説明

ポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)の製造方法

【課題】 ポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)の簡便な製造方法を提供すること。
【解決手段】 下記一連の工程からなるポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)の製造方法。


(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、nは2以上の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
安定ラジカル分子の一つである2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(以下「TEMPO」と略す)やその誘導体は、骨格内にニトロキシルラジカルを有しており、アルコールのアルデヒドやケトンへの酸化触媒能を示すことが知られている。
このTEMPOは、通常、均一触媒として用いられるものであるが、高価なことから工業的利用には制約があり、コスト削減や廃棄物削減のためには、使用後に回収可能、かつ、触媒として再利用可能なことが望まれる。
このような観点から、ポリアクリル系合成樹脂にTEMPOを担持する手法(特許文献1)や、ポリマー主鎖にTEMPO骨格を結合させる等の手法(特許文献2)が開発されている。
【0003】
また、このTEMPOでは、4位にメタクリル基等の重合官能基を持つものも知られており、この重合官能基を、グループトランスファー重合(非特許文献1)や、ロジウム触媒(非特許文献2)を用いた重合をすることで、TEMPO骨格を有するポリマー(以下、TEMPOポリマーという)が製造されており、これらのTEMPOポリマーは電荷貯蓄材料として検討されている。
なお、TEMPOが電荷貯蔵材料として機能する際には、以下に示すような酸化還元能を電子の授受機能としてとらえ、ニトロキシラジカルの電極反応は一般に一電子移動であることから安定ラジカル経由の有機電極反応が可逆性高く生起していると考えられる。
【0004】
【化1】

【0005】
このような電荷貯蔵材料の例として、有機ラジカルを側鎖に用いたポリマーの蓄電性能に着目し、正極、負極および有機電解液を構成要素とする非水系二次電池の電極活物質として応用した例が、数多く報告されている(特許文献4〜8参照)。
この用途において、上記有機電解液としては、プロピレンカーボネートやアセトニトリル等の有機溶媒が用いられることになる。このため、ポリマーではないTEMPOそのものでは、これらの有機溶媒への溶け出しが懸念されるが、ポリマー化することでこれらの有機溶媒に対して不溶化するため、この溶け出しの問題を回避できると考えられる。
【0006】
このように、触媒の再利用性(回収可能)と同様に、この電荷貯蔵材料として考えた場合にもポリマー化等による有機溶媒への不溶化は不可欠であると考えられる。
この点、上述したように、TEMPOでは、それをポリマー化することで、アルコールの酸化触媒として用いた場合の回収率が向上し、コストおよび廃棄物の削減や電荷貯蔵材料への展開が可能となっている。
【0007】
一方、ニトロキシル基(N−オキシル基)をアダマンタン骨格上に組み込んだ、1−アルキル−2−アザアダマンタン−N−オキシル(以下「AZADO」と略す)およびその誘導体も、TEMPOと同様にアルコールの酸化触媒として知られている。
さらに、この化合物は、1級アルコールに対してTEMPOよりも高い触媒回転率を示すのみならず、TEMPOでは酸化が困難であった、立体的に複雑な構造を有する2級アルコールをも高収率で酸化できることが知られている(特許文献9参照)。
【0008】
しかし、このAZADOについては、これをポリマー化する手法がまだ確立されていないため、その使用が限定されている。
簡便にAZADOのポリマーを合成することができれば、使用後に簡単に回収可能な触媒や電荷貯蔵材料への展開がさらに広がるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−80640号公報
【特許文献2】特開2001−199923号公報
【特許文献3】特許第4061490号公報
【特許文献4】特許第4041973号公報
【特許文献5】特許第411980号公報
【特許文献6】特許第411470号公報
【特許文献7】特開2007−35375号公報
【特許文献8】特開2008−184227号公報
【特許文献9】国際公開第2006/001387号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Lucienne B., Colin J.H.M., Petr N.,Jens V., and Peter N., Chem. Mater., 2007, 19(11), 2910-2914
【非特許文献2】Jinquin Q., TORU F., Toru K., Yuji S., Masashi S., Fumio S., Masaharu S., Jun W., Toshio M., Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry, Vol. 45, 5431-5445(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)の簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、重合官能基である(メタ)アクリル基導入の際に、アザアダマンタン骨格の1位の窒素原子をモノクロロアセチル基等のα−ハロアルキルカルボニル基で保護しておくことで、選択的な脱保護が可能になって効率的に5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタンを得ることができること、およびこれを重合した後、酸化によるニトロキシル化を行うことで、目的物であるポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)が効率的に得られることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、
1. 式(4)
【化2】

(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
で示される5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−α−ハロアルキルカルボニル化合物を、チオウレアで処理して式(5)
【化3】

(式中、R1は前記と同じ。)
で示される5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタンを得、これをラジカル重合させて式(6)
【化4】

(式中、R1は前記と同じ。nは2以上の整数を表す。)
で示されるポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン)を得、これを酸化剤で処理することを特徴とする式(7)
【化5】

(式中、R1およびnは前記と同じ。)
で示されるポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)の製造方法、
2. 前記酸化剤が、メタクロロ過安息香酸である1の製造方法、
3. 前記R2が水素原子、かつ、前記Xが塩素原子である1または2の製造方法、
4. 前記式(4)で示される5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−α−ハロアルキルカルボニル化合物が、式(1)
【化6】

で示される2−アザアダマンタンを酸ハロゲン化物で処理し、式(2)
【化7】

(式中、R2およびXは前記と同じ。)
で示される2−アザアダマンタン−N−α−ハロアルキルカルボニル化合物を得、これを金属触媒存在下、酸化剤で処理し、式(3)
【化8】

(式中、R2およびXは前記と同じ。)
で示される5−ヒドロキシル−2−アザアダマンタン−N−α−ハロアルキルカルボニル化合物を得、これを(メタ)アクリル酸ハロゲン化物で処理して得られたものである1の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡便に5−メタクリロイル−2−アザアダマンタンが得られ、これを重合し、酸化によるニトロキシル化をすることで効率的にポリ(5−メタクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)へと導くことができる。
すなわち、アザアダマンタン骨格の窒素原子を保護せずに(メタ)アクリル基を導入した場合、上記窒素原子にも(メタ)アクリル基が結合してしまうことが考えられる。また、例えば、トリフルオロアセチル基のようなもので窒素原子を保護した場合は、脱保護に6M水酸化ナトリウム水溶液のような強塩基が必要であるため、加水分解により(メタ)アクリル基と5位の酸素原子との結合が開裂してしまうことが懸念される。
本発明のように、モノクロロアセチル基等のα−ハロアルキルカルボニル基を保護基として用いた場合は、塩基にチオウレアを用いることで選択的な脱保護が可能であるため、加水分解による(メタ)アクリル基および5位の酸素原子間の結合の開裂が抑えられる。
本発明の製造方法で得られたポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)は、回収可能な新規アルコール酸化触媒や新規電荷貯蔵材料として期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】2−アザアダマンタン−N−クロロアセチルのLC−MS測定結果を示すグラフである。
【図2】2−アザアダマンタン−N−クロロアセチルのLC測定結果を示すグラフである。
【図3】5−ヒドロキシ−2−アザアダマンタン−N−クロロアセチルのLC−MS測定結果を示す図である。
【図4】5−ヒドロキシ−2−アザアダマンタン−N−クロロアセチルの1H−NMR測定結果を示す図である。
【図5】5−メタクリロイル−2−アザアダマンタン−N−クロロアセチルのLC−MS測定結果を示す図である。
【図6】5−メタクリロイル−2−アザアダマンタンのLC−MS測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)の製造方法は、下記スキームで示される一連の工程からなる。
【0017】
【化9】

【0018】
まず、上記各式における置換基について説明する。
上記各式において、式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、Xとしては、好ましくは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、より好ましくは塩素原子である。
【0019】
炭素数1〜10のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、1−メチル−n−ブチル基、2−メチル−n−ブチル基、3−メチル−n−ブチル基、1,1−ジメチル−n−プロピル基、1,2−ジメチル−n−プロピル基、2,2−ジメチル−n−プロピル基、1−エチル−n−プロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、1−メチル−n−ペンチル基、2−メチル−n−ペンチル基、3−メチル−n−ペンチル基、4−メチル−n−ペンチル基、1,1−ジメチル−n−ブチル基、1,2−ジメチル−n−ブチル基、1,3−ジメチル−n−ブチル基、2,2−ジメチル−n−ブチル基、2,3−ジメチル−n−ブチル基、3,3−ジメチル−n−ブチル基、1−エチル−n−ブチル基、2−エチル−n−ブチル基、1,1,2−トリメチル−n−プロピル基、1,2,2−トリメチル−n−プロピル基、1−エチル−1−メチル−n−プロピル基、1−エチル−2−メチル−n−プロピル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
2としては、水素原子が好ましい。
nは、2以上の整数であるが、2〜100の整数が好ましい。
【0020】
次に、本発明に係るポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)の製造方法について説明する。
[1]工程1:式(5)で示される5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタンの製造
工程1は、上記式(4)で示される5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−α−ハロアルキルカルボニル化合物を、塩基であるチオウレアで処理して、窒素原子上の保護基を脱保護する工程である。
この場合、チオウレアの使用量は、式(5)で示される化合物1molに対して、1〜10mol程度が好ましく、1〜5mol程度がより好ましい。
反応温度は、0℃から使用する溶媒の沸点までで適宜設定すればよいが、0〜100℃程度が好ましい。反応時間は、0.1〜48時間程度である。
【0021】
この反応に用いられる溶媒としては、反応を妨げないものであれば任意であり、例えば、水:メタノール,エタノール,1−プロパノール,2−プロパノール,1−ブタノール、2−ブタノール,i−ブタノール,t−ブタノール,1−ペンタノール,2−ペンタノール,3−ペンタノール,i−ペンタノール,t−ペンタノール,1−ヘキサノール,1−ヘプタノール,2−ヘプタノール,3−ヘプタノール,2−オクタノール,2−エチル−1−ヘキサノール,ベンジルアルコール,シクロヘキサノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類などが挙げられるが、水、アルコール類が好ましく、水とアルコールの混合溶媒がより好ましく、水とエタノールの混合溶媒がより一層好ましい。
【0022】
[2]工程2:式(6)で示されるポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン)の製造
工程2は、工程1で得られた5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタンを重合開始剤の存在下でラジカル重合させてポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン)を製造する工程である。
ラジカル重合開始剤としては、従来公知のものから適宜選択して用いることができ、例えば、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスメチルブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル等のアゾ系化合物などが挙げられ、これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
ラジカル重合開始剤の使用量は、式(5)で示される化合物1molに対して、0.01〜5mol程度である。
反応温度は、0℃から使用する溶媒の沸点までで適宜設定すればよいが、20〜100℃程度が好ましい。反応時間は、0.1〜12時間程度である。
【0023】
重合反応に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、ラジカル重合反応で一般的に使用されている各種溶媒から適宜選択して用いればよい。具体的には、上述した溶媒に加え、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、イソプロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、セロソルブアセテート等のエステル類;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン,アニソール等の脂肪族または芳香族炭化水素類;メチラール、ジエチルアセタール等のアセタール類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪酸類;ニトロプロパン、ニトロベンゼン、ジメチルアミン、モノエタノールアミン、ピリジン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド,アセトニトリル等が挙げられ、これらは1種単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
【0024】
[3]工程3:式(7)で示されるポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)の製造
工程3は、工程2で得られた式(6)で示される化合物を酸化して目的物であるポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)を製造する工程である。
この場合、酸化剤としては、従来ニトロキシル化に用いられる種々の酸化剤から適宜選択して用いることができ、例えば、メタクロロ過安息香酸(m−CPBA)、ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1′−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチレンシクロヘキサン、1,3−ジ−(t−ブチルパーオキシ)−ジイソプロピルベンゼン等の有機過酸化物;尿素−過酸化水素付加体、過酸化水素等が挙げられる。
酸化剤の使用量は、式(6)で示される化合物1molに対して、1〜10mol程度とすることができるが、1〜5mol程度が好ましい。
反応温度は、0℃から使用する溶媒の沸点までで適宜設定すればよいが、0〜100℃程度が好ましい。反応時間は、0.1〜24時間程度である。
この反応においても、反応に悪影響を及ぼさない溶媒を用いることができ、その具体例としては、上述した溶媒と同様のものが挙げられるが、中でも、ハロゲン化炭化水素類が好適である。
【0025】
本発明の製造方法で得られるポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン)およびそのオキシル化体の分子量は、特に限定されるものではないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる測定値(ポリスチレン換算値)で数平均分子量1,000〜100,000程度が好ましく、5,000〜50,000程度が好ましい。
【0026】
なお、以上説明した一連の工程の出発原料となる式(4)で示される5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−α−ハロアルキルカルボニル化合物の製造方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができるが、本発明においては、下記スキームで示される方法を用いることが好ましい。
【0027】
【化10】

(式中、R2およびXは前記と同じ。)
【0028】
すなわち、式(1)で示される2−アザアダマンタンを酸ハロゲン化物で処理して式(2)で示される2−アザアダマンタン−N−α−ハロアルキルカルボニル化合物に誘導し、これを金属触媒存在下、酸化剤で処理して式(3)で示される5−ヒドロキシル−2−アザアダマンタン−N−α−ハロアルキルカルボニル化合物に誘導し、これを(メタ)アクリル酸ハロゲン化物で処理して式(4)で表される化合物へと導く方法である。
【0029】
式(1)で示される2−アザアダマンタンと酸ハロゲン化物との反応は、有機溶媒中、塩基の存在下でアミンと酸ハロゲン化物とを反応させる従来公知の手法を用いればよい。
酸ハロゲン化物の使用量は、2−アザアダマンタン1molに対して、1〜10mol程度であるが、1〜5mol程度が好ましい。
上記塩基の具体例としては、炭酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムエトキシド、酢酸ナトリウム、トリエチルアミン、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、酢酸カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化バリウム、リン酸三リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、フッ化セシウム、酸化アルミニウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピペリジン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N−メチルモルホリン等が挙げられる。
塩基の使用量は、2−アザアダマンタン1molに対して1〜10mol程度であるが、1〜5molがより好ましい。
反応温度は、0℃から使用する溶媒の沸点までで適宜設定すればよいが、0〜100℃程度が好ましい。反応時間は、0.1〜24時間程度である。
有機溶媒としては、上述した各種有機溶媒が挙げられるが、中でも、芳香族炭化水素類が好適である。
【0030】
アダマンタン環の5位の炭素原子の酸化反応としては、アダマンタンから1−アダマンタノールを得るための文献公知の反応を用いることができ、例えば、特開2003−183204号公報記載の濃硫酸を用いる方法、特開2000−344696号公報記載の過酸化水素を用いる方法、特開2004−339105号公報記載の塩化ルテニウムを用いる方法、特開2004−26778号公報記載のオゾンを用いる方法などを用いることができるが、本発明においては、金属触媒の存在下、酸化剤を用いる手法が好適である。
金属触媒としては、銅、鉄、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム等を中心金属とする塩などを用いることができるが、好ましくはルテニウム塩である。ルテニウム塩としては、RuBr3、RuI3、RuCl3等のハロゲン化ルテニウム(III)が挙げられ、これらは水和物として用いてもよい。
金属触媒の使用量は、式(2)で示される化合物1molに対して0.01〜10mol程度である。
酸化剤としては、過ヨウ素酸ナトリウム等が挙げられる。
酸化剤の使用量は、式(2)で示される化合物1molに対して1〜10mol程度である。
反応温度は、0℃から使用する溶媒の沸点までで適宜設定すればよいが、50〜100℃程度が好ましい。反応時間は、0.1〜48時間程度である。
この酸化反応にも、反応に悪影響を及ぼさない溶媒を用いることができる。溶媒としては、上述と同様のものが挙げられるが、過ヨウ素酸ナトリウム等の有機溶媒に難溶の酸化剤を用いる場合は、水と有機溶媒との混合溶媒が用いられる。この場合の有機溶媒としては、ハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が好適である。
【0031】
上記酸化によって導入したアダマンタン環5位のヒドロキシル基と、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物との反応は、有機溶媒中、塩基の存在下でヒドロキシル基と酸ハロゲン化物とを反応させる従来公知の手法を用いればよい。
(メタ)アクリル酸ハロゲン化物の使用量は、式(3)で示される化合物1molに対して、1〜10mol程度であるが、1〜5mol程度が好ましい。
この塩基の具体例としては、上記と同様のものが挙げられ、その使用量は、式(3)で示される化合物1molに対して1〜10molが好ましく、1〜5molがより好ましい。
反応温度は、0℃から使用する溶媒の沸点までで適宜設定すればよいが、0〜100℃程度が好ましい。反応時間は、0.1〜48時間程度である。
有機溶媒としては、上述した各種有機溶媒が挙げられるが、中でも、ハロゲン化炭化水素類が好適である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。実施例で用いた各測定装置は以下のとおりである。
[LC−MS]
装置:LC Waters Alliance,MS Waters Micromass ZQ
カラム:X Bridge C18 (5.0μm, 2.1mmI.D.×150mm)
1H−NMR]
装置:JEOL ECX-300
測定溶媒:CDCl3
基準物質:TMS(0.03 v/v%)
[GPC]
装置:SHIMADZU HPLC
カラム:Shodex GPC K-804L
カラム温度:60℃
溶媒:NMP(LiCl 1g/L)
検出器:UV 254nm
検量線:標準ポリスチレン
【0033】
[実施例1]2−アザアダマンタン−N−クロロアセチル[1]の合成
【化11】

【0034】
国際公開第2009/066735号パンフレット記載の方法により合成した2−アザアダマンタン(30g、220mmol)をトルエン(380g)中に室温で溶解させた。この混合物にトリエチルアミン(39g、374mmol)を加えた。20分間撹拌した後、クロロアセチルクロライド(35g、311mmol)を90分間かけて滴下した。生成した沈殿物をろ過で除き、水500mLを加えて撹拌し、トルエン層と水層とに分液した。トルエン層をロータリーエバポレーターで濃縮し、溶媒を留去したところ、褐色のオイル状混合物が得られた。この混合物にトルエン(500mL)、5%炭酸水素ナトリウム水溶液(100mL)を添加して分液し、得られたトルエン層を再びロータリーエバポレーターで濃縮し、溶媒を留去したところ、褐色の粉末(30g,得率63%)が得られた。
生成物をアセトニトリルに溶解して、液層クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)を行った結果を図1に示す。その結果、分子イオンとして、質量/電荷(m/z)が、213(M)+となり、分子量は213で目的物と一致した。また、生成物の高速液体クロマトグラフィーの結果を図2に示す。生成物の純度は面積百分率で100%であった。
【0035】
[実施例2]5−ヒドロキシル−2−アザアダマンタン−N−クロロアセチル[2]の合成
【化12】

【0036】
過ヨウ素酸ナトリウム(60g,280mmol)を水(970mL)に溶解させた。この溶液を撹拌しながら、RuCl3・xH2O(Ru:38−42%)(2.5g)を添加した。この懸濁液中に、実施例1で合成した2−アザアダマンタン−N−クロロアセチル[1](10g,48mmol)、アセトニトリル(100mL)、および1,2−ジクロロエタン(100mL)を添加し、オイルバス中、65℃で20時間加熱、撹拌を行った。加熱終了後、混合液から分液漏斗を用いて、ジクロロメタン(1L)で3回抽出を行った。得られたジクロロメタン層を、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて単離、精製を行った。
生成物をアセトニトリルに溶解し、LC−MSを測定した結果を図3に示す。その結果、分子イオンとして、質量/電荷(m/z)が、231(M+H)+となり、分子量は230で目的物と一致した。さらに、生成物をCDCl3に溶解し、1H−NMRを測定した結果を図4に示す。
1H−NMR 300MHz;δppm 1.80(m,11H),2.39(s,1H),4.28(s,1H),4.99(s,1H)
【0037】
[実施例3]5−メタクリロイル−2−アザアダマンタン−N−クロロアセチル[3]の合成
【化13】

【0038】
実施例2で合成した5−ヒドロキシル−2−アザアダマンタン−N−クロロアセチル[2](4.8g,21mmol)をジクロロメタン(32mL)に溶解した。この溶液を撹拌、冷却しながらトリエチルアミン(6.7g,66mmol)とメタクリル酸クロライド(6.6g,64mmol)とをそれぞれ添加した。1時間撹拌後、これに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50mL)を加えて撹拌し、水層と有機層とに分けた。水層は分液漏斗を用いてジクロロメタン(50mL)で2回抽出した。得られた3回分の有機層はロータリーエバポレーターで濃縮した。濃縮物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去したところ、黄色のオイル(4.1g)が得られた。
生成物をアセトニトリルに溶解して、液層クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)を行った結果を図5に示す。その結果、分子イオンとして、質量/電荷(m/z)が、300(M+H)+となり、分子量は299で目的物と一致した。
【0039】
[実施例4]5−メタクリロイル−2−アザアダマンタン[4]の合成
【化14】

【0040】
実施例3で合成した5−メタクリロイル−2−アザアダマンタン−N−クロロアセチル[3](2.0g,6.8mmol)をエタノール(16g)に溶解し、撹拌しながらチオウレア(1.1g,14mmol)を添加した。この混合物に水(20g)を添加し、一晩加熱還流を行った。ロータリーエバポレーターで溶媒を留去後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(80g)およびクロロホルム(100g)を添加して撹拌した。この混合物から水層を除去し、残った有機層は希硫酸(50g)で3回抽出した。抽出した希硫酸を再びクロロホルム(250g)で3回抽出した後、ロータリーエバポレーターで6gまで濃縮し、目的物を得た。
生成物をアセトニトリルに希釈して、液層クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)を行った結果を図6に示す。その結果、分子イオンとして、質量/電荷(m/z)が、222(M+H)+となり、分子量は221で目的物と一致した。
【0041】
[実施例5]ポリ(5−メタクリロイル−2−アザアダマンタン)[5]の合成
【化15】

【0042】
実施例4で合成した5−メタクリロイルアザアダマンタン[4](0.7g,3mmol含有)のクロロホルム(3g)溶液に、AIBN(0.021g,0.13mmol)を添加し、1時間加熱還流を行った。この反応混合物にヘキサン(100mL)を添加することで、白色の沈殿として目的物(84mg)が得られた。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで分子量を測定したところ、Mn=20,000(Mw=31,000)であった。
【0043】
[実施例6]ポリ(5−メタクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)[6]の合成
【化16】

【0044】
m−CPBA(0.45g)をジクロロメタン(2.5mL)に溶解し、m−CPBAのジクロロメタン溶液を作製した。実施例5で合成したポリ(5−メタクリロイルアザアダマンタン)[5](0.25g)をジクロロメタン(2.5mL)に溶解し、この溶液に対して上記m−CPBAジクロロメタン溶液を1時間かけて滴下した。滴下後、6時間撹拌し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1mL)および水(1mL)を加え、撹拌した。この2層混合溶液のジクロロメタン層を取り出し、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去したところ、赤色の粉末(25mg)が得られた。生成物が赤色に変化したことで骨格内にニトロキシルラジカルが発生したことを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(4)
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
で示される5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−α−ハロアルキルカルボニル化合物を、チオウレアで処理して式(5)
【化2】

(式中、R1は前記と同じ。)
で示される5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタンを得、これをラジカル重合させて式(6)
【化3】

(式中、R1は前記と同じ。nは2以上の整数を表す。)
で示されるポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン)を得、これを酸化剤で処理することを特徴とする式(7)
【化4】

(式中、R1およびnは前記と同じ。)
で示されるポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)の製造方法。
【請求項2】
前記酸化剤が、メタクロロ過安息香酸である請求項1記載のポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)の製造方法。
【請求項3】
前記R2が、水素原子、かつ、前記Xが、塩素原子である請求項1または2記載のポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)の製造方法。
【請求項4】
前記式(4)で示される5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−α−ハロアルキルカルボニル化合物が、式(1)
【化5】

で示される2−アザアダマンタンを酸ハロゲン化物で処理し、式(2)
【化6】

(式中、R2およびXは前記と同じ。)
で示される2−アザアダマンタン−N−α−ハロアルキルカルボニル化合物を得、これを金属触媒存在下、酸化剤で処理し、式(3)
【化7】

(式中、R2およびXは前記と同じ。)
で示される5−ヒドロキシル−2−アザアダマンタン−N−α−ハロアルキルカルボニル化合物を得、これを(メタ)アクリル酸ハロゲン化物で処理して得られたものである請求項1記載のポリ(5−(メタ)アクリロイル−2−アザアダマンタン−N−オキシル)の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−12454(P2012−12454A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148930(P2010−148930)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】