説明

ポンプ浚渫船及びポンプ浚渫船を使用した浚渫方法

【課題】人為的ミス等による過度の余掘りを抑制し、浚渫土量の低減を図ることができるポンプ浚渫船及びそれを使用した浚渫方法の提供。
【解決手段】先端側を水底部に向けて水中に挿入されるラダー3と、ラダー先端部に配置された掘削手段4と、ラダー先端部に吸引口5aを開口させた輸送管路5と、輸送管路に接続された吸引ポンプ6と、ラダー先端部の位置を検知する位置検知手段15,16と、一端を輸送管路5の吸引口5aより吸引方向下流側に接続させ、他端を水中に開口させた導水路20と、導水路20を開閉する開閉手段21とを備え、位置検知手段15,16より得られたラダー先端部の実際の位置データに基づいて開閉手段21を動作させて導水路20より輸送管路5内に水を導入し、吸引口5aからの土砂吸引量を抑制するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾等の水底部を掘削するとともに掘削土を周囲の水とともにポンプ圧送により移送するポンプ浚渫船及びポンプ浚渫船を使用した浚渫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、港湾等の水底部を浚渫する方法としては、ポンプ浚渫船を使用した浚渫方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
ポンプ浚渫船は、作業船の船首側に昇降手段により吊り下げ支持されたラダーを備え、このラダーの先端部を水底部に着底させ、ラダー先端部に配置されたカッター等の掘削手段により水底部を掘削するとともに、その掘削された土砂を周囲の海水とともに輸送管路を通して吸引ポンプにより吸い上げ、ポンプ圧送により作業船上或いは土捨て場に直接移送するようになっている。
【0004】
また、このような従来のポンプ浚渫船では、昇降手段を構成する吊り下げ用ワイヤーの繰り出し量に基づいてラダー先端部の水深位置を検知するとともに作業船に設置されたGPS等の水平位置検知手段を用いてラダー先端部の位置を検知し、その位置データに基づいてオペレータがラダー先端部の位置を管理しつつ操船及びラダー操作を行うようになっている。
【0005】
一方、このようなポンプ浚渫方法では、ラダー先端部の位置を管理しつつ作業を行っても、潮位変動或いは波浪による船体の上下動等によってラダー先端部の位置も上下動し、浚渫後の水底面に不陸が生じる。そのため、この不陸を考慮しつつ浚渫後に目標浚渫深度及び目標浚渫幅員を確保するためには、実際の浚渫深度及び浚渫幅員に目標浚渫深度及び目標浚渫幅員よりも余裕を持たせる必要、即ち余掘りをする必要があった。
【0006】
一方、現在では、浚渫土量に対して土捨て場が慢性的に不足している状況にあることから、浚渫土量を最小限に抑えるために余掘り量の低減が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10―280468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の如き従来の技術では、浚渫後の水底面の不陸を考慮して実際の浚渫深度に目標浚渫深度より余裕を持たせたことにより、潮位上昇等によってラダー先端部の位置が上向きに移動しても目標浚渫深度を確保できるが、その反面、潮位低下等によってラダー先端部の位置が下向きに移動した場合には、目標浚渫深度を越えてより深い位置にまでラダー先端部が到達し、目標浚渫深度を確保するためには余計な部分の土砂までも余掘りしていたという問題があった。
【0009】
一方、このような場合に余掘り量を抑制する方法として、吸引ポンプの停止が考えられるが、浚渫作業中に吸引ポンプを停止させることは、土砂の沈降による輸送管路の閉塞を引き起こす懸念から困難である。また、余掘り量を抑制する方法として、ラダー操作によりラダー先端部を上昇させることも考えられるが、浚渫作業中にオペレータが手動で細やかなラダー操作を行うことは困難であった。
【0010】
また、ポンプ浚渫船による浚渫作業は、24時間連続施工のように作業が長時間に亘ることが多く、ポンプ浚渫船の操船及びラダー操作を行うオペレータへの負担が大きく、人為的ミスを誘発して施工精度の低下を招くおそれがあり、それに伴って余掘り量も増加するおそれがあった。
【0011】
そこで本発明は、このような従来の問題に鑑み、人為的ミス等による過度の余掘りを抑制し、浚渫土量の低減を図ることができるポンプ浚渫船及びポンプ浚渫船を使用した浚渫方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明の特徴は、先端側を水底部に向けて水中に挿入されるラダーと、該ラダー先端部に配置された掘削手段と、前記ラダー先端部に吸引口を開口させた輸送管路と、該輸送管路に接続された吸引ポンプと、前記ラダー先端部の位置を検知する位置検知手段とを備えてなるポンプ浚渫船において、一端を前記輸送管路の前記吸引口より吸引方向下流側に接続させ、他端を水中に開口させた導水路と、該導水路を開閉する開閉手段とを備え、前記位置検知手段より得られた前記ラダー先端部の実際の位置データに基づいて前記開閉手段を動作させて前記導水路を開いて前記輸送管路内に水を導入し、前記吸引口からの土砂吸引量を抑制するようにしたことにある。
【0013】
請求項2に記載の発明に特徴は、請求項1の構成に加え、前記開閉手段の開閉動作を制御する制御装置を備え、該制御装置は、前記位置検知手段より得られた前記ラダー先端部の実際の位置データに基づき前記ラダー先端部の実際の位置が予め設定された管理位置を越えているか否かを判定する判定手段を備え、該判定手段による判定に基づき前記開閉手段を動作させるようにしたことにある。
【0014】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記位置検知手段は、前記ラダー先端部の水深位置を検知する水深検知手段を備えたことにある。
【0015】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項1、2又は3の構成に加え、前記位置検知手段は、前記ラダー先端部の水平方向位置を検知する水平位置検知手段を備えたことにある。
【0016】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項1〜3又は4の構成に加え、前記開閉手段は、流量調節機能を有することにある。
【0017】
請求項6に記載の発明の特徴は、先端側を水底部に向けて水中に挿入されるラダーと、該ラダー先端部に配置された掘削手段と、前記ラダー先端部に吸引口を開口させた輸送管路と、該輸送管路に接続された吸引ポンプと、前記ラダー先端部の位置を検知する位置検知手段とを備えたポンプ浚渫船を使用し、前記ラダー先端部を水底部に着底させ、前記作業船を水平方向に回動させつつ、前記掘削手段により水底部を掘削し、掘削した土砂を周囲の水とともに前記吸引口より吸引し、前記輸送管路を通してポンプ圧送するポンプ浚渫船を使用した浚渫方法において、前記ポンプ浚渫船は、一端を前記輸送管路の前記吸引口より吸引方向下流側に接続させ、他端を水中に開口させた導水路と、該導水路を開閉する開閉手段とを備え、前記位置検知手段により前記ラダー先端部の実際の位置を検知し、該ラダー先端部の実際の位置を予め設定された管理位置と比較し、前記ラダー先端部の実際の位置が前記管理位置を越えている場合には、前記開閉手段を開いて前記導水路より前記輸送管路内に水を導入し、前記吸引口からの土砂吸引量を抑制することにある。
【0018】
請求項7に記載の発明の特徴は、請求項6の構成に加え、前記ポンプ浚渫船は、前記開閉手段の開閉動作を制御する制御装置を備え、該制御装置は、前記位置検知手段より得られた前記ラダー先端部の実際の位置データに基づき前記ラダー先端部の実際の位置が予め設定された管理位置を越えているか否かを判定する判定手段を備え、該判定手段が前記ラダー先端部の実際の位置が前記管理位置を越えていると判定した場合には、前記開閉手段を開いて前記導水路より前記輸送管路内に水を導入させ、前記吸引口からの土砂吸引量を抑制させることにある。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るポンプ浚渫船は、上述したように、先端側を水底部に向けて水中に挿入されるラダーと、該ラダー先端部に配置された掘削手段と、前記ラダー先端部に吸引口を開口させた輸送管路と、該輸送管路に接続された吸引ポンプと、前記ラダー先端部の位置を検知する位置検知手段とを備えてなるポンプ浚渫船において、一端を前記輸送管路の前記吸引口より吸引方向下流側に接続させ、他端を水中に開口させた導水路と、該導水路を開閉する開閉手段とを備え、前記位置検知手段より得られた前記ラダー先端部の実際の位置データに基づいて前記開閉手段を動作させて前記導水路を開いて前記輸送管路内に水を導入し、前記吸引口からの土砂吸引量を抑制するようにしたことにより、管理位置を越えている位置における過度の余掘りを抑制することができ、浚渫土量の低減を図ることができる。
【0020】
また、本発明において、前記開閉手段の開閉動作を制御する制御装置を備え、該制御装置は、前記位置検知手段より得られた前記ラダー先端部の実際の位置データに基づき前記ラダー先端部の実際の位置が予め設定された管理位置を越えているか否かを判定する判定手段を備え、該判定手段による判定に基づき前記開閉手段を動作させるようにしたことにより、自動的に吸引口からの土砂の吸引量を抑制し、人為的ミスによる施工精度の低下を防止することができる。
【0021】
更に本発明において、前記位置検知手段は、前記ラダー先端部の水深位置を検知する水深検知手段を備えたことにより、ラダー先端部の実際の水深位置を検知し、水深方向におけるラダー先端部の位置変動に対応することができる。
【0022】
更にまた、本発明において、前記位置検知手段は、前記ラダー先端部の水平方向位置を検知する水平位置検知手段を備えたことにより、ラダー先端部の実際の水平方向位置を検知し、水平方向におけるラダー先端部の位置変動に対応することができる。
【0023】
また、本発明において、前記開閉手段は、流量調節機能を有することにより、輸送管路内の流量及び流速を一定に保ちつつ、土質等に対応して吸引口からの土砂吸引量を調節することができる。
【0024】
本発明に係るポンプ浚渫船を使用した浚渫方法は、先端側を水底部に向けて水中に挿入されるラダーと、該ラダー先端部に配置された掘削手段と、前記ラダー先端部に吸引口を開口させた輸送管路と、該輸送管路に接続された吸引ポンプと、前記ラダー先端部の位置を検知する位置検知手段とを備えたポンプ浚渫船を使用し、前記ラダー先端部を水底部に着底させ、前記作業船を水平方向に回動させつつ、前記掘削手段により水底部を掘削し、掘削した土砂を周囲の水とともに前記吸引口より吸引し、前記輸送管路を通してポンプ圧送するポンプ浚渫船を使用した浚渫方法において、前記ポンプ浚渫船は、一端を前記輸送管路の前記吸引口より吸引方向下流側に接続させ、他端を水中に開口させた導水路と、該導水路を開閉する開閉手段とを備え、前記位置検知手段により前記ラダー先端部の実際の位置を検知し、該ラダー先端部の実際の位置を予め設定された管理位置と比較し、前記ラダー先端部の実際の位置が管理位置を越えている場合には、前記開閉手段を開いて前記導水路より前記輸送管路内に水を導入し、前記吸引口からの土砂吸引量を抑制することにより、目標浚渫位置を確保しつつ管理位置を越えている分の余掘り量を抑制することができる。
【0025】
また、本発明において、前記ポンプ浚渫船は、前記開閉手段の開閉動作を制御する制御装置を備え、該制御装置は、前記位置検知手段より得られた前記ラダー先端部の実際の位置データに基づき前記ラダー先端部の実際の位置が予め設定された管理位置を越えているか否かを判定する判定手段を備え、該判定手段が前記ラダー先端部の実際の位置が前記管理位置を越えていると判定した場合には、前記開閉手段を開いて前記導水路より前記輸送管路内に水を導入させ、前記吸引口からの土砂吸引量を抑制させることにより、人為的ミスによる施工精度の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るポンプ浚渫船の一例を示す側面図である。
【図2】同上のポンプ浚渫船の水平方向動作の概略を示す平面図である。
【図3】同上のポンプ浚渫船の制御装置の一例の概略を示す模式図である。
【図4】図1中のラダー部の一例を示す側面図である。
【図5】図1中のラダー部の他の一例を示す側面図である。
【図6】本発明に係るポンプ浚渫船を使用した浚渫方法の概略を示すチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明に係るポンプ浚渫船の実施の態様を図1〜図5に示した実施例に基づいて説明する。尚、図中符号1はポンプ浚渫船である。
【0028】
ポンプ浚渫船1は、図1に示すように、作業船2より水底部に向けて水中に挿入されるラダー3と、ラダー3の先端部に配置された掘削手段4と、ラダー3先端部に吸引口5aを開口させた輸送管路5と、輸送管路5に接続された吸引ポンプ6とを備え、掘削手段4により水底部を掘削し、その掘削された土砂を吸引ポンプ6により周囲の海水とともに吸引口5aより吸い上げ、輸送管路5を通してポンプ圧送により作業船2上或いは直接土捨て場等に移送することにより水底部を浚渫するようになっている。
【0029】
尚、図中符号7はポンプ浚渫船1の制御を行う制御室であり、制御室7内には制御装置8を構成するコンピュータ端末等が設置され、この制御装置8によりポンプ浚渫船1が自動制御できるようになっている。
【0030】
作業船2は、船尾部に上下方向に向けたスパット9(固定杭)を備え、図2に示すように、このスパット9を水底部に向けて打ち込み回動軸とし、このスパット9を基軸としてポンプ浚渫船1が水平方向で回動動作(スイング)するようになっている。
【0031】
一方、この作業船2の船首部には、ラダー3基端部が枢支され、その先端側が昇降手段10により上下動するようになっている。
【0032】
この昇降手段10は、作業船2の船首部に設置された支柱11上端部より繰り出された吊り下げ用ワイヤー12,12を備え、吊り下げ用ワイヤー12,12の先端をラダー3の先端部及び中央部にそれぞれ連結させ、作業船2上に搭載されたウインチ13により吊り下げ用ワイヤー12,12を繰り出し・巻き取り動作することにより枢支軸14を基軸としてラダー3を上下動させるようになっている。
【0033】
この吊り下げ用ワイヤー12の繰り出し量は、ロータリーエンコーダ等からなる測定器により測定され、測定された繰り出し量データが制御装置8に出力され、この繰り出し量データに基づいてラダー3先端部の水深方向位置を制御するようになっている。
【0034】
一方、ラダー3の先端側部には、水圧計等からなる水深検知手段15が設置され、作業船2に設置されたGPS等からなる水平位置検知手段16とともにラダー3先端部の位置を検知する位置検知手段を構成し、ラダー3先端部の実際の水深位置及び水平方向位置(x−y−z座標)をリアルタイムに制御装置8に出力するようになっている。
【0035】
制御装置8は、図3に示すように、水深検知手段15及び水平方向検知手段16から送信された実際の水深位置データ及び水平方向位置データに基づいて、実際の水深位置及び水平方向位置が予め設定された管理位置を越えているか否かを判定する判定手段を備え、この判定手段の判定に基づき警告用回転灯等の警報装置17及び後述する開閉手段21に動作信号を送信するようになっている。
【0036】
尚、上述の管理位置は、水深方向では目標浚渫深さd0から所定の距離を隔てた位置(例えば、目標浚渫深度より水深方向下向きに20cmの位置)に設定し、水平方向では目標浚渫幅員の水平方向境界線h1、h2に設定する。
【0037】
また、浚渫区域の法面部分の浚渫においては、水深方向管理位置及び水平方向管理位置を複数設け、法面の勾配を考慮して段階的に設定する。
【0038】
尚、管理位置は、上述した例に拘泥されず、浚渫対象区域の土質や天候、潮の満ち引き等を考慮して適宜設定することができる。
【0039】
掘削手段4は、ラダー3先端部に回転自在に支持されたカッターを備え、このカッターを図示しない駆動モータにより回転させることにより水底の土砂を掘削するようになっている。
【0040】
また、ラダー3内には、可撓性を有するホース等からなる輸送管路5が配管されており、輸送管路5の一方の端部が吸引口5aとしてラダー3先端部に配置され、掘削手段4により掘削された土砂がこの吸引口5aより周囲の水とともに輸送管路5を通して吸引ポンプ6により吸引されるようになっている。
【0041】
この吸引ポンプ6は、浚渫対象区域の土質やポンプ圧送距離等から輸送管路5内の圧力などを計算し、それに基づいてポンプ設置位置や出力(回転数)が決定されている。
【0042】
また、輸送管路5には、吸引口5aより吸引方向下流側に導水路20が接続されており、この導水路20を通して輸送管路5内に周囲の海水等の水を導入することができるようになっている。
【0043】
導水路20は、図4に示すように、一方の端部を輸送管路5の吸引口5aより吸引方向下流側且つ吸引ポンプ6より吸引方向上流側に連通させ、他方の端部側をラダー3先端側に向けて延長させた形状に形成され、他方の端部開口部20aが浚渫作業中常に水面下に位置するように配置されている。
【0044】
また、この導水路20の途中には、開閉手段21が介在され、導水路20が開閉手段21により開閉されるようになっている。
【0045】
この開閉手段21には、バタフライバルブを使用し、モータ等のアクチュエータ22の動作に連動して開閉弁が全閉状態から全開状態まで段階的に開閉動作し、導水路20内の流量を調節できるようになっている。尚、開閉手段21は、バタフライバルブに限定されず、ボールバルブ、シャッターバルブなど流量を調節できるものであればよい。
【0046】
一方、アクチュエータ22は、制御装置8により遠隔操作され、制御装置8から出力された動作信号に基づいて制御されている。尚、アクチュエータ22の動作原理はモータ等の電動式の他、空気圧式、油圧式、水圧式であってもよい。
【0047】
尚、上述の実施例では導水路20をラダー基端側に配置した例について説明したが、図5に示すように、導水路20及び開閉手段をラダー3の先端側に配置してもよい。
【0048】
このように構成されたポンプ浚渫船1では、位置検知手段、即ち水深検知手段15及び水平位置検知手段16によりラダー3先端部の実際の位置を検知し、制御装置8にリアルタイムでラダー3先端部の水深位置及び水平位置の実際の位置データが送信され、制御装置8は、この実際の位置データに基づき判定手段によりラダー先端部の実際の位置が予め設定された管理位置を越えているか否かを判定し、実際の位置が管理位置を越えていると判定された場合、即ちラダー先端部の実際の水深位置が管理位置d1より深い位置にある場合、又は実際の水平方向位置が管理位置h1又はh2より外側に位置する場合には、動作信号を出力して開閉手段21を開放するようになっている。
【0049】
このように、開閉手段21を開放することにより導水路20内に吸引ポンプ6による負圧が作用し、導水路20より外部の水が輸送管路5内に導入され、それに伴い土砂の吸引口5aからの吸引量が抑制される。
【0050】
即ち、吸引口5aからの土砂吸引量は地盤の土質及び吸引口5aにおける流速に依存するところ、吸引口5aより吸引方向下流側に配置された導水路20より輸送管路5内に水を導入することにより、導水路20より吸引方向下流側の輸送管路5内の流量及び流速を一定に保ちつつ、吸引口5aにおいては吸引量が低下するとともに流速が土砂を吸い上げずに周囲の水のみを吸引する流速まで低下し、それにより吸引口5aからの土砂吸引量が抑制される。
【0051】
これにより、ラダー先端部が潮位変動や船体動揺等により目標浚渫深度又は目標浚渫幅員を越えた位置に到達しても水深方向管理位置d1及び水平方向管理位置h1,h2を越えている位置における過度の余掘りを自動的に抑制するので、目標浚渫深度及び目標浚渫幅員を確保しつつ余掘り量を低減することができるようになっている。
【0052】
また、このように構成されたポンプ浚渫船1では、開閉手段21が流量調節機能を有することにより導水路20からの水の導入量を調節することができ、それにより吸引ポンプ6の出力(回転数)を変えずに吸引口5aからの吸引量を変化させることができる。
【0053】
従って、浚渫範囲内に異なった土質範囲があった場合等、吸引口5aからの吸引量を適宜切り替える必要が生じた場合であっても、土質が切り替わった位置において流量調節しつつ開閉手段21を動作させることにより、輸送管路5内の流量及び流速を一定に保ちつつ、土質によって吸引口5aからの吸引量を変化させることにより対応することができる。
【0054】
例えば、浚渫範囲内に粘度分の多い土質と砂分の多い土質とが存在する場合、粒子の大きな砂分の移送に合わせてポンプ出力を設定すれば、輸送管路5内の流速が粒子の自由沈降速度よりも低くなることがないので管路の閉塞を防止することができる。しかし、粘土分の多い土質部分では、上記ポンプ出力では砂分より粒子の小さい粘土土質では余分に吸引してしまい、余掘り量が過剰となってしまう。
【0055】
そこで、砂分の多い土質の区域と粘土分の多い土質の区域との境界線に管理位置を設定することにより、管理位置を越えている位置にある粘土分の多い土質の区域部分において開閉手段21を動作させ、導水路20より水を流量調節しつつ導入することによりポンプの回転数を変えずに、吸引口5aからの吸引量を抑制できる。
【0056】
尚、ボーリングなどによる事前地質調査を行い開閉手段21の流量調節に反映させることで余掘り量を確実に低減させることができる。
【0057】
次に、上述したポンプ浚渫船を使用した浚渫方法について図6に基づいて説明する。尚、上述の実施例と同様の部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0058】
まず、作業船2を浚渫対象区域に移動させ、その位置でスパット9を水底部に打ち込み、昇降手段10を動作させてラダー3先端側を下降させ、ラダー3先端部の掘削手段4を着底させる。
【0059】
そして、掘削手段4及び吸引ポンプ6を動作させる(STEP1)とともに、作業船2のラダースイング動作を開始し(STEP2)、また、位置検知手段15,16によるラダー3先端部の実際の水深位置及び現水平方向位置の検知を開始する。
【0060】
この位置検知手段15,16により得られた実際の位置データは、位置検知手段15,16より制御装置8にリアルタイムで出力され、制御装置8は、入力された実際の位置データを予め設定された管理位置d1、h1、h2と比較し、ラダー3先端部の実際の位置が設定された管理位置を越えるか否かを判定する(STEP4)。
【0061】
そして、ラダー3先端部の実際の位置が設定された管理位置を越えていないと判定された場合には、STEP2に戻り開閉手段21を閉鎖したまま浚渫作業を続行する。
【0062】
一方、潮位変動や船体動揺等によりラダー3先端部の実際の位置が変動し(STEP3)、判定手段が位置データに基づきラダー3先端部の実際の位置が管理位置を越えていると判定した場合、制御装置8は、警告用回転灯やブザー等の警報装置17に動作信号を送信して警報装置17を動作させてオペレータに知らせる(STEP5)とともに、開閉手段21に動作信号を送信し、瞬時に開閉手段21を開放して導水路20より水面下の水を輸送管路5内に導入する(STEP6〜8)。
【0063】
これにより、導水路20より吸引方向下流側の輸送管路5内の流量及び流速を一定に保持する一方、吸引口5aにおいては、吸引量が低下するとともに流速が土砂を吸い上げずに周囲の水のみを吸引する流速まで低下し、それにより管理位置を越えている位置における余掘り量が抑制される。
【0064】
そして、リアルタイムに送信される実際の位置データに基づき判定手段による判定を繰り返し(STEP10)、潮位変動が収まった場合、或いはオペレータがラダー操作を行い、ラダー3先端部の実際の位置が設定された管理位置を越えていないと判定された場合には、制御装置8は動作信号を送信して開閉手段21を動作させて導水路20を閉鎖させ、それにより吸引口5aにおける吸引量及び流速が土砂を吸い上げ可能な状態に復帰され、吸引口5aより土砂の吸引が再開される(STEP11〜13)。
【0065】
一方、未だ実際の位置が管理位置を越えていると判定された場合には、STEP5〜10の動作をラダー3先端部の実際の位置が管理位置を越えていないと判定されるまで繰り返す。
【0066】
そして、以上のSTEP2〜STEP13の動作を繰り返しつつ浚渫作業を行う。
【符号の説明】
【0067】
1 ポンプ浚渫船
2 作業船
3 ラダー
4 掘削手段
5 輸送管路
6 吸引ポンプ
7 制御室
8 制御装置
9 スパット
10 昇降手段
11 支柱
12 吊り下げ用ワイヤー
13 ウインチ
14 枢支軸
15 水深検知手段
16 水平位置検知手段
17 警報装置
20 導水路
21 開閉手段
22 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側を水底部に向けて水中に挿入されるラダーと、該ラダー先端部に配置された掘削手段と、前記ラダー先端部に吸引口を開口させた輸送管路と、該輸送管路に接続された吸引ポンプと、前記ラダー先端部の位置を検知する位置検知手段とを備えてなるポンプ浚渫船において、
一端を前記輸送管路の前記吸引口より吸引方向下流側に接続させ、他端を水中に開口させた導水路と、該導水路を開閉する開閉手段とを備え、
前記位置検知手段より得られた前記ラダー先端部の実際の位置データに基づいて前記開閉手段を動作させて前記導水路より前記輸送管路内に水を導入し、前記吸引口からの土砂吸引量を抑制するようにしたことを特徴としてなるポンプ浚渫船。
【請求項2】
前記開閉手段の開閉動作を制御する制御装置を備え、該制御装置は、前記位置検知手段より得られた前記ラダー先端部の実際の位置データに基づき前記ラダー先端部の実際の位置が予め設定された管理位置を越えているか否かを判定する判定手段を備え、該判定手段による判定に基づき前記開閉手段を動作させるようにした請求項1に記載のポンプ浚渫船。
【請求項3】
前記位置検知手段は、前記ラダー先端部の水深位置を検知する水深検知手段を備えた請求項1又は2に記載のポンプ浚渫船。
【請求項4】
前記位置検知手段は、前記ラダー先端部の水平方向位置を検知する水平位置検知手段を備えた請求項1、2又は3に記載のポンプ浚渫船。
【請求項5】
前記開閉手段は、流量調節機能を有する請求項1〜3又は4に記載のポンプ浚渫船。
【請求項6】
先端側を水底部に向けて水中に挿入されるラダーと、該ラダー先端部に配置された掘削手段と、前記ラダー先端部に吸引口を開口させた輸送管路と、該輸送管路に接続された吸引ポンプと、前記ラダー先端部の位置を検知する位置検知手段とを備えたポンプ浚渫船を使用し、前記ラダー先端部を水底部に着底させ、前記作業船を水平方向に回動させつつ、前記掘削手段により水底部を掘削し、掘削した土砂を周囲の水とともに前記吸引口より吸引し、前記輸送管路を通してポンプ圧送するポンプ浚渫船を使用した浚渫方法において、
前記ポンプ浚渫船は、一端を前記輸送管路の前記吸引口より吸引方向下流側に接続させ、他端を水中に開口させた導水路と、該導水路を開閉する開閉手段とを備え、
前記位置検知手段により前記ラダー先端部の実際の位置を検知し、該ラダー先端部の実際の位置を予め設定された管理位置と比較し、前記ラダー先端部の実際の位置が前記管理位置を越えている場合には、前記開閉手段を開いて前記導水路より前記輸送管路内に水を導入し、前記吸引口からの土砂吸引量を抑制することを特徴としてなるポンプ浚渫船を使用した浚渫方法。
【請求項7】
前記ポンプ浚渫船は、前記開閉手段の開閉動作を制御する制御装置を備え、該制御装置は、前記位置検知手段より得られた前記ラダー先端部の実際の位置データに基づき前記ラダー先端部の実際の位置が予め設定された管理位置を越えているか否かを判定する判定手段を備え、該判定手段が前記ラダー先端部の実際の位置が前記管理位置を越えていると判定した場合には、前記開閉手段を開いて前記導水路より前記輸送管路内に水を導入させ、前記吸引口からの土砂吸引量を抑制させる請求項6に記載のポンプ浚渫船を使用した浚渫方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−91909(P2013−91909A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232829(P2011−232829)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)