説明

ポンペ病の処置

【課題】ポンペ病の処置の方法を提供することを本発明の課題とする。
【解決手段】上記課題は、ヒト酸性αグルコシダーゼを用いたポンペ病の処置の方法を提供することにより解決された。好ましい処置養生法は、患者に1週間当たり10mg/kg体重より多く投与する工程を含む。投与は、好ましくは静脈内投与である。この方法は、乳児性、若年性または成人性ポンペ病を有する患者の処置のために用いられ得る。ヒト酸性αグルコシダーゼは、好ましくは、非ヒトトランスジェニック哺乳動物の乳汁において得られ、そして好ましくは、主に110kDの形態である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本出願は、1998年12月7日に出願された、USSN60/111291からの優先権に由来し、これは、すべての目的のために、その全体において参考として援用されている。本出願は、1996年7月29日に出願された、USSN08/700,760に関連し、これは、1995年8月2日に出願された、USSN60/001,796からの優先権に由来し、これらの両方は、すべての目的のために、それらの全体において参考として援用されている。
【0002】
(技術分野)
本発明は、組換え遺伝学分野および医学分野に属し、そしてポンペ病を有する患者の酵素置換治療に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
他の分泌タンパク質と同様に、リソソームタンパク質は、小胞体において合成され、そしてゴルジ装置へ輸送される。しかし、たいていの他の分泌タンパク質と異なり、リソソームタンパク質は、細胞外液へではなく、細胞内小器官へ分泌することになっている。ゴルジ装置の内部において、リソソームタンパク質は特別なプロセシングを受けて、それらの細胞内の行き先に到達するために必要なものを備える。ほとんどすべてのリソソームタンパク質が、末端のマンノース基の6’位を介したグリコシル化およびリン酸化を含む、種々の翻訳後修飾を受ける。リン酸化されたマンノース残基が、トランスゴルジ網の内部の表面上で、特異的なレセプターによって認識される。リソソームタンパク質は、これらのレセプターを介して結合し、そしてそれによって、他の分泌タンパク質から分離される。その後、レセプターに結合したタンパク質を含む小さな輸送小胞が、トランスゴルジ網からつみ取られ、そしてそれらの細胞内の行き先へと標的化される。一般に、非特許文献1を参照のこと。
【0004】
30を超えるリソソーム疾患が通常、遺伝子変異の結果として存在し、その各々は、特定のリソソームタンパク質の欠損に起因する。例えば、非特許文献2を参照のこと(すべての目的のために、その全体において参考として援用される)。リソソームタンパク質における欠損は、通常、代謝産物の有害な蓄積を生じる。例えば、フルラー症候群、ハンター症候群、モルキオ症候群およびサンフィリポ症候群において、ムコ多糖の蓄積が存在し;テイ−サックス症候群、ゴシェ症候群、クラッベ症候群、ニーマン−ピック症候群およびファブリー症候群において、スフィンゴ脂質の蓄積が存在し;ならびに、フコース蓄積症およびマンノシドーシスにおいて、それぞれ、フコース含有スフィンゴ脂質および糖タンパク質フラグメントの蓄積、ならびにマンノース含有オリゴ糖類の蓄積が存在する。
【0005】
II型糖原病(glycogen storage disease type II)(GSD II;ポンペ病;酸性マルターゼ欠損症)は、リソソーム酵素の酸性α−グルコシダーゼ(酸性マルターゼ)の欠損によって引き起こされる。2つの臨床的形態が識別される:早期発症(乳児性)および後期発症(若年性および成人性)。乳児性GSD IIは、誕生直後にその発症を有し、そして進行性の筋肉虚弱および心不全を示す。この臨床的改変(variantis)は、通常、生涯の最初の2年以内に致命的である。成人性患者および若年性患者の後期発症における症状は、生涯においてより遅く生じ、そして骨格筋のみが関与する。この患者は、最終的に、呼吸不全が原因で死亡する。患者は、例外的に、60年間を超えて生存し得る。疾患の重症度と、残留酸性α−グルコシダーゼ活性との間には、十分な相関が存在し、この活性は、後期発症において、正常の10〜20%であり、そしてこの疾患の初期発症形態において、2%未満である(非特許文献3を参照のこと)。
【0006】
リソソーム貯蔵疾患の主要な原因としての、リソソーム酵素欠損の発見以来(例えば、非特許文献4を参照のこと)、リソソーム貯蔵疾患を有する患者を、失われている酵素の(静脈内)投与(すなわち、酵素治療)によって、処置する試みがなされた。ポンペ病のための酵素置換治療を用いるこれらの実験は、成功していない。免疫学的反応を与えるAspergillus niger由来の非ヒトα−グルコシダーゼ、または細胞によって効率的に取り込まれない酵素形態(ヒト胎盤由来の低取り込み形態の成熟酵素;以下を参照のこと)のいずれかが用いられた。さらに、処置の持続期間および/または投与された酵素の量の両方が、不十分であった(3〜5)。天然の供給源(例えば、ヒトの尿およびウシの精巣)由来のリソソーム酵素の産生は、理論上は可能であるが、低い収率を与え、そして精製された酵素は、必ずしもレシピエント患者の組織によって取り込まれ得る形態というわけではない。
【0007】
上記の不確実性および困難にもかかわらず、本発明は、ヒト酸性αグルコシダーゼを用いて、ポンペ病の患者を処置する方法を提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kornfeld、Biochem.Soc.Trans.18、367−374(1990)
【非特許文献2】Cotranら、Robbins Pathologic Basis of Disease(第4版 1989)
【非特許文献3】Hirschhorn、The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease(Scriverら(編)、第7版、McGraw−Hill、1995)、2443−2464頁
【非特許文献4】Hers、Biochem.J.86、11−16(1963)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(請求の範囲に記載される発明の要旨)
1つの局面において、本発明は、ポンペ病を有する患者を処置する方法を提供する。このような方法は、治療的に有効な量のヒト酸性αグルコシダーゼを、患者に投与する工程を必然的に伴う。投薬量は、好ましくは、1週間当たり少なくとも10mg/kg体重である。いくつかの方法において、投薬量は、1週間当たり少なくとも60mg/kg体重であるか、または1週間当たり少なくとも120mg/kg体重である。いくつかの方法において、このような投薬量は、1週間当たり1回投与され、そして他の方法においては、1週間当たり3回投与される。いくつかの方法において、処置は少なくとも24週間続けられる。投与は、好ましくは静脈内投与である。ヒト酸性αグルコシダーゼは、好ましくは、非ヒトトランスジェニック哺乳動物の乳汁において得られ、そして好ましくは、主に110kDの形態である。
【0010】
この方法は、乳児性、若年性または成人性ポンペ病を有する患者の処置のために用いられ得る。乳児性ポンペ病を処置するいくつかの方法において、有効性が、少なくとも1歳まで生存する患者によって示される。
【0011】
いくつかの方法において、ヒト酸性αグルコシダーゼのレベルが、レシピエント(recuouebt)患者においてモニターされる。必要に応じて、ヒト酸性αグルコシダーゼの第二の投薬量が、α−グルコシダーゼのレベルが、患者において閾値未満に減少する場合に、投与され得る。
【0012】
いくつかの方法において、ヒトαグルコシダーゼが、静脈内に投与され、そして投与の速度は、投与の時間の間に増加する。いくつかの方法において、投与の速度は、投与の時間の間に、少なくとも10倍増加する。いくつかの方法において、投与の速度は、5時間の間以内に、少なくとも10倍増加する。いくつかの方法において、患者は、一連の少なくとも4つの投薬量を投与され、各々の投薬量は、以前の投薬量よりも強度が高い。いくつかの方法において、投薬量は、第一の投薬量が0.03〜3mg/kg/時間、第二の投薬量が0.3〜12mg/kg/時間、第三の投薬量が1〜30mg/kg/時間、および第四の投薬量が2〜60mg/kg/時間である。いくつかの方法において、投薬量は、第一の投薬量が0.1〜1mg/kg/時間、第二の投薬量が1〜4mg/kg/時間、第三の投薬量が3〜10mg/kg/時間、および第四の投薬量が6〜20mg/kg/時間である。いくつかの方法において、投薬量は、第一の投薬量が0.25〜4mg/kg/時間、第二の投薬量が0.9〜1.4mg/kg/時間、第三の投薬量が3.6〜5.7mg/kg/時間、および第四の投薬量が7.2〜11.3mg/kg/時間である。いくつかの方法において、投薬量は、第一の投薬量が0.3mg/kg/時間、第二の投薬量が1mg/kg/時間、第三の投薬量が4mg/kg/時間、および第四の投薬量が12mg/kg/時間である。いくつかの方法において、第一、第二、第三および第四の投薬量が、各々15分〜8時間の間投与される。
【0013】
いくつかの方法において、第一、第二、第三および第四の投薬量が、それぞれ、1時間、1時間、0.5時間および3時間の間投与される。
【0014】
別の局面において、本発明は、滅菌形態においてヒト酸性αグルコシダーゼ、ヒト血清アルブミン、および糖を生理学的に受容可能な緩衝液中に含む薬学的組成物を提供する。いくつかのこのような組成物は、ヒト酸性αグルコシダーゼ、ヒト血清アルブミン、およびグルコースをリン酸ナトリウム緩衝液中に含む。いくつかの組成物は、αグルコシダーゼ、マンニトールおよびスクロースを水溶液中に含む。いくつかの組成物において、糖は、マンニトールおよびスクロースを含み、そしてマンニトールの濃度は、水溶液の1〜3%w/wであり、そしてスクロースの濃度は、水溶液の0.1〜1%w/wである。いくつかの組成物において、マンニトールの濃度は、2%w/wであり、そしてスクロースの濃度は、0.5%w/wである。
【0015】
本発明は、さらに、薬学的組成物(ヒト酸性グルコシダーゼ、マンニトールおよびスクロースを水溶液中に含む)を凍結乾燥することによって産生される、凍結乾燥された組成物を提供する。このような組成物は、第一の組成物(ヒト酸性α−グルコシダーゼ、マンニトール、スクロースおよび水性溶液を含む)を凍結乾燥して、第二の組成物を産生し;そして、生理食塩水中で凍結乾燥された組成物を再構成して、第三の組成物を産生することによって調製され得る。いくつかのこのような組成物において、ヒト酸性α−グルコシダーゼは、第一の組成物および第三の組成物の両方において、5mg/mlであり、マンニトールは、第一の組成物において、2mg/mlであり、スクロースは、第一の組成物において、0.5mg/mlであり、そして再構成の工程において用いられる生理食塩水は、0.9%w/wである。
【0016】
本発明は、例えば以下を提供する。
(項目1) ポンペ病を有する患者を処置する方法であって、該方法が、治療的に有効な量のヒト酸性αグルコシダーゼを該患者に投与する工程を包含する、方法。
(項目2) 前記患者に、1週間当たり少なくとも10mg/kg体重で投与される、項目1に記載の方法。
(項目3) 前記患者に、1週間当たり少なくとも60mg/kg体重で投与される、項目1に記載の方法。
(項目4) 前記患者に、1週間当たり少なくとも120mg/kg体重で投与される、項目1に記載の方法。
(項目5) 前記患者に、1週間当たり単一投薬量のα−グルコシダーゼが投与される、項目1〜4のいずれかに記載の方法。
(項目6) 前記患者に、1週間当たり3投薬量のα−グルコシダーゼが投与される、項目1〜4のいずれかに記載の方法。
(項目7) 前記量が、少なくとも24週の期間にわたって1週間当たりで投与される、項目1〜4のいずれかに記載の方法。
(項目8) 前記α−グルコシダーゼが、静脈内に投与される、項目1に記載の方法。
(項目9) 前記α−グルコシダーゼが、トランスジェニック哺乳動物の乳汁中に産生された、項目1に記載の方法。
(項目10) 前記患者が、乳児性ポンペ病を有する、項目1に記載の方法。
(項目11) 前記患者が、少なくとも1歳になるまで生存する、項目10に記載の方法。
(項目12) 前記患者が、若年性ポンペ病を有する、項目1に記載の方法。
(項目13) 前記患者が、成人性ポンペ病を有する、項目1に記載の方法。
(項目14) 前記α−グルコシダーゼが、主に110kD型である、項目1に記載の方法。
(項目15) 前記患者におけるヒト酸性αグルコシダーゼのレベルをモニタリングする工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目16) 前記患者においてα−グルコシダーゼの前記レベルが閾値未満に低下した場合に、第2投薬量のヒト酸性αグルコシダーゼを投与する工程をさらに包含する、項目15に記載の方法。
(項目17) 前記ヒトαグルコシダーゼが静脈内に投与され、そして投与期間の間に投与速度が上昇する、項目1に記載の方法。
(項目18) 前記投与速度が、前記投与期間の間に少なくとも10倍上昇する、項目17に記載の方法。
(項目19) 前記投与速度が、5時間の間に少なくとも10倍上昇する、項目17に記載の方法。
(項目20) 前記患者に、一連の少なくとも4投薬量が投与され、各投薬量は前回の投薬量よりも高い強度である、項目17に記載の方法。
(項目21) 前記投薬量が、0.03〜3mg/kg/時間の第1投薬量、0.3〜12mg/kg/時間の第2投薬量、1〜30mg/kg/時間の第3投薬量および2〜60mg/kg/時間の第4投薬量である、項目20に記載の方法。
(項目22) 前記投薬量が、0.1〜1mg/kg/時間の第1投薬量、1〜4mg/kg/時間の第2投薬量、3〜10mg/kg/時間の第3投薬量および6〜20mg/kg/時間の第4投薬量である、項目21に記載の方法。
(項目23) 前記投薬量が、0.25〜4mg/kg/時間の第1投薬量、0.9〜1.4mg/kg/時間の第2投薬量、3.6〜5.7mg/kg/時間の第3投薬量および7.2〜11.3mg/kg/時間の第4投薬量である、項目22に記載の方法。
(項目24) 前記投薬量が、0.3mg/kg/時間の第1投薬量、1mg/kg/時間の第2投薬量、4mg/kg/時間の第3投薬量および12mg/kg/時間の第4投薬量である、項目23に記載の方法。
(項目25) 前記第1投薬量、前記第2投薬量、前記第3投薬量および前記第4投薬量が、15分間〜8時間の時間にわたって、各々投与される、項目20〜24のいずれかに記載の方法。
(項目26) 前記第1投薬量、前記第2投薬量、前記第3投薬量および前記第4投薬量が、それぞれ、1時間、1時間、0.5時間および3時間の時間にわたって投与される、項目20〜24のいずれかに記載の方法。
(項目27) 滅菌形態の、生理学的に受容可能な緩衝液中にヒト酸性αグルコシダーゼ、ヒト血清アルブミン、および糖を含む、薬学的組成物。
(項目28) リン酸ナトリウム緩衝液中にヒト酸性αグルコシダーゼ、ヒト血清アルブミン、およびグルコースを含む、項目27に記載の薬学的組成物。
(項目29) 水溶液中にαグルコシダーゼ、マンニトールおよびスクロースを含む、薬学的組成物。
(項目30) 前記糖が、マンニトールおよびスクロースを含み、そしてマンニトールの濃度が前記水溶液の1〜3% w/wであり、そしてスクロースの濃度が前記水溶液の0.1〜1% w/wである、項目27に記載の薬学的組成物。
(項目31) マンニトールの濃度が2% w/wであり、そしてスクロースの濃度が0.5% w/wである、項目27に記載の薬学的組成物。
(項目32) 水溶液中にヒト酸性グルコシダーゼ、マンニトールおよびスクロースを含む薬学的組成物を凍結乾燥することによって産生される、凍結乾燥された組成物。
(項目33) 薬学的組成物であって、該組成物が、ヒト酸性α−グルコシダーゼ、マンニトール、スクロースおよび水溶液を含む第1組成物を凍結乾燥して第2組成物を産生する工程;ならびに、生理食塩水中で該凍結乾燥された組成物を再構成して第3組成物を産生する工程によって調製される、薬学的組成物。
(項目34) 前記ヒト酸性α−グルコシダーゼが、前記第1組成物および前記第3組成物の両方において5mg/mlであり、前記マンニトールが、前記第1組成物において2mg/mlであり、前記スクロースが、前記第1組成物において0.5mg/mlであり、そして前記再構成工程において使用される前記生理食塩水が、0.9% w/wである、項目33に記載の薬学的組成物。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】酸性α−グルコシダーゼのcDNAを含む導入遺伝子。αs1−カゼインのエキソンが、白い四角によって表される;α−グルコシダーゼのcDNAが、陰を付けた四角によって表される。αs1−カゼインのイントロンおよび隣接配列が、太線によって表される。細線は、IgGのアクセプター部位を表す。転写開始部位は、(1)と記され、翻訳開始部位は、(ATG)と記され、終始コドンは、(TAG)と記され、そしてポリアデニル化部位は、(pA)と記される。
【図2】パネルA、B、C。酸性α−グルコシダーゼのゲノムDNAを含む3つの導入遺伝子である。暗く陰を付けた領域は、αs1カゼイン配列であり、白い四角は、酸性α−グルコシダーゼのエキソンを表し、そして白い四角の間の細線は、α−グルコシダーゼのイントロンを表す。他の記号は、図1中の記号と同じである。
【図3】パネルA、B、C。ゲノム導入遺伝子の構築。α−グルコシダーゼのエキソンは、白い四角によって表される;α−グルコシダーゼのイントロンおよび非翻訳配列は、細線によって示される。pKUNベクター配列は、太線によって表される。
【図4】ウエスタンブロッティングによる、トランスジェニックマウスの乳汁中の酸性α−グルコシダーゼの検出。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(定義)
用語「実質的な同一性」または「実質的な相同性」とは、デフォルトのギャップウエイトを用いて、例えばプログラムGAPまたはBESTFITによって、最適に整列される場合に、2つのペプチド配列が、少なくとも65パーセントの配列同一性、好ましくは少なくとも80または90パーセントの配列同一性、より好ましくは少なくとも95パーセントの配列同一性またはそれより高い配列同一性(例えば、99パーセントの配列同一性)を共有することを意味する。好ましくは、同一ではない残基の位置は、保存的アミノ酸置換によって異なる。
【0019】
用語「実質的に純粋な」または「単離された」とは、目的の種が同定され、そしてその天然の環境の成分から分離および/または回収されたことを意味する。通常、目的の種は、存在する主な種であり(すなわち、モル規準で、組成物中の任意の他の個々の種よりも豊富である)、そして好ましくは、実質的に精製された画分が、組成物であり、ここでこの目的の種が、存在するすべての高分子種の少なくとも約50パーセント(モル規準で)を構成する。一般的に、実質的に純粋な組成物は、組成物中に存在するすべての高分子種を約80〜90重量パーセントを超えて含む。最も好ましくは、目的の種は、本質的に均質(混入物種が、従来の検出方法によって、組成物中で検出され得ない)になるまで精製され、ここで、この組成物は、単一の高分子種の誘導体から、本質的になる。
【0020】
DNAセグメントは、別のDNAセグメントとの機能的な関係に置かれた場合に、作動可能に連結されている。例えば、シグナル配列についてのDNAは、ポリペプチドの分泌に関係するプレタンパク質として発現される場合に、ポリペプチドをコードするDNAに作動可能に連結されている;プロモーターまたはエンハンサーは、コード配列の転写を刺激する場合に、その配列に作動可能に連結されている。一般的に、作動可能に連結されたDNA配列は隣接しており、そして、シグナル配列の場合においては、隣接しており、かつ読み取り相にある。しかし、エンハンサーは、転写を制御するコード配列と隣接する必要はない。連結は、簡便な制限部位での連結、あるいはその代わりに挿入されたアダプターまたはリンカーでの連結によって達成される。
【0021】
外因性のDNAセグメントは、細胞に対して外来であるか、または細胞のDNAセグメントに対して相同であるが、宿主細胞ゲノム中で異常な位置にある、セグメントである。外因性のDNAセグメントは、外因性ポリペプチドを回収するために発現される。
【0022】
トランスジェニック哺乳動物において、すべての、または実質的にすべての生殖系列細胞および体細胞は、初期胚期で、哺乳動物または哺乳動物の祖先に導入された導入遺伝子を含む。
【0023】
(詳細な説明)
本発明は、リソソームタンパク質を、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の乳汁へ分泌する、トランスジェニック非ヒト哺乳動物を提供する。分泌は、リソソームタンパク質をコードする導入遺伝子、および乳腺に対してこの遺伝子の発現を標的化し得る調節配列の組み込みによって達成される。この導入遺伝子が発現され、そして、発現産物が乳腺中で翻訳後修飾され、次いで乳汁へ分泌される。翻訳後修飾は、グリコシル化およびリン酸化をして、マンノース−6リン酸を含むリソソームタンパク質を産生する工程を含み得る。
【0024】
(A.リソソーム遺伝子)
本発明は、リソソーム酵素および以下を含む他の型のリソソームタンパク質をコードする30を超える公知の遺伝子のいずれかを含むDNAセグメントを発現する、トランスジェニック非ヒト哺乳動物を提供する:α−グルコシダーゼ、α−L−イズロニダーゼ、イズロネート(iduronate)−硫酸スルファターゼ、ヘキソサミニダーゼ(hexosaminidase)AおよびヘキソサミニダーゼB、ガングリオシドアクチベータータンパク質、アリールスルファターゼAおよびアリールスルファターゼB、イズロネートスルファターゼ、ヘパランN−スルファターゼ、ガラクト−セラミダーゼ、α−ガラクトシルセラミダーゼA、スフィンゴミエリナーゼ、α−フコシダーゼ、α−マンノシダーゼ、アスパルチルグリコサミンアミド加水分解酵素、酸性リパーゼ、N−アセチル−α−D−グルコサミン−6−スルフェートスルファターゼ、α−ガラクトシダーゼおよびβ−ガラクトシダーゼ、β−グルクロニダーゼ、β−マンノシダーゼ、セラミダーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、および保護性タンパク質などを含む。公知のリソソームタンパク質の遺伝子配列のいずれかの対立遺伝子改変体、同族改変体および誘導された改変体を発現するトランスジェニック哺乳動物もまた、含まれる。このような改変体は、通常、アミノ酸レベルで、公知のリソソームタンパク質の遺伝子と、実質的な配列同一性を示す。このような改変体は、通常、ストリンジェントな条件下で、公知の遺伝子とハイブリダイズするか、または公知の遺伝子の1つによってコードされたポリペプチドに対する抗体と交差反応する。
【0025】
リソソームタンパク質をコードする公知の遺伝子のうちの多くのゲノムDNA配列またはcDNA配列を含むDNAクローンが、入手可能である(Scottら、Am.J.Hum.Genet.47、802−807(1990);Wilsonら、PNAS 87、8531−8535(1990);Steinら、J.Biol.Chem.264、1252−1259(1989);Ginnsら、Biochem.Biophys.Res.Comm.123、574−580(1984);Hoefslootら、EMBO J.7、1697−1704(1988);Hoefslootら、Biochem.J.272、473−479(1990);MeyerowitzおよびProia、PNAS 81、5394−5398(1984);Scriverら、前出、第12部、2427−2882頁ならびにそこで引用された参考文献)。ゲノムDNA配列およびcDNA配列の他の例は、GenBankから入手可能である。さらなるクローン化されたリソソーム遺伝子の配列が必要とされる範囲まで、公知のリソソームタンパク質のDNA配列または、公知のリソソームタンパク質に対する抗体をプローブとして使用して、ゲノムDNAライブラリーまたはcDNAライブラリー(好ましくは、ヒト)から得られ得る。
【0026】
(B.リソソームタンパク質のコンホメーション)
組換えリソソームタンパク質は、好ましくは、天然に存在するリソソームタンパク質と同じかまたは類似の構造を有するようにプロセシングされる。リソソームタンパク質とは、小胞体(RER)に結合した、リボソーム上で合成される糖タンパク質である。リソソームタンパク質は、N末端シグナルペプチドにより導かれて、この細胞小器官に翻訳と同時に入る(Ngら、Current Opinion in Cell Biology
6,510−516(1994))。N結合型グリコシル化プロセスは、RERにおいてドリコールキャリアからの高マンノース型オリゴ糖の前駆体であるGlc3Man9GlcNAc2の一塊としての移動と共に開始する。糖鎖の修飾は、RERにおいて開始し、そしてグリコシダーゼIおよびグリコシダーゼIIによる、一番外側から3つのグルコース残基の除去を伴ってゴルジ装置において継続する。リン酸化とは、最初に、N−アセチル−グルコ−サミン−1−リン酸がリソソームタンパク質特異的トランスフェラーゼにより、選択されたマンノース基へと結合する工程、そして2番目に、N−アセチル−グルコ−サミンがジエステラーゼにより切断される工程(Goldbergら、Lysosomes:Their Role in Protein Breakdown(Academic Press Inc.,London,1987)163−191頁)の2工程の手順である。切断は、認識マーカーとして、そして大部分のリソソームタンパク質の、リソソームへのマンノース6−リン酸レセプター触媒輸送におけるリガンドとして、マンノース6−リン酸を露出させる。(Kornfeld,Biochem.Soc.Trans.18,367−374(1992))。
【0027】
糖鎖の修飾に加えて、大部分のリソソームタンパク質は、タンパク質分解プロセシングを受ける。このプロセシングの最初の事象は、シグナルペプチドの除去である。大部分のリソソームタンパク質のシグナルペプチドは、シグナルペプチダーゼによるトランスロケーション後に切断され、その後、そのタンパク質は可溶性になる。酸性α−グルコシダーゼのシグナルペプチドは、その酵素がRERを離れた後に切断されるが、その前に、リソソームまたは分泌経路に入るという、示唆的な証拠がある(Wisselaarら、J.Biol.Chem.268,2223−2231(1993))。酸性α−グルコシダーゼのタンパク質分解プロセシングは、複雑であり、そして細胞下の種々の位置で生じるシグナルペプチドの切断に加えて、一連の工程を含む。ポリペプチドは、N末端およびC末端の両方で切断され、それによって、比触媒活性が増加する。認識される主な種は、110/100kDの前駆体、95kDの中間体ならびに76kDの成熟型および70kDの成熟型である(Hasilikら、J.Biol.Chem.255,4937−4945(1980);Oude Elferinkら、Eur.J.Biochem.139,489−495(1984);Reuserら、J.Biol.Chem.260,8336−8341(1985);Hoefslootら、EMBO J.7,1697−1704(1988))。天然のヒト酸性α−グルコシダーゼの翻訳後プロセシングとCOS細胞、BHK細胞およびCHO細胞のような、培養された哺乳動物細胞において発現されたような組換え型ヒト酸性α−グルコシダーゼの翻訳後プロセシングとは、類似する(Hoefslootら(1990)前出;Wisselaarら(1993)前出)。
【0028】
マンノース基の6’位がリン酸化されたリソソームタンパク質を産生する真正のプロセシングは、マンノース6−リン酸に対するレセプターを保有する細胞による、基質の取り込みを測定することによって試験され得る。正確に修飾された基質は、修飾されない基質よりも早く取り込まれ、かつそれによって修飾された基質の取り込みが、マンノース6−リン酸の添加により競合的に阻害され得るような様式で取り込まれる。
【0029】
(C.導入遺伝子の設計)
組換えリソソームタンパク質の発現を、導入遺伝子を保有するトランスジェニック非ヒト哺乳動物の乳腺へと標的化するために、導入遺伝子が設計される。基本的なアプローチには、タンパク質をコードする外因性のDNAセグメントを、グナル配列、プロモーターおよびエンハンサーに作動可能に連結することが必要である。そのDNAセグメントは、ゲノム、ミニ遺伝子(1つ以上のイントロンが除外されたゲノム)、cDNA、YACフラグメント、2つの異なるリソソームタンパク質遺伝子のキメラ、またはこれらの任意のハイブリッドであり得る。ゲノム配列を含むことは、一般的に、より高レベルの発現を導く。非常に高レベルの発現は、乳腺が、リソソームタンパク質の翻訳後修飾および分泌を行う能力に負荷をかけ過ぎ得る。しかし、以下に示すデータは、mg/mlの範囲における高い発現レベルにもかかわらず、マンノース6−リン酸基の形成を含む、実質的な翻訳後修飾が生じることを示す。実質的な修飾とは、少なくとも約10、25、50、75または90%の分泌分子が、少なくとも1つのマンノース6−リン酸基を保有することを意味する。従って、ゲノム構築物またはハイブリッドcDNA−ゲノム構築物は、一般的に好ましい。
【0030】
ゲノムの構築において、全ての介在配列を保持する必要はない。例えば、いくつかの介在配列は、DNAの操作および引き続く微量注入を容易にする、より小さい導入遺伝子を得るために除去され得る(Archibaldら、WO 90/05188(全ての目的のために、その全体において参考として援用される)を参照のこと)。いくつかのイントロンの除去はまた、いくつかの例において、発現レベルを減らし、そしてそれによって翻訳後修飾が実質的に完了することを確かめるために有用である。他の例において、イントロン(例えば、酸性α−グルコシダーゼのゲノム配列に由来するイントロン1)の除外は、成熟酵素の、より高い発現を導く。いくつかのまたは全ての非コードエキソンを欠失させることもまた、可能である。いくつかの導入遺伝子において、リソソームタンパク質コード配列中の選択されたヌクレオチドは、タンパク質分解性切断部位を除去するために変異される。
【0031】
トランスジェニック哺乳動物により産生されるリソソームタンパク質の意図される用途が、通常、ヒトへの投与であるので、リソソームタンパク質配列をコードするDNAセグメントを得る種は、好ましくは、ヒトである。同様に、意図される用途が(例えば、ウマ、イヌまたはネコに対する)獣医治療である場合、DNAセグメントが同じ種に由来することが好ましい。
【0032】
プロモーターおよびエンハンサーは、乳腺においてもっぱら発現するか、または少なくとも優先的に発現する遺伝子(すなわち、乳腺特異的遺伝子)に由来する。プロモーターおよびエンハンサーの供給源として好ましい遺伝子としては、β−カゼイン、κ−カゼイン、αS1−カゼイン、αS2−カゼイン、β−ラクトグロブリン、乳清酸性タンパク質およびα−ラクトアルブミンが挙げられる。プロモーターおよびエンハンサーは、常にではないが、たいてい同じ乳腺特異的遺伝子から得られる。この遺伝子は、必ずではないが、ときどき、導入遺伝子が発現されるべき哺乳動物と、同じ種の哺乳動物に由来する。他の種由来の発現調節配列(例えば、ヒト遺伝子由来の発現調節配列)もまた、使用され得る。このシグナル配列は、乳腺からのリソソームタンパク質の分泌を指向し得ねばならない。適切なシグナル配列は、分泌タンパク質をコードする哺乳動物遺伝子に由来し得る。驚くことに、リソソームタンパク質は通常、分泌されず、細胞内の細胞小器官に標的にされるにもかかわらず、これらのタンパク質の天然のシグナル配列は、適している。そのようなシグナル配列に加えて、シグナル配列の好ましい供給源は、プロモーターおよびエンハンサーを得る遺伝子と、同じ遺伝子由来のシグナル配列である。必要に応じて、さらなる調節配列が、発現レベルを最適化するために、導入遺伝子中に含まれる。そのような配列としては、5’隣接領域、5’の転写されるが、翻訳されない領域、介在配列、3’の転写されるが、翻訳されない領域、ポリアデニル化部位および3’隣接領域が挙げられる。そのような配列は、通常、プロモーターおよびエンハンサーを得る、乳腺特異的遺伝子、または発現されるリソソームタンパク質遺伝子からのいずれかから得られる。そのような配列を含むことは、真正の乳腺特異的遺伝子の遺伝環境および/または真正のリソソームタンパク質遺伝子の遺伝環境をシュミレーションする遺伝環境を生じる。この遺伝環境は、いくつかの場合(例えば、ウシαS1−カゼイン)、転写された遺伝子の、より高い発現を生じる。あるいは、3’隣接領域および非翻訳領域は、他の異種遺伝子(例えば、β−グロビン遺伝子またはウイルスの遺伝子)から得られる。リソソームタンパク質遺伝子または他の異種遺伝子由来の3’非翻訳領域および5’非翻訳領域を含むことはまた、転写物の安定性を増加させ得る。
【0033】
いくつかの実施形態において、乳腺特異的遺伝子由来の5’隣接配列の約0.5、1、5、10、15、20または30kbは、発現されるリソソームタンパク質遺伝子由来の3’隣接配列の約1、5、10、15、20または30kbと組み合せて含まれる。タンパク質がcDNA配列から発現される場合、プロモーターとコード配列との間に介在配列を含むことは有利である。介在配列は、好ましくはプロモーターを得た乳腺特異的領域の第1イントロン由来の介在配列の5’部分と、IgG介在配列またはリソソームタンパク質遺伝子の介在配列由来の3’部分とから形成されるハイブリッド配列である(DeBoerら、WO 91/08216(全ての目的のために、その全体において参考として援用される)を参照のこと)。
【0034】
リソソームタンパク質を発現するための好ましい導入遺伝子は、カゼインプロモーターおよびカゼインエンハンサーの5’に結合したcDNA−ゲノムハイブリッドリソソームタンパク質遺伝子を含む。このハイブリッド遺伝子としては、リソソームタンパク質遺伝子由来のシグナル配列、コード領域および3’隣接領域が挙げられる。必要に応じて、cDNAセグメントは、5’カゼインとリソソームタンパク質をコードする遺伝子の非翻訳領域との間に介在配列を含む。当然、得られる融合体から連続したタンパク質が発現され得るのであれば、対応するcDNAおよびゲノムセグメントはまた、遺伝子中の他の位置で融合され得る。
【0035】
他の好ましい導入遺伝子は、カゼイン調節配列の5’に結合したゲノムリソソームタンパク質セグメントを有する。このゲノムセグメントは通常、遺伝子の5’非翻訳領域から3’隣接領域へと続く。従って、ゲノムセグメントにはリソソームタンパク質の5’非翻訳配列の一部、シグナル配列、交互に続くイントロンおよびコードエキソン、3’非翻訳領域ならびに3’隣接領域が挙げられる。ゲノムセグメントは、この5’非翻訳領域を介して、プロモーターおよびエンハンサーならびに通常は、5’非翻訳領域を含むカゼインフラグメントに結合される。
【0036】
DNA配列情報は、少なくとも1種、そしてしばしば、様々な生物における上記に列挙した全ての乳腺特異的遺伝子について利用可能である(例えば、Richardsら、J.Biol.Chem.256,526−532(1981)(ラットα−ラクトアルブミン);Campbellら、Nucleic Acids Res.12,8685−8697(1984)(ラットWAP);Jonesら、J.Biol.Chem.260,7042−7050(1985)(ラットβ−カゼイン);Yu−LeeおよびRosen,J.Biol.Chem.258,10794−10804(1983)(ラットγ−カゼイン);Hall,Biochem.J.242,735-742(1987
)(ヒトα−ラクトアルブミン);Stewart,Nucleic Acids Res.12,389(1984)(ウシαs1およびκカゼインのcDNAs);Gorodetskyら、Gene 66,87−96(1988)(ウシβカゼイン);Alexanderら、Eur.J.Biochem.178,395−401(1988)(ウシκカゼイン);Brignonら、FEBS Lett.188,48−55(1977)(ウシαS2カゼイン);Jamiesonら、Gene 61,85−90(1987),Ivanovら、Biol.Chem.Hoppe−Seyler 369,425−429(1988),Alexanderら、Nucleic Acids Res.17,6739(1989)(ウシβラクトグロブリン);Vilotteら、Biochimie 69,609−620(1987)(ウシα−ラクトアルブミン)を参照のこと(全ての目的のために、その全体において参考として援用される)。種々の乳タンパク質遺伝子の構造および機能は、MercierおよびVilotte,J.Dairy Sci.76,3079−3098(1993)(全ての目的のために、その全体において参考として援用される)に概説される。さらなる配列データが必要とされ得る範囲まで、すでに得られた領域に隣接する配列は、既存の配列をプローブとして使用して、容易にクローン化され得る。異なる生物由来の乳腺特異的調節配列は、同様に、公知の同族のヌクレオチド配列、または同族タンパク質に対する抗体をプローブとして使用して、そのような生物由来のライブラリーをスクリーニングすることによって得られる。
【0037】
組換えタンパク質の発現を乳腺へと標的化するためにαS1−カゼイン調節配列を使用する、一般的なストラテジー、および例示的な導入遺伝子は、DeBoerら、WO 91/08216およびWO93/25567(全ての目的のために、その全体において参考として援用される)においてより詳細に記載される。他の乳腺特異的遺伝子由来の調節配列を使用する導入遺伝子の例としてもまた、記載されている(例えば、Simonら、Bio/Technology 6,179−183(1988)およびWO88/00239(1988)(ヒツジにおける発現のためのβ−ラクトグロブリン調節配列);Rosen,EP 279,582およびLeeら、Nucleic Acids Res.16,1027−1041(1988)(発現のためのマウスにおけるβ−カゼイン調節配列);Gordon,Biotechnology 5,1183(1987)(発現のためのマウスにおけるWAP調節配列);WO88/01648(1988)およびEur.J.Biochem.186,43−48(1989)(発現のためのマウスにおけるα−ラクトアルブミン調節配列)を参照のこと(全ての目的のために、その全体において参考として援用される))。
【0038】
導入遺伝子からの乳汁におけるリソソームタンパク質の発現は、翻訳後修飾およびリソソームタンパク質の標的化に関与する遺伝子の、同時発現または機能的不活性化(すなわち、ノックアウト)により影響を受け得る。実施例におけるデータは、驚くことに、乳腺は、高レベルでタンパク質を含むマンノース6−リン酸の集合および分泌を得るのに十分な量で、すでに修飾酵素を発現することを示す。しかし、高レベルでこれらのタンパク質を発現する、いくつかのトランスジェニック哺乳動物において、導入遺伝子発現から生じるさらなる酵素を用いて、プロセシング酵素の内因性のレベルを補うことが、ときどき好ましい。そのような導入遺伝子は、プロセシング酵素コード配列について上記で議論された原理と類似の原理を使用し、リソソームタンパク質コード配列を、導入遺伝子において置換して用いて構築される。翻訳後プロセシング酵素が分泌されることは、一般的には必要ではない。従って、リソソームタンパク質コード配列に連結された分泌シグナル配列は、分泌を伴わずにプロセシング酵素を小胞体へと標的化するシグナル配列で置換される。例えば、これらの酵素に天然で結合しているシグナル配列が適している。
【0039】
(D.トランスジェネシス)
上記の導入遺伝子は、非ヒト哺乳動物中に導入される。ほとんどの非ヒト哺乳動物(げっし類(例えば、マウスおよびラット)ウサギ、ヒツジ類(例えば、ヒツジおよびヤギ)、ブタ類(例えば、ブタ)、ならびにウシ類(ウシおよびバッファロー)を含む)は適している。ウシ類は、大きな収量の乳汁という利点を提供し、一方、マウスは、トランスジェネシス(transgenesis)および育種の容易さという利点を提供する。ウサギは、これらの利点の折衷物を提供する。ウサギは、約14%のタンパク質含量を有する乳を、1日に100ml生産し得(Buhlerら、Bio/Technology 8,140(1990)(全ての目的のために、その全体において参考として援用される)を参照のこと)、そしてなお、マウスの場合と同じ原理および類似の設備を使用して操作され得、そして育種され得る。非胎生哺乳動物(例えば、ハリモグラまたはカモノハシ)は、代表的には使用されない。
【0040】
トランスジェネシスのいくつかの方法において、導入遺伝子は、受精した卵母細胞の前核中に導入される。いくつかの動物(例えば、マウスおよびウサギ)については、受精はインビボで実施され、そして受精した卵は外科的に取り出される。他の動物(特にウシ類)においては、生きている動物または屠殺動物から卵細胞を取り出し、そしてインビトロで卵を受精させることが好ましい(DeBoerら、WO91/08216を参照のこと)。インビトロの受精は、導入遺伝子は、組込むために最適な細胞周期の段階(S期より遅くない)で、実質的に同調した細胞中に導入されることを可能にする。導入遺伝子は、通常、微量注入法によって導入される(US 4,873,292を参照のこと)。次いで、受精した卵母は、約16〜150細胞を含む着床前胚が得られるまで、インビトロで培養される。16〜32細胞期の胚は、桑実胚として記載される。32を越える細胞を含む着床前胚は、胚盤胞と呼ばれる。これらの胚は、代表的に、64細胞期で割腔の発生を示す。受精した卵母細胞を着床前段階まで培養するための方法は、Gordonら、Methods Enzymol.101,414(1984);Hoganら、Manipulation of the Mouse
Embryo:A Laboratory Manual,C.S.H.L.N.Y.(1986)(マウス胚);およびHammerら、Nature 315,680(1985)(ウサギ胚およびブタ胚);Gandolfiら、J.Reprod.Fert.81,23−28(1987);Rexroadら、J.Anim.Sci.66,947−953(1988)(ヒツジ胚)ならびにEyestoneら、J.Reprod.Fert.85,715−720(1989);Camousら、J.Reprod.Fert.72,779−785(1984);ならびにHeymanら、Theriogenology
27,5968(1987)(ウシ胚)(全ての目的のために、その全体において参考として援用される)により記載される。ときどき、着床前胚は、着床までの間、凍結して保存される。着床前胚は、偽妊娠雌の卵管に移され、導入遺伝子を組込んだ、発生段階に依存して、トランスジェニック動物またはキメラ動物が誕生する。キメラ哺乳動物を交配して、真の生殖系列トランスジェニック動物を形成し得る。
【0041】
あるいは、導入遺伝子は、胚幹細胞(ES)中に導入され得る。これらの細胞は、インビトロで培養された、着床前の胚から得られる(Bradleyら、Nature 309,255−258(1984)(全ての目的のために、その全体において参考として援用される))。導入遺伝子は、エレクトロポレーションまたは微量注入法によって、そのような細胞中に導入され得る。形質転換されたES細胞は、非ヒト動物由来の胚盤胞と結合される。ES細胞は、その胚にコロニーをつくり、そしていくつかの胚では、生じるキメラ動物の生殖系列を形成する(Jaenisch,Science,240,1468−1474(1988)(全ての目的のために、その全体において参考として援用される)を参照のこと)。あるいは、ES細胞は、除核された受精卵母細胞中に移植し、トランスジェニック哺乳動物を発生させるための、核の供給源として使用され得る。
【0042】
2つ以上の導入遺伝子を含むトランスジェニック動物の産生については、その導入遺伝子は、単一の導入遺伝子の場合と同じ手順を使用して、同時に導入され得る。あるいは、導入遺伝子は、最初に別々の動物中に導入され得、次いで、これらの動物を交配することにより、同じゲノム中に組み合わされ得る。あるいは、導入遺伝子の一方を含む第1のトランスジェニック動物が、産生される。次いで、2番目の導入遺伝子は、その動物由来の受精卵中または胚幹細胞中に導入される。いくつかの実施形態において、長さが他の点では約50kbを超える導入遺伝子は、重複フラグメントとして構築される。そのような重複フラグメントは、受精卵母細胞中または胚幹細胞中に同時に導入され、そしてインビボにおいて相同組換えを受ける(Kayら、WO 92/03917(全ての目的のために、その全体において参考として援用される)を参照のこと)。
【0043】
(E.トランスジェニック哺乳動物の特徴)
本発明のトランスジェニック哺乳動物は、上記のように、それらのゲノム中の少なくとも1つの導入遺伝子を取り込む。導入遺伝子は、リソソームタンパク質をコードするDNAセグメントの発現を少なくとも主に乳腺に対して標的化する。驚くことに、その乳腺は、オリゴ糖の添加およびリン酸化の工程を含む、真正翻訳後プロセシングに必要とされるタンパク質を発現し得る。乳腺における酵素によるプロセシングは、マンノース基の6’位のリン酸化を生じる。
【0044】
リソソームタンパク質は、少なくとも10、50、100、500、1000、2000、5000または10,000μg/mlという高レベルで分泌され得る。驚くことに、本発明のトランスジェニック哺乳動物は、実質的に正常な健康を現わす。乳腺以外の組織におけるリソソームタンパク質の二次発現は、有毒な効果を引き起こすのに十分な程度までは生じない。さらに、乳腺において産生される外因性のリソソームタンパク質は、分泌装置を詰まらせる堆着により存在する、有意な問題が示されない、十分な効率性で分泌される。
【0045】
当然、トランスジェニック哺乳動物が乳汁を産生し始め得る年は、動物の性質に伴って異なる。トランスジェニックウシについては、その年齢は、通常、約2歳半またはホルモンの刺激を用いて6ヶ月であり、一方、トランスジェニックマウスについては、その年齢は、約5〜6週間である。当然、種の雌のメンバーのみが、乳汁を産生するために有用である。しかし、トランスジェニック雄はまた、雌の子孫を育種するために有用である。トランスジェニック雄由来の精子は、続いてインビトロにおける受精および雌の子孫の産生のために冷凍保存され得る。
【0046】
(F.乳汁からのタンパク質の回収)
トランスジェニック成体雌哺乳動物は、高濃度の外因性リソソームタンパク質を含む乳を産生する。所望であるなら、そのタンパク質は、識別する物理的特性および化学的特性、ならびに標準的な精製手順(例えば、沈澱、イオン交換、分子排除またはアフィニティークロマトグラフィー)によって乳汁から精製され得る(一般的に、Scopes,Protein Purification(Springer−Verlag,N.Y.,1982)を参照のこと)。
【0047】
乳汁からのヒト酸性α−グルコシダーゼの精製は、遠心分離および脂肪の除去によるトランスジェニック乳汁の脱脂、続いて高速遠心分離、続いてのデッドエンド(dead-
end)な濾過(すなわち、フィルターの大きさを連続して小さくして使用することによるデッドエンドな濾過)または直交流濾過によるカゼインの除去、あるいは直交流濾過によるカゼインの直接的な除去によって実施され得る。ヒト酸性α−グルコシダーゼは、クロマトグラフィー(例えば、Q Sepharose FF(または他の陰イオン交換マトリックスを含む)、疎水的相互作用クロマトグラフィー(HIC)、金属キレートセファロースあるいはセファロースに結合したレクチン(または他のマトリックス))によって精製される。
【0048】
Q Sepharose Fast Flowクロマトグラフィーは、以下のように、濾過した乳清または乳清画分中に存在するヒト酸性α−グルコシダーゼを精製するために使用され得る:Q Sepharose Fast Flow(QFF;Pharmacia)クロマトグラフィー(Pharmacia XK−50カラム、15cmベッド高;250cm/時間流速)のカラムを、20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)(緩衝液A)中で平衡化し;S/D−インキュベートした乳清画分(約500〜約600ml)を充填し、そしてこのカラムを、4〜6カラム容量(cv)の緩衝液A(20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0))で洗浄する。ヒト酸性α−グルコシダーゼ画分は、100mMのNaClを含む2〜3cvの緩衝液Aを用いて、このQFFカラムから溶出される。
【0049】
このQFF Sepharoseのヒト酸性α−グルコシダーゼ含有画分は、Phenyl Sepharose High Peformanceクロマトグラフィーを使用して、さらに精製され得る。例えば、1容量の1Mの硫酸アンモニウムを、持続的に攪拌しながら、QFF Sepharoseのヒト酸性α−グルコシダーゼ溶出物に添加する。次いで、Phenyl HP(Pharmacia)カラムクロマトグラフィー(Pharmacia XK−50カラム、15cmベッド高;150cm/時間流速)は、0.5Mの硫酸アンモニウム、50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(緩衝液C)(pH6.0)中でカラムを平衡化し、(QFF Sepharoseから)0.5Mの硫酸アンモニウム−インキュベートしたヒト酸性α−グルコシダーゼ溶出物を充填し、2〜4cvの緩衝液Cでこのカラムを洗浄し、そしてヒト酸性α−グルコシダーゼ(これは、3〜5cvの緩衝液D(50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)を用いてPhenyl
HPカラムから溶出された)を溶出することにより、室温にて行われた。ヒト酸性α−グルコシダーゼをさらに精製するための代替的方法およびさらなる方法は、当業者には明らかである。例えば、英国特許出願998 07464.4(全ての目的のためにその全体が参考として援用される)を参照のこと。
【0050】
(G.組換えリソソームタンパク質の用途)
本発明により産生される組換えリソソームタンパク質は、酵素置換治療手順において用途を見出す。機能的リソソーム酵素の不全を生じる、遺伝的または他の欠損を有する患者は、この患者に外来性の酵素を投与することにより処置され得る。このような処置の必要な患者は、症状(例えば、小人症、角膜混濁、肝脾腫大症、弁病変、冠状動脈病変、骨格変形、関節硬直および進行性精神遅滞を含むフルラー症候群の症状)から同定され得る。あるいは、またはさらに、患者は、特定のリソソーム酵素によりプロセスされる特徴的な代謝物の過剰な蓄積を明らかにするため、組織サンプルの生化学的分析から診断され得るか、あるいは特定のなリソソーム酵素活性の欠損を明らかにするための、人工の基質または天然の基質を使用する酵素アッセイによって診断され得る。ほとんどの疾患について、診断は、症状の発症または代謝物の過剰な蓄積の前に、特定の酵素の欠損を測定することにより、またはDNA分析によりなされ得る(Scriverら、前出、lysosomal storage disordersの章)。リソソーム貯蓄症の全ては、遺伝性である。従って、リソソーム疾患に罹患したメンバーを有することが既知である家系由来の子孫において、最終診断がなされ得る前でも、予防的処置を開始することは、時として有利である。
【0051】
(薬学的組成物)
いくつかの方法において、リソソーム酵素は、薬学的成物として薬学的キャリアと共に、精製された形態で投与される。この好ましい形態は、投与および治療的適用の意図される様式に依存する。この薬学的キャリアは、患者にポリペプチドを送達するために適切な任意の適合性の非毒性物質であり得る。滅菌水、アルコール、脂肪、ワックスおよび不活性固体が、キャリアとして使用され得る。薬学的に受容可能なアジュバント、緩衝化剤、分散剤などもまた、この薬学的組成物中へ組み込まれ得る。
【0052】
薬学的組成物中の酵素の濃度は、広範に変化し得る(すなわち、約0.1重量%未満(通常は、少なくとも約1重量%)から、20重量%以上程度まで)。
【0053】
経口投与のために、活性成分は、カプセル、錠剤および粉末のような固形投薬形態、またはエリキシル、シロップおよび懸濁液のような液体投薬形態で投与され得る。活性成分は、グルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、デンプン、セルロースまたはセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、タルク、炭酸マグネシウムなどのような不活性成分および粉末キャリアと共に、ゼラチンカプセル中にカプセル化され得る。所望の色、味、安定性、緩衝能、分散または他の公知の所望の特徴を提供するために添加され得る、さらなる不活性成分の例は、赤色酸化鉄、シリカゲル、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化チタニウム、食用白インク(edible
white ink)などである。同様の希釈剤が、圧縮剤を作製するために使用され得る。錠剤およびカプセルの両方は、徐放生成物として製造されて、数時間にわたり薬物の持続的な放出を提供し得る。圧縮剤は、いかなる不快な味をも遮断するため、および大気からこの錠剤を保護するために、糖コーティングもしくはフィルムコーティングされ得るか、または胃腸管中での選択的な分解のために腸溶性コーティングされ得る。経口投与のための液体投薬形態は、患者の受け入れを増加するために、着色剤および香味料を含み得る。
【0054】
静脈内注入のための代表的な組成物は、20%アルブミン溶液および100mg〜500mgの酵素を必要に応じて補充した、100〜500mlの滅菌した0.9%のNaClまたは5%のグルコースを含むように調合され得る。筋肉内注射のための代表的な薬学的組成物は、例えば、1mlの滅菌緩衝水および1mg〜10mgの本発明の精製されたαグルコシダーゼをむように調合される。非経口的に投与可能な組成物を調製するための方法は、当該分野で周知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Science(第15版、Mack Publishing,Easton,PA,1980)(全ての目的のためにその全体において参考として援用される)を含む種々の供給源において、より詳細に記載される。
【0055】
AGLUは、10mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中で処方され得る。少量の硫酸アンモニウムは、必要に応じて存在(<10mM)する。酵素は、代表的には約−70℃にて凍結保存され、使用前に解凍される。あるいは、この酵素は、溶液中で(例えば、約4℃〜8℃にて)冷却保存され得る。いくつかの実施形態においてAGLU溶液は、緩衝液(例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムまたは他の生理学的に受容可能な緩衝液)、単純な炭水化物(例えば、スクロース、グルコース、マルトース、マンニトールなど)、タンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)、および/または界面活性剤(例えば、ポリソルベート80(Tween−80)、クレモフォア(cremophore)−EL,クレモフォア(cremophore)−R,ラブロフィル(labrofil)など)を含む。
【0056】
AGLUはまた、凍結乾燥形態で保存され得る。凍結乾燥のために、AGLUは、リン酸緩衝液中にマンニトールおよびスクロースを含む溶液中で処方され得るべきである。スクロースの濃度は、再構成に際してAGLUの凝集を妨げるために十分である。マンニトールの濃度は、さもなくば凍結乾燥のために必要とされる時間を顕著に減少するために十分であるべきである。しかし、マンニトールおよびスクロースの濃度は、再構成に際して受容されない高浸透圧性を引き起こすに不十分であるべきである。それぞれ1mg/ml〜3mg/mlおよび0.1mg/ml〜1.0mg/mlのマンニトールおよびスクロースの濃度が、適切である。好ましい濃度は、2mg/mlのマンニトールおよび0.5mg/mlのスクロースである。AGLUは、凍結乾燥前および再構成後に、好ましくは、5mg/mlである。好ましく0.9%での生理食塩水は、再構成のために好ましい溶液である。
【0057】
ウサギの乳汁から精製されるAGLUについて、少量の不純物(例えば、約5%まで)は容認され得る。可能性のある不純物は、ウサギの乳清タンパク質の形態で存在し得る。他の可能性のある不純物は、AGLUの構造的アナログ(例えば、オリゴマーおよび凝集体)および切断物である。現在のバッチは、トランスジェニックウサギにおいて産生されるAGLUが95%より高く純粋であることを示す。最も大きな不純物はウサギの乳清タンパク質であるが、ゲル電気泳動に際して、異なる分子量のAGLUバンドもまた見られる。
【0058】
注入溶液は、層流空気流フード中で無菌的に調製されるべきである。適切な量のAGLUは、フリーザーから取り出され、室温にて解凍されるべきである。注入溶液は、ヒト血清アルブミン(HSA)およびグルコースを含む、適切な量の溶液と適切な量のAGLU最終産物溶液を混合することにより、ガラス注入ボトル中で調製され得る。最終濃度は、25mg〜200mgの用量に対して1%のHSAおよび4%のグルコース、そして400mg〜800mgの用量に対して1%のHSAおよび4%のグルコースであり得る。HSAおよびAGLUは、5%グルコースを含む注入ボトルに移す前に、0.2μmのシリンジフィルターを用いて濾過され得る。あるいは、AGLUは、生理食塩水溶液(注入のために、好ましくは0.9%)中で再構成され得る。注入のためのAGLUの溶液は、室温にて7時間まで安定であることが示されている。従って、このAGLU溶液は、好ましくは調製7時間以内に注入される。
【0059】
(治療方法)
本発明は、ポンペ病を処置する有効な方法を提供する。これらの方法は、触媒的に活性である形態での、および処置されている患者の組織、特に肝臓、心臓および筋肉(例えば、平滑筋、横紋筋および心筋)により取り込まれ得る形態での大量のヒト酸性α−グルコシダーゼの利用可能性を、一部前提とする。このようなヒト酸性α−グルコシダーゼは、例えば、実施例に記載されるトランスジェニック動物から提供される。α−グルコシダーゼは、好ましくは、主に(すなわち、>50%)約100kD〜110kDの前駆体形態である。(100kD〜110kDの前駆体の見かけの分子量または相対的移動性は、使用される分析の方法に依存して幾分変化し得るが、典型的には、95kDと120kDの範囲内である。)実施例において議論されるトランスジェニック動物中のヒト酸性α−グルコシダーゼでの首尾よい結果を考慮すると、細胞発現系から生じるようなヒトα−グルコシダーゼの他の供給源もまた使用され得ることが可能である。例えば、ヒト酸性α−グルコシダーゼを生成する代替的方法は、適切なプロモーターに作動可能に連結された、cDNAまたはゲノム構築物として、安定な真核生物細胞株(例えば、CHO)中に、酸性α−グルコシダーゼ遺伝子をトランスフェクトすることである。しかし、このようなアプローチによる臨床的な治療のために必要とされる、大量のヒト酸性α−グルコシダーゼを生成することは、より困難である。
【0060】
本発明の薬学的組成物は、通常、静脈内に投与される。皮内、筋肉内または経口投与はまた、いくつかの場合において可能である。この組成物は、リソソーム酵素欠損疾患を患っている、またはその危険のある個体の予防的な処置のために投与され得る。治療的適用について、薬学的組成物は、蓄積された代謝物の濃度を減少させるため、および/または代謝物のさらなる蓄積を予防もしくは防止するために十分な量で、確立された疾患に罹患している患者に投与される。リソソーム酵素欠損疾患の危険のある個体に対して、この薬学的組成物は、代謝物の蓄積を予防または阻害するいずれかのために十分な量で、予防的に投与される。このことを達成するために適切な量は、「治療的有効量」または「予防的有効量」として定義される。このような有効量は、状態の重症度および患者の健康状態の全身性状態に依存する。
【0061】
この方法において、ヒト酸性α−グルコシダーゼは、通常、患者に対して一週間あたり患者体重に対して10mg/kg以上の用量で、投与される。しばしば、用量は、一週間あたり10mg/kgを超える。投薬レジメンは、一週間あたり10mg/kg〜一週間あたり少なくとも1000mg/kgの範囲であり得る。代表的な投薬レジメンは、一週間あたり10mg/kg、一週間あたり15mg/kg、一週間あたり20mg/kg、一週間あたり25mg/kg、一週間あたり30mg/kg、一週間あたり35mg/kg、一週間あたり40mg/kg、一週間あたり45mg/kg、一週間あたり60mg/kg、一週間あたり80mg/kgおよび一週間あたり120mg/kgである。好ましいレジメンにおいては、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、30mg/kgまたは40mg/kgが、毎週1回、2回または3回投与される。処置は、少なくとも4週間、時として24週間、そして時として患者の生涯にわたり、代表的に続けられる。処置は、好ましくは静脈内(i.v.)に投与される。必要に応じて、ヒトα−グルコシダーゼのレベルは、処置後にモニターされ(例えば、血漿または筋肉において)、そして検出されるレベルが、実質的に正常なヒトにおける値未満(例えば、20%未満)に低下した場合、さらなる用量が投与される。
【0062】
いくつかの方法において、ヒト酸性α−グルコシダーゼは、初めは「高」用量(すなわち、「負荷用量(loading dose)」)で投与され、続いて低用量(すなわち、「維持用量」)で投与される。負荷用量の例は、週(例えば、1、2または3週間)あたり1〜3回、患者体重に対して少なくとも約40mg/kgである。維持用量の例は、周あたり患者体重に対して少なくとも約5mg/kg〜少なくとも約10mg/kgであり、またはそれ以上(例えば、一週間あたり20mg/kg、一週間あたり30mg/kg、一週間あたり40mg/kg)である。
【0063】
いくつかの方法において、用量は、投薬期間中に増加速度で投与される。このようなことは、静脈内注入の流速を増加することにより、または一定の速度で投与される漸増する濃度のα−グルコシダーゼの勾配を使用することにより達成され得る。この様式での投与は、免疫原性反応の危険性を減少させる。いくつかの用量において、単位時間あたりのα−グルコシダーゼの単位において測定される投与速度は、少なくとも10の係数により増加する。代表的に、静脈内注入は、数時間の期間(例えば、1〜10時間、および好ましくは2〜8時間、より好ましくは3〜6時間)にわたり行われ、そして注入速度は、投与の期間中に間隔をおいて増加される。
【0064】
増加速度での注入についての適切な用量(全ては、mg/kg/時間)は、以下の表1に示される。この表の第1欄は、投薬スケジュールにおける時間を示す。例えば、0〜1時間への参照は、投薬の最初の時間を言及する。表の第5欄は、それぞれの時間で使用され得る用量の範囲を示す。第4欄は、好ましい投薬量の制限された内包範囲を示す。第3欄は、例示的な臨床的試行において投与される投薬量のより高い値とより低い値を示す。第2欄は、特に好ましい投薬量を示し、それらは、表1の第3欄に示される範囲の平均を示す。
【0065】
【表1】

この方法は、早発性(幼児性)ポンペ病および遅発性(若年性および成人性)ポンペ病の両方を有する患者に対して有効である。ポンペ病の幼児性形態を有する患者において、症状は、生涯の最初の4ヶ月において明らかになる。大半において、貧弱な運動発達および成長不全が、最初に認められる。臨床試験に際して、筋肉消耗、胸骨退縮を伴う増加した呼吸速度、肝臓の中程度の膨大および舌の突出を伴う全身性緊張低下が存在する。心臓の超音波試験は、進行性の肥大型心筋症を示し、最終的に不十分な心拍出量を誘導する。ECGは、顕著な左軸偏位、短いPR間隔、大きなQRS複合体、反転T波、およびST低下により特徴付けられる。この疾患は、生涯の最初の年において心臓性呼吸不全を誘導する、急速な進行経過を示す。剖検での組織学的な試験に際して、リソソームのグリコーゲン蓄積が、種々の組織において観察され、心臓および骨格筋において最も明白である。本発明の方法におけるてヒト酸性α−グルコシダーゼを用いる処置は、そのような患者の寿命の延長を生じる(例えば、1、2、5年を超えて、正常な寿命まで)。処置はまた、上で議論したように、ポンペ病の臨床学的特徴および生化学的特徴の除去または減少を生じ得る。処置は、生後直ぐに、またはこの患者が、それらの子孫を危険におかせる変異したα−グルコシダーゼ対立遺伝子を保有することが既知である場合は、出生前に投与される。
【0066】
ポンペ病の遅発性の成人性形態を有する患者は、生涯の最初の二十年において、症状を経験しないかもしれない。この臨床学的なサブタイプにおいて、主に骨格筋が、肢帯、体幹および横隔膜のそれらの偏好に関連する。階段を登る際の困難は、しばしば最初の病訴である。呼吸障害は、かなり変化する。これは、臨床的容体を支配し得るか、またはこれは、患者によっては、晩年になるまで経験されない。ほとんどのそのような患者は、呼吸不全のために死亡する。若年性サブタイプを有する患者において、症状は、通常、生涯の最初の10年で明らかとなる。成人性ポンペ病の場合、骨格筋衰弱が、主な問題であり;心臓肥大、肝腫大および巨舌症が見られ得るが、稀である。多くの場合、毎晩の人工呼吸器支持が、最終的に必要とされる。呼吸筋の萎縮を併発する肺感染は、生命を脅かし、大半において、30年の年数前には致死的になる。本発明の方法を用いた処置は、遅延性の若年性ポンペ病患者または成人性ポンペ病患者の寿命を正常な寿命まで延長する。処置はまた、疾患の臨床的症状および生化学的症状を除去または顕著に減少する。
【0067】
(他の用途)
トランスジェニック動物の乳汁中のリソソームタンパク質産物は、多くの他の用途を有する。例えば、他のα−アミラーゼと共通してα−グルコシダーゼは、デンプン、ビールおよび医薬品の生産において重要なツールである。VihinenおよびMantsala,Crit.Rev.Biochem.Mol.Biol.24,329−401(1989)(全ての目的のためにその全体が参考として援用される)を参照のこと。リソソームタンパク質はまた、実験化学薬品または加工食品を生産するために有用である。例えば、酸性α−グルコシダーゼは、1,4α−糖質結合(glucidic bond)および1,6α−糖質結合を分解し、そして、マルトース、イソマルトース、デンプンおよびグリコーゲンのような、それらの結合を含む種々の炭水化物の分解に使用されて、グルコースを産生し得る。酸性α−グルコシダーゼはまた、腸マルターゼ不全または腸イソマルターゼ不全の患者に対する投与のために有用である。さもなくば消化されないマルトースの存在から生じる症状は、回避される。そのような適用において、この酵素は、乳汁からの事前の画分化なしで、そのような乳汁から誘導される加工食品(例えば、アイスクリームまたはチーズ)として、または薬学的組成物として投与され得る。精製された組換えリソソーム酵素はまた、組織サンプル中のこのような酵素の未知量のアッセイのための診断キットにおけるコントロールとして含まれるために有用である。
【実施例】
【0068】
(実施例)
(実施例1:導入遺伝子の構築)
((a)cDNA構築物)
ヒト酸性α−グルコシダーゼをコードするcDNAを含む発現ベクターの構築は、プラスミドp16,8hlf3(DeBoerら(1991)および(1993)、前出を参照のこと)を用いて開始した。このプラスミドは、ウシαS1−カゼイン調節配列を含む。この親プラスミドのラクトフェリンcDNA挿入物を、図1において示されるような発現カセットのClaI部位およびSalI部位において、ヒト酸性α−グルコシダーゼcDNA(Hoefslootら、EMBO J.7,1697〜1704(1988))と交換した。α−グルコシダーゼcDNAフラグメントの末端にこれらの適合可能な制限部位を得るために、ヒトα−グルコシダーゼをコードする完全なcDNAを含むプラスミドpSHAG2(同上)を、EcoRIおよびSphIを用いて消化して、そしてこの3.3kb cDNAフラグメントを、ベクターのヌクレオチド配列内の破壊されたClaI部位および新しく設計されたポリリンカー(HindIII ClaI EcoRI SphI XhoI EcoRI SfiI SfiI/SmaI NotI EcoRI**=破壊された部位))を有する、pKUN7ΔC(pKUNI誘導体)(Koningsら、Gene 46、269〜276(1986))中でサブクローン化した。生じたプラスミドpαgluCESXから、この3.3−kb cDNAフラグメントを、ClaIおよびXhoIにより切り出し得た。このフラグメントを、ClaI部位およびXhoI−適合可能なSalI部位で、図1において示される発現カセットに挿入した。結果として、発現プラスミドp16,8αgluは、図1において示されるようなウシαS1−カゼイン配列に隣接される、ヒト酸性α−グルコシダーゼをコードするcDNA配列からなる。完全な発現カセットを含むこの27.3−kbフラグメントを、NotIを用いた切断により、切り出し得る(図1を参照のこと)。
【0069】
((b)ゲノム構築物)
構築物c8αgluex1は、ヒト酸性α−グルコシダーゼ遺伝子(Hoefslootら、Biochem,J.272,493〜497(1990))(その転写開始部位のちょうど下流のエキソン1において始まる)を含む(図2、パネルAを参照のこと)。従って、この構築物は、ヒト酸性αグルコシダーゼ遺伝子のほとんど完全な5’UTRをコードする。このフラグメントを、ウシαS1−カゼイン遺伝子のプロモーター配列に融合した。このαS1−カゼイン開始部位は、αS1−カゼイン/酸性α−グルコシダーゼ接合部の22bp上流に存在する。この構築物は、ヒト酸性α−グルコシダーゼポリアデニル化シグナル配列および3’隣接配列を有する。構築物c8αgluex2は、ヒト酸性α−グルコシダーゼ遺伝子のエキソン2における転写開始部位に即座に融合されるウシαS1カゼインプロモーターを含む(図2、パネルBを参照のこと)。従って、αS1−カゼイン転写開始部位およびα−グルコシダーゼ転写開始部位は、この構築物において22bp離れている。従って、α−グルコシダーゼ5’UTRを保存しない。この構築物はまた、図2、パネルBにおいて示されるようなヒト酸性α−グルコシダーゼポリアデニル化シグナル配列および3’隣接配列を含む。
【0070】
構築物c8,8αgluex2−20は、3’領域においてのみ、構築物c8αgluex2と異なる。エキソン20におけるSphI部位を、ウシαS1−カゼイン3’配列をヒト酸性α−グルコシダーゼ構築物と融合するために用いた。このポリアデニル化シグナルは、この3’αS1−カゼイン配列中に位置する(図2、パネルC)。
【0071】
構築物c8,8αgluex2−20は、3’領域においてのみ、構築物c8αgluex2と異なる。エキソン20におけるSphI部位を、ウシαS1−カゼイン3’配列をヒト酸性α−グルコシダーゼ構築物と融合するために用いた。このポリアデニル化シグナルは、この3’αS1−カゼイン配列中に位置する(図2、パネルC)。
【0072】
(ゲノム構築物の構築の方法)
ヒト酸性α−グルコシダーゼ遺伝子を含む3つの連続したBglIIフラグメントを、Hoefslootら(前出)によって単離した。これらのフラグメントを、カスタマイズされたポリリンカー(HindIII ClaI StuI
SstI BglII PvnI NcoI EcoRI SphI XhoI EcoRI* SmaI/SfiI NotI EcoRI**=破壊された部位))を有す
るpKUN8ΔC(pKUN7ΔC誘導体)のBglII部位中に連結した。この連結は、プラスミドp7.3αgluBES、p7.3αgluBSE、p8.5αgluBSE、p8.5αgluBES、p10αagluBSEおよびp10αgluBESを生成する、これらの2つの方向のフラグメントを生じた。
【0073】
発現カセットの末端の独特なNotI−部位が、マイクロインジェクションに使用されるフラグメントの単離のために後で使用されることから、ヒト酸性α−グルコシダーゼのイントロン17における遺伝子内NotI部位を、破壊しなければならなかった。従って、p10αgluBESを、ClaIおよびXhoIを用いて消化し;3’α−グルコシダーゼの末端を含むフラグメントを単離した。このフラグメントを、pKUN10ΔCのClaI部位およびXhoI部位に挿入し、p10αgluΔNVを生じた。前もって、pKUN10ΔC(すなわち、pKUN8ΔCの誘導体)を、NotIを用いてpKUN8ΔCを消化し、Klenowを用いて粘着末端を充填し、そして続いて、平滑末端連結によりこのプラスミドをアニーリングすることによって得た。最終的に、p10αgluΔNVを、NotIを用いて消化した。これらの粘着末端をまた、Klenowで充填して、そしてこのフラグメントを連結し、プラスミドp10αgluΔNotIを生じた。
【0074】
(c8αgluex1の構築)
αグルコシダーゼ遺伝子の最初のエキソンにおけるSstI部位を、ウシαS1−カゼイン配列との融合のために選択したことから、p8.5αgluBSEを、BglIIを用いて消化し、その後、SstIを用いて部分消化した。エキソン1〜3を含むフラグメントを単離し、そしてpKUN8ΔCのBglII部位およびSstI部位に連結した。この生じたプラスミドを、以下のように命名した:p5’αgluex1(図3、パネルAを参照のこと)。
【0075】
次の工程(図3、パネルB)は、3’部分のp5’αgluex1への連結であった。第1に、p10αgluΔNをBglIIおよびBamHIを用いて消化した。エキソン16〜20を含むこのフラグメントを、単離した。第2に、p5’αgluex1を、BglIIを用いて消化し、そして自己連結を防ぐために、および粘着BglII末端を脱リン酸化するために、ホスホリラーゼ(BAP)を用いて処理した。BamHI粘着末端は、BglII粘着末端と適合可能であるから、これらの末端は互いに連結する。この生じたプラスミド(すなわち、p5’3’αgluex1)を、選択した。このプラスミドは、最終の構築工程のために利用可能な独特なBglII部位を有する(図3、パネルBおよびパネルC)。
【0076】
αグルコシダーゼ遺伝子の中間部分を、その後の構築物に挿入した。この工程のために、p7.3αgluBSEをBglIIを用いて消化し、8.5−kbフラグメントを単離し、そしてBglII−消化および脱リン酸化されたp5’3’αgluex1プラスミドに連結した。この生じたプラスミドが、pαgluex1である(図3、パネルC)。
【0077】
このウシαS1カゼインプロモーター配列を、3つのフラグメントを含む連結を介して次の工程において組み込んだ。pWE15コスミドベクターを、NotIを用いて消化し、そして脱リン酸化した。ウシαS1−カゼインプロモーターを、8 Rb NotI−ClaIフラグメントとして単離した(de Boerら、1991、(前出)を参照のこと)。ヒト酸性α−グルコシダーゼフラグメントを、同じ酵素を用いてpαgluex1から単離した。これらの3つのフラグメントを、連結して、そして1046 E.coli宿主細胞において、Stratagene GigapackIIキットを用いてパッケージングした。この生じたコスミドc8αgluex1を、E.coli株DH5α中で、増殖させた。このベクターを、マイクロインジェクションの前にNotIを用いて線状化した。
【0078】
(c8αgluex2およびc8.8αgluex2−20の構築)
他の2つの発現プラスミドの構築(図2、パネルBおよびパネルC)は、c8αgluex1の構築と類似のストラテジーに従った。このプラスミドp5’αgluStuIを、p8,5αgluBSEから、StuIを用いたこのプラスミドの消化、それに続く、エキソン2〜3およびこのベクター配列を含む、単離されたフラグメントの自己連結により誘導した。プラスミドp5’αgluStuIを、PglIIを用いて消化し、それに続いて、NcoIを用いてこの線状フラグメントを部分消化して、いくつかのフラグメントを生じた。エキソン2および3を含む2.4kbフラグメントを単離し、そしてベクターpKUN12ΔCのNcoI部位およびBglIIに連結し、p5’αgluex2を生じた。pKUN12ΔCが、ポリリンカー(ClaI NcoI BglII HindIII EcoRI SphI XhoI SmaI/SfiI NotI)を含むpKUN8ΔCの誘導体であることに留意すること。
【0079】
プラスミドp10αgluΔNotIを、BglIIおよびHindIIIを用いて消化した。このエキソン16〜20を含むフラグメントを単離し、そしてBglIIおよびHindIIIを用いて消化されたp5’αgluex2中に連結した。この生じたプラスミドが、p5’3’αgluex2であった。p5’3’αgluex2における中間のフラグメントを、pαgluex1についてのように挿入した。このために、p7.3αgluを、BglIIを用いて消化した。このフラグメントを単離し、そしてBglII−消化および脱リン酸化されたp5’3’αgluex2に連結した。この生じたプラスミド、pαgluex2を、c8αgluex−20およびc8,8αgluex2−20の構築において使用した(図2、パネルBおよびパネルC)。
【0080】
第3の発現プラスミドc8,8α gluex2−20の構築のために(図2、パネルC)、α−グルコシダーゼの3’隣接領域を欠失した。これを達成するために、pαgluex2を、SphIを用いて消化した。このエキソン2−20を含むフラグメントを単離し、そして自己連結して、pαgluex2−20を生じた。その後に、ウシαs1−カゼイン遺伝子の3’隣接領域を含むフラグメントを、SphIおよびNotIを用いた消化により、p16,8αgluから単離した。このフラグメントを、ポリリンカー配列におけるSphI部位およびNotI部位を用いて、pαgluex2−20に挿入し、pαgluex2−20−3αS1を生じた。
【0081】
c8,8gluex2−20を生成するこの最終工程は、c8αgluex1を導く構築における最終工程のような、3つのフラグメントの連結であった。pαgluex2−20−3’αS1およびpαgluex2におけるClaI部位が、メチル化のために切断可能でないようであったことから、プラスミドを、E.coli DAM(−)株ECO343において増殖しなければならなかった。その株から単離されたpαgluex2−20−3’αS1を、ClaIおよびNotIを用いて消化した。エキソン2〜20および3’αカゼイン隣接領域を含むフラグメントを、ベクター配列から精製した。このフラグメント(ウシαs1プロモーター(DeBoer(1991)および(1993)、前出を参照のこと)を含む8kb NotI−ClaIフラグメント)およびNotI−消化、脱リン酸化されたpWE15を連結し、そしてパッケージングした。この生じたコスミドが、c8,8αgluex2−20である。
【0082】
コスミドc8αgluex2(図2、パネルB)を、2つの異なる工程を介して構築した。第1に、コスミドc8,8αgluex2−20を、SalIおよびNotIを用いて消化した。αS1−プロモーターおよび酸性α−グルコシダーゼ遺伝子のエキソン2〜6の部分を含む10.5kbフラグメントを、単離した。第2に、プラスミドpαgluex2を、SalIおよびNotIを用いて消化し、酸性αグルコシダーゼ遺伝子の3’部分を含むフラグメントを得た。最後に、コスミドベクターpWE15を、NotIを用いて消化して、脱リン酸化した。これらの3つのフラグメントを、連結して、そしてパッケージングした。この生じたコスミドが、c8αgluex2である。
【0083】
(実施例2:トランスジェネシス)
cDNA構築物およびゲノム構築物を、NotIを用いて線状化して、そして受精マウス卵母細胞の前核に注入し、次いで、この卵母細胞を、偽妊娠マウスの養母の子宮の中に移植した。この子孫を、クリップテイル(clipped tail)から単離されたDNAのサザンブロットによって、ヒトα−グルコシダーゼcDNA遺伝子構築物またはゲノムDNA遺伝子構築物の挿入について分析した。トランスジェニックマウスを選択し、そして育種した。
【0084】
NotIを用いて線状化されたゲノム構築物をまた、受精ウサギ卵母細胞の前核に注入し、これを偽妊娠ウサギの養母(foster mother)の子宮に移植した。この子孫を、α−グルコシダーゼDNAの挿入について、サザンブロットにより分析した。トランスジェニックウサギを、選択し、そして育成した。
【0085】
(実施例3:トランスジェニックマウスの乳汁中の酸性α−グルコシダーゼの分析)
トランスジェニックマウスおよび非トランスジェニックコントロールからの乳汁をウェスタンブロットによって分析した。このプローブは、ヒト酸性α−グルコシダーゼに対して特異的な(すなわち、マウス酵素には結合しない)マウス抗体であった。導入遺伝子1672および1673は、乳汁中にヒト酸性αグルコシダーゼの発現を示した(図4)。100〜110kDおよび76kDにおける大きいバンドおよび小さいバンドが、α−グルコシダーゼについて予測されるものとして観察された。非トランスジェニックマウス由来の乳汁中に、バンドは観察されなかった。
【0086】
ヒト酸性α−グルコシダーゼの活性を、トランスジェニックマウス系統の乳汁中の人工基質4−メチルウンベリフェリル−α−D−グルコピラノシドを用いて測定した(Galiaard、Genetic Metabolic Disease,Early Diagnosis and Prenatal Analysis、Elsevier/North Holland、Amsterdam、809〜827頁(1980)を参照のこと)。このcDNA構築物(図1)を含むマウスは、1時間あたり0.2μmol/ml〜2μmol/mlで変化する。このゲノム構築物(図2、パネルA)を含むマウス系統は、1時間あたり10μmol/ml〜610μmol/mlまでのレベルで発現した。これらの図は、180μmol/mgの組換え酵素の推定される比活性(Van der Ploegら、J.Neurol.235:392〜396(1988))に基づいて、1.3mg/l〜11.3mg/lまでの産生(cDNA構築物)および0.05g/l〜3.3g/lの産生(ゲノム構築物)と同等である。
【0087】
この組換え酸性α−グルコシダーゼを、ConA−SepharoseTMおよびSephadexTMG200上での乳汁の連続クロマトグラフィーにより、トランスジェニックマウスの乳汁から単離した。7mlの乳汁を、10mMリン酸ナトリウム、pH6.6および100mM NaClからなる3mlのCon A緩衝液を用いて、10mlに希釈した。次いで、Con A緩衝液中のCon
Aセファロースの1:1懸濁液を加え、そしてその乳汁を穏やかな振とうで、一晩、4度に置いた。次いで、Con Aセファロースビーズを、遠心分離によって収集し、そしてCon A緩衝液を用いて5回、100mMの代わりに1M
NaClを含むCon A緩衝液を用いて3回、100mMの代わりに0.5M NaClを含むCon A緩衝液を用いて1回洗浄し、そして次いで、0.5M NaClおよび0.1Mメチル−α−D−マンノピラノシドを含むCon
A緩衝液を用いてバッチ形式で抽出した。抽出されたサンプル中の酸性α−グルコシダーゼ活性を、人工の4−メチル−ウンベリフェリル−α−D−グルコピラノシド基質を用いて測定した(上記を参照のこと)。酸性α−グルコシダーゼ活性を含む画分をプールし、濃縮し、20mMの酢酸Na、pH4.5および25mM NaClからなるSephadex緩衝液に対して透析し、そしてSephadexTM200カラムにアプライした。このカラムに、同じ緩衝液を流し(run)、そして画分を酸性α−グルコシダーゼ活性およびタンパク質含量についてアッセイした。酸性α−グルコシダーゼ活性に富み、そして実質的に他のタンパク質を含まない画分を、プールし、そして濃縮した。記載されるような方法は、Reuserら、Exp.Cell Res.155:178〜179(1984)によって公開された方法と基本的に同じである。この方法のいくつかの改変は、緩衝液系の正確な組成およびpH、ならびに精製工程の数およびカラム材料における選択に関して可能である。
【0088】
次いで、乳汁から精製された酸性α−グルコシダーゼを、GSD II(内因性の酸性α−グルコシダーゼにおける欠陥)を有する患者由来の培養された線維芽細胞に対してこの酵素を投与することにより、リン酸化について試験した。この試験において、マンノース6−ホスフェート含有タンパク質が、線維芽細胞の細胞表面上のマンノース6−ホスフェートレセプターに結合され、そしてその後、内部移行される。この結合は、遊離マンノース6−ホスフェートにより阻害される(Reuserら、Exp.Cell Res.155:178−189(1984))。トランスジェニックマウスの乳汁から単離された酸性α−グルコシダーゼのリン酸化についての代表的な試験において、この酸性α−グルコシダーゼを、20時間の間で、1時間あたり1μmolの4−メチル−ウンベリフェリル−α−D−グルコピラノシドを代謝するのに十分な量で、500μl培養培地(10%ウシ胎仔血清および3mM Pipesを供給されたHam F10)中の104〜106の線維芽細胞に添加した。この実験を、本質的に、Reuserら、(前出)(1984)により記載されるように、競合因子として5mMマンノース6−ホスフェートを用いて、または用いないで行った。これらの条件下で、患者の線維芽細胞の酸性α−グルコシダーゼは、健康な個体由来の線維芽細胞において測定されるレベルに回復した。マウス乳汁から単離された酸性α−グルコシダーゼによる内因性の酸性α−グルコシダーゼ活性の回復は、ウシ精巣、ヒト尿およびトランスフェクトされたCHO細胞の培地から精製された酸性α−グルコシダーゼによる回復と同様に有効であった。乳汁由来のα−グルコシダーゼによる回復は、他の供給源由来のα−グルコシダーゼについて観察されるように、5mMマンノース6−ホスフェートにより阻害された(Reuserら、前出;Van der Ploegら、(1988)、前出;Van der
Ploegら、Ped.Res.24:90−94(1988))。
【0089】
この乳汁において産生されるα−グルコシダーゼの確実性のさらなる実証として、マウスの乳汁において産生される組換えα−グルコシダーゼのN末端アミノ酸配列が、Hoefslootら、EMBO J.7:1697−1704(1988)によって公開されたように、AHPGRPで開始するヒト尿由来のα−グルコシダーゼの前駆体のN末端アミノ酸と同様であると示された。
【0090】
(実施例4:α−グルコシダーゼの動物試行)
最近、ポンペ病についてのノックアウトマウスモデルが、利用可能になった(25)。このモデルは、マウスα−グルコシダーゼ遺伝子の標的化された破壊によって産生された。グリコゲン含有リソソームが、肝臓、心臓および骨格筋において、誕生後すぐに検出された。明白な臨床症状は、比較的遅い年齢(>9ヶ月)でのみ明らかになるが、心臓は代表的に拡大し、そして心電図は異常である。
【0091】
実験を、トランスジェニックウサギの乳汁から精製されたAGLUのインビボでの効果を研究するため、ノックアウト(KO)マウスモデルを用いて実行した。これらの実験における組換え酵素を、基本的にトランスジェニックマウスからの精製について上記されるように、トランスジェニックウサギの乳汁から精製した。
【0092】
(1.KOマウスモデルにおける短期の研究)
6日間隔で、単回または複数回の注射を、尾静脈を介してKOマウスに投与した。最後の酵素の投与の2日後に、その動物を殺し、そして器官をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を用いて灌流した。組織ホモジェネートを、GLU酵素活性アッセイおよび組織グリコゲン含量のために作製し、そして種々の器官の薄切片を、リソソームグリコゲン含量の蓄積を(電子顕微鏡を介して)可視化するために作製した。内部移行されたAGLUの局在をまた、ヒト胎盤成熟α−グルコシダーゼに対するウサギポリクローナル抗体を用いて決定した。
【0093】
この結果は、0.7mgのAGLUおよび1.7mgのAGLUの単回用量(それぞれ実験CおよびA)が、静脈内に注入した場合、2つのノックアウトマウスの群の種々の器官において、インビボで効率的に取り込まれることを示した。実験Aはまた、2つの独立したウサギ乳汁供給源から精製したAGLUの取り込みおよび分布には違いがないことを示した。
【0094】
AGLU活性における増加は、肝臓、脾臓、心臓、および骨格筋のような器官において見られたが、脳においては見られなかった。2つのKO動物に対する1.7mgのAGLUの単回注射の2日後に、2つのPBS注射した正常コントロールマウスまたは2つの異種KOマウスの器官において観察される内因性のα−グルコシダーゼ活性レベルに近いかまたはずっと高いレベルを、観察した(実験A)。試験された器官のうち、肝臓および脾臓は、定量的に、取り込みに関わる主要な器官であるが、心筋および胸筋ならびに大腿筋もまた、有意な量の酵素を取り込む。脳組織における有意な増加の欠如は、AGLUが血液脳関門を通過しないことを示唆する。この結果を、表2において要約する。
【0095】
【表2】



2匹のKOマウスに、6日毎に4回注射(実験B)し、全細胞グリコーゲンの顕著な減少を、心臓および肝臓の両方において観察した。骨格筋組織における全グリコーゲンに関する効果は、観察されなかった。しかし、一般的に、これらの組織におけるAGLUの取込みは、試験された他の組織よりもより低かった。
【0096】
4回注射されたKOマウスの透過型電子顕微鏡は、肝細胞および心筋細胞の両方におけるリソソームのグリコーゲンの顕著な減少を示した。心臓のいくつかの領域では、リソソームのグリコーゲンの減少が、これらの短期間の投与の後に観察されなかったので、心臓組織において観察された効果は、局在していた。
【0097】
ヒト胎盤成熟α−グルコシダーゼに対するウサギポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロット分析は、試験された全ての器官の成熟酵素に対して注射されたAGLU完全なプロセシングを示した。このことは標的組織への取込み、ならびにリソソームへの局在およびプロセシングを強く示唆している。毒性効果は、3回の実験のいずれおいて観察されなかった。
【0098】
AGLUの免疫組織化学的染色は、ヒトα−グルコシダーゼに対するポリクローナルウサギ抗体を用いた肝実質細胞のリソソームにおいて明白であった。心臓および骨格組織におけるAGLUの存在は、より低い取込みのために明らかに、この技術を用いた可視化にはより困難である。
【0099】
(2.KOマウスモデルを用いた長期実験)
長期実験において、酵素を、1週間に1回、25週までの期間、2または3匹のKOマウスの群の尾静脈に注射した。最初の用量は、2mg/マウス(68mg/kg)、続いて12週間に渡って0.5mg/マウス(17mg/kg)であった。マウスの2つの群においては、さらに4週またはさらに11週のいずれかで、マウス当たり2mgの処置が続いた。注射を、マウスが、6〜7月齢のときに開始した。この齢のとき、KOモデルにおいて明確な組織病理学を行った。最後の酵素投与の2日後に、動物を殺し、そして器官をリン酸緩衝化生理食塩水を用いて灌流した。組織ホモジネートを、AGLU酵素活性アッセイおよび組織グリコーゲン含量のために作製し、そして種々の器官の切片を、リソソームのグリコーゲン蓄積を(光学顕微鏡を介して)可視化するために作製した。
【0100】
結果は、0.5mg/マウスで13週間処理したマウス(群A、3動物/群)が、肝臓および脾臓における活性の上昇ならびに肝臓およびおそらく心臓においてグリコーゲンレベルの減少を有することを示した。1匹の動物は、筋肉における顕著なグリコーゲンの減少がなかったが、筋肉において上昇した活性を示した。
【0101】
0.5mg/マウスで14週間、続いて2mg/マウスで4週間処置したマウス(群B、3動物/群)は、上昇した活性が心臓および骨格筋において測定され、そしてグリコーゲンレベルの減少が脾臓でもまた見られたことを除いて、13週間のみ処置されたマウスと同様の結果を示した。
【0102】
0.5mg/マウスで14週間、続いて2mg/マウスで11週間処置したマウス(群C、2動物/群)は、処置したマウスが、肝臓、脾臓、心臓および骨格筋のグリコーゲンレベルにおいて明確な減少を示したことを除いて、他の2群と同様の結果を示した。脳においては、最も高い用量であっても、活性化を検出し得なかった。
【0103】
各群(群の平均)における処置した動物および処置していない動物の結果を、表3に要約する。
【0104】
【表3】

さらに、組織病理学的な症状における非常に確証的な改良を、群Cのマウス(0.5mg/マウスで最初の14週間、続いて2mg/マウスで11週間の処置)で観察した。病理学の明らかな逆転が、種々の組織(例えば、心臓および胸筋)において示された。
【0105】
残留したリソソームのα−グルコシダーゼ活性が、平均コントロール値(14)の20%より大きい場合、ポンペ病は起こらないと報告されている。KOマウスのモデルを用いて得られたデータは、これらのレベルが、組換え前駆体酵素を用いて非常に十分達成可能であることを示す。
【0106】
(実施例5:ヒト臨床試験)
単一(single)フェーズI研究(AGLU1101−01)を、15人の健康な男性ボランティアにおいて実施した。AGLUの用量は、25〜800mgの範囲で、静脈内注入によって健康な男性成人ボランティアに投与した。アレルギーおよび過敏症の病歴を有する被験体は、本研究から除外した。被験体を、5つの用量群に無作為化し、そしてAGLUを受ける各用量群(4被験体)または各用量レベルのプラセボ(1被験体)に無作為化した。全ての被験体は、2用量の研究薬物を受け、これは、2週間をおいて投与した。用量のレジメンは以下の通りである:

25mg:群1、処置期間1

50mg:群1、処置期間2

100mg:群2、処置期間1

200mg:群3、処置期間1

400mg:群2、処置期間2

800mg:群3、処置期間2

プラセボ(1群および処置期間当たり1被験体)。
【0107】
被験体に、各処置期間の1日目に、注入としてAGLUまたはプラセボを投与した。注入は、30分間の時間にわたって投与し、そして被験体を、注入の中止後少なくとも2時間の間、半横臥の位置に保持した。
【0108】
有害事象を、注入開始の直前、30分(注入の最後)に、ならびにその後3、12、24、36および48時間に、その後ならびに5および8日目(第1期間)、ならびに5、8および15日目(第2期間)に記録した。生命徴候、ECGおよび身体的な診察もまた、処置期間を通して定期的にモニターした。
【0109】
血液サンプルを、標準的な範囲の臨床的な実験室試験および薬物動態分析のために採取した。被験体の尿を収集し、そして標準的な範囲の実験室分析を行った(AGLUの決定を含む)。
【0110】
(a)実験室安全性および有害事象
任意の用量群の任意の被験体において、実験室パラメーター、臨床的徴候およびECG測定の臨床的に有意な変化はなかった。全ての用量の全ての被験体でモニタリングした有害事象の結果を、表4に要約する。
【0111】
【表4】

II型糖原病を有する乳児患者および若年患者の酵素置換療法としての組換え酸性α−グルコシダーゼの安全性および効果に関する試験を実施した。4人の乳児患者および3人の若年患者を募集した。乳児に、滴定された15〜20mg/kgの開始用量〜40mg/kgを投与し、そして若年者には10mg/kgを投与する。患者を、24週間処置する。
【0112】
患者を以下のパラメーターによって評価した。
【0113】
・疑わしい有害事象を含む、報告された標準的な有害事象
・血液学、臨床化学および抗体検出を含む実験室パラメーター
・筋におけるα−グルコシダーゼ活性
・筋組織病理学
・12−リードECG(12−lead ECG)
・神経学的検査を含む臨床状態
・ノンパラメトリックなPKパラメーター
・救命(life saving)の介入
幼児患者は、以下のさらなるパラメーターについて評価する。
【0114】
・左後部の心室壁の厚さおよび左心室質量インデックス(mass index)
・神経筋の発達
・生存
・筋内のクリゴーゲン含量
若年患者を、以下のさらなるパラメーターについて評価する。
【0115】
・肺機能
・筋の強度/回数試験および筋機能
・PEDI/Rotterdam 9−アイテムスケール(item scale)
次に、同じ患者をαグルコシダーゼのさらなる投与に供し、乳児は15、20、30または40mg/kgを受け、そして若年者には、24週間のさらなる期間に対して10mg/kgを用いかつ上記に示したパラメーターによって評価した。
【0116】
さらなるフェーズII臨床試験を、齢が6ヶ月未満の8人の患者に、診断後の2ヶ月以内の投薬量が40mg/kgで実施する。患者を24週間の間処置し、次の診断基準によって評価する:
安全性パラメーター
実験室安全性データ
記録した有害事象
初期効果パラメーター:正常または穏和な遅延性の運動機能(motor function)を組合せた診断後6ヶ月の、救命の介入(すなわち、24時間より長い機械的人工呼吸器)無しでの生存(BSID II)。
【0117】
第2次効果:神経筋発達における変化;左後部の心室壁の厚さおよび左心室質量インデックスにおける変化;骨格筋酸性α−グルコシダーゼ活性およびグリコーゲン含量における変化。
【0118】
効果は、正常遅延または穏和な遅延として分類されたBSID IIと組合せた背景(historical)コントロール群における10%の生存に比較した場合、α−グルコシダーゼ群中へ救命の介入無しに診断後6ヶ月において50%の生存であることによって示され得る。
【0119】
さらなる臨床試験を若年患者に実施した。患者は、年齢が1歳より大きくかつ35歳未満であり、IIb型GSDの若年発症を有する。患者に、24週間の処置期間の間、10mg/kgまたは20mg/kgで投与した。処置は、以下のパラメーターによってモニターした。
安全性パラメーター 実験室安全性データ
記録した有害事象
初期効果 肺機能パラメーター(例えば、FVC、人工呼吸器上の時間)
筋強度
第2次効果 救命の介入パラメーター
生活の質
骨格筋酸性α−グルコシダーゼ活性
定量的目標 ベースラインを超えた初期効果パラメーターにおける20%の相対的改善
効果に関する全ての定量的測定は、好ましくは、同時発生するコントロールまたは背景のコントロールに対して統計学的に顕著であり、好ましくは、pが0.05未満である。
【0120】
(実施例6 薬学的処方物)
α−グルコシダーゼを以下のように処方した:5mg/ml □−Glu、15mM リン酸ナトリウム、pH6.5、2%(w/w)マンニトール、および0.5%(w/w)スクロース。上記の処方物を最終体積10.5mlに満たして20ccチュービングバイアルに入れ、そして凍結乾燥した。放出および臨床使用の試験に関しては、注射のために各バイアルを10.3mlの滅菌生理食塩水(0.9%)を用いて再構築し(USPまたは当量)、10.5mlの5mg/ml □−Glu溶液を生じ、これを、直接投与し得るか、または患者特異的な標的用量濃度に滅菌生理食塩水を用いて引き続いて希釈し得る。10.5ml一服(バイアル中に総αグルコシダーゼが52.5mg)は、USPが推奨する過剰量を含み、これは10ml(50mg)の抽出および送達(または、移動)を可能にする。マンニトールは、適切なバルキング薬剤として機能を果たし、(スクロース単独と比較して)凍結乾燥サイクルを短くする。スクロースは、クリオ/リオプロテクタント(cryo/lyoprotectant)として機能を果たし、再構築後の凝集の有意な上昇を生じない。マンニトール(単独)処方物の再構築は、繰り返して、凝集のわずかな上昇を生じた。凍結乾燥後、ケーキクオリティ(cake quality)は、受容可能であり、そして引き続く再構築の回数は、有意に減少した。注入溶液のために、HSA/デキストロースのよりも、生理食塩水が好ましい。生理食塩水が、2%マンニトール/0.5%スクロース中での凍結乾燥と組合せて使用される場合、溶液は、静脈投与に関して受容可能な張度を有する。2%マンニトール/0.5%スクロース処方物を含む凍結乾燥されたバイアルを、0.9%の滅菌生理食塩水(注射のための)を用いて再構築し、5mg/ml □−Gluを生じる。
【0121】
(実施例7:注入スケジュール)
溶液を、留置の静脈カミューレを介して投与する。患者を、注入期間中、近接にモニターし、そして、有害事象または有害事象と疑われる事象において適切な臨床的介入をとる。48時間のウインドウ(window)を、各注入に関して可能にする。注入の比率を回数と共に増加させた注入スケジュールによって、有害事象を減少または排除する。
【0122】
乳児に対する注入を、以下のスケジュールに従って投与し得る:
・60分間、5cc/時間
・60分間、10cc/時間
・30分間、40cc/時間 以上
・残りの注入の間、80cc/時間 以上。
【0123】
若年者に対する注入を、以下のスケジュールに従って投与し得る:
・60分間、0.5cc/kg/時間
・60分間、1cc/kg/時間
・30分間、5cc/kg/時間
・残りの注入の間、7.5cc/kg/時間。
【0124】
前述の発明は、明確さおよび理解の目的のために、いくぶん詳細に記載してきたが、形式および詳細における種々の変化が、本発明の真の範囲から逸脱することなくなされ得るということは、この開示を読むことより当業者には明らかである。本出願に引用される全ての刊行物および特許文書は、あたかも各個々の刊行物または特許文書がそのように個々に示される程度まで、全ての目的に関してその全体が参考として援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−224643(P2012−224643A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−181032(P2012−181032)
【出願日】平成24年8月17日(2012.8.17)
【分割の表示】特願2009−102515(P2009−102515)の分割
【原出願日】平成11年12月6日(1999.12.6)
【出願人】(500034653)ジェンザイム・コーポレーション (37)
【Fターム(参考)】