説明

ポルフィリンリン酸誘導体およびその製造方法

【課題】 水溶性のポルフィリン誘導体およびその製造方法の提供。
【解決手段】 下記式(I):
【化2】


(式中、Rは水素原子またはC1−18アルキル基を、Rは水素原子または式(II):
【化3】


で表される基を示し、式(I)および(II)においてRは水素原子、C1−6アルキル基、またはハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基を示す)で表されるポルフィリン誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポルフィリンリン酸誘導体に関し、特に、水溶性であって、金属に対し強い親和力を有しており、また、蛋白質に対しても強い結合力を有するポルフィリンリン酸誘導体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポルフィリンおよびその誘導体は、共役不飽和結合を有する大環状芳香族化合物であり、たとえば、クロロフィル、ヘモグロビン、シアノコバラミン、ミトコンドリアの電子伝達系など、動植物の生体内において種々の重要な生理機能を果たしていることが知られている。このようなポルフィリンの特性や機能に着目して、これまで多くのポルフィリン誘導体が合成され、構造的な研究がなされており、触媒や増感剤、顔料などの色素、金属トラップ剤等の機能性材料として多岐にわたる分野への応用が図られている。しかしながら、従来のポルフィリン誘導体は水に対する溶解性がないか若しくは非常に悪く、その結果、機能性材料としての適用範囲も限られ、ポルフィリン誘導体の有する特性や機能を十分に活用することができなかった。そのため、水溶性を付与する目的でカルボン酸基やスルホン酸基を導入したポルフィリン誘導体が合成されているが、これらの誘導体は金属に対する親和力が弱く、また、アミノ酸や、蛋白質に対する結合力も弱いという問題を有していた。それゆえ、水溶性であって、金属やアミノ酸、蛋白質等に対しても強い親和力や結合力を有する、安定なポルフィリン誘導体の開発が待ち望まれていた。
【非特許文献1】New Journal of Chemistry, 25(7), 899-904;2001
【非特許文献2】Organic and Biochemistry, 1(4), 733-36;2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、上述のような種々の用途に利用することができる機能性材料として、水溶性であって、金属やアミノ酸、タンパク質などに対して強い親和力を有するポルフィリン誘導体およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題に鑑み、発明者らは種々研究を重ねた結果、リン酸基を導入したポルフィリン誘導体が水溶性で、金属やアミノ酸、タンパク質などに対して強い親和力を有することを見いだし本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1) 式(I):
【化1】

(式中、Rは水素原子またはC1−18アルキル基を、Rは水素原子または式(II):
【化2】

で表される置換フェニル基を示し、式(I)および(II)においてRは水素原子、C1−6アルキル基、またはハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基を示す)で表されるポルフィリン誘導体、
(2) 式(III):
【化3】

(式中、R、RおよびRは上記(1)におけると同義であり、MはZn,Cu,Ag,Ni,Au,Ru,FeまたはMnを示す)で表されるポルフィリン誘導体の金属錯体、
(3) 式(IV):
【化4】

(式中、Rは水素原子、C1−6アルキル基、またはハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基を、Rはホルミル基または式:
【化5】

で表される基を示す)で表されるベンゼンホスホン酸誘導体、
(4) 式(V):
【化6】

または、式(VI):
【化7】

(式(V)および(VI)中、Rは水素原子またはC1−18アルキル基を示す)で表されるジピロールメタン化合物(V)またはピロール化合物(VI)と、式(IVa):
【化8】

(式中、R’はC1−6アルキル基またはハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基を示し、Rは上記(3)におけると同義である)で表されるベンゼンホスホン酸エステル誘導体とを縮合反応に付すことを特徴とする式(Ia):
【化9】

(式中、Rは上記と同義であり、R1aは水素原子または式(IIa):
【化10】

で表される置換フェニル基を示し、式(Ia)および(IIa)においてR’は上記と同義である)で表されるポルフィリンリン酸エステル誘導体の製造方法、
(5) 上記(4)記載の式(Ia)で表されるポルフィリンリン酸エステル誘導体をトリメチルブロモシラン(TMSBr)で加水分解することを特徴とする式(Ib):
【化11】

(式中、Rは水素原子またはC1−18アルキル基を示し、R1bは水素原子または式(IIb):
【化12】

で表される置換フェニル基を示す)で表されるポルフィリンリン酸誘導体の製造方法、および
(6) 上記(1)記載のポルフィリン誘導体と、M(式中、MはZn,Cu,Ag,Ni,Au,Ru,FeおよびMnからなる群から選ばれる金属カチオンを、XはAcO、Cl、SO2−、NO、CO2−、HSOおよびHCOからなる群から選ばれるアニオンを、AおよびBは1ないし3の整数を示す)で表される金属塩とを溶媒中で加熱還流下、反応させることを特徴とする式(III):
【化13】

(式中、Rは水素原子またはC1−18アルキル基を、Rは水素原子または式(II):
【化14】

で表される置換フェニル基を示し、式(III)および(II)においてRは水素原子、C1−6アルキル基、またはハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基を示し、Mは上記と同義である)で表されるポルフィリン誘導体の金属錯体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、リン酸基を導入することにより、安定で、水溶性に優れ、かつ、金属やアミノ酸、タンパク質などに対し強い親和力を有するポルフィリン誘導体およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に係るポルフィリンリン酸誘導体は、上記式(I)、(Ia)、(Ib)および(III)で表される2または4個のリン酸基もしくはリン酸エステル基が置換したフェニル基を有するポルフィリンの誘導体である。
上記式(I)、(Ia)、(Ib)、(III)、(V)および(VI)において、Rは水素原子またはC1−18アルキル基を示す。該「C1−18アルキル基」としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル等が挙げられる。
【0007】
式(I)および(III)において、Rは水素原子または式(II):
【化15】

で表される置換フェニル基を示す。また、式(I)ないし(III)において、式:
【化16】

であらわされるリン酸基またはリン酸エステル基は、ベンゼン環のオルト位、メタ位またはパラ位のいずれの位置に結合していてもよいが、ベンゼン環のメタ位またはパラ位に置換したものが好ましい。
【0008】
上記式(I)ないし(IV)において、Rは水素原子、C1−6アルキル基、またはハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基を示す。
該「C1−6アルキル基」としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル等が挙げられる。
「ハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基」におけるフェニル基の置換基としてのハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。
「ハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基」におけるフェニル基の置換基としてのC1−4アルキルとしては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert-ブチルなどが挙げられる。
また、該フェニル基は置換可能な位置にこれらの置換基を1〜3個有していてもよい。
「ハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基」としては、具体的には、フェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、3−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−ニトロフェニル基、3−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基等が挙げられる。
【0009】
上記式(Ia)、(IIa)および(IVa)において、R’はC1−6アルキル基またはハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基を示す。該「C1−6アルキル基」および「ハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基」としては、上記Rにおける「C1−6アルキル基」および「ハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基」と同様のものが挙げられる。
また、式(Ia)、(IIa)および(IVa)におけるリン酸エステル基、および式(Ib)ならびに(IIb)におけるリン酸基は、ベンゼン環のオルト位、メタ位またはパラ位のいずれの位置に結合していてもよいが、ベンゼン環のメタ位またはパラ位に置換したものが好ましい。
【0010】
式(III)において、Mはポルフィリンの配位金属原子を示し、具体的にはZn、Ag、Ni、Au、Ru、Fe、Mn等の金属原子を示す。
また、ポルフィリンリン酸誘導体の金属錯体の合成原料であるMで表される金属塩において、MはZn,Cu,Ag,Ni,Au,Ru,FeおよびMnからなる群から選ばれる金属カチオンを、XはAcO、Cl、SO2−、NO、CO2−、HSOおよびHCOからなる群から選ばれるアニオンを、AおよびBは1ないし3の整数を示し、このような金属塩としては、たとえば、酢酸亜鉛、酢酸銅、酢酸銀、酢酸ニッケル、塩化亜鉛、塩化金、塩化ルテニウム、塩化鉄、塩化マンガン、硫酸鉄、硝酸銀、などが挙げられる。
【0011】
式(I)で表されるポルフィリンリン酸誘導体としては、表1に示すような置換基の組合せが好ましい。
表1

上記表1中の化合物において、ホスホノ基またはジアルコキシホスホリルもしくはジフェノキシホスホリル基はフェニル基のメタ位またはパラ位に結合した化合物が好ましい。
式(III)で表されるポルフィリン誘導体の金属錯体化合物としては、上記表1中のポルフィリンリン酸誘導体とZn、Cu、Ni、Ag、Au、Ru、FeまたはMnとの錯体が好ましい。
【0012】
本発明の式(I)、(Ia)、(Ib)および(III)で表されるポルフィリンリン酸誘導体は、リン酸基を有するため水溶性であるという特性を有している。また、リン酸基を有するポルフィリン誘導体は、特に金属表面に対して強い親和力を有している。このため、本発明のポルフィリン誘導体は、理想的な太陽電池増感剤として幅広く応用することができる。さらに、リン酸基はアミノ酸や蛋白質に対しても強い結合力を有しているため、蛋白質などの標記、同定等のバイオ研究や新薬の開発にも幅広く用いることができる。
【0013】
以下、本発明のポルフィリン誘導体の製造法について説明する。
(1)出発原料となる上記式(IVb)および(IVc)で表される化合物は、以下に示す工程により製造することができる。
【化17】

上記工程における式(VII)および(IVb)中、R’は式:
【化18】

で表される基であり、Xはハロゲン原子、具体的には塩素、臭素またはヨウ素を示す。また、上記式:(R’O)POHで表されるホスホン酸ジアルキル、式(IVb)および式(IVc)において、R’はC1−6アルキル基またはハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基を示す。該「C1−6アルキル基」および「ハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基」としては、式(I)ないし(III)におけるRについて例示したものと同様のものが挙げられる。
【0014】
式(IVb)で表される化合物の製造は、式(VII)で表される化合物を溶媒に溶解し、例えば式(VII)で表される化合物1モルに対して、ホスホン酸ジアルキル1〜3モル、好ましくは1〜1.25モル、塩基1〜3モル、好ましくは1〜1.25モル、および触媒1%〜20%モル、好ましくは5%〜10%モルを添加し、反応温度25〜120℃、好ましくは50〜90℃で、反応時間12〜48時間、好ましくは16〜24時間反応させることにより行う。
反応に使用する溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等が用いられる。
使用する塩基としては、例えばトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、4−ジメチルアミノピリジン等の有機塩基類が挙げられる。
触媒としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金(0)等の触媒がもちいられる。
なお、上記反応はアルゴン等の不活性ガス気流下に行うことが好ましい。
反応生成物は、公知の分離精製手段、例えば濃縮、減圧濃縮、溶媒抽出、クロマトグラフィーなどにより単離精製することができる。
【0015】
式(IVb)で表される化合物は、例えば、ギ酸で処理することによって脱保護して式(IVc)で表されるアルデヒド体に導くことができる。
【0016】
(2)合成法1
上記式(Ia)で表されるポルフィリンリン酸エステル誘導体のうち、R1aが水素原子であるポルフィリンリン酸エステル誘導体(Ia−1)は以下の工程により製造することができる。
【化19】

上記工程における式(Ia−1)中のR’は、上記式(IVc)におけるR’と同義であり、式(V)および(Ia−1)におけるRは、式(I)および(III)におけるRと同義である。
反応は、式(IVc)で表されるアルデヒド化合物を溶媒に溶解し、例えば式(IVc)で表される化合物1モルに対して、ジピロールメタン化合物(V)0.5〜1モルを添加し、酸触媒の存在下、反応温度0〜150℃、好ましくは25〜45℃で、反応時間1〜72時間、好ましくは12〜24時間行う。反応に使用する溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、メタノール、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン等が用いられる。これらの溶媒は単独で、または2種以上を混合して使用してもよい。
触媒としては、酢酸、ジフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、プロピオン酸、三ふっ化ほう素ジメチルエーテル錯体、三ふっ化ほう素ジエチルエーテル錯体等の酸が用いられる。
上記反応はアルゴン等の不活性ガス気流下に行うことが好ましい。
反応生成物は、公知の分離精製手段、例えば濃縮、減圧濃縮、溶媒抽出、クロマトグラフィー、再結晶などにより単離精製することができる。
【0017】
(3)合成法2
上記式(Ia)で表されるポルフィリンリン酸エステル誘導体のうち、R1aが式(IIa):
【化20】

で表される置換フェニル基であるポルフィリンリン酸エステル誘導体(Ia−2)は以下の工程により製造することができる。
【化21】

上記工程における式(Ia−2)中のR’は、上記式(IVc)におけるR’と同義であり、式(VI)および(Ia−2)におけるRは、式(I)および(III)におけるRと同義である。
反応は、式(IVc)で表されるアルデヒド化合物を溶媒に溶解し、例えば式(IVc)で表される化合物1モルに対して、ピロール化合物(VI)1〜10モルを添加し、酸触媒の存在下、反応温度0〜120℃、好ましくは25〜90℃で、反応時間2〜72時間、好ましくは12〜24時間行う。
反応に使用する溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、メタノール、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン等が用いられる。これらの溶媒は単独で、または2種以上を混合して使用してもよい。
酸触媒としては、酢酸、ジフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、プロピオン酸、三ふっ化ほう素ジメチルエーテル錯体、三ふっ化ほう素ジエチルエーテル錯体等の酸が用いられる。
反応生成物は、公知の分離精製手段、例えば濃縮、減圧濃縮、溶媒抽出、クロマトグラフィー、再結晶などにより単離精製することができる。
【0018】
(4)合成法3
フリーのリン酸基を有する上記式(Ib)で表されるポルフィリンリン酸誘導体は、合成法1または合成法2で得られた式(Ia−1)または式(Ia−2)で表されるポルフィリンリン酸エステル誘導体をトリメチルブロモシラン(TMSBr)で加水分解することによって合成される。
【化22】

反応は、式(Ia−1)または式(Ia−2)で表されるポルフィリンリン酸エステル誘導体を溶媒に溶解し、例えばポルフィリンリン酸エステル誘導体1モルに対して、ブロモトリメチルシラン(TMSBr)1〜40モルを添加し、反応温度0〜100℃、好ましくは15〜60℃で、反応時間8〜72時間、好ましくは12〜24時間行う。
反応に使用する溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン等が用いられる。これらの溶媒は単独で、または2種以上を混合して使用してもよい。
反応生成物は、イオン交換樹脂カラムクロマトグラフィー、再結晶などにより単離精製することができる。
【0019】
(5)合成法4
金属が配位している上記式(III)で表されるポルフィリンリン酸誘導体の金属錯体は、合成法1または合成法2で得られた式(Ia−1)もしくは式(Ia−2)で表されるポルフィリンリン酸エステル誘導体または合成法3で得られた式(Ib−1)もしくは式(Ib−2)で表されるポルフィリンリン酸誘導体を上記Mで表される金属塩と溶媒中で加熱還流下反応させることによって合成される。
【化23】

反応は、式(Ia−1)もしくは式(Ia−2)で表されるポルフィリンリン酸エステル誘導体または式(Ib−1)もしくは式(Ib−2)で表されるポルフィリンリン酸誘導体を溶媒に溶解し、例えばポルフィリンリン酸エステル誘導体1モルに対して、Mで表される金属塩10〜100モルを添加し、反応温度35〜150℃、好ましくは45〜100℃で、反応時間1〜48時間、好ましくは2〜8時間行う。
反応に使用する溶媒としては、酢酸、ジクロロメタン、クロロホルム、メタノール、エタノール、アセトニトリル、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン等が用いられる。これらの溶媒は単独で、または2種以上を混合して使用してもよい。
反応生成物は、公知の分離精製手段、例えば濃縮、減圧濃縮、溶媒抽出、クロマトグラフィー、再結晶などにより単離精製することができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
3−(1,3−ジオキソラン−2−イル)ベンゼンホスホン酸ジエチルの合成
【化24】

アルゴン気流下、化合物 9.2g(40mmol)をトルエン120mlに溶解し、ホスホン酸ジエチル5.7ml(44mmol)、トリエチルアミン6.1ml(44mmol)およびtetrakis(triphenylphosphine)palladium(0)を加え、90℃で16時間加熱した。室温まで冷却した後、ジエチルエーテル100ml加えた。不溶物をろ過した後、ろ液を35℃以下で減圧濃縮し、茶色オイルの粗生成物15.5gを得た。これをシリカゲルカラムクロマトで精製し、黄色オイルとして、目的物を10g(収率87%)得た。
TOFMass スペクトル:M/z=286.46 (計算値:M+=286.10)
【実施例2】
【0021】
3−ホルミルベンゼンホスホン酸ジエチルの合成
【化25】

実施例1で得た化合物 2.86g(10mmol)を30ml 10%ギ酸に加え、3時間還流した。室温まで冷却した後、200mlの飽和重炭酸ナトリウム水溶液に注入した。有機層を分液し、得られた有機層を50mlの飽和重炭酸ナトリウム水溶液で3回洗浄した。これを100mlのクロロホルムに加えた。クロロホルム層を飽和重炭酸ナトリウム水溶液と飽和食塩水でそれぞれ洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去すると、黄色オイルとして、目的物を2.3g(収率95%)得た。
TOFMass スペクトル:M/z=242.28 (計算値:M+=242.07)
【実施例3】
【0022】
ポルフィリンリン酸エステル誘導体の合成
【化26】

アルゴン気流下、化合物 0.242g(1mmol)をプロピオン酸5mlに溶解し、ピロール67mg(1mmol)を加え、3時間加熱還流した。室温まで冷却した後、プロピオン酸を35℃以下で減圧留去した。得られた黒色オイルをシリカゲルカラムクロマトで精製し、緑紫色結晶として、ポルフィリンリン酸エステル誘導体を400mg(収率34%)得た。
TOFMass スペクトル:M/z=1158.16 (計算値:M+=1158.36)
【実施例4】
【0023】
ポルフィリンリン酸エステル誘導体の合成
【化27】

アルゴン気流下、化合物 0.968g(4mmol)をジクロロメタン250mlに溶解し、ジピロール0.592g(4mmol)を加え、トリフルオロ酢酸0.285g(2.5mmol)を加えた後、室温で2時間撹拌反応した。その後、DDQ(2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン)1.816g(8mmol)を加え、同温度35℃下3時間撹拌した。得られた反応液を10mlトリエチルアミンで中和後、溶媒を減圧濃縮した。得られた黒色オイルをシリカゲルカラムクロマトで精製し、緑紫色結晶として、ポルフィリンリン酸エステル誘導体を660mg(収率45%)得た。
TOFMass スペクトル:M/z=734.56 (計算値:M+=734.24)
【実施例5】
【0024】
ポルフィリンリン酸エステル誘導体の亜鉛錯体4bの合成
【化28】

アルゴン気流下、ポルフィリンリン酸エステル誘導体 1.158g(1mmol)をクロロホルム100mlに溶解し、Zn(OAc)2(無水酢酸亜鉛)のメタノール飽和液5mlを加え、2時間加熱還流した。反応液を室温まで冷却した後、水50mlで4回洗浄した。洗浄後の反応液をNa2CO3(無水炭酸ナトリウム)で乾燥後、溶媒を減圧濃縮することにより、ポルフィリンリン酸エステル誘導体の亜鉛錯体4bを1.098g(収率90%)得た。
TOFMass スペクトル:M/z=1220.36 (計算値:M+=1220.28)
【実施例6】
【0025】
ポルフィリンリン酸エステル誘導体の亜鉛錯体5bの合成
【化29】

アルゴン気流下、ポルフィリンリン酸エステル誘導体 734mg(1mmol)をジクロロメタン200mlに溶解し、Zn(OAc)2(無水酢酸亜鉛)の酢酸飽和液3mlを加え、室温で3時間撹拌反応した。得られた反応液を水100mlで3回洗浄した後、Na2CO3(無水炭酸ナトリウム)で乾燥した。溶媒を減圧濃縮することにより、ポルフィリンリン酸エステル誘導体の亜鉛錯体5bを796mg(収率100%)得た。
TOFMass スペクトル:M/z=796.86 (計算値:M+=796.16)
【実施例7】
【0026】
ポルフィリンリン酸誘導体の合成
【化30】

アルゴン気流下、ポルフィリンリン酸エステル誘導体 100mg(0.086mmol)をアセトニトリル4mlに溶解し、TMSBr(ブロモトリメチルシラン) 0.24ml(1.76mmol)を加え、室温で12時間撹拌した。溶媒を減圧留去後、6mlのジエチルエーテルおよび0.5M NH4HCO3(炭酸水素アモニウム)水溶液6mlに注入した。水層を分液し、6mlのジエチルエーテルで3回洗浄した。得られた水層をイオン交換樹脂Amberlite(G-50, H+ form,weekly acidic)で精製し、ポルフィリンリン酸誘導体の水溶液を得た。これを凍結乾燥し、緑紫色結晶として、ポルフィリンリン酸誘導体を68mg(収率84%)得た。
TOFMass スペクトル:M/z=934.66 (計算値:MH+=934.11)
【実施例8】
【0027】
ポルフィリンリン酸誘導体の合成
【化31】

アルゴン気流下、ポルフィリンリン酸エステル誘導体 126mg(0.174mmol)をアセトニトリル10mlに溶解し、TMSBr(ブロモトリメチルシラン) 0.48ml(3.52mmol)を加え、室温で8時間撹拌した。溶媒を減圧留去後、10mlのジエチルエーテルおよび0.5M NH4HCO3(炭酸水素アモニウム)水溶液10mlに注入した。水層を分液し、10mlのジエチルエーテルで3回洗浄した。得られた水層をイオン交換樹脂Amberlite(G-50, H+ form,weekly acidic)で精製し、ポルフィリンリン酸誘導体の水溶液を得た。これを凍結乾燥し、緑紫色結晶として、ポルフィリンリン酸誘導体を81mg(収率75%)得た。
TOFMass スペクトル:M/z=622.42 (計算値:M+=622.12)
【実施例9】
【0028】
ポルフィリンリン酸誘導体の亜鉛錯体6bの合成
【化32】

アルゴン気流下、ポルフィリンリン酸誘導体 93.4mg(0.1mmol)をクロロホルム50mlに溶解し、Zn(OAc)2(無水酢酸亜鉛)のメタノール飽和液0.5mlを加え、2時間加熱還流した。反応液を室温まで冷却した後、水50mlで4回洗浄した。洗浄後の反応液をNa2CO3(無水炭酸ナトリウム)で乾燥後、溶媒を減圧濃縮することにより、ポルフィリンリン酸誘導体の亜鉛錯体6bを79.7g(収率80%)得た。
TOFMass スペクトル:M/z=996.18 (計算値:M+=996.03)
【実施例10】
【0029】
ポルフィリンリン酸誘導体の亜鉛錯体8bの合成
【化33】

アルゴン気流下、ポルフィリンリン酸誘導体 62.2mg(0.1mmol)をジクロロメタン100mlに溶解し、Zn(OAc)2(無水酢酸亜鉛)の酢酸飽和液0.3mlを加え、室温で3時間撹拌反応した。得られた反応液を水50mlで3回洗浄した後、Na2CO3(無水炭酸ナトリウム)で乾燥した。溶媒を減圧濃縮することにより、ポルフィリンリン酸誘導体の亜鉛錯体8bを56.1mg(収率82%)得た。
TOFMass スペクトル:M/z=684.26 (計算値:M+=684.03)
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のポルフィリン誘導体は水溶性であり、金属やアミノ酸、タンパク質などに対し強い親和力を有するので、触媒、増感剤、色素、金属トラップ剤等の機能性材料として種々の分野において利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、Rは水素原子またはC1−18アルキル基を、Rは水素原子または式(II):
【化2】

で表される置換フェニル基を示し、式(I)および(II)においてRは水素原子、C1−6アルキル基、またはハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基を示す)で表されるポルフィリン誘導体。
【請求項2】
式(III):
【化3】

(式中、R、RおよびRは請求項1におけると同義であり、MはZn,Cu,Ag,Ni,Au,Ru,FeまたはMnを示す)で表されるポルフィリン誘導体の金属錯体。
【請求項3】
式(IV):
【化4】

(式中、Rは水素原子、C1−6アルキル基、またはハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基を、Rはホルミル基または式:
【化5】

で表される基を示す)で表されるベンゼンホスホン酸誘導体。
【請求項4】
式(V):
【化6】

または、式(VI):
【化7】

(式(V)および(VI)中、Rは水素原子またはC1−18アルキル基を示す)で表されるジピロールメタン化合物(V)またはピロール化合物(VI)と、式(IVa):
【化8】

(式中、R’はC1−6アルキル基またはハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基を示し、Rは請求項3におけると同義である)で表されるベンゼンホスホン酸エステル誘導体とを縮合反応に付すことを特徴とする式(Ia):
【化9】

(式中、Rは上記と同義であり、R1aは水素原子または式(IIa):
【化10】

で表される置換フェニル基を示し、式(Ia)および(IIa)においてR’は上記と同義である)で表されるポルフィリンリン酸エステル誘導体の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の式(Ia)で表されるポルフィリンリン酸エステル誘導体をトリメチルブロモシラン(TMSBr)で加水分解することを特徴とする式(Ib):
【化11】

(式中、Rは水素原子またはC1−18アルキル基を示し、R1bは水素原子または式(IIb):
【化12】

で表される置換フェニル基を示す)で表されるポルフィリンリン酸誘導体の製造方法。
【請求項6】
請求項1記載のポルフィリン誘導体と、M(式中、MはZn,Cu,Ag,Ni,Au,Ru,FeおよびMnからなる群から選ばれる金属カチオンを、XはAcO、Cl、SO2−、NO、CO2−、HSOおよびHCOからなる群から選ばれるアニオンを、AおよびBは1ないし3の整数を示す)で表される金属塩とを溶媒中で加熱還流下、反応させることを特徴とする式(III):
【化13】

(式中、Rは水素原子またはC1−18アルキル基を、Rは水素原子または式(II):
【化14】

で表される置換フェニル基を示し、式(III)および(II)においてRは水素原子、C1−6アルキル基、またはハロゲン、C1−4アルキルもしくはニトロ基で置換されていてもよいフェニル基を示し、Mは上記と同義である)で表されるポルフィリン誘導体の金属錯体の製造方法。

【公開番号】特開2006−63000(P2006−63000A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245488(P2004−245488)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000134637)株式会社ナード研究所 (31)
【Fターム(参考)】