説明

ポリ(メタキシリレンアジパミド)コイル状成形品

【課題】金属製コイルに代替して使用できる合成樹脂製コイルを提供すること。
【解決手段】ポリ(メタキシリレンアジパミド)、またはそれと強化繊維との複合材料からなりそして押出成形により成形されたコイル状成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(メタキシリレンアジパミド)からなるコイル状成形品およびその製造への使用に関する。さらに詳しくは、ポリ(メタキシリレンアジパミド)(以下、MXD6という)からなる、押出成形により得られたコイル状成形品およびその製造への使用に関する。
【背景技術】
【0002】
MXD6はポリアミド6やポリアミド66などに比べ、吸水率および熱膨張率が非常に小さく、強度および弾性率が高くまた伸びが非常に小さい性質を有するため金属代替材料として使用できる。従来、このような優れた諸性質を生かすため、主に強化繊維との複合材料として種々の分野例えば自動車、電気電子、機械、土木・建築分野における成形品例えば自動車用ドアミラーおよびバックミラーステイ、シリンダーヘッドカバー、パソコンハウジング、プリンター用プーリー、カメラ用歯車、バタフライバルブ、釘、フック、ネジの製造に用いられてきた。
しかしながら、これらの成形品は、全て射出成形により製造されていた。そのため、射出成形では製造が困難なMXD6製コイル状成形品は従来から知られていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、MXD6またはMXD6と強化繊維からなる複合組成物からなるコイル状成形品を提供することにある。
【0004】
本発明の他の目的は、コイル状成形品を押出成形により製造するためのMXD6、または上記複合組成物の使用を提供することにある。
【0005】
本発明のさらに他の目的および利点は以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第1に、MXD6からなるコイル状成形品により達成される。
【0007】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第2に、MXD6と強化繊維の複合組成物からなるコイル状成形品によって達成される。
【0008】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第3に、MXD6、またはMXD6と強化繊維の複合組成物のコイル状成形品を押出成形により製造するための成形材料としての使用により達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属製コイルに比し重量が約1/3〜1/5と軽量化でき、浄水等により腐蝕することがなくしかも使用用途に応じ種々の素線断面形状に加工できる、金属製コイルに求め難い諸性能を備え、しかも金属製コイルに求められる諸性能も合わせて有することができる、MXD6、またはMXD6と強化繊維からなる複合組成物製のコイル状成形品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のコイル状成形品のコイル素線の、素線方向に直角方向の模式的断面図の例である。
【図2】本発明のコイル状成形品のコイル空洞中心線における模式的部分断面図の例である。
【図3】本発明の他のコイル状成形品のコイル空洞中心線における模式的部分断面図である。
【図4】実施例1、2で得られたコイル状成形品の部分外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のコイル状成形品は、ポリ(メタキシリレンアジパミド)またはポリ(メタキシリレンアジパミド)と強化繊維からなる複合組成物を成形素材とする。ポリ(メタキシリレンアジパミド)は下記式
【0012】
【化1】

【0013】
で表わされる繰返し単位からなる。ポリ(メタキシリレンアジパミド)、MXD6は、メタキシリレンジアミンとアジピン酸、メタキシリレンジアミンとアジピン酸との塩あるいはメタキシリレンジアミンとアジピン酸ジクロライドからそれ自体公知の重縮合法によって製造することができ、また市販品例えば三菱エンジニアリングプラスチックス(株)のレニー(登録商標)6301として入手することができる。
【0014】
強化繊維としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維、全芳香族ポリアミド繊維、ウイスカー等を挙げることができる。炭素繊維としては、PAN系およびピッチ系のいずれでもよく、これらは市販品として入手することができる。また、ガラス繊維も多くの会社から市販品として入手することができる。全芳香族ポリアミド繊維としては例えばポリ(パラキシリレンテレフタラミド)、ポリ(メタキシリレンイソフタラミド)等の繊維、例えば市販品として、デュポン社のケブラー(登録商標)およびメックス(登録商標)、帝人(株)のテクノーラ(登録商標)およびコーネックス(登録商標)を挙げることができる。
【0015】
ウイスカーとしては、例えばアルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素およびチタン酸カリウム等からなる太さ1〜30μmの繊維を挙げることができる。
これらの強化繊維の割合は、複合組成物におけるMXD6と強化繊維の合計100重量部について、好ましくは15〜65重量部であり、より好ましくは20〜50重量部であり、さらに好ましくは25〜45重量部である。
MXD6、またはMXD6と強化繊維からなる複合組成物は、その他の配合材例えば難燃剤、非繊維状フィラー、各種安定剤、溶融粘度低下剤等を含有することができる。
MXD6と強化繊維からなる複合組成物は、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)から市販品レニー(登録商標)1002H、1012H、1022H、1022HS、1032H、2041、1025、1071、1027、1002HUS、1501AH、1511AH、1301、1313H、4001、4011、4501、4511、W38S2、G07S、G09S、G16S、F34S、C36、NXG5050、PG1050A等として入手することができる。
【0016】
本発明のコイル状成形品は、特にその大きさに制限はないが、中心空洞の直径に該等する内径が例えば1.5〜100mmであり、コイル素線の素線方向に直角方向の相当直径が例えば0.3〜10.0mmである。ここで相当直径とは断面が円形であるものはその円直径であり、円形でないものについては断面積が同じ円形の円直径を意味する。
本発明のコイル状成形品は、引張用と圧縮用に分けることができる。引張用にあっては、隣接する次巻回の素線同士は接触していても離れていてもよいが、接触していることが好ましい。接触している具体例は図2の(イ)、(ロ)に示されており、離れている具体例は図3の(ハ)、(ニ)に示されている。圧縮用にあっては隣接する次巻回の素線同士は離れている必要がある。その具体例は図3の(ハ)と(ニ)に示されている。圧縮用では、隣接する次巻回の素線同士は、好ましくは素線方向に直角方向に0.5〜30mm離れていることができる。
本発明のコイル状成形品は1本の素線からコイル状に形成されたものでも、複数本例えば2〜3本の素線から異なる素線が隣接してコイルを形成するように形成されたものでもよい。
本発明のコイル状成形品の長さは特に制限はなく、例えば10〜3,000mmであることができ、好ましくは50〜2,000mmであることができる。長さは先に成形品の大きさと用途によって種々変えることができる。
【0017】
本発明のコイル状成形品のコイル素線の素線方向に直角方向の断面の形状は種々の形状を採ることができる。例えば図1のA〜Gにそれぞれ示した、円形、四角形、長方形、蒲鉾形、楕円形、平行四辺形、矢羽根形等を挙げることができる。これらの概略形状を添付図面の図1に示した。(a)は1本の素線、(b)は隣接する異なる2本の素線、(c)は隣接する異なる3本の素線の断面形状を示している。これらのうち、平行四辺形(F)と矢羽根形(G)にあっては、コイル状成形品が湾曲した状態で用いられる際にも、湾曲された外側素線間に、隣接する次巻回の素線同士の間が離れない状態を作ることができ、従ってコイル状成形品のコイル空洞内にコイル成形品の外部から異物が浸入するのを防止することができる。
外部から異物の浸入を防止しうる、このような構造のコイル状成形品は、コイル状成形品を湾曲させて設置する必要のある用途、例えば自動車、車輪、重機、機械、船舶などの操作用ケーブルをコイル空洞内に挿入してケーブル保護のために用いる場合等に有利に用いられる。さらに、このような構造のコイル状成形品の他の利点は、湾曲部分や直線部分において、隣接する素線間の横づれ防止効果が大きいため、保護するケーブルの損傷を防止できることにある。同時に、この横づれ防止効果は隣接する素線面に働く圧縮強度を高めることにもなり、ケーブル保護用として一層有利となる。
【0018】
本発明のコイル状成形品は押出成形により製造される。本発明のコイル状成形品は、MXD6またはMXD6と強化繊維からなる複合組成物のペレットを、例えば80〜110℃で5〜10時間乾燥し、押出機により相違はあるが、シリンダー温度(成形温度)例えば210〜280℃、口金温度例えば210〜280℃で口金ノズル断面形状に押出し、冷却水中を通過させて表面冷却された素線とし、この素線を所望のコイル内径と同寸法の回転軸に巻き付けコイル状成形品とする。得られたコイル状成形品は、回転軸から取り外した後、好ましくは120〜160℃の雰囲気中で徐冷(アニール)されて、本発明のコイル状成形品として製造される。適当な寸法への切断およびフック等の端末加工は、回転軸から取外した後あるいは徐冷後に行うことができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
実施例1、2および比較例1、2
MXD6と炭素繊維との複合組成物(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)のレニー(登録商標)36、炭素繊維30重量%)のペレットを100℃で8時間乾燥後、押出機のホッパーに投入した。押出機としては内径(D)40mm、長さ(L)/(D)=22の単軸押出機(池貝製)を用いた。押出機の成形条件はシリンダー温度230〜250℃、口金温度270℃であり、2mm×2mmの口形断面形状の巻素線を口金から押出し、100mmの冷却水槽内を通過させて表面冷却された素線を、コイル内径5mmと同寸法の回転軸に巻きつけて、長さ500mmのコイル状成形品に成形した。成形されたコイルの寸法の安定確認後、回転軸から取り出し、140〜160℃の熱筒内を60〜120秒間通して徐冷すことにより、コイル状成形品のひずみをなくし強度をムラなく均一にした。
【0021】
一方、比較のため、ポリカーボネート樹脂(帝人(株)製KE−1300)のペレットから押出成形により上記コイル状成形品と同じ寸法のコイル状成形品を得た。
上記の如くして、実施例1、2と比較例1、2のコイル状成形品として、内径5mm、素線の断面相当径2.0mmの圧縮用コイル(バネ、図4の(ホ)参照)と引張用コイル(バネ、図4の(ヘ)参照)とを準備した。圧縮用コイルは隣接する次巻回の素線同士が素線方向に直角方向に2.0mm離れており、引張用コイルは隣接する次巻回の素線同士は直接接触していた。
これらのコイルのそれぞれについて、引張強度と圧縮強度を測定した。各測定には3つのサンプルを用いた。結果を下記表1に引張用コイル(実施例1と比較例1)についての引張強度(kgf)を示し、下記表2に圧縮用コイル(実施例2と比較例2)についての圧縮強度(kgf)を示した。
【0022】
【表1】

【0023】
上記表1の測定結果から、実施例1の引張用コイルについてはコイル長53.0mmと58.0mmの引張強度を用いて単位長さ(mm)当りの引張強度(kgf)を求めると、表1の最下行に記載した値(kgf/mm)となる。同様に、比較例1のコイルについては、コイル長55.0mmと60.0mmの引張強度を用いて単位長さ当りの引張強度を求めて表1の最下行に記載した値を求めた。本発明の引張用コイルはポリカーボネート製の引張用コイル(比較例1)に比し、単位長さ(1mm)伸ばすのに、約3.25〜3.4倍の力(kgf)を必要とすることがわかる。
【0024】
【表2】

【0025】
上記表2の測定結果から、実施例2の圧縮用コイルについては、各サンプルについて、圧縮時の2つのコイル長と圧縮強度の値を用いて単位長さ(mm)当りの圧縮強度(kgf)を求めると、表2の最下行に記載の値(kgf/mm)となる。同様に、比較例2のコイルについても圧縮時の2つの値を用いて単位長さ当りの圧縮強度を求めて表2の最下行に記載した値を求めた。本発明の圧縮用コイル(実施例2)はポリカーボネート製の圧縮用コイル(比較例2)に比し、単位長さ(1mm)圧縮するのに、約3.4〜4.06倍の力(kgf)を必要とすることがわかる。
【0026】
実施例3、4および5
実施例1、2において、複合組成物として、MXD6 80重量%と炭素繊維20重量%の複合組成物(レニー G16S)またはMXD6 60重量%と炭素繊維40重量%の複合組成物またはMXD6 60重量%とガラス繊維40重量%との複合組成物(レニー 1012H)を用いる他は、実施例1、2と同様の押出成形条件下でそれぞれの複合組成物について長さ500mmのコイル状成形品(圧縮用コイルと引張用コイル)を製造した。
【0027】
これらのコイル状成形品はいずれも十分に実用し得る強度を示した。
【符号の説明】
【0028】
(A)円形素線
(B)四角形素線
(C)長方形素線
(D)蒲鉾形素線
(E)ボビン形素線
(F)平行四辺形素線
(G)矢羽根形素線
(イ)円形素線の直線状コイル状成形品
(ロ)蒲鉾形素線の直線状コイル状成形品
(ハ)円形素線の他の直線状コイル状成形品
(ニ)四角形素線の他の直線状コイル状成形品
(ホ)実施例1の引張用コイル
(ヘ)実施例2の圧縮用コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(メタキシリレンアジパミド)からなるコイル状成形品。
【請求項2】
ポリ(メタキシリレンアジパミド)と強化繊維の複合組成物からなるコイル状成形品。
【請求項3】
強化繊維が炭素繊維、ガラス繊維、全芳香族ポリアミド繊維およびウィスカーよりなる群から選ばれる請求項2に記載のコイル状成形品。
【請求項4】
強化繊維の含有割合がポリ(メタキシリレンアジパミド)と強化繊維の合計100重量部に対し15〜65重量部である請求項2に記載のコイル状成形品。
【請求項5】
押出成形により製造された請求項1または2に記載のコイル状成形品。
【請求項6】
ポリ(メタキシリレンアジパミド)の、コイル状成形品を押出成形により製造するための成形材料としての使用。
【請求項7】
ポリ(メタキシリレンアジパミド)と強化繊維の複合組成物の、コイル状成形品を押出成形により製造するための成形材料としての使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−1789(P2013−1789A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133932(P2011−133932)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(597011290)幸輝プラスチック工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】