ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体、及びその製造方法
【課題】 簡便にまた大量に生産が可能な、導電性を有する新規なナノサイズまたはマイクロサイズの材料を提供すること。
【解決手段】 N−アルキルカルバゾールを特定の溶媒中で電解重合することで、導電性を有するポリ(N−アルキルカルバゾール)の柱状構造体を得ることができる。
【解決手段】 N−アルキルカルバゾールを特定の溶媒中で電解重合することで、導電性を有するポリ(N−アルキルカルバゾール)の柱状構造体を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有する新規な樹脂構造体に関し、詳しくはポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子は、レドックス特性(酸化還元特性)やドーピング・脱ドーピング特性などの特性を有していることから、機能性材料として様々な分野での応用が期待される材料である。これらの材料をナノサイズ化することにより、その導電性を活かして電界放出ディスプレイ(FED)等における電界放出素子などに用いられる電界放出材料、配線材料、センサー、電気化学キャパシタ、プローブ顕微鏡用探針、触媒担体等の各種の用途に利用することが期待される。
【0003】
ナノサイズ化した導電性高分子に関しては、ナノシリンダーを用いた電気化学的手法により、ポリピロール、およびポリチオフェンのナノサイズの導電性高分子を製造する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。しかしながらこの方法では、電解溶媒として超臨界流体あるいは亜臨界流体を用いることから、装置が複雑となりコストもかかり、大量生産には不向きである。また、この方法を用いた場合、鋳型を除去する必要があるためプロセスも煩雑となり、鋳型も1回のみの使用となるので、更にコストが高くなるという問題もあった。
【0004】
近年、カーボンナノチューブや金属ナノワイヤーの発見がなされ、導電性ナノ材料への関心が高まっている。平均径が数nm〜数百nm程度で、平均長さが1μm程度以上のナノ材料は、導電性材料、電子放出素子、カーボンナノチューブのテンプレート等の用途に用いられている。現在のところ、導電性高分子のナノ材料の製造方法は、特許文献1にも記載されているようなナノシリンダーやテンプレートを用いる方法が知られているのみである。
【0005】
一方、カルバゾールは、分子式がC12H9Nで表される複素環式化合物であり、導電性を有する化合物である。その誘導体であるN−アルキルカルバゾールは、セルロースと溶媒中で反応させることでLED用の機能性化合物とすることができることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−239835号公報
【特許文献2】特開2007−009049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記要求に鑑み、簡便にまた大量に生産が可能な、導電性を有する新規材料を提供することを本発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリ(N−アルキルカルバゾール)が有機溶媒に溶解する知見に基づき、有機透明導電体を発明した。この材料について更なる研究を進めた結果、N−アルキルカルバゾールを特定の溶媒中で電解重合することで、導電性を有するポリ(N−アルキルカルバゾール)の柱状構造体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、以下の構成である。
[1] ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
[2] 直径が0.1〜10μmである、前記[1]項に記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
[3] N−アルキルカルバゾールをアルコール溶媒中で電解重合してなる、ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
[4] 前記アルコール溶媒は、1mM〜10Mの支持電解質を含有することを特徴とする、前記[3]項に記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
[5] 前記支持電解質が過塩素酸テトラブチルアンモニウムであることを特徴とする、前記[4]項に記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
[6] 前記ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体が、中空状であることを特徴とする、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
[7] N−アルキルカルバゾールを重合させ、ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体を製造する方法であって、支持電解質を含有するアルコール溶媒中で前記N−アルキルカルバゾールを電解重合することを特徴とする、ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
新規な高分子材料である、本発明のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、導電性を有し、機能性材料として様々な用途への適用が期待される。また、製造方法が簡易であるため、特別なシリンダーを用いたり、高い圧力を印加する必要がない。また、電解重合において用いる動作電極の面積に応じて、一度に大量のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体を生産できる利点もあり、生産性にも優れている。
【0011】
本発明のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、ナノ及びマイクロサイズの柱状構造であることから、表面積を稼ぐことができる。特に中空の構造を有する本発明のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、単なる柱状構造体と比べ、膨大な表面積を稼ぐことができる。ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、大きな表面積を有することから、様々な反応の効率を上げられるので、(1)電磁波吸収材などの導電性材料、(2)ケーブルなどの配線素材、(3)2次電池やキャパシタ材料、(4)触媒、(5)抗菌繊維、(6)プローブ顕微鏡のプローブ、(7)電子放出源等に有用である。ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、ナノ及びマイクロサイズ柱状構造体であることから、様々な材料との混合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例において製造したN−n−オクチルカルバゾールのNMRチャートを示す図である。
【図2】実施例1において、−20℃の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図3】実施例1において、−10℃の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図3−1】図3よりも更に拡大したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図3−2】図3よりも更に拡大したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図4】実施例1において、0℃の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図5】実施例1において、10℃の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図6】実施例1において、20℃の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図7】実施例1において、40℃の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図7−1】図7よりも更に拡大したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図7−2】図7−1よりも更に拡大したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図8】実施例2において、通電量1mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図9】実施例2において、通電量5mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図10】実施例2において、通電量10mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図11】実施例2において、通電量30mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図12】実施例2において、通電量60mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図13】実施例3において、通電量2.4mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図14】実施例3において、通電量5mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図15】実施例3において、通電量10mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図16】実施例3において、通電量30mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図17】実施例4において、N−メチルカルバゾールの濃度10mMの条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図18】実施例4において、N−メチルカルバゾールの濃度15mMの条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図19】実施例4において、N−メチルカルバゾールの濃度20mMの条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図20】実施例5において、N−メチルカルバゾールの濃度5mMの条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図20−1】図20よりも更に拡大したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図20−2】図20−1よりも更に拡大したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図21】実施例5において、N−メチルカルバゾールの濃度10mMの条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図22】実施例5において、N−メチルカルバゾールの濃度20mMの条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図22−1】図22よりも更に拡大したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図22−2】図22−1よりも更に拡大したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ポリ(N−アルキルカルバゾール)の柱状構造体である。ポリ(N−アルキ
ルカルバゾール)とは、下記式(1)で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを重合して得られる重合度が2以上のN−アルキルカルバゾール重合体をいう。
【0014】
【化1】
【0015】
上記式中、nは1以上の整数であり、アルキル(CnH2n+1)は、1つ又は複数の水素がヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。また、カルバゾールのN位と結合している炭素は、1級炭素又は2級炭素であることが好ましい。
【0016】
本発明で得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)は、1種類のN−アルキルカルバゾールを重合させて得られるホモポリマーであっても、2種類以上のN−アルキルカルバゾールを共重合させて得られるコポリマーであってもよい。また、ポリ(N−アルキルカルバゾール)としては、1種類のポリ(N−アルキルカルバゾール)のみで用いても、炭素数の異なるアルキルからなる2種類のポリ(N−アルキルカルバゾール)を混合して用いてもよい。また、ポリ(N−アルキルカルバゾール)の重合度は、2〜1,000であることが好ましく、2〜100であることがより好ましく、4〜22であることが特に好ましい。
【0017】
先に説明したように、ポリ(N−アルキルカルバゾール)は、本発明者らにより既に合成されており、特願2009−107096として出願済みである。上記先願のポリ(N−アルキルカルバゾール)は膜状の構造体であるが、本発明は、先願の発明とは異なり、ナノサイズ及びマイクロサイズの柱状構造体であることを特徴とする。本発明において柱状とは、先願の膜状の構造体と区別する概念であり、円柱及び、三角柱、四角柱などの多角柱を意味する。また、中空状の柱状であっても本発明の柱状に当然に含まれる。一般的に、チューブ、ワイヤーなどと表現される形状は本発明の柱状に含まれる。なお、ナノサイズ及びマイクロサイズの材料を用いる場合には、表面積が大きくなるという観点から、中空状、すなわちチューブ状であることが好ましい。
【0018】
また、本発明はナノサイズの柱状構造体と表現できるとおり、非常に小さな構造体を製造することができる。構造体の直径が、0.1〜10μmであり、好ましくは0.1〜5μmであり、更に好ましくは0.1〜1.7μmである。構造体の長さは、1μm以上であれば、特に限定されない。本発明において、構造体の直径とは、円柱であれば円柱の直径を意味し、角柱であれば、角柱の断面上の最長対角線の長さを意味する。また、構造体が中空状である場合には外径を意味する。なお、本発明の構造体の大きさは、電子顕微鏡による観察により、測定することができる。
【0019】
本発明の柱状構造体をナノサイズの材料として用いる場合には、平均径が数μm、平均長さが1μm以上の構造体の集合とすることが好ましい。
【0020】
本発明のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、N−アルキルカルバゾール
を、特定の溶媒、特にアルコールを溶媒として用いた電解重合により重合することで、製造することができる。このような方法により、動作電極上にポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体が製造される。
【0021】
製造された本発明のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、SEMなどの電子顕微鏡により確認することができ、ナノサイズまたはマイクロサイズで、チューブ状、またはワイヤー状の形状をしている。また、導電性を有しており、様々な用途への展開が期待されるものである。以下、製造方法について詳細に説明する。
【0022】
(N−アルキルカルバゾールの合成)
カルバゾールのN位にアルキルが結合したN−アルキルカルバゾールは、水素化ナトリウム等の強塩基性のアルカリ金属化合物存在下で、カルバゾールとアルキル化剤であるハロゲン化アルキルとの脱ハロゲン化水素反応により合成することができる。または、カルバゾールカリウム塩とハロゲン化アルキルの脱ハロゲン化カリウム反応で合成することができる。N−アルキルカルバゾールのアルキルは特に限定されないが、炭素数が1以上(上記式(1)において、nが1以上を示す。)のアルキルであればよい。商業的に入手容易という観点から、炭素数22以下(上記式において、nが22以下を示す。)のアルキルであることが好ましい。炭素数1〜8がさらに好ましく、特に好ましくは炭素数が1〜4である。具体的には、N−メチルカルバゾール、N−エチルカルバゾール、N−プロピルカルバゾール、N−イソプロピルカルバゾール、N−ブチルカルバゾールが好ましい。また、アルキルの1つ又は複数の水素が、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられてもよい。
【0023】
(ハロゲン化アルキル)
上記アルキル化剤であるハロゲン化アルキルは、試薬メーカーより入手することができる。実験室で取り扱うには、反応性、アルキルの種類の豊富さから、アルキルモノ臭化物が扱いやすい。入手できるアルキルモノ臭化物は、具体的に、1−ブロモプロパン、2−ブロモプロパン、1−ブロモブタン、2−ブロモブタン、1−ブロモ−2−メチルプロパン、2−ブロモ−2−メチルプロパン、1−ブロモ−3−メチル−ブタン、1−ブロモヘキサン、2−ブロモヘキサン、3−ブロモヘキサン、1−ブロモメチルペンタン、1−ブロモヘプタン、3−ブロモヘプタン、4−ブロモヘプタン、1−ブロモ−5−メチルヘキサン、1−ブロモ−2−エチルヘキサン、1−ブロモオクタン、2−ブロモオクタン、1−ブロモノナン、2−ブロモノナン、1−ブロモデカン、1−ブロモウンデカン、1−ブロモドデカン、2−ブロモドデカン、1−ブロモトリデカン、1−ブロモテトラデカン、2−ブロモテトラデカン、1−ブロモペンタデカン、1−ブロモヘプタデカン、1−ブロモ−2−メチルヘキサデカン、1−ブロモオクタデカン、1−ブロモエイコサン、1−ブロモドコサンがあり、東京化成工業(株)、シグマアルドリッチジャパン(株)、ランカスター社等から入手できる。
【0024】
(ハロゲン化アルキルの合成)
上記ハロゲン化アルキルは、アルキルモノハロゲン化物以外に、アルケンのハロゲン水素付加反応により得ることができる。この反応は、アルケン溶液にハロゲン化水素を添加することで容易に進行する。アルケンのハロゲン化水素付加反応でハロゲン化アルキルを得るには、JOHN WILEY & SON,INC.出版のOrganic Syntheses IV 543−544頁(1962年発行)記載の方法に従ってアルキルモノヨウ化物をアルケンのヨウ化水素付加反応により、合成することが都合がよい。
【0025】
入手できる上記アルケンには、3,3−ジメチル−1−ブテン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−2−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、2−ヘプテン、3−ヘプテン、3−メチ
ル−1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、4−メチル−2−ヘキセン、5−メチル−1−ヘキセン、5−メチル−2−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ヘキセン、5−メチル−2−ヘプテン、5−メチル−3−ヘプテン、2−オクテン、trans−3−オクテン、trans−4−オクテン、2−ノネン、4−ノネン、3,3,5−トリメチル−1−ヘキセン、cis−2−デセン、cis−4−デセン、cis−5−デセン、5−ドデセン、7−テトラデセン、cis−9−トリコセンがあり、東京化成工業(株)等より入手できる。
【0026】
上記、アルケンのヨウ化水素付加反応により、2−ヨード−3,3−ブタン、3−ヨードヘキサン、4−ブロモヘキサン、2−ヨード−4−メチルペンタン、3−ヨード−4−メチルペンタン、2−ヨード−3,3−ジメチルペンタン、2−ヨード−4,4−ジメチルペンタン、3−ヨード−ヘプタン、4−ヨードヘプタン、2−ヨード−3−メチルヘキサン、2−ヨード−4−メチルヘキサン、3−ヨード−4−メチルヘキサン、2−ヨード−5−メチルヘキサン、3−ヨード−5−メチルヘキサン、2−ヨード−ジメチルヘキサン、2−ヨード−3,4−ジメチルヘキサン、2−ヨード−4,4−ヘキサン、3−ヨード−5−メチルヘプタン、4−ヨード−5−メチルヘプタン、3−ヨード−オクタン、4−ヨードオクタン、5−ヨードオクタン、3−ヨードノナン、5−ヨードノナン、2−ヨード−3,3,5−ヘキサン、3−ヨードデカン、4−ヨードデカン、6−ヨードデカン、6−ヨード−ドデセン、8−テトラデセン、10−ヨードトリコサンを得ることができる。
【0027】
(電解重合)
本発明において電解重合とは、通電手段を用いることにより、重合性モノマーを重合させる重合方法である。
まず、上記の方法で合成したN−アルキルカルバゾールを特定の溶媒、特にアルコール溶媒に溶かす。このとき、溶媒中のN−アルキルカルバゾール濃度は溶媒を100重量部とした場合に0.002〜200重量部であることが好ましく、0.02〜20重量部であることが好ましい。N−アルキルカルバゾールの濃度をこのような範囲とすることで、十分な反応速度で重合反応を行うことができる。
【0028】
上記溶媒として、アルコールを用いる場合には、水と混合した混合溶媒を用いることができる。混合溶媒とする場合には、アルコールと水の容量比を1〜99:99〜1とすることができる。溶媒として用いるアルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられ、特にメタノール、エタノールであることが好ましい。また、アルコール溶媒以外にも、N−アルキルカルバゾールの種類によって、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、アニソール、N−メチルピロリドンなどを溶媒として用いることができる。
【0029】
上記溶媒中には、支持電解質を添加することが好ましい。支持電解質としては、例えば、NaClO4、NaBF4、NaPF6、NaCl、NaBr、NaI、Na2SO4、NaNO3、CH3COONaなどのナトリウム塩、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiCl、LiBr、LiI、Li2SO4、LiNO3、CH3COOLiなどのリチウム塩、KClO4、KBF4、KPF6、KCl、KBr、KI、K2SO4,KNO3,CH3COOKなどのカリウム塩、さらには二価の金属(カルシウム塩、マグネシウム塩)などの塩、加えて、(C4H9)4NClO4、(C3H7)4NClO4、(C2H5)4NClO4、(CH3)4NClO4などのテトラアルキルアンモニウムの塩が好適に用いられる。このうち、(C4H9)4NClO4で表される過塩素酸テトラブチルアンモニウムが溶解性に優れるため濃度調整の範囲が広い、安価である、電極反応に対して極めて不活性であるために、柱状構造体の形成を妨げない等のため好ましい。
【0030】
上記支持電解質の添加量は、電気化学反応を生じさせることができれば特に限定されないが、0.001〜5Mが好ましく、0.01〜1Mがより好ましく、0.01〜0.5Mが特に好ましい。このような範囲とすることで、N−アルキルカルバゾールの電解重合の駆動力である電気二重層の形成を十分に行うことができるという効果がある。
【0031】
動作電極としては、電気化学的な酸化に耐える導電性材料であればよく、Pt、Au、カーボン、Co、Cu、Al、Ni、ステンレス鋼などの金属、およびグラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレン、DLC(ダイアモンド状の炭素フィルム)などの炭素材料が使用できる。また、動作電極としては、酸化インジウム・錫(ITO)などの導電性酸化物や導電性プラスチックスでもよい。対向電極としては、溶解等を起こして電解液を汚染することがない材料であればよく、白金板、白金線、白金網などが好ましく使用できる。また、対向電極としては、電気化学的な還元に耐えるその他の材料も利用でき、例えば、金、カーボン、ステンレス鋼などでもよい。
【0032】
上記動作電極および対向電極の間に印加する電圧としては、飽和カロメル参照電極に対して+0.5〜3.0Vであることが好ましく、+1.0〜2.0V以下であることが好ましい。電圧をこのような範囲とすることで、重合体が生成し易くなる。参照電極を用いない場合、陽極と陰極の間に印加する電圧としては、同様の理由により+0.9V以上+4.0V以下であることが好ましく、より好ましくは+1.0V以上+3.0V以下である。また、この参照電極を用いない電解において、印加電圧が上記範囲内に入る場合に、陽極と陰極の間に一定電流を流すことによってもポリ(N−アルキルカルバゾール)の電解重合を行うことができる。
【0033】
また、本実施形態における電解重合は、空気中においても行うことはできるが、空気中の酸素の影響をできる限り少なくするため窒素雰囲気中で行うことが好ましく、溶液に対し窒素バブリングを行うことがより好ましい。
【0034】
また、本実施形態における電解重合の重合温度は、限定されるわけではないが、高い電気伝導度を有するポリN−アルキルカルバゾール柱状構造体を形成する観点から−40℃以上40℃以下であることが好ましい。柱状構造体の形成量を多くする観点から、0℃以上40℃以下であることがより好ましく、10℃以上40℃以下であることが特に好ましい。
【0035】
上記方法により製造された、本発明のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、動作電極上に柱状の構造体として形成される。その大きさは、直径が0.1〜10μmであり、膜状のポリ(N−アルキルカルバゾール)とは明確に区別されるものである。ナノサイズの材料として用いる場合には、直径が0.1〜5μmであることが好ましく、0.1〜1.7μmであることがより好ましい。
【0036】
一方、その長さは特に限定されないが、1μm以上であることが好ましい。また、長さの上限値は特段問題にならないは、材料としての扱い易さから、1mm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。
【0037】
また、ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体が中空状であると、表面積をさらに稼げるため好ましい。この場合、チューブ壁の厚さは1nm以上であることが好ましい。
【0038】
このようにして得られたポリ(N−アルキルカルバゾール)の柱状構造体は、導電性を有し、かつ表面積を稼げるため、ナノサイズおよびマイクロサイズの導電性材料として様々な用途への応用が期待できる。
【実施例】
【0039】
以下、上記実施形態に基づき実際にポリ(N−アルキルカルバゾール)の柱状構造体の作製を行い本発明の効果の確認を行った。以下、実施例を用いて説明を行うが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(アルキル化剤の合成)
N−アルキルカルバゾールの製造に用いるアルキル化剤は、アルキルモノ臭素化物を東京化成工業(株)、シグマ−アルドリッチ社及びランカスター社より購入した。試薬として購入できないアルキル化剤は、JOHN WILEY & SON,INC.出版のOrganic Syntheses IV 543−544頁(1962年発行)の例に従ってアルケンのヨウ化水素付加反応により合成した。
【0041】
原料となるアルケン1当量に対して、ヨウ化カリウム3当量と95重量%リン酸4.3当量の混合物を加え、撹拌しながら80℃で3時間加熱した。95重量%リン酸は、85重量%リン酸に98重量%リン酸(東京化成工業(株)製)を加えることで調製した。反応液を冷却後、水と石油エーテルを加え、撹拌後、分液した。石油エーテル層を10重量%チオ硫酸ナトリウムで脱色し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。石油エーテルを蒸発させた後、アルキルモノヨウ化物を減圧蒸留により得た。
【0042】
(N−アルキルカルバゾールの合成)
テトラヒドロフランとN,N−ジメチルホルムアミドの3対1(容量比)の混合溶媒にカルバゾールを溶解し、上記で得たアルキル剤(アルキル臭化物又はアルキルヨウ化物)をカルバゾール1当量に対して1当量加え、撹拌しながら水素化ナトリウム1.5当量に相当する60重量%の水素化ナトリウム鉱物油分散物(関東化学(株)製、商品名「水素化ナトリウム」)を徐々に加え、室温で1時間撹拌した。そこに、反応を停止させるためにメタノールを気泡が出なくなるまで加えた後、溶媒を減圧下で蒸発除去した。残渣にジクロロメタンを加え、3N塩酸と水とで洗浄した。無水硫酸マグネシウムを加え乾燥し、濾過した。得られた濾液に含まれる溶媒を真空除去し、ヘキサンを展開溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより残渣を精製した。
【0043】
(N−n−オクチルカルバゾールの合成)
ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)の製造に用いるモノマー(N−n−オクチルカルバゾール)を例に具体的な合成法を説明する。
テトラヒドロフラン(30mL)とN,N−ジメチルホルムアミド(10mL)の混合溶液にカルバゾール(東京化成工業(株)製、6.0g、0.036mol)を溶かし、1−ブロモオクタン(東京化成工業(株)製、3.95g、0.036mol)を加え、さらに室温(約20℃)で60重量%水素化ナトリウム鉱物油分散物((関東化学(株)製、商品名「水素化ナトリウム」、2.16g、0.054mol)を徐々に添加し、1時間攪拌し反応を完了させた。
反応完了後、得られた反応液に、メタノールを気泡が出なくなるまで注ぎ、反応を停止させた。エバポレーターで反応液中の溶媒を除去後、濃縮物を塩化メチレンで抽出し、有機層を3N塩酸、水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した。濾液中の塩化メチレンをエバポレーターで除去し、ヘキサンを展開溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。エバポレーターでヘキサンを除去し、透明液体(8g、収率80%)を得た。H−NMRにより、N−n−オクチルカルバゾールであることが確認できた。また、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって純度が99.5%であることを確認した。図1にNMRチャートを示す。
また、実施例において使用したN−メチルカルバゾール、N−エチルカルバゾールは東
京化成工業(株)より購入した。
【0044】
ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体の直径の測定法
SEM写真において、作製したポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体の大きさに応じて柱状構造体が10以上100以下含まれる任意の範囲を設定し、その範囲内に存在するポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体10点の直径を測定し、その相加平均値を直径とした。
【0045】
(実施例1)
メタノール20mLに、終濃度が10mMとなるようにN−メチルカルバゾールを加え、さらに終濃度が0.1Mとなるように支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウムを加えた。この溶液を用い、動作電極としてITO、対向電極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、重合電位1.1V、通電量30mC/cm2で重合することで、ポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体を作製した。電解重合の温度条件を変化させ、それぞれの場合で作製したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体の動作電極上のSEM観察を図2〜7に示す。なお、図3及び図7については倍率を変化させて観察した。重合温度は、(1)−20℃(図2)、(2)−10℃(図3)、(3)0℃(図4)、(4)10℃(図5)、(5)20℃(図6)、(6)40℃(図7)の6条件で実施した。直径は、各々(1)0.6μm、(2)0.7μm、(3)0.6μm、(4)0.3μm、(5)0.4μm、(6)0.3μmであった。
【0046】
(実施例2)
メタノール20mLに、終濃度が10mMとなるようにN−メチルカルバゾールを加え、さらに終濃度が0.1Mとなるように支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウムを加えた。この溶液を用い、動作電極としてITO、対向電極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、重合電位1.1V、温度は−10℃で重合することで、ポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体を作製した。電解重合の通電量を変化させ、それぞれの場合で作製したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状ナノ構造体の動作電極上のSEM観察を図8〜12に示す。通電量は、(7)1mC/cm2(図8)、(8)5mC/cm2(図9)、(9)10mC/cm2(図10)、(10)30mC/cm2(図11)、(11)60mC/cm2(図12)の5条件で実施した。直径は、各々(7)1.3μm、(8)1.0μm、(9)0.9μm、(10)1.5μm、(11)1.1μmであった。
【0047】
(実施例3)
メタノール20mLに、終濃度が10mMとなるようにN−メチルカルバゾールを加え、さらに終濃度が0.1Mとなるように支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウムを加えた。この溶液を用い、動作電極としてITO、対向電極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、重合電位1.1V、温度は20℃で重合することで、ポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体を作製した。電解重合の通電量を変化させ、それぞれの場合で作製したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体の動作電極上のSEM観察を図13〜16に示す。通電量は、(12)2.4mC/cm2(図13)、(13)5mC/cm2(図14)、(14)10mC/cm2(図15)、(15)30mC/cm2(図16)の4条件で実施した。直径は、各々(12)0.5μm、(13)0.4μm、(14)0.4μm、(15)0.4μmであった。
【0048】
(実施例4)
メタノール20mLに、終濃度が下記の濃度となるようにN−メチルカルバゾールを加え、さらに終濃度が0.1Mとなるように支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウムを加えた。この溶液を用い、動作電極としてITO、対向電極として白金板、参照
電極として飽和カロメル電極を使用し、重合電位1.1V、温度は−10℃で通電量30mC/cm2で重合することで、ポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体を作製した。N−メチルカルバゾールの濃度を変化させ、それぞれの場合で作製したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体の動作電極上のSEM観察を図17〜19に示す。N−メチルカルバゾールの濃度は、(16)10mM(図17)、(17)15mM(図18)、(18)20mM(図19)の3条件で実施した。直径は、各々(16)1.0μm、(17)0.6μm、(18)0.4μmであった。
【0049】
(実施例5)
メタノール20mLに、終濃度が下記の濃度となるようにN−メチルカルバゾールを加え、さらに終濃度が0.1Mとなるように支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウムを加えた。この溶液を用い、動作電極としてITO、対向電極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、重合電位1.1V、温度は20℃で通電量30mC/cm2で重合することで、ポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体を作製した。N−メチルカルバゾールの濃度を変化させ、それぞれの場合で作製したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状ナノ構造体の動作電極上のSEM観察を図20〜22に示す。なお、図20および図22については、倍率を変化させて観察した。N−メチルカルバゾールの濃度は、(19)5mM(図20)、(20)10mM(図21)、(21)20mM(図22)の3条件で実施した。直径は、各々(19)0.2μm、(20)0.4μm、(21)0.3μmであった。
【0050】
(実施例6)
メタノール20mLに、終濃度が10mMとなるようにN−エチルカルバゾールを加え、さらに終濃度が0.1Mとなるように支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウムを加えた。この溶液を用い、動作電極としてITO、対向電極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、重合電位1.1V、温度は−10℃で通電量30mC/cm2で重合することで、ポリ(N−エチルカルバゾール)柱状構造体を作製した。作製した柱状構造体は、ひも状の形状をしており、長さは平均値20μm、直径は平均値1μmであった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、導電性高分子としての新規のナノサイズおよびマイクロサイズの材料である。本発明の構造体は、ナノサイズ及びマイクロサイズの柱状構造であることから、表面積を稼ぐことができる。特に中空の構造を有するものは膨大な表面積を稼ぐことができる。そのため反応の効率を上げられるので、(1)電磁波吸収材などの導電性材料、(2)ケーブルなどの配線素材、(3)2次電池やキャパシタ材料、(4)触媒、(5)抗菌繊維、(6)プローブ顕微鏡のプローブ、(7)電子放出源等に有用であり、様々な用途へ適用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有する新規な樹脂構造体に関し、詳しくはポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子は、レドックス特性(酸化還元特性)やドーピング・脱ドーピング特性などの特性を有していることから、機能性材料として様々な分野での応用が期待される材料である。これらの材料をナノサイズ化することにより、その導電性を活かして電界放出ディスプレイ(FED)等における電界放出素子などに用いられる電界放出材料、配線材料、センサー、電気化学キャパシタ、プローブ顕微鏡用探針、触媒担体等の各種の用途に利用することが期待される。
【0003】
ナノサイズ化した導電性高分子に関しては、ナノシリンダーを用いた電気化学的手法により、ポリピロール、およびポリチオフェンのナノサイズの導電性高分子を製造する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。しかしながらこの方法では、電解溶媒として超臨界流体あるいは亜臨界流体を用いることから、装置が複雑となりコストもかかり、大量生産には不向きである。また、この方法を用いた場合、鋳型を除去する必要があるためプロセスも煩雑となり、鋳型も1回のみの使用となるので、更にコストが高くなるという問題もあった。
【0004】
近年、カーボンナノチューブや金属ナノワイヤーの発見がなされ、導電性ナノ材料への関心が高まっている。平均径が数nm〜数百nm程度で、平均長さが1μm程度以上のナノ材料は、導電性材料、電子放出素子、カーボンナノチューブのテンプレート等の用途に用いられている。現在のところ、導電性高分子のナノ材料の製造方法は、特許文献1にも記載されているようなナノシリンダーやテンプレートを用いる方法が知られているのみである。
【0005】
一方、カルバゾールは、分子式がC12H9Nで表される複素環式化合物であり、導電性を有する化合物である。その誘導体であるN−アルキルカルバゾールは、セルロースと溶媒中で反応させることでLED用の機能性化合物とすることができることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−239835号公報
【特許文献2】特開2007−009049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記要求に鑑み、簡便にまた大量に生産が可能な、導電性を有する新規材料を提供することを本発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリ(N−アルキルカルバゾール)が有機溶媒に溶解する知見に基づき、有機透明導電体を発明した。この材料について更なる研究を進めた結果、N−アルキルカルバゾールを特定の溶媒中で電解重合することで、導電性を有するポリ(N−アルキルカルバゾール)の柱状構造体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、以下の構成である。
[1] ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
[2] 直径が0.1〜10μmである、前記[1]項に記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
[3] N−アルキルカルバゾールをアルコール溶媒中で電解重合してなる、ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
[4] 前記アルコール溶媒は、1mM〜10Mの支持電解質を含有することを特徴とする、前記[3]項に記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
[5] 前記支持電解質が過塩素酸テトラブチルアンモニウムであることを特徴とする、前記[4]項に記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
[6] 前記ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体が、中空状であることを特徴とする、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
[7] N−アルキルカルバゾールを重合させ、ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体を製造する方法であって、支持電解質を含有するアルコール溶媒中で前記N−アルキルカルバゾールを電解重合することを特徴とする、ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
新規な高分子材料である、本発明のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、導電性を有し、機能性材料として様々な用途への適用が期待される。また、製造方法が簡易であるため、特別なシリンダーを用いたり、高い圧力を印加する必要がない。また、電解重合において用いる動作電極の面積に応じて、一度に大量のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体を生産できる利点もあり、生産性にも優れている。
【0011】
本発明のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、ナノ及びマイクロサイズの柱状構造であることから、表面積を稼ぐことができる。特に中空の構造を有する本発明のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、単なる柱状構造体と比べ、膨大な表面積を稼ぐことができる。ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、大きな表面積を有することから、様々な反応の効率を上げられるので、(1)電磁波吸収材などの導電性材料、(2)ケーブルなどの配線素材、(3)2次電池やキャパシタ材料、(4)触媒、(5)抗菌繊維、(6)プローブ顕微鏡のプローブ、(7)電子放出源等に有用である。ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、ナノ及びマイクロサイズ柱状構造体であることから、様々な材料との混合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例において製造したN−n−オクチルカルバゾールのNMRチャートを示す図である。
【図2】実施例1において、−20℃の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図3】実施例1において、−10℃の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図3−1】図3よりも更に拡大したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図3−2】図3よりも更に拡大したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図4】実施例1において、0℃の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図5】実施例1において、10℃の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図6】実施例1において、20℃の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図7】実施例1において、40℃の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図7−1】図7よりも更に拡大したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図7−2】図7−1よりも更に拡大したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図8】実施例2において、通電量1mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図9】実施例2において、通電量5mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図10】実施例2において、通電量10mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図11】実施例2において、通電量30mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図12】実施例2において、通電量60mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図13】実施例3において、通電量2.4mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図14】実施例3において、通電量5mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図15】実施例3において、通電量10mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図16】実施例3において、通電量30mC/cm2の条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図17】実施例4において、N−メチルカルバゾールの濃度10mMの条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図18】実施例4において、N−メチルカルバゾールの濃度15mMの条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図19】実施例4において、N−メチルカルバゾールの濃度20mMの条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図20】実施例5において、N−メチルカルバゾールの濃度5mMの条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図20−1】図20よりも更に拡大したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図20−2】図20−1よりも更に拡大したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図21】実施例5において、N−メチルカルバゾールの濃度10mMの条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図22】実施例5において、N−メチルカルバゾールの濃度20mMの条件で製造したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図22−1】図22よりも更に拡大したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【図22−2】図22−1よりも更に拡大したポリ(N−n−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ポリ(N−アルキルカルバゾール)の柱状構造体である。ポリ(N−アルキ
ルカルバゾール)とは、下記式(1)で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを重合して得られる重合度が2以上のN−アルキルカルバゾール重合体をいう。
【0014】
【化1】
【0015】
上記式中、nは1以上の整数であり、アルキル(CnH2n+1)は、1つ又は複数の水素がヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。また、カルバゾールのN位と結合している炭素は、1級炭素又は2級炭素であることが好ましい。
【0016】
本発明で得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)は、1種類のN−アルキルカルバゾールを重合させて得られるホモポリマーであっても、2種類以上のN−アルキルカルバゾールを共重合させて得られるコポリマーであってもよい。また、ポリ(N−アルキルカルバゾール)としては、1種類のポリ(N−アルキルカルバゾール)のみで用いても、炭素数の異なるアルキルからなる2種類のポリ(N−アルキルカルバゾール)を混合して用いてもよい。また、ポリ(N−アルキルカルバゾール)の重合度は、2〜1,000であることが好ましく、2〜100であることがより好ましく、4〜22であることが特に好ましい。
【0017】
先に説明したように、ポリ(N−アルキルカルバゾール)は、本発明者らにより既に合成されており、特願2009−107096として出願済みである。上記先願のポリ(N−アルキルカルバゾール)は膜状の構造体であるが、本発明は、先願の発明とは異なり、ナノサイズ及びマイクロサイズの柱状構造体であることを特徴とする。本発明において柱状とは、先願の膜状の構造体と区別する概念であり、円柱及び、三角柱、四角柱などの多角柱を意味する。また、中空状の柱状であっても本発明の柱状に当然に含まれる。一般的に、チューブ、ワイヤーなどと表現される形状は本発明の柱状に含まれる。なお、ナノサイズ及びマイクロサイズの材料を用いる場合には、表面積が大きくなるという観点から、中空状、すなわちチューブ状であることが好ましい。
【0018】
また、本発明はナノサイズの柱状構造体と表現できるとおり、非常に小さな構造体を製造することができる。構造体の直径が、0.1〜10μmであり、好ましくは0.1〜5μmであり、更に好ましくは0.1〜1.7μmである。構造体の長さは、1μm以上であれば、特に限定されない。本発明において、構造体の直径とは、円柱であれば円柱の直径を意味し、角柱であれば、角柱の断面上の最長対角線の長さを意味する。また、構造体が中空状である場合には外径を意味する。なお、本発明の構造体の大きさは、電子顕微鏡による観察により、測定することができる。
【0019】
本発明の柱状構造体をナノサイズの材料として用いる場合には、平均径が数μm、平均長さが1μm以上の構造体の集合とすることが好ましい。
【0020】
本発明のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、N−アルキルカルバゾール
を、特定の溶媒、特にアルコールを溶媒として用いた電解重合により重合することで、製造することができる。このような方法により、動作電極上にポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体が製造される。
【0021】
製造された本発明のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、SEMなどの電子顕微鏡により確認することができ、ナノサイズまたはマイクロサイズで、チューブ状、またはワイヤー状の形状をしている。また、導電性を有しており、様々な用途への展開が期待されるものである。以下、製造方法について詳細に説明する。
【0022】
(N−アルキルカルバゾールの合成)
カルバゾールのN位にアルキルが結合したN−アルキルカルバゾールは、水素化ナトリウム等の強塩基性のアルカリ金属化合物存在下で、カルバゾールとアルキル化剤であるハロゲン化アルキルとの脱ハロゲン化水素反応により合成することができる。または、カルバゾールカリウム塩とハロゲン化アルキルの脱ハロゲン化カリウム反応で合成することができる。N−アルキルカルバゾールのアルキルは特に限定されないが、炭素数が1以上(上記式(1)において、nが1以上を示す。)のアルキルであればよい。商業的に入手容易という観点から、炭素数22以下(上記式において、nが22以下を示す。)のアルキルであることが好ましい。炭素数1〜8がさらに好ましく、特に好ましくは炭素数が1〜4である。具体的には、N−メチルカルバゾール、N−エチルカルバゾール、N−プロピルカルバゾール、N−イソプロピルカルバゾール、N−ブチルカルバゾールが好ましい。また、アルキルの1つ又は複数の水素が、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられてもよい。
【0023】
(ハロゲン化アルキル)
上記アルキル化剤であるハロゲン化アルキルは、試薬メーカーより入手することができる。実験室で取り扱うには、反応性、アルキルの種類の豊富さから、アルキルモノ臭化物が扱いやすい。入手できるアルキルモノ臭化物は、具体的に、1−ブロモプロパン、2−ブロモプロパン、1−ブロモブタン、2−ブロモブタン、1−ブロモ−2−メチルプロパン、2−ブロモ−2−メチルプロパン、1−ブロモ−3−メチル−ブタン、1−ブロモヘキサン、2−ブロモヘキサン、3−ブロモヘキサン、1−ブロモメチルペンタン、1−ブロモヘプタン、3−ブロモヘプタン、4−ブロモヘプタン、1−ブロモ−5−メチルヘキサン、1−ブロモ−2−エチルヘキサン、1−ブロモオクタン、2−ブロモオクタン、1−ブロモノナン、2−ブロモノナン、1−ブロモデカン、1−ブロモウンデカン、1−ブロモドデカン、2−ブロモドデカン、1−ブロモトリデカン、1−ブロモテトラデカン、2−ブロモテトラデカン、1−ブロモペンタデカン、1−ブロモヘプタデカン、1−ブロモ−2−メチルヘキサデカン、1−ブロモオクタデカン、1−ブロモエイコサン、1−ブロモドコサンがあり、東京化成工業(株)、シグマアルドリッチジャパン(株)、ランカスター社等から入手できる。
【0024】
(ハロゲン化アルキルの合成)
上記ハロゲン化アルキルは、アルキルモノハロゲン化物以外に、アルケンのハロゲン水素付加反応により得ることができる。この反応は、アルケン溶液にハロゲン化水素を添加することで容易に進行する。アルケンのハロゲン化水素付加反応でハロゲン化アルキルを得るには、JOHN WILEY & SON,INC.出版のOrganic Syntheses IV 543−544頁(1962年発行)記載の方法に従ってアルキルモノヨウ化物をアルケンのヨウ化水素付加反応により、合成することが都合がよい。
【0025】
入手できる上記アルケンには、3,3−ジメチル−1−ブテン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−2−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、2−ヘプテン、3−ヘプテン、3−メチ
ル−1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、4−メチル−2−ヘキセン、5−メチル−1−ヘキセン、5−メチル−2−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ヘキセン、5−メチル−2−ヘプテン、5−メチル−3−ヘプテン、2−オクテン、trans−3−オクテン、trans−4−オクテン、2−ノネン、4−ノネン、3,3,5−トリメチル−1−ヘキセン、cis−2−デセン、cis−4−デセン、cis−5−デセン、5−ドデセン、7−テトラデセン、cis−9−トリコセンがあり、東京化成工業(株)等より入手できる。
【0026】
上記、アルケンのヨウ化水素付加反応により、2−ヨード−3,3−ブタン、3−ヨードヘキサン、4−ブロモヘキサン、2−ヨード−4−メチルペンタン、3−ヨード−4−メチルペンタン、2−ヨード−3,3−ジメチルペンタン、2−ヨード−4,4−ジメチルペンタン、3−ヨード−ヘプタン、4−ヨードヘプタン、2−ヨード−3−メチルヘキサン、2−ヨード−4−メチルヘキサン、3−ヨード−4−メチルヘキサン、2−ヨード−5−メチルヘキサン、3−ヨード−5−メチルヘキサン、2−ヨード−ジメチルヘキサン、2−ヨード−3,4−ジメチルヘキサン、2−ヨード−4,4−ヘキサン、3−ヨード−5−メチルヘプタン、4−ヨード−5−メチルヘプタン、3−ヨード−オクタン、4−ヨードオクタン、5−ヨードオクタン、3−ヨードノナン、5−ヨードノナン、2−ヨード−3,3,5−ヘキサン、3−ヨードデカン、4−ヨードデカン、6−ヨードデカン、6−ヨード−ドデセン、8−テトラデセン、10−ヨードトリコサンを得ることができる。
【0027】
(電解重合)
本発明において電解重合とは、通電手段を用いることにより、重合性モノマーを重合させる重合方法である。
まず、上記の方法で合成したN−アルキルカルバゾールを特定の溶媒、特にアルコール溶媒に溶かす。このとき、溶媒中のN−アルキルカルバゾール濃度は溶媒を100重量部とした場合に0.002〜200重量部であることが好ましく、0.02〜20重量部であることが好ましい。N−アルキルカルバゾールの濃度をこのような範囲とすることで、十分な反応速度で重合反応を行うことができる。
【0028】
上記溶媒として、アルコールを用いる場合には、水と混合した混合溶媒を用いることができる。混合溶媒とする場合には、アルコールと水の容量比を1〜99:99〜1とすることができる。溶媒として用いるアルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられ、特にメタノール、エタノールであることが好ましい。また、アルコール溶媒以外にも、N−アルキルカルバゾールの種類によって、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、アニソール、N−メチルピロリドンなどを溶媒として用いることができる。
【0029】
上記溶媒中には、支持電解質を添加することが好ましい。支持電解質としては、例えば、NaClO4、NaBF4、NaPF6、NaCl、NaBr、NaI、Na2SO4、NaNO3、CH3COONaなどのナトリウム塩、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiCl、LiBr、LiI、Li2SO4、LiNO3、CH3COOLiなどのリチウム塩、KClO4、KBF4、KPF6、KCl、KBr、KI、K2SO4,KNO3,CH3COOKなどのカリウム塩、さらには二価の金属(カルシウム塩、マグネシウム塩)などの塩、加えて、(C4H9)4NClO4、(C3H7)4NClO4、(C2H5)4NClO4、(CH3)4NClO4などのテトラアルキルアンモニウムの塩が好適に用いられる。このうち、(C4H9)4NClO4で表される過塩素酸テトラブチルアンモニウムが溶解性に優れるため濃度調整の範囲が広い、安価である、電極反応に対して極めて不活性であるために、柱状構造体の形成を妨げない等のため好ましい。
【0030】
上記支持電解質の添加量は、電気化学反応を生じさせることができれば特に限定されないが、0.001〜5Mが好ましく、0.01〜1Mがより好ましく、0.01〜0.5Mが特に好ましい。このような範囲とすることで、N−アルキルカルバゾールの電解重合の駆動力である電気二重層の形成を十分に行うことができるという効果がある。
【0031】
動作電極としては、電気化学的な酸化に耐える導電性材料であればよく、Pt、Au、カーボン、Co、Cu、Al、Ni、ステンレス鋼などの金属、およびグラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレン、DLC(ダイアモンド状の炭素フィルム)などの炭素材料が使用できる。また、動作電極としては、酸化インジウム・錫(ITO)などの導電性酸化物や導電性プラスチックスでもよい。対向電極としては、溶解等を起こして電解液を汚染することがない材料であればよく、白金板、白金線、白金網などが好ましく使用できる。また、対向電極としては、電気化学的な還元に耐えるその他の材料も利用でき、例えば、金、カーボン、ステンレス鋼などでもよい。
【0032】
上記動作電極および対向電極の間に印加する電圧としては、飽和カロメル参照電極に対して+0.5〜3.0Vであることが好ましく、+1.0〜2.0V以下であることが好ましい。電圧をこのような範囲とすることで、重合体が生成し易くなる。参照電極を用いない場合、陽極と陰極の間に印加する電圧としては、同様の理由により+0.9V以上+4.0V以下であることが好ましく、より好ましくは+1.0V以上+3.0V以下である。また、この参照電極を用いない電解において、印加電圧が上記範囲内に入る場合に、陽極と陰極の間に一定電流を流すことによってもポリ(N−アルキルカルバゾール)の電解重合を行うことができる。
【0033】
また、本実施形態における電解重合は、空気中においても行うことはできるが、空気中の酸素の影響をできる限り少なくするため窒素雰囲気中で行うことが好ましく、溶液に対し窒素バブリングを行うことがより好ましい。
【0034】
また、本実施形態における電解重合の重合温度は、限定されるわけではないが、高い電気伝導度を有するポリN−アルキルカルバゾール柱状構造体を形成する観点から−40℃以上40℃以下であることが好ましい。柱状構造体の形成量を多くする観点から、0℃以上40℃以下であることがより好ましく、10℃以上40℃以下であることが特に好ましい。
【0035】
上記方法により製造された、本発明のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、動作電極上に柱状の構造体として形成される。その大きさは、直径が0.1〜10μmであり、膜状のポリ(N−アルキルカルバゾール)とは明確に区別されるものである。ナノサイズの材料として用いる場合には、直径が0.1〜5μmであることが好ましく、0.1〜1.7μmであることがより好ましい。
【0036】
一方、その長さは特に限定されないが、1μm以上であることが好ましい。また、長さの上限値は特段問題にならないは、材料としての扱い易さから、1mm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。
【0037】
また、ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体が中空状であると、表面積をさらに稼げるため好ましい。この場合、チューブ壁の厚さは1nm以上であることが好ましい。
【0038】
このようにして得られたポリ(N−アルキルカルバゾール)の柱状構造体は、導電性を有し、かつ表面積を稼げるため、ナノサイズおよびマイクロサイズの導電性材料として様々な用途への応用が期待できる。
【実施例】
【0039】
以下、上記実施形態に基づき実際にポリ(N−アルキルカルバゾール)の柱状構造体の作製を行い本発明の効果の確認を行った。以下、実施例を用いて説明を行うが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(アルキル化剤の合成)
N−アルキルカルバゾールの製造に用いるアルキル化剤は、アルキルモノ臭素化物を東京化成工業(株)、シグマ−アルドリッチ社及びランカスター社より購入した。試薬として購入できないアルキル化剤は、JOHN WILEY & SON,INC.出版のOrganic Syntheses IV 543−544頁(1962年発行)の例に従ってアルケンのヨウ化水素付加反応により合成した。
【0041】
原料となるアルケン1当量に対して、ヨウ化カリウム3当量と95重量%リン酸4.3当量の混合物を加え、撹拌しながら80℃で3時間加熱した。95重量%リン酸は、85重量%リン酸に98重量%リン酸(東京化成工業(株)製)を加えることで調製した。反応液を冷却後、水と石油エーテルを加え、撹拌後、分液した。石油エーテル層を10重量%チオ硫酸ナトリウムで脱色し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。石油エーテルを蒸発させた後、アルキルモノヨウ化物を減圧蒸留により得た。
【0042】
(N−アルキルカルバゾールの合成)
テトラヒドロフランとN,N−ジメチルホルムアミドの3対1(容量比)の混合溶媒にカルバゾールを溶解し、上記で得たアルキル剤(アルキル臭化物又はアルキルヨウ化物)をカルバゾール1当量に対して1当量加え、撹拌しながら水素化ナトリウム1.5当量に相当する60重量%の水素化ナトリウム鉱物油分散物(関東化学(株)製、商品名「水素化ナトリウム」)を徐々に加え、室温で1時間撹拌した。そこに、反応を停止させるためにメタノールを気泡が出なくなるまで加えた後、溶媒を減圧下で蒸発除去した。残渣にジクロロメタンを加え、3N塩酸と水とで洗浄した。無水硫酸マグネシウムを加え乾燥し、濾過した。得られた濾液に含まれる溶媒を真空除去し、ヘキサンを展開溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより残渣を精製した。
【0043】
(N−n−オクチルカルバゾールの合成)
ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)の製造に用いるモノマー(N−n−オクチルカルバゾール)を例に具体的な合成法を説明する。
テトラヒドロフラン(30mL)とN,N−ジメチルホルムアミド(10mL)の混合溶液にカルバゾール(東京化成工業(株)製、6.0g、0.036mol)を溶かし、1−ブロモオクタン(東京化成工業(株)製、3.95g、0.036mol)を加え、さらに室温(約20℃)で60重量%水素化ナトリウム鉱物油分散物((関東化学(株)製、商品名「水素化ナトリウム」、2.16g、0.054mol)を徐々に添加し、1時間攪拌し反応を完了させた。
反応完了後、得られた反応液に、メタノールを気泡が出なくなるまで注ぎ、反応を停止させた。エバポレーターで反応液中の溶媒を除去後、濃縮物を塩化メチレンで抽出し、有機層を3N塩酸、水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した。濾液中の塩化メチレンをエバポレーターで除去し、ヘキサンを展開溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。エバポレーターでヘキサンを除去し、透明液体(8g、収率80%)を得た。H−NMRにより、N−n−オクチルカルバゾールであることが確認できた。また、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって純度が99.5%であることを確認した。図1にNMRチャートを示す。
また、実施例において使用したN−メチルカルバゾール、N−エチルカルバゾールは東
京化成工業(株)より購入した。
【0044】
ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体の直径の測定法
SEM写真において、作製したポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体の大きさに応じて柱状構造体が10以上100以下含まれる任意の範囲を設定し、その範囲内に存在するポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体10点の直径を測定し、その相加平均値を直径とした。
【0045】
(実施例1)
メタノール20mLに、終濃度が10mMとなるようにN−メチルカルバゾールを加え、さらに終濃度が0.1Mとなるように支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウムを加えた。この溶液を用い、動作電極としてITO、対向電極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、重合電位1.1V、通電量30mC/cm2で重合することで、ポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体を作製した。電解重合の温度条件を変化させ、それぞれの場合で作製したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体の動作電極上のSEM観察を図2〜7に示す。なお、図3及び図7については倍率を変化させて観察した。重合温度は、(1)−20℃(図2)、(2)−10℃(図3)、(3)0℃(図4)、(4)10℃(図5)、(5)20℃(図6)、(6)40℃(図7)の6条件で実施した。直径は、各々(1)0.6μm、(2)0.7μm、(3)0.6μm、(4)0.3μm、(5)0.4μm、(6)0.3μmであった。
【0046】
(実施例2)
メタノール20mLに、終濃度が10mMとなるようにN−メチルカルバゾールを加え、さらに終濃度が0.1Mとなるように支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウムを加えた。この溶液を用い、動作電極としてITO、対向電極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、重合電位1.1V、温度は−10℃で重合することで、ポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体を作製した。電解重合の通電量を変化させ、それぞれの場合で作製したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状ナノ構造体の動作電極上のSEM観察を図8〜12に示す。通電量は、(7)1mC/cm2(図8)、(8)5mC/cm2(図9)、(9)10mC/cm2(図10)、(10)30mC/cm2(図11)、(11)60mC/cm2(図12)の5条件で実施した。直径は、各々(7)1.3μm、(8)1.0μm、(9)0.9μm、(10)1.5μm、(11)1.1μmであった。
【0047】
(実施例3)
メタノール20mLに、終濃度が10mMとなるようにN−メチルカルバゾールを加え、さらに終濃度が0.1Mとなるように支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウムを加えた。この溶液を用い、動作電極としてITO、対向電極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、重合電位1.1V、温度は20℃で重合することで、ポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体を作製した。電解重合の通電量を変化させ、それぞれの場合で作製したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体の動作電極上のSEM観察を図13〜16に示す。通電量は、(12)2.4mC/cm2(図13)、(13)5mC/cm2(図14)、(14)10mC/cm2(図15)、(15)30mC/cm2(図16)の4条件で実施した。直径は、各々(12)0.5μm、(13)0.4μm、(14)0.4μm、(15)0.4μmであった。
【0048】
(実施例4)
メタノール20mLに、終濃度が下記の濃度となるようにN−メチルカルバゾールを加え、さらに終濃度が0.1Mとなるように支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウムを加えた。この溶液を用い、動作電極としてITO、対向電極として白金板、参照
電極として飽和カロメル電極を使用し、重合電位1.1V、温度は−10℃で通電量30mC/cm2で重合することで、ポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体を作製した。N−メチルカルバゾールの濃度を変化させ、それぞれの場合で作製したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体の動作電極上のSEM観察を図17〜19に示す。N−メチルカルバゾールの濃度は、(16)10mM(図17)、(17)15mM(図18)、(18)20mM(図19)の3条件で実施した。直径は、各々(16)1.0μm、(17)0.6μm、(18)0.4μmであった。
【0049】
(実施例5)
メタノール20mLに、終濃度が下記の濃度となるようにN−メチルカルバゾールを加え、さらに終濃度が0.1Mとなるように支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウムを加えた。この溶液を用い、動作電極としてITO、対向電極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、重合電位1.1V、温度は20℃で通電量30mC/cm2で重合することで、ポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体を作製した。N−メチルカルバゾールの濃度を変化させ、それぞれの場合で作製したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状ナノ構造体の動作電極上のSEM観察を図20〜22に示す。なお、図20および図22については、倍率を変化させて観察した。N−メチルカルバゾールの濃度は、(19)5mM(図20)、(20)10mM(図21)、(21)20mM(図22)の3条件で実施した。直径は、各々(19)0.2μm、(20)0.4μm、(21)0.3μmであった。
【0050】
(実施例6)
メタノール20mLに、終濃度が10mMとなるようにN−エチルカルバゾールを加え、さらに終濃度が0.1Mとなるように支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウムを加えた。この溶液を用い、動作電極としてITO、対向電極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、重合電位1.1V、温度は−10℃で通電量30mC/cm2で重合することで、ポリ(N−エチルカルバゾール)柱状構造体を作製した。作製した柱状構造体は、ひも状の形状をしており、長さは平均値20μm、直径は平均値1μmであった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、導電性高分子としての新規のナノサイズおよびマイクロサイズの材料である。本発明の構造体は、ナノサイズ及びマイクロサイズの柱状構造であることから、表面積を稼ぐことができる。特に中空の構造を有するものは膨大な表面積を稼ぐことができる。そのため反応の効率を上げられるので、(1)電磁波吸収材などの導電性材料、(2)ケーブルなどの配線素材、(3)2次電池やキャパシタ材料、(4)触媒、(5)抗菌繊維、(6)プローブ顕微鏡のプローブ、(7)電子放出源等に有用であり、様々な用途へ適用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
【請求項2】
直径が0.1〜10μmである、請求項1に記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
【請求項3】
N−アルキルカルバゾールをアルコール溶媒中で電解重合してなる、ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
【請求項4】
前記アルコール溶媒は、1mM〜10Mの支持電解質を含有することを特徴とする、請求項3に記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
【請求項5】
前記支持電解質が過塩素酸テトラブチルアンモニウムであることを特徴とする、請求項4に記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
【請求項6】
前記ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体が、中空状であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
【請求項7】
N−アルキルカルバゾールを重合させ、ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体を製造する方法であって、支持電解質を含有するアルコール溶媒中で前記N−アルキルカルバゾールを電解重合することを特徴とする、ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体の製造方法。
【請求項1】
ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
【請求項2】
直径が0.1〜10μmである、請求項1に記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
【請求項3】
N−アルキルカルバゾールをアルコール溶媒中で電解重合してなる、ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
【請求項4】
前記アルコール溶媒は、1mM〜10Mの支持電解質を含有することを特徴とする、請求項3に記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
【請求項5】
前記支持電解質が過塩素酸テトラブチルアンモニウムであることを特徴とする、請求項4に記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
【請求項6】
前記ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体が、中空状であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体。
【請求項7】
N−アルキルカルバゾールを重合させ、ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体を製造する方法であって、支持電解質を含有するアルコール溶媒中で前記N−アルキルカルバゾールを電解重合することを特徴とする、ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図3−1】
【図3−2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図7−1】
【図7−2】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図20−1】
【図20−2】
【図21】
【図22】
【図22−1】
【図22−2】
【図2】
【図3】
【図3−1】
【図3−2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図7−1】
【図7−2】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図20−1】
【図20−2】
【図21】
【図22】
【図22−1】
【図22−2】
【公開番号】特開2011−190317(P2011−190317A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56198(P2010−56198)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]