説明

ポリ(3−置換チオフェン)の製造方法

【課題】 効率的かつ経済的で、より大きな製造柔軟性を提供し、そして大規模工業プロセスに適するHT−ポリ(3−アルキルチオフェン)の新規な製造方法の提供。
【解決手段】 ポリマーを生成させる方法であって:
少なくとも2つの脱離基を有する可溶性チオフェンを有機マグネシウム試薬と混合して立体化学異性体中間体を生成させ;そして、
有効量のNi(II)触媒を加えて重合反応を開始させる
ことを含んでなる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、広くはポリ(3−置換チオフェン)の製造方法に向けられ、より特定すると、頭尾結合した立体規則性ポリ(3−置換チオフェン)の製造方法に向けられている。
【背景技術】
【0002】
ポリ(3−置換チオフェン)(PT)は、高度に加工性でありかつ比較的高い環境安定性、熱安定性、及び導電率を示すクラスのポリマーに相当する。その結果、これら材料は、電界効果トランジスター、センサー、発光ダイオード(LED)、充電性バッテリー、スマートカード、及び非線形光学材料のような電子及び光学デバイスから人工筋肉のような医療用途に至る多くの用途について見込みのある候補であることが分かっている。追加の用途及び新規な技術の発見は、大部分において、構造、特性及び機能をコントロールするPT化学合成の分子設計者の能力に依存している。当業者は、導電性ポリマーの物理特性の決定に際して構造が決定的であると言わないまでも重要な役割を果たすことを認識している。
【0003】
その非対称の構造の故に、3−置換チオフェンの重合は、繰り返し単位間に可能な3種の立体化学連結を含有するPT構造の混合物をもたらす。2つのチオフェン環が結合するときに可能なこれら3種の方向は、2,2’、2,5’及び5,5’連結である。導電性ポリマーとしての用途が望まれるときには、立体不規則連結(regiorandom coupling)と言われる、2,2’(又は頭頭)連結及び5,5’(又は尾尾)連結がそのポリマー構造中の問題点になると考えられる。というのは、それらは、共役を破壊して、非晶質構造をもたらし、固体が詰まった理想的な状態になるのを阻止するチオフェン環の立体的な捻じれを起こし、かくして、電子的及び光学的特性を低下させてしまうからである。立体不規則連結の代表例を図2に示す。チオフェン環の3位における可溶化基が立体的に込み合った状態が、平面性を失わせてπオーバーラップを小さくさせている。対照的に、2,5’(又は頭尾(HT)連結)立体規則性PTは、低エネルギー平面コンフォメーションをとり、自己集合することができる平らで詰まった高分子構造を提供できる高度に共役したポリマーをもたらすので、効率的な鎖間及び鎖内導電経路を提供する。立体規則性材料の電子的及び光学的特性は最大になる。立体規則性連結の代表例を図1に示す。
【0004】
2,5’立体規則性PTを合成するために種々の方法が用いられてきた。そのうちの幾つかは、R.D. McCullough, “The Chemistry of Conducting Polythiophenes", Advanced Materials, Vol.10, No.2, pp.93-116 (1998) に記載されている。なお、これは、参照によりそっくりそのまま本明細書に組み入れられるものとする。この文献は、R.D. McCullough と R.D. Loewe (McCullough 法) 及び T.A.Chen と R.D. Rieke (Rieke法) によってこれまでに公表された初期でありかつ周知の方法を記載している。立体規則性合成への最も最近のアプローチは、Stille, A. IraqiとG.W. Barker, J. Mater. Chem., Vol.8, pp.25-29 (1998)、及び Suzuki, S. Guillerez と G. Bidan, G. Synth. Met., Vol.93, pp.123-126 によって開発された化学方法を用いて記載されている。なお、これらは参照により本明細書中に組み入れられるものとする。これら全ての4法は、95%又はそれを越える高いパーセンテージのHT連結を有するポリチオフェンを生成する。
【0005】
本発明者の一人によって開発されたMcCullough法は、約100%又はそれに近いHT連結−ポリ(3−アルキルチオフェン)(PAT)を合成する。以下に示すように、この方法は、モノマーから2−ブロモ−5−(ブロモマグネシオ)−3−アルキルチオフェンを立体特異的に生成し、それが、Kumada交叉連結法を用いて、触媒量のNi(dppp)Cl(1,3−ジフェニルホスフィノプロパン塩化ニッケル(II))で重合される。このMcCullough法は、次のように示すことができる。
【0006】
【化6】

【0007】
Rieke法は、その非対称有機金属中間体の合成においてMcCullough法とは本来的に異なっている。以下に示すように、高い反応性の“Rieke亜鉛"(Zn* )の溶液に、2,5−ジブロモ−3−アルキルチオフェンを加えて、異性体である2−ブロモ−3−アルキル−5−(ブロモジンキノ)チオフェンと2−(ブロモジンキノ)−3−アルキル−5−ブロモチオフェンの混合物を生成させる。ニッケル交叉連結触媒であるNi(dppe)Cl(1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン塩化ニッケル(II))を加えると、立体規則性HT−PATが生成する。このRieke法は、次のように示すことができる。
【0008】
【化7】

【0009】
Stille法及びSuzuki法のような他の方法は、Ni触媒ではなくてPd触媒を使用する。Stille法は、次のように示すことができる。
【0010】
【化8】

【0011】
Suzuki法は、次のように示すことができる。
【0012】
【化9】

【0013】
HT連結法を改善するための当業者による努力にも拘らず、これまでに説明した方法は、有意な欠点を持っている。例えば、McCullough法は、高度に精製された出発原料を必要とする。その最も重要なものはモノマーの2−ブロモ−3−アルキルチオフェンである。精製の必要は、合成のコストを高くする。Rieke法では、出発原料としての2,5−ジブロモ−3−アルキルチオフェンの精製は容易である(というのは、この化合物は、その調製に際して粗製混合物中で最も高い沸点画分だからである)が、不活性環境下でのハロゲン化亜鉛のアルカリ金属還元を経るという、簡単とは言えないRieke亜鉛の調製を必要とする。Rieke亜鉛は、作るのが非常に難しいので、非常にコストが嵩む。Stille法及びSuzuki法は、いずれも合成に際して余分の加工工程を必要とすることによって、それらの製造効率及び柔軟性は低くなっている。上に示した全ての合成反応は、合成中の幾つかの時点で低温を必要とし、そして12〜24時間又はそれより長い重合時間を必要とする。加えて、これら既知の方法のどれかをHT−PTの大規模合成に使用したという報告はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、効率的かつ経済的で、より大きな製造柔軟性を提供し、そして大規模工業的方法に適するHT−ポリ(3−アルキルチオフェン)の新規な製造方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ポリマーを形成する新規な方法を提供することによって上記の課題を解決する。この方法は、少なくとも2つの脱離基を有する可溶性チオフェンを有機マグネシウム試薬と混合して立体化学異性体中間体を生成させ、そして、それに有効量のNi(II)触媒を加えて重合反応を開始させることを包含する。この反応は、優勢量の可溶性立体規則性ポリチオフェンを生成する。その可溶性チオフェンは、好ましくは、可溶性置換基を有するジハロチオフェンである。
この可溶性チオフェンは、最も好ましくは、構造:
【0016】
【化10】

【0017】
を有する2,5−ジハロ−置換チオフェンである。式中、Xは、いかなるハロゲンであってもよいが、好ましくはBr又はIであり、そして、Rは、有機マグネシウムと非反応性である、アルキル基又はエーテル基のようなあらゆる非反応性の置換基又は保護された置換基である。
かくして、異性体中間体は、構造:
【0018】
【化11】

【0019】
を有することができる。式中、X’はハロゲンである。
好ましい態様において、本発明は、少なくとも2つの脱離基を有する3−置換チオフェンを出発原料として用いる、ポリ(3−アルキルチオフェン)の大規模製造方法を提供する。このチオフェン出発原料を溶媒に溶解させて混合液を生成させる。有機マグネシウム試薬をこの混合液に加えて溶液を生成させる。この溶液を加熱して還流させ、そして立体化学異性体中間体を生成させる。Ni(II)触媒を加える。触媒を加えた後、その溶液を還流しながら攪拌して、所望のポリチオフェン生成物に重合するのに適する時間反応を進行させる。その後、生成物を回収する。必要なら、追加の還流時間を与えてもよい。反応を停止させてから、立体規則性ポリ(3−アルキルチオフェン)を回収する。
【0020】
本発明は、先行技術で経験される課題を解決する。というのは、それは、先行技術方法よりも実質的に短い時間で有意に低いコストで行うことができるポリ(置換チオフェン)の製造方法を提供するからである。本発明の方法は、他の先行技術のような低温の使用を必要とせず、比較的優勢量の所望のポリマー生成物を優先的に生成するので、工業的規模での使用に十分に適するものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】立体規則性ポリチオフェンの概略図を示す。
【図2】立体不規則性ポリチオフェンの概略図を示す。
【図3】本発明の方法を用いて合成したHT−ポリ(3−ドデシルチオフェン)の芳香族部分のHNMRである。
【図4】本発明の方法を用いて合成したHT−ポリ(3−ドデシルチオフェン)のメチレン部分のHNMRである。
【図5】本発明の方法を用いて合成したHT−ポリ(3−ドデシルチオフェン)の芳香族部分の13CNMRである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のこれら及び他の利点は、以下の好ましい態様の説明から明らかになるであろう。
本発明は、立体規則性ポリチオフェンの製造方法である。溶解性を促進するために置換基Rを有するジハロチオフェンモノマーを、有機マグネシウム試薬と、溶媒の存在下で立体化学異性体混合物を生成するのに十分な時間反応させる。重合触媒を加えて、所望の収率の立体規則性ポリチオフェンが生成するのに十分な時間反応を進行させる。ポリチオフェン生成物には、優勢量の立体規則性ポリチオフェン連結と劣勢量の立体不規則性チオフェン連結が含まれる。
HT−PATを調製するためのこの新規な合成は、次のように進行する:
【0023】
【化12】

【0024】
式中、X及びX’は、それぞれ独立して、Br又はIのようないかなるハロゲンであってもよく、そして、Rは、有機マグネシウムグリニャール試薬(R’MgX’)と非反応性である置換基又は保護されて非反応性となった置換基である。Rは、好ましくはアルキル基又はエーテル基であり、最も好ましくはアルキル基又は置換アルキル基である。有機マグネシウム試薬(R’MgX’)は、いかなるグリニャール試薬であってもよい。X’は、どのようなハロゲンであってもよいが、典型的には、Br又はClであり、そして、R’は、典型的には、どのようなアルキル、ビニル、又はフェニル基であってもよい。例には、CH−CH=CH、−C、−C13、−C1225、イソプロピル及びtert−ブチル基が含まれるが、これらに限定されない。
【0025】
このグリニャールメタセシス反応は、当該技術分野で周知であり、その例は、L. Boymond、M. Rottlander 、G. Cahiez、及びP. Knochel, Angew. Chem. Int. Ed., Communications, 1998, 37, No.12, pp.1701-1703に記載されている。なお、この文献は参照によりそっくりそのまま本明細書に組み入れられるものとする。化合物(1)のRが有機マグネシウム試薬と反応性である場合は、R基に保護基を結合させてR基が合成に関与するのを阻止すべきである。反応性R基に保護基を使用することは、GreeneとGreene, “Protective Groups in Organic Synthesis," John Wiley and Sons, New York (1981) に記載されているように、当該技術分野で周知である。なお、この文献は参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0026】
化合物(1)は、ジハロ3−置換チオフェンのような2つの脱離基を有する置換チオフェンといった種々の精製されたチオフェンモノマー出発原料であることができる。例えば、99%純度を越える化合物(1)は、最も高い分子量をもたらす。精製された2,5−ジブロモ−3−ドデシルチオフェンが一例であるが、いかなるハロゲン及び溶解性を付加するいかなる非反応性置換基を使用してもよい。脱離基は、Br又はIのようないかなるハロゲンであってもよい。化合物(1)の精製は、本法の一部を形成しても、精製された化合物(1)を商業的供給業者から購入してもよい。例えば、2,5−ジブロモ−3−ドデシルチオフェンが出発原料として選ばれる場合には、例えば、それを以下の実施例1に記載するようにして精製しても、それをAldrich Chemical, Milwaukee, Wisconsin から購入してもよい。出発原料の脱離基としてヨウ素よりも臭素のほうが好ましい。というのは、ヨウ素化合物は、反応の毒性を実質的に高めるからである。塩素も使用できると考えられる。
【0027】
化合物(1)を約1当量の有機マグネシウム(グリニャール)試薬と還流溶媒中で、中間立体化学異性体(2)(立体規則性異性体の混合物)を生成するのに十分な時間、例えば、約1時間反応させてもよい。
テトラヒドロフラン(THF)のような、あらゆる還流性無水溶媒(乾燥溶媒)を中間異性体(2)の生成に使用することができる。THFは、Fischer Scientific, Pittsburgh, PA から商業的に入手することができる。中間異性体(2)の生成は、還流溶媒の沸点又はそれ以下で行われるべきであり、室温(25℃)で行ってもよい。例えば、THFを用いる場合、反応は、その沸点(66℃)で行われるべきである。
中間立体化学異性体(2)は、典型的には、立体化学異性体の混合物である。例えば、中間異性体(2)は:
【0028】
【化13】

【0029】
の組み合わせ物であってもよい。式中、(2a)及び(2b)は、R基の選択に依存して優勢量にも劣性量にもなる。例えば、Rがアルキルであるときは、(2a)の収率は約10〜20%で(2b)の収率は約80〜90%である。Rがエーテル、特に長鎖エーテルであるときは、(2a)の収率は約60〜85%で(2b)の収率は約15〜40%である。
中間異性体(2)は、例えば、Ni(dppp)Cl又はNi(dppe)ClのようなNi(II)触媒で処理されて反応を完了する。Ni(dppp)Clが用いられる場合、その触媒は約0.2〜1.0モル%で加えられる。Ni(II)触媒の添加は、0〜67℃の温度で行われるが、典型的には、室温又は還流温度で行われる。溶液は、所望のポリマーを生成するのに十分な時間、つまり45分〜3時間又はそれ以上還流されてもよい。CHCl可溶分の収率は、3時間で60〜70%である。この回収されたポリマーは、HNMRで分かるが、95〜99%のHT−HT連結を有する。このポリマーは、また、元素分析により分かるが、極めて純粋である。
【0030】
本発明の方法をHT−PTの大規模製造に用いることが可能である。例えば、13gの2,5−ジブロモ−3−ドデシルチオフェン(1)を3時間で重合させると、4gの純粋なHT−PDDTが生成した。得られた全てのポリマーは、ほどほどの分子量を有しかつ低い多分散性であり、そして約95〜99%のHT−HT連結を有する。例えば、Rがドデシルなら、M=18〜35Kで、多分散率=1.20〜1.67であり、Rがヘキシルなら、M=13〜30Kで、多分散率=1.13〜1.55である。
加えて、ポリエステル側鎖を有するチオフェンモノマーは、幾分低い収率ではあるが、本発明の方法により重合させることができる。
上記の方法は、例えば、より短い反応時間を用いてより低い収率となるように操作してもよい。例えば、以下の実施例3に示すように、出発原料として2,5−ジブロモ−3−ドデシルチオフェンを用いる場合には、40分の反応時間で約40%のHT−PDDTが生成する。
【0031】
図1〜3に示すように、本発明の方法を用いて調製されたHT−PDDTの収率は、H及び13CNMRを用いてPATの立体規則性を測定することにより示されるように、他の先行技術方法により調製されたHT−PDDTの収率と実質的に同一である。図3〜5は、HT−PDDTのH及び13CNMRスペクトルの両方を示す。プロトンNMRの芳香族領域に1本だけの一重線(図3)並びにメチレン領域に明瞭な三重線(図4)が出現していることで立体規則性が高いことが分かる。図5に示すように、炭素NMRは、4本の明確に異なるチオフェン炭素共鳴だけを示している。この材料の固体状態UV〜可視スペクトル(1,1,2,2−テトラクロロエタンから流延したフィルム)は、569nmのλmaxで528及び620nmの肩部を有するHT−PDDTである。そのバンドの縁部は710nmである。溶液(CHCl)のUV〜可視スペクトルは、459nmのλmaxを示す。
【0032】
このメタセシス反応の立体選択性(80:20の異性体混合物)は高いが、触媒選択性により、なお高い立体選択性を示すポリマー(99%HT−HT)が存在し得る。例えば、20:1までの触媒選択性が、幾つかの異性体の連結実験において示されている。V. Farina 、B. Krishnan 、D.R. Marshall、及びG.P. Roth, J. Org. Chem., Vol.58, No.20, pp.5434-5444 (1993)。なお、この文献は参照によりそっくりそのまま本明細書に組み入れられるものとする。
以下の実施例は、説明のためであって、特許請求の範囲の限定を意図するものではない。
【実施例】
【0033】
<実施例1>
3−ドデシルチオフェン(19.41g,77.06ミリモル)を100mLのTHFに溶解させ、この溶液にN−ブロモスクシンイミド(27.43g,154ミリモル)を5分かけて加えることにより、2,5−ジブロモ−3−ドデシルチオフェン(1)を調製した。この溶液を室温で2時間攪拌した。溶媒を減圧留去して250mLのヘキサンを加えて実質的に全てのスクシンイミドを析出させた。この混合液をシリカの充填物で濾過してスクシンイミドを除去し、溶媒を減圧留去した。Kugelrohr 蒸留(120℃,0.02T)して、2,5−ジブロモ−3−ドデシルチオフェン(1)(26.26g,83.3%)(最高沸点画分)を透明無色油として得た。HNMR(CDCl):δ 6.76 (s,1H), 2.49 (t,2H), 1.52 (m,2H), 1.25 (m,18H), 0.87 (t,3H)。13CNMR(CDCl):143.0, 130.9, 110.3, 107.9, 31.9, 29.7, 29.6, 29.4, 29.1, 25.4, 22.7, 14.1。(C1626BrSの計算値:C=46.84%,H=6.39%,Br=38.95%;実測値:C=46.51%,H=6.47%,Br=38.69%)。
【0034】
この2,5−ジブロモ−3−ドデシルチオフェン(1)(1.28g,3.12ミリモル)を18mLのTHFに溶解させた。CHMgBr(3.15mL,ブチルエーテル中1.0M溶液)を加え、その混合液を加熱して1時間還流させた。触媒Ni(dppp)Cl(16.9mg,1モル%)を加え、その溶液を還流下2時間攪拌した。その混合液を150mLのメタノール上に注いで、ソックスレー円筒濾紙中に濾取した。ソックスレー抽出を、メタノール(触媒、モノマー及び塩を除去するため)、ヘキサン(オリゴマーを除去するため)、及びクロロホルムで行った。クロロホルム層をロータリーエバポレーターで濃縮して紫色の膜を得た。これを数時間真空ポンプで引いて、0.510g(65%収率)のHT−PDDT(3)を得た。HNMR(CDCl):δ 6.96 (s,1H), 2.79 (t,2H), 1.69 (m,2H), 1.25 (m,18H), 0.86 (t,3H)。13CNMR(CDCl3):139.89, 133.74, 130.52, 128.61, 31.94, 30.56, 29.69, 29.53, 29.38, 22.70, 14.10。(C1626S)の計算値:C=76.79%,H=10.47%;実測値:C=76.41%,H=10.43%)。
【0035】
<実施例2>
本発明の方法は、HT−PDDT(3)の大規模製造に使用することができる。その操作は、上の実施例1に記載したのと同様であって、2,5−ジブロモ−3−ドデシルチオフェン(1)(13.9g,33.8ミリモル)、250mLのTHF、及び34mLのCHMgBr(ブチルエーテル中1.0M溶液)を50分還流した後、196mgのNi(dppp)Clを加えた。この混合液をもう1時間20分還流した後、その反応混合液を1.4Lのメタノール中に注ぐことによって反応を停止させた。この操作で40%(3.4g)の純粋なHT−PDDTを得た。
【0036】
<実施例3>
本発明の方法は、HT−PDDTの短時間製造に使用することができる。その操作は、先に記載したのと同様であって、2,5−ジブロモ−3−ドデシルチオフェン(1)(1.8g,4.4ミリモル)、25mLのTHF、及び4.4mLのCHMgBr(ブチルエーテル中1.0M溶液)を20分還流した後、12mgのNi(dppp)Clを加えた。この混合液をもう20分還流した後、その反応混合液を100mLのメタノール中に注ぐことによって反応を停止させた。抽出して40%(420mg)の純粋なHT−PDDTを得た。
【0037】
次の実施例は、グリニャールメタセシスの存在を確認するものである。化合物(1)を種々のグリニャール試薬(R’MgX’)で処理して、塩化トリメチルシリル(TMS−Cl)で反応を停止させた。この反応を以下に示す:
【0038】
【化14】

【0039】
この反応停止結果は、マグネシウム臭素交換反応の存在を強く示唆する。驚いたことに、この交換は、大きな度合いの立体制御率(80:20の異性体分配率)で起こった。
本発明の立体化学重合法は、先行技術の合成法よりも多くの利点をもたらす。チオフェンモノマーの製造法及び精製法は、容易に入手できる出発原料から2つを越える反応を必要としないので、先行技術よりも時間効果のある方法をもたらす。加えて、対応するグリニャール試薬は、コスト効果がありかつ取り扱いが容易である。本発明の方法は、他の先行技術方法のような低温の使用を必要とせずかつ比較的大量の所望の生成物をもたらすので、工業的規模での応用に特によく適する方法となっている。高収率で立体規則性のHT−ポリ(3−アルキルチオフェン)が、高価なMgBrやZnCl試薬を必要とすることなく短時間反応で製造される。加えて、グリニャールメタセシス段階において大きな度合いの立体制御率を示す。
【0040】
本発明の方法により製造される立体規則性ポリマーは、多くの商業的に重要な用途に有用である。例には、発光ダイオード(LED)、電界効果トランジスター、平面パネルディスプレー、スマートカード、化学センサー材料、非線形光学材料、及び秘密潜入技術で使用するためのマイクロ波吸収材料が含まれる。
これまでの説明では、仕方なく本発明の限定された幾つかの態様を提示してきたが、関連技術分野における当業者は、本発明の特徴を説明するために本明細書中に記載されそして示されてきた実施例の成分、細部、材料、及びプロセスパラメーターの諸々の変更が当業者によって成され得ること、及びそのような全ての変更が特許請求の範囲に記載された本発明の原理及び範囲に入ることが分かるであろう。例えば、出発原料として2,5−ジブロモ−3−ドデシルチオフェンを使用することに向けられた特定の例が提示されただけであった。上記の実施例で2,5−ジブロモ−3−ドデシルチオフェンを使用したことは単に例示のためであって、他の出発原料を使用してHT−ポリ(3−置換チオフェン)を生成させ得ることは、当業者によって理解される筈である。本発明のそのような全ての追加の応用は、特許請求の範囲に記載された本発明の原理及び範囲に入る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーを生成させる方法であって:
少なくとも2つの脱離基を有する可溶性チオフェンを有機マグネシウム試薬と混合して立体化学異性体中間体を生成させ;そして、
有効量のNi(II)触媒を加えて重合反応を開始させる
ことを含んでなる方法。
【請求項2】
可溶性ポリチオフェンが、構造:
【化1】

(式中、Rは、有機マグネシウム試薬と非反応性の置換基又は保護されて非反応性となった反応性置換基であり、そして、Xはハロゲンである。)
を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
Xが、Br及びIからなる群から選択されるハロゲンである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
Rが、アルキル及びエーテルからなる群から選択される置換基である、請求項2記載の方法。
【請求項5】
異性体中間体が、構造:
【化2】

(式中、Rは、有機マグネシウム試薬と非反応性の置換基又は保護されて非反応性となった反応性置換基であり、そして、X及びX’はそれぞれ独立してハロゲンである。)
を有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
Xが、Br及びIからなる群から選択されるハロゲンである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
Rが、アルキル及びエーテルからなる群から選択される置換基である、請求項5記載の方法。
【請求項8】
有機マグネシウム試薬が、式R’MgX’(式中、R’は、アルキル、ビニル、及びフェニルからなる群から選択される置換基であり、X’はハロゲンである。)を有する、請求項2記載の方法。
【請求項9】
R及びR’がそれぞれアルキル基である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
有機マグネシウム試薬が臭化メチルマグネシウムである、請求項8記載の方法。
【請求項11】
Ni(II)触媒が、1,3−ジフェニルホスフィノプロパン塩化ニッケル(II)又は1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン塩化ニッケル(II)である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
可溶性チオフェンが2,5−ジブロモ−3−ドデシルチオフェンである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
可溶性チオフェンが乾燥溶媒中で臭化メチルマグネシウムと混合されて立体化学異性体中間体を生成する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
Ni(II)触媒が1,3−ジフェニルホスフィノプロパン塩化ニッケル(II)であって、それが立体化学異性体中間体中に加えられて、構造:
【化3】

を有するポリマーが生成する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
立体規則性ポリマーを生成させる方法であって:
少なくとも2つの脱離基を有する置換チオフェンを有機マグネシウム試薬と混合して、構造:
【化4】

(式中、Rは、有機マグネシウム試薬と非反応性の置換基又は保護されて非反応性となった反応性置換基であり、そして、X及びX’はそれぞれ独立してハロゲンである。)
を有する立体化学異性体中間体を生成させ;そして、
有効量のNi(II)触媒を加えて重合反応を開始させる
ことを含んでなる方法。
【請求項16】
Xが、Br及びIからなる群から選択されるハロゲンである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
有機マグネシウム試薬が、式R’MgX’(式中、R’は、アルキル、ビニル、及びフェニルからなる群から選択される置換基であり、X’は請求項15で定義した通りである。)を有する、請求項15記載の方法。
【請求項18】
X’がBrである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
R及びR’がそれぞれアルキル基である、請求項17記載の方法。
【請求項20】
R及びR’がそれぞれアルキル基であり、X及びX’がそれぞれBrである、請求項17記載の方法。
【請求項21】
有機マグネシウム試薬が臭化メチルマグネシウムである、請求項17記載の方法。
【請求項22】
置換チオフェンが2,5−ジブロモ−3−ドデシルチオフェンである、請求項15記載の方法。
【請求項23】
置換チオフェンが乾燥溶媒中で臭化メチルマグネシウムと混合されて立体化学異性体中間体を生成する、請求項22記載の方法。
【請求項24】
Ni(II)触媒が1,3−ジフェニルホスフィノプロパン塩化ニッケル(II)であって、それが立体化学異性体中間体中に加えられて、構造:
【化5】

を有するポリマーが生成する、請求項23記載の方法。
【請求項25】
Ni(II)触媒が、1,3−ジフェニルホスフィノプロパン塩化ニッケル(II)又は1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン塩化ニッケル(II)である、請求項15記載の方法。
【請求項26】
ポリ(3−置換チオフェン)を生成させる方法であって: 少なくとも2つの脱離基を有する可溶性チオフェンを準備し;
該可溶性チオフェンを溶媒に溶解させて混合液を生成させ;
該混合液に有機マグネシウム試薬を加え;
該溶液を還流させて、立体化学異性体中間体を含有する溶液を生成させ;
該溶液にNi(II)触媒を加え;
該溶液を攪拌し;そして
ポリ(3−置換チオフェン)を回収する
ことを含んでなる方法。
【請求項27】
可溶性チオフェンが2,5−ジブロモ−3−ドデシルチオフェンである、請求項26記載の方法。
【請求項28】
溶媒がテトラヒドロフランである、請求項26記載の方法。
【請求項29】
有機マグネシウム試薬が臭化メチルマグネシウムである、請求項26記載の方法。
【請求項30】
溶液の還流が約1時間行われる、請求項26記載の方法。
【請求項31】
Ni(II)触媒が、1,3−ジフェニルホスフィノプロパン塩化ニッケル(II)又は1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン塩化ニッケル(II)である、請求項26記載の方法。
【請求項32】
溶液の攪拌が還流下で約2時間行われる、請求項26記載の方法。
【請求項33】
ポリ(3−置換チオフェン)の回収が、溶液をメタノール、ヘキサン、及びクロロホルム上に注ぐことを包含する、請求項26記載の方法。
【請求項34】
ポリ(3−置換チオフェン)を生成させる方法であって: 少なくとも2つの脱離基を有する可溶性チオフェンを準備し;
該可溶性チオフェンを溶媒に溶解させて混合液を生成させ;
該混合液に有機マグネシウム試薬を加え;
該溶液を第1の還流に付して、立体化学異性体中間体を含有する溶液を生成させ;
該溶液にNi(II)触媒を加えて重合反応を開始させ;
該溶液を第2の還流に付し;そして
該反応を停止させて、ポリ(3−置換チオフェン)を回収する
ことを含んでなる方法。
【請求項35】
可溶性チオフェンが2,5−ジブロモ−3−ドデシルチオフェンである、請求項34記載の方法。
【請求項36】
溶媒がテトラヒドロフランである、請求項34記載の方法。
【請求項37】
有機マグネシウム試薬が臭化メチルマグネシウムである、請求項34記載の方法。
【請求項38】
Ni(II)触媒が、1,3−ジフェニルホスフィノプロパン塩化ニッケル(II)又は1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン塩化ニッケル(II)である、請求項34記載の方法。
【請求項39】
反応の停止がメタノール中に溶液を注ぐことにより行われる、請求項34記載の方法。
【請求項40】
導電性又は感光性ポリマー材料であって:
少なくとも2つの脱離基を有する可溶性チオフェンを有機マグネシウム試薬と混合して立体化学異性体中間体を生成させ;
有効量のNi(II)触媒を加えて重合反応を開始させ;そして
優勢量の立体規則性ポリチオフェンを生成させるのに十分な時間反応を進行させる
ことを含んでなる方法から形成される材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−91798(P2013−91798A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−277793(P2012−277793)
【出願日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【分割の表示】特願2007−329941(P2007−329941)の分割
【原出願日】平成12年2月9日(2000.2.9)
【出願人】(591236068)カーネギー−メロン ユニバーシティ (12)
【氏名又は名称原語表記】CARNEGIE−MELLON UNIVERSITY
【Fターム(参考)】