説明

ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物

【課題】 成形加工時の成形サイクルが短く生産性に優れるとともに、得られた成形品が耐衝撃性に優れるものとなるポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物を提供する。
【解決手段】 ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(A)10〜99重量%、及び、75〜96モル%のエチレン単位、2〜20モル%のビニルアルコール単位、2〜20モル%の酢酸ビニル単位からなるエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)1〜90重量%よりなるポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形した際の成形サイクルが短く、耐衝撃性、機械的特性、成形加工性に優れるポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸、ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体等の植物由来のバイオマスポリマーは、カーボンニュートラルの観点から大気中の二酸化炭素を増やさない材料として近年注目を集めている。そこで、これらのバイオマスポリマーを食器、包装フィルム、レジャー用品、押出成形品、パソコン、携帯電話等の家電製品、プリンター、コピー機等のOA機器、自動車部品に使用する試みが始まっている。しかしながら、これらの分野で使用する材料には、一般に耐熱性や耐衝撃性が要求される。そこで、これらの要求に応えるため、生分解性の脂肪族ポリエステル樹脂、無機充填材、特定のエラストマーからなる樹脂組成物(例えば特許文献1参照。)、生分解性ポリマー及びエチレン単位含有量の低いエチレン−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体からなる樹脂組成物(例えば特許文献2,3参照。)が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平08−259788号公報
【特許文献2】特開平05−230351号公報
【特許文献3】特開平07−316367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に提案の樹脂組成物は、本質的に脂肪族ポリエステル樹脂と相溶性が悪いエラストマーをブレンドしているため耐衝撃性が充分でないと言う課題があり、特許文献2,3に提案の生分解性ポリマー及びエチレン−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体からなる組成物についても相溶性に若干の改善効果は見られるもののまだ充分なものではない上に、エチレン含有量の低いエチレン−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体を構成とすることから耐衝撃性に関しても満足できるものではなかった。
【0005】
また、ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体は、結晶化速度が低く成形加工時の射出成形に供した際に成形サイクルが長くなり、成形品の生産性に劣るという課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、射出成形した際の成形サイクルが短く、耐衝撃性、機械的特性、成形加工性に優れるポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体及び特定のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物からなるポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物が、射出成形した際の成形サイクルが短く、耐衝撃性、機械的特性、成形加工性に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(A)10〜99重量%、及び、75〜96モル%のエチレン単位、2〜20モル%のビニルアルコール単位、2〜20モル%の酢酸ビニル単位からなるエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)1〜90重量%よりなることを特徴とするポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物に関するものである。
【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明に用いるポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(A)は、ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体の範疇に属するものであれば如何なるものでもよく、例えばポリ3−ヒドロキシブチレート単独重合体、3−ヒドロキシブチレート/3−ヒドロキシブチレート以外のヒドロキシアルカノエート共重合体、等が挙げられ、共重合体である場合の3−ヒドロキシブチレート以外のヒドロキシアルカノエートとしては、例えば3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシバレレート、3−ヒドロキシヘキサノエート、3−ヒドロキシヘプタノエート、3−ヒドロキシオクタノエート、3−ヒドロキシノナノエート、3−ヒドロキシデカノエート、3−ヒドロキシウンデカノエート、4−ヒドロキシブチレート、ヒドロキシラウリレート等が挙げられる。中でも、耐熱性に優れるポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物となることからポリ3−ヒドロキシブチレート単独重合体、3−ヒドロキシブチレート/3−ヒドロキシバレレート共重合体、3−ヒドロキシブチレート/4−ヒドロキシブチレート共重合体であることが好ましい。また、ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体中の3−ヒドロキシブチレート以外のヒドロキシアルカノエートの共重合成分量としては、0〜20モル%であることが好ましく、特に0〜10モル%がより好ましい。
【0011】
本発明に用いるポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(A)の融点は、特に耐熱性に優れるポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物となることから160〜190℃であることが好ましく、特に165〜180℃であることが好ましい。
【0012】
また、本発明に用いるポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(A)は、機械的強度、成形加工性に優れるポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物となることから、クロロホルムに溶解し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、GPCと記す。)で測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量100000〜3000000であることが好ましく、特に120000〜1000000であることが好ましい。
【0013】
該ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(A)は、市販品として入手することが可能である。また、その製造方法としては、例えば米国特許4477654号公報、国際公開特許94/11519号公報、米国特許5502273号公報に記載されている方法等により入手することも可能である。
【0014】
本発明で用いるエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)は、75〜96モル%のエチレン単位、2〜20モル%のビニルアルコール単位、2〜20モル%の酢酸ビニル単位からなるエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物であり、該範疇に属するものであれば如何なるものでもよい。ここで、エチレン単位が75モル%未満である共重合体、ビニルアルコール単位が20モル%を越える共重合体である場合、共重合体自体の剛性が高くなることから組成物とした際の耐衝撃性改善効果が低くなる。酢酸ビニル単位が20モル%を越える共重合体である場合、共重合体自体の耐熱性が劣ることから組成物とした際に耐熱性に課題を発生する場合がある。また、エチレン単位が96モル%を越える、ビニルアルコール単位が2モル%未満である、酢酸ビニル単位が2モル%未満である、共重合体である場合、ポリ3−ヒドロキシブチレートとの相溶性に課題が発生し、本発明の目的を達成できない場合がある。
【0015】
該エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)は、エチレン含有量の高いエチレン−酢酸ビニル共重合体を製造することが可能となる高圧法により製造されたエチレン−酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニル単位を加水分解し、ビニルアルコール単位にケン化することにより得ることができる。このようなエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物は、市販品であってもよく、例えば(商品名)メルセンH 6410M(東ソー株式会社製)、(商品名)メルセンH 6210M(東ソー株式会社製)、(商品名)メルセンH H6960(東ソー株式会社製)、(商品名)メルセンH 3051R(東ソー株式会社製)を市販品とし入手することができる。また、高圧法によりエチレンと酢酸ビニルの共重合を行うことにより得られた市販のエチレン−酢酸ビニル共重合体をアルカリ又は酸を触媒として加水分解反応を行うことにより製造することが可能であり、その際の加水分解方法としては、例えば良溶媒にエチレン−酢酸ビニル共重合体を溶解させて均一系で反応を行う均一ケン化法、メタノール、エタノールのような貧溶媒中でペレット又は粉体のまま不均一系で反応を行う不均一ケン化法等によって製造する方法が挙げられる。
【0016】
本発明のポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物は、ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(A)10〜99重量%及びエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)1〜90重量%からなるものであり、特に耐衝撃性、機械的特性、成形加工性に優れるポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物となることからポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(A)50〜95重量%及びエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)5〜50重量%からなるものであることが好ましい。ここで、ポリ3−ヒドロキブチレート系重合体が99重量%を越える組成物である場合、射出成形した際の成形サイクルが長く、耐衝撃性、成形加工性に劣るものとなる。一方、ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体が10重量%未満の組成物である場合、機械的特性に劣るものとなる。
【0017】
本発明のポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物は、特に相溶性の優れ、耐衝撃性、機械的強度、成形加工性に優れた樹脂組成物となることからカップリング剤を配合したものであることが好ましく、該カップリング剤としてはポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体及びエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物のそれぞれにカップリング剤として作用するものであれば如何なるものも用いることができ、その中でも、さらにポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(A)とエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)の相溶性を高め、射出成形した際の成形サイクルが短く、耐衝撃性、機械的特性、成形加工性に優れるポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物となることから、エポキシシラン化合物、アミノシラン化合物、ケチミンシラン化合物、多官能性イソシアネート化合物、有機チタネート、有機アルミネート、カルボジイミド化合物、多官能性酸無水物からなる群より選択される少なくとも一種以上のカップリング剤(C)であることが好ましい。
【0018】
ここで、エポキシシラン化合物は、エポキシ基を有するシラン化合物であり、例えばβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。
【0019】
アミノシラン化合物は、アミノ基を有するシラン化合物であり、例えば3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0020】
ケチミンシラン化合物としては、例えばN−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン等を挙げることができる。
【0021】
多官能性イソシアネート化合物は、分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であり、多官能性ブロック型イソシアネート化合物、多官能性非ブロック型イソシアネート化合物がある。多官能性ブロック型イソシアネート化合物は、分子内の2個以上のイソシアネート基を揮発性の活性水素化合物と反応させて、常温では不活性としたものである。多官能性ブロック型イソシアネート化合物は、一般的にはアルコール類、フェノール類、ε−カプロラクタム、オキシム類、活性メチレン化合物類等のブロック剤によりイソシアネート基がマスクされた構造を有する。これらの多官能性ブロック型イソシアネート化合物は、一般的には常温では反応しないため保存安定性に優れるが、通常140〜200℃の加熱によりイソシアネート基が再生され、優れた反応性を示すものである。また、多官能性非ブロック型イソシアネート化合物は、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ビス(4−イソシアネートフェニル)スルホン、トリイソシアネートベンゼン等を挙げることができる。
【0022】
有機チタネートとしては、例えばイソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリロイルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリス(n−アミノエチル)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイナマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、チタンアセチルアセトネート、ポリチタンアセチルアセトネート、チタンオクチルグリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、ポリヒドロキシチタンステアレート、テトラメチルオルソチタネート、テトラエチルオルソチタネート、テトラプロピルオルソチタネート、テトライソブチルオルソチタネート、ステアロイルチタネート、クレシルチタネートモノマー、クレシルチタネートポリマー、ジイソプロポキシ−ビス(2,4−ペンタジオネート)チタニウム(IV)、ジイソプロピル−ビス−トリエタノールアミノチタネート、オクチレングリコールチタネート、テトラ−n−ブトキシチタンポリマー、トリ−n−ブトキシチタンモノステアレートポリマー、トリ−n−ブトキシチタンモノステアレート等を挙げることができる。
【0023】
有機アルミネートとしては、例えばエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムモノイソプロポキシモノオレオキシエチルアセトアセテート、アルミニウム−ジ−n−ブトキシドモノエチルアセトアセテート、アルミニウム−ジ−iso−プロポキシド−モノエチルアセトアセテート、アルミニウムイソプロピレート、モノ−sec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウム−sec−ブチレート、アルミニウムエチレート等を挙げることができる。
【0024】
カルボジイミド化合物は、分子内に1個以上のカルボジイミド基を有する化合物であり、例えばN,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、N,N’−ジ(o−トルイル)カルボジイミド、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド等の一官能性カルボジイミド化合物;p−フェニレン−ビス(2,6−キシリルカルボジイミド)、p−フェニレン−ビス(t−ブチルカルボジイミド)、p−フェニレン−ビス(メシチルカルボジイミド)、テトラメチレン−ビス(t−ブチルカルボジイミド)、シクロヘキサン−1,4−ビス(メチレン−t−ブチルカルボジイミド)等の二官能性カルボジイミド化合物;1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネート、ポリフェニルポリイソシアネート等のイソシアネートの縮合物等の多官能性カルボジイミド化合物等が挙げられ、その中でも多官能性カルボジイミド化合物が好ましい。該多官能性カルボジイミド化合物としては、例えば(商品名)カルボジライトLA−1(日清紡社製)、(商品名)カルボジライトHMV−8CA(日清紡社製)、(商品名)エラストスタブH01(日清紡社製)等の商品名で一般的に知られている多官能性カルボジイミド化合物が挙げられる。
【0025】
多官能性酸無水物は、分子内に2個以上の酸無水物基を有する化合物であり、例えば無水ピロメリット酸等を挙げることができる。
【0026】
該カップリング剤の添加量としては、本発明の目的を達成できる限りにおいて制限はなく、特にポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体とエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の相溶性に優れ、ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物の結晶化が速くなり成形加工性に優れたものとなるとともに、耐衝撃性にも優れたものとなることからポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(A)及びエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)の合計量100重量部に対し0.5〜5重量部の範囲であることが好ましい。
【0027】
また、本発明のポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物は、射出成形時の成形サイクルの短縮化が可能となり成形加工性に優れるポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物となることからタルクを配合してなることが好ましい。その際のタルクとしては、特に制限は無く、タルクの範疇に属するかぎりいかなるものも用いることができ、例えばタルク原石を衝撃式粉砕機やミクロンミル型粉砕機で粉砕し、更にミクロンミル、ジェット型粉砕機で微粉砕した後、サイクロンやミクロンセパレーター等で分級調整して製造したものが挙げられる。そして、タルクとしてはその取り扱い性に優れるとともに、本発明のポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物を成形加工した際の製品外観に優れる成形体を製造することが可能となることから、メジアン径0.1〜10μmのタルクであることが好ましく、特に0.5〜6μmのタルクであることが好ましい。
【0028】
また、ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物への分散性に優れることから表面処理を施されたタルクであることが好ましく、表面処理材としては、例えばビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のシランカップリング剤;イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート等のチタネートカップリング剤;ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸などの脂肪酸及びその金属塩;アルミニウム系カップリング剤;クロム系カップリング剤;ジルコニウム系カップリング剤;ボラン系カップリング剤;エポキシ等を挙げることができ、特にエポキシ表面処理タルク、シランカップリング剤表面処理タルクが好ましい。
【0029】
該タルクの添加量としては、本発明の目的を達成できる限りにおいて制限はなく、特にポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物の結晶化が速くなり成形加工性に優れたものとなるとともに、耐衝撃性にも優れたものとなることからポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(A)、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)及びカップリング剤(C)の合計量100重量部に対し1〜100重量部の範囲であることが好ましく、特に3〜80重量部であることが好ましい。
【0030】
また、本発明のポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物は、耐熱性、特に耐熱変色性を向上させるため安定剤を添加してもよく、該安定剤としては、例えばリン化合物、ヒンダードフェノール系化合物、ヒドロキシジオキサホスフェピン系化合物、ヒドロキシアクリレート系化合物、硫黄含有化合物、スズ系化合物、ラクトン系化合物、ヒドロキシルアミン系化合物、ビタミンE系化合物、アリルアミン系化合物、アミン−ケトン系化合物、芳香族第二級アミン系化合物、モノフェノール系化合物、ビスフェノール系化合物、ポリフェノール系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物、ジチオカルバミン酸系化合物、チオウレア系化合物、有機チオ酸系化合物等が挙げられ、該安定剤の添加量は特に制限なくポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(A)、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)及びカップリング剤(C)の合計量100重量部に対し、0.0001〜10重量部が好ましく用いられる。
【0031】
本発明のポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物には、例えば染料、有機顔料、無機顔料、無機補強剤、可塑剤、アクリル加工助剤等の加工助剤、紫外線吸収剤、発泡剤、滑剤、結晶核剤、可塑剤、離型剤、加水分解防止剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、防徽剤、防錆剤、イオントラップ剤、難燃剤、難燃助剤等の公知の添加剤を加えることができる。また、無機充填材及び/又は有機充填材を添加してもよい。また、分散性を高めるために、表面改質された無機充填材を用いることも可能である。無機充填材及び/又は有機充填材の添加量は特に制限なくポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(A)、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)及びカップリング剤(C)の合計量100重量部に対し、0.1〜100重量部が好ましく、特に3〜50重量部が好ましい。
【0032】
さらに、熱可塑性エラストマー、ゴム、熱可塑性樹脂、特に生分解性樹脂と称される熱可塑性樹脂をブレンドしてもよい。
【0033】
本発明のポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物の製造方法としては、本発明のポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物を製造することが可能であればいかなる方法も用いることが可能であり、ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(A)、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)、更に必要に応じカップリング剤(C)、安定剤、難燃剤、添加剤等を、例えば溶液混合、溶融混合等の混合方法により製造することが可能であり、その中でも効率よく混合できることから溶融混合が好ましく用いられる。
【0034】
溶融混合には、例えばバンバリーミキサー(ファレル社製)、加圧ニーダー((株)森山製作所製)、インターナルミキサー(栗本鉄工所製)、インテンシブミキサー(日本ロール製造(株)製)等の機械加圧式混練機;ロール成形機、単軸押出し機、二軸押出し機等の押出し成形機;等のプラスチックまたはゴムの加工に使用される混練成形機が使用できる。溶融混合する際の温度は120〜200℃が好ましく、特に好ましくは150〜190℃である。特に押出機を使用する際には、押出機のダイから吐出する溶融樹脂組成物の温度が160℃以上185℃以下になるように温度設定することが好ましい。
【0035】
本発明のポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物は、耐衝撃性に優れることから各種用途用成形体として用いることが可能であり、例えば電子機器、パソコン、携帯電話、テレビ等の家電製品;インストルメンタルパネル、インストルメンタルパネルのアンダーカバー等の自動車内装部品、タイヤカバー等の自動車外装部品等の自動車用部品;コピー機、ファックス機、複合機、プリンター等のオフィス用機器;船、車両、航空機、自転車、オートバイ等の車両用部品;机、椅子等の事務機器;液晶表示装置、有機EL表示装置等の表示機器;太陽電池用基板;トレイ、コップ等の食器;シート;フィルム;カード;磁気テープ、キャリアテープ等のテープ;写真フィルム、包装用フィルム、電子部品用フィルム、電気絶縁フィルム、金属板ラミネート用フィルム、ガラスディスプレイ用フィルム等のフィルム;タッチパネル、バックライト等のベースフィルム;救急絆創こう、サージカルテープ、リハビリテープ等の医療補助用テープの基材;消炎、鎮痛、血行促進等の疾患治療用テープの基材;手術用手袋;紙おむつ、ナプキン等の衛生用品固定用テープの基材;等に使用することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明のポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物は、成形加工性、耐衝撃性に優れることから、各種成形体用途としての展開に適したものである。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、用いた試薬等は断りのない限り市販品を用いた。
【0038】
評価・分析に用いた機器及び方法を以下に示す。
【0039】
〜ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体の重量平均分子量の測定〜
ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体は、60℃のクロロホルムに2時間溶解して得られた溶解成分のみを用いて、GPCによる分子量測定を行った。尚、重量平均分子量は標準ポリスチレン(東ソー(株)製)を用いて、ポリスチレン換算で求めた。測定条件を以下に示す。
機種:(商品名)HLC8020GPC(東ソー(株)製)
溶媒:クロロホルム
サンプル溶解条件:60℃、2時間
カラム温度:40℃
測定濃度:50mg/50ml
注入量:100μl
カラム:(商品名)TSKgel GMHHR−H(東ソー(株)製)2本
〜エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物のメルトフローレートの測定〜
JIS K7210−76に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件下で測定を行い、メルトフローレート(以下、MFRと記す。)を測定した。
【0040】
〜試験片の準備及び成形サイクルの測定〜
耐衝撃性の評価に用いた試験片は、射出成形機(東芝機械プラスチック社製、(商品名)IS100E)を用い、ノズル温度180℃、射出時間10秒、金型温度55℃の条件で準備した。この際連続成形可能な最小成形時間を測定し成形サイクルとした。
【0041】
〜耐衝撃性の測定法〜
JIS K 7111に従い、シャルピー衝撃強さを測定した。
【0042】
実施例及び比較例に用いたポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、エチレン−酢酸ビニル共重合体、カップリング剤を以下に示す。
【0043】
<ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体>
ポリ3−ヒドロキブチレート単独重合体−1(以下、PHB−1と記す。);Tianan Biologic Material社製、(商品名)ENMAT200、重量平均分子量660000。
【0044】
3−ヒドロキシブチレート/3−ヒドロキシバレレート共重合体−1(以下、PHBV−1と記す。);Tianan Biologic Material社製、(商品名)ENMAT100、重量平均分子量290000。
【0045】
<エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物>
エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物−1(以下、EVAOH−1と記す。);東ソー(株)製、(商品名)メルセンH 6410M、MFR=16g/10分、エチレン単位:酢酸ビニル単位:ビニルアルコール単位=88.7:6.8:4.5(モル%)。
【0046】
エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物−2(以下、EVAOH−2と記す。);東ソー(株)製、(商品名)メルセンH 6210M、MFR=17g/10分、エチレン単位:酢酸ビニル単位:ビニルアルコール単位=88.7:9:2.3(モル%)。
【0047】
エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物−3(以下、EVAOH−3と記す。);東ソー(株)製、(商品名)メルセンH H6960、MFR=40g/10分、エチレン単位:酢酸ビニル単位:ビニルアルコール単位=79:2.1:18.9(モル%)。
【0048】
エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物−4(以下、EVAOH−4と記す。);東ソー(株)製、(商品名)メルセンH 3051R、MFR=5g/10分、エチレン単位:酢酸ビニル単位:ビニルアルコール単位=88.7:7.9:3.4(モル%)。
【0049】
エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物−5(以下、EVAOH−5と記す。);クラレ(株)製、(商品名)EVAL EP−F101、エチレン単位32モル%、ケン化度99%以上。
【0050】
<カップリング剤>
エポキシシラン化合物(以下、カップリング剤−1と記す。):信越化学工業(株)製、(商品名)KBE−403;3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン。
【0051】
アミノシラン化合物(以下、カップリング剤−2と記す。):信越化学工業(株)製、(商品名)KBM−603;N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン。
【0052】
ケチミンシラン化合物(以下、カップリング剤−3と記す。):チッソ社製、(商品名)S340;N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリメトキシシリル)−1−プロパンアミン。
【0053】
多官能イソシアネート化合物(以下、カップリング剤−4と記す。):武田薬品工業(株)製、(商品名)タケネート PW−2400。
【0054】
有機チタネート(以下、カップリング剤−5と記す。):マツモトファインケミカル(株)製、(商品名)オルガチックス TPHS;ポリヒドロキシチタンステアレート。
【0055】
有機アルミネート(以下、カップリング剤−6と記す。):味の素ファインテクノ製、(商品名)プレンアクト AL−M;アルキルアセトアセテートアルミニウムイソプロピレート。
【0056】
多官能性カルボジイミド化合物(以下、カップリング剤−7と記す。):日清紡(株)製、(商品名)カルボジライトLA−1。
【0057】
多官能性酸無水物(以下、カップリング剤−8と記す。):ピロメリット酸無水物 アルドリッチ製。
【0058】
<タルク>
表面処理タルク(以下、タルク−1と記す。):日本タルク(株)製、(商品名)SG−2000、表面エポキシ処理、メジアン径1μm。
【0059】
実施例1
PHB−1/EVAOH−1=80/20(wt%)の割合でドライブレンドした後、二軸押出し機((株)日本製鋼所製、(商品名)TEX−30SS)を用いて溶融混合を行いポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物ペレットを得た。その際の溶融混合は、シリンダー温度175℃、ダイス温度165℃、スクリュー回転数150rpmで行った。
【0060】
得られたポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物ペレットを、射出成形機(東芝機械プラスチック社製、(商品名)IS100E)を用いて試験片を成形し、成形サイクルの評価を行った。その際の成形条件は、ノズル温度180℃、金型温度55℃であった。得られた試験片を用いて耐衝撃性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0061】
実施例2〜12
ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(PHB−1,PHBV−1)、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVAOH−1,2,3,4)、カップリング剤(カップリング剤−1,2,3,4,5,6,7,8)、タルク(タルク−1)を表1に示す配合割合とした以外は、実施例1と同様の方法により、ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物ペレットを製造し、該ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物ペレットを用いて、成形サイクル、耐衝撃性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

比較例1〜4
ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(PHB−1,PHBV−1)、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVAOH−5)を表2に示す配合割合とした以外は、実施例1と同様の方法により、ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物ペレットを製造し、該ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物ペレットを用いて、成形サイクル、耐衝撃性の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0063】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(A)10〜99重量%、及び、75〜96モル%のエチレン単位、2〜20モル%のビニルアルコール単位、2〜20モル%の酢酸ビニル単位からなるエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)1〜90重量%よりなることを特徴とするポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物。
【請求項2】
ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(A)及びエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)の合計量100重量部に対し、さらにエポキシシラン化合物、アミノシラン化合物、ケチミンシラン化合物、多官能性イソシアネート化合物、有機チタネート、有機アルミネート、カルボジイミド化合物、多官能性酸無水物からなる群より選択される少なくとも一種以上のカップリング剤(C)0.5〜5重量部を含んでなることを特徴とするポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物。
【請求項3】
ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体(A)、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)、カップリング剤(C)の合計量100重量部に対し、さらにタルク1〜100重量部を含んでなることを特徴とする請求項1または2に記載のポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体組成物。

【公開番号】特開2009−173803(P2009−173803A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15097(P2008−15097)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】