは、1種以上のジカルボン酸から誘導された単位と、1種以上のジアミンから誘導された単位とを含む。ジカルボン酸単位の(ジカルボン酸単位の全モル数に基づいて)60〜100モル%がテレフタル酸から誘導される。この範囲内で、テレフタル酸単位の量は75モル%以上、さらに特定すると90モル%以上とすることができる。ポリアミドは9Tと表示することもある。
【0022】
テレフタル酸単位のほかに使用できる他のジカルボン酸単位の例には、脂肪族ジカルボン酸、たとえばマロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸及びスベリン酸;脂環式ジカルボン酸、たとえば1,3−シクロペンタンジカルボン酸及び1,4−シクロヘキサンジカルボン酸;並びに芳香族ジカルボン酸、たとえばイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシ二酢酸、1,3−フェニレンジオキシ二酢酸、ジフェン酸、4,4’−オキシ二安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸及び4,4’−ビフェニルジカルボン酸から誘導された単位が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上の組合せで用いてもよい。1実施態様では、ジカルボン酸単位中の他のジカルボン酸単位の含量が、25モル%以下、さらに特定すると10モル%以下である。多官能化カルボン酸、たとえばトリメリト酸、トリメシン酸及びピロメリト酸から誘導された単位も、組成物の溶融成形が依然として可能である範囲で、導入することができる。
【0023】
脂肪族−芳香族ポリアミドは、1種以上のジアミンから誘導された単位を含む。ジアミン単位の(ジアミン単位の全モル数に基づいて)60〜100モル%が1,9−ノナンジアミン単位及び/又は2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位から誘導される。この範囲内で、1,9−ノナンジアミン単位及び/又は2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位の量は75モル%以上、さらに特定すると90モル%以上とすることができる。
【0024】
1,9−ノナンジアミン単位対2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位のモル比は、100:0〜20:80、さらに特定すると100:0〜50:50、特に100:0〜50:40とすることができる。これをN/I比と呼ぶことができる。
【0025】
1,9−ノナンジアミン単位及び/又は2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位の外に使用できる他のジアミン単位の例には、直鎖状脂肪族ジアミン、たとえば1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン及び1,12−ドデカンジアミン;分岐状脂肪族ジアミン、たとえば2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン及び5−メチル−1,9−ノナンジアミン;脂環式ジアミン、たとえばシクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルナンジメチルアミン及びトリシクロデカンジメチルアミン;並びに芳香族ジアミン、たとえばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテルから誘導された単位が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上の組合せで用いてもよい。1実施態様では、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン及び/又は1,12−ドデカンジアミンから誘導された単位を1,9−ノナンジアミン単位及び/又は2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位と組み合わせる。
【0026】
脂肪族−芳香族ポリアミドは、既知の結晶性ポリアミドの製造方法により製造することができる。たとえば、酸塩化物及びジアミンを原料として使用する溶液重合もしくは界面重合により、或いはジカルボン酸及びジアミンを原料として使用する溶融重合、固相重合もしくは溶融押出重合により製造することができる。
【0027】
脂肪族−芳香族ポリアミドの固有粘度は、濃硫酸中30℃で測定して、0.4〜3.0dl/g、さらに特定すると0.5〜2.0dl/g、特に0.6〜1.8dl/gとすることができる。
【0028】
脂肪族−芳香族ポリアミドの溶融粘度は、細管粘度測定法で測定して、剪断速度1000s−1及び温度330℃で300〜3500ポアズ(p)とすることができる。この範囲内で、溶融粘度は325p以上、特に350p以上とすることができる。またこの範囲内で、溶融粘度は3300p以下、特に3100p以下とすることができる。
【0029】
脂肪族−芳香族ポリアミドは、アミン末端基含量がポリアミド1g当たり45マイクロモル以上、さらに特定するとポリアミド1g当たり50マイクロモル以上、特にポリアミド1g当たり55マイクロモル以上である。アミン末端基含量を求めるには、所望に応じて加熱しながら、ポリアミドを適当な溶剤に溶解する。ポリアミド溶液を、適当な指示法を用いて、0.01N塩酸(HCl)溶液で滴定する。サンプルに添加したHCl溶液の容量、ブランクに対して使用したHClの容量、HCl溶液のモル濃度及びポリアミドサンプルの重量に基づいて、アミン末端基の量を計算する。
【0030】
相溶化ブレンドは、上記以外に、脂肪族ポリアミド、たとえばナイロン6、6/6、6/69、6/10、6/12、11、12、4/6、6/3、7、8、6T、変性6T、ポリフタルアミド(PPA)、及びこれらの2つ以上の組合せを含有してもよい。
【0031】
本組成物は、脂肪族−芳香族ポリアミドを、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリアミド及び耐衝撃性改良剤の合計重量に基づいて、5重量%〜80重量%の量含有することができる。この範囲内で、脂肪族−芳香族ポリアミドの量は10重量%以上、特に15重量%以上とすることができる。またこの範囲内で、脂肪族−芳香族ポリアミドの量は70重量%以下、特に60重量%以下とすることができる。
【0032】
相溶化されたポリ(アリーレンエーテル)/脂肪族−芳香族ポリアミドブレンドは、相溶化剤を用いて形成する。ここで用いる用語「相溶化剤」は、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリアミド樹脂又は両方と相互作用する多官能性化合物を指す。この相互作用は化学的(たとえばグラフト化)でも、物理的(たとえば分散相の表面特性に影響する)でも、その両方でもよい。いずれの場合にも、得られる相溶化されたポリ(アリーレンエーテル)/ポリアミド組成物は、特に衝撃強度、金型ニットライン強度及び/又は伸びの上昇で実証されるように、優れた相溶性を示すようである。ここで用いる表記「相溶化ポリ(アリーレンエーテル)/脂肪族−芳香族ポリアミドブレンド」は、相溶化剤で物理的及び/又は化学的に相溶化された組成物を指す。
【0033】
相溶化剤は、2種類のうちいずれかである多官能性化合物を含む。第1のタイプは分子中に(a)炭素−炭素二重結合と、(b)少なくとも1つのカルボン酸、無水物、エポキシ、イミド、アミド、エステル基もしくはその官能性等価物との両方を有する。このような多官能性化合物の例には、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、マレイン酸ヒドラジド、ジクロロマレイン酸無水物、及び不飽和ジカルボン酸(たとえばアクリル酸、ブテン酸、メタクリル酸、t−エチルアクリル酸、ペンテン酸)がある。1実施態様では、相溶化剤は無水マレイン酸及び/又はフマル酸を含有する。
【0034】
第2のタイプの多官能性相溶化剤化合物は、(a)式OR(式中のRは水素又はアルキル、アリール、アシルもしくはカルボニルジオキシ基である)で表される基と、(b)カルボン酸、酸ハライド、無水物、酸ハライド無水物、エステル、オルトエステル、アミド、イミド、アミノ及びそれらの塩から選ばれる同じでも異なってもよい少なくとも2つの基との両方を有することを特徴とする。このタイプの相溶化剤としては、脂肪族ポリカルボン酸、酸エステル及び次式で表される酸アミドが代表的である。
【0035】
(RO)R(COORII(CONRIIIIV
式中のRは炭素原子数2〜20、特に炭素原子数2〜10の直鎖もしくは分岐鎖飽和脂肪族炭化水素基であり、Rは水素又は炭素原子数1〜10、さらに特定すると炭素原子数1〜6、特に炭素原子数 1〜4のアルキル、アリール、アシルもしくはカルボニルジオキシ基であり、各RIIは独立に水素又は炭素原子数1〜20、特に炭素原子数1〜10のアルキルもしくはアリール基であり、RIII及びRIVはそれぞれ独立に水素又は炭素原子数1〜10、さらに特定すると炭素原子数1〜6、特に炭素原子数1〜4のアルキルもしくはアリール基であり、mは1に等しく、(n+s)は2以上、特に2又は3に等しく、n及びsはそれぞれ0以上であり、(OR)はカルボニル基に対してアルファ又はベータであり、少なくとも2つのカルボニル基の間に2〜6個の炭素原子が介在する。各置換基が炭素原子数6未満であるとき、R、RII、RIII及びRIVはアリールとはならないことが明らかである。
【0036】
適当なポリカルボン酸の例には、たとえば無水物及び水和酸のような種々の市販形態のものを含めたクエン酸、リンゴ酸、アガリシン酸など、及びこれらの1つ以上を含む組合せがある。1実施態様では、相溶化剤はクエン酸を含有する。ここで有用なエステルの具体例には、たとえばクエン酸アセチル及びクエン酸モノ及び/又はジ−ステアリルなどがある。ここで有用なアミドには、たとえばN,N’−ジエチルクエン酸アミド、N−フェニルクエン酸アミド、N−ドデシルクエン酸アミド;N,N’−ジドデシルクエン酸アミド及びN−ドデシルリンゴ酸などがある。誘導体には、上記のものの塩、具体的にはアミンとの塩やアルカリ金属及びアルカリ土類金属塩がある。適当な塩の例には、リンゴ酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リンゴ酸カリウム及びクエン酸カリウムがある。
【0037】
上記相溶化剤は、溶融ブレンドに直接添加しても、ポリ(アリーレンエーテル)及びポリアミドいずれかもしくは両方と予備反応させてもよい。1実施態様では、相溶化剤の少なくとも一部を、溶融状態又は適当な溶剤の溶液にて、ポリ(アリーレンエーテル)の全部又は一部と予備反応させる。このような予備反応によって、相溶化剤がポリマーと反応し、その結果としてポリ(アリーレンエーテル)を官能化することが可能になると考えられる。たとえば、ポリ(アリーレンエーテル)を無水マレイン酸、フマル酸及び/又はクエン酸と予備反応させて、無水物及び/又は酸で官能化されたポリフェニレンエーテルを形成することができ、この官能化ポリフェニレンエーテルは、非官能化ポリフェニレンエーテルと比較して、ポリアミドとの相溶性に優れている。
【0038】
相溶化剤の使用量は、選択した特定の相溶化剤及び相溶化剤を添加する特定のポリマー系に依存する。
【0039】
1実施態様では、相溶化剤を、ポリ(アリーレンエーテル)、脂肪族−芳香族ポリアミド及び耐衝撃性改良剤の合計重量に基づいて、0.05〜2.0重量%の量使用する。この範囲内で、相溶化剤の量は0.1重量%以上、特に0.2重量%以上とすることができる。またこの範囲内で、相溶化剤の量は1.75重量%以下、特に1.5重量%以下とすることができる。
【0040】
本発明の組成物はさらに耐衝撃性改良剤を含有する。有用な耐衝撃性改良剤には、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとのブロック共重合体、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素添加ブロック共重合体、官能化ポリオレフィンエラストマー及びこれらの2つ以上の組合せがある。
【0041】
ブロック共重合体は、(A)アルケニル芳香族化合物から誘導された少なくとも1つのブロックと(B)共役ジエンから誘導された少なくとも1つのブロックとを含む共重合体である。水素添加ブロック共重合体は、ブロック(B)中の脂肪族不飽和基含量を水素添加により低減した共重合体である。ブロック(A)及び(B)の配列には、直鎖構造及び分岐鎖を有する所謂ラジアルテレブロック構造がある。
【0042】
このような構造の例には、二ブロック(A−Bブロック)、三ブロック(A−B−Aブロック又はB−A−Bブロック)、四ブロック(A−B−A−Bブロック)及び五ブロック(A−B−A−B−Aブロック又はB−A−B−A−Bブロック)構造を含む線状構造並びにA及びBを合計6ブロック以上含有する線状構造がある。1実施態様では、構造は二ブロック、三ブロック、四ブロック構造又はこれらの組合せであり、さらに特定するとA−B二ブロック、A−B−A三ブロック構造又はこれらの組合せである。
【0043】
ブロック(A)を与えるアルケニル芳香族化合物は次式で表される。
【0044】
【化2】

式中のR及びRはそれぞれ独立に水素原子、C−Cアルキル基、C−Cアルケニル基などを示し、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、C−Cアルキル基、塩素原子、臭素原子などを示し、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、C−Cアルキル基、C−Cアルケニル基などを示し、又はR及びRは一緒に中心の芳香環と結合してナフチル基を形成するか、R及びRは一緒に中心の芳香環と結合してナフチル基を形成する。
【0045】
アルケニル芳香族化合物の具体例には、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルキシレン類、ビニルトルエン類、ビニルナフタレン類、ジビニルベンゼン類、ブロモスチレン類、クロロスチレン類など、及びこれらのアルケニル芳香族化合物の少なくとも1つを含む組合せがある。1実施態様では、アルケニル芳香族化合物は、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン類及びビニルキシレン類から選ばれる。別の実施態様では、アルケニル芳香族化合物はスチレンである。
【0046】
共役ジエンの具体例には、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどがある。
【0047】
共役ジエンに加えて、水素添加ブロック共重合体は、小割合の低級オレフィン炭化水素、たとえばエチレン、プロピレン、1−ブテン、ジシクロペンタジエン、非共役ジエンなどを含有してもよい。
【0048】
ブロック共重合体中のアルケニル芳香族化合物から誘導される繰り返し単位の含量は特に限定されない。適当なアルケニル芳香族含量は、ブロック共重合体の全重量に基づいて10〜90重量%とすることができる。この範囲内で、アルケニル芳香族含量は40重量%以上、さらに特定すると50重量%以上、特に55重量%以上とすることができる。またこの範囲内で、アルケニル芳香族含量は85重量%以下、特に75重量%以下とすることができる。
【0049】
水素添加ブロック共重合体主鎖に共役ジエンを導入する方法は特に限定されない。たとえば、共役ジエンが1,3−ブタジエンである場合、これを1%〜99%1,2−結合で導入し、残りが1,4−結合とすることができる。
【0050】
水素添加ブロック共重合体の水素添加は、共役ジエンから誘導された脂肪族鎖部分中の不飽和結合の50%未満、さらに特定すると20%未満、特に10%未満が非還元状態で残るような程度とすることができる。アルケニル芳香族化合物から誘導された芳香族不飽和結合の水素添加度を25%以下とすることができる。
【0051】
水素添加ブロック共重合体は、数平均分子量が、GPCによりポリスチレン標準を用いて測定して、5,000〜500,000AMUとすることができる。この範囲内で、数平均分子量が10,000AMU以上、さらに特定すると30,000AMU以上、特に45,000AMU以上とすることができる。またこの範囲内で、数平均分子量が300,000AMU以下、さらに特定すると200,000AMU以下、特に150,000AMU以下とすることができる。
【0052】
水素添加ブロック共重合体のGPCで測定した分子量分布は、特に限定されない。共重合体は、重量平均分子量/数平均分子量の比がどのような値でもよい。
【0053】
水素添加ブロック共重合体の例には、スチレン−ブタジエン及びスチレン−ブタジエン−スチレン三ブロック共重合体を水素添加することにより得たスチレン−(エチレン−ブチレン)二ブロック及びスチレン−(エチレン−ブチレン)−スチレン三ブロック共重合体がある。
【0054】
適当な水素添加ブロック共重合体としては、市販品、たとえばKRATON(登録商標)G1650、G1651及びG1652(Kraton Polymers社(以前はシェルケミカル社の1事業部)製)及びTUFTEC(登録商標)H1041、H1043、H1052、H1062、H1141及びH1272(旭化成製)などがある。
【0055】
非水素添加ブロック共重合体の例には、ポリスチレン−ポリブタジエン、ポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)、ポリスチレン−ポリイソプレン、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリブタジエン、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン(SBS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)−ポリスチレン、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン及びポリ(α−メチルスチレン)−ポリブタジエン−ポリ(α−メチルスチレン)並びにこれらの組合せがある。
【0056】
適当な非水素添加ブロック共重合体としては、多数の供給元からの市販品、たとえば登録商標SOLPRENE(Phillips Petroleum社製)、登録商標KRATON(Shell Chemical社製)、登録商標VECTOR(Dexco社製)、登録商標SEPTON(クラレ社製)などがある。
【0057】
他の有用な耐衝撃性改良剤としては、カルボン酸基、エステル、酸無水物、エポキシ基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、イソシアネート基、シラノール基、カルボキシレート、及びこれらの官能基の2つ以上の組合せよりなる群から選ばれる1つ以上の官能基を含有する官能化ポリオレフィンエラストマーがある。ポリオレフィンエラストマーは、ポリアミドと混和性のポリオレフィンであり、線状ランダム共重合体、線状ブロック共重合体及びシェルがポリアミドと混和性で、ポリアミドと反応性の官能基を含むコア/シェル型共重合体を含む。ポリオレフィンの例には、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体又はエチレン−プロピレン−ジエン三元重合体がある。官能基を有する単量体をポリオレフィンにグラフト重合しても、ポリオレフィン単量体と共重合してもよい。1実施態様では、ポリオレフィンエラストマーの構造単位が、エチレンと少なくとも1種のC3−8オレフィン、たとえばプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン及び1−オクテンとから誘導される。
【0058】
適当な官能化ポリオレフィンエラストマーが、たとえばDuPontから登録商標ELVALOYにて市販されているものを始めとして多数の供給元から入手できる。
【0059】
耐衝撃性改良剤の種類又は複数種の耐衝撃性改良剤の組合せの選択は、少なくとも部分的に、ポリアミドの溶融温度及び耐衝撃性改良剤の温度プロファイルに依存する。
【0060】
本組成物は、耐衝撃性改良剤を、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリアミド及び耐衝撃性改良剤の合計重量に基づいて3〜30重量%の量含有することができる。この範囲内で、耐衝撃性改良剤の量は4重量%以上、特に5重量%以上とすることができる。またこの範囲内で、耐衝撃性改良剤の量は25重量%以下、特に20重量%以下とすることができる。
【0061】
本組成物は、溶融混合により、或いは乾式ブレンドと溶融混合との組合せにより製造することができる。溶融混合は、単軸もしくは二軸押出機又は配合成分に剪断力を加えることのできる同様の混合装置で行うことができる。
【0062】
成分すべてを最初に加工システムに添加することができる。1実施態様では、ポリ(アリーレンエーテル)、所望に応じて他の成分、たとえば耐衝撃性改良剤及び所望に応じてポリアミドの一部を相溶化剤と予備配合することができる。実施態様によっては、予備配合した成分をペレット化した後、組成物の残りの成分と混合してもよい。ポリアミドを2部分に分けて添加する場合、ポリアミドの残りの部分は最初の成分を混合し終わってから、添加する。押出機を用いる場合、ポリアミドの第2部分を下流の供給口から供給してもよい。このような加工プロセスに複数の別々の押出機を用いてもよいが、種々の成分の添加に対処できるように長さに沿って複数の供給口を有する単一押出機で調製する方がプロセスが簡単になる。多くの場合、押出機の1個又は複数のガス抜き口から溶融物に減圧をかけて組成物中の揮発性不純物を除去するのが有利である。充填剤や強化剤のような添加剤を含有する実施態様では、添加剤を組成物の他の成分にマスターバッチの一部として導入するのが有利なことがある。たとえば、導電性充填剤をポリアミドと溶融混合して導電性マスターバッチを形成し、この導電性マスターバッチを残りの成分に、通常押出機の供給スロートより下流で、添加するのがしばしば有用である。
【0063】
押出機から出てきた組成物をペレット化するのが代表的で、その後これらのペレットを、射出成形、圧縮成形、吹込成形、異形押出などの低剪断もしくは高剪断成形プロセスを用いて物品に成形することができる。低剪断もしくは高剪断成形プロセスを用いて成形した後、ポリ(アリーレンエーテル)粒子は、平均粒子面積が0.6平方ミクロン(μm)以下、さらに特定すると0.5μm以下、特に0.4μm以下である。このモルフォロジーはペレット中に存在してもしなくてもよい。
【0064】
1実施態様では、組成物は成形後に、ポリ(アリーレンエーテル)粒子がポリアミド中に分散している状態にあり、ポリ(アリーレンエーテル)粒子の99%以上が1.5μm以下の粒子面積を有する。
【0065】
粒子面積は透過電子顕微鏡法により求める。組成物を溶融温度305℃、金型温度120℃にてASTM引張試験バーに射出成形する。バーの中央部から2mmx2mmのサンプルを切り出し、ウルトラミクロトームを用いてサンプルから厚さ100nmの切片を作製する。切片の厚さではなく、長さ又は高さが流れ方向に平行になるように、切片を切り出す。図1に1つの切片を示す。長さ5が流れ方向10に平行である。切片を調製したての酸化ルテニウム溶液で30秒間蒸気染色する。図2を参照すると、明るい灰色区域(たとえば15)はポリアミドに対応し、暗い区域(たとえば20)はポリ(アリーレンエーテル)に対応する。イメージを目盛バーに対して検量し、またコントラストを強めることによりポリ(アリーレンエーテル)粒子の輪郭をもっとはっきり描く。つぎに適当な画像解析ソフトウェア、たとえばClemex Vision PEで粒径分布を解析して平均粒子面積を求める。
【0066】
本組成物はさらに、酸化防止剤、難燃剤、滴下防止剤、染料、顔料、着色剤、安定剤、微粒子無機物(たとえばクレー、マイカ、タルク)、強化剤(たとえばチョップトガラス、ガラス繊維)、導電性充填剤(たとえば導電性のカーボンブラック、炭素フィブリル、炭素繊維及びカーボンナノチューブ)、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、発泡剤及びこれらの混合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤を有効量含有することができる。これらの添加剤は、その有効レベル及び導入方法ともども、当業界で周知である。添加剤の有効量は広い範囲に及ぶが、通常添加剤は全組成物の重量に基づいて50重量%までもしくはそれ以上の量存在する。ヒンダードフェノール、チオ化合物及び種々の脂肪酸から誘導されたアミドなど何種類かの添加剤は、通常、組成物の全重量に基づいて2重量%の合計量で存在する。
【0067】
難燃剤の例としては、ハロゲン化難燃剤;環状ホスフェートを含む有機ホスフェート類;リン−窒素結合を有する化合物、たとえば窒化塩化リン、リンエステルアミド;リン酸アミド、ホスホン酸アミド、ホスフィン酸アミド、トリス(アジリジニル)ホスフィンオキシド;テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド;モノ−、ジ−及びポリマー状ホスフィネート、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、赤リン;メラミンポリリン酸;リン酸メレム、リン酸メラム;メラミンピロ燐酸;メラミン;シアヌール酸メラミン;亜鉛化合物、たとえばホウ酸亜鉛;及びこれらの少なくとも1つを含む組合せがある。難燃剤の使用量は代表的には、アンダーライター実験室規格94「プラスチックス燃焼試験、UL−94」のような所定の難燃性基準に合格するのに十分な難燃性を組成物に与えるのに十分な量である。適切な難燃性基準は最終用途によって決めればよい。
【0068】
以下に実施例を示して本発明の種々の実施態様を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0069】
以下の実施例は、表1に示す材料を用いて製造した。これらの実施例は1重量%未満の安定剤及び酸化防止剤も含有する。表2及び表3に示す量は重量%である。実施例で用いる重量%は組成物の全重量に基づいて計算した。
【0070】
【表1】

実施例の衝撃強度を、ASTM D256(ノッチ付アイゾッド衝撃NI)及びASTM D3763(多軸衝撃MAI)の試験法により23℃及び−30℃で測定した。ノッチ付アイゾッド衝撃値はジュール/メートル(J/m)で表示する。多軸衝撃値はジュール(J)で表示する。PA9Tの溶融粘度を細管粘度計により測定した。多軸衝撃損失は、[(23℃での多軸衝撃値)−(−30℃での多軸衝撃値)]/(23℃での多軸衝撃値)により求めた。吸湿率及び熱膨張係数(CTE)は上述した通りに求めた。CTE値はmm/mm℃で表示し、吸湿率は%で表示する。平均粒子面積は上述した通りに求めた。透過電子顕微鏡法又は走査電子顕微鏡法を用いて、相が分散しているか互いに連続であるか調べた。
実施例1〜15
表2に示すようにポリ(アリーレンエーテル)、耐衝撃性改良剤及びクエン酸、フマル酸又は無水マレイン酸を、30mmWerner−Pfleider二軸押出機の供給スロートに添加し、スクリュー速度350rpm、供給速度13.6kg/時、温度305℃で溶融混合した。ポリアミドを下流で添加した。材料をペレット化し、ペレットを射出成形することにより成形し、ノッチ付アイゾッド衝撃強度及び多軸衝撃強度について試験した。モルフォロジーを電子顕微鏡で調べ、ポリ(アリーレンエーテル)相とポリアミド相との関係(相互連続又は分散)に関して視覚で判定し、またポリ(アリーレンエーテル)の粒径を求めた。処方と結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

実施例1〜3から、ある範囲の相溶化剤を用いることにより、相溶化ポリ(アリーレンエーテル)/脂肪族ポリアミドブレンドを含有し、良好な物性と小さなポリ(アリーレンエーテル)粒径を有する組成物を製造できること、そして相溶化剤の種類は組成物のモルフォロジー及び物性にほとんど影響しないことが分かる。
【0072】
実施例4〜6から、アミン末端基含量の低い脂肪族−芳香族ポリアミドを用いて作製した組成物は物性に劣ることが分かる。これらの組成物では、射出成形による成形後に、層剥離が見られた。
【0073】
実施例7〜10は高溶融粘度の脂肪族−芳香族ポリアミドを用いる。詳しくは、実施例7及び9は相溶化剤としてクエン酸を用い、相互に連続したモルフォロジーを有し、一方実施例8及び10は相溶化剤としてフマル酸を用い、分散したモルフォロジーを有する。モルフォロジーの重要性が衝撃データ、特に低温衝撃データから明らかであり、そこではフマル酸相溶化例の衝撃強度がクエン酸相溶化例のそれより少なくとも30%高くなっている。さらに、フマル酸相溶化例の多軸衝撃損失は、クエン酸相溶化例の多軸衝撃損失より著しく低い。
【0074】
実施例11〜15は低溶融粘度の脂肪族−芳香族ポリアミドを用いる。異なる相溶化剤を用いる例の間で多軸衝撃損失を比較すると、相溶化剤の選択が多軸衝撃損失に有意な影響を持ち、多軸衝撃損失を50%以上減少させるおそれがあることが分かる。脂肪族ポリアミドを用いて製造した実施例1〜3では同じような現象が見られないので、このことは驚くべきことである。
【0075】
相溶化剤、モルフォロジー及び物性の相互依存性は、実施例11と実施例12との比較で、さらにはっきりする。実施例11は相溶化剤としてクエン酸を用い、一方実施例12はフマル酸を用いる。実施例11のモルフォロジーは、図3及び図4の透過電子顕微鏡写真で示される。図4は図3の顕微鏡写真を画像解析したものである。実施例12のモルフォロジーは、図5及び図6の透過電子顕微鏡写真で示される。図6は図5の顕微鏡写真を画像解析したものである。図4及び図6の画像解析の要約を表3に示す。粒子面積はすべてμmで表示する。分析した総面積は77.9μmであった。図7は実施例11の粒子面積分布を示すグラフである。図8は実施例12の粒子面積分布を示すグラフである。
【0076】
【表3】

実施例11は平均粒子面積が0.6μmより大きく、多軸衝撃損失が、平均粒子面積が0.6μmより小さい実施例12の多軸衝撃損失の2倍より大きい。その上、実施例12の粒子の99%以上が粒子面積1.5μm以下である。
実施例16
実施例11の処方を用いて組成物を製造したが、本例ではポリ(アリーレンエーテル)をクエン酸と溶融混合して変性ポリ(アリーレンエーテル)を生成し、ついでペレット化した。その後、ペレット化した変性ポリ(アリーレンエーテル)を供給スロートに残りの成分とともに添加し、溶融混合した。射出成形した試料のモルフォロジーを調べたところ、ポリ(アリーレンエーテル)粒子の粒径が著しく小さくなり、粒子の99%超が粒子面積1.5μm以下であることが分かった。
実施例17〜20
表4に示すようにポリ(アリーレンエーテル)、耐衝撃性改良剤及びクエン酸又はフマル酸を、28mmWerner−Pfleider二軸押出機の供給スロートに添加し、スクリュー速度300rpm、供給速度10kg/時、温度310℃で溶融混合した。この押出機には2つの下流供給位置があった。ポリアミドを押出機に第1の下流位置で添加し、1.8重量%の導電性カーボンブラックを第2の下流供給位置で添加した。材料をペレット化し、ペレットを射出成形することにより成形し、ノッチ付アイゾッド衝撃強度及び多軸衝撃強度について試験した。結果を表4に示す。
【0077】
【表4】

実施例19及び20をそれぞれ実施例17及び18と比較すると、ポリ(アリーレンエーテル)/脂肪族−芳香族ポリアミドの相溶化ブレンド及び導電性充填剤を含有する組成物の多軸衝撃損失が、ポリ(アリーレンエーテル)/脂肪族ポリアミドの相溶化ブレンドを含有する対応する組成物より少ないことが分かる。
【0078】
以上、本発明を種々の実施態様について説明したが、本発明の要旨から逸脱することなく、実施態様に種々の変更を加えたり、本発明の構成要素を均等物に置き換えたりできることが当業者に明らかである。さらに、本発明の要旨から逸脱することなく、特定の状況や材料を本発明の教示に適合させるよう種々の変更を加えることができる。したがって、本発明は、発明を実施するための最良の形態として開示した特定の実施態様に限定されず、本発明の要旨の範囲内に入るすべての実施態様を包含する。
【0079】
列挙した特許はすべて本発明の先行技術としてここに援用する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】透過電子顕微鏡観察用の切片の線図である。
【図2】ポリ(アリーレンエーテル)及び脂肪族−芳香族ポリアミドの相溶化ブレンドを含有する組成物の透過電子顕微鏡写真である。
【図3】ポリ(アリーレンエーテル)及び脂肪族−芳香族ポリアミドの相溶化ブレンドを含有する組成物の透過電子顕微鏡写真である。
【図4】ポリ(アリーレンエーテル)及び脂肪族−芳香族ポリアミドの相溶化ブレンドを含有する組成物の透過電子顕微鏡写真である。
【図5】ポリ(アリーレンエーテル)及び脂肪族−芳香族ポリアミドの相溶化ブレンドを含有する組成物の透過電子顕微鏡写真である。
【図6】ポリ(アリーレンエーテル)及び脂肪族−芳香族ポリアミドの相溶化ブレンドを含有する組成物の透過電子顕微鏡写真である。
【図7】粒子面積分布を示すグラフである。
【図8】粒子面積分布を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐衝撃性改良剤及びポリ(アリーレンエーテル)と脂肪族−芳香族ポリアミドとの相溶化ブレンドを含有する組成物であって、
前記脂肪族−芳香族ポリアミドは、60〜100モル%のテレフタル酸単位を含有するジカルボン酸単位及び60〜100モル%の1,9−ノナンジアミン単位及び/又は2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を含有するジアミン単位からなり、ポリアミド1g当たり45マイクロモル超のアミン末端基含量を有し、さらに組成物を成形したとき、ポリ(アリーレンエーテル)がポリアミド中に粒子として分散され、そのポリ(アリーレンエーテル)粒子の平均粒子面積が0.6μm以下である、
組成物。
【請求項2】
耐衝撃性改良剤及びポリ(アリーレンエーテル)と脂肪族−芳香族ポリアミドとの相溶化ブレンドを含有する組成物であって、
前記脂肪族−芳香族ポリアミドは、60〜100モル%のテレフタル酸単位を含有するジカルボン酸単位及び60〜100モル%の1,9−ノナンジアミン単位及び/又は2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を含有するジアミン単位からなり、ポリアミド1g当たり45マイクロモル超のアミン末端基含量を有し、さらに組成物は、充填剤及び/又は強化剤を含有しない状態で、多軸衝撃損失がASTM D3763に準じて測定した多軸衝撃値を用いて計算して、0.30以下である、
組成物。
【請求項3】
耐衝撃性改良剤及びポリ(アリーレンエーテル)と脂肪族−芳香族ポリアミドとの相溶化ブレンドを含有する組成物であって、
前記脂肪族−芳香族ポリアミドは、60〜100モル%のテレフタル酸単位を含有するジカルボン酸単位及び60〜100モル%の1,9−ノナンジアミン単位及び/又は2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を含有するジアミン単位からなり、ポリアミド1g当たり45マイクロモル超のアミン末端基含量を有する、
組成物。
【請求項4】
ポリ(アリーレンエーテル)、脂肪族−芳香族ポリアミド及び耐衝撃性改良剤の合計重量に基づいて、ポリ(アリーレンエーテル)が10〜70重量%の量、脂肪族−芳香族ポリアミドが5〜80重量%の量、耐衝撃性改良剤が3〜30重量%の量存在する、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
ポリ(アリーレンエーテル)と脂肪族−芳香族ポリアミドとの相溶化ブレンドがさらに脂肪族ポリアミドを含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
ポリ(アリーレンエーテル)と脂肪族−芳香族ポリアミドとの相溶化ブレンドが、ポリ(アリーレンエーテル)、脂肪族−芳香族ポリアミド及び相溶化剤の反応生成物であり、前記相溶化剤は、炭素−炭素二重結合と少なくとも1つのカルボン酸、無水物、エポキシ、イミド、アミド、エステル基もしくはその官能性等価物との両方を有する多官能性化合物、式OR(式中のRは水素又はアルキル、アリール、アシルもしくはカルボニルジオキシ基である)で表される基と、カルボン酸、酸ハライド、無水物、酸ハライド無水物、エステル、オルトエステル、アミド、イミド、アミノ及びそれらの塩から選ばれる同じでも異なってもよい少なくとも2つの基との両方を有する多官能性化合物、及びこれらの多官能性化合物の2つ以上の組合せから選ばれる、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記相溶化剤がクエン酸、フマル酸、無水マレイン酸又はこれらの2つ以上の組合せを含有する、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
耐衝撃性改良剤が、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとのブロック共重合体、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素添加ブロック共重合体、官能化ポリオレフィンエラストマー又はこれらの2つ以上の組合せを含有する、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
さらに、酸化防止剤、難燃剤、滴下防止剤、染料、顔料、着色剤、安定剤、微粒子無機物、強化剤、導電性充填剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、発泡剤又はこれらの2つ以上を含む混合物を含有する、請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
アミン末端基含量が50マイクロモル以上である、請求項1〜9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
ポリ(アリーレンエーテル)粒子の平均粒子面積が0.5μm以下である、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
ポリ(アリーレンエーテル)粒子の平均粒子面積が0.4μm以下である、請求項1〜11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
耐衝撃性改良剤、導電性充填剤及びポリ(アリーレンエーテル)と脂肪族−芳香族ポリアミドとの相溶化ブレンドを含有する組成物であって、
前記脂肪族−芳香族ポリアミドは、60〜100モル%のテレフタル酸単位を含有するジカルボン酸単位及び60〜100モル%の1,9−ノナンジアミン単位及び/又は2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を含有するジアミン単位からなり、ポリアミド1g当たり45マイクロモル超のアミン末端基含量を有し、さらに組成物は、充填剤及び/又は強化剤が存在する状態で、多軸衝撃損失がASTM D3763に準じて測定した多軸衝撃値を用いて計算して、0.60以下である、
組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の組成物を含有する物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−502871(P2007−502871A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523443(P2006−523443)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/026587
【国際公開番号】WO2005/017040
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】