説明

ポンプの異常検出装置

【課題】油入電気機器のタンク内の絶縁油を循環させるポンプの異常を検出するための装置を提供する。
【解決手段】異常検出装置10は、油入電気機器1の内部で絶縁油を循環させる送油ポンプ3の異常を検出するための装置であり、超音波センサ5と、フィルタ6と、レベル判定器7と、信号発生器8と、表示装置9とを備える。超音波センサ5は、送油ポンプ3の外壁に取り付けられて、送油ポンプ3の内部で発生される超音波を検出する。フィルタ6は、超音波センサ5の出力信号のうち、1MHz以上の周波数帯域の信号を抽出する。絶縁油を分解するキャビテーションでは5MHz以上の高周波の超音波が発生している。1MHz以上の帯域の超音波を検出することによって、絶縁油の分解をもたらすキャビテーションの発生を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポンプの異常検出装置に関し、特に油入電気機器のタンク内に満たされた絶縁油を循環させるポンプ内で発生したキャビテーションを検出するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
キャビテーションとは、高速で流れる液体(水、油など)の中の圧力の低い部分が気化することによって、非常に短時間の間に蒸気のポケットが発生し、また消滅する現象である。キャビテーションの発生時には、非常に高い周波数の振動あるいは固体伝播音が発生することが知られている。したがって、この振動あるいは固体伝播音を検出することによりキャビテーションの発生を検出する方法が提案されている。
【0003】
たとえば特開2003−97410号公報(特許文献1)は、水力発電機器のキャビテーション診断装置を開示する。この装置では、水力発電機器に取り付けられたAEセンサの出力信号のうちの100−200kHzの周波数成分が、キャビテーション成分として識別される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−97410号公報(段落[0027])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
油入変圧器などの油入電気機器では、電気機器(たとえば変圧器)を収納するためのタンクに絶縁油が満たされている。絶縁油を冷却するために、絶縁油は送油ポンプによって循環させられる。
【0006】
発明者は、送油ポンプの負荷が高い場合に、不用なガス成分が絶縁油中に混入する可能性があることを発見した。ポンプの負荷が高い場合とは、たとえば油が流れる配管系の圧損が高い場合などである。発明者は、ガス成分の発生は、ポンプの負荷が高くなることによってポンプ内でキャビテーションが生じ、絶縁油が分解されたためと推測した。
【0007】
分解ガスの検出は、変圧器の診断にとって有効な技術である。たとえば絶縁油の絶縁性能が低下すると変圧器の放電が発生する可能性がある。変圧器の放電によって絶縁油が分解されることによりアセチレンガスが発生する。このため変圧器の診断では、アセチレンガスは検出されないことが要求される。
【0008】
一方、ポンプ内部のキャビテーションによって絶縁油が分解し、その結果アセチレンガスが発生すると、変圧器の診断に支障が出る。すなわち、絶縁油の絶縁性能が低下したために変圧器が放電し、これによりアセチレンガスが発生したと誤診断される可能性がある。このため、絶縁油の分解をもたらすキャビテーションが発生することを抑制する必要がある。
【0009】
しかしながら、これまでに、油入電気機器の絶縁油がキャビテーションによって分解するという現象自体が知られていなかった。したがって油入電気機器の絶縁油を循環させるポンプの異常、すなわち絶縁油を分解させるキャビテーションが生じたことを検出するための技術はこれまでに提案されていない。
【0010】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、油入電気機器のタンク内の絶縁油を循環させるポンプの異常を検出するための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は要約すれば、電気機器を収納するタンクに満たされた絶縁油を循環させるポンプの異常検出装置である。ポンプの異常検出装置は、ポンプから発生する超音波を検出するためのセンサと、センサの出力信号の中から、絶縁油の分解と関連する所定周波数帯域の成分を抽出するためのフィルタとを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、油入電気機器のタンク内の絶縁油を循環させるポンプの異常として、絶縁油を分解させるキャビテーションが生じたことを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態に係る送油ポンプの異常検出装置の構成図である。
【図2】図1に示した油入電気機器の構成例を示す断面図である。
【図3】この発明の実施の形態に適用される超音波センサの感度の周波数特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、この発明の実施の形態に係る送油ポンプの異常検出装置の構成図である。図1を参照して、異常検出装置10は、送油ポンプ3の異常を検出するための装置である。送油ポンプ3は、油入電気機器1の内部に満たされた絶縁油を循環させるとともに冷却器2を通過させる。絶縁油が冷却器2を通ることによって絶縁油は冷却される。
【0015】
図2は、図1に示した油入電気機器の構成例を示す断面図である。図2を参照して、油入電気機器1は、たとえば油入変圧器であり、タンク11と、絶縁油55と、電気機器本体としての変圧器とを備える。変圧器は、鉄心51,52と、コイル53とを備える。
【0016】
コイル53は、銅巻線に絶縁紙が巻かれている紙巻銅線である。コイル53は、鉄心51,52に囲まれている。
【0017】
タンク11の内部は絶縁油55で満たされており、コイル53は絶縁油55に浸されている。絶縁油55によって、油入電気機器1の絶縁および冷却が行なわれる。冷却器2により、絶縁油55が冷却される。図2中の矢印で示されるように、絶縁油55は送油ポンプ3によって油入電気機器1(タンク11)の内部で循環する。これによりコイル53が冷却される。
【0018】
図1に戻り、異常検出装置10は、超音波センサ5と、フィルタ6と、レベル判定器7と、信号発生器8と、表示装置9とを備える。
【0019】
超音波センサ5は、送油ポンプ3の外壁に取り付けられて、送油ポンプ3の内部で発生される超音波を検出する。具体的には、超音波センサ5としてAE(Acoustic Emission)センサを適用することができる。
【0020】
フィルタ6は、超音波センサ5の出力信号のうち、所定周波数帯域の成分を抽出する。本発明の実施の形態では、所定の周波数帯域は、1MHz以上の周波数帯域である。
【0021】
レベル判定器7は、フィルタ6を通過した信号の強度レベル、すなわち1MHz以上の周波数成分を含む信号の強度レベルが基準レベルより高いか否かを判定するとともに、その判定結果を示す信号を出力する。この基準レベルは、予め定められている。
【0022】
信号発生器8はレベル判定器7の出力に基づいてアラーム信号を発生させる。レベル判定器7によって、1MHz以上の周波数成分を有する信号の強度レベルが基準レベルより高いと判定された場合には、信号発生器8はアラーム信号を発生させる。
【0023】
表示装置9は、信号発生器8からのアラーム信号に基づいて、送油ポンプ3の異常を知らせるための情報を画面(図示せず)等に表示する。
【0024】
上記の構成を有する異常検出装置10の動作について説明する。まず、送油ポンプ3の内部でキャビテーションが発生した場合、超音波センサ5は、送油ポンプ3の内部で発生する超音波を検出する。ただしキャビテーションにはさまざまなモードが存在するため、キャビテーション発生時の超音波の周波数はブロードに分布する。
【0025】
フィルタ6は、超音波センサ5によって検出された超音波のうち、絶縁油の分解をもたらすキャビテーションと関連する、所定周波数帯域の成分を抽出する。具体的には、フィルタ6は、超音波センサ5の出力信号から1MHz以上の周波数成分を抽出する。
【0026】
1MHz以上の周波数成分をフィルタ6によって抽出する理由は以下の通りである。発明者は、まず、キャビテーションによって絶縁油が分解されるという現象を検証するために、超音波振動子を用いて絶縁油に超音波を与える実験を行なった。この実験では、5MHzの超音波を絶縁油に与えても分解ガス(具体的にはアセチレンガス)が発生しなかった。この実験によって、5MHzよりも高い周波数の超音波によって絶縁油が分解することが分かった。
【0027】
フィルタ6から信号が出力される場合には、絶縁油が分解されるキャビテーションが送油ポンプ3の内部で発生している可能性がある。一方、フィルタ6から信号が出力されなければ、キャビテーションが発生していないか、あるいはキャビテーションが生じていても絶縁油は実質的には分解されていない。すなわち超音波センサ5の出力信号のうち1MHz以上の周波数帯域の成分をフィルタ6によって抽出することにより、絶縁油を分解させるキャビテーションが送油ポンプ3の内部で発生しているか否かを検出できる。
【0028】
レベル判定器7は、フィルタ6の出力信号のレベルが基準レベルより高いか否かを判定する。フィルタ6の出力信号の強度が大きい場合には、5MHzより大きな周波数成分の強度もある程度大きくなると想定される。
【0029】
図3に示すように、多くの場合、AEセンサの感度は1MHz以上の領域で低下する。このようなAEセンサの感度を考慮すると、フィルタ6から出力された1MHz以上の周波数帯域の成分の強度が大きい場合、キャビテーション発生時の超音波の周波数がブロードに分布するため、周波数が5MHzより高い成分の強度もある程度大きいと予想される。すなわち絶縁油が分解されるキャビテーションが生じている可能性がある。
【0030】
一方、1MHzよりも高い周波数成分がフィルタ6から出力されない場合、5MHzよりも高い周波数の超音波が送油ポンプ3内で発生している確率は小さい。したがって絶縁油が分解されるキャビテーションが生じている可能性は低くなる。本発明の実施の形態では、フィルタ6の出力信号のレベルが基準レベルより高いか否かを判定することによって、絶縁油が分解されるキャビテーションの発生を正確に検出できる。
【0031】
信号発生器8は、フィルタ6の出力信号のレベルが基準レベルより高いとレベル判定器7によって判定された場合にアラーム信号を出力する。そのアラーム信号により、表示装置9は、ポンプの異常を知らせるための情報を画面に表示する。
【0032】
キャビテーションが発生していない場合、あるいはキャビテーションが生じても絶縁油が分解されない場合には、超音波センサ5の出力に1MHzを超える周波数成分が含まれなくなるので、フィルタ6からの出力信号のレベルは基準レベルよりも低くなる。この場合、レベル判定器7が、フィルタ6の出力信号のレベルが基準レベル以下であると判定するので、信号発生器8はアラーム信号を出力しない。したがって表示装置9は、送油ポンプ3の異常を表示しない。
【0033】
従来のキャビテーション検出技術では、1MHz以下の周波数成分を対象としてキャビテーションを検出していた。しかし従来の技術によれば、絶縁油を分解させるキャビテーションの発生を検出できない。これに対して本発明の実施の形態によれば、1MHz以上の周波数成分の有無を検出することによって、絶縁油の分解につながるキャビテーションの発生を検出できる。
【0034】
キャビテーションの発生が検出されることにより、たとえば送油ポンプ3が交換される。これにより絶縁油が分解される状態が継続されることを防止できるので、たとえば変圧器の診断への影響を防止できる。一例を示すと、絶縁油の分解によるアセチレンガスの発生を防止できる。
【0035】
絶縁油の絶縁性能が低下したことにより変圧器が放電した場合にも、絶縁油の分解によってアセチレンガスが発生する。キャビテーションによる絶縁油の分解およびアセチレンガスの発生が抑制されることで絶縁油の絶縁性能が低下し、変圧器が放電したと誤って診断されることを防止できる。これにより変圧器の状態を正しく診断することが可能になるので、たとえば変圧器の長寿命化が可能となる。
【0036】
さらに本発明の実施の形態によれば、超音波センサの出力信号のうちの1MHzより低い周波数成分は、フィルタ6によって遮断される。これにより分解ガスを生じさせないキャビテーションが生じた場合に、アラーム信号が発生することを防ぐことができる。この場合には送油ポンプ3を使い続けることができるので、送油ポンプ3の使用期間を延ばすことが可能となる。
【0037】
なお、図2には、タンクの内部に収納される変圧器として、巻線の周りに鉄心を配置した、いわゆる外鉄型変圧器を示しているが、タンクの内部に収納される変圧器は、鉄心の周りに巻線を配置した、いわゆる内鉄型変圧器であってもよい。
【0038】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0039】
1 油入電気機器、2 冷却器、3 送油ポンプ、5 超音波センサ、6 フィルタ、7 レベル判定器、8 信号発生器、9 表示装置、10 異常検出装置、11 タンク、51,52 鉄心、53 コイル、55 絶縁油。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器を収納するタンクに満たされた絶縁油を循環させるポンプの異常検出装置であって、
前記ポンプから発生する超音波を検出するためのセンサと、
前記センサの出力信号の中から、前記絶縁油の分解と関連する所定周波数帯域の成分を抽出するためのフィルタとを備える、ポンプの異常検出装置。
【請求項2】
前記所定周波数帯域は、1MHz以上の周波数帯域である、請求項1に記載のポンプの異常検出装置。
【請求項3】
前記フィルタの出力信号のレベルが予め定められた基準レベルを超えたか否かを判定するための判定器と、
前記判定器によって、前記フィルタの出力信号のレベルが前記基準レベルを超えたと判定された場合に、アラーム信号を発生させる信号発生器とをさらに備える、請求項1または2に記載のポンプの異常検出装置。
【請求項4】
前記アラーム信号に基づいて前記ポンプの異常を表示する表示装置をさらに備える、請求項3に記載のポンプの異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−141235(P2011−141235A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3062(P2010−3062)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】