説明

ポンプ装置

【課題】 シール構造による機械効率の低下を抑制可能なポンプ装置を提供すること。
【解決手段】 ハウジングに形成された軸孔内に弾性体を介して当接すると共に駆動軸の外周に摺接しポンプ室からの流体の漏れをシールする中空のシール部材を、一端側の領域に形成した中空の内周面に前記駆動軸の外周に摺接するシール部と、他端側の領域に形成した駆動軸の回転方向への移動を規制する回り止め部とを備え、回り止め部の駆動軸に対する回転抵抗をシール部の回転抵抗未満に設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回転式ポンプの軸シールにおいて、高圧の流体圧が印加されても、ポンプ装置外部への流体漏れを防止するシール構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−54968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、回転するシャフトと、回転しない軸シールとの間に発生する摺動抵抗により、シャフトの回転が妨げられ、ポンプの機械効率が低下するおそれがあった。
本発明の目的は、シール構造による機械効率の低下を抑制可能なポンプ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、ハウジングに形成された軸孔内に弾性体を介して当接すると共に駆動軸の外周に摺接しポンプ室からの流体の漏れをシールする中空のシール部材を、一端側の領域に形成した中空の内周面に前記駆動軸の外周に摺接するシール部と、他端側の領域に形成した駆動軸の回転方向への移動を規制する回り止め部とを備え、回り止め部の駆動軸に対する回転抵抗をシール部の回転抵抗未満に設定した。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明では、回転抵抗を抑制することができ、機械効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は実施例1のギヤポンプの斜視図である。
【図2】実施例1のギヤポンプの側面図である。
【図3】実施例1のギヤポンプの断面図である。
【図4】実施例1のポンプ装置における減圧シール部材の構成を表す概略断面図である。
【図5】実施例1のシール部材の構成を表す斜視図である。
【図6】実施例1のシール部材にブレーキ液が作用した場合の模式図である。
【図7】実施例2のポンプ装置における減圧シール部材の構成を表す概略断面図である。
【図8】実施例3のポンプ装置における減圧シール部材の構成を表す概略断面図である。
【図9】実施例4のポンプ装置における減圧シール部材の構成を表す概略断面図である。
【図10】実施例5のポンプ装置における減圧シール部材の構成を表す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のモータおよびそれを用いたブレーキ装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
〔実施例1〕
実施例1のブレーキ装置は、車両の各輪のホイルシリンダ液圧を制御するためのもので、ブレーキ液を加圧するギヤポンプを備える。図1は実施例1のブレーキ装置の斜視図、図2は実施例1のブレーキ装置の側面図、図3は実施例1のブレーキ装置の断面図である。
実施例1のブレーキ装置は、車両の複数のホイルシリンダ液圧を制御するためのもので、ハウジング1と電動モータ(以下、モータ)2とを備える。以下の説明では、ギヤポンプの軸方向であってハウジング1のモータ2側を軸方向正側、反対側を軸方向負側と称す。
【0009】
[ハウジングの構成]
ハウジング1は、内部に油路を備え、油路内のブレーキ液を流動可能なギヤポンプ3と、油路を切り替える複数の電磁弁4と、モータ2及び電磁弁4を制御する制御基板5とを内蔵する。油路は車両に搭載されたマスタシリンダ、各ホイルシリンダ等と連通する。ハウジング1は、略矩形状に形成され、その外面には、油路形成用または電磁弁4や図外のセンサ類を取り付けるための開口1aが複数形成されている。
ハウジング1は、ハウジング本体6とカバー部材7とを有する。ハウジング本体6の軸方向正側面(一面)9にはモータ2が取り付けられ、軸方向負側面10には複数の電磁弁4が取り付けられている。ハウジング本体6の内部には、ギヤポンプ3を収容する収容部11が設けられている。
ギヤポンプ3の外周は、ポンプケース12に覆われ、ポンプケース12は、収容部11に圧入固定されている。ポンプケース12の内部には、駆動軸13と従動軸14が平行に配置されている。駆動軸13には、第1外接ギヤ15の第1駆動ギヤ16と第2外接ギヤ17の第2駆動ギヤ18が固定され、従動軸14には、第1外接ギヤ15の第1従動ギヤ19と第2外接ギヤ17の第2従動ギヤ20が固定されている。
【0010】
第1外接ギヤ15の軸方向負側には第1外接ギヤ15の噛み合い部をシールする第1シールブロック21が当接し、軸方向正側には第1サイドプレート21aが当接している。第2外接ギヤ17の軸方向正側には第2外接ギヤ17の噛み合い部をシールする第2シールブロック22が当接し、軸方向負側には第2サイドプレート22aが当接している。
第1駆動ギヤ16と第2駆動ギヤ18との間には、駆動側ホルダ部材23と駆動側サイドプレート嵌合部材24が介装されている。第1従動ギヤ19と第2従動ギヤ20との間には、従動側ホルダ部材25と従動側サイドプレート嵌合部材26が介装されている。
駆動軸13の軸方向負側端はニードルベアリング27により回転可能に支持され、軸方向正側はボールベアリング28により回転可能に支持されている。ボールベアリング28の軸方向正側には、オイル漏れを防止するための減圧シール部材29、駆動側シール部材30が設けられている。駆動軸13の軸方向正側端は、駆動側シール部材30よりも軸方向正側に突出し、先端には、二面幅部13aが形成されている。従動軸14の軸方向負側端はニードルベアリング31により回転可能に支持され、軸方向正側端はニードルベアリング32により回転可能に支持されている。
なお、ポンプケース12は、フロントケース33、センタプレート34、リアケース35により構成される。フロントケース33の外周には、Oリング33a,33b,33cが装着されている。リアケース35の外周には、Oリング35aが装着されている。
【0011】
[モータの構成]
モータ2は、モータハウジング36と端部プレート部材37とを備える。モータハウジング36は、有底の円筒状に形成され、ロータ38とステータ39とモータ軸(回転軸)40とが収容されている。モータハウジング36の開口端36cの周縁には、フランジ部41が設けられている。フランジ部41には、3つのボルト穴が周方向に等ピッチで形成されている。ハウジング本体6の軸方向正側面9には、3つのボルト穴と対応する位置にねじ穴が形成されている。モータハウジング36は、ボルト44によりハウジング本体6に締結固定されている。
ステータ39は、モータハウジング36の内周に固定されている。ロータ38は、ステータ39の内側に位置し、ステータ39に対して回転可能に設けられている。モータ軸40は、ロータ38と一体に設けられ、先端には駆動軸13の二面幅部13aと係合する二面幅受け溝40aが形成されている。これら二面幅部13aと二面幅受け溝40aとの係合により、駆動軸13とモータ軸40は一体に回転する。
【0012】
(減圧シール部材の構成について)
次に、実施例1の減圧シール部材の構成について説明する。図4は実施例1のポンプ装置における減圧シール部材の構成を表す概略断面図である。尚、説明を簡略化するため、ボールベアリング28は全て斜線領域として示し、また、駆動側シール部材30を取り付ける前の状態として示す。
減圧シール部材29は、樹脂製であってシール機能を発揮する円筒状のシール部材291と、シール部材291をハウジング1に固定されたフロントケース33に形成された軸孔331に対し回転方向に規制する規制部材292とを有する。図5は実施例1のシール部材の構成を表す斜視図である。シール部材291は、円筒部外周において弾性体であるOリング293を保持するOリング用溝291aが形成されている。また、シール部材291の円筒内周側であってギヤポンプ3側(一端側)には、駆動軸13の外に摺接するシール部291cが形成されている。このシール部291cは、Oリング293と軸方向位置において重なる位置に配置されており、実施例1の場合、Oリング用溝291aの溝幅(軸方向長さ)よりもシール部291cの軸方向長さのほうが短く形成されている。
【0013】
シール部材291のギヤポンプ3側の端面291fとシール部291cとの間の内周には、第1内周面291dが形成されている。第1内周面291dとシール部291cの内周面との間には湾曲した接続面291c1を有し、これにより駆動軸13との間に環状隙間を形成する。言い換えると、シール部291cの内周面を拡径した第1内周面291dを有する。
また、シール部材291のモータ2側(他端側)の端面291gとシール部291cとの間の内周には、第2内周面291eが形成されている。第2内周面291eとシール部291cの内周面との間には湾曲した接続面291c2を有し、これにより駆動軸13との間に環状隙間を形成する。言い換えると、シール部291cの内周面を拡径した第2内周面291eを有する。
また、シール部材291のモータ2側端面291gには、この端面291gからギヤポンプ3側に切り欠かれた凹部291bが形成されている。この凹部291bは、規制部材292に設けられた凸部292aと係合する位置に形成されている。尚、この凹部291bの数は、円周方向に1つでも、複数でも構わない。規制部材292は、円筒形状であり、軸孔331に対して圧入固定されてフロントケース33に対して固定されている。規制部材292の内周は、駆動軸13よりも大径とされており、駆動軸13と非接触となるように構成されている。
【0014】
次に、作用を説明するにあたり、比較例と対比して説明する。特許文献1で記載した特開2000−54968号公報の図7には、駆動軸に対して所定の締め付け力で押し付けることでシールを行なう樹脂部と、この樹脂部の外周にOリングを備えた構成が開示されている。これにより、駆動軸に沿って漏れたブレーキ液は、駆動軸と樹脂部の間でシールされると共に、外周にあってはOリングによってシールされることでブレーキ液の漏洩を防止している。しかし、駆動軸と樹脂部の間で摺動シールする場合、この特許文献1のようにOリングよりも広い範囲に亘って駆動軸と摺動すると、機械効率が低下するという問題がある。通常は、この摺動箇所にはブレーキ液が漏洩してくることはなく、仮にギヤポンプ側でのシール性が悪化した場合に対処するためのものである点からすると、常時この部分で大きな摺動抵抗が発生していることは好ましくない。また、この摺動抵抗によって樹脂部が駆動軸と供回りしてしまった場合、Oリングが外壁内周との間で擦れてしまい、Oリングの耐久性の悪化を招くおそれもある。
【0015】
そこで、実施例1では、まず、シール部材291の回り止めをするために、凹部291bを形成すると共に、規制部材292を設け、回り止めすることとした。これにより、Oリング293の耐久性が低下するおそれを回避することができる。このとき、回り止めするために凹部291bを形成すると、軸方向に長くなり、駆動軸13との摺動領域が増大することで、機械効率の低下を招くおそれがある。そこで、摺動抵抗が発生する領域を狭くするべく、駆動軸13との間に環状隙間を形成する第1内周面291dと、第2内周面291eを形成し、この第1内周面291dと第2内周面291eの間に、Oリング用溝291aよりも軸方向長さの短いシール部291cを形成することとした。
【0016】
ここで、シール部291cの軸方向長さを短くすることが可能な理由について説明する。図6は実施例1のシール部材にブレーキ液が作用した場合の模式図である。駆動軸13とボールベアリング28との隙間を通って高圧のブレーキ液が漏洩してきた場合、第1内周面291dと駆動軸13との間の環状隙間に作用すると共に、シール部材291の外周側からOリング293にも作用する。Oリング293に作用したブレーキ液は、Oリング293を図6中左方に押し付けると共にOリング用溝291aを軸心方向に押し付ける。このとき、この押し付け力はシール部291cを駆動軸13側に押し付けることになり、高圧であればあるほど強い押し付け力を得ることができる。
よって、シール部291cの軸方向長さをさほど確保せずとも、適切なシール性能を得ることができる。更に、ブレーキ液が漏洩していない通常状態では、シール部291cを駆動軸13に強く押し付ける必要性は低いため、比較的低い押し付け力でシール部291cを構成することができる。すなわち、摺動領域を狭くしつつ、通常時の押し付け力を小さくすることができ、通常時の機械効率の低下を大幅に抑制することができる。
【0017】
以上説明したように、実施例1のポンプ装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1−1)ハウジング1と、ハウジング1に固定されたフロントケース33に形成した軸孔331内に嵌入し駆動源によって駆動される駆動軸13と、ハウジング1に軸孔331に連続して形成されたポンプ室内に配置され、駆動軸13により駆動されるギヤポンプ3と、軸孔331内にOリング293(弾性体)を介して当接すると共に駆動軸13の外周に摺接し、ポンプ室からの流体の漏れをシールする中空のシール部材291と、シール部材291には、一端側の領域に形成した中空の内周面に駆動軸13の外周に摺接するシール部291cと、他端側の領域に形成した駆動軸13の回転方向への移動を規制する回り止め部291bを備え、回り止め部291bの駆動軸13に対する回転抵抗はシール部291cの回転抵抗未満に設定されている。
【0018】
よって、Oリング293と軸孔331内壁との摺動を回避することができ、Oリング293の耐久性を向上することができる。また、回り止め部291bの駆動軸13に対する回転抵抗がシール部291cの回転抵抗未満に設定されているため、機械効率の低下を抑制することができる。
【0019】
(2−2)凹部291b(回り止め部)に対する中空の内周面である第2内周面291eと駆動軸13の外周面との間に環状隙間を設けた。よって、回転抵抗を極めて小さくすることができ、機械効率の低下を更に抑制することができる。
【0020】
(3−3)環状隙間はシール部291cの内周面(中空の内周面)を拡径した第2内周面291e(第2の内周面)と、第2内周面291eとシール部291cの内周面とを接続する接続面によって形成されている。よって、駆動軸13側に何ら加工を施すことなくシール部材291の加工のみで環状隙間を形成することができ、コストを削減することができる。
【0021】
(4−5)Oリング293(弾性部材)はシール部材291の外周面に形成したOリング用溝291a(環状溝)内に装着され、シール部291cはOリング用溝291aの軸方向幅に対応した幅に形成されている。よって、シール部291cを狭く形成することで、摺動抵抗を抑制することができ、機械効率の低下を抑制することができる。
【0022】
(5−6)凹部291b(回り止め部)に対応する中空の内周面を拡径し形成した第2内周面291e(拡径部)を設けた。よって、回転抵抗を小さくすることができ、機械効率の低下を抑制することができる。
【0023】
〔実施例2〕
次に、実施例2について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。図7は実施例2のポンプ装置における減圧シール部材の構成を表す概略断面図である。実施例1では、Oリング用溝291aをOリング293と略同一幅で形成したが、実施例2では、Oリング293よりも広い幅に亘って形成している点が異なる。また、実施例1では、第1内周面291dを形成したが、実施例2では第1内周面を備えておらず、Oリング用溝291a'よりも広い範囲に亘ってシール部291c'が形成されている点が異なる。
すなわち、実施例2では、Oリング用溝291aが広い範囲に亘って形成されているため、高圧のブレーキ液が漏洩してきた場合、軸方向において広い範囲に亘ってシール部材291を軸心に向けて押し付けることができる。更に、シール部291c'が広い範囲に亘って形成されていることから、シール性を向上することができる。言い換えると、Oリング用溝291aが広く、シール部291C'も広いため、通常時(ブレーキ液の漏洩がない状態)においてシール部291c'を駆動軸13に強く押し付けなくとも漏洩時には十分な押し付け力が得られる。よって、通常時における摺動抵抗を抑制することができ、機械効率の低下を抑制することができる。
【0024】
〔実施例3〕
次に、実施例3について説明する。基本的な構成は実施例2と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。図8は実施例3のポンプ装置における減圧シール部材の構成を表す概略断面図である。実施例2では、第2内周面291eのモータ側端部はそのまま軸方向に開口する構成とした。これに対し、実施例3では、第2内周面291eのモータ側端部にシール部291c'と略同一内周径を有する当接部291hを形成した点が異なる。このように、シール部材291の両端において駆動軸13の外周と摺動する箇所を設置することで、駆動軸13の振れ回りを抑制することができ、安定したシール機能を発揮することができるものである。
【0025】
次に、実施例3のポンプ装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(6−7)第2内周面291e(拡径部)に駆動軸13の外周面に当接する当接部291hを形成した。よって、駆動軸13の振れ回りを抑制することができ、安定したシール機能を発揮することができる。
(7−8)当接部291hはシール部材291のモータ側端面291g(他端面側)に形成されている。よって、シール部材291の両端で駆動軸13を支持することができ、より振れ回りを抑制することができる。
尚、実施例3では、第2内周面291eを内周全周に亘って形成したが、この第2内周面291eは、内周の部分的な領域にのみ形成してもよい。
【0026】
〔実施例4〕
次に、実施例4について説明する。基本的な構成は実施例2と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。図9は実施例4のポンプ装置における減圧シール部材の構成を表す概略断面図である。実施例2では、端面291fを駆動軸13の径方向に沿って垂直に垂下させていた。これに対し、実施例4では、端面291fから一旦モータ側に第1内周面291dが形成され、その第1内周面291dからギヤポンプ3側の端面291f側に向かって傾斜する傾斜面291c''を有する点が異なる。
このように、傾斜面291c''を有するため、高圧のブレーキ液が漏洩してきた場合、傾斜面291c''に沿って駆動軸13側に押し付ける力が作用し、更にシール性を向上することができる。特に傾斜面291c''のようなリップ部を構成することで弾性変形しやすく、より駆動軸13と密着しやすくなる。
(8−4)接続面は、第1内周面291d(内周面)側がギヤポンプ3側(他端側)に向かって傾斜する傾斜面291c''を備えた。よって、よりシール性を向上することができる。
尚、実施例4では減圧シール部材29に傾斜面291c''を備えた構成としたため一方側のみに傾斜面を形成したが、駆動側ホルダ部材23や従動側ホルダ部材25に本発明を適用した場合には、両側端に傾斜面を形成することが望ましい。これにより、どちら側からブレーキ液が漏洩したとしてもシール性を確保することができる。
【0027】
〔実施例5〕
次に、実施例5について説明する。基本的な構成は実施例2と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。図10は実施例5のポンプ装置における減圧シール部材の構成を表す概略断面図である。実施例2では、シール部材291のモータ側端面291g側から軸方向に切り欠かれた凹部291bと、規制部材202の凸部292aとが係合することで回り止めとして機能させていた。これに対し、実施例5では、シール部材291の第2内周面291eの外径側に係合凸部291b'を形成し、フロントケース33の開口端であって係合凸部291b'と対応する位置に係合凹部332を形成した点が異なる。このとき、規制部材292はシール部材291の軸方向のみを規制し、シール部材291の回転方向については係合凸部291b'と係合凹部332とにより規制する。これによっても、上記各実施例と同様の作用効果を得ることができる。
【0028】
〔他の実施例〕
以上、本発明を実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は実施例に示した構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。本発明のポンプ装置は、モータの回転軸によって回動駆動されるものであれば、任意のものを適用でき、タンデム式、外接ギヤポンプに限定されない。
また、実施例では、減圧シール部材に対して本発明を適用したが、他のシール部に対しても同様に適用可能である。例えば、駆動側ホルダ部材23や従動側ホルダ部材25等に適用しても同様の作用効果が得られる。この場合、各ホルダ部材の両端に内周面を形成することが望ましい。これにより、いずれのギヤポンプ側からブレーキ液が漏洩したとしてもシール性を確保することができる。
【0029】
以下、上記各実施例から把握しうる特徴を下記に列挙する。
(1)ハウジングと、
前記ハウジングに形成した軸孔内に嵌入し駆動源によって駆動される駆動軸と、
前記ハウジングに前記軸孔に連続して形成されたポンプ室内に配置され、前記駆動軸により駆動されるポンプと、
前記軸孔内に弾性体を介して当接すると共に前記駆動軸の外周に摺接し、前記ポンプ室からの流体の漏れをシールする中空のシール部材と、
前記シール部材には、一端側の領域に形成した中空の内周面に前記駆動軸の外周に摺接するシール部と、他端側の領域に形成した前記駆動軸の回転方向への移動を規制する回り止め部を備え、前記回り止め部の前記駆動軸に対する回転抵抗は前記シール部の回転抵抗未満に設定されていることを特徴とするポンプ装置。
よって、駆動軸の回転抵抗を抑制することができ、機械効率の低下を抑制することができる。
(2)上記(1)に記載のポンプ装置において、
前記回り止め部に対する中空の内周面と前記駆動軸の外周面との間に環状隙間を設けたことを特徴とするポンプ装置。
よって、回転抵抗を極めて小さくすることができ、機械効率の低下を更に抑制することができる。
(3)上記(2)に記載のポンプ装置において、
前記環状隙間は前記中空の内周面を拡径した第2の内周面と、前記第2の内周面と前記内周面を接続する接続面によって形成されていることを特徴とするポンプ装置。
よって、内周面以外における駆動軸との摺動を回避することができ、機械効率の低下を抑制することができる。
(4)上記(3)に記載のポンプ装置において、
前記接続面は、前記内周面側が前記他端側に向かって傾斜する傾斜面を備えたことを特徴とするポンプ装置。
よって、傾斜面に作用する流体圧により駆動軸側に押し付ける作用を得ることができ、更にシール性を向上することができる。
(5)上記(1)に記載のポンプ装置において、
前記弾性部材は前記シール部材の外周面に形成した環状溝内に装着され、前記シール部は前記環状溝の軸方向幅に対応した幅に形成されていることを特徴とするポンプ装置。
よって、作動液の漏洩により環状溝内に高圧が作用したときに、内径側に押し付ける力を付与することができ、シール部の軸方向幅を短くしたとしても、十分なシール性を発揮することができる。また、非漏洩時には、シール部の軸方向幅が短いため、小さな摺動抵抗とすることができ、機械効率の低下を抑制することができる。
(6)上記(1)に記載のポンプ装置において、
前記回り止め部に対応する中空の内周面を拡径し形成した拡径部を設けたことを特徴とするポンプ装置。
よって、回り止め部によりシール部材の軸長が長くなったとしても、駆動軸との摺動抵抗を抑制することができ、機械効率の低下を抑制することができる。
(7)上記(6)に記載のポンプ装置において、
前記拡径部に前記駆動軸の外周面に当接する当接部を形成したことを特徴とするポンプ装置。
よって、複数個所で駆動軸を支持することができ、駆動軸の振れ回りを抑制することで、安定したシール性を確保することができる。
(8)上記(7)に記載のポンプ装置において、
前記当接部は前記シール部材の他端面側に形成されていることを特徴とするポンプ装置。
よって、シール部と当接部との軸間距離を確保することができ、駆動軸の振れ回りを更に抑制することで、安定したシール性を確保することができる。
(9)上記(1)に記載のポンプ装置において、
前記回り止め部は半径方向に延在していることを特徴とするポンプ装置。
よって、シール部に切り欠きを形成する必要がなく、シール部材の強度を向上することができる。
(10)上記(1)に記載のポンプ装置において、
前記回り止め部は、前記ハウジングに対して回り止めし前記駆動軸の軸方向に沿って延在する係合部を備えていることを特徴とするポンプ装置。
よって、径方向のコンパクト化を図りながら、回り止めをすることができる。
(11)上記(1)に記載のポンプ装置において、
前記回り止め部は前記ハウジングに形成した被係合部に係合することを特徴とするポンプ装置。
よって、ハウジングに対してシール部材を回転方向に規制することができ、弾性体の耐久性の向上を図ることができる。
【0030】
(12)駆動源により駆動される駆動軸と、
前記駆動軸と一体的に回転駆動される第1ポンプを構成する第1ギヤと、
前記駆動軸と一体的に回転駆動される第2ポンプを構成する第2ギヤとからなり、ポンプ外部から吸入室に導入された作動油をポンプの外部に吐出するギヤポンプであって、
前記第1ギヤと第2ギヤとの間のであって両ギヤの一側面に液密に設けられた第1のサイドプレートと、
前記第1のサイドプレートに形成し前記駆動軸が嵌入するための軸孔と、
前記第1ギヤと前記第2ギヤの他端面に液密に設けられた第2のサイドプレートと、
前記各ギヤの歯先をシールするシール面を備え、前記各サイドプレートと共に前記吸入室を構成する歯先シール部材と、
前記軸孔内に弾性体を介して当接するとともに前記駆動軸の外周に摺接し、前記第1ポンプと第2ポンプとの間をシールする中空のシール部材と、
前記シール部材は中空の内周面に前記駆動軸の外周に摺接するシール部と、前記駆動軸の回転方向への移動を規制する回り止め部を備え、前記回り止め部の内周面と前記駆動軸の外周面の間に隙間を形成したことを特徴とするポンプ装置。
よって、駆動軸の回転抵抗を抑制することができ、機械効率の低下を抑制することができる。
(13)上記(12)に記載のポンプ装置において、
前記シール部材は、前記第1のサイドプレートに対して回り止めされていることを特徴とするポンプ装置。
よって、シール部材の回転方向の動きを規制することができ、弾性体の耐久性の向上を図ることができる。
(14)上記(13)に記載のポンプ装置において、
前記隙間は中空の内周面と前記駆動軸の外周面との間に形成した環状隙間であることを特徴とするポンプ装置。
よって、回転抵抗を極めて小さくすることができ、機械効率の低下を更に抑制することができる。
(15)上記(14)に記載のポンプ装置において、
前記環状隙間は前記中空の内周面を拡径した第2の内周面と、前記第2の内周面と前記内周面とを接続する接続面によって形成されていることを特徴とするポンプ装置。
よって、内周面以外における駆動軸との摺動を回避することができ、機械効率の低下を抑制することができる。
(16)上記(15)に記載のポンプ装置において、
前記弾性部材は、前記シール部材の外周面に形成した環状溝内に装着され、前記シール部は前記環状溝の軸方向幅に対応した幅に形成されていることを特徴とするポンプ装置。
よって、作動液の漏洩により環状溝内に高圧が作用したときに、内径側に押し付ける力を付与することができ、シール部の軸方向幅を短くしたとしても、十分なシール性を発揮することができる。また、非漏洩時には、シール部の軸方向幅が短いため、小さな摺動抵抗とすることができ、機械効率の低下を抑制することができる。
(17)上記(16)に記載のポンプ装置において、
前記接続面は、前記内周面側が前記他端側に向かって傾斜する傾斜面を備えたことを特徴とするポンプ装置。
よって、傾斜面に作用する流体圧により駆動軸側に押し付ける作用を得ることができ、更にシール性を向上することができる。
(18)上記(17)に記載のポンプ装置において、
前記拡径面に前記駆動軸の外周面に当接する当接部を形成したことを特徴とするポンプ装置。
よって、複数個所で駆動軸を支持することができ、駆動軸の振れ回りを抑制することで、安定したシール性を確保することができる。
【0031】
(19)駆動源により駆動される駆動軸と、
前記駆動軸と一体的に形成されて回転駆動される第1ポンプを構成する第1ギヤと、
前記駆動軸と一体的に形成されて回転駆動される第2ポンプを構成する第2ギヤとからなり、ポンプ外部から吸入室に導入された作動油をポンプの外部に吐出し、
前記第1ポンプ及び第2ポンプは互いに異なる系統のブレーキ回路にそれぞれ設けられたブレーキ装置用のポンプ装置であって、
前記各ギヤ間に配置され、前記駆動軸が貫通する軸孔を有し、隣接する各ギヤの一側面からのブレーキ液の漏れを抑制するシールプレートと、
前記各ギヤの他側面に隣接して設けられギヤの他側面からのブレーキ液の漏れを抑制するサイドプレートと、
前記各ギヤの歯先をシールするシール面を備え、前記各サイドプレートと共に吸入室を構成する歯先シール部材と、
前記軸孔内に配置された前記第1ポンプと第2ポンプとの間をシールする中空のシール部材と、
前記シール部材は中空の内周面に前記駆動軸の外周に摺接するシール部と、前記駆動軸の回転方向への移動を規制する回り止め部とを備え、
前記回り止め部に対応する中空の内周面と前記駆動軸の外周面との間に環状隙間を設けたことを特徴とするポンプ装置。
よって、駆動軸の回転抵抗を抑制することができ、機械効率の低下を抑制することができる。
(20)上記(19)に記載のポンプ装置において、
前記弾性部材は前記シール部材の外周面に形成した環状溝内に装着され、前記シール部は前記環状溝の軸方向幅に対応した幅に形成され、
前記回り止め部は、前記ハウジングに対して回り止めすると共に、前記駆動軸の軸方向に沿って延在する係合部を備えていることを特徴とするポンプ装置。
よって、作動液の漏洩により環状溝内に高圧が作用したときに、内径側に押し付ける力を付与することができ、シール部の軸方向幅を短くしたとしても、十分なシール性を発揮することができる。また、非漏洩時には、シール部の軸方向幅が短いため、小さな摺動抵抗とすることができ、機械効率の低下を抑制することができる。また、径方向のコンパクト化を図りながら、回り止めをすることができる。
【符号の説明】
【0032】
1 ハウジング
2 モータ
3 ギヤポンプ
4 電磁弁
5 制御基板
6 ハウジング本体
7 カバー部材
9 軸方向正側面
10 軸方向負側面
11 収容部
12 ポンプケース
13 駆動軸
14 従動軸
21 シールブロック
21a サイドプレート
22 シールブロック
22a サイドプレート
23 駆動側ホルダ部材
24 駆動側サイドプレート嵌合部材
25 従動側ホルダ部材
26 従動側サイドプレート嵌合部材
29 減圧シール部材
33 フロントケース
34 センタプレート
35 リアケース
202 規制部材
291 シール部材
291C シール部
291a Oリング用溝
291b 凹部
291b' 係合凸部
291c シール部
291c1 接続面
291c2 接続面
291c2'' 傾斜面
291d 第1内周面
291d 凹部
291e 第2内周面
291g モータ側端面
291h 当接部
292 規制部材
292a 凸部
293 Oリング
331 軸孔
332 係合凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに形成した軸孔内に嵌入し駆動源によって駆動される駆動軸と、
前記ハウジングに前記軸孔に連続して形成されたポンプ室内に配置され、前記駆動軸により駆動されるポンプと、
前記軸孔内に弾性体を介して当接すると共に前記駆動軸の外周に摺接し、前記ポンプ室からの流体の漏れをシールする中空のシール部材と、
前記シール部材には、一端側の領域に形成した中空の内周面に前記駆動軸の外周に摺接するシール部と、他端側の領域に形成した前記駆動軸の回転方向への移動を規制する回り止め部を備え、前記回り止め部の前記駆動軸に対する回転抵抗は前記シール部の回転抵抗未満に設定されていることを特徴とするポンプ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のポンプ装置において、
前記回り止め部に対する中空の内周面と前記駆動軸の外周面との間に環状隙間を設けたことを特徴とするポンプ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のポンプ装置において、
前記環状隙間は前記中空の内周面を拡径した第2の内周面と、前記第2の内周面と前記内周面を接続する接続面によって形成されていることを特徴とするポンプ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のポンプ装置において、
前記接続面は、前記内周面側が前記他端側に向かって傾斜する傾斜面を備えたことを特徴とするポンプ装置。
【請求項5】
請求項1に記載のポンプ装置において、
前記弾性部材は前記シール部材の外周面に形成した環状溝内に装着され、前記シール部は前記環状溝の軸方向幅に対応した幅に形成されていることを特徴とするポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−113102(P2013−113102A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256914(P2011−256914)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】